従来、光電変換装置の一種である色素増感型太陽電池は、その製造に際して真空装置を必要としないことから、低コストで低環境負荷型の太陽電池であると考えられ、活発に研究開発が行われている。
この色素増感型太陽電池は、通常、導電性ガラス基板上に平均粒径20nm程度の酸化チタンの微粒子を450℃程度で焼結して得られる厚み10μm程度の多孔質酸化チタン層を設け、この多孔質酸化チタン層の酸化チタン粒子の表面に色素を単分子吸着させた光作用極層を形成した光作用極基板と、導電性ガラス基板上に白金やカーボンの対極層を形成した対極基板とを、多孔質酸化チタン層と対極層とを互いに対向させ、スペーサ兼封止材として枠状の熱可塑性樹脂シートを用い、ホットプレスにより両基板を貼り合わせ、これら基板間にヨウ素/ヨウ化物レドックス対を含む電解質溶液を注入して得られる。このようにして得られた太陽電池において、多孔質酸化物半導体層としての多孔質酸化チタン層に吸着した色素が照射された光エネルギーを吸収し、生成した電子は多孔質酸化物半導体層へ移動し、外部の負荷回路を経由して、対極層よりイオンとして電解質を移動し、色素に戻ることにより、電気エネルギーとして取り出される仕組みである(下記の非特許文献1参照)。
しかし、この色素増感型太陽電池は、通常、単層の多孔質酸化物半導体層を用いるために、光電変換に寄与する光吸収量が小さく光透過量が大きくなり、高い光電変換効率(以下、変換効率ともいう)が得られないという問題があった。そこで、多孔質酸化物半導体層の裏面に光反射粒子層を設けた特許文献1の構成、多孔質酸化物半導体層を複数層としそれぞれ異なる微粒子サイズから成るものとしたり、一部の多孔質酸化物半導体層中に大きめの光散乱粒子を混合して散乱層としても機能するようにした特許文献2,3の構成がある。
特許文献1には、ガラス基板の裏面に電極が設けられ、その電極の下面に色素を吸着した半導体微粒子を堆積させた光吸収粒子層が形成され、その光吸収粒子層を含んで電極の下面に電解液部が設けられ、その電解液部の下面に対向電極が設けられた色素増感太陽電池において、電極と光吸収粒子層との間に高屈折材料薄膜が設けられると共に、光吸収粒子層の下面に粒径を制御した高屈折材料粒子を堆積させた光反射粒子層が設けられた色素増感太陽電池が記載されている。この構成により、従来の構造では半導体微粒子から成る光吸収粒子層を透過していた光のエネルギーの多くを、この光吸収粒子層に吸収させて閉じ込めることができるため、色素増感太陽電池のセルの出力電流を増やすことが可能になる。
特許文献2には、透明導電体層と、微粒子を積層して形成されたn型酸化物半導体電極と、このn型酸化物半導体電極上に吸着された色素と、この色素と接する電荷輸送層と、この電荷輸送層と接する対向電極とを具備する光電変換素子において、透明導電体層近傍の微粒子の平均粒径に比べて、電荷輸送層側の微粒子の平均粒径が大きい光電変換素子が記載されている。また、透明導電体層近傍の微粒子の平均粒径が5〜50nmであり、且つ電荷輸送層近傍の微粒子の平均粒径が30〜500nmである。また、透明導電体層側では光を散乱させることなく入射させる必要があるため、n型酸化物半導体電極を成す微粒子の粒径はできる限り小さいことが望ましい。一方、電荷輸送層側においては、電荷担体であるイオン等が色素近傍まで容易に拡散できるように、ポーラス体であるn型酸化物半導体電極内部の気孔径はできる限り大きいことが望ましい。この構成により、錯体色素でより多くの光吸収をさせるとともに、電荷輸送層中の電荷担体の拡散を容易にし、結果としてエネルギー変換効率を高めることができる。
特許文献3の光電変換素子は、少なくとも色素の吸着した半導体微粒子膜の層と導電性支持体とを有する光電変換素子であって、半導体微粒子膜の層が光散乱性の異なる複数の層から成り、光の入射側に光散乱性の最も低い層が配される光電変換素子である。また、光散乱性の低い層は平均粒径5〜50nmの半導体微粒子から成り、光散乱性が高い層は少なくとも平均粒径100〜500nmの半導体微粒子を含有し、光散乱性が中程度の層は平均粒径100〜500nmの半導体微粒子と平均粒径5〜50nmの半導体微粒子の混合物を含有する。
この特許文献3においては、感光層が膜厚方向に対して均質な単層構成の場合よりも、光の入射側は光散乱性が低く光が進むに従い光散乱性が高くなるような多層構成の場合の方が光の捕獲率が高く、ひいては変換効率が高い。
また、感光層の光散乱性は、用いる半導体微粒子の種類や粒子径、空隙率、または空隙のサイズによって調節することができる。このうち半導体微粒子の粒子径で調節するのが好ましい。
さらに、感光層が低散乱層と高散乱層の2層構成の場合、高散乱層の構成成分は単一の半導体微粒子を用いるよりも、2種以上の微粒子を混合したほうが好ましい。詳しくは高散乱層は平均粒径5〜50nmの半導体微粒子と、平均粒径100〜500nmの半導体微粒子とを混合した場合が、特に好ましい。このとき、大きい方の半導体微粒子の含有率は10〜90重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。
さらに、低散乱層、中散乱層、高散乱層の3層構成の場合、中散乱層は単一の半導体微粒子を用いるよりも、2種以上の微粒子を混合したほうが好ましい。詳しくは中散乱層は、平均粒径5〜50nmの半導体微粒子と平均粒径100〜500nmの半導体微粒子とを混合した場合が、特に好ましい。このとき大きい方の半導体微粒子の含有率は5〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。
さらに、4層以上の場合では、低光散乱層側から高光散乱層に向かって光散乱率が上昇して行く組成が望ましい。高散乱層は、平均粒径100〜500nmの単一の半導体微粒子であっても、2種以上の半導体微粒子を混合したものであっても良い。高散乱層が、平均粒径5〜50nmの半導体微粒子と平均粒径100〜500nmの半導体微粒子との混合物から成る場合、その混合比率は、大きい方の半導体微粒子の含有率が30〜100重量%であるのが好ましく、50〜100重量%がより好ましい。また、大きい方の半導体粒子の含有率は中散乱層よりも大きい。
感光層に用いる増感色素は、光電変換の波長域をできるだけ広くし、かつ変換効率を上げるため、2種類以上の色素を併用または混合することができる。この場合、目的とする光源の波長域と強度分布に合わせるように、併用または混合する色素とその割合を選ぶことができる。そして、特許文献3には、従来よりも変換効率の改善された色素増感光電変換素子が得られたと記載されている。
色素増感型太陽電池は、通常、単一の色素を用いるために光電変換に作用する色素の光吸収波長領域が狭く、高い光電変換効率が得られないという問題があった。そこで、複数の多孔質酸化物半導体層に、複数の色素を担持させて、光吸収波長領域を広く、且つ光吸収量を多くした特許文献4,5,6に記載の構成がある。
特許文献4には、導電性基板上に複数の半導体層が積層して設けられ、導電性基板の対極を成すもう一方の導電性基板上に触媒が担持され、両導電性基板の間に電解質層が設けられ、半導体層ごとに異なる吸収波長を有する色素が担持され、入射光側に位置する半導体層の色素の吸収波長が、半導体層の後方の半導体層の色素の吸収波長より短波長になっていることにより、光スペクトルの吸収波長領域を拡大し、光電変換特性を向上させる色素増感型の太陽電池が記載されている。また、この太陽電池の製造方法は、酸化物半導体(酸化チタン)粒子に色素を吸着させ、乾燥させた後、アルコールに溶解したバインダーと混合しペースト化したものを使用して成膜、乾燥させる工程を繰り返すことにより、それぞれの色素を吸着させた酸化物半導体層を形成するものである。
特許文献5には、多孔性半導体層に吸着させて多孔性光電変換層を形成する色素として、吸収スペクトルにおける最大感度波長領域が異なる少なくとも2種類の色素を用いるので、従来の太陽電池と比較して、光吸収波長領域が広く、かつ光吸収量が多い高性能な色素増感型の太陽電池が記載されている。また、この太陽電池は、多孔性光電変換層が導電性支持体と平行な層形状である少なくとも3層以上の色素吸着領域からなり、上下層の色素吸着領域がそれぞれ異なる1種類の色素を吸着した領域であり、それらに挟持された色素吸着領域が上下層の色素を混合吸着した領域であるので、多孔性光電変換層の総膜厚を薄くすることができ、キャリア輸送における抵抗を低減することができる。
また、この色素増感型の太陽電池の製造方法は、単一工程で多孔性半導体層を形成するので、製造コストを削減でき、安価な太陽電池を提供することができるものである。さらに、a)導電性支持体上に多孔性半導体層を形成し、b)吸収スペクトルにおける最大感度波長領域が異なり、かつ多孔性半導体層への吸着速度の異なる少なくとも2種類の色素を別々に含む溶液を調製し、得られた溶液に多孔性半導体層を順次浸漬して、多孔性半導体層に色素を順次吸着させることにより多孔性光電変換層を形成するか、あるいはb’)吸収スペクトルにおける最大感度波長領域が異なり、かつ多孔性半導体層への吸着速度の異なる少なくとも2種類の色素を含む溶液を調製し、得られた溶液に多孔性半導体層を浸漬して、多孔性半導体層に少なくとも2種類の色素を同時に吸着させることにより多孔性光電変換層を形成し、c)導電性支持体の多孔性光電変換層と対極とを対向させ、それらの間に導電層を充填し、d)任意に封止材を用いて導電層を封止して、太陽電池を製造するものである。
特許文献6には、多孔性半導体層に吸着させて多孔性光電変換層を形成する色素として、吸収スペクトルにおける最大感度波長領域が異なる少なくとも2種類の色素を用いるので、従来の太陽電池と比較して、光吸収波長領域が広く、かつ光吸収量が多い高性能な色素増感型の太陽電池が記載されている。また、この太陽電池の製造方法においては、一部を他の化合物でコーティングした多孔性半導体層に色素を吸着させるので、多孔性半導体層に部分的に、かつ層状に色素を吸着させることができる。従って、別の色素の混入吸着が避けれられた、即ち単一色素が吸着した少なくとも1層の多孔性半導体層と、色素が混合吸着した多孔質半導体層との多層構造を有する太陽電池が得られるので、多孔性半導体層の総膜厚を薄くすることができ、キャリア輸送における抵抗を低減でき、高性能な太陽電池を作製できる。
特開平10−255863号公報
特開2001−93591号公報
特開2002−222968号公報
特開2000−243466号公報
特開2003−249274号公報
特開2003−249275号公報
(株)情報機構発行「色素増感太陽電池及び太陽電池の最前線と将来展望」P26−P27
従来の色素増感型太陽電池のように、単層の多孔質酸化物半導体層を用いたのでは光の利用効率が低く、高い変換効率が得られないという問題点があった。そこで、多孔質酸化物半導体層の裏面に光反射粒子層を設けた特許文献1の構成や、多孔質酸化物半導体層を複数層としそれぞれ異なる微粒子サイズから成るものとしたり、一部の多孔質酸化物半導体層に大きめの光散乱粒子を混合して散乱層としても機能させた特許文献2,3の構成があったが、下記のような問題点がそれぞれあった。
特許文献1の太陽電池は以下のような問題点があった。光反射粒子層は、粒径が約200〜500nmの例えば酸化チタン(ルチル)からなる高屈折材料粒子により構成され、この光反射粒子層の厚さは約5〜10μmが好ましいとしているが、このように大きな粒径の粒子を500℃程度で焼結させることは困難であり、膜形成ができず、また導電パスの抵抗が大きくて色素からの電流を効率よく取り出すことができない。また、焼結させるために温度を上げると、電極や透明導電層の電気抵抗が上がって、変換効率の低下を引き起こす。また、光反射粒子層の粒径が光吸収粒子層の粒径よりも1桁大きいので、粒子の表面積は100分の1となり、そのため吸着色素量が極めて少なく、ほとんど変換効率の向上に寄与しない。また、高屈折材料粒子からなる光反射粒子層の薄膜を設けることは、製造において工程が煩雑となり、またコストも上がる。
特許文献2の光電変換装置は以下のような問題点があった。透明導電体層近傍の微粒子の平均粒径が5〜50nmであり、且つ電荷輸送層近傍の微粒子の平均粒径が30〜500nmでより大きいとしているが、このように大きな粒径の粒子を500℃程度で焼結させることは困難であり、膜形成ができず、また導電パスの抵抗が大きくて色素からの電流を効率よく取り出すことができない。また、焼結させるために温度を上げると、電極や透明導電体層の電気抵抗が上がって、変換効率の低下を引き起こす。また、小さな粒径の微粒子に大きな粒径の微粒子を混合した場合、分散が難しくなってペーストの調製が良好にできず、成膜のための塗布が困難になる。また、光反射粒子層の粒径が光吸収粒子層の粒径よりも1桁大きいので、粒子の表面積は100分の1となり、吸着色素量が極めて少なく、ほとんど変換効率の向上に寄与しない。また、色素が1種では広い吸収波長域の光を光電変換することができない。
特許文献3の光電変換素子では、感光層の光散乱性は、用いる半導体微粒子の種類や粒子径、空隙率または空隙のサイズによって調節することができ、このうち半導体微粒子の粒子径で調節するのが好ましいとしているが、以下のような問題点があった。即ち、平均粒径100〜500nmの半導体微粒子のように大きな粒径の粒子をペーストとして調製することは、分散性が低下して粒子が凝集しやすくなり、ペースト調製は困難であった。
また、平均粒径100〜500nmの半導体微粒子のように大きな粒径の粒子を500℃程度で焼結させることは困難であり、膜形成ができず、導電パスの抵抗が大きくて色素からの電流を効率よく取り出すことができない。また、焼結させるために温度を上げると、電極や透明導電層の電気抵抗が上がって、変換効率の低下を引き起こす。また、高光散乱層の粒径が低光散乱層の粒径よりも最大1桁大きいので、粒子の表面積は100分の1となり、吸着色素量が極めて少なく、ほとんど変換効率の向上に寄与しない。これらの問題点は、平均粒径5〜50nmの半導体微粒子と平均粒径100〜500nmの半導体微粒子とを混合することで少しは軽減されるが、これらの問題点は完全には解消されない。
単一の多孔質酸化物半導体層に2色以上の色素を担持させて、光吸収波長領域を広く、且つ光吸収量を多くした構成が特許文献4,5,6に記載されているが、それらは下記の問題点がそれぞれあった。
特許文献4の太陽電池においては、複数の半導体層は吸着色素が異なっても同じ種類(性状)の酸化物半導体層であるため、光吸収係数が小さい長波長領域の入射光は半導体層を透過してしまい、太陽光の長波長領域の光に対する光電流が充分に得られなかった。また、この太陽電池の製造方法では、酸化物半導体層の積層毎に色素を吸着させるため、次の酸化物半導体層の積層工程に焼結工程を行えないので、この酸化物半導体粒子間の導電パスに大きな抵抗を生じ、それぞれの色素が光を吸収しても、有効に光電流を取り出すことができなかった。
特許文献5の太陽電池においては、複数の半導体層は吸着色素が異なっても同じ種類の酸化物半導体層であり、光吸収係数が小さい長波長領域の入射光はこれらの半導体層で散乱(光閉じ込め)されずに半導体層を透過してしまい、太陽光の長波長領域の光に対する光電流が充分に得られなかった。
また、特許文献5の太陽電池の製造方法においては、単一工程で多孔性半導体層を形成しているので、全く同じ性状の多孔性半導体層が形成されており、この層中に異なった色素を分離して吸着させることは、上記bの順次浸漬法にしてもb’の同時浸漬法にしても困難であった。即ち、bの製造方法では、吸着速度の異なる2種類の色素溶液に順次浸漬して、多孔性半導体層に色素を順次吸着させるが、色素の光吸収波長域の選択と吸着速度の選択とを両立させることは制限があるため色素の選択が困難であり、順次浸漬でも色素の分離吸着は困難であった。また、b’の製造方法では、吸着速度の異なる2種類の色素溶液に同時浸漬して、多孔性半導体層に色素を分離吸着させるが、色素の光吸収波長域の選択と吸着速度の選択とを両立させることは制限があるため色素の選択が困難であり、同時浸漬では色素の分離吸着はより困難であった。
特許文献6の太陽電池においては、特許文献5と同様の問題の他に、この太陽電池の製造方法では、色素の分離吸着を容易にすることが出来るように皮膜層を有する半導体粒子からなる多孔性半導体層を特徴としているが、この皮膜層を多孔性半導体層に形成する工程と除去する工程が余分に必要となり、工程数が増えてコスト高になるという問題があった。
従って、本発明は上記従来の技術における問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は以下のことである。
(1)光出射側の多孔質酸化物半導体層に光散乱性を付与するに際して、光入射側の多孔質酸化物半導体層の半導体微粒子より平均粒径が大きい散乱粒子を用いることなく、光入射側の多孔質酸化物半導体層の半導体微粒子と同じ平均粒径の半導体微粒子を光出射側の多孔質酸化物半導体層にも用いることにより、上述した様々な問題点を解消すること。
(2)平均粒径が小さい半導体微粒子を光出射側の多孔質酸化物半導体層に用いても、光出射側の多孔質酸化物半導体層に光散乱性を付与できるようにすること。
(3)焼成温度が光入射側の多孔質酸化物半導体層と光出射側の多孔質酸化物半導体層とで同じ低い温度で確実に焼成できること。
(4)光出射側の多孔質酸化物半導体層の生産性と信頼性を高め、且つその導電パスを確実にし、変換効率を高めること。
(5)光出射側の多孔質酸化物半導体層を形成しても、電極や透明導電層の電気抵抗が上がらないようにすること。
(6)光出射側の多孔質酸化物半導体層を充分な多孔性を有する多孔質体として、大きな表面積を有するものとすることにより、色素の吸着量を増やし、より長波長側の光を変換効率に寄与させること。
(7)光透過性の高い光入射側の多孔質酸化物半導体層の膜厚を厚くして、色素の吸着量を増やして変換効率を高め、光反射性の高い光出射側の多孔質酸化物半導体層の膜厚を薄くして、多孔質酸化物半導体層の電気抵抗の増加を抑制すること。
(8)平均粒径が小さい半導体微粒子を光出射側の多孔質酸化物半導体層に用いても、光出射側の多孔質酸化物半導体層に光散乱性を付与できる多孔質酸化物半導体層の製造方法を提供すること。
(9)複数層の多孔質酸化物半導体層を用いて入射光の波長領域に応じて異なる光散乱性を持たせて、多孔質酸化物半導体層の光散乱量(光閉じ込め量)を増すだけでなく、光吸収波長領域が異なる複数種の色素をこれらの多孔質酸化物半導体層に混合もしくは分離して吸着させて光吸収波長領域を拡げ、そしてこれらの相乗効果により、光吸収波長領域を広くし、且つ光吸収量を多くして、光電変換効率を高めること。
(10)複数層の多孔質酸化物半導体層の性質を異なる性質とすることにより、色素の吸着速度を異なるようにして、多孔質酸化物半導体層への色素の分離吸着を可能とし、色素の性質(吸着速度)だけでなく多孔質酸化物半導体層の性質を利用して、光入射側と光出射側の多孔質酸化物半導体層に所望の光吸収領域を有する色素を容易に分離吸着させ、光吸収波長領域を拡げ、光電流を増して光電変換効率を高めた光電変換装置が得られる製造方法を提供すること。
本発明の光電変換装置は、導電性基板上に色素を担持した多孔質酸化物半導体層及び電解質層が形成された色素増感型の光電変換装置において、前記多孔質酸化物半導体層は、色素を担持した複数層が積層されて成るとともに、光入射側の前記多孔質酸化物半導体層に担持された前記色素と光出射側の前記多孔質酸化物半導体層に担持された前記色素とが異なっており、光入射側の前記多孔質酸化物半導体層の表面または破断面の表面の算術平均粗さが光出射側の前記多孔質酸化物半導体層の表面または破断面の表面の算術平均粗さよりも小さく、光入射側の前記多孔質酸化物半導体層の厚みが光出射側の前記多孔質酸化物半導体層の厚みよりも厚いことを特徴とする。
本発明の光電変換装置は好ましくは、複数層が積層されて成る前記多孔質酸化物半導体層は酸化物半導体微粒子の焼結体から成り、光出射側の前記多孔質酸化物半導体層を成す前記酸化物半導体微粒子の焼結粒子の平均粒径が、光入射側の前記多孔質酸化物半導体層を成す前記酸化物半導体微粒子の焼結粒子の平均粒径よりも大きく、光出射側の前記多孔質酸化物半導体層に担持された色素の長波長領域での光吸収強度が、光入射側の多孔質酸化物半導体層に担持された色素の長波長領域での光吸収強度より大きいことを特徴とする。
本発明の光電変換装置の製造方法は、導電性基板上に、複数層が積層されて成るとともに複数種の色素を担持した、酸化物半導体微粒子の焼結体から成る多孔質酸化物半導体層、及び電解質層が形成された色素増感型の光電変換装置の製造方法において、複数層が積層されて成る前記多孔質酸化物半導体層の各層を構成する酸化物半導体微粒子の焼結前の一次粒子の平均粒径が同じであり、光入射側の前記多孔質酸化物半導体層を、分散相が前記酸化物半導体微粒子の一次粒子であり分散媒が液体から成るコロイド状の液体ペーストを塗布し焼成して形成し、光出射側の前記多孔質酸化物半導体層を、前記液体ペーストに分散媒として気体を付加したエアロゾルをスプレー塗布し焼成して形成することを特徴とする。
また、本発明の光電変換装置の製造方法は、導電性基板上に、複数層が積層されて成るとともに複数種の色素を担持した、酸化物半導体微粒子の焼結体から成る多孔質酸化物半導体層、及び電解質層が形成された色素増感型の光電変換装置の製造方法において、複数層が積層されて成る前記多孔質酸化物半導体層の各層を構成する酸化物半導体微粒子の焼結前の一次粒子の平均粒径が同じであり、光入射側の前記多孔質酸化物半導体層を、分散相が前記酸化物半導体微粒子の一次粒子であり分散媒が液体から成るコロイド状の液体ペーストを塗布し焼成して形成し、光出射側の前記多孔質酸化物半導体層を、前記液体ペーストに分散相として有機樹脂の微粒子を付加した液体ペーストを塗布し焼成して形成することを特徴とする。
また、本発明の光電変換装置の製造方法は、導電性基板上に、複数層が積層されて成るとともに複数種の色素を担持した、酸化物半導体微粒子の焼結体から成る多孔質酸化物半導体層、及び電解質層が形成された色素増感型の光電変換装置の製造方法において、複数層が積層されて成る前記多孔質酸化物半導体層の各層を構成する酸化物半導体微粒子の焼結前の一次粒子の平均粒径が同じであり、光入射側の前記多孔質酸化物半導体層を、分散相が前記酸化物半導体微粒子の一次粒子であり分散媒が液体から成るコロイド状の液体ペーストを塗布し焼成して形成し、光出射側の前記多孔質酸化物半導体層を、前記液体ペーストに分散相として有機樹脂の微粒子を付加するとともに分散媒として気体を付加したエアロゾルをスプレー塗布し焼成して形成することを特徴とする。
また、本発明の光電変換装置の製造方法は好ましくは、光入射側の前記多孔質酸化物半導体層を形成し、次に光出射側の前記多孔質酸化物半導体層を形成した後、浸漬法によって光出射側の前記多孔質酸化物半導体層に長波長感光色素を担持させ、次に浸漬法によって光入射側の前記多孔質酸化物半導体層に長波長領域での光吸収強度が前記長波長感光色素よりも小さい短波長感光色素を担持させることを特徴とする。
本発明の光発電装置は、上記本発明の光電変換装置を発電手段として用い、該発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成したことを特徴とする。
本発明の光電変換装置は、導電性基板上に色素を担持した多孔質酸化物半導体層及び電解質層が形成された色素増感型の光電変換装置において、多孔質酸化物半導体層は、複数種の色素を担持した複数層が積層されて成るとともに、光入射側の多孔質酸化物半導体層の表面または破断面の表面の算術平均粗さが光出射側の多孔質酸化物半導体層の表面または破断面の表面の算術平均粗さよりも小さく、光入射側の多孔質酸化物半導体層の厚みが光出射側の多孔質酸化物半導体層の厚みよりも厚いことから、光入射側の多孔質酸化物半導体層は、短波長光(400〜600nm)をよく散乱して閉じ込めるが長波長光(600〜900nm)をよく透過させるものであり、長波長光が透過しやすいため厚く形成できる。よって、光入射側の多孔質酸化物半導体層が担持した色素によって、よく短波長域の光を吸収するとともに、算術平均粗さが小さいため表面積が大きくなり、色素の担持量が多くなるので、色素からの光電流を増やすことができる。
光出射側の多孔質酸化物半導体層は、その内部で長波長光を散乱して閉じ込めるものであり、薄く形成できるので導電パスの抵抗を小さくできる。よって、光出射側の多孔質酸化物半導体層に担持された色素によって長波長域の光をよく吸収して、色素からの光電流を増やすとともに、色素からの電流を低い抵抗で効率よく取り出すことができる。
また、多孔質酸化物半導体層は複数種の色素を担持した複数層が積層されて成ることから、多孔質酸化物半導体層における光電流の発生をより増大させることができる。即ち、短波長光をよく散乱して閉じ込める光入射側の多孔質酸化物半導体層に、短波長感光色素を含有させることにより、光入射側の多孔質酸化物半導体層における光電流の発生をより増大させることができる。また、長波長光をよく散乱して閉じ込める光出射側の多孔質酸化物半導体層に、長波長感光色素を含有させることにより、光出射側の多孔質酸化物半導体層における光電流の発生をより増大させることができる。
なお、光入射側及び光出射側の多孔質酸化物半導体層にそれぞれ、複数種の色素を含有させることもできる。例えば、光入射側の多孔質酸化物半導体層に、短波長感光色素及び長波長感光色素を含有させるとともに、短波長感光色素を長波長感光色素よりも多く含有させることもできる。また、光出射側の多孔質酸化物半導体層に、短波長感光色素及び長波長感光色素を含有させるとともに、長波長感光色素を短波長感光色素よりも多く含有させることもできる。また、これらの場合に、複数層が積層されて成る多孔質酸化物半導体層は、1種のみの色素を含有する多孔質酸化物半導体層が含まれていてもよい。
また好ましくは、光入射側及び光出射側の多孔質酸化物半導体層の中間に、さらに多孔質酸化物半導体層を設け、この中間の多孔質酸化物半導体層の表面または破断面の表面の算術平均粗さを中間の大きさとすることにより、短波長域の光と長波長域の光との中間波長域の光(550〜650nm)を散乱して閉じ込めることができ、中間の多孔質酸化物半導体層に担持された色素によって中間波長域の光をよく吸収して、色素からの光電流を増やすことができる。即ち、中間の多孔質酸化物半導体層に、中間波長感光色素を含有させることにより、中間の多孔質酸化物半導体層における光電流の発生をより増大させることができる。
また、導電性基板上に複数種の色素を担持した複数の多孔質酸化物半導体層を形成するために、複数種の色素溶液に浸漬して光電変換装置を製造する場合、光入射側の多孔質酸化物半導体層よりも色素溶液側にある光出射側の多孔質酸化物半導体層の方が、表面または破断面の表面の算術平均粗さが大きいので、光出射側の多孔質酸化物半導体層に速やかに色素が浸透し、全体的に色素の光出射側及び光入射側の多孔質酸化物半導体層への浸透速度が早くなり、光入射側の多孔質酸化物半導体層まで確実に色素を吸着(着色)できる。
本発明の光電変換装置は好ましくは、複数層が積層されて成る多孔質酸化物半導体層は酸化物半導体微粒子の焼結体から成り、光出射側の多孔質酸化物半導体層を成す酸化物半導体微粒子の焼結粒子の平均粒径が、光入射側の多孔質酸化物半導体層を成す酸化物半導体微粒子の焼結粒子の平均粒径よりも大きく、光出射側の多孔質酸化物半導体層に担持された色素の長波長領域での光吸収強度が、光入射側の多孔質酸化物半導体層に担持された色素の長波長領域での光吸収強度より大きいことから、光入射側の多孔質酸化物半導体層は、短波長光をよく散乱して閉じ込めるが長波長光をよく透過させるものであり、長波長光が透過しやすいため厚く形成できる。また、光入射側の多孔質酸化物半導体層は、短波長光をよく散乱して閉じ込めるだけでなく、光入射側の多孔質酸化物半導体層が担持した色素(短波長感光色素)の短波長領域での光吸収強度が、光出射側の多孔質酸化物半導体層が担持した色素(長波長感光色素)の短波長領域での光吸収強度より大きいことによって、光入射側の多孔質酸化物半導体層がさらによく短波長光を吸収する。その結果、光入射側の多孔質酸化物半導体層において発生する光電流がさらに増大することとなる。また、光入射側の多孔質酸化物半導体層は、算術平均粗さが小さいため表面積が大きくなり、色素の担持量が多くなるので、色素からの光電流を増やすことができる。
また、光出射側の多孔質酸化物半導体層は、長波長光をよく散乱して閉じ込めるだけでなく、光出射側の多孔質酸化物半導体層が担持した色素(長波長感光色素)の長波長領域での光吸収強度が、光入射側の多孔質酸化物半導体層が担持した色素(短波長感光色素)の長波長領域での光吸収強度より大きいことによって、光出射側の多孔質酸化物半導体層がさらによく長波長光を吸収する。その結果、光出射側の多孔質酸化物半導体層において発生する光電流がさらに増大することとなる。
また、光入射側及び光出射側の多孔質酸化物半導体層の中間に、中間波長光を閉じ込める中間の多孔質酸化物半導体層を設け、この中間の多孔質酸化物半導体層に光吸収波長領域での光吸収強度が、光入射側及び光出射側の多孔質酸化物半導体層の各色素の光吸収波長領域での光吸収強度の中間にある色素(中間波長感光色素)を担持させることにより、色素からの光電流を増やすことができる。
上記の通り、本発明は、夫々の性状の多孔質酸化物半導体層に合った色素を担持させることで、夫々の色素からの光電流を増やし、これらを合わせることで光電変換効率を高める効果がある。
本発明の光電変換装置の製造方法は、導電性基板上に、複数層が積層されて成るとともに複数種の色素を担持した、酸化物半導体微粒子の焼結体から成る多孔質酸化物半導体層、及び電解質層が形成された色素増感型の光電変換装置の製造方法において、複数層が積層されて成る多孔質酸化物半導体層の各層を構成する酸化物半導体微粒子の焼結前の一次粒子の平均粒径が同じであり、光入射側の多孔質酸化物半導体層を、分散相が酸化物半導体微粒子の一次粒子であり分散媒が液体から成るコロイド状の液体ペーストを塗布し焼成して形成し、光出射側の多孔質酸化物半導体層を、液体ペーストに分散媒として気体を付加したエアロゾルをスプレー塗布し焼成して形成することにより、光出射側の多孔質酸化物半導体層を成す酸化物半導体微粒子の焼結粒子の平均粒径を、光入射側の多孔質酸化物半導体層を成す酸化物半導体微粒子の焼結粒子の平均粒径よりも大きくすることができるので、上記の優れた効果を有する光電変換装置を得ることができる。
また、光入射側及び光出射側の多孔質酸化物半導体層は、同じ粒径の酸化物半導体微粒子(一次粒子)を用いているので、焼結温度が低くてすみ、焼結温度が高いことによる電極や透明導電層の抵抗増加が無く、また製造工程が簡略となり製品の信頼性も高くなる。
また、光出射側の多孔質酸化物半導体層の焼結粒子(二次粒子)が、一次粒子の凝集体が焼成されて成るので、多孔質体の空孔が大きくなり、色素の担持量が増えて光電流が増大した光電変換装置を作製することができる。
また、本発明の光電変換装置の製造方法は、導電性基板上に、複数層が積層されて成るとともに複数種の色素を担持した、酸化物半導体微粒子の焼結体から成る多孔質酸化物半導体層、及び電解質層が形成された色素増感型の光電変換装置の製造方法において、複数層が積層されて成る多孔質酸化物半導体層の各層を構成する酸化物半導体微粒子の焼結前の一次粒子の平均粒径が同じであり、光入射側の多孔質酸化物半導体層を、分散相が酸化物半導体微粒子の一次粒子であり分散媒が液体から成るコロイド状の液体ペーストを塗布し焼成して形成し、光出射側の多孔質酸化物半導体層を、液体ペーストに分散相として有機樹脂の微粒子を付加した液体ペーストを塗布し焼成して形成することにより、光出射側の多孔質酸化物半導体層を成す酸化物半導体微粒子の焼結粒子の平均粒径を、光入射側の多孔質酸化物半導体層を成す酸化物半導体微粒子の焼結粒子の平均粒径よりも大きくすることができるので、上記の優れた効果を有する光電変換装置を得ることができる。
また、本発明の光電変換装置の製造方法は、導電性基板上に、複数層が積層されて成るとともに複数種の色素を担持した、酸化物半導体微粒子の焼結体から成る多孔質酸化物半導体層、及び電解質層が形成された色素増感型の光電変換装置の製造方法において、複数層が積層されて成る多孔質酸化物半導体層の各層を構成する酸化物半導体微粒子の焼結前の一次粒子の平均粒径が同じであり、光入射側の多孔質酸化物半導体層を、分散相が酸化物半導体微粒子の一次粒子であり分散媒が液体から成るコロイド状の液体ペーストを塗布し焼成して形成し、光出射側の多孔質酸化物半導体層を、液体ペーストに分散相として有機樹脂の微粒子を付加するとともに分散媒として気体を付加したエアロゾルをスプレー塗布し焼成して形成することにより、光出射側の多孔質酸化物半導体層を成す酸化物半導体微粒子の焼結粒子の平均粒径を、光入射側の多孔質酸化物半導体層を成す酸化物半導体微粒子の焼結粒子の平均粒径よりも大きくすることができるので、上記の優れた効果を有する光電変換装置を得ることができる。
また、本発明の光電変換装置の製造方法は好ましくは、導電性基板上に、光入射側の多孔質酸化物半導体層を形成し、次に光出射側の多孔質酸化物半導体層を形成した後、浸漬法によって光出射側の多孔質酸化物半導体層に長波長感光色素を担持させ、次に浸漬法によって光入射側の多孔質酸化物半導体層に光吸収波長領域での光吸収強度が長波長感光色素よりも短波長側にある短波長感光色素を担持させることから、以下の効果を奏する。
即ち、光出射側の多孔質酸化物半導体層は光入射側の多孔質酸化物半導体層より多孔質体が粗い(空孔が大きい)ので長波長感光色素を容易に吸着でき、また、光入射側の多孔質酸化物半導体層は光出射側の多孔質酸化物半導体層より多孔質体が密である(空孔が小さい)ため色素が吸着されにくいが、すでに光出射側の多孔質酸化物半導体層には長波長感光色素が吸着しているので、光出射側の多孔質酸化物半導体層には短波長感光色素が吸着することが無く、しかも光出射側の多孔質酸化物半導体層は多孔質体が粗いので容易に光入射側の多孔質酸化物半導体層に短波長感光色素が浸透していき、短波長感光色素を光入射側の多孔質酸化物半導体層に容易に吸着できる。よって、異なる色素をそれぞれ異なる多孔質酸化物半導体層に分離して吸着させることができ、光の吸収波長領域が拡がって、色素からの光電流を増やすことができる。
本発明の光発電装置は、上記本発明の光電変換装置を発電手段として用い、発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成したことにより、上記本発明の光電変換装置の作用効果である、光入射側の色素を担持した多孔質酸化物半導体層は、短波長光をよく散乱し閉じ込めるとともに短波長感光色素によく吸収し、光出射側の色素を担持した多孔質酸化物半導体層は、長波長光をよく散乱し閉じ込めるとともに光を長波長感光色素によく吸収し、従って光電流を増やして変換効率を高めることができるという作用効果を利用した、高変換効率を有する高信頼性の光発電装置となる。
本発明の光電変換装置、その製造方法及び光発電装置についての実施の形態を、図1及び図2に基づき以下に詳細に説明する。なお、各図において、同一部材には同一符号を付している。
本発明の光電変換装置の断面図を図1に示す。図1の光電変換装置1は、多孔質酸化物半導体層が2層から成るもので、導電性基板2上に形成された、複数種の色素(図示せず)を吸着した多孔質酸化物半導体層3,4、電解質層7、対極8及び封止部9を具備した構成である。
より好ましい本発明の図1の光電変換装置1は、2層の多孔質酸化物半導体層3,4及び2色の色素から成るもので、導電性基板2上に形成された、第1の色素を吸着した第1の多孔質酸化物半導体層3、第2の色素を吸着した第2の多孔質酸化物半導体層4、電解質層7、対極8及び封止部9を具備し、複数種の色素を分離して複数の多孔質酸化物半導体層にそれぞれ吸着させた構成である。
ここで、複数種の色素の分離は完全でなくともよく、概略分離していても上記効果をそれぞれ概略分離した色素によって奏することができる。たとえ1層の多孔質酸化物半導体層において複数の色素が混合吸着していても、各多孔質酸化物半導体層において光閉じ込め効果を複数種の色素によって作用させることもできる。
即ち、本発明の光電変換装置1は、導電性基板2上に第1の色素を担持した多孔質酸化物半導体層3、第2の色素を担持した多孔質酸化物半導体層4及び電解質層7が形成された色素増感型の光電変換装置1において、多孔質酸化物半導体層3,4は、複数層が積層されて成るとともに、光入射側の多孔質酸化物半導体層3の表面または破断面の表面の算術平均粗さが光出射側の多孔質酸化物半導体層4の表面または破断面の表面の算術平均粗さよりも小さく、光入射側の多孔質酸化物半導体層3の厚みが光出射側の多孔質酸化物半導体層4の厚みよりも厚い構成である。
また、好ましくは、光出射側の多孔質酸化物半導体層4に担持された第2の色素の光吸収波長領域での光吸収強度が、光入射側の多孔質酸化物半導体層3に担持された第1の色素の光吸収波長領域での光吸収強度よりも大きい構成である。
本発明において、多孔質酸化物半導体層3,4の算術平均粗さについて、その表面(層の上面及び下面)、またはその破断面の算術平均粗さを、光入射側と光出射側とで大小関係を規定しているが、少なくとも多孔質酸化物半導体層3,4の表面の算術平均粗さが上記の大小関係になっていてもよい。即ち、光入射側の多孔質酸化物半導体層3の表面の算術平均粗さが、光出射側の多孔質酸化物半導体層4の表面の算術平均粗さよりも小さくなっていれば、当然に、光入射側の多孔質酸化物半導体層3の焼結表面に対応する破断面の表面の算術平均粗さが、光出射側の多孔質酸化物半導体層4の焼結表面に対応する破断面の表面の算術平均粗さよりも小さくなっていると考えられるからである。
また、多孔質酸化物半導体層3,4の表面または破断面の表面の算術平均粗さは、露出した表面である多孔質酸化物半導体層4の上面等を測定する場合、サーフテスト装置(触針式表面粗さ測定装置)、原子間力顕微鏡(AFM)等で測定することができる。また、多孔質酸化物半導体層3,4の破断面の表面を測定する場合、原子間力顕微鏡で測定することが好ましい。その理由は、多孔質酸化物半導体層3の膜厚は3〜25μm、より好適には6〜18μmであり、破断面の幅(膜厚)が狭く、数μmの範囲で測定可能な手段としては原子間力顕微鏡(AFM)が優れているからである。
図1の光電変換装置1の製造方法は、導電性基板2上に、多孔質酸化物半導体層3を塗布形成して焼成し、次に多孔質酸化物半導体層4を塗布形成して焼成し、次に色素溶液に導電性基板2を浸漬して多孔質酸化物半導体層に複数種の色素を吸着させ、次に対極8と導電性基板2の外周部を封止部9にて封止し、次に対極8と導電性基板2との間に電解質層7を注入して完成する。
即ち、本発明の光電変換装置1の製造方法は、導電性基板2上に、複数層が積層されて成るとともに複数種の色素を担持した、酸化物半導体微粒子の焼結体から成る多孔質酸化物半導体層3,4、及び電解質層7が形成された色素増感型の光電変換装置1の製造方法において、複数層が積層されて成る多孔質酸化物半導体層3,4の各層を構成する酸化物半導体微粒子の焼結前の一次粒子の平均粒径が同じであり、光入射側の多孔質酸化物半導体層3を、分散相が酸化物半導体微粒子の一次粒子であり分散媒が液体から成るコロイド状の液体ペーストを塗布し焼成して形成し、光出射側の多孔質酸化物半導体層4を、液体ペーストに分散媒として気体を付加したエアロゾルをスプレー塗布し焼成して形成する構成である。
また、本発明の光電変換装置の製造方法は、複数層が積層されて成る多孔質酸化物半導体層3,4の各層を構成する酸化物半導体微粒子の焼結前の一次粒子の平均粒径が同じであり、光入射側の多孔質酸化物半導体層3を、分散相が酸化物半導体微粒子の一次粒子であり分散媒が液体から成るコロイド状の液体ペーストを塗布し焼成して形成し、光出射側の多孔質酸化物半導体層4を、液体ペーストに分散相として有機樹脂の微粒子を付加した液体ペーストを塗布し焼成して形成する構成である。
また、本発明の光電変換装置の製造方法は、複数層が積層されて成る多孔質酸化物半導体層3,4の各層を構成する酸化物半導体微粒子の焼結前の一次粒子の平均粒径が同じであり、光入射側の多孔質酸化物半導体層3を、分散相が酸化物半導体微粒子の一次粒子であり分散媒が液体から成るコロイド状の液体ペーストを塗布し焼成して形成し、光出射側の多孔質酸化物半導体層4を、液体ペーストに分散相として有機樹脂の微粒子を付加するとともに分散媒として気体を付加したエアロゾルをスプレー塗布し焼成して形成する構成である。
ここで、第1の多孔質酸化物半導体層3の焼成を低温での仮焼成(乾燥)とし、次に第2の多孔質酸化物半導体層4を塗布形成してから、まとめて焼成してもよい。
また、本発明の光電変換装置の製造方法は好ましくは、光入射側の多孔質酸化物半導体層3を形成し、次に光出射側の多孔質酸化物半導体層4を形成した後、浸漬法によって光出射側の多孔質酸化物半導体層4に長波長感光色素を担持させ、次に浸漬法によって光入射側の多孔質酸化物半導体層3に光吸収波長領域での光吸収強度が長波長感光色素よりも短波長側で大きい短波長感光色素を担持させる構成である。
本発明の光電変換装置について実施の形態の他例の断面図を図2に示す。図2の光電変換装置1は、多孔質酸化物半導体層が3層から成るもので、導電性基板2上に形成された、複数種の色素(図示せず)を吸着した、第1の多孔質酸化物半導体層3、第2の多孔質酸化物半導体層4及び第3の多孔質酸化物半導体層5、電解質層7、対極8及び封止部9を具備した構成である。
即ち、本発明の図2の光電変換装置1は、多孔質酸化物半導体層が3層と色素が3色から成るもので、導電性基板2上に形成された、第1の色素を吸着した第1の多孔質酸化物半導体層3、第2の色素を吸着した第2の多孔質酸化物半導体層4、第3の色素を吸着した第3の多孔質酸化物半導体層5、電解質層7、対極8及び封止部9を具備し、複数種の色素を分離して各多孔質酸化物半導体層3〜5にそれぞれ担持させた構成である。
図2の光電変換装置1の製造方法は、導電性基板2上に、第1の多孔質酸化物半導体層3を塗布形成して焼成し、次に第3の多孔質酸化物半導体層5を塗布形成して焼成し、次に第2の多孔質酸化物半導体層4を塗布形成して焼成し、次に第2の色素溶液に導電性基板2を浸漬して第2の多孔質酸化物半導体層4に第2の色素を吸着させ、次に第3の色素溶液に導電性基板2を浸漬して第3の多孔質酸化物半導体層5に第3の色素を吸着させ、次に第1の色素溶液に導電性基板2を浸漬して第1の多孔質酸化物半導体層3に第1の色素を吸着させ、次に対極8と導電性基板2の外周部を封止部9にて封止し、次に対極8と導電性基板2との間に電解質層7を注入して完成する。
この場合、色素は光吸収波長領域が重なった分布を成すので、第3の色素が第2の色素を兼ねる等して、3色素担持を2色素担持に簡素化してもよく、2色素以上であればよい性能が得られる。
次に、上述した光電変換装置1を構成する各要素について詳細に説明する。
<導電性基板>
導電性基板2としては、透光性を有する基板2a上に透明導電層2bを設けたものがよい。この基板2aの材料としては、白板ガラス,ソーダガラス,硼珪酸ガラス等のガラス、セラミックス等の無機材料等が焼成温度に耐えられてよい。この基板2aの厚みは、機械的強度の点で0.05〜8mm、好ましくは0.2〜4mmがよい。
透明導電層2bとしては、弗素や金属をドープした金属酸化物の透明導電層が用いられる。例えば、不純物(F,Sb等)ドープの酸化スズ膜(SnO2膜)、不純物(Ga,Al等)ドープの酸化亜鉛膜(ZnO膜)、スズドープ酸化インジウム膜(ITO膜)や不純物ドープの酸化インジウム膜(In2O3膜)、ニオブドープの酸化チタン膜等でもよい。
この中では、熱CVD法やスプレー熱分解法で形成したフッ素ドープの二酸化スズ膜(SnO2:F膜)が、耐熱性を有し安価な材料コストを有して最もよい。透明導電層2bの成膜法としては、熱CVD法、スプレー熱分解法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、ディップコート法、溶液成長法、ゾルゲル法等がある。
透明導電層2bの厚みは0.001〜10μm、好ましくは0.05〜2.0μmがよい。
また、透明導電層2bは、真空蒸着法やスパッタリング法等で形成したAu,Pd,Al等の極薄い金属膜でもよい。また、これらの金属膜を種々の組合せで積層して用いてもよい。例えば、透明導電層2bとして、Ti層,ITO層,Ti層を順次積層したものでもよく、密着性と耐食性を高めた積層膜となる。
また、導電性基板2の基板2aとしては、逆方向(図1では上側)から光を入射させる場合、非透光性でもよく、チタン,ステンレススチール,ニッケル等からなる薄い金属シート、またはカーボン等からなる薄いシート、または絶縁基板等の表面に電解質層7の電解質による腐食防止のためにチタン層,ステンレススチール層,導電性の金属酸化物層等を被覆したものでもよい。
本発明では多孔質酸化物半導体層3,4,5を焼成(400℃〜550℃)することから、耐熱性の低い樹脂基板等に直接多孔質酸化物半導体層3,4,5を形成することができない。このような場合、まず耐熱性の支持基板(アルミニウム等の金属シート)上に多孔質酸化物半導体層3,4,5を形成し焼成した後、透明導電層2bを形成もしくは透明導電層2bを被膜した樹脂から成る基板2a上に多孔質酸化物半導体膜3,4,5を転写して接着し、次に支持基板を剥がすとよい。
樹脂から成る基板2aの材料としては、ポリカーボネート(PC),アクリル樹脂,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリイミド等の材料がよい。このような転写型の製造法であれば、低コストの基板2aが利用できる上に、基板2aに可撓性(フレキシブル性)も付与できるので用途が拡がる。樹脂からなる基板2aも考慮すると、導電性基板2の厚みは、機械的強度の点で0.005〜5mm、好ましくは0.01〜2mmがよい。
<多孔質酸化物半導体層>
多孔質酸化物半導体層3,4,5としては、二酸化チタン等からなる多孔質のn型酸化物半導体層等がよい。図1,図2に示すように、導電性基板2上に多孔質酸化物半導体層3,4、または多孔質酸化物半導体層3〜5を順次形成する。
多孔質酸化物半導体層3〜5の材料や組成としては、酸化チタン(TiO2)が最適であり、他の材料としては、チタン(Ti),亜鉛(Zn),スズ(Sn),ニオブ(Nb),インジウム(In),イットリウム(Y),ランタン(La),ジルコニウム(Zr),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba),カルシウム(Ca),バナジウム(V),タングステン(W)等の金属元素の少なくとも1種以上の金属酸化物半導体がよく、また窒素(N),炭素(C),弗素(F),硫黄(S),塩素(Cl),リン(P)等の非金属元素の1種以上を含有してもよい。酸化チタン等はいずれも電子エネルギーバンドギャップが可視光のエネルギーより大きい2〜5eVの範囲にあり、好ましい。また、多孔質酸化物半導体層3〜5は、電子エネルギー準位においてその伝導帯が色素の伝導帯よりも低いn型半導体がよい。
多孔質酸化物半導体層3〜5は、いずれも同じ一次粒子の酸化物半導体微粒子から成り、一次粒子の平均粒径は1〜40nmであるのがよく、より好適には5〜30nmがよい。ここで、平均粒径における下限値1nmは、これ未満になると材料の微細化ができず、上限値40nmは、これを超えると接合面積が小さくなり光電流が著しく小さくなることによる。
本発明の多孔質酸化物半導体層3〜5は、このように微細な一次粒子の酸化物半導体微粒子を分散相とし、水系あるいは非水系の溶液を分散媒としてペーストを調製し、この調製したペーストを導電性基板2上に、順次塗布し焼成して形成する。このように、微細な酸化物半導体によって多孔質酸化物半導体層3〜5を形成し多孔質化することにより、全ての多孔質酸化物半導体層3〜5について光作用極層としての表面積を高めることができ、光吸収と光電変換と電子伝導を効率よく行うことができる。
光入射側の多孔質酸化物半導体層3は、焼成後の表面または破断面の表面の算術平均粗さRaが10〜60nmであるのがよく、より好適には15〜55nmであるのがよい。この多孔質酸化物半導体層3は、可視光下の目視にて透明に見えるのがよい。光入射側の多孔質酸化物半導体層3は、焼結後の算術平均粗さRaが小さいことにより、短波長光(400〜600nm)をよく散乱して閉じ込めるが長波長光(600〜900nm)をよく透過させるものであり、長波長光が透過しやすいため厚く形成できる。よって、多孔質酸化物半導体層3に担持された色素によってよく短波長光を吸収するとともに、色素の担持量が多いので、色素からの光電流を増やすことができる。
この光入射側の多孔質酸化物半導体層3を形成するには、まず液体ペーストを作製する。液体ペーストの作製は、例えば、TiO2のアナターゼ粉末にアセチルアセトンを添加した後、脱イオン水とともに混練し、界面活性剤で安定化させた酸化チタンのペーストを作製する。作製したペーストを塗布する前に、遠心脱泡及び真空脱法をして気泡を含まない液体ペーストとし、次に静かに導電性基板2上にこの液体ペーストを滴下し、ドクターブレード法、バーコート法またはスピンナーコーター法等によって、一定速度で均一に静かに塗布するとよい。
次に、大気中で300〜600℃、好適には400〜500℃で、10〜60分、好適には20〜40分加熱処理することにより、多孔質酸化物半導体層3を形成する。この光入射側の多孔質酸化物半導体層3の厚みは、3〜25μmがよく、より好適には6〜18μmがよい。
光出射側の多孔質酸化物半導体層4は、焼成後の表面または破断面の表面の算術平均粗さRaが30〜200nmであるのがよく、より好適には40〜150nmであるのがよい。この多孔質酸化物半導体層4は可視光下の目視にて不透明に見えるのがよい。焼結後にこのような表面粗さであることにより、この光出射側の多孔質酸化物半導体層4は、その内部で長波長光を散乱して閉じ込めるものであり、薄く形成できるので導電パスの抵抗を小さくできる。よって、光出射側の多孔質酸化物半導体層4が担持した色素によって長波長光をよく吸収して、色素からの光電流を増やすとともに、色素からの電流を低い抵抗で効率よく取り出すことができる。
この多孔質酸化物半導体層4を形成するには、液体ペーストの作製方法と塗布膜形成方法を用いるが、以下の3つの方法が特によい。
第1の方法は、まず液体ペーストを多孔質酸化物半導体層3の場合と同様に作製する。この液体ペーストを遠心脱泡して気泡を含まない液体ペーストとする。次に、導電性基板2上にスプレー塗布法等を用いて、気泡を含む液体ペーストとして導電性基板2上に滴下し、均一に塗布する。
第2の方法は、まず液体ペーストを上記と同様に作製する際に、有機樹脂の微粒子を混合して混練し、この調製ペーストを遠心脱泡して気泡を含まない液体ペーストとする。次に、この液体ペーストを導電性基板2上に滴下し、均一に静かにドクターブレード法、バーコート法、スピンナーコーター法等で均一に塗布する。
第3の方法は、液体ペーストを上記第2の方法と同様に作製する。次に、この液体ペーストを導電性基板2上にスプレー塗布法等を用いて、気泡を含む液体ペーストとして滴下し、均一に塗布する。
上記第2及び第3の方法に用いる有機樹脂の微粒子として、特にアクリル樹脂(メタクリル酸エステル共重合物)の球状微粒子がよく、他にPEG(ポリエチレングリコール)のフレーク等でもよい。
こうして上記第1〜第3の方法のいずれかの方法で得られた塗布膜を、大気中で300〜600℃、好適には400〜500℃で、10〜60分、好適には20〜40分加熱処理することにより、多孔質酸化物半導体層4が得られる。この多孔質酸化物半導体層4は可視光下の目視にて不透明を示すのがよい。
ここで、第1の方法では分散した気泡が多孔質酸化物半導体層4に所望の表面粗さを与え、第2の方法では分散した有機樹脂の微粒子が焼成で気化して多孔質酸化物半導体層4に所望の表面粗さを与え、第3の方法では分散した気泡が多孔質酸化物半導体層4に所望の表面粗さの一部を与えるとともに、分散した有機樹脂の微粒子が焼成で気化して所望の表面粗さの一部を与える。
多孔質酸化物半導体層4の厚みは、1〜12μmがよく、より好適には2〜10μmがよく、多孔質酸化物半導体膜3より薄く形成できる。
多孔質酸化物半導体層5は、光入射側と光出射側の多孔質酸化物半導体層3,4の中間に設けられたものであり、焼成後の表面または破断面の表面の算術平均粗さRaが20〜120nmであるのがよく、より好適には30〜100nmであるのがよい。この中間の多孔質酸化物半導体層5は、可視光下の目視にて半透明に見えるのがよい。この多孔質酸化物半導体層5の作製方法は、上記の第1〜第3の方法とほぼ同様に行えばよく、ペースト粘度を低い方に調整したり、有機樹脂の微粒子の混合量を減らしたりして、焼成後の表面粗さRaを中間の大きさにすることができる。
焼結後に多孔質酸化物半導体層5の表面または破断面の表面の算術平均粗さを中間の大きさとすることにより、短波長光と長波長光との中間波長光(550〜650nm)を散乱して閉じ込めることができ、多孔質酸化物半導体層5に担持された色素によって中間波長光をよく吸収して、色素からの光電流を増やすことができる。
この多孔質酸化物半導体層5の膜厚は、1〜10μmがよく、より好適には3〜8μmがよく、多孔質酸化物半導体膜3より薄く、多孔質酸化物半導体膜4より厚くできる。
図3のグラフに、このようにして得られたTiO2からなる多孔質酸化物半導体層の表面粗さRaと吸収波長との関係を示す。ここで、算術平均粗さRaはサーフテスト装置(ミツトヨ社製、製品名「SJ−400」)にてJIS規格のB0601−1994に基づき評価した。また、吸収波長は、導電性基板2上に多孔質酸化物半導体層を形成する前後の光透過率の差より、多孔質酸化物半導体層が吸収する光スペクトルの吸収ピーク波長を割り出し評価した。
図3より、吸収波長は、多孔質酸化物半導体層のRaとほぼ比例関係にあることが分かる。従って、本発明のように、多孔質酸化物半導体層のRaを調整することにより、吸収波長を制御することができる。
また、多孔質酸化物半導体層3〜5の表面に対して、TiCl4処理、即ちTiCl4溶液に10時間程度浸漬し、水洗し、450℃で30分間焼成する処理を施すと、電子電導性がさらによくなって変換効率が高まる。
また、多孔質酸化物半導体層3と導電性基板2との間に、n型酸化物半導体の極薄の緻密層を挿入するとよく、逆電流が抑制できるので変換効率が高まる。
<色素>
増感色素である色素としては、例えば、ルテニウム−トリス,ルテニウム−ビス,オスミウム−トリス,オスミウム−ビス型の遷移金属錯体、多核錯体、またはルテニウム−シス−ジアクア−ビピリジル錯体、またはフタロシアニンやポルフィリン、多環芳香族化合物、ローダミンB等のキサンテン系色素であることが好ましい。
多孔質酸化物半導体層3〜5に色素を吸着させるためには、色素に少なくとも1個以上のカルボキシル基,スルホニル基,ヒドロキサム酸基,アルコキシ基,アリール基,ホスホリル基を置換基として有することが有効である。ここで、置換基は色素自身を多孔質酸化物半導体層3〜5に強固に化学吸着させることができ、励起状態の色素から多孔質酸化物半導体層3〜5へ容易に電荷移動できるものであればよい。
多孔質酸化物半導体層3〜5に色素を吸着させる方法としては、例えば導電性基板2上に形成された多孔質酸化物半導体層3〜5を、色素(または複数種の色素)を溶解した溶液に浸漬する方法が挙げられる。色素を溶解させる溶液の溶媒は、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル等の窒素化合物等を1種または2種以上混合したものが挙げられる。溶液中の色素濃度は5×10−5〜2×10−3mol/l(l(リットル):1000cm3)程度が好ましい。
多孔質酸化物半導体層3〜5を形成した導電性基板2を、色素を溶解した溶液に浸漬する際、溶液及び雰囲気の温度の条件は特に限定するものではなく、例えば、大気圧下もしくは真空中、室温もしくは導電性基板2加熱の条件が挙げられる。浸漬時間は色素及び溶液の種類、溶液の濃度等により適宜調整することができる。これにより、色素を多孔質酸化物半導体層3〜5に吸着させることができる。
複数種の色素を多孔質酸化物半導体層3〜5に担持させる際に、多孔質酸化物半導体層3〜5のそれぞれに1種の色素が担持されるようにすると、多孔質酸化物半導体層3〜5の波長依存性を有する光閉じ込め効果をより強く発現させることができる。
即ち、光入射側の多孔質酸化物半導体層3は、焼結後の算術平均粗さRaが小さく、短波長光(400〜600nm)をよく散乱して閉じ込めるので、この波長領域(400〜600nm)に光吸収性を示す色素がよい。
このような色素としては、各種の金属錯体色素、特にRuビピリジン系の色素、例えばRuL3(ただし、L:4,4’-dicorboxy- 2,2’-bipyridine)、RuL2(NCS)2、Ru(L(TBA))2(NCS)2(ただし、TBA:Tetrabutyl ammonium cation)、RuL2{(NC)2Ru(bpy)2}2などがよい。
特に、RuL2(NCS)2(通称N3色素)、Ru(L(TBA))2(NCS)2(通称N719色素;ソラロニクス・エスエー社製、商品名「Ruthenium 535 bisTBA」)などがよい。
他に、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、マーキュロクロム色素、エオシン−Y色素、ポルフィリン単量体系色素、ペリレン系色素などがよい。
光出射側の多孔質酸化物半導体層4は、焼結後の算術平均粗さRaが大きく、長波長光(600〜900nm)をよく散乱して閉じ込めるので、この波長領域(600〜900nm)に光吸収性を示し、光吸収波長域の長波長端が700nm以上の色素がよい。
このような色素としては、例えば、RuL´2(NCS)3(通称ブラックダイ;ソラロニクス・エスエー社製 商品名「Ruthenium 620−1H3TBA」、化学組成ポリピリジルルテニウム(II)錯体)、(ただし、L´:4,4’,4”-tetra-corboxy- 2,2’,2”-terpyridine)、Ru-ターピリジン色素(Ru−tc−terpy色素)(小島化学薬品社製)、RuL[Ru(bpy)2(CN) 2]2色素、βージケトナートRu錯体色素(通称tfac)、キノリン系Ru錯体色素、クマリン系色素、スクワリリウムシアニン系色素、スチリル系色素、フタロシアニン系色素、ポルフィリン多量体系色素、Pheophorbide a色素などがよい。
短波長感光色素の長波長領域での光吸収強度は、長波長感光色素の長波長領域での光吸収強度よりも小さくてよい。これは、光入射側の多孔質酸化物半導体層3では長波長光が透過するからである。光出射側の多孔質酸化物半導体層4に担持される色素としては、長波長領域(600〜900nm)に光吸収性を強く示す長波長感光色素が好ましいが、光吸収ピークは短波長領域側にあり長波長領域に光吸収強度が伸びている色素も多いため、このような色素を用いてもよい。長波長領域において弱い光吸収性の色素であっても、長波長領域に光閉じ込め効果を有する光出射側の多孔質酸化物半導体層4により、効果的に光吸収と光電変換に利用できる。
光入射側と光出射側の多孔質酸化物半導体層3,4の中間に設けられた多孔質酸化物半導体層5は、焼成後の表面または破断面の表面の算術平均粗さRaが、光入射側と光出射側の多孔質酸化物半導体層3,4の中間の大きさであり、短波長光と長波長光との中間波長光(550〜650nm)をよく散乱して閉じ込めるので、この波長領域(550〜650nm)に少なくとも光吸収性を示す色素がよい。この色素の長波長端も、光入射側と光出射側の多孔質酸化物半導体層3,4の中間であることがよい。
このような色素としては、Ru−dcbpy色素(小島化学薬品社製)、Ruフェナントロリン錯体色素、フルオレシン色素、ポリメチン系色素、スチリル系色素などがよい。
図4のグラフに、TiO2からなる多孔質酸化物半導体層(膜厚4μm、表面のRa=25nm)に吸着した2種類の色素(N719色素、ブラックダイ)の光吸収強度の波長依存性を示す。ここでいう光吸収強度とは、多孔質酸化物半導体層に色素を担持させた前後の光透過率の差より、色素が吸収する光スペクトルの光吸収強度を割り出したものである。即ち、図4のグラフは、(色素を担持させる前の多孔質酸化物半導体層の光透過率)−(色素を担持させた後の多孔質酸化物半導体層の光透過率)を、波長に対してプロットしたものである。
図5のグラフに、上記光透過率のデータより算出した、色素単独(色素自体)の吸光度の波長依存性を示す。この吸光度のデータにおいてもほぼ同様の結果が読み取れる。
図4及び図5より、N719は短波長領域での光吸収強度がブラックダイより大きく、ブラックダイは長波長領域での光吸収強度がN719より大きいので、図3より、N719は、Raが小さい方の多孔質酸化物半導体層に用い、ブラックダイは、Raが大きい方の多孔質酸化物半導体層に用いることができる。一般に、有機色素の光吸収感度は短波長領域側に偏っており、長波長領域に大きな光吸収ピークを有する長波長感光色素がほとんどない状況から、図5のブラックダイのように、色素の光吸収強度分布において長波長領域側での光吸収強度が比較的大きいものを用いることができる。
即ち、長波長領域側での光吸収強度が比較的大きい色素を効果的に生かすためには、Raが大きく長波長光の光閉じ込めに効果がある光出射側の多孔質酸化物半導体層4に担持させると効果的である。
また、多孔質酸化物半導体層3,4の2層から成る場合、各層に対して色素を区別し分離して吸着させるには、まず多孔質酸化物半導体層3,4を形成し、次に光出射側の多孔質酸化物半導体層4に長波長感光色素を上記と同様の方法によって吸着させ、次に光入射側の多孔質酸化物半導体層3に短波長感光色素を上記と同様の方法によって吸着させて、形成することができる。なお、多孔質酸化物半導体層3,4は、多孔質の性状が異なるので、異なる色素を分離して吸着させることが容易である。
<対極>
対極8としては、触媒機能を有する白金,カーボン等の極薄膜がよい。他に、金(Au),パラジウム(Pd),アルミニウム(Al)等の極薄膜を電析したものがよい。また、導電性有機材料からなる薄膜が挙げられる。また、これらの材料の微粒子等から成る多孔質膜、例えばカーボン微粒子の多孔質膜等がよく、対極8の表面積が増え、気孔部に電解質層7の電解質成分を含有させることができ、変換効率を高めることができる。対極8を薄膜だけで形成し導電性基板2側に一体化したり、対極8を厚くしたりして、支持体としての対極基板を用いないことも可能であるが、電解質層7側の面にPt等からなる触媒層を設けた対極基板を用いるのが簡易に製作できてよい。
対極8が、触媒層と対極基板(図示せず)とから成る場合、対極基板としては、上記の導電性基板2と同様のものが利用できる。例えば、対極基板としては、電気抵抗が小さく耐食性に優れた金属からなるものがよく、例えば、チタニウム、ステンレス等の金属シートがよい。また、導電層を被覆した樹脂基板を用いてもよい。このような樹脂基板として、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリイミド,ポリカーボネート等のシートがよく、導電層として、チタニウム、ステンレス等の金属薄膜がよい。さらに、上記の金属シートや導電層付き樹脂シートと、触媒層との間に、腐食防止のために導電性の金属酸化物層(ITO膜,SnO2:F膜,ZnO:Al膜等)を設けると信頼性が高まる。これらの対極基板の厚みは、機械的強度の点で0.01〜5mm、好ましくは0.1〜3mmがよい。
<封止部>
図1及び図2において、光電変換装置1の側壁を構成する封止部9は、電解質層7の電解質成分が外部に漏れるのを防ぐことができる機械的強度を付与するとともに、外部環境と直接接して光電変換装置1の内部を保護し、光電変換機能が劣化するのを防ぐために設ける。
封止部9の材料としては、吸湿防止機能を有し充分な接着強度を有するものがよく、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA),ポリビニルブチラール(PVB),エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA),フッ素樹脂,エポキシ樹脂,アクリル樹脂,飽和ポリエステル樹脂,アミノ樹脂,フェノール樹脂,ポリアミドイミド樹脂,UV硬化樹脂,シリコーン樹脂,フッ素樹脂,ウレタン樹脂,金属屋根に利用される塗布樹脂等がよい。
封止部9の厚みは0.01μm〜6mm、好ましくは1μm〜4mmがよい。また、防眩性、遮熱性、耐熱性、低汚染性、抗菌性、防かび性、意匠性、高加工性、耐疵付き・耐摩耗性、滑雪性、帯電防止性、遠赤外線放射性、耐酸性、耐食性、環境対応性等を封止部9に付与することにより、信頼性や商品性をより高めることができる。
<電解質層>
電解質層7としては、電解質溶液、ゲル電解質、固体電解質等のイオン伝導性の電解質、有機正孔輸送剤等が挙げられる。
電解質溶液としては、第4級アンモニウム塩やLi塩等を用いる。電解質溶液の組成としては、例えば炭酸エチレン,アセトニトリルまたはメトキシプロピオニトリル等に、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム,ヨウ化リチウム,ヨウ素等を混合し調製したものを用いることができる。
ゲル電解質は、大別して化学ゲルと物理ゲルに分けられる。化学ゲルは、架橋反応等により化学結合でゲルを形成しているものであり、物理ゲルは、物理的な相互作用により室温付近でゲル化しているものである。ゲル電解質としては、アセトニトリル,エチレンカーボネート,プロピレンカーボネートまたはそれらの混合物に対し、ポリエチレンオキサイド,ポリアクリロニトリル,ポリフッ化ビニリデン,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸,ポリアクリルアミド等のホストポリマーを混入して重合させたゲル電解質が好ましい。なお、ゲル電解質や固体電解質を使用する場合、低粘度の前駆体を多孔質酸化物半導体層3〜5に含有させ、加熱、紫外線照射、電子線照射等の手段で二次元、三次元の架橋反応をおこさせることによってゲル化または固体化できる。
イオン伝導性の固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド,ポリエチレンオキサイドもしくはポリエチレン等の高分子鎖に、スルホンイミダゾリウム塩,テトラシアノキノジメタン塩,ジシアノキノジイミン塩等の塩をもつ固体電解質が好ましい。ヨウ化物の溶融塩としては、イミダゾリウム塩,第4級アンモニウム塩,イソオキサゾリジニウム塩,イソチアゾリジニウム塩,ピラゾリジウム塩,ピロリジニウム塩,ピリジニウム塩等のヨウ化物を用いることができる。
上述のヨウ化物の溶融塩としては、例えば、1,1−ジメチルイミダゾリウムアイオダイド、1,メチル−3−エチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−イソペンチルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムアイオダイド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾールアイオダイド、1−エチル−3−イソプロピルイミダゾリウムアイオダイド、ピロリジニウムアイオダイド等を挙げることができる。
上記光電変換装置1を発電手段として用い、この発電手段からの発電電力を負荷へ供給するように成した光発電装置とすることができる。即ち、上記光電変換装置1を1つ用いるか、または複数用いる場合には直列、並列または直並列に接続したものを発電手段として用い、この発電手段から直接直流負荷へ発電電力を供給するようにしてもよい。また、上記発電手段をインバータ等の電力変換手段を介して発電電力を適当な交流電力に変換した後で、この交流電力を商用電源系統や各種の電気機器等の交流負荷に供給することが可能な光発電装置としてもよい。さらに、このような光発電装置を日当たりのよい建物に設置する等して、各種態様の太陽光発電システム等の光発電装置として利用することも可能であり、これにより高変換効率で耐久性のある光発電装置を提供することができる。
また、本発明の光発電装置は、上記本発明の光電変換装置1を発電手段として用い、発電手段の発電電力を負荷に供給するように成したことから、上記種々の効果により、変換効率が高まる、信頼性が高まる、用途が拡がる、製造が容易となり低コスト化が実現できる、という効果を有する。また、本発明の光電変換装置1は、その用途として太陽電池に限定されるものではなく、光電変換機能を有するものであれば適用でき、各種受光素子や光センサ等にも適用可能である。