以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
〔下地層形成用組成物〕
まず、本発明の下地層形成用組成物について説明する。
本発明の下地層形成用組成物は、有機チタンキレート錯体と、粘度調整剤とを含む。
有機チタンキレート錯体は、例えば、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4ペンタンジオネート)、チタンジnブトキシド(ビス−2,4ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシドビス(テトラメチルへプタンジオネート)、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコーレート、チタンペルオキソクエン酸錯体、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらのうち、後述するスクリーン印刷法、インクジェット法及びドクターブレード法の塗工性に優れるとの観点から、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4ペンタンジオネート)、チタンジnブトキシド(ビス−2,4ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテール)、チタンジイソプロポキシドビス(テトラメチルへプタンジオネート)、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコーレートが好ましく用いられる。
有機チタンキレート錯体は、下地層形成用組成物100重量部に対して10〜80重量部の割合で含まれていることが好ましく、40〜60重量部がより好ましく、50〜60重量部が更に好ましい。有機チタンキレート錯体の割合が10重量部未満では、下地層が連続膜にならず、不連続な島状部分が形成されてしまう傾向があり、80重量部を超えると、スクリーン印刷法、インクジェット法又はドクターブレード法で作製した塗膜に微細な亀裂(クラック)が入り、不均質な形状になる傾向がある。
粘度調整剤は、下地層形成用組成物の粘度を調整しうるものであればいかなるものでもよい。このような粘度調整剤としては、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル等の高分子樹脂が挙げられる。但し、粘度調整剤としては、下記有機溶媒に溶解可能であるものが好ましい。
本発明の下地層形成用組成物は、有機溶媒を更に含んでもよい。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ターピネオール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等種々の有機溶媒が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
〔太陽電池の製造方法〕
(第1実施形態)
次に、本発明の太陽電池の製造方法の第1実施形態について説明する。まず第1実施形態に係る製造方法によって得られる太陽電池20について説明する。
図1に示すように、太陽電池20は、主として、光電極10と、対極CEと、光電極10と対極CEとの間においてシール材5に囲まれた電解質Eとから構成されている。電解質Eは、光電極10と対極CEとの間に形成される間隙に、電解質が充填されて形成されている。
光電極10は、主として、受光面F2を有する半導体電極(多孔質半導体層)2と、当該半導体電極2の受光面F2上に隣接して配置された下地層15と、下地層15上に隣接して配置された透明電極(透明導電性基板)1とから構成されている。
半導体電極2は、主として酸化物半導体粒子で構成されており、酸化物半導体粒子には、増感剤(増感色素等)が付着している。半導体電極2は、受光面F2と反対側の裏面F22において電解質Eと接触している。半導体電極2の酸化物半導体粒子の細孔には、電解質Eと同様の電解質成分が充填されていてもよい。
太陽電池20では、透明電極1を透過して半導体電極2に照射される光によって、半導体電極2内の酸化物半導体粒子に付着している増感剤が励起され、この増感剤から半導体電極2内の酸化物半導体粒子へ電子が注入される。そして、半導体電極2内の酸化物半導体粒子に注入された電子は、下地層15内を通過した後、透明電極1に集められて外部に取り出される。
透明電極1としては、通常の色素増感型太陽電池又は無機固体型太陽電池に搭載される透明電極を使用できる。透明電極1は、透明基板4と、光入射面F3が透明基板4に接して配置される透明導電膜3とを積層した構成を有する。
透明導電膜3としては、液晶パネル等に用いられる透明導電膜を用いることができる。透明基板4としては、液晶パネル等に用いられる透明基板を用いることができる。透明基板として、具体的には、透明なガラス基板、ガラス基板表面を適当に荒らす等して光の反射を防止したもの、すりガラス状の半透明のガラス基板等光を透過するものが挙げられる。なお、透明基板4は、光を透過するものであれば、透明プラスチック板、透明プラスチック膜、無機物透明結晶体等でもよいが、特に透明ガラスであることが好ましい。
すなわち、透明電極1としては、例えば、フッ素ドープSnO2コートガラス、ITOコートガラス、ZnO:Alコートガラス、アンチモンドープ酸化スズ(SnO2−Sb)が挙げられる。また、酸化スズや酸化インジウムに原子価の異なる陽イオン若しくは陰イオンをドープした透明電極、メッシュ状、ストライプ状等のように光が透過できる構造にした金属電極を透明基板4上に設けたものも透明電極1として使用できる。
下地層15の膜厚は、10nm〜1μmが好ましく、100nm〜1μmがより好ましい。膜厚が10nm未満であると、下地層15の形状が不均一となり、リーク電流を十分に抑制することができない傾向があり、1μmを超えると、半導体電極2と透明導電膜3との間の抵抗が大きすぎて、取り出せる電流が小さくなる傾向がある。
半導体電極2は、酸化物半導体粒子を構成材料とする酸化物半導体層からなる。半導体電極2に含有される酸化物半導体粒子は特に限定されるものではなく、公知の酸化物半導体等を使用することができる。酸化物半導体としては、例えば、TiO2等の酸化チタン,ZnO,SnO2,Nb2O5,In2O3,WO3,ZrO2,La2O3,Ta2O5,SrTiO3,BaTiO3を用いることができる。これらの酸化物半導体の中でもTiO2が好ましい
半導体電極2に用いられる酸化チタン粒子は、主として酸化チタンから構成される粒子であればよく、その結晶構造は問わない。酸化チタンの結晶構造としては、例えばルチル型、アナターゼ型等が挙げられる。これらのうち、アナターゼ型及びルチル型のバンドギャップは、それぞれ3.2eV及び3.0eVであり、アナターゼ型の方が伝導帯の下端のエネルギー準位が高く、開放端電圧が高いという報告や、色素増感型太陽電池ではアナターゼ型がルチル型よりも効率が高いという報告がある(A.Kay and M.Graetzel、Chem.Mater.、14;2930(2002))。そのため、アナターゼ型の酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子としては、アナターゼ型粒子を単独使用してもよく、アナターゼ型とルチル型との混合粒子を使用してもよい。
酸化チタン粒子の粒子径は、5nm〜500nmが好ましく、10nm〜100nmがより好ましい。酸化チタン粒子の粒子径が5nm未満では、粒子径が上記範囲にある場合と比べて、半導体電極の細孔径が小さくなり、増感剤の吸着時間を増大させ、電解質の拡散を困難とさせて、拡散抵抗を増大させる傾向がある。一方、粒子径が500nmを超えると、粒子径が上記範囲にある場合と比べて増感剤の吸着量が減少する他、粗大粒子により半導体電極内の応力を増大させ、機械的強度を不足させ、半導体電極を剥がれやすくする傾向がある。
また、酸化チタン粒子の平均粒子径は、10nm〜500nmであることが好ましい。平均粒子径が10nm未満では、平均粒子径が上記範囲にある場合に比べて半導体電極の細孔径が小さくなり、増感剤の吸着時間を増大させ、電解質の拡散を困難とさせて、拡散抵抗を増大させる傾向がある。一方、平均粒子径が500nmを超えると、平均粒子径が上記範囲にある場合に比べて増感剤の吸着量が減少する他、粗大粒子により半導体電極内の応力を増大させ、機械的強度を不足させ、半導体電極が剥がれやすくなる傾向がある。
更に、特開2000−106222号公報に記載されるように、粒子径の大きい酸化チタン粒子(10nm〜300nm)と、粒子径の小さい酸化チタン粒子(10nm以下)とを混在させてもよい。この場合、一つの層からなる半導体電極を形成すると、半導体電極に入射する入射光が、大きい粒子によって半導体電極の内部で散乱されるため、エネルギー変換効率を向上させることができる。
また、半導体電極2を有する光電極10において、特開2003−142171号公報に記載されるように、ルチル型の酸化チタン粒子からなる光反射層を設けてもよい。この場合、光反射層は、半導体電極2と電解質Eとの間に配置される。半導体電極2は、平均粒子径が70nm以下の酸化チタン粒子と、平均粒子径が150nm以上の酸化チタン粒子とを混合したものであってもよく、上記光反射層は、ルチル型の酸化チタン粒子(平均粒子径が150nm以上、屈折率が2.4以上)と二酸化ケイ素粒子(屈折率が1.8以下)とを混合させたものであってもよい。
半導体電極2に付着する増感剤は、可視光領域及び/又は赤外光領域に吸収を持つ増感剤であれば特に限定されるものではない。増感剤は、少なくとも200nm〜10μmの波長の光により励起されて電子を放出するものであればよい。ここで、増感剤は、有機系色素及び無機系増感剤のいずれであってもよい。増感剤が有機系色素である場合、その太陽電池は色素増感型太陽電池となり、増感剤が無機系増感剤である場合は、その太陽電池は無機固体型太陽電池となる。
ここで、有機系色素とは、金属錯体や有機色素等を示す。金属錯体としては銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン、クロロフィル又はその誘導体、ヘミン、ルテニウム、オスミウム、鉄及び亜鉛の錯体(例えば、シス−ジシアネート−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II))等が挙げられる。有機色素としては、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素等を用いることができる。
無機系増感剤としては、例えば、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、二硫化銅インジウム(CuInS)、硫化鉛(PbS)を用いることができる。
半導体電極2の厚みは、1〜25μmが好ましく、5〜15μmがより好ましい。膜厚が1μm未満であると、増感剤の吸着量が低下し、エネルギー変換効率が低下する傾向があり、25μmを超えると、半導体電極2の電子移動の抵抗が大きくなると共に、電解質として固体電解質を用いた場合の半導体電極2内のホール抵抗、もしくは、電解質として液状電解質を用いた場合のイオン拡散抵抗が大きくなり、エネルギー変換効率が低下する傾向がある。
電解質Eは、光励起され半導体電極2への電子注入を果たした後の増感剤を還元するための酸化還元種を含んでいれば特に限定されず、例えば、固体電解質、液状電解質、液状電解質に公知のゲル化剤(高分子或いは低分子のゲル化剤)を添加して得られるゲル状電解質が挙げられる。
固体電解質は、p型半導体材料を含有することが好ましく、CuI,CuSCN,CuO,Cu2O,NiO及び有機正孔輸送材料からなる群より選択される少なくとも一種の無機系材料を含有することがより好ましい。有機正孔輸送材料としては、フタロシアニン、ポリチオフェン、ポリアニリン等が挙げられる。固体電解質は、半導体電極2の細孔サイズをp型半導体材料が容易に侵入することが可能なサイズとするための保護剤として機能するとの観点から、イミダゾール又はその誘導体からなる溶融塩を含んでいてもよい。イミダゾール又はその誘導体からなる溶融塩としては、例えば1−メチル−3エチルイミダゾールチオシアネート(EMISCN)、トリエチルアミンヒドロチオシアネートが挙げられる。
液状電解質は、溶媒と溶質とを含む。液状電解質の溶媒としては、溶質成分を溶解できる化合物であれば特に制限はないが、電気化学的に不活性で、比誘電率が高くかつ粘度が低い溶媒(及びこれらの混合溶媒)が好ましく、例えば、メトキシプロピオニトリルやアセトニトリルのようなニトリル化合物、γ−ブチロラクトンやバレロラクトンのようなラクトン化合物、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートのようなカーボネート化合物が挙げられる。
液状電解質の溶質としては、半導体電極2に担持された増感剤(例えば増感色素)や、対極CEと電子の受け渡しを行える酸化還元対(I3 −/I−系の電解質、Br3 −/Br−系の電解質、ハイドロキノン/キノン系の電解質等のレドックス電解質)や、この電子の受け渡しを助長する作用を有する化合物等が挙げられ、これらがそれぞれ単独であるいは複数組み合せて含まれていてもよい。
酸化還元対を構成する物質としては、例えば、ヨウ素、臭素、塩素等のハロゲン、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化リチウムのようなハロゲン化物等が挙げられる。電子の受け渡しを効率よく行うための添加剤としては、4−t−ブチルピリジンのようなヘテロ環状化合物等が挙げられる。
液状電解質としては、ヨウ素と、ヨウ素イオンを含むイオン性液体であるヨウ素化合物とを含む電解質であってもよい。ヨウ素イオンを含むイオン性液体であるヨウ素化合物としては、プロピルメチルイミダゾリウムヨージド(PMII)、ジメチルイミダゾリウムヨージド(DMII)、エチルメチルイミダゾリウムヨージド(EMII)、1−ヘキシル−3メチルイミダゾリウムヨージド(HMII)、1−ブチル−3メチルイミダゾリウムヨージド(BMII)、1−アリル−3メチルイミダゾリウムヨージド(AMII)、これらの共融化合物(例えば、(DMII:EMII=1:1)、(AMII:DMII:EMII=1:1:1))等が挙げられる。
電解質Eが固体電解質の場合、電解質Eの膜厚は、1〜20μmが好ましく、2〜10μmがより好ましい。膜厚が1μm未満であると、半導体電極2上に電解質Eを完全に覆うことが難しくなり、エネルギー変換効率が低下する傾向があり、20μmを超えると、電解質Eの抵抗の増大により太陽電池の性能が低下する傾向がある。
対極CEは、電解質中に含有される酸化還元対(例えば、I3 −/I−等)の酸化体に電子を反応させて還元体を得る還元反応(例えば、I3 −をI−へ還元する還元反応)を高効率で進行させることができる材料から構成されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、シリコン太陽電池、液晶パネル等に通常用いられている透明電極と同じものを用いることができる。
対極CEとしては、例えば前述の透明電極1と同じ構成を有するものが用いてもよく、透明導電膜(図示せず)側が電解質Eに接触されるように配置されている。更に対極CEとしては、透明電極1の透明導電膜3上に白金等の金属薄膜電極を形成し、金属薄膜電極を電解質Eの側に向けて配置させるものであってもよい。また、透明電極1の透明導電膜3に白金を少量付着させたものや、白金等の金属薄膜等も対極CEとして使用できる。更に、多孔質の炭素電極を対極として用いてもよい。
シール材5は、電解質Eが液状電解質である場合に、太陽電池20の側面から外部に漏れることを防止するためのものである。ただし、電解質Eが固体電解質である場合には、シール材5を用いなくてもよい。シール材5としては、例えば、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂フィルム、あるいはエポキシ系接着剤を使用することができる。
また、電解質Eを密封する目的で、シール材5に対し光電極10及び対極CEを一体化するために使用する接着剤としては、電解質Eの成分ができる限り外部に漏洩しないように封止できるものであれば特に制限されるものではない。接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、エチレン/メタクリル酸共重合体、表面処理ポリエチレンからなる熱可塑性樹脂等を用いることができる。
次に、太陽電池20の製造方法について説明する。
光電極10を作製する工程(第1の工程)について説明する。まず透明電極1を準備する。透明電極1は、ガラス基板等の透明基板4上に、先に述べたフッ素ドープSnO2等の透明導電膜3を、スプレーコート法等の公知の薄膜製造技術を用いて形成することができる。透明導電膜3は、スプレーコート法の他にも、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法及びゾルゲル法等の公知の薄膜製造技術を用いて形成することができる。
次に、透明電極1の透明導電膜3上に下地層15を形成する。下地層15は、以下のようにして形成される。
まず、ペースト状の下地層形成用組成物を準備する。そして、この下地層形成用組成物を透明電極1の透明導電膜3上に塗布して焼成する。これにより、透明電極1の透明導電膜3上に下地層15が形成される。下地層形成用組成物の塗布方法は、塗布した下地層形成用組成物をパターニング可能な方法が好ましく、スクリーン印刷法、インクジェット法及びドクターブレード法がより好ましく、スクリーン印刷法が更に好ましい。
下地層形成用組成物の焼成温度は、下地層形成用組成物の組成にもよるため一概には言えないが、300〜600℃が好ましく、450〜600℃がより好ましい。焼成温度が300℃未満では、前駆体層の十分な焼成が行えない傾向がある。一方、600℃を超えると、透明導電膜3の抵抗が増大する傾向がある。上記焼成は通常、空気中等の酸化性雰囲気下で行われる。
なお、塗布後焼成前に、下地層形成用組成物を乾燥させる工程が行われてもよい。焼成する前に乾燥工程を設けることで、組成物に添加される有機溶媒を蒸発させることができる。これにより急激な熱負荷による下地層形成用組成物の膜の応力・歪みを緩和でき、下地層15の透明電極1からの剥がれやクラック(割れ)を防止できる利点がある。
また、焼成後、下地層15の製造完了前に、焼成された下地層形成用組成物に対して紫外線を照射することが好ましい。この場合、紫外線を照射することで、酸化チタン粒子含有組成物中に残存するカーボン量が低減される。すなわち、紫外線照射により酸化チタン粒子の光触媒効果が発現し、抵抗成分となる有機成分(例えば有機チタンキレート錯体や粘度調整剤)が分解されて除去され、これにより酸化チタン粒子の電子伝導性が向上する。
次に、以下のようにして、下地層15上に半導体電極2を形成する。半導体電極2は、以下のようにして形成される。以下では、酸化物半導体として酸化チタンを例に説明するが、他の酸化物半導体についても同様である。
即ち、まずペースト状の酸化チタン粒子含有組成物を準備する。酸化チタン粒子含有組成物は、酸化チタン粒子の他に、上述の下地層形成用組成物と同様の有機チタンキレート錯体及び粘度調整剤を含有することが好ましい。この場合、酸化チタン粒子の表面が有機チタンキレート錯体によって修飾され、酸化チタン粒子含有組成物を用いて光電極10を作製すると、酸化チタン粒子同士間の部分において酸化チタンが十分に含まれることとなるため、短絡電流密度及び開放端電圧がより増加し、太陽電池のエネルギー変換効率をより向上させることができる。
半導体電極2は、このような酸化チタン粒子含有組成物を下地層15上に塗布して焼成することにより形成される。この場合、焼成により有機チタンキレート錯体中の有機物成分の含有率が低減される結果、酸化チタン粒子同士間の部分に占める酸化チタン粒子の含有率が高くなり、半導体電極2における短絡電流密度を増大させることができる。酸化チタン粒子含有組成物の塗布方法は、バーコーター法、印刷法(例えばスクリーン印刷法)等が挙げられる。
酸化チタン粒子含有組成物の焼成温度は、酸化チタン粒子含有組成物の組成にもよるため一概には言えないが、300〜600℃が好ましく、400〜600℃がより好ましい。焼成温度が300℃未満では、前駆体層の十分な焼成が行えない傾向が大きくなる。一方、600℃を超えると、透明導電膜3の抵抗が増大する傾向がある。上記焼成は通常、空気中等の酸化性雰囲気下で行われる。
なお、塗布後焼成前に、酸化チタン粒子含有組成物を乾燥させる工程が行われてもよい。焼成する前に乾燥工程を設けることで、組成物に添加される有機溶媒を蒸発させることができ、それにより急激な熱負荷による酸化チタン粒子含有組成物の膜の応力・歪みを緩和でき、半導体電極2の下地層15からの剥がれやクラック(割れ)を防止できる利点がある。
また、焼成後、半導体電極2の製造完了前に、焼成された酸化チタン粒子含有組成物に対して紫外線を照射することが好ましい。この場合、紫外線の照射により酸化チタンの光触媒効果が発現し、酸化チタン粒子同士間の部分において抵抗成分となる有機物成分がより十分に分解され、酸化チタン粒子の含有率がより高くなり、半導体電極2における短絡電流密度をより増大させることができる。
以上により、光電極10が得られる。
次に、半導体電極2の酸化チタン粒子に、浸着法等の公知の技術により増感剤を付着させる(第2の工程)。このとき、増感剤は酸化チタン粒子に付着(化学吸着、物理吸着又は堆積等)すればよく、付着方法は、例えば増感色素を含む溶液中に光電極10を浸漬する等の方法を用いることができる。この際、溶液を加熱し還流させる等して、増感剤(例えば増感色素)の吸着、堆積を促進することができる。このとき、増感色素の他に必要に応じて、銀等の金属やアルミナ等の金属酸化物を半導体電極2中に含有させてもよい。
次に、別途対極CEを作製する。対極CEの製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、対極CEが透明電極1と同様の構成を有する場合には、先に述べた透明電極1の製造方法と同様にして対極CEを作製すればよい。また、電解質Eとして固体電解質を用いる場合には、対極CEとして、金や白金等の金属を電解質E上に蒸着してもよく、金や白金等の金属板を用いてもよい。
次に、半導体電極2と反対側の対極CEの面上に基板(図示せず)を配置し、透明電極1と対極CEとの間の空間の側面をシール材5で被覆する。次に、半導体電極2と対極CEとの間に形成される間隙に液状電解質、ゲル状電解質又は固体電解質の前駆体溶液を注入する。
液状電解質等の注入は、例えば、光電極10、対極CE、又は、シール材5に予め設けておいた注入口を利用して行うことができる。この注入口は、注入が完了した後に、所定の部材や樹脂により塞がれる。また、前駆体溶液がゲル状の場合には、加熱により液化すれば注入が容易となる。
電解質Eが固体電解質の場合には、以下のようにして電解質Eを形成することができる。例えば、固体電解質を溶解可能な溶媒を用いて固体電解質を溶解した前駆体溶液を調製し、半導体電極2と対極CEとの間に形成される間隙に前駆体溶液を注入する。そして、増感色素を吸着させた後の半導体電極2内に前駆体溶液を浸透させる。更に、半導体電極2が覆われるように前駆体溶液を注入した後、乾燥させて溶媒を除去する。前駆体溶液の注入・乾燥は、複数回繰り返してもよく、不活性ガス(例えば、アルゴン、窒素等)雰囲気下で行われることが好ましい。
これらの工程により、図2に示すように、固体電解質からなる電解質Eと、電解質Eと同様の成分を含有する半導体電極2とを積層させることができる。この場合、半導体電極2は、酸化物半導体粒子2aと、酸化物半導体粒子2a間の間隙に充填された電解質成分2bとを有している。なお、図2では、太陽電池20が図1と上下逆に示されている。
以上により、太陽電池20が得られる。
上記のようにして太陽電池20を製造すると、太陽電池の短絡電流密度を向上させることができる。これにより、太陽電池20のエネルギー変換効率を向上させることができる。また、透明電極1の表面上の下地層15により、透明電極1から電解質Eへのリーク電流が抑制され、開放端電圧も向上させることができる。
更に、下地層形成用組成物が粘度調整剤を含んでいることにより、組成物の粘度の調整が可能となり、透明電極1に組成物を所定のパターンでスクリーン印刷法、インクジェット法又はドクターブレード法により塗布しても、組成物の形状が保持され、流動化が防止される。そのため、本発明の下地層形成用組成物は、透明電極1上に所定のパターンをスクリーン印刷法等で形成するのに適する。
また、スクリーン印刷法、インクジェット法又はドクターブレード法を用いることにより、下地層のパターニングが可能となる。これにより、所望の位置に下地層を形成することができるため、太陽電池の短絡電流密度を確実に向上させることができる。
また、本発明の下地層形成用組成物を用いることにより、加水分解反応性が低く化学的に安定な有機チタンキレート錯体が用いられるため、長期的に安定な組成物を実現することができる。従って、特性バラツキの少ない太陽電池を製造できる。
(第2実施形態)
次に、本発明の太陽電池の製造方法の第2実施形態について図3を参照しながら説明する。図3は、第2実施形態の製造方法により製造される太陽電池を示す断面図である。なお、上述の太陽電池20と同一の構成要素については同一符号を付し、重複する説明は省略する。
第2実施形態の太陽電池30は、多数の細孔を有した構造を有する多孔体層PSを電解質Eの代わりに半導体電極2と対極CEとの間に導入し、更に、対極CEの形状及び構成を下記のようにしたこと以外は太陽電池20と同様の構成を有している。
多孔体層PSは、電解質を保持可能であり、電子伝導性を有さない多孔体であれば特に限定されない。多孔体層PSの構成材料としては、ルチル型の酸化チタン、ジルコニア、アルミナ、シリカ等の粒子が挙げられる。多孔体層PSは、光電極10を透過する光を反射して、その反射光を再び光電極10内に照射する光反射層としての機能も有している。これにより、光電極10における光の利用効率を向上させることができる。
多孔体層PSは、半導体電極2の裏面F22を覆う部分と、半導体電極2の裏面F22に隣接する側面を密着して覆う鍔状の縁部分とを有している。この鍔状の縁部分は、透明導電膜3を貫通して透明基板4に接触している。具体的には、鍔状の縁部分は、透明電極1の受光面F1の法線方向に延びており、その先端が透明基板4に接続されている。
次に、透明電極1と多孔体層PSとの接続部についてより詳細に説明する。この接続部において、透明電極1の透明導電膜3の一部は、例えばレーザスクライブ等の技術により完全に削りとられ、透明基板4の表面が露出する深さの溝9が形成されている。そして、この溝9の部分に多孔体層PSの鍔状に形成された縁部分の先端が挿入されている。
下地層15について説明する。下地層15は、太陽電池20と同様に半導体電極2と透明導電膜3との間に配置されている。下地層15の一端は、多孔体層PSの鍔状の縁部分と接していることにより、下地層15は、対極CEの鍔状の縁部分と透明導電膜3との間には配置されていないこととなる。
対極CEについて説明する。以下では、対極CEとして、導電性の炭素材料を構成材料として含む炭素電極が採用されている場合について説明する。
対極CE(炭素電極)は、例えば、カーボンブラック粒子と、グラファイト粒子と、アナターゼ型の酸化チタン粒子等の導電性酸化物粒子とを構成材料として形成された多孔質の電極である。この多孔質の対極CE(炭素電極)の細孔内には、電解質Eが保持される。なお、多孔質の炭素電極中には、例えば、電極反応をより速やかに進行させる観点から、白金微粒子等の触媒微粒子が分散担持されていてもよい。
対極CEは、多孔体層PSにおける半導体電極2の裏面F22上に位置する部分を密着して覆う部分と、多孔体層PSの鍔状の縁部分を密着して覆う鍔状の縁部分とを有している。そして、この対極CEの鍔状の縁部分も、光電極10の透明電極1の受光面F1の法線方向に延びて、その先端が透明基板4に接続されている。
更に、対極CE(炭素電極)の多孔体層PSと反対側の面上には、防湿フィルム7が隣接して配置されている。また、半導体電極2及び下地層15の側面うち多孔体層PSに覆われていない側面、及び、多孔体層PSの側面のうち対極CEに覆われていない側面、透明電極1と防湿フィルム7との間の空間の側面は、太陽電池20と同様のシール材5を密着させることによりシールされている。更に、対極CEの鍔状の縁部分の外表面に対してもシール材5が密着するように配置されている。このように、防湿フィルム7と、シール材5とを配置することにより、半導体電極2及び多孔体層PSのそれぞれの内部に含有されている電解質の太陽電池40外部への逸散が十分に防止される。
以上のように、太陽電池30は、光電極10に多孔体層PSと対極CEとが一体化された構成を有している。そして、多孔体層PSの鍔状の縁部分により、半導体電極2と対極CEとの電気的な接触が防止されている。なお、半導体電極2と対極CEとの電気的な接触(半導体電極2と対極CEとの間での電子移動)が十分に防止されるのであれば、図3において、多孔体層PSの鍔状の縁部分を設けずに、半導体電極2の側面と対極CEの鍔状の縁部分の内側面とが見かけ上接触している状態の構成としてもよい。この場合、溝9内には半導体電極2の構成材料が挿入される。
次に、太陽電池30の製造方法について、半導体電極2が酸化チタンを含む場合を例に説明する。
光電極10を作製する工程(第1の工程)について説明する。まず、透明電極1を準備する。透明電極1の形成方法は、基本的には、第1実施形態における透明電極1の製造方法と同様である。但し、第2実施形態では、透明導電膜3を透明基板4上に形成した後、レーザスクライブ処理により、透明導電膜3の一部を削り、透明基板4の表面を露出させ、溝9を形成する点で第1実施形態における透明電極1の形成方法と相違する。
この溝9を形成した後、透明導電膜3上に下地層15の前駆体層(又は下地層15)を形成する。この場合、例えばスクリーン印刷により溝9を回避するように透明導電膜3の表面上に、上述した下地層形成用組成物を塗布し、焼成することによって下地層15を形成する。但し、このとき、溝9中にも下地層15の前駆体層(又は下地層15)が形成されるようにし、次いで、レーザスクライブ処理により、溝9を埋める下地層15の前駆体層(又は下地層15)の部分を削り取り、再び透明基板4の表面を露出させ、溝9を形成してもよい。
次に、下地層15上に半導体電極2の前駆体層(又は半導体電極2)を形成する。半導体電極2の前駆体層(又は半導体電極2)は、下地層15の製造方法と同様の手法により、酸化チタン粒子含有組成物を塗布することにより得ることができる。以上により、光電極10が得られる。
多孔体層PSの前駆体層(又は多孔体層PS)は、例えば、ルチル型の酸化チタン等の電気的絶縁性の多孔体材料を含む分散液(スラリー)を調製し、これを半導体電極2の面F22上に塗布し乾燥させることにより得ることができる。これにより、半導体電極2と、半導体電極2上に形成される多孔体層PSの前駆体層(又は多孔体層PS)とを備えた積層体を得る。
ここで、多孔体層PSの前駆体層を形成した後、更に、空気中等の酸化雰囲気下、400〜600℃の温度範囲で熱処理することにより、多孔体層PSの前駆体層を焼成して多孔体層PSを形成してもよい。この場合、熱処理の温度が400℃未満であると、前駆体層の焼成を十分に行うことができなくなる傾向が大きくなる。また、熱処理の温度が600℃を超えると、透明電極1の電気抵抗が増大する傾向が大きくなると共に透明基板4に歪みが発生し多孔体層PSの前駆体層(又は、焼成後の多孔体層PS)の一部又は全部が剥離し電池性能が低下する傾向が大きくなる。
ただし、多孔体層PSの前駆体層を焼成して多孔体層PSを形成するための熱処理を省いても、後で、半導体電極2の前駆体層及び多孔体層の前駆体層の熱処理を一括して行うことにより、多孔体層PSの前駆体層を焼成して多孔体層PSを形成することができる。そのため、製造効率を向上させる観点からは、ここの段階での熱処理は省くことが好ましい。
なお、半導体電極2の前駆体層(又は半導体電極2)の作製が完了した段階で透明電極1に溝9が形成されていない場合には、レーザスクライブ処理により、多孔体層PSの前駆体層(又は多孔体層PS)の一部を削り、透明基板4の表面を露出させ、内部に充填物の無い状態の溝9(図3参照)を形成すればよい。このとき、レーザスクライブ処理により、多孔体層PSの鍔状の縁部分のうち対極CEが形成される側の表面を削り、多孔体層PSの形状を整える。
次に、導電性の炭素材料を含む液を調製し、当該液を、上記のようにして得られる積層体上に塗布し、次いで乾燥させることにより、積層体上に炭素電極からなる対極CEの前駆体層を形成する。
対極CEの前駆体層を形成する方法は特に限定されず、例えば、以下の手法で形成することができる。すなわち、カーボンブラック粒子と、グラファイト粒子と、アナターゼ型の酸化チタン粒子等の導電性酸化物粒子と、アセチルアセトン等の有機溶媒と、イオン交換水と、界面活性剤とを含むスラリー(或いはこのスラリーに増粘剤を添加したカーボンペースト)を調製し、これを多孔体層PSの前駆体層上に塗布し乾燥させることにより形成することができる。上記のスラリー(或いはペースト)の塗布、乾燥の一連の作業を繰り返すことにより、得られる対極CEの厚さを調節することができる。
ここで、対極CEの前駆体層を形成した後、更に、400〜600℃の温度範囲で熱処理することにより、多孔体層PSの前駆体層を焼成して対極CE(炭素電極)を形成してもよい。この場合、熱処理の温度が400℃未満であると、前駆体層の十分な焼成を行うことができなくなる傾向が大きくなる。
また、熱処理の温度が600℃を超えると、透明電極1の電気抵抗が増大する傾向が大きくなる。また、この場合には、透明基板4に歪みが発生し、以下に示す(i)〜(iii)の現象のうちの少なくとも1つが発生して電池性能が低下する傾向が大きくなる。(i):半導体電極2の前駆体層(又は、焼成後の半導体電極2)の一部又は全部が剥離する現象、(ii):多孔体層PSの前駆体層(又は焼成後の多孔体層PS)の一部又は全部が剥離する現象、(iii):対極CEの前駆体層(又は焼成後の対極CE)の一部又は全部が剥離する現象。
また、ここでの熱処理は、酸化雰囲気下及び非酸化雰囲気下(酸化剤を含まない雰囲気、例えば、希ガス等の不活性ガス、窒素等の上記の温度範囲で化学的に不活性なガス中)の何れで行ってもよいが、酸化雰囲気下で行う場合には、対極CEの劣化をより確実に防止する観点から、400〜550℃の温度範囲で行うことが好ましい。ただし、対極CEの前駆体層を焼成して対極CEを形成するための熱処理を省いても、後述の熱処理により、対極CEの前駆体層を焼成して対極CEを形成することができるので、製造効率を向上させる観点からは、ここの段階での熱処理は省くことが好ましい。
次に、半導体電極2中に、浸着法等の公知の技術により増感剤を付着させる(第2工程)。こうして光電極10が得られる。増感剤は上述したように、有機系色素及び無機系増感剤のいずれであってもよい。増感剤を半導体電極2に付着させる方法は、例えば増感剤を含む溶液中に、得られる積層体(光電極10と多孔体層PSと対極CEを一体化したもの)を浸漬する等の方法を用いることができる。この際、溶液を加熱し還流させる等して増感剤(例えば増感色素)の吸着、堆積を促進することができる。なお、このとき、増感剤の他に必要に応じて、銀等の金属やアルミナ等の金属酸化物を半導体電極2中に付着させてもよい。
次に、積層体(光電極10と多孔体層PSと対極CEを一体化したもの)の大きさに合わせた形状を有するシール材5を準備し、図3に示すように半導体電極2、下地層15、多孔体層PS及び対極CE3の外部に露出した側面、及び、対極CEの鍔状の縁部の外表面(側面)にシール材5をそれぞれ配置し、熱溶着する。
次に、図3に示すように、対極CEと反対側のシール材5の面上に防湿フィルム7を配置して熱融着する。
次に、太陽電池30の内部(半導体電極2、多孔体層PS及び対極CE)に電解質Eを注入する。この電解質Eの注入は、例えば、光電極10、対極CE、又は、シール材5に予め設けておいた注入口を利用して行うことができる。この注入口は、電解質Eの注入を完了した後に所定の部材や樹脂により塞がれる。なお、電解質Eの注入の際、電解質Eがゲル状の場合には加熱により液化すれば注入可能となる。また、電解質Eが固体電解質の場合には、例えば、固体電解質を溶解可能な溶媒を用いて固体電解質を溶解した液を調製し、炭素対極を形成する以前の色素を吸着させた後の積層体をこの液に含浸させ、その後溶媒を除去する等してもよい。
以上により、太陽電池30が得られる。
(第3実施形態)
次に、本発明の太陽電池の製造方法の第3実施形態について説明する。まず、第3実施形態の製造方法により製造される太陽電池について図4を参照しながら説明する。なお、第1及び第2実施形態の太陽電池20,30と同一の構成要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図4に示すように、第3実施形態に係る太陽電池40は、複数の電池を併設した太陽電池モジュールの形態を有する。具体的には、図4に示す太陽電池40は、図3に示した太陽電池30をそれぞれ複数個直列に並設する場合の一例(3個直列に併設する場合)を示している。
太陽電池40は、各太陽電池30の透明電極として1つの共通の透明電極1を使用している。以下、各太陽電池30のうち透明電極を除いた部分のそれぞれのセルを「単セル」と呼ぶこととする。
太陽電池40においては、3つある単セルのうち中央の単セルの対極CEは、透明導電膜3を介して隣の単セル(図4中左側)の半導体電極2に電気的に接続され、中央の単セルの半導体電極2は、透明導電膜3を介して、残りの単セル(図4中右側)の対極CEに電気的に接続されている。従って、3つの単セルは直列に接続されることとなる。太陽電池40では、直列に接続されたいずれの単セルにおいても、下地層15は、透明電極1及び半導体電極2の間にのみ設けられている。
第3実施形態において、透明電極11は、透明基板4上に、透明導電膜3及び集電電極6を順次形成した構成を有する。ここで、集電電極6は、光電極10Aにおける短絡電流密度をより増大させるために、透明導電膜3よりも低い抵抗を有している。このような集電電極6としては、例えば銀(Ag)又はチタン(Ti)等の金属が用いられる。また集電電極6の形状は特に限定されず、例えばメッシュ状となっている。
シール材5は、一体化されて隣り合う単セルの間の間隙を充填しており、且つ、すべての単セルの対極CEをも覆っている。従って、各単セルのうちの対極CEと防湿フィルム7との間にもシール材5が設けられることになる。
次に、太陽電池40の製造方法について、半導体電極2が酸化チタンを含む場合を例に説明する。
まず透明電極11を準備する。すなわち、透明基板4上に透明導電膜3及び集電電極6を順次形成したものを準備する。次に、単セルの数と同数の溝9を、レーザスクライブ処理法等によって、互いに平行に且つ所定の間隔で透明導電膜3に形成する。
この溝9を形成した後、第2実施形態と同様に、透明導電膜3上に下地層15の前駆体層(又は下地層15)を形成する。この場合、例えばスクリーン印刷により溝9を回避するように透明導電膜3の表面上に、上述した下地層形成用組成物を塗布し、焼成することによって下地層15を形成する。
次に、例えばスクリーン印刷法によって、上述した酸化チタン粒子含有組成物を、下地層15の表面上に塗布する。このとき、酸化チタン粒子含有組成物は、四塩化チタン等を含んでいないため、酸化チタン粒子含有組成物による集電電極6の腐食が十分に防止される。その結果、太陽電池40において四塩化チタン水溶液等の強酸による集電電極6の腐食に伴う電気抵抗の増大や電池変換効率の低下を十分に防止できる。そのため、光電極10Aにより、十分に変換効率が向上した太陽電池40が得られる。
また、酸化チタン粒子含有組成物は、粘度調整剤を含んでいると好ましい。この場合、印刷後の酸化チタン粒子含有組成物の形状が保持され、流動化が防止されるので、隣り合う酸化チタン粒子含有組成物同士の一体化が十分に防止される。その結果、単セル間の短絡が十分に防止された太陽電池40が得られることになる。
次に、太陽電池30と同様に、多孔体層PS、対極CEを形成する。半導体電極2への増感剤の付着は、第1実施形態の場合と同様である。次に、すべての単セル(第3実施形態では3つ)を覆うようにシール材5を配置して熱溶着させる。最後に、防湿フィルム7をシール材5に貼付して、太陽電池40の製造が完了する。なお、多孔体層PSの形成方法は第1実施形態と同様であり、対極CE、シール材5の形成方法については、第2実施形態の形成方法と同様である。
なお、本発明は、上記第1〜3実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、酸化チタン粒子含有組成物を下地層15上に塗布した後、焼成して半導体電極2が形成されているが、酸化チタン粒子含有組成物を焼成する代わりに紫外線照射することによっても半導体電極2を形成することができる。すなわち、酸化チタン粒子含有組成物を焼成しなくても、紫外線照射することにより、半導体電極2を得ることができるのである。これは、紫外線照射によって、酸化チタンの光触媒効果が発現し、抵抗成分となる有機成分が分解されることによると本発明者らは考えている。また、このように焼成に代えて紫外線照射を行うことにより半導体電極2を形成して光電極を得る方法は、透明電極1が、高分子フィルム等の耐熱性の低いものである場合に特に有効である。
また、同様に、下地層形成用組成物を焼成する代わりに紫外線照射することによっても下地層15を形成することができる。
紫外線照射後は、酸化チタン粒子含有組成物を加熱処理することが好ましい。この場合、紫外線照射で一旦還元された酸化チタン粒子表面が酸化され、その酸化された半導体電極2の結晶性が向上して半導体電極2における電子伝導性が、加熱処理をしない場合に比べて向上する。
また、上記実施形態において、下地層形成用組成物は、色素増感型太陽電池、無機系固体型太陽電池に用いられているが、酸化チタンを用いるあらゆる種類の太陽電池、例えば、ETA(Extremely Thin Absorber)型太陽電池、バルクヘテロ接合型有機太陽電池等にも適用可能である。
また、上記第1実施形態では、透明電極1と同様の構成を有する電極を対極CEとして備える太陽電池20について説明したが、この対極CEは、太陽電池30を構成する対極CE、すなわち、炭素電極としてもよい。この場合の対極CE(炭素電極)は、上記と同様の方法で作製できる。
この場合、導電性の炭素材料を含む液を調製し、当該液を、基板上に塗布し、次いで乾燥させて対極CE(炭素電極)の前駆体層を形成した後、更に、400〜600℃の温度範囲で熱処理することにより、細孔を有する多孔質の対極CE(炭素電極)を形成してもよい。また、ここでの熱処理は、酸化雰囲気下及び非酸化雰囲気下(酸化剤を含まない雰囲気、例えば、希ガス等の不活性ガス、窒素等の上記の温度範囲では化学的に不活性なガス中)の何れで行ってもよいが、酸化雰囲気下で行う場合には、炭素電極の劣化をより確実に防止する観点から、400〜550℃の温度範囲で行うことが好ましい。
更に、上記第3実施形態では、太陽電池30を複数個並設させ、各太陽電池30の透明電極として1つの共通の透明電極1を使用した太陽電池40が示されているが、本発明の太陽電池は、太陽電池20を単セルとして複数個並設させ、各単セルの透明電極を1つの共通の透明電極1として使用した太陽電池であってもよい。この場合、太陽電池は、単セルを並列接続したものとなる。
また、上記実施形態では、電解質は、固体電解質及びPSのいずれを用いてもよい。例えば、第2,3実施形態では、電解質Eとして固体電解質を用いてもよい。この場合、固体電解質は、半導体電極2を形成した後、対極CEを形成し、透明電極1と対極CEとの間の空間の側面をシール材5で被覆する。そして、固体電解質を溶解可能な溶媒を用いて固体電解質を溶解した前駆体溶液を調製し、半導体電極2と対極CEとの間に形成される間隙に前駆体溶液を注入する。そして、半導体電極2内に前駆体溶液を浸透させる。更に、半導体電極2が覆われるように前駆体溶液を注入した後、乾燥させて溶媒を除去する。以上により、半導体電極2の裏面F22を覆う部分と、鍔状の縁部分とを有する固体電解質を得ることができる。
ところで、従来の液層コーティング法では、透明電極1上の全面に下地層15の前駆体溶液を全面コーティングすることとなり、図5に示すように、パターニングして所望の位置に下地層15を形成することができなかった。すなわち図5では、透明導電膜3と、対極CEの鍔状の縁部分との間に下地層15が配置されており、これが抵抗成分として作用し、太陽電池が十分に機能しなくなる。
一方、太陽電池40では、下地層15がスクリーン印刷法、インクジェット法又はドクターブレード法により製造されることにより、下地層15のパターニングが可能となる。すなわち、透明導電膜3と、対極CEの鍔状の縁部分との間に下地層15が配置されることなく、所望の位置に下地層15が形成されている。これにより、太陽電池の短絡電流密度と開放端電圧とをいずれも確実に向上させることができる。更には、色素増感型太陽電池のモジュール化や、大量生産プロセスへの適用が可能となる。なお、太陽電池20,30についても、スクリーン印刷法を用いることにより、所望の位置に下地層15を設けることができる。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
有機チタンキレート錯体としてチタンジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)8.89重量部、粘度調整剤としてエチルセルロース50.0重量部、有機溶媒としてターピネオール41.11重量部を混合し、ホモジナイザーで均質に分散させ、ペースト状の下地層形成用組成物を得た。
20mm×20mm×1mmのサイズの透明導電(TCO)ガラス基板を用意し、このTCOガラス基板上に上記のようにして得た下地層形成用組成物をスクリーン印刷法で所定のパターンを形成するように塗布し、150℃で乾燥した後、電気炉内で550℃に加熱して、TCOガラス基板上に下地層を積層してなる積層体を得た。
次に、平均粒子径35nmのアナターゼ型酸化チタン粒子を、エタノール及びメタノールの混合溶媒(エタノール:メタノール=10:1(体積比))に均一に分散して分散液を得た。このとき、酸化チタン粒子は、混合溶媒100重量部に対し、10重量部の割合で分散させた。この分散液100重量部に対し、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4ペンタンジオネート)をエタノールと混合した溶液を26重量部の割合で添加し、ホモジナイザーで均質に混合分散させて酸化チタンスラリーを得た。このとき、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4ペンタンジオネート)が、酸化チタン粒子100重量部に対して30重量部の割合となるように添加した。
粘度調整剤としてのエチルセルロースを、有機溶媒としてのエタノールに濃度が10重量部となるように溶かした溶液と、アルコール系有機溶媒(ターピネオール)とを上記酸化チタンスラリーに添加し、再度、ホモジナイザーで均質に分散させた。次いで、ターピネオール以外のアルコールをエバポレータで除去した後、ミキサーで混合した。こうしてペースト状の酸化チタン粒子含有組成物を得た。このとき、酸化チタン粒子含有組成物は、黄色ないしは黄褐色を呈していた。このことから、酸化チタン粒子含有組成物中にチタンジイソプロポキシド(ビス−2,4ペンタンジオネート)が含まれていることが確認できた。なお、得られた酸化チタン粒子含有組成物の組成は、酸化チタン粒子含有組成物を100重量部として、酸化チタン粒子が11重量部、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4ペンタンジオネート)が15重量部、粘度調整剤が5重量部であった。
下地層上に上記のようにして得た酸化チタン粒子含有組成物をスクリーン印刷法で所定のパターンを形成するように塗布し、150℃で乾燥した後、電気炉内で450℃に加熱して、TCOガラス基板上に半導体電極を積層してなる積層体を得た。
次に、増感剤として、ルテニウム錯体(赤色色素:N719)を用い、これのエタノール溶液(増感色素の濃度;3×10−4mol/L)を調製した。
そして、この溶液に、上記の積層体を浸漬し、25℃の温度条件のもとで40時間放置した。これにより、半導体電極の内部に増感色素を約1.0×10−7mol/cm2吸着させた。こうして光電極を得た。
次に、アセトニトリルにCuIを飽和させ、1−メチル−3エチルイミダゾールチオシアネート(EMISCN)を添加して、p型半導体層形成用組成物を得た。
40〜120℃のホットプレート上に上記のようにして得られた光電極を半導体電極が上になるように載置し、上記p型半導体層形成用組成物を半導体電極に滴下し、p型半導体層形成用組成物を半導体電極内に充填すると共に、半導体電極上に堆積させた。更に、p型半導体層形成用組成物に含まれる溶媒を蒸発させることにより、CuIを半導体電極内に充填させると共に、CuI及びEMISCNを含むp型半導体層を半導体電極上に形成した。その後、上記p型半導体層上に対極として白金薄膜を配置した。
(比較例1)
下地層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして色素増感型太陽電池を得た。
(比較例2)
TCOガラス基板上の全面に上記のようにして得た下地層形成用組成物をスパッタ法で塗布したこと以外は実施例1と同様にして色素増感型太陽電池を得た。
(実施例2)
電解質として溶融塩(I2、PMII、NMBI)を用い、対極としてTCOガラス基板上に配置された白金薄膜電極を用いた。また、電解質の漏液を防止するためにシール材を用いた。これら以外は実施例1と同様にして色素増感型太陽電池を得た。
TCOガラス基板上に配置された白金薄膜電極は、TCOガラス基板を用意し、その表面上に、イソプロパノール中に塩化白金酸を10重量部含む溶液を滴下して乾燥後、400℃で加熱処理することにより作製した。
シール材には、半導体電極の大きさに合わせた形状を有する三井デュポンポリケミカル社製のシール材(商品名:「ハイミラン」、エチレン/メタクリル酸ランダム共重合体アイオノマーフィルム)を用いた。p型半導体層上に対極として白金薄膜を配置し、半導体電極及び対極のうち外側に露出した側面にシール材を接触させて熱溶着させた。
(比較例3)
下地層を形成しなかったこと以外は実施例2と同様にして色素増感型太陽電池を得た。
〔断面観察〕
上記実施例1で作製した色素増感型太陽電池について断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率:1万倍の条件で観察した。結果を図6に示す。
〔太陽電池の性能評価〕
実施例1及び比較例1,2で作製した色素増感型太陽電池の光照射時(疑似太陽光:1sun)の電流−電圧特性を測定した。結果を図7に示す。実線Aは、実施例1の結果を示し、破線Bは、比較例1の結果を示し、一点鎖線Cは、比較例2の結果を示す。図7より、下地層を備える色素増感型太陽電池は、下地層を備えない色素増感型太陽電池に比べ、短絡電流密度と開放端電圧とがいずれも増大することが分かった。スクリーン印刷法により下地層を形成した色素増感型太陽電池は、スパッタ法により下地層を形成した色素増感型太陽電池に比べ、短絡電流密度が増大することが分かった。
また、実施例2及び比較例3の色素増感型太陽電池について、同様に光照射時の電流−電圧特性を測定した結果を図8(a)に示し、暗下での電流−電圧特性を測定した結果を図8(b)に示す。実線Aは、実施例2の結果を示し、破線Bは、比較例3の結果を示す。図8(a)より、下地層を備える色素増感型太陽電池は、下地層を備えない色素増感型太陽電池に比べ、短絡電流密度及び開放端電圧が増大することが分かった。
また、図8(b)より、下地層を備える色素増感型太陽電池は、下地層を備えない色素増感型太陽電池に比べ、電圧を一定としたときの暗電流が低減されることが分かった。すなわち、下地層を備える色素増感型太陽電池は、下地層を備えない色素増感型太陽電池に比べ、開放端電圧が増大していた。このことから、透明導電性基板から電解質へのリーク電流が抑制されていることが確認された。