特許文献1、2に記載された発明のような、従来の二相ステッピングモータの駆動方法では、二相ステッピングモータが低速回転時のときと、中高速回転時のときとに分けて、二相ステッピングモータの駆動制御を行っている。しかしながら、二相ステッピングモータが低速回転の状態にあるのか、中高速回転の状態にあるのかを判定する手段については、対策が施されていなかった。
二相ステッピングモータの種類が特定されていれば、二相ステッピングモータの回転速度を検出することで、低速回転時の状態と中高速回転時の状態とを判定することは可能である。しかし、複数の異なる二相ステッピングモータを駆動制御するドライバの構成としては、汎用性を持たせたドライバ構成としておかなければならない。
そのため、二相ステッピングモータを駆動制御するドライバとしては、二相ステッピングモータの種類を特定せずに、ドライバを用いた二相ステッピングモータに対して駆動制御を行わなければならない。
更に詳述すると、例えば、二相ステッピングモータの種類によって、モータコイルの直流抵抗値とモータコイルのインダクタンスの定格とは異なっている。一般的に、スタティックの出力トルク(二相ステッピングモータの回転をホールドしたときのホールドトルク)の大きな二相ステッピングモータでは、モータコイルのインダクタンスが大きく構成されており、その分、励磁電流の立ち上がり角度は抑えられている。
このため、低速回転時における出力トルクを大きくすることができる反面、比較的遅い回転速度の段階からモータコイルに流れる励磁電流が、基準電流値に直ぐに達しなくなってしまい、出力トルクの低下が起きてしまう。そのため、モータコイルのインダクタンスが大きな二相ステッピングモータは、高速回転用には不向きなモータとなる。そこで、このようなスタティックの出力トルクの大きな二相ステッピングモータは、大きな負荷を低
速回転で動かす場合に多く用いられている。
逆に、高速回転用の二相ステッピングモータとしては、モータコイルのインダクタンスが小さな二相ステッピングモータが用いられている。モータコイルのインダクタンスが小さく構成されているため、モータコイルに流れる励磁電流の立ち上がりは早く、比較的高速回転領域までモータコイルに流れる励磁電流が基準電流値に追従することができる。そして、モータコイルのインダクタンスが小さい分、モータコイルに流す励磁電流を多く流すことによって、低速域でのトルク(スタティック的な出力トルク)を高めることができる。
このような特性を有しているので、一般的に、同じ形状の二相ステッピングモータであれば、定格電流値の大きいものは高速タイプの二相ステッピングモータとして用いられている。このように、色々な使用用途に合わせて種々の特性を有する二相ステッピングモータが選択されている。
本願発明では、二相ステッピングモータの特性によらずに、二相ステッピングモータが低速域での駆動状態であるのか、中高速域での駆動状態であるのかを判定することができ、低速域での駆動制御や中高速域での駆動制御が行える二相ステッピングモータのマイクロステップ駆動方法の提供を本願発明の課題としている。
本願発明の課題は、次に記載する各発明により達成することができる。
即ち、本願発明の二相ステッピングモータのマイクロステップ駆動方法は、バイポーラ駆動における二相ステッピングモータのマイクロステップ駆動方法であって、前記二相ステッピングモータの電気角が、励磁電流の基準電流値のピークとなる電気角90°以上で励磁電流の基準電流値がゼロとなる電気角180 °よりも小さな予め設定した所定の第1電気角となるまでに、前記二相ステッピングモータのモータコイルに流れる励磁電流のピーク値が、励磁電流の基準電流値に達したか否かを判定し、
この判定において、励磁電流の基準電流値に達したと判定したときには、二相ステッピングモータは低速域にあるとして低速域における制御を行い、励磁電流の基準電流値に達しなかったと判定したときには、二相ステッピングモータは中高速域にあるとして中高速域における制御を行うことを最も主要な特徴としている。
また、本願発明では、前記低速域における制御は、前記二相ステッピングモータのモータコイルに対して励磁オン・オフ制御を行う各励磁周期中において、前記モータコイルに対する励磁オン制御にデューティー制限を加え、前記モータコイルに対する励磁オフ制御として、前記モータコイルに流れる励磁電流の減少を高速減衰又は低速減衰にて行い、前記励磁オフ制御によって前記各励磁周期を終了させることを主要な特徴としている。
更に、本願発明では、前記励磁オフ制御による効果を生じさせる時間を、前記各励磁周期における最後の時間として設定し、前記最後の時間に達するまでの前記各励磁周期中に、前記モータコイルに流れる励磁電流のピーク値が、励磁電流の基準電流値に達したか否かを判定し、
この判定において、励磁電流の基準電流値に達したと判定したときには、前記各励磁周期中において励磁電流の基準電流値に達した時点から前記高速減衰を行い、励磁電流の基準電流値に達しなかったと判定したときには、前記最後の時間内では強制的に前記低速減衰を行うことを主要な特徴としている。
更にまた、本願発明では、前記中高速域における制御は、前記二相ステッピングモータのモータコイルに対して励磁オン・オフ制御を行う各励磁周期中において、制御中の前記
モータコイルに対する励磁オン状態を継続させ、前記二相ステッピングモータの電気角が、前記第1電気角以上で励磁電流の基準電流値がゼロとなる電気角180 °よりも小さな予め設定した所定の第2電気角となるまでに、前記モータコイルに流れる励磁電流のピーク値が、励磁電流の基準電流値に達したか否かを判定し、
この判定において、励磁電流の基準電流値に達しなかったと判定したときには、前記二相ステッピングモータの電気角が0 °及び180 °を中心とした所定の電気角度範囲内において、励磁電流の基準電流値をゼロに設定することを主要な特徴としている。
本願発明では、二相ステッピングモータの電気角と、励磁電流の基準電流値に対する二相ステッピングモータのモータコイルに流れる励磁電流のピーク値と、の関係から、二相ステッピングモータの種類に係わらずに二相ステッピングモータが低速域にあるのか、中高速域にあるのかを判定することができる。そして、二相ステッピングモータに対して低速域での駆動制御と中高速域での駆動制御とを行うことができる。
特に、判断基準となる第1電気角を、励磁電流の基準電流値のピークとなる電気角90°以上で励磁電流の基準電流値がゼロとなる電気角180 °よりも小さな予め設定した所定の電気角として設定しており、二相ステッピングモータの電気角が第1電気角となるまでの間に、二相ステッピングモータのモータコイルに流れる励磁電流のピーク値が励磁電流の基準電流値に達したのか否かによって判定している。
このように、モータコイルに流れる励磁電流と基準電流との位相ズレを検出して判定を行っているので、二相ステッピングモータの回転数を検出しなくても、各種の二相ステッピングモータに対してその二相ステッピングモータが低速域にあるのか、中高速域にあるのかを、二相ステッピングモータの特性によらなくても明確に判定することができる。第1電気角としては、各種の二相ステッピングモータに対して行った実験等から最適な電気角として求めておくことができる。
一般に、二相ステッピングモータが低速域にある状態では、励磁電流が増加する位相において、基準電流の増加に対して励磁電流の増加が追いつかずに、励磁周期中にモータコイルを励磁しない励磁オフの状態が続く場合や励磁オフが生じる周期が不規則になったりする。また、励磁電流が減少する位相においては、基準電流が減少するために励磁周期中には必ず励磁オフの状態が生じることになる。
このように不規則な周期で励磁オフが生じると、マイクロステップ駆動において静穏低振動効果が十分発揮できる低速状態であっても、規則正しい励磁周期毎のモータコイルに対して行うスイッチング操作によって、周波数変動を起こしてしまうことになる。そして、励磁電流増加の位相と励磁電流減少の位相とでは、モータコイルを励磁、非励磁するスイッチング周波数が異なってしまうことになる。また、励磁電流増加の位相では、励磁周波数の整数倍の周期がもたらす周波数が混じってしまう。
通常、スイッチング周波数は、可聴音にならない15kHz 以上としているが、前述したようなスイッチング抜けによって周波数むらが起こると可聴音となる周波数変動が生じてしまい、異音や騒音の原因になってしまう。
そこで本願発明では、二相ステッピングモータが低速域にある状態での駆動制御として、励磁周期中に励磁オフ制御を確実に行わせている。更には、励磁周期に最後の時間を設定して、少なくとも最後の時間では、低速減衰又は高速減衰を確実に行わせている。励磁周期における最後の時間としては、励磁オフ制御による効果を生じさせる時間として設定しておくことができる。本願発明の構成によって、スイッチング抜けによって周波数むら
が起こることや、異音や騒音が発生することを確実に防止できる。
また、一般に、二相ステッピングモータが中高速域にある状態では、二相ステッピングモータの速度上昇に伴って、基準電流の単位時間当たりの増減の割合が大きくなり、モータコイルに流れる励磁電流の値が基準電流の値に追従できなくなる。そして、基準電流の位相に対して励磁電流の位相が遅れることになる。
二相ステッピングモータの回転速度が上昇するのに伴って、モータコイルのインピーダンスも増加する。そのため、励磁電流のピーク値が伸びなくなり、更に二相ステッピングモータの回転速度を上げれば、励磁電流はほとんどモータコイルに流れなくなってしまう。
そして、励磁電流におけるピーク電流の形状がつぶれた形状になってくると、モータコイルを励磁する方向に流れる励磁電流値は小さくなり、励磁電流とは逆向きに流れる起電流の影響が大きくなる。このような状況になると、二相ステッピングモータに印加する駆動電圧と励磁電流が不安定な状態となって大きな振動を起こし易くなる。更に、本来ならば出力トルクを二相ステッピングモータから発生できるのにもかかわらず、振動によって脱調し易くなってしまい、実用的には使えない状態となってしまう。
そこで、本願発明では、二相ステッピングモータが中高速域にある状態での駆動制御として、モータコイルに対する励磁オン状態を励磁周期中継続させておく制御を行っている。更に、二相ステッピングモータの電気角が第2電気角となるまでに、モータコイルに流れる励磁電流のピーク値が励磁電流の基準電流値に達しなかった場合には、二相ステッピングモータの電気角が0 °及び180 °を中心とした所定の電気角度範囲内において、励磁電流の基準電流値をゼロに設定した制御を行っている。
特に、判断基準となる第2電気角を、第1電気角以上で励磁電流の基準電流値がゼロとなる電気角180 °よりも小さな予め設定した所定の電気角として設定している。そして、二相ステッピングモータの電気角が第1電気角以上で第2電気角となるまでの間に、二相ステッピングモータのモータコイルに流れる励磁電流のピーク値が励磁電流の基準電流値に達したのか否かによって、電気角が0 °及び180 °を中心とした所定の電気角度範囲内において、励磁電流の基準電流値をゼロに設定する制御を行うか否かの判定を行っている。
この構成によって、駆動電圧と励磁電流が不安定な状態となるのを強制的に防止し、駆動電圧と励磁電流とが不安定となって大きな振動を起こしてしまうのを防止できる。その結果、二相ステッピングモータが脱調してしまうのを防止しておくことができる。
本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明の二相ステッピングモータのマイクロステップ駆動方法に用いることのできる回路構成は、以下で説明する回路構成以外にも本願発明の課題を解決することができる回路構成であれば、それらの回路構成を採用することができるものである。このため、本発明は、以下に説明する実施例で示した回路構成に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
以下において、本願発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本願実施の形態に係わる二相ステッピングモータ1 を、バイポーラ駆動によって制御する駆動回路の構成図を図1に示している。この駆動回路には、二相ステッピングモータ1 の駆動を制御するロジック部2 、ロジック部2 によって制御されるプリドライバ3,13、プリドライバ3,13によって制御される出力段10,20 を備え、二相ステッピングモータ1 におけるA 相のモータコイル6 に流す励磁電流Ia(図3参照。)とB 相のモータコイル16に流す励磁電流Iaとを制御する。
ロジック部2 には、二相ステッピングモータ1 の回転方向を指令する外部指令パルスとして、時計回り方向を指令するCWパルス指令と反時計回り方向を指令するCCW パルス指令とが入力される。外部指令パルス(CW/CCW )は、外部装置から出力され、外部指令パルス数に応じたパルス数だけ、二相ステッピングモータを時計回り方向或いは反時計回り方向に歩進させることができる。例えば、20,000パルスの外部指令パルス(CW/CCW )が出力されることで、二相ステッピングモータ1 の出力軸を時計回り方向又は反時計回り方向に1回転させることができる。
また、ロジック部2 には、二相ステッピングモータ1 をマイクロステップ駆動するときの分解能を指令する分解能選択信号、ドライブ用の励磁電流とホールド用の励磁電流との間で強制的に励磁電流を切り替える電流切替信号等が入力されている。ロジック部2 から出力された励磁指令に基づいて、プリドライバ3,13は、出力段10,20 に配したスイッチ素子4a〜4d,14a 〜14d を制御して、A 相のモータコイル6 に流れる電流とB 相のモータコイル16に流れる電流を制御する。
出力段10,20 には、二相ステッピングモータ1 に印加する駆動電圧(図1、図3では、DVとして示している。)が加えられている。バイポーラ駆動の回路構成において、A 相のモータコイル6 に対する駆動制御とB 相のモータコイル16に対する駆動制御とは、90°の位相差を持って制御されている。そこで、以下においては、A 相のモータコイル6 に対する駆動制御及びその制御構成についての説明を行い、B 相のモータコイルに対する駆動制御及びその制御構成に関しては、A 相のモータコイル6 を制御する各部材の部材番号に10を加えたものを、B 相のモータコイル16を制御する各部材の部材番号とすることで、その説明は省略する。
出力段10には、スイッチ素子4a〜4dとダイオード5a〜5dとをそれぞれ並列状態にした4つの組とし、それぞれの組を四角形に接続したブリッジ回路として構成している。この四角形に接続したブリッジ回路における一つの対角には駆動電圧が印加されており、別の対角間にはモータコイル6 が接続されている。
スイッチ素子4a〜4dとしては、トランジスタが用いられており、ダイオード5a〜5dとしては、フライホイールダイオードが用いられている。出力段10として構成できるものであれば、スイッチ素子4a〜4d及びダイオード5a〜5dを他の電子機器で構成することもできる。
駆動電圧を加えたブリッジ回路における一つの対角には、モータコイル6 に流れる電流を検出するため、電流検出抵抗11が接続されている。電流検出抵抗11の上流側から取り出した電流は、半波整流回路7 を介して取り出される。半波整流回路7 を介することによって、スイッチ素子4a〜4dがオンされているときにモータコイル6 に流れる励磁電流のみを取り出すことができる。
半波整流回路7 を介して取り出された励磁電流は、ロジック部2 から出力された励磁電流の基準電流値と比較回路8 において比較される。そのため、ロジック部2 から出力された励磁電流の基準電流値は、D /A 変換回路9 を介してアナログ電圧となって比較回路8 に入力されている。
図1の駆動回路で、マイクロステップ駆動によって電気角を一周させるためには、電気角90°毎に励磁シーケンスを切り替えることが必要であり、マイクロステップ駆動におけるステップ毎に励磁電流の基準電流値を切り替えていく制御が行われる。マイクロステップ駆動では、ステップ角度を細かくして電気角一周の分解能を高めることができ、それによって図4に示すように基準電流の変化の段階を細かくすることができる。
即ち、分解能をあげればあげるほど1ステップ毎のトルクベクトルの角度変化は小さくなり、それを実現する基準電流の変化の段階も細かくなって、基準電流をサインカーブに近づけることができる。
二相ステッピングモータのフルステップにおける基本角度は、機械角で1.8 °、電気角で90°であるので、例えば、機械角では200 パルスで二相ステッピングモータ1 の出力軸が1回転するように設定しておくことができる。このとき、例えば、分解能を基本角の1 /100 としたときには、機械角では20,000パルスで二相ステッピングモータ1 の出力軸が1回転するように設定することができる。
図4に示すように、二相ステッピングモータ1 では、電気角が0 °から180 °の範囲では、A 相のモータコイル6 の励磁を行い、電気角が180 °から360 °の範囲では、(−)A 相のモータコイル6 の励磁を行っている。そして、電気角が0 °から90°の範囲では、A 相のモータコイル6 を流れる励磁電流が増加する制御が行われ、電気角が90°から180 °の範囲では、A 相のモータコイル6 を流れる励磁電流が減少する制御が行われる。
また、電気角が180 °から270 °の範囲では、(−)A 相のモータコイル6 を流れる励磁電流(A 相のモータコイル6 に流れる励磁電流とは逆向きの励磁電流)が増加する制御が行われ、電気角が270 °から360 °の範囲では、(−)A 相のモータコイル6 を流れる励磁電流が減少する制御が行われる。そして、A 相及び(−)A 相のモータコイル6 とB 相及び(−)B 相のモータコイル16の励磁は、90°の位相差をもって制御される。
尚、A 相は、モータコイル6 に流れる励磁電流の方向が正方向であるとすると、(−)A 相は、モータコイル6 に流れる励磁電流の方向が負方向であることを示している。A 相と(−)A 相との関係は、B 相と(−)B 相との関係でも同様となっている。
また、A 相における制御では、スイッチ素子4b、4cをオフした状態でスイッチ素子4a、4dのオン・オフ制御を行っている。(−)A 相における制御では、スイッチ素子4a、4dをオフした状態でスイッチ素子4b、4cのオン・オフ制御を行うことにより、(−)A 相における制御を行うことができる。
マイクロステップ駆動を行わせるため、ロジック部2 では、外部指令パルス(CW方向/CCW 方向)に基づいて、励磁シーケンスと励磁電流基準値を切り替える制御を行う。そして、ロジック部2 から出力した励磁電流の基準電流値は、D/A 変換回路9 を介してアナログ電圧となり、比較回路8 においてモータコイル6 に流れる励磁電流の電流検出値と比較されることになる。
そして、図2に示すように、励磁周期の間にモータコイル6 に流れる励磁電流が励磁電流の基準電流値に至ったときには、モータコイル6 に流れる励磁電流を遮断する制御を行う。図2では、励磁電流を遮断する際に上側のスイッチ素子4aと下側のスイッチ素子4dとを両方オフさせた状態を示している。そのため、後述するように電流検出抵抗11を流れる起電流の向きは励磁電流と逆方向になる。
このため電流検出抵抗11での電流の検出は、スイッチ素子4a,4d がオンの時の励磁電流はプラスの電圧として現れ、スイッチ素子4a,4d がオフの時の起電流はマイナスの電圧として現れることになる。上述したように、本願発明では、図1に示した半波整流回路7 を介することによって、比較回路8 ではスイッチ素子4a,4d がオンの時の励磁電流のみを電流基準値と比較することができる。
次に、プリドライバ3 によって出力段10に配したスイッチ素子4a〜4dを制御して、A 相のモータコイル6 に流れる電流を制御する三つのパターンについて、図3(a)〜(c)を用いて説明する。図3(a)では、モータコイル6 に流れる励磁電流を流している状態を示しており、図3(b)、(c)では、モータコイル6 に流れる励磁電流を遮断している状態を示している。
最初に、図3(a)に示すようにスイッチ素子4a,4d がそれぞれオンでスイッチ素子4b,4c が共にオフの場合について説明する。即ち、A 相のモータコイル6 に励磁電流Iaを供給する場合を説明する。このとき、A 相の励磁電流Iaは、図3(c)における太線の矢印で示す方向に流れることになる。
即ち、A 相の励磁電流Iaは、スイッチ素子4aを通ってモータコイル6 に流れ、モータコイル6 からスイッチ素子4dを通って電流検出抵抗11に至る経路をたどることになる。そして、スイッチ素子4a,4d がオンされているときにモータコイル6 に流れる励磁電流Iaを、図1に示す半波整流回路7 によって取り出すことができる。
次に、図3(a)に示す状態から、スイッチ素子4a〜4dが全てオフとなった場合を説明する。即ち、A 相のモータコイル6 への励磁電流Iaの供給を遮断する場合の一つを説明する。このとき、A 相のモータコイル6 には励磁電流Iaが流れなくなるので、モータコイル6 のインダクタンスによる起電流Kaが生じる。そして、起電流Kaは、図3(b)における太線の矢印で示す方向に流れることになる。
即ち、A 相のモータコイル6 による起電流Kaは、モータコイル6 からダイオード5cに流れる。また、電源からの逆電流は、電流検出抵抗11を通ってダイオード5bからモータコイ
ル6 に戻る経路をたどることになる。このとき、モータコイル6 に加わる電圧としては、図3(a)に示す状態において加わったときの電圧とは逆向きの電圧が加わることになる。このため、モータコイル6 による起電流Kaを早く減衰させることができる。即ち、モータコイル6 による起電流Kaを高速減衰(ファストディケイともいう。)させることができる。
この高速減衰を行う場合には、起電流Kaの立ち下がりが早いためスイッチングに伴うモータコイル6 の電流リップルが大きくなる。そして、電流リップルは、二相ステッピングモータにおける発熱の原因となってしまう。
次に、図3(a)に示す状態から、スイッチ素子4d以外は全てオフとなった場合を説明する。即ち、A 相のモータコイル6 への励磁電流Iaの供給を遮断する別の場合を説明する。このときにも、A 相のモータコイル6 には励磁電流Iaが流れなくなるので、モータコイル6 のインダクタンスによる起電流Kbが生じて、起電流Kbは図3(c)における太線の矢印で示す方向に流れることになる。
即ち、図3(c)で示すように、A 相のモータコイル6 による起電流Kbは、モータコイル6 からスイッチ素子4dに流れ、ダイオード5bを通ってモータコイル6 に戻る経路をたどることになる。このとき、起電流Kbとしては、閉回路内を循環することになり、モータコイル6 の両端の電圧はほぼ同電位となる。そのため、モータコイル6 による起電流Kbは、ゆっくりと減衰することになる。即ち、モータコイル6 による起電流Kbは、低速減衰(スローディケイともいう。)することになる。
この低速減衰を行う場合には、モータコイル6 に逆電圧が印加されないため、起電流Kbの立ち下がりは遅くなってしまう。マイクロステップ駆動においてサインカーブの励起電流を実現する上で、励磁電流の基準電流値をゼロに近づける際には起電流Kbが基準通りには下がらず、分解能を上げられない原因になってしまう。そのため、励磁電流の基準電流値をゼロに近づけるゼロクロス付近において電流コントロールが難しくなる。しかし、モータコイル6 の電流リップルは小さくなるため、二相ステッピングモータの発熱抑制には効果がある。
尚、図3(c)では、スイッチ素子4dをオンにして他のスイッチ素子4a〜4cをオフにした場合を説明しているが、スイッチ素子4aをオンにして他のスイッチ素子4b〜4dをオフにすることもできる。この場合には、A 相のモータコイル6 による起電流は、モータコイル6 からダイオード5cを通ってスイッチ素子4aに流れ、モータコイル6 に戻る経路をたどることになる。そしてこの場合においても、モータコイル6 による起電流を低速減衰させることができる。
以下では、上記図1に示した駆動回路構成において、二相ステッピングモータの特性によらずに、低速域での駆動状態にある二相ステッピングモータと、中高速域での駆動状態にある二相ステッピングモータとを判定すること、及び低速駆動状態での二相ステッピングモータの駆動制御、中高速駆動状態での二相ステッピングモータの駆動制御について説明する。
本願発明では、二相ステッピングモータが低速域又は中高速域にあることを判定した後には、図5に示すように、静穏性を重視して二相ステッピングモータ1 を使用する低速域での駆動制御と、出力トルクを重視して二相ステッピングモータ1 を使用する中高速域での駆動制御とをそれぞれ行わせるものとする。尚、図5は、横軸が片対数のグラフとなっている。
図5に示した各速度域(1) 〜(4) において、励磁電流の基準電流値とモータコイル6 に流れる励磁電流との関係がどのような関係となっているのかを示したのが図6である。速度域が(1) 〜(4) のように増速域に移動するのに従って、二相ステッピングモータ1 の出力軸が一回転する時間t0 〜t1 、t2 〜t3 、t4 〜t5 、t6 〜t7 は短い時間となっていく。
しかし、図6では、励磁電流の基準電流値とモータコイル6 に流れる励磁電流との関係を分かり易くするため、速度域が(1) 〜(4) のように増速域に移動するのに従って、二相ステッピングモータ1 が一回転する時間を拡大した状態で示している。そして、励磁電流の基準電流は細線で示し、実際にモータコイル6 に流れる励磁電流は太線で示している。
図6で示しているように、二相ステッピングモータ1 の回転速度が速くなると、即ち、速度域が(1) の状態から(4) の状態に移行するのに従って、電気角を一周する時間t0 〜t1 、t2 〜t3 、t4 〜t5 、t6 〜t7 は短くなり、励磁電流の基準電流の変化に対してモータコイル6 に流れる励磁電流の立ち上がり立ち下がりが追従できなくなっていく。
図1に示すロジック部2 では、外部指令パルスと分解能選択とをもとにして、電気角上の位置(以下、アドレスという。)を管理するとともに、電気角上の位置情報に基づいた励磁電流の基準電流値を、励磁周期毎に更新する。
速度域(1) では、励磁電流の基準電流値のサインカーブにモータコイル6 を流れる励磁電流は、完全に追従することができる。速度域(2) では、励磁電流の基準電流値のサインカーブに対して、モータコイル6 を流れる励磁電流は、追従できなくなってくる。そして、電気角90°において生じる励磁電流の基準電流値の最大値に、モータコイル6 を流れる励磁電流は到達できなくなる。この結果、図5に示したように出力トルクの低下となって現れてくる。
そこで本願発明では、励磁電流の基準電流値のピークとなる電気角90°以上で励磁電流の基準電流値がゼロとなる電気角180 °よりも小さな第1電気角D1°を設定している。そして、電気角90°と第1電気角D1°との間において、モータコイル6 に流れる励磁電流のピーク値が、励磁電流の基準電流値に達したか否かを判定することで、二相ステッピングモータ1 が速度域(2) にあるか否かの判定を行っている。
即ち、図6(b)に示すように、電気角が第1電気角D1°になるまでの間に、モータコイル6 に流れる励磁電流のピーク値が、励磁電流の基準電流値に達したときには、二相ステッピングモータ1 は低速域にあるとして、二相ステッピングモータ1 に対して低速域における制御を行っている。
第1電気角D1°としては、実験等に基づいて最適な電気角として求めておくことができ、例えば、電気角112.5 °を第1電気角D1°として設定しておくことができる。
本願発明では、比較回路8 で励磁電流の基準電流値とモータコイル6 に流れる励磁電流値とを比較しているので、モータコイル6 に流れる励磁電流の検出値が、励磁電流の基準電流値に到達すれば、比較回路8 からの出力によってロジック部2 はこのことを検知することができる。
二相ステッピングモータ1 の回転速度が速度域(2) を超えたときには、モータコイル6 に流れる励磁電流の検出値と励磁電流の基準電流値とは、図6(c)、(d)に示すような関係を示すことになる。
図6(c)に示す場合では、速度域(3) では電気角90°を超えて励磁電流の基準電流値が下がりだしてから、更に第1電気角D1°を超えた後に、モータコイル6 に流れる励磁電流の検出値は、励磁電流の基準電流値に達することができる。
図6(d)に示す場合では、速度域(4) では電気角90°を超えて励磁電流の基準電流値が下がりだしてから、更に第1電気角D1°を超えた後で、電気角180 °の手前のところでモータコイル6 に流れる励磁電流の検出値は、励磁電流の基準電流値に達することができる。
尚、図6(d)では、本願発明による中高速域における励磁電流の基準電流値の制御状態を示している。そのため、電気角0 °、180 °、360 °を中心とした所定の電気角範囲における励磁電流の基準電流値をゼロにした状態を示している。そこで、本願発明による中高速域における励磁電流の基準電流値をゼロにする制御を行っていない状態、即ち、電気角0 °、180 °、360 °を中心とした所定の電気角範囲において励磁電流の基準電流値をゼロにしていない状態を図7に示している。
図7に示すように、電気角0 °、180 °、360 °の近傍では、励磁電流の基準電流値とは逆向きの励磁電流が生じている。電気角0 °、180 °、360 °の近傍では、励磁電流の基準電流値とは逆向きの励磁電流が生じていることに関しては、図6(d)の説明とともに、後述する。
このように、どの電気角において励磁電流の基準電流値にモータコイル6 を流れる励磁電流値が達するのかを、励磁周期毎にロジック部2 では把握することができる。そこで、本願発明では、上述したように、励磁電流の基準電流値にモータコイル6 を流れる励磁電流値が達したときの電気角が、第1電気角D1°に至るまでの電気角であるときには、二相ステッピングモータ1 は低速域にあるものとして、二相ステッピングモータ1 に対して低速域における制御を行っている。また、励磁電流の基準電流値にモータコイル6 を流れる励磁電流値が、第1電気角D1°までの電気角においては、励磁電流の基準電流値に達しなかったときには、二相ステッピングモータ1 は中高速域にあるものとして、二相ステッピングモータ1 に対して中高速域における制御を行っている。
次に、低速域における制御を図8、図9を用いて説明し、中高速域における制御を図5〜図7を用いて説明する。
最初に、二相ステッピングモータ1 が低速域にあるときについて、図8を用いた一般的な説明を行う。尚、本願発明において低速域とは、図5における速度域(1) 、(2) の状態を示している。
図8(a)は、二相ステッピングモータ1 をある機械角の位置にホールドしている時の状態を示している。図8(b)、(c)は、励磁周期毎に電流基準値が増加している状態を示しており、図8(d)は、励磁周期毎に電流基準値が減少している状態を示している。
図8(a)に示しているホールド状態では、励磁周期の間でモータコイル6 に励磁電流を流すために、図1に示すスイッチ素子4a、4dに対してオン・オフ制御を行っている。そして、図8(a)のホールド状態では、スイッチ素子4a、4dを共にオンして、モータコイル6 に流れる励磁電流値が励磁電流の基準電流値に至ったときには、スイッチ素子4a、4dをそれぞれオフしている。スイッチ素子4a、4dをそれぞれオフにすることによって、図3(b)に示したように、モータコイル6 による起電流Kaを高速減衰させている。
図8(b)、(c)のように、励磁周期毎に電流基準値が増加している状態では、励磁電流の基準電流値の増加に対して、モータコイル6 に流れる励磁電流の増加が追いつかなくなり、励磁周期中にモータコイル6 に流れる励磁電流を遮断しない状態が続く場合や、モータコイル6 に流れる励磁電流を遮断するときの励磁周期が不規則になったりする。
また、図8(d)のように、励磁周期毎に電流基準値が減少している状態では、励磁電流の基準電流値も減少するため、励磁周期中に必ずモータコイル6 に流れる励磁電流を遮断する状態が生じる。
このように、二相ステッピングモータ1 が、マイクロステップ駆動において静穏低振動効果を十分に発揮させることができる低速域状態にあるときでも、規則正しい励磁周期とは別に、モータコイル6 に流れる励磁電流を遮断することによって発生する周波数変動を起こしてしまうことになる。
即ち、励磁電流の基準電流値が増加する位相と励磁電流の基準電流値が減少する位相とにおいて、モータコイル6 に対するスイッチング周波数が、励磁周波数とは異なってしまうことになる。言い換えると、スイッチ素子4a、4dをオン・オフすることによって生じるスイッチング周波数が、一定の周波数とはならずに異なる周波数となってしまう。
そして、励磁電流の基準電流値が増加する位相では、励磁周波数の整数倍の周期がもたらす周波数も混じってしまい、これらの異なる周波数によってうなりや異音が可聴音となって発生してしまうことになる。
通常、スイッチング周波数は、可聴音にならない15kHz 以上としているが、上述したようなスイッチング抜けによって周波数むらが起こると、異音や騒音の原因になってしまう。この現象は、高速減衰、低速減衰、高速減衰と低速減衰とを混合させた減衰の何れの減衰方法でも起きてしまう。
そこで本願発明では、図9に示すように、励磁周期Tcyc中における最後の時間を、モータコイル6 に流す励磁電流を遮断する時間として設けている。そして、最後の時間(Tcyc−T1on)に達する前までの時間(T2on)内で、モータコイル6 に流れる励磁電流のピーク値が励磁電流の基準電流値に達したときには、励磁電流のピーク値が励磁電流の基準電流値に達したときから高速減衰(図では、ファストディケイとして記載している。)を行っている。
また、最後の時間に達するまでの時間(T1on)内に、モータコイル6 に流れる励磁電流のピーク値が励磁電流の基準電流値に達しなかったときには、最後の時間(Tcyc−T1on)では、励磁電流のピーク値が励磁電流の基準電流値に達していなくても強制的に低速減衰(図では、スローディケイとして記載している。)を行っている。尚、Tcyc>T1on>T2onの関係となっている。
このように二相ステッピングモータ1 が低速域にあるときには、励磁電流値が励磁電流の基準電流値に達しない場合があっても、励磁周期の最後に高速減衰又は低速減衰を行わせることができる。そして、スイッチング周期を一定にすることができ、スイッチング周波数の変動による騒音をなくすことができる。
また、最後の時間(Tcyc−T1on)において強制的に低速減衰を行わせる制御を行うことによって、低速減衰ではスイッチ素子4dをオフする時に起電流の立ち下がりが遅いということを利用できる。即ち、高速減衰による起電流の立ち下がりが原因となる出力トルクの低下を、低速減衰を行うことによって防ぐことができる。
このように、励磁電流の基準電流値とモータコイル6 に流れる励磁電流値との間で位相のズレが生じない低速域、即ち、マイクロステップ駆動による滑らかさと静穏性の効果が発揮することができる領域では、本願発明における上述した低速域での制御が有効に働かせることができる。尚、本願発明における低速域とは、図5で示した速度域(1) 、(2) である。
最後の時間(Tcyc−T1on)としては、各種の実験等によって最適な時間を求めることができ、図1に示すプリドライバ3 とスイッチ素子4a〜4d、ダイオード5a〜5dとが回路における遅れやこれらの素子における遅れを含んでいても確実にスイッチ素子4a〜4dをオフできる時間として設定しておくことができる。最後の時間として、20μsecondの励磁周期では、例えば、励磁周期最後の1 μsecondの時間、即ち、例えば、励磁周期の5 %の期間を最後の時間として設定しておくことができる。最後の時間を長く設定すると、出力トルクを低下させてしまう原因にもなってしまうことになる。
次に、中高速域における制御を図5〜図7を用いて説明する。
図5、図6における説明は、上述してあるので、以下では図6(c)、(d)の説明を中心に行う。
図6(c)に示す場合では、速度域(3) では電気角90°を超えて励磁電流の基準電流値が下がりだしてから、更に第1電気角D1°を超えて、第2電気角D2°の手前のところでモータコイル6 に流れる励磁電流の検出値は、励磁電流の基準電流値に達することができる。例えば、第2電気角D2°を電気角135 °として設定しておくことができる。
図6(d)に示す場合では、速度域(4) では電気角90°を超えて励磁電流の基準電流値が下がりだしてから、更に第1電気角D1°及び第2電気角D2°を超えて、電気角180 °の手前のところでモータコイル6 に流れる励磁電流の検出値は、励磁電流の基準電流値に達することができる。
そして、図7に示すように、電気角0 °、180 °、360 °の近傍では、励磁電流の基準電流値とは逆向きの励磁電流が生じており、モータコイル6 に流れる励磁電流のピーク値に対して、逆向きの励磁電流の大きさの割合が大きくなっている。
そこで、本願発明では、図6(d)に細線で示した励磁電流の基準電流値を、電気角0 °、180 °、360 °を中心とした電気角θ1 の範囲では、ゼロに設定している。
尚、励磁電流の基準電流値をゼロに設定しておく電気角θ1 として、電気角0 °、180 °、360 °を中心とした前後において同じ大きさの電気角範囲としているが、電気角0 °、180 °、360 °を中心とした前後における範囲の大きさを異ならせて設定しておくこともできる。
このように、電気角0 °、180 °、360 °を中心とした電気角θ1 の電気角範囲内において、励磁電流の基準電流値をゼロに設定することで、この電気角θ1 の電気角範囲内では、励磁電流の基準電流値における正負の符号とモータコイル6 に流れる励磁電流値の正負の符号とは逆符号にならない。これによって、励磁電流の基準電流値の符号とモータコイル6 に流れる励磁電流値の符号とが逆符号になることで生じる振動を防止できる。
電気角θ1 の値としては、適宜実験等によって最適な電気角を求めることができ、例えば、二相分解能系列である二相ステッピングモータの基本ステップ角度の1/1 、1/2 、1/4 、1/8 、1/16、1/32、1/64 のときには、θ1 =11.25 °として設定しておくことができる。また、五相分解能系列である二相ステッピングモータの基本ステップ角度の1/2.5
、1/5 、1/10、1/20、1/25、1/50、1/100 のときは、θ1 =10.8°として設定しておくことができる。
図10は、二相ステッピングモータの出力トルクと二相ステッピングモータの回転速度との関係を、太線で示している本願発明による中高速域での制御を行った場合と、細線で示している本願発明による中高速域での制御を行わなかった場合とを示している。尚、図10は、横軸が片対数のグラフとなっており、横軸に回転数(1/sec 即ち、rps )、縦軸に出力トルク(N ・m )を示している。
図10から分かるとおり、細線で示すように中高速域での制御を行わなかった場合には、二相ステッピングモータの出力トルクは急激に低下し、ゼロトルクにまで減少してしまう。そして、励磁電流の基準電流値の符号とモータコイル6 に流れる励磁電流値の符号とが逆符号となることによって発生した振動の影響で、位相ズレを起こして脱調を生じさせてしまう。この状態でも、二相ステッピングモータには基準電流が供給されているが、二相ステッピングモータでは慣性の影響が大きくなっている。そのため、供給された基準電流によってではなく、慣性の影響によって二相ステッピングモータは回転を続けることになる。
そして、基準電流の位相とモータコイル6 に流れる励磁電流の位相との位相ズレが更に大きくなって、一周期遅れた状態で両方の周期が合ってしまう状態が発生する。この状態では、二相ステッピングモータの出力トルクとしては、ゼロの状態から立ち上がっていき、途中から一定の出力トルクを出すことになる。しかし、出力トルクが立ち上がっても、大きな出力トルクを出すまでには立ち上がることはない。
これに対して、太線で示している本願発明による中高速域での制御を行った場合では、励磁電流の基準電流値の位相とモータコイル6 に流れる励磁電流値の位相とが位相ズレを生じることなく、二相ステッピングモータの回転制御を継続させていくことができる。しかも、出力トルクをゼロにすることなく出力トルクを出し続けていくことができる。
また、図11、12には、二相ステッピングモータの起動を開始してから、二相ステッピングモータの回転数の変化状態について示している。そして、横軸は、二相ステッピングモータの起動を開始してからの経過時間(ms)、縦軸は、回転数(1/s 、即ち、rps )を示している。
図11には、本願発明の低速域での制御及び中高速域での制御を行った場合を示しており、図12には、本願発明の制御を行わなかった場合を示している。両図とも、二相ステッピングモータの回転数が、初速度0.1rps(6rpm)から25rps (1500rpm )回転まで上昇するように、直線加速を行っている。尚、加速レートは50msec/1rps としている。
図11に示すように、本願発明の制御を行うことにより、25rps (1500rpm )回転までほぼ直線状に上昇させることができ、しかも途中の速度を増速させている状態においても振動(回転むら)は少なくなっている。尚、振動は速度むらとしてあらわれており、まったく振動がない場合には、細い線のように示されることになる。
そして、25rps (1500rpm )回転まで回転数を上昇させても、振動(回転むら)は少なく安定した状態で回転を継続させておくことができる。二相ステッピングモータの起動を開始してから略2300msを経過した時点で、二相ステッピングモータの回転を初速度0.1rps(6rpm)まで減速させて停止させている。尚、減速レートは、4msec /1rpsとしている。
図12に示すように、本願発明の制御を用いなくても25rps (1500rpm )回転までほぼ
直線状に上昇させていくことは可能である。しかし、速度が15rps (900rpm)を過ぎた当たりから振動(回転むら)は大きくなってしまう。そして、25rps (1500rpm )回転まで回転数を上昇させると、振動(回転むら)は更に大きくなり、二相ステッピングモータの起動を開始してから略1500msを経過した時点において、即ち、25rps (1500rpm )回転まで回転数が上昇したと思った瞬間に脱調を起こしてしまう。脱調を起こした後においては、二相ステッピングモータの回転数は、ゼロ回転数を中心として正回転と逆回転とを繰り返して振動を起こしてしまう。
また、図12に示されている、振動が発生する様子から予測できるのは、最高速度が13rps (780rpm)までならば脱調せずに回転させることはできそうである。しかし、それ以上の回転速度において一定速回転にすると、振動が拡大して脱調してしまう。このことから、回転速度を上昇させることはできなくなる。つまり、振動がひどくなる高速域を使うことが出来ないため、最高速度を上げられずに、その結果、二相ステッピングモータを用いた装置における一連の動作(移動)に時間がかかってしまうことになる。そして、二相ステッピングモータを用いた装置の性能を著しく低下させることになる。
このように、本願発明では、モータコイル6 に流れる励磁電流値が励磁電流の基準電流値に一致したときの電気角によって、二相ステッピングモータが低速域にあるのか中高速域にあるのかの判定を行うことができる。そして、二相ステッピングモータが低速域にあるときには、スイッチング周波数の変動による騒音を防止することができ、二相ステッピングモータが中高速域にあるときには、出力トルクがゼロとなってしまうのを防止するとともに、励磁電流の基準電流値に基づいた駆動制御を行うことができる。そして、高速域における回転を安定した状態で継続させておくことができ、しかも、脱調が起きるのを防止しておくことができる。