本発明は、環構造を有するアクリル系樹脂を用いることを特徴としている。好ましい環構造を有するアクリル系樹脂としては、例えば、グルタル酸無水物樹脂、ラクトン環構造を有する樹脂、グルタルイミド樹脂などを挙げることができる。グルタル酸無水物樹脂としては、特に制限されないが、特開2007−254703記載の方法などに従って製造することができる。ラクトン環構造を有する樹脂としては、特開2008−9378記載の方法などに従って製造することができる。
グルタルイミド樹脂については、以下に詳述する。グルタルイミド樹脂としては具体的には、例えば、下記一般式(1)
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「グルタルイミド単位」ともいう)と、
下記一般式(2)
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう)とを含むグルタルイミド樹脂を好適に用いることができる。
また、上記グルタルイミド樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3)
(式中、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
上記一般式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、R3は水素、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基であることが好ましく、R1はメチル基であり、R2は水素であり、R3はメチル基であることがより好ましい。
上記グルタルイミド樹脂は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR1、R2、およびR3が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
グルタルイミド単位は、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより、形成することができる。
また、無水マレイン酸等の酸無水物、または、このような酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸等をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成させることができる。
上記一般式(2)において、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、R6は水素またはメチル基であることが好ましく、R4は水素であり、R5はメチル基であり、R6はメチル基であることがより好ましい。
上記グルタルイミド樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR4、R5、およびR6が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
上記グルタルイミド樹脂は、上記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位として、スチレン、α−メチルスチレン等を含むことが好ましく、スチレンを含むことがより好ましい。
また、上記グルタルイミド樹脂は、芳香族ビニル構成単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R7、およびR8が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
上記グルタルイミド樹脂において、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、R3の構造等に依存して変化させることが好ましい。
一般的には、上記グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミド樹脂の20重量%以上とすることが好ましく、20重量%〜95重量%とすることがより好ましく、40重量%〜90重量%とすることがさらに好ましく、50重量%〜80重量%とすることが特に好ましい。
グルタルイミド単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性および透明性が低下したり、成形加工性、およびフィルムに加工したときの機械的強度が低下したりすることがない。
一方、グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれたりする傾向がある。また、上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に脆くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。
上記グルタルイミド樹脂において、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、特に限定されるものではなく、求められる物性に応じて適宜設定することが可能である。使用される用途によっては、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は0であってもよい。一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含む場合は、グルタルイミド樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上とすることが好ましく、10重量%〜40重量%とすることがより好ましく、15重量%〜30重量%とすることがさらに好ましく、15重量%〜25重量%とすることが特に好ましい。
芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足したり、フィルム加工時の機械的強度が低下したりすることがない。
一方、芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性が不足する傾向がある。
上記グルタルイミド樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに共重合されていてもよい。
その他の単位としては、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を挙げることができる。
これらのその他の単位は、上記グルタルイミド樹脂中に、直接共重合していてもよいし、グラフト共重合していてもよい。
上記グルタルイミド樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、1×104〜5×105であることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。
一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
また、上記グルタルイミド樹脂のガラス転移温度は特に限定されるものではないが、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であれば、得られる環構造を有するアクリル系樹脂の適用範囲を広げることができる。
一方、例えば、ガラス転移温度が上記範囲よりも低いと、耐熱性が要求される用途においては適用範囲が制限される。
また、上記グルタルイミド樹脂の酸価は特に限定されるものではないが、0.5mmol/g以下であることが好ましく、0.35mmol/g以下であることがより好ましい。酸価が上記範囲内であれば、得られる環構造を有するアクリル系樹脂の適用範囲を広げることができる。
一方、例えば、酸価が上記範囲より大きいと、溶融押出時の樹脂の発泡が起こりやすくなり、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
上記グルタルイミド樹脂において、一般式(1)〜(3)で表される単位の含有量(換言すれば、割合)は、特に限定されるものではなく、グルタルイミド樹脂に要求される物性や、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を成形してなる偏光子保護フィルムに要求される特性等に応じて決定すればよい。
具体的には、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を成形してなるフィルムを偏光子保護フィルム用途に用いる場合、芳香族ビニル単位を含む場合には、グルタルイミド単位と、芳香族ビニル単位との重量比を、0.5:1.0〜8.0:1.0とすることが好ましく、3.0:1.0〜7.0:1.0とすることがより好ましく、5.0:1.0〜6.5:1.0とすることがさらに好ましい。
グルタルイミド単位と、芳香族ビニル単位との重量比が上記範囲内であれば、実質的に配向複屈折を有さないグルタルイミド樹脂とすることができる。
ここで、上記グルタルイミド樹脂の製造方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
まず、(メタ)アクリル酸エステルを重合させることにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造する。なお、上記グルタルイミド樹脂が芳香族ビニル単位を含む場合には、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルとを共重合させ、(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を製造する。メタクリル酸メチル−スチレン共重合体は、例えば、特開昭57−149311、特開昭57−153009、特開平10−152505、特開2001−31046、特開2004−27191などに記載の方法に従って製造できる。
この工程において、上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを用いることが好ましく、メタクリル酸メチルを用いることがより好ましい。
これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単一種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種の(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより、最終的に得られるグルタルイミド樹脂に複数種類の(メタ)アクリル酸エステル単位を与えることができる。
また、上記グルタルイミド樹脂が芳香族ビニル単位を含む場合、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルとの重合割合を調整することにより、芳香族ビニル単位の割合を調整することができる。
上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、および(メタ)アクリル酸エステル重合体の構造は、特に限定されるものではなく、イミド化反応が可能なものであればよい。具体的には、リニアー(線状)ポリマー、ブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、および架橋ポリマー等のいずれであってもよい。
ブロックポリマーの場合、A−B型、A−B−C型、A−B−A型、およびこれら以外のタイプのブロックポリマーのいずれであってもよい。コアシェルポリマーの場合、ただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであってもよいし、それぞれが多層からなるものであってもよい。
次に、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体に、一級アミン(すなわち、イミド化剤)を添加し、イミド化を行う。これにより、上記グルタルイミド樹脂を製造することができる。
上記一級アミン、すなわち、イミド化剤は、特に限定されるものではなく、上記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位を生成できるものであればよい。具体的には、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンを挙げることができる。
また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素のように、加熱により、上記例示したアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。
上記例示したイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミン、アンモニア、シクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることが特に好ましい。
なお、このイミド化の工程においては、上記一級アミンに加えて、必要に応じて、閉環促進剤を添加してもよい。
このイミド化の工程において、上記一級アミンの添加割合を調整することにより、得られるグルタルイミド樹脂におけるグルタルイミド単位および(メタ)アクリル酸エステル単位の割合を調整することができる。
また、イミド化の程度を調整することにより、得られるグルタルイミド樹脂の物性や、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を成形してなる偏光子保護フィルムの光学特性等を調整することができる。
上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、または(メタ)アクリル酸エステル重合体をイミド化する方法は、特に限定されなく、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。例えば、押出機や、バッチ式反応槽(圧力容器)等を用いる方法により、上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、または(メタ)アクリル酸エステル重合体をイミド化することができる。
上記グルタルイミド樹脂を押出機を用いて製造する場合、用いる押出機は特に限定されるものではなく、各種押出機を用いることができる。具体的には、例えば、単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。
中でも、二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、原料ポリマー(すなわち、(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、または(メタ)アクリル酸エステル重合体)に対するイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)の混合を促進することができる。
二軸押出機としては、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、および噛合い型異方向回転式等を挙げることができる。中でも、噛合い型同方向回転式を用いることが好ましい。噛合い型同方向回転式の二軸押出機は、高速回転可能であるため、原料ポリマーに対するイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)の混合を、より一層促進することができる。
上記例示した押出機は単独で用いてもよいし、複数を直列につないで用いてもよい。例えば、特開2008−273140に記載のタンデム型反応押出機を用いることができる。
また、押出機には、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。このような構成によれば、未反応のイミド化剤、もしくはメタノール等の副生物やモノマー類を除去することができる。
また、上記グルタルイミド樹脂の製造には、押出機に代えて、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に用いることができる。
上記グルタルイミド樹脂を、バッチ式反応槽(圧力容器)を用いて製造する場合、そのバッチ式反応槽(圧力容器)の構造は特に限定されるものでない。
具体的には、原料ポリマーを加熱により溶融させ、攪拌することができ、イミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)を添加することができる構造を有していればよいが、攪拌効率が良好な構造を有するものであることが好ましい。
このようなバッチ式反応槽(圧力容器)によれば、反応の進行によりポリマー粘度が上昇し、撹拌が不十分となることを防止することができる。このような構造を有するバッチ式反応槽(圧力容器)としては、例えば、住友重機械(株)製の攪拌槽マックスブレンド等を挙げることができる。
上説したような方法によれば、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位の比率が所望に制御されたグルタルイミド樹脂を容易に製造することができる。
本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂に含有されうるその他の添加剤としては、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、安定剤、およびフィラー等の従来公知の添加剤を挙げることができる。また、上説した熱可塑性樹脂以外の樹脂もまた、その他の添加剤として含有させることができる。なお、その他の添加剤は、任意成分であり、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂は、これらのその他の添加剤を含まなくてもよい。
本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂は、上説した構成を有するため、溶融押出法によりフィルムに成形する際、成形機のロール等の汚染を低減し、フィルム欠陥の発生を防止することができる。つまり、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂によれば、溶融押出法によるフィルム成形によっても、成形機のロール等を汚染することなく、フィルム欠陥の少ないフィルムを製造することができる。
したがって、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂によれば、偏光子保護フィルムとして利用可能なフィルムを製造することができる。そこで、以下、本発明にかかる偏光子保護フィルムについて、説明する。
本発明にかかる偏光子保護フィルムは、上説した本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を成形してなるものであればよいが、延伸されたフィルム、すなわち、延伸フィルムであることが好ましい。
延伸フィルムによれば、機械的特性を向上させることができる。従来、延伸フィルムでは、位相差の発生を避けることが困難であったが、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂によれば、延伸処理を施しても位相差が実質的に発生させずに、機械的特性が向上した延伸フィルムを製造することができる。
なお、本発明にかかる偏光子保護フィルムが延伸フィルムである場合、一軸延伸した一軸延伸フィルムであってもよいし、さらに延伸工程を組み合わせて行って得られる二軸延伸フィルムであってもよい。
本発明にかかる偏光子保護フィルムが延伸フィルムである場合、その厚みは、特に限定されるものではないが、10μm〜200μmであることが好ましく、20μm〜150μmであることがより好ましく、30μm〜100μmであることがさらに好ましい。
フィルムの厚みが上記範囲内であれば、光学特性が均一で、ヘーズが良好な偏光子保護フィルムとすることができる。
一方、フィルムの厚みが上記範囲を越えると、フィルムの冷却が不均一になり、光学的特性が不均一になる傾向がある。また、フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、延伸倍率が過大になり、ヘーズが悪化する傾向がある。
本発明にかかる偏光子保護フィルムは、ヘーズが1%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
本発明にかかる偏光子保護フィルムのヘーズが上記範囲内であれば、フィルムの透明性を高いものとすることができる。それゆえ、本発明にかかる偏光子保護フィルムを、透明性が要求される用途に好適に用いることができる。
本発明にかかる偏光子保護フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましい。
全光線透過率が、上記範囲内であれば、フィルムの透明性を高いものとすることができる。それゆえ、本発明にかかる偏光子保護フィルムを、透明性が要求される用途に好適に用いることができる。
また、本発明にかかる偏光子保護フィルムは、光学異方性が小さいことが好ましい。特に、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが好ましい。換言すれば、面内位相差および厚み方向位相差がともに小さいことが好ましい。
より具体的には、面内位相差は原料フィルムに関しては、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましく、3nm以下であることがさらに好ましい。また、面内位相差は延伸フィルムに関しては、10nm以下であることが好ましく、6nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。
また、厚み方向位相差は原料フィルムに関しては、50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。また、厚み方向位相差は延伸フィルムに関しては、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
このような光学特性を有する構成とすれば、本発明のフィルムを、液晶表示装置の偏光板に備える偏光子保護フィルムとして用いることができる。
一方、フィルムの面内位相差が10nmを超えたり、厚み方向位相差が50nmを超えたりすると、本発明にかかる偏光子保護フィルムを、液晶表示装置の偏光板として用いる場合、液晶表示装置においてコントラストが低下するなどの問題が発生する場合がある。
本明細書では、説明の便宜上、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂をフィルム状に成形した後、延伸を施す前のフィルム、すなわち未延伸状態のフィルムを「原料フィルム」と称する。なお、該原料フィルムもまた、本発明にかかるフィルムの一実施形態であることを付言しておく。
なお、面内位相差(Re)および厚み方向位相差(Rth)は、それぞれ、以下の式により算出することができる。つまり、3次元方向について完全光学等方である理想的なフィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthともに0となる。
Re=(nx−ny)×d
Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d
なお、上記式中において、nx、ny、およびnzは、それぞれ、面内屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚さ、||は絶対値を表す。
また、本発明にかかる偏光子保護フィルムは、配向複屈折の値が、0〜0.1×10−3であることが好ましく、0〜0.01×10−3であることがより好ましい。
配向複屈折が上記範囲内であれば、環境の変化に対しても、成形加工時に複屈折が生じることなく、安定した光学的特性を得ることができる。
なお、本明細書において、特にことわりのない限り、「配向複屈折」とは、熱可塑性樹脂のガラス転移温度より5℃高い温度で、100%延伸した場合に発現する複屈折が意図される。配向複屈折(△n)は、前述のnx、nyを用いて説明すると、△n=nx−ny=Re/dで定義され、位相差計により測定することができる。
本発明にかかる偏光子保護フィルムは、光弾性係数の絶対値が、20×10−12m2/N以下であることが好ましく、10×10−12m2/N以下であることがより好ましく、5×10−12m2/N以下であることがさらに好ましい。
光弾性係数が上記範囲内であれば、本発明にかかる偏光子保護フィルムを液晶表示装置に用いても、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることがない。
一方、光弾性係数の絶対値が20×10−12m2/Nより大きいと、本発明にかかる偏光子保護フィルムを液晶表示装置に用いた場合、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生しやすくなったりする傾向がある。この傾向は、高温多湿環境下において、特に顕著となる。
なお、等方性の固体に外力を加えて応力(△F)を発生させると、一時的に光学異方性を呈し、複屈折(△n)を示すようになるが、本明細書において、「光弾性係数」とは、その応力と複屈折との比が意図される。すなわち、光弾性係数(c)は、以下の式により算出される。
c=△n/△F
ただし、本発明において、光弾性係数はセナルモン法により、波長515nmにて、23℃、50%RHにおいて測定した値である。
また、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂によれば、上記一般式(1)〜(3)で表される構造単位の組成比を変更することにより、位相差の大きなフィルムを製造することができる。つまり、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂は、偏光子保護フィルムだけでなく、位相差フィルム等の光学補償フィルムの製造に好適に用いることができる。
本発明にかかる偏光子保護フィルムは、上説したような特性を有するため、そのまま最終製品として各種用途に用いることができる。また、上説したような各種加工を施すことにより、用途の幅を広げることができる。
本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂は偏光子保護フィルムの用途の他には、具体的には、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)等に好適に用いることができる。
また、本発明の偏光子保護フィルムは、偏光子に貼り合わせて、偏光板として用いることができる。す上記偏光子は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の偏光子を用いることができる。具体的には、例えば、延伸されたポリビニルアルコールにヨウ素を含有させて得た偏光子等を挙げることができる。
ここで、本発明にかかる偏光子保護フィルムを製造する方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。つまり、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を成形してフィルムを製造できる方法であれば、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。
具体的には、例えば、射出成形、溶融押出フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、圧縮成形、紡糸成形等を挙げることができる。
また、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を溶解可能な溶剤に溶解させた後、成形させる溶液流延法やスピンコート法によって、本発明にかかるフィルムを製造することができる。
中でも、溶剤を使用しない溶融押出法を用いることが好ましい。溶融押出法によれば、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境への負荷を低減することができる。
また、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を用いるため、Tダイ製膜を用いるような高温での成形条件下でも、紫外線吸収剤の飛散による成形機の汚染やフィルム欠陥を発生させることなく、フィルムを製造することができる。
以下、本発明にかかる偏光子保護フィルムの製造方法の一実施形態として、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を溶融押出法により成形してフィルムを製造する方法について詳細に説明する。なお、以下の説明では、溶融押出法で成形されたフィルムを、溶液流延法等の他の方法で成形されたフィルムと区別して、「溶融押出フィルム」と称する。
本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を溶融押出法によりフィルムに成形する場合、まず、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を、押出機に供給し、該環構造を有するアクリル系樹脂を加熱溶融させる。
環構造を有するアクリル系樹脂は、押出機に供給する前に、予備乾燥することが好ましい。このような予備乾燥を行うことにより、押出機から押し出される樹脂の発泡を防ぐことができる。
予備乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料(すなわち、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂)をペレット等の形態にして、熱風乾燥機等を用いて行うことができる。
次に、押出機内で加熱溶融された環構造を有するアクリル系樹脂を、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイに供給する。このとき、ギアポンプを用いれば、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚みムラを低減させることができる。一方、フィルターを用いれば、環構造を有するアクリル系樹脂中の異物を除去し、欠陥の無い外観に優れたフィルムを得ることができる。
次に、Tダイに供給された環構造を有するアクリル系樹脂を、シート状の溶融樹脂として、Tダイから押し出す。そして、該シート状の溶融樹脂を2つの冷却ロールで挟み込んで冷却し、フィルムを成膜する。
上記シート状の溶融樹脂を挟み込む2つの冷却ロールの内、一方は、表面が平滑な剛体性の金属ロールであり、もう一方は、表面が平滑な弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールであることが好ましい。
このような剛体性の金属ロールと金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールとで、上記シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却して成膜することにより、表面の微小な凹凸やダイライン等が矯正されて、表面が平滑で厚みムラが5μm以下であるフィルムを得ることができる。
なお、本明細書において、「冷却ロール」とは、「タッチロール」および「冷却ロール」を包含する意味で用いられる。
上記剛体性の金属ロールとフレキシブルロールとを用いる場合であっても、何れの冷却ロールも表面が金属であるため、成膜するフィルムが薄いと、冷却ロールの面同士が接触して、冷却ロールの外面に傷が付いたり、冷却ロールそのものが破損したりすることがある。
そのため、上説したような2つの冷却ロールでシート状の溶融樹脂を挟み込んで成膜する場合、まず、該2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却し、比較的厚みの厚い原料フィルムを一旦取得する。その後、該原料フィルムを、一軸延伸または二軸延伸して所定の厚みのフィルムを製造することが好ましい。
より具体的に説明すると、厚み40μmの光学用フィルムを製造する場合、また、上記2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却し、一旦、厚み150μmの原料フィルムを取得する。その後、該原料フィルムを縦横二軸延伸により延伸させ、厚み40μmのフィルムを製造すればよい。
このように、本発明にかかる偏光子保護フィルムが延伸フィルムである場合、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂を一旦、未延伸状態の原料フィルムに成形し、その後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、延伸フィルムを製造することができる。
原料フィルムを延伸する場合、原料フィルムを成形後、直ちに、該原料フィルムの延伸を連続的に行ってもよいし、原料フィルムを成形後、一旦、保管または移動させて、該原料フィルムの延伸を行ってもよい。
なお、原料フィルムに成形後、直ちに該原料フィルムを延伸する場合、フィルムの製造工程において、原料フィルムの状態が非常に短時間(場合によっては、瞬間的)しか存在しないことがありうる。
また、上記原料フィルムは、その後、延伸される場合、延伸されるのに充分な程度のフィルム状を維持していればよく、完全なフィルムの状態である必要はない。また、上記原料フィルムは、完成品であるフィルムとしての性能を有していなくてもよい。
原料フィルムを延伸する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の延伸方法を用いればよい。具体的には、例えば、テンターを用いた横延伸、ロールを用いた縦延伸、及びこれらを逐次組み合わせた逐次二軸延伸等を用いることができる。
また、縦と横とを同時に延伸する同時二軸延伸方法を用いたり、ロール縦延伸を行った後、テンターによる横延伸を行う方法を用いたりすることもできる。
原料フィルムを延伸するとき、原料フィルムを一旦、延伸温度より0.5℃〜5℃、好ましくは1℃〜3℃高い温度まで予熱した後、延伸温度まで冷却して延伸することが好ましい。
上記範囲内で予熱することにより、原料フィルムの厚みを精度よく保つことができ、また、延伸フィルムの厚み精度が低下したり、厚みムラが生じたりすることがない。また、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりすることがない。
一方、原料フィルムの予熱温度が高すぎると、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりするといった弊害が発生する傾向にある。また、原料フィルムの予熱温度と延伸温度との差が小さいと、延伸前の原料フィルムの厚み精度を維持しにくくなったり、厚みムラが大きくなったり、厚み精度が低下したりする傾向がある。
なお、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂は、原料フィルムに成形後、延伸する際、ネッキング現象を利用して、厚み精度を改善することが困難である。したがって、本発明では、上記予熱温度の管理を行うことは、得られる偏光子保護フィルムの厚み精度を維持したり、改善したりするためには重要となる。
原料フィルムを延伸するときの延伸温度は、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムに要求される機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、変更すればよい。
一般的には、DSC法によって求めた原料フィルムのガラス転移温度をTgとした時に、(Tg−30℃)〜(Tg+30℃)の温度範囲とすることが好ましく、(Tg−20℃)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがより好ましく、(Tg)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがさらに好ましい。
延伸温度が上記温度範囲内であれば、得られる延伸フィルムの厚みムラを低減し、さらに、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を良好なものとすることができる。また、フィルムがロールに粘着するといったトラブルの発生を防止することができる。
一方、延伸温度が上記温度範囲よりも高くなると、得られる延伸フィルムの厚みムラが大きくなったり、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質が十分に改善できなかったりする傾向がある。さらに、フィルムがロールに粘着するといったトラブルが発生しやすくなる傾向がある。
また、延伸温度が上記温度範囲よりも低くなると、得られる延伸フィルムのヘーズが大きくなったり、極端な場合には、フィルムが裂けたり、割れたりするといった工程上の問題が発生したりする傾向がある。
上記原料フィルムを延伸する場合、その延伸倍率もまた、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムの機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、決定すればよい。延伸温度にも依存するが、延伸倍率は、一般的には、1.1倍〜3倍の範囲で選択することが好ましく、1.3倍〜2.5倍の範囲で選択することがより好ましく、1.5倍〜2.3倍の範囲で選択することがさらに好ましい。
延伸倍率が上記範囲内であれば、フィルムの伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を大幅に改善することができる。それゆえ、厚みムラが5μm以下であり、複屈折が実質的にゼロであり、さらに、ヘーズが1%以下である延伸フィルムを製造することができる。
また、本発明にかかる環構造を有するアクリル系樹脂において、環構造を有するアクリル系樹脂と紫外線吸収剤との混合割合を上説した範囲で調整し、適切な延伸条件を選択することにより、実質的に複屈折を生じさせることなく、かつ、ヘーズの増大を実質的に伴うことなく、厚みムラの小さなフィルムを容易に製造することができる。
次に、本発明のコーティング層を有する偏光子保護フィルムおよびその製造方法につて説明する。
本発明の環構造を有するアクリル系樹脂を上説した方法などで成形した偏光子保護フィルムにハードコート剤、及び、希釈溶剤を含有するコーティング溶液を用いてコーティング層を形成する。
コーティング剤は、反応すると硬くなるようなハードコート剤であれば特に限定されない。フッ素含有多官能性オリゴマー、シリコン含有多官能性オリゴマー、ウレタンアクリレート系多官能性オリゴマー等が挙げられ、コストや扱いやすさの面から、ウレタンアクリレート系多官能性オリゴマーが好ましく用いられる。ハードコート剤以外にも、液晶画面の機能を付与するような視野角改良剤、反射防止剤、スリップ剤等を添加してもよい。ハードコート剤を含む固形分の濃度は、コーティング剤中に10〜50重量%、好ましくは、15〜45重量%、さらに好ましくは、20〜40重量%である。ハードコート剤を含む固形分の濃度が10重量%未満の場合は、コーティング剤の粘度が下がり、塗工ムラが発生したり、コーティング層に亀裂が入ったりする。50重量%を超える場合は、コーティング剤の粘度が上昇し、乾燥時に気泡が発生したりする。
コーティング剤は、ハードコート剤を含む固形分と希釈溶剤、重合開始剤からなる。重合開始剤は、それ自身、公知のものを採用することができ、紫外線の照射により反応する光開始剤や熱開始剤、電子線照射開始剤等が用いられが、これに限定されることはない。この中で、生産安定性、コストの面から光開始剤が好ましく用いられる。
本発明の希釈溶剤には、塩素含有炭化水素を用いるが、希釈溶剤100重量%中、塩素含有炭化水素の濃度が20〜95重量%、好ましくは、30〜90重量%、さらに好ましくは、40〜85重量%である。希釈剤中の塩素含有炭化水素の濃度が20重量%未満の場合は、コーティング層の密着性が低下し、95重量%を超えると、フィルムに皺が入ったりする。塩素含有炭化水素は、特に限定されない。四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、パラ−ジクロロベンゼン、オルソ−ジクロロベンゼン等が例示されるが、コスト、取扱い性、乾燥性、曝露安全性の面から、クロロホルム、又は、塩化メチレンが好ましく用いられる。
コーティングの方法は特に限定されない。公知の方法を採用することができる。例えば、バーコーター法、ダイコーター法、グラビア法、マイクログラビア法、フレキソグラフィー法、オフセット法、フォトリソグラフィー法等の、公知の印刷法と同様の方法が挙げられる。生産性、コーティングの安定性から、バーコーター法、ダイコーター法、グラビア法、マイクログラビア法、フレキソグラフィー法が好ましく用いられる。
コーティング層の厚みは、機能を付与するために適宜対応することが可能であるが、好ましくは、1〜20μm、さらに好ましくは、2〜15μmである。コーティング層が1μm未満では、鉛筆硬度が十分ではない場合があり、20μmを越えると積層フィルムが脆くなる場合がある。
コーティング後の溶剤の乾燥は、使用する溶剤と基材樹脂フィルムの軟化温度に見合った条件を適宜採用することができる。乾燥の方法は、公知の方法を採用することができる。加熱された乾燥炉の中に熱風を通し、その中をコーティングしたフィルムを搬送させ、規定時間熱風に曝すことにより乾燥することができる。
乾燥後の硬化反応の方法は特に限定されない。公知の方法を採用することができる。使用する反応の開始剤に見合った、紫外線(UV)照射法、電子線(EB)照射法、熱硬化法、吸湿硬化法等が挙げられる。硬化の効率、硬化の安定性、品質の安定性から、紫外線硬化法が好ましく用いられる。溶剤乾燥後のフィルムを冷却ドラムに抱かせフィルム自身の温度が上がらないようにしながら、窒素雰囲気下で紫外線を照射することにより硬化させる方法が一般的である。
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
実施例に記載される各物性値の評価は、以下の方法を用いて実施した。
(ヘイズ)
JIS K 7136に準拠し、日本電色製ヘイズメーターNDH−2000型を用いて測定した。単位は、%。
(全光線透過率)
JIS K 7161−1に準拠し、日本電色製ヘイズメーターNDH−2000型を用いて測定した。単位は、%。
(密着性)
JIS G 3312に準拠し、スリットによる碁盤目試験を実施した。基材フィルムを傷つけないように、スリット板を用いて、120mm×120mmの1mm間隔の10×10マスの計100マス中の剥離した個数を数値で表記した。単位は、個/100個。
(鉛筆硬度)
JIS K 5400−5−4に準拠し、ガラス板の上でフィルムをセロハンテープで固定し、4.9N荷重で測定した。各鉛筆でn=5で実施し、傷が付いた本数を示した。単位は、本/5本。また、鉛筆で掻いた時に、フィルムやコーティング層が破損したものを×で表記した。
(コーティング層の外観)
A4サイズのフィルムを目視で観察し、次の判定基準で外観を判定した。
○;気泡、塗工ムラ、亀裂、皺などの異常が観察されない。
×;気泡、塗工ムラ、亀裂、皺など、少なくとも1種類の異常が観察される。
(フィルムの脆さ)
JIS K 7127に準拠し、フィルムを用いて、温度が23゜C、試験速度が50mm/分でフィルムの引張伸びを測定した。単位は、%。
(樹脂製造例1)
スチレン含有量が11モル%のメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(Mw10.5万、以下、MS樹脂という)を原料樹脂とし、イミド化剤としてモノメチルアミン(三菱ガス化学製)によりイミド化し、イミド化MS樹脂を製造した。
使用した押出機は口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230゜C、スクリュー回転数は150rpmとした。MS樹脂を2kg/Hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して25重量部のモノメチルアミンを注入した。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のメチルアミンをベント口の圧力を絶対圧0.02MPaにして脱揮した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザーでペレット化することにより、イミド化MS樹脂(1)を得た。
得られたイミド化MS樹脂(1)を口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機にて、押出機各温調ゾーンの設定温度を230゜C、スクリュー回転数150rpmとし、ホッパーから1kg/Hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、樹脂に対して8重量部の炭酸ジメチルと2重量部のトリエチルアミンの混合液を、ノズルから注入して樹脂中のカルボキシル基の低減を行った。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰の炭酸ジメチルをベント口の圧力を絶対圧0.02MPaにして除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却した後、ペレタイザーでペレット化し、酸価を低減したイミド化MS樹脂(2)を得た。
さらに、イミド化MS樹脂(2)を、口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機に、押出機各温調ゾーンの設定温度を230゜C、スクリュー回転数150rpm、供給量1kg/Hrの条件で投入した。ベント口の圧力を絶対圧0.005MPaとして、再び未反応の副原料などの揮発分を除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた脱揮したイミド樹脂を水槽で冷却した後、ペレタイザーでペレット化することにより、グルタルイミドアクリル樹脂(A−1)を得た。
なお、得られたグルタルイミドアクリル樹脂(A−1)は、常設の実施形態に記載した一般式(1)で表されるグルタルイミド単位と、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位と、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位とが共重合したグルタルイミドアクリル樹脂に相当する。
(樹脂製造例2)
樹脂製造例1のMS樹脂をアクリル酸エステル系樹脂であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂(Mw:10.5)に変え、イミド化剤であるモノメチルアミン(三菱ガス化学株式会社製)を樹脂に対して3重量部とした以外は、樹脂製造例1と同様とし、イミド化PMMA樹脂(A−2)を製造した。この、イミド化PMMA樹脂は、実施形態に記載した一般式(1)で表される単位と一般式(2)で表される単位とが共重合したイミド樹脂に相当する。
(フィルムの製造方法)
得られたペレットを、出口にT型ダイスを接続した単軸溶融押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を280゜C、スクリュー回転数を100rpmとし、樹脂ペレットの供給量を10kg/Hrの割合で供給し、溶融押出しすることにより、約130μmのフィルムを得た。
このフィルムを145゜Cにて二軸延伸を実施し、延伸フィルムを得た。
樹脂製造例1で得られたペレットを用いて製造したフィルムをフィルム(A−1), 樹脂製造例2で得られたペレットを用いて製造したフィルムをフィルム(A−2)とする。
(コーティング剤の製造)
(製造例1〜11)
表1に示したコーティング剤の配合処方にて製造例1〜11を製造した。表1に示すベースポリマーと溶剤を規定の濃度になるように計量、混合し、室温で攪拌してベースポリマーを溶解させる。その後、表1に示す光開始剤、その他添加剤を溶解させ、コーティング剤の溶液を得た。
(実施例1〜6及び比較例1〜8)
表2に示したフィルムとコーティング剤の溶液の組み合わせにてコーティングフィルムを製造した。表2に示すコーティング剤のドライベースの厚みになるようバーコーターでフィルムの上に均一にコーティングし、表2の乾燥温度で1分間溶剤を乾燥させる。乾燥させた後、メタルハライドランプを擁し、高さが180mm、照射照度120W/cmのUV照射機にて、積算光量が300mJ/cm2の条件でUV硬化させた。このコーティングフィルムのヘイズ、全光線透過率、密着性、鉛筆硬度、コーティング層の外観、フィルムの脆さを上説の方法にて評価に供した。結果を表3に示す。
なお、表1に示した、UV−1700BおよびUV−7510B(日本合成化学社製)はウレタンアクリレートオリゴマーの市販品、また、EFKA-3030(Ciba社製)は有機シロキサン系化合物である。
表3から、本願の発明は、鉛筆硬度、コーティングの密着性、外観に優れることが分かる。