JP5462815B2 - 損傷箇所の推定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、外乱を受けた建物または劣化した建物の損傷箇所を推定する方法に関する。
建物の損傷箇所を推定する方法が特許文献1に開示されている。特許文献1の方法は、各階に設置したセンサの出力値を利用して柱や梁の剛度の低減率を算出し、得られた低減率に基づいて損傷箇所を推定する、というものである。
特開2004−264235号公報
特許文献1では、建物の各階にセンサを設置する必要があるところ、供用中の建物の各階にセンサを設置しようとすると、配線作業が煩雑になるだけでなく、執務空間や居室空間の使用状況によってはセンサの設置場所を確保できない場合もある。
このような観点から、本発明は、少ない数のセンサでも建物の層または部材の損傷箇所を推定することができる損傷箇所の推定方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決する請求項1に係る発明は、
(1) 外乱または劣化後の建物の上層階において振動計測を行い、基準点での振動に対する周波数応答関数Gを取得する事後計測ステップ、
(2) 外乱または劣化前に取得した初期周波数応答関数G0の逆数を周波数応答関数Gに乗じて得た関数において、ピーク振動数fpを求める初期設定ステップ、
(3) 前記建物をモデル化したn自由度系の多層構造モデルについて、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}を設定する振動特性仮定ステップ、
(4) 仮1次固有円振動数λS、仮1次固有ベクトル{ΦS}および前記多層構造モデルの質量行列[M0]を非減衰自由振動方程式に代入し、前記多層構造モデルの各層の構造要素について剛性kS,iを算出する剛性算定ステップ、
(5) 剛性kS,iに基づいて作成した剛性行列[KS]および質量行列[M0]に対応する1次固有円振動数ωSと1次固有ベクトル{ΨS}とを算出するモード算定ステップ、
(6) 最大値が定数aとなるように正規化した1次固有ベクトル{ΨS}の成分に基づいて、前記多層構造モデルの各層の層間擬似変位uS,iを求める層間擬似変位算定ステップ、
(7) 剛性kS,iに層間擬似変位uS,iを乗じて層間擬似慣性力QS,iを算出する擬似慣性力算定ステップ、
(8) 外乱もしくは劣化前の剛性k0,iおよび層間擬似変位u0,iに対応する層間擬似慣性力Q0,iの逆数を層間擬似慣性力QS,iに乗じて判定基準値qS,iを算出する判定基準値算定ステップ、
(9) 1を挟んで設定した下限閾値と上限閾値との間に判定基準値qS,iが納まっているか否かを判定する判定ステップ、
を含み、上記(3)〜(9)を複数回繰り返すことにより、建物に生じた損傷箇所を推定する方法であって、
(A) 1回目の前記振動特性仮定ステップでは、ピーク振動数fpに2πを乗じた値を仮1次固有円振動数λ1とし、最大値が定数aとなるように正規化した仮モードベクトル{Φ0}を仮1次固有ベクトル{Φ1}とし、
(B) 2回目以降の前記振動特性仮定ステップでは、前回のモード算定ステップで算出した1次固有円振動数ωS-1および1次固有ベクトル{ΨS-1}を、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}とし、
(C) 2回目以降の前記判定基準値算定ステップでは、前回の判定基準値算定ステップで算出した総ての判定基準値qS-1,iについて、判定基準値qS-1,iが前記下限閾値と前記上限閾値との間に納まっているか否かを判定し、納まっていないと判定された判定基準値qS-1,iが存在する場合には、当該判定基準値qS-1,iに対応する層の今回の層間擬似慣性力QS,iに、前記層間擬似慣性力Q0,iの逆数と2πfp/ωSとを乗じることで、当該層における今回の判定基準値qS,iを算出し、
(D) S回目以降の前記判定ステップにおいて少なくとも2回連続して肯定判定が得られた場合に、S回目以降のいずれかの回の判定基準値算定ステップで算出した判定基準値を照査し、判定基準値が1を下回っている層を損傷箇所とする、という発明である。
なお、仮1次固有円振動数λS、仮1次固有ベクトル{ΦS}、剛性行列[KS]、1次固有円振動数ωS、1次固有ベクトル{ΨS}の添え字は、繰り返しの「回数」に対応している。
また、剛性kS,i、層間擬似変位uS,iおよび層間擬似慣性力QS,iの一つ目の添え字「S」は、繰り返しの「回数」に対応しており、二つ目の添え字「i」はn以下の自然数であり、質点の番号に対応している。
要するに、請求項1に係る発明は、
地震後の1次固有円振動数および1次固有ベクトルを「仮決め」する振動特性仮定ステップ、
非減衰自由振動方程式を利用して、地震後の剛性kS,iを算出する剛性算定ステップ、
剛性行列[KS](地震後の剛性kS,iが反映されたもの)および質量行列[M0]に対応する1次固有ベクトル{ΨS}を固有値解析により算出することで、仮決めした1次固有ベクトルを修正するモード算定ステップ、
1次固有ベクトル{ΨS}に基づいて、層間擬似変位uS,iを算出する層間擬似変位算定ステップ、
地震後の層間擬似慣性力QS,i(=uS,i×kS,i)を算出する擬似慣性力算定ステップ、
判定基準値qS,i(=QS,i/Q0,i)を算出する判定基準値算定ステップ、を含む損傷箇所の推定方法であって、判定基準値qS,iが所定の条件を満たすまで前記各ステップを複数回繰り返した後、条件を満たした判定基準値qS,iを照査することにより、損傷箇所を推定する、というものである。
また、請求項2に係る発明は、上記(6)〜(9)に代えて、
(10) 外乱もしくは劣化前の剛性k0,iの逆数を剛性kS,iに乗じて判定基準値rS,iを算出する判定基準値算定ステップ、
(11) 1を挟んで設定した下限閾値と上限閾値との間に判定基準値rS,iが納まっているか否かを判定する判定ステップ、を含み、
上記(3)〜(5)、(10)および(11)を複数回繰り返すことにより、建物に生じた損傷箇所を推定する方法であって、
(A) 1回目の前記振動特性仮定ステップでは、ピーク振動数fpに2πを乗じた値を仮1次固有円振動数λ1とし、最大値が定数aとなるように正規化した仮モードベクトル{Φ0}を仮1次固有ベクトル{Φ1}とし、
(B) 2回目以降の前記振動特性仮定ステップでは、前回のモード算定ステップで算出した1次固有円振動数ωS-1および1次固有ベクトル{ΨS-1}を、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}とし、
(C´) 2回目以降の前記判定基準値算定ステップでは、前回の判定基準値算定ステップで算出した総ての判定基準値rS-1,iについて、前記下限閾値と前記上限閾値との間に納まっているか否かを判定し、納まっていないと判定された判定基準値rS-1,iが存在する場合には、当該判定基準値rS-1,iに対応する層の今回の剛性kS,iに、前記剛性k0,iの逆数と2πfp/ωSとを乗じることで、当該層における今回の判定基準値rS,iを算出し、
(D´) S回目以降の前記判定ステップにおいて少なくとも2回連続して肯定判定が得られた場合に、S回目以降のいずれかの回の判定基準値算定ステップで算出した判定基準値を照査し、判定基準値が1を下回っている層を損傷箇所とする、という発明である。
また、請求項3に係る発明は、
(1´) 外乱または劣化後の建物の上層階において振動計測を行い、基準点での振動に対する周波数応答関数Gを取得する事後計測ステップ、
(2´) 外乱または劣化前に取得した初期周波数応答関数G0の逆数を周波数応答関数Gに乗じて得た関数において、ピーク振動数fpを求める初期設定ステップ、
(3´) 前記建物をモデル化したn自由度系の多層構造モデルについて、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}を設定する振動特性仮定ステップ、
(4´) 前記多層構造モデルの各層の構造要素について剛性kS,iを算出する剛性算定ステップ、
(5´) 剛性kS,iに基づいて作成した剛性行列[KS]および質量行列[M0]に対応する1次固有円振動数ωSと1次固有ベクトル{ΨS}とを算出するモード算定ステップ、
(6´) ピーク振動数fpに2πを乗じた値に対する1次固有円振動数ωSの相対誤差を算出し、当該相対誤差が収束判定値以下であるか否かを判定する判定ステップ、
(7´) 最大値が定数aとなるように正規化した1次固有ベクトル{ΨS}の成分に基づいて、前記多層構造モデルの各層の層間擬似変位uS,iを求める層間擬似変位算定ステップ、
(8´) 外乱もしくは劣化前の層間擬似変位u0,iの逆数を層間擬似変位uS,iに乗じて判定基準値μS,iを算出する判定基準値算定ステップ、
を含み、上記(3´)〜(6´)を複数回繰り返すことにより、建物に生じた損傷箇所を推定する方法であって、
(A´) 1回目の前記振動特性仮定ステップでは、ピーク振動数fpに2πを乗じた値を仮1次固有円振動数λ1とし、最大値が定数aとなるように正規化した仮モードベクトル{Φ0}を仮1次固有ベクトル{Φ1}とし、
(B´) 2回目以降の前記振動特性仮定ステップでは、前回のモード算定ステップで算出した1次固有円振動数ωS-1および1次固有ベクトル{ΨS-1}を、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}とし、
(C´) 1回目の前記剛性算定ステップでは、仮1次固有円振動数λ1、仮1次固有ベクトル{Φ1}および前記多層構造モデルの質量行列[M0]を非減衰自由振動方程式に代入することにより剛性k1,iを算出し、
(D´) 2回目以降の前記剛性算定ステップでは、前回の剛性算定ステップで算出した剛性kS-1,iに初期の剛性k0,iの逆数を乗じて得た剛性比κS,iが閾値dSより小さい場合には、前回の剛性算定ステップで算出した剛性kS-1,iを今回の剛性kS,iとし、前記剛性比κS,iが前記閾値dS以上である場合には、前回の剛性算定ステップで算出した剛性kS-1,iに1未満の値である調整係数CSを乗じて得た値を今回の剛性kS,iとし、
(E´) S回目の判定ステップにおいて肯定判定が得られた場合に、層間擬似変位算定ステップ(7´)および判定基準値算定ステップ(8´)を行い、判定基準値μS,iが1を上回っている層を損傷箇所とする、という発明である。
なお、上記(1´)〜(3´)、(5´)、(7´)、(A´)および(B´)の内容は、それぞれ、上記(1)〜(3)、(5)、(6)、(A)および(B)と同一である。
ここで仮1次固有円振動数λS、仮1次固有ベクトル{ΦS}、剛性行列[KS]、1次固有円振動数ωS、1次固有ベクトル{ΨS}、調整係数CS、閾値dkの添え字は、繰り返しの「回数」に対応している。
また、剛性kS,i、剛性比κS,i、層間擬似変位uS,i、判定基準値μS,iの一つ目の添え字は、繰り返しの「回数」に対応しており、二つ目の添え字は、質点の番号(n以下の自然数)に対応している。
上記(D´)の「閾値dS」は、定数としてもよいが、少なくとも一つの層において前記剛性比κS,iが1より大きい場合には、前記剛性比κS,iの最大値と1との相加平均値を前記閾値dSとし、総ての層において前記剛性比κS,iが1以下である場合には、前記剛性比κS,iの最大値を前記閾値dSとすることが望ましい。なお、「剛性比κS,iの最大値」とは、「n個の剛性比κS,1、κS,2、…κS,nのうちの最も大きい値」のことである。
また、上記(D´)の「調整係数CS」は、定数としてもよいが、ピーク振動数fpに2πと1次固有円振動数ωS-1の逆数とを乗じて得た値とすることが望ましい。このようにすると、肯定判定が得られるまでの回数を少なくすることができる。
本発明によれば、外乱(例えば地震や強風など)または劣化後の建物に対して実施する振動計測の点数を少なくしながらも、損傷箇所を推定することができる。すなわち、本発明では、少なくとも建物の上層階(例えば、屋上)および基準点(例えば、1階床面上や建物周辺の地面など)において振動計測を実施すればよいので、建物の各階に多数のセンサを設置する必要がない。
本発明によれば、外乱または劣化後の建物に対して実施する振動計測の点数を少なくしながらも、損傷箇所を推定することができる。
(a)は推定対象に係る建物の模式図、(b)はn自由度系の多層構造モデルの模式図である。 本発明の第一の実施形態に係る損傷箇所の推定方法の手順を説明するためのフローチャートである。 図2中の推定実行過程の手順を説明するためのフローチャートである。 (a)は地震前入力スペクトル、(b)は地震前応答スペクトル、(c)は地震後入力スペクトル、(d)は地震後応答スペクトル 周波数応答関数を初期周波数応答関数で除算して得た関数である。 地震前の1次固有ベクトル、仮モードベクトル(1回目の仮1次固有ベクトル)および2回目以降の仮1次固有ベクトルに対応する振動モードを示す図である。 (a)〜(f)は、判定基準値の変遷を示すグラフである。 本発明の第二の実施形態に係る損傷箇所の推定方法の手順を説明するためのフローチャートである。 図8中の推定実行過程の手順を説明するためのフローチャートである。 推定実行過程(S=1〜5)における計算過程を説明するための表である。 推定実行過程(S=5〜8)における計算過程を説明するための表である。
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態に係る損傷箇所の推定方法は、図1の(a)に示すように、建物Tの上層階(本実施形態では屋上)および基準点(本実施形態では建物Tの1階床)において振動計測を行うとともに、図1の(b)に示すように、建物Tをn自由度系の多層構造モデルAにモデル化し、非減衰自由振動方程式を利用することにより、外乱または劣化後の損傷箇所を推定する、というものである。
n自由度系の非減衰自由振動方程式の一般式は、式1に示すとおりである。式1の変位解が位相差の無い調和振動であると仮定すると(式2参照)、式3のように変形することができる。
Figure 0005462815
Figure 0005462815
Figure 0005462815
本実施形態では、五階建ての建物Tを対象とし、建物Tを損傷させ得る規模の大地震(外乱)が発生した場合を想定する。多層構造モデルAは、五階建ての建物Tに対応した5自由度系のせん断型モデルであり、5つの質点a1〜a5と、5つの構造要素(せん断ばね)b1〜b5とを備えている。質点a1〜a5の質量m1〜m5および構造要素b1〜b5の初期の剛性k0,1〜k0,5は、設計図面等から算出することができる(既知の値である。)。
本実施形態では、「せん断型モデル」を例示するが、構造要素の種類を限定する趣旨ではない。建物Tの構造形式等に応じて、「曲げせん断型モデル」としても差し支えない。
多層構造モデルAの質量行列[M0]は、式4に示すとおりである。質量行列[M0]は、地震の前後で不変である。また、地震前における多層構造モデルAの剛性行列[K0]は、式5に示すとおりである。
Figure 0005462815
Figure 0005462815
本実施形態に係る損傷箇所の推定方法には、図2に示すように、地震発生前の適宜なタイミングに行われる初期振動特性取得過程1と、地震発生後に行われる推定準備過程2および推定実行過程3とが含まれている。
初期振動特性取得過程1は、地震を受けていない建物Tの振動特性(初期振動特性)を取得する目的で行われるものである。初期振動特性取得過程1には、センサ設置ステップ11と、初期計測ステップ12とが含まれている。
センサ設置ステップ11は、振動に相関する物理量(例えば、変位、速度、加速度、レーザードプラー振動計等から出力される電圧など)を取得するセンサ101,102を建物Tの上下二箇所に設置するステップである。本実施形態のセンサは、加速度センサであり、建物Tの1階床および屋上スラブに設置する。なお、センサ101,102は、建物Tの共用部に設置することが望ましい。
事前計測ステップ12は、地震前の建物Tの上下二箇所において振動計測を行い、初期周波数応答関数G0を取得するステップである。事前計測ステップ12では、まず、建物Tに入力された振動(例えば、起振機による振動、小規模地震、常時微動など)をセンサ101,102で計測する。取得した加速度時刻歴データは、図示せぬ記憶装置に一旦格納する。次に、記憶装置から読み出した加速度時刻歴データに対してフーリエ変換を実施し、センサ101に対応するフーリエスペクトル(以下、「地震前入力スペクトル」という。)およびセンサ102に対応するフーリエスペクトル(以下、地震前応答スペクトル)という。)を算出するとともに(図4の(a)および(b)参照)、「地震前応答スペクトル」を「地震前入力スペクトル」で除して、初期周波数応答関数G0を算出する。初期周波数応答関数G0は、記憶装置に格納しておく。なお、初期周波数応答関数G0は、地震前における建物Tの振動特性を反映したものとなる。
推定準備過程2は、地震を受けた建物Tの振動特性を取得する目的で行われるものである。推定準備過程2には、事後計測ステップ21と、初期設定ステップ22とが含まれている。
事後計測ステップ21は、地震後の建物Tの上下二箇所において振動計測を行い、周波数応答関数Gを取得するステップである。事後計測ステップ21では、まず、建物Tに入力された振動(例えば、起振機による振動、余震、常時微動など)をセンサ101,102で計測する。取得した加速度時刻歴データは、図示せぬ記憶装置に一旦格納する。次に、記憶装置から読み出した加速度時刻歴データに対してフーリエ変換を実施し、センサ101に対応するフーリエスペクトル(以下、「地震後入力スペクトル」という。)およびセンサ102に対応するフーリエスペクトル(以下、地震後応答スペクトル)という。)を算出するとともに(図4の(c)および(d)参照)、「地震後応答スペクトル」を「地震後入力スペクトル」で除して、周波数応答関数Gを算出する。周波数応答関数Gは、記憶装置に格納しておく。なお、周波数応答関数Gは、地震後における建物Tの振動特性を反映したものとなる。
初期設定ステップ22では、初期周波数応答関数G0の逆数を周波数応答関数Gに乗じて得た関数(=G/G0;図5参照)において、ピーク振動数fpを求めるステップである。ピーク振動数fpは、「地震後応答スペクトル」のピーク振動数(応答倍率が最大となる振動数)よりも低い振動数領域で選定する(図5では、fp=6.77Hz)。なお、図5では、6Hzもピーク振動数fpの候補となり得るが、図4の(b),(d)においては「6Hz」にピークが生じていないので、図4の(b),(d)においてもピークが生じている「6.77Hz」をピーク振動数fpとして選定する。
推定実行過程3は、損傷箇所を特定する目的で行われるものであり、複数回繰り返される。推定実行過程3には、図3に示すように、振動特性仮定ステップ31と、剛性算定ステップ32と、モード算定ステップ33と、層間擬似変位算定ステップ34と、擬似慣性力算定ステップ35と、判定基準値算定ステップ36と、判定ステップ37と、連続回数確認ステップ38と、推定ステップ39とが含まれている。
振動特性仮定ステップ31は、多層構造モデルAについて、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}を設定するステップである。仮1次固有ベクトル{ΦS}は、式6に示すとおりである。仮1次固有ベクトル{ΦS}は、最大値が定数aとなるように正規化されている。
ここで、仮1次固有円振動数λS、仮1次固有ベクトル{ΦS}の添え字は、推定実行過程3の実行回数に対応している。また、仮1次固有ベクトル{ΦS}の成分φS,1〜φS,5に付した添え字「1」〜「5」は、質点a1〜a5に対応している。
Figure 0005462815
上述したとおり、推定実行過程3は、複数回繰り返して実行されるが、1回目(S=1)の振動特性仮定ステップ31では、初期設定ステップ22で求めたピーク振動数fpに2πを乗じた値を仮1次固有円振動数λ1(=2πfp)とし、最大値が定数aとなるように正規化した仮モードベクトル{Φ0}を仮1次固有ベクトル{Φ1}とする。
仮モードベクトル{Φ0}は、地震後の多層構造モデルA(すなわち、損傷箇所を有する多層構造モデルA)の仮の振動モードであり、例えば、各質点の擬似変位(ベクトルの成分)が下から順に増大するように設定する。本実施形態では、図6および式7に示すように、総ての成分が正の値であり、かつ、各質点の擬似変位が下から順にa/nずつ増大するように仮モードベクトル{Φ0}を設定する。なお、式7では、a=1とし、各質点の擬似変位が下から順に0.2ずつ増大するように仮モードベクトル{Φ0}を設定している。
Figure 0005462815
2回目以降の振動特性仮定ステップ31では、前回(S−1回目)のモード算定ステップ33で算出した1次固有円振動数ωS-1および1次固有ベクトル{ΨS-1}を、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}とする。モード算定ステップ33の詳細については、後述する。
剛性算定ステップ32は、仮1次固有円振動数λS、仮1次固有ベクトル{ΦS}および質量行列[M0]を非減衰自由振動方程式(式3)に代入し、地震後の構造要素b1〜b5について剛性kS,i(i=1〜5)を算出するステップである。剛性kS,iに基づいて多層構造モデルAの地震後の剛性行列[KS]を表現すると、式8のとおりになる。式3において、[M]=[M0]、[K]=[KS]、{X}={ΦS}、Ω=λSとすると、式9のようになり、式9の左辺と右辺において行列の積を求めると、式10に示す方程式を得ることができる。
ここで、剛性行列[KS]の添え字は、推定実行過程3の実行回数に対応している。また、剛性kS,iの一つ目の添え字は、推定実行過程3の実行回数に対応し、二つ目の添え字は、構造要素b1〜b5の番号に対応している。
Figure 0005462815
Figure 0005462815
Figure 0005462815
ここで、質量m1〜m5は、建物Tの仕様等に基づいて設定された既知の値であり、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}の成分φS,1〜φS,5は、振動特性仮定ステップ31で設定された既知の値であるから、式10の(ア)にm5、λS、φS,4およびφS,5を代入することにより、構造要素b5の剛性kS,5が求まる。剛性kS,5が求まれば、式10の(イ)の未知数は、構造要素b4の剛性kS,4のみとなるから、式10の(イ)にm4、λS、φS,3〜φS,5およびkS,5を代入することにより、剛性kS,4が求まり、以下同様に、(ウ)にm3、λS、φS,2〜φS,4およびkS,4を代入すると構造要素b3の剛性kS,3が求まり、(エ)にm2、λS、φS,1〜φS,3および剛性kS,3を代入すると構造要素b2の剛性kS,2が求まり、(オ)にm1、λS、φS,1およびkS,2を代入すると構造要素b1の剛性kS,1が求まる。
モード算定ステップ33は、剛性行列[KS]および質量行列[M0]に対応する1次固有円振動数ωSと1次固有ベクトル{ΨS}とを算出するステップである。なお、1次固有円振動数ωSおよび1次固有ベクトル{ΨS}の添え字は、推定実行過程3の実行回数に対応している。
剛性算定ステップ32により、式8の剛性行列[KS]は既知となっているから、式11の係数行列式を固有円振動数ΩSについて展開し、得られた特性方程式(振動数方程式)を解けば、固有円振動数ΩS(固有値ΩS 2)を求めることができる。
Figure 0005462815
なお、n自由度系の多層構造モデルAでは、式11を満たす固有円振動数ΩSがn個存在しているが、そのうちの最も低次の固有円振動数ΩSを「1次固有円振動数ωS」とする。「1次固有ベクトル{ΨS}」は、1次固有円振動数ωSに対応する固有ベクトルである。1次固有ベクトル{ΨS}の成分ψS,i(i=1〜5)は、最大値が定数aとなるように正規化する。
1次固有円振動数ωSが算出されたならば、初期設定ステップ22で求めたピーク振動数fpに2πを乗じて得た値(=仮1次固有円振動数λ1)と比較し、2πfp≠ωSであったならば、2πfpをωSで除し、補正係数cs(=2πfp/ωS)を算出する。
層間擬似変位算定ステップ34は、最大値が定数aとなるように正規化した1次固有ベクトル{ΨS}の成分ψS,iに基づいて、多層構造モデルAの各層の層間擬似変位uS,i(=ψS,i−ψS,i-1)を求めるステップである。層間擬似変位uS,iの一つ目の添え字は、推定実行過程3の実行回数に対応し、二つ目の添え字は、層の番号(構造要素b1〜b5の番号)に対応している。層間擬似変位uS,5〜uS,1は、それぞれ式12の(カ)〜(コ)により算出する。
Figure 0005462815
擬似慣性力算定ステップ35は、剛性kS,iに層間擬似変位uS,iを乗じて層間擬似慣性力QS,i(=kS,i・uS,i)を算出するステップである。層間擬似慣性力QS,5〜QS,1は、それぞれ式13の(サ)〜(ソ)により算出する。
Figure 0005462815
判定基準値算定ステップ36は、地震前の剛性k0,iおよび層間擬似変位u0,iに対応する層間擬似慣性力Q0,iの逆数を層間擬似慣性力QS,iに乗じて判定基準値qS,i(=QS,i/Q0,i)を算出するステップである。判定基準値qS,5〜qS,1は、それぞれ式14の(タ)〜(ト)により算出する。
Figure 0005462815
地震前の層間擬似慣性力Q0,iは、地震前の剛性k0,iに、地震前の多層構造モデルAにおける層間擬似変位u0,iを乗じることにより算出することができる(式15の(ナ)〜(ノ)参照)。なお、層間擬似変位u0,iは、最大値が定数aとなるように正規化した「地震前の1次固有ベクトル{X0}」の成分X0,iに基づいて算出し、「地震前の1次固有ベクトル{X0}」は、質量行列[M0](式4参照)および地震前の剛性行列[K0](式5参照)から算出する。「地震前の1次固有ベクトル{X0}」は、図6に示すとおりである。
Figure 0005462815
なお、S回目(2回目以降)の判定基準値算定ステップ36では、前回(S−1回目)の判定基準値算定ステップ36で算出した判定基準値qS-1,5〜qS-1,1のそれぞれについて、後記する下限閾値αと上限閾値βとの間に納まっているか否かを判定し、納まっていないと判定された判定基準値qS-1,iが存在する場合には、当該判定基準値qS-1,iに対応する層の今回(S回目)の層間擬似慣性力QS,iに、「地震前の層間擬似慣性力Q0,iの逆数」と「補正係数cs(=2πfp/ωS)」とを乗じることで、当該層における今回(S回目)の判定基準値qS,iを算出する。補正係数csを乗じる場合の判定基準値qS,iの算定式は、式16のとおりとなる。式16から明らかなように、層間擬似慣性力QS,iに補正係数csを乗じることは、計算値(1次固有円振動数ωS)と実測値(ピーク振動数fp)とに基づいて、剛性kS,iを補正することと同義である。
Figure 0005462815
判定ステップ37は、1を挟んで設定した下限閾値αと上限閾値βとの間に判定基準値qS,iが納まっているか否かを判定するステップである。
本実施形態に係る剛性低下箇所の推定方法では、地震後の基準振動モード(1次固有ベクトル)が図6の「仮モードベクトル」に示す分布になっていると仮定し、当該仮定に基づいて剛性kS,iや1次固有ベクトル{ΨS}を算出しているので、剛性kS,iや1次固有ベクトル{ΨS}が、実際には有り得ないような極端な値になっている場合がある。下限閾値αおよび上限閾値βは、「極端な値」を排除するために設けられた基準値であり、本実施形態では、β=2とし、α=0.2としている。
なお、振幅の小さい振動(常時微動や小規模地震など)に基づいて、建物Tの剛性を評価すると、非構造部材の影響などにより、実際の剛性よりも高く評価される場合がある。本実施形態においては、振幅の小さい振動を計測しているので、実際の剛性よりも高い剛性が算出される場合がある(すなわち、判定基準値qS,iが1を下回る場合がある)。下限閾値αを1に近づけておけば、前記した影響などを排除することができるが、下限閾値αを1に近づけ過ぎると、「肯定判定」が得られない虞があるので、下限閾値αは、入力地震動の大きさ等を考慮しつつ、0.1〜0.8の範囲で適宜設定することが望ましい。
上限閾値βは、終局時や降伏時の剛性などを考慮しつつ設定すればよい。なお、上限閾値βを1から遠ざけ過ぎると、剛性kS,iの値が妥当なものでない場合においても「肯定判定」が得られてしまう虞があるので、上限閾値βは、1.5〜2.5の範囲で適宜設定することが望ましい。
判定ステップ37において、総ての判定基準値qS,5〜qS,1の少なくとも一つが、下限閾値αを下回っている場合(qS,i<α)、あるいは、上限閾値βを上回っている場合(β<qS,i)には、「否定判定(No)」となる。否定判定となった場合には、振動特性仮定ステップ31に戻り、総ての判定基準値qS,5〜qS,1が下限閾値αと上限閾値βとの間に納まるまで、推定実行過程3を繰り返し実行する。
判定ステップ37において、「肯定判定(Yes)」が得られた場合には、連続回数確認ステップ38に進む。連続回数確認ステップ38では、判定ステップ37の判定結果が2回連続して「肯定判定」であったか否かを判定する。連続回数確認ステップ38において「No」と判定された場合は、解の収束を確認するために、振動特性仮定ステップ31に戻り、推定実行過程3を行う。なお、本実施形態では、「肯定判定」の連続回数を「2回」としたが、3回以上に設定しても差し支えない。
連続回数確認ステップ38において「Yes」と判定された場合には、推定ステップ39に進む。すなわち、例えば、S回目と(S+1)回目の判定ステップ37において、「肯定判定(Yes)」が得られた場合(S回目以降の判定ステップ37において2回連続して「肯定判定」が得られた場合)には、推定ステップ39に進む。
推定ステップ39では、判定基準値算定ステップ36で算出した判定基準値qS,iを照査し、判定基準値qS,iが1を下回っている層を「損傷箇所」と推定する。S回目以降の判定ステップ37において2回連続して肯定判定が得られた場合、推定ステップ39では、S回目の判定基準値算定ステップ36で算出した判定基準値qS,iを照査する。なお、(S+1)回目の判定基準値算定ステップ36で算出した判定基準値qS+1,iを照査しても勿論差し支えない。
図7の(a)〜(f)を参照して、推定実行過程3のフローの一例を説明する。図7の(a)は、1回目(S=1)の推定実行過程3で得られた判定基準値q1,5〜q1,1の分布を示すグラフであり、図7の(b)は、2回目(S=2)の推定実行過程3で得られた判定基準値q2,5〜q2,1の分布を示すグラフである。同様に、図7の(c)〜(f)は、3〜6回目の推定実行過程3で得られた判定基準値qS,5〜qS,1(S=3〜6)の分布を示すグラフである。
1回目の推定実行過程3では、図7の(a)に示すように、総ての判定基準値q1,5〜q1,1が下限閾値α(=0.2)と上限閾値β(=2.0)との間に納まっているので、判定ステップ37における判定結果は「肯定判定」となるが、続く連続回数確認ステップ38では、「No」と判定されることになるので、2回目の推定実行過程が行われることになる。なお、2回目の推定実行過程の判定基準値算定ステップ36では、前回(1回目)の判定基準値算定ステップ36で算出した判定基準値q1,5〜q1,1の総てが下限閾値αと上限閾値βとの間に納まっているので、今回(2回目)の判定基準値q2,5〜q2,1を算出する際には、式14の(タ)〜(ト)を使用し、補正係数c2(=2πfp/ω2)を乗じる必要はない。図7の(b)に示すように、2回目の推定実行過程3では、第5層の判定基準値q2,5が上限閾値βを超えているので、判定ステップ37における判定結果は「否定判定」となる。このケースでは、3回目の推定実行過程3が実行される。
2回目(前回)の判定基準値算定ステップ36で算出した第5層の判定基準値q2,5が下限閾値αと上限閾値βとの間に納まっていないので、3回目(今回)の推定実行過程の判定基準値算定ステップ36では、第5層(判定基準値q2,5に対応する層)における今回の判定基準値q3,5を算出するに際しては、第5層の今回の層間擬似慣性力Q3,5に、「地震前の層間擬似慣性力Q0,5の逆数」と「補正係数c3(=2πfp/ω3)」とを乗じることで、第5層における今回の判定基準値q3,5を算出する(式16参照)。すなわち、第1〜4層の判定基準値q3,1〜q3,4を算出する際には、式14(チ)〜(ト)を使用し、第5層の判定基準値q3,5を算出する場合には、式14の(タ)に代えて式16を使用する。而して、3回目の推定実行過程3では、図7の(c)に示すように、総ての判定基準値q3,5〜q3,1が下限閾値αと上限閾値βとの間に納まっているので、判定ステップ37における判定結果は「肯定判定」となるが、続く連続回数確認ステップ38では、「No」と判定されることになるので、4回目の推定実行過程が行われることになる。なお、4回目の判定基準値q4,iを算出するに際しては、補正係数c4(=2πfp/ω4)を乗じる必要はない(すなわち、判定基準値q4,5〜q4,1は、式14により算出する)。図7の(d)に示すように、4回目の推定実行過程3では、第4層の判定基準値q4,4が上限閾値βを超えているので、判定ステップ37における判定結果は「否定判定」となり、5回目の推定実行過程3が実行される。なお、第4層における今回(5回目)の判定基準値q5,4は、第4層の層間擬似慣性力Q5,4に「地震前の層間擬似慣性力Q0,4の逆数」と「補正係数c5(=2πfp/ω5)」とを乗じることで算出する(式16参照)。
5回目の推定実行過程3では、図7の(e)に示すように、総ての判定基準値q5,5〜q5,1が下限閾値αと上限閾値βとの間に納まっているので、判定ステップ37における判定結果は「肯定判定」となり、さらに、図7の(f)に示すように、6回目の推定実行過程3においても、総ての判定基準値q6,5〜q6,1が下限閾値αと上限閾値βとの間に納まっているので、判定ステップ37における判定結果は「肯定判定」となる。この場合、連続回数確認ステップ38の判定結果は、「Yes」となる。ちなみに、5回目のモード算定ステップ33で算出された1次固有ベクトル{Ψ5}は、図6に示すような振動モードとなる。なお、図示は省略するが、7回目以降の推定実行過程3においても、判定ステップ37における判定結果は「肯定判定」となった。
連続回数確認ステップ38で「Yes」と判定された場合には、推定ステップ39に進むことになるが、図7のケースでは、5回目および6回目の推定実行過程3において「肯定判定」が得られたので、5回目または6回目の判定基準値算定ステップ36で算出した判定基準値q5,5〜q5,1またはq6,5〜q6,1を照査することになる。
而して、5回目の判定基準値q5,5〜q5,1を照査すると、第1層(構造要素b1)において、判定基準値qS,iが1を下回り、第2〜5層(構造要素b2〜b5)においては、判定基準値qS,iが1を超えているので、地震による損傷箇所(剛性低下箇所)は、構造要素b1であると推定することができる。すなわち、図7のケースにおいては、構造要素b1の剛性が低下し、損傷したことになる。損傷箇所を推定できれば、その後の点検作業を効率よく行うことができる。ちなみに、6回目の判定基準値q6,5〜q6,1を照査しても、結果は同じである。
本実施形態に係る損傷箇所の推定方法によれば、振動の計測点が多層構造モデルAの自由度の数よりも少ない場合であっても、損傷箇所を推定することができる。すなわち、本実施形態に係る損傷箇所の推定方法によれば、1階床と屋上において振動計測を実施すればよく、各階にセンサを設置する必要がないので、配線作業が煩雑になることもないし、センサの設置場所に困るようなこともない。
なお、本実施形態の推定実行過程3では、層間擬似慣性力QS,iに基づいて判定基準値qS,iを算出し、判定基準値qS,iを利用して損傷箇所を推定する場合を例示したが、剛性kS,iに基づいて判定基準値rS,iを算出し、判定基準値rS,iを利用して損傷箇所を推定してもよい。
判定基準値rS,iを利用する場合には、層間擬似変位算定ステップ34および擬似慣性力算定ステップ35は不要となる。なお、判定基準値算定ステップ36では、地震前の剛性k0,iの逆数を剛性kS,iに乗じることにより、判定基準値rS,i(=kS,i/k0,i)を算出すればよく、判定ステップ37では、1を挟んで設定した下限閾値と上限閾値との間に判定基準値rS,iが納まっているか否かを判定すればよい。下限閾値は、0.1〜0.8の範囲で適宜設定し、上限閾値は、1.5〜2.5の範囲で適宜設定することが望ましい。
なお、S回目(2回目以降)の判定基準値算定ステップ36では、前回(S−1回目)の判定基準値算定ステップ36で算出した総ての判定基準値rS-1,iについて、下限閾値と上限閾値との間に納まっているか否かを判定し、納まっていないと判定された判定基準値rS-1,iが存在する場合には、当該判定基準値rS-1,iに対応する層の今回(S回目)の剛性kS,iに、剛性k0,iの逆数と2πfp/ωSとを乗じることで、当該層における今回(S回目)の判定基準値rS,iを算出する。
判定基準値rS,iを利用する場合においても、S回目以降の判定ステップ37において少なくとも2回連続して肯定判定が得られた場合に、S回目または(S+1)回目の判定基準値算定ステップ36で算出した判定基準値rS,iまたはrS+1,iを照査し、判定基準値rS,iまたはrS+1,iが1を下回っている層を損傷箇所とすればよい。
なお、前記した実施形態では、1階床と屋上スラブとで振動計測を行った場合を例示したが、三箇所以上で振動計測を行っても差し支えない。このようにすると、事後計測ステップにおいて、複数の周波数応答関数Gを得ることができるので、ピーク振動数fpをより的確に定めることができ、ひいては、損傷箇所の推定精度が向上することになる。
また、例えば建物が細長い平面形状である場合には、屋上スラブにおいて、建物の長手方向の一端側と他端側との二箇所にセンサーを設置すれば、建物の振動を「並進振動」と「ねじれ振動」に分解することができるので、並進振動およびねじれ振動のそれぞれについて、本発明に係る損傷箇所の推定方法を実施してもよい。このようにすると、並進振動による損傷箇所とねじれ振動による損傷箇所とを別々に推定することが可能となる。
(第二の実施形態)
本発明の第二の実施形態に係る損傷箇所の推定方法は、第一の実施形態と同様に、建物Tの上層階(屋上)および基準点(1階床)において振動計測を行うとともに、建物Tをn自由度系の多層構造モデルAにモデル化し、非減衰自由振動方程式を利用することにより、外乱または劣化後の損傷箇所を推定する、というものである。
なお、本実施形態においても、五階建ての建物Tを対象とし、建物Tを損傷させ得る規模の大地震(外乱)が発生した場合を想定する。多層構造モデルAの質量行列[M0]および剛性行列[K0]は、それぞれ式4,5に示すとおりである。
本実施形態に係る損傷箇所の推定方法には、図8に示すように、地震発生前の適宜なタイミングに行われる初期振動特性取得過程1と、地震発生後に行われる推定準備過程2および推定実行過程4とが含まれている。初期振動特性取得過程1および推定準備過程2は、第一の実施形態のものと同様であるので、詳細な説明は省略する。
推定実行過程4は、損傷箇所を特定する目的で行われるものであり、複数回繰り返される。推定実行過程4には、図9に示すように、振動特性仮定ステップ41と、剛性算定ステップ42と、モード算定ステップ43と、層間擬似変位算定ステップ44と、判定基準値算定ステップ45と、判定ステップ46と、推定ステップ47とが含まれている。
振動特性仮定ステップ41は、多層構造モデルAについて、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}を設定するステップである。仮1次固有ベクトル{ΦS}は、第一の実施形態において示した式6と同一である。
推定実行過程4は、複数回繰り返して実行されるが、1回目(S=1)の振動特性仮定ステップ41では、第一の実施形態の振動特性仮定ステップ31と同様に、初期設定ステップ22で求めたピーク振動数fpに2πを乗じた値ω0(=2πfp;以下「ピーク円振動数ω0」という。)を仮1次固有円振動数λ1とし、最大値が定数a(本実施形態では、a=1)となるように正規化した仮モードベクトル{Φ0}を仮1次固有ベクトル{Φ1}とする。なお、仮モードベクトル{Φ0}は、図6および式7に示すとおりである。
2回目以降の振動特性仮定ステップ41では、第一の実施形態の振動特性過程ステップ31と同様に、前回(S−1回目)のモード算定ステップ43で算出した1次固有円振動数ωS-1および1次固有ベクトル{ΨS-1}を、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}とする。
剛性算定ステップ42は、地震後の構造要素b1〜b5について剛性kS,i(i=1〜5)を算出するステップである。
1回目の剛性算定ステップ42では、仮1次固有円振動数λ1、仮1次固有ベクトル{Φ1}および前記多層構造モデルの質量行列[M0]を非減衰自由振動方程式(式3)に代入することにより剛性k1,iを算出する。
なお、質量m1〜m5は、建物Tの仕様等に基づいて設定された既知の値であり、仮1次固有円振動数λ1および仮1次固有ベクトル{Φ1}の成分φ1,1〜φ1,5は、振動特性仮定ステップ41で設定された既知の値であるから、これらを式10の(ア)〜(オ)に順次代入することにより、地震後の構造要素b1〜b5について剛性k1,1〜k1,5を求めることができる。
地震を受けた建物Tの剛性が地震前よりも大きくなることは考え難いので、前回の剛性算定ステップ42で算出した剛性kS-1,iが初期の剛性k0,iより大きい場合には、前回の剛性kS-1,iをそのまま今回の剛性kS,iとするのではなく、前回の剛性kS-1,iに1未満の値(調整係数CS)を乗じて得た値を今回の剛性kS,iとすることが好ましい。
すなわち、2回目以降の剛性算定ステップ42では、前回の剛性算定ステップ42で算出した剛性kS-1,iに初期(すなわち、地震前)の剛性k0,iの逆数を乗じて得た剛性比κS,i(=kS-1,i/k0,i)を算出し、剛性比κS,iが閾値dSよりも小さい場合には、前回の剛性算定ステップ42で算出した剛性kS-1,iを今回の剛性kS,iとし、剛性比κS,iが閾値dS以上である場合には、前回の剛性算定ステップ42で算出した剛性kS-1,iに調整係数CS(<1)を乗じて得た値を今回の剛性kS,iとする。
本実施形態では、閾値dSを一定値とせず、回ごとにその都度設定する。具体的には、少なくとも一つの層において剛性比κS,iが1より大きい場合(すなわち、剛性比κS,1〜κS,5のうちの少なくとも一つが1を超えている場合)は、式17の(a)に示すように、剛性比κS,iの最大値と1との相加平均値を閾値dSとし、総ての層において剛性比κS,iが1以下である場合(すなわち、剛性比κS,1〜κS,5がいずれも1以下である場合)には、式17の(b)に示すように、剛性比κS,iの最大値を閾値dSとする。なお、式17の(a)で算出される閾値dSは、1よりも大きい値となり、式17の(b)で算出される閾値dSは、1以下の値となる。
Figure 0005462815
なお、本実施形態では、調整係数CSとして、式18に示すように、ピーク振動数fpに2πと1次固有円振動数ωS-1の逆数とを乗じて得た値(=2πfp/ωS-1=ω0/ωS-1)を使用している。
Figure 0005462815
モード算定ステップ43は、剛性行列[KS]および質量行列[M0]に対応する1次固有円振動数ωSと1次固有ベクトル{ΨS}とを算出するステップである。剛性算定ステップ42により、式8の剛性行列[KS]は既知となっているから、式11の係数行列式を固有円振動数ΩSについて展開し、得られた特性方程式(振動数方程式)を解けば、固有円振動数ΩS(固有値ΩS 2)を求めることができる。n自由度系の多層構造モデルAでは、式11を満たす固有円振動数ΩSがn個存在しているが、そのうちの最も低次の固有円振動数ΩSを「1次固有円振動数ωS」とする。「1次固有ベクトル{ΨS}」は、1次固有円振動数ωSに対応する固有ベクトルである。1次固有ベクトル{ΨS}の成分ψS,i(i=1〜5)は、最大値が定数aとなるように正規化する。
層間擬似変位算定ステップ44は、最大値が定数aとなるように正規化した1次固有ベクトル{ΨS}の成分ψS,iに基づいて、多層構造モデルAの各層の層間擬似変位uS,i(=ψS,i−ψS,i-1)を求めるステップである。層間擬似変位uS,5〜uS,1は、それぞれ式12の(カ)〜(コ)により算出する。
判定基準値算定ステップ45は、地震前の層間擬似変位u0,iの逆数を層間擬似変位uS,iに乗じて判定基準値μS,i(=uS,i/u0,i)を算出するステップである。判定基準値μS,5〜μS,1は、それぞれ式19の(ア)〜(オ)により算出する。
Figure 0005462815
判定ステップ46は、ピーク円振動数ω0(=2πfp)に対する1次固有円振動数ωSの相対誤差δsを算出し、当該相対誤差δsが収束判定値ε以下であるか否かを判定するステップである。相対誤差δsは、式20に示すように、1次固有円振動数ωSとピーク円振動数ω0との差(誤差)の絶対値を1次固有円振動数ωSで除することによって算出する。収束判定値εは、適宜設定すればよいが、本実施形態では、ε=0.100(=10.0%)とする。
Figure 0005462815
判定ステップ46においては、相対誤差δsが収束判定値εを上回っている場合(ε<δs)に、「否定判定(No)」となる。否定判定となった場合には、振動特性仮定ステップ41に戻り、相対誤差δsが収束判定値ε以下となるまで、推定実行過程4を繰り返し実行する。
なお、本実施形態では、1回目からS回目までの各回において、層間擬似変位算定ステップ44および判定基準値算定ステップ45を実行しているが、判定ステップ46において「肯定判定(Yes)」が得られた場合にのみ実行するようにしてもよい。
判定ステップ46において、「肯定判定(Yes)」が得られた場合には、推定ステップ47に進む。
推定ステップ47では、判定基準値算定ステップ45で算出した判定基準値μS,iを照査し、判定基準値μS,iが1を上回っている層を「損傷箇所」と推定する。
図10および図11を参照して、推定実行過程4のフローの一例を説明する。
なお、前記したとおり、ピーク振動数fpは「6.77Hz」であり、正規化された仮モードベクトル{Φ0}の成分は、「φ0,5=1.0、φ0,4=0.8、φ0,3=0.6、φ0,2=0.4、φ0,1=0.2」である(式(7)参照)。また、多層構造モデルAの質点a1〜a5の質量m1〜m5は、いずれも「0.236t/m2」とし、構造要素b1〜b5の初期の剛性k0,1〜k0,5は、いずれも「1866.67kN/m2」とした。判定ステップ46で使用する収束判定値εは「0.100」である。
1回目(S=1)の振動特性仮定ステップ41では、図10に示すように、ピーク円振動数ω0(=2πfp=42.54rad/s)を仮1次固有円振動数λ1とし、正規化された仮モードベクトル{Φ0}を仮1次固有ベクトル{Φ1}とする。
1回目の剛性算定ステップ42では、仮1次固有円振動数λ1および仮1次固有ベクトル{Φ1}および質量m1〜m5に基づいて剛性k1,1〜k1,5を算出する。すなわち、式10の(ア)において、λ1=42.54(rad/s)、φ1,4=0.8、φ1,5=1.0、m5=0.236(t/m2)とすると、k1,5=2136.38(kN/m2)となり、以下、式10の(イ)〜(オ)に順次代入すると、k1,4=3845.48(kN/m2)、k1,3=5127.31(kN/m2)、k1,2=5981.86(kN/m2)、k1,1=6409.13(kN/m2)となる。
1回目の剛性k1,5〜k1,1が得られたら、剛性行列[K1]を作成するとともに質量m5〜m1を対角成分とする質量行列[M0]を作成して1回目のモード算定ステップ43を行い、1次固有円振動数ω1と1次固有ベクトル{Ψ1}を算出する。本実施形態では、1次固有円振動数ω1が「85.03(rad/s)」となり、最大値が1となるように正規化された1次固有ベクトル{Ψ1}の成分は、「ψ1,5=1.000、ψ1,4=0.800、ψ1,3=0.601、ψ1,2=0.401、ψ1,1=0.200」となる。
1回目の1次固有ベクトル{Ψ1}が得られたら、層間擬似変位算定ステップ44および判定基準値算定ステップ45を行い、層間擬似変位u1,5〜u1,1(式12参照)および判定基準値μ1,5〜μ1,1(式19参照)を算出する。
1回目の1次固有円振動数ω1が得られたら、判定ステップ46に進み、まず、式18により相対誤差δ1を算出する。本実施形態では、相対誤差δ1=0.500となり、相対誤差δ1>収束判定値ε(=0.100)となるので、判定ステップ46における判定結果は「否定判定」となり、2回目の推定実行過程4が実行される。
2回目(S=2)の振動特性算定ステップ41では、1回目のモード算定ステップ43で得られた1次固有円振動数ω1(=85.03rad/s)を仮1次固有円振動数λ2とし、正規化された1次固有ベクトル{Ψ1}を仮1次固有ベクトル{Φ2}とする。
2回目の剛性算定ステップ42では、まず、剛性比κ2,i(=k1,i/k0,i)および調整係数CSを算出する。剛性k1,5〜k1,1は、1回目の剛性算定ステップ42で算出されたものであり(k1,5=2136.38、k1,4=3845.48、k1,3=5127.31、k1,2=5981.86、k1,1=6409.13)、初期の剛性k0,5〜k0,1は、いずれも「1866.67」であるから、剛性比κ2,iは、「κ2,5=1.14、κ2,4=2.06、κ2,3=2.75、κ2,2=3.20、κ2,1=3.43」となる。
剛性比κ2,5〜κ2,1は、いずれも1より大きい値となるので、式17の(a)により閾値d2を算出する。剛性比κ2,5〜κ2,1の最大値は、「κ2,1=3.43」であるから、閾値d2は、「2.22」となる。また、ピーク振動数fpは「6.77Hz」であり、1回目の1次固有円振動数ω1は「85.03rad/s」であるから、調整係数C2(=2πfp/ω1)は、「0.500」となる。
ここで、構造要素b5に対応する剛性比κ2,5(=1.14)および構造要素b4に対応する剛性比κ2,4(=2.06)は、いずれも閾値d2(=2.22)より小さいから、1回目の剛性算定ステップ42で算出した剛性k1,5,k1,4を今回の剛性k2,5,k2,4とする(図10中の黒矢印参照)。また、構造要素b3〜b1に対応する剛性比κ2,4〜κ2,1は、いずれも、閾値d2以上であるから、1回目の剛性算定ステップ42で算出した剛性k1,3〜k1,1に調整係数C2(=0.500)を乗じて得た値を今回の剛性k2,3〜k2,1とする(図10中の白抜き矢印参照)。而して、2回目の剛性算定ステップ42で得られるk2,5〜k2,1は、k2,5=2136.38、k2,4=3845.48、k2,3=2563.66、k2,2=2990.93、k2,1=3204.57となる。
2回目の剛性k2,5〜k2,1が得られたら、剛性行列[K2]および質量行列[M0]を作成して2回目のモード算定ステップ43を行い、1次固有円振動数ω2と1次固有ベクトル{Ψ2}を算出する。本実施形態では、1次固有円振動数ω2が「64.05(rad/s)」となり、最大値が1となるように正規化された1次固有ベクトル{Ψ2}の成分は、「ψ2,5=1.000、ψ2,4=0.887、ψ2,3=0.766、ψ2,2=0.516、ψ2,1=0.260」となる。
2回目の1次固有ベクトル{Ψ2}が得られたら、層間擬似変位算定ステップ44および判定基準値算定ステップ45を行い、層間擬似変位u2,5〜u2,1および判定基準値μ2,5〜μ2,1を算出する。
2回目の1次固有円振動数ω2が得られたら、2回目の判定ステップ46に進み、まず、式20により相対誤差δ2を算出する。本実施形態では、相対誤差δ2=0.336となり、相対誤差δ2>収束判定値ε(=0.100)となるので、判定ステップ46における判定結果は「否定判定」となり、3回目の推定実行過程4が実行される。
3回目(S=3)の振動特性算定ステップ41では、2回目のモード算定ステップ43で得られた1次固有円振動数ω2(=64.05rad/s)を仮1次固有円振動数λ3とし、正規化された1次固有ベクトル{Ψ2}を仮1次固有ベクトル{Φ3}とする。
3回目の剛性算定ステップ42では、剛性比κ3,i(=k2,i/k0,i)が「κ3,5=1.14、κ3,4=2.06、κ3,3=1.37、κ3,2=1.60、κ3,1=1.72」となり、いずれも1より大きい値となるので、式17の(a)により閾値d3を算出すると、閾値d3は「1.53」となる。また、式18により調整係数C3を算出すると、調整係数C3は「0.664」となる。構造要素b5,b3に対応する剛性比κ3,5,κ3,3は、いずれも閾値d3(=1.53)より小さいから、2回目の剛性算定ステップ42で算出した剛性k2,5,k2,3を今回の剛性k3,5,k3,3とし(図10中の黒矢印参照)、構造要素b4,b2,b1に対応する剛性比κ3,4,κ3,2,κ3,1は、いずれも、閾値d3以上であるから、2回目の剛性算定ステップ42で算出した剛性k2,4,k2,2,k2,1にそれぞれ調整係数C3(=0.664)を乗じて得た値を今回の剛性k3,4,k3,2,k3,1とする(図10中の白抜き矢印参照)。而して、3回目の剛性算定ステップ42で得られるk3,5〜k3,1は、k3,5=2136.38、k3,4=2553.40、k3,3=2563.66、k3,2=1985.98、k3,1=2127.83となる。
3回目の剛性k3,5〜k3,1が得られたら、3回目のモード算定ステップ43を行い、1次固有円振動数ω2と1次固有ベクトル{Ψ2}を算出し、3回目の1次固有円振動数ω3が得られたら、3回目の判定ステップ46に進み、式20により相対誤差δ3を算出する。本実施形態では、相対誤差δ3=0.225となり、相対誤差δ3>収束判定値ε(=0.100)となるので、判定ステップ46における判定結果は「否定判定」となり、4回目の推定実行過程4が実行される。
以後同様にして、推定実行過程4を繰り返すことになるが、図11に示すように、7回目の剛性算定ステップ42において、剛性比κ7,i(=k6,i/k0,i)が「κ7,5=0.921、κ7,4=0.89、κ7,3=0.89、κ7,2=0.89、κ7,1=0.918」となり、総ての層において剛性比κ7,iが1以下となるので、式17の(b)に基づき、剛性比κ7,iの最大値(κ7,5=0.921)を閾値d7とする。なお、調整係数C7は「0.885」となる。構造要素b4〜b1に対応する剛性比κ7,4〜κ7,1は、いずれも閾値d7(=0.921)より小さいから、6回目の剛性算定ステップ42で算出した剛性k6,4〜k6,1を今回の剛性k7,4〜k7,1とし(図11中の黒矢印参照)、構造要素b5に対応する剛性比κ7,5は、当然に閾値d7と等しくなる(すなわち、剛性比κ7,5≧閾値d7が成立する)から、6回目の剛性算定ステップ42で算出した剛性k6,5に調整係数C7(=0.885)を乗じて得た値を今回の剛性k7,5とする(図11中の白抜き矢印参照)。而して、7回目の剛性算定ステップ42で得られるk7,5〜k7,1は、k7,5=1522.01、k7,4=1662.26、k7,3=1668.94、k7,2=1668.22、k7,1=1712.90となる。
7回目の剛性k7,5〜k7,1が得られたら、7回目のモード算定ステップ43を行い、1次固有円振動数ω7と1次固有ベクトル{Ψ7}を算出し、7回目の1次固有円振動数ω7が得られたら、7回目の判定ステップ46に進み、式20により相対誤差δ7を算出する。本実施形態では、相対誤差δ7=0.113となり、相対誤差δ7>収束判定値ε(=0.100)となるので、判定ステップ46における判定結果は「否定判定」となり、8回目の推定実行過程4が実行される。
8回目(S=8)の振動特性算定ステップ41では、7回目のモード算定ステップ43で得られた1次固有円振動数ω7(=47.96rad/s)を仮1次固有円振動数λ8とし、正規化された1次固有ベクトル{Ψ7}を仮1次固有ベクトル{Φ8}とする。
剛性比κ8,i(=k7,i/k0,i)が「κ8,5=0.82、κ8,4=0.89、κ8,3=0.89、κ8,2=0.89、κ8,1=0.918」となり、総ての層において剛性比κ8,iが1以下となるので、式17の(b)に基づき、剛性比κ8,iの最大値(κ8,1=0.918)を閾値d8とする。なお、調整係数C8は「0.887」となる。構造要素b5〜b2に対応する剛性比κ8,5〜κ8,2は、いずれも閾値d8(=0.918)より小さいから、7回目の剛性算定ステップ42で算出した剛性k7,5〜k7,2を今回の剛性k8,5〜k8,2とし(図11中の黒矢印参照)、構造要素b1に対応する剛性比κ8,1は、閾値d8以上となるから、7回目の剛性算定ステップ42で算出した剛性k7,1に調整係数C8(=0.887)を乗じて得た値を今回の剛性k8,1とする(図11中の白抜き矢印参照)。而して、8回目の剛性算定ステップ42で得られるk8,5〜k8,1は、k8,5=1522.01、k8,4=1662.26、k8,3=1668.94、k8,2=1668.22、k8,1=1524.48となる。
8回目の剛性k8,5〜k8,1が得られたら、8回目のモード算定ステップ43を行い、1次固有円振動数ω8と1次固有ベクトル{Ψ8}を算出し、8回目の1次固有円振動数ω8が得られたら、8回目の判定ステップ46に進み、式20により相対誤差δ8を算出する。本実施形態では、相対誤差δ8=0.093となり、相対誤差δ7<収束判定値ε(=0.100)となるので、判定ステップ46における判定結果は「肯定判定」となる。
「肯定判定」が得られたので、推定ステップ47に進む。推定ステップ47において、8回目の判定基準値算定ステップ45で算出した判定基準値μ8,5〜μ8,1を照査すると、第1層(最下層)および第2層に対応する判定基準値μ8,2,μ8,1が1を上回っているので、第1層(最下層)および第2層を「損傷箇所(剛性低下箇所)」と推定する。なお、第2層の判定基準値μ8,2が1に近い値(=1.200)であるのに対し、第1層の判定基準値μ8,1は1を大きく超えた値(=4.343)であるから、第2層よりも第1層に大きな損傷が生じていると推定することができる。
このように、第二の実施形態に係る損傷箇所の推定方法においても、損傷箇所を推定することができる。しかも、第二の実施形態に係る損傷箇所の推定方法によれば、1階床と屋上において振動計測を実施すればよく、各階にセンサを設置する必要がないので、配線作業が煩雑になることもないし、センサの設置場所に困るようなこともない。
なお、剛性算定ステップ42、モード算定ステップ43、層間擬似変位算定ステップ44、判定基準値算定ステップ45、判定ステップ46および推定ステップ47は、図示せぬコンピュータで実行可能である。すなわち、推定実行過程4は、剛性算定ステップ42、モード算定ステップ43、層間擬似変位算定ステップ44、判定基準値算定ステップ45、判定ステップ46および推定ステップ47を実行可能な演算処理手段、初期条件(ピーク振動数fp、仮モードベクトル{Φ0}、質点a1〜a5の質量m1〜m5、構造要素b1〜b5の初期の剛性k0,1〜k0,5、収束判定値εなど)を入力する入力手段、各ステップにおいて算出された値および入力手段を介して入力された初期条件を記憶する記憶手段、演算結果を表示する表示手段を具備するコンピュータによって実行することができる。
T 建物
A 多層構造モデル
a1〜a5 質点
b1〜b5 構造要素

Claims (5)

  1. 外乱または劣化後の建物の上層階において振動計測を行い、基準点での振動に対する周波数応答関数Gを取得する事後計測ステップと、
    外乱または劣化前に取得した初期周波数応答関数G0の逆数を周波数応答関数Gに乗じて得た関数において、ピーク振動数fpを求める初期設定ステップと、
    前記建物をモデル化したn自由度系の多層構造モデルについて、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}を設定する振動特性仮定ステップと、
    仮1次固有円振動数λS、仮1次固有ベクトル{ΦS}および前記多層構造モデルの質量行列[M0]を非減衰自由振動方程式に代入し、前記多層構造モデルの各層の構造要素について剛性kS,iを算出する剛性算定ステップと、
    剛性kS,iに基づいて作成した剛性行列[KS]および質量行列[M0]に対応する1次固有円振動数ωSと1次固有ベクトル{ΨS}とを算出するモード算定ステップと、
    最大値が定数aとなるように正規化した1次固有ベクトル{ΨS}の成分に基づいて、前記多層構造モデルの各層の層間擬似変位uS,iを求める層間擬似変位算定ステップと、
    剛性kS,iに層間擬似変位uS,iを乗じて層間擬似慣性力QS,iを算出する擬似慣性力算定ステップと、
    外乱もしくは劣化前の剛性k0,iおよび層間擬似変位u0,iに対応する層間擬似慣性力Q0,iの逆数を層間擬似慣性力QS,iに乗じて判定基準値qS,iを算出する判定基準値算定ステップと、
    1を挟んで設定した下限閾値と上限閾値との間に判定基準値qS,iが納まっているか否かを判定する判定ステップとを含み、
    前記振動特性仮定ステップ、前記剛性算定ステップ、前記モード算定ステップ、前記層間擬似変位算定ステップ、前記擬似慣性力算定ステップ、前記判定基準値算定ステップおよび前記判定ステップを複数回繰り返すことにより、建物に生じた損傷箇所を推定する方法であって、
    1回目の前記振動特性仮定ステップでは、ピーク振動数fpに2πを乗じた値を仮1次固有円振動数λ1とし、最大値が定数aとなるように正規化した仮モードベクトル{Φ0}を仮1次固有ベクトル{Φ1}とし、
    2回目以降の前記振動特性仮定ステップでは、前回のモード算定ステップで算出した1次固有円振動数ωS-1および1次固有ベクトル{ΨS-1}を、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}とし、
    2回目以降の前記判定基準値算定ステップでは、前回の判定基準値算定ステップで算出した総ての判定基準値qS-1,iについて、前記下限閾値と前記上限閾値との間に納まっているか否かを判定し、納まっていないと判定された判定基準値qS-1,iが存在する場合には、当該判定基準値qS-1,iに対応する層の今回の層間擬似慣性力QS,iに、前記層間擬似慣性力Q0,iの逆数と2πfp/ωSとを乗じることで、当該層における今回の判定基準値qS,iを算出し、
    S回目以降の前記判定ステップにおいて少なくとも2回連続して肯定判定が得られた場合に、S回目以降のいずれかの回の判定基準値算定ステップで算出した判定基準値を照査し、判定基準値が1を下回っている層を損傷箇所とする、ことを特徴とする損傷箇所の推定方法。
  2. 外乱または劣化後の建物の上層階において振動計測を行い、基準点での振動に対する周波数応答関数Gを取得する事後計測ステップと、
    外乱または劣化前に取得した初期周波数応答関数G0の逆数を周波数応答関数Gに乗じて得た関数において、ピーク振動数fpを求める初期設定ステップと、
    前記建物をモデル化したn自由度系の多層構造モデルについて、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}を設定する振動特性仮定ステップと、
    仮1次固有円振動数λS、仮1次固有ベクトル{ΦS}および前記多層構造モデルの質量行列[M0]を非減衰自由振動方程式に代入し、前記多層構造モデルの各層の構造要素について剛性kS,iを算出する剛性算定ステップと、
    剛性kS,iに基づいて作成した剛性行列[KS]および質量行列[M0]に対応する1次固有円振動数ωSと1次固有ベクトル{ΨS}とを算出するモード算定ステップと、
    外乱もしくは劣化前の剛性k0,iの逆数を剛性kS,iに乗じて判定基準値rS,iを算出する判定基準値算定ステップと、
    1を挟んで設定した下限閾値と上限閾値との間に判定基準値rS,iが納まっているか否かを判定する判定ステップとを含み、
    前記振動特性仮定ステップ、前記剛性算定ステップ、前記モード算定ステップ、前記判定基準値算定ステップおよび前記判定ステップを複数回繰り返すことにより、建物に生じた損傷箇所を推定する方法であって、
    1回目の前記振動特性仮定ステップでは、ピーク振動数fpに2πを乗じた値を仮1次固有円振動数λ1とし、最大値が定数aとなるように正規化した仮モードベクトル{Φ0}を仮1次固有ベクトル{ΦS}とし、
    2回目以降の前記振動特性仮定ステップでは、前回のモード算定ステップで算出した1次固有円振動数ωS-1および1次固有ベクトル{ΨS-1}を、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}とし、
    2回目以降の前記判定基準値算定ステップでは、前回の判定基準値算定ステップで算出した総ての判定基準値rS-1,iについて、前記下限閾値と前記上限閾値との間に納まっているか否かを判定し、納まっていないと判定された判定基準値rS-1,iが存在する場合には、当該判定基準値rS-1,iに対応する層の剛性kS,iに、前記剛性k0,iの逆数と2πfp/ωSとを乗じることで、当該層における今回の判定基準値rS,iを算出し、
    S回目以降の前記判定ステップにおいて少なくとも2回連続して肯定判定が得られた場合に、S回目以降のいずれかの回の判定基準値算定ステップで算出した判定基準値を照査し、判定基準値が1を下回っている層を損傷箇所とする、ことを特徴とする損傷箇所の推定方法。
  3. 外乱または劣化後の建物の上層階において振動計測を行い、基準点での振動に対する周波数応答関数Gを取得する事後計測ステップと、
    外乱または劣化前に取得した初期周波数応答関数Gの逆数を周波数応答関数Gに乗じて得た関数において、ピーク振動数fpを求める初期設定ステップと、
    前記建物をモデル化したn自由度系の多層構造モデルについて、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}を設定する振動特性仮定ステップと、
    前記多層構造モデルの各層の構造要素について剛性kS,iを算出する剛性算定ステップと、
    剛性kS,iに基づいて作成した剛性行列[KS]および質量行列[M0]に対応する1次固有円振動数ωSと1次固有ベクトル{ΨS}とを算出するモード算定ステップと、
    ピーク振動数fpに2πを乗じた値に対する1次固有円振動数ωSの相対誤差を算出し、当該相対誤差が収束判定値以下であるか否かを判定する判定ステップと、
    最大値が定数aとなるように正規化した1次固有ベクトル{ΨS}の成分に基づいて、前記多層構造モデルの各層の層間擬似変位uS,iを求める層間擬似変位算定ステップと、
    外乱もしくは劣化前の層間擬似変位u0,iの逆数を層間擬似変位uS,iに乗じて判定基準値μS,iを算出する判定基準値算定ステップとを含み、
    前記振動特性仮定ステップ、前記剛性算定ステップ、前記モード算定ステップおよび前記判定ステップを複数回繰り返すことにより、建物に生じた損傷箇所を推定する方法であって、
    1回目の前記振動特性仮定ステップでは、ピーク振動数fpに2πを乗じた値を仮1次固有円振動数λ1とし、最大値が定数aとなるように正規化した仮モードベクトル{Φ0}を仮1次固有ベクトル{Φ1}とし、
    2回目以降の前記振動特性仮定ステップでは、前回のモード算定ステップで算出した1次固有円振動数ωS-1および1次固有ベクトル{ΨS-1}を、仮1次固有円振動数λSおよび仮1次固有ベクトル{ΦS}とし、
    1回目の前記剛性算定ステップでは、仮1次固有円振動数λ1、仮1次固有ベクトル{Φ1}および前記多層構造モデルの質量行列[M0]を非減衰自由振動方程式に代入することにより剛性k1,iを算出し、
    2回目以降の前記剛性算定ステップでは、前回の剛性算定ステップで算出した剛性kS-1,iに初期の剛性k0,iの逆数を乗じて得た剛性比κS,iが閾値dSより小さい場合には、前回の剛性算定ステップで算出した剛性kS-1,iを今回の剛性kS,iとし、前記剛性比κS,iが前記閾値dS以上である場合には、前回の剛性算定ステップで算出した剛性kS-1,iに1未満の値である調整係数 S を乗じて得た値を今回の剛性kS,iとし、
    S回目の判定ステップにおいて肯定判定が得られた場合に、前記層間擬似変位算定ステップおよび前記判定基準値算定ステップを行い、判定基準値μS,iが1を上回っている層を損傷箇所とする、ことを特徴とする損傷箇所の推定方法。
  4. 少なくとも一つの層において前記剛性比κS,iが1より大きい場合には、前記剛性比κS,iの最大値と1との相加平均値を前記閾値dSとし、
    総ての層において前記剛性比κS,iが1以下である場合には、前記剛性比κS,iの最大値を前記閾値dSとすることを特徴とする請求項3に記載の損傷箇所の推定方法。
  5. ピーク振動数fpに2πと1次固有円振動数ωS-1の逆数とを乗じて得た値を前記調整係数CSとすることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の損傷箇所の推定方法。
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