本発明者らは、光電変換素子の光電変換効率を改善するため種々検討を行った。この検討において、金属微粒子の局在プラズモンに着目し、局在プラズモンを発生する金属微粒子の表面を無機酸化物半導体で被覆した電子輸送層を有する半導体電極を使用したときに、光電変換素子の光電変換効率が大きく改善されることを究明した。
即ち、金属微粒子(ここで「金属微粒子」とは、金属原子が互いに凝集し、ナノメートルサイズの大きさまで成長した粒子を意味する)においては、プラズモンが表面に局在化するため(局在プラズモンと呼ばれる。)、このプラズモンは、可視から近赤外波長領域の光電場とのカップリング効率に非常に優れているといった特徴を有している。ここでプラズモンとは、金属中で集団的に振動する自由電子のことで、金属微粒子表面においては光を照射すると光の吸収が起こり、光がプラズモンに変換され、従って金属表面という極限られた空間に光エネルギーが閉じ込められることが知られている。そのために、光電変換素子の光吸収特性を更に改善し、高効率化を期待することができる。
そして、この金属微粒子表面を酸化チタン等の無機酸化物半導体で被覆したときに、前述のプラズモンの発生している金属微粒子から光エネルギーを効率良く無機酸化物半導体に伝達して無機酸化物半導体で電気エネルギーに変換可能となる。その結果、光電変換素子の光吸収特性が更に改善されて、高効率化を可能とする。しかも、金属微粒子表面を無機酸化物半導体で被覆するために、金属微粒子のヨウ素系電解溶液による溶解を抑制して長期の使用に耐えることが可能となることを究明して本発明を完成させるに至った。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明による一実施形態に係る光電変換素子の概略構成を示す断面図である。本実施形態に係る光電変換素子は、透明な支持体1aに支持された透明な電子集電電極2aと、この電子集電電極2a上に積層された半導体層3を有している。そして、半導体層3は、無機酸化物半導体を有する緻密構造からなる第1電子輸送層3aと、この第1電子輸送層3a上に後述する金微粒子表面に無機酸化物半導体を被着した粒子6の表面に光増感化合物5を吸着した多孔質状の第2電子輸送層3bとを有して、支持体1a、第1電子集電電極2aと共に、半導体電極4を構成している。さらに、光電変換素子は、第2電子輸送層3b上に積層された電解質層7及び透明な支持体1b上に形成され第2電子輸送層3bと電解質層7を介して対向する導電性の対向電極2bを備えている。そして、矢印A方向から光が照射されたときに電子集電電極2a及び対向電極2bから引き出されたリード線8a及び8b間に起電力を生じるようになっている。
本発明に用いられる電子集電電極2aとしては、可視光に対して透明な導電性物質であれば特に限定されるものではなく、通常の光電変換素子、あるいは液晶パネル等に用いられる公知のものを使用できる。例えば、インジウム・スズ酸化物(以下、ITOと称す)、フッ素ドープ酸化スズ(以下、FTOと称す)、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、特にFTOが好ましい。電子集電電極2aの厚さは5nm〜100μmが好ましく、50nm〜10μmが更に好ましい。また電子集電電極2aは、一定の剛性を維持するため、可視光に透明な材質からなる支持体1a上に設けることが好ましく、例えば、ガラス、透明プラスチック板、透明プラスチック膜、無機物透明結晶体などが用いられる。
電子集電電極2aと支持体1aが一体となっている公知のものを用いることもでき、例えば、FTOコートガラス、ITOコートガラス、酸化亜鉛:アルミニウムコートガラス、FTOコート透明プラスチック膜、ITOコート透明プラスチック膜等が挙げられる。また、酸化スズや酸化インジウムに原子価の異なる陽イオン若しくは陰イオンをドープした透明電極、メッシュ状、ストライプ状など光が透過できる構造にした金属電極をガラス基板等の基板上に設けたものでもよい。これらは単独あるいは2種以上の混合、または積層したものでも構わない。
また基板の抵抗を下げる目的で、金属リード線8a、8b等を用いてもよい。金属リード線8a、8bの材質はアルミニウム、銅、銀、金、白金、ニッケル等の金属が挙げられる。金属リード線8a、8bは、基板に蒸着、スパッタリング、圧着等で設置し、その上にITOやFTOを設けても構わない。
本実施形態に係る光電変換素子は、上記の電子集電電極2a上に半導体層3を積層して半導体電極4を形成し、半導体電極4の半導体層3と対峙して対向電極2bを設け、これら半導体電極4と対向電極2bとの間に電解質層7を設けて構成されている。
半導体層3は、上記のように、電子集電電極2a上に、無機酸化物半導体の緻密な第1電子輸送層3aを形成し、更にその上に多孔質状の第2電子輸送層3bを形成する積層構造で構成されている。ここでいう「緻密」とは、第2電子輸送層3b中の無機酸化物半導体の充填密度より高密度で無機酸化物半導体が充填されていることを意味する。
この緻密な第1電子輸送層3aは、電子集電電極2aと電解質層7との電子的コンタクトを防ぐ目的で形成するものである。従って、電子集電電極2aと電解質層7が物理的に接触しなければ、ピンホールやクラック等が形成されていても構わないし、また、この緻密な第1電子輸送層3aの形成は省略することもできる。また、この緻密な第1電子輸送層3aの膜厚に制限はないが、10nm〜1μmが好ましく、20nm〜700nmがより好ましい。
緻密な第1電子輸送層3aは、特に制限は無いが、無機酸化物半導体をスパッタリング等の真空中で薄膜を形成することによって形成することができる。
緻密な第1電子輸送層3a上に形成する多孔質状の第2電子輸送層3bは、単層であっても多層であってもよい。多層の場合、粒径の異なる無機酸化物半導体微粒子の分散液を多層塗布することも、種類の異なる半導体や、樹脂、添加剤の組成が異なる塗布層を多層塗布することもできる。一度の塗布で膜厚が不足する場合には多層塗布は有効な手段である。一般的に、第2電子輸送層3bの膜厚が増大するほど単位投影面積当たりの担持される光増感化合物量も増えるため光の捕獲率が高くなるが、注入された電子の拡散距離も増えるため電荷の再結合によるロスも大きくなってしまう。従って、第2電子輸送層3bの膜厚は100nm〜100μmが好ましく、500nm〜50μmがより好ましい。また、無機酸化物半導体としては、後述する無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子によって形成されたものを用いる。
第2電子輸送層3bの作製方法には、特に制限は無く、スパッタリング等の真空中で薄膜を形成する方法や湿式製膜法が挙げられる。製造コスト等を考慮した場合、特に湿式製膜法が好ましく、後述する無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子の粉末あるいはゾルを分散したペーストを調製し、第1電子輸送層3a上に塗布する方法が好ましい。この湿式製膜法を用いた場合、塗布方法は特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、また、湿式印刷方法として、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等様々な方法を用いることができる。
無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子を機械的粉砕、あるいはミルを使用して分散液を作製する場合、少なくとも無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子単独、あるいは当該金属微粒子と樹脂の混合物を水あるいは有機溶剤に分散して形成される。この時に使用される樹脂としては、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等によるビニル化合物の重合体や共重合体、シリコン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリエステル樹脂、セルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子を分散する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、あるいはイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、あるいはメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ギ酸エチル、酢酸エチル、あるいは酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、あるいはジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、あるいはN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、ヨウ化メチル、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、あるいは1−クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、1,5−ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、あるいはクメン等の炭化水素系溶媒を挙げることができる。これらは単独、あるいは2種以上の混合溶媒として用いることができる。
無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子の分散液は、粒子の再凝集を防ぐため、塩酸、硝酸、酢酸等の酸、トリトンX−100等の界面活性剤、アセチルアセトン、エチレンジアミン等のキレート化剤等を添加してもよい。また、製膜性を向上させる目的で増粘剤を添加することも有効な手段である。この時加える増粘剤としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の高分子、エチルセルロース等が挙げられる。
本発明による半導体電極4は、無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子を電子集電電極2a上に塗布、乾燥しただけで使用しても構わないが、さらに粒子間を電子的にコンタクトさせ、膜強度の向上や基板との密着性を向上させるための手段として焼成、マイクロ波照射、電子線照射、レーザー光照射、あるいはプレス処理を行っても構わない。これらの処理は単独、あるいは二種類以上組み合わせて行ってもよい。焼成する場合、焼成温度の範囲に特に制限は無いが、温度を上げ過ぎると基板の抵抗が高くなったり、溶融することもあるため、30〜700℃が好ましく、100〜600℃がより好ましい。また、焼成時間にも特に制限は無いが、10分〜10時間が好ましい。焼成後、無機酸化物半導体微粒子の表面積の増大や、光増感化合物から無機酸化物半導体微粒子への電子注入効率を高める目的で、例えば四塩化チタンの水溶液や有機溶剤との混合溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行っても良い。マイクロ波照射は、第2電子輸送層3b形成側から照射しても、裏側から照射しても構わない。照射時間には特に制限が無いが、1時間以内で行うことが好ましい。プレス処理は、100kg/cm2以上が好ましく、1000kg/cm2が更に好ましい。プレスする時間は特に制限が無いが、1時間以内で行うことが好ましい。また、プレス処理時に熱を加えても構わない。
直径が数十nmの無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子を焼結等によって積層した膜は、多孔質状態を形成する。このナノ多孔構造は、非常に高い表面積を持ち、その表面積はラフネスファクターを用いて表すことが出来る。このラフネスファクター(表面粗さ係数)は、基板に塗布した無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子の面積に対する多孔質内部の実面積を表す数値である。従って、ラフネスファクターは大きいほど好ましいが、第2電子輸送層3bの膜厚との関係もあり、本発明においては20以上が好ましい。また、第2電子輸送層3bのインピーダンスを低減させる目的で導電助剤を添加しても良い。
本発明の光電変換素子においては、半導体層3の第2電子輸送層3bと対向電極2bとの間に電解質溶液等の電解質層7を介在させるものであり、その電解質溶液としては、酸化還元対を有機溶媒に溶解した電解質溶液、酸化還元対を有機溶媒に溶解した液体をポリマーマトリックスに含浸したゲル電解質溶液、酸化還元対を含有するイオン液体を用いることができる。
本発明で使用される電解質溶液は、電解質、溶媒、及び添加物から構成される。電解質としてはヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化カルシウム等の金属ヨウ化物−ヨウ素の組み合わせ、テトラアルキルアンモニウムヨ−ダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物のヨウ素塩−ヨウ素の組み合わせ、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウム、臭化カルシウム等の金属臭化物−臭素の組み合わせ、テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等の4級アンモニウム化合物の臭素塩−臭素の組み合わせ、フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩、フェロセン−フェリシニウムイオン等の金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィド等のイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノン−キノン等を挙げることができ、これらの電解質は単独であっても2種以上の混合であっても構わない。また、電解質としてイオン液体を用いた場合、特に溶媒を用いなくてもよい。
電解液における電解質濃度は、0.05〜20Mが好ましく、0.1〜15Mが更に好ましい。電解液に用いる溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等のアルコール系溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができ、特にニトリル系溶媒が導電性の点から好ましい。また、t−ブチルピリジン、2−ピコリン、2,6−ルチジン、グアニジン等の塩基性化合物を電解液に併用することも可能である。
本発明においては、電解質はポリマー添加、オイルゲル化剤添加、多官能モノマー類を含む重合、ポリマーの架橋反応等の手法によりゲル化させることもできる。ポリマー添加によりゲル化させる場合の好ましいポリマーとしては、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン等を挙げることができる。オイルゲル化剤添加によりゲル化させる場合の好ましいゲル化剤としては、ジベンジルデン−D−ソルビトール、コレステロール誘導体、アミノ酸誘導体、トランス−(1R,2R)−1,2−シクロヘキサンジアミンのアルキルアミド誘導体、アルキル尿素誘導体、N−オクチル−D−グルコンアミドベンゾエート、双頭型アミノ酸誘導体、4級アンモニウム誘導体等を挙げることができる。
多官能モノマーによって重合する場合、好ましいモノマーとしてはジビニルベンゼン、エチレングルコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等を挙げることができる。更に、アクリルアミド、メチルアクリレート等のアクリル酸やα−アルキルアクリル酸から誘導されるエステル類やアミド類、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジエチル等のマレイン酸やフマル酸から誘導されるエステル類、ブタジエン、シクロペンタジエン等のジエン類、スチレン、p−クロロスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等の芳香族ビニル化合物、ビニルエステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、含窒素複素環を有するビニル化合物、4級アンモニウム塩を有するビニル化合物、N−ビニルホルムアミド、ビニルスルホン酸、ビニリデンフルオライド、ビニルアルキルエーテル類、N−フェニルマレイミド等の単官能モノマーを含有しても構わない。
上述のモノマーは、ラジカル重合によって重合することができる。本発明で使用できるゲル電解質用モノマーは、加熱、紫外線などの光、電子線あるいは電気化学的な手法によってラジカル重合することができる。重合が加熱によって引き起こされる場合に使用される重合開始剤は、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物系開始剤等を挙げることができる。
ポリマーの架橋反応により電解質をゲル化させる場合、架橋反応に必要な反応性基を含有するポリマー及び架橋剤を併用することが望ましい。架橋可能な反応性基に好ましい例としては、ピリジン、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、トリアゾール、モルフォリン、ピペリジン、ピペラジン等の含窒素複素環を挙げることができ、好ましい架橋剤は、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、スルホン酸エステル、酸無水物、酸クロリド、イソシアネート等の窒素原子に対して求電子反応可能な2官能以上のものを挙げることができる。
対向電極2bは、通常前述の電子集電電極2aと同様のものを用いることができ、強度や密封性が十分に保たれるような構成であるならば支持体1bは必ずしも必要ではない。対向電極材料の具体例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム等の金属、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ等の炭素系化合物、ITO、FTO等の導電性金属酸化物、ポリチオフェン、ポリアニリン等の導電性高分子が挙げられる。対向電極層2bの膜厚には特に制限はなく、また単独あるいは2種以上の混合で用いても構わない。対向電極2bの塗設については、用いられる材料の種類や電解質層の種類により、適宜電解質層上に塗布、ラミネート、蒸着、CVD、貼り合わせ等の手法により形成可能である。
光電変換素子として動作するためには、電子集電電極2aと対向電極2bの少なくとも一方は実質的に透明でなければならない。本実施形態に係る光電変換素子においては、電子集電電極2a側が透明であり、太陽光を電子集電電極2a側から入射させる方法が好ましい。この場合、対向電電極2b側には光を反射させる材料を使用することが好ましく、金属、導電性酸化物を蒸着したガラス、プラスチック、あるいは金属薄膜が好ましい。また、太陽光の入射側に反射防止層を設けることも有効な手段である。
本発明の光電変換素子は太陽電池及び太陽電池を用いた電源装置に応用できる。応用例としては従来から太陽電池やそれを用いた電源装置を利用している機器類であれば、いずれのものでも可能である。例えば電子卓上計算機や腕時計用の太陽電池に用いても良いが、本発明の光電変換素子の特徴を活用する一例として、携帯電話、電子手帳、電子ペーパー等の電源装置が挙げられる。また充電式や乾電池式の電気器具の連続使用時間を長くするための補助電源として用いることもできる。
次に、本発明の特徴点である第2電子輸送層3bに使用される無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子について説明する。
本発明による半導体電極の第2電子輸送層3bおいて使用される無機酸化物半導体を被覆した金属微粒子は、局在プラズモン共鳴を起す金属微粒子が使用され、このような金属微粒子としては、金、銀、白金、銅、アルミニウム、パラジウムなどの貴金属類を挙げることができ、これらの中でも特に金、銀、白金が好ましく、単独、あるいは2種以上の混合で使用しても構わない。
局在プラズモンによる効率改善の効果を期待する場合、可視領域においては、局在プラズモンによる強い共鳴が得られる金属として特に金や銀が知られているが、使用波長の制御性(後述するが、金はナノロッドに形成可能である事が理由)、耐環境安定性に優れる事から特に金が好ましい。このようなナノメートルサイズの金属微粒子を用いる事で、使用波長の制御性に優れるばかりでなく、局在プラズモンに変換された光エネルギーをナノ粒子表面というごく微小な領域に蓄え、光電変換素子の光吸収効率の改善を期待する事ができる。
特に、ナノロッド形状等の形状異方性を持つ微粒子は、粒子のアスペクト比を調整する事で吸収波長(共鳴波長)を制御できる事が知られており、本発明で使用される金属微粒子として好適である。形状異方性をもつ微粒子の中でも、特に粒子サイズがナノメートルオーダー(具体的には1〜100nm、より好ましくは1〜50nm)のロッド(棒)状の微粒子(以下、ナノロッドと称す)は、
(1)アスペクト比の揃った直径20nm以下の微粒子が再現性良く得られる
(2)光の散乱損失を少なくすることができる
(3)単一ナノ粒子での局在表面プラズモン励起効果も期待できる
(4)アスペクト比(長軸/短軸の値)の制御で可視領域から近赤外領域までの任意の特定波長の吸収を選択できる
といった様々な利点を有することから好ましい。
このような金属微粒子を被覆する無機酸化物半導体としては、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、あるいはタンタルの酸化物、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等が好ましい。これらの中でも特に酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブが好ましく、単独、あるいは2種以上の混合で使用しても構わない。これらの無機酸化物半導体の結晶型は特に限定されるものではなく、単結晶でも多結晶でも、あるいは非晶質でも構わない。
また、無機酸化物半導体としての酸化チタンを金属微粒子に被覆する場合、アルコキシチタン等に代表されるチタネート系カップリング剤(チタンカップリング剤)を例示することができる。これらの材料は、通常、長鎖アルキル等で構成される疎水基の分子量を変化させたり、単に反応溶液中の濃度を変化させたりするだけで、金属表面における被覆率を変化させることができるといった利点を有している。
上記チタンカップリング剤は、一般にR1 nTi(OR2)4−nで表され、ここでR1及びR2は置換されていてもよい炭化水素基、nは0〜3の整数を表す。R1、R2としてはアルキル基及びアルケニル基が望ましく、R1とR2が同一であってもかまわない。炭化水素基R1、R2の炭素の数は2〜18のものが望ましい。
具体的には、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、アセチルアセトネートチタネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、アセチルトリプロピルチタネート、チタンオクタンジオレート、ラクテートチタネート、イソステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、エチルアセトアセチックエステルチタネート等を挙げることができ、これらは単独、あるいは2種以上の混合で使用しても構わない。これらの材料が本発明の酸化膜材料を限定するものではないが、中でも密着性の安定化を図るという観点からテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネートのいずれかを用いることが好ましい。
金属微粒子表面に被着された上記チタンカップリング剤は、加水分解、焼成を経て容易にチタン酸化物半導体に変化して、金属微粒子の表面を被覆する。その結果、前述のプラズモンの発生している金属微粒子から光エネルギーを効率良くチタン酸化物半導体に伝達してチタン酸化物半導体で電気エネルギーに変換可能となる。この場合に、先に記載したように金属微粒子表面に光を照射すると、光エネルギーが表面プラズモンに変換されることで、金属表面というごく限られた空間に光エネルギーが蓄えられ、金属表面と光が相互作用する領域が局所的に集束されると考えられている。そしてこの相互作用する領域は、金属表面から距離の3乗に逆比例して減少することも知られており、一般にその範囲は金属微粒子表面から約100nm以下の領域に限定されている。従ってプラズモンによる光吸収効率の改善を効果的に得るためには、光吸収能を有する光吸収増感剤と金属微粒子間の距離を金属微粒子表面から約100nm以下の領域に制御する必要があり、そのためには酸化物半導体微粒子の粒径を100nm以下にする必要があり、大きな批評面積を得るためにも粒径は50nm以下がより好ましい。
また、このようにして形成された金属微粒子に被着しているチタン酸化物半導体は、金属微粒子から脱落し易いために、チタン酸化物半導体と金属微粒子との間に高分子材料を存在させて、この高分子材料によってチタン産物半導体と金属微粒子を結着することが好ましい。
次に、無機酸化物半導体と前記金属微粒子の間に存在する高分子材料について説明すると、高分子材料を介して無機酸化物半導体で被覆することで、該無機酸化物半導体膜の安定性が飛躍的に改善される。この理由に関する詳細は不明であるが、おそらく、高分子材料を介さずに金属微粒子を無機酸化物半導体で被覆すると、金属微粒子上の無機酸化物半導体膜の被覆率が相対的に低くなり、無機酸化物半導体が剥がれ易い状態となるためと考えられる。また金属微粒子を無機酸化物半導体で直接被膜する事が困難な場合、予め金属微粒子に高分子を被膜しておくと無機酸化物半導体が被膜できるようになることに起因するものと考えられる。
現在、金属微粒子の作製方法においては気相法、液相法及び固相法を含めた多様な報告がなされているが、中でも水系溶媒中で還元試薬を用いた作製方法については、再現性に優れプロセスが容易(取扱い易い)である事から、広く標準的な合成方法として認知されている。例えば、このような簡便な方法で得た水系溶媒中の金属微粒子のまわりを水溶性の高分子材料で被膜しておくと、高分子材料の高分子鎖による金属微粒子への直接吸着、または−O−Ti−O−分子鎖などとの絡みあいによって、表面被膜を行うことが可能となる。
図2は、本発明による一実施形体に係る金属微粒子表面にチタニア等のチタン酸化物化合物と高分子材料の被着状態を示すイメージ図である。本発明で使用される無機酸化物半導体及び高分子材料で被覆された金属微粒子10においては、図2に示すように、高分子材料11は、高分子鎖が金属微粒子10の表面に直接被着したり、金属微粒子表面に被着している−O−Ti−O−分子鎖12との絡み合い等によって被着されて、チタン酸化物化合物を金属微粒子10の表面に良好に被覆しているものと予想される。
このような高分子材料としては、以下の高分子電解質(またはポリマー電解質:絶縁性ポリマーに電解質を練り込んだ高分子)と、高分子非電解質を挙げることができる。
(1)高分子電解質
水溶性のポリアニオンの例としては具体的に、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルリン酸などの酸性基を有する水溶性高分子が挙げられる。また水溶性のポリカチオンの例としては、平均分子量が1000以上、好ましくは、10,000〜100,000の第1級〜第4級アミノ基およびそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むポリカチオン化合物、より具体的にはポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン等のポリアルキレンポリアミン、変性ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエーテルアミン等を例示する事ができる。
(2)高分子非電解質
非電解質の水溶性高分子材料としては、これらに限定されるものではないが、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等のビニル系高分子、ポリエチレングリコール等のポリオキシエチレン系高分子、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体共重合系高分子等が例示することができる。
前記高分子材料による金属微粒子の被膜方法としては、スピンコート法、電解重合法、真空蒸着法、CVD法などが挙げられるが、これらの方法はいずれも分子配向制御が困難で、非常に単純な膜しか形成する事ができない。またLB(Langmuir−Blodgett)法は、単分子層の薄膜を形成できる他、相異なる導電性高分子溶液を用いる事で、分子レベルで制御された多層へテロ構造の薄膜を形成することも可能であるが、プロセス上の様々な制約や、使用可能な材料の制限、また更には膜の吸着原理が分子間力(van der Waals force)によるため膜強度が弱いといった問題を有している。
これに対し、電解質の高分子材料は、材料を分子レベルで制御でき、単層及び多層へテロ構造の両製膜が可能な交互吸着法を適用することができるため、本発明の高分子として特に好ましい。交互吸着法は、取扱い可能な物質の種類が豊富であり、大型な装置を用いる必要がないことから実用性に優れているといった特徴を有している。具体的には、前記金属微粒子を、前記ポリカチオンとポリアニオンの高分子電解質溶液に交互に浸すだけで、表面上に電解質ポリマーを自発的に吸着させ、また自己組織化させる事もでき、容易に被膜する事ができる。この場合、膜の吸着原理が静電気力(Coulomb’s force)によるため、膜強度の問題も改善され、また「ナノメートルオーダーの距離制御」にも有利な製法である。しかしながら高分子電解質は一般に、環境安定性に乏しいという欠点も有している。従って最終的には、最外層は高分子非電解質でコーティングされている事が好ましく、この場合、吸着原理は静電的なものではなく、両高分子鎖の絡み合いによる物理的な吸着となる。
また、このような多層の高分子被膜構造を形成する場合、高分子非電解質の中では特にポリビニルピロリドンが、多くの合成高分子材料と異なり水によく溶解し、また一方で種々の有機溶剤への溶解性、樹脂との相溶性、また成膜性及び接着性など、実用面において優れた特性を有すことから好ましい。
また、光電変換効率のさらなる向上のため、無機酸化物半導体上に光増感化合物を吸着させた方が好ましい。光増感化合物は使用される励起光により光励起される化合物であれば特に限定されないが、具体的には以下の化合物が挙げられる。特表平7−500630号公報、特開平10−233238号公報、特開2000−26487号公報、特開2000−323191号公報、特開2001−59062号公報等に記載の金属錯体化合物、特開平10−93118号公報、特開2002−164089号公報、特開2004−95450号公報等に記載のクマリン化合物、特開2004−95450号公報等に記載のポリエン化合物、特開2003−264010号公報、特開2004−63274号公報、特開2004−115636号公報、特開2004−200068号、特開2004−235052号公報、J.Am.Chem.Soc.12218、Vol.126(2004)、Chem.Commun.3036(2003)等に記載のインドリン型化合物、特開平11−86916号公報、特開平11−214730号公報、特開2000−106224号公報、特開2001−76773号公報、特開2003−7359号公報等に記載のシアニン色素、特開平11−214731号公報、特開平11−238905号公報、特開2001−52766号公報、特開2001−76775号公報、特開2003−7360号等に記載メロシアニン色素、特開平10−92477号公報、特開平11−273754号公報、特開平11−273755号公報、特開2003−31273号等に記載の9−アリールキサンテン化合物、特開平10−93118号公報、特開2003−31273号等に記載のトリアリールメタン化合物、特開平9−199744号公報、特開平10−233238号公報、特開平11−204821号公報、特開平11−265738号公報等に記載のフタロシアニン化合物、ポルフィリン化合物等を挙げることができる。特にこの中で、金属錯体化合物、クマリン化合物、ポリエン化合物、インドリン化合物を用いることが好ましい。
無機酸化物半導体上に光増感化合物を吸着させる方法としては、光増感化合物溶液中あるいは分散液中に無機酸化物半導体微粒子を含有する半導体電極4を浸漬する方法、溶液あるいは分散液を第2電子輸送層3bに塗布して吸着させる方法を用いることができる。前者の場合、浸漬法、ディップ法、ローラ法、エアーナイフ法等を用いることができ、後者の場合は、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法等を用いることができる。
光増感化合物を吸着させる際、縮合剤を併用してもよい。縮合剤は、酸化物半導体表面に物理的あるいは化学的に光増感化合物と電子輸送化合物を結合すると思われる触媒的作用をするもの、または化学量論的に作用し、化学平衡を有利に移動させるものの何れであってもよい。更に、縮合助剤としてチオールやヒドロキシ化合物を添加してもよい。
光増感化合物を溶解、あるいは分散する溶媒は、水、メタノール、エタノール、あるいはイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、あるいはメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ギ酸エチル、酢酸エチル、あるいは酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、あるいはジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、あるいはN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、ヨウ化メチル、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、あるいは1−クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、1,5−ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、あるいはクメン等の炭化水素系溶媒を挙げることができ、これらは単独、あるいは2種以上の混合として用いることができる。
また、光増感化合物は、その種類によっては化合物間の凝集状態を抑制した方がより効果的に働くものが存在するため、凝集解離剤を併用しても構わない。凝集解離剤としてはコール酸、ケノデオキシコール酸などのステロイド化合物、長鎖アルキルカルボン酸または長鎖アルキルホスホン酸が好ましく、用いる色素(光増感化合物)に対して適宜選ばれる。これら凝集解離剤の添加量は、色素(光増感化合物)1質量部に対して0.01〜500質量部が好ましく、0.1〜100質量部がより好ましい。
これらを用い、光増感化合物、あるいは光増感化合物と凝集解離剤を吸着する際の温度としては、−50℃以上、200℃以下が好ましい。また、この吸着は静置しても攪拌しながら行っても構わない。攪拌する場合の方法としては、スターラー、ボールミル、ペイントコンディショナー、サンドミル、アトライター、ディスパーザー、あるいは超音波分散等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。吸着に要する時間は、5秒以上、1000時間以下が好ましく、10秒以上、500時間以下がより好ましく、1分以上、150時間が更に好ましい。また、吸着は暗所で行うことが好ましい。
次に、本発明を実施例に基づいて説明する。
以下、本発明の混合物の具体的なサンプルを作製し、その詳細を説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によってなんら制限されるものではない。
〔実施例1〕
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)の0.18モル水溶液500mlに、撹拌しながらシクロヘキサノン3.0ml、ジイソブチルケトン1.5ml、塩化金酸の0.024モル水溶液39.0ml、硝酸銀の0.01モル水溶液15.0mlを順次加え、更に撹拌しながらアスコルビン酸の0.1モル水溶液を塩化金酸の色が消失するまで滴下した。その後、上記溶液を低圧水銀灯下で紫外線照射しながら更にアスコルビン酸の0.1モル水溶液7.0mlを滴下し、CTABで保護された水系溶媒分散型のロッド状金微粒子溶液を得た。その後、遠心分離(7000G、60min)を複数回繰り返し、過剰のCTABを取り除いた。
このロッド状金微粒子溶液を、ポリカチオンとしてポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(以下PSSという、分子量70,000)、及びポリアニオンとしてポリ(アリルアミン塩酸塩)(以下PAHという、分子量15,000)をそれぞれ2.0g/l(リットル)含むNaClの6.0ミリモル水溶液中に滴下した後、過剰なPSSとPAHを遠心分離(7000G、60min)により除去した。次いで、ポリマー膜の安定化のため、上記PSSとPAHを除去した溶液を、ポリ(ビニルピロリドン)(以下PVPという、分子量35,000)の4.0g/l水溶液中に滴下した後、上記と同様にして過剰なPVPを遠心分離により除去し、最終的にPSS、PAH、PVPの三種類の水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を得た。
次いで、この沈殿物を体積比1:5の割合で2−プロパノールに分散させた。この分散液2.5mlを、2−プロパノールを溶媒とするチタニウムテトラ-n-ブトキシド(モノマー)の0.97vol%溶液8.0mlと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mlからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応チタニウムテトラ−n−ブトキシドを除去し、ロッド状酸化チタン被覆金微粒子を得た。
このロッド状酸化チタン被覆金微粒子のTEM画像を図3に示す。図3中、符号10はロッド状金微粒子、符号13は、酸化チタンと高分子材料が混在した被覆層である。このロッド状酸化チタン被覆金微粒子に、ヨウ素(0.2M)を溶解した3−メトキシアセトニトリルを加えても、金微粒子の消色は観測されなかった。
このようにして得たロッド状酸化チタン被覆金微粒子0.1gをエタノール0.5ml、エチルセルロール0.03gと共に、乳鉢上で5分間磨り潰してペーストを作製した。このペーストを、FTO基板上に塗布し、100℃で乾燥して多孔質状の電子輸送層を形成した。
上記電極を、ルテニウム錯体として0.5mMに調整したN719色素[シス−ビス(イソチオシアナート)ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)−ビス−テトラ−n−ブチルアンモニウム]のアセトニトリル/t−ブタノール(体積比1:1)混合溶液中に室温で2日間、暗所にて静置し光増感化合物を吸着させた。
次に、FTO基板上にスパッタリングで作製した白金電極を、先の電極と対峙して配置し、電極間に電解液としてヨウ化リチウム(0.1M)、ヨウ素(0.05M)、ヨウ化1,2−ジメチル−3−n−プロピルイミダゾリウム(0.6M)、4−t−ブチルピリジン(0.5M)を溶解した3−メトキシアセトニトリル溶液を注入して光電変換素子を作製した。
この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電変換効率は、開放電圧=0.71V、短絡電流密度9.6mA/cm2、形状因子=0.69、変換効率=4.70%という優れた特性を示した。
〔実施例2〕
実施例1と同じ手順に従って、PSS、PAH、PVPの三種類の水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物の2−プロパノール分散液(体積比1:5の割合)を得た。
次いで、この分散液2.5mlを、2−プロパノールを溶媒とするチタニウムテトラ-n-ブトキシド(モノマー)の0.97vol%溶液0.1mlと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mlからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応チタニウムテトラ−n−ブトキシドを除去し、ロッド状酸化チタン被覆金微粒子を得た。
得られたロッド状酸化チタン被覆金微粒子を用い、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電変換効率は、開放電圧=0.75V、短絡電流密度11.6mA/cm2、形状因子=0.68、変換効率=5.92%という優れた特性を示した。
〔実施例3〕
実施例1と同じ手順に従って、PSS、PAH、PVPの三種類の水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物の2−プロパノール分散液(体積比1:5の割合)を得た。
次いで、この分散液2.5mlを、2−プロパノールを溶媒とするチタニウムテトラ−n−ブトキシド(モノマー)の0.97vol%溶液0.5mlと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mlからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応チタニウムテトラ−n−ブトキシドを除去し、ロッド状酸化チタン被覆金微粒子を得た。
得られたロッド状酸化チタン被覆金微粒子を用い、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電変換効率は、開放電圧=0.74V、短絡電流密度10.8mA/cm2、形状因子=0.68、変換効率=5.43%という優れた特性を示した。
〔実施例4〕
実施例1と同じ手順に従って、PSS、PAH、PVPの三種類の水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物の2−プロパノール分散液(体積比1:5の割合)を得た。
次いで、この分散液2.5mlを、2−プロパノールを溶媒とするチタニウムテトラ−n−ブトキシド(モノマー)の0.97vol%溶液2.5mlと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mlからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応チタニウムテトラ−n−ブトキシドを除去し、ロッド状酸化チタン被覆金微粒子を得た。
得られたロッド状酸化チタン被覆金微粒子を、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電変換効率は、開放電圧=0.72V、短絡電流密度10.2mA/cm2、形状因子=0.69、変換効率=5.07%という優れた特性を示した。
〔実施例5〕
実施例1と同じ手順に従って、PSS、PAH、PVPの三種類の水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物の2−プロパノール分散液(体積比1:5の割合)を得た。
次いで、この分散液2.5mlを、2−プロパノールを溶媒とするテトラプロピルチタネート(モノマー)の0.97vol%溶液0.5mlと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mlからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応チタニウムテトラ−n−ブトキシドを除去し、ロッド状酸化チタン被覆金微粒子を得た。
得られたロッド状酸化チタン被覆金微粒子を用い、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電変換効率は、開放電圧=0.74V、短絡電流密度10.7mA/cm2、形状因子=0.68、変換効率=5.38%という優れた特性を示した。
〔実施例6〕
実施例1と同じ手順に従って、PSS、PAH、PVPの三種類の水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物の2−プロパノール分散液(体積比1:5の割合)を得た。
次いで、この分散液2.5mlを、2−プロパノールを溶媒とするテトラプロピルチタネート(モノマー)の0.97vol%溶液2.5mlと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mlからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応チタニウムテトラ−n−ブトキシドを除去し、ロッド状酸化チタン被覆金微粒子を得た。
得られたロッド状酸化チタン被覆金微粒子を用い、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電変換効率は、開放電圧=0.73V、短絡電流密度10.1mA/cm2、形状因子=0.68、変換効率=5.01%という優れた特性を示した。
〔実施例7〕
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)の0.18モル水溶液500mlに、撹拌しながらシクロヘキサノン3.0ml、ジイソブチルケトン1.5ml、塩化金酸の0.024モル水溶液39.0ml、硝酸銀の0.01モル水溶液15.0mlを順次加え、更に撹拌しながらアスコルビン酸の0.1モル水溶液を塩化金酸の色が消失するまで滴下した。その後、上記溶液を低圧水銀灯下で紫外線照射しながら更にアスコルビン酸の0.1モル水溶液7.0mlを滴下し、CTABで保護された水系溶媒分散型のロッド状金微粒子溶液を得た。その後、遠心分離(7000G、60min)を複数回繰り返し、過剰のCTABを取り除いた。このロッド状金微粒子溶液を、ポリアニオンとしてポリビニルリン酸(以下PVPAという、分子量90,000)を2.0g/l含むNaClの6.0ミリモル水溶液中に滴下した後、過剰なPVPAを遠心分離(7000G、60min)により除去して、PVPA一種類の水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を得た。
次いで、この沈殿物を体積比1:5の割合で2−プロパノールに分散させた。この分散液2.5mlを、2−プロパノールを溶媒とするチタニウムテトラ-n-ブトキシド(モノマー)の0.97vol%溶液4.0mlと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mlからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応チタニウムテトラ−n−ブトキシドを除去し、ロッド状チタン酸化物被覆金微粒子を得た。
得られたロッド状酸化チタン被覆金微粒子を用い、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電変換効率は、開放電圧=0.72V、短絡電流密度10.1mA/cm2、形状因子=0.67、変換効率=4.87%という優れた特性を示した。
〔実施例8〕
塩化金酸四水和物0.1gを超純粋950mlに溶解し、加熱沸騰させた。この溶液を攪拌しながら1%クエン酸ナトリウム水溶液を加え、加熱還流後、室温まで放冷して球状金微粒子溶液を得た。この球状金微粒子溶液を、ポリカチオンとしてポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(以下PSSという、分子量70,000)、及びポリアニオンとしてポリ(アリルアミン塩酸塩)(以下PAHという、分子量15,000)をそれぞれ2.0g/l(リットル)含むNaClの6.0ミリモル水溶液中に滴下した後、過剰なPSSとPAHを遠心分離(7000G、60min)により除去した。次いで、ポリマー膜の安定化のため、上記PSSとPAHを除去した溶液を、ポリ(ビニルピロリドン)(以下PVPという、分子量35,000)の4.0g/l水溶液中に滴下した後、上記と同様にして過剰なPVPを遠心分離により除去し、最終的にPSS、PAH、PVPの三種類の水溶性ポリマーで被覆された球状金微粒子の沈殿物を得た。
次いで、この沈殿物を体積比1:5の割合で2−プロパノールに分散させた。この分散液2.5mlを、2−プロパノールを溶媒とするチタニウムテトラ-n-ブトキシド(モノマー)の0.97vol%溶液4.0mlと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mlからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応チタニウムテトラ−n−ブトキシドを除去し、球状酸化チタン被覆金微粒子を得た。
得られた球状酸化チタン被覆金微粒子を用い、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電変換効率は、開放電圧=0.72V、短絡電流密度10.3mA/cm2、形状因子=0.67、変換効率=4.67%という優れた特性を示した。
〔比較例1〕
水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を含有しない2−プロパノール2.5mlに、2−プロパノールを溶媒とするチタニウムテトラ−n−ブトキシド(モノマー)の0.97vol%溶液8.0mlと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mlからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応チタニウムテトラ−n−ブトキシドを除去し、酸化チタン微粒子を得た。
この酸化チタン微粒子を用い、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電変換効率は、開放電圧=0.71V、短絡電流密度7.4mA/cm2、形状因子=0.70、変換効率=3.68%と、実施例に比較して低い特性であった。これは、金微粒子からの表面プラズモン効果が得られないために特性が低下したものと考えられる。
〔比較例2〕
比較例1で得た酸化チタン微粒子に、球状金微粒子を10:1の重量比で混合し、実施例1と同様にして酸化チタンのペーストを作製した。このペーストにヨウ素(0.2M)を溶解した3−メトキシアセトニトリルを加えると、金微粒子の消色が観測されてしまった。
ヨウ素溶液を加える前のペーストを用いて、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。この光電変換素子の疑似太陽光照射下(AM1.5、100mW/cm2)における光電変換効率は、開放電圧=0.70V、短絡電流密度7.4mA/cm2、形状因子=0.69、変換効率=3.57%と、上記本発明による実施例に比較して低い特性であった。これは、金微粒子が電解液として用いたヨウ素溶液に溶解してしまったため、金微粒子からの表面プラズモン効果が得られないために特性が低下したものと考えられる。
以上から明らかなように、本発明の光電変換素子は、実施例1〜8で分かるように高い効率を示す。これは、無機酸化物半導体にて金微粒子を被覆することで、ヨウ素溶液に溶解することもなく、その結果、金微粒子からの表面プラズモン効果によって変換効率が増加したものと思われる。また、実施例8に示されるように金微粒子の形状が球形であっても高い変換効率を示すが、実施例1〜7の結果から明らかなように金微粒子の形状がナノロッド形状であることで、より高い変換効率が得られることがわかる。