JP5496011B2 - ステップモータ装置 - Google Patents
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Description
駆動トルクはロータを回転させるためのトルクであり、保持トルクはロータの回転方向を決めるとともに、コイルの非通電時にロータの位置を安定させるためのトルクである。この保持トルクによって、針が衝撃によって飛ぶのを抑えることもできる。
図18において、永久磁石よりなるロータ103は、ヨーク1011に設けられたロータ孔1011aに回転自在に挿入され、そのロータ孔1011aにはロータ103に駆動トルクを作用させるために必要な磁束飽和部1011dと、保持トルクを作用させるための内ノッチ1011cとが設けられている。
コイル1013へのパルス電流の方向を一定周期毎に切り替え、保持トルクに打ち勝つだけのトルクが発生するようなエネルギーを与えた場合に、ロータを180[deg]ずつ一定方向に回転させることができる。
図18に示したこのような単相ステップモータの構成は多くの提案を見るものであるが、例えば、特許文献1に開示されている。
特許文献2に示した従来技術は、連続運針をするものではないが、2つの単相ステップモータを制御することで、正逆回転を可能としたステップモータとなっている。
図19において、互いに直交し、磁気分離された2つのヨーク2011,2021と、2つのコイル2013,2023とからなるステータ201,202を、ロータ203に対して同軸上に配置してある。ヨーク2011,2021にはロータ回転方向に対して同じ位相関係となるようにロータ孔2011a,2021a、及び内ノッチ2011c,2021cが配置されることで、ロータには保持トルクが作用し、ロータ203は、静的安定位置から次の静的安定位置までを1ステップとして回転する。この1ステップは180[deg]である。
図20(A)は、変動幅が非常に大きく、正側から負側にまで変化する様子を示している。図20(B)は、角速度の変動幅がなく理想的な角速度波形を示している。
駆動トルクが保持トルクを上回るように駆動パルスをコイルに印加する必要がある。図20(A)に示したように、駆動パルスを印加してそれにより発生した駆動トルクにより、保持トルクが負荷として作用している区間をロータが乗り越えるまでが区間T1であり、それを超えて今度はロータが保持トルクによって回転し始めて、やがて静的安定位置で回転し終わる区間を区間T2とすると、ロータの角速度の変動は、区間T1と区間T2との両方で起きている。ただし、区間T1と区間T2とでは、その発生要因が異なる。
一方、区間T1を経てその後にロータが所定角度回転し終わるまでの区間T2にあっては、保持トルクが作用してロータが減衰振動をしながらやがて停止するために起こるものであり、保持トルクの大きさでその変動の大きさ(変動幅)も変わるのである。なお、領域αは、角速度の負の変動の領域を示しており、保持トルクが小さければ、この領域αにおける角速度の変動も小さくなる。
しかし、そうすると、消費電力はパルス数に比例して増加してしまうため、図18に示した従来知られている単相ステップモータを腕時計のように小さな電池しか搭載できない機器に適用した場合には、寿命が短く、電池交換が頻繁に必要となってしまうという問題が代わりに発生してしまう。
しかしながら、そのような、ロータにかかる保持トルクが極めて小さく、かつ角速度の変動を発生しないような低いで実効電圧で動作できるステップモータは、いまだ提案がなされていない。
そのステップモータは、2個のステータのロータ孔の周囲には、コイルによる磁界によってロータに駆動トルクを作用させるために機能する一対のスリット又は磁束飽和部を設け、2個のステータとロータとでは、コイルの非通電時にロータの位置を安定させるための保持トルクが生じず、一方のステータと他方のステータとは、それぞれのコイルの大きさが異なっているが、駆動トルクが同一のステップモータであることを特徴とする。
リッジ回路2組よりなる駆動回路を備えており、駆動パルスの実効電圧は、ロータに負荷として作用している静止摩擦トルク又は動摩擦トルクより大きいトルクを発生させる電圧値であると共にスイッチ素子を構成するMOSFETの閾値電圧よりも小さい電圧値であるようにしてもよい。
また、この発明によるステップモータ装置は、ステップモータ自体に保持トルクがないため、ロータを駆動し始める期間においても、それぞれのコイルに印加する駆動パルスの実効電圧が小さくできるから、その結果、角速度の変動幅が小さいことに加えて、より消費電力を小さくすることができる。
さらにまた、それぞれのコイルの大きさが異なるにも係らず、それぞれのコイルによりロータに作用する駆動トルクの大きさが同じであるために、角速度変動が少なくロータを回転させることができる。コイルの一方を他方に比べて小さくできるから、ステップモータの外形を小さくすることができるから、腕時計内での配置や設計自由度が高く、小型化設計が可能という効果がある。
ステップモータ装置は、ステータによりロータに駆動トルクを作用させる機能は有しているが、コイルへの非通電時に保持トルクをロータに作用させる機能は有していない。
そして、ロータに負荷として作用している摩擦トルクをわずかに上回る程度の駆動トルクを作用させてロータを回転させる。このため、余分な加減速がなく、ロータの角速度の変動幅も小さくて済むのである。
第1実施形態は、上下のステータそれぞれにスリットと内ノッチを備え、それぞれのステータで保持トルクを打ち消す構成である。
第2実施形態は、上下のステータそれぞれに磁束飽和部を備えることで保持トルクを生じさせない構成である。
第3実施形態は、一方のステータにスリットと内ノッチ、他方のステータに磁気飽和部を設けており、いわば第1及び第2実施形態の構成を合わせた構成である。
各実施形態に共通するのは、2つのコイルの大きさが同一ではないという点である。まず第1実施形態の構成や作用効果、各構成要素の位置関係を説明し、その後に第2実施形態以降を説明する。
図1〜図4は、ステップモータ装置の第1実施形態の構成を示す図であり、図1はステップモータ装置の斜視図、図2は図1に示したステップモータの第1のステータと第2のステータとをロータ軸方向に分離させた状態を示す斜視図、図3は第1のステータと第2のステータとを左右に並べて示す平面図である。図4は、図3の中心線gで切断した際のロータ孔周辺の断面図である。
具体的には、それぞれのステータに一対のスリットと、その一対のスリットを設けたことによって生じる保持トルクを打ち消すための一対の内ノッチとを設けており、スリットと内ノッチとは互いに直交するように設けている。これにより保持トルクをロータに作用させない構成としている。
更に、一方のステータと他方のステータとは、それぞれのコイルの大きさが異なっているが、駆動トルクが同じであるような構成としている。
更にまた、2個のステータの駆動トルクは、そのステータのコイルのコイル芯に巻きつけた導線の巻数と、コイルの鎖交磁束量と、コイルに通電する電流量と、を乗じた値であるような構成としている。
図1において、3は永久磁石からなる1個のロータである。11はロータ3を回転自在に挿入させるロータ孔11aと一対のスリット11bと一対の内ノッチ11cとを有する軟磁性体のヨーク(磁心)、12はヨーク11と一体となるコイル芯、13はコイル芯12に導線を巻きつけたコイルである。これらで第1のステータ1を構成している。
同様に、21はロータ3を回転自在に挿入させるロータ孔21aと一対のスリット21bと一対の内ノッチ21cとを有する軟磁性体のヨーク、22はコイル芯、23はコイル
であり、これらで第2のステータ2を構成している。
なお、コイル13,23は細い導線を巻回したものであるが、その様子は図面を見やすくするために省略している。
駆動手段30は、コイル13とコイル23とに駆動パルスを印加する駆動回路10と、駆動回路10からコイル13,23に流れる電流情報などを読み取ることでロータ3の回転又は非回転を検出する検出手段30bと、検出手段30bの結果に基いて駆動パルスの実効電圧を可変したり、駆動回路10に送る制御信号のDutyを可変するための可変電圧手段30aと、を備える。
なお、図示しないがロータ3には歯車が固定され、秒針までは歯車輪列のみにより駆動力が伝えられている。
図2に示すように、本実施形態で説明する第1のステータ1と第2のステータ2とは大きさは異なる点が特徴である。図2に示す例では、上側の第2のステータ2は、下側の第1のステータ1を上下にひっくり返して配置したような配置をしている。
図3に示すように、第1のステータ1のヨーク11におけるロータ孔11aの周囲には、コイル13による磁界によってロータ3に駆動トルクを作用させるために機能する一対のスリット11bと、その一対のスリット11bを設けたことによって生じる保持トルクを打ち消すための一対の内ノッチ11cとが設けられており、これらは互いにロータ孔11aの中心を通って直交する中心線a及び中心線bの各線上に設けている。つまり、スリット11bと内ノッチ11cとは、90[deg]ずれる位置関係にある。
また、図3に示す中心線gと角度θとについては後述する説明に用いるものであるから、ここでの説明は省略する。
すことができ、ロータ3に保持トルクを作用させなくすることができる。
次に、第1実施形態のステップモータ装置のコイルの大きさに関する構成について説明する。
図3に示すように、コイル23の大きさはコイル13と比較して、コイル長が短い。コイル23の大きさに伴って、コイル芯22、ヨーク21も小さい。このようにコイルの大きさが異なっているのが望ましい形態である。コイル23ではなく、コイル13の方が小さくでも構わないが、ここでは後の説明でも一貫してコイル23の側が小さいとして説明する。
少ない巻数のコイル23を有してステータを構成しているヨーク21’の厚さが、多い巻数のコイル13を有してステータを構成しているヨーク11’と比較して厚い。
そして、ロータ磁石3aから発生した磁束量5は、より磁束を通し易いヨーク21’と、ヨーク21’よりは磁束が通り難いヨーク11’とにそれぞれ5b、5aとに分かれる。
それぞれの磁束は、ヨークとコイル芯で構成された図示しない磁気回路を通り、それぞれのコイル13,23を鎖交し、再びロータ磁石3aに戻ってくる。
この場合、磁束量5a<磁束量5bという大小関係となる。
少ない巻数のコイル23を有してステータを構成しているヨーク21’ ’とロータ磁石3aとのギャップが、多い巻数のコイル13を有してステータを構成しているヨーク11’ ’と比較して狭い。
そして、ロータ磁石3aから発生した磁束量5は、より磁束を通し易いヨーク21’ ’と、ヨーク21’ ’よりは磁束が通り難いヨーク11’ ’とにそれぞれ5b’、5a’とに分かれる。
それぞれの磁束は、ヨークとコイル芯で構成された図示しない磁気回路を通り、それぞれのコイル13,23を鎖交し、再びロータ磁石3aに戻ってくる。
この場合、磁束量5a’<磁束量5b’という大小関係となる。
次に、第1実施形態の作用を図面に基づいて説明する。
図5は、それぞれのステータによってロータに作用する保持トルクを説明するための図である。4aはステータのスリットにより保持トルク、4bは内ノッチによる保持トルク、4はステータによりロータに作用する保持トルクである。横軸はロータ回転角度、縦軸は保持トルクを示している。
1cとがロータ孔の中心に対して直交しているからである。
第2のステータ2においての保持トルクの関係は、前述の文章の符号を読み換えればよく、一対のスリット21bによる保持トルクTstator2_slit(θ+π/2)である4aが、一対の内ノッチ21cによる保持トルクTstator1_notch(θ)である4bと合成されることで、第2のステータ2によりロータ3に作用する保持トルクTstator2(θ)である4は打ち消されてゼロとなる。
磁石から出た磁束がそれぞれのコイルを鎖交することで、コイルに通電した際に相互作用としてロータ磁石3aと一緒に固着されているロータカナ3bとより構成されるロータ3’に回転するトルクを発生させる。それぞれのコイルの励磁によりロータ3に作用する駆動トルクの最大値Tk_maxと消費電力Pは数5のように表わされる。なお、数2〜数4については、後述する。
そのため、2個のコイルによる駆動トルクTk_maxを等しくし、消費電力Pの上昇を抑えるためには、小さくしたコイル23側を鎖交するΦmaxを大きくし、コイル23に印加するeを小さくする必要がある。そこで、Φmaxを上げるために図4に示すような構成とした。
る。
ここで、第1実施形態の各構成要素の位置関係をまとめると、次のようになる。
第1のステータ1の一対のスリット11bを結ぶ直線aと、一対の内ノッチ11cを結ぶ直線bとは直交している。同じく、第2のステータ2の一対のスリット21bを結ぶ直線dと、一対の内ノッチ21cを結ぶ直線eとは直交している。この構成により、それぞれのステータにおいて保持トルクを打ち消しあっている。
加えて、直線aと直線dとも直交しており、第1のステータ1のコイル芯12の中心線cと、第2のステータ2のコイル芯22の中心線fとも直交している。この構成により、ロータに作用する駆動トルクの大きさの変動を小さくすることができる。
更に、コイルの巻数Nが少ないステータ側の磁気抵抗を小さくし、Φmaxを増やしている。この構成により、2つのステータによりロータに作用する駆動トルクの大きさが等しくすることができる。
第1実施形態のステップモータ装置は、2個のステータそれぞれとロータと間で、コイルの非通電時にロータの位置を安定させるための保持トルクが生じないために、角速度の変動幅を小さくすることができ、このため、アナログ電子時計の指針を連続運針させる際に、その秒針が長い秒針であっても秒針の振れは発生せず、違和感のない運針が可能となる。
図1〜図3に示した例では、双方のステータが直交する位置にあるように示しているが、その重なり具合にあっては、双方をわずかの誤差も許されないほど非常に高精度に直交させなければならないというわけではないのである。
したがって、第1実施形態のステップモータ装置は、組立において高い精度を必要とせず、更に製造し易い構造となっている。
図6(A)は第1実施形態のステップモータ装置を時計のムーブメント内に配置した例を模式的に示す平面図、図6(B)は比較例として第1実施形態のステップモータ装置を構成するステータの2つのコイルが仮に同じコイル長であった場合を模式的に示す平面図である。図6において、51は第1実施形態のステップモータ装置であり、51’は比較例のステップモータ装置である。
これらを配置した際に、図6(A)に示す第1実施形態のステップモータ装置は、電池52との干渉がなく、ムーブメント50の中に収めることができる。ステップモータ装置を小型化できるから、ムーブメントの設計自由度が向上する。
一方、図6(B)に示す比較例では、コイル長が長いため電池52と干渉してしまう。
これを解決するには、ムーブメント50の大きさをより大きくするか、各要素の配置を見直した更なる設計が必要となる。もちろん、ステップモータ装置の大きさが大きいのでムーブメントの設計自由度は低下することは言うまでもない。
次に、ステップモータ装置の、保持トルクを打ち消すための別の構成である第2実施形態を説明する。
第2実施形態のステップモータ装置の特徴は、すでに説明した第1実施形態と同様に、上下に重ねたステータそれぞれで、コイルへの非通電時に保持トルクをロータに作用させない構成である。
具体的には、それぞれのステータにロータを駆動するための一対の磁束飽和部を備えるものの、内ノッチを設けないことで保持トルクを発生しない構成としている。
図7は、第1のステータ1と第2のステータ2のロータ孔11a,21aの周辺部のみを部分拡大し上下に並べ、コイルなど他の構成要素を省略して示す詳細図である。なお、すでに説明した同一の構成には同一の符号を付してあり、それらの同じ説明は省略する。
図7においては、説明しやすいように2つのステータを図中上下に並べて示してあるが、1個のロータ3を2つのステータで共有していることは変わっておらず、2個のロータがあるわけではない。
なお、図7には、直線a1と直交するように直線b1、直線d1と直交するように直線e1を示している。
次に、この第2実施形態における保持トルクを打ち消す作用を説明する。
第1のステータ1及び第2のステータ2には、それぞれ一対の磁束飽和部11d,21dを設けているが、内ノッチを設けなければコイルへの非通電時に保持トルクは発生しない。これは、一般的なステップモータにおいては、ロータ3から発生した磁束のみでは磁束飽和部11d,21dを飽和させるには不十分だからである。そのため、この第2実施形態の場合は、第1のステータ1と第2のステータ2ともそれぞれのステータにおいて、そもそも保持トルクがほとんど生じないのである。
この第2実施形態も、保持トルクが生じないために、角速度の変動幅を小さくすることができる。第1のステータ1及び第2のステータ2に、それぞれ一対の磁束飽和部11d,21dを設けているために、コイル13,23からの磁界は、まずこの磁束飽和部11d,21dを飽和させてからでないとロータ3に作用しない。このため、コイル13,23に印加する実効電圧を第1実施形態と同じ程度までは下げることができないが、第1実施形態に比べて製造しやすく、製造コストも低減できるという効果がある。
さらに、内ノッチもないためにロータ孔周辺が円形で済むことによりプレスの金型も単純な形状で済み、その寿命も長くすることができる。これにより、製造コストを低下させることが可能である。
次に、ステップモータ装置の、保持トルクを打ち消すための別の構成である第3実施形態を説明する。
第3実施形態のステップモータ装置の特徴は、すでに説明した実施形態と同様に、上下に重ねたステータそれぞれで、コイルへの非通電時に保持トルクをロータに作用させない構成である。
具体的には、一方のステータに一対のスリットと一対の内ノッチとを互いに直交するように設けて保持トルクを打ち消し、他方のステータにロータを駆動するための一対の磁束飽和部を備えるものの、内ノッチを設けないことで保持トルクを発生しない構成としている点である。つまり、第1実施形態で説明したステータ構造と第2実施形態で説明したステータ構造とをそれぞれのステータが有している構成である。
図8は、第1のステータ1及び第2のステータ2のロータ孔11a,21aの周辺部のみを部分拡大し上下に並べ、コイルなど他の構成要素を省略して示す詳細図である。なお、すでに説明した同一の構成には同一の符号を付してあり、それらの同じ説明は省略する。
また、すでに説明した第2実施形態と同様に図8においても、説明しやすいように2つのステータを図中上下に並べて示してあるだけで、2個のロータがあるわけではない。
次に、この第3実施形態における保持トルクを打ち消す作用を説明する。
第2のステータ2には一対の磁束飽和部21dが設けられており、内ノッチを設けなければ保持トルクは発生しない。また、第1のステータ1には、一対のスリット11bが設けられているが、第1実施形態の図5で説明したように、一対のスリット11bによる保持トルクは、それに直交するように設けられた一対の内ノッチ11cによる保持トルクにより打ち消され、やはり保持トルクは発生しない。そのため、この第3実施形態の場合、第1のステータ1と第2のステータ2ともそれぞれのステータにおいて、保持トルクが生じないのである。
この第3実施形態も、保持トルクが生じないために、角速度の変動幅を小さくすることができる。第1のステータ1にはスリット11bと内ノッチ11cとを設けているが、第2のステータ2には一対の磁束飽和部21dを設けている。すでに説明したように、コイル23からの磁界は、まずこの磁束飽和部21dを飽和させてからでないとロータ3に作用しない。このため、コイル23に印加する実効電圧は、コイル13に印加する実効電圧よりも下げることはできないが、2つのステータ全体でみたとき、コイルを駆動するための実効電圧は、第1実施形態と第2実施形態との中間程度まで下げることができる。
以上、第1実施形態〜第3実施形態のステップモータ装置の各構成と作用及び効果を説明した。次に、第1実施形態を例にして、ステップモータ装置の細部や駆動回路及び駆動方法について詳述する。
まず、ステップモータ装置の細部及びロータの駆動方法について図面を用いて説明する。各説明においては新たな図面を参照して行なうが、適宜図1〜図3も参照されたい。
まずは、ステータの絶磁構造に係る具体例について図9を用いて説明する。この構造は、すでにスペーサを用いて絶磁する例として説明したが、ここでは図面を用いて詳述する。
図9は図3に示す中心線gで切断した様子を模式的に示す断面図である。図9(A)は絶磁構造例1、図9(B)は絶磁構造例2を示している。なお、すでに説明した同一の構成には同一の符号を付してあり、それらの同じ説明は省略する。
次に、本発明のステップモータ装置を電子時計の連続運針用に用いるとき、正回転方向に、どのように動かすのかを図10〜図13を用いて説明する。駆動パルスは、1相励磁の場合、2相励磁の場合、1−2相励磁の場合に分けて説明する。
示す特性図、図10(C)は1−2相励磁時のコイルの一方端の電位を基準にみた印加電圧を示す特性図であり、それぞれの駆動方式により印加電圧が異なることを示している。
図11は1相励磁時のロータの駆動シーケンス図であり、図12は2相励磁時のロータの駆動シーケンス図であり、図13は1−2相励磁時の駆動シーケンス図である。
Vr2<Vr12<Vr1
まず、1相励磁の場合について説明する。第1のステータ1のコイル13と第2のステータ2のコイル23とのうち、一方をコイルA、他方をコイルBとして説明する。
1相励磁時の場合は、図10(A)に示すように、コイルAとコイルBとに対してどちらか一方のみに通電することを繰り返してロータに回転磁界を作用させることで、ロータを所定の方向に回転させる方式である。区間trでロータが360[deg]回転する。
起動時のロータ磁極の位置は定まっていないが、次第に回転磁界に追従することで定常回転を行う。STEP1においてコイル13に通電することで、コイル13には矢印5dのような磁界が発生し、ロータ3に作用する。矢印5cはロータの磁極方向を表わす。コイル13により発生した磁界に対して倣うようにロータ3の磁極方向は回転をし、STEP2の状態になる。このSTEP1においてコイル23には通電をしていない。また後述するように、それぞれのコイルに印加する実効電圧は低いために、ロータ3は最も回転し易い範囲内のみを回転するために、STEP2の状態でロータ3は回転するためのトルクが摩擦トルクに負けて停止する。
次に、2相励磁の場合について説明する。図10(B)に示すように、コイルAとコイルBとに対して常に両方に通電することを繰り返してロータに回転磁界を作用させることで、回転させる方式である。この場合、両方に通電しているために、それぞれのコイルに印加する実効電圧を1相励磁の場合よりも下げることができる。区間trでロータが360[deg]回転する。
STEP1において、コイル13とコイル23とに通電することで、コイル13には矢印5dのような磁界が、コイル23には矢印5eのような磁界が発生し、ロータ3に作用する。コイル13とコイル23とにより発生した磁界を合成した方向に倣うようにロータ3の磁極方向は回転をし、STEP2の状態になる。
次に、1−2相励磁の場合について説明する。図10(C)に示すように、コイルAとコイルBとに対して両方に通電する期間と、どちらか一方にのみ通電する期間とを交互に繰り返してロータに回転磁界を作用させることで、回転させる方式である。この場合、両方に通電しているために、それぞれのコイルに印加する実効電圧を1相励磁の場合よりも下げることができるが2相励磁よりは下げることができない。区間trでロータが360[deg]回転する。
STEP1において、コイル13とコイル23とに通電することで、コイル13には矢印5dのような磁界が、コイル23には矢印5eのような磁界が発生し、ロータ3に作用する。コイル13とコイル23とにより発生した磁界を合成した方向に倣うようにロータ3の磁極方向は回転をし、STEP2の状態になる。
なお、ロータ3を逆回転させるには図10において、コイルAかコイルBのどちらか一方の極性を入れ替えるのみでよい。
次に、ステータのコイルに駆動パルスを発生させる駆動回路について図面に基づいて説明する。まず、図を用いて、回路構成について説明する。
図14及び図15は、この発明による駆動回路に係る具体例について説明するための図で、図14はそれぞれのコイルに駆動パルスを印加する駆動回路図、図15は駆動回路を構成するスイッチ素子であるMOS型電界効果トランジスタ(以降は、単にMOSFETと表記する)の電圧電流特性図である。
Hブリッジ回路は、ステータのコイルの数と同じ数だけ必要であり、第1のステータ1のコイル13と第2のステータ2のコイル23とに対応する2組のHブリッジ回路を備えている。
直列接続したスイッチ素子間同士を繋ぎ、その接続部分に出力線及び出力端子を設けている。すなわち、一方のカラム回路の出力線を出力線10eとし、その端部に出力端子Out1を備え、他方のカラム回路の出力線を出力線10fとし、その端部に出力端子Out2を備えている。これらの出力端子にコイルを接続することで駆動パルスがコイルに供給される。
具体的には、P−MOSFETは高電位側でスイッチ動作し易いため、Hブリッジ回路の高電位側であるVDD側に用いる。N−MOSFETは低電位側でスイッチ動作し易いため、低電位側であるVSS側に配置する。
図14に示す例では、スイッチ素子10a,10bにおいては、P−MOSFETのソース側とN−MOSFETのドレイン側とを端子TR1a,TR2aとし、P−MOSFETのドレイン側とN−MOSFETのソース側とを端子TR1c,TR2cとしている。
なお、スイッチ素子10a,10bを構成するトランスファーゲートには、P−MOSFETのゲートに論理反転素子を設けており、N−MOSFETと同じゲート信号で動作するようにしたものである。これにより、高電位でも低電位でも幅広い電位に対応できるスイッチ素子となっている。
図示するように、閾値電圧VHを超える電位差をゲート−ソース間に加えることで、MOSFETはスイッチとして動作をし、ソース−ドレイン間には電圧にほぼ比例して電流が流れ始める。一般的な腕時計用ステップモータの駆動回路として用いられるMOSFETの閾値電圧は0.35[V]〜0.50[V]程度である。
なお、スイッチ素子にゲート電圧を供給する信号線10iには、Low信号としてGNDの0[V]、High信号として腕時計に用いられる電池電圧(例えば1.5[V])から半分程度降圧した0.75[V]程度の大きさの電圧信号を印加する。
次に、駆動回路の作用について、図14を参照しつつ説明する。
まず、スイッチ素子10a,10bにトランスファーゲートを用いる理由を説明する。
ここで、一般的な腕時計用ステップモータの駆動回路に用いられているP−MOSFETのみによるスイッチ素子で10a,10bを構成した場合を考えてみる。特にチョッパ駆動のように時間平均により実効電圧を下げる場合ではなく、フルパルス駆動で電圧振幅を下げることで低い実効電圧を印加する場合を考えてみる。
トランスファーゲートでは、N−MOSFETがP−MOSFETと並列に接続しているために、この場合には、N−MOSFET側がスイッチとして動作する。ゲートにHigh信号(この場合1[V]程度)が入力されたとき、N−MOSFETのソース側(TR1c、TR2c)の電位は、スイッチ素子10c,10d(これらが導通状態の際)を介して第2の電源線10hよりGND(0[V])が供給されているために、ソース−ド
レイン間電圧が1〔V〕となり、電圧を十分に超えているために、スイッチとして動作しドレイン−ソース間に電流が流れる。
トランスファーゲートにすることにより、チョッパ駆動で時間平均として実効電圧を下げる場合や後述するようにロータを高速回転させるために高い電圧(例えば1.5[V])をコイルに印加させる場合には、N−MOSFETの代わりに、並列に接続しているP−MOSFETがスイッチとして動作するため、様々な運針に対応できる。
説明にあっては、簡単のために1つのコイルのみに印加している状態を想定した場合とする。そのとき、ロータに作用するトルクの釣り合いと、印加している側のコイルの電圧の釣り合いは、数2で表される。
本発明のステップモータ装置は、保持トルクTh(θ)が生じない(ほぼゼロ)構成であるから、数2より、ロータの角速度ω及びコイルに流れる電流iは、コイルへの印加電圧eを小さくすればするほど小さくなることが分かる。
次に、駆動回路の効果について、図16を参照しつつ説明する。
図16は、印加電圧とそのときのロータの角速度との関係を模式的に示す図である。図16(A)は従来技術の場合、図16(B)は本発明の小さい印加電圧を加えた場合のロータの角速度の関係を示す図である。図中、Δωdは従来技術の角速度の変動幅、Δωfは本発明の角速度の変動幅である。
常に摩擦トルクをわずかに上回る程度の駆動トルクを常に作用させて回転させる駆動でよいから、余分な加減速がなく、ロータの角速度の変動幅Δωfも小さくて済む。
一方、図16(B)に示す本発明の場合、印加電圧をVf[V]、通電時間をtf[s
]とし、その区間にコイルに流れる平均電流をif[A]とした場合、入力エネルギーEf[J]は、Ef=Vf*if*tfである。
所定のパルスレートに設定するためにtfを任意に設定することができず、ロータが所定の角度を回転しきるのみ十分な幅のパルスに設定する必要があるものの、従来技術のようにパルス数に比例して消費電力が上がっていくことはなく、印加する実効電圧を下げることで入力エネルギーである消費電力を上げることなく連続運針を実現できる。
次に、駆動回路の実効電圧を下げる手法について、図17を参照しつつ説明する。
なお、本発明で言う実効電圧とは、電圧振幅値だけを言うのではなく、印加する時間幅も考慮した時間平均を取った値のことである。
図17は、印加電圧としてチョッパ電圧を加えた場合の電流の関係を模式的に示す特性図である。図17(A)は、印加電圧Vaの電圧パルス7cの振幅が大きく、この印加電圧Vaを腕時計に用いられているような電池電圧(例えば1.5[V])のままチョッパとした場合の電流特性9cを示している。
図17(B)は、電池電圧を半分程度(例えば0.75[V])に降圧したものを印加電圧Vbの電圧パルス7dとし、チョッパとした場合の電流特性9dを示している。
図17(C)は、電池電圧を1/10から1/15程度に降圧したものを印加電圧Vcの電圧パルス7eとし、チョッパではなくフルパルスとして印加した場合の電流特性9eを示している。
例えば、図17(A)及び図17(B)の場合、区間tgを仮に30分割にした場合、図17(A)では、1.5×1/30=0.05[V]分の実効電圧の分解能しかないのに対して、図17(B)では、0.75×1/30=0.025[V]であり、図17(A)の倍の分解能を持つことができる。
そのため、本発明のステップモータ装置では、印加電圧を可能な限り下げ、最後のチョッパで実効電圧を微調整するというのが、製造誤差などによるばらつきの影響の大きい摩擦トルクに対して印加電圧を設定し易い手法と言える。
2 第2のステータ
11,11’ ’,21,21’ ’ ヨーク
11a,21a ロータ孔
11b,21b スリット
11c,21c 内ノッチ
11d,21d 磁束飽和部
12,22 コイル芯
13,23 コイル
3,3’ロータ
3a ロータ磁石
3b ロータカナ
4,4a,4b 保持トルク
5,5a,5a’,5b,5b’ 磁束
5c,5d,5e 磁界
6’ 中座
6a 下座
6b スペーサ
9c,9d,9e 電流特性
10 駆動回路
30 駆動手段
30a 可変電圧手段
30b 検出手段
Claims (4)
- 2極に着磁された永久磁石からなる1個のロータと、
前記ロータを回転自在に挿入されるロータ孔を有する軟磁性体のヨークと該ヨークに一体となるコイル芯に導線を巻きつけたコイルとからなるステータを2個有し、
2個のステータは、前記ロータ孔の位置を互いに一致させて前記ロータの軸方向に互いに空間的な位相をずらせて重ねると共に互いを絶磁して配置された第1のステータと第2のステータとであるステップモータを有し、
それぞれの前記コイルに位相をずらした所定の駆動パルスを発生する駆動手段を有し、該駆動パルスをそれぞれの前記コイルに印加することで、前記ロータを回転させるステップモータ装置において、
前記ステップモータは、
前記2個のステータの前記ロータ孔の周囲には、前記コイルによる磁界によって前記ロータに駆動トルクを作用させるために機能する一対のスリット又は磁束飽和部を設け、
前記2個のステータと前記ロータとでは、前記コイルの非通電時に前記ロータの位置を安定させるための保持トルクが生じず、
前記第1のステータと前記第2のステータとは、それぞれの前記コイルの大きさが異なっているが、前記駆動トルクが同一であることを特徴とするステップモータ装置。 - 前記2個のステータの前記駆動トルクは、前記コイルの前記コイル芯に巻きつけた前記導線の巻数と、前記コイルの鎖交磁束量と、前記コイルに通電する電流量と、を選択して、前記2個のステータの前記駆動トルクを等しくしたことを特徴とする請求項1に記載のステップモータ装置。
- 前記ステップモータの前記2個のステータに備える前記一対のスリット又は磁束飽和部は、それぞれの前記ステータごとに前記保持トルクを生じさせない位置となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載のステップモータ装置。
- 前記ステップモータは、前記2個のステータに前記一対のスリットを設けたとき、前記スリットによって生じる保持トルクを打ち消すための一対の内ノッチを、前記ロータ孔の中心を通って直交する線上に設けていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つ
に記載のステップモータ装置。
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