以下、本発明に係る実施の形態を図1及び図2に沿って説明する。まず、本発明に係るインホイールモータ駆動装置の構造について、図に沿って説明する。なお、本インホイールモータ駆動装置1は、例えば電気車両の駆動装置、シリーズ式のハイブリッド車両の駆動装置、パラレル式やスプリット式のハイブリッド車両の従動輪であったホイール内に取付けて四輪駆動車両に変更するための駆動装置、等として用いることができる。
本インホイールモータ駆動装置1は、図1に示すように、ケース2内に、大まかに、モータ・ジェネレータ3、減速ギヤ機構20、レゾルバ30、減速プラネタリギヤ40、ホイールハブ51が固定された出力軸50等を備えて構成されている。ケース2は、車輪を構成するホイール(不図示)の内径部分に、例えば図示を省略したディスクブレーキ及びキャリパ等と共に収納される大きさからなり、また、サスペンション装置等により振動吸収されるアーム(不図示)等に接続され、車体に対して所定の可動領域を有する形で支持されている。
上記ケース2は、主要部品の大部分を収容するメインケース2Aと、該メインケース2Aを閉塞するケースカバー2Bと、該ケースカバー2Bに設置されるレゾルバ30の外部からの調整を可能にする蓋部材2Cと、からなり、詳しくは後述する出力軸50の外周側がシールされることで、オイルが封入される密封構造を構成している。即ち、該ケース2は、モータ・ジェネレータ3、減速ギヤ機構20、レゾルバ30、減速プラネタリギヤ40、出力軸50の一部等を収容すると共にオイルを封入して、詳しくは後述するオイル溜り60を形成している。
メインケース2Aの上方部分には、モータ・ジェネレータ(回転電機)3が配設されている。モータ・ジェネレータ3(以下、単に「モータ3」という)は、ケース2に固定されるステータ4と、第1軸AX1上にあってケース2に回転自在に支持されるロータ軸7上に固定されたロータ5とを有して構成されている。ステータ4は、多数の鋼板が積層されて構成されるステータ鋼板4aと、ステータ鋼板4aに形成された複数のスリット(不図示)に嵌挿された多数のステータ巻線がロータ軸7の軸方向(以下、単に「軸方向」という)の両側に突出してそれぞれ折り返される部位であるコイルエンド4b1,4b2と、を有している。即ち、積層されたステータ鋼板4aは、略々円筒状となっており、その円筒状部分に形成されたスリットにステータ巻線が巻回されてステータコイルを構成しており、その両端部がステータコイルのコイルエンド4b1,4b2となっている。
また、ステータ鋼板4aの円筒状部分からはU字状に突出している2箇所の固定部4c(図2参照)が形成されている。これら2箇所の固定部4cは、不図示のボルトが嵌挿されてケース2に対して螺合されることで該ケース2に対して締結され、つまりステータ4がケース2に固定される。また、2箇所の固定部4cのうちの特に上方側の固定部4cは、メインケース2Aの内周面に形成された凹状の溝部2aに収納されると共に、隙間Dを存する形で収納されている。また同様に、下方側の固定部4cと隔壁2cに形成された溝部との間にも、隙間Eを存するように構成されている。
また、上記両端部のコイルエンド4b1,4b2のうち、ケースカバー2B側のコイルエンド4b2の側方ないし外周側には、例えば樹脂製からなる端子台10が、該コイルエンド4b2を覆うように固着されている。該端子台10は、例えば側面視で半円板状の基板10aを有しており、該基板10aには3箇所の配線孔(不図示)が円周方向の所定間隔で形成されている。それら配線孔のそれぞれには、例えばu,v,w相の各ステータ巻線に接続される3本の配線(不図示)の端部が接続されて、つまり端子台10は、配線のステータ4に対する位相方向の位置決め支持を行っている。
更に、端子台10は、モータ3とは軸方向反対側となる部分(図1中左方側の端部)にあって、円周方向における上記隙間Dに対応する位置に、外周側に立設された側壁10bが備えられており、この側壁10bから軸方向のモータ3側(図1中右方側)には、コイルエンド4b2の外周側一部を覆うように案内板10cが形成されている。
即ち、端子台10は、詳しくは後述する減速ギヤ軸25の大径ギヤ25a及び減速プラネタリギヤ40等と軸方向において(径方向視で)オーバラップする位置に配置されており、これら側壁10b及び案内板10cとメインケース2Aの内壁とに囲まれた空間で、大径ギヤ25aや減速プラネタリギヤ40から掻き上げられるオイルを捕集する端子台捕集部72を構成している。
一方、上記ロータ5は、ステータ鋼板4aと同様に鋼板が積層された円筒状のロータコア5aを有している。ロータコア5aには、図示を省略した複数の貫通孔が軸方向に形成されており、それら貫通孔のそれぞれに永久磁石(不図示)が嵌挿されて埋設されている。ロータコア5aの軸方向の両側には、環状のエンドプレート6A,6Bが配設されており、そのうちのエンドプレート6Aは、ロータ軸7に形成されたフランジ部7aに当接されている。また、エンドプレート6Bは、ロータ軸7に螺合するナット8により上記フランジ部7aに対して締め付けられ、これにより、ロータコア5aがロータ軸7上に一体的に固着されている。
上記ロータ軸7は、メインケース2Aの内側面に形成された環状突起部2bの内径側に嵌合されたボールベアリングb1と、ケースカバー2Bに形成された中空状板部2dの中空部分の内径側に嵌合されたボールベアリングb2とによって、いわゆる両持ち構造となるように回転自在に支持されている。なお、上記ボールベアリングb1が嵌合する環状突起部2bは、上記隙間Dに向いた方向(上方部分)に開口した開口部分(不図示)を有しており、隙間Dから流れてくるオイルをボールベアリングb1に捕集して導くように構成されている。
上記ロータ軸7上には、ロータコア5aと軸方向に並設された形で、減速ギヤ機構20としての小径ギヤ21が、ロータ軸7にスプライン嵌合して相対回転不能にされていると共に、該小径ギヤ21は、ボールベアリングb2と共にナット9によってロータ軸7の段差部分7bに締め付けられている。更に、ロータ軸7の該ナット9よりも先端部(図1中左方の先端側)には、レゾルバ30のレゾルバロータ32がナット33によって締結されて固着されている。
なお、図2に示すように、モータ3及びロータ軸7は、後述する減速ギヤ軸25や出力軸50に対して、車両の進行方向における前方側の上方に位置するように配置されている。
上記レゾルバ30は、図1に示すように、ケースカバー2Bの中空状板部2dの側方の外側面(図1中左方側)に固着されたレゾルバステータ31と、上記ロータ軸7に固着されたレゾルバロータ32とを有して構成されており、該レゾルバ30は、ケースカバー2Bに着脱自在に固定される蓋部材2Cに覆われたレゾルバ室34に収納されている。レゾルバ30は、本インホイールモータ駆動装置1を製造した後に、該蓋部材2Cを外して、ナット33を緩めることでレゾルバロータ32のロータ軸7に対する位相(角度)調整が可能となるように構成されている。
また、上記中空状板部2dの軸方向のレゾルバ30とは反対側の側面には、側面視L字状のリブ2e(図2参照)が形成されており、該リブ2eは、詳しくは後述する減速ギヤ軸25の大径ギヤ25a等と軸方向において(径方向視で)オーバラップする位置に配置されており、該リブ2eの垂直に延びた壁状部分で、大径ギヤ25aから掻き上げられるオイルを捕集するリブ捕集部71を構成している。また、該リブ2eの下方側には、中空状板部2dを貫通して形成された貫通孔2fが形成されており、上記リブ捕集部71で捕集したオイルがレゾルバ室34に導かれるように構成されている。
一方、減速ギヤ機構20は、上述したロータ軸7に固着された上記小径ギヤ21と、該小径ギヤ21に噛合するアイドラギヤ22と、該アイドラギヤ22に噛合する第1回転機構25Aとしての減速ギヤ軸25の大径ギヤ25aとを有して構成されている。アイドラギヤ22は、アイドラ軸23に対してニードルベアリングb3を介して回転自在に支持されており、該アイドラ軸23は、ボルト孔23aにボルト24が挿入され、該ボルト24がケース2の雌ネジ2gに螺合されることで、該ケース2(ケースカバー2B)に対して締結されて固着されている。
上記第1回転機構25Aとしての大径ギヤ25aは、後述する第2回転機構40Aとしての減速プラネタリギヤ40及び羽根状部材47と共に第2軸AX2上に並列配置されており、減速ギヤ軸(回転部材)25からフランジ状に形成された部分の外周面が上記アイドラギヤ22に噛合する歯面として形成されることで、ギヤとして構成されている。該第2軸AX2上にある減速ギヤ軸25は、上記第1軸AX1上にあるロータ軸7と平行かつ下方側の軸上にあり、一端がボールベアリングb4によりケース2に対して回転自在に支持されていると共に、他端がボールベアリングb5により後述する出力軸50及びハブベアリング52を介してケース2に対して回転自在に支持されている。また、該第1回転機構25Aとしての大径ギヤ25aは、減速ギヤ機構20を介してモータ3の回転を伝達することになる。そして、該減速ギヤ軸25のボールベアリングb5側(図1中右方側)の外周面には、第2回転機構40Aとしての減速プラネタリギヤ40のサンギヤ25bの歯面が形成されている。なお、減速ギヤ軸25の中心には、軸方向に貫通された軸方向孔25cが形成されている。
なお、減速ギヤ機構20は、図2に示すように、側面視で、小径ギヤ21、アイドラギヤ22、大径ギヤ25aのそれぞれの中心が一直線上となるように配置されており、かつ図1に示すように、軸方向においても(正面視で)、モータ3及び減速プラネタリギヤ40とケースカバー2Bの側面とに沿って一直線上となるように配置されている。
また、図1に示すように、上記アイドラ軸23の下方側には、軸方向に形成された横孔23bが形成されており、該横孔23bは、図示を省略した貫通孔を介して上記レゾルバ室34の下方側と連通している。更に、該横孔23bの端部(図1中右方側)から下方側には縦孔23cが形成されており、該縦孔23cは上記ニードルベアリングb3の内周側に開口している。従って、レゾルバ室34の下方側に溜まったオイルが、ケースカバー2Bの貫通孔(不図示)、横孔23b、縦孔23cを介してニードルベアリングb3まで自然落下する形で導かれる。
更に、レゾルバ室34の下方側にあっては、ケースカバー2Bに貫通形成された貫通孔2hが形成されており、該貫通孔2hは、上記ボールベアリングb4が嵌合される環状突起部2jの上方側に形成された開口部2kに連通している。従って、レゾルバ室34の下方側に溜まったオイルが、ケースカバー2Bの貫通孔2h、環状突起部2jの開口部2k、を介してボールベアリングb4及び上記減速ギヤ軸25の軸方向孔25cの開口部分(図1中左方側)まで自然落下する形で導かれる。
一方、上記第2回転機構40Aを構成する減速プラネタリギヤ40は、上記サンギヤ25bと、該サンギヤ25bに噛合するピニオンギヤ43と、該ピニオンギヤ43に噛合するリングギヤ41とを有しており、該ピニオンギヤ43は、側板42と出力軸50のフランジ部50dとに架け渡されたピニオンシャフト44に回転自在に支持され、これらピニオンギヤ43、ピニオンシャフト44、側板42、及びフランジ部50dによって一体的なキャリヤ(減速回転要素)46を構成している。上記リングギヤ41は、メインケース2Aにおいて、減速プラネタリギヤ40及び出力軸50とモータ3との間に形成された筒状の隔壁2cと、メインケース2Aの底部2mとで構成される円筒部分に、スナップリング45によってメインケース2Aとの間に挟持されつつスプライン嵌合して回転不能に固定されている。
また、上記キャリヤ46の側板42のピニオンシャフト44とは軸方向反対側の側面には、第2回転機構40Aに一部位としての羽根状部材47が、上記隔壁2cの端部よりも軸方向に(つまりリングギヤ41及びスナップリング45よりも先端側に)突出するように固着されている。該羽根状部材47は、上記コイルエンド4b2及び端子台捕集部72と径方向視でオーバラップする位置に配置されており、キャリヤ46と一体(つまり出力軸50と一体)に回転し、詳しくは後述する第2オイル溜り62のオイルを掻き上げる。
上記出力軸50は、上述したように、軸方向の減速プラネタリギヤ40側の端部に、キャリヤ46の一部を構成するフランジ状のフランジ部50dが形成されており、該フランジ部50dの内周側には上記ボールベアリングb5が嵌挿されている。また、出力軸50は、該フランジ部50dの減速プラネタリギヤ40とは軸方向反対側が大径な大径部50cとして形成され、中間部分が大径部50cよりも小径となる小径部50bとして形成され、更に、先端部分に小径部50bよりも小径な先端部50aが形成されている。
上記出力軸50の大径部50cの外周面にはスリーブ54が嵌合されており、該スリーブ54と上記隔壁2c及びメインケース2Aの底部2mで形成される円筒部分との間には、シールリング55が配設され、上記オイル溜りの密封性の確保、及び外部からの遺物侵入の防止が図られている。上記出力軸50の小径部50bの外周面には、ホイールハブ51がスプライン嵌合しており、該ホイールハブ51は、出力軸50の先端部50aにナット53が螺合されることにより抜け止め固定されている。
上記ホイールハブ51の中空状に形成されたスリーブ部51aの外周側には、ハブベアリング52が嵌合されており、つまりホイールハブ51及び出力軸50がケース2に対して回転自在に支持されている。ハブベアリング52は、スナップリング56によりメインケース2Aとの間に挟持されていると共に、上記スリーブ54の側面に当接して、該スリーブ54の反対側の先端が上記フランジ部50dに当接することで、出力軸50の軸方向の位置決め支持精度を良好に確保している。
上記ホイールハブ51の軸方向の端部には、円板状に形成されたハブ部51bが備えられており、該ハブ部51bに形成された複数のボルト孔51cに、図示を省略したボルトが嵌挿され、該ボルトに不図示のホイールがナットにより締結されて、車輪として構成される。
一方、上記減速ギヤ軸25の下方側にあって、ケースカバー2Bの下方側、メインケース2Aの底部2m、上記シールリング55によって囲まれた空間は、オイル溜り60として構成されている。該オイル溜り60の下方側には、メインケース2Aのボルト孔2iにボルト66が螺合されることによってケース2に締結・固定された仕切り板(仕切り部材)65が備えられている。該仕切り板65は、側面視で半月形状からなり、その半円形部分の外周側が、メインケース2Aの半筒状の底部2mに略々密着していると共に、上方部分の直線状部分が、所定高さに設定されている。
これにより、仕切り板65は、オイル溜り60を、第1回転機構25Aとしての大径ギヤ25a側の第1オイル溜り61と、第2回転機構40Aとしての減速プラネタリギヤ40及び羽根状部材47側の第2オイル溜り62とに分離して仕切るように構成されている。なお、詳しくは後述するが、第1オイル溜り61の油面61aは、第1回転機構25Aとしての大径ギヤ25aのオイルを掻き上げる部位としての歯面の一部(下方部分)が浸かる高さに、また、第2オイル溜り62の油面62aは、第2回転機構40Aとしての減速プラネタリギヤ40のオイルを掻き上げる部位としてのキャリヤ46及び羽根状部材47の一部(下方部分)が浸かる高さに、それぞれ設定されている。
ついで、本インホイールモータ駆動装置1の作用について説明する。例えば不図示の制御部が運転者のアクセル操作等に基づきモータ3の力行制御を開始すると、電源(バッテリ)及びインバータ回路等から該モータ3のステータ4に電力が供給され、ロータ5が回転駆動される。すると、ロータ軸7が回転駆動され、小径ギヤ21からアイドラギヤ22を介して減速ギヤ軸25の大径ギヤ25aに、該ロータ軸7の回転が減速されて伝達される。更に、減速ギヤ軸25のサンギヤ25bが回転駆動されることで、減速プラネタリギヤ40において、回転が固定されたリングギヤ41を介してキャリヤ46が更に減速回転とされ、そのキャリヤ46の減速回転が、出力軸50及びホイールハブ51に伝達され、つまり車両の駆動力として車輪が回転駆動される。
反対に、例えば不図示の制御部が運転者のアクセル操作やブレーキ操作等に基づき回生制御を開始した場合は、出力軸50及びホイールハブ51が車両の慣性力等により回転駆動され、減速プラネタリギヤ40のキャリヤ46に逆入力される形で、回転が固定されたリングギヤ41を介して減速ギヤ軸25のサンギヤ25bが増速回転される。更に、減速ギヤ軸25の回転は、大径ギヤ25a、アイドラギヤ22を介して小径ギヤ21に増速回転として伝達され、ロータ軸7が回転駆動され、ロータ5の回転がステータ4に逆起電力として作用し、インバータ回路等を介して電源に電力として供給されて、電源の充電がなされる。
このようにモータ3を力行制御した場合や回生制御した場合にあっても、車両が前進走行である状態では出力軸50の回転方向が前進回転であり、つまり減速ギヤ軸25の大径ギヤ25a及び減速プラネタリギヤ40のキャリヤ46の回転方向は一方向である。この前進走行状態(第1回転機構25A及び第2回転機構40Aの回転時)では、図2に示すように、減速ギヤ軸25の大径ギヤ25a及び減速プラネタリギヤ40のキャリヤ46が矢印ωで示す方向に回転し、大径ギヤ25aにより第1オイル溜り61にあるオイルと、キャリヤ46及び羽根状部材47により第2オイル溜り62にあるオイルとが、それぞれ矢印Q1方向に向けて掻き上げられる。
この際、大径ギヤ25aの回転は、該大径ギヤ25aの回転を減速して回転するキャリヤ46及び羽根状部材47の回転よりも高回転(つまり回転が速い)になるので、大径ギヤ25aが第1オイル溜り61のオイルを掻き上げる量が、キャリヤ46及び羽根状部材47が第2オイル溜り62のオイルを掻き上げる量よりも、多くなる。従って、第2オイル溜り62から第1オイル溜り61に多量にオイルが流れ込まなければ、時間の経過と共に、第1オイル溜り61の油量が第2オイル溜り62の油量よりも少なくなり、第1オイル溜り61の油面61aが第2オイル溜り62の油面62aより低下し、第1回転機構25Aとしての大径ギヤ25aの攪拌抵抗は小さくなる。
また、言い換えると、キャリヤ46及び羽根状部材47の回転は、大径ギヤ25aの回転よりも低回転(つまり回転が遅い)になるので、大径ギヤ25aが第1オイル溜り61のオイルを掻き上げる量よりも、キャリヤ46及び羽根状部材47が第2オイル溜り62のオイルを掻き上げる量が少なく、第2オイル溜り62の油量が第1オイル溜り61の油量よりも多くなり、第1オイル溜り61の油面61aに比して第2オイル溜り62の油面62aが高くなるが、第2回転機構40Aとしてのキャリヤ46及び羽根状部材47の回転は、第1回転機構25Aとしての大径ギヤ25aよりも低回転であるので、攪拌抵抗としては少なくてすむ。
なお、キャリヤ46により掻き上げられるオイルの殆んどは、ケース2の隔壁2cやそれに固定されたリングギヤ41が該キャリヤ46の外周側を覆っているため、それら隔壁2cやリングギヤ41によって第2オイル溜り62に戻されることになる。
ついで、オイル溜り60(第1オイル溜り61及び第2オイル溜り62)から掻き上げられたオイルの流れ経路について説明する。第2オイル溜り62のオイルは、主に上記羽根状部材47によって矢印Q1方向に掻き上げられる(図2参照)。この第2オイル溜り62から矢印Q1方向に掻き上げられたオイルの殆んどは、コイルエンド4b2にかかって該コイルエンド4b2を冷却する。
また、この第2オイル溜り62から矢印Q1方向に掻き上げられたオイルの一部と、第1オイル溜り61から矢印Q1方向に掻き上げられたオイルの一部とが、上記端子台10によって形成された端子台捕集部72に捕集される。該端子台捕集部72に捕集されたオイルは、側壁10bによってモータ3とは軸方向反対側に対して規制され、ステータ鋼板4aに当接する案内板10cによって、コイルエンド4b2に落ちることなく、矢印Q2方向で示すように、油路として用いられる形の隙間Dを通って該ステータ鋼板4aの外周側に導かれ、更に端子台10とはモータ3を挟んで軸方向反対側にあるコイルエンド4b1の上方側まで導かれる。
矢印Q2方向で示すように、コイルエンド4b1の上方側まで導かれたオイルは、該コイルエンド4b1を冷却しつつ、メインケース2Aの環状突起部2bの上方まで導かれ、該環状突起部2bの上方側の開口部を通ってボールベアリングb1に導かれ、該ボールベアリングb1を潤滑する。該ボールベアリングb1を潤滑したオイルは、矢印Q3方向で示すように、再度コイルエンド4b1を冷却しつつ、メインケース2Aの隔壁2cとステータ4との間にある隙間を通り、第2オイル溜り62に戻される。
一方、第1オイル溜り61のオイルは、上記大径ギヤ25aによって矢印Q1方向に掻き上げられる(図2参照)。この第1オイル溜り61から矢印Q1方向に掻き上げられたオイルの殆んどは、減速ギヤ機構20(小径ギヤ21、アイドラギヤ22、アイドラ軸23、大径ギヤ25aの上部)にかかって該減速ギヤ機構20を潤滑する。
また、この第1オイル溜り61から矢印Q1方向に掻き上げられたオイルの一部は、上記ケースカバー2Bのリブ2eによって形成されたリブ捕集部71に捕集される。該リブ捕集部71における壁状部分にかかって下方側に向けて捕集されたオイルは、矢印Q4方向に示すように貫通孔2fを通り、矢印Q6方向に示すように一部のオイルがレゾルバ室34内に導かれ、レゾルバ30を冷却しつつ該レゾルバ室34の下部に溜められる(図2参照)。また、貫通孔2fを通ってレゾルバ室34に導かれなかった他のオイルは、矢印Q7方向に示すようにボールベアリングb2に導かれ、下方側のアイドラギヤ22の側方を通ってニードルベアリングb3に導かれる。
また、レゾルバ室34に溜まったオイルの一部は、図示を省略した貫通孔を通って矢印Q11方向に示すように、アイドラ軸23の横孔23b及び縦孔23cを介してニードルベアリングb3に導かれる。該ニードルベアリングb3まで導かれたオイルは(上記矢印Q7方向からのオイルも含む)、該ニードルベアリングb3を潤滑しつつ、矢印Q11方向に導かれてアイドラ軸23の下方側からアイドラギヤ22及び大径ギヤ25aの側方に沿って主に第1オイル溜り61に戻され、一部のオイルが第2オイル溜り62に戻される。
そして、レゾルバ室34に溜まったオイルの一部は、矢印Q8方向に示すように、貫通孔2hから環状突起部2jの開口部2kを通ってボールベアリングb4の上方部分に導かれ、該ボールベアリングb4の上方部分を潤滑する。更に、ボールベアリングb4の上方部分を通ったオイルは、その一部が矢印Q9方向に示すように、ボールベアリングb4の下方部分に導かれ、該ボールベアリングb4の下方部分を潤滑した後、第1オイル溜り61に戻される。
また、ボールベアリングb4の上方部分を通ったオイルのうちの一部は、矢印Q10方向に示すように、減速ギヤ軸25の軸方向孔25cを通り、軸方向反対側のボールベアリングb5に導かれ、該ボールベアリングb5を潤滑した後、第2オイル溜り62に戻される。
以上のように、第1オイル溜り61から第1回転機構25Aとしての大径ギヤ25aが掻き上げたオイルの一部は、端子台捕集部72から矢印Q2,Q3方向に導かれて第2オイル溜り62に戻され、また、リブ捕集部71からレゾルバ室34を通って矢印Q10方向に導かれて第2オイル溜り62に戻されるので、これらの経路が、端子台捕集部72及びリブ捕集部71により捕集されたオイルの少なくとも一部を第2オイル溜り62に導く「一部オイル移動経路」といえる。
このように一部オイル移動経路が存在することによって、第1オイル溜り61から掻き上げられたオイルの一部は、第2オイル溜り62に移動されるので、これによっても、第1オイル溜り61の油量が減少していき、第2オイル溜り62の油量が増加していくことになる。これにより、第1オイル溜り61の油面61aが第2オイル溜り62の油面62aより低下し、第1回転機構25Aとしての大径ギヤ25aの攪拌抵抗は小さくなり、また、第2オイル溜り62の油面62aが高くなるが、第2回転機構40Aとしてのキャリヤ46及び羽根状部材47の回転は、第1回転機構25Aとしての大径ギヤ25aよりも低回転であるので、攪拌抵抗としては少なくてすむ。
ところで、上記一部オイル移動経路が存在することによって、時間の経過と共に第1オイル溜り61の油量が減少していき、第2オイル溜り62の油量が増加していくことになるが、第1オイル溜り61の油量が低下し過ぎると(殆んど空になると)、減速ギヤ機構20の潤滑やレゾルバ30の冷却などが不足する虞がある。そこで、本実施の形態においては、仕切り板65の上端である直線状部分の高さが所定高さに設定されており、つまり第2オイル溜り62をオイルが所定量以上となると、オーバフローして第1オイル溜り61に溢れたオイルが矢印Q12方向で示すように(オーバフロー経路で)戻されるように構成されている。
なお、本実施の形態においては、仕切り板65の上端の高さを所定高さに設定することで第1オイル溜り61と第2オイル溜り62とにおける油量が自動的に調整されるように構成しているが、これに限らず、仕切り板65の所定高さに貫通孔を設けてもよく、つまり第2オイル溜り62でオーバフローしたオイルを第1オイル溜り61に戻すオーバフロー経路があれば、そのオーバフロー経路はどのようなものであってもよい。
以上説明した本インホイールモータ駆動装置1によると、第2回転機構40Aのオイルを掻き上げる部位(羽根状部材47)が第1回転機構25Aのオイルを掻き上げる部位(大径ギヤ25a)よりも減速回転となるように構成されており、仕切り板65が、オイル溜り60を、第1回転機構25A側の第1オイル溜り61と第2回転機構40A側の第2オイル溜り62とに仕切っているので、第2回転機構40A側よりも高回転となる第1回転機構25A側の第1オイル溜り61のオイルがより多く掻き上げられるため、第1オイル溜り61の油量が第2オイル溜り62よりも少なくなり、該第1オイル溜り61の油面61aが低下して、第2回転機構40Aよりも高回転となる第1回転機構25Aの攪拌抵抗を小さくすることができる。また、第2回転機構40Aは第1回転機構25Aよりも低回転(減速回転)となるため、第1オイル溜り61よりも第2オイル溜り62の油面62aが高くても(油量が多くても)、攪拌抵抗の増加を抑えることができる。従って、第1回転機構25A及び第2回転機構40Aの攪拌抵抗を総じて低減させることができ、インホイールモータ駆動装置1の伝動効率の向上を図ることができる。
また、一部オイル移動経路(例えば矢印Q2,Q3,Q10)が、第1回転機構25Aの回転により第1オイル溜り61から掻き上げられたオイルを捕集するリブ捕集部71及び端子台捕集部72により捕集されたオイルの少なくとも一部を第2オイル溜り62に導くので、第1オイル溜り61のオイルの一部を第2オイル溜り62に移動することができ、更に第1オイル溜り61の油面61aを低下させることができる。
更に、第2オイル溜り62に溜まったオイルが所定量以上となった際に、第2オイル溜り62のオイルを第1オイル溜り61に導くオーバフロー経路(例えば矢印Q12)を備えているので、第1オイル溜り61のオイルが少量になり過ぎることの防止を図ることができ、例えば各部の冷却不足や潤滑不足が発生することの防止を図ることができる。
また、第2回転機構40Aのオイルを掻き上げる部位は、第2回転機構40Aにおける減速回転するキャリヤ46に固着され、第2オイル溜り62のオイルを掻き上げる羽根状部材47からなるので、例えば減速プラネタリギヤ40の外周側がケース2の隔壁2cに覆われていたとしても、確実に第2オイル溜り62のオイルを掻き上げることができる。また、例えばオイル溜り60のオイルが泡立ってしまうと気泡による攪拌抵抗の増加を招く虞があるが、羽根状部材47は、キャリヤ46に固着されているので第1回転機構25Aよりも高回転となることがなく、かつ該羽根状部材47の形状を適宜な形状にすることで、第2オイル溜り62のオイルを泡立ててしまうことの防止も図ることができる。
更に、第2回転機構40Aは、第1回転機構25Aの回転が伝達されるサンギヤ25bと、ケース2に対して回転が固定されたリングギヤ41と、それらサンギヤ25b及びリングギヤ41に噛合するピニオンギヤ43を回転自在に支持することで該サンギヤ25bの回転に対して減速回転されるキャリヤ46と、を有するシングルピニオンプラネタリギヤからなるので、特に第2回転機構40Aの最外周側となるリングギヤ41が回転しないため、該リングギヤ41が回転する場合に比して攪拌抵抗を大幅に抑えることができる。
なお、以上説明した本実施の形態のインホイールモータ駆動装置1においては、軸方向において、第1回転機構25A側(第1オイル溜り61側)に減速ギヤ機構20やレゾルバ30を配置し、第2回転機構40A側(第2オイル溜り62側)にモータ3や端子台10を配置したものを説明したが、これに限らず、例えば特許文献1のように、モータが第1回転機構側に配置されたものであってもよく、つまり第1オイル溜り及び第2オイル溜りのオイルを掻き上げる回転部材の回転速度が相違し、かつ回転部材と異なる軸上にある各部に掻き上げたオイルを供給するオイル循環構造を有するものであれば、どのようなものであっても本発明を適用し得る。
また、本実施の形態においては、モータとして、ロータ内に永久磁石を埋設した同期型モータとして説明したが、モータとしてはどのようなものであってもよい。例えば、誘導モータとしてもよい。
また、本実施の形態においては、第1回転機構の回転を減速する第2回転機構として、減速プラネタリギヤ40を一例として説明したが、第2回転機構としての減速機構はどのようなものであってもよい。減速機構としては、例えばサイクロイド減速機(特開2009−58005号公報)やローラ減速機(特開2006−103521号公報)等が考えられる。
また、本実施の形態においては、第1回転機構25Aが一つのギヤである大径ギヤ25aであるものを説明したが、例えばアイドラギヤ22からリングギヤに回転を入力して、固定されたキャリヤを介してサンギヤから減速ギヤ軸25に回転を伝達するようなプラネタリギヤであってもよく、つまり部品数に拘らず、第2回転機構よりも高速回転する回転体であれば、どのようなものであってもよい。
更に、本実施の形態において、減速ギヤ機構は、小径ギヤ21、アイドラギヤ22、大径ギヤ25aで構成したものを説明したが、例えばロータ軸7の回転をベルトやチェーンを介して減速プラネタリギヤに伝達するような構成であっても構わない。
また、本実施の形態においては、ロータ軸7や減速ギヤ軸25をボールベアリングにより回転自在に支持し、アイドラギヤをニードルベアリングで回転自在に支持したものを説明したが、これらのベアリングの種類はどのようなものであっても良いことは言うまでもない。
また、図1及び図2に示した本実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置1は、基本的に車両進行方向に対する左側の車輪に搭載されるものとなるが、当然に左右車輪にそれぞれ搭載されるべきものであり、左側の車輪に搭載されるインホイールモータ駆動装置1は、図1及び図2では左右方向(軸方向)が逆(鏡面に写した形)になるものである。