JP5488137B2 - ディップ成形用組成物及びディップ成形体 - Google Patents

ディップ成形用組成物及びディップ成形体 Download PDF

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Description

本発明は、熟成している間の粗大凝集物の生成を抑制しながら、しかも、カゼインのアルカリ金属塩を配合しない場合であっても、比較的短い熟成期間で引張強度に優れ、かつ、経時でのクラック発生が抑制されたディップ成形体を与えるディップ成形用組成物及び当該ディップ成形用組成物を成形してなるディップ成形体に関する。
従来、天然ラテックスを含有するディップ成形用組成物をディップ成形して、乳首、風船、手袋、バルーン、サック等の人体と接触して使用されるディップ成形体が知られている。しかしながら、天然ラテックスは、人体にアレルギー症状を引き起こすような蛋白質を含有するため、生体粘膜又は臓器と直接接触するディップ成形体としては問題がある場合があった。
そこで、合成のアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムやポリイソプレンのラテックスを用いる検討がされている。
例えば、特許文献1には、エチレン性不飽和酸単量体単位を含むアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムのラテックスに、硫黄、酸化亜鉛およびチアゾール化合物からなる加硫促進剤を配合したディップ成形用組成物をディップ成形して得られたディップ成形体が開示されている。特許文献1のディップ成形体は、人体にアレルギー症状を引き起こすような蛋白質を含んでいないものの、300%伸張時の応力が高く、柔軟性の点では満足いくものではない。
また、特許文献2には、合成ポリイソプレンのラテックスに、硫黄、酸化亜鉛、特定の加硫促進剤および分散剤を配合したディップ成形用組成物が開示され、このようなディップ成形用組成物は、柔軟で、かつ引張強度にも優れるディップ成形体を与える。ここで用いる分散剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤、カゼインのアルカリ金属塩などが開示され、後者が好ましく使用できることが開示されている。しかしながら、カゼインは蛋白質の1種であり、人体にアレルギー症状を引き起こす懸念がある。
また、合成ポリイソプレンのラテックスを含有するディップ成形用組成物は、得られるディップ成形体の引張強度を安定的に高く維持するよう、通常、適当な期間、熟成(前加硫といわれることもある。)された後、ディップ成形に供される。ところが、カゼインのアルカリ金属塩に代えて、ラウリル硫酸ナトリウムを分散剤として使用したり、カゼインのアルカリ金属塩を配合しない場合には、熟成する期間を長くしないと得られるディップ成形体の引張強度が劣る問題がある。
さらに、加硫促進剤の選択によっては、短い熟成期間でも引張強度に優れるディップ成形体が得られる場合があるが、逆に長期間熟成を行った場合に、前加硫が進みすぎてディップ成形体にクラックが発生して、その商品価値を著しく低下させる場合があった。
さらに、分散剤を配合しない場合には、合成ポリイソプレンのラテックスの分散安定性が低下して、熟成している間に粗大な凝集物が生成してディップ成形に供することが困難となる場合がある。
特開2003−246891号公報 特表2004−532752号公報
本発明が解決しようとする課題は、熟成している間の粗大凝集物の生成を抑制しながら、しかも、カゼインのアルカリ金属塩を配合しない場合であっても、比較的短い熟成期間で引張強度に優れ、かつ、経時でのクラック発生が抑制されたディップ成形体を与えるディップ成形用組成物を提供することである。
本発明の発明者等は、上記課題を解決するため、合成ポリイソプレンラテックス、硫黄系加硫剤、酸化亜鉛および加硫促進剤を含有するディップ成形用組成物に配合する分散剤として、重量平均分子量が特定範囲にあるスチレン−マレイン酸モノエステル重合体の塩を選択し、さらに特定量のジチオカルバミン酸類の一価の塩を配合することにより、上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明によれば、合成ポリイソプレンラテックス、硫黄系加硫剤、酸化亜鉛、加硫促進剤、重量平均分子量が1,000〜150,000であるオレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩、及び、合成ポリイソプレンラテックス中の合成ポリイソプレン100質量部に対して、0.1〜0.6質量部のジチオカルバミン酸類の一価の塩を含有するディップ成形用組成物が提供される。
また、本発明によれば、前記のディップ成形用組成物をディップ成形して得られるディップ成形体が提供される。
本発明のディップ成形用組成物は、熟成している間の粗大凝集物の生成を抑制しながら、しかも熟成期間を長くしなくても引張強度に優れ、かつ人体と接触して使用される場合にも安全性に優れたディップ成形体を与えるものである。
本発明のディップ成形用組成物は、合成ポリイソプレンラテックス、硫黄系加硫剤、酸化亜鉛、加硫促進剤、重量平均分子量が1,000〜150,000であるオレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩、及び、合成ポリイソプレンラテックス中の合成ポリイソプレン100質量部に対して、0.1〜0.6質量部のジチオカルバミン酸類の一価の塩を含有するものである。
本発明で用いる合成ポリイソプレンラテックスは、イソプレンを重合して得られる合成ポリイソプレンのラテックスである。
合成ポリイソプレンは、イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を少量共重合したものであってもよい。合成ポリイソプレンのイソプレン単位の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。柔軟で、引張強度に優れるディップ成形体が得られる点から、合成ポリイソプレンは、イソプレンの単独重合体であることが最も好ましい。
イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ブタジエン、クロロプレン、1,3−ペンタジエン等のイソプレン以外の共役ジエン単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;スチレン、アルキルスチレンなどのビニル芳香族単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルなどのエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;ジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等の架橋性単量体が挙げられる。
イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
合成ポリイソプレン中のイソプレン単位としては、イソプレンの結合状態により、シス結合単位、トランス結合単位、1,2−ビニル結合単位、3,4−ビニル結合単位の4種類が存在する。ディップ成形体の引張強度に優れる点から、合成ポリイソプレンにおける、イソプレン単位中のシス結合単位の割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
合成ポリイソプレンの平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量で、好ましくは500,000〜5,000,000、より好ましくは800,000〜3,000,000である。合成ポリイソプレンの平均分子量が過小であると、ディップ成形体の引張強度が低下する傾向にあり、逆に過大であると合成ポリイソプレンラテックスが製造し難くなる傾向にある。
本発明で用いる合成ポリイソプレンラテックスの製造方法としては、例えば、(1)有機溶媒に溶解した合成ポリイソプレン溶液を、界面活性剤の存在下に、水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去して、合成ポリイソプレンラテックスを製造する方法、(2)イソプレン単独または、イソプレンとそれと共重合可能なエチレン性不飽和単量体との混合物を、乳化重合もしくは懸濁重合して、直接、合成ポリイソプレンラテックスを製造する方法が挙げられる。
イソプレン単位中のシス結合単位の割合が高い合成ポリイソプレンを用いることができ、引張強度に優れるディップ成形体が得られる点から、(1)の製造方法が好ましい。
合成ポリイソプレンは、例えば、トリアルキルアルミニウム−四塩化チタンからなるチーグラー系重合触媒やn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム重合触媒を用いて、不活性重合溶媒中で、イソプレンを溶液重合して得ることができる。得られた合成ポリイソプレンの重合溶液を、そのまま用いても、該重合溶液から固形の合成ポリイソプレンを取り出した後、固形の合成ポリイソプレンを有機溶媒に溶解して用いることもできる。
また、市販の固形の合成ポリイソプレンを用いることもできる。
前述の(1)の製造方法で用いる有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素溶媒;等を挙げることができる。これらのうち、芳香族炭化水素溶媒や脂環族炭化水素溶媒が好ましく、中でも脂環族炭化水素溶媒が好ましい。
有機溶媒の使用量は、合成ポリイソプレン100質量部に対して、通常、2,000質量部以下であり、好ましくは20〜1,500質量部、より好ましくは50〜1,000質量部である。
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性界面活性剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノレン酸の如き脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性の界面活性剤を用いることもできる。なかでも、アニオン性界面活性剤が好適である。これらの界面活性剤は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
界面活性剤の使用量は、合成ポリイソプレン100質量部に対して、好ましくは0.5〜50質量部、より好ましくは0.5〜20質量部である。この量が少なすぎると、ラテックスの安定性が劣る傾向にあり、逆に多すぎると、不経済であるばかりでなく発泡しやすくなり、ディップ成形時に問題が起きる傾向がある。
合成ポリイソプレンの有機溶媒溶液を、界面活性剤の存在下、水中で乳化する装置は、一般に乳化機又は分散機として市販されているものであれば特に限定されず使用できる。
なお、界面活性剤の添加方法は、特に限定されず、予め水及び/又は合成ポリイソプレンの有機溶媒溶液に添加しても、乳化操作を行っている最中に、乳化液に添加してもよく、一括添加しても、分割添加してもよい。
乳化装置としては、例えば、ホモジナイザー(IKA社製)、ポリトロン(キネマティカ社製)、TKオートホモミキサー(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機;TKパイプラインホモミキサー(特殊機化工業社製)、コロイドミル(神鋼パンテック社製)、スラッシャー、トリゴナル湿式微粉砕機(三井三池化工機社製)、キャビトロン(ユーロテック社製)、マイルダー、ファインフローミル(太平洋機工社製)等の連続式乳化機;マイクロフルイダイザー(みずほ工業社製)、ナノマイザー(ナノマイザー社製)、APVガウリン(ガウリン社製)等の高圧乳化機;膜乳化機(冷化工業社製)等の膜乳化機;バイブロミキサー(冷化工業社製)等の振動式乳化機;超音波ホモジナイザー(ブランソン社製)等の超音波乳化機;等が挙げられる。
乳化操作の条件は、特に限定されず、所望の分散状態になるように、処理温度、処理時間などを適宜選定する。
通常、乳化操作を経て得られた乳化物から有機溶媒を除去して、合成ポリイソプレンラテックスを得る。乳化物から有機溶媒を除去する方法は、特に限定されず、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留等の方法を採用することができる。
さらに、必要に応じ、合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法を採用して濃縮操作を施してもよい。
合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度は、好ましくは30〜70質量%、より好ましくは40〜70質量%である。固形分濃度が低すぎると、合成ポリイソプレンラテックスを貯蔵した際に、合成ポリイソプレン粒子が分離する懸念があり、逆に高すぎると、合成ポリイソプレン粒子同士が凝集して粗大凝集物が発生する場合がある。
合成ポリイソプレンラテックス中の合成ポリイソプレン粒子の体積平均粒子径は、好ましくは0.05〜3μm、より好ましくは0.2〜2μmである。この体積平均粒子径が小さすぎると、ラテックス粘度が高くなりすぎて取り扱い難くなる場合があり、逆に大きすぎると、合成ポリイソプレンラテックスを貯蔵した際に、ラテックス表面に皮膜が生成して取り扱い難くなる場合がある。
合成ポリイソプレンラテックスには、ラテックスの分野で通常配合される、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、架橋剤、キレート化剤、酸素捕捉剤、分散剤等の添加剤を配合することができる。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物である。なかでも、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましく用いられる。
本発明のディップ成形用組成物は硫黄系加硫剤を含有する。
硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等の硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリン・ジスルフィド、アルキルフェノール・ジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼピノンー2)、含りんポリスルフィド、高分子多硫化物、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等の硫黄含有化合物が挙げられる。なかでも、硫黄が好ましく使用できる。
硫黄系加硫剤の使用量は、特に限定されないが、合成ポリイソプレン100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.2〜3質量部である。この量が少なすぎても、多すぎても、ディップ成形体の引張強度が低下する傾向がある。
本発明のディップ成形用組成物は、酸化亜鉛を含有する。
酸化亜鉛の使用量は、特に限定されないが、合成ポリイソプレン100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.2〜2質量部である。この量が少なすぎるとディップ成形体の引張強度が低下する傾向があり、逆に多すぎると、ディップ成形用組成物中の合成ポリイソプレン粒子の安定性が低下して粗大な凝集物が発生する場合がある。
本発明のディップ成形用組成物は、加硫促進剤を含有する。
加硫促進剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用でき、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4′−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホニリル−2−ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3−ビス(2−ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられる。なかでも、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの加硫促進剤は、単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
加硫促進剤の使用量は、合成ポリイソプレン100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部であり、更に好ましくは0.1〜2質量部である。この量が少ないとディップ成形体の引張強度が極端に低下する場合がある。また、この量が過大であると、ディップ成形体の伸びが極端に低下して、引張強度が低下する場合がある。
本発明のディップ成形用組成物は、分散剤として、重量平均分子量が1,000〜150,000であるオレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩を含有する。
オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体を形成するオレフィン化合物は、炭素−炭素不飽和結合を有する炭化水素化合物であれば特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロモノオレフィン;1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエンなどの共役ジエン;スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族炭化水素などが挙げられる。中でも、分散安定化効果により優れる点から、ビニル芳香族炭化水素が好ましく、スチレンがより好ましい。
これらのオレフィン化合物は、単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体を形成するエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、例えば、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノブチル、フマル酸モノペンチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノペンチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノブチル、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノブチルなどを挙げることができる。なお、これらのエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルを予め塩基を用いて中和し、塩構造の状態で用いることもできる。
これらのエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルは、単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
なお、オレフィン化合物とエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物との重合体を形成した後、重合体中のジカルボン酸無水物基に、対応するメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールを反応させて、ジカルボン酸のモノエステル構造に変換することもできる。
オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体において、オレフィン化合物に由来する単位とエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルに由来する単位とのモル比は、好ましくは30:70〜80:20、より好ましくは40:60〜75:25である。この範囲にあると、分散安定化効果により優れている。
オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の重量平均分子量は、1,000〜150,000であり、3,000〜120,000の範囲にあることが好ましく、3,000〜100,000の範囲にあることがより好ましい。重量平均分子量が低くても、高くても得られるディップ成形用組成物の貯蔵安定性に劣る。
オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩は、塩構造のエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルを用いない場合には、塩基と反応させてカルボキシル基を中和することにより、塩構造へ変換して得られる。
塩基としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアンモニウム、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物である。なかでも、アンモニアが好ましく用いられる。
中和反応の反応率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であり、完全中和させることが特に好ましい。
オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体は、それぞれ、常法により製造することができる。
前述のオレフィン化合物とエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルを所望の割合で混合し、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物やアゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物を重合開始剤として用いて重合することにより製造できる。
重合体の分子量は、重合開始剤の濃度や重合温度を調節したり、分子量調整剤として機能するチオール化合物やアルコール化合物を適量添加することにより、調整できる。
オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体およびその塩は、市販品を用いることもできる。
オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩の使用量は、合成ポリイソプレン100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部であり、更に好ましくは0.3〜3質量部である。この量が少ないとディップ成形用組成物の貯蔵安定性が低下する傾向があり、逆に量が過大であると、ディップ成形用組成物が泡立ち易くなり、ディップ成形体にピンホールが形成される不具合が起きる場合がある。
オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩は、塩構造を形成しているため、水に溶解し易く、水溶液の状態で取り扱うことができる。その濃度は、特に限定されないが、通常、5〜45質量%である。
本発明のディップ成形用組成物は、合成ポリイソプレンラテックス中の合成ポリイソプレン100質量部に対して、0.1〜0.6質量部、好ましくは0.2〜0.5質量部のジチオカルバミン酸類の一価の塩を含有する。
ジチオカルバミン酸類の一価の塩の配合量が少ないと、前加硫時間を短くする効果が発現せず、逆に多いと、ディップ成形用組成物の熟成期間を長くした場合に、得られるディップ成形体にクラックが発生してその商品価値が著しく低下する。
ジチオカルバミン酸類としては、ジメチルジチオカルバミン酸、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸などが挙げられる。
前記ジチオカルバミン酸類と一価の塩を形成する塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミン、ピペリジンなどの有機アミンが挙げられる。
ジチオカルバミン酸類の一価の塩の具体例としては、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸カリリウム、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジブチルジチオカルバミン酸カリウム、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸カリウム、ジメチルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジエチルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジブチルジチオカルバミン酸アンモニウム、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸アンモニウム、ジメチルジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ジエチルジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ジブチルジチオカルバミン酸ピペリジン塩、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩などが挙げられる。中でも、前加硫期間を短縮し、かつ前加硫期間を長くした場合でも、ディップ成形体におけるクラックの発生をより抑制できる点から、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウムおよびN−ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩が好ましい。
ジチオカルバミン酸類の一価の塩が水溶性であれば、水溶液の状態で添加することができる。ジチオカルバミン酸類の一価の塩を水溶液の状態で取り扱う場合、その濃度は、特に限定されないが、通常、2〜30質量%である。あまりに高濃度の水溶液の状態で、合成ポリイソプレンラテックスに添加すると、添加時に粗大凝集物を発生する場合がある。
本発明のディップ成形用組成物には、さらに、カーボンブラック、シリカ、タルク等の補強剤;炭酸カルシウム、クレー等の充填剤;老化防止剤;紫外線吸収剤;可塑剤等の配合剤を必要に応じて配合することができる。
老化防止剤としては、2,6−ジ−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、スチレン化フェノール、2,2’−メチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、アルキル化ビスフェノール、p−クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物などのフェノール系老化防止剤;2,2’−チオビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−o−クレゾール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノールなどのチオビスフェノール系老化防止剤;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコール・ジホスファイトなどの亜燐酸エステル系老化防止剤;チオジプロピオン酸ジラウリルなどの硫黄エステル系老化防止剤;フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)−ジフェニルアミン、4,4’―(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物などのアミン系老化防止剤;6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンなどのキノリン系老化防止剤;2,5−ジ−(t−アミル)ハイドロキノンなどのハイドロキノン系老化防止剤;などが挙げられる。これらの老化防止剤は、単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
老化防止剤の使用量は、合成ポリイソプレン100質量部に対して、好ましくは0.05〜10質量部であり、更に好ましくは0.1〜5質量部である。
この量が少ないと、加硫反応が進行しない場合がある。また、この量が過大であると、経済的に不利であるだけではなく、ディップ成形体の引張強度が低下する場合がある。
ディップ成形用組成物の調製方法は、特に限定されない。当該調整方法としては、ボールミル、ニーダー、ディスパー等の分散機を用いて、合成ポリイソプレンラテックスに硫黄系加硫剤、酸化亜鉛、加硫促進剤、前記の分散剤およびジアルキルジチオカルバミン酸の一価の塩、並びに必要に応じて配合されるその他の配合剤を混合する方法や、予め上記の分散機を用いて、合成ポリイソプレンラテックス以外の所望の配合成分の水性分散液を調製した後、該水性分散液を合成ポリイソプレンラテックスに混合する方法などが挙げられる。合成ポリイソプレンラテックスに前記の分散剤およびジアルキルジチオカルバミン酸の一価の塩を予め混合した後、その他の配合剤を添加することもできる。
ディップ成形用組成物のpHは、7以上であることが好ましく、pH8〜12の範囲であることがより好ましい。
ディップ成形用組成物の固形分濃度は、通常、15〜65質量%の範囲にある。
本発明のディップ成形用組成物は、ディップ成形に供する前に、熟成(前加硫ともいう。)させることが好ましい。
前加硫する時間は、特に限定されず、前加硫温度にも依存するが、好ましくは1〜14日間であり、更に好ましくは1〜7日間である。この時間が短すぎても長すぎても得られるディップ成形体の引張強度が低下する傾向にある。
前加硫温度は、好ましくは20〜40℃である。
前加硫した後、ディップ成形に供されるまで、好ましくは10〜30℃の温度で貯蔵することが好ましい。高温のまま貯蔵すると、得られるディップ成形体の引張強度が低下する傾向にある。
本発明のディップ成形体は、本発明のディップ成形用組成物をディップ成形して得られる。
ディップ成形は、ディップ成形用組成物に型を浸漬し、型の表面に当該組成物を沈着させ、次に型を当該組成物から引き上げ、型の表面に沈着した当該組成物を乾燥させる方法である。ディップ成形用組成物に浸漬される前の型は予熱され得る。型をディップ成形用組成物に浸漬する前又は型をディップ成形用組成物から引き上げた後、必要に応じて凝固剤を使用できる。凝固剤の使用方法の具体例は、ディップ成形用組成物に浸漬する前の型を凝固剤溶液に浸漬して型に凝固剤を付着させる方法(アノード凝着浸漬法)、ディップ成形用組成物を沈着させた型を凝固剤溶液に浸漬する方法(ティーグ凝着浸漬法)である。
厚みムラの少ないディップ成形体が得られる点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
凝固剤の具体例は、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどのハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛などの硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛など酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;などの水溶性多価金属塩である。なかでも、カルシウム塩が好ましく、硝酸カルシウムがより好ましい。これらの水溶性多価金属塩は、単独または2種以上組み合わせて用いることができ、好ましくは水溶液の状態で使用する。この水溶液は、さらにメチルアルコール、エチルアルコールなどの水溶性有機溶媒やノニオン性界面活性剤を含有し得る。凝固剤の濃度は、水溶性多価金属塩の種類によっても異なるが、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは15〜30質量%である。
型をディップ成形用組成物から引き上げた後、通常、加熱して型上に形成された沈着物を乾燥させる。乾燥条件は適宜選択する。
次いで、加熱して、型上に形成された沈着物を加硫する。
加硫時の加熱条件は、特に限定されないが、好ましくは60〜150℃、より好ましくは100〜130℃の加熱温度で、好ましくは10〜120分の加熱時間である。
加熱の方法は、特に限定されないが、オーブンの中で温風で加熱する方法、赤外線を照射して加熱する方法などである。
ディップ成形用組成物を沈着させた型を加熱する前あるいは加熱した後に、水溶性不純物(例えば、余剰の界面活性剤、凝固剤)を除去するために、好ましくは型を水または温水で洗浄する。
加硫後のディップ成形体は、型から脱着される。脱着方法の具体例は、手で型から剥がす方法、水圧又は圧縮空気圧力により剥がす方法である。形成途中のディップ成形体が脱着に対する十分な強度を有していれば、途中工程で脱着し、引き続き、その後の処理を継続してもよい。
ディップ成形体が手袋である場合、ディップ成形体同士の接触面における密着を防止し、着脱の際の滑りをよくするために、タルク、炭酸カルシウムなどの無機微粒子又は澱粉粒子などの有機微粒子を手袋表面に散布したり、微粒子を含有するエラストマー層を手袋表面に形成したり、手袋の表面層を塩素化したりしてもよい。
以下、実施例により本発明が詳細に説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の「%」および「部」は、特に断りのない限り、質量基準である。
各種の物性は以下のように測定された。
(1) 合成ポリイソプレンの重量平均分子量
合成ポリイソプレンラテックスを固形分濃度で0.1質量%となるように、テトラヒドロフランに溶解した。この溶液をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量として算出した。
(2) 合成ポリイソプレンのシス結合単位量
合成ポリイソプレンラテックスにメタノールを添加し、凝固した。得られた凝固物を乾燥した後、1H−NMR分析して、合成ポリイソプレン中の全イソプレン単位に対するシス結合単位の割合で示す。
(3) 合成ポリイソプレンラテックスの体積平均粒子径
光散乱回折粒子測定装置(コールター社製:LS−230)を用いて、体積平均粒子径として求めた。
(4) ディップ成形体の引張強度
ディップ成形体の引張強度は、ASTM D412に基づいて測定された。ディップ成形フィルムをダンベル(Die−C)で打ち抜き、引張強度測定用試験片を作製した。当該試験片をテンシロン万能試験機((株)オリエンテック製RTC−1225A)で引張速度500mm/minで引っ張り、破断直前の引張強度(単位:MPa)を測定した。
(5) ディップ成形用組成物の貯蔵安定性
得られたディップ成形用組成物を、恒温槽内にて、30℃で7日間貯蔵した。その後、ディップ成形用組成物を100メッシュの金網に通し、金網上に残存する凝集物の乾燥質量を計測した。この乾燥凝集物のディップ成形用組成物中の全固形分に対する百分率割合で示す。この数値が大きいと、ディップ成形用組成物は貯蔵安定性に劣ることを示している。
(製造例1)
合成ポリイソプレン(日本ゼオン(株)製:NIPOL IR2200L)をシクロヘキサンに溶解し、固形分濃度10質量%のポリイソプレンのシクロヘキサン溶液を調整した。当該シクロヘキサン溶液と固形分濃度1.5質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液を質量比で1:1となるように混合し、攪拌した。次いで、得られた混合物をローター・ステーター型乳化機(太平洋機工(株)製マイルダー307)により10回循環し、乳化液を得た。当該乳化液から80℃、−0.01〜−0.09MPaの減圧下でシクロヘキサンを留去し、その後、連続遠心分離機(アルファラバル社製SGR509)で遠心分離を行い、固形分濃度57質量%の合成ポリイソプレンラテックスを得た。この合成ポリイソプレンラテックスの体積平均粒子径は、1.0μmであった。合成ポリイソプレンの重量平均分子量は約1,600,000で、そのシス結合単位の割合は、98質量%であった。
(実施例1)
製造例1で得た合成ポリイソプレンラテックスを攪拌しながら、合成ポリイソプレン100質量部に対して、0.4質量部のジブチルジチオカルバミン酸ナトリウムを含有する5質量%水溶液を添加した。
さらに、分散剤として、スチレン−マレイン酸モノ−sec−ブチルエステル−マレイン酸モノメチルエステル重合体(Hercules社製:Scripset550;なお、マレイン酸モノ−sec−ブチルエステルとマレイン酸モノメチルエステルのモル比は、2:1であり、重量平均分子量は84,700であった。)を水酸化ナトリウムを用いて100%中和して得られたナトリウム塩水溶液(10質量%濃度)を、当該ラテックスの合成ポリイソプレン100質量部に対して、固形分換算で0.6質量部に相当する量添加した。
次いで、得られた混合物を攪拌しながら、混合物中の合成ポリイソプレン100質量部に対して、固形分換算で酸化亜鉛1.5質量部、硫黄1.5質量部、老化防止剤(グッドイヤー社製Wingstay L)2質量部、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛0.35質量部、メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩0.3質量部となるように、各配合剤の水分散液を添加した後、水酸化カリウム水溶液を添加して、pHを10.5に調整したディップ成形用組成物を得た。
得られたディップ成形用組成物の一部を用いて、ディップ成形用組成物の貯蔵安定性を測定し、その結果を表1に示す。
(ディップ成形)
表面がすり加工されたガラス型(直径約5cm、すり部長さ約15cm)を洗浄し、70℃のオーブン内で予備加熱した後、16質量%の硝酸カルシウム及び0.05質量%のポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王(株)製エマルゲン109P)からなる凝固剤水溶液に5秒間浸漬し、取り出した。次いで、凝固剤で被覆されたガラス型を70℃のオーブン内で乾燥した。その後、凝固剤で被覆されたガラス型をオーブンから取り出し、上記ディップ成形用組成物に10秒間浸漬してから取り出し、室温で60分間乾燥した。フィルムで被覆された型をオーブン内に置き、25分間で50℃から60℃まで昇温して予備乾燥し、70℃のオーブン内に10分間置いて更に乾燥した。型を60℃の温水中に2分間浸漬した後、室温で10分間風乾した。その後、フィルムで被覆された型をオーブン内に置き、100℃で60分間加硫を行った。加硫されたフィルムで被覆された型を室温まで冷却し、タルクを散布した後、当該フィルムをガラス型から剥離した。得られたフィルムの引張強度を測定し、結果を表1に示す。
(ディップ成形用組成物の経時変化)
ディップ成形用組成物を室温で貯蔵し、一日毎に、前記のディップ成形を行い、経時でディップ成形体を得た。得られたディップ成形体の引張強度を測定し、ディップ成形用組成物の調製から、2日間から7日間経過後のディップ成形用組成物を用いて得られたディップ成形体の引張強度を表1に示す。
また、経時で得られたディップ成形体の表面を目視で観察したところ、いずれのディップ成形体においても、クラックの発生は観察されなかった。
(実施例2)
合成ポリイソプレンラテックスに添加するジブチルジチオカルバミン酸ナトリウムの量を0.2質量部に変更する以外は、実施例1と同様に行った。測定結果を表1に示す。
また、経時で得られたディップ成形体の表面を目視で観察したところ、いずれのディップ成形体においても、クラックの発生は観察されなかった。
(実施例3)
合成ポリイソプレンラテックスに添加するジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.4質量部の代わりに、0.2質量部を含有する5質量%のN−ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩水溶液を用いる以外は、実施例1と同様に行った。測定結果を表1に示す。
また、経時で得られたディップ成形体の表面を目視で観察したところ、いずれのディップ成形体においても、クラックの発生は観察されなかった。
(比較例1)
ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウムを添加しない以外は、実施例1と同様に行った。測定結果を表1に示す。
また、経時で得られたディップ成形体の表面を目視で観察したところ、いずれのディップ成形体においても、クラックの発生は観察されなかった。
(比較例2)
スチレン−マレイン酸モノ−sec−ブチルエステル−マレイン酸モノメチルエステル重合体のナトリウム塩を添加しない以外は、実施例1と同様に行った。測定結果を表1に示す。
また、経時で得られたディップ成形体の表面を目視で観察したところ、いずれのディップ成形体においても、クラックの発生は観察されなかった。
(比較例3)
ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を、0.4質量部から0.8質量部に変更する以外は、実施例1と同様に行った。測定結果を表1に示す。
また、経時で得られたディップ成形体の表面を目視で観察したところ、ディップ成形用組成物の調製から4日間経過した以降のディップ成形体において、クラックの発生が観察された。
表1から、次のようなことがわかる。
ジチオカルバミン酸類の一価の塩を含有しない比較例1のディップ成形用組成物は、前加硫期間を長くしないと、引張強度に優れるディップ成形体が得られない。
特定の分散剤を含有しない比較例2のディップ成形用組成物は、貯蔵安定性に劣る上に、前加硫期間を長くしても、引張強度に優れるディップ成形体が得られない。
ジチオカルバミン酸類の一価の塩の含有量が規定する範囲を超える比較例3のディップ成形用組成物は、前加硫期間が短くても引張強度に優れるディップ成形体が得られるものの、ディップ成形用組成物の調製から4日間経過した以降のディップ成形体においてクラックが発生した。
以上の比較例に比して、本発明の範囲内である実施例1〜3のディップ成形用組成物は貯蔵安定性に優れており、比較的短い熟成期間で引張強度に優れ、かつ、経時でのクラック発生が抑制されたディップ成形体を与える。
本発明のディップ成形用組成物をディップ成形してなる成形体は、哺乳瓶用乳首、スポイト、チューブ、水枕、バルーンサック、カテーテル、コンドームなどの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具;加圧成形用バック、ガス貯蔵用バックなどの工業用品;手術用、診察用、家庭用、農業用、漁業用および工業用の手袋;指サックなどに好適である。

Claims (6)

  1. 合成ポリイソプレンラテックス、硫黄系加硫剤、酸化亜鉛、加硫促進剤、重量平均分子量が1,000〜150,000であるオレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体の塩、及び、合成ポリイソプレンラテックス中の合成ポリイソプレン100質量部に対して、0.1〜0.6質量部のジチオカルバミン酸類の一価の塩を含有してなり、前記オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体が、ビニル芳香族炭化水素と、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸およびイタコン酸からなる群から選択されるエチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステルとの重合体であることを特徴とするディップ成形用組成物。
  2. 前記オレフィン化合物−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル重合体が、スチレン−マレイン酸モノエステル重合体である請求項1記載のするディップ成形用組成物。
  3. 請求項1または2記載のディップ成形用組成物をディップ成形することを特徴とするディップ成形体の製造方法
  4. ディップ成形に供する前に、ディップ成形用組成物を20〜40℃で1〜14日間にわたり熟成する請求項3記載のディップ成形体の製造方法。
  5. 請求項3または4記載のディップ成形体の製造方法によって得られるディップ成形体。
  6. 成形体が、手袋、医療用品、玩具、工業用品または指サックである請求項5記載のディップ成形体。
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