JP5434209B2 - 金属塊の熱処理炉及びその補修方法 - Google Patents

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Description

本発明は、金属の塊を熱処理する種々の炉、例えば、連続鋳造後のスラブの保熱炉、熱間圧延のスラブの加熱炉、又は鋼板の焼鈍炉等の金属塊の熱処理炉及びその補修方法に関する。
一般に、金属塊を熱処理する炉(以下、熱処理炉ともいう)の炉床は、炉内に露出する面(以下、炉内稼動面ともいう)側が、耐火層で構成され、この背面側に断熱層を設ける場合が多い。このように、熱処理炉に断熱層を設けるのは、熱処理炉の燃料原単位の低減を目的とした熱処理炉の断熱性が求められるためである。
しかし、断熱層を構成する耐火物(以下、断熱層耐火物ともいう)は、一般に、気泡を多く含むため、強度や耐侵食性が低く、熱処理炉の高温雰囲気への曝露や熱処理物のスケール等の落下物により、劣化して断熱性が低下する。このため、断熱層の炉内稼動面側に、高温強度が高く耐侵食性に優れた耐火層を設けることが行われている。なお、耐火層を構成する耐火物(以下、耐火層耐火物ともいう)には、耐火れんが又は耐火キャスタブル(以下、キャスタブル耐火物ともいう)を用いるのが一般的である。
このような金属塊の熱処理炉としては、例えば、特許文献1に、耐火れんが(炉床れんが)を炉床部に配置した熱処理炉が記載されている。この炉床部に配置された耐火れんがは、熱による耐火れんがの膨張伸縮を吸収するため、炉床部に予め湾曲させた状態で配置されている。
また、金属塊の熱処理炉ではないが、溶湯を貯蔵する炉の炉床構造としては、例えば、特許文献2のようなラミング材が一般に用いられている。
ラミング材は、焼結性を担保するため、一般に最大粒径が5mm以下で、粒径10μm以下の微粉を含めた比較的微細な粉粒状の耐火物からなり、これを炉内に投入して突き固めることにより築炉し、その後、焼結運転によってラミング材の表層を焼結させることで強固な焼結層を形成させ、この焼結層によって炉内の溶湯を保持するように使用される。この焼結層の背面側は、高温に曝されないため、粉粒状態を保った未焼結層となっており、この焼結層に亀裂が生成しても、この亀裂に侵入した溶湯の熱により、焼結層背面側の未焼結のラミング材が焼結することで、溶湯の漏洩を防止できる。このため、ラミング材は、特に、誘導炉等のように、耐火物の厚みを極力薄くする必要がある溶湯保持用炉の耐火物に使用することで、好適な効果が得られる。
特開平8−200652号公報 特開2004−83363号公報
しかしながら、特許文献1に開示の熱処理炉では、隣合う耐火れんが同士が面で接触しているため、耐火れんが自身の熱膨張によってその接触部(れんが目地)が迫り上がり、隣合う耐火れんがの目地部に開口部が生成する。このように、開口部が生成すると、耐火れんがの背面側の断熱層耐火物の表面が熱処理炉内に露出するため、炉内の高温雰囲気への曝露や熱処理物のスケール等の落下物により、断熱層耐火物の劣化に直結する。なお、この現象は、隣合う耐火れんがの目地部にモルタル等を配置しても同様に発生する。
特に、耐火れんがは、平面で構成される形状(例えば、直方体)であるため、面接触するように配置された隣合う耐火れんがの間に開口部が一旦生成すると、高温の炉内雰囲気ガスが開口部から侵入し、耐火れんがが1層分無くなるのと同等な、耐火性や断熱性の低下の悪影響がある。
また、特許文献2のように、溶湯保持用炉において好適な効果が得られるラミング材を、本発明が対象とする金属塊の熱処理炉の炉床構造に適用すると、以下の課題がある。
ラミング材は、炉内稼動面近傍が焼結して焼結層を生成するため、昇温後は、キャスタブル耐火物と同様に炉床全体が一体構造となり、焼結層の熱膨張や焼結による収縮により、未焼結層に達する亀裂が発生する。このため、金属塊を熱処理炉に装入する際に、炉内に巻込まれる空気、又は熱処理炉内にて使用されるバーナーの噴流が、上記した亀裂から焼結層の裏面側の未焼結層に侵入して、未焼結のラミング材が熱処理炉内で流動し飛散する。
このとき、焼結層の背面側に空洞ができるため、熱処理炉の経時使用と共に、耐火性や断熱性が劣化する部分が発生する。更に、焼結層は、熱膨張等によって互いに迫り合い、熱処理炉の他の部位へ応力を発生させたり、また焼結層が浮き上がり実質的な耐火物厚みを減少させたりする等の課題もある。
なお、炉床にキャスタブル耐火物を用いる場合、炉床全体、もしくは溝状のスコアライン(例えば、耐火物の膨張代の吸収や、亀裂を優先的に発生させる箇所)で囲まれた領域が、一体構造となる。このため、キャスタブル耐火物の炉内稼動面近傍の熱膨張や、焼結による収縮により、キャスタブル耐火物に亀裂が発生する。
その結果、発生した亀裂や溝状に形成したスコアラインにおいて、この両側に位置する耐火物同士で互いに迫り合いが生じ、熱処理炉の他の部位へ応力を発生させたり、また焼結層が浮き上がり実質的な耐火物の厚みを減少させたりする等の課題が発生する。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、炉床耐火物の主として目地部や亀裂部での開口部の発生や、熱膨張による炉床耐火物の迫り合いを、未然に防止することができ、経時使用と共に劣化する炉床耐火物の耐火性や断熱性の低下を抑制、更には防止可能な金属塊の熱処理炉及びその補修方法を提供することを目的とする。
前記目的に沿う第1の発明に係る金属塊の熱処理炉(ただし、スケルプ加熱炉を除く)は、炉内稼動面に粒状耐火物で構成される充填層を有し、しかも該充填層の前記粒状耐火物の充填率が65体積%以上100体積%未満で、該充填層の厚みが前記粒状耐火物の最大粒径の2倍以上である炉床構造を備える。
第1の発明に係る金属塊の熱処理炉において、前記粒状耐火物は、粒径1mmアンダーの粒状物を80質量%以下含むことが好ましい。
第1の発明に係る金属塊の熱処理炉において、該熱処理炉の天井部の一部又は全部にセラミックスファイバーをライニングすることが好ましい。
第1の発明に係る金属塊の熱処理炉において、前記充填層は、常温での圧縮強度が1.5MPa以上の耐火物の表面に配置されることが好ましい。
前記目的に沿う第2の発明に係る金属塊の熱処理炉の補修方法(ただし、金属塊の熱処理炉からスケルプ加熱炉を除く)は、耐火れんが及び耐火キャスタブルのいずれか一方又は双方からなる耐火物を炉床の炉内稼動面に施工した金属塊の熱処理炉の補修方法において、
前記炉床の炉内稼動面の補修部位に粒状耐火物で構成される充填層を形成し、しかも該充填層の前記粒状耐火物の充填率を65体積%以上100体積%未満とし、該充填層の厚みを前記粒状耐火物の最大粒径の2倍以上にする。
第2の発明に係る金属塊の熱処理炉の補修方法において、前記粒状耐火物は、粒径1mmアンダーの粒状物を80質量%以下含むことが好ましい。
第2の発明に係る金属塊の熱処理炉の補修方法において、前記炉床の炉内稼動面の補修部位に残存する前記耐火物を除去した後、該補修部位に生じた空間内に前記充填層を形成し、しかも該充填層を構成する前記粒状耐火物の最大粒径を、前記補修部位の空間の水平方向の内幅の50%未満とするのが好ましい。
第2の発明に係る金属塊の熱処理炉の補修方法において、前記充填層は、常温での圧縮強度が1.5MPa以上の耐火物の表面に配置されることが好ましい。
本発明者らは、金属塊の熱処理炉について、その炉床の炉内稼動面を構成する耐火層耐火物に耐火れんが又は耐火キャスタブルを用いた際に、炉床に発生する開口部の発生機構を鋭意検討したところ、以下の3点に想到した。
(1)熱処理炉の炉床に生成する開口部は、熱処理炉の炉内が高温であることによる耐火層耐火物の熱膨張に起因する。
耐火層耐火物である耐火れんが又は耐火キャスタブルの熱膨張代は、強度が最も低い目地部や亀裂部での変形により吸収され、その結果、目地部や亀裂部では耐火れんがの迫り上がりが、また亀裂部では耐火キャスタブルの迫り上がりが発生する。
(2)なお、従来は、耐火層耐火物に上記した熱膨張代を設けるため、例えば、隣合う耐火れんがの間に隙間を設けたり、また、隣合う耐火れんがの間に応力を吸収する耐火物(ファイバー等)を設けたりする等の対策が講じられている。
しかし、これらの方法では、熱処理炉の経時使用と共に、応力吸収に用いる耐火物が劣化し、隣合う耐火れんがの間に設けた隙間の間隔が更に大きくなったり、また耐火れんがと耐火物との間に隙間が生成したりする。このため、生成した隙間に、熱処理する金属塊のスケールや施工した耐火物自身から発生した耐火物粉が充填され、熱処理炉の経時使用と共に耐火れんがの熱膨張吸収能が低下するという問題を招く。また、熱処理炉の定期修理などに伴う炉内温度の低下や上昇も、この熱膨張吸収能の低下を促進する。
(3)本発明者らは、耐火層耐火物に従来の耐火れんがを用いた場合でも、熱膨張吸収が可能な構造を検討するにあたり、従来の耐火れんがにおける開口部の発生メカニズムを鋭意検討した。その結果、複数の耐火れんがを面接触させた状態で配置施工すれば、熱処理炉の経時使用に伴う開口部の生成抑制が不可能であるとの結論に達した。
また、耐火層耐火物に耐火キャスタブルを用いた場合でも、発生した亀裂部や溝状のスコアライン部では、隣合う耐火れんが同士が面接触した場合と同様、開口部の生成抑制が不可能であった。
以上の結果から、本発明者らは、粒状耐火物を用いることで、耐火れんがの面接触を避けて実質的に点接触にでき、しかも互いに結合されることなく相対位置が容易に変化しうるようにできるため、開口部の生成抑制が可能となることに想到した。
本発明に係る金属塊の熱処理炉及びその補修方法は、炉床の炉内稼動面の充填層を粒状耐火物で構成するので、耐火れんがのように面接触させることなく、粒状耐火物同士を実質的に点接触させることができる。また、この粒状耐火物同士は、互いに結合されておらず、その相対位置が容易に変化するので、従来のような、開口部の生成を抑制、更には防止できる。
なお、充填層の粒状耐火物の充填率が65体積%以上100体積%未満であるので、隣合う粒状耐火物の間に形成される隙間の割合を、隙間から流入する高温雰囲気で充填層の背面側の温度を急激に上昇させることなく、しかも隣合う粒状耐火物が面接触しない状態に調整できる。
また、充填層の厚みが、粒状耐火物の最大粒径の2倍以上であるので、上層に位置する粒状耐火物は、例えば、下層を構成する隣合う粒状耐火物の間に形成される隙間の上方に位置するように積み重なる。これにより、隣合う粒状耐火物の間に形成される隙間が、充填層の厚さ方向に貫通することを抑制でき、充填層による耐火性や断熱性を維持できる。
従って、炉床耐火物の主として目地部や亀裂部での開口部の発生や、熱膨張による炉床耐火物の迫り合いを、未然に防止することができ、経時使用と共に劣化する炉床耐火物の耐火性や断熱性の低下を抑制、更には防止できる。
また、本発明に係る金属塊の熱処理炉及びその補修方法において、粒状耐火物が、粒径1mmアンダーの粒状物を80質量%以下含む場合、粒状耐火物の流動や飛散による充填層の厚み減少を抑制でき、経時使用と共に劣化する炉床耐火物の耐火性や断熱性の低下を抑制、更には防止できる。
そして、本発明に係る金属塊の熱処理炉において、天井部の一部又は全部にセラミックスファイバーをライニングする場合、金属塊の熱処理炉の変形を小さくできる。金属塊の熱処理炉の炉床は、基礎構造体により拘束されるが、天井は、膨張に際しての拘束が少ないため、熱処理炉の天井近傍の炉幅が、炉床近傍の炉幅よりも広がる。特に、炉床に粒状耐火物の充填層を施工すると、炉床近傍での熱膨張量が従来よりも小さくなるため、上記した傾向がより大きくなる。そこで、天井部に、熱膨張を自ら変形して吸収するセラミックスファイバーをライニングすることで、天井近傍の変形量を小さくでき、上記した傾向を小さくできる。
更に、本発明に係る金属塊の熱処理炉及びその補修方法において、充填層を、常温での圧縮強度が1.5MPa以上の耐火物の表面に配置する場合、充填層の下層を構成する耐火物の強度が高められる。これにより、例えば、充填層を形成するため、粒状耐火物の散布や入替を行っても、その下層の損傷を抑制、更には防止できる。
また、本発明に係る金属塊の熱処理炉の補修方法において、炉床の炉内稼動面の補修部位に残存する耐火物を除去した後、この補修部位に生じた空間内に充填層を形成した場合、補修部位の根本的な補修を実施できる。
このとき、充填層を構成する粒状耐火物の最大粒径を、補修部位の空間の水平方向の内幅の50%未満とするので、空間内の隣合う粒状耐火物同士が点接触し、開口部の生成を未然に抑制できる。詳細には、補修部位の空間の水平方向において、2個の粒状耐火物が迫り合って新たに開口部が生成する可能性を回避できる。即ち、水平方向に3個以上の粒状耐火物を存在させることができるため、粒状耐火物同士が迫り合うことなく移動し、熱膨張を吸収できる。
(A)は本発明の第1の実施の形態に係る金属塊の熱処理炉の炉床構造の説明図、(B)は従来例に係る金属塊の熱処理炉の炉床構造の説明図である。 (A)、(B)はそれぞれ本発明の第2、第3の実施の形態に係る金属塊の熱処理炉の炉床構造の説明図である。 充填層の粒状耐火物の充填率と充填層の背面温度との関係を示す説明図である。 粒状耐火物中の粒径1mmアンダーの粒状物の割合と3ヶ月間放置後の充填層の最小深さとの関係を示す説明図である。 (A)、(B)はそれぞれ金属塊の熱処理炉の炉床に開口部が生成した状況を示す説明図である。 (A)〜(C)はそれぞれ本発明の第1〜第3の実施の形態に係る金属塊の熱処理炉の補修方法の説明図である。 (A)〜(C)はそれぞれ本発明の第4〜第6の実施の形態に係る金属塊の熱処理炉の補修方法の説明図である。 (A)は金属塊の熱処理炉の炉床の損傷部位を示す説明図、(B)、(C)はそれぞれ本発明の第7、第8の実施の形態に係る金属塊の熱処理炉の補修方法の説明図である。
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1(A)に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る金属塊の熱処理炉(以下、単に熱処理炉ともいう)10は、炉内稼動面11側に粒状耐火物で構成される充填層を有する炉床構造12を備えている。この充填層は、炉底鉄皮13上に配置された断熱層耐火物の表面に、常温での圧縮強度が1.5MPa以上の耐火物(ここでは、耐火層耐火物)を介して配置されている。なお、充填層の下層を構成する耐火物は、上記圧縮強度を備える耐火物であれば、断熱層耐火物で構成することもできる。このように、充填層は、炉床構造12の最表層部を構成している。以下、詳しく説明する。
充填層を粒状耐火物で構成したのは、炉内稼動面11側の耐火層耐火物同士の面接触を避けるためである。この充填層は、図1(B)に示す従来の金属塊の熱処理炉14の炉内稼動面側を構成する耐火層耐火物の上側(一部)を代替している。なお、充填層は、従来の耐火層耐火物の上側を除く部分を残した状態で配置してもよく、また断熱層耐火物の表面に、新たに耐火層耐火物を配置した後、配置してもよい。
このように、充填層を、圧縮強度が1.5MPa以上の耐火物の表面に配置するので、例えば、粒状耐火物の散布や入替(掻出し)を行っても、損傷し易い断熱層耐火物の損傷を防止できる。
しかし、粒状耐火物の全量交換作業を想定しない場合や、損傷に対抗しうる充分な強度(常温での圧縮強度が1.5MPa以上)を持った断熱層耐火物を入手できる場合は、図2(A)に示す本発明の第2の実施の形態に係る金属塊の熱処理炉15のように構成してもよい。
この金属塊の熱処理炉15は、図1(B)に示す従来の金属塊の熱処理炉14の炉内稼動面側を構成する耐火層耐火物の全部を代替したものである。更には、耐火層耐火物の全部のみならず、耐火層耐火物の背面側(炉内稼動面側とは反対側)に配置された断熱層耐火物の上側(一部)まで、粒状耐火物からなる充填層で代替してもよい。
また、粒状耐火物で構成される充填層は、図2(B)に示す本発明の第3の実施の形態に係る金属塊の熱処理炉16のように、基礎コンクリートの炉内稼動面側の上面に配置してもよい。
従来、図1(B)に示すように、耐火層は平面から構成される直方体状の耐火れんがを、その平面を対向させて面接触させるように、炉床に配置(間にモルタルや熱膨張吸収材を挟むことも含む)して形成されているが、このように、平面を対向させて耐火物を配置することが、熱処理炉の経時使用に伴う開口部生成の原因となる。
そこで、平面を対向させて配置することを避けるため、砂利状又は砕石状の粒状耐火物を使用した。
なお、粒状耐火物は、図1(A)に示す耐火層耐火物の表面、即ち炉床の熱処理雰囲気に曝露する部分(稼動面)に、散布して配置されているが、配置方法はこれに限定されない。
このように、粒状耐火物を配置した炉床構造12を採用することで、粒状耐火物が熱膨張しても、隣合う粒状耐火物同士が互いに移動することで、開口部が炉床に実質的に発生しない。
この粒状耐火物は、耐火れんがのように平面のみで構成される形状ではないため、1又は複数の点で、隣接する粒状耐火物同士が点接触する。なお、熱処理炉の経時使用中には、点接触部が融着する場合があるが、点での接触であるため、粒状耐火物の熱膨張による応力により容易に融着部が破壊し、粒状耐火物同士が相対的に移動でき、開口部が生成することがない。
また、図1(A)に示すように、粒状耐火物の充填層の下に、耐火層耐火物である従来技術の耐火れんが層を設ける場合、耐火れんが層の目地部で開口部が生成しても、開口部の上方に粒状耐火物の充填層が存在するため、この開口部に粒状耐火物が落下し充填され、著しい耐火性や断熱性の劣化にはつながらない。
上記した粒状耐火物は、従来技術の耐火層耐火物に用いられている材質であれば何でもよい。例えば、アルミナクリンカ、使用済み耐火れんがを破砕したもの、使用済み耐火キャスタブルを破砕したもの、等がある。
また、粒状耐火物は、粒状耐火物同士が互いに熱膨張で迫り合って、相対位置が動く際の動きに耐えて破壊しない(粉を多量に生成しない)材料特性を備えるものであればよい。具体的には、JIS R 2656(1995年)に従って測定した使用目的温度における熱間曲げ強度が、概ね0.2MPa以上であることが望ましい。
更に、粒状耐火物は、使用目的温度において、粒状耐火物同士が焼結してしまわないような荷重軟化点を有するのが望ましい。具体的には、JIS R 2209(2007年)に従って測定した荷重軟化点が、粒状耐火物として使用する場合の炉内雰囲気温度より、概ね200℃以上高い(上限は、例えば、1100℃程度)ものが望ましい。
なお、粒状耐火物は、上記した材質のものより、高温強度が高いものであってもよい。このような粒状耐火物には、例えば、ジルコニア等のファインセラミックス製品の形状不良品を破砕したものがある。また、ジルコニアセラミックス製品の製造時に、亀裂が発生して出荷できなくなった歩留り落ち品も使用できる。
そして、粒状耐火物は、前記したように、耐火物の平面を対向させて接触するように配置しないことが肝要であるため、平面のみで構成されていない粒状のものである。
この粒状耐火物は、後述するように、充填層の充填率を一定レベルにする必要があるため、粒径(形状)が複数存在するとよい。なお、耐火れんがは、配列したれんがの端部等の一部を除き、通常は、その形状が一定である。
そこで、粒状耐火物には、耐火物の破砕品を用いることが好適である。
破砕品は、その周囲を平面とすることが困難であり、また破砕面を、直方体のように略直角な面で構成することが不可能であるため、一定形状にならないからである。
なお、耐火れんがの破砕品を粒状耐火物に用いる場合は、耐火れんがの周囲の平面が粒状耐火物の表面に残留する場合がある。しかし、この残留した表面は、粒状耐火物を炉床に投入して充填層を構成する際に、平面を対向させて接触するように配置することが実質困難であるため、破砕後に残留する平面は、粒状耐火物の充填層の開口部生成には影響しない。
また、破砕物ではなく、球状(例えば、卵形、断面楕円形等も含む)に製造した耐火物を粒状耐火物として用い、粒状耐火物の充填層を形成することも可能である。
球状の粒状耐火物は、形状が一定であっても、後述する充填層の充填率を実現できる場合があり、また平面を対向させて接触するような配置にはならず、粒状耐火物の熱膨張によって、開口部が粒状耐火物の充填層に生成することはない。
上記したように、粒状耐火物で充填層を構成すると、上記した開口部の生成抑制に好適な効果があるが、隣合う粒状耐火物の間には隙間が存在するため、以下の2点が懸念される。
(a)隣合う粒状耐火物の間の隙間に熱処理炉内の高温雰囲気が流入し、炉床耐火物の耐火性や断熱性が低下する。
(b)熱処理炉の炉内雰囲気の流動により、長期に渡って粒状耐火物が流動して飛散すると、粒状耐火物の充填層の厚みが減少し、炉床耐火物の耐火性や断熱性が低下する。
なお、隣合う粒状耐火物の間の隙間は、耐火層の断熱性を向上させる効果もあるが、粒状耐火物の充填層における隙間の体積割合が増えると、上記したように、この隙間に熱処理炉の高温雰囲気が流入する。その結果、耐火層の耐火性や断熱性が劣化し、例えば、耐火層の背面側に施工する断熱層の劣化に直結する。
そこで、本発明者らは、充填層における隣合う粒状耐火物の間の隙間の占める割合と断熱性の関係を調査した。なお、粒状耐火物の粒径は、特に記載しない限り、以下のように規定する。
「50mm以下」、「−50mm」、及び「50mmアンダー」と記載した場合は、いずれも公称目開きが50mmの篩で篩分けした篩下の耐火物を指す。また、「1mm以上」、「+1mm」、及び「1mmオーバー」と記載した場合は、いずれも公称目開きが1mmの篩で篩分けした篩上の耐火物を指す。更に、1〜50mmの耐火物と記載した場合は、公称目開き50mmの篩で篩分けした篩下で、かつ公称目開きが1mmの篩で篩分けした篩上の耐火物を指す。
なお、特に限定するものではないが、粒状耐火物の篩分けには、JIS Z8801−2(2000年)に記載の板篩を用いている(以下、同様)。
まず、調査方法について説明する。
50mmアンダー1mmオーバー(以下、1〜50mmと記載)で構成された粒状耐火物のうち、20mmアンダー1mmオーバー(以下、1〜20mmと記載)の粒状耐火物の配合割合(質量割合)を調整して、その充填率を変更し、厚さ約100mm(100〜110mm程度:粒状耐火物の最大粒径の2倍)の充填層を製造した。なお、粒状耐火物の最大粒径は、粒状耐火物を篩で一度ふるった後の篩を抜けた(篩下の)粗粒の長径で規定した(以下、同様)。例えば、粒状耐火物の最大粒径が50mmとは、粒状耐火物を公称目開き50mmの篩で一度ふるった後に、篩を抜けた粗粒のうち1個でも長径が50mm以上の粗粒がある場合の篩下の粒状耐火物を意味する。
そして、この充填層の表面(稼動面側)を、炉内最高温度が1400℃の熱処理炉の炉内雰囲気に接触させ、この充填層の底部(稼動面から100〜110mmの位置)の温度を、熱電対にて測定した。なお、粒状耐火物の充填層の背面側には、耐火れんがと断熱れんが等を合計360mm配置し、充填層を含めた全ライニング厚みを460〜470mmにした。
この粒状耐火物の充填率は、以下の測定方法で求めた。
まず、別途、直径が285mmで深さが100mm(粒状耐火物の施工深さと同等の深さ)の容積及び質量が既知の円筒状容器を用意し、これに粒状耐火物を投入して、高さ100mm以上となる部分を除去して(摺り切り)、その重さを秤量した。そして、(粒状耐火物の質量)/(容器の容積)を求め、これを充填層の充填嵩比重とした。
また、これとは別に、粒状耐火物から概ね10mm以上の粗粒を無差別に10個以上採取し、JIS R 2205(1992年)に従ってこの粗粒の嵩比重を測定した。なお、粗粒の大きさを概ね10mm以上としたのは、これ未満の大きさの粒状耐火物では、実行上、JIS R 2205による嵩比重測定が困難だからである。
そして、(充填層の充填嵩比重)/(粗粒の嵩比重)×100(%)を求め、これを充填率とした。
ここで、充填層の粒状耐火物の充填率と充填層の背面温度との関係を、図3に示す。
この図3において、充填率100体積%のデータは、従来技術の耐火れんがを施工したもの(具体的には、厚み50mmの高アルミナ質耐火れんがを2層、空目地にて設置したもの)から求めた結果である。なお、耐火れんがは、直方体状のれんがを、空目地にてなるべく面接触させ、耐火れんが間に可能な限り隙間がないように施工している。
また、図3の充填率71体積%と74体積%のデータは、1〜50mmで構成された粒状耐火物のうち、1〜20mmの粒状耐火物の配合割合を調整して作製した充填層から求めた結果である。そして、充填率79体積%のデータは、10μmオーバー1mmアンダー(以下、10μm〜1mmと記載)の粉末状の粒状耐火物を適宜配合して作製した充填層から求めた結果である。更に、充填率92体積%のデータは、10μm〜1mmの粉末状の粒状耐火物を適宜配合し、更にランマーにて突き固めて作製した充填層から求めた結果である。
図3から明らかなように、充填層の粒状耐火物の充填率が65体積%未満になると、充填層の背面温度が急激に上昇し、耐火れんがを用いた充填率100体積%のときの背面温度(図3中の一点鎖線で示す1320℃)よりも高温となる傾向があった。
そこで、充填層の粒状耐火物の充填率を65体積%以上とした。
一方、充填率の粒状耐火物の上限は、隣接する粒状耐火物の接触が面接触となる状態を避ける必要があり、100体積%はあり得ないため、100体積%未満とした。しかし、以下に示す理由から、92体積%超とする必要性がほとんどない(92体積%以下とするのがよい)。
充填率92体積%は、1〜50mmの粒状耐火物に加え、10μm〜1mmの粉末状の粒状耐火物を意図的に加える等、充填率を無意味に向上させるための粒度調整が必要であり、更にランマーにて突き固めなければならない。
また、粒状耐火物の充填率の上昇に伴う充填層の気孔率の低下により、断熱性が悪化する傾向となるからである。
以上のことから、充填層の粒状耐火物の充填率の下限を65体積%とした。しかし、粒状耐火物で構成される充填層の厚さが、粒状耐火物の最大粒径と同じであれば、隣合う粒状耐火物の間に形成される隙間が、充填層の厚さ方向に貫通する可能性があり、この貫通した隙間が、炉床の断熱性に悪影響を与えるものと考えられる。
なお、前記した試験では、充填層の厚みが、粒状耐火物の最大粒径の少なくとも2倍あれば、好適な断熱性を維持できたため、充填層の厚みを粒状耐火物の最大粒径の2倍以上(好ましくは、3倍以上、更には4倍以上)にする必要があると考える。
この充填層の厚みの上限値については、充填層が厚くなるに伴い上記した効果が得られるため、特に規定していないが、一般的に行っている耐火物の施工を考慮すれば、500mm程度である。
以上のように、充填層の粒状耐火物の充填率を65体積%以上100体積%未満の範囲とすることで、断熱性の維持が可能であり、特に、充填率の範囲が70体積%以上85体積%以下程度で、断熱性が良好になる傾向が得られた。この理由としては、次の2点が考えられる。
(1)粒状耐火物の充填率が小さいほど、粒状耐火物の粒間の空隙径が大きくなり、炉内の高温雰囲気ガスが粒状耐火物の背面へ容易に到達しうる。
(2)粒状耐火物の充填率が高いほど、粒状耐火物の粒同士の点接触の数が増加して、伝導伝熱が起こり易くなる。特に、充填率100体積%では、充填層内が実質的にひとつの粒で構成されることになるため、点接触における伝導伝熱が実質的にほとんどなくなり、粒内での伝導伝熱が支配的となるため、断熱性が急に変化すると思われる。
従って、粒状耐火物の充填率を高位に維持して空隙径を小さくするためには、粗粒によって生じる空隙内に嵌まり込む幅(径)の細粒と、この細粒によって生じる空隙内に嵌まり込む幅(径)の微粒と、この微粒によって生じる空隙内に嵌まり込む幅(径)の超微粒とを、適切に配合すればよい。
しかし、前記した熱処理炉の炉内雰囲気の噴流等により、粒状耐火物が長期に渡って流動し飛散して、炉床の粒状耐火物の充填層の厚みが減少し、熱処理炉の耐火性が部分的に低下する懸念がある。
そこで、本発明者らは、耐火れんがをジョークラッシャーで粉砕して作製した1mmアンダーの粒径の粒状耐火物と、1〜50mmの粒状耐火物の混合比(質量割合)を調整し、粒状耐火物の充填層の厚みを115mm(充填層を収納した容器の内面形状:縦395mm×横395mm×深さ115mm)として、実機の熱処理炉内に設置し、3ヶ月間放置した後の充填層の最小深さを調査した。
粒状耐火物中の粒径1mmアンダーの粒状物の割合と3ヶ月間放置後の充填層の最小深さとの関係を、図4に示す。なお、図4に示す粒状物の割合100質量%とは、1mmアンダーの粒状耐火物が100質量%であることを意味し、0質量%とは、1〜50mmの粒状耐火物が100質量%であることを意味する。
図4から、顕著な流動や飛散による充填層の厚さの減少を、概ね1割程度に抑制するには、粒状耐火物中の粒径1mmアンダーの粒状物の割合を80質量%以下(好ましくは、70質量%、更には60質量%)にする必要があることが判明した。なお、1mmアンダーの粒状物が80質量%を超えても、炉床には前記したような開口部が発生せず、耐火性や断熱性が低下しない効果が得られるため、定期的に炉床の充填層の厚さ点検を実施し、必要に応じて充填層の平坦化や粒状耐火物の補充の手間をかければ、必ずしも1mmアンダーの粒状物の割合を80質量%以下にする必要はない。
なお、熱処理炉の炉床に粒状耐火物の充填層を施工すると、従来の耐火れんがの施工に比べて、炉床の膨張率が低減する。
ここで、炉床と天井に耐火キャスタブルを施工した長さ45m×幅12.1m×高さ(炉床から天井までの距離)5.1mの熱処理炉(炉内雰囲気温度:1300〜1400℃)について、5年間の鉄皮変形量を測定した。この調査した熱処理炉のライニング概要は、炉床部が、耐火キャスタブル:110mm、耐火れんが及び断熱れんが等:360mm、炉床の合計施工厚み:470mm、であり、天井部が、耐火キャスタブル:230mm、セラミックスウール等:150mm、天井の合計施工厚み:380mm、であった。
その結果、炉側壁鉄皮の天井近傍部の炉幅寸法が、熱処理炉の側方に40〜50mm程度膨らみ、また、炉側壁鉄皮の炉底近傍部の炉幅寸法が、熱処理炉の側方に10〜25mm程度膨らんでいた。
つまり、熱処理炉の長期の使用により、対向する側壁の間隔が熱処理炉の下部から上部へかけて広がり、熱処理炉の側壁に斜めの応力が作用していることが判明した。
これは、熱処理炉の炉床部分が、熱処理炉を設置した基礎構造体により拘束され易く、一方、天井部分が、膨張に対する拘束が少ないためだと考えられる。
このため、熱処理炉の炉床に粒状耐火物の充填層を施工すると、炉床部分の膨張はより小さくなるため、熱処理炉の側壁に斜めに作用する応力が、より大きくなるものと推定される。
そこで、天井部にライニング(施工)する耐火物の一部又は全部に、セラミックスファイバーを用いる。
セラミックスファイバーの施工体(例えば、ブランケット)は、自身の熱膨張を自ら変形して吸収するため、天井近傍の熱膨張による鉄皮変形を小さくできる。従って、粒状耐火物を施工した炉床部と、セラミックスファイバーの施工体を取付けた天井部との熱膨張の差を小さくすることができる。
なお、熱処理炉の炉内稼動面側を、粒状耐火物で構成される厚み110mmの充填層(粒状耐火物の充填率:74体積%)で構成し、天井部の耐火キャスタブルの全部をセラミックスファイバーの施工体に変更して、1年経過後の熱処理炉の側壁の天井近傍の鉄皮変形量を測定したところ、変形は非常に少なく(最大3mm)、良好な結果が得られた。
続いて、金属塊の熱処理炉の補修方法について説明する。
従来の金属塊の熱処理炉では、前記したように、炉床に施工した耐火れんがに開口部が生成するため、以下の方法で補修を行っていた。
まず、熱処理炉を停止し、炉内温度を低下させた後、作業者が炉内に入る。そして、作業者は、損傷した部位の耐火物を除去して、新しく配置する耐火れんがの長さと幅を現地で合わせて調整し、この耐火れんがの設置と築造、更にモルタル等の乾燥を行う。
これにより、熱処理炉の補修が完了するが、耐火れんがの補修には長時間を要していた。
また、炉床の補修を耐火キャスタブルで行う場合は、損傷した部位の耐火物を除去した後、耐火キャスタブルの混練と流込みを行い、耐火キャスタブルの養生硬化と乾燥を経て、補修が完了する。
このため、耐火キャスタブルを用いた補修は、耐火れんがによる補修よりも、補修期間が若干ながら短縮可能である。
しかし、耐火れんがと耐火キャスタブルのいずれを用いた補修方法も、この補修部位及びその周辺で、熱膨張による迫り合いが起こり、再度破損する可能性が高い。
熱処理炉の炉床において、図5(A)、(B)に示すように、隣合う耐火れんが20の間に発生する開口部(図5(A)、(B)中の矢印)は、一部の耐火れんが20が上方に移動することで生成する。
なお、図5(A)、(B)は、開口部生成の典型的な例であり、網かけした耐火れんが20が、上方に移動した耐火れんがを示している。また、図5(A)、(B)は模式的に示しているため、隣接する耐火れんがが線接触しているように図示されているが、実線は線接触ではなく、少なくとも耐火れんがを1層分貫通する隙間が生成している。
このような開口部は、補修すべき部位であり、移動した耐火れんがを新しいものに更新、あるいは開口部を塞ぐ等の補修を行う必要がある。
しかし、耐火れんがの更新は、前記した通り、長時間を要するという課題がある。また、モルタル又は耐火キャスタブル等の流込みにより開口部を塞ぐという補修は、上記したように、熱膨張による迫り合いを解決できず、熱処理炉の使用と共に劣化して、再度開口部が露出するという事態を招く。
そこで、本発明者らは、粒状耐火物を開口部を含む範囲(補修部位)に盛付けることで、開口部に耐火性と断熱性を付与した。
即ち、図6(A)〜(C)、図7(A)〜(C)に示すように、本発明の第1〜第6の実施の形態に係る金属塊の熱処理炉の補修方法は、耐火れんが20からなる耐火物が施工された炉床の炉内稼動面21〜26側の補修部位27〜32に、それぞれ前記した粒状耐火物で構成される充填層33〜38、即ち粒状耐火物の充填率を65体積%以上100体積%未満とし、厚みを粒状耐火物の最大粒径の2倍以上にした充填層33〜38を形成する。なお、炉床の耐火物は、耐火れんがで構成された場合のみならず、耐火キャスタブルで構成されてもよく、また耐火れんがと耐火キャスタブルの双方で構成されてもよい。以下、詳しく説明する。
この充填層の補修部位への盛付け方法には、例えば、以下に示す方法がある。
図6(A)、(B)、図7(A)、(B)に示すように、開口部の生成に伴って移動した耐火れんが20(破損したものもの含む。以下、同様)を除去することなく、粒状耐火物を補修部位27、28、30、31に山状に盛付けて充填層33、34、36、37を形成する方法がある。なお、図6(B)、図7(B)は、新たな耐火れんが20で補修部位28、31をそれぞれ囲み、この空間部内に粒状耐火物を充填して充填層34、37を形成している。
更に、移動した耐火れんが20の一部を解体除去し、また図7(C)に示すように、移動した耐火れんが20の全部を除去し、この除去した耐火れんが20で補修部位32を囲み、この空間部内に粒状耐火物を充填して充填層38を形成してもよい。
また、図6(C)に示すように、移動した耐火れんが20を解体除去し、粒状耐火物をこの除去跡を埋込むように充填して、充填層35を形成する方法もある。
なお、補修部位における充填層の厚みは、補修部位の粒状耐火物の盛付け高さと盛付け範囲を調整することで、粒状耐火物の最大粒径の2倍以上が確保できればよい。
例えば、図6(A)(図7(A)も同様)に示すように、補修部位27に山状の充填層33を形成する場合は、炉内稼動面21よりも突出した耐火れんが20の上面(最低高さ位置P1から最高高さ位置P2にかけて)から、その鉛直方向の充填層33の斜面(表面)までの高さが、粒状耐火物の最大粒径の2倍以上を確保するように補修する。
また、図6(B)(図7(B)も同様)に示すように、補修部位28を囲むように、炉内稼動面22上に耐火れんが20を配置し、この空間部内に粒状耐火物を充填する場合は、炉内稼動面22よりも突出した耐火れんが20の上面の最高高さ位置P3から充填層34の表面までの高さが、粒状耐火物の最大粒径の2倍以上を確保するように補修する。
そして、図6(C)に示すように、破損した耐火れんが20を解体除去して、この除去跡に粒状耐火物を埋込むように充填する場合は、この充填層35の厚み(除去跡の深さ)が粒状耐火物の最大粒径の2倍以上を確保すればよい。しかし、この深さを確保できなければ、図7(C)に示すように、除去した耐火れんが20で補修部位32を囲み、この空間部内に粒状耐火物を充填して、粒状耐火物の最大粒径の2倍以上を確保するように補修する。
以上に示したように、補修に際しては、開口部の生成に際して補修部位で移動した耐火れんがを、補修部位から除去してもよく、また除去しなくてもよい。移動した耐火れんがには、前記した開口部が隣接して存在していたが、耐火れんが自体は耐火性と断熱性を備えている。従って、移動した耐火れんがを、補修部位から除去することなく補修を施すと、耐火れんがの耐火性と断熱性を活用した補修が可能になる。
また、移動した耐火れんがを補修部位から除去して、この耐火れんがの下方の開口状況を確認する場合は、移動した耐火れんがを補修部位から除去した状態で、上記した補修を施してもよい。粒状耐火物の充填率及び充填層の厚さを規定範囲とすれば、開口部の発生前の耐火れんがと同等の耐火性と断熱性が実現できるためである。
これより、開口部の補修に際し、新たに配置する耐火れんがの現地合わせ(調整)やモルタル乾燥等の作業、場合によっては移動した耐火れんがの除去作業を省略することができ、補修時間の大幅な短縮が可能となる。
なお、更に、粒状耐火物が、粒径1mmアンダーの粒状物を80質量%以下含むことで、補修を施した部位に盛付けた充填層の高さを、長時間に渡って維持でき、再度の補修を施すまでの期間を長くできる。
しかし、開口部の生成に際して補修部位で移動した残留する耐火れんがを除去し、生成した隙間に粒状耐火物を充填する補修を実施する場合、充填層の厚みが粒状耐火物の最大粒径の2倍以上であっても、隣合う耐火れんが間での開口部の発生抑制が、長期に渡って実現できない場合があった。
例えば、図8(A)に示すように、隣合う耐火れんが20の間に形成される隙間(空間の一例)40の深さ方向に、2個の粒状耐火物41、42が配置された場合、この各粒状耐火物41、42が、それぞれ水平方向で隣接する耐火れんが20に点接触し、耐火れんが20や粒状耐火物41、42が熱膨張したとき、この熱膨張を吸収できなければ、開口部が生成するものと考えられる。
ここで、図8(A)は炉床を縦断面視しており、実態は奥行き方向を持つ三次元であるため、点接触する粒状耐火物は、奥行き方向に移動するなどして、熱膨張が吸収できる場合も多いと考えられる。
また、耐火れんがの破損部の隙間が、粒状耐火物の最大粒径の2倍未満であっても、図8(B)に示すように、その上方に粒状耐火物を盛上げるように散布して充填層43を形成すれば、耐火れんが20が迫り合って隙間が生じても問題ない。
このように、前記した開口部の生成に際しても、上記した方法で対処できるが、以下のような補修方法を用いることもできる。
図8(C)に示すように、充填層45を構成する粒状耐火物46の最大粒径を、補修部位の隙間40の水平方向の内幅の50%未満とする。
図8(A)に示すように、粒状耐火物46は隣接する耐火れんが20と点接触するため、開口部は発生しにくいが、図8(C)に示すように、粒状耐火物の最大粒径を隙間40の水平方向の内幅の50%未満とすることで、隣合う粒状耐火物46同士が点で接触し、更に上記した開口部の生成を未然に抑制できる。この開口部の生成は、粒状耐火物の最大粒径を隙間40の水平方向の内幅の33%以下にすると、更に確実に抑制できる。
なお、粒状耐火物の最大粒径の下限については、粒径が小さくなるに伴い、粒状耐火物の充填率を高位にして空隙径を小さくできるため規定していないが、通常、補修すべき隙間は10mm超と考えられるため、粒状耐火物の最大粒径の下限値は5mm程度である。
これにより、補修部位における開口部の生成抑制を、長期に渡って確実に実施できる。
次に、粒状耐火物を施工して充填層を形成するに際し、充填層の下層を構成する耐火物(以下、下層耐火物ともいう)の損傷抑制方法について説明する。
粒状耐火物を、図1(A)、図2(A)に示すように、下層耐火物の表面に配置する施工作業時には、例えば、1)粒状耐火物を下層耐火物表面へ散布する際の下層耐火物に対する粒状耐火物の落下衝突、2)充填層を平坦にならすことによる粒状耐火物と下層耐火物との擦過(こすれ合い)、3)充填層の除去に伴うシャベル等(充填層入替え治具)と下層耐火物との衝突、等が起こる。
このため、粒状耐火物の施工作業時に、下層耐火物が損傷する場合がある。
このような粒状耐火物の施工作業を頻繁に実施しない場合や、充填層の下層がコンクリートである場合(図2(B)参照)は、充填層の下層が損傷する恐れはない。
しかし、粒状耐火物の施工作業を繰返し行う場合は、下層耐火物が損傷し、これが熱処理炉の耐火性や断熱性に悪影響を及ぼす場合がある。
このため、下層耐火物の常温での圧縮強度(JIS R 2206−1:2007年)を、1.5MPa以上にするのが好ましい。これは、本発明者らが検討したところ、常温での圧縮強度が0.8MPaの耐火物では、耐火性や断熱性への悪影響が懸念される損傷が発生したのに対し、圧縮強度が1.5MPaの耐火物では、このような損傷が発生しなかったことによる。
なお、常温での圧縮強度の上限は、特に規定しないが、熱処理炉に用いる耐火物で常用されるものを参照すると、80MPa程度である。
これにより、充填層の下面に配置された耐火物の損傷を抑制できる。
次に、本発明に係る金属塊の熱処理炉及びその補修方法の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
まず、製鋼工程の溶鋼鍋に用いていた使用済みの耐火キャスタブル(アルミナ−マグネシア系のキャスタブル耐火物)を用い、この使用済み耐火キャスタブルに付着した地金やスラグをハツリで除去した。そして、粒状耐火物の最大粒径が50mmとなるように、ジョークラッシャーで破砕した。この破砕は、ジョークラッシャーの対となる歯板の間に、使用済み耐火キャスタブルの塊を投入して行うため、使用済み耐火キャスタブルへは主として圧縮力を付与している。
なお、粒状耐火物の最大粒径が50mmとは、粒状耐火物を公称目開き50mmの篩で一度ふるった後に、篩を抜けた粗粒のうち1個でも長径が50mm以上の粗粒がある場合の篩下の粒状耐火物を意味する。
上記した最大粒径50mmの使用済み耐火物を、更に磁選処理して地金を除去し、粒状耐火物を製造した。この粒状耐火物の充填率を、前記した方法で測定すると74体積%であり、1mmアンダーの粒状物を18質量%含んでいた。
この粒状耐火物を、常温での圧縮強度が1.5〜2.5MPaの断熱れんがの表面に施工して充填層を形成し、熱処理炉の炉床を製造した。なお、断熱れんがの厚みは360mmであり、充填層の厚みは110mmであり、炉床の合計施工厚みを470mmにした。
また、充填層は、粒状耐火物を熱処理炉の炉外から炉内へベルトコンベアにて搬送し、搬入した粒状耐火物をシャベル等を用いて炉床に散布し、グラウンド整地用のとんぼ(地ならしをする丁字形の道具)等の治具やシャベル等を用いて目視で平坦にならし施工した。
上記した粒状耐火物の充填層を施工した熱処理炉の炉床状況を、使用開始後1年経過した時点で観察したところ、顕著な開口部の発生は観察されず、加熱に要するガス原単位(熱処理鋼材の単位質量(トン)あたりに必要なガス量(Nm))の変動も確認されなかった。
また、常温での圧縮強度が20〜50MPaの耐火れんがの表面に充填層を形成し、その下部に断熱れんがを設けた場合も、同様な結果であった。なお、耐火れんがと断熱れんがの合計厚みを360mmとし、充填層の厚みを110mmとし、炉床の合計施工厚みを470mmにした。
一方、炉内稼動面側を耐火キャスタブルで施工した従来の熱処理炉の炉床状況を、使用開始後1年経過した時点で目視で観察すると、局所的に耐火キャスタブルの亀裂や盛上がり(迫り上がり)が観察された。
以上のことから、本発明の金属塊の熱処理炉及びその補修方法を用いることで、炉床耐火物の主として目地部や亀裂部での開口部の発生や、熱膨張による炉床耐火物の迫り合いを、未然に防止することができ、経時使用と共に劣化する炉床耐火物の耐火性や断熱性の低下を抑制、更には防止できることを確認できた。
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の金属塊の熱処理炉及びその補修方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
本発明の金属塊の熱処理炉及びその補修方法は、金属の塊を熱処理する種々の炉、例えば、連続鋳造後のスラブの保熱炉、熱間圧延のスラブの加熱炉、又は鋼板の焼鈍炉等のみならず、金属の塊を熱処理する炉であれば、いずれの炉にも適用できる。なお、金属の塊とは、溶融状態の金属を熱処理する炉を対象とするものではないが、例えば、塊状の金属が熱処理に際して部分的に溶解し、これが炉内に付着するような炉は、本発明が対象とする熱処理炉に該当する。
10:金属塊の熱処理炉、11:炉内稼動面、12:炉床構造、13:炉底鉄皮、14〜16:金属塊の熱処理炉、20:耐火れんが、21〜26:炉内稼動面、27〜32:補修部位、33〜38:充填層、40:隙間(空間)、41、42:粒状耐火物、43:充填層、45:充填層、46:粒状耐火物

Claims (8)

  1. 炉内稼動面に粒状耐火物で構成される充填層を有し、しかも該充填層の前記粒状耐火物の充填率が65体積%以上100体積%未満で、該充填層の厚みが前記粒状耐火物の最大粒径の2倍以上である炉床構造を備えることを特徴とする金属塊の熱処理炉(ただし、スケルプ加熱炉を除く)
  2. 請求項1記載の金属塊の熱処理炉において、前記粒状耐火物は、粒径1mmアンダーの粒状物を80質量%以下含むことを特徴とする金属塊の熱処理炉。
  3. 請求項1又は2記載の金属塊の熱処理炉において、該熱処理炉の天井部の一部又は全部にセラミックスファイバーをライニングしたことを特徴とする金属塊の熱処理炉。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属塊の熱処理炉において、前記充填層は、常温での圧縮強度が1.5MPa以上の耐火物の表面に配置されたことを特徴とする金属塊の熱処理炉。
  5. 耐火れんが及び耐火キャスタブルのいずれか一方又は双方からなる耐火物を炉床の炉内稼動面に施工した金属塊の熱処理炉の補修方法において、
    前記炉床の炉内稼動面の補修部位に粒状耐火物で構成される充填層を形成し、しかも該充填層の前記粒状耐火物の充填率を65体積%以上100体積%未満とし、該充填層の厚みを前記粒状耐火物の最大粒径の2倍以上にすることを特徴とする金属塊の熱処理炉の補修方法(ただし、金属塊の熱処理炉からスケルプ加熱炉を除く)
  6. 請求項5記載の金属塊の熱処理炉の補修方法において、前記粒状耐火物は、粒径1mmアンダーの粒状物を80質量%以下含むことを特徴とする金属塊の熱処理炉の補修方法。
  7. 請求項5又は6記載の金属塊の熱処理炉の補修方法において、前記炉床の炉内稼動面の補修部位に残存する前記耐火物を除去した後、該補修部位に生じた空間内に前記充填層を形成し、しかも該充填層を構成する前記粒状耐火物の最大粒径を、前記補修部位の空間の水平方向の内幅の50%未満としたことを特徴とする金属塊の熱処理炉の補修方法。
  8. 請求項5〜7のいずれか1項に記載の金属塊の熱処理炉の補修方法において、前記充填層は、常温での圧縮強度が1.5MPa以上の耐火物の表面に配置されることを特徴とする金属塊の熱処理炉の補修方法。
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