以下、本発明の装置を実現する形態を、図面に基づき説明する。
[実施例1]
[実施例1の構成]
図1は、実施例1のブレーキ制御装置(以下、装置1という。)を搭載した車両のブレーキシステムの概略構成図である。なお、矢印で情報信号の流れを示す。車両はいわゆるフロントエンジン・フロントドライブFF車であり、車体前部にエンジンEが横置きに配置されている。エンジンEの出力はトルクコンバータを介して変速機に伝達され、変速機等を介して左右の前輪(駆動輪)FL,FRに伝達される。各車輪FL,FR,RL,RRにはブレーキ力を発生するためのホイルシリンダW/Cが設けられている。ブレーキシステムは、マスタシリンダM/Cと、ホイルシリンダW/Cと、これらに接続された装置1と、各種センサとを有している。ブレーキペダルBPは、倍力装置であるブースタBSを介してマスタシリンダM/Cに接続されている。ブースタBSは、エンジンEの負圧を利用して運転者のブレーキペダルBPの踏力をアシストする負圧ブースタである。マスタシリンダM/Cは、一体に設けられたリザーバタンクRESからブレーキ液の供給を受けてブレーキペダルBPの踏み込み量に応じた液圧(マスタシリンダ圧Pmc)を発生する。マスタシリンダM/Cは所謂タンデム型であって、2系統のブレーキ配管10,20を介して装置1(具体的には液圧ユニットHU)に接続されている。ホイルシリンダW/Cは、夫々ブレーキ配管10l,20l, 10m,20mを介して、装置1(HU)に接続されている。ブレーキペダルBPが踏み込まれると、マスタシリンダM/Cはブレーキ回路10,20を介してブレーキ液を各ホイルシリンダW/Cに供給し、ホイルシリンダW/Cはブレーキ圧(ホイルシリンダ圧Pwc)を発生する。各種センサは、車両情報の検出手段であり、各車輪FL,FR,RL,RRの回転速度(車輪速VW)を検出する車輪速センサ3と、路面勾配を検出するための車両の前後加速度(前後G)センサ4と、ブレーキペダルBPが踏まれているか否かを検出するブレーキスイッチ5と、マスタシリンダ圧Pmcを検出するマスタ圧センサ6と、を有している。
装置1は、電子制御ユニットECUと液圧ユニットHUとを一体のユニットとして有している。なお、両ユニットECU,HUを別体としてもよい。ECUは、各センサ3等の信号の入力を受け、これらの信号に示される車両の状況、ブレーキシステムの状態、及び運転者の操作状態等の情報を基に、ブレーキ制御の介入及び離脱の判断を行うと共に、適切なブレーキ力を演算してブレーキ制御を実行する。ブレーキ制御とは、ヒルホールド制御等、安全性や利便性を確保する機能の要求により、車両の各車輪FL等のブレーキ力を制御することを意味する。ECUは、HUの各アクチュエータを駆動して、各車輪FL等のホイルシリンダW/Cの圧力(ブレーキ圧)を調整することにより、ブレーキ力を制御する。HUは、アクチュエータとして各種のバルブ11〜17、21〜27とポンプP(モータM)を有しており、ECUからの指令に従いこれらを駆動して各車輪FL等のホイルシリンダ圧Pwcを制御する。HU は、ホイルシリンダ圧Pwcをマスタシリンダ圧Pmc以下に制御することも、マスタシリンダ圧Pmc以上に制御することも可能に設けられており、また、ホイルシリンダ圧Pwcを略一定に保持することが可能に設けられている。
図2は、HUにおける油圧回路の概略構成を示す。ブレーキ回路は、マスタシリンダM/Cから、独立した2つの系統すなわちプライマリ(P)系統とセカンダリ(S)系統に分かれている。具体的には、左前輪FLと右後輪RRのホイルシリンダW/CがP系統のブレーキ回路10に、右前輪FRと左後輪RLのホイルシリンダW/CがS系統のブレーキ回路20に夫々接続された、いわゆるX配管構造となっている。なお、所謂前後配管構造としてもよい。ポンプPはP,S系統ごとに設けられており、第1ポンプP1と第2ポンプP2を有している。ポンプP(P1,P2)は、モータMにより回転駆動されて作動し、ブレーキ液の吸入・吐出を行うプランジャポンプである。なお、ポンプの形式はプランジャ式に限られない。ポンプPは、モータMの回転に伴い、マスタシリンダM/C内のブレーキ液をホイルシリンダW/Cに供給し、又はHUに内蔵のリザーバ16,26に貯留したブレーキ液を掻き出す。モータMは、直流ブラシモータであるが、これに限られない。各バルブは、電磁弁(ソレノイドバルブ)であり、保持弁(アウト側ゲート弁)11,21と、供給弁(イン側ゲート弁)17,27と、増圧弁12,13,22,23と、減圧弁14,15,24,25とを有している。これらのバルブは、コイルへ駆動電流が通電されることにより電磁力を発生し、プランジャ等を往復移動させることで弁を開閉作動する周知のものである。
以下、P系統を例にとり、ブレーキ回路10について説明する。ブレーキ回路10のマスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/C側に向かう途中には、保持弁11が設けられている。保持弁11のホイルシリンダW/C側のブレーキ回路10kはブレーキ回路10a,10bに分岐している。ブレーキ回路10a,10bは、夫々ブレーキ回路10l,10mを介してホイルシリンダW/C(FL,RR)に接続している。ブレーキ回路10a,10b上には、増圧弁12,13が夫々設けられている。増圧弁12,13のホイルシリンダW/C側のブレーキ回路10a,10bには、リターン通路10c,10dが夫々接続している。リターン通路10c,10d上には減圧弁14,15が夫々設けられている。リターン通路10c,10dは合流してリターン通路10eを形成し、リターン通路10eはリザーバ16に接続している。リザーバ16は、HUに内蔵されたリザーバタンクであり、ブレーキ液を貯留可能に設けられている。一方、ブレーキ回路10は保持弁11のマスタシリンダM/C側で分岐し、吸入回路10gを形成している。吸入回路10g上には、吸入回路10gの連通・遮断を切り換える供給弁17が設けられている。吸入回路10gは、リザーバ16からのリターン通路10fと合流して吸入回路10hを形成している。吸入回路10hには、マスタシリンダM/C以外の液圧源として、第1ポンプP1が接続されている。ポンプP1は、吐出回路10iを介して、保持弁11のホイルシリンダW/C側のブレーキ回路10kと接続している。なお、リザーバ16からのリターン通路10f上には、リザーバ16へのブレーキ液の逆流を防止するチェック弁が設けられている。また、吸入回路10h上には、第1ポンプP1へのブレーキ液の流通のみを許容するチェック弁が設けられ、吐出回路10i上には、第1ポンプP1へのブレーキ液の逆流を防止するチェック弁が設けられている。S系統のブレーキ回路20も、上記P系統(ブレーキ回路10)と同様に構成されている。ブレーキ回路20における吸入回路20gの上流側(マスタシリンダM/C側)にはマスタ圧センサ6が設けられている。なお、マスタ圧センサ6を省略し、例えばブレーキ操作によって車両が停止する際の前後Gセンサ4の検出値に基づき、マスタシリンダ圧Pmcを推定することとしてもよい。
供給弁17,27は、オン・オフ弁であり、非通電時に閉弁する常閉弁である。供給弁17,27は、ホイルシリンダ圧Pwcをマスタシリンダ圧Pmc以上に増圧する場合、通電によって開弁し、マスタシリンダM/C内のブレーキ液を、ポンプPを介してホイルシリンダW/Cに供給することを可能にする。保持弁11,21は、オン・オフ弁であり、非通電時に開弁する常開弁である。保持弁11,21は、通電によって閉弁し、マスタシリンダM/CやポンプPからホイルシリンダW/Cへ供給されたブレーキ液がマスタシリンダM/C側に戻らないように、ホイルシリンダW/C内にブレーキ液を封入する。これにより、ホイルシリンダ圧Pwcが略一定に保持される。なお、保持弁11,21のマスタシリンダM/C側にはオリフィスが設けられている。また、ホイルシリンダW/C側(ポンプP側)からマスタシリンダM/C側へのブレーキ液の流通を防止するチェック弁が、保持弁11,21と並列に設けられている。なお、保持弁11,21のソレノイドに流す電流をPWM制御することとしてもよい。また、保持弁11,21に比例制御弁を用いることとしてもよい。これらの場合、保持弁11,21の開弁量又は開弁時間を調節することによって、下流側(ホイルシリンダW/C側)と上流側(マスタシリンダM/C側、ポンプP側)との液圧差を任意に制御することができる。増圧弁12,13,22,23は、オン・オフ弁であり、非通電時に開弁する常開弁である。増圧弁12等は、上流側よりもホイルシリンダ圧Pwcを低く保ちたい場合、通電によって閉弁したり、上流側と下流側の差圧を利用してホイルシリンダ圧Pwcを増圧したりする。なお、増圧弁13,23(RR,RL)のホイルシリンダW/C側にはオリフィスが設けられる一方、増圧弁12,22(RR,RL)のホイルシリンダW/C側にはオリフィスが設けられていない。また、上流側から下流側へのブレーキ液の流通を防止するチェック弁が、増圧弁12等と並列に設けられている。なお、増圧弁12等をPWM制御することとしてもよい。また、増圧弁12等に比例制御弁を用いることとしてもよい。これらの場合、増圧弁12等の開弁量又は開弁時間を調節することによって、ホイルシリンダ圧Pwcの任意の増圧勾配を得ることができる。減圧弁14,15,24,25は、オン・オフ弁であり、非通電時に閉弁する常閉弁である。減圧弁14等は、ABS制御時のようにホイルシリンダ圧Pwcを減圧したい場合、通電によって開弁し、ホイルシリンダW/Cからのブレーキ液をリザーバ16,26に流して一時的に貯留させる。
以上の構成により、装置1は、車輪速VWに応じて各車輪FL等のブレーキ圧を調整して車両挙動を制御したり、車両停止時にブレーキ力を保持して車両の動き出しを抑制するヒルホールド制御を実行したりする。これらブレーキ制御の詳細は周知であるため、説明を省略する。
図1に示すように、装置1を搭載した車両には、エンジン制御装置ECMが搭載されている。ECMは、図外センサにより検出された(ないしセンサ値から推定した)エンジン回転数やエンジン駆動力等の情報信号に基づきエンジンEの作動を制御するモジュールであり、装置1のECUとの間で情報信号のやりとりを行う。ECMは、アイドリング中にエンジンEを自動停止させるアイドルストップ制御を実行可能に設けられている。アイドルストップ制御の開始条件としては、例えば、運転者がアイドルストップ制御を希望していることをスイッチ等により検知し、車両が停止状態であり、ブレーキペダルBPが踏まれており、舵角が略ゼロであり、Rレンジが選択されておらず、油温が所定範囲内である、等を採用することができる。これらの条件が成立すれば、エンジンEを停止する。その後、アイドルストップ制御の解除条件、例えば、ブレーキペダルBPが離された(踏み込みが解除された)等により運転者に車両発進の意志があると判断したときは、スタータモータを作動させることで、エンジンEを(再)始動する。なお、アイドルストップ制御の開始・解除条件は上記に限定されず、任意に設定可能である。
装置1は、坂路又は平坦路において車両が停止し、エンジンEがアイドルストップするとそれを検知し、運転者が車両停止時に発生させた(車両を停止させるために十分な)ブレーキ力を自動的に保持する制御(ヒルホールド制御)を実行する。具体的には、ECUは、アイドルストップを検知可能に設けられており、ECMからの信号(ブレーキ力保持指令、エンジン回転数、エンジン駆動力)やマスタ圧センサ6からの信号(マスタシリンダ圧Pmc)等に基づき、アイドルストップ制御が実施されているか否かを判断する。実施されていると判断すると、アイドルストップが実施されている間、HUの保持弁11,21に電流を与え続け、保持弁11,21を閉じてホイルシリンダW/C内のブレーキ油を封じ込める。これにより、運転者が車両停止時に発生させたブレーキ力を保持する。
装置1は、上記のようにブレーキ力を保持した状態で、運転者に車両発進の意志があると判断すると、アクセルONによる発進と、アクセルOFFによる発進(クリープ現象による発進)とを判別し、運転者操作と車両の発進時の状況によって、保持していたブレーキ力を適切に減少させる。具体的には、ECUは、アイドルストップが終了する(エンジンEが停止状態から再始動する)際、ECMからの信号(ブレーキ力保持解除指令、エンジン回転数、エンジン駆動力)や各種センサ3,4,6からの信号(車輪速VW、前後G、Pmc)等を基に、車両の状況(エンジン駆動力、エンジン駆動力変動、車両の動き出し、路面勾配)と運転者操作(ブレーキやアクセル操作)を検知する。ECUは、検知した車両の状況と運転者操作に応じて適切なブレーキ力を演算し、ブレーキ力の減少量を変化させることで、車両のずり下がりや引っ掛かりのない滑らかな発進を実現する。ブレーキ力の減少量の変化は、保持弁11,21への電流を変化させることでホイルシリンダW/C内に閉じ込めていたブレーキ液をマスタシリンダM/C側へ戻すタイミングを変化させることにより可能となっており、これによりブレーキ力の減少量を可変できる。
ECUは、アクセルONによる発進時にホイルシリンダ圧Pwcを減圧制御するアクセルON時減圧制御手段と、アクセルOFFによる発進時にホイルシリンダ圧Pwcを減圧制御するクリープ発進用減圧制御手段とを有している。アクセルON時減圧制御手段は、運転者のアクセル操作に応じた車両の動き出しを円滑に実現できるよう、保持弁11,21の開弁状態を制御してホイルシリンダ圧Pwcを減圧制御する。クリープ発進用減圧制御手段は、車両のクリープ発進を円滑に実現できるよう、保持弁11,21の開弁状態を制御してホイルシリンダ圧Pwcを減圧制御するものであり、エンジンEの始動時の作動状態を判断するエンジン作動状態判断手段と、保持していたブレーキ力を減少させるために、保持弁11,21の開弁状態を制御してホイルシリンダ圧Pwcを減圧制御する減圧制御手段とを有している。エンジン作動状態判断手段は、クランキング判断手段と安定始動判断手段を有している。クランキング判断手段は、ECMからの信号(アイドルストップ解除指令、エンジン回転数、エンジン駆動力)やマスタ圧センサ6からの信号(マスタシリンダ圧Pmc)等を基に、エンジンEがスタータモータによりクランキング中であるか否かを判断する。安定始動判断手段は、ECMからの信号(ブレーキ力保持解除指令、エンジン回転数、エンジン駆動力等)を基に、エンジンEが完爆して自立回転を始め、その作動が安定したか、すなわち安定始動したか否かを判断する。なお、クランキングや安定始動の判断方法は、任意のものを採用することができる。減圧制御手段は、クランキング中と判断されたとき、ホイルシリンダ圧Pwcをブレーキ力保持中の値P0から第1の勾配ΔP1で所定の圧力P1まで減圧させる第1減圧手段と、エンジンEが安定始動したと判断されたとき、ホイルシリンダ圧Pwcを上記圧力P1から第1の勾配ΔP1よりも小さい第2の勾配ΔP2で減圧させる第2減圧手段とを有している。
図3は、ECUにおける、ブレーキ力の非制御状態からブレーキ力保持を開始するまでの制御(ブレーキ力保持開始判定処理)の流れを示す。この制御フローは所定の制御周期ごとに実行される。ステップS1では、ブレーキ力を保持可能な状態に車両があるか否かを判断し、上記状態にあればブレーキ力の保持制御を許可してS2へ進み、上記状態に無ければ保持制御を許可せず非制御状態のままとする。ブレーキ力保持可能な状態とは、例えば、HUにおいて保持弁11,21の開閉作動が可能な状態である。ECUは、単独で、車両がブレーキ力保持可能な状況にあるか否かを判断することができるように設けられている。ブレーキ力保持可能な状況でないと判断した場合、直ちにブレーキ力保持を禁止(又は中断)し、ブレーキ力保持不可に関する信号をECMへ送信する。ECMは、その信号を、アイドルストップ制御を禁止又は中断するために用いる。この構成により、制御のフェイルセーフ性能を向上することができる。
S2では、ECU又はECMにおいて、ブレーキ力保持要求があるか否かを判断し、要求があればS3へ進み、要求がなければ非制御状態のままとする。ブレーキ力保持要求は、例えば、アイドルストップ制御開始時、ECMからECUへ入力されるブレーキ力保持指令により判断されるが、これに限定されない。
S3では、運転者がブレーキONしているか否かを判断し、ブレーキONしていればS4へ進み、ブレーキONしていなければ(ブレーキOFFであれば)非制御状態のままとする。ブレーキONとは、ブレーキペダルBPが踏まれてマスタシリンダ圧Pmcが発生している状態、すなわち保持弁11,21を開弁すればホイルシリンダ圧Pwcを発生可能な状態を指し、例えばブレーキスイッチ5からの信号により検出することができる。
S4では、車両が停止しているか否かを判断し、停車していればブレーキ力保持を開始し、経過していなければ非制御状態のままとする。停車しているか否かは、例えば、車輪速センサ3により検出される車輪速VWが略ゼロとなってから所定時間T1が経過すると、停車したと判断する。このように、所定時間T1の経過を待って停車状態と判断することで、安定した(より正確な)路面勾配のセンサ値を取り込むことができ、制御の精度を向上できる。なお、T1の経過を待たずに停車状態を判断することとしてもよい。
このようにS1からS4までの条件が全て成立すると、ブレーキ力保持制御を開始する。
図4は、ECUにおける、ブレーキ力保持状態からブレーキ力保持解除(各減圧処理)を開始するまでの制御の流れを示す。ステップS5では、S1と同様、ブレーキ力を保持可能な状態に車両があるか否かを判断し、上記状態にあればブレーキ力の保持を継続してS6へ進み、上記状態になければS11へ進む。
S6では、ブレーキ力保持を解除すべき発進状況に車両があるか否かを判断し、発進状況にあればS7へ進み、発進状況に無ければS8へ進む。ブレーキ力保持を解除すべき発進状況とは、運転者に車両発進の意志があると判断できる状況であり、例えば、アイドルストップ制御の解除条件が成立してアイドルストップ制御が終了される際、ECMからECUへ入力されるブレーキ力保持解除指令により判断される。なお、これに限定されるものではない。
車両がブレーキ力を解除すべき発進状況にあると判断されると、S7以降、ECUは、各減圧処理を開始する。S7では、運転者がアクセルONしているか否かを判断し、アクセルONしていればアクセルON時減圧制御手段によるホイルシリンダ圧Pwcの減圧を開始し、アクセルONしていなければ(アクセルOFFであれば)クリープ発進用減圧制御手段による減圧を開始する。
車両がブレーキ力を解除すべき発進状況にないと判断されると、S8以降、ECUは、ブレーキ力の保持を継続するか、又は中断する。S8では、ブレーキ力保持開始から所定時間T2が経過したか否かを判断し、経過していれば制御中断用のホイルシリンダ減圧(中断減圧)を開始し、経過していなければS9へ進む。所定時間T2は、ブレーキ力を保持させる(保持弁11,21に通電する)上限時間であり、例えばECUが受信する情報信号に異常が発生した場合に、保持弁11,21(のソレノイド)の安全性を担保するためのものであって、例えば3分30秒に設定されている。車両が発進状況にない場合でも、ブレーキ力保持開始から時間T2を経過すると、保持弁11,21への通電を遮断して開弁し、ブレーキ力を強制的に減少させる。この構成により、制御の安全性能を向上することができる。なお、ECUは、S2(図3参照)で、入力されるブレーキ力保持指令によりブレーキ力保持要求を判断する場合、ブレーキ力保持指令信号の変化点をとらえるエッジ判定により、要求の判断をする。これは、ブレーキ力保持指令信号が異常により固着し、上限時間T2を超えてもECUがブレーキ力保持指令信号を受信し続けた場合に、誤ってブレーキ力保持が再度介入しないようにするためである。この構成により、制御のフェイルセーフ性能を向上することができる。なお、エッジ判定以外の方法により保持要求を判断してもよい。
S9では、運転者がブレーキOFFしているか否かを判断し、ブレーキOFFされていればS10へ進み、ブレーキONされていればブレーキ力保持を継続してS5以降のステップを繰り返す。
S10では、ブレーキOFFされてから所定時間T3が経過しているか否かを判断する。経過していれば制御中断用の減圧(タイムアウト減圧)を開始し、経過していなければブレーキ力保持を継続してS5以降のステップを繰り返す。
所定時間T3は、例えば2秒に設定する。タイムアウト減圧は、最悪のケースとして何らかの異常により車両が発進不能になることを防ぐための減圧である。この構成により、制御のフェイルセーフ性能を向上することができる。
ブレーキ力保持可能な状況でないと判断されると、S11以降、ECUは、ブレーキ力保持を直ちに中断する。S11では、ブレーキ力を少しずつ減少する制御を実施できるか(すなわち保持弁11,21を徐々に開弁してホイルシリンダ圧Pwcを徐々に減圧可能であるか)否かを判断し、実施可能であればブレーキ力を徐々に減少し、実施不可能であれば即時に非制御状態としてブレーキ力を解放する(ゼロとする)。ブレーキ力を徐々に減少することが可能な場合にはこれを実施することで、ブレーキ力の急激な抜けを抑制することができる。これらの構成により、制御のフェイルセーフ性能を向上することができる。
図5は、ECU(クリープ発進用減圧制御手段)における、クリープ発進用減圧処理を開始してから減圧終了するまでの制御の流れを示す。S12では、クランキング判断手段によりエンジンEのクランキング中か否かを判断し、クランキング中であればS13へ進み、クランキング中でなければS17へ進む。
S13では、保持弁11,21への電流値を上昇させる処理を実施し、S14へ進む。すなわち、ECUは、クランキング中と判断すると、保持弁11,21への電流値を一時的に上げ、(クランキングにより)バッテリ電圧が瞬間的に低下するときにも通常時と同等のブレーキ力を保持可能とする。これにより、クランキング中におけるブレーキ力の保持(車両の動き出し防止)をより確実なものとすることができる。なお、S12→S13→S14→S12の流れが2回以上繰り返される場合、2回目以降はS13の処理を実施しない(初回に上昇させた電流値に固定する)こととしてもよい。
S14では、エンジン作動状態判断手段が、エンジン回転数又はエンジン駆動力が所定値α以上であるか否かを判断し、所定値α以上であればS15へ進む。所定値α未満であればブレーキ力を保持し、その後、クリープ発進用減圧処理の開始(S12)へ戻る。
S15では、第1減圧手段が、路面勾配等の車両の状況に基づき、ブレーキ力の(所定時間毎の)減少量、具体的にはホイルシリンダ圧Pwcの減圧勾配ΔP1を決定し、S16へ進む。第1減圧手段は、クランキング中に過大なエンジン駆動力(ないしエンジン回転のオーバーシュート)が発生しても車輪FL等(車両)の動き出しを抑制して停車状態を維持できる最低限のブレーキ力を発生するホイルシリンダ圧P1を、前後Gセンサ4により検出された路面勾配や車両の重量に基づき算出する。そして、ブレーキ力保持中のホイルシリンダ圧P0と上記圧力P1とクランキング時間Tcとに基づき減圧勾配ΔP1を算出する(ΔP1=(P0−P1)/Tc)。言い換えると、クランキング中にホイルシリンダ圧PwcがP0からP1まで低下するように、勾配ΔP1を決定する。なお、車両の重量は、予め定められた設定値を用いてもよいし、実際に計測した値を用いてもよい。ブレーキ力保持中のホイルシリンダ圧P0は、例えば、車両が停止する際に検出されたマスタシリンダ圧Pmcに基づき推定することができるが、他の方法で推定してもよいし、ホイルシリンダ圧センサを設けることとしてもよい。クランキング時間Tcは、クランキング開始時点(好ましくは、エンジン回転数又はエンジン駆動力が所定値α以上となった時点)からエンジンEが完爆して自立回転を始めるまでの時間であり、実験等により予め設定することができる。
S16では、決定した減少量(勾配ΔP1)に基づきブレーキ力(ホイルシリンダ圧Pwc)を減少させる。ホイルシリンダ圧PwcをP0からP1まで減少させた後、S17へ進む。すなわち、ホイルシリンダ圧PwcをP0から勾配ΔP1で減少させることで、クランキング中にホイルシリンダ圧PwcがP1まで低下する。なお、勾配ΔP1の決定方法は上記方法に限られず、要は、クランキング中(クランキングが終了する前)にホイルシリンダ圧PwcがP0からP1付近まで低下するような減圧勾配を決定できればよい。例えば、S12〜S16のステップを繰り返し実行し(S16からS12へ戻るようにし)、各周期のS15で、減圧勾配ΔP1を、その時点におけるホイルシリンダ圧P2(推定値)と、その時点から予測されるクランキング終了時点までの時間Tc1と、上記のように算出した圧力P1と、に基づき算出することとしてもよい(ΔP1=(P2−P1)/Tc1)。この場合、各周期のS16で、S15で算出された勾配ΔP1に基づきホイルシリンダ圧Pwcを減圧させる。
S17では、安定始動判断手段が、エンジンEが安定始動したか否かを判断する。安定始動していればS18へ進む。安定始動していなければブレーキ力を保持し、その後、クリープ発進用減圧処理の開始(S12)へ戻る。
S18では、第2減圧手段が、車両の状況(車輪速VW)に基づき、ブレーキ力の(所定時間毎の)減少量、具体的にはホイルシリンダ圧Pwcの減圧勾配ΔP2を決定し、決定した減少量(勾配ΔP2)に基づきブレーキ力(ホイルシリンダ圧Pwc)を減少させる。ホイルシリンダ圧Pwcを略ゼロ(大気圧)まで減少させて減圧が終了すると、制御を終了する。すなわち、エンジン始動が安定してからの低圧P1でのブレーキ力減少については、車輪速フィードバック制御を行い、車両の動き出し量に応じた適切なブレーキ力の減少を実施する。具体的には、車輪速センサ3で車輪速パルスを検知して車両の動き出しを捉え、そこから車輪速フィードバックを開始して車両の動き出し量に応じたブレーキ力減少量を随時決定していく。言い換えると、エンジン安定始動後、ホイルシリンダ圧Pwcの減圧勾配ΔP2は、車両(車輪FL等)の動き出しに合った大きさに設定される。具体的には、第2減圧手段は、予め設定されたクリープ発進時における車輪速VWの目標特性に基づき、車輪速センサ3で検知した車輪速VWが上記目標特性における車輪速VW*(目標値)に収束するよう、減圧勾配ΔP2を決定する。言い換えると、車輪速VWが上記クリープ発進時における目標特性と一致するよう、目標車輪速VW*と実車輪速VWとの偏差に基づき、この偏差を小さくするように勾配ΔP2を決定し、この勾配ΔP2でホイルシリンダ圧Pwcを減圧制御する。このような車輪速フィードバック制御を行うことにより、ブレーキ力保持状態(停車状態)からの車両の動き出し(発進)が、路面勾配や車両重量のいかんに関わらず、予め設定されたクリープ発進時における特性に近づき、運転者による通常ブレーキからのクリープ発進に近い滑らかな動き出しとなる。
[実施例1の作用]
次に、装置1の作用を説明する。図6は、装置1によるブレーキ制御を実施した場合のエンジンE及びブレーキの作動状態のタイムチャートを示す。
時刻t1以前は、運転者によりブレーキペダルBPが踏まれた停車状態であり、ブレーキスイッチがONであり、ホイルシリンダ圧Pwcはブレーキ踏み込み量に応じた所定値P0となっている。所定のアイドルストップ開始条件が成立すると、ECMによりアイドルストップ制御が実施される。エンジン停止信号が出されるため、エンジン回転数又はエンジン駆動力(以下、エンジン回転数等という。)は徐々に低下し、時刻t1で、エンジン回転数等が略ゼロとなる。また、アイドルストップ制御の開始に伴ってブレーキ力保持指令が出されるため、時刻t2まで、ECUによりブレーキ力が保持される。すなわち、保持弁11,21が閉弁され、ホイルシリンダ圧Pwcは運転者が停車時に発生させた値P0に保持される(図3のS1〜S4)。なお、運転者によりブレーキペダルBPは踏まれたままである。
時刻t2で、運転者によりブレーキペダルBPが離されてブレーキスイッチがOFFとなる。また、アイドルストップ制御の解除条件が成立する。よって、ECMによりエンジンEのクランキングが開始される。また、ブレーキ力保持解除指令が出され、運転者がアクセルONしていないため、ECUによりクリープ発進用減圧が開始される(図4のS5〜S7)。
時刻t3で、エンジン回転数等がゼロから上昇し始める。
時刻t2から時刻t4までは、エンジン回転数等が所定値α未満であるため、ECUによりホイルシリンダ圧PwcがP0に保持される(図5のS12〜S14)。
時刻t4で、エンジン回転数等が所定値α以上となるため、ECUが勾配ΔP1でホイルシリンダ圧PwcをP0から減少させ始める(S14〜S16)。
時刻t5で、ホイルシリンダ圧PwcがP1まで低下すると共に、クランキングが終了する。
時刻t5後、時刻t6まで、エンジンEが安定始動しないため、ECUがホイルシリンダ圧PwcをP1に保持する(S12、S17)。
時刻t6で、エンジンEが安定始動し始めるため、ECUが勾配ΔP2でホイルシリンダ圧PwcをP1から減少させ始める(S12、S17〜S18)。これにより、車両が通常のクリープ発進と同様に動き出す。
時刻t7で、ホイルシリンダ圧Pwcが略ゼロ(大気圧)まで低下すると共に、ECUによるブレーキ制御が終了する。
従来、アイドルストップ機能付きの車両において、停車後、エンジンの自動停止中(アイドルストップ中)、サイドブレーキを引かないまま運転者のブレーキペダルの踏み込みが知らず知らずに弱まって、車両が路面勾配により不用意に動き出す(前進したり後退したりする)、という不具合の発生を抑制するため、アイドルストップ中にブレーキ力を保持する制御を行うブレーキ制御装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の装置(以下、従来例という。)は、停車開始時、運転者が要求したブレーキ力をそのまま保持するのではなく、クリープ力による車両の移動を抑制可能なブレーキ力を保持する。これにより、(1)停車中にブレーキ力を保持することで、車両の移動を阻止して上記不具合の発生を抑制し、(2)クリープ力による車両の移動を抑制可能なブレーキ力を保持することで、アイドルストップ後のエンジン再始動時に、運転者のブレーキ踏み込みが知らずに弱まっていても、車両がクリープ力により不用意に動き出すという不具合の発生を抑制し、かつ、(3)保持するブレーキ力(ホイルシリンダ圧)を予め低減することで、アイドルストップ後の車両発進時にホイルシリンダ圧を低減させるときの液圧変動を抑制し、この液圧変動による異音発生の抑制を図っている。
しかし、上記従来例では、アイドルストップ後の発進時に、車両が不用意に動き出すおそれがある。すなわち、エンジンを停止状態から強制始動させるためにはクランキング中に過大な(アイドル状態よりも大きな)エンジントルク(エンジン駆動力)を発生させる必要があるところ、アイドルストップ機能付きの車両において、エンジンを自動停止させた停車状態から、エンジンを再始動させて車両発進する場合、上記過大なエンジン駆動力が車輪に伝達されると、車両が意図せず動き出す(押し出される)おそれがある。ここで、エンジン停止により負圧の発生が不可能となっているため、ブースタ(ブレーキ倍力装置)の機能が低下している可能性があり、この場合、上記車両の不測の動き出しを、運転者が意図するブレーキ力により抑制できないおそれもある。上記従来例においては、保持されるブレーキ力が、(エンジン回転数がアイドル回転数のときに生じる)クリープ力による車両の移動を抑制可能な値にまで低下されているため、エンジン再始動時に上記値を超える過大なエンジントルクが発生すると、車両が運転者の意図に反して動き出すおそれがある。
これに対し、本実施例1の装置1では、停車開始時、運転者が要求したブレーキ力を、クリープ力による車両の移動を抑制可能な値まで低下させることはせず、クランキングが終了するまでは、クランキング中に過大なエンジン駆動力が発生しても車輪FL等(車両)の動き出しを抑制して停車状態を維持できる最低値P1以上となるようにホイルシリンダ圧を制御する。これにより、アイドルストップ終了後の発進時における車両の意図しない動き出し(押し出し感)を抑制し、上記問題の発生を抑制することができる。すなわち、停車中にブレーキ力を保持することで車両の移動を阻止することを前提として、エンジン再始動時のクランキング中は、発生する過大なエンジン駆動力による車両の動き出しを抑制可能なブレーキ力(P1以上のPw)を維持することで、アイドルストップ後のエンジン再始動時に、車両が不用意に動き出すという不具合の発生を抑制することができる。
本実施例1の装置1では、エンジン駆動力が不安定に発生しうるクランキング中は、車輪FL等(車両)の動き出しを抑制すると共に、クランキング終了後、具体的にはエンジン駆動力が安定的に発生するエンジン安定始動後に、車輪FL等(車両)の動き出しを許容する(S17)。これにより、滑らかな車両発進を実現することができる。なお、停車開始時に、クランキング中に過大なエンジン駆動力が発生しても車両を停止させることができる最低値にまでブレーキ力を低下させて、これをエンジン自動停止中に保持することとしてもよい。本実施例1では、停車開始時に運転者が要求したブレーキ力をそのまま保持することで、エンジン自動停止中の車両の動き出しをより確実に抑制できると共に、制御則の複雑化を回避することができる。
また、上記従来例では、異音の発生を十分に抑制することができないおそれがある。すなわち、従来例で保持されるホイルシリンダ圧、言い換えるとクリープ力による車両の移動を抑制可能なブレーキ力は、路面勾配や車両重量等の車両の状況に応じて変化するため、上記異音が発生する程度にまで大きくなりうる。また、上記従来例では、ホイルシリンダ圧を低圧から緩慢解放した際の異音対策(液圧制御によりコントロールできる範囲での音対策)しか行っておらず、高圧でホイルシリンダ圧を解放した際の急激な液圧低下による異音発生の対策(液圧制御によりコントロールできない範囲での音対策)を行っていない。よって、従来例では、車両状況によっては、異音の発生を十分に抑制できないおそれがある。
これに対し、本実施例1の装置1では、エンジン再始動時のクランキング中は、クランキング後(安定始動後)よりも大きな勾配(ΔP1>ΔP2)でブレーキ力(ホイルシリンダ圧Pwc)を低下させる。すなわち、クランキング中は減圧勾配ΔP1が(特にP0が大きいときやP1が小さいときに)比較的大きい。このため、ホイルシリンダ圧Pwcの(単位時間当たりの)変動が大きくなり、ブレーキ系で音が発生するおそれが高い。しかし、本実施例1では、この大きな勾配ΔP1でホイルシリンダ圧Pwcを減圧させる場面を、クランキング中に限定している。よって、この減圧によりブレーキ系で発生する音は、クランキングによる作動音により掻き消されるため、不快なものとして運転者に感受されるおそれが低い。言い換えると、運転者にとって異音として感じ取られず、運転者にとって許容範囲内の大きさの音となる。このように、装置1では、車両状況や運転者操作によって保持されるホイルシリンダ圧P0が変化しても、異音の発生を効果的に抑制することができる。
クランキングによる作動音を利用して、ブレーキ系に発生する音が異音として感受されることを抑制するという上記作用を効果的に得るためには、ブレーキ系に音が発生する場面を、クランキングによる作動音がある程度大きい時間帯に限定することが好ましい。本実施例1の装置1では、クランキング開始後、エンジン回転数又はエンジン駆動力が所定値α未満であるうちはブレーキ力保持を継続して減圧を行わず、所定値α以上になってから、上記勾配ΔP1による急減圧を実施する(S14)。すなわち、クランキングによる作動音がある程度大きくなってから、ブレーキ系に音が発生する急減圧を実施する。これにより、上記異音抑制効果を向上することができる。なお、所定値αの大きさは適宜設定可能であり、またS14のステップを省略することとしてもよい。
また、本実施例1の装置1では、エンジンEの安定始動後は、クランキング中よりも小さな勾配(ΔP2<ΔP1)でブレーキ力(ホイルシリンダ圧Pwc)を低下させる。すなわち、クランキングの作動音が無くなる安定始動後は、ブレーキ系で発生する音が不快なもの(異音)として運転者に感受されるおそれが高くなる。本実施例1では、クランキング中に予めホイルシリンダ圧PwcがP1まで低下しているため、安定始動後における減圧勾配ΔP2は比較的(ΔP1よりも)小さい値となる。よって、安定始動後におけるPwcの(単位時間当たりの)変動が小さくなり、ブレーキ系で発生する音は小さくなる。言い換えると、圧力P1は、停車開始時に運転者が要求した値P0よりも低く、停車状態を維持できる程度の低圧であるため、Pwcをこの低圧P1から減圧する間は、ブレーキ系に音が発生し難い。よって、安定始動後においても上記音を小さくすることで、異音の発生をより効果的に抑制することができる。なお、その値まで急速に減圧するとブレーキ系に音が発生するが、その値から緩やかに減圧すればブレーキ系に音が発生しにくい、というような、音発生の境界点となるホイルシリンダ圧の値P*が実験等によって発見され、かつ、この圧力P*によりクランキング中でも停車状態を維持できる場合には、クランキング中は第1の勾配ΔP1で値P*まで減圧し、クランキング後は第2の勾配ΔP2で値P*から減圧することとしてもよい。言い換えると、P1に代えて、P*を制御に用いることとしてもよい。この場合も、クランキング中に停車状態を維持しつつ、異音の発生を効果的に抑制する、という上記作用効果を得ることができる。
本実施例1の装置1は、アクセルOFFでのクリープ発進時に上記制御を適用する。すなわち、アクセル操作がない場合は、第1減圧手段と第2減圧手段による段階的な減圧を実施し、クランキング後は勾配ΔP2で緩やかにブレーキ力(ホイルシリンダ圧Pwc)を減少させる。よって、上記異音抑制効果を得ることができるだけでなく、滑らかなクリープ発進を実現することが容易となる。具体的には、エンジン安定始動後にブレーキ力(Pwc)を低下させる際、運転者による通常ブレーキからのクリープ発進時における車輪速特性を実現するように、減圧勾配ΔP2を設定する。このような車輪速フィードバック制御によりPwcを減圧制御することで、車両状況(路面勾配や車両重量)のいかんに関わらず、運転者にとって違和感(突き出し感や引き摺り感)のないクリープ発進性能を実現することができる。なお、エンジン安定始動後のPwcの減圧を、車輪速フィードバックとは別の制御方法により実現することとしてもよい。
なお、アクセルONでの車両発進時には、(アクセルON時減圧制御手段が、)クランキング中は第1減圧手段と同様の急減圧(勾配ΔP1によるP0からP1までの減圧)を実施し、クランキング後も急速にホイルシリンダ圧Pwcを減圧することで、車両の不用意な動き出しを抑制しつつ運転者のアクセル操作に応じた滑らかな車両発進を実現することができる。この場合、クランキング中の急減圧により上記異音抑制効果を得つつ、クランキング後も、アクセル操作によるエンジン回転数等の上昇により、急減圧によってブレーキ系に発生する音を目立たなくさせ、運転者が体感する異音を軽減することができる。
[実施例1の効果]
以下、実施例1の装置1が奏する効果を列挙する。
(1)エンジンEの自動停止中にホイルシリンダ圧Pwcを保持する車両のブレーキ制御装置において、保持していたホイルシリンダ圧Pwcをエンジン再始動時に低下させる際、エンジンEのクランキング中は、クランキング後よりも大きな勾配ΔP1でホイルシリンダ圧Pwcを低下させる。
具体的には、アイドルストップ制御によるエンジンEの自動停止時に、車輪FL等に設けられたホイルシリンダW/Cの圧力Pwcを所定値P0に保持することで車両の移動を抑制する車両のブレーキ制御装置であって、エンジンEの作動状態を判断するエンジン作動状態判断手段と、エンジンEの自動停止後の自動始動時に、エンジン作動状態判断手段によりクランキング中であると判断されたときはホイルシリンダ圧Pwcを所定値P0から第1の勾配ΔP1で減圧させる第1減圧手段と、エンジン作動状態判断手段によりクランキングが終了した(エンジンEが安定始動した)と判断されたときはホイルシリンダ圧Pwcを第1の勾配ΔP1よりも小さい第2の勾配ΔP2で減圧させる第2減圧手段と、を有する。
よって、エンジンEの再始動時における異音の発生を効果的に抑制することができる。
(2)エンジン再始動時に運転者のアクセル操作がない場合、クランキング後は、クランキング中よりも小さな勾配でホイルシリンダ圧Pwcを低下させる。
具体的には、運転者のアクセル操作を検知する運転操作検出手段を備え、エンジンEの自動停止後の自動始動時に、アクセル操作がない場合、第1減圧手段と第2減圧手段による減圧を実施する。
よって、滑らかなクリープ発進を実現しつつ、クリープ発進時における異音の発生を効果的に抑制することができる。
(3)エンジンEの再始動時にクランキングが終了するまでは、クランキング中のエンジン駆動力による車両の移動を抑制可能な値以上となるようにホイルシリンダ圧Pwcを制御する。
具体的には、第1減圧手段は、ホイルシリンダ圧Pwcを、クランキング中のエンジン駆動力による車両の移動を抑制可能な値P1まで低下させる。
よって、エンジンEの再始動時における車両の意図しない動き出しを抑制することができる。
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例1に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、液圧ユニットHUの構成は本実施例1のものに限られず、任意のブレーキ回路構成を採用してもよい。この場合、保持弁11,21の閉弁に限らず、他の弁の開閉によりホイルシリンダ圧を保持する構成としてもよい。