以下に、本発明の塗料組成物を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の塗料組成物は、有機チタノシリケートを溶媒に溶解させてなる。なお、本明細書において溶解とは、有機チタノシリケート等が粒子として溶媒に分散した状態も含む。
有機チタノシリケートは、M−O−M(Mは珪素原子または金属原子をそれぞれ独立に示す)で表される結合を含む珪素および金属の酸化物からなるとともに少なくとも一部の珪素原子に結合している有機基をもつ。このとき、金属原子の少なくとも一部は、チタン原子である。全ての金属原子のうちのチタン原子の占める割合に特に限定はないが、金属原子を100質量%としたとき、チタン原子を5〜100質量%含むのが好ましい。形成される被膜の膜厚にもよるが、チタン原子の含有量が5質量%未満では紫外線遮断効果が低減する。さらに好ましいチタン原子の含有量は、金属原子を100質量%としたとき、30質量%以上である。
有機チタノシリケートは、主として、層状有機チタノシリケートと、粒状有機チタノシリケートと、がある。層状有機チタノシリケートは、珪素原子を中心原子とする4面体面構造が構成する4面体構造層と、金属原子(チタン原子)を中心原子とする8面体面構造が構成する8面体構造層と、の積層体からなる。一方、粒状チタノシリケートは、1つの有機分子または有機分子の集合体であるコア粒子と、それを内包する皮殻層と、からなり皮殻層は有機チタノシリケートにより構成される。
いずれの有機チタノシリケートも、たとえば、チタンアルコキシドとオルガノアルコキシシランとを加水分解とともに脱水縮合させて合成可能である。溶媒に溶解されたチタンアルコキシドおよびオルガノアルコキシシランは、水の存在により、反応速度の高いチタンアルコキシドが先に加水分解され、−Ti−OHを生ずる。この−Ti−OHがオルガノアルコキシシランの加水分解を促してさらに結合することで、R−Si−O−Tiであらわされる結合をもつ有機チタノシリケートが合成される。
層状有機チタノシリケートが形成される場合には、チタン原子を中心原子とする8面体構造層の結晶構造が先行して成長しつつ、これに追従してオルガノアルコキシシランの珪素原子がアルコキシ基の加水分解の後の脱水縮合により8面体構造層に結合し、この珪素原子を中心に4面体構造層の結晶構造も成長して行くものと推定される。
すなわち、層状有機チタノシリケートは、珪素原子を中心原子とする4面体面構造が構成する4面体構造層と、少なくとも一部がチタン原子である金属原子を中心原子とする8面体面構造が構成する8面体構造層との積層体からなる。このとき、珪素原子の少なくとも一部は、有機基と共有結合している。金属原子M’と珪素原子Siとのモル比(M’:Si)を調整することで、4面体構造層と8面体構造層との2:1型または1:1型の積層体からなる層状有機チタノシリケートが合成される。このような層状有機チタノシリケートは、フィロ珪酸塩鉱物型の層状構造を有する。なお、得られる層状有機チタノシリケートは、一般式:{RnSiO(4−n)/2}X〔M’OZ/2〕〔H2O〕Wで表される。ここで、Rは有機基、M’は金属原子、nは1〜3のいずれかの整数であり、xは0.5以上で2以下の整数に限定されない任意の数であり、zは金属原子M’の価数であって2または3の整数であり、wは(z/2)−1〜(z+1)/2の整数に限定されない構造水の分子数である。四面体構造にSi−OH結合が含まれている場合があるため、wは整数に限定されない。
粒状有機チタノシリケートが形成される場合には、溶媒に原料を溶解させると、反応前の原料溶液中で、オルガノアルコキシシランがチタンアルコキシドに配位し、さらに、オルガノアルコキシシランが配位したチタンアルコキシドが有機分子の周囲に会合して会合体を形成する。会合体を形成した状態の下でチタンアルコキシドおよびオルガノアルコキシシランの加水分解・脱水縮合が進行するため有機分子が有機チタノシリケートでラッピングされ、有機分子をコア粒子、有機チタノシリケートを皮殻層とした複合体が得られる。なお、コア粒子は、1つの有機分子または有機分子の集合体である。有機分子の集合体は、2〜20分子が集まって構成されるのが好ましく、さらに好ましくは2〜8分子である。皮殻層に内包される有機分子の種類に特に限定はないが、有機分子の少なくとも一部が、紫外線吸収効果を有する紫外線吸収分子または呈色する性質を有する色素分子を含むとよい。
チタンアルコキシドの具体例としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラs−ブトキシド、チタンテトラt−ブトキシドなどである。好ましくはチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド等を使用することができる。
オルガノアルコキシシランは、1以上のアルコキシ基をもち有機基と共有結合で結合した珪素原子を有する。オルガノアルコキシシランは、一般式:RnSi(OR’)4−n(nは1、2または3、Rはアルコキシ基を除く有機基、OR’はアルコキシ基)で表されれば、特に限定はない。このとき、Siは有機チタノシリケートが有するM−O−M結合のMの一部に相当し、有機基Rは有機チタノシリケートが有する珪素原子と結合する有機基に相当する。オルガノアルコキシシランとしては、アクリル系シラン、ビニル系シラン、アルキルシラン、芳香族シラン、エポキシ系シラン、−NH2、−NHCH3、−N(CH3)2をもつアミノ系シランおよびアミン、ウレイド系シラン、ハロゲン系シラン、メルカプト系シラン、イソチオウロニウム塩、酸無水物の他、イミダゾール、イミダゾリン、ピリジン、ピロール、アジリジン、トリアゾール等の含窒素複素環、ニトロ基(−NO2)、カルボメトキシ基(−COOCH3)、アルデヒド基(−CH=O)、ケトン基(−(C=O)−R)、水酸基(−OH)、スルフォニル基(−S(=O)2−)、含硫黄複素環、シアノ基(−NC)、イソシアネート基(−N=C=O)、等を有するオルガノアルコキシシランであるのが望ましい。
アクリル系シランの具体例としては、β−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、β−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、β−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。ビニル系シランの具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等が挙げられる。アルキルシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、トリデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。芳香族シランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。エポキシ系シランとしては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。アミノ系シランおよびアミンとしては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジイソプロピルエトキシシラン、1−アミノ−2−(ジメチルエトキシシリル)プロパン、(アミノエチルアミノ)−3−イソブチルジメチルメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノメチルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノメチルトリエトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−11−アミノウンデシルトリメトキシシラン、11−アミノウンデシルトリエトキシシラン、3−(m−アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、N−メチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメチルアミノメチルエトキシシラン、(N,N−ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、(N−アセチルグリシジル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。ウレイド系シランとしては3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等、ハロゲン系シランとしては3−クロロプロピルトリメトキシシラン等、メルカプト系シランとしては、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。イソチオウロニウム塩としては、N−(トリメトキシシリルプロピル)イソチオウロニウムクロライドが使用可能である。酸無水物としては、3−(トリエトキシシリル)プロピルコハク酸無水物、3−(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物、等が挙げられる。
また、含窒素複素環を有するオルガノアルコキシシランとしては、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、2−(トリメトキシシリルエチル)ピリジン、N−(3−トリメトキシシリルプロピル)ピロール、N−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−2−カルボメトキシアジリジン等が挙げられる。ニトロ基を有するオルガノアルコキシシランとしては、3−(2,4−ジニトロフェニルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリルプロピル)−p−ニトロベンズアミド等が挙げられる。カルボメトキシ基を有するオルガノアルコキシシランとしては2−(カルボメトキシ)エチルトリメトキシシラン、アルデヒド基を有するオルガノアルコキシシランとしてはトリエトキシシリルブチルアルデヒド、ケトン基を有するオルガノアルコキシシランとしては、2−ヒドロキシ−4−(3−メチルジエトキシシリルプロポキシ)ジフェニルケトン、等が挙げられる。また、水酸基を有するオルガノアルコキシシランとしては、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン、N−(ヒドロキシエチル)−N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4−ヒドロキシブチルアミド、11−(トリエトキシシリル)ウンデカナール、トリエトキシシリルウンデカナール、エチレングリコールアセタール、N−(3−エトキシシリルプロピル)グルコンアミド等が挙げられる。スルフォニル基を有するオルガノアルコキシシランとしては、(2−トリエトキシシリルプロポキシ)エトキシスルホランが挙げられる。含硫黄複素環を有するオルガノアルコキシシランとしては、2−(3−トリメトキシシリルプロピルチオ)チオフェンが挙げられる。シアノ基を有するオルガノアルコキシシランとしては、3−シアノプロピルフェニルジメトキシシラン、11−シアノデシルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン等、イソシアネート基を有するオルガノアルコキシシランとしては3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
以上列挙したオルガノアルコキシシランは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、有機チタノシリケート同士を反応させて被膜を形成する場合には、上記のうちから、ラジカル重合可能な官能基を含む有機基Rをもつオルガノアルコキシシランを選択して用いるとよい。すなわち、有機チタノシリケートが有する有機基が、アクリル基、メタクリル基およびビニル基のうちの少なくとも一種以上を含むとよい。
また、有機チタノシリケートが含有する有機基の量を調整するために、必要に応じて、有機基をもたないシリコンアルコキシドをオルガノアルコキシシランと併用することもできる。有機基をもたないシリコンアルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトシキシラン(TEOS)、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、珪素原子およびチタン原子のうちの一部を他の金属原子で置換する場合には、その金属を含む塩やアルコキシドを併用してもよい。他の金属原子としては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、リチウム(Li)、バナジウム(V)およびジルコニウム(Zr)から選ばれる少なくとも一種であるのが望ましい。すなわち、これらの金属の塩化物、硫化物、硫酸物、硝酸物、酢酸物、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等が使用可能である。これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、チタンアルコキシドとオルガノアルコキシシランとは、水の存在により加水分解とともに脱水縮合するが、さらに、金属無機塩および/または金属有機塩を使用する場合には、反応中の溶液のpHをアルカリ性に調整してオルガノアルコキシシランとの反応を促進させるとよい。
使用するチタンアルコキシドおよびオルガノアルコキシシラン(必要に応じてシリコンアルコキシド)は、金属原子(少なくとも一部がチタン原子)M’と珪素原子Siとのモル比(M’:Si)が1:0.5〜1:2となるように原料溶液を調製するのが望ましい。特に、有機チタノシリケートがフィロ珪酸塩鉱物型の層状構造を有する層状有機チタノシリケートである場合には、M’:Siを選択することにより、2:1型あるいは1:1型の層状有機チタノシリケートを選択的に製造することができる。たとえば、M’:Siが1:0.5〜1:1の比率では1:1型の層状有機チタノシリケートが、M’:Siが3:4〜1:2の比率では2:1型の層状有機チタノシリケートが合成される。また、有機チタノシリケートが、コア粒子を内包する皮殻層を構成する場合には、M’:Siが1:0.5〜1:2さらには1:0.8〜1:1.5の範囲で調製するのが望ましい。
チタンアルコキシド、オルガノアルコキシシラン等の原料を溶解する溶媒は、極性溶媒であれば特に限定はない。具体的には、無機極性溶媒としての水、有機極性溶媒としてのアルコール、アセトン、有機酸および無機酸などのうち1種あるいは2種以上の混合溶媒が好ましく、より好ましくは、水および低級アルコール(炭素数が1〜5の鎖式アルコール)、アセトンのような水に可溶の有機溶媒のうちの1種あるいは2種以上の混合溶媒である。
本発明の塗料組成物は、上記の有機チタノシリケートを溶媒に溶解させてなる塗料組成物であって、さらに、ラジカル捕捉能および/または酸化防止能を有する安定剤を含む。安定剤は、チタン原子が励起状態となることで生じる酸化雰囲気の形成を抑制する機能やラジカルを捕捉する機能を有すれば特に限定はない。具体的には、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミド系酸化防止剤から選ばれる一種以上であるのが好ましい。特に、ラジカルを捕捉する機能を有するHALSを使用するとよい。HALSは、ラジカルを捕捉した後、再び捕捉前の元の形態に戻るというラジカル捕捉機構をもつため、繰り返しラジカルを捕捉することが可能となる。また、この様なラジカル捕捉機構が、ラジカルの捕捉による被膜の劣化抑制のみならず、耐候性の向上にも寄与すると推測される。HALSと同様のラジカル捕捉機構をもつヒンダードフェノール系ラジカル捕捉剤、ヒンダードアミド系ラジカル捕捉剤なども、安定剤として好適である。
以下に、ラジカル捕捉機構をもつラジカル捕捉剤の具体例を挙げる。HALSとしては、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(TINUVIN123)、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジン(TINUVIN152)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物(TINUVIN622)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(TINUVIN770)、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物(CHIMASSORB119)、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]ヘキサメチル(CHIMASSORB944)、等が挙げられる。ヒンダードアミン系+ヒンダードフェノール系ラジカル捕捉剤としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート(TINUVIN144)等が挙げられる。また、ヒンダードフェノール系ラジカル捕捉剤としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX259)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(IRGANOX565)、ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX1010)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(IRGANOX1076)、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(IRGANOX1098)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル(IRGANOX1222)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(IRGANOX1330)、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−O−クレゾール(IRGANOX1520)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(IRGANOX1135)、等が挙げられる。
なお、上記のTINUVIN(R)、CHIMASSORB(R)およびIRGANOX(R)は、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製である。
安定剤の使用量に特に限定はないが、有機チタノシリケートを100質量%としたときに、安定剤を0.8〜8質量%さらには1〜5質量%含むのが好ましい。安定剤の含有量が0.8質量%未満では、被膜の劣化抑制効果が十分に得られない。ただし、ラジカルを捕捉後、元の形態に戻らない安定剤を用いるのであれば、8質量%以上さらには10質量%以上用いるのがよい。安定剤の含有量が多い程、被膜の劣化抑制効果および耐候性の向上効果が発揮されるが、10質量%を超えると、被膜の機械的特性が低下するため、望ましくない。
また、安定剤の使用量は、有機チタノシリケートに含まれるチタン原子の数に対して規定することもできる。すなわち、有機チタノシリケートのもつ全チタン原子を100モル%としたとき、安定剤を0.5〜20モル%さらには1〜10モル%含むとよい。特に、使用する安定剤がHALSであれば、有機チタノシリケートのもつ全チタン原子を100モル%としたとき、HALSを0.5〜10モル%さらには1〜5モル%含むとよい。
波長300nm以下の紫外線は、有機チタノシリケートに含まれるチタン原子の存在により吸収される。300nmを超える波長も遮断したい場合、あるいは、さらなる紫外線遮断効果を付与したい場合、以下に挙げる紫外線吸収剤(UVA)を併用するとよい。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例としては、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン(sumisorb130)、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン(SEESORB100)、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(SEESORB101、CYASORB(R)UV−9)、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸3水和物(SEESORB101S)、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン(SEESORB102)、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン(SEESORB103)、4−ベンジロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン(SEESORB105)、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン(SEESORB106)、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン(SEESORB107)、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)ブタン(SEESORB151)、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(CYASORB(R)UV−24)等が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(sumisorb200)、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミド−メチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール(sumisorb250)、2−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(sumisorb300)、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(sumisorb340)、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール(sumisorb350)、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(SEESORB701)、2−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール(SEESORB703)、2−(3,5−ジ−tert−ペンチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(SEESORB704)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール(SEESORB706)、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(SEESORB707)、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(SEESORB709)、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(TINUVIN PS)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(TINUVIN900)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(TINUVIN928)、2,5−ビス(5’−tert−ブチル−2’−ベンゾキサゾリル)チオフェン(UVITEX OB)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(TINUVIN327、SEESORB702)、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(TINUVIN234)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール(TINUVIN320、Eversorb77)、2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール](TINUVIN360、Eversorb78)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−sec−ブチル−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール(Eversorb79)等が挙げられる。
ベンゾエート系紫外線吸収剤の具体例としては、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート(sumisorb400)等が挙げられる。
トリアジン系紫外線吸収剤の具体例としては、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール(CYASORB(R)UV−1164)、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(TINUVIN400)、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(TINUVIN400)、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2’−エチル)ヘキシル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(TINUVIN405)、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチロキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブチロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン(TINUVIN460)、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン(TINUVIN479)等が挙げられる。
なお、上記のsumisorbは住友化学株式会社製、SEESORBはシプロ化成株式会社製、CYASORB(R)はCytecIndustries社製、TINUVINおよびUVITEXはチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、Eversorbは台湾永光化学公司製である。
UVAの使用量に特に限定はないが、有機チタノシリケートを100質量%としたときに、UVAを0.1質量%以上さらには0.5〜15質量%含むのが好ましい。UVAの含有量が多い程、紫外線遮蔽効果は向上するが、15質量%を超えると、被膜の機械的特性が低下するため、望ましくない。
本発明の塗料組成物において、有機チタノシリケートおよび安定剤は、溶媒に溶解される。溶媒は、少なくとも有機チタノシリケートおよび安定剤を溶解できれば特に限定はない。すなわち、溶媒は、塗料組成物に含まれる成分や被膜が形成される基材の種類に応じて適宜選択すればよい。たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールといったアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンといったケトン類;エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルのようなエーテル類;フラン、ジベンゾフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンのような環状エーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソペンチル、酢酸ペンチルのようなエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンのようなアミド類;ピペリジン、ピリミジン、キノリンのような環式アミン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;などから選ばれる1以上を単独もしくは2以上を混合して利用できる。上記溶媒に、クロロホルム、トリクロルメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロルエタン、1,2−ジクロルエチレン、1,1,2,2−テトラクロルエタン、トリクロルエチレンのようなハロゲン系;ベンゼン、トルエン、オルソキシレン、メタキシレン、パラキシレン、エチルベンゼン、クレゾールのような芳香族系;等の溶媒を混合した混合溶媒も使用可能である。
中でもポリカーボネート、メチルメタクリレート等からなる透明合成樹脂基板の表面に対して塗料組成物を塗布する場合には、上記有機溶媒のうち、低級アルコール類;ケトン類;プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシ−2−プロパノール)、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールといったグリコールエーテル類;メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートのようなグリコールエステル;等のうちの一種以上、もしくはこれらのうちの一種以上を主成分として他の溶剤と混合して使用するとよい。
また、本発明の塗料組成物は、さらに、合成樹脂成分を含んでもよい。合成樹脂成分としては、有機モノマーを用いるとよい。有機チタノシリケートが合成樹脂の網状構造に取り込まれることで、機械的強度やガスバリア性などに優れる被膜が形成される。有機チタノシリケートは、有機チタノシリケートがもつ有機基や有機モノマーの種類にもよるが、有機ポリマーからなるマトリックスに保持された状態の他、有機モノマーと結合して有機ポリマーの一部を構成してもよい。すなわち、本発明の塗料組成物がラジカル重合可能な官能基を含む有機基をもつ有機チタノシリケートおよび/またはラジカル重合可能な官能基を含む有機基をもつ合成樹脂成分を含む場合には、有機チタノシリケートは合成樹脂成分と結合する。そのため、紫外線遮断能をもつ部位が被膜から脱離し難くなり、耐候性が長期にわたって持続される。
合成樹脂成分として用いることができる有機モノマーに特に限定はないが、たとえば、1分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基をもつ有機モノマーを含むとよい。合成樹脂成分として1分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基をもつ有機モノマーを用いることで、被膜の耐久性、耐熱性等が向上するため望ましい。分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、モノアルコールのモノ(メタ)アクリレート、ポリアルコールのモノ(メタ)アクリレート、モノアルコールのポリ(メタ)アクリレート、ポリアルコールのポリ(メタ)アクリレート、ウレタンポリ(メタ)アクリレート、エポキシポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの化合物のうち1種を単独で用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの化合物は、脂肪族、脂環族および芳香族のいずれであってもよい。
これらの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、無水フタル酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの付加物などのモノ(メタ)アクリレート化合物;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜15)ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜15)ジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(n=2〜15)ジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロ−ルプロパンジアクリレート、ビス(2−(メタ)アクリロキシエチル)−ヒドロキシエチル−イソシアヌレートなどのジ(メタ)アクリレート化合物;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート化合物;ビスフェノールA型ジエポキシと(メタ)アクリル酸とを反応させたエポキシジ(メタ)アクリレート;イソホロンジイソシアネートと2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート;ジシクロメタンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート;トリメチロールエタンとコハク酸と(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパン、コハク酸、エチレングリコール、および(メタ)アクリル酸を反応させたポリエステル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の塗料組成物が、ラジカル重合可能な官能基を含む有機基をもつ有機チタノシリケートおよび/またはラジカル重合可能な官能基を含む有機基をもつ合成樹脂成分を含む場合には、さらに、ラジカル重合開始剤を加えるとよい。ラジカル重合開始剤に特に限定はなく、ラジカル反応に使用される公知の開始剤であればよい。具体的には、活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、等が挙げられるが、なかでも、活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤は、ラジカル発生速度が速く、低温でもラジカルが発生するので望ましい。
活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤の具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどの紫外線感応性カルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドなどの硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどのアシルフォスフィンオキサイド;カンファーキノンなどの紫外線あるいは可視光線感応性のラジカル重合開始剤を挙げることができる。
アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、4,4’−アゾビスシアノ吉草酸、などが挙げられる。
過酸化物系重合開始剤の具体例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド;ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド;過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイルなどのジアシルパーオキシド;1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサンなどのパーオキシケタール;1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエイト、t−ブチルパーオキシベンゾエイトなどのパーオキシエステル、などが挙げられる。
なお、ラジカル重合開始剤の使用割合は、有機チタノシリケートおよび合成樹脂成分の合計を100質量%としたときに、0.1〜10質量%が望ましく、0.5〜5質量%、さらには1〜3質量%とするのが望ましい。ラジカル重合開始剤の使用量が、0.1質量%未満では十分な硬度の被膜が得られず、10質量%を越えると被膜が黄変するため望ましくない。
また、合成樹脂成分の使用割合は、有機チタノシリケートと合成樹脂成分との合計を100質量%としたときに、5〜95質量%、10〜90質量%、さらには15〜85質量%であるのが望ましい。合成樹脂成分の使用量が、5質量%未満では十分な耐久性を有する被膜が得られず、95質量%を越えると耐摩耗性が低下する。
本発明の塗料組成物は、基材に塗布した後、光照射または加熱により有機チタノシリケート同士、合成樹脂成分(有機モノマー)同士、または、有機チタノシリケートと合成樹脂成分とをラジカル重合させて架橋を行い、被膜を形成する。光照射には、化学反応用ケミカルランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、フュ−ジョンランプ、太陽光などの光源を用いて、波長が200〜600nmである活性エネルギー線を100〜5000mJ/cm2となるように照射するとよい。また、加熱温度は、80〜150℃が望ましい。光照射または加熱する雰囲気は、空気でもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中でもよい。
上記した塗料組成物を基材に塗布した後、加熱または光照射により予め塗料組成物中の溶媒成分を除去してから塗料組成物を硬化させてもよい。あるいは、塗料組成物を基材に塗布した後、基材への密着性向上を目的として、遠赤外線エネルギーまたは熱風を用いて20〜120℃で1〜60分間の熱処理を行ってもよい。
本発明の塗料組成物は、基材の表面に塗布してから必要に応じて加熱したり光照射したりすることで、基材の表面に被膜が形成される。基材の種類に特に限定はないが、ポリメチルメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのプラスチック基材であれば、本発明の塗料組成物により基材の表面の機械的特性とともに耐候性が向上する。機械的特性とは、具体的には、耐摩耗性、耐擦傷性、耐熱性、耐久性および基材との密着性などである。また、耐薬品性も付与される。
また、本発明の塗料組成物を基材に塗布する際には、ハケ塗り、スプレー法、ディッピング法、スピン法、カーテンフロー法などが用いられる。塗料組成物の溶媒の含有量を適宜選択することで、各々の方法に応じた液粘度の塗料組成物にするとよい。また、塗料組成物の塗布厚に特に限定はないが、塗料組成物を上記した各種の方法により、基材表面へ1〜500μm、好ましくは3〜100μmの厚さとなるように塗布するとよい。
以上、本発明の塗料組成物の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、本発明の塗料組成物の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
[層状メタクリルチタノシリケートの合成]
窒素気流下のグローブボックス内にて、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン24.8g(100mmol)およびチタンテトライソプロポキシド14.2g(50mmol)を、2−プロパノール500mlに加えてよく撹拌した。
攪拌したままの状態の溶液に、水/2−プロパノール溶液(イオン交換水50gに2−プロパノールを加えて1リットルとした)を6.25ml/分の速度で250ml滴下した。次に、この溶液をよく撹拌しながら1リットルのイオン交換水に投入した。この溶液を2日間室温で放置したあと凍結真空乾燥を行い、20.2gの層状メタクリルチタノシリケート粉末を得た。
[粒状メタクリルチタノシリケートの合成]
窒素気流下のグローブボックス内にて、紫外線吸収剤(UVA:TINUVIN479)1.69g(2.5mmol)を、テトラヒドロフラン125mlに溶解した。この溶液に2−プロパノール250ml、チタンテトライソプロポキシド14.2g(50mmol)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12.4g(50mmol)を加えてよく撹拌した。
攪拌したままの状態の溶液に、上記の水/2−プロパノール溶液を6.25ml/分の速度で250ml滴下した。次に、この溶液をよく撹拌しながら1リットルのイオン交換水に投入した。この溶液を2日間室温で放置したあと凍結真空乾燥を行い、メタクリルチタノシリケートからなる皮殻層がUVAを内包してなる粒状メタクリルチタノシリケートを15.2g得た。
[メタクリルチタノシリケートの紫外線吸収能]
上記の手順で合成した層状メタクリルチタノシリケートの割合が20質量%となるように1−メトキシ−2−プロパノール(和光純薬製)と混合して塗料を調製した。粒状メタクリルチタノシリケートを含む塗料も、同様に調製した。得られた2種類の塗料をそれぞれ石英ガラス基板の表面に塗布して乾燥させて、2種類の測定試料を得た。
これらの測定試料のUV吸光度を測定することで、メタクリルチタノシリケートの紫外線吸収能を評価した。測定はマルチパーパス分光光度計(株式会社島津製作所製MPS−2400)を用いて、波長範囲200〜500ナノメートルで行った。結果を図2に示す。
構造中にUVAを含む粒状メタクリルチタノシリケートは、UV波長域の光を吸収した。一方、構造中にUVAを含まない層状メタクリルチタノシリケートも、チタン原子の存在により、波長320ナノメートル以下の紫外線を吸収することが確認された。
[メタクリルチタノシリケートから発生するラジカルの確認]
電子スピン共鳴(ESR)スペクトル測定により、メタクリルチタノシリケートから発生するラジカルを確認した。
上記の手順で合成した層状メタクリルチタノシリケート14質量部と、アクリルモノマーとしてイソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート(東亞合成株式会社製M−215)6質量部、1−メトキシ−2−プロパノール80質量部、からなる塗料を調製した。この塗料を石英ガラス基板の表面に塗布し、室温で20分間乾燥させた。これに超高圧水銀ランプ(1kW)により基板上で115mW/cm2の強度(測定中心波長360nm)の紫外線を20秒×2回照射して硬化させ、基板の表面に被膜を得た。被膜が形成された基板を、短冊状(16mm×3mm程度)にカットし、ESRサンプル管に入れて封管した。ESRサンプル管を測定キャビティ内にセットし、ESRスペクトル測定を行った。ESRスペクトル測定は、ESR測定装置としてBRUKWER社製ESP350Eを用い、室温にてサンプル管にUVを照射しながら行った。UV照射には、超高圧水銀ランプを用い、水フィルターを通じて被膜に対して垂直に照射した。被膜の表面でのUV照度は36mW/cm2(測定中心波長360nm)であった。UV照射開始直後、照射開始から2分後、5分後、10分後、20分後および30分後にESRスペクトルの測定を開始し、約84秒間測定して得られたそれぞれの結果を図3に示す。
UV照射時間が長くなる程、チタン原子がTi4+からTi3+に遷移し、これに伴い炭素ラジカル(g値:2.003)が観察された。これは、メタクリルチタノシリケートに含まれるチタン原子の光触媒効果により、被膜を構成するアクリルポリマーが分解したことを示す。
[実施例1]
上記の手順で合成された層状メタクリルチタノシリケート70質量部、アクリルモノマー(M−215)30質量部、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS:TINUVIN123)1質量部、を1−メトキシ−2−プロパノールに溶解して塗料#01を得た。塗料#01の固形分は20質量%であった。
この塗料を石英ガラス基板の表面に塗布し、室温で20分間乾燥させた。これに超高圧水銀ランプ(1kW)により基板上で115mW/cm2の強度(測定中心波長360nm)の紫外線を20秒×2回照射して硬化させ、基板の表面に被膜を得た。
[比較例1]
HALSを用いない他は実施例1と同様にして塗料#C1を得た。また、塗料#C1を用い、実施例1と同様にして、石英ガラス基板の表面に被膜を形成した。
[HALSによるラジカル捕捉効果の確認]
HALSを含む塗料#01から形成された被膜(実施例1)およびHALSを含まない塗料#C1から形成された被膜(比較例1)に対し、紫外線照射後に生じた遊離基(ラジカル)をXバンドの電子スピン共鳴にて確認した。
被膜が形成された基板を、短冊状(16mm×3mm程度)にカットし、直径5mmのXバンド用石英サンプル管に入れて真空封管した。その後、超高圧水銀ランプ(1kW)により基板上で115mW/cm2の強度(測定中心波長360nm)の紫外線を被膜に対して垂直に3分間照射して遊離基を発生させた。発生した遊離基は、上記のESR測定装置を用い、室温にて測定した。結果を図4に示す。
HALSを含まない塗料#C1により形成された被膜(比較例1)では、UV照射時に発生したラジカルは、アクリルポリマーを分解した後速やかに消失するため、UV照射後の測定では残存ラジカルは観測されなかった。一方、HALSを含む塗料#01により形成された被膜(実施例1)では、ラジカルがHALSに捕捉されて安定に保持されるため、UV照射後の紫外線が照射されていない状態の試料でも、ラジカル化したHALSに起因するシグナルが観測された。なお、このシグナルは、数日置いた後でも観測され、HALSの捕捉効果が長寿命であることが確認された。
[実施例2]
上記の手順で合成された層状メタクリルチタノシリケート50質量部、アクリルモノマーとしてM−215を10質量部とトリアクリル酸ペンタエリトリトール(AlfaAesar社製PETA)を40質量部、紫外線吸収剤(UVA:TINUVIN479)5質量部、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS:TINUVIN123)1質量部、紫外線硬化剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製Irgacure184を3質量部とIrgacure819を2質量部、を1−メトキシ2−プロパノールに溶解して塗料#02を得た。塗料#02の固形分は20質量%であった。
なお、有機チタノシリケートを100質量%としたとき、塗料#02に含まれるHALSの含有量は2質量%である。
[比較例2]
HALSを用いない他は実施例2と同様にして塗料#C2を得た。
[実施例3]
上記の手順で合成された粒状メタクリルチタノシリケート50質量部、アクリルモノマーとしてM−215を10質量部とPETAを40質量部、HALS(TINUVIN123)1質量部、紫外線硬化剤としてIrgacure184を3質量部とIrgacure819を2質量部、を1−メトキシ2−プロパノールに溶解して塗料#03を得た。塗料#03の固形分は20質量%であった。
なお、塗料の調製過程においてUVAを添加していないが、UVAは、粒状有機チタノシリケートの皮殻層に被覆されたコア粒子として塗料中に存在する。
[比較例3]
HALSを用いない他は実施例3と同様にして塗料#C3を得た。
[比較例4]
アクリルモノマーとしてM−215を10質量部とPETAを90質量部、UVA(TINUVIN479)5質量部、HALS(TINUVIN123)1質量部、紫外線硬化剤としてIrgacure184を3質量部とIrgacure819を2質量部、を1−メトキシ2−プロパノールに溶解して塗料#C4を得た。塗料#C4の固形分は20質量%であった。
なお、表1に、各塗料の調製比率を示す。
ポリカーボネート基板の表面に、上記の塗料#02、#03、#C2、#C3または#C4を塗布した。これに超高圧水銀ランプ(1kW)により基板上で115mW/cm2の強度(測定中心波長360nm)の紫外線を20秒×2回照射して硬化させ、基板の表面に透明な被膜をもつ5種類の試料No.1〜No.5を得た。
[評価]
[耐摩耗性]
自動車規格JASOM330「自動車用硬質プラスチックグレージング材」の「7.7耐摩耗性試験」に基づき、各試料の耐摩耗性を評価した。(4)手順の(4.6)には、「供試体を摩耗試験機の回転テーブル上に車外側が摩耗面となるように設置し、各摩耗ホイールに4.90N(500gf)の荷重をかけて、供試体を100回転させ摩耗させる。」とある。本試験では、供試体を300回転させた。なお、テーバー摩耗試験機、ヘイズメーターは、スガ試験機製を使用した。試験結果を、曇価(ヘイズ値Hの変化)ΔHとして、表2に示す。
いずれの試料も、ΔHが10%未満であって、耐傷付き性に優れた被膜をもつことがわかった。
[密着性]
ポリカーボネート基板と被膜との密着性を碁盤目テープ剥離試験(JIS K5400)にて評価した。試験には、セロハンテープ(ニチバン株式会社製CT24)を用いた。100マスの碁盤目を形成した被膜の表面に指の腹でテープを密着させた後、テープを剥離した。密着性は、100マスのうちテープの剥離とともに基板表面から剥離せずに基板表面に残ったマス目の数をXとしたとき、“X/100”として表した。結果を表2に示す。
#02および#03の塗料から形成された被膜は、いずれも、100/100であってポリカーボネート基板との密着性に優れた。
[耐候性]
各試料に対して、耐候性試験を行った。耐候性試験は、カーボンアーク式サンシャインウェザーメーターを用いた促進耐候性試験(JIS K5400)を行い、被膜に割れまたは剥がれが目視で確認できるまでの時間を測定した。耐候性試験の結果を表2に示す。
No.5は、有機チタノシリケートを含まない一般的な塗料組成物から形成された被膜をもつ。5000時間以上のUV照射を行っても被膜に剥がれは見られなかったが、3500時間で割れが生じた。
No.1およびNo.3の試料では、5000時間以上UV照射を行っても、割れも剥がれも見られなかった。一方、No.2およびNo.4の試料は、No.1およびNo.3の試料と比較して、使用した塗料のHALSの有無のみが相違する。そのため、N0.1とNo.2、No.3とNo.4の試料は、それぞれ同程度の耐候性を有すると考えられるが、No.2およびNo.4の試料は、5000時間に到達する前に割れおよび剥がれが観察された。つまり、有機チタノシリケートとHALSとをともに用いることにより、予測以上に優れた耐候性を示した。