本発明は、徐放対象成分を徐々に放出する徐放剤に関し、特に、徐放対象成分の保持材料に生分解性ポリマーを用いた徐放剤に関する。
従来、例えば、農園や公園などにおける害虫・動物駆除には、農薬や忌避剤の散布など多大な労力を要してきた。これらの問題を解決する一手段として、例えば、忌避成分を徐々に放出し、長期間にわたりその効果を維持することが可能な徐放剤を挙げることができる。
特許文献1には、超臨界流体を用いて、性フェロモン剤を樹脂成形体又は溶融樹脂中に含浸させる技術が記載され、さらに環境面から基材に生分解性の樹脂を用いることが記載されている。
しかしながら、徐放対象成分を含浸させる基材として、生分解性ポリマーを用いた場合、生分解性ポリマーの分解により、効果的な徐放能を得ることができないことがあった。また、徐放対象成分を多量に含浸させることができず、効果的な徐放能を得ることができないことがあった。
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、生分解性を有しつつ、優れた徐放能を有する徐放剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、徐放対象成分を含浸させる生分解性ポリマーとして、L−ラクチドとε−カプロラクトン、2,2−ジメチルトリメチレンカーボネート、グリコリドから選択される1種または2種以上とから構成される共重合体を用いることにより、優れた徐放能が得られることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る徐放剤は、L−ラクチドと、ε−カプロラクトン、2,2−ジメチルトリメチレンカーボネート、グリコリドから選択される1種または2種以上とから構成されるポリ乳酸共重合体からなる基材に、徐放対象成分を含浸させてなる徐放剤であって、上記ポリ乳酸共重合体は、L−ラクチドが65〜98モル%の割合で重合されたものであることを特徴としている。
また、本発明に係る徐放剤の製造方法は、L−ラクチドと、ε−カプロラクトン、2,2−ジメチルトリメチレンカーボネート、グリコリドから選択される1種または2種以上とから構成され、L−ラクチドが65〜98モル%の割合で重合されたポリ乳酸共重合体からなる基材に、徐放対象成分を含浸させることを特徴としている。
本発明によれば、徐放対象成分を含浸させる基材に、L−ラクチドと、ε−カプロラクトン、2,2−ジメチルトリメチレンカーボネート、グリコリドから選択される1種または2種以上とから構成され、L−ラクチドが65〜98モル%の割合で重合されたポリ乳酸共重合体を用いることにより、徐放期間内に徐放対象成分を十分に放出させることができる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の具体例として示す徐放剤は、L−ラクチド(以下、LLAと略す。)とε−カプロラクトン(以下、CLと略す。)との共重合体(以下、PLLACLと略す。)とからなる基材に徐放対象成分を含浸させるようにしたものである。また、L−ラクチドが所定の割合で重合されたポリ乳酸共重合体からなる基材に、徐放対象成分を含浸させるようにしたものである。
LLAとCLとの共重合体は、LLAとCLとを開環重合することにより得られる。具体的には、所定量のLLAとCLとを、モノマーとしてシュレンクチューブに仕込み、触媒を加え、脱気とアルゴンガス置換をした後、所定温度のオイルバスにて開環重合させて合成する。
ここで、PLLACLは、LLAとCLとのモル比が65:35〜98:2であることが好ましい。これにより、徐放対象成分の注入量を増加させることができる。つまり、徐放期間内に高濃度の徐放対象成分を放出させることが可能となる。
ポリ乳酸共重合体は、L−ラクチドが65〜98モル%の割合で重合されたものであることが好ましい。ポリ乳酸共重合体としては、ポリエステル共重合体、ポリエステルカーボネート共重合体、ポリエステルアミド共重合体、ポリエステルエーテル共重合体等を挙げることができる。また、ポリ乳酸共重合体は、L−ラクチドと、グリコリド、D,L−ラクチド、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクト、ε−カプロラクトン、DL−マバロノラクトン、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、1−メチルトリメチレンカーボネート、2,2−ジメチルトリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、1,5−ジオキセパン−2−オン、モルフォリン−2,5−ジオン、3,6−ジメチルモルフォリン−2,5−ジオン、(R)−or(S)−3−メチル−4−オキサ−6−ヘキサノライド(MOHEL)、エチレンオキシド、5−メチル−5−ベンジロキシカルボニル−1,3−ジオキサン−2−オンから選択される1種または2種以上とから構成されることが好ましい。
基材の形状は、目的に応じて成形することが好ましいが、注入量を増加させるためには、フィルム状であることが好ましい。
徐放対象成分としては、忌避成分、殺虫成分、香り成分等を用いることができる。具体的には、d−リモネン、メントン、メントール、プレゴン、カルボン、ネロリドール、テルピネオール、セドロール、ピレトリン、アレスリン、ヒドラメチルノン、ペルメトリン、フタルスリン、硫酸ニコチン、クマリン、ユーカリエキス、ラベンダーエキス、ハーブエキス、木酢液等を挙げることができる。また、抗菌成分として、ヒノキチオール、ワサオール、trans−2−ヘキセナール、trans−3−ヘキセナール、cis−3−ヘキセナール、カテキン、タケオール、ひまし油、10−ウンデセン酸、アリルカラシ油、イソチオシアン酸アリル、カプサイシン等を挙げることができる。
徐放対象成分のPLLACLへの注入法は、一般的な混練法や溶媒溶解法を用いることができるが、超臨界流体を用いた超臨界注入法を用いることが好ましい。これにより、低沸点化合物を注入することができる。また、溶媒溶解法のように、残存有機溶媒や溶媒除去時の徐放対象成分の揮発が問題となることがない。
超臨界流体を用いた超臨界注入法は、具体的には、基材と徐放対象成分とを高圧セルに封入し、所定の温度及び圧力に設定するとともに、例えば二酸化炭素を高圧セルに供給した後、超臨界二酸化炭素の状態にし、この状態を所定時間放置して、徐放対象成分の担持を行うものである。そして、徐放対象成分担持後、背圧弁を解放し圧力を低下させることによって超臨界二酸化炭素を気体の状態に戻し、基材から放散除去し、徐放対象成分が担持された基材を得る。なお、超臨界流体は、徐放対象成分の沸点、LLAとCLとの共重合体の融点等に応じて、二酸化炭素(臨界温度:304.1K,臨界圧力:7.38MPa)、エタン(臨界温度:305.45K,臨界圧力:18.7MPa)、窒素(臨界温度:126K,臨界圧力:3.4MPa)等を用いることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
注入試験
L−ラクチド(以下、LLAと略す。)とε−プロラクトン(以下、CLと略す。)との共重合体(以下、PLLACLと略す。)からなる基材、ポリL−ラクチド(以下、PLLAと略す。)からなる基材、及びポリブチレンサクシネートアジペート(以下、PBSAと略す。)からなる基材に、それぞれ徐放対象成分として市販のd−リモネンを含浸させた。d−リモネンは、柑橘類の果皮やスギの木などに含まれているテルペン系炭化水素であり、一般に昆虫などに対して忌避成分効果を有する。
(実施例1)PLLACLからなる直径約4mmのペレット状の基材にd−リモネン(一級、和光純薬工業(株)社製)を含浸させた。PLLACLは、所定量のLLA((3S)-cis-3,6-Dimethyl-1,4-dioxane-2,5-dione:Sigma-Aldrich社製)とCL(特級、和光純薬工業(株)社製)とを、モノマーとしてシュレンクチューブ(φ16mm×110mm:二葉理化製作所社製)に仕込み、触媒としてStannous 2-Ethyl-Hexanoate(Sigma-Aldrich社製)を加え、脱気とアルゴンガス置換をした後、120℃のオイルバスにて24時間開環重合させて合成した。この共重合体の組成比(LLA/CL)を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定したところ、73/27であった。
PLLACLへのd−リモネンの注入は、超臨界二酸化炭素流体装置((株)AKICO社製)により実施した。ステンレス製耐圧容器(0.5L)にPLLACL10g、及び耐圧容器内の濃度が4.0g/Lになるようにd−リモネンをセットし、超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下(温度40〜100℃、圧力20MPa)で3時間攪拌(100rpm)した。その後、圧力を3時間かけて緩やかに減圧し、サンプルを耐圧容器から取り出し、重量を測定した。注入処理後のサンプルには、d−リモネンの他に二酸化炭素が含まれているため、d−リモネンの注入量を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定した。
(比較例1)基材にPLLA(三井化学(株)社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例2)基材にPBSA(昭和高分子(株)社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてd−リモネンを注入した。
実施例1及び比較例1,2の実験結果を表1に示す。
基材にPLLA、PBSAを用いた場合は、注入量がそれぞれ1.03%、0.51%であったのに対し、PLLACLを用いた場合は、注入量が3.07%であり、PLLAを用いた場合に比べ、同条件化で約3倍もの注入量があった。
また、表2にPLLACL、PLLA及びPBSAの熱的特性を示す。これらの熱的特性は、DSC(示差走査熱量計:Thermo plus2/DSC8230、(株)リガク社製)により測定した。
PLLACLは、ポリマーの結晶度を表す融解熱が、3種類のポリマーの中で最も低く(21.1J/g)、ガラス転移点が23.9℃と処理温度よりも低くなっていることから、scCO2雰囲気下での処理条件の他に、ポリマーの結晶度、融点、ガラス転移点が注入量に大きく影響していることが確認できた。PBSAへの注入量が最も低くなった理由としては、PBSAの融点やガラス転移点が、3種類のポリマーの中で最も低く、ポリマーの結晶度を表す融解熱が最も高くなっているためだと考えられる。なお、PLLAの融点(167.1℃)とガラス転移点(55.9度)は、これらの中で最も高く、何れも注入処理温度より高い。
d−リモネン濃度、処理時間及び温度に対する注入量の影響
注入量に関する因子を検討した。なお、ここでは、基材にPLLAを用いて試験を行った。
(参照例1)PLLA(三井化学(株)社製)からなる基材を直径約4mmのペレット状に成形し、d−リモネン(一級、和光純薬工業(株)社製)を含浸させた。
PLLAへのd−リモネンの注入は、超臨界二酸化炭素流体装置((株)AKICO社製)により実施した。ステンレス製耐圧容器(0.5L)にPLLA10g、及び耐圧容器内の濃度が1.0g/Lになるようにd−リモネンをセットし、超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下(温度40℃、圧力20MPa)で3時間攪拌(100rpm)した。その後、圧力を3時間かけて緩やかに減圧し、サンプルを耐圧容器から取り出し、重量を測定した。注入処理後のサンプルには、d−リモネンの他に二酸化炭素が含まれているため、d−リモネンの注入量を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定した。
(参照例2)ステンレス製耐圧容器(0.5L)内の濃度が2.0g/Lになるようにd−リモネンをセットした以外は、参照例1と同様にしてd−リモネンを注入した。
(参照例3)ステンレス製耐圧容器(0.5L)内の濃度が4.0g/Lになるようにd−リモネンをセットした以外は、参照例1と同様にしてd−リモネンを注入した。
(参照例4)ステンレス製耐圧容器(0.5L)にPLLA25g、及び耐圧容器内の濃度が5.0g/Lになるようにd−リモネンをセットした以外は、参照例1と同様にしてd−リモネンを注入した。
(参照例5)ステンレス製耐圧容器(0.5L)にPLLA20g、及び耐圧容器内の濃度が4.0g/Lになるようにd−リモネンをセットし、注入処理(40℃、20MPa、3時間)を2回実施した以外は、参照例1と同様にしてd−リモネンを注入した。
(参照例6)ステンレス製耐圧容器(0.5L)内の濃度が1.7g/Lになるようにd−リモネンをセットし、温度75℃の超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下で処理した以外は、参照例1と同様にしてd−リモネンを注入した。
(参照例7)ステンレス製耐圧容器(0.5L)内の濃度が2.0g/Lになるようにd−リモネンをセットし、温度100℃の超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下で処理した以外は、参照例1と同様にしてd−リモネンを注入した。
これら参照例1〜7の実験結果を表3に示す。
参照例1におけるd―リモネンの注入量は、0.25%であったが、d−リモネン濃度を2倍にして同条件で処理したところ、注入量は2倍になっていた(参照例2)。さらに、参照例2のポリマー量とd−リモネン濃度をそれぞれ2.5倍にして実験を行ったところ、注入量は3.3倍になった(参照例4)。これより、ポリマー量とd−リモネン量を増加することにより、注入量がより増加することが確認できた。
また、処理回数を増やした場合のd−リモネンの注入量について検討した。参照例4のように、ポリマー量25g、d−リモネン濃度5.0g/Lで処理(40℃、20MPa、3h)した場合、注入量は1.68%であった。さらに、ポリマー量20g、d−リモネン濃度4.0g/Lの条件で処理を2回行ったところ、ポリマー量とd−リモネン量を低くしたにもかかわらず、注入量は1.99%にまで増加していた(参照例5)。これにより、処理時間を長くすることにより、注入量が増加することが確認できた。
また、温度の影響について検討すると、ポリマー量10g、d−リモネン濃度2.0g/Lで処理(40℃、20MPa、3h)した場合、注入量は0.51%であったが(参照例2)、温度を75℃、100℃と上げることにより、注入量がそれぞれ1.05%(参照例6)、1.59%(参照例7)と増加していることから、処理温度が注入量に大きく影響を及ぼすことが確認できた。
ポリマーの形状に対する注入量の影響
また、ポリマーの形状がd−リモネンの注入量に及ぼす影響についても検討した。上記参照例1〜7では、直径約4mmの略円柱のペレット状であったが、参照例8〜11では、フィルム状のPLLAを基材として用いて注入試験を行った。
(参照例8)PLLA(三井化学(株)社製)からなる基材を厚さ50μmのフィルム状に成形し、d−リモネン(一級、和光純薬工業(株)社製)を含浸させた。
PLLAへのd−リモネンの注入は、超臨界二酸化炭素流体装置((株)AKICO社製)により実施した。ステンレス製耐圧容器(0.5L)にPLLA10g、及び耐圧容器内の濃度が7.3g/Lになるようにd−リモネンをセットし、超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下(温度40℃、圧力20MPa)で3時間攪拌(100rpm)した。その後、圧力を3時間かけて緩やかに減圧し、サンプルを耐圧容器から取り出し、重量を測定した。注入処理後のサンプルには、d−リモネンの他に二酸化炭素が含まれているため、d−リモネンの注入量を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定した。
(参照例9)基材にフィルム厚100μmのPLLAを用いた以外は、参照例8と同様にしてd−リモネンを注入した。
(参照例10)基材にフィルム厚300μmのPLLAを用いた以外は、参照例8と同様にしてd−リモネンを注入した。
(参照例11)基材にフィルム厚500μmのPLLAを用いた以外は、参照例8と同様にしてd−リモネンを注入した。
表4にフィルム厚に対する注入量の実験結果を示す。
フィルム厚が50μmのPLLAへのd−リモネンの注入量は、2.13%であった(参照例8)。同条件でのペレット状のPLLAへの注入量は、表3に示す結果をもとに計算すると、約1.9%となり、フィルム状の方がペレット状よりも約0.2%注入量が多くなる(約10%増)ことが考えられる。また、フィルム厚の増加により注入量が増加することも確認できた(参照例9〜10)。しかしながら、参照例11のフィルム厚が500μmの基材を用いた場合は、注入量が減少しており、計算により求めたペレット状のPLLAとほぼ同じ結果であった。以上の結果より、フィルム厚が大きくなることにより、内部に目的とする注入物は入りにくくなることが確認できた。
PLLACLの組成比に対する注入量の影響
表1に示すように、PLLACL(組成比73/27)への注入量は、PLLAへの注入量の約3倍であった。そこで、PLLACLの組成比に対する注入量の影響を検討するために組成比の異なる共重合体を基材に用いて注入試験を行った。
(実施例2)所定量のLLA((3S)-cis-3,6-Dimethyl-1,4-dioxane-2,5-dione:Sigma-Aldrich社製)とCL(特級、和光純薬工業(株)社製)とを、モノマーとしてシュレンクチューブ(φ16mm×110mm:二葉理化製作所社製)に仕込み、触媒としてStannous 2-Ethyl-Hexanoate(Sigma-Aldrich社製)を加え、脱気とアルゴンガス置換をした後、120℃のオイルバスにて24時間重合を行い、PLLACLを合成した。この共重合体の組成比(LLA/CL)を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定したところ、66/34であった。また、このサンプルをフィルム厚さ100μmのフィルム状に成形した。
PLLACLへのd−リモネンの注入は、超臨界二酸化炭素流体装置((株)AKICO社製)により実施した。ステンレス製耐圧容器(0.5L)にPLLA10g、及び耐圧容器内の濃度が1.0g/Lになるようにd−リモネンをセットし、超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下(温度40℃、圧力20MPa)で3時間攪拌(100rpm)した。その後、圧力を3時間かけて緩やかに減圧し、サンプルを耐圧容器から取り出し、重量を測定した。注入処理後のサンプルには、d−リモネンの他に二酸化炭素が含まれているため、d−リモネンの注入量を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定した。
(実施例3)組成比(LLA/CL)が76/24のPLLACLを基材に用いた以外は、実施例2と同様にしてd−リモネンを注入した。
(実施例4)組成比(LLA/CL)が85/15のPLLACLを基材に用いた以外は、実施例2と同様にしてd−リモネンを注入した。
(実施例5)組成比(LLA/CL)が92/8のPLLACLを基材に用いた以外は、実施例2と同様にしてd−リモネンを注入した。
(実施例6)組成比(LLA/CL)が95/5のPLLACLを基材に用いた以外は、実施例2と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例3)組成比(LLA/CL)が12/88のPLLACLを基材に用いた以外は、実施例2と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例4)組成比(LLA/CL)が24/76のPLLACLを基材に用いた以外は、実施例2と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例5)組成比(LLA/CL)が34/66のPLLACLを基材に用いた以外は、実施例2と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例6)組成比(LLA/CL)が100/0、つまりPLLAを基材に用いた以外は、実施例2と同様にしてd−リモネンを注入した。
表5に実施例2〜6及び比較例3〜6の実験結果を示す。また、表6にPLLACLの熱的特性を示す。
LLA/CL組成比が12/88、24/76、34/66のコポリマー(共重合体)の融点は、表6に示すように約50℃以下と低いため、40℃、20MPaのscCO2流体下では、融解が起こっていた。このため、d−リモネンの注入量は、1%以下とPLLA(LLA/CL組成比100/0)を基材として用いるよりも低くなっていた(比較例3〜5)。融点が充分に高い、LLA含量がモル比で66%以上のコポリマーは、融解は起こらず、d−リモネンの注入量もPLLAよりも充分に多かった(実施例2〜6)。さらに、LLA/CL組成比が85/15の場合、注入量が最も高く、3.19%となっていた(実施例4)。また、LLA/CL組成比が66/34、76/24のコポリマーは、注入量がそれぞれ2.42%、2.80%となっており、PLLAの2倍以上の注入量を確認できた。
図1は、PLLACLのLLA含量に対する注入量を示すグラフである。図1に示すグラフより、LLA含量がモル比で65%以上98%以下のPLLACLを基材として用いることにより、PLLAを基材とした場合より、d−リモネンの注入量が同条件下で2〜2.7倍増加することが分かった。
d−リモネン濃度及び温度に対する注入量の影響
また、d−リモネン濃度や温度を変えて注入試験を行った。
(実施例7)所定量のLLA((3S)-cis-3,6-Dimethyl-1,4-dioxane-2,5-dione:Sigma-Aldrich社製)とCL(特級、和光純薬工業(株)社製)とを、モノマーとしてシュレンクチューブ(φ16mm×110mm:二葉理化製作所社製)に仕込み、触媒としてStannous 2-Ethyl-Hexanoate(Sigma-Aldrich社製)を加え、脱気とアルゴンガス置換をした後、120℃のオイルバスにて24時間重合を行い、PLLACLを合成した。この共重合体の組成比(LLA/CL)を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定したところ、76/24であった。また、このサンプルをフィルム厚さ100μmのフィルム状に成形した。
PLLACLへのd−リモネンの注入は、超臨界二酸化炭素流体装置((株)AKICO社製)により実施した。ステンレス製耐圧容器(0.5L)にPLLA0.3g、及び濃度が4.0g/Lになるようにd−リモネンをセットし、超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下(温度40℃、圧力20MPa)で3時間攪拌(100rpm)した。その後、圧力を3時間かけて緩やかに減圧し、サンプルを耐圧容器から取り出し、重量を測定した。注入処理後のサンプルには、d−リモネンの他に二酸化炭素が含まれているため、d−リモネンの注入量を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定した。
(実施例8)ステンレス製耐圧容器(0.5L)内の濃度が20.0g/Lになるようにd−リモネンをセットした以外は、実施例7と同様にしてd−リモネンを注入した。
(実施例9)ステンレス製耐圧容器(0.5L)内の濃度が20.0g/Lになるようにd−リモネンをセットし、温度75℃の超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下で処理した以外は、実施例7と同様にしてd−リモネンを注入した。
表7に実施例7〜9の実験結果を示す。
d−リモネン濃度を4.0g/Lとして40℃、20MPaで3時間処理した実施例7の場合、注入量は2.80%であったが、d−リモネン濃度を20.0g/Lに増加した実施例8の場合、注入量は6.19%と、約2倍増加していた。また、75℃、20MPaで3時間処理した実施例9の場合、コポリマーが融解したため、注入量は5.81%であった。以上の結果より、d−リモネン濃度を増やすと、注入量が大幅に増加することが分かった。
分解試験
また、コポリマーの分解性について実験を行った。
(実施例10)組成比が66/34のPLLACLを37℃のトリシン緩衝溶液(pH8.0)で加水分解させた。
(実施例11)組成比が73/27のPLLACLを37℃のトリシン緩衝溶液(pH8.0)で加水分解させた。
(実施例12)組成比が85/15のPLLACLを37℃のトリシン緩衝溶液(pH8.0)で加水分解させた。
(比較例7)PLLAを37℃のトリシン緩衝溶液(pH8.0)で加水分解させた。
実施例10〜12及び比較例7の実験結果を表8に示す。
PLLAを37℃のトリシン緩衝溶液(pH8.0)で加水分解させたところ、350日までは残存重量率が約97%でほとんど分解が進行しなかったが、350日以降になると、徐々に重量減少がみられ、500日で完全に分解した。一方、PLLACLについても同様の実験を行ったところ、組成比が73/27のPLLACLは、PLLAよりも加水分解速度が速く、100日で完全に分解した。また、LLA含量の増加に伴い、加水分解速度は遅くなる傾向となり、85/15の共重合体は、完全に分解するのに約5ヶ月を要した。また、組成比が66/34の共重合体は、73/27の共重合体よりも結晶性(融解熱)が低く、加水分解速度が速くなると思われたが、親水性が低いCL基の含有量が増加するため、加水分解速度は73/27とほぼ同じであった。
すなわち、LLA含量がモル比で65%以上98%以下のPLLACLは、少なくとも3ヶ月の徐放期間を有し、LLA含量の増加により、徐放期間が延長することが分かった。
また、このような加水分解試験は、ポリマーを分解するのに長期間を要するので、徐放性を迅速に確認するために酵素を用いて分解試験(酵素分解試験)を行った。分解試験用のPLLACLは、厚さ100μmのフィルムを用いた。
図2は、リパーゼPSによるPLLACLの酵素分解試験の結果を示すグラフである。実験は、リン酸緩衝溶液(pH7)にリパーゼPS及びコポリマーを浸し、37℃で行った。リパーゼPSは、PCLに対して分解活性が高い酵素である。
PCLは、20時間で完全に分解した。LLA/CL組成比が12/88のコポリマーは、100時間で完全に分解しており、LLA含量の増加に伴い分解速度が遅くなった。また、PLLAは、ほとんど分解しておらず、240時間での残存重量率は約95%であった。
図3は、プロティナーゼKによるPLLACLの酵素分解試験の結果を示すグラフである。実験は、トリシン酸緩衝溶液(pH8)にプロティナーゼK及びコポリマーを浸し、37℃で行った。プロティナーゼKは、リパーゼPSと基質特性が異なり、PLLAに対して高い分解活性を示す酵素である。
PLLAは、240時間で残存重量率が約8%にまで減少していた。LLA含量が66%以上のコポリマーは、PLLAよりも分解速度が速くなっており、LLA/CL組成比が76/24のコポリマーは、80時間で完全に分解していた。PLLAよりも分解速度が速くなった理由としては、CLを含有することによりPLLAよりも結晶性が低下し、酵素が付着しやすく、分解しやすくなったことが考えられる。また、プロティナーゼKにより分解されやすいユニット(LLA)含量が減少することにより分解速度は遅くなり、組成比34/66のコポリマーは、240時間で残存重量率は約86%となった。
以上、本発明に係る徐放剤によれば、LLA含量がモル比で65%以上98%以下のPLLACLを基材として用いることにより、LLAに比べ、少なくとも2倍量の徐放対象成分を含浸させることができる。したがって、徐放期間内に高濃度の徐放対象成分を放出させることができる。また、少なくとも3ヶ月の徐放期間を有するため、害虫駆除等に用いることができる。
以下、徐放材料となる生分解性ポリマーとして、ポリエステル系のポリ乳酸(PLLA)とその共重合体であるL−ラクチド/トリメチレンカーボネート共重合体(PLLATMC)、L−ラクチド/2,2−ジメチルトリメチレンカーボネート共重合体(PLLA22DTMC)、L−ラクチド/テトラメチレンカーボネート共重合体(PLLATEMC)、L−ラクチド/グリコリド共重合体(PLLAGL)、L−ラクチド/D,L−ラクチド共重合体(PLLADLLA)、D,L−ラクチド/ε−カプロラクトン共重合体(PDLLACL)等を用いて実験を行った。
PLLA22DTMCの組成比に対する注入量の影響
PLLAとその重合体であるPLLA22DTMCへのd−リモネンの注入試験を行った。d−リモネンは、柑橘類の果皮やスギの木などに含まれる昆虫などに対する忌避効果を有するテルペン系炭化水素である。
(実施例13)所定量のLLA((3S)-cis-3,6-Dimethyl-1,4-dioxane-2,5-dione:Sigma-Aldrich社製)と22DTMC(宇部興産(株)社製)とを、モノマーとしてシュレンクチューブ(φ16mm×110mm:二葉理化製作所社製)に仕込み、触媒としてStannous 2-Ethyl-Hexanoate(Sigma-Aldrich社製)を加え、脱気とアルゴンガス置換をした後、120℃のオイルバスにて24時間重合を行い、PLLA22DTMCを合成した。この共重合体の組成比(LLA/22DTMC)を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定したところ、76/24であった。また、このサンプルをフィルム厚さ100μmのフィルム状に成形した。
PLLA22DTMCへのd−リモネンの注入は、超臨界二酸化炭素流体装置((株)AKICO社製)により実施した。ステンレス製耐圧容器(0.5L)にPLLA22DTMC0.3g、及び耐圧容器内の濃度が4.0g/Lになるようにd−リモネンをセットし、超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下(温度40℃、圧力20MPa)で3時間攪拌(100rpm)した。その後、圧力を3時間かけて緩やかに減圧し、サンプルを耐圧容器から取り出し、重量を測定した。注入処理後のサンプルには、d−リモネンの他に二酸化炭素が含まれているため、d−リモネンの注入量を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定した。
(実施例14)組成比(LLA/22DTMC)が90/10のPLLA22DTMCを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例8)組成比(LLA/22DTMC)が0/100、つまり22DTMCを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例9)組成比(LLA/22DTMC)が10/90のPLLA22DTMCを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例10)組成比(LLA/22DTMC)が36/64のPLLA22DTMCを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例11)組成比(LLA/22DTMC)が58/42のPLLA22DTMCを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
表9に実施例13、14及び比較例6、8〜11の実験結果を示す。
PLLA(比較例6)と22DTMC(比較例8)の単独重合体へのd−リモネンの注入量は、それぞれ1.20%と2.10%であった。LLAの増加に伴い、共重合体へのd−リモネンの注入量は増加する傾向にあり、LLA/22DTMC組成比が76/24の時に最も注入量は高く5.02%であった。組成比が36/64(比較例10)と58/42(比較例11)の共重合体への注入試験では、共重合体の融解がみられた。また、PLLACLでは、組成比が85/15(実施例4)の共重合体が最も注入量が高く3.19%であったが、今回のPLLA22DTMCへの注入実験の結果、実施例13は、実施例4よりもd−リモネンの注入量が1.6倍増加していた。
PLLA22DTMCは、PLLAよりも融点やガラス転移温度が低く、また、結晶性の程度を表す融解熱も低く、scCO2による可塑化が進行したことによって注入量が増加したことが考えられる。さらに、22DTMCは、カーボネート結合を有する化合物であり、この結合はCO2と同様の化学構造であるため、d−リモネンが溶解したCO2の共重合体への溶解度が増加したことも考えられる。以上のような要因により、PLLAよりもPLLA22DTMCの方がd−リモネンの注入量が増加したものと推察できる。
他のポリ乳酸共重合体への注入試験
PLLA22DTMC以外のその他のポリ乳酸共重合体についても、同様の注入実験を行った。ポリ乳酸共重合体には、PLLAGL、PLLADLLA、PDLLACLを用い、注入実験はPLLACLやPLLA22DTMCと同じ条件で実験を行った。
(実施例15)組成比(LLA/GL)が80/20のPLLAGLを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(実施例16)組成比(LLA/DLLA)が80/20のPLLADLLAを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例12)組成比(LLA/GL)が49/51のPLLAGLを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例13)組成比(LLA/DLLA)が20/80のPLLADLLAを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例14)組成比(LLA/DLLA)が50/50のPLLADLLAを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例15)組成比(DLLA/CL)が19/81のPDLLACLを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例16)組成比(DLLA/CL)が51/49のPDLLACLを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例17)組成比(DLLA/CL)が83/17のPDLLACLを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
(比較例18)組成比(DLLA/CL)が91/9のPDLLACLを基材に用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
表10に実施例15、16及び比較例12〜18の実験結果を示す。
組成比(LLA/GL)が49/51(比較例12)と80/20(実施例15)について実験を行ったところ、d−リモネンの注入量は、それぞれ1.30%と1.67%であった。GLはLLAと同様に一般的に親水性が高い化合物として知られており、この共重合体は、d−リモネンとの相溶性があまり高くないが、この実施例15は、比較例12よりも注入量が多かった。
PLLADLLAについては、組成比が50/50(比較例14)のときに、注入量が最も高く7.35%となっているが、組成比が20/80(比較例13)と50/50(比較例14)の共重合体は、融解がみられた。DLLAは非晶性化合物であり、共重合体の融解を促進したものと思われる。非晶性であるDLLAを20mol%程度含有する共重合体(実施例16)においては、融解はみられず、注入量は4.01%であった。これは、PLLAへの注入量である1.20%と比べて3.3倍の増加であった。
PDLLACLへの注入試験の結果は、モノマーに非晶性のDLLAを用いているために全共重合体において融解がみられた。1H NMRによる測定では、注入量は組成比91/9(比較例18)において、最も高く5.73%となっており、LLACLと同様にCL含有量の増加に伴い、d−リモネンの注入量は減少する傾向であった。
LLA含量約80%のポリ乳酸共重合体の注入量の比較
表11にLLA含量約80%のポリ乳酸共重合体へのd−リモネンの注入量を比較した結果を示す。また、表12にポリ乳酸共重合体の熱的特性を示す。
なお、実施例17、18は、それぞれ、LLAとトリメチレンカーボネート(TMC)との共重合体、及びLLAとテトラメチレンカーボネート(TEMC)との共重合体を用いた以外は、実施例13と同様にしてd−リモネンを注入した。
ポリエステル共重合体(PLLAGL、PLLADLLA、PLLACL)において、エステル結合間のメチレン鎖長の短いGL(C1)を20%含有するポリ乳酸共重合体は、d−リモネンの注入量が、1.67%でポリ乳酸の結果(1.20%)より少しの増加が見られた。一方、メチレン鎖長の長いCL(C5)を15%含有するポリ乳酸共重合体は、d−リモネンの注入量が3.19%となっており、PLLAGLと比べて2.4倍増加していた。これは、CLがGLよりも疎水性が高く、ポリ乳酸共重合体の疎水性を増加させたことにより、親油性の性質を有するscCO2になじみやすくなり、注入量を増加させたことを示している。
PLLADLLAへの注入量は、4.01%であった。LLA、DLLAは、共にGLにメチル基が結合した構造であり、GLよりも疎水性は高い。さらに、LLAは、光学活性化合物であるのに対し、DLLAは、光学活性化合物ではない。このDLLAがポリ乳酸共重合の光学活性を低下させ、光学活性の低下はポリマー構造の結晶性あるいは融点を低下させる原因になる。結晶性や融点の低下は、scCO2に対する溶解性を増加させることになり、LLA単体で構成されるポリ乳酸よりもd−リモネン注入量を増加させた要因であると考えられる。したがって、ポリマーの疎水性の増加や結晶性あるいは融点の低下させることにより、目標とする化合物の注入量を増加できるものと考えられ、γ−ブチロラクトンやδ−バレロラクトンなどのラクトン類も同様の効果が期待できるものと考えられる。
また、ポリエステルカーボネート共重合体(PLLATMC、PLLA22DTMC、PLLATEMC)において、何れの共重合体もd−リモネンの注入量は5%以上であった。中でも置換基の無いTMC(C3)やTEMC(C4)は、高い値を示していた。PLLATMC(86/14)、PLLA22DTMC(76/24)、PLLATEMC(81/19)の融点・融解熱は、それぞれ、48.9℃・29.0J/g、138.6℃・24.4J/g、97.9℃・5.1J/gであり、融点が低下するに伴い注入量が増加していることから、注入量はメチレン鎖長の長さよりも融点に起因していると考えられる。なお、カーボネート類は、CO2と構造が類似のカーボネート結合を有していることから、CLなどのラクトン類から成る共重合よりも目的成分の注入量が増加したものと推察される。
以上の結果より、ポリエステル共重合体やポリエステルカーボネート共重合体のように、疎水性を増加させることや、結晶性あるいは融点を低下させることが可能なポリエステルアミド共重合体、ポリエステルエーテル共重合体等の共重合体も目的化合物の注入量を増加させることが可能な高分子材料として利用することができる。
生分解性ポリマー(フィルム状)への抗菌成分の注入試験
次に、上述した生分解性ポリマーに抗菌成分の注入試験を行った。抗菌成分としては、ヒノキ、ワサビ、茶葉などに含まれる、ヒノキチオール、イソチオシアン酸アリル、trans−2−ヘキセナール、trans−3−ヘキセナール、cis−3−ヘキセナールなどが知られているが、ここでは、trans−2−ヘキセナールやヒノキチオールを用いた。
(実施例19)組成比(LLA/CL)が81/19の共重合体(フィルム厚さ100μm)へのtrans−2−ヘキセナールの注入は、超臨界二酸化炭素流体装置((株)AKICO社製)により実施した。ステンレス製耐圧容器(0.5L)にPLLACL0.3g、及び耐圧容器内の濃度が4.0g/Lになるようにtrans−2−ヘキセナールをセットし、超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下(温度40℃、圧力20MPa)で3時間攪拌(100rpm)した。その後、圧力を3時間かけて緩やかに減圧し、サンプルを耐圧容器から取り出し、重量を測定した。注入処理後のサンプルには、trans−2−ヘキセナールの他に二酸化炭素が含まれているため、trans−2−ヘキセナールの注入量を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定した。
(実施例20)組成比(LLA/CL)が91/9のPLLACLを基材に用いた以外は、実施例19と同様にしてtrans−2−ヘキセナールを注入した。
(実施例21)組成比(LLA/GL)が80/20のPLLAGLを基材に用いた以外は、実施例19と同様にしてtrans−2−ヘキセナールを注入した。
(比較例19)組成比(LLA/CL)が49/51のPLLACLを基材に用いた以外は、実施例19と同様にしてtrans−2−ヘキセナールを注入した。
(比較例20)組成比(LLA/CL)が60/40のPLLACLを基材に用いた以外は、実施例19と同様にしてtrans−2−ヘキセナールを注入した。
(比較例21)組成比(DLLA/CL)が59/41のPDLLACLを基材に用いた以外は、実施例19と同様にしてtrans−2−ヘキセナールを注入した。
(比較例22)組成比(DLLA/CL)が71/29のPDLLACLを基材に用いた以外は、実施例19と同様にしてtrans−2−ヘキセナールを注入した。
(比較例23)PLLAを基材に用いた以外は、実施例19と同様にしてtrans−2−ヘキセナールを注入した。
表13にPLLAとその共重合体であるPLLACL、PLLAGL、PDLLACLへのtrans−2−ヘキセナールの注入結果を示す。
PLLACLに対するtrans−2−ヘキセナールの注入量は、組成比49/51(比較例19)のときに、0.86%となっており、LLA含量の増加に伴い注入量は増加していた。PLLACLへのtrans−2−ヘキセナールの注入量は、d−リモネンの注入量と比べて低くなっていた。これは、trans−2−ヘキセナールのscCO2への溶解度がd−リモネンと比べて低いことが原因であると考えられる。実施例20に示すようにLLA含量が多い共重合体(組成比91/9)では、trans−2−ヘキセナールの注入量は2.56%と多くなる傾向にあった。同様の組成比(92/8)の共重合体へのd−リモネンの注入量は2.15%であった。以上のことから、LLA含量が多い共重合体では、trans−2−ヘキセナールの注入量が多くなることが分かった。これは、LLAとtrans−2−ヘキセナールの相溶性が高いことが原因であると考えられる。
相溶性を明確にするために、LLAGLへのtrans−2−ヘキセナールの注入実験を行った。実施例21に示すようにLLAGL(組成比80/20)への注入量は2倍以上になっていた。GLはLLAと同様にCLと比べて構造上疎水性が低いことからtrans−2−ヘキセナールのような化合物と相溶しやすいことが考えられる。
DLLACLについては、DLLAを含有する共重合体が非晶性ポリマーであることから反応条件下でポリマーの融解がみられたが、組成比71/29でtrans−2−ヘキセナールの注入量は3.31%となっていた。
また、ヒノキチオールの注入試験を、PLLA22DTMCの組成比を変えて行った。
(実施例22)(LLA/22DTMC)が79/21の共重合体(フィルム厚さ100μm)へのヒノキチオールの注入は、超臨界二酸化炭素流体装置((株)AKICO社製)により実施した。ステンレス製耐圧容器(0.5L)にPLLA22DTMC0.3g、及び耐圧容器内の濃度が4.0g/Lになるようにヒノキチオールをセットし、超臨界二酸化炭素(scCO2)雰囲気下(温度40℃、圧力20MPa)で3時間攪拌(100rpm)した。その後、圧力を3時間かけて緩やかに減圧し、サンプルを耐圧容器から取り出し、重量を測定した。注入処理後のサンプルには、ヒノキチオールの他に二酸化炭素が含まれているため、ヒノキチオールの注入量を1H NMR(核磁気共鳴装置:JNM-ECP400、日本電子(株)社製)により測定した。
(実施例23)組成比(LLA/22DTMC)が86/14のPLLA22DTMCを基材に用いた以外は、実施例22と同様にしてヒノキチオールを注入した。
(実施例24)組成比(LLA/22DTMC)が91/9のPLLA22DTMCを基材に用いた以外は、実施例22と同様にしてヒノキチオールを注入した。
(実施例25)組成比(LLA/22DTMC)が98/2のPLLA22DTMCを基材に用いた以外は、実施例22と同様にしてヒノキチオールを注入した。
(比較例24)組成比(LLA/22DTMC)が100/0、すなわちPLLAを基材に用いた以外は、実施例22と同様にしてヒノキチオールを注入した。
表14にPLLAとの共重合体であるPLLA22DTMCへのヒノキチオールの注入試験の結果を示す。
PLLA共重合体(PLLACL、PLLAGL、PLLA22DLLA)へのd−リモネンの注入量は、融解した共重合体を除いて、PLLA22DTMC(76/24)が最も注入量が高くなっていたので、ヒノキチオールのPLLA共重合体への注入は、PLLA22DTMCを用いて実験を行った。PLLAへのヒノキチオールの注入実験(温度40℃、圧力20MPa、時間3h)において、PLLAへの注入量は、2.41%となっており、d−リモネン注入量1.20%と比べて注入量は2倍増加していた。これは、ヒノキチオールのscCO2に対する溶解度がd−リモネンの溶解度よりも高いことを示している。PLLA22DTMCについても同条件下で実験を行ったところ、組成比98/2の共重合体(実施例25)への注入量は7.92%となっており、scCO2への溶解度が高いと考えられる22DTMC含量の増加に伴い、共重合体への注入量は増加していた。組成比91/9の共重合体(実施例24)への注入量は10.58%となっており、一方、同じ共重合体(組成比90/10)へのd−リモネンの注入量は4.59%であり、ヒノキチオールの注入量の約1/2となっていた。
以上の結果から、scCO2によるポリマーへの有用成分の注入は、基材となるポリマーと、有用成分のscCO2への溶解性と、ポリマーと有用成分の相溶性とが大きな要因となることが分かった。
生分解性ポリマーの分解試験
本徐放剤の徐放性は、加水分解性に依存するため、分解性について評価した。分解性については、加水分解性と酵素分解性について検討した。加水分解性については、トリシン緩衝溶液(pH8.0)における37℃での分解試験を行った。その結果、PLLAは、350日まで残存重量率が約97%でほとんど分解が進行していないが、350日以降になると徐々に重量減少がみられ、500日で完全に溶解した。注入試験に使用したPLLA共重合体(PLLACL、PLLAGL、PLL22DTMC)の加水分解性は、LLA含量が80%前後の共重合体において加水分解速度は速く、100日前後で完全に分解した。
図4は、プロティナーゼKによるPLLA22DTMCの酵素分解試験の結果を示すグラフである。実験は、トリシン酸緩衝溶液(pH8)にプロティナーゼK及びコポリマーを浸し、37℃で行った。プロティナーゼKは、PLLAに対して高い分解活性を示す酵素である。
PLLAの残存重量率は、240時間で約8%にまで減少した。22DTMC含量が18%以下のPLLA22DTMCは、PLLAよりも分解速度が速く、組成比98/2の共重合体は、160時間で完全に分解していた。PLLAよりも分解速度が速くなった理由としては、22DTMCを含有することによりPLLAよりも結晶性が低下し、酵素に分解されやすいLLAが減少するに伴い分解速度は遅くなり、組成比34/66の重合体は、分解速度が遅く240時間で残存重量率は、約93%となっていた。その他の共重合体についても、同様の結果となっており、LLA含量が80%以上の共重合体はPLLAよりも分解速度が速かった。
以上の結果より、本発明に係る徐放剤によれば、分解の進行に伴いポリマー内に取り込まれている有用成分を徐々に放出することができる。
PLLACLのLLA含量に対する注入量を示すグラフである。
リパーゼPSによるPLLACLの酵素分解試験の結果を示すグラフである。
プロティナーゼKによるPLLACLの酵素分解試験の結果を示すグラフである。
プロティナーゼKによるPLLA22DTMCの酵素分解試験の結果を示すグラフである。