JP5424606B2 - ノイズ抑制体とその製造方法 - Google Patents
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Description
上記ノイズ抑制体とは、ノイズを吸収し、熱エネルギーに変換することによって除去するものであり、電磁波を反射するだけの電磁波反射体とは区別される。
ところで、電磁波の特性は、放射源からの距離に大きく依存し、近傍界(放射源からの距離が波長λ/2πよりも近い領域)と遠方界(放射源からの距離が波長λ/2πよりも遠い領域)で大きく異なる。「ノイズ抑制体」は近傍界を対象とする吸収体であり、遠方界を対象とし、自由空間を伝わる電磁波を吸収する、電磁波吸収体とは区別される。
電磁波は、電界波と磁界波により形成されており、電界波か磁界波のどちらか一方を減衰させればもう一方も減衰する。それ故、遠方界を対象とする電磁波吸収体の場合の材料としては、導電体、誘電体、磁性体のいずれか1種類以上が用いられている。導電体、誘電体は電界波を減衰させることにより、また、磁性体は磁界波を減衰させることにより、電磁波を減衰させるものと考えられている。
一方、ノイズ抑制体の材料としては、導電体や誘電体は使用されずに、磁性体が主として使用されている。これは、ノイズ抑制体が対象としている近傍界では、電子機器内部の各種配線に流れる電流が作り出す磁界による電界の誘導が未だ十分でなく、電界波ではなく磁界波を減衰させる手段を講じることが必要と考えられていたためである。より詳しくは、導電体や誘電体は、磁性体と違って、電界に働きかけることにより、電磁波を熱エネルギーに変換して減衰させている、というのが従来の技術常識であり、導電体、誘電体を用いたシートでは、電子機器内部の各種配線に流れる電流が作り出す近傍界における磁界波ノイズに対して、抑制能を発揮しないと考えられていたためである。
磁性粒子を用いたノイズ抑制体では約1GHzからノイズ抑制特性を発揮するが、本願出願人が先に特許出願した前記技術に基づくノイズ抑制体では、数百MHzからノイズ抑制特性を発揮する。
しかし、一般に磁性粒子は導電性粒子よりも高価であり、また、磁性粒子として汎用されている合金は、バインダーとの混練時におけるせん断などの影響で組成変化する場合があり、取扱いが困難である。
その結果、上記課題を解決するためには、非磁性の導電体粉体からなる導電性粒子が、厚み方向に隣り合う導電性粒子との間に電圧印加可能な状態で電気的絶縁層を介して多数分散していればよいことを見出した。このノイズ抑制体は、図1に示すように、抵抗とコンデンサーが交互に配置された構造になると推測され、このような構造では、周波数が大きいほど電流が流れやすくなるため、特異的に高周波数側でのノイズ抑制特性に優れるものとなると推測される。
また、前記ノイズ抑制体からなるノイズ抑制シートや、塗膜が前記ノイズ抑制体である塗装物品における前記塗膜の好適な製造方法をも見出した。
本発明にかかるノイズ抑制体の製造方法は、第1に、前記ノイズ抑制体がシートからなる場合の製造方法であって、非磁性の導電性粒子、バインダーおよび溶剤からなるコーティング組成物を離型性シート上に塗布し乾燥したのち、得られた乾燥塗膜の上に前記と同一のコーティング組成物を塗布し乾燥する操作を1回以上行うことにより、離型性シート上に複層塗膜を形成し、該複層塗膜を離型性シートから剥離する、ことを特徴とする。
〔ノイズ抑制体〕
本発明にかかるノイズ抑制体は、内部に非磁性の導電体粉体からなる導電性粒子が多数分散してなり、近傍界におけるノイズを抑制するノイズ抑制体であって、前記導電性粒子は、厚み方向に隣り合う導電性粒子との間に電圧印加可能な状態で電気的絶縁層を介して分散している。
本発明にかかるノイズ抑制シートは、前記ノイズ抑制体からなる。
前記ノイズ抑制シートの厚みは、30〜3,000μmが好ましく、100〜1,000μmがより好ましい。厚みが薄いほど、小型化、軽量化することができ、電子部品の実装密度が高い回路への利用も可能となるが、薄すぎるとノイズ抑制能が十分に発現しなくなるおそれがある。
前記ノイズ抑制シートの表面抵抗値は100,000Ω/□以上であることが好ましい。より好ましくは1,000,000Ω/□以上である。ノイズ抑制シートの表面抵抗値が100,000Ω/□以上であれば、低周波数ノイズを抑制することがなく、したがって、低周波側のメイン信号を抑制してしまうこともない。また、高抵抗値のため、回路に直接貼付してもショートする心配がない。
<塗装物品>
本発明にかかる塗装物品は、塗膜が前記ノイズ抑制体からなる。
塗装物品の表面抵抗値は、前記ノイズ抑制シートと同様に、100,000Ω/□以上であることが好ましい。より好ましくは1,000,000Ω/□以上である。
また、塗装物品の塗膜表面は、前記ノイズ抑制シートと同様に、平滑であることが好ましい。
本発明にかかるノイズ抑制体において、その内部に多数分散する導電性粒子は、非磁性の導電体粉体からなる。
ここで、非磁性とは、磁化特性を有しないこと、具体的には透磁率が1であることを意味する。
前記導電性粒子としては、特に限定するわけではないが、例えば、金属、導電性金属酸化物、炭素材料、ウィスカーなどが挙げられ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
前記導電性金属酸化物としては、特に限定するわけではないが、例えば、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムなどが挙げられる。
前記炭素材料としては、特に限定するわけではないが、例えば、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイルなどが挙げられる。
前記ウィスカーとしては、特に限定するわけではないが、例えば、チタン酸カリウィスカーなどが挙げられる。
具体的には、導電性粒子は、例えば、図2(a)〜(c)に示す分散状態であれば良い。図2(a)では薄片、図2(b)では短繊維状、図2(c)では球状の導電性粒子11が、絶縁層12を介して多数分散していることが分かる。
前記導電性粒子の粒子径としては、特に限定するわけではないが、例えば1〜500μmであることが好ましい。より好ましくは、10〜300μmである。1μm未満ではバインダー中への均一分散が困難になるおそれがあるとともに、粒子が小さすぎるために配向してもコンデンサー機能として寄与せず、ノイズ抑制能を充分に発揮しないおそれがある。また、500μmを超えるとノイズ抑制体の表面に凸凹、内部に空隙が発生し易くなりシート化が困難になるおそれがある。
絶縁層は、例えば、導電性粒子同士を結合させるバインダーとして絶縁性の材料を用いたり、各導電性粒子を絶縁コートしたりすることにより形成することができる。
前記バインダーとしては、特に限定するわけではないが、例えば、樹脂、パルプ、セラミックスなどが挙げられ、その用途や目的に応じて、その1種または2種以上を適宜選択すれば良い。
前記樹脂としては、限定するわけではないが、例えば、クロロプレンゴム、アクリルニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴムなどの各種エラストマー、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、セルロース樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
前記セラミックスとしては、限定するわけではないが、例えば、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、ガラスおよびボロンナイトライド、セリサイト、酸化ケイ素、窒化ケイ素などが挙げられる。
また、各導電性粒子を絶縁コートする場合、その材料としては、前記樹脂、パルプ、セラミックスなどが挙げられるが、例えば、比較的簡易な方法として、導電性粒子として金属を用い、その表面を酸化させ、金属表面に絶縁性の酸化皮膜を形成させる方法が挙げられる。
上記導電性粒子と絶縁材料の配合割合は、材料の種類によって異なり一概には言えないが、例えば、導電性粒子が金属または導電性金属酸化物である場合には、その配合割合を、絶縁材料100重量部に対して50〜2,000重量部とすることが好ましい。より好ましくは100〜1,500重量部である。
導電性粒子が炭素材料である場合には、限定するわけではないが、例えば、その配合割合を、絶縁材料100重量部に対して10〜1,000重量部とすることが好ましい。より好ましくは20〜500重量部である。
〔他の材料〕
本発明にかかるノイズ抑制体には、本発明の効果を害しない範囲において、他の材料を用いても良い。具体的には、例えば、磁性粒子を用いることができる。
前記磁性粒子としては、特に限定するわけではないが、例えば、磁性合金金属(センダスト、パーマロイ)やフェライトを挙げることができる。フェライトは、MO・Fe2O3なる組成をもつ一群の鉄酸化物であり、Mは2価の金属イオンで、例えば、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+などである。金属酸化物粒子と酸化鉄粒子を混合し、圧縮成形した後に焼成することにより得ることができる。Mは1種だけに限らず、2種以上を組み合わせて混合し、固溶体をつくることにより、種々の磁化特性を生じさせることもできる。例えば、平均粒径100μm以下の粒子として使用できる。磁性粒子の配合割合としては、例えば、絶縁材料100重量部に対して0〜400重量部とすることが好ましい。より好ましくは20〜200重量部である。前記磁性粒子の粒子径としては、特に限定するわけではないが、例えば、1〜300μmであることが好ましい。より好ましくは10〜200μmである。
〔ノイズ抑制シートの製造および用途〕
本発明にかかるノイズ抑制シートは、非磁性の導電性粒子、バインダーおよび溶剤からなるコーティング組成物を離型性シート上に塗布し乾燥したのち、得られた乾燥塗膜の上に前記と同一のコーティング組成物を塗布し乾燥する操作を1回以上行うことにより、離型性シート上に複層塗膜を形成し、該複層塗膜を離型性シートから剥離することにより製造することができる。
工程(a)では、非磁性の導電性粒子、バインダーおよび溶剤を、混合手段20により混合し、原料混合物13を得ている。このとき、非磁性の導電性粒子、バインダー、溶剤以外の他の原料を添加しておいても良い。
工程(b)では、前記工程(a)における混合により得られるコーティング組成物14を、塗工手段30により、離型性シート40の上に塗布している。塗工手段30としては、コーティング組成物を薄く塗り付けられるものが好ましく、例えば、ドクターブレードなどを用いる。
上記工程(b)、(c)における1層当たりの厚みは、積層回数にもより、特に限定されないが、例えば、1〜500μmとすることができる。
前記工程(a)〜(d)を行った後、離型性シートを剥離することで、ノイズ抑制シートを得ることができる。
前記溶剤としては、非磁性の導電性粒子およびバインダーを良好に分散あるいは溶解させるものを用いれば良く、特に限定されない。
前記ノイズ抑制シートの厚みや表面抵抗値の好適範囲は先に述べた通りである。
ノイズ抑制シートには、このシートを保護したり装飾したりする目的で、クリア塗膜層や着色塗膜層を形成するようにしてもよい。
このようにして製造されるノイズ抑制シートは、ノイズ発生源または伝送線路を被覆することによって、ノイズの発生や伝播を効果的に抑制する使用方法に適している。被覆対象物としては、携帯電話や回路基板などがある。
本発明にかかる塗装物品は、導電性粒子、バインダーおよび溶剤からなるコーティング組成物を被塗装物上に塗布し乾燥したのち、得られた乾燥塗膜の上に前記と同一のコーティング組成物を塗布し乾燥する操作を1回以上行うことにより、被塗装物上に複層塗膜を形成することにより製造することができる。
基本的には、上記ノイズ抑制シートの製造方法と共通する製造方法が採用できる。すなわち、図3において、複層塗膜16を、離型性シート40の上にではなく、被塗装物40の上に形成させるようにすれば良い。
被塗装物としては、電子機器の筐体などが挙げられる。
塗膜の膜厚や表面抵抗値の好適範囲は先に述べた通りである。
ノイズ抑制シートと同様に、塗装物品上に形成される塗膜を保護したり装飾したりする目的で、さらに、クリア塗膜層や着色塗膜層を形成するようにしてもよい。
このようにして製造される塗装物品は、電子機器からの不要電磁波の輻射を抑制するもの、具体的には、例えば、携帯電話やノートパソコンなどの筐体に好適に使用できる。
なお、後述する実施例、比較例においては、表面抵抗値および伝送減衰率Rtpを示しているが、これらの値の測定方法は以下のとおりである。
<表面抵抗値の測定>
表面抵抗値は、三菱油化株式会社製の抵抗率計(LorestaAP MCP−T400)を用いた四探針法にて測定した。
ここで、四探針法とは、試料に4本のプローブを直線上に配置し、外側の2本のプローブ間に電流を流したとき、内側の2本のプローブ間に生ずる電位差Vを測定することにより、材料の抵抗率を測定する手法である。
IEC62333−1およびIEC62333−2に準拠して測定した。ここで伝送減衰率Rtpとは下式(1)で表され、値が大きいほどノイズ抑制能が高いことを表している。式中、S11は反射減衰率、S21は透過減衰率である。
バインダーとしてシリコーンゴムを100部、導電性粒子として扁平状銅粉を400部、溶剤としてヘキサンを655部、架橋剤として2,5−ジメチル−2,5ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)ヘキサンを1部用い、これらの材料を撹拌装置で撹拌してコーティング組成物を得た。
ドクターブレードを用いて、前記コーティング組成物を、フッ素樹脂からなる離型性シート上に厚み25μmとなるよう塗布し、ファンを用いて30℃で20分間減圧乾燥した。
得られた複層塗膜上に、フッ素樹脂からなる離型性シートを載せたのち、温度170℃、圧力40MPaの条件で熱プレスし、複層塗膜を圧縮すると同時にゴム成分を架橋させ、そののち、離型性シートを剥離することにより、674μm厚みのノイズ抑制シートを得た。
得られたノイズ抑制シートの表面抵抗値は5×105Ω/□であった。
〔比較例1〕
比較例1は、本願出願人が先に特許出願した技術に基づくノイズ抑制シートである(特願2007−086054に記載の実施例2に相当)。
得られたシートの厚みは35μmであり、表面抵抗値は65Ω/□であった。
〔比較例2〕
磁性粒子をバインダーに充填させてなる市販のノイズ抑制シート「R4N」(商品名、NECトーキン社製)で、厚みが500μmのものを比較例2とした。
実施例、比較例1,2にかかるノイズ抑制シートについて、周波数毎の伝送減衰率Rtpの変化を示すグラフを図4に示した。
これらの結果から、実施例のノイズ抑制シートは、比較例2の磁性体を用いたノイズ抑制シートと同様のノイズ抑制特性、すなわち、高周波数域からのノイズ抑制特性を発揮していることが確認できた。
比較例1のノイズ抑制シートは、低周波数域から優れたノイズ抑制特性を発現しているが、高周波数用途で使用した場合にはメイン信号も抑制してしまうおそれがあるため、磁性体を用いたノイズ抑制シートの相当品としては不適当なものであった。
11 導電性粒子
12 絶縁層
13 原料混合物
14 コーティング組成物
15 乾燥塗膜
20 混合手段
30 塗工手段
40 離型性シートまたは被塗装物
50 加圧手段
Claims (5)
- 表面抵抗値が100,000Ω/□以上であり、厚み30〜3,000μmのシートもしくは塗膜の内部に非磁性の導電体粉体からなる導電性粒子(ただし、導電性粒子を絶縁体で被覆した絶縁被膜粒子は除く。)が多数分散してなり、近傍界におけるノイズを抑制するノイズ抑制体であって、前記導電性粒子は、厚み方向に隣り合う導電性粒子との間が電圧印加可能な絶縁状態となるよう隣り合う導電性粒子との間に電気的絶縁層を介して分散している、ことを特徴とする、ノイズ抑制体。
- 請求項1に記載のシートからなるノイズ抑制体を製造する方法であって、導電性粒子、バインダーおよび溶剤からなるコーティング組成物を離型性シート上に塗布し乾燥したのち、得られた乾燥塗膜の上に前記と同一のコーティング組成物を塗布し乾燥する操作を1回以上行うことにより、離型性シート上に複層塗膜を形成し、該複層塗膜を離型性シートから剥離する、ことを特徴とする、ノイズ抑制体の製造方法。
- 複層塗膜を加圧する工程を含む、請求項2に記載のノイズ抑制体の製造方法。
- 請求項1に記載の塗膜からなるノイズ抑制体を備えた塗装物品を製造するにあたり、導電性粒子、バインダーおよび溶剤からなるコーティング組成物を被塗装物上に塗布し乾燥したのち、得られた乾燥塗膜の上に前記と同一のコーティング組成物を塗布し乾燥する操作を1回以上行うことにより、被塗装物上に複層塗膜を形成する、ことを特徴とする、ノイズ抑制体の製造方法。
- 複層塗膜を加圧する工程を含む、請求項4に記載のノイズ抑制体の製造方法。
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