以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、同様の構成要素には同様の参照番号を付し、その説明を省略する。
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明による希土類酸化物蛍光体について詳述する。
図1は、本発明による希土類酸化物蛍光体の模式図を示す図である。
本発明による希土類酸化物蛍光体100は、希土類酸化物をホストとする蛍光体であり、式(R)2O3((R)は機能サイト)で表され、機能サイト(R)には、RE元素(以下REと記す。)と、REとは異なる発光中心となるM元素(以下Mと記す)とが固溶されている。
ここで、REは、3価の希土類元素群から選択される1つの希土類元素であり、Mは、REとは異なり、かつ、発光中心となる3価の希土類元素群およびBiからなる群から少なくとも1つ選択される元素である。例えば、REがGdであり、MがEuである場合には、(Eu,Gd)2O3と表してもよい。なお、式において表記(R)2O3とは、REで示す希土類酸化物RE2O3の希土類元素サイト(REサイト)に少なくともMで示す元素が固溶していることを意図する。
REとなる3価の希土類元素群は、原子番号57番のランタン(La)から原子番号71番のルテチウム(Lu)までのランタノイドと、原子番号21番のスカンジウム(Sc)と、原子番号39番のイットリウム(Y)とからなる群である。中でも、非特許文献1において記載されるように、製造容易性の観点から、3価の希土類元素群は、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、ErおよびYからなる群であることが好ましい。
Mは、上述の3価の希土類元素群とBiとからなる群から少なくとも1つ選択される元素である。3価の希土類元素群およびBiは、イオン半径の観点から、REサイトに固溶しやすい。また、Biは、REサイトに固溶することによって、希土類酸化物蛍光体100に発光特性を発現させることができる。
REとMとの好ましい組み合わせは、例えば、GdまたはYとEuとである。この場合、機能サイト(R)には、REとしてGdまたはYと、MとしてEuとが固溶しており、GdまたはYである希土類酸化物のホストにおいてEuが発光中心として機能するので、好適な赤色発光材料となる。別の好ましい組み合わせは、REとMとがGdまたはYとTbとである。この場合、機能サイト(R)には、REとしてGdまたはYと、MとしてTbとが固溶しており、GdまたはYである希土類酸化物のホストにおいてTbが発光中心として機能するので、好適な緑色発光材料となる。
別の好ましい組み合わせは、REとMとがLuまたはScとTbとである。この場合、この場合、機能サイト(R)には、REとしてLuまたはScと、MとしてTbとが固溶しており、LuまたはScである希土類酸化物のホストにおいてTbが発光中心として機能するので、好適な緑色発光材料となる。別の好ましい組み合わせは、REとMとがLaとTmとである。この場合、機能サイト(R)には、REとしてLaと、MとしてTmとが固溶しており、Laである希土類酸化物のホストにおいてTmが発光中心として機能するので、好適な青色発光材料となる。
別の組み合わせは、REとMとがLaとBiとである。この場合、蓄光機能を発現することが期待される。このように、ホストである希土類酸化物RE2O3と、発光中心Mとの組み合わせによって、種々の色の発光特性を発現できる。
Mの固溶量は、特に制限されないが、20mol%以下が好ましい。20mol%を超えると、濃度消光により発光効率が低減する。また、Mの固溶量は0でなければよいが、1mol%以上が好ましい。1mol%を下回ると、十分な発光が得られない場合がある。Mの固溶量は、より好ましくは、10mol%以下である。この範囲であれば、より高い発光強度を得ることができる。例えば、REがGdであり、MがEuであり、Euの固溶量が1mol%以上10mol%以下の場合、「式(R)2O3で表される希土類酸化物蛍光体」を、「式(Gd1−αEuα)2O3(ただし、0.01≦α≦0.1)で表される希土類酸化物蛍光体」または「(Gd,Eu)2O3で表される希土類酸化物蛍光体」と表現してもよい。
このように、本発明の希土類酸化物蛍光体100は、式(R)2O3の機能サイト(R)に、1種のREと、少なくとも1種のMとが固溶している。Mは、REと異なり、かつ、発光中心となる3価の希土類元素群およびBiからなる群から少なくとも1つ選択されるが、2種以上であってもよい。Mが2種以上の場合、いずれかが共付活剤として機能するので、発光色および/または発光スペクトルを変化させることができる。
例えば、REとMとがGd(またはY)と、TbおよびEuとである。この場合、式(Gd,Eu,Tb)2O3(詳細には、(Gd1−α−βEuαTbβ)2O3(0<α<1、0<β<1))で表される希土類酸化物蛍光体となる。Euの固溶量に応じて、赤色成分を増大させるので、幅の広い発光スペクトルを得ることができる。
なお、REとMとが固溶しているか否かは、X線回折パターンに第二相が存在するか否かによって確認できる。また、X線回折パターンから求めた格子定数がVegard則にしたがっているか否かを調べれば、固溶状態およびその固溶比を知ることができる。これにより、固溶比が制御された本発明の希土類酸化物蛍光体100を得ることができる。
本発明による希土類酸化物蛍光体100は、図1に模式的に示すように、板状結晶である。板状結晶の大きさは数μmの矩形であり、その厚さは約100nmまたはそれ以下である。
また、本発明による希土類酸化物蛍光体100の板状結晶面は、ホストとなる希土類酸化物RE2O3の結晶系に基づく優先配向面である。詳細には、REとして上述の3価の希土類元素群から選択された希土類酸化物RE2O3の多く(例えば、Lu2O3、Sc2O3、Eu2O3、Gd2O3、Dy2O3、Ho2O3、Eu2O3、Y2O3)は、立方晶系である。したがって、これらの優先配向面は、図1に示されるように、(222)となる。また、希土類酸化物RE2O3の中には六方晶系のものもある(例えば、La2O3およびNd2O3)。これらの優先配向面は、(0001)面となる。このように、選択されたホストの希土類酸化物の結晶系によって優先配向面は異なるが、板状結晶面はいずれも結晶系に基づく優先配向面となる。本願発明者らは、このような板状結晶の希土類酸化物蛍光体100が、薄膜を構成する際の構築ブロックとして有利であることを見出した。
なお、実施の形態1では、希土類酸化物蛍光体100において、ホストである希土類酸化物のREサイトに固溶する元素として、発光中心であるMのみを挙げて説明したが、これに限らない。ホストである希土類酸化物のREサイトに、RE2O3の結晶構造を維持する限り、選択されたREと、選択されたMと、REおよびMとは異なるさらに別の1種以上の元素M’とが固溶されていてもよい。このような元素M’は、直接発光に寄与しないが、固溶によって種々の機能(例えば、高輝度発光に寄与する)を発現し得る元素であり、例えば、Sb、Ga、In等が挙げられる。例えば、REがGdであり、M’がSbであり、MがEuである場合、式(Gd,Eu,Sb)2O3(詳細には、(Gd1−α−βEuαSbβ)2O3(0<α<1、0<β<1))で表される希土類酸化物蛍光体となる。
本発明による希土類酸化物蛍光体100は、紫外線励起または電子線励起により可視光を発光し得るので、本発明による希土類酸化物蛍光体100を粉末蛍光材料として扱ってもよい。この場合、希土類酸化物蛍光体100を樹脂等に混ぜて、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、白色発光ダイオード(LED)等に適用され得る。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明による希土類酸化物蛍光体の製造方法について詳述する。
製造方法の説明に先立って、本発明の希土類酸化物蛍光体を製造する出発材料である層状希土類水酸化物について説明する。
図2は、出発材料である層状希土類水酸化物の模式図(A)および結晶構造(B)を示す図である。
図3は、出発材料である層状希土類水酸化物の別の模式図を示す図である。
層状希土類水酸化物200は、式(R)(OH)2.5Z0.5/m・0.125xH2O(ここで、(R)は機能サイトであり、Zは陰イオンであり、6<x<8、mはZの価数である)で表される。機能サイト(R)には、REと、少なくともMとが固溶している。例えば、REがGdであり、MがEuであり、ZがCl−であり、xが7である場合には、(Eu,Gd)(OH)2.5Cl0.5・0.9H2Oと表してもよい。
陰イオンであるZは、陰イオンになるものであれば任意であるが、製造の容易性の観点から、硫酸イオン、硝酸イオン、および、ハロゲンイオンが好ましい。特に、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるハロゲン元素のイオンは、その形状がシンプルで等方性球状である。このことは、層状希土類水酸化物200の結晶構造の対称性および結晶性の向上に寄与し得る。より好ましくは、陰イオンZは塩素イオンまたはヨウ素イオンであり、最も好ましくは塩素イオンである。これらのZは、結晶性が高く、良質な層状希土類水酸化物が得られるため好ましい。
xが6<x<8の範囲を有するのは、湿度によって水分子の数がわずかに変化するためである。完全な状態ではx=7である。
層状希土類水酸化物200は、より詳細には、図2に示されるように、正に帯電した[(R)8(OH)20(H2O)x]4+(6<x<8)層(またはホスト層とも呼ぶ)210と、負に帯電した中間層Zm−220(mはZの価数)との積層構造を有する。ただしいずれにおいても実際には空気中から一部炭酸イオンが取り込まれる。
図3に示されるように、層状希土類水酸化物200は、図2に示す層状構造を反映した板状結晶(数μmの矩形であり、約100nmの厚さを有する)の形態である。後述するように、この板状結晶により、板状結晶の希土類酸化物蛍光体、さらにはそれを用いた蛍光体薄膜を容易に得ることができる。さらに、層状希土類水酸化物200の結晶系は、上述のZの種類に依存して異なる。例えば、ZがCl−およびSO4 2−である場合には、層状希土類水酸化物200の結晶系は、斜方晶系、より詳細には単純斜方格子に属する。例えば、ZがBr−およびNO3 −である場合には、層状希土類水酸化物200の結晶系は、単斜晶系に属する。また、板状結晶面は(001)優先配向面である。以上の板状結晶のモルフォロジおよび結晶構造より、得られた生成物が、層状希土類水酸化物であるか否かは、簡易的には電子顕微鏡による形態観察により小板が確認されるか否か、詳細には、生成物のX線回折パターンの指数付けより判定できる。
次に、出発材料となる層状希土類水酸化物200の製造方法を説明する。層状希土類水酸化物200は例えば均一沈殿法により製造される。
図4は、層状希土類水酸化物を製造するステップを示すフローチャートである。
ステップS410:REの塩とMの塩とを、pH調整剤を含有する混合水溶液中に投入して、HMTまたは尿素を分解し、REの塩およびMの塩を加水分解する。詳細には、REの塩と、Mの塩と、ヘキサメチレンテトラミン(以降では単にHMTと称する)または尿素と、水を含有する溶媒とを含む混合水溶液中の、HMTまたは尿素を分解し、REの塩およびMの塩を加水分解する。
REの塩は、一例として、REのハロゲン化物、REの硫酸塩、REの硝酸塩、REの酢酸塩、REの蟻酸塩などがあるが、製造の容易性を考慮すれば、REのハロゲン化物、REの硫酸塩およびREの硝酸塩が好ましい。最終的に得られる層状希土類水酸化物の結晶性を考慮すれば、REのハロゲン化物、なかでもREの塩化物が好ましい。
同様に、Mの塩は、一例として、Mのハロゲン化物、Mの硫酸塩、Mの硝酸塩、Mの酢酸塩、Mの蟻酸塩などがあるが、製造の容易性を考慮すれば、Mのハロゲン化物、Mの硫酸塩およびMの硝酸塩が好ましい。最終的に得られる層状希土類水酸化物の結晶性を考慮すれば、Mのハロゲン化物、なかでもMの塩化物が好ましい。Rの塩とMの塩との種類は同一の塩である。ここでもやはり、REとMとは実施の形態1で説明したREとMと同様であるため、説明を省略する。
水を含有する溶媒は、水(例えば、超純水)単独の溶媒であってもよいし、水とエタノール等の非水溶媒との混合溶媒であってもよいが、少なくとも水があればよい。これは、REイオンおよび/またはMイオンが水と水和することにより、反応が促進されるためである。なお、少なくとも水があればよいため、水を含有する溶媒とともに、REの塩および/またはMの塩の水和物を用いてもよい。
HMTおよび尿素は、いずれも、分解後に混合水溶液のpHを上昇するよう機能する。好ましくは、REの塩およびMの塩とHMTまたは尿素とのモル比は、1である。
混合水溶液のpHは、選択されたREおよびMに応じて異なるが、4.5以上6.5の範囲が好ましい。この範囲であれば、HMTまたは尿素が分解された際に、混合水溶液のpHが8〜10まで上昇し、REの塩およびMの塩の加水分解を促進できるので、層状希土類水酸化物を確実に得ることができる。
また、上述の混合水溶液にアルカリ金属の塩をさらに混合してもよい。アルカリ金属の塩は、例えば、NaCl、KCl等であるが、これらに限定されない。これにより、REの塩およびMの塩の濃度が低い条件においても、合成が促進されるが、適切な塩濃度で合成を行うことにより、得られる層状希土類水酸化物のモルフォロジまたは結晶性が向上し得る。
ステップS410において、上述の混合水溶液中でHMTおよび尿素は、分解されて、アンモニアを生成する。これにより混合水溶液のpHが上昇し、アルカリ性となる。その結果、REの塩およびMの塩が加水分解され、層状希土類水酸化物の沈殿が生じる。HMTおよび尿素は、(好ましくは加熱により)いずれも制御された速度でゆっくりとアンモニアを生成するため、核生成および結晶化に偏りがなく、粒径のそろった結晶性の高い良質な層状希土類水酸化物が得られる。
HMTおよび尿素の分解は、例えば、混合水溶液を室温にて長時間攪拌して行われるが、効率の観点から、70℃以上の温度で攪拌しながら加熱することが好ましい。これにより、HMTおよび尿素の分解が促進されるため、合成が効率的に進行する。30分〜1時間の加熱により結晶の生成が目視にて確認できるが、典型的には、加熱は、6時間〜10時間の間行われる。特に、7時間以上加熱すると、層状希土類水酸化物の結晶性が向上するため好ましい。また、加熱温度の上限は、用いる溶媒によって異なるが、100℃を超えない温度である。
ステップS410に続いて、得られた層状希土類水酸化物を洗浄し、室温にて乾燥させてもよい。これにより取扱の簡便な粉末状の層状希土類水酸化物を得ることができる。洗浄は、水およびエタノールで数回繰返し行われる。このようにして、出発材料である層状希土類水酸化物200が得られる。
次に、図2および図3を参照して説明した出発材料の層状希土類水酸化物200を用いて、本発明の希土類酸化物蛍光体を製造する方法を説明する。
図5は、本発明による希土類酸化物蛍光体を製造するフローチャートである。
図6は、層状希土類水酸化物から希土類酸化物蛍光体への擬似相転移を模式的に示す図である。
ステップS510:上述の層状希土類水酸化物を加熱する。これにより、層状希土類水酸化物の結晶構造は、図1を参照して説明した、希土類酸化物蛍光体のホストである希土類酸化物の結晶構造に擬似相転移し、希土類酸化物蛍光体が得られる。なお、以降では、簡単のため、「層状希土類水酸化物の結晶構造の、希土類酸化物蛍光体のホストである希土類酸化物の結晶構造への擬似相転移」を、「層状希土類水酸化物の希土類酸化物蛍光体への擬似相転移」と表現する。図6に模式的に示すように、層状希土類水酸化物200から希土類酸化物蛍光体100への擬似相転移は、希土類原子の配列が基本的に維持される形で進行する。
詳細には、層状希土類水酸化物200は、加熱による擬似相転移により、希土類酸化物蛍光体100となり、その板状結晶面は(001)面から(222)面となる(なお、図6では簡単のため、希土類酸化物蛍光体100のホストとである希土類酸化物の結晶系が立方晶である場合を示す)。このような希土類原子の配列方位関係を維持した擬似相転移は、図6に模式的に示すように、層状希土類水酸化物200の(001)面と、希土類酸化物蛍光体100の(222)面とが、希土類原子の配置の観点から、酷似しているためである。
なお、加熱は、600℃以上の温度が好ましい。これは、600℃未満では擬似相転移が十分に行われず、十分な発光強度が得られないためである。特に上限は設けないが、得られる希土類酸化物蛍光体100の品質、製造コスト等を考慮すれば、2000℃以下である。
このように、本願発明者らは、加熱により、層状希土類水酸化物中の希土類原子の配列を維持しつつ、希土類酸化物の結晶構造へと擬似相転移するので、希土類原子配列の方位関係が維持された二次元異方性の板状結晶が得られることを見出した。加熱するだけでよいので、大規模かつ高価な装置を必要としない。その結果、容易かつ安価に希土類酸化物蛍光体を提供できる。
(実施の形態3)
次に、実施の形態3では、実施の形態1で説明した本発明による希土類酸化物蛍光体からなる蛍光体薄膜について詳述する。
図7は、本発明による蛍光体薄膜の模式図を示す図である。
図7では、蛍光体薄膜700が基材710上に位置する様子を示す。このように基材710上に蛍光体薄膜700があれば、取扱が簡便であるため有利である。基材710は、Si、GaAs等の半導体基板、石英基板、ガラス基板、金属基板、プラスチック等の有機基板など任意の基材であり得る。基材710は、平板である必要はなく、表面に曲率あるいは凹凸を有していてもよい。
本発明の蛍光体薄膜700は、希土類酸化物蛍光体100(図1)からなる。なお、希土類酸化物蛍光体100は上述したとおりであるため、説明を省略する。
本発明の蛍光体薄膜700を構成する上述の希土類酸化物蛍光体100は、板状結晶である。板状結晶の大きさは数μmの矩形であり、その厚さは約100nmまたはそれ以下である。本発明の蛍光体薄膜700は、このような板状結晶の希土類酸化物蛍光体100から構成されるので、蛍光体薄膜700の最小厚さは、その板状結晶を反映し約100nmまたはそれ以下であるが、蛍光体薄膜700の膜厚は板状結晶の希土類酸化物蛍光体100の積層数に応じて制御可能である。本明細書では、希土類酸化物蛍光体の板状結晶の状態を意図する場合も、単に「希土類酸化物蛍光体」と称するので注意されたい。
さらに、本発明の蛍光体薄膜700は、それを構成する希土類酸化物蛍光体100の板状結晶面に起因した高い結晶性および配向性を有する。これにより、高輝度発光し得る。詳細には、本発明の蛍光体薄膜700を構成する上述の希土類酸化物蛍光体100は、その板状結晶面を基材710と平行となるように位置する。これにより、蛍光体薄膜700全体として優先配向した配向膜となる。
この蛍光体薄膜700の優先配向は、希土類酸化物蛍光体100のホストである希土類酸化物の結晶系に依存する。例えば、REとして上述の3価の希土類元素群から選択された希土類酸化物RE2O3の多く(例えば、Lu2O3、Sc2O3、Eu2O3、Gd2O3、Dy2O3、Ho2O3、Eu2O3、Y2O3)は、立方晶系である。したがって、これらの優先配向は、[111]となる。また、希土類酸化物RE2O3の中には六方晶系のものもある(例えば、La2O3およびNd2O3)。これらの優先配向は、[0001]となる。このように、選択されたホストの希土類酸化物の結晶系によって優先配向は異なる。
次に、本発明の蛍光体薄膜700について、図8〜図9を参照して、詳述する。以降では、簡単のため、蛍光体薄膜のホストが立方晶の場合を例示する。
図8は、本発明の蛍光体薄膜800の模式図を示す図である。
図8は、蛍光体薄膜800が基材710上に位置しており、希土類酸化物蛍光体100の単層から構成されている様子を模式的に示す。希土類酸化物蛍光体100は、上述した式(R)2O3((R)は機能サイト)で表され、立方晶の希土類酸化物である。蛍光体薄膜800は、互いに重なることなく、一様に配向した板状結晶の希土類酸化物蛍光体100からなる。
さらに、希土類酸化物蛍光体100は、立方晶の優先配向である(222)面(図1)が基材710と平行となるように、すなわち、[111]優先配向となるように、基材710上に位置する。この結果、蛍光体薄膜800は、全体として、[111]優先配向しており、高い結晶性および高い配向性を有する。
このような蛍光体薄膜800は、上述したように、希土類酸化物蛍光体100の板状結晶の厚さ(約100nmまたはそれ以下)を反映しており、厚さが約100nmまたはそれ以下の単層膜として得られる。
図9は、本発明の別の蛍光体薄膜900の模式図を示す図である。
図9は、図8の蛍光体薄膜800と同様に、蛍光体薄膜900が基材110上に位置する様子を示すが、蛍光体薄膜900は、図8の蛍光体薄膜800と、蛍光体薄膜800上のさらなる蛍光体薄膜910とからなる点で、蛍光体薄膜800とは異なる。
蛍光体薄膜900は、図8の蛍光体薄膜800と、その上に、互いに重なることなく、一様に配向した板状結晶の希土類酸化物蛍光体920からなる蛍光体薄膜910とからなる。ここで、希土類酸化物蛍光体920は、図1を参照して説明した希土類酸化物蛍光体100と同様である。ここでもやはり、希土類酸化物蛍光体920は、蛍光体薄膜800に対して[111]優先配向している。したがって、蛍光体薄膜900は、全体として基材710に対して[111]優先配向した膜であり、高い結晶性および高い配向性を有する。
このように、本発明の蛍光体薄膜900は、希土類酸化物蛍光体が多層(100、920)になっていてもよい。また、希土類酸化物蛍光体100と希土類酸化物蛍光体920とは、同一の材料であってもよいし、異なっていてもよい。また、多層の層数は2層に限定されるものではなく、用途に応じた膜厚を達成できれば、2層以上の多層であってもよい。同一の材料であれば、発光強度を増大させることができる。異なる材料であれば、発光色および発光スペクトルを制御することができる。
以上説明してきたように、本発明による式(R)2O3で表される希土類酸化物蛍光体からなる蛍光体薄膜700、800、900は、希土類酸化物蛍光体が板状結晶であり、そのホストである希土類酸化物の結晶系に依存した優先配向していることを特徴とする。このような特徴により、蛍光体薄膜700、800、900は薄膜全体として優先配向しており、高い配向性および高い結晶性を有する。この結果、発光強度に優れた発光材料となる。
本発明の蛍光体薄膜700、800、900は、希土類酸化物蛍光体において適宜選択されたREとMとの組み合わせによって、紫外線励起により可視光を発光し得るが、電子線励起によっても可視光を発光し得る。特に、本発明の単層の希土類酸化物蛍光体からなる蛍光体薄膜800は、チャージアップすることなく、低加速電圧による電子線励起を可能にするので、電子線励起の用途に好ましい。
なお、本発明による蛍光体薄膜は、実施の形態1と同様に、ホストである希土類酸化物のREサイトに、選択されたREと、選択されたMと、REおよびMとは異なるさらに別の1種以上の元素M’とが固溶された希土類酸化物蛍光体から構成されていてもよい。例えば、REがGdであり、M’がSbであり、MがEuである場合、式(Gd,Eu,Sb)2O3(詳細には、(Gd1−α−βEuαSbβ)2O3(0<α<1、0<β<1))で表される希土類酸化物蛍光体からなる蛍光体薄膜となる。
このような本発明の蛍光体薄膜700、800、900は、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、白色発光ダイオード(LED)等に適用され得る。
(実施の形態4)
次に、実施の形態4では、実施の形態3で説明した本発明による蛍光体薄膜700、800、900を製造する方法について説明する。
(i)まず、図1を参照して説明した本発明の希土類酸化物蛍光体を用いて、本発明の蛍光体薄膜を製造する方法を説明する。
図10は、本発明による蛍光体薄膜を製造するステップを示すフローチャートである。
図11は、本発明による蛍光体薄膜を製造するステップを模式的に示す図である。
ステップS1010:図1を参照して説明した希土類水酸化物蛍光体100を水に分散させた分散液に、第1の溶媒を添加し、これにより、水と第1の溶媒との界面を形成する。例示的な第1の溶媒は、ヘキサン、トルエンである。これらの第1の溶媒の比重は、水のそれよりも軽いため、下層部に水、および、上層部に第1の溶媒となるように分液され、この結果界面が形成される。希土類酸化物蛍光体100は、実施の形態1で説明した希土類水酸化物蛍光体と同様であるため説明を省略する。
ステップS1010は、図11の状態(A)から開始する。状態(A)は、容器内に希土類酸化物蛍光体100を水に分散させた分散液が位置する様子を示す。状態(A)にステップS1010を行うと、状態(B)となる。状態(B)は、下層部1110に水、および、上層部1120に第1の溶媒が分液されており、界面1130が形成されている様子を示す。希土類酸化物蛍光体100は、下層部1110に位置する。
ステップS1020:第2の溶媒1040をさらに添加する。これにより、希土類酸化物蛍光体100が、ステップS1010で形成した界面1130にトラップされる(図11の状態(C))。第2の溶媒1040は、アルコール類であれば任意であるが、汎用性および取扱の容易性の観点から、エタノール、プロパノール、ブタノールが好ましい。
希土類酸化物蛍光体100は、界面1130に対してランダムに配向するのではなく、その希土類酸化物蛍光体100のホストである希土類酸化物の結晶系に依存した優先配向するように自己組織化的にトラップされる。これは、希土類酸化物蛍光体100の板状結晶がその2次元異方性ゆえ板状結晶面を界面に平行に配列することがもっとも安定であるからである。また表面張力、結晶表面の電荷反発などの関係から板状結晶同士が重なりあうことがなく、自己組織化的にモノレイヤーとして配列する。例えば、希土類酸化物蛍光体100のホストである希土類酸化物の結晶系が立方晶であれば、希土類酸化物蛍光体100は、界面に対して[111]優先配向する。
このようにして界面にトラップされた希土類酸化物蛍光体100は、膜状であり、図7を参照して説明した蛍光体薄膜700となる。本発明の方法によれば、物理気相成長法および化学気相成長法における複雑、大規模かつ高価な装置を用いることなく、蛍光体薄膜を得ることがえきるので、容易かつ安価に蛍光体薄膜を提要できる。また、容器のサイズを変更することによって、蛍光体薄膜の大面積化も容易に達成される。
なお、ステップS1010に先立って、層状希土類水酸化物200(図2および図3)を加熱し、希土類酸化物蛍光体100(図1)に擬似相転移させるステップ(図5および図6のステップS510)を行ってもよい。
(ii)次に、図1を参照して説明した本発明の希土類酸化物蛍光体を用いて、本発明の蛍光体薄膜を基材上に製造する方法を説明する。
図12は、本発明による蛍光体薄膜を製造するステップを示すフローチャートである。
図13は、本発明による蛍光体薄膜を製造するステップを模式的に示す図である。
ステップS1210:ステップS1210は、図10のステップS1020から始まる。第1の溶媒を除去する。図13の状態(C)において上層部1120の第1の溶媒を除去すると、状態(D)となる。
ステップS1220:ステップS1210で得られた分散液に基材710(図7)を浸漬させ、界面1130にトラップされた希土類酸化物蛍光体100を基材710に移す(図13の状態(E))。図11を参照して説明したように、トラップされた希土類酸化物蛍光体100は、界面1130に対して優先配向しているが、基材710を引上げる際も、希土類酸化物蛍光体100は、基材710に対して優先配向を維持したまま基材710に移される。このようにして基材710上に優先配向し、一様に配列した希土類酸化物蛍光体100からなる蛍光体薄膜800が得られる。ここで蛍光体薄膜800は、希土類酸化物蛍光体100のそれぞれが優先配向しているため、全体として優先配向である。このようにして、容易かつ安価に、基材上に高い結晶性および高い配向性を有する蛍光体薄膜を得ることができる。
例えば、希土類酸化物蛍光体100のホストである希土類酸化物の結晶系が立方晶であれば、希土類酸化物蛍光体100は、界面に対して[111]優先配向しており、図13の状態(E)に模式的に示すように、蛍光体薄膜800は全体として[111]優先配向している。
なお、ステップS1220を2回繰り返すことによって、多層構造の希土類酸化物蛍光体100、920からなる蛍光体薄膜900(図9)が得られる。ここでもやはり、積層された希土類酸化物蛍光体920が優先配向しているので、蛍光体薄膜900全体として基材710に対して優先配向である。ステップS1220の回数は、所望の膜厚に応じて、任意である。
また、REまたはMの組み合わせが異なる希土類酸化物蛍光体をトラップさせた(ステップS1020後の)複数の分散液を予め準備し、この容器に順次、基材を浸漬させることにより、異なった発光特性の希土類酸化物蛍光体が積層された蛍光体薄膜を得ることも可能である。
以上、図12〜図13を参照して説明したように、本発明の蛍光体薄膜700〜900は、希土類酸化物蛍光体100、または、層状希土類水酸化物200を擬似相転移させた希土類酸化物蛍光体100の板状結晶の二次元異方性を利用して製造される。本発明の方法は、物理気相成長法または化学気相成長法に代表される、複雑、大規模かつ高価な装置を必要としないので、容易かつ安価に結晶性および配向性に優れた蛍光体薄膜を提供できる。また、本発明の製造方法によれば、大きな容器さえ入手すれば、容易に大面積化も可能であるので、実用化に好適である。
(iii)次に、図3を参照して説明した層状希土類水酸化物を用いて、本発明の蛍光体薄膜を基材上に製造する方法を説明する。
図14は、本発明による蛍光体薄膜を製造するステップを示すフローチャートである。
図15は、本発明による蛍光体薄膜を製造するステップを模式的に示す図である。
図16は、層状希土類水酸化物から希土類酸化物蛍光体への擬似相転移を模式的に示す図である。
ステップS1410:図2〜図4を参照して説明した層状希土類水酸化物200(図2)を水に分散させた分散液に第1の溶媒を添加し、これにより、水溶液中の水と第1の溶媒との界面を形成する。例示的な第1の溶媒は、ヘキサン、トルエンである。これらの第1の溶媒の比重は、水のそれよりも軽いため、下層部に水、および、上層部に第1の溶媒となるように分液され、これにより界面が形成される。
ステップS1410は、図15の状態(A)から開始する。状態(A)は、容器内に層状希土類水酸化物200を水に分散させた分散液が位置する様子を示す。状態(A)にステップS1410を行うと、状態(B)となる。状態(B)は、下層部1110に水、および、上層部1120に第1の溶媒が分液されており、界面1130が形成されている様子を示す。層状希土類水酸化物200は、下層部1110に位置する。
ステップS1420:第2の溶媒1140をさらに添加する。これにより、層状希土類水酸化物200が、ステップS1410で形成した界面1130にトラップされる(図15の状態(C))。第2の溶媒1140は、アルコール類であれば任意であるが、汎用性および取扱の容易性の観点から、エタノール、プロパノール、ブタノールが好ましい。層状希土類水酸化物200は、界面1130に対してランダムに配向するのではなく、c軸配向するように自己組織化的にトラップされる。これは、層状希土類水酸化物200の板状結晶がその2次元異方性ゆえ板状結晶面を界面に平行に配列することがもっとも安定であるからである。また表面張力、結晶表面の電荷反発などの関係から板状結晶同士が重なりあうことがなく、自己組織化的にモノレイヤーとして配列する。
ステップS1430:第1の溶媒を除去する。図15の状態(C)において上層部1120の第1の溶媒を除去すると、状態(D)となる。
ステップS1440:ステップS1430で得られた分散液に基材710(図7)を浸漬させ、界面1130にトラップされた層状希土類水酸化物200を基材710に移す(図15の状態(E))。トラップされた層状希土類水酸化物200は、界面1130に対してc軸配向しているが、基材710を引上げる際も、層状希土類水酸化物200は、基材710に対してc軸配向を維持したまま基材710に移される。このようにして基材710上に、c軸配向し、一様に配列した層状希土類水酸化物200からなる配向膜1500が得られる。ここで配向膜1500は、図16の左図の結晶構造に模式的に示されるように、層状希土類水酸化物200のそれぞれが[001]配向しており、配向膜1500全体として、[001]配向である。
ステップS1450:ステップS1440で得られた層状希土類水酸化物200からなる配向膜1500(図15の状態(E))を加熱する。これにより、層状希土類水酸化物200は希土類酸化物蛍光体100に擬似相転移し、配向膜1500が、希土類酸化物蛍光体100からなる蛍光体薄膜800となる(図15の状態(F))。
加熱は、実施の形態2で説明したように、図5のステップS510と同様の条件で行われ、少なくとも600℃以上の温度で行われる。600℃未満では、層状希土類水酸化物200の擬似相転移が十分に行われず、最終的な蛍光体薄膜700、800からの十分な発光強度が得られないためである。加熱温度は、600℃以上であれば任意の温度が許容されるが、蛍光体薄膜800における発光強度を考慮すれば、1100℃以下が好ましい。蛍光体薄膜800における発光強度、表面モルフォロジ、第二相の析出を考慮すれば、加熱温度は、より好ましくは、800℃以上1000℃未満である。加熱雰囲気および加熱時間は、例えば、大気および2時間であるが、これらに限定されない。
図16に模式的に示すように、層状希土類水酸化物200から希土類酸化物蛍光体100への擬似相転移は、希土類原子の配列が基本的に維持される形で進行する。詳細には、層状希土類水酸化物200は、[001]配向であったが、加熱による擬似相転移により、異なる配向をした希土類酸化物蛍光体100になる。両構造の結晶学的関係から、酸化物結晶としての配向は[111]に沿うものとなる(なお、図16では簡単のため、希土類酸化物光体100のホストとである希土類酸化物の結晶系が立方晶である場合を示す)。その結果、配向膜1500は、希土類酸化物蛍光体100からなる蛍光体薄膜800となり、蛍光体薄膜800は、全体として[111]優先配向している。
このような希土類原子の配列方位関係を維持した擬似相転移は、図5および図6のステップS510と同様に、図16に模式的に示すように、基材710上においても、層状希土類水酸化物200の(001)面と、希土類酸化物蛍光体100の(222)面とが、希土類原子の配置の観点から、酷似しているためである。
このように、ステップS1450の加熱による擬似相転移によれば、層状希土類水酸化物から希土類酸化物蛍光体のホストである希土類酸化物への結晶構造変化に加えて、希土類原子の配列方位関係は保たれる。その結果、蛍光体薄膜全体として優先配向することになる。
また、ステップS1550の加熱による擬似相転移において、層状希土類水酸化物200のモルフォロジおよび基板710上での配置は、希土類酸化物蛍光体100においても維持されるので、板状結晶の希土類酸化物蛍光体100が、互いに重なることなく、一様に配向した蛍光体薄膜800が得られる。なお、加熱によって、層状希土類水酸化物200中の陰イオンZ、水分子H2O、中間層等が除去されるので、希土類酸化物蛍光体100の厚さは、層状希土類水酸化物200のそれよりも薄くなり、約100nmまたはそれ以下となる。
ステップS1450は、基材710とともに加熱するので、擬似相転移に加えて、基材710と蛍光体薄膜800との密着性を向上させる効果もある。基材710と蛍光体薄膜800とを密着させるさらなるアニール等を必要としないので、実用化に向けたプロセスの省略、製造コストの削減ができる。
なお、ステップS1440を2回繰り返すことによって、層状希土類水酸化物200が積層された配向膜(図示せず)が得られる。このような配向膜にステップS1450を行えば、図9を参照して説明した、多層構造の蛍光体薄膜900を得ることができる。ステップS1440の回数は、所望の膜厚に応じて、任意である。
また、REまたはMの組み合わせが異なる希土類酸化物蛍光体をトラップさせた(ステップS1430後の)複数の分散液を予め準備し、この容器に順次、基材を浸漬させる(ステップS1440)ことにより、異なった発光特性の層状希土類水酸化物が積層された配向膜を得ることも可能である。このような配向膜にステップS1450を行えば、発光特性を適宜制御した蛍光体薄膜が得られる。
当然のことながら、ステップS1440とS1450とをセットにして、これを繰り返すことによっても、多層構造の蛍光体薄膜900を得ることができる。
以上、図14〜図16を参照して説明したように、本発明の蛍光体薄膜700〜900は、層状希土類水酸化物200の加熱による希土類酸化物蛍光体100への擬似相転移を利用して製造される。本発明の方法は、物理気相成長法または化学気相成長法に代表される、複雑、大規模かつ高価な装置を必要としないので、容易かつ安価に結晶性および配向性に優れた蛍光体薄膜を提供できる。また、本発明の製造方法によれば、大きな容器さえ入手すれば、容易に大面積化も可能であるので、実用化に好適である。図14〜図16を参照して説明した方法によれば、擬似相転移のための加熱によって、蛍光体薄膜と基材との密着性が向上するため、さらなるアニールが不要となるため好ましい。
なお、実施の形態4の(ii)および(iii)では、出発材料の層状希土類水酸化物200において、REサイトに固溶する元素として、発光中心であるMのみを挙げて説明したが、これに限らない。実施の形態1と同様に、層状希土類水酸化物におけるREサイトに、その結晶構造を維持する限り、選択されたREと、選択されたMと、REおよびMとは異なるさらに別の1種以上の元素M’とが固溶されていてもよい。このような元素M’は、直接発光に寄与しないが、固溶によって種々の機能(例えば、高輝度発光に寄与する)を発現し得る元素である。
例えば、REがGdであり、MがEuであり、M’がSbであり、ZがCl−である場合、式(Gd,Eu,Sb)(OH)2.5Cl0.5・0.125xH2O(詳細には、(Gd1−α−βEuαSbβ)(OH)2.5Cl0.5・0.125xH2O(0<α<1、0<β<1))で表される層状希土類水酸化物となる。このような層状希土類水酸化物を出発材料に用いれば、(Gd,Eu,Sb)2O3(詳細には、(Gd1−α−βEuαInβ)2O3(0<α<1、0<β<1))で表される希土類酸化物蛍光体からなる蛍光体薄膜が得られる。
(実施の形態5)
次に、実施の形態3で説明した本発明の蛍光体薄膜を用いた応用例を例示する。
図17は、本発明の蛍光体薄膜を適用したプラズマディスプレイパネルのセルの模式図を示す図である。
図17のプラズマパネルディスプレイのセル1700は、反射型のプラズマパネルディスプレイのセルを示すが、透過型であってもよく、これらに限定されない。セル1700は、ガラス基材1710および1780と、アドレス電極1720と、隔壁(リブ)1730と、本発明の蛍光体薄膜1740と、保護層1750と、誘電体層1760と、表示電極1770とを備える。
本発明の蛍光体薄膜1740は、例えば、REがGdであり、MがEuであり、紫外線励起によって赤色発光する。本発明の蛍光体薄膜1740は、ガラス基材1710およびアドレス電極1720上および隔壁1730に形成されている。
ガラス基材1780の蛍光体薄膜1740側には、保護層1750と誘電体層1760とが位置する。誘電体層1760は電荷を蓄積するように機能し、任意の誘電体材料である。保護層1750は、スパッタリングにより誘電体層1760が損傷するのを抑制する。これにより、プラズマパネルディスプレイの寿命を延長するとともに、2次電子の放出効率を向上させる。保護層1750は例えばMgOである。
アドレス電極1720と表示電極1770とは交差するように位置する。アドレス電極1720には、セルを選択する信号が流される。なお、ここでは、セルとして赤色発光のセル1700単一を示すが、実際には、青色発光のセル、緑色発光のセル等複数存在する。
隔壁1730は、アドレス電極1720と平行に形成され、放電によってセル1700内に生成された紫外線が隣接したセルに漏れることを防ぐ。なお、ガラス基材1710および1780と隔壁1730で囲まれたセル1700内の空間(放電空間)には、ガス放電のための不活性ガス(例えば、HeとXe、NeとXe、HeとNeとXe等)が注入されている。
このようなプラズマディスプレイパネルのセル1700の動作を説明する。
アドレス電極1720および表示電極1770に通電されると、セル1700が選択され、セル1700の放電空間内においてXe放電により真空紫外線1790が発生する。真空紫外線1790は、本発明の蛍光体薄膜1740を励起し、赤色の可視光1791を発する。可視光1791は、保護層1750、誘電体層1760、次いでガラス基材1780を介して外側から観察される。このようにして、プラズマディスプレイパネルのセル1700は、画像表示機能を有する。
なお、ここでは、一例としてプラズマディスプレイパネルのセルを示したが、本発明の蛍光体薄膜は、これに限定されない。既存の蛍光体材料が適用される任意の用途(蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、陰極線管(CRT)、白色発光ダイオード(LED)等)に適用可能であることはいうまでもない。
実施の形態5において、本発明の蛍光体薄膜に替えて、実施の形態1で説明した本発明の希土類酸化物蛍光体をそのまま、または、樹脂等に分散させて用いてもよい。
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
実施例1では、図14〜図16に示す、蛍光体薄膜を製造する方法の有効性を確認するとともに、式(R)2O3において、(R)サイトのREとしてGdを、MとしてEuを採用し、GdとEuとの固溶比を95:5に固定し(すなわち、Gd2O3の希土類酸化物にEuを5mol%固溶させ)、擬似相転移の加熱温度依存性を調べた。
まず、出発材料として(Gd,Eu)(OH)2.5Cl0.5・0.125xH2O(GdとEuとの固溶比は95:5)の層状希土類水酸化物を合成した。合成した層状希土類水酸化物を薄膜化し、これを擬似相転移の加熱温度依存性に用いた。
(Gd,Eu)(OH)2.5Cl0.5・0.125xH2Oの層状希土類水酸化物を合成する手順を説明する。
REの塩としてGdCl3・6H2O(>99.99%、4.75mM)と、Mの塩としてEuCl3・6H2O(>99.99%、0.25mM)と、HMT(5mM)と、NaCl(65mM)とを1000mlの超純水(ミリQ水)に溶解させ、最終濃度を75mMの混合水溶液を調製した(図4のステップS410)。なお、ここで、REの塩およびMの塩が6つの水分子を有するが、これらは吸湿性であるため、環境によって6〜7の間で変動することが分かっている。以降の実施例においても同様に取り扱う。このようにして得られた混合水溶液のpHは、約6であった。次いで、混合水溶液をマグネチックスターラで攪拌し、窒素ガス中において還流温度(約100℃)で7時間、加熱した。これにより、HMTを分解させた(図4のステップS410)。このとき混合水溶液のpHは、約8まで上昇していた。これらの操作は、窒素フロー下にて、還流冷却器を備えた二口フラスコを用いて行った。
7時間後、混合溶液中に白い流線が観察された。これは、異方性形状の結晶が形成されたことを示唆する。次いで、生成物をろ過し、水とエタノールとで数回洗浄した後、大気中、湿度70%、室温にて乾燥させた。
X線回折により生成物の同定を行い、生成物が目的とする層状希土類水酸化物であることを確認した。X線回折は、Cu対陰極(Cu−Kα線)(λ=1.5405Å)を備えたRigaku Rint−2000回折計で測定した。結果を図18に示す。以降では、実施例1の板状結晶様の層状希土類水酸化物(すなわち、層状希土類水酸化物結晶)を、簡単のため、GdEu0.05水酸化物またはGdEu0.05水酸化物粉末と称する。ここで、Euの添え字は、EuがREサイトに5%固溶していることを示す。板状結晶様の層状希土類水酸化物はマクロには粉末状であるため、試料として用いている場合には、分かりやすさのために、GdEu0.05水酸化物粉末と記載する。
図18は、実施例1のGdEu0.05水酸化物粉末のXRDパターンを示すグラフである。
図18に示される回折ピークから単純斜方格子であり、目的とする層状希土類水酸化物に一致することを確認した。また、XRDパターンには第二相の異相を示すピークはなかった。
実施例1のGdEu0.05水酸化物粉末について化学分析を行った。GdおよびEuの含量を、ICP(誘導結合プラズマ)原子発光分析(Seiko SPS1700 HVR)により測定した。測定用の試料として、秤量後の生成物を溶解させた塩酸水溶液を用いた。秤量後の生成物中のOHの含量を、0.1Mの標準Na2CO3を用いて逆滴定により求めた。測定用の試料として、秤量後の生成物を溶解させた0.1Mの標準H2SO4を用いた。さらに、生成物中のClの含量を、LC−8020イオンクロマトグラフィシステムによって測定した。生成物中の炭素および水の質量を、LECO RC−412C, H2Oアナライザによって測定した。
化学分析の結果、Eu、Gd、OH−、Cl−、H2OおよびC(質量%)は、それぞれ、3.2、64.1、17.5、7.3、6.7および0.23であった。これから、合成したGdEu0.05水酸化物粉末は、組成式Gd0.95Eu0.05(OH)2.42Cl0.48(CO3)0.05・0.86H2O(理論値:Eu、Gd、OH−、Cl−、H2OおよびCの理論値(質量%)は、それぞれ、3.25、63.94、17.61、7.29、6.63および0.26)であると分かり、目的とする組成の層状希土類水酸化物が得られたことを確認した。
なお、組成式において炭酸イオンが示されるが、これは、均一沈殿法において発生した二酸化炭素がZである塩素イオンの一部と置換したためである。このことは、実施例1のGdEu0.05水酸化物がアニオン交換能を有することに起因する。また、水酸基の数が、いずれも2.38〜2.40の範囲となり、目的の水酸基のそれ(2.5)とはわずかなずれを示したが、これも、炭酸イオンの影響に起因するため、無視できる。水分子の個数から、上式におけるxの値は、6〜8を満たすことを確認した。
次に、実施例1のGdEu0.05水酸化物を薄膜化し、配向膜を得る手順を説明する。
実施例1のGdEu0.05水酸化物粉末(20mg)を超純水(ミリQ水)(40mL)に分散させ、GdEu0.05水酸化物粉末が分散した分散液を調整した。この分散液に第1の溶媒としてヘキサン(10mL)を添加し、ヘキサンと超純水との界面を生成した(図14のステップS1410)。
次いで、第2の溶媒として2−プロパノール(1.5mL)を、0.6mL/分の速度でさらに添加した(図14のステップS1420)。これにより、実施例1のGdEu0.05水酸化物は、界面にトラップされた。
シリンジを用いて、第1の溶媒のヘキサンを除去した(図14のステップS1430)。基材として石英基材およびSi基材を分散液に浸漬させ、それらにトラップされたGdEu0.05水酸化物を移した(図14のステップS1440)。なお、石英基材およびSi基材を、予め、1/1 HCl/CH3OH溶液、次いで、濃H2SO4にそれぞれ30分間浸漬させ、洗浄した。
得られた薄膜を、エタノール中で、数秒間超音波(42kHz、90W)処理し、板状結晶が重なって累積された部分から重なった結晶を除去し、モノレイヤー化した。その後、大気中、湿度70%、室温にて3〜5時間乾燥させた。このようにして、GdEu0.05水酸化物を薄膜化し、配向膜を得た。ここで得られた配向膜をGdEu0.05水酸化物薄膜と称する。
実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜について、XRD回折を行った。結果を図19に示す。さらに、実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜の表面のモルフォロジを、走査型電子顕微鏡SEM(Keyence、VE8800)を用いて観察した。観察は、加速度10kVで行った。結果を図20および図21に示す。
図19は、実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜のXRDパターンを示すグラフである。
図19のXRDパターンaは、実施例1のGdEu0.05水酸化物粉末のXRDパターンであり、図18と同一である。図19のXRDパターンbは、実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜のXRDパターンである。XRDパターンbによれば、XRDパターンaとは異なり、00l(l=1、2、3、4、5、6)の回折ピークのみを示し、実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜が良好にc軸配向していることを確認した。このことから、図14および図15を参照して説明したステップS1410〜S1440によって、c軸配向したGdEu0.05水酸化物からなる配向膜が得られることが示された。
図20は、実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜のSEM像を示す写真である。
図21は、実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜の別のSEM像を示す写真である。
図20および図21によれば、GdEu0.05水酸化物薄膜は、板状結晶のGdEu0.05水酸化物がほぼ重なることなく、均一に配列して構成されている様子を示す。図20の挿入図に示すように、実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜は白濁することなく透明であった。
次に、図14および図15のステップS1410〜S1440によって得られたGdEu0.05水酸化物薄膜から、蛍光体薄膜を得るとともに、擬似相転移のための加熱温度依存性を調べた。
具体的な手順を説明する。上述のGdEu0.05水酸化物薄膜を、200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃および1100℃の各温度で2時間、大気中加熱し、(Gd,Eu)2O3の希土類酸化物蛍光体へ擬似相転移させ、実施例1の蛍光体薄膜を得た。各加熱温度への昇温速度は、10℃/分であった。
このようにして得られた各蛍光体薄膜をGd2O3:Eu0.05膜(1)(T)と称する。「Gd2O3:Eu0.05」は、Gd2O3の希土類酸化物のGdサイトにEuが5%固溶していることを意図し、1番目の添え字(1)は、図14および図15のステップS1440の回数を示し、2番目の添え字(T)は、図14および図15のステップS1450の加熱温度を示す。例えば、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(800)は、ステップS1440を1回行った単層のGdEu0.05水酸化物薄膜を800℃で加熱して得られた蛍光体薄膜である。
各試料について、XRD回折およびSEMによる観察を行った。結果を図22〜図29に示す。さらに、各試料について、室温における励起スペクトルおよび発光スペクトルを、蛍光分光光度計(Hitachi F−7000)を用いてフォトルミネッセンス(PL)法により測定した。測定は、700Vにおいて、モニタリング波長613nmおよび励起波長224nmおよび248nmで行った。測定結果を図30および図31に示し、詳述する。また、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(800)について、PL法による発光の状態を撮影した。結果を図32に示す。
なお、XRDパターンおよび励起・発光スペクトルにおけるカウント値の単位は、測定装置および条件によって変化するため任意単位である。同一条件で測定した本明細書の実施例および比較例でしか比較できないことに留意されたい。
図22は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(T)のXRDパターンを示すグラフである。
図22において、XRDパターンaは、GdEu0.05水酸化物薄膜であり、図19のXRDパターンbと同一である。図22のXRDパターンb〜gは、それぞれ、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(T)(T=200、400、600、800、1000、1100)である。
図22のXRDパターンbおよびcより、600℃未満の加熱温度では、XRDパターンに大きな変化は見られなかった。このことは、GdEu0.05水酸化物薄膜を600℃未満の温度で加熱しても、擬似相転移は生じないことを示す。
図22のXRDパターンdおよび/またはeは、30°付近および60°付近の回折ピークのみを示した。これらの回折ピークは、それぞれ、立方晶Gd2O3:0.05Eu相(JCPDS43−1014)の222および444に相当し、層状希土類水酸化物から希土類酸化物蛍光体に擬似相転移したことを示す。この結果から、図14および図15のステップS1450、または、図5のステップS510における層状希土類水酸化物を擬似相転移させるには、600℃以上で加熱することが好ましいことが示された。
さらに、XRDパターンdおよびeには、222および444以外の回折ピークが見られなかったことから、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(600)およびGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)は、立方晶の優先配向である[111]方向に配向した高い配向性を有する膜であることが分かった。このことは、図16を参照して説明したように、層状希土類水酸化物の(001)面と、希土類酸化物の(222)面とが、希土類元素の配置の観点から類似しているためである。
図22のXRDパターンfおよびgによれば、立方晶Gd2O3:Eu0.05相の優先配向(222)回折ピークを示すものの、その強度は減少し、不純物相を示す回折ピーク(図中▲で示す)が現れた。XRDパターンd〜gを比較すると、XRDパターンeの回折ピークがもっともシャープであり、回折強度も大きかった。
図23は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(200)のSEM像を示す写真である。
図24は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(400)のSEM像を示す写真である。
図25は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(600)のSEM像を示す写真である。
図26は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)のSEM像を示す写真である。
図27は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)の別のSEM像を示す写真である。
図28は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(1000)のSEM像を示す写真である。
図29は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(1100)のSEM像を示す写真である。
図20および図21(GdEu0.05水酸化物薄膜のモルフォロジを示す)と、図23〜図29とを比較すると、加熱によるモルフォロジの大きな変化は見られなかった。図25〜図29によれば、図14および図15のステップS1450の加熱による擬似相転移後も、板状結晶の希土類酸化物蛍光体が、互いに重なることなく、一様に配列している様子が分かる。図26の挿入図は、図20の挿入図と同様であり、加熱、擬似相転移後も、蛍光体薄膜は、石英基材全体にわたって均一に維持されており、透明であった。このことから大面積化も可能であることが示唆される。さらに、図25〜図27と、図28〜図29とを比較すると、加熱温度が高いほど、希土類酸化物蛍光体の表面のラフネスが顕著になることが分かった。
Gd2O3:Eu0.05膜(1)(T)(T=600、800、1000、1100)について引掻き試験を行い、密着性を調べた。その結果、引掻き試験を行っても、これらのGd2O3:Eu0.05膜(1)(T)が基材から剥がれることはなかった。比較のため、GdEu0.05水酸化物薄膜についても同様に引掻き試験を行ったところ、GdEu0.05水酸化物薄膜は基材から剥がれた。このことは、本発明による蛍光体薄膜は、層状希土類水酸化物の配向膜と比較して、基材に対する密着性が高いことを確認した。このような密着性の向上は、図14および図15のステップS1450の基材上での加熱による効果である。
図30は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(T)の励起・発光スペクトルを示すグラフである。
図30によれば、加熱温度Tが600℃以上におけるGd2O3:0.05Eu膜(1)(T)は、紫外線励起により波長613nmの赤色発光を示した。詳細には、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(800)が最も高い発光強度を有し、次いで、発光強度は、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(1000)、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(600)、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(1100)の順に低下し、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(400)では発光を確認できなかった。この結果は図22の結果に一致し、擬似相転移された希土類酸化物蛍光体からなる蛍光体薄膜は、発光材料として有効であることが示される。なお、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(200)の励起・発光スペクトルは、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(400)のそれと同様であり、発光を示さなかった。
次に、最も発光特性に優れるGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)について詳細に検討した。
図31は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)の励起・発光スペクトルを示すグラフである。
図32は、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)の発光の様子を示す写真である。
図31の励起スペクトルは、波長224nmに最大ピークを有するブロードなピークと、波長248nmのショルダーピークとを示した。これらは、それぞれ、Gd2O3のホスト励起バンドと、O2−とEu3+との間の電荷移動バンド(CTB)とに起因する(例えば、非特許文献3を参照。)。Gd2O3ホスト励起バンドは、酸素の2p状態からGdの伝導帯への電子遷移に起因し、CTBは、4f殻の基底状態からEu−O電荷移動状態への電子遷移に起因する。
このことは、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)における発光は、Eu3+の直接励起ではなく、Gd2O3のホスト励起バンドによることを示す。また、ホスト励起バンドによる強度は、電荷移動バンドによる強度の3.8倍であることが分かった。波長582nm、589〜601nm、613nm、654nmおよび709nmにおける発光線は、それぞれ、Eu3+の5D0−7FJ遷移(J=0、1、2、3、4)に相当する。
最も高い発光強度の発光ピークは、Eu3+の高感度強制電気双極子(hypersensitive forced electric dipole)に起因している。これは、Eu3+が、Gd2O3のホスト内のサイトに空間反転対称性を有することなく位置していることを示す(例えば、非特許文献4および5を参照。)。
図32によれば、励起波長224nmにおける赤色発光が、コントラストの明るく示される領域に相当し、目視にて赤色発光が確認できた。
以上実施例1によれば、本発明による蛍光体薄膜は、式(Gd,Eu)2O3で表され、板状結晶の希土類酸化物蛍光体からなり、優先配向していることを確認した(希土類酸化物蛍光体のホストである希土類酸化物が立方晶の場合には、[111]優先配向である)。また、このような蛍光体薄膜は、紫外線励起により赤色を発光する発光材料となることを確認した。さらに、図22および図30に示すように、蛍光体薄膜の結晶構造および発光強度を考慮すれば、擬似相転移のための加熱温度は、600℃以上1100℃以下が好ましいことが分かった。図22〜図30に示すように、蛍光体薄膜の結晶構造、表面モルフォロジおよび発光強度を考慮すれば、擬似相転移のための加熱温度は、800℃以上1000℃未満が好ましいことが分かった。
次に、図5に示す本発明による希土類酸化物蛍光体を製造する方法の有効性を確認した。出発材料として、実施例1のGdEu0.05水酸化物を用いた。
実施例1のGdEu0.05水酸化物粉末を、800℃の温度で2時間、大気中加熱し、(Gd,Eu)2O3の希土類酸化物蛍光体(Gd2O3:Eu0.05粉末)へ擬似相転移させた。Gd2O3:Eu0.05粉末についてXRD回折を行った。結果を図33に示す。
図33は、実施例2のGd2O3:Eu0.05粉末のXRDパターンを示すグラフである。
図33のXRDパターンaおよびbは、それぞれ、実施例1のGdEu0.05水酸化物粉末およびGdEu0.05水酸化物薄膜のXRDパターンであり、図19のXRDパターンaおよびbと同一である。図33のXRDパターンcは、実施例2のGd2O3:Eu0.05粉末のXRDパターンである。図33のXRDパターンcによれば、すべての回折ピークは、立方晶Gd2O3:Eu0.05相(JCPDS43−1014)に一致した。
実施例2のGd2O3:Eu0.05粉末のPLスペクトルを測定した。測定は400Vで行った。結果を図34に示す。
図34は、実施例2のGd2O3:Eu0.05粉末の励起・発光スペクトルを示すグラフである。
図34の励起・発光スペクトルによれば、ホスト励起バンドの発光強度が、電荷移動バンドのそれよりも低いものの、図31(実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)の励起・発光スペクトル)と同様に、実施例2のGd2O3:Eu0.05粉末は紫外線励起により赤色発光することを確認した。
以上より、本発明によれば、層状希土類水酸化物を加熱することによって、擬似相転移した希土類酸化物蛍光体が得られることを確認した。
次に、図10〜図13示す、本発明による蛍光体薄膜を製造する方法の有効性を確認した。実施例2のGd2O3:Eu0.05粉末を薄膜化し、蛍光体薄膜を得る手順を説明する。
実施例2のGd2O3:Eu0.05粉末(20mg)を超純水(ミリQ水)(40mL)に分散させ、Gd2O3:Eu0.05粉末が分散した分散液を調製した(図11の状態(A))。この分散液に第1の溶媒としてヘキサン(10mL)を添加し、ヘキサンと超純水との界面を生成した(図10のステップS1010)。
次いで、第2の溶媒として2−プロパノール(2.0mL)をさらに添加した(図10のステップS1020)。これにより、実施例2のGd2O3:Eu0.05は、界面にトラップされた。
シリンジを用いて、第1の溶媒のヘキサンを除去した(図12のステップS1210)。基材として石英基材およびSi基材(なお、これらの基材は実施例1と同様に前処理されている)を分散液に浸漬させ、それらにトラップされたGd2O3:Eu0.05を移した(図12のステップS1220)。
得られた薄膜を、エタノール中で、数秒間超音波(42kHz、90W)処理し、板状結晶が重なって累積された部分から重なった結晶を除去し、モノレイヤー化した。その後、大気中、湿度70%、室温にて3〜5時間乾燥させた。このようにして、Gd2O3:Eu0.05からなる蛍光体薄膜を得た。ここで得られた薄膜を実施例3のGd2O3:Eu0.05膜と称する。
実施例3のGd2O3:Eu0.05膜について、XRD回折、SEMによる観察およびPLスペクトル測定を行った。結果を図35〜図37に示す。
図35は、実施例3のGd2O3:Eu0.05膜のXRDパターンを示すグラフである。
実施例3のGd2O3:Eu0.05膜のXRDパターンは、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)のXRDパターン(図22のe)と同様に、[111]優先配向していることを確認した。
図36は、実施例3のGd2O3:Eu0.05膜のSEM像を示す写真である。
図36は、実施例2で得られた希土類酸化物蛍光体が板状結晶であること、ならびに、その板状結晶の希土類酸化物蛍光体が基材上に一様に配列している様子を示す。注目すべきは、擬似相転移後の希土類酸化物蛍光体に図12のステップS1220を行うと、板状結晶の希土類酸化物蛍光体が、その板状結晶面を基材に平行にして一様に配列する点である。このことは、図35の結果に良好に一致する。
また、一部凝集した希土類酸化物が確認された。これは、図5のステップS510において、層状希土類水酸化物を加熱する際、粉末状の層状希土類水酸化物が互いに凝集して擬似相転移し、そのような凝集し、擬似相転移した希土類酸化物蛍光体の水への分散性が低いためと考えられる。したがって、要求される膜質に応じて、適宜、製造方法を選択することが望ましい。例えば、高品質の膜質が要求される用途には、図14〜図16を参照して説明した方法(層状希土類水酸化物を薄膜化し、その後希土類酸化物へ擬似相転移を行う方法)が好ましい。
図37は、実施例3のGd2O3:Eu0.05膜の励起・発光スペクトルを示すグラフである。
図37に示されるように、実施例3のGd2O3:Eu0.05膜も、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)(例えば、図31)と同様に、紫外線励起により赤色発光した。
以上、図35〜図37より、図10〜図13に示す方法(希土類酸化物蛍光体を薄膜化する方法)の有効性が示された。さらに、実施例2の結果とあわせれば、図5および図10〜図13に示す方法(層状希土類水酸化物を擬似相転移し、擬似相転移された希土類酸化物蛍光体を薄膜化する方法)の有効性が示された。
比較例1
次に、本発明の希土類酸化物蛍光体および蛍光体薄膜の発光材料としての有効性を確認するため、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)と、実施例2のGd2O3:Eu0.05粉末と、比較例1として、実施例1のGdEu0.05水酸化物粉末と、比較例1として、実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜との発光特性を比較した。なお、GdEu0.05水酸化物粉末のPLスペクトル測定は、400Vで行った。結果を図38〜図40に示す。
図38は、比較例1のGdEu0.05水酸化物粉末の励起・発光スペクトルを示すグラフである。
図39は、比較例1のGdEu0.05水酸化物薄膜の励起・発光スペクトルを示すグラフである。
図40は、比較例1のGdEu0.05水酸化物薄膜の発光の様子を示す写真である。
図31〜図32(実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)の励起・発光スペクトル)と、図34(実施例2のGd2O3:Eu0.05粉末の励起・発光スペクトル)と、図38〜図40とを比較し、詳述する。各発光スペクトルから、発光強度および増強率Renを求めた。結果を表2に示す。
表2において、増強率Renは、Ren=IOXIDE−max/IHydro−maxで定義される。IOXIDE−maxおよびIHydro−maxは、それぞれ、励起波長224nmで励起されたGd2O3:Eu0.05粉末またはGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)の発光強度の最大値、および、励起波長273nmで励起されたGdEu0.05水酸化物粉末またはGdEu0.05水酸化物薄膜の発光強度の最大値である。
図31〜図32、図39〜図40および表2を参照し、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)と、比較例1のGdEu0.05水酸化物薄膜との発光特性を比較した。
表2によれば、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)の発光強度の最大値は、GdEu0.05水酸化物薄膜のそれの527倍であることが分かった。このことは、加熱による擬似相転移によって、薄膜の発光特性が著しく増大することを示す。図32と図40とを比較すると、この差は目視にて確認できる。図40では、GdEu0.05水酸化物薄膜の発光を目視ではほとんど確認できなかった。
このような擬似相転移に伴う発光強度の増大は、GdEu0.05水酸化物におけるホスト層内に位置するOH基および水分子、ならびに、中間層の除去に起因する。これら、OH基、水分子および中間層は、OH振動へエネルギー移動を行い、無放射失活する。その結果、発光強度が低減する(例えば、非特許文献6を参照。)。
図31と図34とを参照し、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)と、実施例2のGd2O3:Eu0.05粉末とを比較した。図31を参照して上述したように、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)におけるホスト励起バンド(励起波長224nmによる発光)の発光強度は、電荷移動バンド(励起波長248nmによる発光)のそれの3.8倍であった。しかしながら、図34によれば、Gd2O3:Eu0.05粉末におけるホスト励起バンドの発光強度は、電荷移動バンドのそれよりも低かった。
再度表2を参照すると、GdEu0.05水酸化物粉末からGd2O3:Eu0.05粉末への発光強度の増加率は、GdEu0.05水酸化物薄膜からGd2O3:Eu0.05薄膜へのそれよりもはるかに小さい。このことは、薄膜、詳細には、[111]優先配向した配向膜が、粉末よりもより顕著に発光特性を発現できることを示唆する。
以上より、本発明による蛍光体薄膜は、優先配向しており、基材に対して特定の面(例えば、ホストであるRE2O3が立方晶の場合には、(222)面)が平行に位置する。これにより、配向がランダムな希土類酸化物蛍光体に比べて、本発明による蛍光体薄膜は、励起エネルギーの吸収を促進させ、ホストであるRE2O3から発光中心であるM3+へのエネルギー移動を効率的に行うことができる。また、粉末に比べて、薄膜の表面は平坦であるため、紫外線などの励起エネルギーの散乱が少なく、励起エネルギーの吸収効率がよい。したがって、本発明による蛍光体薄膜は、同じ材料からなる希土類酸化物蛍光体よりも発光特性に優れた発光材料であることが分かった。要求される発光特性および試料の様態に応じて、本発明の希土類酸化物蛍光体および蛍光体薄膜の使い分けが可能である。
実施例4では、本発明の蛍光体薄膜における式(RE,M)2O3において、REとしてGdを、MとしてEuを採用し、擬似相転移のための加熱温度を800℃に固定し、GdとEuとの固溶比を変化させ、発光特性のEu固溶量依存性を調べた。
実施例1と同様に、各固溶比の出発材料を合成した。合成した出発材料をGdEuα水酸化物粉末と称する。ここでαは、Gdサイトに固溶するEuの割合を示し、0.01、0.05、0.07、0.1、0.2および0.3と変化させた。α=0.05は、実施例1のGdEu0.05水酸化物粉末と同一である。
実施例4のGdEuα水酸化物粉末についてXRD回折を行い、目的とする層状希土類水酸化物であることを確認した。結果を図41に示す。さらに、GdEu0.1水酸化物粉末およびGdEu0.3水酸化物粉末について化学分析を行った。結果を表3に示す。
図41は、実施例3のGdEuα水酸化物粉末のXRDパターンを示すグラフである。
図41から、いずれのGdEuα水酸化物粉末も単純斜方格子であり、目的とする層状希土類水酸化物であることが分かった。図示しないが、GdEu0.01水酸化物粉末についても同様のXRDパターンが得られた。さらに、いずれのGdEuα水酸化物粉末の回折パターンも、第二相の異相を示すピークを示さなかった。このことは、REがGdであり、MがEuである層状希土類水酸化物において、すべての固溶比においてGdとEuとが固溶していることが示唆される。また、αが増大するにつれて、すなわち、Euの固溶量が増大するにつれて、回折ピークが低角度側にシフトした(例えば、001ピーク参照)。これは、層状希土類水酸化物のREサイトが固溶状態になることによって、格子定数が変化したことを示唆する。なお、格子定数の変化がVegard則にしたがっていることを確認した。
表3には、各元素の化学分析の結果、および、その値から算出される各GdEuα水酸化物粉末(α=0.05、0.1、0.3)の組成式を示す。表3に示されるように、RE(ここではGd)およびM(ここではEu)の固溶比は、仕込み組成に一致し、目的の固溶比が達成されたことを確認した。なお、組成式に示される炭酸イオンは、上述したとおりである。
次に、実施例1と同様に、GdEuα水酸化物粉末を薄膜化し、配向膜を得た。得られた配向膜をGdEuα水酸化物薄膜と称する。実施例4のGdEuα水酸化物薄膜についてSEMによる観察を行った。結果を図42に示す。
図42は、実施例3のGdEuα水酸化物薄膜のSEM像を示す写真である。
図42(A)〜(D)は、それぞれ、GdEuα水酸化物薄膜(α=0.05、0.1、0.2、0.3)である。図42によれば、GdEuα水酸化物薄膜は、いずれも、板状結晶のGdEuα水酸化物がほぼ重なることなく、均一に配列して構成されている様子が分かる。また、GdEuα水酸化物薄膜は、固溶量に依存することなく同様のモルフォロジを示した。このことは、種々の固溶量の蛍光体薄膜を設計する際に、モルフォロジの影響を考慮する必要がないので、有利である。なお、GdEu0.01水酸化物薄膜についても同様のモルフォロジを確認した(図示せず)。
次いで、GdEuα水酸化物薄膜を、800℃の温度で2時間、大気中加熱し、(Gd,Eu)2O3の希土類酸化物蛍光体へ擬似相転移させ、実施例4の蛍光体薄膜を得た。加熱温度への昇温速度は、実施例1と同様に、10℃/分であった。
このようにして得られた各蛍光体薄膜をGd2O3:Euα膜(1)(800)と称する。Gd2O3:Euα膜(1)(800)についてPLスペクトル測定を行った。測定は、実施例1と同様に、モニタリング波長613nmおよび励起波長224nmで行った。結果を図43および図44に示す。以上、実施例4における実験条件を表4にまとめる。
図43は、実施例4のGd2O3:Euα膜(1)(800)の励起スペクトルを示すグラフである。
図44は、図43の発光スペクトルを示すグラフである。
図43によれば、励起スペクトルが、GdとEuとの固溶比に依存していることが示される。Gd2O3:Eu0.3膜(1)(800)の励起スペクトルによれば、波長224nmおよび248nmにブロードなピークをわずかながら示すものの、非常に強度が低いことが分かった。波長224nmおよび波長248nmにおけるピークは、Euの固溶量が1mol%(α=0.01)以上20mol%(α=0.2)以下で顕著になり、とりわけ、5mol%(α=0.05)以上10mol%(α=0.1)以下の範囲でシャープになった。
図44によれば、図43と同様に、発光スペクトルが、GdとEuとの固溶比に依存していることが示される。Gd2O3:Euα膜(1)(800)は、いずれも、波長613nmに明瞭な発光ピークを示すが、Euの固溶量が1mol%(α=0.01)以上20mol%(α=0.2)以下で発光ピークの強度は増大し、特に、5mol%(α=0.05)以上10mol%(α=0.1)以下の範囲で、シャープかつ、より高い発光強度の発光ピークが得られた。
以上、実施例4によれば、Gd2O3:Euα膜(1)(800)において、M(ここではEu)が固溶されていれば、本発明の蛍光体薄膜は紫外線励起により可視光を発光する発光材料として有効であるが、好ましくは、Mの固溶量が20mol%以下、より好ましくは、5%mol以上10%mol以下のとき、より高い発光強度を有する発光材料として有利であることが分かった。
実施例5では、本発明の蛍光体薄膜における式(RE,M)2O3において、REとしてGdを、MとしてEuを採用し、GdとEuとの固溶比を95:5に固定し(すなわち、Gd2O3の希土類酸化物のGdサイトにEuを5mol%固溶させ)、擬似相転移のための加熱温度を800℃に固定し、発光特性の膜厚依存性を調べた。
実施例1のGdEu0.05水酸化物粉末を薄膜化し、配向膜を得た。ここで、実施例5では、実施例1における図14のステップS1440を1回〜3回まで変化させた。このようにして得られた配向膜をGdEu0.05(n)水酸化物薄膜と呼ぶ。ここで、添え字(n)は、図14のステップS1440の繰り返しの回数を示す。例えば、GdEu0.05(2)水酸化物薄膜は、図14のステップS1440を2回行った、2層の層状希土類水酸化物薄膜である。
GdEu0.05(n)水酸化物薄膜について、XRD回折およびSEMによる観察を行った。結果を図45および図46に示す。
図45は、実施例5のGdEu0.05(n)水酸化物薄膜のXRDパターンを示すグラフである。
図45に示されるように、GdEu0.05(n)水酸化物薄膜の回折パターンはいずれも、図14のステップS1440を繰り返し、膜厚を変化させても、00lの回折ピークのみを示すc軸配向した配向膜であることが分かった。また、ステップS1440の回数の増加に伴い、回折ピークの強度も増大しており、膜厚が、ステップS1440の回数の増加に伴い増大することを確認した。
図46は、実施例5のGdEu0.05(n)水酸化物薄膜のSEM像を示す写真である。
図46(A)〜(C)は、それぞれ、GdEu0.05(n)水酸化物薄膜(n=1、2、3)である。なお、図46(A)は、図20と同一である。図46(B)および(C)によれば、GdEu0.05(2)水酸化物薄膜およびGdEu0.05(3)水酸化物薄膜は、いずれも、板状結晶の層状希土類水酸化物が積層されて、均一に配列して構成されている様子が分かる。また、そのモルフォロジに大きな変化はなかった。
GdEu0.05(n)水酸化物薄膜を、800℃の温度で2時間、大気中加熱し、(Gd,Eu)2O3の希土類酸化物蛍光体へ擬似相転移させ、実施例5の蛍光体薄膜を得た。各加熱温度への昇温速度は、実施例1と同様に、10℃/分であった。
このようにして得られた各蛍光体薄膜をGd2O3:Eu0.05膜(n)(800)と称する。Gd2O3:Eu0.05膜(n)(800)についてXRD回折、SEMによる観察およびPLスペクトル測定を行った。PLスペクトル測定は、実施例1と同様に、モニタリング波長613nmおよび励起波長224nmで行った。結果を図47〜図50に示す。以上、実施例5における実験条件を表5にまとめる。
図47は、実施例4のGd2O3:Eu0.05膜(n)(800)のXRDパターンを示すグラフである。
図47から、いずれのGd2O3:Eu0.05膜(n)(800)も[111]優先配向していることを確認した。また、膜厚にかかわらず、同一条件(ここでは800℃、2時間)による加熱によって、完全に擬似相転移することが分かった。Gd2O3:Eu0.05膜(n)(800)の回折ピークの強度より、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(800)、Gd2O3:Eu0.05膜(2)(800)、次いでGd2O3:Eu0.05膜(3)(800)の順に膜厚が増大していることを確認した。
図48は、実施例5のGd2O3:Eu0.05膜(n)(800)のSEM像を示す写真である。
図48(A)〜(C)は、それぞれ、Gd2O3:Eu0.05膜(n)(800)(n=1、2、3)である。図48(A)は、図26と同一である。図46と図48とを比較すると、加熱による擬似相転移後も、加熱前のモルフォロジが良好に維持されていることが分かる。このことは、本発明の蛍光体薄膜の膜厚を制御できることを示す。
図49は、実施例4のGd2O3:Eu0.05膜(n)(800)の励起・発光スペクトルを示すグラフである。
図50は、実施例4のGd2O3:Eu0.05膜(n)(800)の発光の様子を示す写真である。
図49によれば、Gd2O3:Eu0.05膜(n)(800)は、いずれも波長613nmの赤色の発光ピークを有し、その発光強度は、膜厚の厚さに依存して変化した。すなわち、最も膜厚の厚いGd2O3:Eu0.05膜(3)(800)の発光強度が最も大きく、最も膜厚の薄いGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)の発光強度が最も小さかった。
図50(A)〜(C)は、それぞれ、Gd2O3:Eu0.05膜(n)(800)(n=1、2、3)の発光の様子である。コントラストが明るく示される領域が、赤色発光に相当し、膜厚に変化に応じて、発光が強くなることを目視にて確認した。
以上より、本発明の蛍光体薄膜の膜厚を制御することによって、発光強度を変化させることができることが分かった。
実施例6では、本発明の蛍光体薄膜における式(RE,M)2O3において、REとしてYを、MとしてEuを採用し、YとEuとの固溶比を95:5に固定し(すなわち、Y2O3の希土類酸化物のYサイトにEuを5mol%固溶させ)、擬似相転移のための加熱温度を800℃に固定し、発光特性のホスト依存性を調べた。
出発材料として、(Y,Eu)(OH)2.5Cl0.5・0.125xH2Oの層状希土類水酸化物を合成した。実施例1において、REの塩として、GdCl3・6H2Oに替えてYCl3・6H2Oを用いた以外は同様の手順で層状希土類水酸化物(YEu0.05水酸化物粉末と称する)を得た。YEu0.05水酸化物粉末についてXRD回折を行った。結果を図51に示す。
図51は、実施例6のYEu0.05水酸化物粉末のXRDパターンを示すグラフである。
図51のXRDパターンの回折ピークは、図18のそれに一致した。このことから、YEu0.05水酸化物粉末は、単純斜方格子であり、目的とする層状希土類水酸化物であることを確認した。また、第二相の異相を示すピークを示さなかった。このことは、REがYであり、MがEuである層状希土類水酸化物において、YとEuとが完全に固溶していることが示唆される。
次に、実施例1と同様に、YEu0.05水酸化物粉末を薄膜化し、配向膜(YEu0.05水酸化物薄膜と称する)を得た。YEu0.05水酸化物薄膜についてSEMによる観察をした。結果を図52に示す。
図52は、実施例6のYEu0.05水酸化物薄膜のSEM像を示す写真である。
図52によれば、図20および図21(実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜を示す)と同様に、板状結晶の層状希土類水酸化物がほぼ重なることなく、均一に配列して構成されている様子を示す。板状結晶の大きさは、長手方向に約4μm、短手方向に約2μmの矩形であり、実施例1のGdEu0.05水酸化物薄膜と同様であった。出発材料の層状希土類水酸化物において、GdとEuとの固溶体であっても、YとEuとの固溶体であっても、モルフォロジに大きな変化がないことを確認した。
YEu0.05水酸化物薄膜を、800℃の温度で2時間、大気中加熱し、(Y,Eu)2O3の希土類酸化物蛍光体へ擬似相転移させ、実施例6の蛍光体薄膜(Y2O3:Eu0.05膜(1)(800))を得た。各加熱温度への昇温速度は、実施例1と同様に、10℃/分であった。
Y2O3:Eu0.05膜(1)(800)について、XRD回折およびPLスペクトル測定を行った。PLスペクトル測定は、モニタリング波長613nmおよび励起波長207nmで行った。結果を図53および図54に示す。
図53は、実施例6のY2O3:Eu0.05膜(1)(800)のXRDパターンを示すグラフである。
図53には参考のため、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)のXRDパターン(図22のeと同一)を併せて示す。Y2O3:Eu0.05膜(1)(800)は、Gd2O3:Eu0.05膜(1)(800)と同様に、[111]優先配向していることを確認した。このことは、REの元素を変化させても、同様の擬似相転移のための加熱条件を採用できるので、材料設計において有利である。
図54は、実施例6のY2O3:Eu0.05膜(1)(800)の励起・発光スペクトルを示すグラフである。
図54には、参考のため、実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)の励起発光スペクトル(図31と同一)を併せて示す。Y2O3:Eu0.05膜(1)(800)の励起スペクトルによれば、波長207nmに最大強度を有するブロードなピークと、波長235nmにショルダーピークとを示した。これらのピークは、それぞれ、Y2O3ホスト励起バンド、および、O2−とY3+との間の電荷移動バンド(CTB)に相当する。Y2O3ホスト励起バンドは、酸素の2p状態からYの伝導帯への電子遷移に起因し、CTBは、4f殻の基底状態からEu−O電荷移動状態への電子遷移に起因する。
Y2O3:Eu0.05膜(1)(800)の発光スペクトルによれば、実施例6のY2O3:Eu0.05膜(1)(800)は、紫外線励起により赤色発光し、この赤色発光はEu3+の典型的な発光であることを確認した。その発光強度は、同様の条件で製造された実施例1のGd2O3:Eu0.05膜(1)(800)のそれに匹敵するか、それ以上であった。このことから、本発明の蛍光体薄膜において、REがYであり、MがEuの場合、赤色発光材料として好適であることを確認した。