(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、工具交換装置を有する工作機械に具体化しており、図3には、当該工作機械10の構成の概略図を示す。
図3に示すように、工作機械10は、図示しないテーブルに固定されたワークに対して相対的に3次元方向に移動可能に設けられた主軸11を備えたマシニングセンタであり、主軸11の先端に装着されたスライスカッタ,ドリル等の各種工具を用いてワークを加工する。また、工作機械10は、工具を具備してなる工具ユニット20を多数収納する工具マガジン12と、これら多数の工具ユニット20のうち所望の工具ユニット20を工具交換位置まで搬送する搬送装置13と、工具交換位置に搬送された工具ユニット20を主軸11に取り付けられている工具ユニット20と交換する工具交換装置14と、工作機械10の動作を制御するコントローラ15と、を備えている。
搬送装置13は、図示しないガイドレールといったガイド手段を通じて、工具マガジン12における各工具ユニット20の収納位置と上記工具交換位置との間を移動可能に設けられており、コントローラ15からの駆動信号を受けることにより工具マガジン12に収納されている所定の工具ユニット20を工具交換位置に搬送する。この場合、各工具ユニット20は工具ポット30に装着されており、当該工具ポット30が搬送装置13に設けられた一対の搬送用アーム16,17により把持されることで上記搬送が行われる。
工具交換装置14は、一対の交換用アーム14a,14bを備えており、コントローラ15からの駆動信号を受けることにより、各交換用アーム14a,14bによって工具ユニット20の交換が行われる。この場合、主軸11への装着対象の工具ユニット20はそれまで一体化されていた工具ポット30から分離されて主軸11に装着されるとともに、それまで主軸11に装着されていた工具ユニット20は工具ポット30に装着される。
その後、コントローラ15から主軸11に駆動信号が送信されることにより、主軸11に装着された工具ユニット20を用いたワークの加工作業が行われる。また、主軸11から上記工具ポット30に装着対象が変更された工具ユニット20は、搬送装置13の移動を通じて工具マガジン12に収納される。
次に、工具ポット30の構成について詳細に説明する。図1は工具ポット30の斜視図、図2は工具ポット30の縦断面図である。なお、図2においては、説明の便宜上、工具ユニット20が装着されている状態を示すとともに、搬送用アーム16,17により工具ポット30が把持されている状態を示す。
工具ポット30の説明に先立ち、工具ユニット20について説明すると、工具ユニット20は、図2に示すように、工具ホルダ21の先端に工具22が装着されてなる。工具ホルダ21は略円柱状をなし、基端に向けて先細り形状をなしたシャンク部23を備えている。シャンク部23は、工具ホルダ21を工具ポット30に着脱する際に交換用アーム14a,14bにより把持されるクランプ部24と、シャンク部23の最基端部を形成するプルスタッド25と、を備えている。
工具ポット30は、図1及び図2に示すように、ポット本体31と、リングユニット41とを主要構成部品として備えている。ポット本体31は、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂により略円筒状に形成されている。なお、ポット本体31には、その外壁にリブ32が一体形成されており、その強度の向上が図られている。
ポット本体31には、図2に示すように、工具ユニット20のシャンク部23の大半が収容されるシャンク収容孔33が形成されている。シャンク収容孔33には、その先端開口34から工具ユニット20のシャンク部23が挿入される。シャンク収容孔33の基端側にはリング収容孔35が形成されている。リング収容孔35はシャンク収容孔33に対して同一軸線上に連通されており、基端側に開放されている。リング収容孔35には、基端開口36から挿入されてリングユニット41が収容されている。
リングユニット41は、鉄や銅などの硬質金属により形成された球留めリング42を備えている。球留めリング42は、略円筒状に形成されており、シャンク収容孔33に対して同一軸線上となるようにプルスタッド収容孔43が形成されている。プルスタッド収容孔43には工具ユニット20のプルスタッド25が収容される。なお、当該球留めリング42とポット本体31とにより、本工具ポット30のベース体が構成されている。
プルスタッド収容孔43には軸線方向の途中位置からシャンク収容孔33側の端部に向けて除々に孔径が大きくなるテーパ部44が形成されている。テーパ部44はプルスタッド収容孔43がシャンク収容孔33に連通する位置まで延びている。工具ポット30への工具ユニット20の装着に際しては、先端開口34から基端開口36に向けて工具ユニット20が差し込まれることとなるが、この装着方向への移動が勢いよく行われたとしても、プルスタッド25の基端部が球留めリング42のテーパ部44に当たり、それ以上の装着方向の移動が規制される。
球留めリング42には、プルスタッド収容孔43に対して放射方向に延び内外に貫通する係合用孔45が、周方向にみて等間隔に3つ形成されている(図1及び図2にはそのうちの1つのみを示す)。各係合用孔45内には、工具ポット30から工具ユニット20の抜け落ちを抑制する係合部材としての剛球46と、当該剛球46をプルスタッド収容孔43側に向けて付勢する付勢部材としてのバネ47と、が配置されている。
各剛球46は、各バネ47に付勢されることで、一部がプルスタッド収容孔43内に突出している。この場合に、係合用孔45の内周側開口が剛球46の直径よりも若干小さく設定されており、剛球46が係合用孔45から抜け出ることが防止されている。係合用孔45から突出した剛球46の一部がプルスタッド25の係合部25aに係合された状態、すなわち係合部25aに対して取り外し方向の先側から当接することで、工具ポット30に工具ユニット20が保持される。
ちなみに、リングユニット41は鉄や銅などの硬質金属によりリング状に形成されたリテーナ51を備えており、リテーナ51により各係合用孔45の外周側開口が塞がれていることにより、各係合用孔45内にてバネ47が圧縮状態で保持されている。なお、バネ47の保持を良好に行うことができるのであれば、リテーナ51を不具備としてもよい。また、球留めリング42に形成された位置決め用孔52にポット本体31のリング収容孔35に形成された図示しない位置決めピンが挿通されていることで、リングユニット41の回転方向が位置決めされている。また、リングユニット41は、リング固定手段としてのボルト53を通じてポット本体31に固定されている。
ポット本体31において基端側の外周面、具体的にはポット本体31においてリング収容孔35を区画形成する環状部61の外周面には、図1に示すように、保持用ガイド部として、一対のキー溝62,63が形成されている。一対のキー溝62,63は、係合用孔45、剛球46及びバネ47の一組の組み合わせを一の係合機構としてみた場合に、一対のキー溝62,63と一の係合機構とがポット本体31の軸線方向に対して直交する直線上に並ぶ位置において、一対のキー溝62,63により一の係合機構を間に挟むようにして形成されている。
一対のキー溝62,63は、ポット本体31の最基端部を一端として、環状部61におけるその軸線方向の全体に亘って形成されている。各キー溝62,63には、図2に示すように、工具ユニット20の搬送に際して搬送用アーム16,17が嵌り込む。そして、一対の搬送用アーム16,17により工具ポット30が挟まれて把持された状態となる。この場合、キー溝62,63において底面62a,63aを間に挟んで側方に起立する区画壁62b,63bが対応する搬送用アーム16,17に当接又は近接していることにより、工具ポット30が軸線方向に直交する方向であって搬送用アーム16,17による挟み込み方向に直交する方向へ滑ってしまうことが規制される。
また、一対のキー溝62,63において一の係合機構に近い側のキー溝62の底面62aには、図2に示すように、周囲の領域よりもポット本体31の内側に凹んだ凹部64が形成されており、当該凹部64に対応させて一方の搬送用アーム16には凸部16aが形成されている。搬送用アーム16,17により工具ポット30が把持された状態においては、凹部64に凸部16aが嵌り込むことにより、工具ポット30が軸線方向へ滑ってしまうことが規制される。なお、凸部16aと凹部64との形成対象が逆であってもよい。
ちなみに、一対の搬送用アーム16,17は、搬送装置13においてアーム間の距離を変更可能に設けられている。工具ポット30の把持に際しては、各搬送用アーム16,17が対応するキー溝62,63に面する位置に搬送装置13が配置されるとともに、各キー溝62,63に各搬送用アーム16,17が嵌り込み且つ凹部64に凸部16aが嵌り込むようにアーム16,17間の距離が縮められる。
ここで、本工具ポット30には、上記係合機構とは別に、工具ポット30からの工具ユニット20の抜け落ちを阻止するための構成が設けられている。当該構成について以下に詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、ポット本体31には、リング収容孔35に対して放射方向に延び、上記一の係合機構に遠い側のキー溝63の底面63aにおいて外部に開放されるようにして本体側孔部65が形成されている。また、当該本体側孔部65に対応させて、球留めリング42には、図2に示すように、プルスタッド収容孔43に対して放射方向に延び内外に貫通するリング側孔部66が形成されている。
これら本体側孔部65及びリング側孔部66は、リングユニット41のポット本体31に対する相対的な回転位置が位置決めされた状態において同一軸線上に並び内外に連通している。なお、リングユニット41とポット本体31との間に介在しているリテーナ51は、本体側孔部65及びリング側孔部66と重ならないように形成されている。
本体側孔部65及びリング側孔部66が連通されて形成された貫通孔67は、既に説明したとおり、上記遠い側のキー溝63の底面63aに形成された外側開口により外部に開放されているとともに、球留めリング42の内周面に形成された内側開口によりプルスタッド収容孔43側に開放されている。また、貫通孔67は、各係合用孔45、位置決め用孔52及びボルト53を避ける位置に形成されているとともに、各係合用孔45のうち一対のキー溝62,63により挟まれた位置にある係合用孔45に対して工具ユニット20のプルスタッド25を挟んで対峙する位置に形成されている。つまり、貫通孔67は、上記係合用孔45に対して同じ高さ位置に形成されているとともに、当該係合用孔45に対して同一軸線上に形成されている。
貫通孔67に対応させて、当該貫通孔67の外側開口が形成されたキー溝63に嵌り込む搬送用アーム17には抜け止め装置71が設けられている。抜け止め装置71は、鉄や銅などの硬質金属により形成されたロッド72と、コントローラ15から駆動信号を受けることによりロッド72を動作させる駆動手段としての本体部73と、を備えている。
本抜け止め装置71としては、コントローラ15から受ける駆動信号により電磁バルブを開閉することで本体部73におけるシリンダ内の空圧を調節し、ロッド72の先端位置を調整するエアシリンダといった空圧式のアクチュエータが用いられている。但し、これに限定されることはなく、油圧シリンダといった油圧式のアクチュエータやソレノイドといった電動式のアクチュエータを用いてもよく、またカムの回転位置を制御することによりロッド72の先端位置を調整するアクチュエータなどを用いてもよい。
ロッド72は、貫通孔67に遊挿可能な程度の直径を有する円柱状に形成されており、コントローラ15の駆動制御に基づき本体部73が第1の駆動状態となることで、図2に示すように、搬送用アーム17から貫通孔67内に入り込む。この状態では、先端がプルスタッド収容孔43内に突出した第1の突出位置においてロッド72が保持され、ロッド72の先端がプルスタッド25の係合部25aに当接し、当該係合部25aに対して係合された状態となる。ロッド72が第1の突出位置に保持される力は、全剛球46による保持力よりも大きな力に設定されている。これにより、工具ユニット20に対して全ての剛球46による保持を解除する程度の力が付与されたとしても、工具ポット30において工具ユニット20を保持し続けることができる。この点、ロッド72を抜け止め用部材又は抜け止め用ピンと称することができるとともに、貫通孔67を抜け止め用孔部と称することができる。
なお、ロッド72は円柱状であることに限定されることはなく角柱状であってもよく、この場合、貫通孔67も角柱状に形成してもよい。また、ロッド72は貫通孔67に遊挿されているのではなく、貫通孔67の周面を摺動する構成であってもよい。
コントローラ15の駆動制御に基づき本体部73が第2の駆動状態となることで、ロッド72は搬送用アーム17から貫通孔67側に入り込んだ状態を維持するものの、第1の突出位置よりも本体部73側に引っ込んだ位置となる第2の突出位置に変位する(図4(b),(c)を参照)。この第2の突出位置では、ロッド72はプルスタッド収容孔43内に突出しておらず、工具ユニット20との係合は解除される。但し、ロッド72の先端は貫通孔67のうちリング側孔部66内に位置しており、ロッド72は本体側孔部65とリング側孔部66との境界を跨いでいる。
コントローラ15の駆動制御に基づき本体部73が非駆動状態となることで、ロッド72は本体部73に内蔵されたバネなどの付勢力により、搬送用アーム17から貫通孔67側へ突出しない埋没位置に変位する。この埋没位置では、工具ユニット20だけでなく、工具ポット30も抜け止め装置71との間で係合関係が生じない。
次に、抜け止め装置71が設けられた搬送用アーム17を用いた工具搬送の様子を、図4を参照しながら以下に説明する。
図4(a)〜(c)は工具ユニット20が装着されているとともに搬送用アーム16,17により工具ポット30が把持されている状態における工具ポット30の一部を拡大して示す縦断面図である。
先ず、コントローラ15により工具取出し処理が実行されることで工具ユニット20及び工具ポット30の一体物を工具マガジン12から取出す場合には、ロッド72が埋没位置に配置される。これにより、工具ポット30を搬送用アーム16,17により把持する際に、ロッド72が工具ポット30に干渉しないようにすることができる。
その後、コントローラ15により工具搬送処理が実行されることで工具ポット30を工具交換位置に搬送する場合には、図4(a)に示すように、工具ユニット20が剛球46により複数箇所にて係合されているだけでなく、第1の突出位置に配置されたロッド72によっても係合される。ここで、当該搬送に際しては、比較的速いスピードで搬送装置13が移動するとともに、工具ポット30の向きが工具マガジン12に収容された状態の向きから工具交換に適した状態の向きに変更される。この場合、工具ユニット20の重量負荷の工具ポット30に対する影響が大きくなるが、上記のとおりロッド72による係合が行われていることにより、搬送途中での工具ユニット20の抜け落ちが阻止される。
その後、上記工具ポット30が工具交換位置に到達することで、コントローラ15により抜け止め解除処理が実行され、図4(b)に示すように、ロッド72が第2の突出位置に移動する。これにより、ロッド72による工具ユニット20の係合が解除される。
その後、コントローラ15により工具交換処理が実行されることに基づいて、工具ポット30に装着されている工具ユニット20が工具交換装置14により所定の力で引っ張られる。この場合、図4(c)に示すように、プルスタッド25によって各剛球46が付勢力に抗する方向に押され、これら剛球46による係合が外れる。これにより、工具ポット30から工具ユニット20が外れ、主軸11に装着されている工具ユニット20との間で工具交換が行われる。
また、主軸11にそれまで装着されていた工具ユニット20は上記工具ポット30に装着される。当該装着に際しては、上記のものとは逆の順で工具ポット30への工具ユニット20の装着が行われる。この場合に、ロッド72が第2の突出位置に配置されていることで、工具ユニット20が工具ポット30に勢いよく差し込まれて球留めリング42に対してその取り外し方向に大きな負荷が加えられたとしても、その負荷をロッド72によって受けることも可能となり、当該工具ユニット20の装着に際して球留めリング42が脱落してしまうことが抑えられる。なお、第2の突出位置において本体側孔部65にのみロッド72が突出する構成としてもよい。
以上詳述したように、本実施の形態によれば、以下の優れた効果を有する。
工具ポット30に貫通孔67が形成されていることにより、工具ポット30における工具ユニット20の保持を抜け止め装置71のロッド72によっても行うことが可能である。抜け止め装置71は工具ポット30の内部に組み込む必要がないため、工具ポット30の組み立て時における空間的な制約やロッド72を工具ポット30の内部において安定して支持する構成などを考慮することなく、ロッド72による工具ユニット20の抜け落ちを阻止する力を設定できる。よって、工具ユニット20の抜け落ちを強固に阻止することが可能となり、工具ユニット20の保持を良好に行うことができる。
また、バネ47の付勢力を利用して工具ユニット20を保持する剛球46とは別に抜け止め装置71を利用することが可能な構成であるため、工具ポット30における工具ユニット20の保持を状況に応じて適切に行うことが可能となる。つまり、工具マガジン12と工具交換位置との間で工具ユニット20を搬送する場合には工具ポット30にかかる工具ユニット20の重量負荷が相対的に大きくなるが、当該状況ではロッド72及び剛球46の両方により工具ユニット20を保持することで搬送途中に工具ユニット20が脱落してしまうことを阻止することができる。その一方、工具ポット30にかかる工具ユニット20の重量負荷が相対的に小さくなる工具マガジン12への収納状況では、抜け止め装置71によらずに剛球46により工具ユニット20を保持することで、工具マガジン12において抜け止め装置71用のスペースを確保する必要がなくなり、工具ポット30及び工具ユニット20の一体物を個別に収納するための各スペースの省スペース化が図られる。
さらにまた、剛球46により工具ユニット20を係合する構成を依然として備えていることにより、抜け止め装置71によることなく工具ポット30単独で工具ユニット20を保持することが可能である。これにより、抜け止め装置71を具備しない従来の工作機械に対しても、本工具ポット30を適用することが可能である。
また、ロッド72を工具ポット30の内周側に突出させるための貫通孔67は、搬送用アーム17の保持箇所を規定するためのキー溝63にて外部に開放されるように形成されている。これにより、キー溝63により搬送用アーム17の保持箇所が位置決めされることで、自ずと、貫通孔67に対するロッド72の位置決めがなされる。よって、搬送用アーム17の保持箇所を良好に規定することが可能な構成を利用して、貫通孔67に対するロッド72の位置決めを良好に行うことができる。
また、剛球46による係合が工具ユニット20のプルスタッド25に形成された係合部25aに対して行われる構成において、貫通孔67は第1の突出位置に配置されたロッド72が上記係合部25aに対して係合される位置に形成されている。これにより、工具ユニット20において剛球46が係合されることとなる係合部25aを利用して、ロッド72による係合を行うことができる。よって、ロッド72を差込可能な工具ポット30を汎用的な工具ユニット20に対して適用することができる。
なお、貫通孔67の位置を、既に説明した位置から工具ポット30の軸線周り又は軸線方向の少なくとも一方において相違させてもよい。この場合、ロッド72による工具ユニット20の係合位置をプルスタッド25よりも基端側としてもよいが、本構成においては工具ユニット20に専用の係合部分を別途形成する必要がある。
また、第1の突出位置に配置された場合に、ロッド72の先端が工具ユニット20の係合部25aに当接するのではなく、当該係合部25aに対して取り外し方向の先側に離間された位置に配置される構成としてもよい。この場合、工具ユニット20の抜け落ちを阻止可能な範囲においてロッド72が係合部25aに係合されるようにその離間距離が設定されていることが好ましく、さらには、剛球46により係合が解除されない範囲でロッド72が係合部25aに係合されるようにその離間距離が設定されていることが好ましい。
また、リングユニット41がポット本体31に対して外付けされているのではなく、インサート成型などによって工具ポット30に内蔵されている構成としてもよい。また、リングユニット41を構成する各部品やロッド72が合成樹脂製であってもよく、ポット本体31が金属製であってもよい。また、工具ユニット20において係合部25aが軸線周りに連続しているのではなく係合部25aが軸線周りに断続している構成としてもよい。また、ポット本体31の基端側端部に蓋が設けられていることにより、工具ポット30が無底の筒状ではなく有底の筒状である構成としてもよい。
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では所謂MASタイプの工具ポット30に対して抜け止め装置71の構成を適用したが、本実施形態では所謂HSKタイプの工具ポット90に対して抜け止め装置71の構成を適用する。以下、当該構成を、図5を参照しながら説明する。図5は、工具ポット90の縦断面図である。
工具ポット90の説明に先立ち、工具ユニット80について説明すると、当該工具ユニット80は工具ホルダ81の先端に工具82が装着されてなる。工具ホルダ81は、ホルダ本体83から突出するようにして形成され、工具ポット90に嵌る略円筒状のシャンク部84を備えている。シャンク部84の内周面における先端側には、シャンク部84の内方に突出するようにして環状凸部85が一体形成されている。環状凸部85は、工具ユニット80を工具ポット90に保持する場合に利用される。
工具ポット90は、ポット本体91と、保持機構101とを備えている。ポット本体91は、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂により略筒状に形成されている。ポット本体91には、シャンク部84のほぼ全域が収容されるシャンク収容孔92が形成されている。シャンク収容孔92には、その先端開口93から工具ユニット80のシャンク部84が挿入される。
シャンク収容孔92の基端側には連通孔94が形成されている。連通孔94は、シャンク収容孔92に対して同一軸線上で連なっており、ポット本体91の基端側に開放されている。連通孔94には、保持機構101が基端開口95から挿入されて収容されている。
保持機構101は、金属製で略円筒状の支持体102と、支持体102に収容される移動体103と、を備えている。支持体102は連通孔94の基端開口95から挿入され、支持ベース104の先端側の端部がシャンク収容孔92内に突出している。また、支持ベース104にはその基端側端部に支持フランジ105が形成されており、当該支持フランジ105がポット本体91の基端開口95の周縁に沿って形成された環状凹部96に当接することで、それ以上の先端側への移動が規制されている。なお、当該支持体102とポット本体91とにより、本工具ポット90のベース体が構成されている。
支持体102の内周面は、シャンク収容孔92側に形成された幅狭領域106と、当該幅狭領域106に対してその基端側において段差面113を介して連続するように形成された幅広領域107と、を備えている。この支持体102の内周側には、金属製で略円筒状の移動体103が挿入されている。
移動体103において略円筒状をなす移動ベース111の外径寸法は、支持体102における幅狭領域106の孔径と同一又はそれよりも若干小さく設定されている。また、移動体103にはその基端側端部に移動フランジ112が形成されており、当該移動フランジ112の外径寸法は支持体102における幅広領域107の孔径と同一又はそれよりも若干小さく設定されている。支持体102の内周側にその基端側から挿入された移動体103は、支持体102の段差面113に移動体103の移動フランジ112が当接することでそれ以上の先端側の移動が規制されている。
支持体102の内周側には移動体103だけでなく、金属製で略円筒状のストッパ121が挿入されている。ストッパ121において略円筒状をなすストッパベース122の外径寸法は、支持体102における幅広領域107の孔径と同一又はそれよりも若干小さく設定されている。また、ストッパ121にはその基端側端部にストッパフランジ123が形成されており、当該ストッパフランジ123が支持フランジ105に基端側から当接することで、それ以上の先端側への移動が規制されている。
支持フランジ105及びストッパフランジ123は環状凹部96にその全体が収容されており、さらに金属製の蓋体124が図示しないボルトなどによってポット本体91の最基端部に固定されていることにより、支持体102及びストッパ121がポット本体91内において変位不能に固定されている。また、ポット本体91、支持体102、移動体103及びストッパ121は全て同一軸線上に並んでいる。
ポット本体91に固定されたストッパ121の先端は、段差面113に移動フランジ112が当接した状態の移動体103よりも基端側に位置しており、両者の間には所定の距離分の離間空間125が形成されている。また、ストッパ121の内周側の孔径は軸線方向の全体に亘って同一となっているが、当該孔径は、移動体103の内周側の孔径よりも大きく設定されている。当該ストッパ121の内周側には、移動体103を先端側に向けて付勢する付勢部材としてバネ126が設けられている。
バネ126は、その一端が蓋体124に接するとともに、他端が移動体103の底面103aに接するようにして、圧縮状態で配置されている。これにより、移動体103はバネ126の付勢力によって先端側に向けて付勢され、自然状態においては移動フランジ112がポット本体91の段差面113に当接している。ちなみに、バネ126はストッパ121の内周面に接するようにして配置されており、当該内周面によってバネ126の設置箇所が軸線に対して直交する方向にずれないように規定されている。
移動体103の先端は先細りするようにテーパ状に形成されており、移動体103が自然状態である場合には、先端傾斜面127が支持体102よりもシャンク収容孔92側に突出しない範囲内において支持体102の先端寄りに位置している。支持体102においてその先端寄りの位置には、支持体102の内周部分に対して放射方向に延び内外に貫通する係合用孔131が、周方向にみて等間隔に3つ形成されている。各係合用孔131内には、工具ポット90から工具ユニット80の抜け落ちを抑制する係合部材としての剛球132が配置されている。
各剛球132は、係合用孔131に対して内外両側に突出可能な直径を有しており、移動体103が自然状態に配置されている状態においては、内側への突出部分が移動体103の先端傾斜面127により外側に向けて押されて、外側への突出部分が生じるようになっている。この場合に、係合用孔131の外周側開口が剛球132の直径よりも若干小さく設定されており、剛球132が係合用孔131から外側に向けて抜け出ることが防止されている。係合用孔131から突出した剛球132の一部がシャンク部84の環状凸部85に係合された状態となることで、工具ポット90に工具ユニット80が保持される。
また、工具ユニット80が全剛球132の付勢力に抗する力で取り外し方向に引っ張られた場合には、環状凸部85によって各剛球132に対して付勢力に抗する力が付与され、その力が移動体103に伝達される。そして、各剛球132が各係合用孔131から外側に突出しない状態となるまで移動体103がストッパ121に向けて移動することで、各剛球132により環状凸部85が係合された状態が解除され、工具ユニット80の抜き取りが可能となる。つまり、移動体103は全剛球132を各係合用孔131から外側に突出させる係合用位置(第1の位置)と、全剛球132を各係合用孔131から外側に突出させない係合解除用位置(第2の位置)との間で移動可能となっている。
ポット本体91において連通孔94を区画形成する区画部133の外周面には、上記第1の実施形態と同様に一対のキー溝134,135が形成されている。一対のキー溝134,135は、ポット本体91の最基端部を一端として、連通孔94を区画する部分の略全体に亘って形成されている。これらキー溝134,135には、工具ユニット80の搬送に際して搬送用アーム16,17が嵌り込み、一対の搬送用アーム16,17により工具ポット90が挟まれて把持された状態となる。なお、一方のキー溝134に搬送用アーム16の凸部16aが嵌り込む凹部136が形成されている点は上記第1の実施形態と同様である。
ここで、本工具ポット90においても、抜け止め用のロッド72を遊挿可能な貫通孔143が形成されている。
詳細には、ポット本体91には、支持体102に対して放射方向に延び、一対のキー溝134,135のうち凹部136が形成されていない側のキー溝135の底面において外側に開放されるようにして本体側孔部141が形成されている。また、当該本体側孔部141に対応させて、支持体102には放射方向に延び内外に貫通する支持側孔部142が形成されている。これら本体側孔部141及び支持側孔部142は、図示しない位置決め構造により支持体102のポット本体91に対する回転位置が位置決めされた状態において、同一軸線上に並び内外に連通している。
本体側孔部141及び支持側孔部142が連通されて形成された貫通孔143は、既に説明したとおり、上記キー溝135の底面に形成された外側開口により外部に開放されている。また、貫通孔143が形成された位置は、移動体103が自然状態に配置されている場合に離間空間125が形成される位置である。したがって、貫通孔143の内側開口は、ストッパ121に重なっておらず、さらには移動体103が自然状態に配置されている場合には当該移動体103にも重なっていない。
貫通孔143は、その孔径が全体に亘って同一となっており、その孔径はロッド72を遊挿可能な大きさに設定されている。当該貫通孔143を介して、ロッド72が支持体102の内周側に突出可能となっている。ロッド72が第1の突出位置に配置された場合には、当該ロッド72の先端が離間空間125に入り込む。この場合に、ストッパ121の内周面によりバネ126の設置箇所が規定されており、さらにストッパ121の内周面と離間空間125を区画する支持体102の内周面との間には所定の段差寸法の離間用段差面144が形成されている。第1の突出位置は、ロッド72の先端が、離間用段差面144の内周側端部よりも内周側に突出しない範囲の位置となるように設定されている。
第1の突出位置に配置された状態においては、移動体103が係合用位置から係合解除用位置に移動しようとしても移動体103の底面103aがロッド72に対して先端側から当接することで、それが規制される。そして、ロッド72が第1の突出位置に保持される力は、全剛球132による保持力よりも大きな力に設定されている。これにより、搬送途中などにおいて、工具ユニット80に対して全剛球132による保持を解除する程度の力が付与されたとしても、工具ユニット80を保持し続けることができる。
また、ロッド72が第1の突出位置に配置されたとしても、当該ロッド72とバネ126とが干渉しないようになっている。したがって、バネ126に対して悪影響を及ぼすことなく、上記のような優れた効果を奏することができる。また、ロッド72により移動体103の移動を阻止する構成であるため、ロッド72を差込可能な工具ポット90を、汎用的な工具ユニット80に対して適用することができる。
ちなみに、本実施形態においてもロッド72は第2の突出位置及び埋没位置に配置可能に構成されているが、第2の突出位置ではロッド72の先端が支持体102の内周側に突出しない範囲において支持側孔部142に入り込んだ位置となる。これにより、工具ユニット80の取り外しに際して、ロッド72が、搬送用アーム16,17による工具ポット90の把持力の向上に寄与するとともに、工具ポット90による支持体102の保持力の向上に寄与する。
なお、第1の突出位置に配置された場合に、ロッド72の先端が移動体103から若干離間されているのではなく、移動体103に当接している構成としてもよい。また、ロッド72により移動体103の移動を阻止する場合の当接位置は、移動体103の底面103aに限定されることはなく、移動体103の軸線方向の途中位置であってもよい。
また、第1の突出位置に配置された場合に、ロッド72の先端が移動体103の移動を阻止するのではなく、工具ユニット80の移動を直接阻止する構成としてもよい。但し、本構成においては、工具ユニット80に専用の係合部分を別途形成する必要がある。
また、保持機構101を構成する各部品やロッド72が合成樹脂製であってもよく、ポット本体91が金属製であってもよい。また、支持体102がポット本体91に一体形成されていてもよい。また、移動体103の移動に伴って変位する係合部材として、剛球132に代えて、支持体102に対して回動可能であって移動体103の移動に伴って工具ユニット80に係合される位置と係合されない位置とに変位するように軸支された部材を用いてもよい。
また、移動体103がバネ126により付勢される方向が上記構成とは逆であり、さらに移動体103は剛球132をシャンク収容孔92に突出させる場合に先端側からシャンク収容孔92側に向けて押圧する構成としてもよい。この場合、バネ126とロッド72との干渉を避けるために、ロッド72の突出位置をバネ126に対して放射方向ではなく軸線方向にずらしてもよい。
(他の実施形態)
本発明は上記各実施形態の記載内容に限定されず例えば次のように実施しても良い。
(1)上記各実施形態において、搬送用アーム16,17の両方に抜け止め装置71が搭載されていてもよい。この場合、各搬送用アーム16,17に対応させて貫通孔67,143を形成する必要がある。また、貫通孔67,143が軸線周りに所定の間隔をあけて3個以上形成されていてもよく、軸線方向に所定の間隔をあけて複数形成されていてもよい。この場合、抜け止め装置71が搭載された位置が異なる複数パターンの搬送装置に対して、単一の工具ポット30,90により対応することが可能となる。また、凸部16aが設けられた側の搬送用アーム16のみに抜け止め装置71が搭載されていてもよい。
(2)上記各実施形態において、ロッド72が配置される位置として、第2の突出位置が設定されていない構成としてもよい。また、これに代えて、埋没位置が設定されていない構成としてもよい。但し、埋没位置が設定されていない構成においては、搬送用アーム16,17による工具ポット30,90の把持開始及び把持解除に際して、貫通孔67,143に対するロッド72の挿入及び離脱を考慮して搬送用アーム16,17が動作する必要がある。
(3)上記各実施形態において、剛球46,132といった係合部材が不具備である構成としてもよい。この場合、抜け止め装置71が搬送装置13ではなく工具ポット30に一体化されていることが好ましい。また、剛球46,132といった係合部材がバネ47,126により直接的又は間接的に付勢されているのではなく、工具ポット30,90の外部に設けられた外力付与装置により外力が付与されることで、工具ユニット20,80を係合する位置と係合しない位置とに変位される構成としてもよい。
(4)工作機械10において、全ての工具ポットに対して上記第1の実施形態又は上記第2の実施形態の工具ポット30,90が適用される構成に限定されることはなく、例えば、比較的重量の大きい工具ユニット20,80専用の工具ポットとして適用され、その他は従来の工具ポットが用いられる構成としてもよい。
(5)主軸11に工具ポットが一体化されている構成においては、当該工具ポットとして上記各実施形態の工具ポット30,90を適用してもよい。この場合、主軸11に抜け止め装置71が搭載されている必要がある。
(6)工具交換位置において搬送装置13に保持された状態の工具ポット30,90から交換対象の工具ユニット20,80が取り外される構成に代えて、工具交換位置に設けられた専用の保持装置に対して工具ポット30,90が保持された状態で交換対象の工具ユニット20,80が取り外される構成としてもよい。この場合、搬送装置13は、工具マガジン12と工具交換位置との間で、工具ユニット20,80が装着された工具ポット30,90を搬送する機能のみを有することとなる。また、当該構成において、上記専用の保持装置に抜け止め装置71が搭載されている構成としてもよい。