JP5490424B2 - 麻綿及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、麻繊維をシート状にした麻綿及びその製造方法に関する。
従来から、亜麻苧麻などの麻原材料を用いて麻製品が製造されている。麻製品は、(1)麻繊維自体が熱伝導性が高く、体温を奪って大気中に放熱させるので、肌に涼感を与える、(2)麻繊維自体の特性から水分の吸湿、発散が速く、汗ばんでも肌にベトつかず、すぐに乾く、(3)麻繊維自体の特性からシャリ感、通気性があり、接触冷感と合わせてさわやかな着心地を与える、などの特性を有していることから、特に夏物の布団綿、肌掛け、シーツ、肌着、服地などに広く用いられている。
夏用布団などに用いる布団綿(即ち、麻綿)は、従来、麻繊維を精練して麻乾綿(所謂、ラミー原綿)を形成し、この麻乾綿にアルカリ処理して麻繊維にクリンプ形状を与え、その後クリンプした麻繊維を積層させてシート状麻綿に形成していた。このようにして製造したシート状麻綿を夏用布団などに用いると、麻製品の上述した特性を備え、夏場の使用に適したものとなる。
しかしながら、このような製造方法では、薄いシート状の麻綿、例えば200g/m以下のものを製作するのが難しく、仮に200g/mのものを製作することができたとして水洗いするのが難しく、水洗いすると、麻綿が縮んでちぎれてしまって元のシート状に戻らなくなる。そして、このちぎれが大きくなると、使用することができなくなる。
本発明は、薄いシート状であって、水洗いにも強い麻綿及びその製造方法を提供することである。
本発明者は、薄いシート状の麻綿をつくるためにはその製造に用いる麻繊維の有効繊維長さ及び麻繊維の30mm以下の短繊維含有率に着目し、麻繊維の積層工程における麻繊維の有効繊維長さが40〜100mmであり、また麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が45%以下である麻繊維を用いてシート状の麻綿をつくると、薄いシート状のものをつくることができ、このような薄いシート状のものであっても水洗いすることができることを見出した。
本発明の請求項1に記載の麻綿の製造方法は、麻繊維を精練して麻乾綿にする精練工程と、前記精練工程の後に練条して麻トップを形成する練条工程と、前記練条工程の後の麻トップにアルカリ処理して麻繊維にクリンプ形状を与えるアルカリ処理工程と、前記アルカリ処理工程の後にクリンプした麻繊維を積層させてシート状麻綿にする麻繊維の積層工程と、を含み、前記麻繊維の積層工程における前記シート状麻綿の麻繊維の有効繊維長さが40〜100mmであり、前記シート状麻綿の麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が45%以下であることを特徴とする。
また、本発明の請求項2に記載の麻綿の製造方法では、前記シート状麻綿の麻繊維の有効繊維長さが50〜80mmであり、前記シート状麻綿の麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が38%以下であることを特徴とする。
また、本発明の請求項3に記載の麻綿の製造方法では、前記アルカリ処理工程で用いるアルカリ液のボーメ度が32〜34度であることを特徴とする。
更に、本発明の請求項4に記載の麻綿の製造方法では、前記麻繊維の積層工程の後にシート状麻綿にニードルパンチでパンチ加工を施すニードルパンチ工程を行い、その後麻綿の表面に剥離防止用樹脂をスプレーするスプレー工程を行うことを特徴とする。
更にまた、本発明の請求項5に記載の麻綿は、麻繊維の有効繊維長さが40〜100mmであり、麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が45%以下であることを特徴とする。
本発明の請求項1に記載の麻綿の製造方法によれば、麻繊維を精練処理して麻乾綿を形成し(精練工程)、その後練条して麻トップを形成し(練条工程)、この練条工程の後の麻トップにアルカリ処理を施して麻綿をつくるので、練条工程において30mm以下の短繊維が落ちて麻トップに含まれる短繊維含有率(30mm以下の短繊維含有率)が少なくなり、それ故に、クリンプ形状の麻繊維が効果的に絡まった麻綿となり、薄くて均一なシート状の麻綿を製作することができ、かく製作した麻綿は水洗い、洗濯してもちぎれ、破れなどが少なく、水洗い、洗濯可能なものとなる。
このシート状麻綿をつくる際の麻繊維の積層工程における麻繊維の有効繊維長さが40〜100mmに、またその麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が45%以下となるようにすることが重要である。この麻繊維の有効繊維長さが40mmより短いと、麻綿にしたときの麻繊維の絡まりが少なく、薄くて均一なものがつくり難く、また水洗いしたときに縮んでちぎれ易くなる。また、この麻繊維の有効繊維長さが100mmを超えると、例えばローラカード機を用いて麻繊維を積層状にする際に、長い麻繊維がローラカードに巻付きなどしてシート状の麻綿をつくるのが難しくなる。また、この麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が45%を超えると、麻綿に含まれる短繊維の割合が大きくなり、麻繊維同士の絡まりの程度が少なくなり、薄いシート状のものをつくるときにちぎれ易くなったり、水洗い、洗濯したときにちぎれ、破れなどが生じ易くなる。
また、本発明の請求項2に記載の麻綿の製造方法によれば、シート状麻綿の麻繊維の有効繊維長さが50〜80mmで、その麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が38%以下であるので、麻繊維同士を適度に絡ませながらシート状にすることができるとともに、例えばローラカード機を用いてシート状の麻綿にするときにも麻繊維が絡まることがなく、更に薄くて均一なシート状の麻綿、例えば40g/m程度の薄いものであって、水洗いもすることができるものをつくることができる。
また、本発明の請求項3に記載の麻綿の製造方法によれば、アルカリ処理工程で用いるアルカリ液のボーメ度が32〜34度であるので、麻綿に適した適度のクリンプ形状を練条工程後の麻トップに与えることができ、麻繊維の有効繊維長さが40〜100mmのものを用いてシート状の麻綿をつくる際に麻繊維同士を適度に絡ませることができる。このボーメ度が32度よりも小さくなると、麻トップの繊維に与えるクリンプ形状が小さくなり、従って、シート状の麻綿をつくる際の麻繊維同士の絡まりが少なくなり、その結果、薄くて均一なものがつくり難く、また水洗いしたときに縮んでちぎれ易くなる。また、このボーメ度が34度よりも大きくなると、麻トップの繊維が溶けるようになって麻繊維自体の原形を留めなくなり、クリンプ形状を与えることが難しくなる。
更に、本発明の請求項4に記載の麻綿の製造方法によれば、麻繊維の積層工程の後にシート状麻綿にニードルパンチでパンチ加工を施すので、このニードルパンチによって麻綿の繊維同士がより絡まり合うようになり、型くずれせず、水洗いなどに対してより強い麻綿を提供することができる。また、このニードルパンチの後に、麻綿の表面に剥離防止用樹脂をスプレーするので、型くずれにより強く、水洗い、洗濯に対しても一層強い麻綿を提供することができる。
更にまた、本発明による麻綿によれば、クリンプ形状の麻繊維が適度に絡まったものとなり、薄くて均一なシート状の麻綿となり、水洗い、洗濯してもちぎれ、破れの少ないものとなる。
本発明に従う麻綿の製造方法を簡略的に示す工程図。 ボーメ度が25度の水酸化ナトリウム水溶液を用いて麻トップをアルカリ処理した後の麻繊維を20倍に拡大して示す電子顕微鏡写真図。 ボーメ度が29度の水酸化ナトリウム水溶液を用いて麻トップをアルカリ処理した後の麻繊維を20倍に拡大した電子顕微鏡写真図。 ボーメ度が33度の水酸化ナトリウム水溶液を用いて麻トップをアルカリ処理した電子顕微鏡写真図。 ステーブルダイヤグラムの一例を示す図。 麻綿を用いたキルティングの一例を示す図。 実施例1のステーブル・ダイヤグラムを示す図。 比較例1のステーブル・ダイヤグラムを示す図。 比較例2のステーブル・ダイヤグラムを示す図。 実施例3の麻綿の洗濯後の状態を示す写真図。 実施例4の麻綿の洗濯後の状態を示す写真図。 実施例5の麻綿の洗濯後の状態を示す写真図。 比較例3の麻綿の洗濯後の状態を示す写真図。
以下、添付図面を参照して、本発明に従う麻綿の製造方法について説明する。図1は、本発明に従う麻綿の製造方法を簡略的に示す工程図である。
麻綿は、例えば、図1に示す工程に従って製造される。図1において、苧麻などの麻繊維を精練処理して不純物などを除去して清浄な麻乾綿(所謂、ラミー原綿)にする(精練工程S1)。次いで、この麻乾綿を練条して麻トップ(所謂、ラミートップ)にする(練条工程S2)。この練条工程S2を行うことにより、麻繊維は撚りのないストレートな状態になるとともに、麻繊維のうちの短繊維が取り除かれ、短繊維の少ないものとなる。精練工程S1及び練条工程S2は、麻紡績において従来から行われている工程であり、その詳細は省略する。
この麻綿の製造方法では、練条工程S2後の麻トップを用いて麻綿を製作する。練条工程S2の後に、麻トップをアルカリ水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液に浸してアルカリ処理し(アルカリ処理工程S3)、このようにアルカリ処理することによって、麻繊維にクリンプ形状を与え、このようにすることによって、最終的な麻綿としたときにふんわりとしたものとなり、麻綿として最適なものとなる。尚、このアルカリ処理の後に、麻繊維を中性にするために中和処理を施す。
このアルカリ処理工程S3においては、アルカリ水溶液としてボーメ度が32〜34度のものを用いるのが好ましい。ボーメ度とは、無機塩基の水溶液(水酸化ナトリウム水溶液など)の濃度と比重を示す度数であって、この度数を計測するのにボーメ度計が用いられ、ボーメ度が高くなるほど比重及び濃度(1リットル中に含まれる量)が大きくなる。アルカリ処理する水酸化ナトリウム水溶液のボーメ度が32度(比重:1.285、水酸化ナトリウムの濃度:25.5%)よりも小さくなると、麻トップの繊維に与えるクリンプ形状が小さくなり、従って、シート状の麻綿をつくる際の麻繊維同士の絡まりが少なくなり、またこのボーメ度が34度(比重:1.308、水酸化ナトリウムの濃度:27.65%)よりも大きくなると、麻トップの繊維が溶けるようになって麻繊維自体の原形を留めなくなる。
図2は、ボーメ度が25度(25度ボーメ)(比重:1.210、水酸化ナトリウムの濃度:18.71%)の水酸化ナトリウム水溶液を用いて麻トップをアルカリ処理した後の麻繊維を20倍に拡大して示す電子顕微鏡写真図であり、図3は、ボーメ度が29度(29度ボーメ)(比重:1.252、水酸化ナトリウムの濃度:22.50%)の水酸化ナトリウム水溶液を用いて麻トップをアルカリ処理した後の麻繊維を20倍に拡大した電子顕微鏡写真図であり、図4は、ボーメ度が33度(33度ボーメ)(比重:1.297、水酸化ナトリウムの濃度:26.58%)の水酸化ナトリウム水溶液を用いて麻トップをアルカリ処理した電子顕微鏡写真図であり、これらの写真図から明らかなように、ボーメ度が33度程度になると麻繊維に適度のクリンプ形状を付与することができるが、ボーメ度が25〜29度程度では、麻繊維に適度のクリンプ形状を付与することが難しくなる。
再び図1に戻って、アルカリ処理工程S3の後に、麻繊維を積層してシート状の麻綿を形成する(繊維の積層工程S4)。この麻繊維の積層は、それ自体周知の各種方法(フラットカード法、ローラカード法、ランダムカード法など)を用いることができるが、例えばローラカード機を用いたローラカード法を好適に用いることができる。
ローラカード機のようなカード機を用いる場合、麻繊維の有効繊維長さが40〜100mmであるものを用いることができ、その有効繊維長さが50〜80mmのものを用いるのが好ましい。麻繊維の有効繊維長さが100mmを超えると、例えばローラカード機を用いて麻繊維を積層状にする際に、長い麻繊維がローラカードに巻付きなどしてシート状の麻綿をつくるのが難しくなり、またこの麻繊維の有効繊維長さが40mmより短いと、麻綿にしたときの麻繊維の絡まりが少なく、薄くて均一なものがつくり難く、また水洗いしたときにちぎれ、破れが生じ易くなる。
ここで、繊維の有効繊維長さについて説明すると、麻繊維の有効繊維長さは、JIS L 1019に規定されている綿繊維試験方法におけるソータ法(ベアリータ法)を用いて表したものであり、ソータ(試験器具)を用い、測定すべき綿(この場合、麻綿)の一部を取り出し、長い方の繊維から少量ずつ順次引き抜き、ビロード板の下方に印した基板上に繊維の一端をそろえながら繊維の展開長さが約160mmとなるように同じ厚さに並べてステープル・ダイヤグラム(繊維長配列)を作成し、作図法により有効繊維長さを求めるものである。図5に示すようなステープル・ダイヤグラムにおいて、0Aの半分の点をQとし(OQ=1/2OA)、点Qから基線OBに平行線を引き、繊維長配列曲線Xとの交点をP’とする。点P’から基線OBに垂線P’Pを立て、OPの四分の一のところをOKとし(OK=1/4OP)、点Kから基線OBに垂線を立てて繊維長配列曲線Xとの交点をK’とする。KK’の半分の点をSとし(SK=1/2KK’)点Sから基線OBに平行線を引き、繊維長配列曲線Xとの交点をR’とし、この点R’から基線OBに垂線RR’を立てる。そして、ORの四分の一のところをOLとし(OL=1/4OR)、点Lから垂線を立てて繊維長配列曲線Xとの交点をL’とし、L’Lの長さを求めると、これがその有効繊維長さとなる。
また、この麻綿は、30mm以下の短繊維含有率が45%以下であり、30mm以下の短繊維含有率が38%以下であるのが好ましい。短繊維含有率が45%を超えると、麻繊維同士の絡まりの程度が少なくなり、薄いシート状のものをつくるときちぎれ易くなったり、水洗いしたときにちぎれ、破れ易くなる。
その後、シート状の麻綿に細いニードルを用いてパンチ加工を施す(ニードルパンチ工程S5)。このようにニードルパンチ加工S5を施すことによって、シート状の麻綿のクリンプ形状の麻繊維がより絡み合ってその状態に維持されるとともに、水洗い、洗濯したときのちぎれなども少なく抑えることができる。更に、シート状の麻綿の表面に剥離用防止樹脂をスプレー装置を用いて均一にスプレー塗布する(スプレー工程S6)。この樹脂としては、通常の樹脂(アクリル酸エステル、SBRなど)を用いることができるが、環境などを考慮して、例えばトウモロコシの樹脂などを用いるのが好ましい。このようにスプレー塗布することによって、シート状の麻綿の状態が保持され、水洗い、洗濯したときの縮みなどをより抑えることができる。尚、ニードルパンチ工程S5及びスプレー工程S6は必ずしも必要な工程ではなく、ニードルパンチ工程S5及びスプレー工程S6のいずれか一方の工程又は双方の工程を省略するようにしてもよい。
このような製造方法で製作した麻綿は、麻繊維の有効繊維長さが40〜100mmとなり、その麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が45%以下となり、従来製作が難しかった100g/m程度の薄い麻綿でも容易につくることができ、40g/m程度の非常に薄い麻綿をもつくることができる。このように製作した麻綿は、ベビー用品(布団、肌掛け、肌着、おしめカバー素材など)、ペット用品(夏用清涼パッド/座布団など)、水回り用シート、各種座布団(簡易座布団、携帯用シートなど)、化粧紙、ファンデーション(麻綿シート入りブラジャーなど)、フィルター、下着類(麻綿シート入りブラジャー一体形下着など)ピアノの防湿フェルトなどに好適に用いることができ、この麻綿を用いることによって、上述した麻自体の特徴を有するものに仕上げることができる。
このようにして製作した麻綿を用いて例えば図6に示すようなキルティング2をつくる場合、例えば100g/m程度の麻綿を用いるときにはキルティング2の縫い目4間の幅Wを10〜20cmにしても水洗い、洗濯することが可能となり、例えば200g/m程度の麻綿を用いるときにはキルティング2の縫い目4間の幅Wを20〜30cmにしても水洗い、洗濯することが可能となり、水洗い、洗濯に強い麻綿をつくることができる。
〔実施例及び比較例〕
実施例1として、図1に示す工程に従って練条工程の後の麻トップを120mmに切断し、この切断した麻トップに33度ボーメの水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリ処理工程を行い、ローラカード機を用いて繊維積層工程を行って麻綿を製作し、シート状のきれいな麻綿を製作することができた。この実施例1の麻綿の積層工程前のアルカリ処理したものの一部を取り出してJIS L 1019に規定されている綿繊維試験方法におけるソータ法に用いるソータ(試験器具)を用いてステープル・ダイヤグラム(繊維長配列)を作成したところ図7に示す通りであった。そして、この図7から実施例1の麻繊維の有効繊維長さ及び30mm以下の短繊維含有率を求めたところ、表1に示すように、その有効繊維長さ:60.9mm、その30mm以下の短繊維含有率:35%であった。
Figure 0005490424
比較例1として、精練工程の後の麻乾綿を120mmに切断し、この切断した麻乾綿に33度ボーメの水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリ処理工程を行い、ローラカード機を用いて繊維積層工程を行って麻綿を製作したが、シート状のきれいな麻綿を製作することができず、またローラカード機に麻繊維の一部が巻き付いて長いシート状のものを製作することができなかった。この比較例1の麻綿の積層工程前のアルカリ処理したものの一部を取り出してJIS L 1019に規定されている綿繊維試験方法におけるソータ法に用いるソータ(試験器具)を用いてステーブル・ダイヤグラム(繊維長配列)を作成したところ図8に示す通りであった。そして、この図8から実施例の麻繊維の有効繊維長さ及び短繊維含有率を求めたところ、表1に示すように、その有効繊維長さ:113.0mm、その30mm以下の短繊維含有率:54.1%であった。
比較例2として、精練工程の後の麻乾綿をきれいにほぐし、ほぐした状態の麻乾綿を120mmに切断し、この切断した麻乾綿に33度ボーメの水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリ処理工程を行い、ローラカード機を用いて繊維積層工程を行って麻綿を製作したが、シート状のきれいな麻綿を製作することができず、またローラカード機に麻繊維の一部が巻き付いて長いシート状のものを製作することができなかった。この比較例2の麻綿の積層工程前のアルカリ処理したものの一部を取り出してJIS L 1019に規定されている綿繊維試験方法におけるソータ法に用いるソータ(試験器具)を用いてステーブル・ダイヤグラム(繊維長配列)を作成したところ図9に示す通りであった。そして、この図9から比較例2の麻繊維の有効繊維長さ及び30mm以下の短繊維含有率を求めたところ、表1に示すように、その有効繊維長さ:133.5mm、その30mm以下の短繊維含有率:45.9%であった。
これら実施例1並びに比較例1及び2から、麻繊維の有効繊維長さが60mm程度であるときには、シート状のきれいな麻綿をつくることができるが、その有効繊維長さが113mm、133mmと長くなると、シート状のきれいな麻綿をつくることができなかった。
また、実施例2として、錬条工程後の麻トップからアルカリ処理工程を行い、更にニードルパンチ工程及びスプレー工程を行って麻綿を製作した。この実施例2では麻綿の重量が100g/mのものをつくった。
この実施例2の麻綿を用いて水洗い実験を行った。水洗いに際し、側生地(麻綿を包む生地)として麻100%の近江ちぢみを用い、両側生地(30cm×30cm)の間に麻綿(実施例2の麻綿)を入れ、波柄のキルティングを施して実施例2の麻綿を用いた実験試料を作成した。水洗い実験は、洗剤を使用せず、50分水洗い行った後に脱水を行い、脱水の後に干して乾燥させ、このような一連の水洗い工程を20回繰り返して行った。実験試料の干し作業は、天気の良い日は屋外で吊り干しを行い、天気の悪い日は屋内で新聞を敷いた上に載せて平干し、20回水洗い工程のうち12回は吊り干しし、残りの8回は平干しを行った。この水洗い実験の後麻綿を観察するとちぎれがなく、水洗い可能であることが確認できた。
この水洗い実験の結果を更に確認するために、実施例2の麻綿を用いて上述したと同様にして実験試料を作成した。この実験試料では、両側生地(100cm×200cm)の間に麻綿を入れ、10cm角のダイヤ柄のキルティングを施した。そして、この実験試料を公的機関で洗濯実験を行った。洗濯実験は、JIS L 0217の別表(1)洗い方番号103に規定の方法で行った。洗濯後の実験試料を調べたところ、長辺の寸法変化率:−1.2%、短辺の寸法変化率−4.0%、変退色「4級」、外観変化「良好」(5段階評価での上から2番目の評価)であり(財団法人日本染色検査協会京都検査所での評価試験)、この実験結果から実施例2の麻綿は洗濯可能なことが証明できた。
また、実施例3〜5として、実施例2と同様にして錬条工程後の麻トップからアルカリ処理工程を行い、更にニードルパンチ工程及びスプレー工程を行って麻綿を製作した。実施例3では麻綿の重量が42g/mのものを、実施例4では麻綿の重量が100g/mのものを、また実施例5では麻綿の重量が180g/mのものをつくった。また、比較例3として、比較例1と同様にして精練工程後の麻乾綿から麻綿を製作し(ニードルパンチ工程及びスプレー工程は省略した)、その重量が160g/mであった。
実施例3〜5及び比較例3の麻綿の引張試験を行った。この引張試験は、JIS L 1913の方法により行い、実施例3〜5及び比較例3の各試験片について、試験片の幅50mmのものをつかみ間隔200mmでつかんで試験を行った。この引張試験では、定速伸長形引張試験機を用いて行い、引張速度100mm/分で引っ張って破断するまでの引張強さ(N)及び破断時点での縦方向(即ち、引張方向)の伸度(伸び率)(%)を測定し、その測定結果は、表2に示す通りであった(滋賀県東北部工業技術センターでの引張試験)。
Figure 0005490424
この引張試験から明らかなように、実施例3〜5のものは比較例3のものに比して大きな引張強度を有し、実施例3( 42g/m )の薄いものでも比較例3のものよりも引張強度が強いことが判った。これは、実施例3〜5のものでは30mm以下の短繊維含有率が少なく、このことはクリンプ形状の麻繊維同士の絡まりが多く、かかる絡まりによって引張強度が高められ、このことによって、水洗いしてもちぎれ、破損が生じ難くなるものと思われる。
また、これら実施例3〜5及び比較例3の麻綿を用いて洗濯試験を行った。洗濯試験は、JIS L 1085の方法により行い、実施例3〜5及び比較例3の各試験片について、試験片の大きさ45cm×45cmのものを洗濯装置を使用し、JIS L 0217の別表(1)洗い方番号103に規定の方法で各試験一枚ごとにネットを使用して洗濯し、洗濯の後に平干しを行った。
この洗濯試験の後の実施例3〜5及び比較例3の状態は、図10〜図13に示す通りであった(滋賀県東北部工業技術センターでの洗濯試験)。図10は、実施例3の麻綿(麻トップからつくった重量42g/mのもの)の洗濯後の状態を示す写真図であり、図11は、実施例4の麻綿(麻トップからつくった重量が100g/mのもの)の洗濯後の状態を示す写真図であり、図12は、実施例5の麻綿(麻トップからつくった重量が180g/mのもの)の洗濯後の状態を示す写真図であり、また図13は、比較例3の麻綿(麻乾綿からつくった重量が160g/mのもの)の洗濯後の状態を示す写真図である。
これらの洗濯試験結果から明らかなように、実施例4及び5のものにおいてはちぎれ、破れなどが生じることなく綿の状態が保たれ、実施例3のものにおいても薄いにもかかわらずほとんどちぎれ、破れなどが生じてなく綿の状態が維持されていた。これに対して、比較例3のものでは、重量が160g/mとある程度厚いにもかかわらずちぎれ、破れが生じ、綿としての状態を保っていなかった。これらのことから、実施例3〜5のものでは洗濯が可能であることが確認できた。
2 キルティング
S1 精練工程
S2 練条工程
S3 アルカリ処理工程
S4 繊維の積層工程

Claims (4)

  1. 麻繊維を精練して麻乾綿にする精練工程と、前記精練工程の後に練条して麻トップを形成する練条工程と、前記練条工程の後の麻トップにボーメ度が32〜34度のアルカリ液を用いてアルカリ処理して麻繊維にクリンプ形状を与えるアルカリ処理工程と、前記アルカリ処理工程の後にクリンプした麻繊維を積層させてシート状麻綿にする麻繊維の積層工程と、を含み、前記麻繊維の積層工程における前記シート状麻綿の麻繊維の有効繊維長さが40〜100mmであり、前記シート状麻綿の麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が45%以下であることを特徴とする麻綿の製造方法。
  2. 前記シート状麻綿の麻繊維の有効繊維長さが50〜80mmであり、前記シート状麻綿の麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が38%以下であることを特徴とする請求項1に記載の麻綿の製造方法。
  3. 前記麻繊維の積層工程の後にシート状麻綿にニードルパンチでパンチ加工を施すニードルパンチ工程を行い、その後麻綿の表面に剥離防止用樹脂をスプレーするスプレー工程を行うことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の麻綿の製造方法。
  4. ボーメ度が32〜34度のアルカリ液を用いてアルカリ処理して麻繊維にクリンプ形状が形成された、麻繊維の有効繊維長さが40〜100mmであり、麻繊維の30mm以下の短繊維含有率が45%以下であることを特徴とする麻綿。
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