従来、自動車の車輪(例えば、ディスクホイール)を車体(例えば、懸架装置)に対して回転自在に支持するための各種の軸受ユニットが知られている(特許文献1参照)。
一例として図2に示された軸受ユニットは、インボード側(車体側)に固定されて常時非回転状態に維持される外輪(静止輪)2と、外輪2の内側に対向して設けられ、且つアウトボード側(車輪側)に接続されて車輪と共に回転する内輪(回転輪)4と、外輪2と内輪4との間に複列(例えば、2列)で回転自在に組み込まれた複数の転動体6,8とを備えている。なお、軸受ユニットにおける外輪2と内輪4とは、当該軸受ユニットの中心線(回転軸:図示しない)を中心として相対回転可能に構成されている。
外輪2は中空円筒状を成し、内輪4の外周を覆うように配置されており、外輪2と内輪4との間には、軸受ユニット内部を外部から密封するためのシール部材(アウトボード側のリップシール10a、インボード側のパックシール10b)が設けられている。なお、リップシール10aは、外輪2の内周面2nのうち、アウトボード側内周面2naに固定され、内輪4のアウトボード側外周面4maに対して摺動自在に位置決めされている。一方、パックシール10bは、外輪2の内周面2nのうち、インボード側内周面2nbに固定され、後述するハブ12と共に内輪4を構成する内輪構成体16に対して摺動自在に位置決めされている。なお、図面では転動体6,8として玉を例示しているが、軸受ユニットの構成や種類に応じて、コロが適用される場合もある。
また、外輪2には、その外周面2mから外方に向って放射状に突出した固定フランジ2aが一体成形されており、固定フランジ2aの固定孔2bに固定用ボルト(図示しない)を挿入し、これをインボード側に締結することで、外輪2を図示しない懸架装置(ナックル)に固定することができる。また、内輪4には、例えば自動車のディスクホイール(図示しない)を支持しつつ共に回転する略円筒形状のハブ(スピンドル)12が設けられており、ハブ(スピンドル)12には、ディスクホイールが固定されるハブフランジ12aが突設されている。
ハブフランジ12aは、外輪2の外周面2mを越えて外方(ハブ12の半径方向外側)に向って放射状に延出しており、その延出縁付近には、周方向に沿って所定間隔で配置された複数のハブボルト14が設けられている。この場合、複数のハブボルト14をディスクホイールに形成されたボルト孔(図示しない)に差し込んでハブナット(図示しない)で締付けることにより、当該ディスクホイールをハブフランジ12aに対して位置決めして固定することができる。このとき、ハブ12のアウトボード側に突設されたパイロット部12dによって車輪の径方向の位置決めが成される。
また、ハブ(スピンドル)12には、当該ハブ12(内輪4)の外周面4mのうち、インボード側外周面4mbに、環状の内輪構成体16(ハブ12と共に内輪4を構成する回転輪)が嵌合(外嵌)されるようになっている。この場合、例えば外輪2と内輪4との間に各転動体6,8を保持器18で保持した状態で、内輪構成体16をインボード側外周面4nbに形成された段部12bまで嵌合(外嵌)した後、ハブ12のインボード側軸端部の加締め領域12cを塑性変形させて、当該加締め領域12cを内輪構成体16の周端部16sに沿って加締める(密着させる)ことで、当該内輪構成体16を回転輪4(ハブ12)に固定することができる。
このとき、軸受ユニットには所定の予圧が付与された状態となり、この状態において、各転動体6,8は、互いに所定の接触角を成して外輪2と内輪4の各軌道面(外輪軌道面2s、内輪軌道面4s)にそれぞれ接触して回転可能に組み込まれる。この場合、2つの接触点を結んだ作用線(図示しない)は、各軌道面2s,4sに直交し且つ各転動体6,8の中心を通り、上記した軸受ユニットの中心線(回転軸)上の1点(作用点)で交わる。これにより背面組合せ形(DB)軸受が構成される。
なお、このような構成において、自動車走行中に車輪に作用した力は、全てディスクホイールから軸受ユニットを通じて懸架装置に伝達されることになり、その際、軸受ユニットには、各種の荷重(ラジアル荷重、アキシアル荷重、モーメント荷重など)が作用する。しかし、軸受ユニットは、上述したような背面組合せ形(DB)軸受となっているため、各種の荷重に対して高い剛性が維持される。
ところで、上記した軸受ユニットは、複数の転動体6,8を、図3に示すような冠型保持器18の各ポケット18pに1つずつ保持した状態で外内輪2,4間に複列で組み込んだアンギュラタイプの複列玉軸受を構成している。なお、複列玉軸受は、通常の深溝玉軸受に比べて転動体の数が多く、また、転動体相互間の狭いスペース(空間)には、保持器18の柱部18aが介在されている。
このような軸受ユニットにおいて、その軸受内部(具体的には、外内輪2,4間で区画された軸受内部)に潤滑剤(例えば、グリース、油)を封入する場合、軸受組立後に(図2参照)、軸受内部に潤滑剤を封入することは困難である。そこで、従来から種々の潤滑剤封入技術が知られている。
一例として図4に示された潤滑剤封入技術では、アウトボード側の外輪軌道面2sに複数の転動体6を保持器18で保持しつつ組み付けた後、潤滑剤封入冶具20を、上記した軸受ユニットの回転軸方向に沿って外輪2の周端面2t(図面では、アウトボード側周端面)にセットした状態で、外輪2と保持器18との間の空間を狙って、潤滑剤封入冶具20に形成された潤滑剤吐出通路20aから潤滑剤を軸受内部に封入している。
しかしながら、外輪2と保持器18との間の空間は比較的狭く、また、当該空間には複数の転動体6が一部入り込んでいるため、潤滑剤吐出通路20aから吐出された潤滑剤が当該空間を通って各転動体6及び保持器18の表面全体に均一に(万遍無く)行き渡らない場合がある。この場合、軸受内部において、例えば当該空間に比較的多量の潤滑剤が偏在してしまう虞がある。
また、軸受内部に潤滑剤を封入した後、潤滑剤封入冶具20を外輪2から引き抜く際、例えば潤滑剤吐出通路20aの先端部分に潤滑剤が付着した場合、その付着量の程度によっては、軸受内部に実際に封入された潤滑剤量が、軸受内部に封入すべき規定量よりも少なくなってしまう場合がある。
更に、潤滑剤吐出通路20aの先端部分に潤滑剤が付着した状態で、続けて、他の軸受ユニットに対する潤滑剤の封入作業が行われた際、当該先端部分に付着している潤滑剤が他の軸受内部に混入した場合、その混入量の程度によっては、軸受内部に実際に封入された潤滑剤量が、軸受内部に封入すべき規定量よりも多くなってしまう場合がある。
このように、軸受内部で潤滑剤が偏在したり、或いは、軸受内部への潤滑剤の封入量が規定値よりも多い場合には、これが軸受外部に潤滑剤が漏洩する要因となり、また、軸受内部への潤滑剤の封入量が規定値よりも少ない場合には、これが軸受内部の潤滑不良の要因となる虞がある。
以下、本発明の一実施形態に係る潤滑剤封入冶具について、図1を参照して説明する。なお、本実施形態において、潤滑剤封入冶具22によって潤滑剤を封入する対象は、上記した軸受ユニット(図2)であるため、以下、当該軸受ユニットについての説明は省略する。この場合、潤滑剤封入冶具22は、軸受ユニットの回転軸を中心として相対回転可能に構成された一方の軌道輪(具体的には、外輪2)に複数の転動体6,8を冠型保持器18で保持しつつ組み付けた状態で、当該外輪2の周端面(アウトボード側周端面、インボード側周端面)に対して回転軸方向に沿ってセットして潤滑剤を封入することができる。
ここで、外輪2の周端面にセットする潤滑剤封入冶具22は、アウトボード側とインボード側において、互いに同様の構成を適用することができる。このため、以下では一例として、外輪2のアウトボード側周端面2tにセットする潤滑剤封入冶具22を想定し、当該潤滑剤封入冶具22によって潤滑剤を封入する場合について説明する。
図1(a),(b)に示すように、本実施形態の潤滑剤封入冶具22は、当該潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットする際、当該周端面2tに当接させることで、上記した軸受ユニットの回転軸に対する潤滑剤封入冶具22の中心位置合わせ(芯出し)を可能にする中空円筒状を成すガイド筒24と、ガイド筒24の内側に当該ガイド筒24と同心円状に設けられ、その先端側がガイド筒24から一部突出した位置関係に保持可能な円筒状を成す内筒26とを備えている。
ガイド筒24には、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットした状態において、当該外輪2の周端面2tに当接する環状の当接面24tと、当接面24tから連続して形成され、当該周端面2tから離間して位置付けられる環状の非当接面24aと、非当接面24aから連続して形成され、当該外輪2の内周面(アウトボード側内周面2na)に係合する環状の外周面24bとが設けられている。この場合、非当接面24aは、当接面24tと外周面24bとの間に周方向に沿って連続して構成されている。
本実施形態では一例として、ガイド筒24の非当接面24aは、その一部分が当接面24tと同一平面上(具体的には、回転軸を直交する方向に沿って延在する平面上)に沿って周方向に連続すると共に、残りの部分がガイド筒24の外周面24bと同一平面上(具体的には、回転軸と平行する方向沿って延在する円筒面上)に沿って周方向に連続して形成されている。この場合、非当接面24aは、当接面24tと外周面24bとの間に周方向に沿って、断面略L字状に連続して構成されている。
一方、外輪2の周端面2tには、当該周端面2tから内周面2naに向けて傾斜して環状に連続した面取部2Rが延在している。そして、上記した非当接面24aは、面取部2Rに対向した位置に構成されている。これにより、当該周端面2tと非当接面24aとの間には、周方向に沿って連続する環状の隙間(図面では一例として、周方向に沿って断面略直角三角形状の隙間)が構成され、その結果、非当接面24aは、当該周端面2tから離間して位置付けられることになる。
また、ガイド筒24の当接面24t及び外周面24bには、周方向に沿って互いに異なる位置にそれぞれ、少なくとも1つの空気抜き用切欠部Gt,Gbが掘り込み形成されている。具体的に説明すると、当接面24tに掘り込み形成された切欠部Gtは、当接面24tよりも窪ませて(凹ませて)形成されており、その一方側が非当接面24aに一部入り込み、その他方側がガイド筒24の外周24sを貫通している。また、外周面24bに掘り込み形成された切欠部Gbは、外周面24bよりも窪ませて(凹ませて)形成されており、その一方側が非当接面24aに一部入り込み、その他方側がガイド筒24の先端24fを貫通している。
なお、図面では一例として、複数(2組)の切欠部Gt,Gbが互いに位相を変えて形成されているが、これにより、本発明の技術的範囲が限定されるものでは無く、当該潤滑剤封入冶具22の使用環境や使用目的に応じて、任意の数の切欠部Gt,Gbを設定することができる。例えば、周方向に沿って所定間隔(等間隔)で、互いに位相を変えて(周方向にずらして)複数の切欠部Gt,Gbを形成しても良いし、或いは、当接面24t及び外周面24bにそれぞれ1つずつ、互いに位相を変えて(周方向にずらして)切欠部Gt,Gbを形成しても良い。
このような構成によれば、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットした状態(ガイド筒24の当接面24tが外輪2の周端面2tに当接し、当該ガイド筒24の外周面24bが外輪2の内周面2naに係合した状態)において、当接面24t及び外周面24bの空気抜き用切欠部Gt,Gbは、当該周端面2t(面取部2R)と非当接面24aとの間に周方向に沿って連続する環状の隙間を介して、互いに連通可能なラビリンスを構成する。なお、当該ラビリンス構成では、後述する潤滑剤の封入時において、潤滑剤の漏洩を生じること無く、潤滑剤封入空間(潤滑剤封入冶具22と外輪2との間隙)の圧力上昇により膨張した空気のみを、外周面24bの切欠部Gbから、外輪2の周端面2tと非当接面24aとの間の隙間を経て、当接面24tの切欠部Gtを介して放出(空気抜き)させることができる。
なお、各切欠部Gt,Gbの形状は、図示したような矩形状に限定されることは無く、潤滑剤封入冶具22の使用環境や使用目的に応じて、例えば断面円弧形状や断面三角形状など、任意の形状に設定することができる。この場合、各切欠部Gt,Gbの大きさは、潤滑剤吐出時における空気抜き機能を維持しつつ、且つ上記したラビリンス構成としての効果を最大限に実現可能な寸法に設定されるため、ここでは特に限定しない。
一方、内筒26には、その外径側に設けられた潤滑剤吐出部28と、その内径側に設けられた環状案内部30と、潤滑剤吐出部28と環状案内部30との間の領域に周方向に沿って等間隔で設けられ、複数の転動体を1つずつ保持する複数の転動体保持部32とが構成されている。
なお、転動体保持部32の総数は、冠型保持器18で保持された状態で軸受ユニットに組み付けられた転動体6の総数に一致させて構成されている。また、複数の転動体保持部32は、潤滑剤吐出部28と環状案内部30との間の領域に周方向に沿って等間隔で設けられている。このような構成によれば、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットした状態において、各々の転動体保持部32に転動体6が1つずつ保持されることで、当該転動体6は、周方向に沿って等間隔に配列される。また、各転動体保持部32の形状は、転動体6の表面輪郭に一致又はより大きな曲率半径を有する円弧状を成している。
複数の潤滑剤吐出部28は、内筒26の外径側(具体的には、最外周)に沿って延在されていると共に、当該内筒26の外径側(最外周)の周方向に沿って所定間隔で複数設けられている。また、各潤滑剤吐出部28は、その基端側が潤滑剤供給源(図示しない)に接続可能であり、その先端側がガイド筒24の先端24fを越えて延出し、その延出先端に、潤滑剤吐出口28aが形成されている。
この場合、各潤滑剤吐出部28の潤滑剤吐出口28aは、上記した複数の転動体保持部32の周方向相互間に、それぞれ1つずつ設けられている。別の捉え方をすると、各潤滑剤吐出口28aは、各転動体保持部32が等間隔で設けられた各位置に対して周方向に沿ってずれた位置に、それぞれ1つずつ設けられている。
このような構成によれば、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットした状態において、各潤滑剤吐出口28aを、冠型保持器18で保持された複数の転動体6を回避した位置に対向(正対)して配置させることができる。
なお、冠型保持器18で保持された複数の転動体6を回避した位置とは、例えば複数のポケット18p相互間に介在する複数の柱部18a(図3)の各位置を想定することができるが、これに限定されることは無く、冠型保持器18で保持された複数の転動体6に潤滑剤が直接吐出されない位置、即ち、各転動体6が無い位置であれば良い。
ここで、各潤滑剤吐出部28は、内筒26の外径側(最外周)を先端側から基端側に向けて一部窪ませて(凹ませて)形成した溝形状としても良いし、或いは、内筒26の外径側の縁部に沿って先端側から基端側に向けて穿孔した孔形状としても良い。なお、溝形状としては、例えば矩形溝やキー溝、或いは、円弧状溝や断面三角形溝など、任意の形状を適用することができる。また、孔形状としては、例えば断面円形孔や断面楕円形孔、断面三角形孔など、任意の形状を適用することができる。
このような構成によれば、内筒26の基端側から供給された潤滑剤を各潤滑剤吐出口28aから、冠型保持器18で保持された複数の転動体6を回避した位置に向けて吐出し、当該位置に集中的に供給することができる。なお、潤滑剤吐出部28(潤滑剤吐出口28a)の大きさ(例えば溝形状とした場合の溝深さや溝幅、或いは、例えば孔形状とした場合の孔径)は、例えば潤滑剤の種類(粘性、材質等)や、内筒26の外径側の形状、或いは、潤滑剤を吐出すべき速度や吐出すべき量等を考慮して、最適な値に設定されるため、ここでは特に限定しない。
環状案内部30は、上記した潤滑剤吐出部28及び複数の転動体保持部32よりも内径側において、内筒26の最も先端側に突設されている。この場合、環状案内部30は、軸受ユニットの回転軸に沿って同心円状に延在した円筒形を成しており、その外周には、当該回転軸に沿って平行に同心円状に延在した円筒状の案内面30sが形成されている。
かかる環状案内部30は、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットする際、冠型保持器18で保持された複数の転動体6の内径側に挿入され、その外周に形成された円筒状の案内面30sによって各転動体6を外輪2(具体的には、外輪軌道面2s)に向けて案内すると共に、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットした状態において、潤滑剤吐出部28から吐出された潤滑剤を、当該案内面30sによって各転動体6を介して冠型保持器18に向けて案内する。
ここで、案内面30sの外径寸法は、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットした際、冠型保持器18で保持された複数の転動体6が、当該環状案内部30(案内面30s)によって外輪2の内周面2n(具体的には、外輪軌道面2s)に圧接した状態の各転動体6の内径(具体的には、各転動体6の表面のうち回転軸に最も接近した点を、回転軸を中心に同心円状に相互に結んだ仮想円の内径)と同一寸法に、又は、それよりも僅かに小さな寸法に設定されている。なお、案内面30sの広さ、回転軸方向の延在量(長さ)、外径寸法は、軸受ユニットの形状や大きさ、当該軸受ユニットに組み付けられた複数の転動体6の内径寸法に応じて、任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。
この場合、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットした状態において、複数の転動体6は、環状案内部30の案内面30sと外輪2の外輪軌道面2sとの間に挟持された状態に保持される。このため、各潤滑剤吐出部28から潤滑剤を吐出した際の吐出力が当該潤滑剤を介して各転動体6に作用した場合でも、各転動体6は、案内面30sと外輪軌道面2sとの間に保持され、脱落することは無い。
このとき、各潤滑剤吐出部28から吐出された潤滑剤は、環状案内部30の案内面30sによって各転動体6を介して冠型保持器18に向けて案内される。具体的には、各潤滑剤吐出部28から吐出された潤滑剤は、複数の転動体6を回避した位置に集中的に供給された後、その一部は各転動体6の表面から外輪軌道面2sに供給されると共に、残りは案内面30sから冠型保持器18の表裏面に向けて案内される。そして、冠型保持器18に案内された潤滑剤は、各転動体6の表面を経由した潤滑剤と共に、各ポケット18p(図3)内に供給される。
また、環状案内部30の最先端側には、円形の面取り開始点30aから案内面30sに向けて末広がり勾配を成し、且つ周方向に連続した面取部30Rが形成されている。この場合、面取り開始点30aの外径寸法は、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットした際、冠型保持器18で保持された複数の転動体6が、当該環状案内部30(案内面30s)によって外輪2の内周面2n(具体的には、外輪軌道面2s)に圧接した状態の各転動体6の内径(具体的には、各転動体6の表面のうち回転軸に最も接近した点を、回転軸を中心に同心円状に相互に結んだ仮想円の内径)よりも小さく設定、即ち、上記した案内面30sの外径寸法よりも小さく設定されている。
このような構成によれば、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットする際、環状案内部30(案内面30s)を各転動体6の内径側に挿入すると、まず、複数の転動体6は面取部30Rに沿ってガイドされつつ案内面30sに導かれ、続いて、当該転動体6は外輪2(外輪軌道面2s)に向けて案内される。そして、環状案内部30をさらに挿入することで、各転動体6は1つずつ転動体保持部32(ポケットとも言う)によって保持される。
この場合、複数の転動体保持部32には、それぞれ、少なくとも周方向の片側に、当該転動体保持部32に連続した転動体導入溝32gを形成することが好ましい。なお、図面では一例として、各転動体保持部32の片側にのみ転動体導入溝32gを形成した構成が示されているが、これに限定されることは無く、各転動体保持部32の両側に転動体導入溝32gをそれぞれ形成しても良い。また、転動体導入溝32gの形状は、転動体保持部32に向けて滑らかに連続した略円弧形状にすることが好ましい。
このような構成によれば、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットする際、各々の転動体6は、各転動体導入溝32gによってガイドされつつ各転動体保持部32にスムーズに導入される。例えば、少なくとも1つの転動体6が転動体導入溝32gによってガイドされると、当該転動体6は、転動体導入溝32gから転動体保持部32に向かって外輪軌道面2sを転動する。このとき、当該転動体6の転動に伴って、冠型保持器18が外輪軌道面2sに沿って回転することで、当該冠型保持器18に保持された他の転動体6も転動体導入溝32gから転動体保持部32に向かって外輪軌道面2sを転動する。これにより、当該冠型保持器18に保持された全ての転動体6を、各転動体保持部32にスムーズに導入して保持させることができる。
次に、上記した本実施形態の潤滑剤封入冶具22を用いた潤滑剤封入方法について、図1(c)を参照して説明する。
潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2t(図1(b))にセットする際、まず、内筒26の最も先端側に設けられた環状案内部30を、冠型保持器18で保持しつつ外輪2に組み付けられた状態の複数の転動体6の内径側に挿入する。
このとき、複数の転動体6は、面取部30Rに沿ってガイドされつつ案内面30sに導かれた後、当該案内面30sによって外輪2(外輪軌道面2s)に向けて案内される。続いて、さらに環状案内部30を複数の転動体6の内径側に挿入することで、当該転動体6は、各転動体導入溝32gから各転動体保持部32に1つずつ導入される。そして、ガイド筒24の当接面24tを外輪2の周端面2tに当接させた状態(即ち、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットした状態)において、各転動体導入溝32gから導入された複数の転動体6は、各転動体保持部32に1つずつ保持される。
この状態において、各潤滑剤吐出部28の潤滑剤吐出口28aは、それぞれ、冠型保持器18で保持された複数の転動体6を回避した位置に対向(正対)して配置される。ここで、当該各潤滑剤吐出口28aから潤滑剤を吐出すると、当該潤滑剤は、複数の転動体6を回避した位置に向けて集中的に吐出された後、当該環状案内部30によって各転動体6を介して冠型保持器18に向けて案内される。
このとき、潤滑剤は、その一部が冠型保持器18と外輪軌道面2sとの間の経路F1に沿って供給され、また、残りが冠型保持器18と環状案内部30との間の経路F2に沿って供給される。これにより、当該潤滑剤は、各転動体6の表面から冠型保持器18の表裏面に亘って供給される。この場合、特に経路F2に沿って供給された潤滑剤は、環状案内部30の案内面30sによって効率良く冠型保持器18の背面に向けて案内される。
また、潤滑剤を吐出している際、潤滑剤封入冶具22と外輪2との間隙(潤滑剤封入空間)の圧力が上昇した場合、その圧力上昇により膨張した空気は、ガイド筒24(外周面24b)の切欠部Gbから、外輪2の周端面2t(面取部2R)と非当接面24aとの間に周方向に沿って連続する環状の隙間を経て、ガイド筒26(当接面24t)の切欠部Gtを介して放出(空気抜き)される。この場合、当該周端面2t(面取部2R)と非当接面24aとの間に周方向に沿って連続する環状の隙間と、切欠部Gt,Gbとに亘ってラビリンスが構成されているため、潤滑剤の封入時において、潤滑剤の漏洩を生じることは無い。
以上、本実施形態によれば、潤滑剤を、複数の転動体6を回避した位置に向けて集中的に吐出させることができるため、当該吐出時の潤滑剤の流速を上げることができる。これにより、潤滑剤を、例えば図1(c)に示されたような経路F1,F2を介して、各転動体6の表面から冠型保持器18の表裏面に亘って効率的に供給させることができる。この結果、軸受内部において、潤滑剤を偏在させること無く、各転動体6及び冠型保持器18の表面全体に均一に且つ万遍無く行き渡らせることができる。
また、本実施形態によれば、複数の潤滑剤吐出部28(潤滑剤吐出口28a)を内筒26の外径側(具体的には、最外周)に設けたことで、当該潤滑剤吐出部28(潤滑剤吐出口28a)の配置設計、並びに、大きさや形状の自由度を向上させることができる。この場合、各潤滑剤吐出口28aの直前までの潤滑剤吐出部28を、当該潤滑剤吐出口28aよりも広く構成することで、潤滑剤吐出時の吐出圧力の損失を防止することができる。
また、本実施形態によれば、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットした状態において、当接面24t及び外周面24bの空気抜き用切欠部Gt,Gbを、当該周端面2t(面取部2R)と非当接面24aとの間に周方向に沿って連続する環状の隙間を介して、互いに連通可能なラビリンス構成としたことで、外輪2の周端面2tに対する潤滑剤封入冶具22のセット時、及び潤滑剤吐出時における潤滑剤封入空間の圧力上昇、並びに、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tから離脱する際における負圧の発生を未然に防止することができる。また、両列を同時封入する場合にも対応できる。
この場合、潤滑剤封入空間の圧力上昇を防止することで、複数の潤滑剤吐出部28(潤滑剤吐出口28a)から潤滑剤をスムーズに吐出させることができると共に、潤滑剤封入冶具22を外輪2から離脱する際に、各潤滑剤吐出口28aから潤滑剤が一部にじみ出るのを防止することができる。これにより、他の軸受ユニットに対する潤滑剤の封入作業が続けて行われた場合でも、従来のように軸受内部に実際に封入された潤滑剤量が、軸受内部に封入すべき規定量よりも多くなってしまうことは無い。この結果、軸受外部に潤滑剤を漏洩させること無く、軸受内部に封入すべき規定量の潤滑剤を正確に封入することができる。
更に、潤滑剤封入空間の負圧の発生を防止することで、吐出された潤滑剤が潤滑剤封入空間から逆流する(吸出される)のを防止すると共に、各潤滑剤吐出口28aから吸引されるのを防止することができる。これにより、従来のように軸受内部に実際に封入された潤滑剤量が、軸受内部に封入すべき規定量よりも少なくなってしまうことは無い。この結果、軸受内部に封入すべき規定量の潤滑剤を正確に封入することができるため、軸受内部の潤滑不良を生じることは無い。
また、本実施形態によれば、内筒26の最先端側に環状案内部30(案内面30s)を突設したことで、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットする際、案内面30sによって各転動体6が外輪2に向けて案内され、これにより、当該転動体6の内径が規制されるため、各転動体6と各転動体保持部32との間の位相合わせをし易くすることができる。
更に、本実施形態によれば、各転動体保持部32の少なくとも周方向の片側に、当該転動体保持部32に連続した転動体導入溝32gを形成することで、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットする際、各々の転動体6を、各転動体導入溝32gを介して各転動体保持部32にスムーズに導入することができる。
また、本実施形態によれば、環状案内部30(案内面30s)の回転軸方向の長さを、さらに延長することで、特に経路F2(図1(c))に沿って供給された潤滑剤を、当該環状案内部30(案内面30s)を介してさらに効率良く冠型保持器18に向けて案内させることができる。
ここで、軸受ユニット(外輪2)の設置環境や使用状況によっては、当該軸受ユニット(外輪2)の回転軸が鉛直方向に設定される場合がある。この場合、潤滑剤封入冶具22を外輪2の鉛直下方側にセットし、鉛直上方側に向けて潤滑剤を吐出することになるが、そのような場合でも、環状案内部30(案内面30s)の回転軸方向の長さを、さらに延長することで、各転動体6の表面から冠型保持器18の表裏面に亘って効率的に供給させることができる。この結果、軸受内部において、潤滑剤を偏在させること無く、各転動体6及び冠型保持器18の表面全体に均一に且つ万遍無く行き渡らせることができる。
また、本実施形態によれば、転動体保持部32の少なくとも周方向の片側に、当該転動体保持部32に連続した転動体導入溝32gを形成したことで、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットする際、各々の転動体6を、各転動体導入溝32gを介して各転動体保持部32にスムーズに導入させることができる。この場合、転動体保持部32の両側に転動体導入溝32gをそれぞれ形成することで、転動体保持部32に対して左右いずれの方向からでも転動体6を導入することができるため、ガイド機能を向上させることができる。
更に、本実施形態によれば、転動体導入溝32gを各転動体保持部32の片側、又は、両側に形成したことで、各潤滑剤吐出部28から吐出された潤滑剤の一部を、複数の転動体6の周辺位置に集中的に供給させることができる。
また、本実施形態において、ガイド筒24と内筒26とは、軸受ユニット(外輪2)の回転軸方向に沿って、互いに相対(平行)移動可能に構成することができる。このような構成によれば、ガイド筒24の当接面24tを外輪2の周端面2tに先に当接させることで、軸受ユニットの回転軸に対する潤滑剤封入冶具22の中心位置合わせ(芯出し)がされ、その状態で、内筒26を複数の転動体6の内径側に挿入することができる。これにより、潤滑剤封入冶具22を外輪2の周端面2tにセットする際、各転動体6と各転動体保持部32との間の位相合わせを、よりし易くすることができる。
更に、本実施形態において、ガイド筒24と内筒26とは、軸受ユニット(外輪2)の回転軸を中心にして、互いに相対回転可能に構成することができる。この場合、ガイド筒24と内筒26とに、上記した回転軸方向への相対移動機能に加えて、当該相対回転機能を付加しても良い。このような構成によれば、内筒26を回転させることで、各転動体6と各転動体保持部32との間の位相合わせを短時間に、且つ簡単に行うことができる。
また、ガイド筒24と内筒26とを相対回転可能にした構成において、潤滑剤封入完了後、内筒26を少し引き抜いた状態で、当該内筒26を回転させながら潤滑剤封入冶具22を外輪2から離脱させることができる。これにより、吐出された潤滑剤の各潤滑剤吐出口28aへの残留や付着を完全に無くする(即ち、潤滑剤の切れを良くする)ことができるため、軸受内部に封入すべき規定量の潤滑剤を正確に封入することができる。
更に、ガイド筒24と内筒26とを相対回転可能にした構成において、各転動体保持部32と、その片側又は両側に形成された転動体導入溝32gとの間を、連続的な滑らかな形状とする。そして、潤滑剤封入完了後、転動体保持部32に保持された転動体6を転動体導入溝32gに移動させるように、内筒26を回転させながら潤滑剤封入冶具22を外輪2から離脱させる。これにより、離脱処理に際し内筒26の回転を開始するタイミングを早めることができるため、当該離脱処理の効率化を図ることができると共に、離脱処理におけるサイクルアップにつなげることができる。
この場合、特に各転動体保持部32の両側に転動体導入溝32gを形成した場合、双方の転動体導入溝32gに潤滑剤が集中的に供給されることで、複数の転動体6の表面全体に亘って効率よく潤滑剤を供給させることができる。また、上記離脱処理に際し、内筒26を左右いずれの方向に回転させても、潤滑剤封入冶具22を外輪2から効率的に離脱させることができる。更に、内筒26の回転状態を検知(オシレーション)しながら離脱させても良い。
また、ガイド筒24と内筒26とを相対回転可能にした構成において、内筒26は、かならずしも回転フリーな状態に構成する必要はない。例えばバネ等の付勢力を利用し、複数の転動体保持部32の少なくとも1ピッチ分以上の揺動回転が可能な内筒26を構成することで、ガイド筒24と内筒26とを相対回転可能にした場合と同様の効果を実現することができる。
また、本実施形態によれば、ガイド筒24と内筒26とを互いに一体的に構成した場合だけでなく、上記したように回転軸方向への相対移動可能に、並びに、相対回転可能に構成した場合でも、ガイド筒24の当接面24tが外輪2の周端面2tに当接するまで、ガイド筒24の外周面24bを外輪2の内周面2naに係合させるだけで、軸受ユニットの回転軸に対する潤滑剤封入冶具22の中心位置合わせ(芯出し)を、短時間で簡単に、且つ極めて高精度に行うことができる。
この場合、例えばガイド筒24の先端24fに対して、外周面24bから連続した先細り勾配を成す面取(テーパ)を施しても良い。これにより、当該面取された先端24fに沿って、ガイド筒24の外周面24bを外輪2の内周面2naにスムーズに係合させることができる。
なお、上記した実施形態では、外輪2の周端面2tに面取部2Rが延在している場合を想定し、これに対応して、ガイド筒24の非当接面24aを構成したが、外輪2の周端面2tに面取部2Rが延在していないような場合も想定される。この場合、非当接面24aを、他の部分(当接面24t、外周面24b)よりも窪ませて(凹ませて)形成すれば良い。これにより、外輪2の周端面2tと非当接面24aとの間に周方向に沿って連続する環状の隙間と、切欠部Gt,Gbとに亘ってラビリンスを構成することができる。