従来、多結晶シリコン(poly−Si)等の半導体薄膜は薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)や太陽電池に広く利用されている。とりわけ、poly−SiTFTは、キャリア移動度が高いうえ、ガラス基板のような透明の絶縁基板上に作製できるという特徴を活かして、例えば、液晶表示装置、液晶プロジェクタや有機EL表示装置などの画素回路を構成するスイッチング素子として、或いは液晶駆動用ドライバの回路素子として広く用いられている。
ガラス基板上に高性能なTFTを作製する方法としては、一般に「高温プロセス」と呼ばれる製造方法がある。TFTの製造プロセスの中でも、工程中の最高温度が1000℃程度の高温を用いるプロセスを一般的に「高温プロセス」と呼んでいる。高温プロセスの特徴は、シリコンの固相成長により比較的良質の多結晶シリコンを成膜することができる点、シリコンの熱酸化により良質のゲート絶縁層を得ることができる点、及び清浄な多結晶シリコンとゲート絶縁層との界面を形成できる点である。高温プロセスではこれらの特徴により、高移動度でしかも信頼性の高い高性能TFTを安定的に製造することができる。
他方、高温プロセスは固相成長によりシリコン膜の結晶化を行うプロセスであるために、600℃程度の温度で48時間程度の長時間の熱処理を必要とする。これは大変長時間の工程であり、工程のスループットを高めるためには必然的に熱処理炉を多数必要とし、低コスト化が難しいという点が課題である。加えて、耐熱性の高い絶縁性基板として石英ガラスを使わざるを得ないため基板のコストが高く、大面積化には向かないとされている。
一方、工程中の最高温度を下げ、安価な大面積のガラス基板上にpoly−SiTFTを作製するための技術が「低温プロセス」と呼ばれる技術である。TFTの製造プロセスの中でも、最高温度が概ね600℃以下の温度環境下において比較的安価な耐熱性のガラス基板上にpoly−SiTFTを製造するプロセスは、一般に「低温プロセス」と呼ばれている。低温プロセスでは、発振時間が極短時間のパルスレーザーを用いてシリコン膜の結晶化を行うレーザー結晶化技術が広く使われている。レーザー結晶化とは、基板上のシリコン薄膜に高出力のパルスレーザー光を照射することによって瞬時に溶融させ、これが凝固する過程で結晶化する性質を利用する技術である。
しかしながら、このレーザー結晶化技術には幾つかの大きな課題がある。一つは、レーザー結晶化技術によって形成したポリシリコン膜の内部に局在する多量の捕獲準位である。この捕獲準位の存在により、電圧の印加によって本来能動層を移動するはずのキャリアが捕獲され、電気伝導に寄与できず、TFTの移動度の低下、閾値電圧の増大といった悪影響を及ぼす。更に、レーザー出力の制限によって、ガラス基板のサイズが制限されるといった課題もある。レーザー結晶化工程のスループットを向上させるためには、一回で結晶化できる面積を増やす必要がある。しかしながら、現状のレーザー出力には制限があるため、第7世代(1800mm×2100mm)といった大型基板にこの結晶化技術を採用する場合には、基板一枚を結晶化するために長時間を要する。
また、レーザー結晶化技術は一般的にライン状に成形されたレーザーが用いられ、これを走査させることによって結晶化を行なう。このラインビームは、レーザー出力に制限があるため基板の幅よりも短く、基板全面を結晶化するためには、レーザーを数回に分けて走査する必要がある。これによって基板内にはラインビームの継ぎ目の領域が発生し、二回走査されてしまう領域ができる。この領域は一回の走査で結晶化した領域とは結晶性が大きく異なる。そのため両者の素子特性は大きく異なり、デバイスのバラツキの大きな要因となる。最後に、レーザー結晶化装置は装置構成が複雑であり且つ、消耗部品のコストが高いため、装置コストおよびランニングコストが高いという課題がある。これによって、レーザー結晶化装置によって結晶化したポリシリコン膜を使用したTFTは製造コストが高い素子になってしまう。
このような基板サイズの制限、装置コストが高いといった課題を克服するため、「熱プラズマジェット結晶化法」と呼ばれる結晶化技術が研究されている(例えば、非特許文献1を参照)。本技術を以下に簡単に説明する。タングステン(W)陰極と水冷した銅(Cu)陽極を対向させ、DC電圧を印加すると両極間にアーク放電が発生する。この電極間に大気圧下でアルゴンガスを流すことによって、銅陽極に空いた噴出孔から熱プラズマが噴出する。熱プラズマとは、熱平衡プラズマであり、イオン、電子、中性原子などの温度がほぼ等しく、それらの温度が10000K程度を有する超高温の熱源である。このことから、熱プラズマは被熱物体を容易に高温に加熱することが可能であり、a−Si膜を堆積した基板が超高温の熱プラズマ前面を高速走査することによってa−Si膜を結晶化することができる。
このように装置構成が極めて単純であり、且つ大気圧下での結晶化プロセスであるため、装置を密閉チャンバ等の高価な部材で覆う必要が無く、装置コストが極めて安くなることが期待できる。また結晶化に必要なユーティリティは、アルゴンガスと電力と冷却水であるため、ランニングコストも安い結晶化技術である。
図6は、この熱プラズマを用いた半導体膜の結晶化方法を説明するための模式図である。
同図において、熱プラズマ発生装置31は、陰極32と、この陰極32と所定距離だけ離間して対向配置される陽極33とを備え構成される。陰極32は、例えばタングステン等の導電体からなる。陽極33は、例えば銅などの導電体からなる。また、陽極33は、中空に形成され、この中空部分に水を通して冷却可能に構成されている。また、陽極33には噴出孔(ノズル)34が設けられている。陰極32と陽極33の間に直流(DC)電圧を印加すると両極間にアーク放電が発生する。この状態において、陰極32と陽極33の間に大気圧下でアルゴンガス等のガスを流すことによって、上記の噴出孔34から熱プラズマ35を噴出させることができる。ここで「熱プラズマ」とは、熱平衡プラズマであり、イオン、電子、中性原子などの温度がほぼ等しく、それらの温度が10000K程度を有する超高温の熱源である。
このような熱プラズマを半導体膜の結晶化のための熱処理に利用することができる。具体的には、基板36上に半導体膜37(例えば、アモルファスシリコン膜)を形成しておき、当該半導体膜37に熱プラズマ(熱プラズマジェット)35を当てる。このとき、熱プラズマ35は、半導体膜37の表面と平行な第1軸(図示の例では左右方向)に沿って相対的に移動させながら半導体膜37に当てられる。すなわち、熱プラズマ35は第1軸方向に走査しながら半導体膜37に当てられる。ここで「相対的に移動させる」とは、半導体膜37(及びこれを支持する基板36)と熱プラズマ35とを相対的に移動させることを言い、一方のみを移動させる場合と両者をともに移動させる場合のいずれも含まれる。このような熱プラズマ35の走査により、半導体膜37が熱プラズマ35の有する高温によって加熱され、結晶化された半導体膜38(本例ではポリシリコン膜)が得られる(例えば、特許文献1を参照)。
図7は、最表面からの深さと温度の関係を示す概念図である。同図に示すように、熱プラズマ35を高速で移動させることにより、表面近傍のみを高温で処理することができる。熱プラズマ35が通り過ぎた後、加熱された領域は速やかに冷却されるので、表面近傍はごく短時間だけ高温になる。
このような熱プラズマは、点状領域に発生させるのが一般的である。熱プラズマは、陰極32からの熱電子放出によって維持されており、プラズマ密度の高い位置では熱電子放出がより盛んになるため、正のフィードバックがかかり、ますますプラズマ密度が高くなる。つまり、アーク放電は陰極の1点に集中して生じることとなり、熱プラズマは点状領域に発生する。
半導体膜の結晶化など、平板状の基材を一様に処理したい場合には、点状の熱プラズマを基材全体に渡って走査する必要があるが、走査回数を減らしてより短時間で処理できるプロセスを構築するには、熱プラズマの照射領域を広くすることが有効である。このため、古くから熱プラズマを大面積に発生させる技術が検討されている。
例えば、プラズマトーチの外ノズルより噴射するプラズマジェットに、外ノズルの中心軸線と交差する方向でプラズマジェットを広幅化させるための広幅化ガスを2ケ所から同時に噴出し、プラズマジェットを広幅化させる方法が開示されている(例えば、特許文献2を参照)。あるいは、ノズル通路の口部が、当該ノズル通路の軸芯に対して所定角度で傾斜していることを特徴とするプラズマノズルを設け、ノズル通路を構成するケーシング、またはそのケーシングの一部を、その長手軸芯回りに高速で回転させ、プラズマノズルをワークピースに沿って通過移動させる方法が開示されている(例えば、特許文献3を参照)。また、少なくとも一つの偏芯して配置されたプラズマノズルを持つ回転ヘッドを設けたものが開示されている(例えば、特許文献4を参照)。
なお、大面積を短時間で処理することを目的としたものではないが、熱プラズマを用いた溶接方法として、帯状電極を用い、その幅方向が溶接線方向となるように配置して溶接することを特徴とする高速ガスシールドアーク溶接方法が開示されている(例えば、特許文献5を参照)。
また、扁平な直方体状の絶縁体材料を用いた、線状の細長い形状をなす誘導結合型プラズマトーチが開示されている(例えば、特許文献6を参照)。
なお、長尺の電極を用いた細長い線状のプラズマを生成する方法が開示されている(例えば、特許文献7を参照)。熱プラズマを発生させるものと記載されているが、これは低温プラズマを発生させるものであり、熱処理に適した構成ではない。仮に熱プラズマを発生させたとすると、電極を用いた容量結合型であるため、アーク放電が一箇所に集中し、長尺方向に均一な熱プラズマを発生させることは困難と推察される。一方、低温プラズマ処理装置としては、エッチングガスやCVD(Chemical Vapor Deposition)用のガスをプラズマ化することにより、エッチングや成膜などのプラズマ処理が可能な装置である。
また、マイクロストリップラインを用いて長尺プラズマを生成する方法が開示されている(例えば、特許文献8を参照)。この構成では、プラズマに接触するチャンバ壁面が完全には冷却できない(水冷流路によって囲まれていない)ので、熱プラズマ源としては動作できないものと考えられる。
また、複数の放電電極をライン状に並べることにより、線状の長尺プラズマトーチを形成するものが開示されている(例えば、特許文献9を参照)。
なお、エッチングやCVDを行うための装置において、平面状のスパイラルコイルを用いるものが開示されている(例えば、特許文献10を参照)が、これは真空中で大面積プラズマを発生させ、基材の表面を面状に一括処理するためのものであり、本件発明の技術分野とは異なる技術分野に関係するものである。
以下、本発明の実施の形態におけるプラズマ処理装置について図面を用いて説明する。
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について、図1及び図2を参照して説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態1におけるプラズマ処理装置の構成を示すもので、誘導結合型プラズマトーチユニットの長尺方向に垂直な面で切った断面図である。図1(b)は、誘導結合型プラズマトーチユニットの長尺方向に平行で、かつ、基材に垂直な面で切った断面図である。図1(b)は図1(a)の破線で切った断面図、図1(a)は図1(b)の破線で切った断面図である。
また、図2は、図1に示した誘導結合型プラズマトーチユニットの組立構成図であり、各部品(一部)の斜視図を並べたものである。
図1及び図2において、基材載置台1上に基材2が載置されている。誘導結合型プラズマトーチユニットTにおいて、導体製の平面状のスパイラルコイル3が第一石英板4及び第二石英板5の近傍に配置される。誘電体製の長尺チャンバは、第二石英板5、第三石英板6によって囲まれた空間(長尺チャンバ内部の空間7)により画定される。長尺チャンバのスパイラルコイル3に近い側の内壁面は、スパイラルコイル3がなす平面と平行な平面である。このような構成では、スパイラルコイル3の任意の部位において、スパイラルコイル3から長尺チャンバまでの距離が等しくなるので、小さい高周波電力で誘導結合性プラズマの発生が可能となり、効率の良いプラズマ生成が実現できる。
また、長尺チャンバの外形は、スパイラルコイル3の外形よりも大きく構成される。このような構成も、スパイラルコイル3の任意の部位において、スパイラルコイル3から長尺チャンバまでの距離が等しくなることに繋がるので、プラズマ発生効率の良いプラズマ処理装置を実現できる。
誘導結合型プラズマトーチユニットTは、全体が接地された導体製のシールド部材(図示しない)で囲われ、高周波の漏洩(ノイズ)が効果的に防止できるとともに、好ましくない異常放電などを効果的に防止できる。
長尺チャンバ内部の空間7は、第二石英板5の片面をなす平面と、第三石英板6に設けられた凹部(溝)に囲まれている。つまり、長尺チャンバ全体が誘電体で囲まれている構成である。長尺チャンバ内部の空間7に発生したプラズマは、長尺チャンバにおけるスリット状の開口部としてのプラズマ噴出口8より基材2に向けて噴出する。また、長尺チャンバの長手方向とプラズマ噴出口8の長手方向とは平行に配置されている。また、プラズマ噴出口8は、長尺チャンバにおいて、スパイラルコイル3とは反対側に設けられている。
第二石英板5に設けられた凹部(溝)と、第一石英板4の片面をなす平面(長尺チャンバに向かう面)に囲まれたプラズマガスマニホールド9が設けられている。プラズマガス供給配管10よりプラズマガスマニホールド9に供給されたガスは、第二石英板5に設けられた長尺のガス導入部としてのプラズマガス供給穴11(貫通穴)を介して、長尺チャンバ内部の空間7に導入される。このような構成により、長手方向に均一なガス流れを簡単に実現できる。プラズマガス供給配管10へ導入するガスの流量は、その上流にマスフローコントローラなどの流量制御装置を備えることにより制御される。
プラズマガス供給穴11は、長尺のスリットであるが、丸い穴状のものを長手方向に複数設けてもよい。
スパイラルコイル3の中心軸は、長尺チャンバの長手方向、及び、プラズマ噴出口8の長手方向と平行に配置されている。
また、スパイラルコイル3の長手方向に平行でスパイラルコイル3の中心を通る直線(図2の点線A)と、長尺チャンバの長手方向に平行で長尺チャンバの中心を通る直線(図2の点線B)と、プラズマガス供給穴11の長手方向に平行でプラズマガス供給穴11の中心を通る直線(図2の点線C)と、プラズマ噴出口8の長手方向に平行でプラズマ噴出口8の中心を通る直線(図2の点線D)が、互いに平行、かつ同一平面上に配置されている。このような構成により、均一なプラズマを得つつ、プラズマを発生させる部分の体積を最小にできるので、プラズマ発生効率の良いプラズマ処理装置を実現できる。
また、基材載置台1に近い部分に、シールドガス供給口としてのシールドガスノズル13が配置され、その内部にはシールドガスマニホールド14が設けられる。このように、2系統のガス導入が準備されており、プラズマ生成に適したプラズマガスとは別にシールドガスを供給して、大気中の酸素、二酸化炭素など、処理に不要、あるいは悪影響を及ぼすガスのプラズマ照射面への混入を低減することが可能となる。なお、シールドガス供給口は、プラズマ噴出口8の長尺方向と平行な向きに長尺な形状をもつスリットであってもよいし、あるいは、プラズマ噴出口8の長尺方向と平行な向きに並んだ多数の穴であってもよい。
スパイラルコイル3は冷媒流路15内に設けられ、冷媒流路15は、冷媒ケース16と第一石英板4、第二石英板5によって囲まれた空間からなる。また、冷媒ケース17と第三石英板6によって囲まれた空間も冷媒流路15となっている。第二石英板5、第三石英板6の冷媒流路15の内壁面をなす面に、複数のタップ18が接合されている。タップ18は誘電体製で、石英、セラミックス、樹脂などから選定される。接合は、溶接法によるものの他、各種接着剤を用いて行うことが可能である。タップ18には、冷媒ケース16、17に設けられた貫通穴を介して、誘電体製のボルト19がねじ込まれている。ボルト19の頭部と冷媒ケース16、17の間にはオーリングが設けられている。つまり、誘電体部材としての第二石英板5及び第三石英板6と、これらよりも外側に配置されたカバーとしての冷媒ケース16によって囲まれた空間が、冷媒流路を構成し、かつ、第二石英板5及び第三石英板6と冷媒ケース16とが、支柱としてのタップ18及びボルト19によって接続されている構成である。
また、スパイラルコイル3の高周波電力供給部及び接地部に、2つのタップ20が設けられている。タップ20は導体製で、銅、真鍮などから選定される。タップ20には、冷媒ケース16に設けられた貫通穴を介して、導体製のボルト21がねじ込まれている。ボルト21の頭部と冷媒ケース16の間にはオーリングが設けられている。ボルト21と冷媒ケース16の間に、図示しない銅板などが挟みこまれ、高周波系の配線がなされる。冷媒ケース16、17に設けられた冷媒配管23を介して、冷媒流路15内に冷媒、例えば冷却水が導入され、排出される。
なお、冷媒ケース16と第二石英板5、冷媒ケース17と第三石英板6のあたり面にも、図示しないオーリングが設けられている。
このように、スパイラルコイル3の周囲、及び、長尺チャンバを構成する部材である第二石英板5、第三石英板6の周囲に、冷媒としての冷却水が流れ、スパイラルコイル3、第二石英板5、第三石英板6の冷却が実現される。
また、タップ18にボルト19をねじ込む構造とすることにより、大量の冷媒を流して冷媒流路15内部の内圧(水圧)が高くなった場合においても、第二石英板5、第三石英板6の変形が起きにくい。つまり、本実施の形態においては、従来例に示した特許文献6に記載の技術において二重管構成として水冷した場合に比べて、はるかに大量の冷媒を流すことができ、効果的な冷却が可能である。剛性をさらに高めるために、冷媒ケース16、17の材料や厚さを工夫することも可能である。
長方形のスリット状のプラズマ噴出口8が設けられ、基材載置台1(或いは、基材載置台1上の基材2)は、プラズマ噴出口8と対向して配置されている。この状態で、長尺チャンバ内にガスを供給しつつ、プラズマ噴出口8から基材2に向けてガスを噴出させながら、図示していない高周波電源よりスパイラルコイル3に高周波電力を供給することにより、長尺チャンバ内部の空間7にプラズマを発生させ、プラズマ噴出口8からプラズマを基材2に照射することにより、基材2上の薄膜22をプラズマ処理することができる。プラズマ噴出口8の長手方向に対して垂直な向きに、長尺チャンバと基材載置台1とを相対的に移動させることで、基材2を処理する。つまり、図1(a)の左右方向へ、図1(b)の紙面に垂直な方向へ、誘導結合型プラズマトーチユニットTまたは基材載置台1を動かす。
長尺チャンバ内に供給するガスとして種々のものが使用可能だが、プラズマの安定性、着火性、プラズマに暴露される部材の寿命などを考えると、不活性ガス主体であることが望ましい。なかでも、Arガスが典型的に用いられる。Arのみでプラズマを生成させた場合、プラズマは相当高温となる(10,000K以上)。
なお、本構成においては、プラズマ噴出口8の長手方向の長さが、基材2の幅以上となっているので、一度の走査(誘導結合型プラズマトーチユニットTと基材載置台1とを相対的に移動すること)で基材2の表面近傍の薄膜22の全体を処理することができる。
このようなプラズマ処理装置において、長尺チャンバ内にガス噴出口よりArまたはAr+H2ガスを供給しつつ、プラズマ噴出口8から基材2に向けてガスを噴出させながら、図示していない高周波電源より13.56MHzの高周波電力を、スパイラルコイル3に供給することにより、長尺チャンバ内部の空間7に高周波電磁界を発生させることでプラズマを発生させ、プラズマ噴出口8からプラズマを基材2に照射するとともに走査することで、半導体膜の結晶化などの熱処理を行うことができる。
プラズマ発生の条件としては、プラズマ噴出口8と基材2間の距離=3〜50mm、走査速度=50〜3000mm/s、プラズマガス総流量=1〜100SLM、Ar+H2ガス中のH2濃度=0〜10%、シールドガス(N2)流量=1〜100SLM、高周波電力=0.5〜10kW程度の値が適切である。ただし、これらの諸量のうち、ガス流量及び電力は、プラズマ噴出口8の長さ100mm当たりの値である。ガス流量や電力などのパラメータは、プラズマ噴出口8の長さに比例した量を投入することが適切と考えられるためである。
このように、プラズマ噴出口8の長手方向と、基材載置台1とが平行に配置されたまま、プラズマ噴出口8の長手方向とは垂直な向きに、長尺チャンバと基材載置台1とを相対的に移動するので、生成すべきプラズマの長さと、基材2の処理長さがほぼ等しくなるように構成することが可能となる。また、長尺チャンバをその中心軸に垂直な面で切った断面の幅(図1(a)における、長尺チャンバ内部の空間7の幅)は、プラズマ噴出口8の幅(図1(a)における隙間の幅)よりも少し大きい程度でよい。つまり、生成すべきプラズマの体積を、従来と比較して極めて小さくすることができる。その結果、電力効率が飛躍的に高まる。
なお、「長尺チャンバ内部の空間7の深さ」を、=「長尺チャンバの、スパイラルコイル3から長尺チャンバへの方向の長さ」と定義すると、長尺チャンバ内部の空間7の深さは図1(a)のdに相当する。長尺チャンバ内部の空間7の長さ(長手方向の大きさ)を95mmとして深さdを変化させて大気圧にて実験したところ、深さdが1mm以上5mm以下のときに、高周波電力10kW以下でArガスによる熱プラズマの発生に成功した。高周波電力をさらに上げれば、深さdが0.5mm以上7mm以下でも熱プラズマが発生するものと考えられるが、この範囲から外れれば、大気圧での誘導結合性プラズマ処理が困難である。
この実験結果から、深さdは0.5mm以上7mm以下であることが望ましく、さらに好適には、深さdは1mm以上5mm以下であることが望ましいといえる。このことは、長尺チャンバ内部の空間7の体積が小さくてよいということをも示しており、従来例に比較して高い電力効率が得られるものと考えられる。
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2について、図3及び図4を参照して説明する。
図3(a)は、本発明の実施の形態2におけるプラズマ処理装置の構成を示すもので、誘導結合型プラズマトーチユニットの長尺方向に垂直な面で切った断面図である。図3(b)は、誘導結合型プラズマトーチユニットの長尺方向に平行で、かつ、基材に垂直な面で切った断面図である。図3(b)は図3(a)の破線で切った断面図、図3(a)は図3(b)の破線で切った断面図である。また、図4は、図3に示した誘導結合型プラズマトーチユニットの組立構成図であり、各部品(一部)の斜視図を並べたものである。
図3及び図4において、基材載置台1上に基材2が載置されている。誘導結合型プラズマトーチユニットTにおいて、誘電体製の長尺チャンバは、蓋24の下方に設けられた石英板25、筒状の石英管28、筒状で片方の開口部の幅が狭くなっている石英ノズル29によって囲まれた空間(長尺チャンバ内部の空間7)により画定される。石英管28の下面と、石英ノズル29の上面は環状に隙間無く接合されている。導体製の螺旋状のソレノイドコイル27が、長尺チャンバを取り囲むように、石英管28の周囲に配置される。長尺チャンバのソレノイドコイル27に近い側の内壁面は、ソレノイドコイル27が全体として構成する筒状の形状と平行な面を構成している。このような構成では、ソレノイドコイル27の任意の部位において、ソレノイドコイル27から長尺チャンバまでの距離が等しくなるので、小さい高周波電力で誘導結合性プラズマの発生が可能となり、効率の良いプラズマ生成が実現できる。
誘導結合型プラズマトーチユニットTは、全体が接地された導体製のシールド部材(図示しない)で囲われ、高周波の漏洩(ノイズ)が効果的に防止できるとともに、好ましくない異常放電などを効果的に防止できる。
長尺チャンバ内部の空間7は、石英板25、石英管28、石英ノズル29に囲まれている。つまり、長尺チャンバ全体が誘電体で囲まれている構成である。長尺チャンバ内部の空間7に発生したプラズマは、長尺チャンバにおけるスリット状の開口部(石英ノズル29の下方に設けられた、幅が狭い方の開口部)としてのプラズマ噴出口8より基材2に向けて噴出する。また、長尺チャンバの長手方向とプラズマ噴出口8の長手方向とは平行に配置されている。
蓋24に設けられた凹部(溝)と、石英板25の片面をなす平面(長尺チャンバと反対側の面)に囲まれたプラズマガスマニホールド9が設けられている。プラズマガス供給配管10よりプラズマガスマニホールド9に供給されたガスは、石英板25に設けられた長尺のガス導入部としてのプラズマガス供給穴11(貫通穴)を介して、長尺チャンバ内部の空間7に導入される。このような構成により、長手方向に均一なガス流れを簡単に実現できる。プラズマガス供給配管10へ導入するガスの流量は、その上流にマスフローコントローラなどの流量制御装置を備えることにより制御される。
プラズマガス供給穴11は、長尺のスリットであるが、丸い穴状のものを長手方向に複数設けてもよい。
ソレノイドコイル27の中心軸は、長尺チャンバの中心軸、プラズマ噴出口8の中心軸と一致するように配置されている。なお、この中心軸は、図3(a)及び(b)に示されている破線である。
また、基材載置台1に近い部分に、シールドガス供給口としてのシールドガスノズル13が配置され、その内部にはシールドガスマニホールド14が設けられる。このように、2系統のガス導入が準備されており、プラズマ生成に適したプラズマガスとは別にシールドガスを供給して、大気中の酸素、二酸化炭素など、処理に不要、あるいは悪影響を及ぼすガスのプラズマ照射面への混入を低減することが可能となる。なお、シールドガス供給口は、プラズマ噴出口8の長尺方向と平行な向きに長尺な形状をもつスリットであってもよいし、あるいは、プラズマ噴出口8の長尺方向と平行な向きに並んだ多数の穴であってもよい。
ソレノイドコイル27は冷媒流路15内に設けられ、冷媒流路15は、冷媒ケース16と冷媒流路蓋26、石英管28によって囲まれた空間からなる。石英管28の冷媒流路15の内壁面をなす面に、複数のタップ18が接合されている。タップ18は誘電体製で、石英、セラミックス、樹脂などから選定される。接合は、溶接法によるものの他、各種接着剤を用いて行うことが可能である。タップ18には、冷媒ケース16に設けられた貫通穴を介して、誘電体製のボルト19がねじ込まれている。ボルト19の頭部と冷媒ケース16の間にはオーリングが設けられている。つまり、誘電体部材としての石英管28と、これらよりも外側に配置されたカバーとしての冷媒ケース16によって囲まれた空間が、冷媒流路を構成し、かつ、石英管28と冷媒ケース16とが、支柱としてのタップ18及びボルト19によって接続されている構成である。
また、ソレノイドコイル27の高周波電力供給部及び接地部に、2つのタップ20が設けられている。タップ20は導体製で、銅、真鍮などから選定される。タップ20には、冷媒ケース16に設けられた貫通穴を介して、導体製のボルト21がねじ込まれている。ボルト21の頭部と冷媒ケース16の間にはオーリングが設けられている。ボルト21と冷媒ケース16の間に、図示しない銅板などが挟みこまれ、高周波系の配線がなされる。冷媒ケース16に設けられた図示しない冷媒配管を介して、冷媒流路15内に冷媒、例えば冷却水が導入され、排出される。
なお、冷媒ケース16と冷媒流路蓋26及び石英ノズル29のあたり面、及び、冷媒流路蓋26と石英管28のあたり面にも、オーリングが設けられている。
このように、ソレノイドコイル27の周囲、及び、長尺チャンバを構成する部材である石英管28、石英ノズル29の周囲に、冷媒としての冷却水が流れ、ソレノイドコイル27、石英管28、石英ノズル29の冷却が実現される。
また、タップ18にボルト19をねじ込む構造とすることにより、大量の冷媒を流して冷媒流路15内部の内圧(水圧)が高くなった場合においても、石英管28、石英ノズル29の変形が起きにくい。つまり、本実施の形態においては、従来例に示した特許文献6に記載の技術において二重管構成として水冷した場合に比べて、はるかに大量の冷媒を流すことができ、効果的な冷却が可能である。剛性をさらに高めるために、冷媒ケース16の材料や厚さを工夫することも可能である。
長方形のスリット状のプラズマ噴出口8が設けられ、基材載置台1(或いは、基材載置台1上の基材2)は、プラズマ噴出口8と対向して配置されている。この状態で、長尺チャンバ内にガスを供給しつつ、プラズマ噴出口8から基材2に向けてガスを噴出させながら、図示していない高周波電源よりソレノイドコイル27に高周波電力を供給することにより、長尺チャンバ内部の空間7にプラズマを発生させ、プラズマ噴出口8からプラズマを基材2に照射することにより、基材2上の薄膜22をプラズマ処理することができる。プラズマ噴出口8の長手方向に対して垂直な向きに、長尺チャンバと基材載置台1とを相対的に移動させることで、基材2を処理する。つまり、図3(a)の左右方向へ、図3(b)の紙面に垂直な方向へ、誘導結合型プラズマトーチユニットTまたは基材載置台1を動かす。
長尺チャンバ内に供給するガスとして種々のものが使用可能だが、プラズマの安定性、着火性、プラズマに暴露される部材の寿命などを考えると、不活性ガス主体であることが望ましい。なかでも、Arガスが典型的に用いられる。Arのみでプラズマを生成させた場合、プラズマは相当高温となる(10,000K以上)。
なお、本構成においては、プラズマ噴出口8の長手方向の長さが、基材2の幅以上となっているので、一度の走査(誘導結合型プラズマトーチユニットTと基材載置台1とを相対的に移動すること)で基材2の表面近傍の薄膜22の全体を処理することができる。
このようなプラズマ処理装置において、長尺チャンバ内にガス噴出口よりArまたはAr+H2ガスを供給しつつ、プラズマ噴出口8から基材2に向けてガスを噴出させながら、図示していない高周波電源より13.56MHzの高周波電力を、ソレノイドコイル27に供給することにより、長尺チャンバ内部の空間7に高周波電磁界を発生させることでプラズマを発生させ、プラズマ噴出口8からプラズマを基材2に照射するとともに走査することで、半導体膜の結晶化などの熱処理を行うことができる。
プラズマ発生の条件としては、プラズマ噴出口8と基材2間の距離=3〜50mm、走査速度=50〜3000mm/s、プラズマガス総流量=1〜100SLM、Ar+H2ガス中のH2濃度=0〜10%、シールドガス(N2)流量=1〜100SLM、高周波電力=0.5〜10kW程度の値が適切である。ただし、これらの諸量のうち、ガス流量及び電力は、プラズマ噴出口8の長さ100mm当たりの値である。ガス流量や電力などのパラメータは、プラズマ噴出口8の長さに比例した量を投入することが適切と考えられるためである。
このように、プラズマ噴出口8の長手方向と、基材載置台1とが平行に配置されたまま、プラズマ噴出口8の長手方向とは垂直な向きに、長尺チャンバと基材載置台1とを相対的に移動するので、生成すべきプラズマの長さと、基材2の処理長さがほぼ等しくなるように構成することが可能となる。また、長尺チャンバをその中心軸に垂直な面で切った断面の幅(図3(a)における、長尺チャンバ内部の空間7の幅)は、プラズマ噴出口8の幅(図3(a)における隙間の幅)よりも少し大きい程度でよい。つまり、生成すべきプラズマの体積を、従来と比較して極めて小さくすることができる。その結果、電力効率が飛躍的に高まる。
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3について、図5を参照して説明する。
図5は本発明の実施の形態3におけるプラズマ処理装置の構成を示すもので、誘導結合型プラズマトーチユニットの組立構成図であり、各部品(一部)の斜視図を並べたものである。
実施の形態2においては、石英管28の冷媒流路15の内壁面をなす面に円筒部材を接合し、その円筒部材にタップ18を設けていたが、実施の形態3においては、図5に示すように、石英管28の冷媒流路15の内壁面をなす面に柱状部材30を接合し、一つの柱状部材30に複数のタップ18を設けている。
このような構成により、長尺方向の石英管28の剛性が高まるため、より大量の冷媒を流すことができ、効果的な冷却が実現できる。
以上述べたプラズマ処理装置及び方法は、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。
例えば、誘導結合型プラズマトーチユニットTを、固定された基材載置台1に対して走査してもよいが、固定された誘導結合型プラズマトーチユニットTに対して、基材載置台1を走査してもよい。
また、スパイラルコイル3が平面状である場合を例示したが、スパイラルコイル3は必ずしも平面でなくてもよい。例えば、渦の中央部に向かうにつれて、徐々にスパイラルコイル3と第一石英板4との距離が遠くなるような、所謂釣鐘型スパイラルコイルを用いた構成であってもよい。
また、プラズマ噴出口8が、長尺チャンバにおいて、スパイラルコイル3とは反対側に設けられている場合を例示したが、プラズマ噴出口8から長尺チャンバへの向きと、スパイラルコイル3から長尺チャンバへの向きが、互いに垂直となるような構成であってもよい。
また、本発明の種々の構成によって、基材2の表面近傍を高温処理することが可能となるが、従来例で詳しく述べたTFT用半導体膜の結晶化や太陽電池用半導体膜の改質に適用可能であることは勿論、プラズマディスプレイパネルの保護層の清浄化や脱ガス低減、シリカ微粒子の集合体からなる誘電体層の表面平坦化や脱ガス低減、種々の電子デバイスのリフロー、固体不純物源を用いたプラズマドーピングなど、さまざまな表面処理に適用できる。また、太陽電池の製造方法としては、シリコンインゴットを粉砕して得られる粉末を基材上に塗布し、これにプラズマを照射して溶融させ多結晶シリコン膜を得る方法にも適用可能である。
また、プラズマの着火を容易にするために、着火源を用いることも可能である。着火源としては、ガス給湯器などに用いられる点火用スパーク装置などを利用できる。
また、説明においては簡単のため「熱プラズマ」という言葉を用いているが、熱プラズマと低温プラズマの区分けは厳密には難しく、また、例えば、田中康規「熱プラズマにおける非平衡性」プラズマ核融合学会誌、Vol.82、No.8(2006)pp.479−483において解説されているように、熱的平衡性のみでプラズマの種類を区分することも困難である。本発明は、基材を熱処理することを一つの目的としており、熱プラズマ、熱平衡プラズマ、高温プラズマなどの用語にとらわれず、高温のプラズマを照射する技術に関するものに適用可能である。
また、基材の表面近傍をごく短時間だけ均一に高温熱処理する場合について詳しく例示したが、反応ガスによるプラズマまたはプラズマと反応ガス流を同時に基材へ照射して基材を低温プラズマ処理する場合においても、本発明は適用できる。プラズマガスに反応ガスを混ぜることにより、反応ガスによるプラズマを基材へ照射し、エッチングやCVDが実現できる。あるいは、プラズマガスとしては希ガスまたは希ガスに少量のH2ガスを加えたガスを用いつつ、シールドガスとして反応ガスを含むガスを供給することによって、プラズマと反応ガス流を同時に基材へ照射し、エッチング、CVD、ドーピングなどのプラズマ処理を実現することもできる。
プラズマガスとしてアルゴンを主成分とするガスを用いると、実施例で詳しく例示したように、熱プラズマが発生する。一方、プラズマガスとしてヘリウムを主成分とするガスを用いると、比較的低温のプラズマを発生させることができる。このような方法で、基材をあまり加熱することなく、エッチングや成膜などの処理が可能となる。エッチングに用いる反応ガスとしては、ハロゲン含有ガス、例えば、CxFy(x、yは自然数)、SF6などがあり、シリコンやシリコン化合物などをエッチングすることができる。
反応ガスとしてO2を用いれば、有機物の除去、レジストアッシングなどが可能となる。CVDに用いる反応ガスとしては、モノシラン、ジシランなどがあり、シリコンやシリコン化合物の成膜が可能となる。あるいは、TEOS(Tetraethoxysilane)に代表されるシリコンを含有した有機ガスとO2の混合ガスを用いれば、シリコン酸化膜を成膜することができる。その他、撥水性・親水性を改質する表面処理など、種々の低温プラズマ処理が可能である。従来技術(例えば、特許文献7に記載のもの)に比較すると、誘導結合型であるため、単位体積あたり高いパワー密度を投入してもアーク放電に移行しにくいため、より高密度なプラズマが発生可能であり、その結果、速い反応速度が得られ、基材の所望の被処理領域全体を短時間で処理することが可能となる。