以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100の概略構成図である。以下、図1を参照しながら、薄板検査装置100の構成について説明する。また、図1を含め、以下の図面においては、各構成部材同士の大きさの関係を限定するものではなく、実際のものとは異なる場合がある。
[薄板検査装置100の全体構成]
本実施の形態1に係る薄板検査装置100は、少なくとも、薄板である測定対象物1に対して超音波を放射する超音波発生部20、測定対象物1を固定させずに設置させる支持手段30、測定対象物1を支持手段30に支持する際に測定対象物1の支持位置を決定する位置決定部40、超音波発生部20によって加振された測定対象物1から発生する音を検出して解析するクラック有無判断部50によって構成されている。
超音波発生部20は、少なくとも、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電素子10aが設けられた振動部10、その振動部10の一端側(紙面下側)に取り付けられ、円錐台形状に構成されたホーン11、そのホーン11の一端側(紙面下側)に固着され、金属板(剛体)で構成された振動板12、及び、振動部10の圧電素子10aにパルス電圧を印加する発振部13によって構成されている。なお、超音波発生部20は、本発明の「加振部」に相当する。
支持手段30は、少なくとも、錐状の先端で測定対象物1を固定させずに支持する突起部31と、この突起部31が設置される棒状の突起部設置部32と、で構成されている。
位置決定部40は、支持手段30によって測定対象物1を支持する際に、測定対象物1の載置位置の決定を補助する機能を有している。たとえば、棒状部材又は壁部を、予め決定されている測定対象物1の載置位置の外側のうち少なくとも2箇所に設置し、それらに囲まれた範囲に測定対象物1の載置を促すことで、測定者は測定対象物1を予め決定されている載置位置に載置することができる。
クラック有無判断部50は、超音波発生部20から照射される超音波により支持手段30に支持された測定対象物1が振動することによって発生する音を検出する音検出装置51、及び、その音検出装置51によって検出された音の音響エネルギーを解析する音響エネルギー解析部52によって構成されている。なお、クラック有無判断部50は、本発明の「検知部」に相当する。
(測定対象物1)
測定対象物1は、薄板検査装置100の構成ではないが被検体であるのでここで詳しく説明しておく。測定対象物1は、たとえばシリコン基板あるいは太陽電池用セル等の半導体ウェハ基板、又は、金属材料等の薄い板状のもの、つまり薄板であるとする。また、測定対象物1の平面形状を特に限定するものではなく、たとえば平面形状が四角形状であってもよく、円形状であってもよい。この測定対象物1は、振動板12と音検出装置51との間の空気層において、振動板12におけるホーン11が設置された面とは反対側の面に対向するように、支持手段30における突起部31の上に固定されずに載置される。
そして、測定対象物1は、振動板12から放射される超音波を受けて振動することになる。図1で示されるように、上記のような測定対象物1による振動の幅を、変位量Δr2とする。なお、測定対象物1は、測定対象物1の振動を抑制しないような位置(たとえば、測定対象物1の外周側近辺)で突起部31に載置されるとよい。
(超音波発生部20)
振動部10は、15kHz〜45kHz帯域内に共振周波数f0を有する圧電素子10aを挟み込んで備えており、その圧電素子10aで発生した振動を伝播する金属(剛体)によって形成されている。
圧電素子10aは、正電極端子及び負電極端子を介して発振部13に接続され、その発振部13から印加されるパルス電圧によって振動する。このとき、圧電素子10aは、発振部13から共振周波数f0近傍のパルス電圧が印加されることによって、共振周波数f0近傍にピークを有する振動を発振する。
ホーン11は、圧電素子10aを備えた振動部10から発生する振動の振幅を増幅する機能を有している。このホーン11は、上下両端面が開口され、内部に振動部10から発振された振動を増幅して振動板12に伝播させる音響通路が形成されている。そして、ホーン11は、振動部10と振動板12との間に挟持されている。また、ホーン11は、略円錐台形状に構成され、振動部10側から振動板12に向けて徐々に縮径されているのが好ましい。ホーン11の形状には円錐台形状以外にもステップ型、指数型等の形状が一般的に存在するが、円錐台形状とし、振動部10側から振動板12に向けて徐々に縮径する方が、圧電素子10aとの周波数ずれを少なくすることができ、振動板12の振動の仕方を制御しやすい。
振動板12は、金属板(剛体)によって構成され、ホーン11の両端の開口部のうち、振動部10側に固定された一方の開口部の反対側の開口部にネジ止め又は接着等によって固着されている。また、振動板12は、振動部10から発生する振動の振動エネルギーがホーン11を介して伝播され、振動部10の振動と共振して強力な共振波を発生する。すなわち、振動板12は、振動部10の圧電素子10aが共振周波数f0で振動することによって、同様に共振周波数f0によって共振するように構成されている。
なお、正確には圧電素子10aの共振周波数f0と振動板12の共振周波数f0については、振動板12の接合方法やホーン11の形状により0.1kHz程度のずれが生じる場合があるが、測定上に影響はなく、誤差としてよい。
発振部13は、圧電素子10aに接続され、圧電素子10aに共振周波数f0近傍のパルス電圧を印加する機能を有している。
図1で示されるように、振動板12による振動の幅を、変位量Δr1とする。また、振動板12は、振動によってその両面(ホーン11側の面及びその反対側の面)の全体から超音波の音響流を放射する。振動板12を、振動部10から発生する高周波数の振動の「腹」の部分に当たるように固着すれば、振動板12が特定の振動モードで振動することになり、振動板12と測定対象物1との間には、空気の疎密を繰り返す定在波による音響流が発生することになる。また、この振動板12の平面の面積である板面積は、測定対象物1の板面積と同等以上であるものとする。これによって、振動板12の振動によって、測定対象物1全体に縦波を主とする均一な振動による音波を与えることができ、測定対象物1の形状及び支持手段30の設置位置に関わらず、測定対象物1のクラックの有無の検知について安定した測定が可能となる。
なお、図1で示されるように、振動部10と振動板12との間にホーン11が設置される構成としているが、これに限定されるものではなく、ホーン11を設けず、振動板12を振動部10に直接取り付けるものとしてもよい。たとえば、振動板12を密度が小さく弾性の高い素材であるアルミ等の軽量な素材によって構成し、さらに、圧電素子10aが、発振部13からより高電圧なパルス電圧を印加さえることによって、ホーン11を設けなくても高周波数の音波を放射することが可能であり、ホーン11が必ずしも必要というわけではない。
(支持手段30)
突起部31は、小さな面積の先端で測定対象物1と接触し、測定対象物1を固定させずに支持するものである。このように、測定対象物1と突起部31との接触面積を小さくすることで、振動板12から放射される超音波によって測定対象物1の振動に対する支持手段30の影響を小さくしている。つまり、測定対象物1と突起部31との接触面積を小さくすることで、測定対象物1の振動を抑制しないようにしているのである。
また、突起部31の構成材料としては、シリコンゴム等の樹脂材料が望ましい。ただし、測定対象物1を超音波によって振動させる必要があるため、振動を吸収低減しないような剛性が要求される。さらに、突起部31は、測定対象物1の大きさや平面形状にもよるが、測定対象物1を下側から支持するために少なくとも2つ以上備えていればよい。突起部31は、先端面積が小さいほど好ましい。たとえば、先端部の直径を1mm程度にすればよい。なお、突起部31の先端部分が錐状、つまり測定対象物1との接触部分が点(点に近い形状)になっていればよく、その全体が錐状である必要はない。上記のような機能を発揮できればよく、突起部31の大きさや形状を特に限定するものではない。
突起部設置部32は、測定対象物1の外側から内側に向かって測定対象物1と略平行となるように延設された部分を有している。突起部設置部32の測定対象物1の外周外側に延びている一端はたとえば支持台(図2で示す支持台60)に固定されている。そして、突起部設置部32の他端側に突起部31が設置されている。突起部設置部32を備えることによって、測定対象物1を可能な限り露出させることを可能にしている。すなわち、突起部設置部32は、測定対象物1の下面部分の露出を多くすることを可能にし、測定対象物1の下側空間を広くでき、突起部設置部32から生じるノイズの影響を非常に小さくことができる。また、突起部設置部32は、突起部31とともに、測定対象物1の振動を抑制しないようにしているのである。
また、突起部設置部32の構成材料としては、たとえば、金属材料や樹脂材料、木材等が考えられる。ただし、振動板12から放射される超音波によって突起部設置部32が振動してしまうと、測定対象物1の振動に影響を与えるだけでなく、雑音が発生することにもなってしまう。そこで、振動板12から放射される超音波の影響を受けやすい材料で突起部設置部32を構成した場合には、任意の振動低減部材を突起部設置部32に巻くようにするとよい。
さらに、突起部設置部32は、突起部31の個数に応じて設置個数を決定するとよい。なお、突起部設置部32は、先端側に突起部31を設置するとともに、測定対象物1を支持できるような形状であればよく、長さや太さ、断面形状等を特に限定するものではない。また、突起部設置部32を、まっすぐなものに限定するものではなく、途中で曲げるようにしてあってもよい。
(位置決定部40)
位置決定部40は、上述したように、予め決定されている測定対象物1の載置位置の外周のうち少なくとも2箇所に設置された棒状部材又は壁部で構成されている。なお、測定対象物1を検査する際に、測定対象物1が位置決定部40に接触してしまうと、測定対象物1の振動が抑制されてしまうことに留意しなければならない。そこで、位置決定部40は、測定対象物1の設置範囲よりも外側に設けるようにしている。
(クラック有無判断部50)
音検出装置51は、例えば、マイクロホン、音センサー、超音波センサー、又はこれらのいずれかを組み合わせたものによって構成され、振動板12から放射される超音波によって振動する測定対象物1から発生する音を検出するものである。この音検出装置51によって検出された音情報は、音響エネルギー解析部52に送信される。
なお、図1で示されるように、音検出装置51は、1つだけ備えられる構成としているが、これに限定されるものではなく、複数備えられる構成としてもよい。このように音検出装置51が複数備えられることによって、音検出装置51を1個設ける場合よりも、測定対象物1におけるクラックの検知範囲が広範囲となり、さらに、測定対象物1に発生したクラックの位置を決定できる等、クラック検知精度を向上させることができる。また、それぞれ感度の異なる音検出装置51を複数設けるものとしてもよく、この場合、測定対象物1に存在するクラックの大きさを、ある程度把握することができる。
音響エネルギー解析部52は、音検出装置51から受信した測定対象物1からの音情報に基づいて、その音の音響エネルギーを解析するものである。このとき、音響エネルギー解析部52は、たとえばその音情報に対してFFT(Fast Fourier Transform)処理を実施し、その音の音圧レベルを周波数の関数に変換することによって、その音の音響エネルギーを解析し、測定対象物1におけるクラックの有無を検知する。この音響エネルギー解析部52による測定対象物1におけるクラックの検知動作の詳細は、後述する。
なお、この音響エネルギー解析部52によってクラックの有無を検知する場合、その検知結果を報知する報知手段を設けてもよい。
[支持手段30及び位置決定部40の具体的な構成]
図2は、支持手段30及び位置決定部40の全体構成の概略を示す上面図である。図2に基づいて、支持手段30及び位置決定部40の具体的な構成について説明する。なお、図2では、便宜的に測定対象物1の設置位置を破線で表している。また、ここでは詳述しないが、支持台60の一対の側面にはレール駆動部62が設けられ、後述するレール部72aと共同することで支持台60はスライド移動可能になっている。なお、レール駆動部62としては、たとえばタイヤ等が好ましい。タイヤを設けておけば、レール部72a側から伝達される振動をタイヤで吸収することができ、測定対象物1に余計な振動を伝達させないようにできる。
図2に示すように、支持手段30及び位置決定部40は、支持台60に支持されている。支持台60は、上面視した状態において四角形状(たとえば、正方形や長方形等)となっている。支持台60の中央側に開口部62が形成されており、測定対象物1がセットされていない状態においては振動板12と音検出装置51とが開口部(後述の開口部72b)を介して連通するようになっている。また、支持台60の一側面(紙面右側の側面)には、取っ手61が設置されている。この取っ手61は、支持台60を引き出したり、押し込んだりする際に利用されるものである。なお、支持台60の上面視した形状を四角形状に限定するものではなく、角部が曲面を有していてもよい。
図2では、支持手段30を構成する突起部設置部32が支持台60の四隅に設けられている状態を例に示している。突起部設置部32は、一端が支持台60の四隅の一部に、他端が支持台60の中心側に、それぞれ位置するようになっている。上述したように、突起部設置部32の他端側には、突起部31が設置されている。なお、図2では突起部設置部32が支持台60の四隅に設けられている状態を例に示しているが、設置個数を特定に限定するものではない。また、図2では突起部設置部32が支持台60の対角線上に設置されている状態を例に示しているが、これも一例であり、突起部設置部32の取り付け位置及び取り付け角度を特に限定するものではない。
図2では、位置決定部40が測定対象物1の4側面の中間部に位置するように4箇所に設けられている状態を例に示している。位置決定部40は、一端が支持台60の4つの側面側の一部に、他端が測定対象物1の4側面の中間部に、それぞれ位置するようになっている。なお、図2では、位置決定部40の他端側を棒状部材で構成されている状態を例に示しているが、これに限定するものではないことは上述した通りである。
[薄板検査装置100によるクラック検知動作]
図3は、薄板検査装置100の検査対象となる測定対象物1が振動によって異音を発生する原理の説明図である。図4は、薄板検査装置100の検査対象となる測定対象物1から発生する音のFFT処理後の波形の例を示すものである。以下、図1〜図4を参照しながら、薄板検査装置100によるクラック検知動作について説明する。
まず、薄板検査装置100による検査対象である測定対象物1が、支持手段30に載置される。次に、発振部13は、圧電素子10aに対して、圧電素子10a及び振動板12の共振周波数f0近傍のパルス電圧を印加する。これによって、圧電素子10aは、印加されたパルス電圧によって、共振周波数f0近傍の周波数で振動し、この圧電素子10aを挟持した振動部10にその振動が伝播する。この振動部10の振動は、ホーン11によってその振幅が増幅され、振動板12に伝播する。そして、振動板12は、その全体が変位量Δr1で共振し、その共振に伴う高い音圧レベルを有する超音波が振動板12全体から放射される。これにより、測定対象物1は、その全体が加振され、変位量Δr2で振動することになる。
ここで、圧電素子10a及び振動板12の共振周波数f0は、以下の(1)及び(2)の理由によって、15kHz〜45kHz帯域内となるようにするとよい。
(1)15kHz未満だと人間の可聴領域となるため、人間の聴覚で感じ取ることが可能となり、使用者に不快感を与える可能性がある。
(2)45kHzを超えると周波数が大き過ぎて、十分な振幅が得られないため、音圧レベルが低下することになる。
測定対象物1によって、振動するのに必要なエネルギーは異なるが、測定対象物1が、たとえば半導体ウェハ又は太陽電池用セルである場合、その振動には130dB以上の音圧レベルが必要であることがわかっている。そこで、薄板検査装置100における超音波発生部20は、130dB以上の音圧レベルの超音波が発生できるように構成されている。振動板12から放射される超音波は、空気中にゆらぎを発生させ、超音波の波長に伴って、空気中に音圧(気圧)の「疎」の部分(減圧される部分)と「密」の部分(加圧される部分)とを生成する。つまり、「疎」の部分から「密」の部分に向かって空気の移動が発生する。
これによって、支持手段30上に載置された測定対象物1は、振動板12から放射される超音波の音圧によってその全体が振動することになる。この場合、振動板12は、測定対象物1の上面、すなわち測定対象物1における振動板12と対向する面が「密」の部分と近くなるように設置する必要がある。これは、測定対象物1における振動板12と対向する面と反対側の面が「密」の部分に近いと、測定対象物1において重力方向に空気の移動が発生するため、測定対象物1は、支持手段30に押し付けられる状態となり、測定対象物1の振動が抑制されてしまうためである。
以上のように、振動板12が放射する超音波によって、測定対象物1が振動すると、測定対象物1から音波である弾性波が発生する。ここで、固体中(自由音場)に生じる弾性波の縦波の伝播速度を下記の式(1)に、そして、固体中(自由音場)に生じる弾性波の横波の伝播速度を下記の式(2)に示す。
Cp=√[{E・(1−σ)}/{ρ・(1+σ)・(1−2σ)}] (1)
Cs=√[E/{ρ・2(1+σ)}] (2)
(Cp:縦波の伝播速度、Cs:横波の伝播速度、E:ヤング率、ρ:密度、σ:ポアソン比)
固体内部には縦波及び横波が伝播するが、固体内部ではポアソン比σは0.3程度が一般的であり、横波に比べて縦波の伝播速度の方が速くなる。測定対象物1におけるクラックの有無は、ヤング率Eの値を変化させるため、クラック有無による変化は、横波の伝播速度よりも縦波の伝播速度の方が大きく影響を受けるということが上記の式(1)及び式(2)から明らかとなる。また、空気を媒質とする振動は、空気中に気圧の疎密を作る縦波として伝播するため、振動板12から放射される超音波は、固体である測定対象物1に対しても縦方向の振動を与えやすいことになる。つまり、測定対象物1におけるクラックの有無は、測定対象物1からの音波である弾性波の伝播の仕方に大きく影響を与える。
次に、図3を参照しながら、クラックを有する測定対象物1が振動することによって、異音(ビビリ音)が発生する原理を説明する。図3においては、測定対象物1においてクラックが発生している状態が示されている。また、図3(a)は、測定対象物1のクラック部分の断面図を示し、32(b)は、その断面図のクラック部分の拡大図を示している。
図3(a)で示されるように、測定対象物1において、クラックを境にして右側部分をエリアA、そして、左側部分をエリアBとする。また、エリアAの幅、すなわち、クラックから測定対象物1の右端部までの距離をaとし、エリアBの幅、すなわち、クラックから測定対象物1の左端部までの距離をb(>a)とする。このとき、超音波発生部20から放射される超音波によって、測定対象物1におけるエリアAが振動する場合の振動周波数をfaとし、エリアBが振動する場合の振動周波数をfbとする。
図3(b)で示されるように、超音波発生部20が放射する超音波によってクラックを有する測定対象物1が縦方向に振動する場合、基本的にはエリアA及びエリアB共に振動するが、クラックを境にして、エリアAとエリアBとのヤング率に相違が発生し、振動周波数が異なることになる。このとき、エリアAにおける距離aの方が、エリアBにおける距離bよりも小さいため、エリアAの振動周波数faは、エリアBの振動周波数fbよりも高くなる。また、測定対象物1におけるクラックから両端部までの距離に関わらず、エリアA及びエリアBの振動には位相差φも生じる。このように、クラックを境にしたエリアAとエリアBとの振動周波数の相違、又は、振動の位相差によって、クラック部分が擦れ、異音(ビビリ音)が発生するのである。
次に、図4を参照しながら、クラック有無判断部50が測定対象物1から発生する音を検出して解析し、測定対象物1のクラックの有無を判定する動作を説明する。測定対象物1が発生する音は、クラック有無判断部50における音検出装置51によって検出される。音検出装置51によって検出された音情報は、音響エネルギー解析部52に送信される。音響エネルギー解析部52は、この音情報をFFT処理し、音の音圧レベルを周波数の関数に変換する。このFFT処理によって、測定対象物1からの音が有する様々な周波数成分において、それぞれの周波数成分の音圧レベルの大小がわかるようになる。
図4は、この音響エネルギー解析部52によってFFT処理された周波数の関数である音圧レベルの波形を示すものである。この図4のうち、図4(a)は、測定対象物1にクラックがない場合の音圧レベルの波形を示し、図4(b)は、測定対象物1にクラックがある場合の音圧レベルの波形を示すものである。この図4においては、横軸が振動周波数[Hz]を示し、縦軸がレスポンス(音圧レベル)[dB]を示している。
図4(a)で示されるように、測定対象物1にクラックが発生していない場合には、振動板12が共振周波数f0で振動しているときに(ア)で示された測定対象物1から主波長であるピーク周波数(発振周波数Fs)の音波が発生し、それ以外の(イ)で示される周波数領域には、周波数の変化は見られない。ここで、図4(a)で示される音圧レベルの波形と、その波形のうち(イ)で示される周波数領域の音圧レベルを平均したものを示す線Pとを比較すると、測定対象物1の発振周波数Fs近傍部分のみ線Pを超えるが、それ以外の周波数領域においてはこの線Pを超えない。
一方、図4(b)で示されるように、測定対象物1にクラックが発生している場合には、振動板12が共振周波数f0で振動しているときに(ア)で示された測定対象物1から主波長であるピーク周波数(発振周波数Fs)の音波が発生する他、それ以外の(ウ)で示される周波数領域には複数のピーク周波数成分が現れる。このように、測定対象物1から複数のピーク周波数成分を有する音波が放射されることによって、いわゆるビビリ音と呼ばれる異音が発生することになる。
このとき、図4(b)で示される音圧レベルの波形と、その波形のうち(ウ)で示される周波数領域の音圧レベルを平均したものを示す線Qとを比較すると、発振周波数Fs近傍部分が線Qを超えるのみならず、(ウ)で示される周波数領域の複数のピーク周波数成分のうち、線Qを超えるものがいくつか発生する。また、図4(b)で示されるように、線Qは、ピーク波形を有する(ウ)の周波数領域で音圧レベルが平均化されたものなので、線Pよりも高い値となっている。
音響エネルギー解析部52は、たとえば音圧レベル波形を平均化した前述の線Q(クラックが発生していない場合は線P)を演算し、この線Qを閾値として、この閾値を超えるピーク波形が、図4(b)における(ア)で示される発振周波数Fsにおけるピーク波形以外に存在すると判定した場合、測定対象物1にクラックが発生していると判定するものとすればよい。また、音響エネルギー解析部52によってFFT処理された音圧レベル波形の周波数の測定帯域を特に限定するものではないが、たとえば音検出装置51によって検出可能な5kHz〜80kHzの帯域とすればよい。
以上のように、音検出装置51によって検出された音を、音響エネルギー解析部52によってFFT処理して周波数応答として解析することによって、測定対象物1におけるクラック有無を容易に判定することができる。
なお、上記のように音響エネルギー解析部52による判定の閾値を、周波数の関数として示される音圧レベルを平均化した図4(b)で示される線Qとしたが、これに限定されるものではなく、音響エネルギー解析部52は、測定対象物1にクラックが発生していない場合の測定結果から、予め閾値(例えば、線P)を定めておき、この閾値に基づいて、クラックの有無を判定してもよく、あるいは、任意に定めた所定の閾値に基づいて、クラックの有無を判定するものとしてもよい。
また、音響エネルギー解析部52に接続された表示装置を備えるものとしてもよく、この表示装置が、音響エネルギー解析部52によってFFT処理が実施され、周波数の関数として示された音圧レベルの波形、及び、その波形から測定対象物1におけるクラックの有無の判定結果を表示させるものとしてもよい。これによって、人間の視覚によって容易に測定対象物1におけるクラックの有無の判定結果を認識することができる。また、測定対象物1から発生する異音(ビビリ音)によって、人間の聴覚によってもある程度、クラックの有無が判定できるが、クラックによる異音(ビビリ音)が人間の聴覚では聞き取ることのできない超音波領域にある場合、この表示装置を備えることによって、音圧レベル波形とクラックの判定結果が容易に目視によって確認することができる。
(変位量Δr2の変動に伴う音圧レベル波形の変化)
図5は、本発明の実施の形態1に係る薄板検査装置100における音響エネルギー解析部52によってFFT処理された音圧レベル波形の、測定対象物1の変位量Δr2の変動に伴う変化を示す図である。図5では、縦軸がレスポンス(dB)を、横軸が周波数(f)を、それぞれ表している。図5で示される実線の音圧レベルの波形は、測定対象物1の変位量Δr2が最小値である場合のものであり、そして、破線の音圧レベルの波形は、変位量Δr2が最大値である場合のものである。
図5で示されるように、変位量Δr2が最小値である場合の音圧レベルの波形も、最大値である場合の音圧レベルの波形も、その発振周波数f0 は共通であり、変位量Δr2の変動に影響を受けない。したがって、測定対象物1におけるクラックの有無の検知範囲を、たとえば変位量Δr2の変動に伴う音圧レベル波形の変化部分とは異なる周波数帯域における検知範囲とした場合、音響エネルギー解析部52による測定対象物1におけるクラックの有無の検知動作は、変位量Δr2の変動によって影響を受けない。すなわち、音響エネルギー解析部52は、測定対象物1の変位量Δr2の変動に関わらず、クラックの有無の検知が可能となる。
[実施の形態1に係る薄板検査装置100の有する効果]
薄板検査装置100によれば、振動板12の振動によって、測定対象物1全体に縦波を主とする均一な振動による音波を与えることができ、測定対象物1の振動状態を一定に保ち、測定対象物1のクラックの有無の検知について安定した測定を可能とすることが可能になる。つまり、測定対象物1と突起部31との接触面積を小さくし、支持手段30の影響を小さくすることで、測定対象物1の振動状態を一定に保ち、測定対象物1を安定的に振動させることができ、測定対象物1のクラックの有無の検知について安定して測定することが可能になる。
なお、上記の構成のように、超音波発生部20の振動板12から超音波を測定対象物1に向けて放射するものとしたが、必ずしも超音波を用いる必要はなく、測定対象物1全体に縦波を主とする均一な振動を与えることができる音波を放射できるものとすれば、測定対象物1のクラックの有無の検知は可能である。ただし、振動板12から放射する音波を超音波とすることによって、人間の聴覚で感じ取れることはなく、使用者に不快感を与えることがない。
[薄板検査装置100の全体的な構成及び動作]
図6は、薄板検査装置100の支持台60をセットした状態の全体構成の概略を示す側面図である。図7は、薄板検査装置100の支持台60をセットした状態の全体構成の概略を示す正面図である。図8は、薄板検査装置100の支持台60をセットした状態の全体構成の概略を示す上面図である。図9は、薄板検査装置100の支持台60をセットする前の状態の全体構成の概略を示す上面図である。図6〜図9に基づいて、薄板検査装置100の全体的な構成及び作用について説明する。
図6及び図7に示すように、薄板検査装置100の機械的な構成は台部70を介して1つにまとまるようになっている。台部70は、超音波発生部20の一部を固定する加振部固定部71と、支持手段30及び位置決定部40を支持台60を介してスライド可能に支持するセット部72と、クラック有無判断部50の一部を固定する検知部固定部73と、を有している。なお、薄板検査装置100の電気的な構成(発振部13、音響エネルギー解析部52)は、接続線を介して台部70とは別に設置してもよい。
すなわち、薄板検査装置100は、超音波発生部20の一部が前後左右に動かないように固定し、上面視した状態において支持台60を超音波発生部20と重ならない位置にスライド移動させるように構成されている。このようにすることによって、超音波発生部20の位置を固定したままの状態で支持台60を介して測定対象物1の出し入れができるので、超音波発生部20と測定対象物1との位置関係が変化してしまうことを抑制することができる。よって、薄板検査装置100の検知精度のばらつきを低減することが可能になっている。
加振部固定部71は、一端側に振動部10が取り付けられる支持棒71aと、支持棒71aの他端側を固定する支持棒固定部71bと、で構成されている。支持棒71a及び支持棒固定部71bは、超音波発生部20と加振部固定部71との間に介在し、超音波発生部20(特に振動部10)を加振部固定部71に固定するものである。なお、支持棒固定部71bの下端は、台部70の上面の一部に固定されている。
セット部72は、台部70の上面の一部を支持台60がスライド可能にセットできるように機能させたものである。セット部72は、レール部72aが台部70の側面側に一対設けられている。このレール部72aを介して、支持台60がスライド移動可能になっている。また、セット部72として機能させる台部70の上壁面には開口部72bが形成されている。すなわち、レール部72aは、開口部72bの外周側に一対設けられており、セットされた支持台60が開口部72bを跨ぐようになっている。
検知部固定部73は、音検出装置51が収容される空間部73aと、一端側に音検出装置51が取り付けられる支持棒73bと、支持棒73bの他端側を固定する支持棒固定部73cと、で構成されている。支持棒73b及び支持棒固定部73cは、クラック有無判断部50と検知部固定部73との間に介在し、クラック有無判断部50(特に音検出装置51)を検知部固定部73に固定するものである。なお、支持棒固定部73cの下端は、台部70の空間部73aの一部内壁面に固定されている。
薄板検査装置100で測定対象物1を検査する場合、まず支持台60をスライド移動させて引き出す。なお、支持台60には、上述したようにレール駆動部62が設けられており、レール駆動部62とレール部72aによって、支持台60がスライド移動可能になっている。支持台60の引き出しは、ユーザーが取っ手61を介して直接行なってもよく、スイッチなどが操作された際に機械的に行なってもよい。また、ここでは、支持台60の引き出し方向と、押し込み方向とが真逆になる場合を例に説明するが、これに限定するものではない。たとえば、薄板検査装置100を製造ラインの一部に取り入れるような場合を想定し、引き出す方向と、押し込む方向とを同一方向にしてもよい。具体的には、支持台60を一方から押し込み、その延長方向に支持台60を引き出すようにしてもよい。
支持台60が引き出されたら、測定対象物1を支持台60にセットする。このとき、使用者は、位置決定部40によって測定対象物1の設置位置を容易に決定することができる。つまり、位置決定部40によって拘束されている範囲に測定対象物1を載置するだけで、測定対象物1が測定に適した位置に設置されることになるのである。位置決定部40を設けたことによって、毎回、略同じ位置に測定対象物1を設置することができるとともに、測定中における測定対象物1の位置ずれを抑制することもできる。したがって、測定対象物1の位置ずれ(設置時及び測定時)を大幅に抑制することができ、位置ずれが生じることによる検知精度の低下を抑制できる。
ただし、位置決定部40が測定対象物1に接触すると測定対象物1の振動を抑制してしまうので、位置決定部40を設置範囲よりも外側に設けるようにしている。こうすることによって、位置決定部40と測定対象物1とを接触させずに、測定対象物1の設置を決定することができる。よって、位置決定部40によって測定対象物1の振動が抑制されることがなく、安定した測定が実現できる。
また、このとき、測定対象物1は、突起部31上に設置されていることになる。測定対象物1と、突起部31との接触面積を減らすことができ、測定対象物1の振動の抑制を低減できる。よって、測定対象物1の重量や硬さによる振動の変化を効率的に抑制することが可能になる。さらに、突起部31は、突起部設置部32に設置されているので、測定対象物1を突起部31のみで支持することができ、測定対象物1の露出面積の拡大を実現している。こうすることによって、測定対象物1の露出面積を可能な限り広くでき、測定対象物1の超音波発生部20からの影響を受けやすくし、測定対象物1を振動しやすくしている。
測定対象物1を設置したら、支持台60を押し込む。このとき、支持台60のセット位置が不完全であると、検知精度が悪化してしまう。そこで、支持台60のセットされた位置を検知する支持台検知部を備え、支持台60が所定の位置にセットされた場合にのみ検査が行えるようにしておくとよい。支持台検知部としては、たとえばタクトスイッチ等を適用することができる。このような支持台検知部を、支持台60の進行方向先端部、又は支持台60の進行方向先端部と対向する台部70の所定位置に設け、支持台60がセットされた際に支持台検知部から何らかの情報が報知されるようにしておくとよい。支持台60のセット位置を正確に把握することで、測定対象物1の位置のバラつきを低減することができる。なお、支持台60と台部70との接触箇所にはゴムシートなどの振動低減部材等を設けておくとよい。
支持台60が正確にセットされた状態で、測定対象物1の検査が開始される。検査が終了したら、支持台60を再度引き出し、次の測定対象物1を設置し上記動作を繰り返せばよい。
上記実施の形態1では、超音波発生部20が上、クラック有無判断部50が下に設置されている状態を例に示しているが、これらが逆の位置関係になってもよい。つまり、測定対象物1を挟んで、超音波発生部20とクラック有無判断部50とが対向していればよい。測定対象物1を挟んで構成することで、超音波発生部20から発生する超音波が直接クラック有無判断部50に放射させることを防ぎ、検知する音と超音波の干渉による雑音発生を抑制し、検知精度を更に高める効果がある。
実施の形態2.
図10は、本発明の実施の形態2に係る薄板検査装置100Aの支持手段及び位置決定部の全体構成の概略を示す上面図である。また、図11は、図10で示す支持台60Aを、セット部(実施の形態1のセット部72と同様)を稼動させ、振動板12の下部に測定対象物1を移動し、測定を行う際の、位置決定部40Aの動作を模式的に示す上面図である。図10及び図11に基づいて、薄板検査装置100Aの具体的な構成について説明する。なお、実施の形態2では実施の形態1との相違点を中心に説明し、実施の形態1と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
実施の形態1に係る薄板検査装置100においては、前述したように、測定対象物1を支持台60にセットする際に、位置決定部40によって測定対象物1を載置する範囲を拘束する。こうすることによって、実施の形態1に係る薄板検査装置100は、使用者が、毎回、略同じ位置に測定対象物1を設置することができるとともに、測定中における測定対象物1の位置ずれを抑制することもできるよう構成され、一定の振動が得られるようにしている。
ところが、測定対象物1の重さや形状によっては、加振時や、測定対象物1を振動板12の下に移動した際の位置ずれによって位置決定部40に接触するのみで振動が妨げられ、測定が困難になる場合がある。特に、超音波発生部20は1時間程度の動作の後に安定する傾向がある上、電源のON/OFFを繰り返す場合、ON時に過渡電流により素子や電源への負荷が増大し、劣化が促進したり、ノイズが入ってしまったりする場合がある。そのため、超音波発生部20の動作は測定対象物1の出し入れの際も停止させないで動作し続ける方が望ましい。
しかしながら、そのようにすると測定対象物1を振動板12の下に移動する最中も測定対象物1は振動板12から放出される超音波に曝され、振動することになり、移動中に最適な測定位置からずれ、振動が一様でない状態で測定が開始される可能性がある。
また、本発明に係る薄板検査装置は、振動そのものを測定するわけでは無く、振動により生じる音を測定しているため、振動が安定した上で測定を行った方が、再現性が得られやすい傾向がある。従って、安定状態に至るまでに測定対象物の初期状態が変化するのを防ぐため、先ずは振動を与え、安定した状態を確認した上で位置決定部40を動作させ、その後測定を行うのが望ましい。
そこで、本実施の形態2に係る薄板検査装置100Aは、上記のような場合を想定し、測定対象物1が位置ずれし、位置決定部40Aに容易に振動が妨げられる可能性が有る場合でも、測定ばらつきを抑え、安定した測定が可能となるような構成としている。
以下、本発明の実施の形態2に係る薄板検査装置100Aを図面に基づいて説明する。
[支持台60の構成及び動作]
図10に示すように、支持手段30、位置決定部40A、及び、回動部41が、支持台60Aに支持されている。実施の形態2に係る薄板検査装置100Aの基本的な構成や動作は、実施の形態1に係る薄板検査装置100と変わらないが(図2に示す支持台60参照)、薄板検査装置100Aは、支持台60A上に回動部41を有し、全ての位置決定部40A及び回動部41が紐部42によって支持台60A上を交差しないように接続されている点が相違している。
位置決定部40Aは、紐駆動部63によって駆動される紐部42によって駆動されるように構成されている。つまり、位置決定部40Aは、測定対象物1に面する先端が、紐部42によって測定対象物1の側端面に近づいたり離れたりするように構成されている。
回動部41は、紐駆動部63の設置位置以外における支持台60Aの三隅に設けられ、紐部42が支持台60A上で交差しないようにしている。この回動部41は、たとえばプーリーのようなもので構成するとよい。
紐部42は、一端が紐駆動部63に接続され、もう一端が取っ手61がある辺に設置されている回動部41に接続されている。そして、紐部42は、各辺に設置されている位置決定部40Aと各角に設置されている回動部41を繋ぐ役目を果たしている。なお、紐部42を構成する材質なども特に限定するものではない。
また、薄板検査装置100Aでは、取っ手61の接続される辺の端に紐駆動部63が設けられている。紐駆動部63は、操作されることにより紐部42を引っ張る機能を有している。紐駆動部63が操作されることによって、紐部42が引っ張られ、その力が回動部41を介して全部の位置決定部40Aに伝達され、位置決定部40Aが動作するようになっている。なお、位置決定部40Aにはバネなどの弾性体が内蔵されており、紐駆動部63の操作が解除されると、自動的に位置決定部40Aが元の状態に戻る。それに伴い、紐部42も元の状態に戻る。なお、紐駆動部63の形態は、図10及び図11に記載される構造に限定するものではなく、たとえば回転動作により紐を巻き取るようなものであってもよい。
支持台60Aの動作について説明する。
図11では、支持台60Aに装着される取っ手62を手前に移動させ、位置決定部40Aを回動させた際の支持手段30及び位置決定部40Aの全体構成の概略を図示している。支持台60Aが引き出され(実施の形態1で説明した図9参照)、測定対象物1を設置する動作を行う場合は図10に示す状態を維持する。これにより、測定対象物1を測定に適した位置に設置することが可能になる。
測定対象物1を設置した後、支持台60Aを、振動板12の下に測定対象物1が設置されるように稼動する(実施の形態1で説明した図8参照)。稼動後に、紐駆動部63を手前に移動させることで、紐部42が引っ張られ(図11に示す矢印(イ))、薄板検査装置100Aは図11の状態となる。つまり、位置決定部40Aが回転し、位置決定部40Aの測定対象物1に面する先端と、測定対象物1の先端の距離が離れ、集音している状態で、測定対象物1の位置がずれた場合でも、位置決定部40Aと接触しない状態を維持することができるようになっている(図11に示す矢印(ア))。測定が完了した場合は、紐駆動部63を図10に記載される通りに戻す。
位置決定部40Aには図示していないがバネ等の弾性体を内蔵しており、弾性体の力で図10の状態に戻る構成としている。従って、紐駆動部63の支持部分を開放することで、自動的に図10の状態に戻すことができ、直ぐに次の測定対象物1に置き換える事が可能な状態を作ることができる。
なお、位置決定部40A、回動部41、紐部42は、位置決定部40Aの先端以外の部分が振動板12の真下に設置されないよう構成するのが望ましい。振動板12は面全体から真下の測定対象物1の方向、及び天面方向に対して最も強い超音波を放出しているため、このように構成することでこれらの部位は振動板12から放出される超音波を直接受けることがなくなる。位置決定部40A、回動部41、紐部42は、何れも動作点があり、完全に固定がされていない部分を有する構成となっていることから、超音波を受けることで振動し、異音の原因となる場合がある。従って、強力な超音波が放射されている範囲から可能な限り、離すのが望ましいのである。
また、薄板検査装置100Aにおいては、位置決定部40Aの離間を制御できる箇所は紐駆動部63の一箇所に限定する構成としている。これは、位置決定部40Aの離間動作を制御する際に発生する音や、反響する超音波による振動による異音の発生が測定に影響する場合があり、動作を行う箇所を可能な限り抑制するのが望ましいためである。また、使用者の使い勝手の点でも、一箇所を動作させるのみで位置決定部40Aの全てが駆動する形態が望ましい。
以上より、薄板検査装置100Aにおいては、上述するような構造を有する支持台60Aを用いることで、使用者は測定対象物1の振動の仕方を見極めたうえで、クラック有無判断部50の動作前に任意で紐駆動部63を動作させ、クラック有無判断部50の動作中に位置決定部40Aと測定対象物1が接触し、検知精度が低下することを防ぐことができる。
実施の形態3.
図12は、本発明の実施の形態3に係る薄板検査装置100Bの支持台60Bをセットした状態の上部の構成の概略を示す側面図である。図13は、本発明の実施の形態3に係る薄板検査装置100Bを制御する制御回路80のブロック図である。図12及び図13に基づいて、薄板検査装置100Bの具体的な構成について説明する。なお、実施の形態3では実施の形態1及び実施の形態2との相違点を中心に説明し、実施の形態1及び実施の形態2と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
実施の形態2においては、不必要な駆動音や動作による雑音影響を抑制するために、任意で紐駆動部63を動作させ、位置決定部40Aを動作させる構成としたが、使い勝手や、人的な誤差要因を排除する上では、自動化を行なうのが望ましい。特に、振動板12と測定対象物1は振動を十分に与えるために、振動板12と測定対象物1の距離を1〜3cm程度とし、近接して設置するのが望ましく、測定対象物1の状態の判断が目視ではしづらく、見逃す場合があり得る。そこで、実施の形態3に係る薄板検査装置100Bは、このような内容を加味し、位置決定部40Aの動作を自動で行う構成としたものである。
以下、本発明の実施の形態3を図面に基づいて説明する。
実施の形態3に係る薄板検査装置100Bは、実施の形態2に係る薄板検査装置100Aの構成に追加し、支持台検知部74及び測定対象物位置検知部75が更に設けられている。また、薄板検査装置100Bでは、紐駆動部63が電気的に駆動されるようになっている。なお、支持台検知部74及び測定対象物位置検知部75については、薄板検査装置100Bの動作とともに説明するものとする。
薄板検査装置100Bは、図12に図示はしていないが、図13に示す制御回路80によって制御されている。制御回路80は、超音波発生部20、支持台検知部74、測定対象物位置検知部75からの入力を、信号処理部81にて処理し、クラック有無判断部50、紐駆動部63、表示部90に向けて出力する。なお、紐駆動部63については、駆動のためにA/D変換が必要となるため、信号処理部81からの信号を受けてアナログ信号へと変換する入力制御部82を制御回路80内に設ける構成としている。また、制御回路80を図12に図示していないのは、制御回路80をどこに設けてもよいからである。
薄板検査装置100Bの動作を説明する。
制御回路80は、超音波発生部20の動作を確認した後、駆動する。支持台60Bが挿入されたことを支持台検知部74により検知し、紐駆動部63が動作して位置決定部40Aが測定対象物1から離れ、動作が完了した後にクラック有無判断部50の動作が開始される。つまり、位置決定部40Aは、測定開始のタイミング(音検知のタイミング)に連動して測定対象物1から離間する。支持台検知部74は、たとえば支持台60Bが挿入され、所定の接触位置に接触したことを検知する接触センサー等で構成される。
このような流れとすることで、薄板検査装置100Bでは、測定対象物1が適正な位置に設置されるまで測定されないため、測定対象物1の物性によらず、常に安定した振動を与え、測定が可能となる。また、薄板検査装置100Bでは、紐駆動部63及び位置決定部40Aの駆動音をクラック判断部50がノイズとして拾わないようにすることができ、検知精度の低下を抑制でき、確実に振動影響を取り除いた形で測定が可能となる。測定が完了した後は、クラック有無判断部50による判定結果を表示部90に示すとともに紐駆動部63を再動作させ、測定対象物1を最適位置に設置しやすい状態へと戻す。
測定対象物位置検知部75の動作について説明する。測定対象物位置検知部75は、クラック有無判断部50が動作をしている間、測定対象物1の位置が適正位置範囲外へとずれていないか否かを判定し、測定対象物1が適正な測定位置の範囲外へと移動したことを検知し、信号処理部81に信号を入力する働きを持つ。信号処理部81は、測定対象物位置検知部75の信号が入力された場合、クラック有無判断部50の動作を停止し、表示部90にエラーを表示させる。
位置決定部40Aが駆動することで、測定対象物1は位置決定部40Aとは接触しづらくなるが、測定対象物1のズレを妨げるものが無くなるため、クラック有無判断部50が動作している間に振動板12の面から外れ、振動が妨げられる可能性がある。そのため、測定対象物位置検知部75を設置することで、万が一、測定対象物1が大きく動いて振動板12の下からはみ出ることがあっても、それを認識できるようにして、誤検知を防ぐ必要がある。
以上より、薄板検査装置100Bにおいては、上述するような支持台検知部74を用いることで、測定対象物1が適正な位置に設置されるまで測定されないため、測定対象物1の物性によらず、常に安定した振動を与え、測定が可能となる。また、薄板検査装置100Bにおいては、上述するような測定対象物位置検知部75を用いることで、万が一、測定対象物1が大きく動いて振動板12の下からはみ出ることがあっても、それを認識できるようにして、誤検知を防ぐことが可能となる。
本発明の構成及び動作を実施の形態を分けて説明したが、それらを適宜組み合わせることができるものとする。