以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態の構成を示す概略図である。図示されるように、内燃機関たるエンジン1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態のエンジン1は自動車用多気筒エンジン(1気筒のみ図示)であり、火花点火式内燃機関、より具体的にはガソリンエンジンである。
エンジン1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが気筒ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは図示しないカムシャフトによって開閉させられる。また、シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
各気筒の吸気ポートは吸気マニホールドを介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気集合通路をなす吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、エンジンに流入する空気量すなわち吸入空気量を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式スロットルバルブ10とが設けられている。なお吸気ポート、吸気マニホールド、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタすなわち燃料噴射弁12が気筒ごとに配設される。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁Viの開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストン4で圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
一方、各気筒の排気ポートは、排気マニホールドを介して排気集合通路をなす排気管6に接続されている。これら排気ポート、排気マニホールド及び排気管6により排気通路が形成される。排気管6には、その上流側と下流側に、酸素吸蔵能を有する三元触媒からなる触媒即ち上流触媒11及び下流触媒19が直列に設けられている。例えば、上流触媒11は排気マニホールドの直後に配置され、下流触媒19は車両の床下などに配置される。
上流触媒11の上流側及び下流側に、それぞれ、酸素濃度に基づいて排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ、即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設けられている。図5に示すように、触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能で、その空燃比に比例した値の信号を出力する。他方、触媒後センサ18は所謂O2センサからなり、理論空燃比を境に出力値が急変する特性(Z特性)を持つ。
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、エンジン1のクランク角を検出するクランク角センサ14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、インジェクタ12、スロットルバルブ10等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
触媒11,19は、これに流入する排気ガスの空燃比A/Fが理論空燃比(ストイキ、例えばA/Fs=14.6)のときにNOx ,HCおよびCOを同時に高効率で浄化する。よってこの特性に合わせて、ECU20は、エンジンの通常運転時、触媒11,19に流入する排気ガスの空燃比がストイキに一致するよう、燃焼室3に供給される混合気の空燃比(具体的にはインジェクタ12からの燃料噴射量)を触媒前センサ17の出力に基づきフィードバック制御する。
ここで、異常診断の対象となる上流触媒11についてより詳細に説明する。なお下流触媒19も上流触媒11と同様に構成されている。図2に示すように、触媒11においては、図示しない担体基材の表面上にコート材31が被覆され、このコート材31に微粒子状の触媒成分32が多数分散配置された状態で担持され、触媒11内部で露出されている。触媒成分32は主にPt,Pd等の貴金属からなり、NOx ,HCおよびCOといった排ガス成分を反応させる際の活性点となる。他方、コート材31は、排気ガスと触媒成分32との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うと共に、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCeO2やジルコニアからなる。なお、「吸蔵」と同義で「吸収」または「吸着」を用いることもある。
例えば、触媒内の雰囲気ガスが理論空燃比よりリーンであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分が雰囲気ガスから酸素を吸収し、この結果NOxが還元され、浄化される。他方、触媒内の雰囲気ガスが理論空燃比よりリッチであると、酸素吸蔵成分に吸蔵されていた酸素が放出され、この放出された酸素によりHCおよびCOが酸化され、浄化される。
この酸素吸放出作用により、通常のストイキ空燃比制御に際して実際の空燃比がストイキに対して多少ばらついたとしても、このばらつきを吸収することができる。
ところで、新品状態の触媒11では前述したように多数の触媒成分32が均等に分散配置されており、排気ガスと触媒成分32との接触確率が高い状態に維持されている。しかしながら、触媒11が劣化してくると、一部の触媒成分32に消失が見られるほか、触媒成分32同士が排気熱で焼き固まって焼結状態になるものがある(図の破線参照)。こうなると排気ガスと触媒成分32との接触確率が低下し、浄化率を落としめる原因となる。そしてこのほかに、触媒成分32の周囲に存在するコート材31の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体が低下する。
このように、触媒11の劣化度と触媒11の酸素吸蔵能低下度との間には相関関係がある。そこで本実施形態では、特にエミッションへの影響が大きい上流触媒11の酸素吸蔵能を検出することにより、上流触媒11の劣化度を検出し、上流触媒11の異常を診断することとしている。ここで触媒11の酸素吸蔵能は、現状の触媒11が吸蔵し得る最大酸素量である酸素吸蔵容量(OSC;O2 Storage Capacity、単位はg)の大きさによって表される。
本実施形態の触媒異常診断は前述のCmax法によるものを基本とする。そして異常診断に際しては、ECU20によりアクティブ空燃比制御が実行される。すなわちECU20は、触媒11に供給される排気ガスの空燃比、具体的には燃焼室3内の混合気の空燃比を、ストイキA/Fsを中心にリッチ及びリーンに交互に且つアクティブに所定周期分切り替える。
また、異常診断は、エンジン1の定常運転時で且つ触媒11が活性温度域にあるときに実行される。触媒11の温度(触媒床温)の検出については、温度センサを用いて直接検出してもよいが、本実施形態の場合にはエンジンの運転状態から推定することとしている。
例えばECU20は、エアフローメータ5によって検出された吸入空気量Gaに基づき、予め定められたマップまたは関数(以下、マップ等という)に従い、触媒11の温度Tcを推定する。なお、吸入空気量Ga以外のパラメータ、例えばエンジン回転速度Neなどを触媒温度推定に用いるパラメータに含めてもよい。
以下、図3及び図4を用いて、上流触媒11の酸素吸蔵容量の計測方法を説明する。
図3(A)において、破線は目標空燃比A/Ft、実線は触媒前センサ17の出力(但し触媒前空燃比A/Ffrへの換算値)を示す。また図3(B)において、実線は触媒後センサ18の出力(但しその出力電圧Vr)を示す。
図示するように、時刻t1より前ではリーン制御が実行され、目標空燃比A/Ftはリーン空燃比A/Fl(例えば15.1)とされ、触媒11には、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリーンガスが供給されている。このとき触媒11は酸素を吸蔵し続けているが、飽和状態即ち満杯まで酸素を吸蔵した時点でそれ以上酸素を吸蔵できなくなる。この結果、リーンガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリーン側に変化し、出力電圧Vrが所定のリーン判定値VL(例えば0.21V)に達した時点t1で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Fr(例えば14.1)に切り替えられる。これによりリッチ制御が開始され、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリッチガスが供給されるようになる。
リッチガスが供給されると、触媒11は吸蔵酸素を放出し続ける。やがて触媒11から吸蔵酸素が放出され尽くすとその時点で触媒11は酸素を放出できなくなり、リッチガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリッチ側に変化し、出力電圧Vrが所定のリッチ判定値VR(例えば0.59V)に達した時点t2で、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられる。これにより再びリーン制御が開始され、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリーンガスが供給されるようになる。
再び、触媒11が満杯まで酸素を吸蔵し、触媒後センサ18の出力電圧Vrがリーン判定値VLに達すると、その時点t3で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられ、リッチ制御が開始される。
こうして、触媒が酸素を吸放出する度に、或いは触媒後センサ18の出力が反転する度に、リーン制御とリッチ制御とが交互に繰り返し実行される。
このアクティブ空燃比制御を実行しつつ、次の方法で触媒11の酸素吸蔵容量OSCが計測される。
触媒11の有する酸素吸蔵容量が大きいほど、酸素を吸蔵或いは放出し続けることのできる時間が長くなる。つまり、触媒が劣化していない場合は触媒後センサ出力Vrの反転周期(例えばt1からt2までの時間)が長くなり、触媒の劣化が進むほどその反転周期は短くなる。
そこで、このことを利用して酸素吸蔵容量OSCが次のようにして計測される。図4に示すように、時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられた直後、僅かに遅れて実際値としての触媒前空燃比A/Ffがリッチ空燃比A/Frに切り替わる。そして触媒前空燃比A/FfがストイキA/Fsに達した時点t11から、次に触媒後センサ出力Vrが反転する時点t2まで、次式(1)により、所定の演算周期毎の酸素吸蔵容量dOSCが逐次的に算出され、且つこの酸素吸蔵容量dOSCが時刻t11から時刻t2まで逐次的に積算される。こうして、リッチ制御時における最終積算値としての酸素吸蔵容量OSC、すなわち図4にOSCbで示す放出酸素量が計測される。
Qは燃料噴射量であり、空燃比差ΔA/Fに燃料噴射量Qを乗じるとストイキに対し不足又は過剰分の空気量を算出できる。σは空気に含まれる酸素割合(約0.23)を表す定数である。
リーン制御時にも同様に酸素吸蔵容量、すなわち図4にOSCaで示す吸蔵酸素量が計測される。そしてリッチ制御とリーン制御が交互に行われる度に、放出酸素量と吸蔵酸素量が交互に計測される。
こうして複数ずつの放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値が得られたならば、次の方法により触媒の正異常判定が行われる。
まずECU20は、これら放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値の平均値OSCavを算出する。そしてこの平均値OSCavを所定の異常判定値αと比較する。ECU20は、平均値OSCavが異常判定値αより大きいときには触媒11を正常と判定し、平均値OSCavが異常判定値α以下のときには触媒11を異常と判定する。なお触媒を異常と判定した場合、その事実をユーザに知らせるため、チェックランプ等の警告装置(図示せず)を起動させるのが好ましい。
さて、前述したように本発明者らの研究結果によれば、アクティブ空燃比制御の開始直前に、触媒後センサ18の出力がストイキ付近あるいは近傍に維持されている場合、酸素吸蔵容量の初回の計測値が真の値に比べて顕著に小さくなることが判明した。
これを図示して説明する。図6には、アクティブ空燃比制御の実行前から実行後にかけての各値の推移を示す。(A)は触媒前センサ17の出力(但し触媒前空燃比A/Ffrへの換算値)、(B)は触媒後センサ18の出力(但しその出力電圧Vr)、(C)は酸素吸蔵容量計測値OSCを示す。時刻t1でアクティブ空燃比制御が開始され、時刻t2でアクティブ空燃比制御が終了されている。
アクティブ空燃比制御の開始前にはストイキ制御が実行されており、触媒前空燃比A/Ffrはストイキ付近(14.5〜14.7)に制御されている。そしてこのとき、触媒後センサ18の出力Vrもストイキ付近に維持されている。より具体的には、触媒後センサ18は、これに供給される排気ガスの空燃比がストイキ付近のとき、リッチ判定値VR未満で且つリーン判定値VLより大きい電圧を出力する。このVL<Vr<VRとなる範囲をストイキ範囲という。そして図示例では、アクティブ空燃比制御の開始直前に、触媒後センサ出力Vrがストイキ範囲内に維持されている。
このような状況は、エンジンがストイキ制御中に定常運転している場合に起こることが多い。触媒後センサ出力Vrがストイキ範囲内に維持されているとは、触媒11からストイキ付近の排気ガスが排出され続けていることを意味する。これはすなわち、触媒内部がリッチとリーンの間の中途半端な状態に置かれ、触媒内部の酸素吸放出反応が平衡状態に達していることを意味する。すると、触媒における酸素の吸放出反応の活性が低下していると考えられる。或いは、触媒後センサ出力Vrがストイキ範囲内のリーン寄りに維持されているときに初回計測値が小さくなりがちであることから、触媒が酸素により若干被毒された状態にあると考えられる。
かかる状態でアクティブ空燃比制御を開始し、触媒前空燃比A/Ffrをリッチおよびリーンに振っても、触媒内で酸素の吸放出が行われにくいことから、リッチガスまたはリーンガスが早めに触媒をすり抜け、触媒後センサ18を早めに反転させる。結果的に、(1)式に基づく演算周期毎の酸素吸蔵容量dOSCの積算時間が短くなり、初回の酸素吸蔵容量計測値OSC1は真の値に比べて著しく小さくなってしまう。
一方、これ以降、触媒前空燃比A/Ffrのリッチまたはリーンへの切り替えを繰り返すに従い、触媒の活性が向上し、或いは触媒の酸素被毒状態が解消し、或いは触媒の酸素吸放出反応が起こる物理的範囲が拡大するなどの理由で、酸素吸蔵容量計測値OSCは徐々に増加し、真の値に向かって徐々に収束していく。
こうして複数の酸素吸蔵容量計測値OSCを計測し、その平均値OSCavを求めても、初回の計測値OSC1が著しく小さいことから平均値OSCavも小さくなってしまい、触媒が本来有する酸素吸蔵容量の値に対して平均値OSCavが大きく減少側にズレてしまう。このズレ、すなわち計測誤差が、診断精度を低下させ、正常な触媒を異常と判定する誤診断をもたらす可能性もある。
そこで、本実施形態では、このような診断精度の低下および誤診断を防止するため、アクティブ空燃比制御の開始直前に触媒後センサ出力がストイキ付近に維持されているようなときには、診断を禁止することとしている。これにより、真の値よりも顕著に小さい初回計測値OSC1を含めて診断することを防止し、診断精度の低下および誤診断を防止することができる。
なお、本実施形態では図6に示すように、アクティブ空燃比制御の開始時t1から当該制御の所定周期(本実施形態では1周期)を終えるまでの期間Δtxを無効期間としている。この無効期間Δtxでは、アクティブ空燃比制御は実行するものの、その間の酸素吸蔵容量の計測は行わないか、または行ったとしても計測値を無効として平均値OSCavの算出に用いない。このような無効期間を定める理由は、エンジン運転状態に応じて変化するアクティブ空燃比制御開始直前の空燃比状態をできるだけ計測値に反映させないようにするためである。しかしながら、このような無効期間を設定しても、図示例の如く、アクティブ空燃比制御開始直前に触媒後センサ出力がストイキ付近に維持されているときには、初回の計測値OSC1が著しく小さくなる。
なお、アクティブ空燃比制御の1周期とは、図3を参照して、目標空燃比A/Ftがリッチに切り替えられた時点t1から次にリッチに切り替えられる時点t3までの期間、または目標空燃比A/Ftがリーンに切り替えられた時点t2から次にリーンに切り替えられる時点(図示せず)までの期間をいう。また、アクティブ空燃比制御の半周期とは前記1周期の半分である。図3で言えばt1からt2までの期間、またはt2からt3までの期間をいう。
ここでECU20は、後述する所定の診断実行条件が成立した時点からアクティブ空燃比制御を開始するようになっている。またECU20は、現時点から所定時間前までの触媒後センサ18の出力履歴を常時更新記憶するようになっている。従ってECU20は、診断実行条件の成立時、その時点から所定時間Δt(図6参照)前までの触媒後センサ18の出力履歴に基づき、その所定時間Δtの間の触媒後センサ出力Vrがストイキ付近あるいは近傍の所定範囲内に維持されているかどうかを判断する。
ここでストイキ付近の所定範囲とは、本実施形態では前述のストイキ範囲(VL<Vr<VR)が該当する。しかしながら、ストイキ付近の所定範囲を定める上限値および下限値は、必ずしもリッチ判定値VRおよびリーン判定値VLと等しくする必要はなく、多少異ならせてもよい。但し、明らかなリッチ相当の値(例えば約0.75V)またはリーン相当の値(例えば約0.15V)よりはストイキ寄りに設定する必要がある。所定時間Δtは例えば30(s)である。
図7に、異常診断処理の第1実施例を示す。図示する処理はECU20により所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
まずステップS101では、予め定められた診断実行条件が成立したか否かが判断される。この診断実行条件は、診断を実行するのに必要な基本的条件のことである。例えば、(1)エンジンが定常運転状態にある、(2)少なくとも上流触媒11が活性化している、(3)触媒前センサ17および触媒後センサ18が活性化している、(4)現トリップ中で診断が未完了である、の4条件が成立したとき、診断実行条件が成立する。
(1)については、例えば、エアフローメータ5によって検出される吸入空気量Gaと、クランク角センサ14の出力から計算されるエンジン回転速度Neの所定時間内における変動幅が所定範囲内に入っていれば、成立する。(2)については、ECU20によって推定される少なくとも上流触媒11の温度が所定の活性温度域に入っていれば、成立する。(3)については、ECU20によって推定される触媒前センサ17および触媒後センサ18の素子温度が所定の活性温度域に入っていれば、成立する。(4)について、トリップとは、エンジンの1回の始動から停止までの期間のことをいう。本実施形態では1トリップ当たりに1回、診断を実行するようにしており、現トリップ中で未だ診断が1回も完了していない場合に(4)が成立する。
ステップS101で診断実行条件が成立していないと判断された場合、今回の処理が終了される。他方、ステップS101で診断実行条件が成立したと判断された場合、ステップS102に進む。
ステップS102では、診断実行条件の成立時点t1から所定時間Δt(図6参照)前までの期間内(すなわち診断実行条件の成立時直前の所定時間Δt内)における触媒後センサ出力Vrが、ストイキ範囲内に維持されているか否かが判断される。
ストイキ範囲内に維持されていると判断された場合には、ステップS103に進んで診断が禁止される。すなわち、診断実行条件が成立しているにも拘わらず、アクティブ空燃比制御は開始、実行されず、酸素吸蔵容量の計測も実行されない。
他方、ストイキ範囲内に維持されてないと判断された場合には、ステップS104に進んで診断が実行される。このときには直ちにアクティブ空燃比制御が開始、実行され、前述の方法に従って酸素吸蔵容量が複数計測され、触媒の正異常が判定される。
次に、異常診断処理の第2実施例を図8を参照しつつ説明する。この第2実施例はステップS201,S203,S204が第1実施例のステップS101,S103,S104と同様であり、ステップS202のみが第1実施例のステップS102と相違する。
ステップS202では、診断実行条件の成立時点t1から所定時間Δt(図6参照)前までの期間内(すなわち診断実行条件の成立時直前の所定時間Δt内)における触媒後センサ出力Vrが、リッチ判定値VRより小さい値に維持されているか否かが判断される。維持されていると判断された場合にはステップS203に進んで診断が禁止され、維持されてないと判断された場合にはステップS204に進んで診断が実行される。
所定時間Δt内の触媒後センサ出力Vrがリッチ判定値VRより小さい値に維持されている場合(すなわち0≦Vr<VRに維持されている場合)も、その所定時間Δt内に触媒後センサ出力Vrがストイキ付近の所定範囲内に維持されているとみなして、診断を禁止する。特にこの場合には、触媒後センサ18がリーン寄りの出力を発しており、触媒内がリーン雰囲気となっていて、触媒表面が酸素により被毒して一時的な不活性状態になっていることが考えられる。よってこの場合も、初回の計測値が顕著に小さくなることが予想されるから、診断を禁止する。
次に、異常診断処理の第3実施例を図9を参照しつつ説明する。この第3実施例も、ステップS301,S303,S304が第1実施例のステップS101,S103,S104と同様であり、ステップS302のみが第1実施例のステップS102と相違する。
ステップS302では、診断実行条件の成立時点t1から所定時間Δt(図6参照)前までの期間内(すなわち診断実行条件の成立時直前の所定時間Δt内)における触媒後センサ出力Vrの変化率Dが逐次的に算出される。そしてこの変化率Dの最大値Dmaxと最小値Dminとの積が算出され、この積が負であるか否かが判断される。積が負であると判断された場合にはステップS303に進んで診断が禁止され、積が負でない(すなわちゼロまたは正である)と判断された場合にはステップS304に進んで診断が実行される。
より詳しくは、ECU20は、前記酸素吸蔵容量dOSCの算出間隔と同様の所定の演算周期τ(例えば16ms)毎に、触媒後センサ出力変化率Dを順次算出していく。今回の触媒後センサ出力をVrn、前回の触媒後センサ出力をVrn-1とすると、今回の触媒後センサ出力変化率Dnは次式(2)で求められる。
なお、式(2)から、触媒後センサ出力変化率Dが触媒後センサ出力Vrの微分値に相当することが明白である。
図10及び図11には、触媒後センサ出力Vrの変化と、これに対応する触媒後センサ出力変化率Dの変化とを示す。これら図10及び図11に示すのは、触媒後センサ出力Vrがストイキ範囲内に維持されていない場合、より具体的には触媒後センサ出力Vrがリッチな値に維持されている場合である。この場合、触媒後センサ出力Vrは、その取り得る最大値付近に維持され、或いは張り付いている。
図10に示すように、触媒後センサ出力Vrは、時刻t11とt12で僅かに値が減少しているだけで、その他の期間では一定となっている。この場合、図11に示すように、触媒後センサ出力変化率Dは、時刻t11とt12で一瞬負の値となるが、その他の期間ではゼロに維持される。従って、触媒後センサ出力変化率の最大値Dmaxはゼロ、触媒後センサ出力変化率の最小値Dminは負の値となり、これら最大値Dmaxと最小値Dminの積はゼロとなる。
つまり、触媒後センサ出力Vrがストイキ範囲内に維持されていない場合には、触媒後センサ出力Vrはリッチな値(最大値)かリーンな値(最小値)のいずれかに張り付き、変動しない。よって触媒後センサ出力変化率の最大値Dmaxと最小値Dminの積はゼロとなり、負とならない。
他方、図12及び図13にも同様の図を示すが、これらの場合は、触媒後センサ出力Vrがストイキ範囲内に維持されている場合である。この場合、図12に示すように、触媒後センサ出力Vrはストイキ付近で絶えず変動している。すると図13に示すように、触媒後センサ出力変化率Dも絶えず変動するようになり、その最大値Dmaxは正の値、その最小値Dminは負の値となり、これら最大値Dmaxと最小値Dminの積は負の値となる。
よって、触媒後センサ出力Vrがストイキ範囲内に維持されている場合には、触媒後センサ出力変化率の最大値Dmaxと最小値Dminの積は負となる。
以上の特性を利用して、所定時間Δt内における触媒後センサ出力Vrが、ストイキ範囲内に維持されているか否かが判断される。所定時間Δt内における最大値Dmaxと最小値Dminの積が負の値であれば、所定時間Δt内における触媒後センサ出力Vrがストイキ範囲内に維持されているとみなして、診断が禁止される。他方、所定時間Δt内における最大値Dmaxと最小値Dminの積が負の値でなければ、所定時間Δt内における触媒後センサ出力Vrがストイキ範囲内に維持されていないとみなして、診断が実行される。
次に、他の実施形態を説明する。前記実施形態(基本実施形態という)は、触媒後センサ出力Vrが診断実行条件の成立時直前にストイキ近傍の所定範囲内に維持されているとき、診断を禁止するものであった。これに対し、本実施形態は、触媒後センサ出力Vrが診断実行条件の成立時直前にストイキ近傍の所定範囲内に維持されているとき、アクティブ空燃比制御における少なくとも初回のリッチ制御時に、リッチからリーンへの切替タイミングを遅らせるディレイと、リッチ振幅を基準値よりも増大させるリッチ振幅増大との少なくとも一方を実行するものである。
これを詳しく説明する。アクティブ空燃比制御のリッチ制御時にリッチからリーンへの切替タイミングを遅らせるディレイとは、図3に矢印Pで示すように、目標空燃比A/Ftをリッチ空燃比A/Frからリーン空燃比A/Flに切り替えるタイミングを、触媒後センサ出力Vrがリッチ判定値VRに達したタイミングt2より遅らせる制御である。このときのディレイ時間Δtdは、一定値としてもよいが、本実施形態では吸入空気量Gaに応じて変化させるようにしている。
他方、アクティブ空燃比制御のリッチ制御時にリッチ振幅を基準値よりも増大させるリッチ振幅増大とは、図3に矢印Qで示すように、リッチ制御時におけるリッチ振幅を基準値ArよりもΔArだけ増大させる制御である。より端的に言えばリッチ深さを深くする制御である。例えば、リッチ振幅の基準値Arは14.6(A/Fs)−14.1(A/Fr)=0.5である。また振幅増大量ΔArは、本実施形態では一定値(例えば0.2)とするが、吸入空気量Gaに応じて変化させてもよい。リッチ振幅増大後のリッチ振幅は0.5(Ar)+0.2(ΔAr)=0.7であり、このときの目標空燃比A/Ftは14.6−0.7=13.9である。
ディレイにより、リッチガスをより長い時間触媒に供給できる。またリッチ振幅増大により、よりリッチなガスを触媒に供給できる。よって所定時間Δt内で触媒が不活性な状態となり、或いは酸素被毒したとしても、ディレイおよびリッチ振幅増大により、触媒における酸素放出反応を強制的に活発化して触媒の活性化を促進すると共に、酸素被毒状態を解消することができる。
それ故、初回の酸素吸蔵容量計測値は増大して誤差が少なくなり、これを平均値OSCavの算出に使用できるようになる。よってこの初回計測値を含めて診断しても、十分な診断精度を確保し、誤診断を防止できる。
一方、初回計測値が使用可能となれば、その分早く全計測および診断を終了させることができるので、診断頻度の向上も図れる。なお、図6に示したように酸素吸蔵容量計測値OSCは計測毎に徐々に増加する傾向にあるので、初回計測値OSC1が増大すればその後の計測値も増大し、すべての計測値を真の値に近づけることができる。よってこのことも診断精度向上と誤診断防止に繋がる。
ところで、アクティブ空燃比制御における初回のリッチ制御とは、図6(A)にRで示すような1周期目の中でのリッチ制御のことである。この初回のリッチ制御Rは無効期間Δtx内に属している。しかしながら、無効期間Δtx内でディレイおよびリッチ振幅増大の少なくとも一方を実行しても、無効期間Δtx内で触媒活性化および酸素被毒状態解消を終えられ、無効期間Δtx後の1回目の計測時により大きな計測値を得られる。従って初回のリッチ制御が無効期間Δtx内に属していても何等問題はない。
他方、ディレイおよびリッチ振幅増大の少なくとも一方を実行するのは、必ずしも無効期間Δtx内でなくてもよい。例えば図6(A)に示すような時刻t1から開始するリーン制御中のみを無効期間とするならば(つまり無効期間は最初の半周期のみ)、次の初回のリッチ制御時は無効期間でなくなる。しかし、この初回のリッチ制御時にディレイおよびリッチ振幅増大の少なくとも一方を実行しても、この時に触媒活性化および酸素被毒状態解消を実行し、より大きな計測値を得られる。また、ディレイを行うとdOSCの積算時間が増え、リッチ振幅増大を行うと(1)式におけるΔA/Fが増大することから、これらによって直接的に計測値が増大する可能性が高い。従って、初回のリッチ制御が無効期間Δtx内に属していなくても何等問題はない。
なお、ディレイおよびリッチ振幅増大の少なくとも一方を実行するのは、必ずしも初回のリッチ制御時のみでなくてもよい。効果が不十分な場合は、例えば2回目のリッチ制御時にもそれらを実行してよい。
アクティブ空燃比制御における初回の空燃比制御をリッチ制御にするか、リーン制御にするかは、アクティブ空燃比制御開始時点の触媒後センサ出力Vrに応じて決定される。すなわち、その時点での触媒後センサ出力Vrがストイキ相当(例えば0.5V)よりもリッチ側であればリーン制御から開始し、逆にストイキ相当よりもリーン側であればリッチ制御から開始する。図6の例の場合、ストイキ相当よりもリッチ側であるのでリーン制御から開始している。
図14に、本実施形態に係る異常診断処理の実施例(便宜上、第4実施例とする)を示す。この第4実施例は、初回のリッチ制御時にディレイのみを実行するものである。しかしながら、リッチ振幅増大のみを実行するものとしてもよいし、ディレイとリッチ振幅増大の両方を実行するものとしてもよい。
ステップS401は第1実施例のステップS101と同様である。ステップS401で診断実行条件が成立したと判断された場合、ステップS402に進んで、診断が開始、実行される。そしてこれと同時にアクティブ空燃比制御が開始、実行される。
次いでステップS403で、現時点が初回のリッチ制御時であるか否かが判断される。初回のリッチ制御時でなければ今回の処理が終了され、初回のリッチ制御時であればステップS404に進む。
ステップS404では、必要なタイミングでディレイが実行される。ここでは吸入空気量Gaに応じたディレイ時間Δtdがマップ等に基づき決定される。図15には、ディレイ時間Δtdを決定するためのマップの一例を示し、吸入空気量Gaが多くなるほど短いディレイ時間Δtdが設定される。こうする理由は、吸入空気量Gaが多くなるほど触媒に多くのリッチガスが供給され、触媒活性化および酸素被毒状態解消が促進されるからである。ECU20は、エアフローメータ5により検出された実際の吸入空気量Gaに対応したディレイ時間Δtdをマップから読み取り、このディレイ時間Δtdだけリーンへの切替タイミングを遅らせる。
ここでは、初回のリッチ制御の開始時点において検出された吸入空気量Gaに基づき、ディレイ時間Δtdを決定する。但し診断時、エンジンは定常運転状態にあり、吸入空気量Gaはほぼ一定である。よって他のタイミング(例えば診断開始時)で検出された吸入空気量Gaに基づきディレイ時間Δtdを決定してもよい。
リッチ振幅増大を行う場合も同様に、マップ等に従って、吸入空気量Gaに応じた振幅増大量ΔArを決定すればよい。このとき前記同様の理由で、吸入空気量Gaが多くなるほど少ない振幅増大量ΔArを設定するのが好ましい。
次に、更なる他の実施形態を説明する。本実施形態は、酸素吸蔵容量の値が計測される毎に前回の計測値から今回の計測値までの増加幅を算出し、この増加幅が所定値以下となる今回の計測値に基づき、触媒が正常か否かを判定するものである。
これを詳しく説明する。図6を参照して既に説明したように、アクティブ空燃比制御の開始直前に触媒後センサ出力Vrがストイキ付近に維持されていると、触媒の活性が低下するなどの理由で、初回の酸素吸蔵容量計測値が低下する。しかし、アクティブ空燃比制御のリッチおよびリーンへの切り替えを繰り返すに従い、触媒の活性が向上していくなどの理由で、酸素吸蔵容量計測値は徐々に増大し一定値に収束していく。
そこでこの特性を利用して診断を行う。まず図16に示すように、酸素吸蔵容量の値を計測する毎に前回の計測値から今回の計測値までの増加幅ΔOSCn(但しn=1,2,3・・・)を算出する。図示例では、2回目の計測終了時から増加幅ΔOSCnを算出しており、ΔOSC1=OSC2−OSC1である。この場合、今回の計測値がOSC2、前回の計測値がOSC1、今回の増加幅がΔOSC1である。このような増加幅ΔOSCnの算出は、アクティブ空燃比制御の終了時まで行う。
次に、算出した複数の増加幅ΔOSCnの中から、予め実験的に定められた所定値ΔOSCs以下となるものを抽出する。図16に示した例の場合、図17に示すように、1回目と2回目の増加幅ΔOSC1、ΔOSC2は、所定値ΔOSCsより大きいので、採用しない。逆に3回目の増加幅ΔOSC3は、所定値ΔOSCs以下なので、採用する。
酸素吸蔵容量計測値が増加しながら一定値に収束する傾向にあるので、計測初期に近いほど増加幅ΔOSCは不採用となる傾向にあり、計測初期から離れるほど増加幅ΔOSCは採用となる傾向にある。
こうして、所定値ΔOSCs以下となる増加幅ΔOSCnを抽出したら、増加幅ΔOSCnを与えた今回の計測値のみに基づき、触媒が正常か否かを判定する。具体的には、抽出された増加幅ΔOSCnを与えた今回の計測値のみにより平均値OSCavを算出し、この平均値OSCavを異常判定値αと比較して、触媒が正常か異常かを判定する。
例えば、3回目以降の増加幅ΔOSC3,ΔOSC4,・・・が抽出されたならば、これら増加幅を与えた今回の計測値OSC4,OSC5,・・・のみに基づき正異常判定を実行する。これにより、真の値に比べて顕著に小さい計測値OSC1,OSC2,OSC3を診断対象から除外することができ、診断精度の低下および誤診断を未然に防止することができる。
図18に、本実施形態に係る異常診断処理の実施例(便宜上、第5実施例とする)を示す。
ステップS501は第1実施例のステップS101と同様である。ステップS501で診断実行条件が成立したと判断された場合、ステップS502に進んでアクティブ空燃比制御が実行され、同時に酸素吸蔵容量OSCの計測が実行される。
ステップS503では、1回の酸素吸蔵容量の計測が終了したか否かが判断される。計測が終了してなければステップS507に進み、計測が終了していればステップS504に進む。
ステップS504では、計測終了により得られた計測値を今回の計測値として、増加幅ΔOSCが算出される。そしてこの増加幅ΔOSCが所定値ΔOSCs以下かどうかが判断される。
所定値ΔOSCs以下と判断された場合、ステップS505に進んで、その増加幅ΔOSCを与えた今回の計測値OSCは、採用となり、ECU20のメモリに記憶される。他方、所定値ΔOSCsより大きいと判断された場合、ステップS506に進んで、その増加幅ΔOSCを与えた今回の計測値OSCは、不採用となり、直ちに破棄される。
この後、ステップS507において、アクティブ空燃比制御と酸素吸蔵容量計測が終了したか否かが判断される。終了してなければ今回の処理が終了され、終了したならばステップS508に進む。
ステップS508では、採用且つ記憶された今回の計測値OSCのみに基づき、平均値OSCavが算出され、正異常判定が実行される。これにより診断処理が終了となる。
以上、本発明の実施形態について詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えばエンジンは自動車用以外であってもよいし、直噴式等であってもよい。前記実施形態では排気ガス流量の代用値として吸入空気量を用い、吸入空気量に応じてディレイ時間等を変化させるようにしたが、排気ガス流量を直接検出し、これに応じてディレイ時間等を変化させてもよい。
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。