ところが、このようなボルト穴を有するシリンダブロックにあっては、ヘッドボルト穴にヘッドボルトをねじ込んだ際に、その締め付け力に応じた内部応力が生じる。その結果、ヘッドボルト穴底面付近においてシリンダボアがヘッドボルト側に引っ張られるような形状の変形が生じてしまう。シリンダボアの変形はオイルリング等によるシリンダボアの密封性を低減させるなどの問題を生じ、燃費の悪化等を引き起こしかねない。
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリンダヘッドとシリンダボアとの組み付け時におけるシリンダボアの変形を低減可能なシリンダブロックを提供することにある。
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、複数のシリンダが直列方向に並べられるシリンダ列と、前記シリンダ列の周囲を囲むように形成されるウォータジャケットと、シリンダヘッドをデッキ面と整合させて組み付けるためのヘッドボルトをねじ込むヘッドボルト穴を前記ウォータジャケット外周に備えるシリンダブロックにおいて、前記ウォータジャケットのうち、前記ヘッドボルト穴の軸中心とシリンダブロック外壁の外周面との距離が大きなヘッドボルト穴であるヘッドボルト穴A近傍の部分には、同ウォータジャケットの前記デッキ面から底面までの距離であるジャケット深さが深くされた深底部が形成されており、前記ウォータジャケットのうち、前記ヘッドボルト穴の軸中心とシリンダブロック外壁の外周面との距離が小さなヘッドボルト穴であるヘッドボルト穴B近傍の部分には、前記深底部が形成されていないことを要旨としている。
この発明では、シリンダブロックの外周面とヘッドボルト穴との距離の大きいヘッドボルト穴A近傍のジャケット深さを、シリンダブロックの外周面とヘッドボルト穴との距離の小さいヘッドボルト穴B近傍のジャケット深さよりも深くしている。すなわち、ヘッドボルト穴近傍の剛性が大きい箇所のジャケット深さが大きくなるようにウォータジャケットの底面を形成している。
ヘッドボルト穴にヘッドボルトをねじ込んだ時に発生するシリンダボアの変形を生じさせる内部応力は、ヘッドボルト穴近傍のジャケット深さを大きくすることで、ウォータジャケットに吸収されることになる。このため、シリンダボアの変形を低減することが可能となる。
一方、周囲の外壁の剛性が小さな部分のヘッドボルト穴B近傍のジャケット深さを大きくすると、外壁の剛性が小さいために、シリンダボアの変形がさらに大きくなるおそれがある。
この点、上記構成によれば、ヘッドボルト穴Bをヘッドボルト穴Aと同じジャケット深さにした場合とは異なり、ヘッドボルト穴B近傍のシリンダボアの変形を抑制可能となる。従って、シリンダブロックとシリンダヘッドとの組み付け時におけるシリンダボアの変形を低減可能となる。
(2)請求項2に記載の発明は、前記ウォータジャケットのうち、前記ヘッドボルト穴の軸中心とシリンダブロック外壁の外周面との距離が大きなヘッドボルト穴であるヘッドボルト穴Aと、前記複数のシリンダのうち同ヘッドボルト穴Aに隣接しているシリンダとの間に位置する部分には、同ウォータジャケットの前記デッキ面から底面までの距離であるジャケット深さが深くされた深底部が形成されており、前記ウォータジャケットのうち、前記ヘッドボルト穴の軸中心とシリンダブロック外壁の外周面との距離が小さなヘッドボルト穴であるヘッドボルト穴Bと、前記複数のシリンダのうち同ヘッドボルト穴Bに隣接しているシリンダとの間に位置する部分には、前記深底部が形成されていないことを要旨としている。
この発明では、シリンダブロックの外周面とヘッドボルト穴との距離の大きいヘッドボルト穴Aに隣接しているシリンダとの間に位置する部分のジャケット深さを、シリンダブロックの外周面とヘッドボルト穴との距離の小さいヘッドボルト穴Bに隣接しているシリンダとの間に位置する部分のジャケット深さよりも深くしている。すなわち、ヘッドボルト穴近傍の剛性が大きい箇所のジャケット深さが大きくなるようにウォータジャケットの底面を形成している。
ヘッドボルト穴にヘッドボルトをねじ込んだ時に発生するシリンダボアの変形を生じさせる内部応力は、ヘッドボルト穴近傍のジャケット深さを大きくすることで、ウォータジャケットに吸収されることになる。このため、シリンダボアの変形を低減することが可能となる。
一方、周囲の外壁の剛性が小さな部分のヘッドボルト穴B近傍のジャケット深さを大きくすると、外壁の剛性が小さいために、シリンダボアの変形がさらに大きくなるおそれがある。
この点、上記構成によれば、ヘッドボルト穴Bをヘッドボルト穴Aと同じジャケット深さにした場合とは異なり、ヘッドボルト穴B近傍のシリンダボアの変形を抑制可能となる。従って、シリンダブロックとシリンダヘッドとの組み付け時におけるシリンダボアの変形を低減可能となる。
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のシリンダブロックにおいて、前記ヘッドボルト穴Bは、シリンダに挟まれないシリンダ列端のヘッドボルト穴であるヘッドボルト穴であって、前記ヘッドボルト穴Aは、シリンダに挟まれるヘッドボルト穴であるヘッドボルト穴であって、前記ヘッドボルト穴Bは前記距離が、前記ヘッドボルト穴Aの前記距離よりも小さなものであることを要旨としている。
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリンダブロックにおいて、前記深底部のジャケット深さは、前記ヘッドボルト穴B近傍のいずれのジャケット深さよりも大きなものであることを要旨としている。
この発明では、全てのヘッドボルト穴A近傍のウォータジャケット深さよりも深底部のジャケット深さを大きなものとしている。ヘッドボルト穴Bはいずれも他のヘッドボルト穴Aと比較してシリンダボア変形を招きやすい。このため、全てのヘッドボルト穴A近傍のジャケット深さをいずれのヘッドボルト穴Bよりも大きくすることで、該シリンダ列の全てのシリンダボアの変形を、好適に低減可能となる。
(5)請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のシリンダブロックにおいて、前記ヘッドボルト穴から離れた部位には、前記ジャケット深さが前記深底部よりも小さく、いずれの前記ヘッドボルト穴B近傍のジャケット深さと同じ若しくはこれより浅い浅底部が形成されることを要旨としている。
この発明では、ヘッドボルト穴から離れたウォータジャケットの部位には深さの浅い浅底部形成されている。ヘッドボルト穴近傍では、ジャケット深さを大きくすることによってヘッドボルトねじ込みによるシリンダボア変形抑制効果を得ることができる。一方、ヘッドボルト締結に起因するシリンダボアへの影響が小さいヘッドボルト穴近傍以外においては、ジャケット深さを小さくすることでシリンダの剛性が大きくなる。これによって、シリンダの変形可能なシリンダ軸方向の長さが小さくなることにより、筒内圧力によるシリンダヘッド側の変形を抑制可能となる。
(6)請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のシリンダブロックにおいて、前記ヘッドボルト穴B近傍のジャケット深さと前記浅底部のジャケット深さが同じ大きさであることを要旨としている。
この発明では、浅底部と、深底部を設けないヘッドボルト穴B近傍のジャケット深さを同じものとしている。従って、ヘッドボルト穴B近傍のジャケット深さが浅底部と同じ大きさとなる。すなわち、ヘッドボルト穴B近傍においても浅底部が形成されるため、ヘッドボルト穴B近傍において、シリンダブロック外壁の剛性がジャケットを深くすることによって小さなものになることを低減可能となる。
(7)請求項7に記載の発明は、請求項4〜6のいずれか一項に記載のシリンダブロックにおいて、前記シリンダブロックは、V型のバンクを有するエンジンに設けられるものであって、前記ヘッドボルト穴Bは、前記シリンダに挟まれない前記ヘッドボルト穴であって、且つ前記各バンクにおいてシリンダ外壁の外周面との距離が小さなシリンダ列の端面側に設けられるヘッドボルト穴であることを要旨としている。
V型エンジン、例えばV型6気筒エンジンにおいては、各バンクには3つのシリンダが直列に並んでいる。そして、各シリンダの外周に4つずつ且つシリンダ列と並行する態様でシリンダ列の両側に2列となるように、計8つのヘッドボルト穴が設けられている。そして、この8つのヘッドボルト穴のうち一方の端部に設けられているヘッドボルト穴2つと、他方の端部に設けられているヘッドボルト穴2つとでは、シリンダブロックの外壁の外周面との距離がそれぞれ異なっている。すなわち、シリンダブロックの外壁の外周面との距離が最も小さくなっている一方の端部の2つのヘッドボルト穴すなわちヘッドボルト穴Bは、該当部の周囲の外壁の剛性が小さいと言える。
従って、この発明では、剛性が小さい側の端のヘッドボルト穴B以外のヘッドボルト穴近傍のジャケット深さを大きくして深底部を形成するとともに、ヘッドボルト穴Bにおいては、深底部よりも浅くなるようにしている。
これによって、ヘッドボルトをねじ込んだ際のシリンダボアの変形が低減され、一方で剛性の小さなヘッドボルト穴B近傍はジャケット深さを他のヘッドボルト穴より小さくすることで、シリンダ列の全てのシリンダについて、シリンダブロックとシリンダヘッドとの組み付け時におけるシリンダボアの変形を好適に低減可能となる。
(8)請求項8に記載の発明は、請求項4〜6のいずれか一項に記載のシリンダブロックにおいて、前記シリンダブロックは、直列型エンジンに設けられるものであって、前記ヘッドボルト穴Bは、シリンダ列の両端に設けられる前記ヘッドボルト穴であることを要旨としている。
直列気筒エンジンにおいては、エンジンの搭載スペースの省スペース化のために、シリンダブロックのシリンダ列の列方向における両端部のシリンダブロック厚さを小さくしている。このため、両端部の外壁の外周面とヘッドボルト穴との距離が小さくなっている。すなわち、両端部の4つのヘッドボルト穴、すなわちヘッドボルト穴Bは、該当部の周囲の外壁の剛性が小さいと言える。
従って、この発明では、剛性が小さい両端のヘッドボルト穴B以外のヘッドボルト穴であるヘッドボルト穴A近傍のジャケット深さを大きくして深底部を形成するとともに、両端のヘッドボルト穴Bにおいては、深底部よりも浅くなるようにしている。
これによって、ヘッドボルトをねじ込んだ際のシリンダボアの変形が低減され、一方で剛性の小さなヘッドボルト穴B近傍はジャケット深さを小さくすることで、シリンダ列の全てのシリンダについて、シリンダブロックとシリンダヘッドとの組み付け時におけるシリンダボアの変形を好適に低減可能となる。
(第1実施形態)
図1〜図4を参照して、本発明をV型エンジンのオープンデッキ型のシリンダブロックとして具体化した第1実施形態について説明する。V型エンジンのシリンダブロックは、3つのシリンダが直列に並んだ2つのシリンダ列がクランクシャフトを中心としてV字状に配置されている。
図1に示されるように、V型エンジンのシリンダブロックの1つのバンク1Aのシリンダ列をシリンダヘッド側である上端面(以下、デッキ面とする)から見ると、3つのシリンダ11,13,15が直列に配されている。また、そのシリンダ列の周囲を取り囲むようにウォータジャケット30が設けられており、さらに各シリンダ11,13,15の四方にヘッドボルト穴21,22,23,24が設けられている。図示しないが、各シリンダ列のデッキ面には、ガスケットを介してシリンダヘッド、ヘッドカバーが取り付けられるようになっている。
図中最も左側のシリンダ11のシリンダボア11Bの外周には、ウォータジャケットを挟んで、シリンダ13とは隣接しない側にヘッドボルト穴21が設けられている。また、シリンダ13と隣接する側にはヘッドボルト穴22が設けられている。さらに、シリンダ13の外周であって、シリンダ15と隣接する部位にはヘッドボルト穴23が設けられている。そして、シリンダ15のシリンダ13と隣接しない側にはヘッドボルト穴24が設けられている。すなわち、ヘッドボルト穴はシリンダ列の両側にそれぞれシリンダ列と平行となるように、各シリンダの外周に4つずつ配置されている。
各ヘッドボルト穴21,22,23,24とシリンダブロック1の外壁との距離であるシリンダブロック1の外壁の厚さWは、それぞれ厚さW21,W22,W23,W24となっている。ここで、「W21<W22=W23=W24」の関係が成立している。すなわち、シリンダ11のシリンダ13と隣接しない側のヘッドボルト穴21に対応するシリンダブロックの厚さW21が、他のヘッドボルト穴22,23,24に対応するシリンダブロックの厚さW22,W23,W24と比べて最も小さくなっている。
また、バンク1Aの外周に設けられるウォータジャケット30には、デッキ面からジャケットの底面までの距離、すなわちジャケット深さHの異なる深底部31B(斜線部)と浅底部31Aとが交互に設けられている。すなわち、ヘッドボルト穴22,23,24の近傍は深底部31Bとされる一方、ヘッドボルト穴21近傍及びヘッドボルトから遠い部分は浅底部31Aとされている。図3にて示されるように、深底部31Bは最深部31Cと、最深部31Cと浅底部31Aとを繋ぐ傾斜面である傾斜部31Dとから構成されている。図1を参照して、ヘッドボルト穴22を例にとって詳述する。
最深部31Cは、ヘッドボルト穴22の中心と、接するシリンダ11及びシリンダ13のそれぞれのシリンダ軸11C,13Cとを結ぶ仮想線L11C,L13Cによってウォータジャケット30に形成される領域に形成されている。また、傾斜部31Dは、ヘッドボルト穴22の中心とシリンダ11,13の図中上部のそれぞれの頂点11T,13Tとを結ぶ仮想線L11T,L13Tと、前述の仮想線L11C,L13Cとの間に形成される領域に形成されている。ヘッドボルト穴24においては、シリンダボア15Bのシリンダ軸15Cとヘッドボルト穴24とを結ぶ仮想線L15Cを中心に、シリンダボア15Bの図中上部の頂点15Tとを結ぶ仮想線L15Tと、シリンダボア15Bの図中上部の頂点15Rとを結ぶ仮想線L15Rとの間に形成される領域に深底部31Bが形成されている。バンク1Aは上下対称であるため、バンク1Aの下半面においても同様の構成となっている。
他方のバンク1Bにおいては、バンク1Aと水平対称の関係が成立する。すなわち、シリンダ11とシリンダ16とが、シリンダ13とシリンダ14とが、シリンダ15とシリンダ12とがそれぞれ対応する。図2にて示されるように、図中最も右側のシリンダ12の右側に設けられるヘッドボルト穴28に対応するシリンダブロックの厚さW28が、他のヘッドボルト穴25,26,27に対応する厚さW25,W26,W27のいずれよりも小さなものとなっている。すなわち、バンク1Bにおいては「W28<W25=W26=W27」の関係が成立している。そして、ウォータジャケット30は、ヘッドボルト穴25,26,27近傍においては深底部31Bが形成され、ヘッドボルト穴25,26,27から比較的遠い部分及びヘッドボルト穴28近傍において浅底部31Aが形成されている。
図3を参照して、バンク1Aにおけるウォータジャケット30の深さについて説明する。シリンダブロック1のデッキ面からウォータジャケットの底面までの距離であるジャケット深さHは、ヘッドボルト穴22,23,24の近傍においては深底部31Bが形成されてジャケット深さH3となっている。ヘッドボルト穴22,23,24から比較的遠い場所においては、浅底部31Aが形成され、ジャケット深さH1となっている。また、ヘッドボルト穴21近傍においても、浅底部31Aが形成され、ジャケット深さH1となっている。さらに、深底部31Bは中間部に最深部31Cを設けており、最深部31Cと浅底部31Aとの間には、浅底部31Aと最深部31Cとを繋ぐように底面が傾斜している傾斜部31Dが形成されている。すなわち、ウォータジャケット30は、浅底部31A、傾斜部31D、深底部31B、傾斜部31Dの順で繰り返すようにシリンダ列の外周に形成されている。
また、深底部31Bのジャケット深さH3は、ヘッドボルト穴22,23,24の深さH2よりも大きいものであり、浅底部31Aのジャケット深さH1は、ヘッドボルト穴のジャケット深さH3よりも小さいものとなっている。すなわち、それぞれの深さにおいて、「H1<H2<H3」の関係が成立している。
ヘッドボルト穴にヘッドボルトをねじ込むと、これにともなってウォータジャケット底面に内部応力が発生するが、ヘッドボルト穴22,23,24近傍のウォータジャケット30を深底部31Bとし、さらに浅底部31Aに向けて傾斜する傾斜部31Dを備えたことで、内部応力は分散する。
なお、これらはバンク1Bにおいても同様のことが言える。ただし、バンク1Bはバンク1Aと水平対称となるため、バンク1Aにおける左端のヘッドボルト穴21とバンク1Bにおける右端のヘッドボルト穴28が対応するようになる。
図4を参照して、ヘッドボルトねじ込みによるシリンダボアの変形について詳述する。図4の破線の形状Aは変形前のシリンダボア11B,13B,15Bのヘッドボルト穴底面付近の形状Aをそれぞれ示している。これらはいずれも同径の円形状である。そして、実線の形状Bは本実施形態のバンク1Aにおけるシリンダボア11B,13B,15Bのヘッドボルトねじ込み後の変形を誇張した形状を示している。さらに破線の形状Cは本実施形態のようにウォータジャケット30に浅底部31A及び深底部31Bを設けない場合の仮想のシリンダボアの変形後の形状を示している。そして、破線の形状Dはヘッドボルト穴22,23,24及びヘッドボルト穴21の近傍に深底部31Bを設けたときの仮想のシリンダボアの変形後の形状を示している。ヘッドボルトをヘッドボルト穴にねじ込むと、シリンダボアにはヘッドボルト穴底面付近において四方のヘッドボルト穴に引っ張られるような変形が生じる。
シリンダボア13B及びシリンダボア15Bにて示されるように、本実施形態においてウォータジャケット30に深底部31Bを設けたことで、シリンダボアの変形は、仮想のシリンダボアの変形の形状Cよりも形状Aに近い形状Bとなる。
また、シリンダ11においてヘッドボルト穴21近傍のウォータジャケット30に深底部31Bを設けると形状Dのようにシリンダ列端部側の変形を大きくさせてしまう。しかし、本実施形態においては、ヘッドボルト穴21の近傍は浅底部31Aとしているため、形状Dよりも変形の小さな形状Bとなる。
以上説明した本実施形態によれば、以下に記載する作用効果を奏することができる。なお、本実施形態においてバンク1Aとバンク1Bとは水平対称であるため、特に記述しないが、バンク1Bにおいても以下の効果と同様の効果が奏される。
(1)本実施形態では、シリンダに挟まれる位置に設けられるヘッドボルト穴22,23近傍のウォータジャケット30について、ジャケット深さH3は、シリンダに挟まれないヘッドボルト穴21近傍のジャケット深さH1より深さの大きい深底部31Bを形成するようにした。ヘッドボルト穴22,23にヘッドボルトをねじ込んだ時に発生するシリンダボア11B,13B,15Bの変形を生じさせる内部応力は、ヘッドボルト穴22,23近傍のジャケット深さHを大きくすることで、ウォータジャケット30に吸収されることになる。このため、図4中の形状Bに示されるようにシリンダボアの変形を低減することが可能となる。
さらに、シリンダに挟まれていないヘッドボルト穴21においては、ヘッドボルト穴21とシリンダブロック1外壁までの距離が、ヘッドボルト穴22,23と比較して小さくなることがある。このため、ヘッドボルト穴21近傍のシリンダブロック1の剛性は小さくなっている。従って、このようなヘッドボルト穴22,23近傍においても同様にジャケット深さHを大きくするとシリンダボアの変形が大きくなるおそれがある(図4中の形状Dを参照)。
このため、本実施形態によれば、ヘッドボルト穴21をヘッドボルト穴22,23と同じジャケット深さH3にした場合とは異なり、ヘッドボルト穴21近傍のシリンダボア11Bの変形を抑制可能となる。従って、シリンダブロック1とシリンダヘッドとの組み付け時におけるシリンダボア11B,13B,15Bの変形を低減可能となる。
(2)本実施形態では、ヘッドボルト穴底面におけるヘッドボルト穴の軸中心とシリンダブロック外壁の外周面との距離が大きい、すなわちヘッドボルト穴周囲の外壁の剛性の大きなヘッドボルト穴22,23,24近傍のウォータジャケット30のジャケット深さH3は、ヘッドボルト穴周囲の外壁の剛性が小さなヘッドボルト穴、すなわちシリンダブロック1外壁の外周面との距離が小さいヘッドボルト穴21近傍のジャケット深さH1よりも深い深底部31Bが形成されている。
すなわち、ヘッドボルト穴近傍の剛性が大きい箇所のジャケット深さHが大きくなるようにウォータジャケット30の深底部31Bが形成されている。ヘッドボルト穴にヘッドボルトをねじ込んだ時に発生するシリンダボアの変形を生じさせる内部応力は、ヘッドボルト穴近傍のジャケット深さを大きくすることで、ウォータジャケット30に吸収されることになる。このため、シリンダボア13B,15Bの変形を、低減することが可能となる。
一方、周囲の外壁の剛性が小さな部分のヘッドボルト穴21近傍のジャケット深さH1を大きくすると、外壁の剛性が小さくなり、ジャケット深さH1を大きくしない場合と比較してシリンダボア11Bの変形がさらに大きくなるおそれがある。
この点、本実施形態では、ヘッドボルト穴21をヘッドボルト穴22,23,24と同じジャケット深さH1にした場合とは異なり、ヘッドボルト穴21近傍のシリンダボア11Bの変形を抑制可能となる。従って、シリンダブロック1とシリンダヘッドとの組み付け時におけるシリンダボアの変形を低減可能となる。
(3)本実施形態では、深底部31Bのジャケット深さH3は、ヘッドボルト穴21近傍のジャケット深さH1よりも大きなものであるものとしている。すなわち、いずれのヘッドボルト穴21近傍のウォータジャケット深さHよりも深底部31Bのジャケット深さH3を大きなものとしている。ヘッドボルト穴21は他のヘッドボルト穴22,23,24と比較してシリンダボア11B変形を招きやすい。このため、いずれのヘッドボルト穴22,23,24近傍のジャケット深さH3をヘッドボルト穴21よりも大きなものとすることで、バンク1Aの全てのシリンダボア11B,13B,15Bの変形を好適に低減可能となる。
(4)本実施形態では、ヘッドボルト穴から離れた部位には、ジャケット深さHが深底部31Bよりも小さく、ヘッドボルト穴22,23,24近傍のジャケット深さH3以上にジャケット深さHが小さい浅底部31Aが形成されるようにしている。
ヘッドボルト穴22,23,24近傍では、ジャケット深さHを大きくすることによってヘッドボルトねじ込みによるシリンダボア変形抑制効果を得ることができる。一方、ヘッドボルトねじ込みに起因するシリンダボアへの影響が小さいヘッドボルト穴近傍以外においては、ジャケット深さHを小さくすることでシリンダの剛性が大きくなる。これによって、シリンダの変形可能なシリンダ軸方向の長さが小さくなることにより、筒内圧力によるシリンダヘッド側の変形を抑制可能となる。
(5)本実施形態では、ヘッドボルト穴21近傍のジャケット深さHと浅底部31Aのジャケット深さHとを同じ大きさ(ジャケット深さH1)にしている。従って、ヘッドボルト穴21近傍のジャケット深さH1が浅底部31Aと同じ大きさとなるため、ヘッドボルト穴21近傍において、シリンダブロック1外壁の剛性がジャケット30を深くすることによって小さなものになることを低減可能となる。
(6)本実施形態では、シリンダブロック1は、V型のバンクを有するエンジンに設けられるものであって、ヘッドボルト穴21は、シリンダに挟まれないヘッドボルト穴21であり、且つ各バンク1A,1Bにおいて最も厚さWが小さなシリンダ列の端面側に設けられるヘッドボルト穴21であるようにしている。
V型エンジン、例えばV型6気筒エンジンにおいては、一方のバンク1Aには3つのシリンダ11,13,15が直列に並んでいる。そして、各シリンダ11,13,15の外周に4つずつ且つシリンダ列と並行する態様でシリンダ列の両側に2列となるように、計8つのヘッドボルト穴が設けられている。そして、この8つのヘッドボルト穴のうち一方の端部に設けられているヘッドボルト穴21の2つと、他方の端部に設けられているヘッドボルト穴24の2つとでは、シリンダブロック1の外周面との距離である厚さWがそれぞれ異なっている。すなわち、シリンダブロック1の外壁の厚さWが最も小さくなっている一方の端部の2つのヘッドボルト穴すなわちヘッドボルト穴21は、該当部の周囲の外壁の剛性が小さいと言える。
従って、剛性が小さい側の端のヘッドボルト穴21以外のヘッドボルト穴22,23,24近傍のジャケット深さHを大きくして深底部31Bを形成するとともに、ヘッドボルト穴21においては、深底部31Bよりも浅くなるようにしている。
これによって、ヘッドボルトをねじ込んだ際のシリンダボアの変形が低減され、一方で剛性の小さなヘッドボルト穴21近傍はジャケット深さHを他のヘッドボルト穴22,23,24より小さくすることで、シリンダ列の全てのシリンダについて、シリンダブロック1とシリンダヘッドとの組み付け時におけるシリンダボア11B,13B,15Bの変形を好適に低減可能となる。
(7)さらに、浅底部31Aを設けたことで、ウォータジャケット30のジャケット深さHが小さい、すなわち流路面積が小さくなる。このため、浅底部31Aを設けない場合と比較して、ジャケット内部を流通する冷却水の流速が大きくなるために、冷却効率が大きいものとなる。
(第2実施形態)
図5及び図6を参照して本発明を直列4気筒エンジンのオープンデッキ型のシリンダブロックとして具体化した第2実施形態について説明する。
図5に示されるように、直列4気筒エンジンのシリンダブロックをデッキ面から見ると、4つのシリンダボア41B,42B,43B,44Bが直列に配されている。シリンダ列の周囲を取り囲むようにウォータジャケット60が設けられており、さらに各シリンダボア41B,42B,43B,44Bの四方にヘッドボルト穴が設けられている。図中最も左側のシリンダ41のシリンダボア41Bの外周には、ウォータジャケット60を挟んで、シリンダ42とは隣接しない側にヘッドボルト穴51が設けられている。また、シリンダ42と隣接する側にはヘッドボルト穴52が設けられている。さらに、シリンダ42の外周であって、シリンダ43と隣接する部位にはヘッドボルト穴53が設けられている。シリンダ43の外周であって、シリンダ44と隣接する部位にはヘッドボルト穴54が設けられている。そして、シリンダ44のシリンダ43と隣接しない側にはヘッドボルト穴55が設けられている。すなわち、ヘッドボルト穴はシリンダ列の両側にそれぞれシリンダ列と平行となるように、各シリンダの外周に4つずつ配置されている。
各ヘッドボルト穴とシリンダヘッドの外壁との距離であるシリンダブロックの厚さWは、それぞれ厚さW51,W52,W53,W54となっている。ここで、「W51<W52=W53=W54」の関係が成立している。すなわち、シリンダ41のシリンダ42と隣接しない側のヘッドボルト穴51及びシリンダ44のシリンダ43と隣接しない側のヘッドボルト穴55に対応するシリンダブロックの厚さW51,W55が、他のヘッドボルト穴52,53,54に対応するシリンダブロックの厚さW52,W53,W54と比べて最も小さくなっている。
また、シリンダ列の外周に設けられるウォータジャケット60には、デッキ面からジャケットの底面までの距離、すなわちジャケット深さHの異なる深底部61B(斜線部)と浅底部61Aとが交互に設けられている。ヘッドボルト穴52,53,54の近傍には深底部61Bが形成されている。また、ヘッドボルト穴51近傍及びヘッドボルトから遠い部分には浅底部61Aが形成されている。図6にて示されるように、深底部61Bは最深部61Cと、最深部61Cと浅底部61Aとを繋ぐ傾斜面である傾斜部61Dとから構成されている。最深部61Cは、ヘッドボルト穴52の中心と、接するシリンダ41及びシリンダ42のそれぞれのシリンダ軸41C,42Cとを結ぶ仮想線L41C,L42Cによってウォータジャケット60に形成される領域に形成されている。また、傾斜部61Dは、ヘッドボルト穴52の中心とシリンダ41の図中上部のそれぞれの頂点41T,42Tとを結ぶ仮想線L41T,L42Tと、前述の仮想線L41C,L42Cとの間に形成される領域に形成されている。シリンダブロック4は上下対称であるため、バンク1Aの下半面においても同様の構成となっている。
図6を参照して、シリンダブロック4におけるウォータジャケット30の深さについて説明する。シリンダブロック4のデッキ面からウォータジャケットの底面までの距離であるジャケット深さHは、ヘッドボルト穴52,53,54の近傍においては深底部61Bが形成されてジャケット深さH3となっている。ヘッドボルト穴52,53,54から比較的遠い場所においては、浅底部61Aが形成され、ジャケット深さH1となっている。また、ヘッドボルト穴51,55近傍においても、浅底部61Aが形成され、ジャケット深さH1となっている。さらに、深底部61Bは中間部に最深部61Cが設けられており、最深部61Cと浅底部61Aとの間には、浅底部61Aと最深部61Cとを繋ぐように底面が傾斜している傾斜部61Dが形成されている。すなわち、ウォータジャケット60は、浅底部61A、傾斜部61D、深底部61B、傾斜部61Dの順で繰り返すように形成されている。
また、深底部61Bのジャケット深さH3は、ヘッドボルト穴51,52,53,54の深さH2よりも大きいものであり、浅底部61Aのジャケット深さH1は、ヘッドボルト穴51,52,53,54の深さH2よりも小さいものとなっている。すなわち、それぞれの深さにおいて「H1<H2<H3」の関係が成立している。
ヘッドボルト穴51,52,53,54にヘッドボルトをねじ込むと、これにともなってウォータジャケット60底面に内部応力が発生するが、ヘッドボルト穴51,52,53,54近傍のウォータジャケット60を深底部61Bとし、さらに浅底部61Aに向けて傾斜する傾斜部61Dを備えたことで、内部応力は分散する。
以上によれば、図4に記載した構成に準じた効果を得ることが可能である。すなわち、近傍のウォータジャケット60に深底部61Bを設けたヘッドボルト穴51,52,53,54を外周に持つシリンダ42,43については、図4におけるシリンダ13と同様の変形抑制効果が得られる。また、シリンダ41,44については、図4におけるシリンダ11に準じた効果を得ることが可能である。
以上説明した本実施形態によれば、上述した(1)〜(5)及び(7)の作用効果に加えて更に以下に記載する作用効果を奏することができる。
(9)本実施形態では、シリンダブロック4は、直列4気筒エンジンに設けられるものであって、シリンダ列の両端に設けられるヘッドボルト穴51,55近傍のウォータジャケット60に浅底部61Aを形成するようにした。
直列気筒エンジンにおいては、エンジンの搭載スペースの省スペース化のために、シリンダブロック4のシリンダ列の列方向における両端部のシリンダブロックの厚さWを小さくしている。このため、両端部の外壁の外周面とヘッドボルト穴51,55との距離が小さくなっている。すなわち、両端部の4つのヘッドボルト穴51,55は、該当部の周囲の外壁の剛性が小さいと言える。
従って、この実施形態では、剛性が小さい両端のヘッドボルト穴51,55以外のヘッドボルト穴であるヘッドボルト穴52,53,54近傍のジャケット深さH3を大きくして深底部61Bを形成するとともに、両端のヘッドボルト穴51,55においては、深底部61Bよりも浅くなるジャケット深さH1となるようにしている。
これによって、ヘッドボルトをねじ込んだ際のシリンダボアの変形が低減され、一方で剛性の小さなヘッドボルト穴51,55近傍はジャケット深さを小さくすることで、シリンダ列の全てのシリンダについて、シリンダブロックとシリンダヘッドとの組み付け時におけるシリンダボアの変形を好適に低減可能となる。
以上説明した各実施形態は以下のようにこれを適宜変更した態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、オープンデッキ型のウォータジャケットを備えたシリンダブロックを想定した。しかしこれは、クローズド型のウォータジャケットを備えたシリンダブロックについても適用可能である。
・上記実施形態では、深底部は最深部と、最深部とを繋ぐ傾斜面である傾斜部とから構成され、最深部は、ヘッドボルト穴の中心と、接するシリンダのそれぞれのシリンダ軸とを結ぶ仮想線によってウォータジャケットに形成される領域に形成されるようにした。しかし、深底部、最深部及び傾斜部の大きさはこれに限られるものではない。すなわち、深底部、最深部及び傾斜部が前述の領域外にわたる大きさ、あるいは領域よりも小さな大きさとなっても良い。さらに、深底部及び浅底部の深さや傾斜部の傾斜角度も適宜変更可能である。
・上記実施形態では、第1実施形態においてはヘッドボルト穴21,26、第2実施形態においてはヘッドボルト穴51,55近傍を、浅底部と同じジャケット深さH1となるようにした。しかし、ヘッドボルト穴21,26近傍の深さは、深底部のジャケット深さH3よりも浅く、ジャケット深さH1よりも深い深さとなるようにしても良い。この場合も、少なくとも上記実施形態の(1)〜(4)の効果を奏することは可能である。
・上記実施形態では、第1実施形態においてはヘッドボルト穴21,26、第2実施形態においてはヘッドボルト穴51,55のすべてについて近傍のジャケットに浅底部を形成するようにした。しかし、これは全てではなくいずれかのみにおいて浅底部を形成するようにしても良い。この場合も、少なくとも上記実施形態の(1)及び(2)の効果を奏することは可能である。
・上記実施形態では、シリンダ列端部のヘッドボルト穴と外壁との距離が最も小さくなることを想定したが、シリンダブロックの形状によっては、端部以外のヘッドボルト穴近傍においてシリンダブロックの剛性が小さくなることが考えられる。このようなシリンダブロックにおいては、比較的剛性の大きなヘッドボルト穴近傍のジャケット深さHを大きくし、かつ剛性の小さなヘッドボルト穴近傍のジャケット深さHをこれよりも小さなものとすることで、シリンダボアの変形を低減することが可能である。
・上記実施形態では、V型6気筒エンジンまたは直列4気筒エンジンに適用されるシリンダブロックを想定した。しかしこれは、エンジンの形式や気筒数に限定されるものではない。要するに、複数のシリンダが直列に配され、シリンダ列両端の厚さを小さくするシリンダブロックであれば、いずれのシリンダブロックについても適用可能である。