JP5421039B2 - 流体封入式防振装置 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば、自動車用のエンジンマウント等に好適に用いられる防振装置に係り、特に内部に封入された流体の流動作用を利用して防振効果が発揮される流体封入式防振装置に関する。
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結又は防振支持する防振装置が知られている。また、防振装置の一種として、内部に封入された流体の流動作用に基づく防振効果を利用することで、特定周波数の振動に対する優れた防振性能を実現し得る流体封入式防振装置も提案されている。この流体封入式防振装置は、壁部の一部を本体ゴム弾性体で構成された受圧室と、壁部の一部をダイヤフラムで構成された平衡室とを、オリフィス通路によって相互に連通した構造を有している。
ところで、流体封入式防振装置では、自動車の段差乗り越え時等に衝撃的な大荷重(大振幅振動)が入力されると、受圧室に対して大きな圧力変動が生ぜしめられる。そして、受圧室に絶対値の大きな負圧が作用することにより、受圧室にキャビテーションによる気泡が生じて、該気泡の消失時に発せられる衝撃波に起因する異音や振動が問題となっている。
そこで、かかるキャビテーションの緩和を目的として、受圧室と平衡室を隔てる仕切部材の一部を弾性膜で構成して、弾性膜にスリットを形成した構造が提案されている。即ち、受圧室に過大な負圧が発生すると受圧室と平衡室の相対的な圧力差に基づいて弾性膜が弾性変形することを利用して、弾性膜に形成したスリットを開口させ、スリットを通じての流体流動によって受圧室の負圧を軽減させる構造である。
しかし、受圧室と平衡室を隔てる弾性膜にスリットを形成すると、キャビテーションが問題とならない受圧室の正圧状態においても弾性膜が弾性変形して、スリットが開口するおそれがある。そして、開口したスリットを通じて受圧室の正圧が逃げることで、オリフィス通路を通じての流体流動量が減少してしまい、オリフィス通路による所期の防振効果が得られ難くなる。
特に、弾性膜に対して仕切部材等の硬質部材が加硫接着されていると、弾性膜の加硫成形時に引張応力が残留する。それ故、弾性膜のスリットを型成形する場合は勿論、弾性膜の成形後にカッタ等で切込みを入れてスリットを形成した場合でも、スリットが少し開いた常時連通状態となり易い。それ故、かかるスリットを通じての受圧室の正圧の逃げが一層大きな問題となる。
なお、特許文献1(特開2009−133358号公報)の図1には、弾性膜のスリット形成部分において受圧室側の表面に突出する中実の突起を形成することにより、スリットの不必要な開放を抑える構造が示されている。しかし、このような弾性膜の受圧室側表面の突起は、硬質の仕切部材に加硫接着された弾性膜の成形時に残留する引張応力に起因してスリットが常時連通状態となる問題に対して、何等の解決策を与えるものでない。
特開2009−133358号公報
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、受圧室に対する過大な負圧作用時に、スリットを通じての流体流動によってキャビテーション異音の防止効果が発揮されると共に、受圧室に対する正圧作用時およびキャビテーションが発生しない通常振動入力時には、オリフィス通路を通じての流体流動による防振効果を効率的に得ることが出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結されていると共に、該第二の取付部材で支持された仕切部材の一方の側において該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成された受圧室が形成されると共に、該仕切部材の他方の側において壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室が形成されており、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体が封入されていると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が形成されている流体封入式防振装置において、前記仕切部材に可動ゴム板が組み付けられており、該仕切部材に形成された受圧室側開口を通じて該可動ゴム板の一方の面に前記受圧室の圧力が及ぼされると共に、該仕切部材に形成された平衡室側開口を通じて該可動ゴム板の他方の面に前記平衡室の圧力が及ぼされてそれら受圧室と平衡室の圧力差に基づく該可動ゴム板の板厚方向の変位によって該受圧室の圧力変動を吸収する液圧吸収機構が構成されている一方、該可動ゴム板に対して該受圧室側開口および該平衡室側開口の開口領域よりも大きな拘束板が加硫接着されており、該拘束板に少なくとも一つの貫通窓が形成されて該貫通窓が該可動ゴム板で閉塞されていると共に、該可動ゴム板において該貫通窓を閉塞する部分が湾曲して該受圧室側に向かって突出した弾性膜部を有しており、該弾性膜部の突出頂部が該弾性膜部の外周基端部における該受圧室側の表面よりも該受圧室側に突出位置していると共に、該弾性膜部にはスリットが形成されて、該スリットの形成部分における該弾性膜部の弾性変形によって該スリットが開口して該受圧室と該平衡室を短絡させる短絡機構が構成されていることを特徴とする。
このような第一の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、貫通窓を閉塞する弾性膜部が、受圧室側に突出する湾曲形状とされている。それ故、弾性膜部にスリットが形成されると、弾性膜部において初期応力による収縮変形が接線方向で生じて、弾性膜部におけるスリットの開口縁部は、スリットが広がるように径方向外方に変位しようとすると同時に、平衡室側に変位しようとする。これにより、弾性膜部におけるスリットの開口縁部が相互に押し付けられて、スリットが閉塞状態に保持される。その結果、受圧室と平衡室の相対的な圧力差がスリットを通じての短絡によって低減されることなく確保されて、オリフィス通路を通じての流体流動が効率的に生じることで、目的とする防振効果が有効に発揮される。
さらに、弾性膜部の頂部における平衡室側の表面が、弾性膜部の外周基端部における受圧室側の表面よりも、受圧室側に位置しており、弾性膜部の頂部が弾性膜部の外周基端部に対して軸直角方向の投影において軸方向に外れて位置している。それ故、外周基端部に対して径方向外側に向かって作用する初期応力が弾性膜部の頂部に直接的に伝達されるのを防止できる。その結果、スリットの開放がより効果的に防止されて、オリフィス通路を通じて流動する流体の流動作用に基づいた防振効果が一層有利に発揮される。しかも、弾性膜部が充分に大きく受圧室側に突出していることで、スリットの閉塞が確実に実現される。
加えて、受圧室に正圧が作用すると、受圧室側に突出する弾性膜部には、受圧室の液圧が径方向内側向きに及ぼされる。その結果、弾性膜部におけるスリットの開口縁部がスリットの閉塞方向に押されて、スリットが閉塞状態に安定して保持される。
一方、車両の段差乗り越え等により衝撃的な大荷重が入力されて、受圧室に過大な負圧が及ぼされると、スリット内面の当接状態が解除されて、スリットを通じての流体流動が許容される。それ故、オリフィス通路よりも流動抵抗の小さいスリットを通じて、平衡室から受圧室に流体が流入することにより、受圧室の負圧が速やかに低減乃至は解消されて、キャビテーションとそれに起因する異音や振動が低減乃至は防止される。
特に、スリットを形成された弾性膜部が受圧室側に突出していることにより、弾性膜部の少なくとも一部には、スリットを開放する方向(径方向外側)に向かって液圧の分力が作用する。それ故、受圧室への過大な負圧作用時に、スリットの開放作動が迅速に実現されて、キャビテーション異音の低減効果が有利に発揮される。しかも、スリットを形成された弾性膜部の突出頂部が、外周基端部を受圧室側に外れて位置していることから、液圧の作用によるスリットの開放が外周基端部の弾性によって阻害されることなく、容易に且つ速やかに実現される。
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記弾性膜部が前記受圧室側に凸となるドーム形状とされているものである。
第二の態様によれば、受圧室への正圧作用時におけるスリットの閉塞が一層確実に実現される。即ち、全体的に受圧室に向かって凸となるドーム形状の弾性膜部では、受圧室に正圧が作用して弾性膜部が平衡室側に押されることにより、スリット内面を相互に押し付ける力がより効率的に発揮される。その結果、スリットがより強固に閉塞されて、受圧室の正圧がスリットを通じて平衡室に逃げるのを効果的に防止することが出来る。
また、弾性膜部の全体が受圧室側に向かって凸となるドーム形状であることから、受圧室に過大な負圧が作用すると、受圧室と平衡室の相対的な圧力差に起因する力が弾性膜部の全体において径方向外側に向かって作用する。それ故、スリットのより速やかな開放作動が実現されて、キャビテーションに起因する異音や振動の低減が有利に実現される。
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記弾性膜部には、前記スリットが形成された中央部分において受圧室側に向かって突出する中央突部が一体形成されているものである。
第三の態様によれば、弾性膜部に中央突部を形成することで、受圧室に正圧が作用した場合において、スリットによって分割された中央突部が相互に当接することで、弾性膜部の中央部分における平衡室側への変形がより効果的に規制される。それ故、スリットが開放することによって受圧室の正圧が平衡室に逃がされるのを防いで、目的とする防振効果をより安定して得ることが出来る。
なお、中央突部は、例えば、放射状に延びるスリットの中央部に設けられた半球形状や円錐台形状等の突部であっても良いし、直線的なスリットの開口縁部に沿って延びる突条形状であっても良い。
本発明の第四の態様は、前記第一〜第三の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可動ゴム板の外周縁部が前記拘束板よりも外周側に延び出して大径となっていると共に、該可動ゴム板において該拘束板よりも外周側に延び出した部分が周方向に延びる波打ち形状とされているものである。
第四の態様によれば、可動ゴム板の板厚方向での変位に際して、波打ち形状とされた外周縁部が仕切部材に対して周上で部分的に当接することから、当接時の衝撃を緩和する緩衝作用が発揮される。それ故、可動ゴム板の外周縁部の全周が仕切部材に同時に打ち当たる場合に比べて、可動ゴム板と仕切部材の打ち当たりに起因する異音や振動が効果的に低減される。
本発明の第五の態様は、前記第一〜第四の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記スリットの周囲において該スリットの形成領域を囲んで周方向に延びる周辺弾性突起が形成されているものである。
第五の態様によれば、スリットの形成領域を囲む周辺弾性突起を形成することで、スリット端部に亀裂が生じた場合にも、亀裂の進行を制限することが出来て、スリットの閉塞不良等による防振性能の低下を抑えることが出来る。しかも、可動ゴム板の変位に際して、周辺弾性突起を仕切部材に対して当接させることで、周辺弾性突起の弾性変形による緩衝作用を発揮させて、当接打音の低減効果をより有利に得ることも可能である。
本発明の第六の態様は、前記第一〜第五の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可動ゴム板において板厚方向両側に向かって突出する緩衝突起が形成されており、該可動ゴム板が前記仕切部材に対して該緩衝突起を介して板厚方向で当接せしめられるようになっているものである。
第六の態様によれば、可動ゴム板の微小変位に際して、可動ゴム板が緩衝突起を介して仕切部材に当接することから、緩衝突起の弾性に基づいて可動ゴム板と仕切部材の緩衝的な当接が実現されて、当接時の打音を防ぐことが出来る。
なお、緩衝突起は、周辺弾性突起によって構成されていても良いし、周辺弾性突起とは別に設けられていても良い。更に、周辺弾性突起を採用することなく緩衝突起だけを採用しても良い。また、緩衝突起は、可動ゴム板において拘束板が加硫接着された部分に形成されていても良いし、拘束板を外れた位置に形成されていても良い。緩衝突起が拘束板の加硫接着部分に形成されている場合には、可動ゴム板の変位に際して緩衝突起が仕切部材と拘束板の間で圧縮されて、緩衝突起の弾性による緩衝作用と変位制限作用を有効に得ることが出来る。一方、緩衝突起が拘束板の加硫接着部分を外れた位置に形成されている場合には、可動ゴム板の弾性によって更なる緩衝効果が発揮されることとなって、当接打音の低減効果をより有利に発揮させることが可能となる。
本発明の第七の態様は、前記第一〜第六の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記仕切部材に形成された前記受圧室側開口と前記平衡室側開口が何れも円形透孔で構成されていると共に、前記可動ゴム板が該円形透孔よりも大径の円板形状とされて、該可動ゴム板に対して該円形透孔よりも大径の円板形状を有する前記拘束板が加硫接着されていると共に、該可動ゴム板の外周部分には板厚方向両側に突出して周方向に延びる当接外周突条が一体形成されているものである。
第七の態様によれば、可動ゴム板に加硫接着される拘束板が、円形透孔よりも大径とされていることにより、可動ゴム板の形状安定性が向上されて、過大な変形や仕切部材への部分的な当接を防止されることによる耐久性の向上が図られ得る。更に、可動ゴム板が円形透孔を通じて仕切部材から外部に抜け出すのを防止できる。
また、当接外周突条が可動ゴム板の厚さ方向両側に突出していることにより、可動ゴム板と仕切部材の当接による衝撃が、当接外周突条の弾性変形によって緩和されて、当接打音が低減される。
本発明の第八の態様は、前記第七の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可動ゴム板が前記拘束板よりも大径とされて該可動ゴム板の外周縁部が該拘束板よりも外周側に延び出していると共に、前記当接外周突条が該可動ゴム板において該拘束板から外周側に外れた位置に形成されているものである。
第八の態様によれば、当接外周突条の弾性変形による緩衝作用だけでなく、可動ゴム板自体の弾性変形による緩衝作用も発揮されて、可動ゴム板と仕切部材との当接時の衝撃をより効果的に抑えることで、当接打音を低減することが出来る。
本発明の第九の態様は、前記第一〜第八の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可動ゴム板には、前記貫通窓を閉塞する部分に対して1つの前記スリットが形成されているものである。
第九の態様によれば、1つの弾性膜部に複数のスリットを形成する場合に比べて、スリットの開閉作動のコントロールが容易となる。特に、受圧室側に突出する形状の弾性膜部では、複数のスリットを形成すると、各スリットの形成部位の違いによって、閉塞状態の保持と開放状態への切替作動を全てのスリットにおいて両立させ難い。そこにおいて、1つの弾性膜部に形成されるスリットの数を1つに制限することで、閉塞状態と開放状態の切替制御を安定させて、目的とする防振効果と、キャビテーションの低減効果を、何れも有効に得ることが出来る。
本発明の第十の態様は、前記第一〜第九の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記スリットの端部が前記貫通窓の開口周縁部に向かって延びているものである。
第十の態様によれば、スリットの端部に生じる亀裂の進行が拘束板によって制限されて、亀裂発生時にも通常振動入力時におけるスリットの閉塞状態が保持されることによって、受圧室の液圧がスリットを通じて逃げることなく確保される。その結果、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される。なお、スリットの端部が予め貫通窓の開口周縁部まで延びるようにスリットを形成すれば、亀裂の発生自体を積極的に防止することが出来る。
本発明の第十一の態様は、前記第一〜第十の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可動ゴム板には、外周面上に突出するリブが設けられているものである。
第十一の態様によれば、リブを仕切部材における可動ゴム板の収容領域内面に当接させることで、可動ゴム板を仕切部材に対して軸直角方向で位置決めすることが出来る。なお、リブは、可動ゴム板の厚さ方向での微小変位を妨げないように、充分に小さな当接圧で仕切部材に対して接触するようになっているか、或いは容易に剪断変形する程度の厚さで形成されていることが望ましい。また、リブは、仕切部材との間で作用する摩擦抵抗を小さく抑えるために、全周に亘って連続して形成されているよりも、周上の複数箇所において部分的に形成されている方が望ましい。
本発明の第十二の態様は、前記第一〜第十一の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記拘束板において周方向及び軸直角方向の位置を特定する拘束板位置決め部が形成されていると共に、前記可動ゴム板において周方向及び軸直角方向の位置を特定する可動板位置決め部が該拘束板位置決め部を用いて形成されているものである。
第十二の態様によれば、拘束板を備えた一体加硫成形品として可動ゴム板を形成する際に、拘束板位置決め部を利用することで、拘束板を可動ゴム板の成形用金型に対して周方向および軸直角方向で容易に位置決めすることが出来る。それ故、拘束板に形成された貫通窓が、可動ゴム板の成形用金型に対して周方向および軸直角方向で位置決めされて、可動ゴム板の弾性膜部が貫通窓を閉塞するように所定の形状で加硫成形される。要するに、可動ゴム板の加硫成形工程において、可動ゴム板の成形用金型に対する拘束板のセットが容易になると共に、弾性膜部の位置ずれ等に起因する成形不良が回避される。
さらに、拘束板位置決め部を利用して形成された可動板位置決め部によって、可動ゴム板の加硫成形後にも、周方向および軸直角方向での位置決めが容易に実現されるようになっている。それ故、弾性膜部に対してカッタ等でスリットを形成する際に、カッタ等のスリット形成用工具と可動ゴム板における弾性膜部とを相対的に位置決めして、所定の位置にスリットを形成することが出来る。
本発明の第十三の態様は、前記第十二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記拘束板位置決め部が径方向中間部分を板厚方向に貫通する位置決め孔とされており、該位置決め孔の一方の開口部を覆蓋する蓋状ゴム膜が前記可動ゴム板と一体形成されているものである。
第十三の態様によれば、例えば、可動ゴム板の成形用金型における位置決め孔に対応する部分にピンを設けて、該ピンを位置決め孔に挿し込むことにより、可動ゴム板の成形用金型と拘束板との位置決めが実現される。特に、軸直角方向での位置決めを高精度且つ確実に実現できる。また、可動ゴム板の加硫成形後には、可動ゴム板に一体形成された蓋状ゴム膜によって位置決め孔が閉塞されることから、位置決め孔を通じた液圧の逃げも防止される。
本発明では、可動ゴム板の弾性膜部を受圧室側に突出させることにより、スリットの遮断と開放を高精度に且つ安定して制御し得る短絡機構が実現される。即ち、通常の振動入力時や受圧室への正圧作用時には、弾性膜部が特定形状とされることで、スリット形成による収縮方向がコントロールされて、スリットが安定して閉塞状態に保持される。これにより、オリフィス通路における流体の流動作用に基づいた防振効果が有効に発揮される。一方、受圧室に過大な負圧が発生するような衝撃荷重の入力時には、スリットが液圧の作用によって速やかに開放される。これにより、スリットを通じて両室間で流体が流動することにより、受圧室の負圧が低減乃至は回避されて、キャビテーション異音の防止効果が発揮される。
本発明の第一の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図であって、図2のI−I断面図。 図1のII−II断面図。 図1に示された自動車用エンジンマウントを構成する可動部材の要部を示す拡大断面図。 本発明の第二の実施形態としての自動車用エンジンマウントに採用される可動部材を示す平面図。 図4に示された可動部材の要部を示す拡大断面図。 本発明の第三の実施形態としての自動車用エンジンマウントに採用される可動部材の要部を示す拡大断面図。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1,図2には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の一実施形態として、自動車用エンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結した構造を有している。そして、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットが車両ボデーによって防振支持されるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則としてパワーユニットの分担支持荷重が作用する図1中の上下方向を言う。
より詳細には、第一の取付部材12は、小径の略円形ブロック形状を有する高剛性の部材とされている。また、第一の取付部材12の中心軸上には、上方に向かって開口するボルト穴18が形成されて、内周面にねじ山が螺刻されている。更に、第一の取付部材12の上端部には、外周側に突出するフランジ部20が一体形成されている。そして、第一の取付部材12が、ボルト穴18に螺着される図示しない取付用ボルトで、パワーユニットに対して直接に或いはインナブラケットを介して間接的に固定されることにより、第一の取付部材12がパワーユニット側に装着されるようになっている。
第二の取付部材14は、薄肉大径の略円筒形状を有する高剛性の部材とされている。また、第二の取付部材14の軸方向中間部分には、くびれ部22が形成されており、第二の取付部材14が軸方向で部分的に縮径されている。くびれ部22は、略軸直角方向に広がる環状の第一の段差部24と、第一の段差部24の内周側端部から上方に向かって次第に拡径して突出するテーパ部26とが、内周側に向かって凸となる湾曲部を介して連続的に形成された構造を有している。また、第二の取付部材14の軸方向下端部には、かしめ片30が一体形成されている。かしめ片30は、大径の略円筒形状を有しており、フランジ状とされた第二の段差部32の外周縁部から下方に向かって突出している。そして、第二の取付部材14は、例えば、第二の取付部材14に外嵌固定される図示しないアウタブラケットが車両ボデーに固定されることにより、車両ボデー側に装着されるようになっている。
また、第一の取付部材12は、第二の取付部材14に対して、同一中心軸上で上方に離隔配置される。そして、第一の取付部材12と第二の取付部材14は、それぞれ本体ゴム弾性体16に加硫接着されて、相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、その小径側端部に第一の取付部材12がフランジ部20の下面まで埋め込まれた状態で加硫接着されていると共に、大径側端部の外周面に第二の取付部材14の上側部分が重ね合わされて加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
また、本体ゴム弾性体16には、逆向きの略すり鉢形状を呈して大径側端面に開口する大径凹所34が形成されている。また、本体ゴム弾性体16の大径側端部には、下方に向かって突出するシールゴム層36が一体形成されている。このシールゴム層36は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、第二の取付部材14の内周面に加硫接着されている。
また、第二の取付部材14の下端部には、可撓性膜としてのダイヤフラム38が取り付けられている。ダイヤフラム38は、薄肉の略円板状乃至はドーム状とされたゴム膜であって、軸方向に充分な弛みを有している。また、ダイヤフラム38の外周縁部には、環状の固着部40が一体形成されており、この固着部40に対して環状の固定金具42が加硫接着されている。固定金具42は、円環板形状のかしめ部43を有しており、かしめ部43が第二の取付部材14の下端部に設けられたかしめ片30でかしめ固定されることにより、ダイヤフラム38が第二の取付部材14に取り付けられて、第二の取付部材14の下側開口部がダイヤフラム38で閉塞されている。
かかるダイヤフラム38の第二の取付部材14への装着によって、第二の取付部材14の軸方向一方の開口部が本体ゴム弾性体16によって閉塞されると共に、第二の取付部材14の軸方向他方の開口部がダイヤフラム38によって閉塞される。これにより、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム38の軸方向対向面間には、非圧縮性流体を封入された流体封入領域44が形成されている。流体封入領域44に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油、或いはそれらの混合液等が好適に採用される。また、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を有利に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。なお、流体封入領域44への非圧縮性流体の封入は、ダイヤフラム38の第二の取付部材14への組付けを非圧縮性流体中で行うことによって有利に実現される。
また、流体封入領域44には、仕切部材46が配設されている。仕切部材46は、仕切部材本体48と蓋部材50とを有している。仕切部材本体48は、厚肉の略円板形状とされており、径方向中央部分に上面に向かって開口する収容凹所52と、下面に向かって開口する中央凹所54が形成されている。また、それら収容凹所52および中央凹所54の外周側には、外周面と上面に開口して周方向に所定の長さで延びる切欠状溝が形成されている。
蓋部材50は、薄肉の円板形状を有する高剛性の部材であって、仕切部材本体48の上面に蓋部材50が重ね合わされることにより仕切部材46が形成されている。なお、蓋部材50が重ね合わされることによって、仕切部材本体48に形成された切欠状溝の上側開口部が蓋部材50によって覆蓋されて、仕切部材46の外周面に開口する周溝56が形成されている。
このような構造を有する仕切部材46は、第二の取付部材14の内周側に挿入されて流体封入領域44内で軸直角方向に広がるように配設されると共に、くびれ部22と固定金具42の軸方向間で挟持されることにより、第二の取付部材14によって支持されている。なお、仕切部材46の外周面がシールゴム層36を介して第二の取付部材14に重ね合わされることにより、第二の取付部材14と仕切部材46の間が流体密にシールされている。
かかる仕切部材46の配設下、流体封入領域44が仕切部材46を挟んだ両側に二分されている。そして、仕切部材46を挟んだ一方の側に、壁部の一部を本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される受圧室58が形成されていると共に、仕切部材46を挟んだ他方の側に、壁部の一部をダイヤフラム38で構成されて、容積変化が容易に許容される平衡室60が形成されている。
また、周溝56の外周側開口部が第二の取付部材14によって覆蓋されて、トンネル状の通路が形成されていると共に、周溝56の一方の端部が第一の連通孔62を通じて受圧室58に接続されていると共に、周溝56の他方の端部が図示しない第二の連通孔64を通じて平衡室60に接続されている。これにより、受圧室58と平衡室60を相互に連通するオリフィス通路66が、周溝56を利用して形成されている。なお、オリフィス通路66は、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を適当に調節することにより、エンジンシェイクに相当する数Hz〜10Hz程度の低周波数域にチューニングされている。
また、中央凹所54が形成された径方向中央部分には、仕切部材本体48と蓋部材50の軸方向間に収容領域68が形成されている。この収容領域68は、蓋部材50の径方向中央部に形成された受圧室側開口70と、仕切部材46の径方向中央部に形成されて収容凹所52と中央凹所54を連通する平衡室側開口72とによって、受圧室58および平衡室60に連通されている。なお、受圧室側開口70と平衡室側開口72は、何れも円形透孔とされており、その直径が互いに略同一とされていると共に、何れも収容凹所52よりも小さい直径で形成されている。
この収容領域68には、可動部材74が収容されている。可動部材74は、全体として略円板形状であって、金属等の硬質材料で形成された拘束板76の表面を可動ゴム板78で被覆した構造とされている。
拘束板76は、大径の略円板形状を有する金属板とされており、収容領域68の軸方向寸法よりも小さくされている。また、拘束板76は、収容領域68の直径よりも小径且つ受圧室側開口70および平衡室側開口72の直径よりも大径とされており、その外周縁部が仕切部材本体48と蓋部材50の軸方向対向面間に挟み込まれている。これらにより、拘束板76は、収容領域68からの抜け出しを防止されていると共に、軸方向に微小変位可能な状態で収容領域68内に配設されている。なお、拘束板76の径方向中央には、厚さ方向両側に突出する半球状の位置決め突起が一体形成されている。
また、拘束板76の径方向中間部分には、複数の貫通窓80が形成されている。貫通窓80は、小径の円形断面を有しており、拘束板76を厚さ方向に貫通している。なお、拘束板76には、周方向で等間隔に離隔する4つの貫通窓80が形成されている。
また、拘束板76の径方向中間部分には、拘束板位置決め部として、複数の位置決め孔82が形成されている。位置決め孔82は、貫通窓80と同様に拘束板76を径方向中間部分において厚さ方向に貫通する円形孔であって、貫通窓80よりも小径とされている。また、位置決め孔82は、貫通窓80の周方向間にそれぞれ形成されており、周方向で等間隔に4つの位置決め孔82が形成されている。そして、可動ゴム板78の成形用金型に拘束板76をセットする際に、位置決め孔82に対して成形用金型に固設されたピンを挿入することで、拘束板76が成形用金型に対して周方向および軸直角方向で位置決めされるようになっている。これにより、拘束板76と可動ゴム板78が周方向および軸直角方向で位置決めされて、目的とする構造の可動部材74が形成される。
このような構造の拘束板76には、可動ゴム板78が加硫接着されている。可動ゴム板78は、拘束板76よりも大径とされた略円板形状のゴム弾性体であって、その外周縁部が内部に埋設固着された拘束板76よりも外周側まで延び出している。また、可動ゴム板78は、その厚さ寸法が収容領域68の軸方向内法寸法よりも小さくされていると共に、直径が収容領域68の直径よりも小さくされており、収容領域68の内面との間に隙間が形成されている。
また、可動ゴム板78の外周部分は、周方向において板厚方向で波打ったように全体としてうねるような形状で形成された波状部とされている。即ち、可動ゴム板78の外周部分は、その径方向断面の形状や大きさは実質的に変化しないで、厚さ方向の中心位置が周方向で上下に振れるように変化せしめられている。特に本実施形態では、可動ゴム板78の外周部分の中心線や上下面が略サイン波状に一定周期で周方向に波打った形状とされており、その一周期が周方向で90度とされて、上下面が全体的に滑らかな湾曲面とされている。なお、このような波状部は、後述する拘束板76の可動ゴム板78に対する固着下、拘束板76よりも外周側に設けられており、ゴム弾性体単体で形成されている。
また、可動ゴム板78の外周縁部には、周方向に延びる当接外周突条84が一体形成されている。当接外周突条84は、可動ゴム板78の外周縁部を略一定の半円状断面で全周に亘って連続的に延びるように形成されており、可動ゴム板78の板厚方向両側に突出する一対の当接外周突条84,84が設けられている。なお、当接外周突条84は、拘束板76よりも外周側に延び出した可動ゴム板78のゴム単体部分に形成されている。
さらに、拘束板76における貫通窓80の開口周縁部には、厚さ方向外側に突出する周辺弾性突起86が可動ゴム板78と一体形成されている。周辺弾性突起86は、後述するスリット96の形成領域である貫通窓80の開口部を取り囲む円環形状とされており、突出先端側に向かって次第に狭幅となる略一定の断面形状を有している。また、各貫通窓80の形成部分には、可動ゴム板78の厚さ方向両側に向かって突出する一対の周辺弾性突起86,86が形成されている。そして、後述する振動入力による微小変位時には、可動ゴム板78が周辺弾性突起86の一部を介して仕切部材46に当接するようになっている。なお、可動ゴム板78では、周辺弾性突起86の周上の一部を利用して緩衝突起が構成されている。
更にまた、可動ゴム板78には、外周面から径方向外側に向かって突出するリブ88が一体形成されている。リブ88は、厚さ方向で可動ゴム板78よりも充分に小さく形成されており、可動ゴム板78の厚さ方向略中央において周方向に所定の長さで延びている。また、周方向で等間隔に4つのリブ88が形成されており、径方向で対向する一対のリブ88,88の突出先端面の径方向離隔距離が、収容領域68の径方向の内法寸法と同じかそれよりも大きく設定されている。そして、可動ゴム板78は、リブ88が収容領域68の内周面に当接することによって、仕切部材46に対して径方向で位置決めされている。
また、拘束板76に形成された位置決め孔82は、可動ゴム板78に一体形成された蓋状ゴム膜90によって閉塞されている。蓋状ゴム膜90は、略カップ状又は逆カップ状のゴム膜であって、その開口部が位置決め孔82の開口周縁部に固着されている。これにより、蓋状ゴム膜90は、受圧室58側又は平衡室60側に突出していると共に、位置決め孔82を流体密に覆って遮断している。なお、周上で隣り合う2つの蓋状ゴム膜90が、互いに逆向きに突出している。
また、拘束板76に形成された貫通窓80は、可動ゴム板78によって閉塞されている。即ち、可動ゴム板78には、貫通窓80の内周側に突出する内フランジ状の外周基端部92と、外周基端部92の内周側に一体形成された弾性膜部94が、一体形成されており、それら外周基端部92と弾性膜部94によって貫通窓80が閉塞されている。
外周基端部92は、可動ゴム板78の他の部分に比べて薄肉とされた環状乃至は円環板状のゴム膜とされている。また、外周基端部92は、可動ゴム板78の厚さ方向略中央に一体形成されており、可動ゴム板78における貫通窓80の内周面を被覆する部分から略軸直角方向で貫通窓80内に突出している。
弾性膜部94は、図3に示されているように、径方向中央が突出頂部となるように受圧室58側に突出する略円形ドーム状のゴム膜であって、全体が外周基端部92の厚さ寸法と等しい略一定の厚さ寸法で形成されている。換言すれば、弾性膜部94は、その全体が受圧室58側に向かって凸となる略半球殻形状であって、その表裏両面が折れ線や折れ点を持たない滑らかな湾曲面とされている。また、弾性膜部94の外周縁部は、外周基端部92の内周縁部に対して滑らかに接続されており、弾性膜部94が外周基端部92と一体形成されている。なお、弾性膜部94は、受圧室58側の表面と平衡室60側の表面の何れにも部分的な凹凸が形成されることなく、それら両表面の全体が滑らかな湾曲形状とされている。
また、弾性膜部94において最も受圧室58側に突出した径方向中央(突出頂部)の平衡室60側の表面が、外周基端部92における受圧室58側の表面よりも、受圧室58側に位置している(h1 >0)。換言すれば、弾性膜部94の突出頂部は、軸直角方向の投影において外周基端部92と重なり合うことなく、軸方向に外れて位置している。
可動ゴム板74において外周基端部92と弾性膜部94で構成された部分は、その外周縁部が、拘束板76の貫通窓80に加硫接着されている。それ故、外周基端部92と弾性膜部94には、加硫成形時の熱収縮によって、引張方向の内部応力(初期応力)が作用している。
また、弾性膜部94には、スリット96が形成されている。スリット96は、弾性膜部94を厚さ方向に貫通して径方向で直線的に延びる3つの切込みを組み合わせて形成されており、弾性膜部94の径方向中央から外周側に向かって広がる放射状とされている。即ち、可動ゴム板78の径方向内側に延び出す1本の切込みと、該切込みに対してそれぞれ120°の傾斜角度を為して弾性膜部94の径方向に延び出す2本の切込みによって、スリット96が形成されている。また、スリット96は、各貫通窓80に1つずつ形成されており、弾性膜部94の径方向中央部分を貫通している。そして、受圧室58と平衡室60の相対的な圧力変動による弾性膜部94の弾性変形によって、スリット96が開口し得るようになっており、受圧室58と平衡室60を短絡させる短絡機構が、弾性膜部94で開閉されるスリット96によって構成されている。なお、スリット96は、弾性膜部94の加硫成形後にカッタ等によって形成されているが、弾性膜部94の加硫成形時に予め形成されていても良い。また、弾性膜部94の加硫成形後にスリット96を形成する場合には、拘束板76に形成された位置決め孔82を利用して可動ゴム板78を周方向および軸方向で位置決めすることにより、目的とする位置にスリット96を形成できる。このように、可動部材74では、可動ゴム板78を位置決めするための可動板位置決め部が、拘束板76の位置決め孔82を利用して形成されている。
かかるスリット96が弾性膜部94に形成されると、弾性膜部94の接線方向に作用する初期応力によって、弾性膜部94は、スリット96の開口縁部が貫通窓80の開口周縁部に接近するように収縮変形する。ここにおいて、平板形状の弾性膜部では、スリットが開口するように変形するが、弾性膜部94では、受圧室58側に突出するドーム形状とされていることにより、初期応力の分力が下向きにも作用して、スリット96の開口縁部が下方(平衡室60側)に変位する。換言すれば、弾性膜94は、スリット96の形成により、図3に2点鎖線で示された加硫形状から実線で示された変形形状に変形する。その結果、弾性膜部94におけるスリット96の開口縁部が径方向内側に変位して、図3に実線で示されているように、スリット96が弾性膜部94の弾性によって狭窄される。これにより、スリット96は、外力が及ぼされない静置状態において、安定した閉塞状態に保持される。
しかも、受圧室58が平衡室60に対して鉛直上側に位置していることから、弾性膜部94に対する重力の作用によって、弾性膜部94におけるスリット96の開口周縁部が下方に変位し易くなっている。このように、受圧室58と平衡室60の配置によって、スリット96の閉塞に重力を利用することが出来て、静置状態におけるスリット96の閉塞保持を一層安定させることが出来る。
加えて、外周基端部92に作用する初期応力(弾性膜部94を外周側に引っ張る力)は、弾性膜部94の突出頂部が外周基端部92よりも受圧室58側に位置することにより、スリット96の形成部分に対する直接的な作用が防止されると共に、弾性膜部94の外周部分が剪断変形することで絶縁されて、その伝達が低減されている。それ故、初期応力によるスリット96の開放がより有利に防止される。
かくの如き構造の可動部材74は、仕切部材46の収容領域68に配設されており、その一方の面に対して、受圧室58の圧力が受圧室側開口70を通じて及ぼされていると共に、その他方の面に対して、平衡室60の圧力が平衡室側開口72を通じて及ぼされている。そして、受圧室58と平衡室60の相対的な圧力変動に伴って可動部材74が厚さ方向に微小変位することで、受圧室58の圧力が平衡室60に逃がされるようになっている。これにより、液圧吸収作用を発揮する液圧吸収機構が構成されている。
このような構造とされた自動車用エンジンマウント10の車両装着状態下において、自動車の走行時にエンジンシェイク等の低周波大振幅振動が入力されると、受圧室58と平衡室60の相対的な圧力変動によって、オリフィス通路66を通じて両室58,60間での流体流動が積極的に生ぜしめられる。そして、流体の流動作用に基づいて、目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。なお、大振幅振動の入力時には、可動部材74が実質的に拘束されて、液圧吸収作用の発揮が阻止されている。
加えて、弾性膜部94に形成されたスリット96は、初期応力の作用によって閉塞状態に保持されている。それ故、スリット96を通じて受圧室58と平衡室60の間で流体が流動することによる液圧の逃げが防止されて、オリフィス通路66を通じて流体が効率的に流動するようになっている。その結果、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される。
また、受圧室58に正圧が作用すると、受圧室58側に突出する弾性膜部94には縮径方向の力が作用する。これにより、弾性膜部94におけるスリット96の形成部位が相互に押し付けられて、スリット96が一層有利に遮断される。
また、自動車のアイドリング振動や走行こもり音に相当する中乃至高周波数の小振幅振動が入力されると、オリフィス通路66が反共振的な作用によって実質的に閉塞する。そこにおいて、可動部材74が厚さ方向に微小変位することで、受圧室58の液圧を平衡室60に逃がす液圧吸収作用が発揮されて、中乃至高周波数振動の入力時に低動バネ化による防振効果(振動絶縁効果)が発揮される。なお、弾性膜部94の微小変形による液圧吸収作用を利用することで、より広い周波数域の振動に対して有効な防振効果を得ることも出来得る。
また、自動車の悪路走行時やエンジンのクランキング時に、第一,第二の取付部材12,14の間に衝撃的な大荷重が入力されて、受圧室58に過大な負圧が及ぼされると、受圧室58と平衡室60の相対的な圧力差によって、受圧室58側に凸となる弾性膜部94がスリット96を開放する拡径方向に弾性変形される。これにより、スリット96を通じた受圧室58と平衡室60の間での流体流動が許容されて、流体の流入によって受圧室58の負圧が低減される。その結果、キャビテーションと、それに伴う異音や振動の発生が、効果的に防止される。
特に、弾性膜部94の全体が受圧室58側に凸となるドーム形状とされていることから、受圧室58および平衡室60の液圧が、弾性膜部94の全面においてスリット96を開放する方向(径方向外向き)に作用する。これにより、スリット96を開放させる力が効率的に及ぼされることから、スリット96の迅速な開放作動によって、受圧室58の負圧が速やかに低減される。
しかも、スリット96が放射状に形成されていることで、弾性膜部94に径方向外側向きの液圧が作用することによって、スリット96が容易且つ確実に開放される。これにより、受圧室58の負圧軽減効果が安定して発揮されて、キャビテーションによる異音が防止される。
さらに、各弾性膜部94に対して1つのスリット96が径方向中央に形成されていることから、ドーム形状の弾性膜部94にスリット96を形成する場合にも、スリット96の開閉作動のチューニングが容易になる。即ち、ドーム形状とされた1つの弾性膜部94に対して複数のスリットを形成すると、各スリットの開口方向が互いに異なることから、流体の流動方向等によっては、スリットが開放される負圧の設定(スリットの開放タイミング)が相違するおそれがある。そこで、弾性膜部94に対して1つのスリット96を形成すれば、スリット96の開放タイミングのばらつきを防いで、スリット96の開閉作動を容易にチューニングできる。
加えて、スリット96が放射状に延びる切込みで形成されていると共に、各切込みの延び出す方向が統一されている。それ故、各スリット96の開放タイミングが略一致して、開閉作動のチューニングが容易になる。なお、各弾性膜部94にスリットを複数形成したり、各弾性膜部94に形成されるスリットの位置や形状を相互に異ならせることで、スリットが開放される負圧の設定を相違させて、防振特性のブロード化を実現すること等も出来る。
以上のように、通常振動の入力時や受圧室58への正圧作用時には、弾性膜部94の形状を受圧室58側に突出するドーム形状とすることで、スリット96が閉塞状態に安定して保持される。一方、受圧室58に対してキャビテーションが発生する程の過大な負圧が作用すると、受圧室58側に突出する弾性膜部94に負圧が作用することで、弾性膜部94が拡径方向に弾性変形して、スリット96が速やかに開放される。これらによって、エンジンマウント10では、オリフィス通路66を通じての流体流動による防振効果と、スリット96を通じての流体流動によるキャビテーション防止効果が、両立して何れも効率的に発揮される。
また、スリット96を構成する切込みが何れも貫通窓80の内周面付近まで延び出している。それ故、スリット96の端部に亀裂が生じた場合にも、亀裂の進行が拘束板76によって制限されて、防振性能やキャビテーション防止性能の低下が抑えられる。
また、可動ゴム板78の外周縁部に当接外周突条84が形成されていることにより、可動部材74の外周縁部が仕切部材46に当接することによる打音が軽減される。加えて、可動ゴム板78の径方向中間部分には、周辺弾性突起86が形成されていることから、可動部材74の内周部分が仕切部材46に当接することによる打音も軽減される。特に、それら当接外周突条84と周辺弾性突起86が何れも突出先端側に向かって狭幅となる断面形状を有していることにより、当接時の衝撃力が緩和されて、打音の軽減効果が有効に発揮される。
図4,図5には、本発明に係る流体封入式防振装置の第二の実施形態としての自動車用エンジンマウントに適用される可動部材100の要部が示されている。この可動部材100は、前記第一の実施形態に示されたエンジンマウント10と同様の構造を有するエンジンマウントにおいて、可動部材74に代えて収容領域68に収容される。なお、以下の説明において、前記第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。
可動部材100は、拘束板76の表面に可動ゴム板102を加硫接着された構造とされている。更に、可動ゴム板102は、拘束板76の貫通窓80を閉塞する弾性膜部104を備えている。
弾性膜部104は、全体として受圧室58側に凸となる円形ドーム形状を有していると共に、その突出頂部に中央突部106が一体形成されている。中央突部106は、略半球形状の突起であって、スリット96を形成された弾性膜部104の径方向中央に形成されて、受圧室58側に突出している。これにより、スリット96における切込みの接続部分である弾性膜部104の径方向中央が、他の部分に比べて厚肉となっている。なお、中央突部106は、スリット96によって周方向で複数に分割されている。
このような中央突部106を備えた弾性膜部104では、受圧室58に正圧が作用した場合に、受圧室58の液圧がスリット96を通じて平衡室60に逃げるのを防いで、オリフィス通路66を通じての流体流動を効率的に生じさせることが出来る。即ち、受圧室58の正圧によってドーム状とされた弾性膜部104が平衡室60側に押されて、中央突部106のスリット96を挟んだ両側が相互に押し付けられることにより、弾性膜部104の弾性変形が制限されて、スリット96の開放が防がれるからである。
なお、中央突部として、スリット96を構成する各切込みの開口周縁部に直線的に延びる突条を形成しても良い。これによれば、受圧室58への正圧作用時にスリット96の開放が一層効果的に防止されて、オリフィス通路66による防振効果がより有効に発揮され得る。
図6には、本発明に係る流体封入式防振装置の第三の実施形態としての自動車用エンジンマウントに採用される可動部材110の要部が示されている。この可動部材110は、前記第一の実施形態に示されたエンジンマウント10と同様の構造を有するエンジンマウントにおいて、可動部材74に代えて収容領域68に収容される。また、可動部材110は、可動ゴム板112の内部に拘束板76を埋設固着した構造を有している。更に、可動ゴム板112は、拘束板76の貫通窓80を閉塞する弾性膜部114を備えている。
弾性膜部114は、その全体が外周基端部92よりも受圧室58側に突出していると共に、その径方向中央部分が受圧室58側に向かって凹となる中央凹部116とされている。これにより、弾性膜部114は、径方向中間部分に環状の突出頂部を備えている。そして、弾性膜部114の径方向中央である中央凹部116の径方向中央から放射状に複数の切込みが形成されており、それら切込みによって弾性膜部114を厚さ方向に貫通するスリット96が形成されている。なお、中央凹部116の平衡室60側の表面は、外周基端部92の受圧室58側の表面よりも受圧室58側に位置している(h2 >0)。
このような構造の可動部材110を備えたエンジンマウントにおいても、スリット96の形成による弾性膜部114の収縮に際して、弾性膜部114の中央部分が下方に変位してスリット96が閉塞されるようになっている。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、弾性膜部の形状は、受圧室側に突出していれば特に限定されるものではなく、突出頂部に部分的な平坦面が形成されていても良い。
また、各貫通窓に形成される弾性膜部は、必ずしも1つだけでなくても良く、可動ゴム板の貫通窓を閉塞する部分に、それぞれ複数の弾性膜部が設けられていても良い。この場合には、各弾性膜部にそれぞれスリットが形成される。
また、貫通窓は、拘束板に対して複数が形成されていても良いし、1つだけが形成されていても良い。更に、複数の貫通窓が形成されている場合には、それら貫通窓の配置は特に限定されるものではない。更にまた、貫通窓の窓断面形状は、弾性膜部および外周基端部の耐久性や変形安定性を確保するために円形であることが望ましいが、例えば矩形等の多角形や楕円形等であっても良い。
また、弾性膜部に形成されるスリットは、径方向で直線的に延びる3つの切込みを組み合わせた構造に限定されるものではない。具体的には、例えば、直線的に延びる一文字のスリットや、4つ以上の直線的な切込みを放射状に組み合わせたスリットも採用される。更に、スリットを構成する切込みは、複数がT字やL字等、放射状以外の態様で組み合わされていても良いし、複数が互いに独立して形成されていても良い。更にまた、スリットを構成する切込みは、湾曲又は屈曲していても良く、直線的なものに限定されない。
また、拘束板は、例えば、可動ゴム板の一方の表面に重ね合わされて、外部に露出した状態で固着されていても良い。更に、拘束板の可動ゴム板への固着は、加硫接着以外に、接着剤による後接着等であっても良い。
また、本発明は、自動車用のエンジンマウントにのみ適用されるものではなく、自動車以外の鉄道車両や産業用車両,自動二輪車等に用いられる流体封入式防振装置にも適用可能であるし、エンジンマウント以外にボデーマウントやサブフレームマウント,デフマウント等にも好適に適用され得る。
10:エンジンマウント(流体封入式防振装置)、12:第一の取付部材、14:第二の取付部材、16:本体ゴム弾性体、38:ダイヤフラム(可撓性膜)、46:仕切部材、58:受圧室、60:平衡室、66:オリフィス通路、70:受圧室側開口、72:平衡室側開口、76:拘束板、78,102,112:可動ゴム板、80:貫通窓、82:位置決め孔(拘束板位置決め部)、84:当接外周突条、86:周辺弾性突起(緩衝突起)、88:リブ、90:蓋状ゴム膜、94,104,114:弾性膜部、96:スリット、106:中央突部

Claims (13)

  1. 第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結されていると共に、該第二の取付部材で支持された仕切部材の一方の側において該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成された受圧室が形成されると共に、該仕切部材の他方の側において壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室が形成されており、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体が封入されていると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が形成されている流体封入式防振装置において、
    前記仕切部材に可動ゴム板が組み付けられており、該仕切部材に形成された受圧室側開口を通じて該可動ゴム板の一方の面に前記受圧室の圧力が及ぼされると共に、該仕切部材に形成された平衡室側開口を通じて該可動ゴム板の他方の面に前記平衡室の圧力が及ぼされてそれら受圧室と平衡室の圧力差に基づく該可動ゴム板の板厚方向の変位によって該受圧室の圧力変動を吸収する液圧吸収機構が構成されている一方、該可動ゴム板に対して該受圧室側開口および該平衡室側開口の開口領域よりも大きな拘束板が加硫接着されており、該拘束板に少なくとも一つの貫通窓が形成されて該貫通窓が該可動ゴム板で閉塞されていると共に、該可動ゴム板において該貫通窓を閉塞する部分が湾曲して該受圧室側に向かって突出した弾性膜部を有しており、該弾性膜部の突出頂部における該平衡室側の表面が該弾性膜部の外周基端部における該受圧室側の表面よりも該受圧室側に突出位置していると共に、該弾性膜部にはスリットが形成されて、該スリットの形成部分における該弾性膜部の弾性変形によって該スリットが開口して該受圧室と該平衡室を短絡させる短絡機構が構成されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
  2. 前記弾性膜部が前記受圧室側に凸となるドーム形状とされている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
  3. 前記弾性膜部には、前記スリットが形成された中央部分において受圧室側に向かって突出する中央突部が一体形成されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
  4. 前記可動ゴム板の外周縁部が前記拘束板よりも外周側に延び出して大径となっていると共に、該可動ゴム板において該拘束板よりも外周側に延び出した部分が周方向に延びる波打ち形状とされている請求項1〜3の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
  5. 前記スリットの周囲において該スリットの形成領域を囲んで周方向に延びる周辺弾性突起が形成されている請求項1〜4の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
  6. 前記可動ゴム板において板厚方向両側に向かって突出する緩衝突起が形成されており、該可動ゴム板が前記仕切部材に対して該緩衝突起を介して板厚方向で当接せしめられるようになっている請求項1〜5の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
  7. 前記仕切部材に形成された前記受圧室側開口と前記平衡室側開口が何れも円形透孔で構成されていると共に、前記可動ゴム板が該円形透孔よりも大径の円板形状とされて、該可動ゴム板に対して該円形透孔よりも大径の円板形状を有する前記拘束板が加硫接着されていると共に、該可動ゴム板の外周部分には板厚方向両側に突出して周方向に延びる当接外周突条が一体形成されている請求項1〜6の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
  8. 前記可動ゴム板が前記拘束板よりも大径とされて該可動ゴム板の外周縁部が該拘束板よりも外周側に延び出していると共に、前記当接外周突条が該可動ゴム板において該拘束板から外周側に外れた位置に形成されている請求項7に記載の流体封入式防振装置。
  9. 前記可動ゴム板には、前記貫通窓を閉塞する部分に対して1つの前記スリットが形成されている請求項1〜8の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
  10. 前記スリットの端部が前記貫通窓の開口周縁部に向かって延びている請求項1〜9の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
  11. 前記可動ゴム板には、外周面上に突出するリブが設けられている請求項1〜10の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
  12. 前記拘束板において周方向及び軸直角方向の位置を特定する拘束板位置決め部が形成されていると共に、前記可動ゴム板において周方向及び軸直角方向の位置を特定する可動板位置決め部が該拘束板位置決め部を用いて形成されている請求項1〜11の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
  13. 前記拘束板位置決め部が径方向中間部分を板厚方向に貫通する位置決め孔とされており、該位置決め孔の一方の開口部を覆蓋する蓋状ゴム膜が前記可動ゴム板と一体形成されている請求項12に記載の流体封入式防振装置。
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