以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1(A)は、第1の実施の形態に係るプレス成形品10を示す斜視図、図1(B)は、図1(A)の1B−1B線に沿う断面図、図2は、プレス成形品10の素材であって、成形品形状を付与するプレス成形を実施する前のプレス成形品用ワーク20を示す平面図、図3は、プレス成形品用ワーク20の素材であって、増肉部51を形成する前のワーク30を示す平面図である。
図1〜図3を参照して、第1の実施の形態に係るプレス成形品10は、概説すれば、素材となるプレス成形品用ワーク20(図2)を、プレス成形することによって成形品形状を付与している。プレス成形品用ワーク20は、鋼材からなるワーク30(図3)の平板状部分31における外周縁部の一部を含む第1の縁部41と、外周縁部の他の部分における一部を含む第2の縁部42とを相対的に押し込むことによって、第1の縁部41および第2の縁部42の少なくとも一方の縁部41および/または42を含む領域における板厚をその少なくとも一方の縁部41および/または42の周辺の板厚に比べて増加させてある。ワーク30の一部を押し込むことによって発生する材料流動によって、板厚の増加を引き起こしている。図1および図2において、板厚を周辺に比べて増加させた領域つまり増肉部51と、上記周辺つまり非増肉部52との境界は、二点鎖線を用いて表している。
ただし、図示した境界は、理解の容易のために概念的に付したものであり、増肉部51と非増肉部52との境を厳密に表すものではない。以下、詳述する。
図1を参照して、プレス成形品10は、離間している一対の側壁部11と、側壁部11の端部同士を連結する連結壁部12とを有している。一対の側壁部11は、プレス成形品用ワーク20において向かい合う端部(図2において上下部分)に対して、プレス成形による折り曲げ加工を実施することによって形成している。プレス成形品10は、剛性または強度が必要な局所部位に配置される増肉部51を有する。プレス成形品10は、例えば、増肉部51の位置において、図示しない他の部材に組み合わせて溶接接合する。増肉部51の縁辺は、接合箇所における他の部材の外形形状に合致した形状を有する。
図2を参照して、増肉部51は、成形品形状を付与するプレス成形を実施する前のプレス成形品用ワーク20に、既に形成している。増肉部51は、図2の中心線21を中心に線対称となるように、図中左右方向に一対設けている。図示するプレス成形品用ワーク20にあっては、第2の縁部42を含む領域は増肉部51であり、第1の縁部41を含む領域は非増肉部52である。
図3を参照して、増肉部51を形成する前のワーク30は、平板形状を有し、全体が平板状部分31となっている。平板状部分31の板厚は均一である。板厚の増加を引き起こすために、ワーク30の一部を押し込む必要がある。ワーク30の一部を押し込むためには、良好な生産性を有するプレス成形を適用することができる。このワーク30にあっては、外周縁部の一部を含む第1の縁部41と、外周縁部の他の部分における一部を含む第2の縁部42とを相対的に押し込む。第2の縁部42は、図2および図3の中心線21を中心に線対称となるように、図中左右方向に一対設けている。第1の縁部41は、図中上端に示される縁部である。第2の縁部42のそれぞれは、第1の縁部41に対して斜めに向かい合っている。
第2の縁部42は、押し込まれることによって消失する突出部61を含むことができる。突出部61を押し込むことによって材料の流動量を増やすことができ、板厚の増加量を増やしたり、増肉部51を形成する範囲を増やしたりすることができる。
プレス成形品10は、板厚が増加した増肉部51を有し、当該増肉部51は、剛性あるいは強度が必要な局所部位に配置している。そのため、薄肉のワーク30を適用しても、板厚が増加している増肉部51によって、プレス成形品10の剛性または強度が確保されるため、プレス成形品10の軽量化を容易に図ることが可能である。また、増肉部51は、突合せ溶接が適用されるテーラードブランクに比較し、良好な生産性を有するプレス成形によって形成されるため、製造コストを低減できる。
さらに、プレス成形品10は、成形品形状を付与する前の平板状態において板厚を増加させてプレス成形品用ワーク20を形成し、そのプレス成形品用ワーク20に成形品形状を付与したものである。したがって、成形品形状が三次元的な複雑な形状を有する場合であっても、そのような成形品形状に制約されることなく、必要な部位の板厚を増加させたプレス成形品10を提供することが可能となる。なお、板厚を周辺に比べて増加させた領域の硬度は、平板状部分31の圧縮による加工硬化(圧縮応力)によって、周辺の硬度より大きい。プレス成形品10の剛性または強度を十分に確保できる。
図4Aは、本発明に係るプレス成形品10が適用されるリヤサスペンションメンバ100を示す平面図である。
リヤサスペンションメンバ100は、中空状の略矩形断面を有し、縁部が互いに溶接された上部サイドメンバ101および下部サイドメンバ102を有する。サイドメンバ101、102には、別部品を締結するためのブラケット103を接合している。ブラケット103に第1の実施形態において説明したようなプレス成形品10を適用することによって、サスペンション部品の軽量化および製造コストの低減を図ることが可能となる。
剛性または強度が必要な局所部位は、ブラケット103を固定する部位である。つまり、プレス成形品10の増肉部51においてブラケット103を固定することによって、良好な固定強度を確保することが可能である。特に、固定に溶接が適用される場合、疲労強度が向上するため、好ましい。
図4Bは、リヤサスペンションメンバ100に接合されたアーム部品用のブラケット104を示す拡大図である。
ブラケット104は、図示しないアーム部品を取り付けるための一対の取り付け部105を備えている。このブラケット104にも第1の実施形態において説明したようなプレス成形品10を適用することによって、サスペンション部品の軽量化および製造コストの低減を図ることが可能となる。図中破線によって囲まれる部位は、リヤサスペンションメンバ100に対してブラケット104を溶接によって固定する部位であり、剛性または強度が必要な局所部位である。したがって、上述したブラケット103の場合と同様、プレス成形品10の増肉部51においてブラケット104を固定することによって、良好な固定強度を確保でき、疲労強度が向上する。
本発明のプレス成形品10の適用は上記の例に限定されるものではない。例えば、溶接接合されるリンクおよびブッシュカラーのうち、リンクにプレス成形品10を適用することによって、リンクおよびブッシュカラーの軽量化および製造コストの低減を図ることが可能となる。
次に、第1の実施形態に係るプレス成形品10の製造装置を説明する。
図5は、ワーク30からプレス成形品用ワーク20を製造するための第1の実施形態に係る増肉用プレス装置200を示す断面図、図6は、増肉用プレス装置200を、増肉加工を行う前の状態において示す断面図、図7は、増肉用プレス装置200を、増肉加工を行った後の状態において示す断面図、図8は、増肉用プレス装置200の下型220を示す平面図である。図9は、プレス成形品用ワーク20からプレス成形品10を製造するための第1の実施形態に係る成形用プレス装置300を、成形加工を行う前の状態において示す断面図、図10は、成形用プレス装置300を、成形加工を行った後の状態において示す断面図である。なお、図6および図7は、図8の6−6線に沿う断面図である。
第1の実施形態に係るプレス成形品10の製造装置は、ワーク30からプレス成形品用ワーク20を製造するための増肉用プレス装置200(増肉手段に相当する)と、プレス成形品用ワーク20からプレス成形品10を製造するための成形用プレス装置300(プレス手段に相当する)と、を有する。
概説すれば、増肉用プレス装置200は、鋼材からなるワーク30の平板状部分31における外周縁部の一部を含む第1の縁部41と、外周縁部の他の部分における一部を含む第2の縁部42とを相対的に押し込むことによって、第1の縁部41および第2の縁部42の少なくとも一方の縁部41および/または42を含む領域における板厚をその少なくとも一方の縁部41および/または42の周辺の板厚に比べて増加させる。成形用プレス装置300は、平板状部分31の板厚が部分的に増加したプレス成形品用ワーク20をプレス成形することによって成形品形状を付与してプレス成形品10を得る。
増肉用プレス装置200は、第1の縁部41を押し込むために第1の縁部41に当接する第1の当接部215と、第2の縁部42を押し込むために第2の縁部42に当接する第2の当接部225と、ワーク30の平板状部分31の表裏両面30a、30bのそれぞれに向かい合うように配置され平板状部分31を板厚方向に沿って拘束自在な第1と第2の拘束部材212、222と、を含んでいる。また、第1の当接部215と第2の当接部225とを相対的に接近させる移動部材230と、型締めに連動して第1の縁部と第2の縁部とを相対的に押し込む増肉用型205(押圧手段に相当する)と、を含んでいる。移動部材230によって第1の当接部215と第2の当接部225とを相対的に接近させて平板状部分31を圧縮し、さらに、第1と第2の拘束部材212、222によって平板状部分31を板厚方向に沿って拘束しつつ、板厚を増加させている。板厚増加加工によるしわの発生を抑制し、板厚を増加させる位置やその範囲をコントロールすることが可能となる。以下、詳述する。
図5〜図8を参照して、増肉用型205は、相対的に接近離反移動自在な増肉用上型210(以下、上型とする)と増肉用下型220(以下、下型とする)とを有する。図示例では、上型210が下型220に対して接近離反移動する。ワーク30は、上型210と下型220との間に、略水平にセットする。
上型210は、昇降駆動される上プレート211と、ワーク30の平板状部分31の上面30a(表面に相当する)に向かい合うように配置される上ホルダ212(第1の拘束部材に相当する)と、下型220に向けて伸びるドライバ213と、を有する。上ホルダ212は、下端面に段差部214を有する。段差部214によって、第1の当接部215と、平板状部分31の上面30aに当接する第1の拘束面216とを形成する。ドライバ213は、上プレート211に固定され、傾斜面213aを有する。
下型220は、ベースに固定される下プレート221と、ワーク30の平板状部分31の下面30b(裏面に相当する)に向かい合うように配置される下ホルダ222(第2の拘束部材に相当する)と、上型210に向けて伸びるカムスライド223と、を有する。
下ホルダ222は、水平方向にスライド移動自在であり、上端面に段差部224を有する。段差部224によって、第2の当接部225と、平板状部分31の下面30bに当接する第2の拘束面226とを形成する。カムスライド223は、下プレート221に水平方向にスライド移動自在であり、傾斜面223aを有する。カムスライド223の傾斜面223aは、ドライバ213の傾斜面213aに当接する。カムスライド223は、下ホルダ222の側面にも当接する。
平板状態において板厚を増加させるので、金型構造を単純な構造にすることができる。
つまり、第1と第2の当接部215、225の形状は、ワーク30の外周端面に当接する形状でよく、上下のホルダ212、222の形状はワーク30の平板状部分31の上下面30a、30bに当接する形状であればよい。金型構造を単純な構造にできることから、金型の製作費や金型の管理コストを抑えることができる。
上下型210、220を型締めすると、上ホルダ212および下ホルダ222は、平板状部分31を板厚方向に対して直交する方向つまり水平方向に沿って摺動自在に、平板状部分31を板厚方向に沿って拘束する。
ドライバ213およびカムスライド223は、移動部材230を構成する。ドライバ213およびカムスライド223は、上型210の上下の動きを、下ホルダ222の横方向の動きに変換する。すなわち、上型210の下降に伴ってドライバ213が下降すると、ドライバ213の傾斜面213aがカムスライド223の傾斜面223aに当接し、カムスライド223が図7において右方向にスライド移動する。カムスライド223が下ホルダ222の側面に当接し、下ホルダ222が図7において右方向にスライド移動する。上ホルダ212の第1の当接部215は、第1の縁部41の位置を規制している。このため、第2の当接部225が第1の当接部215に向けて接近することによって、平板状部分31を圧縮する。このように第1の実施形態では、第2の当接部225がワーク30の端面を押圧する押圧部つまりパンチとなり、第1の当接部215が荷重を受けるための荷重受け部つまりダイとなる。
図8に示すように、左右一対の第2の当接部225は、圧縮する方向が収束するように、ワーク30を左右両側から斜めに押圧する。図8における左右方向においては、左右の第2の当接部225による押圧力の左右方向の成分が相殺されるため、荷重受け部を設ける必要がない。荷重受け部つまり第1の当接部215は、図8において上側にのみ設けてある。
第1の縁部41と第2の縁部42とを相対的に押し込む場合、第1の縁部41と第1の当接部215との接触面積S1と、第2の縁部42と第2の当接部225との接触面積S2との面積差ΔSによって、第1の縁部41を含む領域における板厚の増加量Δt1と第2の縁部42を含む領域における板厚の増加量Δt2とを調整することが可能となる。面積差ΔSに応じて、単位面積あたりに作用する圧力つまり面圧が異なり、変形量が異なってくるからである。
したがって、第1と第2の縁部41、42のうち接触面積が小さい方の縁部を含む領域における板厚の増加量が、他方の縁部を含む領域における板厚の増加量よりも大きくなる。このようにして、板厚の増加分布を変化させることが可能となる。
第1の実施形態では、第2の縁部42を含む領域が板厚を増加させたい部位であり、第1の縁部41を含む領域が板厚を増加させたくない部位である。第1の縁部41における接触面積S1と、第2の縁部42における接触面積S2との間には、大きい面積差ΔSを付けている(S1>S2)。したがって、第2の縁部42に作用する面圧が第1の縁部41に作用する面圧よりも大きく、第2の縁部42を含む領域における板厚の増加量Δt2が、第1の縁部41を含む領域における板厚の増加量Δt1よりも大きくなる。
接触面積S1が接触面積S2よりも十分に大きいことから、板厚の増加量Δt1が板厚の増加量Δt2に比べて十分に小さく、Δt1を実質的にゼロとみなしても支障はない。
このため、第1の実施形態では、第1の縁部41を含む領域が非増肉部52となり、第2の縁部42を含む領域が増肉部51となる。
図5に示すように、第1の実施形態にあっては、上下のホルダ212、222のうちの少なくとも一方のホルダ、具体的には上ホルダ212を、平板状部分31において板厚を増加させる部位つまり増肉予定部32を拘束する増肉用ホルダ241(増肉用部材に相当する)と、板厚の増加を抑制する部位つまり非増肉予定部33を拘束する抑制用ホルダ242(抑制用部材に相当する)とに分割している。増肉用ホルダ241は、平板状部分31の板厚方向に移動自在である。増肉用プレス装置200はさらに、増肉用ホルダ241を下ホルダ222に向けて押圧する押圧力を付勢する第1の付勢手段243と、増肉用ホルダ241を下ホルダ222に向けて押圧する押圧力よりも大きい押圧力によって抑制用ホルダ242を下ホルダ222に向けて押圧する押圧力を付勢する第2の付勢手段244と、有する。そして、抑制用ホルダ242によって非増肉予定部33を拘束しつつ、増肉用ホルダ241を第1の付勢手段243が付勢する押圧力に抗して下ホルダ222から離間させながら、板厚を増加させている。
第1の付勢手段243には、例えば、ガススプリングなどのスプリング機構を用いることができる。第2の付勢手段244には、例えば、上型210および下型220を型締めするダイクッションを用いることができる。
ドライバ213およびカムスライド223によって、上下型210、220の型締力を、平板状部分31を圧縮する力に変換する。このため、下プレート221と下ホルダ222との間にも付勢手段245を設けることが好ましい。増肉用ホルダ241に付勢する押圧力、抑制用ホルダ242に付勢する押圧力、平板状部分31を圧縮する力のそれぞれの設定ないし調整が容易になるからである。付勢手段245には、第1の付勢手段243と同様に、ガススプリングなどのスプリング機構を用いることができる。
第1の当接部215および第2の当接部225を、プレス成形品10の外形形状に合致した内面形状を有することが好ましい。平板状部分31を圧縮することによって、第1と第2の縁部41、42の形状をプレス成形品10の外形形状に加工することができ、トリム加工などの後工程を廃止あるいは簡素化できるからである。
ワーク30における第2の縁部42は、押し込まれることによって消失する突出部61を含んでいる。増肉用プレス装置200によって突出部61を押し込むことによって材料の流動量を増やすことができ、板厚の増加量を増やしたり、増肉部51を形成する範囲を増やしたりすることができる。
ワーク30には、対をなす第1と第2の縁部41、42を2組設けている。増肉用プレス装置200を1回稼動させることによって、ワーク30の平板状部分31における2箇所の板厚を同時に増加させることが可能となる。図示例のワーク30にあっては、1つの第1の縁部41が、2つの第2の縁部42のそれぞれと対をなしている。つまり、第1の縁部41を、第2の縁部42のそれぞれに対して共用している。
増肉用プレス装置200は、平板状部分31を板厚方向に対して直交する方向に沿って摺動自在に保持している。対をなす第1と第2の縁部41、42の2組は、平板状部分31を圧縮する方向が収束するように線対称に設けてある。ワーク30が中心線21を中心に左右両側から斜めに押圧されるので(図8を参照)、ワーク30の左右方向の位置が微調整され、その結果、平板状部分31の位置決めを行うことが可能となる。
図9および図10を参照して、成形用プレス装置300は、相対的に接近離反移動自在な上型310と下型320とを有する。図示例では、上型310が下型320に対して接近離反移動する。プレス成形品用ワーク20は、上型310と下型320との間に、略水平にセットする。
成形用プレス装置300は、プレス成形品用ワーク20において向かい合う端部(図2において上下部分)に対して折り曲げ加工を実施する。上型310は昇降駆動される門形状を有するポンチ311を有し、下型220はポンチ311とともにプレス成形品用ワーク20の端部を折り曲げるダイ321を有する。ポンチを下降することによって、一対の側壁部11を折り曲げる。
次に、第1の実施形態に係るプレス成形品10の製造方法を説明する。
プレス成形品10の製造方法は、概説すれば、板厚を部分的に増加させたプレス成形品用ワーク20を形成する増肉工程と、プレス成形品用ワーク20に成形品形状を付与するプレス工程と、を有する。増肉工程においては、鋼材からなるワーク30の平板状部分31における外周縁部の一部を含む第1の縁部41と、外周縁部の他の部分における一部を含む第2の縁部42とを相対的に押し込むことによって、第1の縁部41および第2の縁部42の少なくとも一方の縁部41および/または42を含む領域における板厚をその少なくとも一方の縁部41および/または42の周辺の板厚に比べて増加させる。プレス工程においては、平板状部分31の板厚が部分的に増加したプレス成形品用ワーク20をプレス成形することによって成形品形状を付与してプレス成形品10を得る。以下、詳述する。
増肉用プレス装置200の上型210を下型220に対して開き、ワーク30を、上型210と下型220との間に、略水平にセットする(図5、図6)。
上型210を下降すると、上ホルダ212の第1の当接部215が、ワーク30の第1の縁部41に当接する。第1の当接部215によって第1の縁部41の位置を規制した状態で、ドライバ213の傾斜面223aがカムスライド223の傾斜面223aに当接し、カムスライド223が図7において右方向にスライド移動する。カムスライド223が下ホルダ222の側面に当接する。
上型210をさらに下降すると、下ホルダ222が図7において右方向にスライド移動する。これにより、第2の当接部225が第1の当接部215に向けて接近して、平板状部分31を圧縮する。
増肉用型205の型締めに連動させて移動部材を駆動し、平板状部分を圧縮させるため、増肉加工に要する作業を簡略して行うことができ、作業効率を向上させることができる。
第1の実施形態の上ホルダ212は、増肉用ホルダ241と、抑制用ホルダ242とに分割してある。増肉用ホルダ241が増肉予定部32を拘束し、抑制用ホルダ242が非増肉予定部33を拘束している(図6)。また、増肉用ホルダ241を下ホルダ222に向けて押圧する押圧力よりも大きい押圧力によって抑制用ホルダ242を下ホルダ222に向けて押圧している。抑制用ホルダ242によって非増肉予定部33を拘束しつつ、平板状部分31を圧縮する。これにより、増肉用ホルダ241を、第1の付勢手段243が付勢する押圧力に抗して下ホルダ222から離間させながら、板厚を増加する(図7)。
増肉予定部32を拘束する増肉用ホルダ241が肉厚の増加に追従して可動することから、増肉予定部32にしわが発生したり材料の座屈が生じたりすることを効率的に抑えながら、増肉部51を形成することができる。さらに、抑制用ホルダ242を、増肉用ホルダ241に作用する押圧力よりも大きい押圧力によって、非増肉予定部33に押圧している。これにより、非増肉予定部33の板厚の増加を抑制して、増肉部51を形成する範囲を所望の範囲に簡単に設定することができる。増肉予定部32と非増肉予定部33とに独立して圧力を掛けることによって、隙間の発生を抑え、しわの発生を抑制できることから、元々の板厚の30%程度まで板厚を増加させることが可能である。
増肉工程が終了すると、成形用プレス装置300の上型310を下型320に対して開き、プレス成形品用ワーク20を、上型310と下型320との間に、略水平にセットする(図9)。
上型310を下降すると、上型310のポンチ311と下型320のダイ321とによって、プレス成形品用ワーク20において向かい合う端部(図2において上下部分)が折り曲がり、成形品形状が付与されたプレス成形品10を得る(図10)。
第1の縁部41と第1の当接部215との接触面積S1と、第2の縁部42と第2の当接部225との接触面積S2との面積差ΔSによって、第1の縁部41を含む領域における板厚の増加量Δt1と第2の縁部42を含む領域における板厚の増加量Δt2とを調整することができる。
第1の実施形態では、接触面積S1が接触面積S2よりも十分に大きいことから、板厚の増加量Δt1が板厚の増加量Δt2に比べて十分に小さく、Δt1を実質的にゼロとみなしても支障はない。したがって、第1の縁部41を含む領域が非増肉部52となり、第2の縁部42を含む領域が増肉部51となる。
第1の当接部215および第2の当接部225を、プレス成形品10の外形形状に合致した内面形状に形成してあるので、平板状部分31を圧縮することによって、第1と第2の縁部41、42の形状をプレス成形品10の外形形状に加工することができ、トリム加工などの後工程を廃止あるいは簡素化できる。
ワーク30の第2の縁部42は、押し込まれることによって消失する突出部61を含んでいるので、突出部61を押し込むことによって材料の流動量を増やすことができ、板厚の増加量を増やしたり、増肉部51を形成する範囲を増やしたりすることができる。
ワーク30に対をなす第1と第2の縁部41、42を2組設けることによって、増肉用プレス装置200を1回作動させると、ワーク30の平板状部分31における2箇所の板厚が同時に増加する。
ここで、平板状部分31を板厚方向に対して直交する方向に沿って摺動自在に保持している。対をなす第1と第2の縁部41、42の2組は、平板状部分31を圧縮する方向が収束するように線対称に設けてある。ワーク30が中心線21を中心に左右両側から押圧されるので、ワーク30の左右方向の位置が微調整され、その結果、平板状部分31の増肉用プレス装置200に対する位置が定まることになる。
図11および図12は、第1の実施形態の変形例1、2を説明するための断面図である。
プレス成形品10にナットを締結手段として固定する場合に、ナットの根元の強度向上のために、補強プレートを適用することがある。このような場合、図11に示されるように、ナット71が溶接により取付けられる部位に増肉部51を配置することによって、補強プレートを廃止することが可能である。
さらに、別部品を締結するため、図12に示されるように、増肉部51に穴部72を形成することも可能である。増肉部51は、非増肉部52に比較し、穴部72の形成が容易であり、好ましい。特に、穴部72にタップ加工を施し、ナット71の代替として利用する場合、ナット71を廃止することが可能である。
以上のように、第1の実施形態に係る製造方法によれば、ワーク30の板厚を部分的に増加させる増肉工程と、板厚が部分的に増加したプレス成形品用ワーク20に成形品形状を付与するプレス工程とを経て、板厚が増加した増肉部51を有するプレス成形品10を製造している。そのため、薄肉のワーク30を適用しても、板厚が増加している増肉部51によって、プレス成形品10の剛性または強度が確保されるため、プレス成形品10の軽量化を容易に図ることが可能である。また、増肉部51は、突合せ溶接が適用されるテーラードブランクに比較し、良好な生産性を有するプレス成形によって形成されるため、製造コストを低減できる。さらに、成形品形状を付与する前の平板状態において板厚を増加させてプレス成形品用ワーク20を形成し、そのプレス成形品用ワーク20に成形品形状を付与している。したがって、成形品形状が三次元的な複雑な形状を有する場合であっても、そのような成形品形状に制約されることなく、必要な部位の板厚を増加させたプレス成形品10を提供することが可能となる。また、プレス成形品用ワーク20における増肉部51は、ワーク30の外周縁部の一部を含んで構成されるため、プレス成形品10の外周縁を含む部位を効率的に増肉させることが可能である。
また、第1の実施形態に係る製造装置によれば、ワーク30の板厚を部分的に増加させる増肉用プレス装置200と、板厚が部分的に増加したプレス成形品用ワーク20に成形品形状を付与する成形用プレス装置300とによって、板厚が増加した増肉部51を有するプレス成形品10を製造している。そのため、薄肉のワーク30を適用しても、板厚が増加している増肉部51によって、プレス成形品10の剛性または強度が確保されるため、プレス成形品10の軽量化を容易に図ることが可能である。また、増肉部51は、突合せ溶接が適用されるテーラードブランクに比較し、良好な生産性を有するプレス成形によって形成されるため、製造コストを低減できる。さらに、成形品形状を付与する前の平板状態において板厚を増加させてプレス成形品用ワーク20を形成し、そのプレス成形品用ワーク20に成形品形状を付与している。したがって、成形品形状が三次元的な複雑な形状を有する場合であっても、そのような成形品形状に制約されることなく、必要な部位の板厚を増加させたプレス成形品10を製造することが可能となる。また、プレス成形品用ワーク20における増肉部51は、ワーク30の外周縁部の一部を含んで構成されるため、プレス成形品10の外周縁を含む部位を効率的に増肉させることが可能である。
また、第1の実施形態に係るプレス成形品10によれば、板厚が増加した増肉部51を有し、当該増肉部51は、剛性あるいは強度が必要な局所部位に配置してある。そのため、薄肉のワーク30を適用しても、板厚が増加している増肉部51によって、プレス成形品10の剛性または強度が確保されるため、プレス成形品10の軽量化を容易に図ることが可能である。また、増肉部51は、突合せ溶接が適用されるテーラードブランクに比較し、良好な生産性を有するプレス成形によって形成されるため、製造コストを低減できる。さらに、プレス成形品10は、成形品形状を付与する前の平板状態において板厚を増加させてプレス成形品用ワーク20を形成し、そのプレス成形品用ワーク20に成形品形状を付与したものである。したがって、成形品形状が三次元的な複雑な形状を有する場合であっても、そのような成形品形状に制約されることなく、必要な部位の板厚を増加させたプレス成形品10を提供することが可能となる。また、プレス成形品用ワーク20における増肉部51は、ワーク30の外周縁部の一部を含んで構成されるため、プレス成形品10の外周縁を含む部位を効率的に増肉させることが可能である。
第1の実施形態に係るプレス成形品用ワーク20の製造方法、プレス成形品用ワーク20の製造装置(増肉用プレス装置200)、およびプレス成形品用ワーク20によれば、上述したプレス成形品10の素材となる好適なプレス成形品用ワーク20を提供することが可能となる。さらに、プレス成形品用ワーク20における増肉部51は、ワーク30の外周縁部の一部を含んで構成されるため、プレス成形品10の外周縁を含む部位を効率的に増肉させることが可能である。
したがって、第1の実施形態は、プレス成形品10の軽量化および製造コストの低減を図ることが可能である。
なお、全体が平板状部分31となったワーク30を示したが(図3)、増肉部51を形成するための平板状部分31を含んでいる限りにおいて、ワーク30の全体形状は平板形状に限られない。後述するように、例えば、平板状部分31以外の部分に曲げ加工が既に施されているワーク30であっても、本発明に係るプレス成形品10に適用することができる(図42)。
プレス成形品用ワーク20に成形品形状を付与するプレス成形は、折り曲げ成形に限定されるものではない。例えば、トリム、絞り、穴あけなどの広範囲の一般的なプレス成形を適用することができる。
接触面積S1が大きい方の第1の縁部41の位置を規制した状態で、接触面積S2が小さい方の第2の縁部42を第1の縁部41に向けて押し込む形態を示したが、この形態に限定されるものではない。第1の縁部41と第2の縁部42とは、相対的に接近させるように押し込めば良い。したがって、上述した実施形態とは逆に、接触面積S2が小さい方の第2の縁部42の位置を規制した状態で、接触面積S1が大きい方の第1の縁部41を第2の縁部42に向けて押し込む形態でも良い。
縁部に設けた突出部61を押し込んで増肉部51を形成する実施形態について説明したが、本発明はこの場合に限定されない。周囲と面一となった縁部を押し込んだり、周囲から内方に後退した凹部形状を有する縁部を押し込んだりして、増肉部51を形成することも可能である。
ドライバ213およびカムスライド223によって移動部材230を構成した形態を示したが、第1の当接部215と第2の当接部225とを接近させることができる限りにおいて、移動部材230は適宜改変できる。例えば、移動部材230は、第1の当接部215と第2の当接部225とを別個独立に駆動して移動させてもよい。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。
図13は、第2の実施形態に係る増肉用プレス装置200を、増肉加工を行う前の状態において示す断面図、図14は、増肉用プレス装置200を、増肉加工を行った後の状態において示す断面図である。なお、第1の実施形態と共通する部材については同じ符号を付し、その説明は一部省略する。
第2の実施形態は、増肉用プレス装置200の上ホルダ251を分割せずに、増肉予定部32および非増肉予定部33を同じ強さの圧力によって下ホルダ252に向けて押付けている。この点において、上ホルダ212を増肉用ホルダ241と抑制用ホルダ242とに分割し、それぞれのホルダを独立して下ホルダ222に向けて押付けるようにした第1の実施形態と相違する。
増肉用プレス装置200は、第1の実施形態と同様に、第1の当接部215と、第2の当接部225と、上下のホルダ251、252と、移動部材230と、を含んでいる。そして、移動部材230によって第1の当接部215と第2の当接部225とを相対的に接近させて平板状部分31を圧縮し、さらに、上下のホルダ251、252によって平板状部分31を板厚方向に沿って拘束しつつ、板厚を増加させている。
第2の実施形態にあっては、下ホルダ252は平板状部分31の板厚方向に移動自在であり、増肉用プレス装置200はさらに、下ホルダ252を上ホルダ251に向けて押圧する押圧力を付勢する付勢手段253を有する。そして、下ホルダ252を、付勢手段253が付勢する押圧力に抗して上ホルダ251から離間させながら、板厚を増加させている。板厚の増加は、ワーク30の下面30b側に生じる。
付勢手段253には、例えば、ガススプリングなどのスプリング機構を用いることができる。
下ホルダ252が肉厚の増加に追従して可動することから、増肉予定部32にしわが発生することを効率的に抑えながら増肉部51を形成することができる。第2の縁部42における板厚の増加に伴って、非増肉予定部33と下ホルダ252との間の隙間が大きくなり、非増肉予定部33にしわが発生する虞がある。したがって、第2の実施形態は、板厚増加量が第1の実施形態に比べて小さい場合に好適に適用することができる。元々の板厚の18%程度まで板厚を増加させることが可能である。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を説明する。
図15は、第3の実施形態に係る増肉用プレス装置200を、増肉加工を行う前の状態において示す断面図、図16は、増肉用プレス装置200を、増肉加工を行った後の状態において示す断面図である。なお、第1の実施形態と共通する部材については同じ符号を付し、その説明は一部省略する。
第3の実施形態は、増肉用プレス装置200の上ホルダ261とワーク30の平板状部分31との間に隙間263が存する状態において、平板状部分31の圧縮を開始している。この点において、平板状部分31の圧縮を開始する時点においては上ホルダ212とワーク30の平板状部分31と間に隙間が存しない第1と第2の実施形態と相違する。
増肉用プレス装置200は、第1と第2の実施形態と同様に、第1の当接部215と、第2の当接部225と、上下のホルダ261、262と、移動部材230と、を含んでいる。そして、移動部材230によって第1の当接部215と第2の当接部225とを相対的に接近させて平板状部分31を圧縮し、さらに、上下のホルダ261、262によって平板状部分31を板厚方向に沿って拘束しつつ、板厚を増加させている。上ホルダ261およびドライバ213は、別個に昇降する。
第3の実施形態にあっては、平板状部分31と上下のホルダ261、262のうちの少なくとも一方のホルダ、具体的には上ホルダ261との間に隙間263を設けている。そして、隙間263において板厚を増加させている。隙間263は、第1の当接部215から第2の当接部225まで設けている。隙間263は、板厚の増加を考慮し、一定の寸法を確保している。
単純な金型構造であるため、金型の製作コスト、金型の管理コストを抑えることができる。第1の当接部215から第2の当接部225まで隙間263が一定であるので、金型構造がより単純なものとなる。上ホルダ261とワーク30の平板状部分31との間に隙間263が存することから、増肉予定部32および非増肉予定部33にしわが発生する虞がある。したがって、第3の実施形態は、板厚増加量が第2の実施形態に比べてさらに小さい場合に好適に適用することができる。元々の板厚の10%程度まで板厚を増加させることが可能である。
図17および図18は、第3の実施形態の変形例を説明するための断面図である。
図17は、第3の実施形態の変形例に係る増肉用プレス装置200を、増肉加工を行う前の状態において示す断面図、図18は、増肉用プレス装置200を、増肉加工を行った後の状態において示す断面図である。
上記の隙間263は、第1の当接部215から第2の当接部225までの範囲にすべて設ける必要はない。図17および図18に示すように、隙間264は、第1の当接部215と第2の当接部225との間のうち、第1の当接部215および/または第2の当接部225から板厚を増加させる範囲のみに設けてもよい。上ホルダ261の下端面が非増肉予定部33を押圧していることから、非増肉予定部33のしわの発生や板厚の増加を抑制して、増肉部51を形成することができる。
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態を説明する。
図19は、第4の実施形態に係る増肉用プレス装置200を、増肉加工を行う前の状態において示す断面図、図20は、増肉用プレス装置200を、増肉加工を行った後の状態において示す断面図である。なお、第2の実施形態と共通する部材については同じ符号を付し、その説明は一部省略する。
第4の実施形態は、弾性変形自在な弾性パッド271(弾性部材に相当する)を介してワーク30の平板状部分31を下ホルダ252に向けて押付けている。この点において、弾性パッド271を介在させていない第2の実施形態と相違する。
第4の実施形態にあっては、上下のホルダ251、252のうちの少なくとも一方のホルダ、具体的には下ホルダ252に、ワーク30に接して弾性変形自在な弾性パッド271を配置している。そして、弾性パッド271を弾性変形させながら板厚を増加させている。弾性パッド271は、硬質のゴム、ウレタン、樹脂材料などから形成する。
下ホルダ252が肉厚の増加に追従して可動し、さらに、ワーク30に接する弾性パッド271が肉厚の増加に追従して弾性変形することから、平板状部分31に常に圧力を掛けることができ、増肉予定部32にしわが発生することを抑えながら増肉部51を形成することができる。さらに、弾性パッド271が非増肉予定部33に接して拘束することから、第2の実施形態に比べて、非増肉予定部33と下ホルダ252との間の隙間263が大きくならず、非増肉予定部33にしわが発生することを抑制できる。
なお、上下のホルダ251、252が弾性変形自在な弾性パッド271を介してワーク30の平板状部分31を拘束する構成については、第2の実施形態に適用するほか、第1と第3の実施形態に適用することもできる。
また、弾性部材271は、ワーク30に接して弾性変形自在である限りにおいて、適宜改変することができる。例えば、弾性変形可能なチューブ体に水や油などの流体圧を供給することによって、弾性部材271を構成しても良い。
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態を説明する。
図21は、第5の実施形態に係る増肉用プレス装置200を、増肉加工を行う前の状態において示す断面図、図22は、増肉用プレス装置200を、増肉加工を行った後の状態において示す断面図である。なお、第1の実施形態と共通する部材については同じ符号を付し、その説明は一部省略する。
第5の実施形態は、増肉用ホルダ241(増肉用部材に相当する)を複数個(例えば、4個)のブロック241a〜241dに分割し、ブロック241a〜241dのそれぞれを個別に下ホルダ222に向けて押圧している。この点において、増肉用ホルダ241を複数個のブロックに分割していない第1の実施形態と相違する。
第5の実施形態にあっては、増肉用ホルダ241は、第1の縁部41と第2の縁部42とを相対的に押し込む方向(図21および図22において右方向)に分割されて配列された複数個のブロック241a〜241dを含んでいる。第1の付勢手段243は、ブロック241a〜241dのそれぞれを個別に下ホルダ222に向けて押圧する複数個の付勢部材243a〜243dを含んでいる。そして、ブロック241a〜241dのそれぞれを個別に下ホルダ222に向けて押圧しながら、板厚を増加させている。これにより、増肉部51における板厚の増加量の分布を、第1の縁部41と第2の縁部42とを相対的に押し込む方向に沿って、所望のパターンに設定することができる。
ブロック241a〜241dは、それぞれが独立して可動自在に、上型210の凹所210a内に収納している。付勢部材243a〜243dには、例えば、ガススプリングなどのスプリング機構を用いることができる。
下ホルダ222は、支持プレート246上にスライド自在に設けている。支持プレート246は、下プレート221を貫通して設けたクッションピン247に接続している。クッションピン247に、付勢手段245を設けている。付勢手段245は、第1の実施形態と同様に、第1の付勢手段243が増肉用ホルダ241に付勢する押圧力、第2の付勢手段244が抑制用ホルダ242に付勢する押圧力、平板状部分31を圧縮する力のそれぞれの設定ないし調整を容易にするために設けている。
第5の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、抑制用ホルダ242によって非増肉予定部33を拘束しつつ、増肉用ホルダ241を第1の付勢手段243が付勢する押圧力に抗して下ホルダ222から離間させながら、板厚を増加させている。したがって、第1の付勢手段243が付勢する押圧力、つまり、それぞれの付勢部材243a〜243dが付勢する押圧力を合計した全体の押圧力は、付勢手段245が付勢する押圧力よりも小さい。
ここで、付勢部材243a〜243dのそれぞれがブロック241a〜241dのそれぞれを個別に下ホルダ222に向けて押圧する押圧力は、外周縁部に近い側のブロックの方が、遠い側のブロックよりも大きく設定してある。つまり、付勢部材243aの押圧力>付勢部材243bの押圧力>付勢部材243cの押圧力>付勢部材243dの押圧力である。なぜなら、本実施形態では、図21の左側外周縁部を右側の外周縁部に対し、接触面積を小さく設定しているため、ワークの左側外周縁部の応力が高くなり、左側の外周縁部に近づくほど、下ホルダ222に向けて高い押圧力が必要とされる。なお、本発明は、付勢部材243a〜243dのそれぞれが付勢する押圧力の大小関係を任意に設定することを妨げるものではない。
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態を説明する。
図23は、第6の実施形態に係るワーク280を示す平面図、図24(A)は、第6の実施形態に係るプレス成形品用ワーク281を示す平面図、図24(B)(C)はそれぞれ、図24(A)の22B−22B線、22C−22C線に沿う断面図である。図25(A)は、第6の実施形態の変形例に係るプレス成形品用ワーク282を示す平面図、図25(B)(C)はそれぞれ、図25(A)の23B−23B線、23C−23C線に沿う断面図である。なお、第1の実施形態と共通する部材については同じ符号を付し、その説明は一部省略する。
第1〜第5の実施形態では、第1の縁部41における接触面積S1と、第2の縁部42における接触面積S2との間に比較的大きい面積差ΔSを有している(S1>S2)。そして、第2の縁部42を含む領域における板厚の増加量Δt2が、第1の縁部41を含む領域における板厚の増加量Δt1よりも大きくなるようにしている。
面積差ΔSによって増加量Δt1、Δt2を調節できるということは、面積差ΔSをほぼゼロ、つまり接触面積S1、S2をほぼ等しく設定することによって、増加量Δt1、Δt2をほぼ等しくできる。接触面積がほぼ同じであれば、第1と第2の縁部41、42に作用する応力がほぼ同じになり、同じように板厚が増加するからである。
そこで、第6の実施形態では、図23に示すように、接触面積S1、S2がほぼ等しくなるように、第1と第2の縁部41、42および第1と第2の当接部215、225を設けてある。第1の縁部41が含む突出部61および第2の縁部42が含む突出部61は、同じ形状、同じ容積に形成している。図中符号283は端面押圧部を示し、符号284は荷重受け部を示している。
第6の実施形態によれば、接触面積S1、S2がほぼ等しく、第1の縁部41に作用する面圧と、第2の縁部42に作用する面圧とがほぼ同じになり、板厚を同じように増加させることが可能となる。
第6の実施形態に係るプレス成形品用ワーク281、282を、図24および図25に示す。図24に示されるプレス成形品用ワーク281は、第1の縁部41から伸びる増肉部51と、第2の縁部42から伸びる増肉部51とが連続している。図25に示される他のプレス成形品用ワーク282は、第1の縁部41から伸びる増肉部51と、第2の縁部42から伸びる増肉部51との間に、非増肉部52を有している。第1と第2の縁部41、42のそれぞれから伸びる増肉部51のそれぞれは、同じ形状を有している。
(第7の実施形態)
次に、第7の実施形態を説明する。
図26は、第7の実施形態に係るワーク290を示す平面図、図27は、第7の実施形態に係るプレス成形品用ワーク291を示す平面図である。なお、第1の実施形態と共通する部材については同じ符号を付し、その説明は一部省略する。
第7の実施形態は、一つの縁部あたり突出部61を間隔を隔てて複数個設けている点において、一つの縁部あたり突出部61を1つだけ設けている第1の実施形態と相違する。
第7の実施形態にあっては、ワーク290の第2の縁部42に、突出部61を間隔を隔てて2個設けてある(図26)。つまり、一つの縁部あたり突出部61を間隔を隔てて複数個設けてある。
この場合、プレス成形品用ワーク291は、一つの縁部あたり板厚を増加させた複数の増肉部51を間隔を隔てて有することになる。
したがって、第1の縁部41および/または第2の縁部42に、剛性あるいは強度が必要な複数の局所部位が間隔を隔てて存在していても、増肉用プレス装置200の1回の稼動によって、一つの縁部あたり複数の増肉部51を形成することができる。
また、プレス成形品用ワーク291は、一方の縁部42に、板厚を増加させた増肉部51を複数個備え、増肉部51と増肉部51との間に非増肉部52を備えている。このため、剛性あるいは強度を必要とする局所部位が間隔を隔てて存在するプレス成形品の素材として好適なプレス成形品用ワーク291を提供することができる。
第7の実施形態においては、増肉用プレス装置200は、縁部42に間隔を隔てて設けられた複数の突出部61を同時に押圧するように構成している。そして、縁部42に間隔を隔てて設けられた複数の突出部61を同時に押圧して、プレス成形品用ワーク291を得る。複数の突出部61を同時に押圧することによって、ぞれぞれの増肉部51が均等なものとなる。なお、本発明は、縁部42に間隔を隔てて設けられた複数の突出部61をタイミングをずらして押圧することを妨げるものではない。
第7の実施形態においては、上記のように、一方の縁部42に間隔を隔てて設けた複数の突出部61のそれぞれから、複数の増肉部51を形成している。本発明は、この場合に限定されるものではない。間隔を隔てて設けた複数の突出部61を押圧することによって、複数の箇所から生じはじめた増肉の範囲を互いに重なり合わせて、1つの増肉部51を形成することを妨げるものではない。このように縁部を押し込む部位の位置や個数、複数個設定する場合の押し込む部位同士の間隔などを適宜設定することによって、プレス成形品用ワーク291における増肉部51や非増肉部52を形成する自由度が増す。その結果、剛性あるいは強度を必要とする局所部位が異なる種々のプレス成形品を容易に成形することが可能となる点も本発明の利点の一つである。
(第8の実施形態)
次に、第8の実施形態を説明する。
図28(A)は、第8の実施形態に係るワーク400を、押圧型410および受け型411とともに示す断面図、図28(B)は、第8の実施形態に係るプレス成形品用ワーク401を、押圧型410および受け型411とともに示す断面図、図29(A)は、図28(A)の要部を示す部分拡大図、図29(B)は、対比例に係るワーク420の要部を示す部分拡大図である。図28(A)に示すワーク400には、増肉工程後のプレス成形品用ワーク401の外形形状401aを破線を用いて表している。なお、第1の実施形態と共通する部材については同じ符号を付し、その説明は一部省略する。
第8の実施形態は、第7の実施形態と同様に、ワーク400の第2の縁部42に、突出部61を間隔を隔てて2個設けてある(図28(A))。第1の縁部41における接触面積S1と、第2の縁部42における接触面積S2との間に比較的大きい面積差ΔSを有している(S1>S2)。増肉工程においては、第1の縁部41を受け型411によって受けた状態で、第2の縁部42を押圧型410によって押圧する。増肉工程を経たプレス成形品用ワーク401は、板厚を増加させた2個の増肉部51を間隔を隔てて有し、2個の増肉部51の間に非増肉部52を有している(図28(B))。
ここで、図29(A)をも参照して、ワーク400において押し込まれる縁部は、プレス成形品用ワーク401の外形形状401aを基準にして法線方向の幅寸法(a)が等しい領域Zを含んでいる。幅寸法をこのように規定することによって、増肉工程において、法線方向に押し込まれる量が等しい領域を形成することができる。
さらに詳しくは、第8の実施形態にあっては、ワーク400において押し込まれる縁部に、突出部61を設けてある。この突出部61は、破線を用いて囲んで示すように、プレス成形品用ワーク401の外形形状401aを基準にして法線方向の幅寸法(a)が等しい領域Zを含んでいる。増肉工程において、法線方向に押し込まれる量が等しい領域を形成する。この結果、プレス成形品用ワーク401における板厚の増加は、押し込んだ縁部から、波紋が水面を拡がるように均等に拡がる。増肉によって剛性または強度を高めた部位を、押し込んだ縁部から均等に拡がるように形成することができる。したがって、このようなプレス成形品用ワーク401をプレス成形することによって、剛性または強度を高めた部位が均等に拡がったプレス成形品を得ることが可能となる。
なお、突出部61の両端にはアール部を設けているので、この部分においては、法線方向の幅寸法(b)は、上記領域における幅寸法(a)よりも小さくなっている(b<a)。突出部61は、その全域が、法線方向の幅寸法が同一である必要はない。突出部61は、プレス成形品用ワーク401の外形形状401aを基準にして法線方向の幅寸法(a)が等しい領域を一部に含んでいれば足りる。
図29(B)を参照して、対比例に係るワーク420にあっては、押し込まれる縁部421は、プレス成形品用ワーク401の外形形状401aを押圧型410の進退方向に平行移動(図中、水平の矢印h)させた形状420aを含んでいる。プレス成形品用ワーク401の外形形状401aは、押圧型410の進退方向(矢印hの方向に等しい)に対して傾斜している。このため、単に平行移動した形状420aを設定したのでは、法線方向の幅寸法c1、c2が異なることになるので、増肉工程において、法線方向に押し込まれる量が異なる領域を形成する。平行移動した形状420aが押圧型410の進退方向に直交する場合の傾斜角をゼロとすると、傾斜角が大きくなるほど、押し込み量が小さくなる。この結果、プレス成形品用ワークにおける板厚の増加は、押し込んだ縁部から均等に拡がらず、増肉によって剛性または強度を高めた部位もまた、押し込んだ縁部から不均等に拡がる。このようなプレス成形品用ワークをプレス成形しても、剛性または強度を高めた部位が不均等に拡がったプレス成形品しか得ることができない。
よって、第8の実施形態のように、ワーク400において押し込まれる縁部に、プレス成形品用ワーク401の外形形状401aを基準にして法線方向の幅寸法(a)が等しい領域を含めることによって、剛性または強度を高めた部位が均等に拡がったプレス成形品を得ることができる。
突出部61を押し込む形態について説明したが、本発明はこの場合に限定されない。周囲と面一となった縁部を押し込んだり、周囲から内方に後退した凹部形状を有する縁部を押し込んだりする場合にも、押し込まれる縁部に、プレス成形品用ワークの外形形状401aを基準にして法線方向の幅寸法が等しい領域を含めることができる。
なお、本発明は、上記の対比例のように、ワーク420において押し込まれる縁部421に、プレス成形品用ワークの外形形状401aを基準にして法線方向の幅寸法を異ならせた領域を含ませる形態を除外するものではない。プレス成形品の形状や要求される強度分布などによっては、剛性または強度を高めた部位を均等に拡げたプレス成形品用ワークを適用するのではなく、剛性または強度を高めた部位を偏ったパターンによって拡げたプレス成形品用ワークを適用する場合もあり得るからである。
(第9の実施形態)
次に、第9の実施形態を説明する。
図30は、第9の実施形態に係る増肉用プレス装置200を、ワーク30をセットする状態において示す断面図、図31は、増肉用プレス装置200を、増肉加工を行う前の状態において示す断面図、図32は、増肉用プレス装置200を、増肉加工を行っている状態において示す断面図、図33は、増肉用プレス装置200を、増肉加工を行った後の状態において示す断面図、図34は、増肉用プレス装置200を、ワーク30を取り出す状態において示す断面図である。なお、第1〜第4の実施形態と共通する部材については同じ符号を付し、その説明は一部省略する。
第9の実施形態は、第1と第2の拘束部材251、252がワークを拘束する方向に対して交差する方向(図中上下方向)に開閉自在な増肉用型205を押圧手段に適用し、型締めに連動させて増肉加工を行っている。この点において、ワーク30の板厚方向に沿って開閉される増肉用型205の型締めに連動させて増肉加工を行う第4の実施形態と相違する。
第9の実施形態にあっては、上型210には、型締めに連動してワーク30の第2の縁部42を第1の縁部41の側に向けて押圧する押圧用ポンチ235を設けている。下型220には、第4の実施形態における上ホルダ(第1の拘束部材)251、下ホルダ(第2の拘束部材)252に相当する一対のホルダが収納される断面略コの字型のフレーム285を配置している。
増肉加工の際にワーク30の第2の縁部42が当接する押圧用ポンチ235の端面は、第2の当接部225を構成する。第1の拘束部材251においてワーク30の第1の縁部41が当接して配置される部位は、第1の当接部215を構成する。
フレーム285には、第2の拘束部材252を第1の拘束部材251に向けて押圧する押圧力p(板押さえ力)を付勢する付勢手段245を設けている。したがって、第2の拘束部材252は、増肉用型205の開閉方向と直交する方向(図中左右方向)に向かうように押圧されながら、第1の拘束部材251との間においてワーク30を拘束する。付勢手段245には、第2の拘束部材252を押圧するための押圧面を備えたパッド部材289を設けている。パッド部材289には、例えば、弾性部材等を利用することが可能である。
ワークに対して型締めによる型締め力と、板押さえ力とが向かい合わせて付与されるような場合には、付勢手段に抗して型締めを行うことになるため、単純にワークを増肉させる加工を行う場合よりも大きな型締め力が必要になる。例えば、比較的大きな面積を有するワークを増肉加工するような場合にあっては、型締め力を発生させるための大型の油圧プレス装置等が必要となり、加工に際しての準備に手間がかかる。これによって、増肉加工の生産性の低下が招かれることになる。そこで、図示されるように、型締め方向と、板押さえ力がワークに対して付与される方向とを互いに交差するように設定している。ワークに対して板厚方向に板押さえ力を付与することを可能にしつつ、増肉に要する型締め力の増加を抑制することを可能にし、生産性の低下が生じることを防止している。
上型210には、後述する第5の付勢手段288との関係によって、ワーク30に対する押圧用ポンチ235の押し込み量を調整するための第3の付勢手段286を配置している。第3の付勢手段286は、第1の拘束部材251をフレーム285下端部(図中下方向)の側に向けて押圧する押圧力を付与する。第3の付勢手段286には、第1の拘束部材251を押圧するための押圧面を備えたパッド部材289を設けている。
第2の拘束部材252とワーク30との間には、弾性パッド271を配置している。付勢手段245によって第2の拘束部材252に付与された押圧力を弾性パッド271を介してワーク30に伝達させる。弾性パッド271によって、増肉予定部32にしわが発生することを抑えながら増肉部51を形成させることを可能にしている。
フレーム285には、弾性パッド271を上型210に向けて押圧する押圧力を付勢する第4の付勢手段287を設けている。第4の付勢手段287を設けることによって、増肉加工の開始時における弾性パッド271の上死点、および型締めした状態において弾性パッド271が配置される下死点の設定を容易に行うことを可能にしている。
フレーム285には、さらに、第1の拘束部材251を上型210に向けて押圧する押圧力を付勢する第5の付勢手段288を設けている。第5の付勢手段288を設けることによって、増肉加工の開始時点における第1の拘束部材251の上死点、および型締めした状態において配置される第1の拘束部材251の下死点の設定を容易に行うことを可能にしている。第5の付勢手段288には、第1の拘束部材251を押圧するための押圧面を備えたパッド部材289を設けている。
ここで、第5の付勢手段288からは、第3の付勢手段286が第1の拘束部材251に対して付与する押圧力よりも小さな押圧力を第1の拘束部材251に対して付与させる。型締めが開始される前には、第3と第5の付勢手段286、288によって挟持させるようにして第1の拘束部材251を上死点に配置する(図31)。型締めに際し、第3の付勢手段286は、第1の拘束部材251に対して押圧力を付与し、第1の拘束部材251を下死点まで押し下げる(図32)。第1の拘束部材251が下死点に至った状態で型締めを進行すると、第3の付勢手段286の押圧しろdの範囲内において押圧用ポンチ235をワーク30に向けて押し下げることが可能になる(図33)。このように、第3の付勢手段286が付与する押圧力、および第5の付勢手段288が付与する押圧力を調整することによって、ワーク30に対する押圧用ポンチ235の押し込み量を容易に調整することが可能になる。
第3〜第5の付勢手段286〜288を用いるため、これらの付勢手段によって付与される押圧力に抗して型締めを行うことになるが、第3〜第5の付勢手段286〜288によって付与される押圧力は、弾性パッド271および第1の拘束部材251を移動させるために必要な範囲内において十分小さなものに設定することができる。したがって、増肉加工の際にワーク30を拘束するために必要とされる押圧力よりも小さな押圧力に設定することができ、第3〜第5の付勢手段286〜288を用いる場合であっても、型締め力を低減させる効果を発揮させることが可能になっている。
第3〜第5の付勢手段286〜288には、例えば、ガススプリングなどのスプリング機構を用いることができる。
増肉が終了した後、型開きを行うと、弾性パッド271、および第1の拘束部材251は、それぞれの上死点へ向けて移動するが、この際、第1の拘束部材251の下死点から上死点までの移動量(上昇量)を弾性パッド271の移動量よりも大きく設定することが望ましい(図33、および図34)。このように設定すると、型開きによってワーク30が弾性パッド271から押し出されるように取り出される。したがって、ワーク30の取り出し作業を容易に行うことが可能になり、作業効率を向上させることができる。
次に、第9の実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明する。他の実施形態において共通する工程については、説明を一部省略する。
図30を参照して、上型210と下型220とを開いた状態で第1の拘束部材251と弾性パッド271との間にワーク30を配置する。
図31を参照して、上型210を下型220に向けて接近移動させて型閉めを行う。型締めは、付勢手段がワーク30に対して板押さえ力pを付与する方向に対して直交するように上型210を移動(図中下方)させて行う。上型210とともに押圧用ポンチ235をワーク30に向けて移動させる。
図32を参照して、型締めによって第1の拘束部材251を下死点まで移動させる。第1の拘束部材251は、第3の付勢手段286によって付与される押圧力によって押し下げる。第1の拘束部材251が下死点に至ると、第3の付勢手段286に押圧しろdが生じる。
図33を参照して、型締めを続けることによって、押圧しろdの範囲内において押圧用ポンチ235が移動し、ワーク30の第2の縁部42を押圧する。これによって、第1の縁部41と第2の縁部42とが相対的に接近し、平板状部分が圧縮されてワーク30が増肉されることになる。
付勢手段245によって、ワーク30に対して板押さえ力pを付与しながら増肉加工を行う。第2の拘束部材252がワーク30の肉厚の増加に追従して可動するため、増肉予定部32にしわが発生することを効率的に抑えながら増肉部51を形成することができる。
型締め方向と、板押さえ力pがワークに対して付与される方向とを互いに交差するように設定しているため、ワーク30に対して板厚方向に板押さえ力pを付与しつつ、増肉に要する型締め力の増加を抑制させることができる。
図34を参照して、増肉加工が終了した後、型開きを行う。
第1の拘束部材251の下死点から上死点までの移動量を弾性パッド271の移動量よりも大きく設定しているため、型開きによってワーク30を弾性パッド271から押し出すように取り出すことができる。ワーク30の取り出し作業を容易に行うことが可能になり、作業効率を向上させることができる。
第9の実施形態においても、第4の実施形態と同様に、第2の拘束部材252が肉厚の増加に追従して可動し、さらに、ワーク30に接する弾性パッド271が肉厚の増加に追従して弾性変形することから、増肉予定部32にしわが発生することを抑えながら増肉部51を形成することができる。
第1と第2の拘束部材251、252がワークを拘束する方向に対して交差する方向に開閉自在な増肉用型205を押圧手段に適用し、型締めに連動させて増肉加工を行っている。型締め方向と、板押さえ力がワークに対して付与される方向とが互いに交差するように設定されるため、ワーク30に対して板厚方向に板押さえ力pを付与することを可能にしつつ、増肉に要する型締め力の増加を抑制することができる。したがって、装置構成を簡素化することができ、加工に際しての準備を簡略化して行うことが可能になる。これによって、増肉加工の生産性の低下が招かれることを防止できる。
押圧手段には、開閉自在な押圧用型205を利用しているが、これに限定されず適宜変更することが可能である。例えば、押圧用ポンチ235に相当する部材が設けられた進退移動可能なシリンダ装置等を適用することも可能である。
(第10の実施形態)
次に、第10の実施形態を説明する。
図35、および図36は、第10の実施形態に係るワーク30の要部を拡大して示す平面図、図37は、増肉加工後のワーク20の外観を示す平面図である。なお、第1の実施形態と共通する部材については同じ符号を付し、その説明は一部省略する。
第10の実施形態にあっては、第1または第2の縁部41、42に部分的に突出部61を形成している。増肉部は、ワークにおいて部分的に剛性を向上させたい部位を適宜選択して形成させるが、例えば、増肉加工後のワークを他のワークと溶接して製品を製造するような場合には、接合部位での亀裂や溶接部における溶け落ちを積極的に防止させたい部位に形成させることが望ましい。さらに、突出部を押し込む方法によって増肉部を形成させるような場合にあっては、突出部を設けることによって生じ得るワークの重量の増加や、それに伴う材料費の増加が招かれることを防止するための対策を講じることが望ましい。
そこで本実施形態にあっては、第1または第2の縁部41、42に部分的に突出部61を設け、ワーク30において増肉させることが必要である部位に局所的に増肉部51を形成させる。以下、ワーク20に局所的な増肉部51を形成させるための突出部61の好適な形態について説明する。
図35(A)(B)を参照して、図示されたワーク30は、平板形状の鋼板を成形したものであり、略L字型の第2の縁部42を形成させている。第2の縁部42には、成形によってL字型部分の略中央部分からワーク30外方に伸びるように突出部61を形成させている。
押圧用ポンチ235によってワーク30内方に向けて突出部61を押し込むことによって、局所的に増肉部51を形成させることができる。増肉されたワーク20と、他のワークとを溶接する場合において、増肉部51を溶接部に設定することによって、ワーク20の溶け落ちや、ワーク20に亀裂が生じることを好適に防止することが可能になる。
図36(A)(B)を参照して、図示されたワーク30は、平板形状の鋼板を成形したものであり、略L字型の第2の縁部42には、他の部位よりも窪んだ部位、およびその窪んだ部位に連なるようにオーバーハングさせた部位45を形成している。このオーバーハングさせた部位45を突出部61として利用する。
押圧用ポンチ235によってワーク30内方に向けて突出部61を押し込むことによって、増肉部51を同時に2箇所に形成させる。増肉部51を溶接部に設定することによって、ワーク30の溶け落ちや、ワーク30に亀裂が生じることを防止できる。ここで、局所的に形成された増肉部51が2箇所に形成されたワーク30を溶接するような場合には、例えば、この2箇所を溶接開始点、および溶接終了点に設定することによって、効果的にワーク30の溶落ちを防止することができ、溶接品質を向上させることが可能になる。
図37を参照して、増肉部51を局所的に形成しているため、増肉された部位が占める割合は、ワーク20全体に対して非常に小さくなる。
以上、本実施形態にあっては、突出部61を局所的に形成される増肉部51に合わせて、必要な形状、および必要な個数だけ形成させているため、突出部61の形成に伴うワーク30の重量の増加や、材料費の増加を抑制することができる。
突出部61は、ポンチ等によって押圧力を付与するプレス成形によってワーク30内に押し込むことができるため、増肉部51の生産性を向上させることができる。ワーク自体に増肉された部位を形成し、強度を向上させることができるため、テーラードブランク溶接を行う必要がなく、設備投資費を低減させることができる。
図38〜40は、第10の実施形態の適用例1を説明するための図である。
図38(A)は、適用例1に係るプレス成形品用ワーク521を打ち抜き加工する前の状態において示す平面図、図38(B)は、プレス成形品用ワークを打ち抜き加工した後の状態において示す平面図であり、図39(A)(B)は、プレス成形品用ワーク521を増肉加工している状態を示す平面図であり、図40は、プレス成形品用ワーク521を適用した製品例を示す平面図である。
本適用例にあっては、自動車部品であるリア・アスクルビーム500の構成部材に増肉加工されたプレス成形品用ワーク520を適用している。リア・アスクルビーム500は、ビーム部品520とアームアクスル530から構成されている。増肉加工したプレス成形品用ワーク521をプレス成形し、ビーム部品520として利用している(図40)。
図38(A)(B)を参照して、シート形状のプレス成形品用ワーク521を打ち抜き加工し、第2の縁部42とともに、突出部61を成形する。
突出部61は、それぞれの第2の縁部42に対して2個形成し、互いに向かい合うように突出させた形状にする。
図39(A)(B)を参照して、押圧用ポンチ235によって、突出部61をプレス成形品用ワーク521の内方に向けて押圧し、流動させて増肉部51を形成させる。第2の縁部42の周辺には、それぞれ2箇所の増肉部51が形成されることになる。
増肉加工した後、プレス成形品用ワーク521をプレス成形し、製品形状に近似した形状とし、ビーム部品520を構成させる。
図40を参照して、ビーム部品520と予め準備されたアームアクスル530とを溶接し、リア・アスクルビーム500を完成させる。
プレス成形用ワーク521のそれぞれの第2の縁部42に形成された2箇所の増肉部51のうち、一方の増肉部51をアームアクスル520との溶接を行うための溶接開始点に設定し、他方の増肉部を溶接終了点に設定する。増肉部51を溶接開始点、溶接終了点に設定して溶接作業を行うため、溶接作業の際に溶け落ち等が生じることを防止できる。し
たがって、製品品質の向上を図ることができる。
図41〜44は、第10の実施形態の適用例2を説明するための図である。
図41(A)(B)は、打ち抜き加工して成形されたプレス成形品用ワーク521を曲げ成形するための曲げ加工プレス機550を示す断面図、図42は、曲げ加工後のプレス成形品用ワーク521の外形形状を示す図であり、図42(A)は、プレス成形品用ワーク521の断面図、図42(B)は、プレス成形品用ワーク521の要部を拡大して示す斜視図、図43(A)(B)は、プレス成形品用ワーク521を増肉加工している状態を示す平面図、図43(C)は、増肉加工後のプレス成形品用ワーク521の外観を示す斜視図、図44は、曲げ加工されたプレス成形品用ワーク521の外形形状の一例を示す断面図である。
本適用例にあっては、打ち抜き加工して成形されたプレス成形品用ワーク521に対して曲げ加工を行っている点において、上述した適用例1と相違している。
図41(A)(B)を参照して、打ち抜き加工によってプレス成形品用ワーク521を成形した後(図38(B))、曲げ加工プレス機550によって曲げ加工を行う。曲げ加工プレス機550の下型552にプレス成形品用ワーク521を配置した状態で上型551型締めする。型締めによってプレス成形品用ワーク521をU字断面形状に成形する。
図42(A)(B)を参照して、プレス成形品用ワーク521は、突出部61が残存した状態で曲げ加工され、断面が略U字形状に成形される。
図43(A)〜(C)を参照して、プレス成形品用ワーク521に対して曲げ加工を行った後、押圧用ポンチ235によって突出部61を押圧し、増肉部51を形成させる。
増肉加工した後、プレス成形品用ワーク521をプレス成形し、製品形状に近似した形状とし、ビーム部品520を構成させる。
プレス成形品用ワーク521をビーム部品520とし、アームアクスル530と溶接することによって、リア・アスクルビーム500を完成させる(図40)。溶接の際には、増肉部51を溶接開始点、および溶接終了点にそれぞれ設定し、溶接作業を行う。
上述した適用例1と同様に、曲げ加工を行った後のプレス成形品用ワーク521を増肉加工し、他の部材と溶接した場合においても、溶接作業を良好に行うことができ、製品品質の向上を図ることができる。
適用例2にあっては、曲げ加工によってプレス成形品用ワーク521の断面が略U字型となるように成形しているが、これに限定されるものではなく、例えば図44に示されるように、ストレート部分522を残した形状に成形したものを製品に適用することも可能である。