JP5406233B2 - 二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板およびその製造方法 - Google Patents

二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、溶体化熱処理を省略した安価な合金元素節減型二相ステンレスクラッド鋼板およびその製造方法に係わり、海水淡水化機器、輸送船のタンク類、各種容器等として使用可能な二相ステンレス鋼を合わせ材としたクラッド鋼板に関する。
二相ステンレス鋼は、Cr,Mo,Ni,Nを多量に含有し、金属間化合物、窒化物が析出しやすいため1000℃以上の溶体化熱処理を加えて析出物を固溶させ、熱間圧延鋼材として製造されていた。
このため、二相ステンレス鋼を合わせ材としたクラッド鋼板の製造に際しては、1000℃以上の高い温度の熱処理で機械特性を確保することができるように化学組成を工夫した炭素鋼を母材とするか(特許文献1など)、熱間圧延条件を制御することにより熱処理を省略して二相ステンレスクラッド鋼板を製造するか(特許文献2など)、あるいは熱間圧延中に再加熱して合わせ材中の析出を抑える(特許文献3など)等の措置が行われていた。
ところで、最近、Ni、Mo等を節減した合金元素節減型二相ステンレス鋼が開発され、金属間化合物の析出感受性が大きく低下した実用鋼が使用されるに至っている。
これらの合金元素節減型二相ステンレス鋼の材質に対して、主に影響する析出物はクロム窒化物である。
クロム窒化物は、CrとNが結合した析出物であり、二相ステンレス鋼においては立方晶のCrNまたは六方晶のCrNがフェライト粒内もしくはフェライト粒界に析出することが多い。これらのクロム窒化物が生成すると、衝撃特性を低下させるとともに、析出にともなって生成するクロム欠乏層により耐食性が低下する。
本発明者らは、クロム窒化物の析出と成分組成との関係を明らかにし、成分組成を制御してクロム窒化物の析出を抑制するという考え方にもとづいた材質設計により、耐食性や衝撃特性が良好な合金元素節減型二相ステンレス鋼種を発明し、開示している(特許文献4)。特に、Mn含有量を増加することでクロム窒化物の析出を抑制するという手法を、新しい合金元素節減型二相ステンレス鋼の成分設計に反映させている。そして、このような合金元素節減型二相ステンレス鋼は、コストが低く耐食性などの特性面でも優れていることから、既に各分野において使用されつつある。
本発明者らは、上記の合金元素節減型二相ステンレス鋼のクラッド鋼板合わせ材への適用について新たに着目し、研究開発を実施した。クラッド鋼板は、合わせ材として用いられるステンレス鋼に耐食性を、母材に強度・靱性と溶接性を持たせることにより複合的な特性を経済的に得ることができる熱延鋼材である。
クラッド鋼板は、合わせ材としてのステンレス鋼と母材とが構造的に接合される部位に用いられ、一般に板厚が厚く、特に強度や靭性が求められる用途に使用されている。例えば、海水淡水化機器、輸送船のタンク類等が挙げられ、従来その多くはオーステナイト系ステンレス鋼が合わせ材として用いられてきた。
しかし、これらの用途のステンレス鋼が安価な二相ステンレス鋼に変更される趨勢が進みつつあり、合わせ材を二相ステンレス鋼としたさらに安価なクラッド鋼板の要求が高まっている。
ところで、従来の二相ステンレス熱延鋼板やクラッド鋼板の製造では、溶体化処理が欠かせないものとなっている。前記したように二相ステンレス鋼において耐食性を低下させる金属間化合物やクロム窒化物を解消するのに必要なためである。特に、本発明が対象とするクラッド鋼板の合わせ材に用いられる合金元素節減型二相ステンレス鋼は、熱間加工の温度域で窒化物が析出しやすい性質を持っており、熱間圧延を終了した状態でクロム窒化物が鋼材中に分散することで耐食性が低下する。
溶体化熱処理を施すことにより、合わせ材中のクロム窒化物を消失させることが可能であるが、1000℃以上の溶体化処理を施すと母材の靱性が低下してしまうため、上記クラッド鋼板の用途から言えば好ましくない処理である。また、更なるコスト低減への要求や、近年の使用エネルギー削減の要求からも、溶体化処理を省略してクラッド鋼板製造コストや製造に要するエネルギーを低減することが望まれている。
特開平7−292445号公報 特公平4−22677号公報 特公平6−36993号公報 WO2009−119895号公報
本発明は、母材の靭性と合金元素節減型二相ステンレス鋼合わせ材の耐食性を併せ持つクラッド鋼板、及び溶体化熱処理を省略して使用エネルギーが少なく、環境面でも優れた安価なクラッド鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するためには、クラッド鋼板製造過程の、母材と合わせ材とを熱間圧延で接合する工程において、合わせ材である二相ステンレス鋼中にクロム窒化物が析出しなければ、後工程である溶体化熱処理を省略しても耐食性が損なわれないと考えた。
そこで、クラッド鋼板の合わせ材に熱間圧延温度を低下させても高い耐食性を維持できる合金元素節減型二相ステンレス鋼を用いることで解決策を見出すことを考えた。
そして、このような合金元素節減型二相ステンレス鋼を得るには、溶体化熱処理を省略した熱延鋼材の化学組成、熱間加工条件とクロム窒化物の析出量等を含む金属組織の状態、さらに鋼材の衝撃特性、耐食性の関係などについての知見を得ることが必要であると考え、以下の実験をおこなった。
熱間圧延中におけるクロム窒化物の析出に関する指標として、新たにクロム窒化物析出温度TNを設定し、このクロム窒化物析出温度TNが異なる鋼材を用いて、熱間圧延の加熱温度を1150〜1250℃、熱間圧延の最終仕上圧延パスの入側温度TFと、熱間圧延終了後の加速冷却開始温度TCをそれぞれ変更し、板厚10mmから35mmの熱間圧延鋼材を得た。そして、得られた熱延鋼材および溶体化熱処理を施した鋼材について強度、衝撃特性、耐食性を評価した。
ついで上記の実験で得た合金元素節減型二相ステンレス鋼をクラッド合わせ材として用い、この合わせ材の厚さを3mmとし、クラッド鋼板の厚さを10mmから35mmとしたクラッド鋼板を熱間圧延により得て、強度、衝撃特性、耐食性を評価した。
以上の実験を通じて、合金元素節減型二相ステンレス鋼を合わせ材として用いて溶体化熱処理を省略したクラッド鋼板について明示した本発明の完成に至った。
すなわち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板であって、該二相ステンレス鋼が、
質量%で、
C :0.03%以下、 Si:0.05〜1.0%、
Mn:0.5〜7.0%、 P :0.05%以下、
S :0.010%以下、 Ni:0.1〜5.0%、
Cr:18.0〜25.0%、 N :0.05〜0.30%、
Al:0.001〜0.05%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、
熱間圧延中におけるクロム窒化物の析出に関する指標となるクロム窒化物析出温度TNが800〜970℃であることを特徴とする二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板。
(ここで、クロム窒化物析出温度TNは、溶体化熱処理された鋼材を800〜1000℃で20分間の均熱処理後、5秒以内に水冷に供し、冷却後の鋼材についてクロム窒化物の析出量を非金属介在物の電解抽出残渣分析法によって求め、Cr残渣量が0.01%以下となる均熱処理温度のうちの最低温度とする。)
(2)二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板であって、該二相ステンレス鋼が、
質量%で、
C :0.03%以下、 Si:0.05〜1.0%、
Mn:0.5〜7.0%、 P :0.05%以下、
S :0.010%以下、 Ni:0.1〜5.0%、
Cr:18.0〜25.0%、 N :0.05〜0.30%、
Al:0.001〜0.05%
を含有し、更に、
V :0.05〜0.5%、 Nb:0.01〜0.20%、
Ti:0.003〜0.05%
から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、
熱間圧延中におけるクロム窒化物の析出に関する第二の指標となるクロム窒化物析出温度TN2が800〜970℃であることを特徴とする二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板。
(ここで、クロム窒化物析出温度TN2は、溶体化熱処理された鋼材を800〜1000℃で20分間の均熱処理後、5秒以内に水冷に供し、冷却後の鋼材についてクロム窒化物の析出量を非金属介在物の電解抽出残渣分析法によって求め、Cr残渣量が0.03%以下となる均熱処理温度のうちの最低温度とする。)
(3)前記二相ステンレス鋼が、更に、
Mo:1.5%以下、 Cu:2.0%以下、
W :1.0%以下、 Co:2.0%以下
から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板。
(4)前記二相ステンレス鋼が、更に、
B :0.0050%以下、 Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0030%以下、 REM:0.10%以下
から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板の製造方法であって、
母材と合わせ材とを熱間圧延で接合するときに、合わせ材に選択的成分であるV、Nb、Tiを含有しないクラッド鋼板については下記(1)式に従って、前記選択的成分を含有するクラッド鋼板については下記(2)式に従って、熱間圧延の最終仕上圧延パスの入側温度TFで熱間圧延し、熱間圧延の最終仕上圧延パスの入側温度TFから600℃までの温度域を5分以下の時間で冷却することを特徴とする二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板の製造方法。
TF ≧ TN −100 ・・・ (1)
TF ≧ TN2−100 ・・・ (2)
(6)合わせ材に選択的成分であるV、Nb、Tiを含有しないクラッド鋼板については下記(3)式に従って、前記選択的成分を含有するクラッド鋼板については下記(4)式に従って、熱間圧延終了後の加速冷却開始温度TCから加速冷却を開始することにより、熱間圧延の最終仕上圧延パスの入側温度TFから600℃までの温度域を5分以下の時間で冷却することを特徴とする前記(5)に記載の二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板の製造方法。
TC ≧ TN −250(但し、TF≧TC) ・・・ (3)
TC ≧ TN2−250(但し、TF≧TC) ・・・ (4)
本発明により、海水淡水化機器、輸送船のタンク類、各種容器等として従来より合金元素を節減したクラッド鋼板を用いることができ、かつ安価で製造に使用するエネルギーが少ない鋼材であるなど産業面、環境面に寄与するところは極めて大である。
以下に、先ず、本発明の請求項1記載の限定理由について説明する。単位%は、質量%である。請求項1に係る二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板の合わせ材は、C,Si,Mn,P,S,Ni,Cr,N,Alを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる。
Cは、ステンレス鋼の耐食性を確保するために0.03%以下の含有量に制限する。0.03%を越えて含有させると熱間圧延時にCr炭化物が生成して、耐食性、靱性が劣化する。
Siは、脱酸のため0.05%以上添加する。しかしながら1.0%を超えて添加すると靱性が劣化する。そのため、上限を1.0%に限定する。好ましい範囲は0.2〜0.7%である。
Mnは、オーステナイト相を増加させ靭性を改善する効果を有し、母材および溶接部の靱性のため0.5%以上添加する。また、窒化物析出温度TNを低下させる効果を有するため、本発明鋼材では積極的に添加することが好ましい。しかしながら、7.0%を超えて添加すると耐食性および靭性が劣化する。そのため、上限を7.0%に限定する。好ましい含有量は1.0〜6.0%であり、さらに好ましくは2.0〜5.0%である。
Pは、原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性および靱性を劣化させるため0.05%以下に限定する。好ましくは0.03%以下である。
Sは、原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性、靱性および耐食性をも劣化させるため0.010%以下に限定する。好ましくは0.0020%以下である。
Niは、オーステナイト組織を安定にし、各種酸に対する耐食性、さらに靭性を改善するため0.1%以上含有させる。Ni含有量を増加することにより窒化物析出温度を低下させることが可能になる。一方、高価な合金であり、合金元素節減型二相ステンレス鋼を合わせ材とする本発明鋼ではコストの観点より5.0%以下の含有量に制限する。好ましい含有量は1.0〜4.0%であり、さらに好ましくは1.5〜3.0%である。
Crは、基本的な耐食性を確保するため18.0%以上含有させる。一方25.0%を超えて含有させるとフェライト相分率が増加し、靭性および溶接部の耐食性を阻害する。このためCrの含有量を18.0%以上25.0%以下とした。好ましい含有量は19.0〜23.0%である。
Nは、オーステナイト相に固溶して強度、耐食性を高める有効な元素である。このために0.05%以上含有させる。固溶限度はCr含有量に応じて高くなるが、本発明鋼においては0.30%を越えて含有させるとCr窒化物を析出して靭性および耐食性を阻害するようになるため含有量の上限を0.30%とした。好ましい含有量は0.10〜0.25%である。
Alは、鋼の脱酸のための重要な元素であり、鋼中の酸素を低減するためにSiとあわせて含有させる。Si含有量が0.3%を越える場合は添加しなくて良い場合もあるが、酸素量の低減は靭性確保のために必須であり、このために0.001%以上の含有が必要である。一方でAlはNとの親和力が比較的大きな元素であり、過剰に添加するとAlNを生じてステンレス鋼の靭性を阻害する。その程度はN含有量にも依存するが、Alが0.05%を越えると靭性低下が著しくなるためその含有量の上限を0.05%と定めた。好ましくは0.03%以下である。
Oは、不可避的不純物であり、その上限を特に定めなかったが、非金属介在物の代表である酸化物を構成する重要な元素であり、過剰な含有は靭性を阻害する。また、粗大なクラスター状酸化物が生成すると表面疵の原因となる。好ましくは0.010%以下である。
請求項1の残りの項目についての限定理由を説明する。
熱間圧延中におけるクロム窒化物の析出に関する指標となるクロム窒化物析出温度TNは実験的に求められる特性値である。溶体化熱処理された鋼材を800〜1000℃で20分間の均熱処理後、5秒以内に水冷に供し、冷却後の鋼材についてクロム窒化物の析出量を実施例で詳述する非金属介在物の電解抽出残渣分析法によって求め、Cr残渣量が0.01%以下となる均熱処理温度のうちの最低温度と規定する。
TNが低いほどクロム窒化物の析出する温度域が低温側に限定されるため、クロム窒化物の析出速度や析出量が抑制され、熱間圧延ままの溶体化熱処理を省略した状態で合わせ材の耐食性が維持される。
ここで、均熱処理温度を800〜1000℃に規定するのは、一般的な熱間圧延温度域だからである。本発明では、一般的に行われる熱間圧延中にクロム窒化物を析出させないようにするため、当該温度域でもって規定する。
また、クロム窒化物が十分に平衡する時間として均熱処理温度を20分間に規定する。20分未満では析出量の変化が激しい区域に該当して測定の再現性が得られにくくなり、20分超で規定すると測定に長時間を要する。したがって、クロム窒化物を十分に平衡させて再現性を確保する観点からいえば、均熱処理温度を20分超としても構わない。
均熱処理後においては、水冷に供するまでに長時間を要すると徐々に鋼材温度が低下してクロム窒化物が析出してしまい、そうすると測定したかった温度でのクロム窒化物量とは異なる値が得られてしまう。したがって、均熱処理後5秒以内に水冷に供することとする。
また、Cr残渣量が0.01%以下となる温度のうちの最低温度と規定したのは、実験によって残渣量0.01%以下が耐食性や靭性に悪影響を及ぼさない析出量であることを確認したことによる。
熱間圧延ままの溶体化熱処理を省略した合金元素節減型二相ステンレス鋼について、耐食性と靭性を確保するためには、TNを970℃以下に設計することが必要であることが実験的に求められた。したがって、TNが970℃以下になるような成分組成を設計することが必要である。好ましくは930℃以下である。
また、TNは、N含有量を低下させることにより低下するが、本発明鋼では耐食性を高めるためにNを0.05%以上含有させており、この場合にTNを800℃未満にすることは困難である。そのため、TNの下限を800℃とした。
なお、TNを低下させるにはN量の低減が有効であるが、N量の極端な低下はオーステナイト相比率の低下と溶接部耐食性の低下とをもたらす。このため、オーステナイト相の生成元素であるNi,Mn,Cuの含有量とN含有量を適切に設計することが必要である。
本発明のクラッド鋼板は、合わせ材である二相ステンレス鋼のクロム窒化物析出温度を特定温度以下に限定することで得られる。したがって、クラッド鋼板の母材としては、普通鋼(炭素鋼)、及びステンレス鋼を除く合金鋼からなる群より1種以上を選択して用いることができ、特に限定されるものではない。目的用途に応じて適宜選択して使用できる。
合金鋼としては、低合金鋼、ニッケル鋼、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼、高速度鋼などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、普通鋼に1種以上の元素を添加した鋼であれば良い。
次に請求項2の規定内容について説明する。請求項2に係るクラッド鋼板の合わせ材は、C,Si,Mn,P,S,Ni,Cr,N,Alを含有し、更に、V,Nb,Tiから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる。
本発明者らは、合わせ材としてV,Nb,Tiを含有する合金元素節減型二相ステンレス鋼を用いる場合には、従来知見と異なる挙動を示すことを見出した。
即ち、合金元素節減型二相ステンレス鋼中へのV,Nb,Tiの微量の含有は、クロムの一部に置換した窒化物を構成し、クロム窒化物を増加させることが分かった。これはクロム窒化物析出温度をわずかに高めることを意味する。一般的な従来知見からすると、クロム窒化物量が増加すると耐食性が悪化すると思われたが、意外にもクロム窒化物の析出量が増加しても耐食性が向上する傾向を有することが明らかとなった。この知見を請求項2に規定した。
上記のように、V,Nb,Tiを微量に含有させる場合は、クロム窒化物の許容量が増加する。そのため、選択的成分であるV、Nb、Tiを含有する鋼材については、熱間圧延中におけるクロム窒化物の析出に関する第二の指標としてクロム窒化物析出温度を新たにTN2として規定し、Cr残渣量が0.03%以下となる均熱処理温度のうちの最低温度とした。
なお、請求項1で説明したクロム窒化物析出温度TNは、選択的成分であるV、Nb、Tiを含有しない鋼材における熱間圧延中におけるクロム窒化物の析出に関する指標であることは言うまでもない。
請求項2においては、このCr窒化物量が緩和されたTN2が970℃以下であれば、本発明の課題を解決することができる。好ましくは930℃以下である。また、TN2を実験的に求める手段、TN2の下限、TN2を減少させるための方法は、TNと同様である。なお、TN2においては、Cr残渣量が0.03%以下となる温度のうちの最低温度と規定したのは、実験によって残渣量0.03%以下が耐食性や靭性に悪影響を及ぼさない析出量であることを確認したことによる。
Vが形成する窒化物、炭化物は、熱間加工および鋼材の冷却過程で生成し、耐食性を高める作用を有する。この理由として十分な確認はなされていないが、700℃以下でのクロム窒化物の生成速度を抑制する可能性が考えられる。この耐食性の改善のために0.05%以上含有させる。0.5%を超えて含有させると粗大なV系炭窒化物が生成し、靱性が劣化する。そのため、上限を0.5%に限定する。添加する場合の好ましい含有量は0.1〜0.3%の範囲である。
Nbが形成する窒化物、炭化物は、熱間加工および鋼材の冷却過程で生成し、耐食性を高める作用を有する。この理由として十分な確認はなされていないが、700℃以下でのクロム窒化物の生成速度を抑制する可能性が考えられる。この耐食性の改善のために0.01%以上含有させる。一方、過剰な添加は、熱間圧延前の加熱時に未固溶析出物として析出するようになって靭性を阻害するようになるため、その含有量の上限を0.20%と定めた。添加する場合の好ましい含有率範囲は0.03%〜0.10%である。
Tiは、極微量で酸化物、窒化物、硫化物を形成し、鋼の凝固および高温加熱組織の結晶粒を微細化する元素である。またV、Nbと同様にクロム窒化物のクロムの一部に置換する性質も有する。0.003%以上の含有によりTiの析出物が形成されるようになる。一方0.05%を越えて二相ステンレス鋼に含有させると粗大なTiNが生成して鋼の靭性を阻害するようになる。このためその含有量の上限を0.05%と定めた。Tiの好適な含有率は0.005〜0.020%である。
請求項3では、合わせ材の耐食性を付加的に高める元素について規定した。選択的元素であるMo,Cu,W,Coから選ばれる1種または2種以上を更に含有する請求項3に係る発明の限定理由について説明する。
Moは、ステンレス鋼の耐食性を付加的に高める非常に有効な元素であり、必要に応じて含有させることができる。耐食性改善のためには0.2%以上含有させることが好ましい。一方で金属間化合物の析出を促進する元素であり、本発明鋼では熱間圧延時の析出を抑制する観点より1.5%の含有量を上限とする。
Cuは、ステンレス鋼の酸に対する耐食性を付加的に高める元素であり、かつ靭性を改善する作用を有するため0.3%以上含有させることが推奨される。2.0%を越えて含有させると熱間圧延時に固溶度を超えてεCuが析出し脆化を発生するので上限を2.0%とした。Cuを含有させる場合の好ましい含有量は0.3〜1.5%である。
Wは、Moと同様にステンレス鋼の耐食性を付加的に向上させる元素である。本発明鋼において耐食性を高める目的のためには1.0%を上限に含有させる。好ましい含有量は0.05〜0.5%である。
Coは、鋼の靭性と耐食性を高めるために有効な元素であり、選択的に添加される。その含有量は0.03%以上が好ましい。2.0%を越えて含有させると高価な元素であるためにコストに見合った効果が発揮されないようになるため上限を2.0%と定めた。添加する場合の好ましい含有量は0.03〜1.0%である。
請求項4では、熱間加工性の向上を図るために必要に応じて選択的に含有させるB,Ca,Mg,REMを下記の通り限定する。
B,Ca,Mg,REMは、いずれも鋼の熱間加工性を改善する元素であり、その目的で1種または2種以上添加される。B,Ca,Mg,REMいずれも過剰な添加は、逆に熱間加工性および靭性を低下するため、その含有量の上限を次のように定めた。
BとCaについては0.0050%、Mgについては0.0030%、REMについては0.10%である。好ましい含有量はそれぞれBとCa:0.0005〜0.0030%、Mg:0.0001〜0.0015%、REM:0.005〜0.05%である。ここでREMはLaやCe等のランタノイド系希土類元素の含有量の総和とする。
ついで本発明の請求項5記載の限定理由について説明する。
合わせ材を合金元素節減型二相ステンレス鋼とした圧延クラッド鋼板は、以下のような工程で製造される。まず、所定の厚さの母材と合わせ材の接合面を清浄にして重ね合わせ、四周を溶接により接合し、スラブを組み立てる。接合強度を高めるために真空脱ガス、接合面へのインサート材挿入などが適宜実施される。このスラブに通常の熱間圧延を施してクラッド鋼板が製造される。
熱間圧延の最終仕上圧延パスの入側温度TFは、母材の強度を支配し、これが低下するほど高い強度が得られる。また、低下しすぎると熱間圧延中に合わせ材中にクロム窒化物の析出量が増加し、耐食性を損なうようになる。
本発明者らの実験において、TFがクロム窒化物析出温度より100℃を超えて下回ると、耐食性の低下が限度を超えるようになったため、TFの下限をクロム窒化物析出温度−100(℃)と定めた。
すなわち、合わせ材に選択的成分であるV、Nb、Tiを含有しないクラッド鋼板については下記(1)式に従う、前記選択的成分を含有するクラッド鋼板については下記(2)式に従う、母材と合わせ材とを接合するときの熱間圧延の最終仕上圧延パスの入側温度TFを定めた。
TF ≧ TN −100 ・・・ (1)
TF ≧ TN2−100 ・・・ (2)
また、TFの上限について特に定めないが、母材の靱性を得るためには、TFの上限を960℃程度とすることが必要である。その温度は母材の組成によりいくらか上下する。
TFから600℃までの温度域の冷却時には、クロム窒化物の析出が進行する。この析出を抑制するには鋼材を速く冷却することが必要である。クロム窒化物の析出速度は、クロム窒化物析出温度が高い鋼種ほど大きくなる。クロム窒化物析出温度を970℃以下に制限した本発明において、TFから600℃までの冷却時間が5分を超えるとクロム窒化物の析出量が増加し、耐食性を損なうようになる。このため、この時間を5分以下と定めた。
請求項6ではクラッド鋼板の熱間圧延後の加速冷却について定めた。
熱間圧延終了後の加速冷却は、圧延終了後の合わせ材中へのクロム窒化物析出を抑制するために実施する。熱間圧延後の二相ステンレス鋼材中への析出は過冷却状態で進行するが、600〜800℃の中で析出速度が極大値を示す。その極大値はクロム窒化物析出温度からの過冷却度に応じて増加することから、仕上圧延後すみやかに冷却することが望ましい。また、板厚が20mmを超える場合は加速冷却を実施することが好ましく、本発明者らの実験結果にもとづき、その加速冷却開始温度TCをクロム窒化物析出温度−250(℃)以上とすることを規定する。
すなわち、合わせ材に選択的成分であるV、Nb、Tiを含有しないクラッド鋼板については下記(3)式に従う、前記選択的成分を含有するクラッド鋼板については下記(4)式に従う、熱間圧延終了後の加速冷却開始温度TCを定めた。
TC ≧ TN −250(但し、TF≧TC) ・・・ (3)
TC ≧ TN2−250(但し、TF≧TC) ・・・ (4)
なお、クロム窒化物析出温度−150℃からクロム窒化物析出温度までの範囲でTCを設定することが望ましい。また、この加速冷却は同時に母材の強度を高める作用も有する。
加速冷却の媒体は、水または気水混合で行うことが設備コストの観点より合理的である。
以下に実施例について記載する。表1に合わせ材の化学組成を示す。
なお、表1に示した成分について含有量が記載されていない部分は不純物レベルであることを示し、REMはランタノイド系希土類元素を意味し、含有量はそれら元素の合計を示している。また、Oは不可避的不純物である。
表中のクロム窒化物析出温度は、以下の手順で求めた。
(1) 10mm厚の供試鋼を後述する条件で溶体化熱処理する。
(2) 800〜1000℃の任意の温度で20分間均熱処理を行い、その後5秒以内に水冷を行う。
(3) 冷却後の供試鋼表層を#500研磨する。
(4) 3g試料を分取し、非水溶液中(3%マレイン酸+1%テトラメチルアンモニウムクロライド+残部メタノール)で電解(100mV定電圧)してマトリックスを溶解する。
(5) 0.2μm穴径のフィルターで残渣(=析出物)を濾過し、析出物を抽出する。
(6) 残渣の化学組成を分析し、そのクロム含有量を求める。この残渣中のクロム含有量をクロム窒化物の析出量の指標とする。
(7) (2)の均熱処理温度を種々変化させ、残渣中のクロム含有量が0.01%以下となる均熱処理温度のうちの最低温度をTNとする。また、V,Ti,Nbのいずれか1種以上を含有する場合は、クロム含有量が0.03%以下となる均熱処理温度のうちの最低温度をTN2とする。
クラッド鋼板は、表1に示した化学組成の二相ステンレス鋼を合わせ材とし、母材としてC:0.16%、Si:0.21%、Mn:0.63%、P:0.018%、S:0.006%、Ni:0.01%、Cr:0.04%、Cu:0.02%、残部Feおよび不可避的不純物の組成を有するSS400鋼を所定の厚さの素材とし、溶接により組み立て、厚さを130mmのスラブとして熱間圧延用の素材に用いた。
熱間圧延は、合わせ材側を下面として1150〜1220℃の所定の温度に加熱した後、実験室の2段圧延機によりクラッド鋼板を作成した。熱間圧延条件としては、10〜15回の圧下を繰り返し、最終板厚が10〜35mmとなるように760〜1000℃で仕上圧延を実施し、冷却床に移送して放冷、又は水冷した。このようにして合わせ材の厚さが3mmの圧延クラッド鋼板を得た。そして、この鋼板の一部を用いて1000℃で溶体化熱処理を実施し、孔食電位測定用試料とした。
合わせ材の孔食電位測定は、鋼材の表皮下1mmの面に対してJIS G0577に定められた方法にて電流密度が100μA/cmに対応する電位(VC’100)を測定した。溶体化熱処理を施す前後の鋼材についてそれぞれn=4で測定し、平均値を求めた。その平均値の差を表2、3に示した。
クラッド鋼板の引張試験は、JIS Z2201の1A号試験片(全厚板状引張試験片)を圧延直角方向に採取し、JIS Z2241に従って測定した。引張試験は常温にて各3本の試験を実施した。表2と表3に各3本の引張強度の平均値(MPa)の結果を示した。
クラッド鋼板の衝撃靭性は、母材より2mmV機械加工ノッチを圧延方向に加工したJIS4号シャルピー試験片を採取した。試験片採取の向きは、破面が圧延方向に平行に伝播するようにした。衝撃試験は、板厚10mmの材料については平行部が5mm幅のサブサイズ衝撃試験片を、板厚15mmの材料については10mm幅のフルサイズ衝撃試験片を母材より採取し、板厚25mmの材料については板厚中心より10mm幅のフルサイズ衝撃試験片を、板厚35mmの材料については母材側板厚1/4部を中心として10mm幅のフルサイズ衝撃試験片を採取した。
JIS G2242の方法に従って衝撃試験を実施した。試験温度は−20℃とし、最大エネルギー500J仕様の試験機にて各3本の衝撃試験を実施した。表2と表3に各3本の衝撃値の平均値(J/cm)の結果を示した。
表2に示す実施例は、表1に示した鋼を合わせ材とし、TF(熱間圧延最終仕上温度)を900℃として板厚10mmに仕上げ、その後空冷したクラッド鋼板の特性を示している。
クロム窒化物析出温度を970℃以下に低下した合わせ材を用いた鋼材において溶体化熱処理を省略した状態で、孔食電位差が0.10V未満の低下量にとどまる。また母材の引張強度はいずれも470〜490MPa、−20℃における衝撃値は40〜60J/cmであった。このように請求項1,2に開示した本発明のクラッド鋼材は、合わせ材の耐食性、母材の強度・衝撃特性に優れることが明らかである。
表3に示す実施例は、表1に示した合わせ材の一部を用いて、種々の熱間圧延条件にて10〜35mmの板厚のクラッド鋼板とし、耐食性、強度・衝撃特性を評価した結果を示している。
本発明例では、合わせ材の溶体化熱処理材との孔食電位差が0.10V未満の低下量にとどまる。また母材の引張強度が400MPa以上であり、−20℃における衝撃値が40J/cm以上を示す。このように請求項3、4に開示した条件で製造された本発明クラッド鋼板は耐食性、強度・衝撃特性に優れることが明らかである。
なお、比較例42では、TFが1000℃の非常な高温であり、このため母材の衝撃値が低く目的の衝撃特性に達していない。
以上の実施例からわかるように本発明により合金元素節減型二相ステンレス鋼を合わせ材とし、溶体化熱処理を省略した安価なクラッド鋼板が得られることが明確となった。
Figure 0005406233
Figure 0005406233
Figure 0005406233
本発明により、耐食性と靱性が良好な合金元素節減型の経済的なクラッド鋼板を提供することが可能となり、海水淡水化機器、輸送船のタンク類、各種容器等として使用できるなど産業上寄与するところは極めて大である。

Claims (6)

  1. 二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板であって、該二相ステンレス鋼が、
    質量%で、
    C :0.03%以下、
    Si:0.05〜1.0%、
    Mn:0.5〜7.0%、
    P :0.05%以下、
    S :0.010%以下、
    Ni:0.1〜5.0%、
    Cr:18.0〜25.0%、
    N :0.05〜0.30%、
    Al:0.001〜0.05%
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、
    熱間圧延中におけるクロム窒化物の析出に関する指標となるクロム窒化物析出温度TNが800〜970℃であることを特徴とする二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板。
    (ここで、クロム窒化物析出温度TNは、溶体化熱処理された鋼材を800〜1000℃で20分間の均熱処理後、5秒以内に水冷に供し、冷却後の鋼材についてクロム窒化物の析出量を非金属介在物の電解抽出残渣分析法によって求め、Cr残渣量が0.01%以下となる均熱処理温度のうちの最低温度とする。)
  2. 二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板であって、該二相ステンレス鋼が、
    質量%で、
    C :0.03%以下、
    Si:0.05〜1.0%、
    Mn:0.5〜7.0%、
    P :0.05%以下、
    S :0.010%以下、
    Ni:0.1〜5.0%、
    Cr:18.0〜25.0%、
    N :0.05〜0.30%、
    Al:0.001〜0.05%
    を含有し、更に、
    V :0.05〜0.5%、
    Nb:0.01〜0.20%、
    Ti:0.003〜0.05%
    から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、
    熱間圧延中におけるクロム窒化物の析出に関する第二の指標となるクロム窒化物析出温度TN2が800〜970℃であることを特徴とする二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板。
    (ここで、クロム窒化物析出温度TN2は、溶体化熱処理された鋼材を800〜1000℃で20分間の均熱処理後、5秒以内に水冷に供し、冷却後の鋼材についてクロム窒化物の析出量を非金属介在物の電解抽出残渣分析法によって求め、Cr残渣量が0.03%以下となる均熱処理温度のうちの最低温度とする。)
  3. 前記二相ステンレス鋼が、更に、
    Mo:1.5%以下、
    Cu:2.0%以下、
    W :1.0%以下、
    Co:2.0%以下
    から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板。
  4. 前記二相ステンレス鋼が、更に、
    B :0.0050%以下、
    Ca:0.0050%以下、
    Mg:0.0030%以下、
    REM:0.10%以下
    から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板の製造方法であって、
    母材と合わせ材とを熱間圧延で接合するときに、合わせ材に選択的成分であるV、Nb、Tiを含有しないクラッド鋼板については下記(1)式に従って、前記選択的成分を含有するクラッド鋼板については下記(2)式に従って、熱間圧延の最終仕上圧延パスの入側温度TFで熱間圧延し、熱間圧延の最終仕上圧延パスの入側温度TFから600℃までの温度域を5分以下の時間で冷却することを特徴とする二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板の製造方法。
    TF ≧ TN −100 ・・・ (1)
    TF ≧ TN2−100 ・・・ (2)
  6. 合わせ材に選択的成分であるV、Nb、Tiを含有しないクラッド鋼板については下記(3)式に従って、前記選択的成分を含有するクラッド鋼板については下記(4)式に従って、熱間圧延終了後の加速冷却開始温度TCから加速冷却を開始することにより、熱間圧延の最終仕上圧延パスの入側温度TFから600℃までの温度域を5分以下の時間で冷却することを特徴とする請求項5に記載の二相ステンレス鋼を合わせ材とするクラッド鋼板の製造方法。
    TC ≧ TN −250(但し、TF≧TC) ・・・ (3)
    TC ≧ TN2−250(但し、TF≧TC) ・・・ (4)
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