以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
[構成]
始めに、図1を参照し、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を適用したハイブリッド車両1の構成の一例について説明する。図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、エコスイッチ15、及びハイブリッド駆動装置10を備える。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、A/D(Analog to Digital)変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する制御を実行する。そして、ECU100は、本発明における付与トルク決定手段として機能する。なお、本発明に係る制御手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えば制御手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等であってもよい。
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動するドライブユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度「Ta」を検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速「V」を検出するセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「モータMG1」と略称する。)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「モータMG2」と略称する。)、入力軸400、ロック機構500、MG2リダクション機構600及び減速機構700を備える。
エンジン200は、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能する直列4気筒ガソリンエンジンである。エンジン200は、公知のガソリンエンジンであり、ここでは、その詳細な構成を割愛するが、エンジン200の出力動力たるエンジントルク「Te」は、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸400に連結されている。
モータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた電動発電機である。
モータMG2は、モータMG1よりも体格の大きい電動発電機であり、モータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備える。モータMG2は、本発明における「トルク付与手段」の一例である。
尚、モータMG1及びモータMG2は、同期電動発電機として機能し、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。
動力分割機構300は、中心部に設けられたサンギアS1と、サンギアS1の外周に同心円状に設けられたリングギアR1と、サンギアS1とリングギアR1との間に配置されてサンギアS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアC1とを備える。
ここで、サンギアS1は、モータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転速度はモータMG1の回転速度(以後、「MG1回転速度Nmg1」と呼ぶ。)と等価である。また、リングギアR1は、減速機構700及びMG2リダクション機構600の後述するリングギアR2に連結されており、その回転速度は、駆動軸OUTの回転速度(以後、「出力回転速度Nout」と呼ぶ。)と等価である。更に、キャリアC1は、エンジン200のクランク軸に連結された入力軸400と連結されており、その回転速度は、エンジン200の回転速度(以後、「エンジン回転速度Ne」と呼ぶ。)と等価である。
MG2リダクション機構600は、動力分割機構300と同様の遊星歯車機構である。MG2リダクション機構600は、中心部に設けられたサンギアS2と、サンギアS2の外周に同心円状に設けられたリングギアR2と、サンギアS2とリングギアR2との間に配置されてサンギアS2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアC2とを備える。また、サンギアS2は、モータMG2のロータが連結される。
ここで、MG2リダクション機構600のリングギアR2は、先に述べたように動力分割機構300のリングギアR1と連結され、車軸と一義的な回転状態を呈する。また、キャリアC2は、固定要素により回転不能に固定されている。従って、残余の一回転要素たるサンギアS2に固定されたモータMG2には、駆動軸OUTの回転がMG2リダクション機構600を構成する各ギアのギア比に応じて定まる減速比に応じて減速された形で伝達される。このように、MG2リダクション機構600は、減速ギア機構として機能する。そして、MG2リダクション機構600と動力分割機構300とによって規定される複合型遊星歯車機構は、回転二自由度の差動機構である。よって、モータMG2の回転速度(以後、「MG2回転速度Nmg2」と呼ぶ。)は、車速Vに応じて一義的に定まる。
減速機構700は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギア(符号省略)と、デファレンシャル(符号省略)とを含むギア機構である。各車軸の回転速度は、減速機構700により所定のギア比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。この駆動軸OUTには、先に述べたようにリングギアR1及びリングギアR2が連結されており、各リングギアが、車速Vと一義的な回転状態を呈する構造となっている。
尚、モータMG2は、モータMG1及びエンジン200と異なり、駆動軸OUTに対し、その出力トルク(以後、「MG2トルクTmg2」と呼ぶ。)を作用させることが可能である。従って、モータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmg2は、モータMG1の入出力トルク(以後、「MG1トルクTmg1」と呼ぶ。)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
ハイブリッド駆動装置10は、図示破線枠A1及びA2に相当する部位に、レゾルバ等の回転センサが設けられている。これら回転センサは、ECU100と電気的に接続された状態にあり、検出された回転速度は、夫々ECU100に対し一定又は不定の周期で送出されている。補足すると、図示破線枠A1に相当する部位の回転速度とは、MG2回転速度Nmg2であり、図示破線枠A2に相当する部位の回転速度とは、MG1回転速度Nmg1である。
動力分割機構300は、上述した構成の下で、エンジン200から入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギアS1及びリングギアR1に所定の比率、具体的には各ギア相互間のギア比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構300は、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。この際、リングギアR1の歯数に対するサンギアS1の歯数としてのギア比「P」を定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギアS1に作用するトルク「Tes」は下記(1)式により、また駆動軸OUTに現れるトルク(以後、「エンジン直達トルクTer」と呼ぶ。)は下記(2)式により、夫々表される。
Tes=−Te×P/(1+P)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+P)・・・(2)
ロック機構500は、サンギアS1の状態を、回転不能なロック状態と回転可能な解放状態との間で選択的に切り替え可能に構成された電磁カム式係合装置であり、本発明における「係合装置」の一例である。
ここで、図3を参照し、ロック機構500の詳細な構成について説明する。図3は、ロック機構500の一断面構成を例示する模式断面図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
図3において、ロック機構500は、カム510、クラッチ板520、アクチュエータ530、リターンスプリング540及びカムボール550を備える。
カム510は、サンギア軸310に連結され、サンギア軸310と一体に回転可能な、クラッチ板520と一対をなす本発明に係る「第1係合要素」の一例たる略円板状の係合部材である。尚、カム510は、必ずしもサンギア310と直接的に連結されている必要はなく、各種連結部材を介してサンギア310と間接的に連結されていてもよい。
クラッチ板520は、磁性金属材料により構成されると共にカム510と対向配置されてなる、カム510と一対をなす円板状の係合部材である。クラッチ板520は、本発明に係る「第2係合要素」の一例である。
アクチュエータ530は、吸引部531、電磁石532及び摩擦部533を有する。吸引部531は、磁性金属材料により構成されると共に電磁石532を収容可能なアクチュエータ530の筐体である。吸引部531は、ハイブリッド駆動装置10の外郭部材と略一体に固定されたケースCSに対し固定されている。
電磁石532は、バッテリ12からの電力供給を受けた不図示の駆動部から所定の励磁電流(以後、「クラッチ係合電流Ir」と呼ぶ。)が供給された励磁状態において磁力を発生可能な磁石である。励磁状態において電磁石532から発せられる磁力は、磁性金属材料により構成された吸引部531を介して、先述したクラッチ板520を吸引する。即ち、クラッチ板520に対しクラッチ板520を吸引する方向へ駆動力たる電磁力を付与する。尚、この駆動部は、ECU100と電気的に接続されており、電磁石532の励磁動作は、ECU100により上位に制御される。
摩擦部533は、吸引部531におけるクラッチ板520との対向面に形成された摩擦機能体であり、形成されない場合と較べて、接触状態にある物体の移動をより大きく阻害し得るようにその摩擦係数が設定されている。
リターンスプリング540は、一方の固定端がクラッチ板520に固定され、他方の固定端がカム510に固定された弾性体であり、クラッチ板520をカム510の方向へ付勢している。このため、クラッチ板520は、通常、このリターンスプリング540の付勢を受けて、所定の対向間隔GAPを隔てて吸引部531と対向する非接触位置(以後、「非接触位置Pn」と呼ぶ。)で停止している。
カムボール550は、カム510とクラッチ板520とに挟持された球状物体である。ロック機構500は、サンギアS1及びサンギア軸310を介してカム510に伝達されるMG1トルクTmg1が、このカムボール550を伝達要素としてクラッチ板520に伝達される。
ここで、図4を参照し、ロック機構500の構成について更に具体的に説明する。図4は、図3において矢線A方向にロック機構500を見た模式的な断面図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略する。
図4において、カム510及びクラッチ板520の各々における対向面は、夫々中心部へ向かう程、当該各々における、サンギア軸310の伸長方向への厚みが小さくなるように形成されており、上記カムボール550は、通常、両者間の対向空間が最も広い中心部付近に挟持されている。このため、クラッチ板520が非接触位置Pnにある場合、カム510とクラッチ板520とは、このカムボール550をトルクの伝達要素として、モータMG1の回転方向と等しい方向へ略一体に回転する。従って、クラッチ板520が非接触位置Pnにある場合、モータMG1の回転は、少なくとも実質的には何ら阻害されない。尚、図4では、図示下方がモータMG1の正回転方向と定義されるが、モータMG1は、係る正回転方向のみならず、係る正回転方向と真逆の負回転方向(図示省略)にも同様に回転可能である。
[制御方法]
以下では、ECU100が実行する制御方法について具体的に説明する。
(各変速モードでの基本制御)
ハイブリッド車両1は、ロック対象となる動力分割機構300のサンギアS1の状態に応じて、本発明に係る変速モードの一例として、固定変速比モード及び無段変速モードを選択可能である。以下、各変速モードでの基本的な制御について説明する。
図5は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。具体的には、図5(a)は、無段変速モードの場合の動作共線図を示す。また、図5(b)は、固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
図5(a)において、縦軸は回転速度を表しており、横軸は、左から順にモータMG1(一義的にサンギアS1)、エンジン200(一義的にキャリアC1)及びモータMG2(一義的に駆動軸OUT)を表す。
ここで、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素を備えた回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギアS1、キャリアC1及びリングギアR1のうち二要素の回転速度が定まった場合に、残余の一回転要素の回転速度が必然的に定まる。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表される。
図5(a)において、車速V及び出力回転速度Noutと一義的な関係にあるモータMG2の動作点が動作点「m1」であるとする。この場合、モータMG1の動作点が動作点「g1」であれば、残余の回転要素の一たるキャリアC1に連結されたエンジン200の動作点は、動作点「e1」となる。この際、ECU100は、出力回転速度Noutを維持したままモータMG1の動作点を動作点「g2」及び動作点「g3」に変化させた場合、エンジン200の動作点は、夫々動作点「e2」及び動作点「e3」へと変化する。
即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を回転速度制御機構として機能させることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させる。この状態に対応する変速モードが、無段変速モードである。無段変速モードでは、エンジン200の動作点(以後、「エンジン動作点」と呼ぶ。)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となるエンジン動作点(以後、「最適燃費動作点」と呼ぶ。)に制御される。なお、この場合のエンジン動作点とは、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン200の一動作条件を意味する。
ここで、無段変速モードでは、MG1回転速度Nmg1は可変である必要がある。このため、ECU100は、無段変速モードを選択する場合、ロック機構500を、サンギアS1が非ロック状態となるように制御する。
また、駆動軸OUTにエンジン直達トルクTerを供給するため、ECU100は、エンジントルクTeに応じてサンギアS1の回転軸であるサンギア軸310に現れる先述のトルクTesと大きさが等しく且つ符号が反転した(即ち、負トルクである)反力トルクを、モータMG1からこのサンギア軸310に供給する。この場合、動作点g1或いは動作点g2といった正回転領域の動作点で、モータMG1は正回転負トルクの電力回生状態(即ち、発電状態)となる。このように、ECU100は、無段変速モードでは、モータMG1を反力要素として機能させることにより、駆動軸OUTにエンジントルクTeの一部を供給しつつ、サンギア軸310に分配されるエンジントルクTeの一部で電力回生(発電)を行う。駆動軸OUTに対し要求されるトルクがエンジン直達トルクTerで不足する場合、ECU100は、この回生電力を利用する形で、或いは適宜バッテリ12から電力を持ち出して、モータMG2から駆動軸OUTに対し適宜アシストトルクとしてのMG2トルクTmg2を供給する。
一方、例えば高速軽負荷走行時等、例えば出力回転速度Noutが高い割にエンジン回転速度Neが低く済むような運転条件では、モータMG1が、例えば動作点g3の如き負回転領域の動作点となる。モータMG1は、エンジントルクTeの反力トルクとして負トルクを出力しているから、この場合、モータMG1は、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。即ち、この場合、モータMG1の入出力トルクであるMG1トルクTmg1は、ハイブリッド車両1の駆動トルクとして駆動軸OUTに伝達される。他方、ECU100は、エンジン直達トルクTerとMG2トルクTmg2との総和がドライバの要求するトルクに合致するように、エンジン200、モータMG1及びモータMG2が相互に協調的に制御する。従って、このようにモータMG1が力行状態に陥った場合、モータMG2は、駆動軸OUTに供給される、要求トルクに対し過剰なトルクを吸収するため、負トルク状態となる。この場合、モータMG2は、正回転負トルクの状態となって電力回生状態となる。このような状態においては、モータMG1からの駆動力をモータMG2での電力回生に利用し、この回生電力によりモータMG1を力行駆動する、といった所謂動力循環と称される非効率な電気パスが生じることとなる。動力循環が生じた状態では、ハイブリッド駆動装置10のシステム効率が低下する。
そこで、ECU100は、予めこのような動力循環が生じ得るものとして定められた運転領域において、ロック機構500によりサンギアS1をロック状態に制御する。その様子が図5(b)に示される。ロック機構500によりサンギアS1がロック状態に移行すると、モータMG1の動作点は、回転速度ゼロに対応する図示動作点「g4」に固定される。
この場合、出力回転速度Noutとこのゼロ回転とにより、残余のエンジン回転速度Neは一義的に固定され、その動作点は図示動作点「e4」となる。即ち、サンギアS1がロックされた場合、エンジン回転速度Neは、車速Vと一義的なMG2回転速度Nmg2により一義的に決定される。即ち、この場合、変速比が一定となる。この状態に対応する変速モードが固定変速比モードである。
固定変速比モードでは、ECU100は、本来モータMG1が負担すべきエンジントルクTeの反力トルクを、ロック機構500の物理的な係合力により代替させる。即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を電力回生状態にも力行状態にも制御する必要がないため、モータMG1を停止させる。従って、基本的には、モータMG2を稼動させる必要もなくなり、モータMG2は、言わば空転状態となる。結局、固定変速比モードでは、駆動軸OUTに現れる駆動トルクが、エンジントルクTeのうち、動力分割機構300により駆動軸OUT側に分割された直達トルクTerのみとなり、ハイブリッド駆動装置10は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、その伝達効率が向上する。
尚、固定変速比モードにおいて、ECU100は、モータMG2を必ずしも停止させる必要はない。例えば、ハイブリッド車両1には、各種の電装補器類が備わっており、それら電装補器類の駆動には然るべき駆動電力が必要となる。モータMG2は、この駆動電力に対応する電力をバッテリ12に供給するために、小規模の電力回生を行ってもよい。この場合、ECU100は、エンジントルクTeの直達成分がハイブリッド車両1を走行させるために要求されるトルクに対し余剰となるようにエンジントルクTeを制御し、余剰分のトルクをモータMG2で回生させる。また、ECU100は、エンジン直達トルクTerのみでは駆動トルクが不足する場合、モータMG2を力行駆動させ、MG2トルクTmg2によって駆動トルクを適宜アシストする。
(ロック制御)
ECU100は、クラッチ係合電流Irを制御することで、サンギアS1を被ロック要素として、サンギアS1の状態をロック状態と解放(非ロック)状態との間で選択的に切り替える。具体的には、ECU100は、クラッチ係合電流Irを大きくすることで、サンギアS1の状態をロック状態へ移行させ、クラッチ係合電流Irを小さくすることで、サンギアS1の状態を解放状態に移行させる。尚、サンギアS1は、既に述べた通りモータMG1に連結されており、サンギアS1がロック状態にある場合、モータMG1もまた回転不能なロック状態となる。従って、これ以降、サンギアS1がロック状態にあることを適宜「モータMG1がロック状態にある」と表現する。
ここで、図6を参照して、ロック機構500によるサンギアS1のロック作用について説明する。ここに、図6は、ロック機構500のロック作用によりサンギアS1が解放状態からロック状態に状態遷移する過程を説明する模式的な断面図である。尚、同図において、図3又は図4と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
図6(a)は、先の図4と同様の状態を表しており、クラッチ板520と摩擦部533との間に対向空間GAPが介在する。この場合、クラッチ板520は、摩擦部533による抑止力の影響を受けることなく回転可能である。このため、カムボール550の作用によりカム510とクラッチ板520とは略一体に回転可能である。ここで、カム510は、サンギア軸310を介してモータMG1のロータに連結されており、このロータは、サンギア軸310を介してサンギアS1に連結されている。従って、ハイブリッド駆動装置10において、カム510は、サンギアS1と一体に回転する回転要素として扱うことができる。即ち、図6(a)に示される状態では、サンギアS1もまたクラッチ板520の制約を受けずに回転可能である。
図6(b)は、アクチュエータ530の電磁石532にクラッチ係合電流Irが所定の基準値(以後、「基準値Irth」と呼ぶ。)だけ供給された状態を示す。基準値Irthは、例えばエンジントルクTeに基づき所定のマップ等を参照して定められ、ECU100のメモリに記憶される。電磁石532にクラッチ係合電流Irが供給された場合、クラッチ係合電流Irに基づき電磁石532から発せられる電磁力が吸引部531を介してクラッチ板520に及ぶ。そして、クラッチ板520は、リターンスプリング540の付勢に打ち勝って図6(a)に示される非接触位置Pnと対極の図6(b)に示される接触位置(以後、「接触位置Pt」と呼ぶ。)まで移動し、吸引部531に吸着される。その結果、対向空間GAPは消滅する。また、励磁による電磁石の供給と共に、摩擦部533がクラッチ板520に対し摩擦力を発揮する形となり、クラッチ板520の正回転又は負回転方向への動作が阻害される。即ち、この状態において、クラッチ板520は、電磁石532と摩擦部533とにより、その動作が阻害され、アクチュエータ530に対し、即ちケースCSに対して静止する。
一方、このようにクラッチ板520が吸引部531に吸着された状態では、消滅した対向空間GAPの代わりに、カムボール550とクラッチ板520との間に、回転方向に沿ったガタGTが形成される。従って、カム510がモータMG1の回転の影響を受けて正回転方向又は負回転方向へ回転すると、カム510とカムボール550のみが、その回転方向へ移動する。尚、ここでは、これらが正回転方向へ移動するものとして説明を継続する。ここで、新たに形成されたガタGTは、先に述べたように断面視逆テーパ状となっており、カムボール550が回転方向に進行するにつれて徐々に詰められる。
そして、ECU100は、ガタ詰めにより、遂にはガタGTが消滅した状態(以後、「ガタ詰め完了状態」と呼ぶ。)へロック機構500の状態を遷移させる。ガタ詰め完了状態においては、再びカム510、カムボール550及びクラッチ板520が相互に接触する。
図6(c)は、ガタ詰め完了状態を示す図である。このガタ詰め完了状態でカム510が正回転方向に回転しようとした場合、この逆テーパ形状の対向面の作用によって、カムボール550には、クラッチ板520を更にアクチュエータ530の方向へ押圧する押圧力が発生する。その結果、カム510に対し正回転方向への正トルクが加わっている限り、ECU100が電磁石532への励磁を停止しても三者の接触状態が変化しない。そして、この場合、カム510は、当該押圧力と摩擦部533から与えられる摩擦力とによって所謂セルフロック状態となる。
このセルフロック状態では、カム510もまたクラッチ板520と同様にケースCSに対し静止、即ち固定された状態となる。その結果、カム510と一体に回転するサンギアS1もまたケースCSに対し固定された状態となる。この状態がロック状態である。ロック状態では、サンギアS1の回転速度、即ちMG1回転速度Nmg1がゼロとなる。
尚、ここでは、ロック機構500は、上記セルフロック作用を有するものとしたが、カム510及びクラッチ板520における対向面の各々の形状等を調整することにより、この種のセルフロック作用を有さぬ構成とすることもできる。その場合、電磁石532への励磁が停止されると、リターンスプリング540の作用により、クラッチ板520は元の非接触位置Pnへと復帰する。
以後では、上述したガタGTを詰める処理又は制御を「ガタ詰め」と呼ぶ。また、クラッチ板520が吸引部531に吸着された状態に遷移後、ガタ詰めにより変化したカム510とクラッチ板520との相対的な位相の変化量、即ちガタ詰めにより変化した相対的な回転角度を、「ガタ詰まり量Lg」と呼ぶ。また、カム510とクラッチ板520との相対的な回転速度を、「相対回転速度Nc」と呼ぶ。
(ショック低減制御)
次に、ガタ詰めに伴うショックを低減させる制御(以後、「ショック低減制御」と呼ぶ。)について説明する。概略的には、ECU100は、ガタ詰めが完了したと判断した場合、ガタ詰め完了直前の相対回転速度Nc(以後、「ガタ詰め相対回転速度Nck」と呼ぶ。)に基づき、ガタ詰めに起因したショックを補償するためのトルク(以後、「ショック補償トルクCts」と呼ぶ。)を算出する。そして、ECU100は、ショック補償トルクCtsに基づきMG2トルクTmg2を補正する。これにより、ECU100は、ガタ詰め完了時に発生するショックを低減させる。
以下、これについて処理ごとに具体的に説明する。
1.ガタ詰め完了検出
まず、ガタ詰め完了を検出する処理について説明する。ECU100は、以下に説明する2つの判断基準に基づき、ガタ詰め完了を検出する。
まず、ECU100は、カム510とクラッチ板520との相対的な位相の変化に基づき、ガタ詰めが完了したか否か判定する。具体的には、ECU100は、ガタ詰めを実行中に、ガタ詰まり量Lgを推定すると共に、ガタ詰まり量Lgが所定の基準値(以後、「基準値Lgtag」と呼ぶ。)に達した場合に、ロック機構500がガタ詰め完了状態になったと判断する。上述の基準値Lgtagは、ガタ詰め完了に相当するガタ詰まり量Lgであり、具体的には、実験等に基づき予め定められる。また、ECU100は、ガタ詰まり量Lgを、例えば図2の破線枠A2に相当する回転速度センサの検出値に基づき推定する。
これについて補足説明する。一般に、ガタ詰め完了に相当するガタ詰まり量Lgは、事前の実験等に基づき予め特定可能な物理的な構成に基づき定まる固定値である。従って、ECU10は、ガタ詰まり量Lgが予め実験等に基づき定めた基準値Lgtagに達するか否か判定することで、ガタ詰めが完了したか否か判定することができる。
また、ECU100は、これに加え、相対回転速度Ncの変化(以後、「相対回転速度変化dNc」と呼ぶ。)に基づきガタ詰めが完了したか否か判定する。
具体的には、ECU100は、図2の破線枠A2に相当する回転速度センサの検出値に基づき相対回転速度Ncを算出すると共に、当該相対回転速度Ncと、前回算出した相対回転速度Ncとの差分の絶対値を、相対回転速度変化dNcとして算出する。
そして、ECU100は、相対回転速度変化dNcが所定の基準値(以後、「基準値dNcth」と呼ぶ。)以上になった場合、ガタ詰まり量Lgによらず、ガタ詰めが完了したと判断する。ここで、基準値dNcthは、ガタ詰め完了に起因した相対回転速度変化dNcが発生したか否かを判定するための基準値であり、具体的には実験等に基づき予め定められる。即ち、ECU100は、相対回転速度変化dNcが基準値dNcth以上の場合、ガタ詰め完了に起因して相対回転速度Ncが急速に収束したと判断し、ガタ詰めが完了したと判断する。
このように、ECU100は、ガタ詰まり量Lgに加え、相対回転速度変化dNcに基づきガタ詰めの完了を判定することで、確実にガタ詰めが完了したか否か判定することができる。
これについて補足説明する。一般に、ガタ詰めを行う前のクラッチ板520を吸引部531に吸着させる段階などで、カム510とクラッチ板520との相対的な位相が変化する場合がある。従って、この場合、ガタ詰まり量Lgが基準値dNcth未満の段階でガタ詰めが完了してしまう可能性がある。以上を勘案し、ECU100は、ガタ詰まり量Lgに加え、相対回転速度変化dNcに基づきガタ詰めの完了を判定することで、確実にガタ詰めが完了したか否か判定することができる。
2.ショック補償トルクの算出
次に、ガタ詰め完了の検出後にMG2トルクTmg2の指令値に付加するショック補償トルクCtsの算出方法について説明する。
まず、ECU100は、ガタ詰め完了時に、ガタ詰め相対回転速度Nckを算出する。具体的には、ECU100は、ガタ詰まり量Lgが基準値Lgtagに達したと判断することによりガタ詰め完了を検知した場合、ガタ詰まり量Lgが基準値Lgtagに達したと判断した時に検出した相対回転速度Ncを、ガタ詰め相対回転速度Nckに設定する。即ち、ECU100は、この場合、検出した相対回転速度Ncのうち、最後に検出した相対回転速度Ncを、ガタ詰め相対回転速度Nckに設定する。
また、ECU100は、相対回転速度変化dNcが基準値dNcth以上になったと判断することによりガタ詰め完了を検知した場合、相対回転速度変化dNcが基準値dNcth以上になったと判断する直前に検出した相対回転速度Ncを、ガタ詰め相対回転速度Nckに設定する。即ち、ECU100は、この場合、基準値dNcth以上となった相対回転速度変化dNcの算出に用いた相対回転速度Ncのうち、変化前に対応する相対回転速度Ncを、ガタ詰め相対回転速度Nckに設定する。
そして、ECU100は、算出したガタ詰め相対回転速度Nckに基づき、所定のマップ等を参照して、ショック補償トルクCtsを算出する。これについて図7を参照して詳しく説明する。
図7(a)は、ガタ詰め相対回転速度Nckとショック補償トルクCtsとの関係を示すマップの一例である。図7(a)のマップは、予め実験等に基づき作成され、ECU100のメモリ等に記憶される。
図7(a)に示すように、ECU100は、ガタ詰め相対回転速度Nckが大きいほど、ショック補償トルクCtsを大きく設定する。即ち、ECU100は、ガタ詰め相対回転速度Nckが大きいほど、ガタ詰め完了に伴うショックが大きいと判断し、ショック補償トルクCtsを大きくする。これについて図7(b)を参照して補足説明する。
図7(b)は、ガタ詰め相対回転速度Nckと、ガタ詰め完了に起因した車両の加速度の変化(以後、「加速度変化dA」と呼ぶ。)との関係を、実機の計測結果に基づきプロットした図である。
図7(b)の計測結果に示されるように、各プロットは、右斜め上方向に長辺が延在する長方形上の枠Q1の範囲内に収まっている。即ち、ガタ詰め相対回転速度Nckと加速度変化dAとの関係には正の相関が存在する。言い換えると、ガタ詰め相対回転速度Nckが大きいほど、加速度変化dAが大きくなる傾向が存在する。
以上を勘案し、ECU100は、図7(a)に示すマップを参照し、ガタ詰め相対回転速度Nckに基づきショック補償トルクCtsを定める。これにより、ECU100は、適切に加速度変化dAを、ショック補償トルクCtsにより補償してショックを抑制することができる。
(タイムチャート)
次に、本実施形態に係るショック低減制御の処理概要について図8を参照して説明する。図8は、ショック低減制御の処理概要を示すタイムチャートの一例である。図8は、上から順に、相対回転速度Nc、MG2トルクTmg2、及び駆動軸OUTへの出力トルクを示す「出力トルクTo」を示す。なお、図8において、グラフ「A1」乃至「A3」は、本実施形態に係るショック低減制御を実行した場合の各要素の時間変化を示す。また、グラフ「B1」は、本実施形態に係るショック低減制御を実行しない場合の比較例に係る出力トルクToの時間変化を示す。
まず、時刻「t1」で、クラッチ係合電流Irの印加に基づき、クラッチ板520が吸引部531に吸着される。そして、時刻t1以後、ECU100は、MG1回転速度Nmg1を調整することによりガタ詰めを行う。そして、ECU100は、ガタ詰まり量Lgが基準値Lgtagに達するか、又は、相対回転速度変化dNcが基準値dNcth以上になるか判定する。
そして、時刻t1以後の時刻「t2」で、ECU100は、ガタ詰まり量Lgが基準値Lgtagに達した、又は、相対回転速度変化dNcが基準値dNcth以上になったと判断し、ガタ詰めが完了したと判断する(グラフA1参照)。従って、ECU100は、この場合、ガタ詰め相対回転速度Nckを特定すると共に、図7(a)等の所定のマップを参照し、ガタ詰め相対回転速度Nckに基づきショック補償トルクCtsを算出する。そして、ECU100は、時刻t2以後、MG2トルクTmg2の指令値に、ショック補償トルクCtsを付加することでMG2トルクTmg2を補正する(グラフA2参照)。なお、MG2トルクTmg2の指令値をショック補償トルクCtsにより補正する時間幅は、例えば、ガタ詰まり完了に起因した加速度変化dAが発生する時間幅に、実験等に基づき予め設定される。これにより、出力トルクToは、時刻t2以後、ガタ詰まり完了に起因したショックによりわずかに変動した後、再び時刻t2以前の値に早期に収束する(グラフA3参照)。
一方、ショック低減制御を実行しない比較例の場合、ガタ詰めが完了した時刻t2以後、出力トルクToが変動する(グラフB1参照)。従って、この場合、加速度変化dAが発生し、ショックが発生することになる。これに対し、本実施形態では、ECU100は、ガタ詰まり完了に起因した出力トルクToの変化をMG2トルクTmg2により補償することで、加速度変化dAの発生を抑制し、ショックの発生を抑制することができる。
次に、図9を参照して、本実施形態に係るショック低減制御についてさらに補足説明する。図9は、ショック低減制御に係る処理概要を示すタイムチャートの一例である。図9は、MG1回転速度Nmg1及びショック補償トルクCtsを示す。図9において、グラフ「C2」は、本実施形態に係るショック低減制御(以後、「ガタ詰め完了後ショック低減制御」と呼ぶ。)に基づくショック補償トルクCtsの時間変化を示し、グラフ「D1」は、モータMG1をロック状態にするまで、即ちガタ詰め完了前に発生するショックを低減させる制御(以後、「ガタ詰め完了前ショック低減制御」と呼ぶ。)を実行する場合のショック補償トルクCtsの時間変化を示す。なお、ここで、「時刻t11」は、ガタ詰めの実行を開始する時刻に相当し、「時刻t12」は、ガタ詰めが完了した時刻に相当する。
図9に示すように、ガタ詰め完了前ショック低減制御では、ECU100は、モータMG1をロック状態にするためにMG1回転速度Nmg1の調整を開始した時からモータMG1がロック状態となる時刻t2まで、所定のショック補償トルクCtsをMG2トルクTmg2に付加する。これにより、ECU100は、ガタ詰まり完了前までのショックの発生を抑制する。一方、ECU100は、ガタ詰め完了前ショック低減制御では、ガタ詰め完了に伴うショックの発生を抑制することができない。
これに対し、本実施形態では、ECU100は、これに加え、又はこれに代えて、ガタ詰め完了後ショック低減制御を実行し、時刻t12からショック補償トルクCtsをMG2トルクTmg2に出力させる。これにより、ECU100は、ガタ詰め完了に起因した時刻t12以後に発生するショックを抑制することができる。
(処理フロー)
次に、本実施形態の処理手順の一例について説明する。図10は、本実施形態のショック低減制御に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図10に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
まず、ECU100は、回転同期制御を実行する(ステップS100)。ここで、「回転同期制御」とは、吸引部531とカム510との回転同期を図る制御を指す。具体的には、ECU100は、MG1回転速度Nmg1が所定の目標回転速度以下になるように、フィードバック制御を行う。
そして、ECU100は、回転同期制御が終了したか否か判定する(ステップS101)。具体的には、ECU100は、MG1回転速度Nmg1が所定の目標回転速度以下になったか否か判定する。そして、ECU100は、回転同期制御が終了したと判断した場合(ステップS101;Yes)、ステップS102以降の処理を行う。一方、ECU100は、回転同期制御が終了していないと判断した場合(ステップS101;No)、引き続き、回転同期制御を継続する。
次に、ECU100は、クラッチ係合電流Irを印加する(ステップS102)。具体的には、ECU100は、クラッチ係合電流Irを基準値Irthまで上げる。これにより、クラッチ板520に電磁力が作用し、クラッチ板520は、吸引部531の方向へストロークし始める。
そして、ECU100は、クラッチ板520が吸引部531に形成された摩擦部533と接触したか否か判定する(ステップS103)。そして、ECU100は、クラッチ板520が吸引部531に形成された摩擦部533と接触したと判断した場合(ステップS103;Yes)、ステップS104以降の処理を実行する。一方、ECU100は、クラッチ板520が摩擦部533と接触していないと判断した場合(ステップS103;No)、引き続きクラッチ係合電流Irを印加し、クラッチ板520を、吸引部531の方向へストロークさせる。
次に、ECU100は、ガタ詰めを実行する(ステップS104)。具体的には、ECU100は、MG1トルクTmg1を調整してモータMG1を回転させることで、ガタ詰めを実行する。
そして、ECU100は、ガタ詰まり量Lgが基準値Lgtag以上になったか否か判定する(ステップS105)。これにより、ECU100は、ガタ詰まりが完了したか否か判定する。そして、ECU100は、ガタ詰まり量Lgが基準値Lgtag以上になったと判断した場合(ステップS105;Yes)、ガタ詰めが完了したと判断し、ステップS107以降の処理を実行する。
一方、ECU100は、ガタ詰まり量Lgが基準値Lgtag未満の場合(ステップS105;No)、さらに相対回転速度変化dNcが基準値dNcth以上であるか否か判定する(ステップS106)。これにより、ECU100は、確実にガタ詰め完了のタイミングを検知する。そして、ECU100は、相対回転速度変化dNcが基準値dNcth以上であると判断した場合(ステップS106;Yes)、ガタ詰めが完了したと判断し、ステップS107以降の処理を実行する。一方、ECU100は、相対回転速度変化dNcが基準値dNcth未満であると判断した場合(ステップS106;No)、ガタ詰めが完了していないと判断し、引き続きステップS104でガタ詰めを実行する。
次に、ステップS107以降の処理について説明する。ECU100は、ガタ詰まり量Lgが基準値Lgtag以上になったと判断した場合(ステップS105;Yes)、又は、相対回転速度変化dNcが基準値dNcth以上であると判断した場合(ステップS106;Yes)、MG1トルクTmg1の絶対値を低減させる(ステップS107)。このとき、ECU100は、MG1トルクTmg1の絶対値を低下させる減少速度を、比較的高速側の値に設定する。即ち、ECU100は、既にガタ詰めが完了している状態では、比較的急激にMG1トルクTmg1を低下させても、トルクショックが顕在化することはないと判断する。
また、ECU100は、ステップS107の処理と並行し、ステップS108乃至S110の処理を実行する。これについて具体的に説明する。まず、ECU100は、ガタ詰め完了直前のガタ詰め相対回転速度Nckを算出する(ステップS108)。具体的には、ECU100は、ガタ詰まり量Lgが基準値Lgtag以上になったと判断をした場合(ステップS105;Yes)、当該判断時に検出した相対回転速度Ncをガタ詰め相対回転速度Nckとして設定する。一方、ECU100は、相対回転速度変化dNcが基準値dNcth以上であると判断をした場合(ステップS106;Yes)、当該相対回転速度変化dNcの算出に用いた相対回転速度Ncのうち、変化前に相当する相対回転速度Ncをガタ詰め相対回転速度Nckとして設定する。
次に、ECU100は、ガタ詰め相対回転速度Nckに基づきショック補償トルクCtsを算出する(ステップS109)。例えば、ECU100は、図7(a)に示すようなマップを参照し、ガタ詰め相対回転速度Nckに基づきショック補償トルクCtsを算出する。
そして、ECU100は、ショック補償トルクCtsをMG2トルクTmg2に付加する(ステップS110)。具体的には、ECU100は、加速度変化dAが発生する虞のある所定期間幅だけ、要求駆動力及びバッテリ12の充電状態等に基づき設定されるMG2トルクTmg2の指令値に、ショック補償トルクCtsを加算する。このようにすることで、ECU100は、ガタ詰め完了に起因した加速度変化dAの発生を抑制し、ショックの発生を防ぐことができる。
[他の構成例]
本発明に係るショック低減制御が適用可能な構成は、図2に示す構成に限定されない。これについて図11、図12を参照して説明する。
図11は、他の構成例に係る車両1aの構成例を示す。図11に示すように、車両1aは、右前輪FRと、左前輪FLと、右後輪RRと、左後輪RLと、これらの車輪に接続する車軸SFR、SFL、SRR、SRLと、プロペラシャフトS1、S2と、エンジン200と、トランスアクスルTAと、4WDカップリングCPと、を備える。
トランスアクスルTAは、本発明における「係合装置」の一例であり、トランスミッションとディファレンシャルギアとが一体化され、回転方向にガタを有する。4WDカップリングCPは、本発明における「係合装置」の一例であり、前輪FR、FLと後輪RR、RLとに分配するトルクを決定し、回転方向にガタを有する。プロペラシャフトS1は、トランスアクスルTAと4WDカップリングCPとに接続し、楕円枠A3に相当する回転速度センサにより、その回転速度が検出される。プロペラシャフトS2は、4WDカップリングCPと後輪RR、RLに対応するディファレンシャルギアとに接続し、楕円枠A4に相当する回転速度センサにより、その回転速度が検出される。また、エンジン200は、車両1aの駆動力源になると共に、ショック補償トルクCtsを出力可能な動力源であり、本発明における「トルク付与手段」の一例である。
ここで、車両1aにおけるショック低減制御について説明する。ECU100は、トランスアクスルTA及び4WDカップリングCPのそれぞれの係合時でのガタ詰め完了の直後に、エンジン200にショック補償トルクCtsを出力させる。
具体的には、ECU100は、トランスアクスルTA及び4WDカップリングCPのうち少なくとも一方で係合が行われる場合、当該係合時のガタ詰めが完了したか否かを検出する。例えば、ECU100は、楕円枠A3、楕円枠A4に相当する回転速度センサ等により、係合を行う2つの係合要素にそれぞれ連結した軸の回転速度を検出し、その相対回転速度に基づきガタ詰め完了のタイミングを検出する。
そして、ECU100は、ガタ詰め完了直前の相対回転速度に基づき、図7(a)に相当するマップ等を参照し、ショック補償トルクCtsを算出する。そして、ECU100は、ショック補償トルクCtsをエンジン200のトルクの指令値に加算する。
このように、ECU100は、図11に示す構成の場合であっても、好適に、ガタ詰め完了に起因したショックを抑制することができる。
図12は、他の構成例に係る車両1bを示す。図12に示すように、車両1bは、前輪FL、FRに対応する車軸SFL、SFRの間に、車両1bの駆動源たるエンジン200と、回転方向にガタを有するトランスアクスルTAと、が設けられている。また、車両1bは、後輪RL、RRに対応する車軸SRL、SRRにギアを介してショック補償トルクCtsを伝達するモータRrMGが設けられている。即ち、車両1bでは、トランスアクスルTAが本発明における「係合装置」に相当し、モータRrMGが本発明における「トルク付与手段」に相当する。
ここで、車両1bにおけるショック低減制御について説明する。まず、ECU100は、各種センサに基づきトランスアクスルTA内で係合を行う2つの係合要素に連結する軸の回転速度をそれぞれ検出すると共に、その相対回転速度に基づきガタ詰め完了のタイミングを検出する。そして、ECU100は、ガタ詰め完了直前の相対回転速度に基づき、図7(a)に相当するマップ等を参照し、ショック補償トルクCtsを算出する。そして、ECU100は、ショック補償トルクCtsをモータRrMGのトルクの指令値に加算する。
このように、ECU100は、図12に示す構成の場合であっても、好適に、ガタ詰め完了に起因したショックを抑制することができる。
[変形例]
上述のガタ詰め完了検出の説明では、ECU100は、ガタ詰まり量Lgが基準値Lgtagに達するか否かの判断基準に加え、相対回転速度変化dNcが基準値dNcth以上か否かの判断基準に基づきガタ詰めが完了したか否か判定した。これに代えて、ECU100は、上述の判断基準のうち、いずれか一方のみの判断基準に基づきガタ詰めが完了したか否か判定してもよい。