以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
まず、本発明に係る塗液の塗布装置の全体構成、特に凹凸基板(例えば、プラズマディスプレイパネル用部材)への塗液の塗布装置の全体構成の例について説明する。図1は、本発明の一実施態様に係る塗布装置1の全体斜視図、図2は塗布装置1における塗液の補給と吐出に係る部分の構成と口金の断面構造を示した模式図である。
図1において、被塗布材9はテーブル2の上に載置され、テーブル2に設けた吸着装置(図示しない)により吸着して固定される。テーブル2はその中心を軸として、回転位置決めを可能とするθ軸部材3(破線で示す)により支持されている。このθ軸部材3はY方向の位置決めを可能にするY軸調整部4に搭載され、Y軸調整部4はX軸搬送部5に設けられた一対のY軸ガイドレール4a,4bに沿って機台6のY方向に移動する。X軸搬送部5は、機台6に設けられた一対のX軸ガイドレール5a,5bに沿ってX方向に移動する。このX方向、Y方向は直交するように調整されている。X軸搬送部5は基材9に塗液を塗布するための相対移動手段であって、塗布動作においてテーブル2をX方向に移動させる。
機台6の中央部上方には、X軸搬送部5によって移動されるテーブル2が通過するように門型の支持台7が、X軸と直交する形で設けられている。支持台7のX軸方向奥側(以下、下流側と称する)側面のY軸方向両サイド付近には、テーブル2の面に対して垂直方向に移動するZ軸移動部8a,8bが設けられ、Z軸移動部8a,8bには塗液を吐出する口金30が機台6のY方向中央を基準にして取り付けられる。口金30は着脱式で、テーブル2のX方向に直交するように、Z軸移動部8a,8bに設けたチャック(図示しない)により固定される。
この口金は、塗布する基材のサイズに合わせて選択され、その基材に形成された全ての溝に対して1回の塗布動作で塗布を完了するために、複数の吐出孔が略一直線状に配列して設けられる。例えば、塗布する基材がプラズマディスプレイの背面板の場合は、R、G、B何れか1色の蛍光体粉末を含んだ塗液を塗布することが好ましく、その場合、口金にはその塗布する溝に対応した数、ピッチで吐出孔が略一直線状に設けられる。
ここで、口金は、吐出孔の数を減らして複数回の塗布動作で基材1枚への塗布を完了するものであってもよい。つまり、短尺型の口金であったり、吐出孔のピッチを広げたものであってもよい。また、1色の塗液を塗布する場合について詳細に言及したが、R、G、B3色の塗液を同時に塗布する場合にも本発明は適用できる。
図1および図2に示す口金30は、略一直線状に配列された吐出孔33と、内部に塗液溜り部35と塗液溜り部35の上方に位置する空間部36を有するマニホールド34、塗液をマニホールド34内に補給するための入口となる塗液ポート31、空間部36での吐出制御用気体の供給と排出をするための通路となる気体通過口32a、32b、からなる。この気体通過口32a、32bは、空間部36の上方に開口していて、吐出孔33が略一直線状に配列する方向において空間部36の両端近傍に配されている。
口金30への塗液の補給に係る部分について説明する。口金30には、マニホールド34内に塗液を補給するための配管13が塗液ポート31に接続され、この配管13の反対側先は、塗液の補給を制御する開閉バルブ12を介して、塗液を貯蔵する塗液容器11が接続されている。開閉バルブ12は、コントローラ40によりその開閉を制御される。塗液容器11には、塗液を押し出して口金30に補給するための吐出制御用気体を供給する配管28が接続され、この配管28の反対側先には、減圧弁27を介して、吐出制御用気体源29に接続されている。減圧弁27は、吐出制御用気体源29の吐出制御用気体を塗液の補給に必要な圧力に調整することができる。
次に、口金30からの塗液の吐出に係る部分について説明する。口金30内の空間部36に開口し、吐出制御用気体の供給と排出をするための通路となる気体通過口32a、32bには、配管24a、24bがそれぞれ接続され、この配管24a、24bの反対側先は、配管25が接続する切換バルブ21に接続される。切換バルブ21は三方弁となっており、配管25と、口金30に接続する配管24a、24bのどちらか一方とを連通させて、もう一方を閉じた状態にすることができ、その連通を切り換えることができる。なお、切換バルブ21の切り換えは、コントローラ40により制御される。その切換バルブ21に接続する配管25の反対側先は、吐出バルブ22が接続されている。吐出バルブ22は三方弁となっており、一方が減圧弁23を介して吐出制御用気体源29に接続する配管26が接続し、もう一方は大気に開放されている。減圧弁23は、吐出制御用気体源29の吐出制御用気体を口金30からの塗液の吐出に必要な圧力に調整することができる。吐出バルブ22は、口金30内の空間部36が吐出制御用気体源29と大気のどちらと連通するかを切り換えることができ、その切り換えはコントローラ40に制御される。
なお、図1および図2では、切換バルブ21と吐出バルブ22とは配管25を介して連通する構成となっているが、2つのバルブを、配管を介さずに直接接続しても構わない。
本発明における塗布装置では、口金が、口金内の空間部に開口し、吐出制御用気体の供給と排出をするための通路となる2つ以上の気体通過口を有し、この2つ以上の気体通過口の全てに接続し、各々の気体通過口での吐出制御用気体の通過を制御するための通過切換手段を有することが必要である。なぜなら、口金の塗液溜り部の上方に位置する空間部に吐出制御用気体を供給することにより吐出孔から塗液を吐出し、空間部への吐出制御用気体の供給を停止し、空間部から吐出制御用気体を排出することにより吐出孔からの塗液の吐出を停止することで、塗液を塗布する塗布装置において、吐出制御用気体の供給と排出を1回すると、吐出制御用気体の、断熱圧縮による温度上昇や流動による温度低下の影響から、口金内の空間部における吐出制御用気体との接触面にごく僅かな温度斑が発生する。この温度斑は、一般的には吐出孔の配列する方向で、気体通過口から離れる位置ほど温度が上昇するような分布となる。空間部での吐出制御用気体の供給と排出を繰り返す、つまり塗布を繰り返して行う場合に、1つの気体通過口を通じて吐出制御用気体の供給と排出を繰り返すと、この口金内の空間部における吐出制御用気体との接触面の温度斑、すなわち口金や塗液の温度斑は顕著となる。
塗液に温度斑が発生すると、粘度に温度依存性のある塗液では粘度に斑が発生し、塗液の吐出量がばらつく塗布斑などの塗布欠点を発生する。また、口金に温度斑が発生すると、口金が熱による伸びや収縮して変形し、ひいては、吐出孔と基材との位置関係にずれが生じたり、吐出孔が変形する。吐出孔と基材が位置ずれを起こすと、所定外の場所に塗液を塗布してしまったりする塗布欠点や、吐出孔が変形すると、塗液の吐出量がばらつく塗布斑などの塗布欠点を発生する場合がある。
したがって、口金内の空間部における吐出制御用気体との接触面での温度斑を抑制するためには、口金が2つ以上の気体通過口を有すると共に、この2つ以上の気体通過口の全てに接続して、それらのどの気体通過口を通じて、吐出制御用気体の供給と排出を行うかを制御することができる通過切換手段を有することがよい。
図1および図2の塗布装置1において、どの気体通過口を通じて吐出制御用気体の供給と排出を行うかを制御するための通過切換手段として、三方弁である1つの切換バルブ21を用いているが、通過切換手段は複数の切換バルブであってもよく、ここに示す限りではない。また、通過切換手段として用いる切換バルブはどのような構造のものであっても構わないが、基材に塗液を塗布する際に、塗布の開始端と終了端を精度良く行うために、吐出孔からの塗液の吐出と停止を迅速に行えるよう、コントローラからの指令に対して応答性の良いものが好ましい。また、口金から塗液を吐出するための吐出制御用気体の圧力に耐えうるものであることが好ましい。さらに、塗布を繰り返すための耐久性を兼ね備えているものが好ましい。
図1および図2に示す塗布装置1は、口金30の2つの気体通過口32a、32bに配管24a、24bをそれぞれ接続し、それら配管の反対側先が、吐出バルブ22に接続する配管25との連通を制御する切換バルブ21に接続する構成としているが、例えば、空間部に開口する気体通過口を口金30の吐出孔33の配列する方向での中央に1つ増やして3つとし、それら気体通過口のそれぞれに配管を接続し、それら配管の反対側先に、いずれかの配管と吐出バルブ22に接続する配管25との連通を制御できる切換バルブを接続する構成としても良い。また、気体通過口をさらに増やし、それぞれの気体通過口に配管を接続し、それら配管の反対側先にそのいずれかの配管と吐出バルブ22に接続する配管25との連通を制御できる切換バルブを接続する構成であってもよく、口金30が2つ以上の気体通過口を有していても、それらの気体通過口に配管を接続し、その配管と吐出バルブ22に接続する配管25との連通を制御できれば、口金30内の空間部36に開口する気体通過口の数はいくつあっても構わない。
1つの気体通過口を通じて吐出制御用気体の供給と排出を繰り返すと、口金内の空間部における吐出制御用気体との接触面での温度斑が、例えば吐出孔の配列する方向で、気体通過口から離れる位置ほど上昇するような温度分布になる。そのため、吐出孔の配列する方向において、中央を中心に対称に気体通過口を配すると、その2つの気体通過口による温度斑が、吐出孔の配列方向における中央を中心とする対称の温度分布となるため、互いに対称に配した2つの気体通過口の間では、温度斑を打ち消しやすくなる。このため、気体通過口は、口金の吐出孔の配列する方向で中央を中心に対称に配されていることが好ましい。
また、2つの気体通過口を、口金の吐出孔の配列する方向において空間部の両端近傍に配すると、その2つの気体通過口によるそれぞれの温度斑は、空間部の吐出孔の配列する方向の全長で、吐出孔の配列する方向における中央を中心に互いに対称となる。そのため、2つの気体通過口を吐出孔の配列方向で両端近傍に配することにより、口金内の温度斑が、吐出孔の配列方向の全長に渡って打ち消しやすくなる。そのため、気体通過口を2つ有し、その気体通過口は、口金の吐出孔の配列する方向における空間部の両端近傍に配されることがさらに好ましい。
ここで、配管24a、24bの長さは、どちらの配管を使用しても、空間部36への吐出制御用気体の供給を開始してから空間部36に吐出制御用気体が充填されて塗液を吐出するまでの時間を同じにするために、同じ長さにすることが好ましい。
図1および図2に示す塗布装置1において、塗布を実施する場合はまず、塗液容器11から口金30のマニホールド34内に塗液を補給する。口金30への塗液の補給は、開閉バルブ12を開くことにより行われ、補給が完了した後には開閉バルブ12を閉じる。
このとき塗液は、口金30のマニホールド34内に、空間部36を残す形で所定量に貯えられる。マニホールド34内の塗液の量は、吐出毎に、空間部36への吐出制御用気体の供給を開始してから空間部36内に吐出制御用気体が充填されて吐出孔33より塗液を吐出するまでの時間を均一にするために、一定に保つ必要がある。そのため、塗液を吐出した後は常に空間部36の容積が所定量になるまで塗液をマニホールド34内の塗液溜り部35に補給する。そのため、本発明の塗布装置1においては、口金30内の塗液量を検出する塗液量検出手段39を有することが好ましく、塗液の汚染を防ぐために非接触であることがさらに好ましい。非接触の塗液量検出手段39は、レーザー式、超音波式、重量検知式等、非接触で検出できるセンサであればいずれのものであっても適用できる。
次に、基材搭載に移る。テーブル2を支持台7のX軸方向手前側(上流側)端部に移動し、テーブル面のほぼ中央に外部移載機などにより塗布する基材9を搭載し、吸着固定する。この動作は口金30への塗液補給と並行して行うことが可能である。
次に基材位置決めを行う。テーブル2を移動させて、カメラ17,19にて基材9の位置を計測し、さらにカメラ18にて基材9の基準溝を観測して、溝の中心位置を判断し、テーブル2をY軸方向に移動することで、口金30の基準孔と基材9の基準溝中心とのY軸方向の位置を合わせる。なお、口金30の基準孔は、カメラ20により、予め計測しておく。カメラ17、19、および18は、支持台7のY軸方向に独立して移動可能なY1搬送部14、Y3搬送部16、Y2搬送部15に取り付けられている。このY1〜Y3搬送部は一対のガイドレール7a,7bによって、Y方向に移動した場合においてもテーブル面からの高さが一定になるよう調整されている。なお、これらのカメラは複数組有していても良い。
基材位置決めが終わると塗液塗布の動作に移る。口金30のマニホールド34内への塗液補給が完了していることを確認し(未完の場合は待ち)、さらに、口金30の下面をクリーナー10にて清掃した後に、テーブル2をX軸方向に沿って基材9の位置決め位置から下流方向に予めプログラムした速度で移動させる。X軸座標が、あらかじめ設定された塗液の吐出開始位置になったら口金30から塗液を吐出し、吐出停止位置になれば吐出を停止することで塗布を行う。
口金30からの塗液の吐出は、まず切換バルブ21により配管24aまたは配管24bのいずれか一方と配管25とを予め連通させておく。それから、口金30と吐出制御用気体源29が連通するように吐出バルブ22を切り換えて、口金30のマニホールド34内の塗液溜り部35の上方に位置する空間部36に吐出制御用気体を供給することにより、吐出孔33から塗液を押し出すことで行われる。また、口金30からの塗液の吐出の停止は、吐出バルブ22を切り換えて空間部36が大気に開放されるようにすることで、吐出制御用気体の供給を停止し、空間部36から吐出制御用気体を排出することで行われる。
塗布を終了すると、基材排出に移る。基材9の排出はテーブル2を下流端に移動し、吸着した基材9を解除し、外部移載機などにより取り出す。基材9を排出した時点で一連の動作が終了する。連続して基材に塗布する場合は、塗液の補給から開始する。
なお、口金30への塗液の補給および吐出孔33からの塗液の吐出の制御は、口金30内の塗液量検出手段39、開閉バルブ12、切換バルブ21、および吐出バルブ22が繋がれたコントローラ40により制御される。
図1および図2に示すような塗布装置1による基材への塗布の一連の工程は、口金30のマニホールド34内に塗液を補給する工程と、口金30と基材9とを相対的に移動しながら基材9へ塗液を吐出して塗布する工程とを有する。枚葉の基材に1度に塗布したり、基材を複数回に分けて塗布したりするような、所定の長さの塗液の塗布を複数回行う場合には、この2つの工程を交互に繰り返すことが好ましい。なぜなら、マニホールド内に塗液溜り部と塗液溜り部の上方に空間部を有し、この空間部に吐出制御用気体を供給し、その圧力で塗液を吐出孔より吐出する口金には、所定の長さの塗布で使用した塗液の量と同量の塗液をマニホールド内へ補給する必要があるため、生産性を考えれば、口金のマニホールド内への塗液の補給と、基材への塗布は交互に繰り返すことが好ましい。
基材への塗布の一連の工程において、基材への塗液の塗布は、口金内の空間部に吐出制御用気体を供給することにより吐出孔から塗液を吐出し、空間部への吐出制御用気体の供給を停止し、空間部から吐出制御用気体を排出することにより、吐出孔からの塗液の吐出を停止することで行われる。このように、吐出制御用気体の供給と排出を繰り返すことで、複数回の塗布を行う塗布方法について図1および図2に示す塗布装置1を用いて詳しく説明する。
図1および図2に示す塗布装置1において、口金30からの塗液の吐出は、まず、事前に切換バルブ21により、気体通過口32a、32bにそれぞれ接続する配管24a、24bのいずれか一方と配管25を連通させると共に、口金30への塗液の補給を完了させ、開閉バルブ12を閉じておく。それから、口金30と吐出制御用気体源29が連通するように吐出バルブ22を切り換えることで、吐出制御用気体源29に連通した気体通過口32aまたは32bのいずれか一方を通じて、口金30内の空間部36に吐出制御用気体を供給することにより吐出孔33より塗液を押し出して、吐出する。このとき、口金30と基材9とを相対的に移動して、基材9に所定の長さの塗液の塗布を行う。
吐出孔33からの塗液の吐出の停止は、口金30内の空間部36への吐出制御用気体の供給を停止し、空間部36が大気に開放されるように吐出バルブ22を切り換えることで、空間部36より、吐出制御用気体を供給したときと同じ気体通過口を通じて、吐出制御用気体を大気に開放することで行われる。
基材への塗布が一旦終了し、次の塗布を開始するまでの間のインターバルには、口金30への塗液の補給や、塗布が終了した基材の搬出、次の基材の搬入、基材と口金30の位置合わせなどを行うと共に、切換バルブ21により、配管24a、24bのいずれか一方と配管25との連通を、直前の基材の塗布とは異なる配管に連通するように切り換えることを行う。
インターバルが終了した後は、次の基材の塗布を行う。このときの塗布は、吐出バルブ22により口金30と吐出制御用気体源29とを連通することで、口金30内の空間部36に、直前の塗布とは異なる気体通過口を通じて吐出制御用気体を供給して塗液を吐出し、吐出バルブ22を切り換えることで、吐出制御用気体の供給を停止し、空間部36から吐出制御用気体を排出して塗液の吐出を停止することで、塗液の塗布を行う。塗布が終えた後は、先ほどのインターバルと同様に、口金への塗液の補給や、基材の搬入、搬出、切換バルブ21の切り換えなどを行う。以後、塗布を繰り返す限り、この動作を繰り返す。
図3は、塗布装置1において、口金30に塗液を補給し、基材9に塗布する工程を繰り返す際の、各バルブの動作のタイミングを模式的に表した図である。上述の通り、塗液容器11から口金30への塗液の補給は、基材への塗布が一旦終了し、次の基材への塗布を開始するまでの間のインターバルに行うのが好ましい。したがって、塗液を補給するための開閉バルブ12は、このインターバルの間で、口金30に所定量を補給するまでは開いている。なお。インターバルは前述したとおり、基材の搬入、搬出や、基材と口金30の位置合わせなどに費やされるが、生産性を考えれば、このインターバル内で、口金30への塗液補給をすませるのが好ましく、また同様に、切換バルブ21の動作もインターバル内に済ませるのが好ましい。塗液の補給が完了して、開閉バルブ12が閉じ、切換バルブ21による切り換えが終えて、インターバルが終了した後に、口金30と基材を相対的に移動させて、この間に吐出バルブ22により口金30と吐出制御用気体源29を連通させることで、口金30内に吐出制御用気体を供給して口金30より塗液を吐出して、吐出バルブ22を切り換えて口金30内を大気に開放して口金30内の吐出制御用気体の供給を停止し、排出することで、基材への塗布を行う。この動作を繰り返すことで、塗液の塗布を繰り返す。
ここで、口金のマニホールド内の空間部に吐出制御用気体を供給することにより吐出孔からの塗液を吐出し、空間部への吐出制御用気体の供給を停止するとともに空間部から吐出制御用気体を排出することにより吐出孔からの塗液の吐出を停止し、所定の長さの塗液の塗布を繰り返すような複数回の塗布を行う塗布方法において、複数回の塗布のうちの少なくとも1回の塗布は、吐出制御用気体を供給および排出する気体通過口を切り換えることがよい。なぜなら、吐出制御用気体の供給と排出を1回すると、断熱圧縮による温度上昇や流動による温度低下の影響から、口金内の空間部における吐出制御用気体との接触面にごく僅かな温度斑が発生する。この温度斑は、空間部で気体通過口から離れた位置ほど温度が上昇するような温度分布となる。空間部での吐出制御用気体の供給と排出を繰り返す、つまり塗布を繰り返して行う場合に、1つの気体通過口で吐出制御用気体の供給と排出を繰り返すと、この口金内の空間部における吐出制御用気体との接触面の温度斑、すなわち口金や塗液の温度斑は顕著となる。
塗液に温度斑が発生すると、温度依存性のある塗液では粘度に斑が発生し、塗液の吐出量がばらつく塗布斑などの塗布欠点を発生する恐れがある。また、口金に温度斑が発生すると、口金が熱による伸びや収縮して変形し、ひいては、吐出孔と基材との位置関係にずれが生じたり、吐出孔が変形したりする。吐出孔と基材が位置ずれを起こすと、所定外の場所に塗液を塗布してしまったりする塗布欠点や、吐出孔が変形すると、塗液の吐出量がばらつく塗布斑などの塗布欠点を発生する可能性がある。
したがって、複数回の塗布を行う中で、少なくとも1回の塗布において吐出制御用気体の供給および排出する気体通過口を切り換えることが良い。なぜなら、1回の塗布において気体通過口を切り換えることにより、口金内の空間部においてそれまでと異なる気体の断熱圧縮や流動が起こるため、口金内の空間部における吐出制御用気体との接触面にそれまでと異なる温度分布の温度斑が起こり、それまで繰り返しての複数回の塗布により顕在化している口金や塗液の温度斑を緩和、抑制することができるからである。
ここで、複数回の塗布を行う中で、各回の塗布においては同じ気体通過口を通じて吐出制御用気体の供給および排出を行い、1回の塗布ごとに用いる気体通過口を変更することが好ましい。なぜなら、塗布ごとに気体通過口を変更することで、特定の1つの気体通過口を通じて連続して吐出制御用気体の供給と排出をすることがなくなるために、1回の吐出制御用気体の供給と排出により発生する口金や塗液の僅かな温度斑を顕在化させることなく抑制でき、つまりは塗布欠点を抑制することができるからである。
また、口金や塗液の温度斑を意図的に抑制し、温度斑の極端な偏りを抑制するために、吐出制御用気体を供給および排出する気体通過口を規則的に切り換えることも好ましい。
さらに、2つ以上ある気体通過口を全て順次使用していくため、1回の吐出制御用気体の供給と排出で発生する口金や塗液の僅かな温度斑をより効果的に抑制し、塗布欠点を抑制することができるため、気体通過口を塗布ごとに交互に切り換えることも好ましい。
上記の所定の長さの塗布を繰り返すような複数回の塗布を行う塗液の塗布方法は、塗布の対象が枚葉の基材である場合は、口金での吐出制御用気体の供給と排出が連続して繰り返され、口金や塗液の温度斑も発生しやすくなるため、本発明の塗布方法を好ましく適用することができる。
図4は、本発明塗液の塗布装置の他の例における塗液の補給と吐出に係る部分の構成と口金の断面構造を示した模式図である。
図4に示す口金30には、口金内の空間部36に開口し、吐出制御用気体の供給と排出をするための通路となる3つの気体通過口51a、51b、51cがある。このうち、気体通過口51a、51bは、吐出孔33が略一直線状に配列する方向において両端近傍に配されているのに対して、気体通過口51cは吐出孔33の配列する方向で中央に配されている。
この塗布装置50における口金30からの塗液の吐出に係る部分で、図1および図2に示す塗布装置1との相違点について説明する。口金30には上述の通り、3つの気体通過口があり、このうち、気体通過口51a、51bには2つに分岐する配管52が、気体通過口51cには配管53が接続され、この配管52、53の反対側先は、配管25が接続する切換バルブ21に接続される。この切換バルブ21は三方弁であり、配管25と、口金30に接続する配管52、53のどちらか一方とを連通させて、もう一方を閉じた状態にすることができる。このように、塗布装置50には、切換バルブ21と口金30との間で、口金30の空間部36への吐出制御用気体の供給と排出ができる経路が2つあり、配管25とどちらの配管を連通させるかを、コントローラ40により切り換えることができる。
なお、配管52の分岐した2つの部分の長さは、空間部36への吐出制御用気体の供給を、気体通過口51a、51bから同時に開始するよう、同じ長さにすることが好ましい。
この塗布装置50において、切換バルブ21により配管25と配管52を連通させた場合、口金30内の空間部36における吐出制御用気体との接触面では、吐出孔33の配列方向で両端近傍に配されている2つの気体通過口51a、51bから最も離れた吐出孔33の配列する方向の中央付近で最も温度が上昇する温度分布となるような僅かな温度斑が発生する。一方、配管25と配管53を連通させた場合は、吐出孔33の配列方向の中央に配されている気体通過口51cから最も離れた吐出孔33の配列方向で両端近傍において最も温度が上昇する温度分布となるような僅かな温度斑が発生する。このように切換バルブ21で切り換えることのできる吐出制御用気体の供給と排出をする2つの経路により、口金30や口金内の塗液に発生する温度の分布が対称性のある分布となるので、口金30への吐出制御用気体の供給と排出を繰り返すことで、複数回の塗布を行う塗布方法において、少なくとも1回、または塗布毎に、あるいは規則的、交互に、切換バルブ21つまりは気体通過口を切り換えることで、口金30内の空間部36における吐出制御用気体との接触面での温度斑を抑制することができ、基材への吐出量のばらつきによる塗布斑や、口金30と基材との塗布の位置ずれを抑制することができる。
図1および図2に示す塗布装置1や、図4に示す塗布装置50において、口金30の吐出孔33の大きさは、塗液を塗布する幅や、塗布する塗液の量に応じて、その孔径を選定すればよく、特に凹凸基板(例えば、プラズマディスプレイパネル用部材)への塗液の塗布の場合では、10μmから500μmの間に設定することが好ましい。なお、吐出孔33の形状や数は特に限定されるものではなく、塗布する目的によって、如何なる形状であってもよい。たとえば、塗液をシート状に吐出する場合は、吐出開口部を吐出孔ではなく、口金の幅方向に長い開口部(スリット)を有する形状にしてもよい。
これまで、一種類の塗液を基材の表面に形成されたストライプ状の凹部に塗布する場合について詳しく述べたが、赤、青、緑等の3色の蛍光体を同時に塗布する場合にも本発明は適用でき、また、前記被塗布材の表面に形成された格子状の凹部に塗布する場合にも適用できる。
使用できる塗布条件として、塗布速度はいかなる速度であってもよいが、好ましくは0.1〜10m/分、より好ましくは、0.5〜8m/分である。
次に、本発明の実施の形態に従って、プラズマディスプレイ背面板に塗液を塗布した場合の実施例を示す。
実施例1
枚葉の基材であるプラズマディスプレイ背面板は、サイズ990×600mm、被塗布面に高さ0.12mmで頂部の幅0.05mmのリブが、ピッチ0.3mmで3097本形成されており、これにより隣り合うリブとの距離(溝幅)が0.25mm、溝の数が3096本のものを用いた。また、塗液は粘度50Pa・sの緑色の蛍光体粉末を含む蛍光体ペーストを使用した。
この基材に塗布する塗布装置として、図1および図2に示す本発明に係る塗布装置1、口金30を用いた。この塗布装置1は、気温が23℃一定に保たれている環境下に設置している。口金30への塗液の補給に係る部分、および口金30からの塗液の吐出に係る部分は全て図1および図2と同じ構成にしている。
口金30は、孔径が0.12mm、孔数が1032孔、孔のピッチが0.9mmの吐出孔33が略一直線状に配列しており、その配列方向における口金30の幅が1000mm、材質はステンレス鋼製(SUS304)のものを用いた。また、マニホールド34内に吐出制御用気体の供給と排出をするための通路となる2つの気体通過口32a、32bは、内径5mmの円筒形状のものを用いた。さらに、塗液を補給するための塗液ポート31は、内径8mmの円筒形状のものを用いた。2つの気体通過口32a、32bは、口金30の吐出孔33の配列する方向において口金30の両端部から、それぞれ40mmの位置に配した。
口金30の2つの気体通過口32a、32bと接続し、口金30と吐出制御用気体源29をつなぐ配管24a、24b、配管25、配管26、配管28は全て、内径5mmのポリウレタンチューブを使用した。また、配管24a、24bの長さはそれぞれ700mmで同じにした。
複数回の塗布を行う中で、各回の塗布で使用する気体通過口を決める切換バルブ21は、三方弁の働きをする電磁弁を用い、吐出バルブ22も三方弁の働きをする電磁弁を用いた。なお、塗液である蛍光体ペーストを吐出するために口金30に付与する圧力は、減圧弁23により圧力0.60MPaに設定した。
塗液容器11には、減圧弁27により圧力0.35MPaに調整された吐出制御用気体が付与されている。また、塗液容器11から口金30に塗液の補給を制御するための開閉バルブ12は、ダイアフラムバルブを用いた。
口金30のマニホールド34内の蛍光体ペーストは、液面の高さが吐出孔33から25mmの高さで管理される。したがって、口金30より蛍光体ペーストを吐出した後は、開閉バルブ12の開閉の制御により、液面高さが25mmになるまで、蛍光体ペーストが口金30に補給される。
上記の条件にて、図1および図2に示す塗布装置1で、図3の動作のタイミングに沿って、吐出制御用気体の供給と排出をする2つ気体通過口32a、32bを塗布ごとに切り換えながら、基材200枚に所定の長さの塗布を繰り返して行った。
基材1枚目から200枚目まで塗布している間の、空間部36付近の口金30表面の温度を、K型熱電対にて測定したところ、吐出孔33の配列する方向において、温度斑は無く、常に周囲の温度と同じであった。
蛍光体が塗布された基材を乾燥すると、隔壁による凹部に蛍光体層が形成された基材が得られた。この蛍光体層が形成された基材に、波長254nmの紫外線ランプを照射して蛍光体層を発光させ、目視で発光状態を確認したところ、いずれの基材についても、基材全面に渡って均一に発光しており、吐出量のばらつきによる塗布斑がないことを確認した。
比較例1
次に、図5に示す従来の塗布装置60にて、基材への塗布を実施した。なお、基材や塗液、口金30における孔径、孔数、孔ピッチ、気体通過口や塗液ポート、吐出バルブ、減圧弁などは、塗布装置1と同じものを用いている。
塗布装置60における口金30には、1つの気体通過口61があり、空間部36の吐出孔33の配列する方向において口金30の端部から40mmの位置に配した。ここでは、気体通過口が1つであるため、切換バルブはない。したがって、塗布ごとで、口金30内への吐出制御用気体の供給と排出は、常に気体通過口61を通じて行われる。
この塗布装置60にて、実施例1と同様に、基材200枚に所定の長さの塗布を繰り返して行った。
基材1枚目から200枚目まで塗布している間の、空間部36付近の口金30表面の温度を測定したところ、気体通過口61のある口金30端部付近は周囲の温度と同じであるのに対して、気体通過口61と逆側の口金30端部では、基材1枚目からおよそ150枚の塗布の間に、周囲に比べて約1.5℃まで線形的に温度が上昇して徐々に口金30に温度斑が顕在化しており、以降、200枚目までは同じような温度斑となった。
また、蛍光体ペーストを塗布後の基材を乾燥して、凹部に蛍光体層が形成された基材を発光させたところ、基材1枚目からおよそ100枚目までは、吐出量のばらつきによる塗布斑が顕著に見られるようなことはなかった。しかし、塗布枚数が100枚を超えたあたりから、吐出孔33の配列方向で徐々に、発光による塗布斑が顕在化してきて、およそ120枚では、はっきりと塗布斑が確認され、塗布欠点となった。
実施例2
次に、図4に示す本発明に係る塗布装置50にて、基材への塗布を実施した。なお、基材や塗液、口金30における孔径、孔数、孔ピッチ、気体通過口や塗液ポート、吐出バルブ、切換バルブ、減圧弁などは、塗布装置1と同じものを用いている。
この塗布装置50にて、切換バルブ21により気体通過口51a、51bと気体通過口51cを、塗布ごとに切り換えながら、実施例1と同様に、基材200枚に所定の長さの塗布を繰り返して行った。
基材1枚目から200枚目まで塗布している間の、空間部36付近の口金30表面の温度を測定したところ、吐出孔33の配列する方向において、温度斑は無く、常に周囲の温度と同じであった。
また、蛍光体ペーストを塗布後の基材を乾燥して、凹部に蛍光体層が形成された基材を発光させたところ、いずれの基材についても、基材の全面に渡って均一に発光しており、塗布斑がないことを確認した。
実施例3
次に、図6に示す本発明に係る塗布装置70にて、基材への塗布を実施した。なお、基材や塗液、口金30における孔径、孔数、孔ピッチ、気体通過口や塗液ポート、吐出バルブ、切換バルブ、減圧弁などは、塗布装置1と同じものを用いている。
塗布装置70における口金30には、2つの気体通過口71、72があり、気体通過口71は空間部36の吐出孔33の配列する方向において口金30の端部から40mmの位置に、気体通過口72は吐出孔33の配列方向の口金30端部から、口金30の長さの1/4内側に、それぞれ配されている。気体通過口71には配管73が接続され、配管73の反対側先は切換バルブ21に接続している。また、気体通過口72には配管74が接続され、その反対側先は切換バルブ21に接続している。
この塗布装置70にて、気体通過口71と気体通過口72を塗布ごとに切り換えながら、実施例1と同様に、基材200枚に所定の長さの塗布を繰り返して行った。
基材1枚目から200枚目まで塗布している間の、空間部36付近の口金30表面の温度を測定したところ、基材200枚目では、気体通過口72から気体通過口71と離れる方向の口金30端部に向かって、線形的に口金30の温度が上昇しており、端部付近は周囲より約0.8℃上昇していた。一方、2つの気体通過口71、72の間では、温度斑はなく、周囲と同じ温度であった。
この温度斑の確認された口金30で蛍光体ペーストを塗布された基材200枚を乾燥して、凹部に蛍光体層が形成された基材を発光させた。すると、いずれの基材についても、基材の全面に渡って均一に発光しており、問題となるような塗布斑は発生していないことを確認した。
実施例4
次に、図7に示す本発明に係る塗布装置80にて、基材への塗布を実施した。なお、基材や塗液、口金30における孔径、孔数、孔ピッチ、気体通過口や塗液ポート、吐出バルブ、切換バルブ、減圧弁などは、塗布装置1と同じものを用いている。
塗布装置80における口金30には、2つの気体通過口81a、81bがある。この気体通過口81a、81bは、口金30の空間部36に、吐出孔33の配列方向の中央を中心に対称に配されていて、それぞれ、吐出孔33の配列方向の口金30端部から、口金30の長さの1/4内側に配されている。気体通過口81aには配管82aが接続され、配管82aの反対側先は切換バルブ21に接続し、気体通過口81bには配管82bが接続され、この反対側先は切換バルブ21に接続している。
この塗布装置80にて、気体通過口81aと気体通過口81bを塗布ごとに切り換えながら、実施例1と同様に、基材200枚に所定の長さの塗布を繰り返して行った。
基材1枚目から200枚目まで塗布している間の、空間部36付近の口金30表面の温度を測定したところ、気体通過口81a、81bのそれぞれから、吐出孔33の配列方向で口金30の端部に向かって、次第に上昇しており、口金30端部において、周囲より約0.8℃の上昇していた。一方、2つの気体通過口81a、81bの間では、温度斑はなく、周囲と同じ温度であった。
この温度斑の確認された口金30で蛍光体ペーストを塗布された基材200枚を乾燥して、凹部に蛍光体層が形成された基材を発光させた。すると、いずれの基材についても、基材の全面に渡って均一に発光しており、問題となるような塗布斑は発生していないことを確認した。
比較例2
次に、図8に示す従来の塗布装置90にて、基材への塗布を実施した。なお、基材や塗液、口金30における孔径、孔数、孔ピッチ、気体通過口や塗液ポート、吐出バルブ、減圧弁などは、塗布装置1と同じものを用いている。
塗布装置90における口金30には、2つの気体通過口91a、91bが吐出孔33の配列する方向において口金30の両端部から、それぞれ40mmの位置に配した。2つの気体通過口91a、91bは配管92が分岐した先に接続し、その配管92の反対側先は吐出バルブ22に接続する。したがって、塗布ごとで、口金30内への吐出制御用気体の供給と排出は、常に2つの気体通過口91a、91bを通じて同時に行われる。なお、配管92が2本に分岐している区間の長さは同じであり、塗布装置1における配管24a、24bと同じとした。
この塗布装置90にて、実施例1と同様に、基材200枚に所定の長さの塗布を繰り返して行った。
基材1枚目から200枚目まで塗布している間の、空間部36付近の口金30表面の温度を測定したところ、2つの気体通過口91a、91bのある口金30両端近傍は周囲の温度と同じであるのに対して、吐出孔33の配列方向の中央付近では、基材1枚目からおよそ150枚の塗布の間に、周囲に比べて約1.5℃まで線形的に温度が上昇して徐々に口金30に温度斑が顕在化し、以降、200枚目までは同じような温度斑となった。
また、蛍光体ペーストを塗布後の基材を乾燥して、凹部に蛍光体層が形成された基材を発光させたところ、基材1枚目からおよそ100枚目までは、吐出量のばらつきによる塗布斑が顕著に見られるようなことはなかった。しかし、塗布枚数が100枚を超えたあたりから、吐出孔33の配列方向で徐々に、発光による塗布斑が顕在化してきて、およそ120枚では、はっきりと塗布斑が確認され、塗布欠点となった。