JP5457938B2 - 疲労亀裂進展抑制特性および靭性に優れた鋼板 - Google Patents
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{(α/5)+[(β×50)/(2α+40)]}×(γ/3) ≧1200…(1)
但し、α:上記結晶粒の平均円相当径(μm)
β:上記結晶粒のフェライト相全体に占める面積率(面積%)
γ:フェライト相の平均硬さ(Hv)
本発明の鋼板では、良好な靭性を確保するために、組織中のフェライト相の割合を90面積%以上とすると共に、フェライト相の平均硬さを150Hv以下とする必要がある。フェライト相の割合が90面積%よりも少なかったり、フェライト相の平均硬さが150Hvを超えると、鋼板としての基本的な靭性が確保できなくなる。フェライト相の割合は好ましくは95面積%以上であり、フェライト相の平均硬さは好ましくは100Hv以下である。尚、これらの対象とするフェライト相は、隣接する2つのフェライト結晶の方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた領域のものの他、方位差が15°未満の小角粒界のものも含めた趣旨である。
上記のようなフェライト組織では何通りかの方位関係を持って生成することになるのであるが、鋼板の化学成分組成、組織の生成温度、その他の条件等によって選択される各結晶格子の方位関係が変化することになり、一定の結晶方位差を有する結晶粒界では、特に疲労亀裂進展が抑制される。亀裂進展の際に粒界と亀裂が衝突する頻度を高めれば、亀裂の進展が抑制できるものと考えられた。こうした観点から、大角粒界粒のフェライト相全体に占める面積率は80%以上とする必要があり、これより少なくなると、疲労亀裂進展抑制特性が低下することになる。この面積率は、好ましくは90%以上である。尚、粒界を形成する両端の方位差が小さい(例えば、15°未満の)小角粒界(小傾角境界)では、粒界エネルギーが小さくなってその効果が小さいので、前記方位差が15°以上の大角粒界(大傾角境界)を対象とする必要がある。
{(α/5)+[(β×50)/(2α+40)]}×(γ/3) ≧1200…(1)
但し、α:上記結晶粒の平均円相当径(μm)
β:上記結晶粒のフェライト相全体に占める面積率(面積%)
γ:フェライト相の平均硬さ(Hv)
Cは、鋼板の強度を確保するために必要な元素であり、また疲労亀裂進展抑制特性を発揮させるためにも有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、0.010%を超えて含有させる必要がある。しかしながら、C含有量が過剰になると、硬質相が生成して靭性が却って低下することになる。こうしたことから、C含有量の上限は0.15%とした。尚、C含有量の好ましい下限は0.012%以上(より好ましくは0.015%以上)であり、好ましい上限は0.10%(より好ましくは0.08%以下、更に好ましくは0.04%以下)である。
Siは、鋼板の強度を確保のために有効な元素である。しかしながら、Si含有量が過剰になると、鋼板(母材)に島状マルテンサイト相(M−A相)が多量に析出して靭性を却って劣化することになる。こうしたことから、Si含有量の上限は1.5%とした。尚、Si含有量の好ましい下限は0.1%以上(より好ましくは0.2%以上)であり、好ましい上限は0.4%(より好ましくは0.3%以下)である。
Mnは、焼入れ性を向上させて鋼板強度を確保する上で有効な元素であり、また疲労亀裂進展抑制特性を発揮させるためにも有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Mnは0.40%を超えて含有させる必要がある。しかしながら、過剰に含有させるとフェライト量が減少し、鋼板の靭性が劣化するので、2.5%以下とする必要がある。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.42%以上(より好ましくは0.45%以上)であり、好ましい上限は1.5%以下(より好ましくは1.0%以下)である。
Pは、不可避的に混入してくる不純物であり、鋼板の靭性に悪影響を及ぼすので、できるだけ少ない方が好ましい。こうした観点から、P含有量は0.015%以下に抑制するのが良い。好ましくは、0.01%以下とするのが良い。尚、Pは鋼に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%とすることは、工業生産上、困難である。
Sは、鋼板中の合金元素と化合して種々の介在物を形成し、鋼板の延性や靭性に有害に作用する不純物であるので、できるだけ少ない方が好ましいのであるが、実用鋼の清浄度の程度を考慮して0.01%以下(好ましくは0.005%以下)に抑制するのが良い。尚、Sは鋼に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%とすることは、工業生産上、困難である。
Alは脱酸剤として有効な元素であると共に、鋼板のミクロ組織の微細化による母材靭性向上効果も発揮する。こうした効果を発揮させるためには、Al含有量は0.005%以上とする必要がある。しかしながら、Al含有量が過剰になると、鋼板(母材)に島状マルテンサイト相(M−A相)が多量に析出して靭性を却って劣化することになる。こうしたことから、Al含有量の上限は0.06%とした。尚、Al含有量の好ましい下限は0.010%以上であり、好ましい上限は0.04%以下(より好ましくは0.03%以下)である。
Nは、Al,Ti,Nb,B等の元素と結合し、窒化物を形成して母材組織を微細化させる効果があると共に、溶接時のオーステナイト粒の微細化や粒内組織を微細化し、靭性を向上させ元素である。こうした効果を発揮させるためには、Nは0.0040%以上(好ましくは0.0050%以上)含有させる必要がある。しかし、固溶Nは靭性を劣化させる原因となる。全窒素量の増加により、前述の窒化物は増加するが固溶Nも過剰となり、有害となるため、0.010%以下とする必要がある。好ましくは0.008%以下に抑える。
これらの元素は、焼入れ性を高めて鋼板の強度を向上させるため、必要に応じて1種以上が添加される。このうち、CuとNiについては、好ましい含有量は0.2%以上(より好ましくは0.4%以上)である。しかしながら、それらの含有量が2%を超えると母材靱性および疲労亀裂進展抑制特性が低下する傾向があるため、いずれも上限は2%(両方含有させる場合は、合計で4%以下)とすることが好ましく、より好ましくはいずれも1%以下とする。
TiはNと窒化物を形成してオーステナイト粒を微細化したり、固溶Nの固定作用があり、脆性改善に有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、含有量は0.01%以上であることが好ましい。しかしながら、0.03%を超えて過剰に含有させると母材靱性および疲労亀裂進展抑制特性を劣化させるため、その上限は0.03%以下とすることが好ましい(より好ましくは0.02%以下)。
累積圧下率=(t0−t1)/t0×100 …(2)
〔(2)式中、t0は圧下開始時の鋼片の厚みを表し、t1は圧下終了時の鋼片の厚みを表す。〕
下記表1、2に示す化学成分組成の各鋼種スラブ(鋼種M1〜M17、B1〜B27)を用い、下記表3、4に示す製造条件(スラブ加熱温度、再結晶温度域での累積圧下率、仕上げ圧延温度、圧延後400℃までの平均冷却速度)によって鋼板を製造した。尚、いずれの鋼板も仕上げ厚さは40mmである。
代表的な特性を示す位置として鋼板表面より深さt/4(t=板厚)の部位を選び、この位置から鋼板の圧延方向に平行で且つ鋼板の表面に対して垂直な面が露出するように試験片(15mm×15mm×10mm)を切り出し、この試験片を、2%硝酸−エタノール溶液(ナイタール溶液)で腐食した。次いで、光学顕微鏡において、175μm×150μmの視野を倍率400倍で観察し、10箇所の写真撮影を行った。得られた10枚の顕微鏡写真について、透明フィルムにフェライト以外の部位を映し取った後、Media Cybernetics社製「Image-Pro Plus」での画像解析により、写真全体100%からフェライト以外の部分を差し引いた面積率をフェライト分率として算出した。また、フェライトの硬さについては、上記と同じ試験片において、荷重5〜10gのマイクロビッカース硬さを10点測定し、その平均値を求めた。
大角粒界径および方位差は、EBSP解析装置(電子後方散乱回折解析装置:「TexSEM」Laboratories社製)、およびFE-SEM(電解放出型操作電子顕微鏡:「XL30S-FEG」Philips社製)を用いて測定した。傾角が5°以上の境界をフェライト粒径として、その大きさ(円相当径)を測定した。このときの測定条件は、測定領域:250μm×250μm、測定ピッチ:0.4μm間隔とし、測定方位の信頼性を示すコンフィデンス・インデックス(Confidence Index)が0.1よりも小さい測定点は解析対象から除外した。また、フェライト粒径が2.0μm未満のものについては、測定ノイズと判断し、フェライト粒径の計算の対象から除外した。また上記測定で得られたフェライト粒から、隣り合うフェライト粒との境界において傾角15°以上となっている粒を特定し、その割合(大角粒界粒の割合)を求めた。
鋼板表面より深さt/4(t=板厚)の部位から、亀裂進展方向が圧延方向に垂直な方向(板幅方向)のとなるように、ASTM E647に記載のコンパクトテンション試験片(CT試験片)を切り出した。このCT試験片を、サーボパルサ装置(試験装置:±50kN島津製作所製電気油圧サーボ式疲労試験機)にて、室温、大気中、繰り返し速度:30Hzおよび応力比(最大応力に対する最小応力の比):0.1の条件で疲労試験を行ない、応力拡大係数の範囲(ΔK)=20MPa√mにおける疲労亀裂進展速度(mm/cycle)を測定した。測定された疲労亀裂進展速度が、9.0×10-6(mm/cycle)以下のものを疲労亀裂進展抑制特性が優れると評価した。
鋼板表面より深さt/4(t=板厚)の部位から圧延方向に平行にVノッチ試験片を採取し、JIS Z2242に規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度vTrsを求めた。破面遷移温度vTrsが0℃以下のものを靭性に優れると評価した。
Claims (3)
- C:0.010超〜0.15%(「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、Si:1.5%以下(0%を含まない)、Mn:0.40超〜2.5%、P:0.015%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、Al:0.005〜0.06%、N:0.0040〜0.010%を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物であり、フェライト相が90面積%以上の組織からなると共に、フェライト相の平均硬さが150Hv以下であり、隣接する2つのフェライト結晶の方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、当該結晶粒のフェライト相全体に占める面積率が80%以上であると共に、平均円相当径が20〜150μmであり、且つ下記(1)式の関係を満足することを特徴とする疲労亀裂進展抑制特性および靭性に優れた鋼板。
{(α/5)+[(β×50)/(2α+40)]}×(γ/3) ≧1200…(1)
但し、α:上記結晶粒の平均円相当径(μm)
β:上記結晶粒のフェライト相全体に占める面積率(面積%)
γ:フェライト相の平均硬さ(Hv) - 更に、Cu:2%以下(0%を含まない)、Ni:2%以下(0%を含まない)、Cr:2%以下(0%を含まない)、Mo:0.5%以下(0%を含まない)、V:0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.04%以下(0%を含まない)、B:0.0040%以下(0%を含まない)、Co:2.5%以下(0%を含まない)およびW:2.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1に記載の鋼板。
- 更に、Ti:0.03%以下(0%を含まない)、Zr:0.1%以下(0%を含まない)およびHf:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1または2に記載の鋼板。
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