JP5469395B2 - ダイアモンドライクカーボン膜形成装置 - Google Patents

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本発明は、ダイアモンドライクカーボン膜形成装置に関する。
非特許文献1は、大気圧付近の圧力下におけるプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によるダイアモンドライクカーボン(DLC)膜の形成に関する。非特許文献1は、IES(Inductive Energy Storage)回路から電極対の間に直流パルス電圧を印加し、ヘリウム(He)ガスとメタン(CH4)ガスとの混合ガスにプラズマを発生させ、シリコン(Si)からなる基板の表面にDLC膜を形成することに言及している。
大竹 尚登 他、5名、「シンセイシス・オブ・ダイアモンド・ライク・カーボン・フィルムス・バイ・ナノパルス・プラズマ・ケミカル・ベイパー・デポジション・アット・サブアトモスフェリック・プレッシャー(Synthesis of Diamond-like Carbon Films by Nanopulse Plasma Chemical Vapor Deposition at Subatmospheric Pressure)」、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)、日本応用物理学会、2004年、第43巻、第11A号、p.L1406-L1408
しかし、従来のDLC膜の形成においては、電極対の間に放電が発生することが期待されるピーク電圧を有する直流パルス電圧を電極対の間に印加しても、電極対の間の放電の状態が安定しない場合があった。
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、電極対の間の放電が安定するダイアモンドライクカーボン膜形成装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための手段を以下に示す。
第1の発明は、ダイアモンドライクカーボン膜を形成するダイアモンドライクカーボン膜形成装置であって、チャンバと、チャンバの内部にヘリウムガスとメタンガスとテトラメチルシランガスとを混合した処理ガスを供給する処理ガス供給機構と、チャンバの内部の圧力を50Torr以上350Torr以下に調整する圧力調整機構と、チャンバの内部に収容され1mm以上5mm以下の間隔の間隙を挟んで対向する電極対と、誘導性素子に磁界の形で蓄積されたエネルギーを直流パルス電圧として放出し前記電極対に直流パルス電圧を繰り返し印加する誘導エネルギー蓄積型のパルス電源と、を備え、前記誘導性素子のインダクタンスL(μH)、前記チャンバの内部の圧力P(Torr)及び直流パルス電圧による投入電力を前記電極対の対向面積で除した単位面積あたりの投入電力W(W/cm2)が、条件式:−1.3×W×Ln(P)+4.25×102×Ln(P)+4.7×W−1.4×103≧L≧0.8×Pを満たす。当該条件式におけるインダクタンスL(μH)は、トランスの巻線を前記誘導性素子として用いる実施の形態においては、前記電極対に接続される巻線から見た励磁インダクタンスである。
本発明によれば、電極対の間の放電の状態が安定する。
プラズマ処理装置の断面図である。 噴射体電極の斜視図である。 噴射体電極の縦断面図である。 直流パルス電圧の波形を示す図である。 IES電源の回路図である。 IES電源の回路図である。 安定したグロー状のプラズマ放電が発生するインダクタンスL(μH)の下限値及び上限値を示すグラフである。 DLC膜形成体の製造の手順を示すフローチャートである。 DLC膜形成体の断面図である。 放電の状態を調べた実験結果を示すグラフである。 放電の状態を調べた実験結果を示すグラフである。
<1.概略>
本実施形態は、DLC膜が表面に形成されたDLC膜形成体の製造に用いるプラズマ処理装置(プラズマCVD装置)1002に関する。DLC膜は、「ダイアモンド状炭素膜」「硬質炭素膜」「アモルファスカーボン膜」「iカーボン膜」等とも呼ばれる。プラズマ処理装置1002では、誘導性素子に磁界の形で蓄積されたエネルギーを直流パルス電圧として放出する誘導エネルギー蓄積型のパルス電源を用い、誘導性素子から取り出す直流パルス電圧のピーク電圧が電極対の間にグロー状のプラズマ放電が発生することが期待されるピーク電圧を大きく上回るように誘導性素子のインダクタンスを決める。これにより、電極対の間の放電が安定する。
<2.プラズマ処理装置1002>
(全体構造)
図1は、DLC膜形成体の製造に用いるプラズマ処理装置1002の模式図である。図1は、プラズマ処理装置1002のリアクタ1004の断面を示すとともに、リアクタ1004に付随する電気回路及び気体回路を示す。
図1に示すように、プラズマ処理装置1002のリアクタ1004は、処理ガスを噴射する噴射体(ノズル)を兼ねる噴射体電極(ノズル電極)1006と、基板1902を支持する支持体を兼ねる支持体電極1008と、基板1902を加熱するヒータ1010と、をチャンバ1012の内部に収容した構造を有する。
チャンバ1012の内部には、基板1902を処理する複数の処理部1014が配列される。処理部1014の数は、プラズマ処理装置1002の仕様に応じて増減してもよく、1個としてもよい。
複数の処理部1014の各々には、噴射体電極1006が1個ずつ設けられる。支持体電極1008は、複数の処理部1014に共通となっている。複数の処理部1014の各々に個別の支持体電極を設けてもよい。
リアクタ1004には、噴射体電極1006と支持体電極1008との間に直流パルス電圧を繰り返し印加するパルス電源1016と、噴射体電極1006に処理ガスを供給する処理ガス供給回路1018と、チャンバ1012の内部から排ガスを排出する排ガス排出回路1020と、チャンバ1012の内部に窒素ガス(N2)を供給する窒素ガス供給回路1022と、チャンバ1012の内部に空気を供給する空気供給回路1024と、が接続される。また、リアクタ1004には、チャンバ1012の内部の圧力を測定する圧力センサ1026と、基板1902の温度を測定する温度センサ1028と、チャンバ1012を冷却する冷却機構1026と、が設けられる。
望ましくは、パルス電源1016は、複数の処理部1014の各々に対応して1個ずつ設けられる。複数のパルス電源1016の各々は、対応する処理部1014の噴射体電極1006と支持体電極1008との間に直流パルス電圧を印加する。これにより、複数の処理部1014の各々に直流パルス電圧が独立して印加され、一の噴射体電極1006と支持体電極1008との間隙1118にアーク放電が発生しても、他の噴射体電極1006と支持体電極1008との間への直流パルス電圧の印加への影響がないので、アーク放電による生産性の低下が抑制される。ただし、上述の利点は失われるものの、複数の処理部1014に共通のパルス電源を採用してもよい。
プラズマ処理装置1002は、複数の処理部1014の各々において、噴射体電極1006から処理ガスを噴射しつつ噴射体電極1006と支持体電極1008との間に直流パルス電圧を印加することにより、噴射体電極1006と支持体電極1008との間隙1118にある処理ガスに放電プラズマを発生させ、支持体電極1008の支持面1116で支持された基板1902の表面を処理する。複数の処理部1014の各々において処理する基板1902は、1個であってもよいが、2個以上であってもよい。
(噴射体電極1006)
図2及び図3は、噴射体電極1006の模式図である。図2は、斜め下方から見た斜視図、図3は、対向面1102に垂直な断面を示す縦断面図である。
図2及び図3に示すように、噴射体電極1006は、円柱の底面の近傍の径を底面に向かって連続的に細くした立体形状を有し、先細り部分の先端が対向面1102となっている。もちろん、底面の近傍だけでなく全体を先細り構造としてもよい。
噴射体電極1006は、鉄、アルミニウム、鉄を主成分とする合金(例えば、ステンレス鋼、ダイス鋼、ハイスピード鋼等)、アルミニウムを主成分とする合金等からなることが望ましい。ただし、噴射体電極1006の材質を変更してもよいし、噴射体電極1006の表面をタングステン、クロム、ニッケル等でコーティングしてもよい。
図3に示すように、噴射体電極1006の内部には、処理ガスのガスたまり1104と、ガスたまり1104から対向面1102へ至る処理ガスの流路1106と、非対向面1108からガスたまり1104へ至る処理ガスの流路1110とが形成される。これにより、対向面1102には、処理ガスの噴射孔1112が形成され、非対向面1108には、処理ガスの供給孔1114が形成される。「対向面」とは、噴射体電極1006の表面のうちの支持体電極1008の支持面1116と平行に対向し放電に寄与する範囲であり、「非対向面」とは、噴射体電極1006の表面のうちの「対向面」を除く残余の範囲である。噴射体電極1006は、対向面1102が水平になるように設置される。
噴射体電極1006は、供給孔1114から処理ガスを受け取り、ガスたまり1104に処理ガスを一時的に貯留し、噴射孔1112から処理ガスを下方に噴射する。これにより、支持体電極1008に支持された基板1902の表面に処理ガスが垂直に吹きつけられる。
なお、噴射体電極1006の噴射孔1112から基板1902の表面に処理ガスを吹き付けることが望ましいが、噴射体電極1006を経由しないで処理ガスをチャンバ1012の内部に供給してもよい。
(支持体電極1008)
支持体電極1008は、複数の孔を板に形成した外形形状を有する。支持体電極1008に形成された孔により、上方から下方へのガスの流れが支持体電極1008によって妨げられることが抑制される。
支持体電極1008も、鉄、アルミニウム、鉄を主成分とする合金(例えば、ステンレス鋼、ダイス鋼、ハイスピード鋼等)、アルミニウムを主成分とする合金等からなることが望ましい。ただし、支持体電極1008の材質を変更してもよいし、支持体電極1008の表面をタングステン、クロム、ニッケル等でコーティングしても良い。
支持体電極1008は、「パンチングメタル」と称される部材である。
支持体電極1008は、水平に設置され、支持面(上面)1116に載置された基板1902を下方から支持する。
(噴射体電極1006及び支持体電極1008の配置)
噴射体電極1006及び支持体電極1008は、上下に離隔して配置され、噴射体電極1006の対向面1102と支持体電極1008の支持面1116とは間隙1118を挟んで対向する。間隙1118の間隔は、1〜5mmであることが望ましい。間隙1118の間隔がこの範囲より狭くなるとアーク放電が起こりやすくなり、間隙1118の間隔がこの範囲より広くなると後述するグロー状のプラズマ放電が起こりにくくなるからである。
(噴射体電極1006及び支持体電極1008の被覆)
噴射体電極1006の対向面1102及び支持体電極1008の支持面1116は、誘電体バリアで被覆せず、導電体が露出した状態とすることが望ましい。これは、対向面1102及び支持面1116を誘電体バリアで被覆すると、放電プラズマ中をイオンが移動することが妨げられ、基板1902の表面への膜の形成が阻害されるからである。対向面1102及び支持面1116を誘電体バリアで被覆しないと、アーク放電が発生しやすくなるが、プラズマ処理装置1002では、複数の処理部1014の各々に対応してパルス電源1016を1個ずつ設けることにより、アーク放電による生産性の低下を抑制しているので、大きな問題とはならない。また、対向面1102及び支持面1116を誘電体バリアで被覆しない場合、噴射体電極1006と支持体電極1008との間に交流パルス電圧を印加すると、放電が発生しにくく、放電が発生した場合はアーク放電となってしまうことが多いが、プラズマ処理装置1002では、噴射体電極1006と支持体電極1008との間に直流パルス電圧を印加するので、大きな問題とはならない。
(処理ガス供給回路1018)
図1に示すように、処理ガス供給回路1018は、噴射体電極1006の供給孔1114に接続される。処理ガス供給回路1018が供給する処理ガスは、プラズマ処理装置1002が行う処理によって変化する。
処理ガス供給回路1018は、処理ガスが含有する成分ガスが合流する成分ガス合流配管1202と、成分ガス合流配管1202から噴射体電極1006への処理ガスの流通経路となる処理ガス流通配管1204と、成分ガスの供給源1206から成分ガス合流配管1202への成分ガスの流通経路となる成分ガス流通配管1208と、処理ガス流通配管1204を処理ガスが流通することを許容又は阻止するバルブ1210と、成分ガス合流配管1202を成分ガスが流通することを許容又は阻止するバルブ1212と、成分ガス合流配管1202を流通する成分ガスの流量を制御する流量制御弁1214と、を備える。
複数の処理ガス流通配管1204の各々の一端は、1個の噴射体電極1006の供給孔1114に接続される。複数の処理ガス流通配管1204の各々の他端は、成分ガス合流配管1202に接続される。複数の処理ガス流通配管1204の各々には、バルブ1210が1個ずつ挿入される。
複数の成分ガス流通配管1208の各々の一端は、1個の供給源1206に接続される。複数の成分ガス流通配管1208の各々の他端は、成分ガス合流配管1202に接続される。複数の成分ガス流通配管1208の各々には、バルブ1212及び流量制御弁1214が1個ずつ挿入される。
図1には、成分ガスの供給源1206として、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、水素(H2)ガス、テトラメチルシラン(Si(CH34)ガス及びメタン(CH4)ガスの供給源が準備されている。もちろん、ケイ素(Si)の原料となる成分ガスをテトラメチルシランガス以外のケイ素化合物のガスに変更してもよいし、炭素(C)の原料となる成分ガスをメタンガス以外の有機化合物のガスに変更してもよい。
処理ガス供給回路1018が処理ガスを供給する場合、処理ガスが含有する成分ガスが流通する成分ガス流通配管1208に挿入されたバルブ1212が開かれ、処理ガスが含有する成分ガスが流通する成分ガス流通配管1208に挿入された流量制御弁1214の開度が成分ガスの含有比が予定された含有比になるように調整され、バルブ1210が開かれる。これにより、予定された含有比で成分ガスを含有する処理ガスが噴射体電極1006の噴射孔1112から基板1902の表面に向かって噴出する。
(排ガス排出回路1020)
排ガス排出回路1020は、チャンバ1012の下面に設けられた排出口から真空ポンプ1216の吸入口への排ガスの流通経路となる排ガス流通配管1218と、チャンバ1012の下面に設けられた排出口から排ガス流通配管1218への圧力制御弁1220を経由しない排ガスの流通経路となる排ガス流通配管1222と、排ガスを吸入して排出する真空ポンプ1216と、真空ポンプ1216の排出口から外部への排ガスの流通経路となる排ガス流通配管1224と、排ガス流通配管1224への希釈ガスの流通経路となる希釈ガス流通配管1226と、1次側の圧力を制御する圧力制御弁1220と、排ガス流通配管1222を排ガスが流通することを許容又は阻止するバルブ1228と、希釈ガス流通配管1226を希釈ガスが流通することを許容又は阻止するバルブ1230と、希釈ガス流通配管1226を流通する希釈ガスの流量を制御する流量制御弁1232と、を備える。
圧力制御弁1220は、排ガス流通配管1218に挿入され、バルブ1228は、排ガス流通配管1222に挿入される。バルブ1230及び流量制御弁1232は、希釈ガス流通配管1226に挿入される。
排ガス排出回路1020が排ガスを急速に排出する場合、バルブ1228が開かれ、真空ポンプ1216が運転される。
排ガス排出回路1020がチャンバ1012の内部の圧力を調整しながら排ガスを排出する場合、バルブ1228が閉じられ、チャンバ1012の内部の圧力が予定された圧力になるように圧力制御弁1220が調整され、真空ポンプ1216が運転される。
(窒素ガス供給回路1022)
窒素ガス供給回路1022は、窒素ガスの供給源1234からチャンバ1012の側面に設けられた供給口への窒素ガスの流通経路となる窒素ガス流通配管1236と、窒素ガス流通配管1236を窒素ガスが流通することを許容又は阻止するバルブ1238と、窒素ガス流通配管を流通する窒素ガスの流量を調整する流量制御弁1240と、を備える。
(空気供給回路1024)
空気供給回路1024は、空気の供給源1242からチャンバ1012の側面に設けられた供給口への空気の流通経路となる空気流通配管1246と、空気流通配管1246を空気が流通することを許容又は阻止するバルブ1248と、を備える。
(直流パルス電圧)
パルス電源1016から噴射体電極1006と支持体電極1008との間に繰り返し印加される直流パルス電圧は、間隙1118にグロー状のプラズマ放電を発生させる立ち上がりの速い直流パルス電圧であることが望ましい。ただし、アーク放電に移行しないストリーマ放電が間隙1118の一部に発生していてもよい。
グロー状のプラズマ放電を発生させる直流パルス電圧は、ピーク電圧が概ね0.1〜20kV、半値幅FWHM(Full Width at Half Maximum)が概ね100〜5000ns、立ち上がり時の電圧の時間上昇率dV/dtが概ね0.1〜100kV/μs、周波数が概ね1〜200kHzの直流パルス電圧である。直流パルス電圧は、図4に示すように、極性が変化しない単極性の直流パルス電圧である。
グロー状のプラズマ放電が間隙1118に発生しているときには、図1に示すように、発光するプラズマ1910が間隙1118に観察される。
上述の説明において半値幅等の範囲を「概ね」としているのは、噴射体電極1006及び支持体電極1008の構造及び材質、間隙1118の間隔並びに処理ガスの圧力等のプラズマ処理装置1002の構造や処理条件によっては、グロー状のプラズマ放電が発生する半値幅等の範囲が上述の範囲よりも広くなる場合があるからである。したがって、放電がグロー状のプラズマ放電になっているか否かは、実際の放電を観察して判断することが望ましい。
(パルス電源1016の形式)
パルス電源1016は、アーク放電を発生させることなくグロー状のプラズマ放電を発生させる直流パルス電圧を出力する電源であればよいが、誘導性素子に磁界の形で蓄積したエネルギーを短時間で放出する誘導エネルギー蓄積型(IES;Inductive Energy Storage)の電源(以下では、「IES電源」という)であることが望ましい。これは、IES電源は、容量性素子に電界の形で蓄積したエネルギーを短時間で放出する静電エネルギー蓄積型(CES;Capacitive Energy Storage)の電源(以下では、「CES電源」という)と比較して、著しく大きいエネルギーを高い繰り返し頻度で投入することができるからである。典型的には、電極構造が同じならば、IES電源を採用した場合、放電プラズマを発生させる反応に使われる1パルスあたりの投入エネルギー(以下では、「1パルスエネルギー」という)は、CES電源を採用した場合よりも概ね1桁大きくなる。IES電源とCES電源とのこの相違は、IES電源が発生する直流パルス電圧は電圧の上昇が急激であるのに対して、CES電源が発生する直流パルス電圧は電圧の上昇が緩慢であることにより生じる。すなわち、IES電源を採用した場合、電圧が十分に上昇してから放電が始まり、1パルスエネルギーが十分に大きくなるとともに、面内の放電均一性が高いのに対して、CES電源を採用した場合、電圧が十分に上昇しないうちに放電が始まり、1パルスエネルギーが十分に大きくならないとともに、面内の放電均一性が悪いことがある。
(スイッチング素子)
IES電源としては、静電誘導型サイリスタ(以下では、「SIサイリスタ」という)を誘導性素子への電流の供給を制御するスイッチング素子として用いた電源を採用することが望ましい。SIサイリスタをスイッチング素子として用いると、立ち上がりの速い直流パルス電圧が発生するからである。SIサイリスタをスイッチング素子として用いると立ち上がりの速い直流パルス電圧が発生するのは、SIサイリスタは、ゲートが絶縁されておらずゲートから高速にキャリアが引き抜かれるので、高速にターンオフするからである。IES電源の動作原理等の詳細は、例えば、飯田克二、佐久間健:「SIサイリスタによる極短パルス発生回路(IES回路)」、SIデバイスシンポジウム講演論文集、Vol.15,Page.40−45(2002年6月14日発行)に記載されている。ただし、SIサイリスタ以外のスイッチング素子を用いてもよい。
(IES電源1300)
図5は、パルス電源1016に好適に用いられるSIサイリスタ1310をスイッチング素子として用いたIES電源1300の回路図である。もちろん、図5に示す回路図は一例にすぎず、様々に変形される。
図5に示すように、IES電源1300は、電気エネルギーを供給する直流電源1304と、直流電源1304の放電能力を強化するキャパシタ1306と、を備える。
直流電源1304の電圧は、IES電源1300が発生させる直流パルス電圧のピーク電圧より著しく低い電圧であることが許容される。例えば、後述する昇圧トランス1308の1次側のコイル1318に発生させる1次側電圧V1のピーク電圧が4kVに達しても、直流電源1304の電圧は数10〜数100Vで足りる。この電圧の下限は後述するSIサイリスタ1310のラッチング電圧によって決まる。
キャパシタ1306は、直流電源1304と並列に接続される。キャパシタ1306は、直流電源1304のインピーダンスを見かけ上低下させる。
IES電源1300は、さらに、昇圧トランス1308、SIサイリスタ1310、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)1312、ゲート駆動回路1314及びダイオード1316を備える。
IES電源1300では、直流電源1304と、昇圧トランス1308の1次側のコイル1318と、SIサイリスタ1310のアノード(A)・カソード(K)間と、MOSFET1312のドレイン(D)・ソース(S)間とが直列接続される。すなわち、昇圧トランス1308の1次側のコイル1318の一端が直流電源1304の正極に、昇圧トランス1308の1次側のコイル1318の他端がSIサイリスタ1310のアノードに、SIサイリスタ1310のカソード(K)がMOSFET1312のドレイン(D)に、MOSFET1312のソース(S)が直流電源1304の負極に接続される。これにより、直流電源1304からこれらの回路素子に電流を供給する閉回路が形成される。また、IES電源1300では、SIサイリスタ1310のゲート(G)がダイオード1316を介して昇圧トランス1308の1次側の一端と接続される。すなわち、SIサイリスタ1310のゲート(G)がダイオード1316のアノード(A)に、ダイオード1316のカソード(K)が昇圧トランス1308の1次側のコイル1318の一端(直流電源1304の正極)に接続される。FETのゲート(G)・ソース(S)間には、ゲート駆動回路1314が接続される。
昇圧トランス1308は、1次側のコイル1318に与えられた直流パルス電圧をさらに昇圧して2次側のコイル1320に出力する。昇圧トランス1308の2次側のコイル1320の一端は支持体電極1008に接続されるとともに接地され、他端は噴射体電極1006に接続される。
SIサイリスタ1310は、ゲート(G)に与えられる信号によりターンオン及びターンオフされる。
MOSFET1312は、ゲート駆動回路1314から与えられる信号に応答してドレイン(D)・ソース(S)間の導通状態が変化するスイッチング素子である。MOSFET1312のオン電圧ないしはオン抵抗は低いことが望ましい。また、MOSFET1312の耐圧は直流電源1304の電圧より高いことを要する。
ダイオード1316は、MOSFET1312がターンオフした直後にSIサイリスタ1310に蓄積されたキャリアを高速に引き抜き、SIサイリスタ1310を高速にターンオフさせるために設けられる。
(IES電源1300の動作)
IES電源1300に直流パルス電圧を発生させる場合、まず、ゲート駆動回路1314からMOSFET1312のゲートにオン信号を与え、MOSFET1312のドレイン(D)・ソース(S)間を導通状態にする。すると、SIサイリスタ1310はノーマリオン型のスイッチング素子であってSIサイリスタ1310のアノード(A)・カソード(K)間は導通状態となっているので、昇圧トランス1308の1次側のコイル1318に電流が流れ、昇圧トランス1308の1次側のコイル1318と磁気的に結合された昇圧トランス1308の2次側のコイル1320に磁界の形でエネルギーが蓄積される。この状態においては、SIサイリスタ1310のゲート(G)に正バイアスが与えられるので、SIサイリスタ1310のアノード(A)・カソード(K)間の導通状態は維持される。
続いて、ゲート駆動回路1314からMOSFET1312へオン信号を与えることを中止し、MOSFET1312のドレイン(D)・ソース(S)間を非導通状態にする。すると、SIサイリスタ1310のゲート(G)からキャリアが電流駆動により高速に排出されSIサイリスタ1310のアノード(A)・カソード(K)間が非導通状態となるので、昇圧トランス1308の1次側のコイル1318への電流の流入が高速に停止される。これにより、誘導起電力が発生し、昇圧トランス1308の2次側のコイル1320に磁界の形で蓄積されたエネルギーが直流パルス電圧として放出される。
図6は、図5に示すIES電源1300に代えて採用されるIES電源2300の回路図である。図6に示すIES電源2300は、磁界を発生させる電流を流す1次側のコイル(誘導性素子)と直流パルス電圧を取り出す2次側のコイル(誘導性素子)1320とを磁気的に結合した昇圧トランス1308に代えて、磁界を発生させる電流が流されるとともに直流パルス電圧を取り出すコイル(誘導性素子)2308を備え、コイル2308の両端から直流パルス電圧を取り出す。
(安定したグロー状のプラズマ放電が発生する条件)
間隙1118の間隔が1〜5mmであり、DLC膜の形成に用いる処理ガスがヘリウムガスとメタンガスとテトラメチルシランガスとの混合ガスであってチャンバ1012の内部の圧力が50〜350Torrに調整される場合、DLC膜を形成するときに噴射体電極1006と支持体電極1010との間に0.5〜2.5kVのピーク電圧を有する直流パルス電圧を印加すれば噴射体電極1006と支持体電極1010との間にグロー状のプラズマ放電が発生することが期待された。しかし、DLC膜の0.5〜2.5kVを若干超えるピーク電圧を有するパルス電圧を噴射体電極1006と支持体電極1010との間に印加しても、実際には、安定したグロー状のプラズマ放電が発生しない場合がある。
そこで、安定したグロー状のプラズマ放電が発生する条件を調べたところ、DLC膜の形成に用いる処理ガスがヘリウムガスとメタンガスとテトラメチルシランガスとの混合ガスであってチャンバ1012の内部の圧力が50〜350Torrである場合は、直流パルス電圧を取り出す誘導性素子のインダクタンスL(μH)、DLC膜の形成のときのチャンバ1012の内部の圧力P(Torr)及びDLC膜の形成のときの直流パルス電圧による投入電力を噴射体電極1006と支持体電極1008との対向面積で除した単位面積あたりの投入電力W(W/cm2)が以下の条件式(1)を満たせば、噴射体電極1006と支持体電極1010との間のグロー状のプラズマ放電は安定することがわかった。
−1.3×W×Ln(P)+4.25×102×Ln(P)+4.7×W−1.4×103≧L≧0.8×P・・・(条件式1)
プラズマ処理装置1002が複数のパルス電源1016を備える場合、条件式(1)におけるインダクタンスL(μH)は、1個のパルス電源1006が備える誘導性素子のインダクタンスである。投入電力Wは、1個のパルス電源1006から投入される電力である。また、条件式(1)におけるインダクタンスL(μH)は、誘導性素子がトランスである実施の形態においては、2次側のコイル1320の励磁インダクタンスである。
インダクタンスLがこの下限値より小さくなると、噴射体電極1006と支持体電極1010との間の放電の状態が不安定になりやすくなる。一方、インダクタンスLがこの上限値より大きくなると、噴射体電極1006と支持体電極1010との間にアーク放電が発生しやすくなる。
直流パルス電圧による投入電力は、1秒間の直流パルス電圧の繰り返し数及び直流パルス電圧を発生させるときに直流パルス電圧を取り出す誘導性素子に蓄積されるエネルギーによって調整される。直流パルス電圧を取り出す誘導性素子に蓄積されるエネルギーは、直流電源1304の電圧及びMOSFET1312のゲートにオン信号を与える時間の長さによって調整される。
図7は、DLC膜の形成のときの単位面積あたりの投入電力Wが50W/cm2である場合の条件式(1)によって決まる安定したグロー状のプラズマ放電が発生するインダクタンスLの下限値及び上限値を示すグラフである。図7のグラフでは、チャンバ1012の内部の圧力P(Torr)が横軸、誘導性素子のインダクタンスL(μH)が縦軸となっている。
図7に示すように、チャンバ1012の内部の圧力Pが50〜350Torrの範囲内においては、チャンバ1012の内部の圧力Pが高くなるほど、安定したグロー状のプラズマ放電が発生するインダクタンスLは大きくなる傾向がある。
その一方で、チャンバ1012の内部の圧力Pが50Torrを大きく下回る高真空の圧力下においては、一般的に言って、チャンバ1012の内部の圧力Pが高くなるほど、安定したグロー状のプラズマ放電が発生する印加電圧が低下し、安定したグロー状のプラズマ放電が発生するインダクタンスLは小さくなる。したがって、高真空の圧力下における安定したグロー状のプラズマ放電が発生するインダクタンスLに関する知見から大気圧付近の圧力下における条件式(1)を導くことはできない。
なお、チャンバ1012の内部の圧力Pが高くなるほど、安定したグロー状のプラズマ放電が発生するインダクタンスLが大きくなる傾向は、DLC膜の形成のときの単位面積あたりの投入電力Wが50W/cm2でない場合も同様である。
(ヒータ1010)
ヒータ1010は、支持体電極1008の下方に設けられる。ヒータ1010は、例えば、遠赤外線を照射するセラミックヒータである。基板1902から離れて基板1902を加熱するセラミックヒータに代えて、基板1902に接触して基板1902を直接加熱するステージヒータ、シーズヒータ等を用いてもよい。
(チャンバ1012)
チャンバ1012は、ステンレス製の容器である。チャンバ1012の内部は、閉空間となっている。
(被処理物)
プラズマ処理装置1002の被処理物の形状は特に制限されない。したがって、基板1902のような板形状を有する基体以外の基体、例えば、セラミックス成形用金型、切削加工用の工具、自動車用の部品等の表面にもプラズマ処理装置1002によりDLC膜が形成される。
基板1902の材質も特に制限されない。ただし、プラズマ処理装置1002は、体積抵抗率が小さい物質、例えば、半導体に用いられる高純度で体積抵抗率が小さいシリコンよりも体積抵抗率がさらに小さい金属又は合金からなる導電性の基板1902の表面にDLC膜を形成する場合に好適に用いられる。これは、導電性の基板1902の表面にDLC膜を形成する場合、アーク放電が発生しやすくなるが、プラズマ処理装置1002では、複数の処理部1014の各々に対応してパルス電源1016をひとつずつ設けることにより、アーク放電による生産性の低下を抑制しているからである。
半導体に用いられる高純度で体積抵抗率が小さいシリコンよりも体積抵抗率がさらに小さい金属又は合金の例は、鉄又は鉄を主成分とする合金、例えば、ステンレス鋼、ダイス鋼、ハイスピード鋼等である。ステンレス鋼には、SUS304、SUS430、SUS440等があり、ダイス鋼には、SKD11、SKD61等があり、ハイスピード鋼には、SKH51、SKH55等がある。
この他、被処理物の材質の他の例として、アルミニウム又は銅を主成分とする合金があげられる。
<3.DLC膜形成体の製造>
図8は、鉄を主成分とする合金からなる基板1902を用いてDLC膜が表面に形成されたDLC膜形成体をプラズマ処理装置1002により製造する場合の製造の手順を示すフローチャートである。プラズマ処理装置1002の運転は、手動運転であってもよいし、コントローラによる自動運転であってもよいし、手動運転及びコントローラによる自動運転の混在であってもよい。
(有機溶媒による洗浄)
DLC膜形成体の製造にあたっては、まず、基板1902をアセトン等の有機溶媒により洗浄する(ステップS101)。
(チャンバの内部への収容)
有機溶媒による洗浄の後に、チャンバ1012の内部に基板1902を収容する(ステップS102)。チャンバ1012の内部に収容された基板1902は、噴射体電極1006の下方において支持体電極1008の支持面1116に載置される。
(放電プラズマによる前処理)
チャンバの内部への基板1902の収容の後に、基板1902の表面を放電プラズマにより前処理し、基板1902の表面に付着した有機物、酸化膜等を除去する(ステップS103〜S106)。
放電プラズマによる前処理にあたっては、まず、温度センサ1028で基板1902の温度を監視しながらヒータ1010で基板1902を加熱し、基板1902の温度を調整する(ステップS103)。
続いて、基板1902の温度を維持しつつ、排ガス排出回路1020により基板1902が収容されたチャンバ1010の内部の圧力を調整するとともに(ステップS104)、処理ガス供給回路1018により基板1902が収容されたチャンバ1010の内部へ処理ガスを供給する(ステップS105)。
放電プラズマによる前処理に用いる処理ガスは、100体積部のヘリウムガスに1体積部以上10体積部以下のアルゴンガスを混合した混合ガスであることが望ましく、100体積部のヘリウムガスに1体積部以上10体積部以下のアルゴンガス及び1体積部以上10体積部以下の水素ガスを混合した混合ガスであることがさらに望ましい。
さらに続いて、基板1902の温度、チャンバの内部の圧力及び処理ガスにおける成分ガスの混合比を維持しつつ、処理ガスの供給を継続しながら基板1902を挟んで対向する噴射体電極1006と支持体電極1008との間に直流パルス電圧を繰り返し印加しチャンバ1012の内部の処理ガスにグロー状のプラズマ放電を発生させる(ステップS106)。これにより、処理ガスに放電プラズマが発生し、放電プラズマが基板1902の表面に作用し、基板1902の表面が放電プラズマにより処理される。
(炭化ケイ素膜の形成)
放電プラズマによる前処理の後に、放電プラズマにより処理された基板1902の表面にアモルファスの炭化ケイ素膜を形成する(ステップS107,S108)。
炭化ケイ素膜の形成にあたっては、まず、基板1902の温度及びチャンバ1012の内部の圧力を維持しつつ、処理ガス供給回路1018により基板1902が収容されたチャンバ1010の内部へ処理ガスを供給する(ステップS107)。
炭化ケイ素膜の形成に用いる処理ガスは、100体積部のヘリウムガスに0.1体積部以上5体積部以下のテトラメチルシランガスを混合した混合ガスであることが望ましい。
続いて、基板1902の温度、チャンバ1012の内部の圧力及び処理ガスにおける成分ガスの混合比を維持しつつ、処理ガスの供給を継続しながら基板1902を挟んで対向する噴射体電極1006と支持体電極1008との間に直流パルス電圧を繰り返し印加し、チャンバ1012の内部の処理ガスの中にグロー状のプラズマ放電を発生させる(ステップS108)。これにより、処理ガスに放電プラズマが発生し、基板1902の表面に炭化ケイ素膜が形成される。
(DLC膜の形成)
炭化ケイ素膜の形成の後に、炭化ケイ素膜に重ねてDLC膜を形成する(ステップS109,S110)。
DLC膜の形成にあたっては、基板1902の温度及びチャンバ1012の内部の圧力を維持しつつ、処理ガス供給回路1018により基板1902が収容されたチャンバ1010の内部へ処理ガスを供給する(ステップS109)。
DLC膜の形成に用いる処理ガスは、100体積部のヘリウムガスに0.1体積部以上30体積部以下のメタンガス及び0.05体積部以上2.0体積部以下のテトラメチルシランガスを混合した混合ガスであることがさらに望ましい。
続いて、基板1902の温度、チャンバ1012の内部の圧力及び処理ガスにおける成分ガスの混合比を維持しつつ、処理ガスの供給を継続しながら基板1902を挟んで対向する噴射体電極1006と支持体電極1008との間に直流パルス電圧を繰り返し印加し、処理ガスにグロー状のプラズマ放電を発生させる(ステップS110)。これにより、処理ガスに放電プラズマが発生し、炭化ケイ素膜に重ねてDLC膜が形成される。
(DLC膜形成体1908の構造)
図9は、上述の製造の手順により製造されるDLC膜形成体1908の模式図である。図9は、DLC膜形成体1908の断面図である。
図9に示すように、DLC膜形成体1908は、基板1902の表面に炭化ケイ素膜1904が形成され、炭化ケイ素膜1904の表面にDLC膜1906が形成された積層構造を有する。
(基板1902の温度)
放電プラズマによる前処理、炭化ケイ素膜の形成及びDLC膜の形成のときの基板1902の温度は、150℃以上400℃以下に調整されることが望ましい。基板1902の温度がこの範囲内であれば、基体1902を損傷することなく処理が十分に行われるからである。
基板1902の温度は、放電プラズマによる前処理、炭化ケイ素膜の形成及びDLC膜の形成を通して一定に維持される必要はなく、放電プラズマによる前処理のときの基板1902の温度、炭化ケイ素膜の形成のときの基板1902の温度及びDLC膜の形成のときの基板1902の温度の全部又は一部を異ならせてもよい。
(処理ガスの圧力)
放電プラズマによる前処理、炭化ケイ素膜の形成及びDLC膜の形成のときの処理ガスの圧力は、50Torr以上350Torr以下に調整される。処理ガスの圧力がこの範囲を下回ると、処理の効率が低下し、この範囲を上回ると放電が不安定になるからである。なお、チャンバ1012の内部の圧力が高くなると、アーク放電が起こりやすくなるが、プラズマ処理装置1002では、複数の処理部1014の各々に対応してパルス電源1016をひとつずつ設けることにより、アーク放電による生産性の低下を抑制しているので、大きな問題とはならない。
処理ガスの圧力は、放電プラズマによる前処理、炭化ケイ素膜の形成及びDLC膜の形成を通して維持される必要はなく、放電プラズマによる前処理のときの処理ガスの圧力、炭化ケイ素膜の形成のときの処理ガスの圧力及びDLC膜の形成のときの処理ガスの圧力の全部又は一部を異ならせてもよい。
放電プラズマによる前処理、炭化ケイ素膜の形成及びDLC膜の形成をひとつのチャンバ1012の内部で行うことは必須ではなく、別々のチャンバ1012の内部で行ってもよい。この場合、ロボットアーム、搬送ベルト等により一のチャンバ1202から他のチャンバ1202へ基板1902が搬送される。
(投入する電力)
放電プラズマによる前処理、炭化ケイ素膜の形成及びDLC膜の形成のときに直流パルスによる投入電力を噴射体電極1006の対向面1102と支持体電極1008の支持面1116とが対向する対向面積で除した単位面積あたりの投入電力は、50W/cm2以上であることが望ましい。単位面積あたりの投入電力がこの範囲内にあれば、処理が速くなり、生産性が向上するからである。
また、直流パルスによる投入エネルギーは1パルスあたり1mJ以上10mJ以下であることが望ましい。
<4.実験>
図10及び図11は、DLC膜の形成のときのチャンバ1012の内部の圧力P(Torr)及び誘導性素子のインダクタンスL(μH)を様々に変更し、噴射体電極1006と支持体電極1008との間の放電の状態を調べた実験結果を示すグラフである。図10及び図11のグラフでは、チャンバ1012の内部の圧力P(Torr)が横軸、誘導性素子のインダクタンスL(μH)が縦軸となっている。図10及び図11のグラフは、条件式(1)によって決まる安定したグロー状のプラズマ放電が発生するインダクタンスL(μH)の下限値及び上限値も示している。図10は、DLC膜の形成のときの単位面積あたりの投入電力Wが50W/cm2である場合、図11は、DLC膜の形成のときの単位面積あたりの投入電力Wが200W/cm2である場合の実験結果を示している。
図10及び図11に示すように、条件式(1)によって決まる上限値及び下限値の範囲内においては、安定したグロー放電が発生したが、当該上限値を上回ると、アーク放電が発生しやすくなる傾向があり、当該下限値を下回ると放電が不安定になる傾向があった。
<5.その他>
この発明は詳細に説明されたが、上述の説明は全ての局面において例示であって、この発明は上述の説明に限定されない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定されうる。
1002 プラズマ処理装置
1006 噴射体電極
1008 支持体電極
1012 チャンバ
1016 パルス電源
1018 処理ガス供給回路
1020 排ガス排出回路
1026 圧力センサ
1902 基板

Claims (1)

  1. ダイアモンドライクカーボン膜を形成するダイアモンドライクカーボン膜形成装置であって、
    チャンバと、
    チャンバの内部にヘリウムガスとメタンガスとテトラメチルシランガスとを混合した処理ガスを供給する処理ガス供給機構と、
    チャンバの内部の圧力を50Torr以上350Torr以下に調整する圧力調整機構と、
    チャンバの内部に収容され1mm以上5mm以下の間隔の間隙を挟んで対向する電極対と、
    誘導性素子に磁界の形で蓄積されたエネルギーを直流パルス電圧として放出し前記電極対に直流パルス電圧を繰り返し印加する誘導エネルギー蓄積型のパルス電源と、
    を備え、
    前記誘導性素子のインダクタンスL(μH)、前記チャンバの内部の圧力P(Torr)及び直流パルス電圧による投入電力を前記電極対の対向面積で除した単位面積あたりの投入電力W(W/cm2)が、
    条件式:−1.3×W×Ln(P)+4.25×102×Ln(P)+4.7×W−1.4×103≧L≧0.8×P
    を満たすダイアモンドライクカーボン膜形成装置。
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