以下に本発明に係る光偏向子及びこの光偏向子を備えた光偏向器の一実施例について、図1〜図38を参照して実施例1〜実施例17の順に詳細に説明する。
本発明に係る光偏向子及びこの光偏向子を備えた光偏向器では、レーザービームなどの光を反射させて光偏向を行うためのミラー部を、間隔を離して固定支持される一対の第1アーム部と、一対の第1アーム部と対向して対称に配置され且つ間隔を離して固定支持される一対の第2アーム部との間に4本の捩じりバネ部(トーションビーム部)を介して揺動可能に支持した際に、ミラー部の共振周波数を高く保ちつつ、ミラー部の偏向角度を大きく設定することができるように改善を図ったものである。
この際、以下に説明する実施例1〜実施例8では第1,第2アーム部の形状によりミラー部の偏向角度の性能改善を図り、実施例9〜実施例15では捩じりバネ部(トーションビーム部)の形状によりミラー部の偏向角度の性能改善を図っているが、実施例1〜実施例8のうちの1例と実施例9〜実施例15のうちの1例とを組み合わせることも可能である。
[実施例1]
図1に示した如く、実施例1の光偏向器10Aでは、ベース台11Aが絶縁材を用いて直方形状に形成されており、このベース台11Aの前後に一対の光偏向子支持部11a,11bが間隔を隔てて上方に向かって突出形成され、且つ、一対の光偏向子支持部11a,11b間で一対の光偏向子支持部11a,11bよりも低い位置に凹部底面11cが形成されている。
また、ベース台11Aの一対の光偏向子支持部11a,11b上に実施例1の光偏向子12Aが取り付けられていると共に、凹部底面11c上にミラー部駆動手段の一部となる計4個の駆動コイル13が一対の光偏向子支持部11a,11bの各内側に沿うように取り付けられている。
尚、本説明では駆動力として電磁力を例としているが、光偏向子12Aに形成した後述する各一対の第1,第2台形状アーム部12e,12fを可動電極、その直下に配置された固定電極との間で発生させる静電力を用いても良い。
この際、ベース台11Aの凹部底面11c上で左側の光偏向子支持部11aに沿った2個の駆動コイル13及び右側の光偏向子支持部11bに沿った2個の駆動コイル13は、それぞれスイッチ14を経て電源15に直列に接続されている。
上記した実施例1の光偏向子12Aは、基板厚みTを有する単結晶シリコン基板を用いて外形がX軸及びY軸を中心にして前後左右対称に長方形状に形成されて、内部をエッチング処理などにより肉抜きされている。
具体的に説明すると、実施例1の光偏向子12Aは、図2にも拡大して示した如く、第1〜第4外枠部12a〜12dにより外周部が長方形状に囲まれている。
また、光偏向子12Aは、第1外枠部12aと第3外枠部12cとがX軸を中心にして対称に間隔を離して互に対向して長尺に形成されており、且つ、両者12a,12cがベース台11Aの一対の光偏向子支持部11a,11b上に接着剤などを用いて固着されていると共に、第2,第4外枠部12b,12dがY軸を中心にして対称に間隔を離して互に対向して第1,第3外枠部12a,12cよりも短尺に形成されてベース台11A上に固着されていない。
また、光偏向子12Aの第1外枠部12aの内側から一対の第1台形状アーム部12e,12eがY軸を中心にして対称に間隔を離して第3外枠部12c側に向かって延出されている。
また、光偏向子12Aの第3外枠部12cの内側から一対の第2台形状アーム部12f,12fがY軸を中心にして対称に間隔を離して第1外枠部12a側に向かって延出されている。
そして、一対の第1台形状アーム部12e,12eと、一対の第2台形状アーム部12f,12fは、X軸を中心に対称に対向して配置されている。
この際、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1台形状アーム部12e,12e及び第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2台形状アーム部12f,12fは、先に図39を用いて説明した従来構造の第1,第2長方形状アーム部102c,102dと略同じ幅で大幅に形成した底辺と対応する各一端側が固定支持側となり、且つ、底辺よりも小幅な上辺と対応する各他端側が自由端となる片持ち梁構造を取ると共に、底辺と上辺とを結ぶ両側辺が略等しい長さで且つ略等角度で対称に傾斜されている。
また、一対の第1台形状アーム部12e,12eの自由端側となる各他端側に2本で一対の第1捩じりバネ部12g,12gがX軸と略平行に細い幅で一方(左方)と他方(右方)とに間隔を隔てて分かれて連接されている。
また、一対の第2台形状アーム部12f,12fの自由端側となる各他端側に2本で一対の第2捩じりバネ部12h,12hがX軸と略平行に細い幅で一方(左方)と他方(右方)とに間隔を隔てて分かれて連接されており、且つ、これら一対の第2捩じりバネ部12h,12hは一対の第1捩じりバネ部12g,12gと対向して下記するミラー部12iの重心Gを通るX軸に対して僅かな隙間を隔てて対称に配置されている。
更に、一対の第1捩じりバネ部12g,12gの一方と他方の間、及び、一対の第2捩じりバネ部12h,12hの一方と他方の間に、レーザービームなどの光を反射させて光偏向を行うための円形状のミラー部12iが連接して支持されている。
従って、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1台形状アーム部12e,12eの各他端側と、第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2台形状アーム部12f,12fの各他端側との間に、ミラー部12iが一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hを介してミラー部12iの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能に支持されていることになる。
更に、一対の第1台形状アーム部12e,12e及び一対の第2台形状アーム部12f,12fの各一端側裏面にはミラー部駆動手段の一部となる永久磁石膜16が膜付けされており、計4箇所の永久磁石膜16はベース台11Aの凹部底面11c上に取り付けた計4個の駆動コイル13と対向している。
この際、一対の第1台形状アーム部12e,12e及び一対の第2台形状アーム部12f,12fは、固定支持される各一端側から各他端側に連接した一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hに向かって台形状であるためにアーム幅が徐々に狭く形成されていることで、各一対の第1,第2台形状アーム部12e,12fの各他端側と各一対の第1,第2捩じりバネ部12g,12hとが接合する各部位近傍のみが曲がり易くなり、ミラー部12iの偏向角度を大きく設定することができる。
また、各一対の第1,第2台形状アーム部12e,12fの各一端側は、アーム幅が大きいために柔らかくなりすぎず、ミラー部12iの共振周波数が低下しないと共に、各一対の第1,第2捩じりバネ部12g,12hに印加される応力を低下させることができる。
ここで、上記のように構成した実施例1の光偏向器10Aの動作について、図3(a),(b)を用いて説明する。
まず、図3(a)に示した状態は、実施例1の光偏向子12A中で一対の第1台形状アーム部12e,12e(又は、一対の第2台形状アーム部12f,12f)のみを一方のミラー部駆動手段(又は、他方のミラー部駆動手段)となる駆動コイル13,永久磁石膜16により駆動した場合を示している。
例えば、一対の第1台形状アーム部12e,12eと対応する一方のミラー部駆動手段のスイッチ14のみをオンさせると、ベース台11Aの凹部底面11c上で左側の光偏向子支持部11a側に取り付けた駆動コイル13が電源15に接続されるので、この駆動コイル13と一対の第1台形状アーム部12e,12eの裏面に膜付けした永久磁石膜16との間で電磁力が作用し、一対の第1台形状アーム部12e,12eが一対の第1捩じりバネ部12g,12gを介してベース台11Aの凹部底面11c側に向かって撓むために、ミラー部12iがX軸を中心にして傾動する。これに協動して一対の第2台形状アーム部12f,12fは一対の第2捩じりバネ部12h,12hを介して一対の第1台形状アーム部12e,12eとは反対側に向かって撓むが他方のミラー部駆動手段のスイッチ14はオフされている。
更に、上記とは逆に、一対の第2台形状アーム部12f,12fと対応する他方のミラー部駆動手段のスイッチ14のみをオンさせると、ミラー部12iが上記とは逆方向に傾動する。
次に、図3(b)に示した状態は、実施例1の光偏向子12A中で一対の第1台形状アーム部12e,12e及び一対の第2台形状アーム部12f,12fを一方及び他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル13,永久磁石膜16により駆動した場合を示している。
ここでは、一対の第1台形状アーム部12e,12eと対応する一方のミラー部駆動手段となる駆動コイル13及び電源15Aと、一対の第2台形状アーム部12f,12fと対応する他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル13及び電源15Bとがプラス電位側とマイナス電位側とで互いに逆位相に接続されているので、一方及び他方のスイッチ14A,14Bをそれぞれオンさせると、一方の駆動コイル13と永久磁石膜16とにより一対の第1台形状アーム部12e,12eが下方に向かって撓み、且つ、他方の駆動コイル13と永久磁石膜16とにより一対の第2台形状アーム部12f,12fが上方に向かって撓むので、図3(a)の場合よりも倍の電磁力が作用するために、ミラー部12iが図3(a)の場合よりも大きく傾動する。
そして、ミラー部12iの外形サイズを例えばφ1.2mm程度に形成したときに、シミュレーション計算により従来構造(特許第3552601号公報での構造)と比較して、一対の第1台形状アーム部12e,12e及び一対の第2台形状アーム部12f,12fに同時に逆位相の駆動力を印加したとき、ミラー部12iの共振周波数が31KHz程度でほぼ同等となる一方、ミラー部12iの振動端部での変位量が約1.3倍向上し、また、第1,第2捩じりバネ部12g,12hへの応力もほぼ同じである結果が得られた。
即ち、ミラー部12iの外形サイズを大きくすることなく、ミラー部12iの共振周波数を高く保ちつつ、ミラー部12iの偏向角度を大きく設定することができた。
次に、本発明に係る実施例1の光偏向器10Aを一部変形させた変形例の光偏向器10A’について、図4を用いて実施例1と異なる点のみを簡略に説明する。
図4(a),(b)に示した如く、変形例の光偏向器10A’では、ベース台11A’が長方形状で平板に形成されており、且つ、この変形例のミラー部駆動手段として計4個の積層型ピエゾ素子17がベース台11A’の上面11d上に伸縮自在に固着された上で、この4個の積層型ピエゾ素子17を介して実施例1の光偏向子12A(図1,図2)を一部変形させた変形例の光偏向子12A’が支持されている。
上記した変形例の光偏向子12A’は、実施例1に対して第1〜第4外枠部が形成されていない点以外は実施例1と同じ形状に形成されているので、一対の第1台形状アーム部12e,12eの各他端側と、一対の第2台形状アーム部12f,12fの各他端側との間に計4本の捩じりバネ部12g,12hを介してミラー部12iがこの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能になっている。
そして、変形例のミラー部駆動手段となる4個の積層型ピエゾ素子17は、この底面がベース台11A’の上面11dに固着され、且つ、各積層型ピエゾ素子17の上面が一対の第1台形状アーム部12e,12e及び一対の第2台形状アーム部12f,12fの各一端側裏面に固着されており、電圧の印加に応じて上下方向に伸縮自在になっている。
ここで、上記のように構成した変形例の光偏向器10A’の動作について、図5(a),(b)を用いて説明する。
まず、図5(a)に示した状態は、変形例の光偏向子12A’中で一対の第1台形状アーム部12e,12e(又は、一対の第2台形状アーム部12f,12f)のみを一方のミラー部駆動手段(又は、他方のミラー部駆動手段)となる積層型ピエゾ素子17により駆動した場合を示している。
例えば、一対の第1台形状アーム部12e,12eと対応する一方のミラー部駆動手段を一定の周波数で振動させると、ベース台11A’の上面11d上に固着させた積層型ピエゾ素子17が電源15に接続されるので、この積層型ピエゾ素子17に収縮(又は、伸長)する力が作用し、一対の第1台形状アーム部12e,12eがミラー部12iに対して下方(又は、上方)に変位すると共に撓むので、一対の第1捩じりバネ部12g,12gを介して一対の第1台形状アーム部12e,12eの下方変位(又は、上方変位)および撓み変位がミラー部12iに伝達され、ミラー部12iがX軸を中心にして傾動する。これに協動して一対の第2台形状アーム部12f,12fは一対の第2捩じりバネ部12h,12hを介して一対の第1台形状アーム部12e,12eとは反対側に向かって撓むが他方のミラー部駆動手段のスイッチ14はオフされている。
このときのミラー部12iの動作は、ピエゾ素子17による各一対の第1,第2台形状アーム部12e,12f全体の下方変位,上方変位と、各一対の第1,第2台形状アーム部12e,12fの振動撓みによる下方変位,上方変位とが合わさって駆動力を与えるので、よりミラー部12iの変位量をより大きくできると共に、ミラー部12iの共振周波数でなくとも、大きなミラー動作を実現することができる。もちろん、ミラー部12iの共振周波数で駆動させれば、より少ない駆動力でより大きな変位を得られるし、また、駆動手段が積層型ピエゾ素子17でなくとも、電磁駆動素子などを用いて各一対の第1,第2台形状アーム部12e,12f全体を振動させても良い。
次に、図5(b)に示した状態は、変形例の光偏向子12A’中で一対の第1台形状アーム部12e,12e及び一対の第2台形状アーム部12f,12fを一方及び他方のミラー部駆動手段となる積層型ピエゾ素子17により駆動した場合を示している。
ここでは、一対の第1台形状アーム部12e,12eと対応する一方のミラー部駆動手段となる積層型ピエゾ素子17及び電源15Aと、一対の第2台形状アーム部12f,12fと対応する他方のミラー部駆動手段となる積層型ピエゾ素子17及び電源15Bとが互いに逆位相に接続されているので、一方及び他方のスイッチ14A,14Bをそれぞれオンさせると、一方の積層型ピエゾ素子17の収縮により一対の第1台形状アーム部12e,12eが下方に変位すると共に下方に向かって撓み、且つ、他方の積層型ピエゾ素子17の伸長により一対の第2台形状アーム部12f,12fが上方に変位すると共に上方に向かって撓むので、図5(a)の場合よりも倍の伸縮力が作用するために、ミラー部12iが図5(a)の場合よりも大きく傾動する。
従って、実施例1を一部変形させた変形例の光偏向器10A’でも実施例1と同様な性能が得られる。
[実施例2]
図6(a),(b)に示した如く、実施例2の光偏向器10Bは、先に説明した実施例1の光偏向器10A(図1)の構成と一部を除いて同様の構成であり、ここでは説明の便宜上、先に示した構成部材に対しては同一の符号を付して図示し、且つ、実施例1と異なる構成部材に新たな符号を付して異なる点についてのみ説明する。
上記した実施例2の光偏向器10Bでは、ベース台11Aの一対の光偏向子支持部11a,11b上に取り付けた実施例2の光偏向子12Bの形状が実施例1に対して一部異なるだけである。
即ち、実施例2の光偏向子12Bでは、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1台形状アーム部12j,12j及び第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2台形状アーム部12k,12kが、先に図39を用いて説明した従来構造の第1,第2長方形状アーム部102c,102dと略同じ幅で大幅に形成した底辺と対応する各一端側が固定支持側となり、且つ、底辺よりも小幅な上辺と対応する各他端側が自由端となる片持ち梁構造を取る点は実施例1と同様であるものの、底辺と上辺とを結ぶ両側辺が異なる長さであり、且つ、外側の各辺が第1,第3外枠部12a,12cに対して略直交して内側に向かって延出され、内側の各辺が第1,第3外枠部12a,12cに対して所定角度傾斜して内側に向かって延出されている点が実施例1と異なるだけである。
そして、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1台形状アーム部12j,12jの各他端側と、第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2台形状アーム部12k,12kの各他端側との間に、ミラー部12iが一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hを介してミラー部12iの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能に支持されていることになる。
この際、一対の第1台形状アーム部12j,12j及び一対の第2台形状アーム部12k,12kは、固定支持される各一端側から各他端側に連接した一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hに向かってアーム幅が徐々に狭く形成されていることで、各一対の第1,第2台形状アーム部12j,12kの各他端側と各一対の第1,第2捩じりバネ部12g,12hとが接合する各部位近傍のみが曲がり易くなり、ミラーの共振周波数を余り低下させることなく、ミラー部12iの偏向角度を大きく設定することができる。
従って、実施例2の光偏向器10Bも、実施例1と略同様に動作して実施例1と略同様な性能が得られると共に、実施例1よりも図6(a)におけるX軸方向(左右方向)の寸法を短くすることができるので、光偏向器10Bの小型化が可能になる。
[実施例3]
図7(a),(b)に示した如く、実施例3の光偏向器10Cも、先に説明した実施例1の光偏向器10A(図1)の構成と一部を除いて同様の構成であり、ここでは説明の便宜上、先に示した構成部材に対しては同一の符号を付して図示し、且つ、実施例1と異なる構成部材に新たな符号を付して異なる点についてのみ説明する。
上記した実施例3の光偏向器10Cでも、ベース台11Aの一対の光偏向子支持部11a,11b上に取り付けた実施例3の光偏向子12Cの形状が実施例1に対して一部異なるだけである。
即ち、実施例3の光偏向子12Cでは、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1矩形付き台形状アーム部12m,12m及び第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2矩形付き台形状アーム部12n,12nが、先に図39を用いて説明した従来構造の第1,第2長方形状アーム部102c,102dと略同じ幅で大幅に形成した各一端側が固定支持側となって各他端側の近傍まで矩形部12m1,12n1としてそれぞれ内側に向かって延出されているものの、各他端側の近傍から底辺の幅が矩形部12m1,12n1と同じく大幅に形成された台形部12m2,12n2としてそれぞれ内側に向かって延出され且つ台形部12m2,12n2の小幅な上辺と対応する各他端側が自由端となる片持ち梁構造を取っている点が実施例1と異なるだけである。
そして、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1矩形付き台形状アーム部12m,12mの各他端側と、第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2矩形付き台形状アーム部12n,12nの各他端側との間に、ミラー部12iが一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hを介してミラー部12iの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能に支持されていることになる。
この際、一対の第1矩形付き台形状アーム部12m,12m及び一対の第2矩形付き台形状アーム部12n,12nは、各他端側の台形部12m2,12n2がここに連接した一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hに向かってアーム幅が徐々に狭く形成されていることで、各一対の第1,第2矩形付き台形状アーム部12m,12nの各他端側と各一対の第1,第2捩じりバネ部12g,12hとが接合する各部位近傍のみが曲がり易くなり、ミラー部12iの共振周波数を余り低下させることなく、ミラー部12iの偏向角度を大きく設定することができる。
これにより、実施例3の光偏向器10Cも、実施例1と略同様に動作にして実施例1と略同様な性能が得られる他に、第1,第2矩形付き台形状アーム部12m,12nの各矩形部裏面側に実施例1よりも面積が大きい永久磁石膜16を膜付けすることができるので、第1,第2矩形付き台形状アーム部12m,12nとそれぞれ対応する一方及び他方のミラー部駆動手段の駆動力を向上させることができる。
[実施例4]
図8(a),(b)に示した如く、実施例4の光偏向器10Dも、先に説明した実施例1の光偏向器10A(図1)の構成と一部を除いて同様の構成であり、ここでは説明の便宜上、先に示した構成部材に対しては同一の符号を付して図示し、且つ、実施例1と異なる構成部材に新たな符号を付して異なる点についてのみ説明する。
上記した実施例4の光偏向器10Dでも、ベース台11Aの一対の光偏向子支持部11a,11b上に取り付けた実施例4の光偏向子12Dの形状が実施例1に対して一部異なるだけである。
即ち、実施例4の光偏向子12Dでは、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1段付き矩形状アーム部12p,12p及び第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2段付き矩形状アーム部12q,12qは、先に図39を用いて説明した従来構造の第1,第2長方形状アーム部102c,102dと略同じ幅で大幅矩形状に形成した大幅矩形部12p1,12q1の各一端側が固定支持側となってそれぞれ内側に向かって延出されているものの、各他端側近傍を幅方向に段を付けて大幅矩形部12p1,12q1よりも小幅矩形状に形成した小幅矩形部12p2,12q2がそれぞれ更に内側に向かって延出され且つ小幅の各他端側が自由端となる片持ち梁構造を取っている点が実施例1と異なるだけである。
そして、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1段付き矩形状アーム部12p,12pの各他端側と、第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2段付き矩形状アーム部12q,12qの各他端側との間に、ミラー部12iが一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hを介してミラー部12iの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能に支持されていることになる。
この際、一対の第1段付き矩形状アーム部12p,12p及び一対の第2段付き矩形状アーム部12q,12qは、各他端側の小幅矩形部12p2,12q2がここに連接した一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hに向かってアーム幅が狭く形成されていることで、各一対の第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qの各他端側と各一対の第1,第2捩じりバネ部12g,12hとが接合する各部位近傍のみが曲がり易くなり、ミラー部12iの共振周波数を余り低下させることなく、ミラー部12iの偏向角度を大きく設定することができる。
ここで、実施例4の光偏向子12Dを作製したときのモデル構造について述べると、光偏向子12Dの各寸法は、基板厚みが50μm、一対の第1段付き矩形状アーム部12p,12pの左右両端間の長さ及び一対の第2段付き矩形状アーム部12q,12qの左右両端間の長さがそれぞれ2400μm、第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qの大幅矩形部12p1,12q1の各幅及び各長さが400μm及び1100μm、第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qの小幅矩形部12p2,12q2の各幅及び各長さが100μm及び100μm、第1,第2捩じりバネ部12g,12hの各ビーム幅が50μm、第1,第2捩じりバネ部12g,12hの各ビーム長さが500μm、第1捩じりバネ部12gと第2捩じりバネ部12hとの間のビーム間隔が200μm、ミラー部12iの直径がφ1.2mmにそれぞれ設定されている。
そして、上記のように形成した実施例4のモデル例構造において、図8(b)に示したように、第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qとそれぞれ対応する一方及び他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル13,永久磁石膜16を動作させて、第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qの各他端側(各自由端側)の一部に0.001Mpaの偶力を印加してミラー部12iを偏向動作させたときに、ミラー部12iの共振周波数、ミラー部12iの偏向角度と対応するミラー部12iの振動端部の変位量、及び、第1,第2捩じりバネ部12g,12hのミーゼス応力(MisesStress)の各値をシミュレーション計算により求めた。
この際、実施例4の光偏向子12Dのモデル構造に対して、小幅矩形部を形成せずに先に図39を用いて説明した従来構造の第1,第2長方形状アーム部102c,102dの場合を比較例として上記と同様な各値をシミュレーション計算により求めた。
その結果を、以下の表1に示す。
上記した表1の結果から、ミラー部12iの共振周波数は実施例4の光偏向子12Dのモデル構造と従来構造とが同じ程度であるが、ミラー部12iの偏向角度と対応するミラー部12iの振動端部の変位量が従来構造で0.066μmに対して実施例4では0.088μmとなり、ミラー部12iの偏向角度と対応するミラー部12iの振動端部の変位量は実施例4のモデル構造の方が従来構造よりも約1.3倍向上するので、ミラー部12iの偏向角度を従来構造よりも大きく設定でき、且つ、第1,第2捩じりバネ部12g,12hのミラー部12iに接続される連結部でのミーゼス応力は実施例4のモデル構造が従来構造とほぼ同等なので、ミラー部12iが最大まで偏向できる角度はほぼ同等となる。
この際、実施例4の光偏向子12Dのモデル構造において、第1,第2捩じりバネ部12g,12hの各ビーム幅を50μmに設定して、第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qの各他端側に形成した小幅矩形部12p2,12q2の幅を可変させ、且つ、第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qの各他端側(各自由端側)の一部に0.001Mpaの偶力を印加してミラー部12iを偏向動作させたときに、小幅矩形部12p2,12q2の幅に対するミラー部12iの共振周波数、ミラー部12iの偏向角度と対応するミラー部12iの振動端部の変位量、及び、第1,第2捩じりバネ部12g,12hのミラー部12iに接続される連結部でのミーゼス応力(MisesStress)の各値をシミュレーション計算により求めた。
そして、図9(a)〜(c)に示すように、小幅矩形部12p2,12q2の幅が100μm程度のときに、ミラー部12iの共振周波数が最も高く、且つ、ミラー部12iの偏向角度と対応するミラー部12iの振動端部の変位量が最も大きく、更に、第1,第2捩じりバネ部12g,12hのミーゼス応力が低くなることがわかる。
この結果から、第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qの各他端側に形成した小幅矩形部12p2,12q2の幅は、第1,第2捩じりバネ部12g,12hの各ビーム幅の略1.5〜2.5倍であれば、共振周波数および応力値が従来構造に比べて特性劣化することなく、ミラー偏向角度を向上させることがわかる。
これにより、実施例4の光偏向器10Dも、図8(b)に示したように、第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qとそれぞれ対応する一方及び他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル13,永久磁石膜16を動作させると、実施例1と略同様に動作して実施例1と略同様な性能が得られる他に、第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qの各大幅矩形部裏面側に実施例1よりも面積が大きい永久磁石膜16を膜付けすることができるので、第1,第2段付き矩形状アーム部12p,12qとそれぞれ対応する一方及び他方のミラー部駆動手段の駆動力を向上させることができる。
[実施例5]
図10(a),(b)に示した如く、実施例5の光偏向器10Eも、先に説明した実施例1の光偏向器10A(図1)の構成と一部を除いて同様の構成であり、ここでは説明の便宜上、先に示した構成部材に対しては同一の符号を付して図示し、且つ、実施例1と異なる構成部材に新たな符号を付して異なる点についてのみ説明する。
上記した実施例5の光偏向器10Eでも、ベース台11Aの一対の光偏向子支持部11a,11b上に取り付けた実施例5の光偏向子12Eの形状が実施例1に対して一部異なるだけである。
即ち、実施例5の光偏向子12Eでは、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1段付き長方形状アーム部12r,12r及び第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2段付き長方形状アーム部12s,12sは、先に図39を用いて説明した従来構造の第1,第2長方形状アーム部102c,102dと略同じ幅で厚みを厚く大幅に形成した大幅厚肉矩形部12r1,12s1の各一端側が固定支持側となってそれぞれ内側に向かって延出されているものの、各他端側近傍を厚み方向に段をつけて大幅厚肉矩形部12r1,12s1と同じ幅で厚みが薄い大幅薄肉矩形部12r2,12s2がそれぞれ更に内側に向かって延出されて各他端側が自由端となる片持ち梁構造を取っている点が実施例1と異なるだけである。
そして、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1段付き長方形状アーム部12r,12rの各他端側と、第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2段付き長方形状アーム部12s,12sの各他端側との間に、ミラー部12iが一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hを介してミラー部12iの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能に支持されていることになる。
この際、一対の第1段付き長方形状アーム部12r,12r及び一対の第2段付き長方形状アーム部12s,12sは、各他端側の大幅薄肉矩形部12r2,12s2がここに連接した一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hに向かってアーム厚みが薄く形成されていることで、各一対の第1,第2段付き長方形状アーム部12r,12sの各他端側と各一対の第1,第2捩じりバネ部12g,12hとが接合する各部位近傍のみが曲がり易くなり、ミラーの共振周波数をあまり低下させることなく、ミラー部12iの偏向角度を大きく設定することができる。
これにより、実施例5の光偏向器10Eも、図10(b)に示したように、第1,第2段付き長方形状アーム部12r,12sとそれぞれ対応する一方及び他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル13,永久磁石膜16を動作させると、実施例1と略同様に動作して実施例1と略同様な性能が得られる他に、第1,第2段付き長方形状アーム部12r,12sの各大幅厚肉矩形部裏面側に実施例1よりも面積が大きい永久磁石膜16を膜付けすることができるので、一方及び他方のミラー部駆動手段の駆動力を向上させることができる。
[実施例6]
図11(a),(b)に示した如く、実施例6の光偏向器10Fも、先に説明した実施例1の光偏向器10A(図1)の構成と一部を除いて同様の構成であり、ここでは説明の便宜上、先に示した構成部材に対しては同一の符号を付して図示し、且つ、実施例1と異なる構成部材に新たな符号を付して異なる点についてのみ説明する。
上記した実施例6の光偏向器10Fでも、ベース台11Aの一対の光偏向子支持部11a,11b上に取り付けた実施例6の光偏向子12Fの形状が実施例1に対して一部異なるだけである。
即ち、実施例6の光偏向子12Fでは、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1段付き矩形状アーム部12t,12t及び第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2段付き矩形状アーム部12u,12uは、先に図39を用いて説明した従来構造の第1,第2長方形状アーム部102c,102dと略同じ幅で厚みを厚く大幅に形成した大幅厚肉矩形部12t1,12u1の各一端側が固定支持側となってそれぞれ内側に向かって延出されているものの、各他端側近傍を幅方向及び厚み方向に段をつけて大幅厚肉矩形部12t1,12u1よりも幅が狭く且つ厚みが薄い小幅薄肉矩形部12t2,12u2がそれぞれ更に内側に向かって延出されて各他端側が自由端となる片持ち梁構造を取っている点が実施例1と異なるだけである。
そして、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1段付き矩形状アーム部12t,12tの各他端側と、第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2段付き矩形状アーム部12u,12uの各他端側との間に、ミラー部12iが一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hを介してミラー部12iの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能に支持されていることになる。
この際、一対の第1段付き矩形状アーム部12t,12t及び一対の第2段付き矩形状アーム部12u,12uは、各他端側の小幅薄肉矩形部12t2,12u2がここに連接した一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hに向かってアーム幅が狭く且つアーム厚みが薄く形成されていることで、各一対の第1,第2段付き矩形状アーム部12t,12uの各他端側と各一対の第1,第2捩じりバネ部12g,12hとが接合する各部位近傍のみが曲がり易くなり、共振周波数を余り低下させることなく、ミラー部12iの偏向角度を大きく設定することができる。
これにより、実施例6の光偏向器10Fも、図11(b)に示したように、一方及び他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル13,永久磁石膜16を動作させると、実施例1と略同様に動作して実施例1と略同様な性能が得られる他に、第1,第2段付き矩形状アーム部12t,12uの各大幅厚肉矩形部裏面側に実施例1よりも面積が大きい永久磁石膜16を膜付けすることができるので、一方及び他方のミラー部駆動手段の駆動力を向上させることができる。
[実施例7]
図12(a),(b)に示した如く、実施例7の光偏向器10Gも、先に説明した実施例1の光偏向器10A(図1)の構成と一部を除いて同様の構成であり、ここでは説明の便宜上、先に示した構成部材に対しては同一の符号を付して図示し、且つ、実施例1と異なる構成部材に新たな符号を付して異なる点についてのみ説明する。
上記した実施例7の光偏向器10Gでは、ベース台11A上に形成した一対の光偏向子支持部11a,11bの各内側中心部位に一対のアーム固定部11e,11fがY軸に沿いながらX軸を中心にして間隔を離して対称に突出形成されている。
また、ベース台11A上に取り付けた実施例7の光偏向子12Gの形状が実施例1に対して一部異なり、これに伴ってベース台11A上への取り付け方法が実施例1に対して一部異なっている。
即ち、実施例7の光偏向子12Gでは、第1外枠部12aの内側に一対の第1L字状アーム部12v,12vの各一端がY軸を中心にして対称に対向して内側に向かってL状に屈曲し、両L字状アーム部12v,12vを合わせてコ字状に形成されており、これら一対の第1L字状アーム部12v,12vの各一端側がベース台11Aのアーム固定部11e上に固定され、且つ、一対の第1L字状アーム部12v,12vの各他端側が自由端となっている。
また、第3外枠部12cの内側に一対の第2L字状アーム部12w,12wの各一端がY軸を中心にして対称に対向して内側に向かってL状に屈曲し、両L字状アーム部12w,12wを合わせてコ字状に形成されており、これら一対の第2L字状アーム部12w,12wの各一端側がベース台11Aのアーム固定部11f上に固定され、且つ、一対の第2L字状アーム部12w,12wの各他端側が自由端となっている。
そして、一対の第1L字状アーム部12v,12vと、一対の第2L字状アーム部12w,12wとがX軸を中心にして対称に対向して配置されている。
また、ベース台11Aの上面11c上には、L字状に巻回したコイル18が計4個取り付けられており、これら4個のコイル18と対向して一対の第1L字状アーム部12v,12v及び一対の第2L字状アーム部12w,12wの各裏面に永久磁石膜19がL字状に膜付けされている。
この際、一対の第1L字状アーム部12v,12v及び一対の第2L字状アーム部12w,12wのアーム幅及びアーム厚みは、先に図39を用いて説明した従来構造の第1,第2長方形状アーム部102c,102dと略同じに設定されている。
そして、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1L字状アーム部12v,12vの各他端側と、第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2L字状アーム部12w,12wの各他端側との間に、ミラー部12iが一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hを介してミラー部12iの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能に支持されていることになる。
この際、一対の第1L字状アーム部12v,12v及び一対の第2L字状アーム部12w,12wは、固定支持される各一端側から各他端側に連接した一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の捩じりバネ部12h,12hに向かってアーム全長が先に図39を用いて説明した従来構造の第1,第2長方形状アーム部102c,102dのアーム全長よりも長く形成することができるので、第1,第2L字状アーム部12v,12wの構造が柔らかくなり共振周波数は若干低下するものの、ミラー部12iの偏向角度を大きく設定することができる。
更に、各一対の第1,第2L字状アーム部12v,12wのアーム全長を先に図39を用いて説明した従来構造よりも長くしてもL字状に屈曲させているために、実施例7の光偏向子12Gの外形サイズは従来構造と略同じサイズに形成できる。
ここで、実施例7の光偏向子12Gを作製したときのモデル構造について述べると、光偏向子12Gの各寸法は、基板厚みが50μm、一対の第1L字状アーム部12v,12vの左右両端間の長さ及び一対の第2L字状アーム部12w,12wの左右両端間の長さがそれぞれ2400μm、第1,第2L字状アーム部12V,12wの各幅及び各中心長さが400μm及び4000μm、第1,第2捩じりバネ部12g,12hの各ビーム幅が50μm、第1,第2捩じりバネ部12g,12hの各ビーム長さが500μm、第1捩じりバネ部12gと第2捩じりバネ部12hとの間のビーム間隔が200μm、ミラー部12iの直径がφ1.2mmにそれぞれ設定されている。
そして、上記のように形成した実施例7のモデル例構造において、図12(b),(c)に示した如く、光偏向子12G中で一対の第1L字状アーム部12v,12v及び一対の第2L字状アーム部12w,12wを一方及び他方のミラー部駆動手段により駆動した場合に、一方のミラー部駆動手段となる駆動コイル18及び電源15Aと、他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル18及び電源15Bとが互いに逆位相に接続されているので、一方及び他方のスイッチ14A,14Bをそれぞれオンさせると、一方の駆動コイル18と永久磁石膜19とにより一対の第1L字状アーム部12v,12vが下方に向かって撓み、且つ、他方の駆動コイル18と永久磁石膜19とにより一対の第2L字状アーム部12w,12wが上方に向かって撓むので、ミラー部12iが大きく傾動する。
この際、一対の第1L字状アーム部12v,12vの各一端側及び一対の第2L字状アーム部12w,12wの各一端側をベース台11Aのアーム固定部11e,11f上に固定支持する場合に、アーム固定部11e,11fで拘束する第1,第2L字状アーム部12v,12wの各一端側の拘束区間kの長さを可変させ、且つ、第1,第2L字状アーム部12v,12wの各他端側(各自由端側)の一部に0.001Mpaの偶力を印加してミラー部12iを偏向動作させたときに、アーム固定部11e,11fの拘束区間kの長さに対するミラー部12iの共振周波数、ミラー部12iの偏向角度と対応するミラー部12iの振動端部での変位量、及び、第1,第2捩じりバネ部12g,12hのミラー部12iとの連結部でのミーゼス応力(MisesStress)の各値を図13(a),(b),(c)に示したようにシミュレーション計算により求めた。
上記した図13(a),(b),(c)の結果から、ミラー部12iの共振周波数はアーム固定部11e,11fでの拘束区間kの長さが長くなるほど大きくなるが、拘束区間kの長さを200μm〜2400μmに亘って変化させても、ミラー部12iの共振周波数の変化は28〜31kHzであった。
これに対して、ミラー部12iのミラー振動端部での変位量、即ちミラー部12iの偏向角度は大きく変化し、アーム固定部11e,11fでの拘束区間kの長さが2400μmの場合には先に図39を用いて説明した従来構造と対応するために変位量は0.066μm程度と小さく、一方、拘束区間kの長さが短くになるにつれて変位量が急激に大きくなる。
また、第1,第2捩じりバネ部12g,12hのミーゼス応力は、アーム固定部11e,11fでの拘束区間kの長さが短いほど小さくなる。
尚、ミーゼス応力のシミュレーションによる結果は、解析ソフトウエアのプログラム上、対称構造物でありながら有限要素法構造体メッシング時に非対称なメッシュが形成されてしまったため、計4本の第1,第2捩じりバネ部12g,12hの各付け根部位のうち1箇所にだけ、大きな応力値(極大点)が出てしまった。そのため、この極大点を含めた結果と、極大点を含まない結果とを図13(c)に示している。
従って、アーム固定部11e,11fでの拘束区間kの長さを小さくすれば、ミラー部12iの共振周波数は多少低下するが、ミラー部12iの偏向角度は大きく拡大し、ミーゼス応力も多少低下することになるが、実施例7の光偏向子12Gのモデル構造ではアーム固定部11e,11fでの拘束区間kの長さを400μm程度に設定することで、実施例1と略同様の性能が得られることを確認できた。
これにより、実施例7の光偏向器10Gも、実施例1と略同様に動作して実施例1と略同様な性能が得られる他に、光偏向子12Fの外形サイズを大きくすることなく、第1,第2L字状アーム部12v,12wのアーム全長を長く設定できる。
次に、本発明に係る実施例7の光偏向器10Gを一部変形させた変形例の光偏向器10G’について、図14を用いて実施例7と異なる点のみを簡略に説明する。
図14(a),(b)に示した如く、変形例の光偏向器10G’では、ベース台11A’が長方形状で平板に形成されており、且つ、この変形例のミラー部駆動手段として2個の積層型ピエゾ素子20がベース台11A’の上面11dでY軸に沿いながらX軸を中心にして間隔を離して対称に固着された上で、この2個の積層型ピエゾ素子20を介して実施例7の光偏向子12G(図12)を一部変形させた変形例の光偏向子12G’が支持されている。
上記した変形例の光偏向子12G’は、実施例7に対して第1〜第4外枠部が形成されていない点以外は実施例7と同じ形状に形成されているので、一対の第1L字状アーム部12v,12vの各他端側と、一対の第2L字状アーム部12w,12wの各他端側との間に計4本の第1,第2捩じりバネ部12g,12hを介してミラー部12iがこの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能になっている。
そして、変形例のミラー部駆動手段となる2個の積層型ピエゾ素子20は、この底面がベース台11A’の上面11dに固着され、且つ、各積層型ピエゾ素子20の上面が一対の第1L字状アーム部12v,12v及び一対の第2L字状アーム部12w,12wの各一端側裏面に固着されており、電圧の印加に応じて上下方向に伸縮自在になっている。
ここで、上記のように構成した変形例の光偏向器10G’の動作について、図14(b),(c)を用いて説明する。
図14(b),(c)に示した状態は、変形例の光偏向子12G’中で一対の第1L字状アーム部12v,12v及び一対の第2L字状アーム部12w,12wを一方及び他方のミラー部駆動手段となる積層型ピエゾ素子20により駆動した場合を示している。
ここでは、一方のミラー部駆動手段となる積層型ピエゾ素子20及び電源15Aと、他方のミラー部駆動手段となる積層型ピエゾ素子20及び電源15Bとが互いに逆位相に接続されているので、一方及び他方のスイッチ14A,14Bをそれぞれオンさせると、一方の積層型ピエゾ素子20の収縮により一対の第1L字状アーム部12v,12v全体が下方に変位すると共に一対の第1L字状アーム部12v,12vが下方に向かって撓み、且つ、他方の積層型ピエゾ素子20の伸長により一対の第2L字状アーム部12w,12wが上方に変位すると共に一対の第2L字状アーム部12w,12wが上方に向かって撓むので、ミラー部12iが大きく傾動する。
従って、実施例7を一部変形させた変形例の光偏向器10G’でも実施例7と同様な性能が得られる。
尚、実施例7の光偏向子12G又は変形例の光偏向子12G’において、各一対の第1,第2L字状アーム部12v,12wに先に説明した実施例1〜実施例6のいずれか一の技術的思想を適用することが可能であり、この場合に、一対の第1L字状アーム部12v,12v及び一対の第2L字状アーム部12w,12wは、固定支持される一対の一端側から自由端側となる一対の他端側に向かってアーム幅を狭くするか、又は、アーム厚みを薄くするか、もしくは、アーム幅を狭く且つアーム厚みを薄くすることで、第1,第2L字状アーム部12v,12wの各他端側がより更に撓み易くなることは明らかである。
[実施例8]
図15(a),(b)に示した如く、実施例8の光偏向器10Hは、先に説明した実施例1の光偏向器10A(図1)の構成と一部を除いて同様の構成であり、ここでは説明の便宜上、先に示した構成部材に対しては同一の符号を付して図示し、且つ、実施例1と異なる構成部材に新たな符号を付して異なる点についてのみ説明する。
上記した実施例8の光偏向器10Hでは、ベース台11Aの一対の光偏向子支持部11a,11b上に取り付けた実施例8の光偏向子12Hの形状が実施例1に対して一部異なるだけである。
即ち、実施例8の光偏向子12Hにおいて、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1アーム部12x,12x及び第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2アーム部12y,12yは、固定支持される各一端と自由端となる各他端との間の各中間部位がミラー部12iに近づくようにY軸を中心にして左右対称にV字状に屈曲されている。
この際、V字状に屈曲された一対の第1アーム部12x,12x及び一対の第2アーム部12y,12yの各アーム長さは、aμmに設定されている。
そして、一対の第1アーム部12x,12xの各他端側と、一対の第アーム部12y,12yの各他端側との間に、ミラー部12iが一対の第1捩じりバネ部12g,12g及び一対の第2捩じりバネ部12h,12hを介してミラー部12iの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能に支持されている。
尚、実施例8の光偏向子12Hにおいて、ここでの図示を省略するものの、一対の第1アーム部12x,12x及び一対の第2アーム部12y,12yの各中間部位がミラー部12iに近づくようにY軸を中心にして左右対称に円弧状に湾曲させても良い。
一方、実施例8に対する比較例の光偏向器10H’及び実施例8に対する比較例の光偏向子12H’を図16(a),(b)に示す。
上記した実施例8に対する比較例の光偏向子12H’では、第1外枠部12aの内側に形成した一対の第1アーム部12x’,12x’及び第3外枠部12cの内側に形成した一対の第2アーム部12y’,12y’のみが実施例8とは異なってそれぞれ長方形状に形成されているが、各アーム部の長さが実施例8と同じでaμmに設定されている。
ここで、実施例8の光偏向子12Hと、実施例8に対する比較例の光偏向子12H’との特性の違いを調べるために、光偏向子12H,(12H’)を下記の仕様で試作した。
上記した光偏向子12H,(12H’)の各寸法は、基板厚みが50μm、一対の第1アーム部12x,12x,(12x’,12x’)及び一対の第2アーム部12y,12y,(12y’,12y’)の左右両端間の各長さが2400μm、第1アーム部12x,(12x’)及び第2アーム部12y,(12y’)の各アーム長さaμmが1050μmで各アーム幅が400μm、第1アーム部12x,(12x’)及び第2アーム部12y,(12y’)中で第1,第2捩じりバネ部12g,12hに接続する部位の各長さが54μmで各アーム幅が100μm、第1,第2捩じりバネ部12g,12hの各ビーム幅が46μm、第1,第2捩じりバネ部12g,12hの各ビーム長さが500μm、第1捩じりバネ部12gと第2捩じりバネ部12hとの間のビーム間隔が200μm、ミラー部12iの直径がφ1.2mmにそれぞれ設定されている。
この際、実施例8の光偏向子12Hにおいて、一対の第1アーム部12x,12x及び一対の第2アーム部12y,12yをアーム長さaμmで例えば角度90°でV字状に屈曲させると、Y軸方向の寸法がa×sin−45°となるので、アーム長さaμmをY軸方向に沿って長方形状に形成した比較例の光偏向子12H’よりもY軸方向の寸法を小さく設定でき、実施例8の光偏向子12Hを小型化することができる。
次に、実施例8の光偏向器10Hと、実施例8に対する比較例の光偏向器10H’とに対して、ミラー部駆動手段となる駆動コイル13,永久磁石膜16を介して光偏向子12H,12H’のミラー部12i及び第1,第2アーム部にモーメントが加わるように加振して、ミラー部12iに当てたレーザ光の軌跡を測定して、ミラー部12iの偏向角度を調べた。
図17は実施例8の場合を示し、図18は実施例8に対する比較例の場合を示しているが、ミラー部12iの周波数を変化させたときに、ミラー部12iの偏向角度を測定した結果である。この際、光偏向子12H,12H’のミラー部12iの各駆動電圧を0.5Vp−p, 1Vp−p, 2Vp−p, 5Vp−p, 6Vp−pごとに周波数特性を、ねじりバネ部12g,12hが破壊するまで測定した。
そして、図17に示した実施例8の場合では、光偏向子12Hのミラー部12iの駆動電圧を大きくしても、周波数を上昇させながら測定した場合と下降させながらに測定した場合とのずれ(ヒステリシス)が余り出ていないことがわかる。これは、第1,第2捩じりバネ部12g,12hに加わる応力の線形領域が広くなっていることを意味している。
一方、図18に示した実施例8に対する比較例の場合には、明らかにヒステリシスが大きくなっていることがわかる。
ミラー部12iを共振周波数で駆動させる場合、その偏向角度を一定に保つためには、動作信号を検出しながら周波数もしくは電圧制御を行う必要がある。なぜなら、共振周波数は構造によって決まってくるが、シリコン材料の環境温度によるヤング率の変化により、周波数がわずかにずれることがあるためである。このようにミラー部12iの偏向角度を制御する場合は、たとえばヒステリシスが大きいと、ミラー部12iを偏向角度の最大値近傍で動作させる場合、共振周波数が高い側にシフトして急激に偏向角度が低下したときに、大きく周波数を戻してから再度周波数を少しずつ上げていかないと元の偏向角度に戻すことが難しい。ヒステリシスがない、または小さければ、周波数が高い側にシフトしてもわずかに周波数を下げれば直ぐに元の偏向角度に戻るので、本実施例の構造では、ミラー部12iの動作制御が容易に行えるという特徴を有する。
このように、実施例8の場合には、一対の第1アーム部12x,12x及び一対の第2アーム部12y,12yの各中間部位をミラー部12iに近づくようにV字状に屈曲させるか、又は、円弧状に湾曲させることで、一対の第1アーム部12x,12x及び一対の第2アーム部12y,12yのねじれ動作が加わり易くなり、第1,第2捩じりバネ部12g,12hに加わる応力の線形領域が広くなり、ヒステリシスが低下した。
また、ミラー部12iの共振周波数については実施例8で約28.4KHZ、実施例8に対する比較例で約28.6kHzであったが、計算上でのシミュレーションでは両者が略同一(28.8kHz)であった。
更に、実施例8の光偏向器10Hと、実施例8に対する比較例の光偏向器10H’とに対して、光偏向子12H,12H’のミラー部12iの駆動電圧に対するミラー部12iの偏向角度を図19,図20に示したように調べた。
図19に示した実施例8の場合は加工時のばらつきを考慮して測定サンプル数が4個、図20に示した実施例8に対する比較例の場合は測定サンプル数が6個であるものの、ミラー部12iが破壊する限界角度はほぼ同等と考えられる。
また、ミラー部12iの駆動電圧に対するミラー部12iの偏向角度の変化は、実施例8では非常に直線性が良いことがわかる。これは、前述したように、周波数特性でのヒステリシスが小さくなっていることからも理解できる。
上記から実施例8の光偏向子12H及びこの光偏向子12Hを備えた実施例8の光偏向器10Hによれば、一対の第1アーム部12x,12x及び一対の第2アーム部12y,12yの各中間部位をミラー部12iに近づくようにV字状に屈曲させるか、又は、円弧状に湾曲させることで、第1,第2アーム部12x,12yのねじれ動作が加わり易くなり、ミラー部12iの偏向特性(共振周波数及びミラー偏向角度)を劣化させないで、光偏向子12Hの全体の大きさを小さくすることができ、且つ、ミラー部12iが大きく偏向したときでも、ミラー偏向角の周波数特性に現れるヒステリシスが小さくなって、ミラー部12iの動作制御が容易になり、駆動力に対するミラー部12iの偏向角度の直線性を維持できる。
[実施例9]
図21に示した如く、実施例9の光偏向器30Aでは、ベース台31Aが絶縁材を用いて直方形状に形成されており、このベース台31Aの前後に一対の光偏向子支持部31a,31bが間隔を隔てて上方に向かって突出形成され、且つ、一対の光偏向子支持部31a,31b間で一対の光偏向子支持部31a,31bよりも低い位置に凹部底面31cが形成されている。
また、ベース台31Aの一対の光偏向子支持部31a,31b上に実施例9の光偏向子32Aが取り付けられていると共に、凹部底面31c上にミラー部駆動手段の一部となる計4個の駆動コイル33が一対の光偏向子支持部31a,31bの各内側に沿うように取り付けられている。
この際、ベース台31Aの凹部底面31c上で左側の光偏向子支持部31aに沿った2個の駆動コイル33及び右側の光偏向子支持部31bに沿った2個の駆動コイル33は、それぞれスイッチ34を経て電源35に直列に接続されている。
上記した実施例9の光偏向子32Aは、基板厚みTを有する単結晶シリコン基板を用いて外形がX軸及びY軸を中心にして前後左右対称に長方形状に形成されて、内部をエッチング処理などにより肉抜きされている。
具体的に説明すると、実施例9の光偏向子32Aは、図22(a),(b)にも拡大して示した如く、全ての部位が基板厚みTで形成されており、且つ、第1〜第4外枠部32a〜32dにより外周部が長方形状に囲まれている。
また、光偏向子32Aは、第1外枠部32aと第3外枠部32cとがX軸を中心にして対称に間隔を離して互に対向して長尺に形成されており、且つ、両者32a,32cがベース台31Aの一対の光偏向子支持部31a,31b上に接着剤などを用いて固着されていると共に、第2,第4外枠部32b,32dがY軸を中心にして対称に間隔を離して互に対向して第1,第3外枠部32a,32cよりも短尺に形成されてベース台31A上に固着されていない。
また、光偏向子32Aの第1外枠部32aの内側から一対の第1長方形状アーム部32e,32eがY軸を中心にして対称に間隔を離して第3外枠部32c側に向かって延出されており、第1外枠部32aに連接した各一端が固定支持されていると共に、各一端とは反対の各他端が自由端となっている。
また、光偏向子32Aの第3外枠部32cの内側から一対の第2長方形状アーム部32f,32fがY軸を中心にして対称に間隔を離して第1外枠部32a側に向かって延出されており、第3外枠部32cに連接した各一端が固定支持されていると共に、各一端とは反対の各他端が自由端となっている。
そして、一対の第1長方形状アーム部32e,32eと、一対の第2長方形状アーム部32f,32fは、X軸を中心に対称に対向して配置されている。
また、一対の第1長方形状アーム部32e,32e及び一対の第2長方形状アーム部32f,32fの各一端側裏面にはミラー部駆動手段の一部となる永久磁石膜36が膜付けされており、計4箇所の永久磁石膜36はベース台31Aの凹部底面31c上に取り付けた計4個の駆動コイル33と対向している。
また、一対の第1長方形状アーム部32e,32eの自由端側となる各他端側に2本で一対の第1捩じりバネ部32g,32gがX軸から第1外枠部32a側に向かって僅かに偏ってX軸と略平行に一方(左方)と他方(右方)とにミラー部32iを挟んで連接されており、且つ、ミラー部32iの左右と連接する各部位の幅は細く形成されていると共に、一対の第1長方形状アーム部32e,32eの各他端と連接する各部位の幅は広く形成されているので、一対の第1捩じりバネ部32g,32gはY軸を挟んで左右対称に台形状に形成されていることになる。
また、一対の第2長方形状アーム部32f,32fの自由端側となる各他端側に2本で一対の第2捩じりバネ部32h,32hがX軸から第3外枠部32c側に向かって僅かに偏ってX軸と略平行に一方(左方)と他方(右方)とにミラー部32iを挟んで連接されており、且つ、ミラー部32iの左右と連接する各部位の幅は細く形成されていると共に、一対の第2長方形状アーム部32f,32fの各他端と連接する各部位の幅は広く形成されているので、一対の第1捩じりバネ部32h,32hはY軸を挟んで左右対称に台形状に形成されていることになる。
そして、ミラー部32iが一対の第1捩じりバネ部32g,32g及び一対の第2捩じりバネ部32h,32hを介してミラー部32iの重心Gを通るX軸を中心にして揺動可能に支持されていることになる。
この際、一対の第1捩じりバネ部32g,32g及び一対の第2捩じりバネ部32h,32hが、ミラー部32iと接続する各付け根部位から第1,第2アーム部32e,32fの各他端側に向かうに従い、第1,第2捩じりバネ部32g,32hの各ビーム幅が徐々に広く形成されることで、後述するようにより少ない駆動力でミラー部32iを偏向させることが可能になっている。
ここで、上記のように構成した実施例9の光偏向器30Aの動作について、図23(a),(b)を用いて説明する。
まず、図23(a)に示した状態は、実施例9の光偏向子32A中で一対の第1長方形状アーム部32e,32e(又は、一対の第2長方形状アーム部32f,32f)のみを一方のミラー部駆動手段(又は、他方のミラー部駆動手段)となる駆動コイル33,永久磁石膜36により駆動した場合を示している。
例えば、一対の第1長方形状アーム部32e,32eと対応する一方のミラー部駆動手段のスイッチ34のみをオンさせると、ベース台31Aの凹部底面31c上で左側の光偏向子支持部31a側に取り付けた駆動コイル33が電源35に接続されるので、この駆動コイル33と一対の第1長方形状アーム部32e,32eの裏面に膜付けした永久磁石膜36との間で電磁力が作用し、一対の第1長方形状アーム部32e,32eが一対の第1捩じりバネ部32g,32gを介してベース台31Aの凹部底面31c側に向かって撓むために、ミラー部32iがX軸を中心にして傾動する。これに協動して一対の第2長方形状アーム部32f,32fは一対の第2捩じりバネ部32h,32hを介して一対の第1長方形状アーム部32e,32eとは反対側に向かって撓むが他方のミラー部駆動手段のスイッチ34はオフされている。
更に、上記とは逆に、一対の第2長方形状アーム部32f,32fと対応する他方のミラー部駆動手段のスイッチ34のみをオンさせると、ミラー部32iが上記とは逆方向に傾動する。
次に、図23(b)に示した状態は、実施例9の光偏向子32A中で一対の第1長方形状アーム部32e,32e及び一対の第2長方形状アーム部32f,32fを一方及び他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル33,永久磁石膜36により駆動した場合を示している。
ここでは、一対の第1長方形状アーム部32e,32eと対応する一方のミラー部駆動手段となる駆動コイル33及び電源35Aと、一対の第2長方形状アーム部32f,32fと対応する他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル33及び電源35Bとがプラス電位側とマイナス電位側とで互いに逆位相に接続されているので、一方及び他方のスイッチ34A,34Bをそれぞれオンさせると、一方の駆動コイル33と永久磁石膜36とにより一対の第1長方形状アーム部32e,32eが下方に向かって撓み、且つ、他方の駆動コイル33と永久磁石膜36とにより一対の第2長方形状アーム部32f,32fが上方に向かって撓むので、図23(a)の場合よりも倍の電磁力が作用するために、ミラー部32iが図23(a)の場合よりも大きく傾動する。
ここで、実施例9の光偏向子32Hの特性を調べるために、光偏向子32Hを下記の仕様で試作した。
上記した光偏向子32Aの各寸法は、基板厚みが50μm、一対の第1長方形状アーム部32e,32e及び一対の第2長方形状アーム部32f,32fの左右両端間の各長さが2400μm、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各アーム長さが1100μmで各アーム幅が400μm、第1,第2捩じりバネ部32g,32h中でミラー部32iの左右と連接する各部位の幅が45μm且つ第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端と連接する各部位の幅が55μm、第1,第2捩じりバネ部32g,32hの各ビーム長さが500μm、第1捩じりバネ部32gと第2捩じりバネ部32hとの間のビーム間隔が200μm、ミラー部32iの直径がφ1.2mmにそれぞれ設定されている。
そして、実施例9の光偏向子32Hに対して加工時のばらつきを考慮して6個の測定サンプルを用意して、光偏向子32Aのミラー部32iの駆動電圧に対するミラー部の偏向角度を測定サンプルごとに計測した実施例9の結果は、図24に示した通りである。
上記に対して、実施例9に対する比較例の光偏向子として、ここでの図示を省略するが、第1,第2捩じりバネ部を第1,第2長方形状アーム部の各他端からミラー部にかけて幅50μmに均一に形成した以外は実施例9と同じに値に設定して、ミラー部32iの駆動電圧に対するミラー部32iの偏向角度を測定サンプルごとに計測した実施例9に対する比較例の結果は、図25に示した通りである。
即ち、実施例9ではミラー部32iの共振周波数が27.9〜28.9kHzとなり、一方、実施例9に対する比較例では28.0〜28.4kHzとなり、両者ほぼ同等の共振周波数特性であった。
また、図24,図25に示した如く、ミラー部32iの最大の偏向角度は両者とも50〜60°で、ばらつきを考慮してもほぼ同等の特性であることがわかる。つまり、共振周波数、ミラー部32iの最大偏向角は両者ともほぼ同じ特性の構造になっていることがわかる。
一方、ミラー部32iの駆動電圧に対するミラー部32iの偏向角度の関係は、実施例9の方が比較例よりも少ない駆動電圧で同じ角度だけ偏向していることがわかる。つまり、実施例9による構造では、ミラー部32iの共振周波数や限界偏向角などの基本特性がほぼ同じでありながら、駆動効率をより高くすることができる。
[実施例10]
図26(a)〜(c)に示した如く、実施例10の光偏向器30Bは、先に説明した実施例9の光偏向器30A(図21)の構成と一部を除いて同様の構成であり、ここでは説明の便宜上、先に示した構成部材に対しては同一の符号を付して図示し、且つ、実施例10と異なる構成部材に新たな符号を付して異なる点についてのみ説明する。
上記した実施例10の光偏向器30Bでは、ベース台31Aの一対の光偏向子支持部31a,31b上に実施例10の光偏向子32Bを取り付けた際に、第1,第2捩じりバネ部32j,32kの形状のみが実施例9に対して異なるだけである。
即ち、実施例10の光偏向子32Bにおいて、一対の第1捩じりバネ部32j,32j及び一対の第2捩じりバネ部32k,32kは、一対の第1長方形状アーム部32e,32e及び一対の第2長方形状アーム部32f,32fの各他端と連接する各部位からミラー部32iの左右に連接する各部位まで同じ幅で幅狭く形成されているものの、第1,第2捩じりバネ部32j,32kのうちでミラー部32iの左右に連接する各部位が基板厚みTよりも厚みが薄く形成され、且つ、各アーム部32e,32fの各他端に向かって厚みが基板厚みTになるように徐々に傾斜して形成されている。
従って、第1,第2捩じりバネ部32j,32kは、幅を一定にして、その厚みをミラー部32iと接続する各付け根部位の方を薄くすることにより、第1,第2捩じりバネ部32j,32kはミラー部32iと接続する各付け根部位が柔らかくなり捩れ易くなるために、実施例9と略同様な効果が得られる。
[実施例11]
図27(a)〜(d)に示した如く、実施例11の光偏向器30Cは、先に説明した実施例9の光偏向器30A(図21)の構成と一部を除いて同様の構成であり、実施例11の光偏向器30Cでは、ベース台31Aの一対の光偏向子支持部31a,31b上に実施例11の光偏向子32Cを取り付けた際に、第1,第2捩じりバネ部32m,32nの形状のみが実施例9に対して異なるだけである。
即ち、実施例11の光偏向子32Cにおいて、一対の第1捩じりバネ部32m,32m及び一対の第2捩じりバネ部32n,32nは、実施例9と同様に、ミラー部32iの左右と連接する各部位の幅は細く形成されていると共に、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端と連接する各部位の幅は広く形成されているものの、実施例9とは異なって、図27(c)に示したように、第1,第2捩じりバネ部32m,32nのみが基板厚みTよりも厚みが薄く形成されているか、又は、図27(d)に示したように、第1,第2捩じりバネ部32m,32nはミラー部32iの左右に連接する各部位が基板厚みTよりも薄く形成され、各アーム部32e,32fの各他端に向かって厚みが基板厚みTになるように徐々に傾斜して形成されている。
従って、第1,第2捩じりバネ部32m,32nは、実施例9と実施例10とを組み合わせることで、ミラー部32iと接続する各付け根部位から各アームの他端側に向かうに従い、その幅が徐々に広く形成され、且つ、その厚みをミラー部32iと接続する各付け根部位の方を薄くすることにより、第1,第2捩じりバネ部32j,32kはミラー部32iと接続する各付け根部位が柔らかく捩れ易くなるために、ミラー部32iの共振周波数や限界偏向角を低下させること無く、実施例9,実施例10よりも駆動効率を向上させることができる。
[実施例12]
図28(a),(b)に示した如く、実施例12の光偏向器30Dは、先に説明した実施例9の光偏向器30A(図21)の構成と一部を除いて同様の構成であり、実施例12の光偏向器30Dでは、ベース台31Aの一対の光偏向子支持部31a,31b上に実施例12の光偏向子32Dを取り付けた際に、第1,第2捩じりバネ部32p,32qの形状のみが実施例9に対して異なるだけである。
即ち、実施例12の光偏向子32Dにおいて、一対の第1捩じりバネ部32p,32pは、第1外枠部32aに向かって凸状に湾曲しており、且つ、一対の第2捩じりバネ部32q,32qも、第3外枠部32cに向かって凸状に湾曲している。
また、第1,第2捩じりバネ部32p,32qは、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端に連接したときのビーム間隔と、第1,第2捩じりバネ部32p,32qがミラー部32iに連接したときのビーム間隔とが同じ値に設定されている。
ここで、実施例12の光偏向子32Dを作製したときのモデル構造について述べると、光偏向子32Dの各寸法は、基板厚みが50μm、一対の第1長方形状アーム部32e,32eの左右両端間の長さ及び一対の第2長方形状アーム部32f,32fの左右両端間の長さがそれぞれ2400μm、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各アーム幅及び各アーム長さが400μm及び1100μm、第1,第2捩じりバネ部32p,32qの各ビーム幅が50μm、第1,第2捩じりバネ部32p,32qの各ビーム長さが500μm、第1捩じりバネ部32pと第2捩じりバネ部32qとの間のビーム間隔が200μm、ミラー部32iの直径がφ1.2mmにそれぞれ設定されていると共に、更に、第1,第2捩じりバネ部32p,32qの湾曲形状がX軸を挟んで対称で半径が略1400μmに設定されている。
そして、上記のように形成した実施例12における光偏向器32Dのモデル例構造において、第1,第2長方形状アーム部32e,32fとそれぞれ対応する一方及び他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル33,永久磁石膜36を動作させて、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端側(各自由端側)の一部に0.001Mpaの偶力を印加してミラー部32iを偏向動作させたときに、ミラー部32iの共振周波数、ミラー部32iの偏向角度と対応するミラー部32iの振動端部の変位量、及び、第1,第2捩じりバネ部32p,32qのミーゼス応力(MisesStress)の各値をシミュレーション計算により求めた。
尚、ここでの図示を省略するが、第1,第2捩じりバネ部を凸状に湾曲させずに、ビーム幅50μm、ビーム間隔200μmで第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端からミラー部32iに向かって直線的に形成した場合を実施例12の光偏向子に対する比較例としたときに、両者に対するシミュレーション計算により以下の表2に示した結果が得られた。
上記した表2に示した結果から、実施例12の光偏向子32Dを備えた光偏向器30Dでは、第1,第2捩じりバネ部32p,32qにかかる応力は比較例とほぼ同等でありながら、共振周波数は比較例よりも約2KHz向上し、また同一駆動力印加でミラー部32iの振動端部の変位量(偏向量)は約33%向上している。このように、実施例12では、第1,第2捩じりバネ部32p,32qにかかるにかかる応力は比較例と同等の特性なので、ほぼ同等の限界偏向角になるが、ミラー部32iの共振周波数とミラー部32iの振動端部の変位量(偏向量)とが同時に向上するので、より高速なミラー部32iの走査を、より少ない力で達成することができる。
[実施例13]
図29(a),(b)に示した如く、実施例13の光偏向器30Eは、先に説明した実施例9の光偏向器30A(図21)の構成と一部を除いて同様の構成であり、実施例13の光偏向器30Eでは、ベース台31Aの一対の光偏向子支持部31a,31b上に実施例13の光偏向子32Eを取り付けた際に、第1,第2捩じりバネ部32r,32sの形状のみが実施例9に対して異なるだけである。
即ち、実施例13の光偏向子32Eにおいて、一対の第1捩じりバネ部32r,32r及び一対の第2捩じりバネ部32s,32sは、細幅で直線状に形成されていると共に、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端に連接した部位からミラー部32iに連接した部位に向かってビーム間隔がX軸を挟んで徐々に狭まるようにV字状に形成されている。
この際、実施例13の光偏向子32Eにおいて、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端に連接したときのビーム間隔を350μm、且つ、ミラー部32iに連接したときのビーム間隔を150μmに設定し、その他の各部の寸法は実施例12と同じに設定している。
尚、実施例13の光偏向子32Eにおいて、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各アーム長さは実施例12と同じであるが、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端間のビーム間隔が実施例12よりも広がっているために、実施例13の光偏向子32EのY軸方向の長さは実施例12よりも長くなっている。
そして、上記のように形成した実施例13における光偏向器32Eのモデル例構造において、第1,第2長方形状アーム部32e,32fとそれぞれ対応する一方及び他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル33,永久磁石膜36を動作させて、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端側(各自由端側)の一部に0.001Mpaの偶力を印加してミラー部32iを偏向動作させたときに、ミラー部32iの共振周波数、ミラー部32iの偏向角度と対応するミラー部32iの振動端部の変位量、及び、第1,第2捩じりバネ部32r,32sのミーゼス応力(MisesStress)の各値をシミュレーション計算により求めた。
更に、図30(a),(b)に示した如く、実施例13を一部変形させた変形例の光偏向器30E’における光偏向子32E’では、一対の第1捩じりバネ部32r’,32r’及び一対の第2捩じりバネ部32s’,32s’は、実施例13と同様に細幅で直線状に形成されているが、実施例13とは異なって第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端に連接した部位からミラー部32iに連接した部位に向かってビーム間隔がX軸を挟んで徐々に広まるように逆V字状に形成されている。
この際、実施例13を一部変形させた変形例の光偏向子32E’において、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端に連接したときのビーム間隔を150μm、且つ、ミラー部32iに連接したときのビーム間隔を350μmに設定し、その他の各部の寸法は実施例12と同じに設定している。
尚、ここでの図示を省略するが、第1,第2捩じりバネ部を、ビーム幅50μm、ビーム間隔200μmで第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端からミラー部32iに向かって直線的に形成した場合を実施例13の光偏向子に対する比較例としたときに、実施例13,実施例13の変形例,実施例13に対する比較例に対するシミュレーション計算により以下の表3に示した結果が得られた。
上記した表3に示した結果から、実施例13の光偏向子32Eを備えた光偏向器30Eでは、第1,第2捩じりバネ部32r,32sにかかる応力は少し大きめではあるが、共振周波数は比較例よりも約1.3kHz向上し、また同一駆動力印加でミラー部32iの振動端部の変位量(偏向量)は比較例よりも約21%向上している。
また、実施例13を一部変形させた変形例の光偏向子32E’を備えた光偏向器30E’では、第1,第2捩じりバネ部32r’,32s’にかかる応力は比較例とほぼ同等でありながら、共振周波数は比較例よりも約0.42KHz向上し、また同一駆動力印加でミラー部32iの振動端部の変位量(偏向量)は比較例よりも約16%向上している。
以上のように、第1,第2捩じりバネ部32r,32s又は第1,第2捩じりバネ部32r’,32s’をX軸を挟んでV字状又は逆V字状にすることで、共振周波数とミラー変位量とを向上させることができる。
ここで、実施例13の構造と、実施例13の変形例の構造と、実施例13に対する比較例の構造とにおけるミラー部32iの周波数特性を、各駆動電圧ごとに測定した結果について、図31(a),(b),(c)に示す。なお、測定条件は前述の実施例8の図17における測定条件と同じである。
また、それぞれの共振周波数は、サンプルの作製精度(特に捩じりバネ部の幅)が、設計より少しずれたため、シミュレーション結果ほどの特性差は出ていないが、設計通りの形状に加工できていれば、共振周波数はシミュレーションにほぼ一致することを確認している。
この結果より、図31(a)に示した実施例13の構造では、ヒステリシスが大きくなるものの、大きな偏向角度では周波数に対する偏向角度の上昇率が小さいことが特徴である。これは、つまり周波数変動に対するミラー部32iの偏向角度の変動が小さいことを示しており、ミラー駆動の制御がしやすいことを示している。ただし、ヒステリシスが大きいため、最大偏向角近傍でのミラー制御は困難である。また、第1,第2捩じりバネ部32r,32sが破損するまでの偏向角度がより大きくなっている。このデータでは、従来例との差は数度であるが、サンプルの作製精度が良いものは、75°近くまで偏向が可能であった。これは、第1,第2捩じりバネ部32r,32sがミラー部32iの付け根の回転軸により近い場所に位置するので、応力としてはねじり成分が大きくなるものの、撓み成分が大幅に小さくなるため、最大偏向可能角度が大きくなることを示すものである。
一方、図31(b)に示した実施例13の変形例の構造では、ヒステリシスが小さく、駆動電圧に対する偏向角度の直線性が良いという結果が得られた。これは、実施例8のときと同様の効果である。ただし、第1,第2捩じりバネ部32r’,32s’が破壊する最大偏向角は、従来構造よりも小さいことがわかった。これは、実施例13とは逆に、第1,第2捩じりバネ部32r’,32s’がミラー部32iの付け根の回転軸により遠い場所に位置するので、応力としてはねじり成分が小さくなるものの、撓み成分が大幅に上昇するためであり、本シミュレーションでは小さな偏向角度での計算なので、大きな偏向角度でのねじりバネ撓み成分が表されていなかったためと考えられる。
このように、隣り合うねじりバネ部を非平行にして、V字状もしくは逆V字状にすることによって、図31(c)に示した実施例13に対する比較例(従来の平行捩じりバネ構造)よりも共振周波数を大きくすることができ、かつ使用状態に応じた特性で設計することが可能になる。
[実施例14]
図32(a),(b)に示した如く、実施例14の光偏向器30Fは、先に説明した実施例9の光偏向器30A(図21)の構成と一部を除いて同様の構成であり、実施例14の光偏向器30Fでは、ベース台31Aの一対の光偏向子支持部31a,31b上に実施例14の光偏向子32Fを取り付けた際に、第1,第2捩じりバネ部32t,32uの形状のみが実施例9に対して異なるだけである。
即ち、実施例14の光偏向子32Fにおいて、一対の第1捩じりバネ部32t,32tは、実施例12と同様に、第1外枠部32aに向かって凸状に湾曲しており、且つ、一対の第2捩じりバネ部32u,32uも、第3外枠部32cに向かって凸状に湾曲している。
一方、実施例12とは異なって、第1,第2捩じりバネ部32t,32uは、第1,第2長方形状アーム部32e,3feの各他端に連接したときのビーム間隔と、第1,第2捩じりバネ部32p,32qがミラー部32iに連接したときのビーム間隔とが異なる値に設定されており、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端に連接した部位からミラー部32iに連接した部位に向かってビーム間隔が徐々に狭くなるように形成されている。
この際、実施例14の光偏向子32Fにおいて、第1,第2捩じりバネ部32t,32uの湾曲形状がX軸を挟んで対称で半径が略2100μmに設定されていると共に、第1,第2長方形状アーム部32e,3feの各他端に連接したときのビーム間隔を350μm、且つ、ミラー部32iに連接したときのビーム間隔を150μmに設定し、その他の各部の寸法は実施例12と同じに設定している。
そして、上記のように形成した実施例14における光偏向器32Fのモデル例構造において、第1,第2長方形状アーム部32t,32uとそれぞれ対応する一方及び他方のミラー部駆動手段となる駆動コイル33,永久磁石膜36を動作させて、第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端側(各自由端側)の一部に0.001Mpaの偶力を印加してミラー部32iを偏向動作させたときに、ミラー部32iの共振周波数、ミラー部32iの偏向角度と対応するミラー部32iの振動端部の変位量、及び、第1,第2捩じりバネ部32t,32uのミーゼス応力(MisesStress)の各値をシミュレーション計算により求めた。
尚、ここでの図示を省略するが、第1,第2捩じりバネ部を凸状に湾曲させずに、ビーム幅50μm、ビーム間隔200μmで第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端からミラー部32iに向かって直線的に形成した場合を実施例14の光偏向子に対する比較例としたときに、両者に対するシミュレーション計算により以下の表4に示した結果が得られた。
上記した表4に示した結果から、実施例14の光偏向子32Fを備えた光偏向器30Fでは、共振周波数が比較例よりも約2.4KHz向上し、また同一駆動力印加でミラー部32iの振動端部の変位量(偏向量)は約36%向上している。なお、第1,第2捩じりバネ部32t,32uにかかる応力は計算上、従来構造より少し高めであるが、実施例13のときと同様、第1,第2捩じりバネ部32t,32uの付け根がミラー部32iの回転軸により近い側にあるため、タワミによる応力が小さくなるのでミラー部32iの偏向可能な最大角度は同等もしくはより大きくできる。
[実施例15]
図33(a),(b)に示した如く、実施例15の光偏向器30Gは、上記した実施例14の光偏向器30F(図32)の構成と一部を除いて同様の構成であり、実施例15の光偏向器30Gでは、ベース台31Aの一対の光偏向子支持部31a,31b上に実施例15の光偏向子32Gを取り付けた際に、第1,第2捩じりバネ部32v,32wの形状のみが実施例14に対して一部異なるだけである。
即ち、実施例15の光偏向子32Gでは、実施例14の光偏向子32F(図32)に対して、第1,第2捩じりバネ部32v,32wの湾曲形状がX軸を挟んで対称で半径が略1400μmに設定されている点以外は、実施例14の光偏向子32F(図32)と同じである。
尚、ここでの図示を省略するが、第1,第2捩じりバネ部を凸状に湾曲させずに、ビーム幅50μm、ビーム間隔200μmで第1,第2長方形状アーム部32e,32fの各他端からミラー部32iに向かって直線的に形成した場合を実施例15の光偏向子に対する比較例としたときに、両者に対するシミュレーション計算により以下の表5に示した結果が得られた。
この実施例15の光偏向子32Fを備えた光偏向器30Fでは、実施例14の場合における湾曲形状の半径2100μmよりも小さい半径1400μmであるために、表5に示した結果から、第1,第2捩じりバネ部32v,32wにかかる応力は比較例とほぼ同等でありながら、共振周波数は比較例よりも約3.4KHz向上し、また同一駆動力印加でミラー部32iの振動端部の変位量(偏向量)は約48%向上している。
なお、第1,第2捩じりバネ部32v,32wにかかる応力は計算上、従来構造より高めであるが、実施例13のときと同様、第1,第2捩じりバネ部32v,32wの付け根がミラー部32iの回転軸により近い側にあるため、タワミによる応力は小さくなる一方、実施例14に比べると、ミラー部32iの偏向可能な最大角度は小さくなる。
以上詳述した実施例1〜実施例15について総括すると、本発明に係る光偏向子は、固定支持される第1端部、及び自由端である第2端部をそれぞれ有する一対の第1アーム部と、固定支持される第3端部、及び自由端である第4端部をそれぞれ有し、前記一対の第1アーム部に対向して配置された一対の第2アーム部と、前記一対の第1アーム部の前記第2端部と前記一対の第2アーム部の前記第4端部との間に配置され、外部から照射された光を反射するミラー部と、前記一対の第1アーム部の前記第2端部と前記ミラー部とをそれぞれ連結すると共に、前記第2端部に接続する第5端部、及び前記ミラー部に接続する第6端部をそれぞれ有する一対の第1捩じりバネ部と、前記一対の第2アーム部の前記第4端部と前記ミラー部とをそれぞれ連結すると共に、前記第4端部に接続する第7端部、及び前記ミラー部に接続する第8端部をそれぞれ有し、前記一対の第1捩じりバネ部に対向して配置された一対の第2捩じりバネ部と、を備え、前記第2端部及び前記第4端部が前記第1端部及び前記第3端部よりもそれぞれ幅が狭いか又は厚みが薄い形状、前記第6端部及び前記第8端部が前記第5端部及び前記第7端部よりもそれぞれ幅が狭いか又は厚みが薄い形状、前記一対の第1捩じりバネ部及び前記一対の第2捩じりバネ部が前記第5端部と前記第6端部との間の中間部位と前記第7端部と前記第8端部との間の中間部位とがそれぞれ互いに離間する方向に湾曲した形状、或いは前記第6端部と前記第8端部との間の間隔が前記第5端部と前記第7端部との間の間隔と異なる形状を有することを特徴とするものである。
[実施例16]
図34(a)〜(c)に示した如く、実施例16における光偏向子の製造方法を用いて製作した光偏向子50は、所定の基板厚みTを有する単結晶シリコン基板を用い、外部から照射された光を表面で反射させるミラー部50cを、矩形状のフレーム部50aの内側に少なくとも一対の捩じりバネ部50bを介して揺動可能に支持するために、フレーム部50aの内部を一対の捩じりバネ部50b及びミラー部50cの外周に沿って肉抜きして肉抜き部50dを形成しているが、ミラー部50cの裏面に異方性ウエットエッチングを施して複数のV字溝50c1を少なくとも一対の捩じりバネ部50bと直交する方向に形成することで、ミラー部50cの軽量化を図ることを特徴としている。
この際、以下に説明する実施例16における光偏向子の第1〜第3の製造方法は、光偏向子50としてフレーム部50aの内側に少なくとも一対の捩じりバネ部50bを介してミラー部50cを揺動可能に支持していればいかなる構造形態でも良く、先に説明した実施例1〜実施例15の光偏向子も当然適用可能である。
この際、ミラー部50cの裏面に形成したV字溝50c1は、所定の開口溝幅Wを有してピッチPで複数本形成されており、且つ、V字状の底角αが53°〜56°をなす二等辺三角形になっていることである。つまり、V字溝50c1が単結晶シリコン基板の(110)面の方向を利用した異方性ウエットエッチングによって加工されたことを意味する。従って、V字溝50c1のV字面は(111)面となっており、異方性ウエットエッチングによってV字溝50c1の底角αは53°〜56°(結晶方位をより正確に切り出したときのより正確な角度は、54.7°となる)で一意的に決まってくる。
また、V字溝50c1の開口部の両側から同じ角度でエッチングが進行し、V字面両側の(111)面がぶつかった所でエッチングはストップする。つまり、V字溝50c1の開口溝幅Wを制御することで、エッチングの深さは一意的に決まってくるので、ウエハー内、ウエハー間でエッチング深さのばらつきがほとんど生じない。このため、作製した光偏向子50のミラー部50cの重量のばらつきが生じにくいので、ミラー部50cの共振周波数がばらつきにくい。
従って、実施例16における光偏向子の製造方法を用いて製作した光偏向子50は、ミラー部50cの裏面に複数のV字溝50c1を溝深さがばらつくことなく作製して軽量化を図ることで、ミラー部50cの偏向角度を低下させることなく共振周波数を向上でき、また光偏向子50の共振周波数特性の安定化に寄与できる。
ここで、実施例16における光偏向子の製造方法について、具体例として第1〜第3の製造方法を順に説明する。
<第1の製造方法>
実施例16における光偏向子の第1の製造方法について、図34と図35(a)〜(e)とを併用して説明する。
実施例16における光偏向子の第1の製造方法では、光偏向子50のミラー部50cを軽量化する際に、ミラー部50cの裏面に形成する複数のV字溝50c1と、フレーム部50aの内側に形成する肉抜き部50dとを異方性ウエットエッチングにより加工することを特徴としている。
具体的には、まず、図35(a)に示した如く、所定の基板厚みTを有する単結晶シリコン基板{例えば、表面を(100)面とする。}の両面に酸化保護膜を形成する。この酸化保護膜は、例えば熱酸化によるSiO2膜などが望ましい。この酸化保護膜がある領域では、たとえばKOH(水酸化カリウム)やTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)などのアルカリ溶液でウエットエッチングしても、シリコン部分だけが優先的にエッチングされ、SiO2膜はほとんどエッチングされないので、エッチング保護膜になる。
この後、図35(b)に示した如く、光偏向子50のミラー部50cの裏面領域に、(110)面の方向に沿って所定の開口溝幅W{図34(c)}を有するV字溝用のパターンを形成する。このV字溝用のパターン形成には、たとえばフォトレジストを用いたプロセスで行うことができる。この際、V字溝50c1については、V字状の底角が53°〜56°で後述する異方性ウエットエッチングによりエッチングが進むので、V字溝50c1の開口溝幅W{図34(c)}はシリコン基板の基板厚みTの1.5倍以下であれば、エッチングにより貫通せず、二等辺三角形状のV字溝50c1が形成される。このV字溝50c1の開口溝幅W{図34(c)}および溝のピッチP{図34(c)}を最適に設定することで、ミラー部50cをどれくらいの割合で軽量化できるかを自由に設計できる。
この後、図35(c)に示した如く、光偏向子50内の一対の捩じりバネ部50b及びミラー部50cを加工するために、前述のV字溝用のパターンを形成した反対側のシリコン基板面に、一対の捩じりバネ部50b及びミラー部50の外周に沿って肉抜き用のパターンを形成する。このとき、ミラー部50cの裏面にV字溝用のパターンが位置するように、また、一対の捩じりバネ部50bは、V字溝用のパターンの長手方向に対して直交する方向に向くようにパターン形成することが重要である。これは、ミラー部50cが偏向する方向に補強の為のリブが向くことで、偏向時のミラー部50cの撓みを防ぐことができるからである。これらのパターン形成も、フォトレジストを用いたパターン形成で可能である。そして、シリコン基板両面のパターン開口部の酸化保護膜をエッチングによって除去する。これは、たとえばフッ酸などの溶液に浸漬して両面を同時にエッチングする方法でも良いし、片面ずつドライエッチングで酸化膜を除去する方法でも良い。
この後、図35(d)に示した如く、フォトレジストを除去した後、アルカリ溶液で異方性ウエットエッチングを行う。この方法としては、例えばKOH,TMAHなどの水溶液を、80°C〜90°Cに加熱してシリコン基板を浸漬することで、V字溝用のパターンと肉抜き用のパターンとを異方性ウエットエッチングすることが可能である。このときシリコン基板のミラー部50cの裏面のV字溝50c1と肉抜き部50dとが同時にエッチングされるが、ミラー部50cの裏面は、V字溝50c1の両側が底角53°〜56°でエッチングが進行し、両側が衝突した所でエッチングが自動的にストップするので、エッチング時間などをコントロールしなくとも、正確にエッチングができる。その間、反対側の面から肉抜き部50dが貫通するまで異方性ウエットエッチングをすれば良いので、エッチング工程を追加しなくとも、光偏向子50を形成することが可能である。
最後に、図35(e)に示した如く、残った酸化保護膜を除去し、ミラー部50cの表面に反射膜(Au,Alなど)を形成することで、光偏向子50が完成する。
以上のように、実施例16における光偏向子の第1の製造方法では、ミラー部50cの軽量化のための溝加工は、ミラー部50cの裏面に形成するV字溝50c1の開口溝幅W{図34(c)}を制御するだけで、厳密にエッチング条件をコントロールしなくともばらつきが無く、V字溝50c1を高い精度で形成できる。更に、ミラー部50cの裏面にV字溝50c1と肉抜き部50dとを異方性ウエットエッチングにより加工することができるので、作製工程数を増やす必要がなく、低コストでの製造が可能である。
尚、実施例16における光偏向子の第1の製造方法では、光偏向子50を片方の面から作製した例を示したが、ミラー部50cの裏面にV字溝用のパターンと肉抜き用のパターンとを形成して同時に異方性ウエットエッチングを行っても良い。もしくは表裏両面に、位置が合うようにV字溝用のパターンと肉抜き用のパターンとを形成すれば、異方性ウエットエッチングがシリコン基板両面から進行するので、貫通するまでのエッチング時間を半分に短縮することが可能である。
<第2の製造方法>
実施例16における光偏向子の第2の製造方法について、図34と図36(a)〜(f)とを併用して説明する。
実施例16における光偏向子の第2の製造方法では、光偏向子50のミラー部50cを軽量化する際に、ミラー部50cの裏面に形成する複数のV字溝50c1を異方性ウエットエッチングにより加工する一方、フレーム部50aの内側に形成する肉抜き部50dをドライエッチングにより加工することを特徴としている。
この際、異方性ウエットエッチングでは単結晶シリコン基板の結晶面の影響により任意の形状を加工することが困難であるが、ドライエッチングでは曲面を含めた様々な形状にエッチングできるので、たとえば捩じりバネ部50bの付け根部位にR状のコーナーを設けることにより、捩じりバネ部50bへの応力集中が緩和され、光偏向子50のミラー部50cへの最大偏向角度を向上させやすい。
具体的には、図36(a)に示した如く、まず、所定の基板厚みTを有する単結晶シリコン基板{例えば、表面を(100)面とする。}の両面に酸化保護膜を形成する。これは、例えば熱酸化によるSiO2膜などが望ましい。この保護膜がある領域では、たとえばKOHやTMAHなどのアルカリ溶液でウエットエッチングしても、シリコン部分だけが優先的にエッチングされ、SiO2膜はほとんどエッチングされないので、エッチング保護膜になる。
この後、図36(b)に示した如く、光偏向子50のミラー部50cの裏面領域に、(110)面の方向に沿って所定の開口溝幅W{図34(c)}を有するV字溝用のパターンを形成する。ここでも、V字溝50c1の開口溝幅W{図34(c)}はシリコン基板の基板厚みTの1.5倍以下であれば、エッチングにより貫通せず、V字状の底角が53°〜56°である二等三角形状のV字溝50c1が形成される。このV字溝50c1の開口溝幅W{図34(c)}および溝のピッチP{図34(c)}を最適に設定することで、ミラー部50cをどれくらいの割合で軽量化できるかを自由に設計できる。そして、V字溝用のパターン開口部の酸化保護膜をエッチングによって除去する。これは、たとえばフッ酸などの溶液に浸漬して両面を同時にエッチングする方法でも良いし、片面のみドライエッチングで酸化膜を除去する方法でも良い。
この後、図36(c)に示した如く、フォトレジストを除去した後、アルカリ溶液で異方性ウエットエッチングを行う。この方法としては、例えばKOH,TMAHなどの水溶液を、80°C〜90°Cに加熱してシリコン基板を浸漬することで、V字溝用のパターンを異方性ウエットエッチングすることが可能である。このとき、ミラー部50cの裏面は、V字溝50c1の両側が底角53°〜56°でエッチングが進行し、両側が衝突した所でエッチングが自動的にストップするので、エッチング時間などをコントロールしなくとも、正確にエッチングができる。
この後、図36(d)に示した如く、光偏向子50内の一対の捩じりバネ部50b及びミラー部50cを加工するために、前述のV字溝用のパターンを形成した面もしくは反対側のシリコン基板面に、一対の捩じりバネ部50b及びミラー部50の外周に沿って肉抜き用のパターンを形成する。このとき、ミラー部50cの裏面にV字溝用のパターンが位置するように、また、一対の捩じりバネ部50bは、V字溝用のパターンの長手方向に対して直交する方向に向くようにパターン形成することが重要である。これは、ミラー部50cが偏向する方向に補強の為のリブが向くことで、偏向時のミラーの撓みを防ぐことができるからである。これらのパターン形成も、フォトレジストを用いたパターン形成で可能である。
この後、図36(e)に示した如く、肉抜き用のパターンに対してドライエッチングによって貫通するまでエッチング処理を行って肉抜き部50dを形成する。このときのドライエッチングとしては、ICP−RIEなどの高密度プラズマ下でのエッチングにより、肉抜き部50dの側壁に対して綺麗なエッチング加工が行える。
最後に、図36(f)に示した如く、残った酸化保護膜を除去し、ミラー部50cの表面に反射膜(Au,Alなど)を形成することで、光偏向子50が完成する。
以上のように、実施例16における光偏向子の第2の製造方法でも、第1の製造方法と同様に、ミラー部50cの軽量化のための溝加工は、ミラー部50cの裏面に形成するV字溝50c1の開口溝幅W{図34(c)}を制御するだけで、厳密にエッチング条件をコントロールしなくともばらつきが無く、V字溝50c1を高い精度で形成できる。更に、肉抜き部50dをドライエッチングにより加工するときに、肉抜き用のパターンは任意に設定可能なので、例えば捩じりバネ部50bの付け根部位にコーナーRを設けることで、捩じりバネ部50bの破壊強度を向上させることができる。
<第3の製造方法>
実施例16における光偏向子の第3の製造方法について、図34と図37(a)〜(f)とを併用して説明する。
実施例16における光偏向子の第3の製造方法では、光偏向子50を厚みが薄いシリコン基板を用いて、捩じりバネ部50bを柔らかくすると共にミラー部50cを軽量化して偏向しやすくする際に、厚みが薄いシリコン基板をハンドリングすることは困難なので、厚みが厚いシリコン基板を貼り合わせたSOI(Silicon On Insulator)ウエハーを用いることを特徴としている。
具体的には、図37(a)に示した如く、まず、厚みT’が薄い単結晶シリコン基板{例えば、表面を(100)面とする。}に絶縁層を介して厚みT’’が厚い基板を貼り合わせて形成したSOIウエハーの両面に酸化保護膜を形成する。これは、例えば熱酸化によるSiO2膜などが望ましい。この保護膜がある領域では、たとえばKOHやTMAHなどのアルカリ溶液でウエットエッチングしても、シリコン部分だけが優先的にエッチングされ、SiO2膜はほとんどエッチンされないので、エッチング保護膜になる。
この後、図37(b)に示した如く、光偏向子側と反対側のシリコン基板面(シリコン基板が厚い方)に、光偏向子50の外形領域分の矩形状パターンを形成する。
更に、図37(c)に示した如く、光偏向子側のシリコン基板面で、光偏向子50のミラー部50cの裏面領域に、(110)面の方向に沿って所定の開口溝幅W{図34(c)}を有するV字溝用のパターンを形成する。ここでも、V字溝50c1の開口溝幅W{図34(c)}はシリコン基板の基板厚みT’の1.5倍以下であれば、エッチングにより貫通せず、V字状の底角が53°〜56°である二等三角形状のV字溝50c1が形成される。このV字溝50c1の開口溝幅W{図34(c)}および溝のピッチP{図34(c)}を最適に設定することで、ミラー部50cをどれくらいの割合で軽量化できるかを自由に設計できる。そして、外形領域分の矩形状パターン及びV字溝用のパターン開口部の各酸化保護膜をエッチングによって除去する。この際、矩形状の開口パターンは、エッチング処理後、光偏向子構造体が中空となると同時に、開口パターンの外側のシリコン基板がフレーム部分を補強する構造体にもなる。
この後、図37(d)に示した如く、フォトレジストを除去した後、アルカリ溶液で異方性ウエットエッチングを行う。この方法としては、例えばKOH,TMAHなどの水溶液を、80°C〜90°Cに加熱してシリコン基板を浸漬することで、V字溝用のパターンを異方性ウエットエッチングすることが可能である。このとき、ミラー部50cの裏面は、V字溝50c1の両側が底角53°〜56°でエッチングが進行し、両側が衝突した所でエッチングが自動的にストップするので、エッチング時間などをコントロールしなくとも、正確にエッチングができる。また、外形領域分の矩形状パターンも、同時にエッチングが進行し、SOIウエハーの中間層に到達した所でエッチングが自動的にストップする。つまり、SOIウエハーの両面とも、エッチングスピードの厳密なコントロールが必要なく、所定の寸法にエッチングされたところで自動的にエッチングがストップするので、製造が非常に簡便である。
この後、図37(e)に示した如く、光偏向子50内の一対の捩じりバネ部50b及びミラー部50cを加工するために、前述のV字溝用のパターンを形成した面もしくは反対側のシリコン基板面に、一対の捩じりバネ部50b及びミラー部50の外周に沿って肉抜き用のパターンを形成する。このとき、ミラー部50cの裏面にV字溝用のパターンが位置するように、また、一対の捩じりバネ部50bは、V字溝用のパターンの長手方向に対して直交する方向に向くようにパターン形成することが重要である。これは、ミラー部50cが偏向する方向に補強の為のリブが向くことで、偏向時のミラーの撓みを防ぐことができるからである。これらのパターン形成も、フォトレジストを用いたパターン形成で可能である。そして、肉抜き部50dをドライエッチングによって貫通するまでエッチング処理を行う。このときのドライエッチングとしては、ICP−RIEなどの高密度プラズマ下でのエッチングにより、肉抜き部50dの側壁に対して綺麗なエッチング加工が行える。
最後に、図37(f)に示した如く、残った酸化保護膜を除去し、ミラー部50cの表面に反射膜(Au,Alなど)を形成することで、光偏向子50が完成する。
以上のように実施例16における光偏向子の第3の製造方法でも、ミラー部50cの軽量化のための溝加工は、ミラー部50cの裏面に形成するV字溝50c1の開口溝幅W{図34(c)}を制御するだけで、厳密にエッチング条件をコントロールしなくともばらつきが無く、V字溝50c1を高い精度で形成できる。更に、光偏向子50のフレーム部50aに沿って厚みT’みが薄い基板よりも厚みT’’が厚い基板で補強できるので、光偏向子50の品質向上に寄与できる。
[実施例17]
図38に示した如く、実施例17における光偏向子の製造方法を用いて製作した製作した光偏向子60は、厚みT’が薄い単結晶シリコン基板に絶縁層を介して厚みT’’が厚い基板を貼り合わせて形成したSOIウエハーを用いて製造されている。
尚、光偏向子60は、ここでの図示を省略するが、所定の厚みを有する単結晶シリコン基板だけを用いて製造する方法でも良い。
上記した光偏向子60において、60aは矩形状のフレーム部、60bは合計で4本からなる長方形状アーム部、60cは合計で4本からなる捩じりバネ部、60dは外部から照射された光を表面で反射させるミラー部、60e〜60gはフレーム部60aの内部を肉抜きした複数の肉抜き部である。
この光偏向子60では、ミラー部60dの裏面に複数の細い矩形溝60d1を4本の捩じりバネ部60cと直交する方向に形成することで、ミラー部60dの軽量化を図ることを特徴としている。
ここで、実施例17と実施例16との違いは、実施例16ではシリコンの異方性ウエットエッチング技術を用い、裏面のフレームキャビティをウエットエッチング処理で作成するのと同時に、ミラー部軽量化のためのV字溝を貫通しないように異方性ウエットエッチングより作製する製造方法であるのに対し、実施例17では、ミラー構造体をドライエッチング処理により貫通エッチングする工程と同時に、ミラー部軽量化のための細い矩形溝を貫通しないようにドライエッチングにより作製する製造方法である。
具体的に説明すると、図38(a)に示した如く、厚みT’が薄い単結晶シリコン基板に絶縁層を介して厚みT’’が厚い基板を貼り合わせて形成したSOIウエハーを用い、且つ、厚みT’が薄い単結晶シリコン基板{例えば、表面を(100)面とする。}の両面には酸化保護膜が形成されている。これは、例えば熱酸化によるSiO2膜などが望ましい。この保護膜がある領域では、たとえばKOHやTMAHなどのアルカリ溶液でエッチングしても、シリコン部分だけが優先的にエッチングされ、SiO2膜はほとんどエッチングされないので、エッチング保護膜になる。
そして、厚みT’’が厚い基板に対して、厚みT’が薄い単結晶シリコン基板のフレーム部60aの内側に沿うように大きく肉抜きするために矩形状パターンを形成した後に、例えばKOH,TMAHなどの水溶液を用いて、80°C〜90°Cに加熱してSOIウエハーを浸漬することで、厚みT’’が厚い基板の内側が大きく肉抜きされる。一方、厚みT’が薄い単結晶シリコン基板は両面に膜付けしたSiO2膜によって保護されている。
この後、図38(b)に示した如く、厚みT’が薄い単結晶シリコン基板に対して、光偏向子60内の4本の長方形状アーム部60b及び4本の捩じりバネ部60c並びにミラー部60dを加工するために、4本の長方形状アーム部60b及び4本の捩じりバネ部60c並びにミラー部60dの各外周に沿って肉抜き用のパターンを形成する。このとき、ミラー部60dの裏面に複数の細い矩形溝60d1のパターンも同時に形成する。
この際、4本の捩じりバネ部60cは、図38(c’)に示したように、複数の細い矩形溝60d1の長手方向に対して直交する方向に向くようにパターン形成することが重要である。これは、ミラー部60dが偏向する方向に補強の為のリブが向くことで、偏向時のミラー部60dの撓みを防ぐことができるからである。これらのパターン形成も、フォトレジストを用いたパターン形成で可能である。
ここで、ミラー部軽量化のための細い矩形溝60d1は、図38(c’)に示したように、その開口溝幅βが、フレーム部60aの内部を肉抜きして形成した複数の肉抜き部60e〜60gのうちで最も狭い開口幅αよりも小さい値(α>β)に設定して形成されている。この際、肉抜き部60e〜60gのうちで最も狭い開口幅αは、通常、ミラー部60dの両側を合計4本の捩じりバネ部60cで揺動自在に支持したときに互い対向する捩じりバネ部60c間のビーム間隔の値となる。これは、ドライエッチングにおけるマイクロローディング効果(溝が狭いほど、エッチングガスが入りにくくなるので、エッチング速度が低下する現象)を利用するためである。
つまり、図38(c)に示したように、ミラー構造体を貫通してエッチングすることでミラー振動部分ができあがるが、このときのエッチング工程と同時に、ミラー部軽量化のための溝エッチングを行うことができ、その際にマイクロローディング効果によって、ミラー構造体が貫通した時点では、ミラー部60dの裏面上で複数の細い矩形溝60d1は貫通しておらず、シリコン面が残るので、図38(c’’)に示したように、その反対側から見ればミラー部60dの表面が平坦に形成されていることになる。このときのドライエッチングとしては、ICP−RIEなどの高密度プラズマ下でのエッチングにより、肉抜き部60e〜60gの側壁に対して綺麗なエッチング加工が行える。
最後に、残った酸化保護膜を除去し、ミラー部60dの表面に反射膜(Au,Alなど)を形成することで、光偏向子60が完成する。
以上のように、実施例17における光偏向子の製造方法では、光偏向子60のミラー部60dの軽量化のための溝加工は、ミラー構造体のエッチング工程と同時に形成できる。このときのミラー反射面の残り厚みは、エッチングの時間およびミラー面の溝幅の設計により、自由に設定することができる。例えば、ミラー構造体が貫通エッチングされてからさらにエッチングを続ければ、ミラー面の残り厚みはより薄くすることができるし、また、溝幅を狭くするほど、同一エッチング時間においてもミラー面の残り厚みをより厚くすることができる。
以上のように、実施例17における光偏向子の製造方法では、工程を追加することなく、ドライエッチング処理によりミラー部60dの裏面に複数の矩形溝60d1を形成して軽量化を図ることができ、長方形状アーム部60bや捩じりバネ部60cなどの設計変更を行わずとも、ミラー部60dを偏向させるための共振周波数を向上させることが可能になる。