JP5433932B2 - 環状体の変形矯正方法 - Google Patents
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Description
このような熱処理に伴う鋼材の変形が発生する要因としては、例えば、旋削、鍛造などの前加工による歪みが熱によって顕在化する他、浸炭などの熱処理による歪みが加熱時に開放されて変形が発生したり、また、浸炭などで一次焼入れによって変形が発生する場合もある。また、熱処理時における不均一加熱や不均一冷却も局所的な内部応力が発生するため、変形を招く大きな要因となっている。
そのため、このような環状体の熱処理時に発生する変形に対しては、従来から種々の技術が提案されており、以下に示すような、いわゆる「冷却矯正焼入れ方法」と「焼戻し矯正方法」とがある。
また、以下の特許文献3には、中炭素鋼の膨張収縮特性を利用し、収縮時に内径を、膨張時に外径をそれぞれ矯正する技術が開示され、また、以下の特許文献4には、環状体を誘導加熱した後にその内径および外径を矯正して良好な真円度を得ようとする手法が開示されている。
また、以下の特許文献6には、熱間加工による矯正方法が開示されており、薄肉の環状体において、上下端面型加圧しながら誘導加熱することでその変形を防止するようにした手法が開示されている。
また、前記特許文献3に開示されている方法では、冷却速度の遅い肉厚品には最適であるが、薄肉品となると瞬時のうちに矯正方式を変更する必要があるため、適用に限界がある。
また、前記特許文献4に開示されている方法では、同様に2回の矯正条件の管理を厳しく行う必要があり、適用に限界がある。
また、前記特許文献6に開示されている方法では、反りを発生させないことは可能であるが、真円形に矯正することは不可能であった。
そこで、本発明は前記のような問題点を解決するために案出されたものであり、その主な目的は、環状体を熱処理するに際して容易かつ確実に真円形に矯正できる新規な環状体の変形矯正方法を提供するものである。
炭素鋼からなる環状体を熱処理する際に生ずる変形を矯正する方法であって、前記環状体をAC 1 変態点以上に加熱した後、冷却過程でMs点より高温に冷却し、出没自在なピストンを用いて当該環状体を外径拘束型内に押し込み、前記外径拘束型による塑性変形開始温度がMs点より高温となるように塑性変形させつつ前記外径拘束型内に嵌め込んで、その形状を真円形に矯正した後、真円形に矯正した当該環状体をその軸を中心として回転させながら当該環状体に冷却剤を吹き付けてさらに冷却し、さらにその後に、前記環状体がマルテンサイト変態膨張に転ずる直前に、前記外径拘束型より小さい内径の第2の外径拘束型に嵌め込んで、さらに冷却することを特徴とする環状体の変形矯正方法である。
また、本発明方法は、前記外径拘束型による環状体の矯正開始温度は、少なくとも550℃以上とすることが望ましい。
そして、本発明はさらにその後、この環状体をその軸を中心として回転させながら当該環状体に対して、前述したような複数の冷却剤噴射ノズルから冷却剤を吹き付けて外径拘束型内に取り付けたままで冷却するようにしたことから、環状体全体を均一に冷却することが可能となるため、冷却ムラなどに起因する変形や膨張時の変形も確実に解消することができる。
また、環状体に対する矯正は、原則として塑性変形が容易なMs点(マルテンサイト変態開始点)より高温域(好ましくは550℃以上の高温域)での1回のみで済むため、熱処理工程も簡略化され、熱処理に要するコストも安価となる。
図1(1)〜(4)は、本発明方法を実施するための熱処理装置100の実施の一形態を示したものである。
図において符号10は、素材の炭素(C)含有量が約0.1〜1.2%の炭素鋼からなる断面矩形状の環状体(ワークリング)であり、昇降自在な回転テーブル20上に、この回転テーブル20と共に回転自在に載置された状態で全体の熱処理が行われるようになっている。なお、この回転テーブル20の上面には環状体10の内側に嵌め込まれる円柱状の突起21が設けられており、熱処理時などにおいてこの環状体10が回転テーブル20から脱落するのを防止するようになっている。また、回転テーブル20には、冷却剤を下方に排出する為の冷却剤排出穴20aが設けられている。
また、この誘導加熱コイル30の下部には、少なくともその内周面が真円形をした高強度な外径拘束型(矯正型)40が設けられており、加熱冷却過程後の環状体10をその外径側から真円形に矯正(塑性変形)するようになっている。
また、この外径拘束型40の内周面の上端はテーパー41状に広がっており、その上方に位置する環状体10をその内側に容易かつ確実に案内できるようになっている。なお、この外径拘束型40は、図示しない型支持部材によって誘導加熱コイル30の直下にこれと同軸上に支持・固定されている。
この複数の冷却剤噴射ノズル52は、同図(3)に示すようにこれら各ノズルから所定量の冷却剤(冷却液)を噴射してその回転テーブル20上の環状体10を好ましくは臨界冷却速度以上の速度で冷却して焼入れ処理をするようになっている。
先ず、図1(1)に示すように、熱処理対象となる環状体(ワークリング)10を回転テーブル20上に載置して誘導加熱コイル30に位置させた後、その誘導加熱コイル30に通電してその環状体10を誘導加熱する。
すると、この環状体10の素材温度が上昇し始め、その昇温に伴ってその全体が径方向外方および軸方向に熱膨張するが、この時点では、その外径は何ら拘束されていないため、そのまま熱膨張変形することによって切削加工や浸炭処理の際に生じた内在する加熱前の歪みが全て取り除かれる。
なお、この誘導加熱に際しては、この回転テーブル20をそのシャフト22を軸として適度な速度で回転させれば、より均一で良好な加熱処理を行うことができる。
さらに環状体10の全面がオーステナイト組織になるまで加熱すれば、環状体10の素材の延性がさらに高くなって変形抵抗がより低くなるため、より確実に真円形に近い環状体10に矯正することが可能となる。
そして、図示するように、この回転テーブル20と外径拘束型40と環状体10をそのシャフト22を中心として所定の速度で回転させながら冷却剤噴射ノズル52から冷却剤を噴射して回転テーブル20の環状体10に吹き付けてその環状体10の全体を好ましくはその臨界冷却速度以上の冷却速度で冷却する。
また、このように環状体10を外径拘束型40内に取り付け真円形を保ったまま冷却されていることから、環状体10の素材がMs点に達してマルテンサイト変態膨張に転じた場合でも同じく真円形を保ったまま膨張するため、いびつな形状に変形するようなこともなくなる。
このように本発明方法は、炭素鋼からなる環状体10をAC1変態点以上、望ましくはオーステナイト組織になるまで加熱してからこの環状体10を外径拘束型40に取り付けてその形状を真円形に塑性変形した後、この環状体10をその軸を中心として回転させながらその環状体10に対して前述したような構成をした冷却剤噴射ノズル52から冷却剤を吹き付けて冷却するようにしたことから、加熱処理後の環状体10を容易に真円形に矯正できると共に、その環状体10全体を均一に冷却することが可能となるため、冷却ムラなどに起因する変形も確実に解消することができる。
また、この環状体10に対する矯正は、原則として塑性変形が容易なMs点より高温域(好ましくは550℃以上の高温域)での1回のみで済むため、熱処理工程も簡略化され、熱処理に要するコストも安価となる。
すなわち、例えば図2(1)に示すように、環状体10を均一冷却を行うための噴射ジャケット60の直下にさらに第2の外径拘束型(内周真円形)70(好ましくは第1の外径拘束型40より小さい内径)を設け、冷却処理された環状体10がマルテンサイト変態膨張に転ずる直前にこの回転テーブル20とピストン50をさらに降下させて同図(2)に示すように、この環状体10をこの第2の外径拘束型70に嵌め込んで冷却する。
なお、前記各実施の形態では、環状体10の加熱手段として誘導加熱コイル30を用いたが、電気炉などの汎用の加熱装置を用いて加熱するようにしても良い。
また、本発明方法の処理対象となる環状体10は、前述したように転がり軸受(玉軸受)の内外輪やその軌道面、軌道を有する軸、複雑形状を有する円錐ころ軸受の内外輪などに加え、あらゆる機械部品などに適用することができる。
試料として外径100mm×肉厚5mm×幅12mmの軸受鋼(SUJ2)の低〜中炭素鋼からなる複数の環状体を用い、それぞれの試料を前述した装置100および方法による熱処理ならびに矯正処理を施して各試料の真円度を調べた。
ここで、真円度は熱処理前後における直径の最大最小値の差であり、図3に示す比較例8の真円度を基準(1.0)とした真円度比を求めた。
この結果、図3からもわかるように、本発明方法に係る実施例1〜5は、いずれも真円度比が比較例よりも低く優れた矯正能を発揮することができた。
これに対し、冷却方式として浸漬冷却を用いたり、矯正開始温度が本実施例よりも低い比較例6〜8は、いずれも矯正能が本実施例に比べて著しく低かった。
10…環状体
20…回転テーブル
21…円柱状の突起
30…誘導加熱コイル
40…外径拘束型
50…ピストン
52…冷却剤噴射ノズル
70…第2の外径拘束型
Claims (4)
- 炭素鋼からなる環状体を熱処理する際に生ずる変形を矯正する方法であって、
前記環状体をAC 1 変態点以上に加熱した後、冷却過程でMs点より高温に冷却し、出没自在なピストンを用いて当該環状体を外径拘束型内に押し込み、前記外径拘束型による塑性変形開始温度がMs点より高温となるように塑性変形させつつ前記外径拘束型内に嵌め込んで、その形状を真円形に矯正した後、真円形に矯正した当該環状体をその軸を中心として回転させながら当該環状体に冷却剤を吹き付けてさらに冷却し、さらにその後に、前記環状体がマルテンサイト変態膨張に転ずる直前に、前記外径拘束型より小さい内径の第2の外径拘束型に嵌め込んで、さらに冷却することを特徴とする環状体の変形矯正方法。 - 請求項1に記載の環状体の変形矯正方法において、
前記環状体の冷却は、当該環状体を前記外径拘束型内に取り付けた状態で複数の冷却剤噴射ノズルを用いて行うことを特徴とする環状体の変形矯正方法。 - 請求項1または2に記載の環状体の変形矯正方法において、
前記外径拘束型による環状体の矯正開始温度は、少なくとも550℃以上とすることを特徴とする環状体の変形矯正方法。 - 請求項1〜3のいずれか一項に記載の環状体の変形矯正方法において、
前記環状体をAC 1 変態点以上に加熱する時に、前記環状体の全面がオーステナイト組織になるまで加熱することを特徴とする環状体の変形矯正方法。
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