実施の形態1.
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用前照灯装置で使用される前照灯ユニット210の内部構造を説明する概略断面図である。図1は、灯具の光軸Xを含む鉛直平面によって切断された前照灯ユニット210を灯具左側から見た断面を示している。前照灯ユニット210は車両の車幅方向の左右に1灯ずつ配置される配光可変式前照灯であり、その構造は実質的に左右同等なので代表して車両右側に配置される前照灯ユニット210Rの構造を説明する。前照灯ユニット210Rは、車両前方方向に開口部を有するランプボディ212とこのランプボディ212の開口部を覆う透明カバー214で形成される灯室216を有する。灯室216には、光を車両前方方向に照射する灯具ユニット10が収納されている。灯具ユニット10の一部には、当該灯具ユニット10の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218はランプボディ212の内壁面に立設されたボディブラケット220とネジ等の締結部材によって接続されている。したがって、灯具ユニット10は灯室216内の所定位置に固定されると共に、ピボット機構218aを中心として、例えば前傾姿勢または後傾姿勢等に姿勢変化可能となる。
また、灯具ユニット10の下面には、曲線道路走行時等に進行方向を照らす曲線道路用配光可変前照灯(Adaptive Front-lighing System:AFS)を構成するためのスイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定されている。スイブルアクチュエータ222は車両側から提供される操舵量のデータやナビゲーションシステムから提供される走行道路の形状データ、前方車と自車の相対位置の関係等に基づいて灯具ユニット10をピボット機構218aを中心に進行方向に旋回(スイブル:swivel)させる。その結果、灯具ユニット10の照射領域が車両の正面ではなく曲線道路のカーブの先に向き、運転者の前方視界を向上させる。スイブルアクチュエータ222は、例えばステッピングモータで構成することができる。なお、スイブル角度が固定値の場合には、ソレノイドなども利用可能である。
スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。ユニットブラケット224には、ランプボディ212の外部に配置されたレベリングアクチュエータ226が接続されている。レベリングアクチュエータ226は例えばロッド226aを矢印M、N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。ロッド226aが矢印M方向に伸長した場合、灯具ユニット10はピボット機構218aを中心として後傾姿勢になるように揺動する。逆にロッド226aが矢印N方向に短縮した場合、灯具ユニット10はピボット機構218aを中心として前傾姿勢になるように揺動する。灯具ユニット10が後傾姿勢になると、光軸を上方に向けるレベリング調整ができる。また、灯具ユニット10が前傾姿勢になると、光軸を下方に向けるレベリング調整ができる。このような、レベリング調整をすることで車両姿勢に応じた光軸調整ができる。その結果、車両用前照灯装置210による前方照射の到達距離を最適な距離に調整することができる。
なお、このレベリング調整は、車両走行中の車両姿勢に応じて実行することもできる。例えば、車両が走行中に加速する場合は後傾姿勢となり、逆に減速する場合は前傾姿勢となる。したがって、車両用前照灯装置210の照射方向も車両の姿勢状態に対応して上下に変動して、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで実行することで走行中でも前方照射の到達距離を最適に調整できる。これを「オートレベリング」と称することもある。
灯室216の内 壁面、例えば、灯具ユニット10の下方位置には、灯具ユニット10の点消灯制御や配光パターンの形成制御を実行する前照灯装置制御部40が配置されている。図2の場合、前照灯ユニット210Rを制御するための前照灯装置制御部40Rが配置されている。この前照灯装置制御部40Rは、スイブルアクチュエータ222、レベリングアクチュエータ226等の制御も実行する。
灯具ユニット10はエーミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ226のロッド226aとユニットブラケット224の接続部分に、エーミング調整時の揺動中心となるエーミングピボット機構を配置する。また、ボディブラケット220とランプブラケット218の接続部分に、車両前後方向に進退する一対のエーミング調整ネジを車幅方向に間隔をあけて配置する。例えば2本のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に前傾姿勢となり光軸が下方に調整される。同様に2本のエーミング調整ネジを後方に引き戻せば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に後傾姿勢となり光軸が上方に調整される。また、車幅方向左側のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に右旋回姿勢となり右方向に光軸が調整される。また、車幅方向右側のエーミング調整ネジを前方に進出させれば、灯具ユニット10はエーミングピボット機構を中心に左旋回姿勢となり左方向に光軸が調整される。このエーミング調整は、車両出荷時や車検時、車両用前照灯装置210の交換時に行われる。そして、車両用前照灯装置210が設計上定められた規定の姿勢に調整され、この姿勢を基準に本実施形態の配光パターンの形成制御が行われる。
灯具ユニット10は、回転シェード12を含むシェード機構18、光源としてのバルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、投影レンズ20で構成される。バルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施形態では、バルブ14をハロゲンランプで構成する例を示す。リフレクタ16はバルブ14から放射される光を反射する。そして、バルブ14からの光およびリフレクタ16で反射した光は、その一部がシェード機構28を構成する回転シェード12を経て投影レンズ20へと導かれる。
図2は、回転シェード12の概略斜視図である。回転シェード12は、回転軸12aを中心にシェード回転モータにより回転される円筒形状の部材である。また、回転シェード12は軸方向に一部が切り欠かれた切欠部22を有し、当該切欠部22以外の外周面12b上に板状のシェードプレート24を複数保持している。回転シェード12は、その回転角度に応じて投影レンズ20の後方焦点を含む後方焦点面の位置に切欠部22または、シェードプレート24のいずれか1つを移動させることができる。そして、回転シェード12の回転角度に対応して光軸X上に位置するシェードプレート24の稜線部の形状に従う配光パターンが形成される。例えば、回転シェード12のシェードプレート24のいずれか1つを光軸X上に移動させてバルブ14から照射された光の一部を遮光することで、ロービーム用配光パターンまたは一部にロービーム用配光パターンの特徴を含む配光パターンを形成する。また、光軸X上に切欠部22を移動させてバルブ14から照射された光を非遮光とすることでハイビーム用配光パターンを形成する。
回転シェード12は、例えばモータ駆動により回転可能であり、モータの回転量を制御することで回転所望の配光パターンを形成するためのシェードプレート24または切欠部22を光軸X上に移動させる。なお、回転シェード12の外周面12bの切欠部22を省略して、回転シェード12に、遮光機能だけを持たせてもよい。そして、ハイビーム用配光パターンを形成する場合は、例えばソレノイド等を駆動して回転シェード12を光軸Xの位置から退避させるようにする。このような構成にすることで、例えば、回転シェード12を回転させるモータがフェールしてもロービーム用配光パターンまたはそれに類似する配光パターンで固定される。つまり、回転シェード12がハイビーム用配光パターンの形成姿勢で固定されてしまうことを確実に回避してフェールセーフ機能を実現できる。
投影レンズ20は、車両前後方向に延びる光軸X上に配置され、バルブ14は投影レンズ20の後方焦点面よりも後方側に配置される。投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を反転像として灯具ユニット210前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。
図3は、上述のように構成された前照灯ユニット210を含む車両用前照灯装置30と車両100側の構成を説明する機能ブロック図である。車両用前照灯装置30は、左前照灯ユニット210Lと右前照灯ユニット210Rを含む。本実施形態において、左前照灯ユニット210Lと右前照灯ユニット210Rにそれぞれ存在する同等の機能の構成部材について説明上特に区別することが必要な場合には、左前照灯ユニット210L側の構成部材の符号に「L」を付し、右前照灯ユニット210R側の構成部材の符号に「R」を付す。
左前照灯ユニット210Lは前照灯装置制御部40Lによって制御され、右前照灯ユニット210Rは前照灯装置制御部40Rによって制御される。本実施形態の車両用前照灯装置30は、左前照灯ユニット210Lの灯具ユニット(以下、「左灯具ユニット10L」という)で形成する部分配光パターンと、右前照灯ユニット210Rの灯具ユニット(以下、「右灯具ユニット10R」という)で形成する部分配光パターンを重畳合成して1つの全体配光パターンを作り出す。したがって、左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rの統合制御部として、例えば前照灯装置制御部40Lが照射制御部74を含む。照射制御部74は、左灯具ユニット10Lおよび右灯具ユニット10Rにおける個別配光パターンを形成するように前照灯装置制御部40Lおよび前照灯装置制御部40Rの制御状態を管理する。なお、照射制御部74は、前照灯装置制御部40R側に含まれてもよい。
照射制御部74によって制御状態が決定される前照灯装置制御部40Lは、左灯具ユニット210Lのシェード回転モータ28Lを制御して個別配光パターンの形状を決定する。また、前照灯装置制御部40Lは、左灯具ユニット210Lの電源回路104Lの制御を行いバルブ14Lの点灯制御を行ったり、スイブルアクチュエータ222Lを制御してスイブル制御を行う。同様に、照射制御部74によって制御状態が決定される前照灯装置制御部40Rは、右灯具ユニット210Rのシェード回転モータ28Rを制御して個別配光パターンの形状を決定する。また、前照灯装置制御部40Rは、右灯具ユニット210Rの電源回路104Rの制御を行いバルブ14Rの点灯制御を行ったり、スイブルアクチュエータ222Rを制御してスイブル制御を行う。
車両100の車両制御部102には、前走車や対向車、歩行者などの対象物を検出するために対象物の認識手段として例えばステレオカメラなどのカメラ108が接続されている。なお、車両前方に車両用前照灯装置30による照射を抑制すべき対象物を検出する手段は適宜変更可能であり、カメラ108に代えてミリ波レーダや赤外線レーダなど他の検出手段を用いてもよい。また、それらを組み合わせてもよい。カメラ108は、車両用前照灯装置30の制御専用のものでもよいし、他のシステムと共用するカメラでもよい。
また、車両制御部102は、車両100に通常搭載されているステアリングセンサ110、車速センサ112などからの情報も取得可能である。さらに、車両制御部102は、ナビゲーションシステム114から道路の形状情報や形態情報、道路標識の設置情報などを取得することもできる。これらの情報を事前に取得することにより、照射制御部74は、走行道路に適した配光パターンをスムーズに形成できる。
図4は、照射制御部74のさらに詳細な機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子で実現でき、ソフトウェア的にはメモリにロードされたコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである
車両位置検出部76は、カメラ108により撮影された画像データを車両制御部102から受け取り、車両を示す特徴点を画像データ内で探索することで、前走車の位置を検出する。検出された前走車の位置情報は、車両追従制御部80に送られる。
車両追従制御部80は、前走車の有無およびその位置の変化に応じた最適の配光パターンで車両前方を照射すべく、左灯具ユニット10Lおよび右灯具ユニット10Rの配光パターンとスイブル角度を制御する。車両追従制御部80は、スイブル角度決定部82とパターン制御部84とを含む。
スイブル角度決定部82は、車両位置検出部76で前走車が検出された場合に、前走車位置の変化に追従して配光パターンの非照射領域(以下、「遮光領域」ともよぶ)が移動するように、左灯具ユニット10Lおよび右灯具ユニット10Rの車両追従スイブル角度βを決定する。前走車が検出されない場合には、左灯具ユニット10Lおよび右灯具ユニット10Rのスイブル駆動は行われない。
パターン制御部84は、車両位置検出部76で検出された前走車を考慮した最適な配光パターンを選択する。そして、選択された配光パターンを形成するシェードプレート24が光軸X上に移動するように、シェード回転モータ28L、28Rを駆動する。例えは、自車の前方に先行車や対向車が検出された場合には、パターン制御部84は、ロービーム用合成配光パターンを形成してグレアを防止するべきであると判定する。そして、パターン制御部84は、左灯具ユニット10Lのシェード回転モータ28Lを駆動して、回転シェード12Lによりバルブ14Lからの光を所定量遮光するロービーム用個別配光パターンを形成する。同様に、パターン制御部84は、右灯具ユニット10Rのシェード回転モータ28Lを駆動して、回転シェード12Rによりバルブ14Rからの光を所定量遮光するロービーム用個別配光パターンを形成する。
また、パターン制御部84は自車の前方に先行車や対向車が検出されない場合には、照射範囲を広げたハイビーム用合成配光パターンを形成して運転者の視界を向上させるべきであると判定する。そして、左灯具ユニット10Lおよび右灯具ユニット10Rの回転シェード12L、12Rにより遮光を行わないハイビーム用個別配光パターンを形成する。また、パターン制御部84は交通法規が左側通行の地域の場合で前走車が存在せず対向車または歩行者が存在する場合には自車線側のみハイビームとする特殊ハイビーム用配光パターンの1つである左片ハイ合成配光パターンを形成する。また、前走車のみ存在し対向車または歩行者が存在しない場合には、対向車線側のみをハイビームにする特殊ハイビーム用配光パターンの1つである右片ハイ合成配光パターンを形成する等の制御を行う。
パターン制御部84により形成される合成配光パターンについては、図5を参照して後述する。
曲率推定部78は、ステアリングセンサ110によって検出される操舵角と車速センサ112によって検出される車速とを受け取り、車両が走行中の道路の曲率を推定する。別法として、曲率推定部78は、ナビゲーションシステム114から走行中の道路の形状情報を受け取り、車両が走行中の道路の曲率を算出してもよい。推定された曲率は、可能範囲設定部86に送られる。
可能範囲設定部86は、曲率推定部78で推定された道路の曲率に応じて、予め定められたロジックに従い左灯具ユニット10Lおよび右灯具ユニット10Rのスイブルが許可されるスイブル可能範囲を設定する。例えば、道路の曲率が所定値Cよりも小さくほぼ直線と判定される場合と曲率がC以上の場合とで、異なるスイブル可能範囲を設定してもよい。あるいは、可能範囲設定部86は、曲率Cを所定の変換式に代入することでスイブル可能範囲を求めてもよい。
代替的に、可能範囲設定部86は、自車の進行方向のうち予め定められた測定ポイントにおける照度が所定値以上となるようにスイブル可能範囲を設定してもよい。測定ポイントは、自車の前方、側方のいずれに設定されてもよい。自車からの距離(例えば、前方5mや側方2m)で定義されてもよいし、時間(例えば、3秒後に自車が到達する地点)を用いて定義されてもよい。照度の所定値は、例えば障害物や標識を十分視認できる値を実験などにより定められることが好ましい。また、直線路と曲路とでは異なるスイブル可能範囲が設定されることが好ましい。代替的に、カメラ108の画像に基づき測定ポイントにおける照度をリアルタイムで算出し、この照度が所定値以上になるようなスイブル可能範囲を可能範囲設定部86が随時設定するようにしてもよい。
以下では、左灯具ユニット10Lのスイブル可能範囲のうち、左旋回方向の限界角度を「φLL」、右旋回方向の限界角度を「φL」と表記し、右灯具ユニット10Rのスイブル可能範囲のうち、左旋回方向の限界角度を「φRL」、右旋回方向の限界角度を「φRR」と表記する。
スイブル可能範囲は、灯具ユニット前方の所定位置(例えば、25m)に配置された仮想鉛直スクリーン上の中心線に対して左右対称となるように設定されてもよいし、非対称に設定されてもよい。
本明細書では、説明の簡略化のために、灯具ユニットの光軸Xと仮想鉛直スクリーンとの交点でスイブル角度を表し、また左右方向のスイブル時に交点が動く範囲をスイブル可能範囲として説明している。しかしながら、実装時には、灯具ユニットの光軸Xが正面を向いた点を0°と定義し、左右方向のスイブル角度を正負の角度で表してもよいし、左右いずれかの方向の最大スイブル角度を0°と定義し、正の値のみでスイブル角度を表してもよい。
スイブル制御部90は、スイブル角度決定部82で設定された車両追従スイブル角度βが、可能範囲設定部86で設定されたスイブル可能範囲外にある場合、スイブル可能範囲の限界角度まで左右の灯具ユニット10L、10Rがスイブルされるようにする。スイブル制御部90は、判定部92と駆動指示部94とを含む。
判定部92は、スイブル角度決定部82から左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rの車両追従スイブル角度βを受け取り、また可能範囲設定部86から左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rのスイブル可能範囲を受け取る。各灯具ユニットについて、スイブル角度βがスイブル可能範囲内にあると判定された場合、駆動指示部94は左右の灯具ユニット10L、10Rがスイブル角度βだけ旋回するようスイブルアクチュエータ222L、222Rを制御する。スイブル角度βがスイブル可能範囲外にあると判定された場合、駆動指示部94は、左右の灯具ユニット10L、10Rがスイブル角度βに近い側の限界角度まで旋回するようスイブルアクチュエータ222L、222Rを制御する。
図5(a)〜(d)は、左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rにより仮想鉛直スクリーン上に投影される個別配光パターンと、その重畳により形成される合成配光パターンの例を示す。
本実施形態では、左灯具ユニット10Lで図中の個別配光パターンLoL、HiLおよびFLを、右灯具ユニット10Rで図中の個別配光パターンLoR、HiRよびFRを形成するためのシェードプレート24が回転シェード12L、12Rに保持されているものとする。個別配光パターンのうち、配光パターンHiR、HiLは、水平線より上方に略垂直方向のカットラインを有しており、光軸が車両の正面を向いているときに、垂直線より右側または左側に遮光領域を有する片ハイビーム用の個別配光パターンである。配光パターンLoL、LoRは、車幅方向の右側で光軸を横切る水平線より下側に水平に延びる右側部分と、車幅方向の左側で右側部分よりやや上方の位置を水平に延びる左側部分とが、左上がりに傾斜した中央部分によって連結された形状を有するロービーム用の個別配光パターンである。配光パターンFL、FRは、遮光領域を持たないハイビーム用の個別配光パターンである。これらの個別配光パターンを組み合わせることで、車両用前照灯装置30は、例えば図5(a)〜(d)に示す四種類の合成配光パターンを作り出すことができる。
図5(a)は、交通法規が左側通行の地域で標準的に利用可能な「ロービーム」用合成配光パターンである。この場合、回転シェード12L、12Rによって、左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rがいずれも実質的に同じ形状のロービーム用個別配光パターンLoL、LoRを形成する。したがって、両者を重畳した場合に形成されるロービーム用合成配光パターンLoCも同じ形状となる。なお、図5(a)では、ロービーム用個別配光パターンLoL、LoRが重畳していることを図示するために意図的に両者の大きさを変えているが、完全に同じ大きさでよい。この場合、左灯具ユニット10Lの形成するロービーム用個別配光パターンLoLと右灯具ユニット10Rの形成するロービーム用個別配光パターンLoRとが重なり合うため、ロービーム用合成配光パターンLoCの照度は両者の合計照度となる。ロービーム用合成配光パターンLoCは、左側通行時に対向車前走車や歩行者にグレアを与えないように配慮された標準的なロービーム用の配光パターンとなる。
図5(b)は、左側通行で自車線側のみハイビーム領域で照射する配光パターンであり、特殊ハイビーム用の配光パターンに分類される、いわゆる「左片ハイ」用合成配光パターンである。この場合、回転シェード12Rによりロービーム用個別配光パターンLoRが形成され、回転シェード12Lにより片ハイビーム用個別配光パターンHiLが形成される。そして両者が重畳されると自車前方左側の照射領域がハイビーム照射状態で右側がロービーム照射状態となる左片ハイ合成配光パターンHiCLが合成できる。この左片ハイ合成配光パターンHiCLは、自車線に前走車や歩行者が存在せず、対向車線に対向車や歩行者が存在する場合に利用することが好ましく、左側通行時に対向車線側の対向車や歩行者にグレアを与えず、自車線側のみハイビーム照射により視認性を高めることができる。
図5(c)は、左側通行で対向車線側のみハイビーム領域で照射する配光パターンであり、特殊ハイビーム用の配光パターンに分類される、いわゆる「右片ハイ」用合成配光パターンである。この場合、回転シェード12Lによりロービーム用個別配光パターンLoLが形成され、回転シェード12Rにより片ハイビーム用個別配光パターンHiRが形成される。そして両者が重畳されると自車前方右側の照射領域がハイビーム照射状態で左側がロービーム照射状態となる右片ハイ合成配光パターンHiCRが合成できる。この右片ハイ合成配光パターンHiCRは、自車線に前走車や歩行者が存在し、対向車線に対向車や歩行者が存在しない場合に利用することが好ましく、左側通行時に自車線側の前走車や歩行者にグレアを与えず、対向車線側のみハイビーム照射により視認性を高めることができる。
なお、左片ハイ合成配光パターンHiCLおよび右片ハイ合成配光パターンHiCRは、各個別配光パターンが重なった部分、つまり、ロービーム用合成配光パターン相当部分のみが両者の合計照度となり明るくなる。そして、ロービーム用合成配光パターン相当部分の上に形成される片ハイ追加部分は、左灯具ユニット10Lまたは右灯具ユニット10Rの単独による照射時の照度になる。
図5(d)は、「ハイビーム」用合成配光パターンである。この場合、回転シェード12L、12Rによって、左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rでハイビーム用個別配光パターンFL、FRが形成される。そして両者が重畳されると自車前方の広範囲を照射領域とするハイビーム用合成配光パターンHiCが形成される。この場合、回転シェード12L、12Rによって、左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rがいずれも実質的に同じ形状のハイビーム用個別配光パターンFL、FRを形成する。したがって、両者を重畳した場合に形成されるハイビーム用合成配光パターンHiCも同じ形状となる。なお、図5(d)では、ハイビーム用個別配光パターンFL、FRが重畳していることを図示するために意図的に両者の大きさを変えているが、完全に同じ大きさでよい。この場合、左灯具ユニット10Lの形成するハイビーム用個別配光パターンFLと右灯具ユニット10Rの形成するハイビーム用個別配光パターンFRとが重なり合うため、ハイビーム用合成配光パターンHiCの照度は両者の合計照度となる
上記以外にも、回転シェード12Lにより片ハイビーム用個別配光パターンHiLを形成し、回転シェード12Rにより片ハイビーム用個別配光パターンHiRを形成してもよい。この場合、左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rを離反方向にスイブルさせることで全体で略凹字形の配光パターンを形成し、配光パターンの水平線よりも上部において前走車が存在するところのみを遮光領域とした「スプリット」用合成配光パターンを形成することができる。スプリット用合成配光パターンの具体例は、図8に示されている。
なお、スプリット用合成配光パターンは、各個別配光パターンが重なった部分、つまり、ロービーム用配光パターン相当部分のみが両者の合計照度となり明るくなる。そして、ロービーム用配光パターン相当部分の上に形成される追加部分は、左灯具ユニット10Lまたは右灯具ユニット10Rの単独による照射時の照度になる。
上述したように、本実施形態では、左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rについて、スイブルアクチュエータ222L、222Rを駆動することでスイブル機能を実現できる。これを利用して、図5(b)、(c)に示した片ハイ合成配光パターンHiCL、HiCRでは、垂直方向のカットラインを前走車の左右移動に追従させることで遮光領域を移動させることができる。また、スプリット用合成配光パターンでは、前走車の左右移動に追従させて中央の遮光領域を移動させることができる。このような制御は、スイブル角度決定部82とパターン制御部84の協調により実現される。
図6(a)、(b)は、スプリット用合成配光パターンの形成時に、前走車に追従して遮光領域を移動させるときに生じる問題点を説明する図である。
図6(a)は、直線路走行中に前走車が検出され、前走車周辺を遮光領域としたスプリット用合成配光パターンが形成された様子を示す。この場合、前走車と自車との距離の変化に応じて、中央の遮光領域の幅は変化する。前走車が遠方に位置する間は、自車の前方、側方とも照射範囲に含まれており十分な視認性が確保されるが、前走車と自車との距離が接近すると、それに合わせて中央の遮光領域の幅が大きくなるため、自車前方の視認性が低下するおそれがある。同様のことが、片ハイ用合成配光パターンの形成時にも起こりえる。
図6(b)は、曲路走行中に前走車が検出され、前走車周辺を遮光領域としたスプリット用合成配光パターンが形成された様子を示す。この場合、前走車と自車との距離が離れるのに合わせて、中央の遮光領域が右方に移動するように左右の灯具ユニットがスイブルされる。すると、自車左側方の領域Bが照射範囲から外れることになるため、視認性が低下するおそれがある。同様のことが、片ハイ用合成配光パターンの形成時にも起こりえる。
したがって、灯具ユニットのスイブル機能を利用した遮光領域の前走車追従制御をする場合には、スイブル可能な範囲を制限することが好ましいことを本願発明者らは認識した。
図7(a)、(b)は、左右の灯具ユニット10L、10Rでのスイブル可能範囲の設定について説明する図である。各図では、灯具ユニット前方の仮想鉛直スクリーン上で、スイブル駆動により左右の灯具ユニットの光軸Xが移動する範囲をスイブル可能範囲として示している。
図7(a)は、直路走行中に可能範囲設定部86により設定されるスイブル可能範囲の一例を示す。図示のように、左灯具ユニット10Lのスイブル可能範囲102は、左旋回方向の限界角度φLLと右旋回方向の限界角度φLRの間として定義される。また、右灯具ユニット10Rのスイブル可能範囲104は、左旋回方向の限界角度φRLと右旋回方向の限界角度φRRの間として定義される。このようにスイブル可能範囲102、104を設定することで、前走車と自車の間の距離が接近した場合でも、遮光領域の幅が左右に広がり過ぎることがなく、自車前方の照度が確保される。
なお、図7(a)では、左右の灯具ユニットのスイブル可能範囲が同一の幅を有しているが、異なった幅を有していてもよい。
図7(b)は、曲路走行中に可能範囲設定部86により設定されるスイブル可能範囲の一例を示す。図示のように、左灯具ユニット10Lのスイブル可能範囲112は、左旋回方向の限界角度φLLと右旋回方向の限界角度φLRの間として定義される。また、右灯具ユニット10Rのスイブル可能範囲112は、左旋回方向の限界角度φRLと右旋回方向の限界角度φRRの間として定義される。曲路走行中の場合は、左右の灯具ユニットでスイブル可能範囲の幅は異なって設定される。また、左カーブと右カーブで異なるスイブル可能範囲が設定される。このようにスイブル可能範囲112、114を設定することで、前走車が曲路上で左方または右方に大きく移動した場合でも、これに追従した個別配光パターンの移動量が制限されるので、自車側方の照度が確保される。
図8(a)〜(c)は、スイブル可能範囲が設定されているために、左右灯具のスイブル駆動が制限される例を示す。図8(a)〜(c)には、直線路走行時の左灯具ユニット10Lのスイブル可能範囲のうち右旋回方向の限界角度φLRと、右灯具ユニット10Rのスイブル可能範囲のうち右旋回方向の限界角度φRRとが示されている。
図8(a)には、直線路の走行中、車両位置検出部76により遠方に対向車が検出されたときのスプリット用合成配光パターンが示されている。パターン制御部84は、対向車の横幅に合わせた遮光領域を有するスプリット用合成配光パターンが形成されるように、左灯具ユニット10Lで片ハイビーム用個別配光パターンHiLを形成させ、右灯具ユニット10Rで片ハイビーム用個別配光パターンHiRを形成させる。
図8(b)は、対向車が自車に接近したときの照射範囲を表しており、対向車に追従してスイブルされた左灯具ユニット10Lの片ハイビーム用個別配光パターンHiLが右旋回方向の限界角度φLRに達している。また、対向車に追従してスイブルされた右灯具ユニット10Rの片ハイビーム用個別配光パターンHiRが右旋回方向の限界角度φRRに達している。したがって、個別配光パターンHiL、HiRがさらに右側に移動することが抑止され、自車の左側方の照度が確保される。
図8(c)は、対向車がさらに自車に接近したときの照射範囲を表している。左灯具ユニット10Lの個別配光パターンHiLは、対向車の移動に追従せず、右旋回方向の限界角度φLRで停止したままである。したがって、自車の左側方の照度が確保される。これに対し、右灯具ユニット10Rの個別配光パターンは、パターン制御部84によって片ハイビーム用個別配光パターンHiRからロービーム用個別配光パターンLoRに切り替えられる。これは、片ハイビーム用個別配光パターンのままだと対向車にグレアを与えてしまうからである。
図9は、照射制御部74による合成配光パターンの照射制御を説明するフローチャートである。
まず、曲率推定部78は、舵角および車速、またはカメラ108で撮影された前方画像に基づき、走行中の道路の曲率を推定する(S10)。可能範囲設定部86は、推定された曲率に応じたスイブル可能範囲を設定する(S12)。車両位置検出部76は、前方画像を処理して前走車を検出する(S14)。パターン制御部84は、前走車位置を遮光領域とした合成配光パターンを選択し、各灯具ユニットに形成させる(S16)とともに、スイブル角度決定部82は、検出された前走車位置に追従するように左右の灯具ユニットの車両追従スイブル角度βを決定する(S18)。なお、S10〜S12とS14〜S18とは順序が入れ替わってもよい。
スイブル制御部90の判定部92は、左右の灯具ユニットについて、車両追従スイブル角度βがスイブル可能範囲内に入るか否かを判定する(S20)。そして、スイブル角度βがスイブル可能範囲内にある場合は(S20のY)、駆動指示部94が灯具ユニットをスイブル角度βだけスイブルさせる(S22)。スイブル角度βがスイブル可能範囲外の場合は(S20のN)、駆動指示部94はその灯具ユニットをスイブル角度βに近い側の限界角度までスイブルさせる(S24)。
別法として、S24において、駆動指示部94とパターン制御部84が連携して、車両追従スイブル角度βスイブル可能範囲外と判定された灯具ユニットについて、スイブル可能範囲内にある間はハイビーム個別配光パターンを形成させた上でスイブルし、限界角度に達してからスイブル角度βまではロービーム個別配光パターンに切り替えた上でスイブルさせてもよい。具体的には、パターン制御部84は、片ハイビーム用個別配光パターンが形成された左灯具ユニット10Lが左旋回方向の限界角度φLLまでスイブルされたとき、または片ハイビーム用個別配光パターンが形成された右灯具ユニット10Rが右旋回方向の限界角度φRRまでスイブルされたとき、その灯具ユニットがロービーム用個別配光パターンを形成するように制御する。その後、駆動指示部94は、ロービーム用個別配光パターンを形成した灯具ユニットを車両追従スイブル角βまでスイブルする。
以上説明したように、実施の形態1によれば、スイブル可能範囲を設定することで、片ハイ用合成配光パターンやスプリット用合成配光パターンの遮光領域を前走車の移動に追従させる場合でも、片ハイビーム用個別配光パターンがスイブル可能範囲を越えてスイブルされることが防止される。したがって、グレアを防止しつつ、自車の前方や側方で一定の照度が確保できる。
灯具ユニットのスイブル角度をスイブル可能範囲内に制限することに加えて、スイブル可能範囲の両端の限界角度に灯具ユニットの光軸が到達したら、それ以上のスイブルを禁止するとともにバルブを昇圧して照度を高めてもよい。
実施の形態2.
実施の形態1では、片ハイ用合成配光パターンまたはスプリット用合成配光パターンで形成される遮光領域を前走車位置に合わせて追従させる車両用前照灯装置において、自車の前方または側方の照度が確保されるように灯具ユニットのスイブル可能範囲を設定することを述べた。実施の形態2では、車両用前照灯装置が、上記機能に加えて、曲路走行時に注視点を最も明るくするように灯具ユニットをスイブルするAFS機能を備える場合に、車両の前方または側方の照度が所定値以上になるように灯具ユニットのスイブル角度を選択する構成について説明する。
実施の形態2では、前照灯ユニットの機械的な構成および車両側の構成は実施の形態1と同様であり、照射制御部の機能のみが異なる。図10は、実施の形態2に係る照射制御部174の機能ブロック図である。
車間距離判定部98は、車両位置検出部76で検出された前走車画像と予め準備された基準画像との比較により、自車と前走車との間の距離が所定値より大きいか小さいかを判定する。画像に基づき距離を判定する代わりに、レーザを用いた車間距離測定を行ってもよい。車間距離の情報は、車両追従制御部90に送られる。
曲路追従スイブル角度決定部96は、曲率推定部78で推定された曲率に基づき、自車の数秒先の到達位置である注視点を明るくするように灯具ユニットをスイブルさせるための曲路追従スイブル角度αを決定する。曲路追従スイブル角度決定部96は、周知のAFSに相当するものであり、詳細な説明を省略する。
パターン制御部84は、曲路走行中かつ前走車が検出された場合、カーブ側の灯具ユニット(例えば、右カーブならば右灯具ユニット)についてはロービーム用個別配光パターンを形成させ、反対側の灯具ユニットについては片ハイビーム用個別配光パターンを形成させる。これにより、水平線より上部でカーブ側に遮光領域を有する片ハイ用合成配光パターンを形成する。前走車が検出されない場合、パターン制御部84は左右の灯具ユニットでハイビーム用合成配光パターンを形成させる。
上記のように、実施の形態2の照射制御部174では、曲路走行中に注視点が最も明るくなるように配光方向をスイブルさせるための曲路追従スイブル角度αと、前走車にグレアを与えないように配光方向をスイブルさせるための車両追従スイブル角度βの両方が設定される。そこで、スイブル制御部90は、左右の灯具ユニットについていずれのスイブル角度を採用すべきかを決定する。
スイブル制御部90の判定部92は、曲路追従スイブル角度αと車両追従スイブル角度βを受け取る。そして、車間距離と自車のカーブ方向を参照して、左灯具ユニット10Lおよび右灯具ユニット10Rについて、曲路追従スイブル角度αと車両追従スイブル角度βのいずれかを選択する。具体的には、図12を参照して説明する。駆動指示部94は、選択された角度だけ左右の灯具ユニットを駆動する。
上記以外の機能ブロックは、実施の形態1の照射制御部74に示したものと同様である。
図11(a)〜(c)は、照射制御部174によるスイブル角度の制御を説明する図である。
図11(a)は、自車が右カーブを走行中に前走車が検出された場合のスイブル角度制御を示す。このとき、パターン制御部84は、前走車位置に応じて左灯具ユニット10Lには片ハイビーム用個別配光パターンHiLを形成させ、右灯具ユニット10Rにはロービーム用個別配光パターンLoRを形成させる。これにより、図示の左片ハイ用合成配光パターンが形成される。スイブル角度決定部82と曲路追従スイブル角度決定部96は、左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rのそれぞれに対して、車両追従スイブル角度βと曲路追従スイブル角度αを別個に設定する。
判定部82は、左灯具ユニット10Lについては車両追従スイブル角度βを選択するが、β>αの場合には、曲路追従スイブル角度αを上限としてスイブルさせる。右灯具ユニット10Rについては、車両追従スイブル角度βの値によらず、曲路追従スイブル角度αまでスイブルさせる。
右カーブを走行中に左灯具ユニットを車両追従スイブル角度βまでスイブルさせると、自車の左側方の照度が不足することがある。この実施例では、左灯具ユニットのスイブルを曲路追従スイブル角度で制限することで、左側方の照度を確保できる。
図11(b)は、自車が左カーブを走行中に前走車が検出され、かつ前走車との距離が所定値以下である場合のスイブル角度制御を示す。このとき、パターン制御部84は、前走車位置に応じて左灯具ユニット10Lには片ハイビーム用個別配光パターンHiLを形成させ、右灯具ユニット10Rにはロービーム用個別配光パターンLoRを形成させる。これにより、図示の左片ハイ用合成配光パターンが形成される。スイブル角度決定部82と曲路追従スイブル角度決定部96は、左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rのそれぞれに対して、車両追従スイブル角度βと曲路追従スイブル角度αを別個に設定する。
判定部82は、左灯具ユニット10Lについては車両追従スイブル角度βを選択するが、β>αの場合には、曲路追従スイブル角度αを上限としてスイブルさせる。右灯具ユニット10Rについては、車両追従スイブル角度βの値によらず、曲路追従スイブル角度αまでスイブルさせる。
左カーブを走行中で前走車との距離が比較的近い場合、左灯具ユニットを車両追従スイブル角度βまでスイブルさせると、自車の左側方の照度が不足することがある。この実施例では、左灯具ユニットのスイブルを曲路追従スイブル角度で制限することで、左側方の照度を確保できる。
図11(c)は、自車が左カーブを走行中に前走車が検出され、かつ前走車との距離が所定値より大きい場合のスイブル角度制御を示す。このとき、パターン制御部84は、前走車位置に応じて左灯具ユニット10Lにはロービーム用個別配光パターンLoLを形成させ、右灯具ユニット10Rには片ハイビーム用個別配光パターンHiRを形成させる。これにより、図示の右片ハイ用合成配光パターンが形成される。スイブル角度決定部82と曲路追従スイブル角度決定部96は、左灯具ユニット10Lと右灯具ユニット10Rのそれぞれに対して、車両追従スイブル角度βと曲路追従スイブル角度αを別個に設定する。
判定部82は、左灯具ユニット10Lについては車両追従スイブル角度βの値によらず、曲路追従スイブル角度αまでスイブルさせる。右灯具ユニット10Rについては、車両追従スイブル角度βを選択するが、β>αの場合には、曲路追従スイブル角度αを上限としてスイブルさせる。
左カーブを走行中で前走車との距離が比較的遠い場合、右灯具ユニットを車両追従スイブル角度βまでスイブルさせると、自車の右側方の照度が不足することがある。この実施例では、右灯具ユニットのスイブルを曲路追従スイブル角度で制限することで、右側方の照度を確保できる。
図12は、実施の形態2の照射制御部74による合成配光パターンの照射制御を説明するフローチャートである。
まず、曲率推定部78は、舵角および車速、またはカメラ108で撮影された前方画像に基づき、走行中の道路の曲率を推定する(S50)。曲路追従スイブル角度決定部96は、推定された曲率に基づき曲路追従スイブル角度αを決定する(S52)。車両位置検出部76は、前方画像を処理して前走車を検出する(S54)。パターン制御部84は、前走車位置を遮光領域とした合成配光パターンを選択し、各灯具ユニットに形成させる(S56)とともに、スイブル角度決定部82は、検出された前走車位置に追従するように左右の灯具ユニットの車両追従スイブル角度βを決定する(S58)。なお、S50〜S52とS54〜S58とは順序が入れ替わってもよい。
スイブル制御部90の判定部92は、曲率推定部78で推定された曲率か、ナビゲーションシステム114から得る道路形状情報に基づき、走行中の道路が曲路か否かを判定する(S60)。直線路である場合(S60のN)、判定部92は左右の灯具ユニットを車両追従スイブル角度βだけスイブルさせる(S72)。曲路である場合(S60のY)、さらに右カーブであるか左カーブであるかを判定する(S64)。右カーブと判定された場合、判定部92は、右灯具ユニットは曲路追従スイブル角度αだけスイブルさせ、左灯具ユニットは曲路追従スイブル角度αと車両追従スイブル角度βのうち小さい角度だけスイブルさせる(S70)。
S64で左カーブと判定された場合、判定部92は、車間距離判定部98によって前走車との距離が所定値以上とされたか否かを判定する(S66)。距離が所定値以上の場合(S66のY)、判定部92は、右灯具ユニットは曲路追従スイブル角度αと車両追従スイブル角度βのうち小さい角度だけスイブルさせ、左灯具ユニットは曲路追従スイブル角度αだけスイブルさせる(S68)。距離が所定値未満の場合(S66のN)、判定部92は、右灯具ユニットは曲路追従スイブル角度αだけスイブルさせ、左灯具ユニットは曲路追従スイブル角度αと車両追従スイブル角度βのうち小さい角度だけスイブルさせる(S70)。
以上説明したように、実施の形態2では、前走車位置に追従するスイブル制御と、曲路に追従するスイブル制御の双方を備える車両用前照灯装置において、左右いずれかの灯具ユニットのスイブル角度を制限することで、先行車へのグレアの防止と自車周辺の照度の確保を両立させることができる。
実施の形態3.
実施の形態1および2では、カメラ等により前走車を検出し、前走車の位置に応じて左右の灯具ユニットをスイブルさせることを述べた。しかしながら、天候の影響や路上の反射物などのために、実際には前走車が存在しないにも関わらず前走車を検出するような誤検出が発生することがある。この場合、本来はスイブルさせるべきではない灯具ユニットがスイブルされてしまうことになる。すると、照射範囲が不自然であったり照射方向が突然変化するなどして、ドライバーに違和感を与えてしまうことが起こりうる。
そこで、実施の形態3では、前走車の誤検出時にドライバーに与える違和感を軽減するための方法について説明する。
実施の形態3では、前照灯ユニットの機械的な構成および車両側の構成は実施の形態1と同様であり、照射制御部の機能のみが異なる。図13は、実施の形態3に係る照射制御部274の機能ブロック図である。
スイブル角度決定部82は、車両位置検出部76によって前走車が検出された場合に、パターン制御部84で決定された配光パターンの遮光領域が前走車位置の変化に追従して移動するように、左灯具ユニット10Lおよび右灯具ユニット10Rの車両追従スイブル角度βを決定する。前走車が検出されない場合には、左灯具ユニット10Lおよび右灯具ユニット10Rのスイブル駆動は行われない。
違和感軽減処理部192は、スイブル角度決定部82から車両追従スイブル角度βを受け取る。そして、以下に示す手順1ないし4のいずれかにしたがって左右の灯具ユニット毎に実際のスイブル角度θを決定する。駆動指示部94は、スイブル角度θだけ左右の灯具ユニットをスイブルさせるように、スイブルアクチュエータ222L、222Rに指示を発する。
上記以外の機能ブロックの動作については、図4に関して説明したのと同様である。
違和感軽減処理部192の処理手順を以下に示す。
手順1.
違和感軽減処理部192は、左右の灯具ユニットについて最小スイブル角度δを予め保持している。そして、車両追従スイブル角度βがδ以下であった場合、違和感軽減処理部192は左右灯具ユニットをスイブルさせないと判定する。つまり、θ=0とする。最小スイブル角度δは、例えば灯具ユニットをスイブルしなくても前走車にグレアを与えるなどの影響が軽微であると認められる角度とすることが好ましく、実験等を通じて決定される。
こうすることで、車両位置検出部76によって前走車が誤検出された場合でも、車両追従スイブル角度βが比較的小さな値の場合はスイブル駆動が行われないので、前走車の誤検出により照射方向が微小に振動するような現象が回避される。
手順2.
スイブル角度決定部82は、所定の時間間隔で車両追従スイブル角度βtを算出するものとし、違和感軽減処理部192は、ある時点tにおけるスイブル角度θを、車両追従スイブル角度βtの今回値とそれ以前に算出された値の時間平均として算出する。
θ=(βt+βt−1+...+βt−n)/(n+1)(但し、nは1以上の整数)
こうすることで、左右の灯具ユニットの実際のスイブル角度θの変化率は、βをそのまま採用した場合よりも小さくなる。したがって、照射方向の変化が抑えられることになり、前走車の誤検出があった場合でもドライバーに与える違和感が軽減されることになる。
手順3.
スイブル角度決定部82は、所定の時間間隔で車両追従スイブル角度βtを算出するものとし、違和感軽減処理部192は、車両追従スイブル角度の今回値と前回値βt−1を比較する。比較の結果に基づき、今回値により生じる灯具ユニットのスイブル方向(つまり、左または右方向)が前回値βt−1により生じたスイブル方向と同一であるか否かを判定する。言い換えると、例えば前回に右方向にスイブルした灯具ユニットが、引き続き右方向にスイブルされるのかまたは反対の左方向にスイブルされるのかを判定する。そして、実際のスイブル角度θ=βtとし、スイブルが反対方向である場合は、駆動指示部94に対して、スイブルアクチュエータ222L、222Rの回転速度をスイブルが同一方向であるときよりも低速にするよう指令を出す。
一般に、灯具ユニットのスイブル方向はある期間にわたって同一であると考えられるので、スイブル方向が反対方向になる場合には前走車を誤検出している可能性が高いと推定される。そこで、違和感軽減処理部192は、スイブル方向が反対方向と判定されたときには、スイブル速度を低下させることで照射方向の変化が低速になるようにした。これにより、前走車の誤検出があった場合でも、ドライバーに与える違和感が軽減される。
手順4.
手順3と同様に、違和感軽減処理部192は、車両追従スイブル角度βtの今回値により生じる灯具ユニットのスイブル方向が、前回値βt−1により生じたスイブル方向と同一であるか否かを判定する。そして、スイブル方向が同一方向である場合、実際のスイブル角度θ=βtとする。スイブル方向が反対方向である場合、実際のスイブル角度θ=c・βt(但し、0<c<1)と設定する。
手順3で述べたように、スイブル方向が反対方向になる場合には前走車を誤検出している可能性が高いと推定される。そこで、違和感軽減処理部192は、スイブル方向が反対方向と判定されたときには、スイブル角度決定部82が設定するスイブル角度よりも小さな値とすることで、照射方向の変化量を抑えるようにした。これにより、前走車の誤検出があった場合でも、ドライバーに与える違和感が軽減される。
以上説明したように、実施の形態3によると、カメラで撮影された画像に基づき前走車が誤検出された場合でも、照射方向の変化によりドライバーに与える違和感が軽減される。したがって、ドライバーの運転に対する集中を維持することに貢献する。
上述の各実施の形態においては、左右の灯具ユニットの過度のスイブルによって、自車の側方や前方の照度低下を抑制する制御を行うことを述べた。このような制御に加えて、左片ハイ用合成配光パターンHiCLや右片ハイ用合成配光パターンHiCRの形成時に、左片ハイ追加部分や右片ハイ追加部分に重なるような照射範囲を有する付加ランプを設けてもよい。この場合、左右の灯具ユニットに対して付加ランプを各1灯ずつ追加して、左片ハイ追加部分と右片ハイ追加部分をそれぞれ照射させてもよいし、車両に対して付加ランプを1灯追加して、左右の個別配光パターンが重畳された合成配光パターンの追加部分を照射させてもよい。これによって、追加部分の照度を高めて視認性を向上させることができる。
パターン制御部84は、上述の合成配光パターンに加えて、左灯具ユニット10Lで左上がりに傾斜した中央部分を有するロービーム用個別配光パターンを形成させ、右灯具ユニット10Rで右上がりに傾斜した中央部分を有するロービーム用個別配光パターンを形成させて、水平線より上部のほぼ中央にV字形の遮光領域を有するいわゆる「Vビーム」用合成配光パターンを選択してもよい。この場合、スイブル角度決定部82は、V字形の遮光領域を前走車の位置に応じてスイブルさせるための車両追従スイブル角度を左右の灯具ユニットについて決定する。このようなVビーム用合成配光パターンの選択時にも、上述の各実施形態を適用することができる。
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、各実施形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくは変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。上述の各実施形態同士、および上述の各実施形態と以下の変形例との組合せによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。