以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
[触媒劣化診断装置の構成]
まず、本発明の実施形態に係る触媒劣化診断装置について、図1を用いて説明する。図1は、触媒劣化診断装置を搭載した車両10の概略構成を示すブロック図である。
車両10は、内燃機関1と、触媒2と、ECU(Engine Control Unit)3と、吸気通路4と、排気通路5と、燃料噴射弁6と、A/Fセンサ7と、酸素センサ8と、を備える。
内燃機関1は、燃焼室内の混合気を爆発させて動力を発生する装置である。内燃機関1は、吸気通路4より空気9aと燃料を導入し、そして、燃料を燃焼した後の排気ガス9bを排気通路5へ排出する。内燃機関1としては、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどのエンジンとすることができる。
触媒2は、排気通路5上に設けられており、内燃機関1から排出される排気ガス9bを浄化する。例えば、触媒2は、排気ガス中のNOx(窒素酸化物)、HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)などを浄化する三元触媒などを用いることができる。
燃料噴射弁6は、内燃機関1に供給する燃料の量(即ち、燃料噴射量)を調整することが可能な装置である。燃料噴射弁6は、後述するECU3から供給される制御信号S3によって制御される。
A/Fセンサ7は、触媒2の上流側の排気通路5上に設けられている。A/Fセンサ7は、排気ガス9bの空燃比を検出し、検出した空燃比に相当する信号S1をECU3に出力する。一方、酸素センサ8は、触媒2の下流側の排気通路5上に設けられている。酸素センサ8は、触媒2を通過した後の排気ガス9c中の酸素濃度を検出し、検出した酸素濃度に相当する信号S2をECU3に出力する。このように、A/Fセンサ7は空燃比検出手段として機能し、酸素センサ8は酸素濃度検出手段として機能する。
ECU3は、図示しないCPU、ROM、RAM、A/D変換器及び入出力インタフェイスなどを含んで構成される。ECU3は、A/Fセンサ7及び酸素センサ8から出力される信号S1及びS2に基づいて燃料噴射弁6に対して制御信号S3を供給することにより、空燃比のフィードバック制御、即ちアクティブ制御を実行する。また、ECU3は、アクティブ制御の実行中にA/Fセンサ7から出力される空燃比、及び酸素センサ8から出力される酸素濃度などに基づいて触媒2の劣化診断を行う。本実施形態では、ECU3は、空燃比制御手段、酸素吸蔵能力算出手段、判定手段、及び触媒劣化診断手段として機能する。
[アクティブ制御方法]
次に、触媒2の劣化診断する際に実行されるアクティブ制御の基本概念について、図2を用いて説明する。
図2は、ECU3が空燃比をリッチとリーンとの間で変化させるアクティブ制御を実行したときに得られるセンサ出力などを示した図であり、横軸は時間を示している。なお、このようなアクティブ制御は、触媒2の劣化診断を行う際に実行される。
図2(a)は、A/Fセンサ7から出力される空燃比を示している。この場合、A/Fセンサ7から出力される空燃比は、内燃機関1から排出される排気ガス9b中の燃料と空気の割合を示している。A/Fセンサ7は、空燃比がストイキ(理論空燃比)にあるときに所定値を出力し、空燃比がリッチであるときは出力がその所定値より小さくなり、空燃比がリーンであるときは出力がその所定値より大きくなる。
また、図2(b)は、酸素センサ8から出力される酸素濃度を示している。この場合、酸素センサ8の出力は、触媒2の下流の排気ガス9c中の酸素濃度を示している。図2(b)に示すように、酸素センサ8は、排気ガス9c中の酸素濃度が大きい(即ち、空燃比がリーン)ときは出力が小さくなり、排気ガス9c中の酸素濃度が小さい(即ち、空燃比がリッチ)ときは出力が大きくなる。
次に、アクティブ制御を具体的に説明する。図2(a)と図2(b)に示されるように、アクティブ制御により目標空燃比がストイキ状態から酸素センサ8がリーン出力であるためリッチ状態に変更されたときには(時刻t1a)、触媒2がそれまで吸蔵していた酸素を放出するため、排気ガス9c中の酸素濃度は低下せず、酸素センサ8の出力は小さくなる。但し、触媒2が酸素を吸蔵することが可能な量には限界があるので、触媒2が吸蔵していた酸素を全て放出してしまうと排気ガス9c中の酸素濃度は急激に低下し、酸素センサ8の出力は急激に増大する。即ち、酸素センサ8の出力は反転する。そして、酸素濃度の低下により酸素センサ8の出力値が所定の判定値13aまで増加すると、ECU3は目標空燃比をリッチ状態からリーン状態へと移行させる(時刻t1b)。
リーン状態においては、排気ガス9cは酸素が過多の状態となっているが、触媒2がその酸素を吸蔵していくため、排気ガス9c中の酸素濃度は当初は増加しない。しかし、触媒2が限界まで酸素を吸蔵すると、その後は排気ガス9c中の酸素濃度が急激に増加する。即ち、酸素センサ8の出力は反転する。そして、酸素センサ8の出力値が所定の判定値13bまで減少すると、ECU3は目標空燃比をリーン状態からリッチ状態へと変更する(時刻t1c)。以後、同様の制御が繰り返される。
このように、触媒2が酸素を放出しきった際に目標空燃比をリーンに切り替えることによって、即座に触媒2に酸素を吸蔵させることができ、触媒2が酸素を吸蔵しきった際に目標空燃比をリッチに切り替えることによって即座に触媒2から酸素を放出させることができる。即ち、このようなアクティブ制御を行うことにより、触媒2から効果的に酸素を放出させることができると共に、触媒2に効果的に酸素を吸蔵させることができる。
図2(c)は、触媒2から放出される酸素の量(酸素放出量)と触媒2が吸蔵した酸素の量(酸素吸蔵量)を示している。酸素放出量及び酸素吸蔵量は、A/Fセンサ7からの出力や燃料噴射弁6の開度量などに基づいてECU3によって計算される量である。即ち、酸素放出量及び酸素吸蔵量は、排気ガス9b中の空燃比(A/F)と燃料噴射量などから算出される。
図2(c)に示すように、空燃比がリッチである場合には触媒2は酸素を一定の割合で放出し、空燃比がリーンである場合には触媒2は酸素を一定の割合で吸蔵する。また、酸素センサ8の出力が判定値13aに達したとき、言い換えると目標空燃比がリッチからリーンに反転される際に、触媒2は酸素放出状態から酸素吸蔵状態に切り替わる。通常は、酸素センサ8の出力が判定値13aに達したときに、触媒2は吸蔵している酸素を完全に放出している。更に、酸素センサ8の出力が判定値13bに達したとき、言い換えると目標空燃比がリーンからリッチに反転される際に、触媒2は酸素放出状態から酸素吸蔵状態に切り替わる。通常は、酸素センサ8の出力が判定値13bに達したときに、触媒2は限界まで酸素を吸蔵している。
酸素センサ8の出力が判定値13aに達したとき、即ち酸素センサ8の出力が反転したとき、算出される酸素放出量は符号11で示す量になっている。また、酸素センサ8の出力が判定値13bに達したとき、即ち酸素センサ8の出力が反転したとき、算出される酸素吸蔵量は符号12で示す量になっている。この場合、酸素放出量11は、触媒2が吸蔵している酸素を概ね完全に放出した際の酸素量であり、酸素吸蔵量12は、触媒2が概ね限界まで酸素を吸蔵したときの酸素量である。以下では、酸素放出量11を「OSAR」と表記し、酸素吸蔵量12を「OSAL」と表記し、これらをまとめて単に「酸素吸蔵量OSA」とも表記する。なお、酸素放出量OSARは、A/Fセンサ7の出力における領域14aの面積に相当し、酸素吸蔵量OSALは、A/Fセンサ7の出力における領域14bの面積に相当する。
ECU3は、酸素センサ8の出力が判定値13aに達したときに酸素放出量OSARを計算すると共に、酸素センサ8の出力が判定値13bに達したときに酸素吸蔵量OSALを計算する。詳しくは、ECU3は、A/Fセンサ7の出力に基づいて、酸素放出量OSAR及び酸素吸蔵量OSALを求める。例えば、ECU3は、時刻t1bにおいて、A/Fセンサ7の出力における領域14aの面積に基づいて酸素放出量OSARを算出し、時刻t1cにおいて、A/Fセンサ7の出力における領域14bの面積に基づいて酸素放出量OSALを算出する。
そして、ECU3は、算出された酸素放出量OSAR及び酸素吸蔵量OSALに基づいて、触媒2が吸蔵することができる酸素量(以下、この量を「酸素吸蔵能力Cmax」と表記する)を算出する。詳しくは、ECU3は、酸素放出量OSARと酸素吸蔵量OSALの平均値を酸素吸蔵能力Cmaxとする。例えば、ECU3は、時刻t1cに、領域14aの面積に基づいて算出された酸素放出量OSARと、領域14bの面積に基づいて算出された酸素吸蔵量OSALとから酸素吸蔵能力Cmaxを求める。更に、ECU3は、時刻t1dに、領域14bの面積に基づいて算出された酸素放出量OSALと、領域14cの面積に基づいて算出された酸素吸蔵量OSARとから酸素吸蔵能力Cmaxを求める。即ち、ECU3は、酸素センサ8の出力が反転するごとに、酸素吸蔵量OSAを計算すると共に、前回得られた酸素吸蔵量OSAと今回得られた酸素吸蔵量OSAに基づいて酸素吸蔵能力Cmaxを算出する。
このようにして求められた酸素吸蔵能力Cmaxに基づいて、ECU3は、触媒2の劣化診断を行う。例えば、ECU3は、求められた酸素吸蔵能力Cmaxが所定値(以下、「劣化判定値」と呼ぶ。)以上である場合に、触媒2が正常であると判定し、酸素吸蔵能力Cmaxが劣化判定値未満である場合には、触媒2が劣化していると判定する。
[酸素吸蔵能力低下現象]
次に、アクティブ制御の開始後の所定期間内に触媒2の酸素吸蔵能力Cmaxが一時的に低下する現象(以下、「酸素吸蔵能力低下現象」とも呼ぶ。)について、図3を用いて説明する。
図3(a)はA/Fセンサ7の出力を示し、図3(b)は算出された酸素吸蔵能力Cmaxを示している。この場合、時刻t2aにおいてアクティブ制御を開始している。具体的には、A/Fセンサ7は、符号20a〜20dで示すように出力しており、このような出力に基づいて符号21a〜21cで示すような酸素吸蔵能力Cmaxが得られる。
図3(a)より、時刻t2b〜t2cの期間に得られる符号20bで示す酸素吸蔵量OSAが、他の期間で得られる酸素吸蔵量OSAよりも小さいことがわかる。そのために、時刻t2a〜t2cまでのA/Fセンサ7の出力に基づいて算出される符号21aで示す酸素吸蔵能力Cmax、及び時刻t2b〜t2dまでのA/Fセンサ7の出力に基づいて算出される符号21bで示す酸素吸蔵能力Cmaxが、符号22で示す酸素吸蔵能力Cmaxの平均値よりも小さくなっている。しかしながら、時刻t2c〜t2dの期間に得られる符号20cで示す出力、及び時刻t2d〜t2eの期間に得られる符号20dで示す出力が大きくなるため、これらを用いて算出される符号21cで示す酸素吸蔵能力Cmaxが、符号22で示す酸素吸蔵能力Cmaxの平均値よりも大きくなっていることがわかる。以上から、アクティブ制御の開始後の所定期間内に、酸素吸蔵能力Cmaxが一時的に低下していることがわかる。
このような触媒2の酸素吸蔵能力Cmaxの一時的な低下は、例えば、リッチ制御によって触媒2の酸素吸蔵量OSAが概ね「0」である状態が継続した後に、アクティブ制御を実行した場合などに生じ得ることがわかっている。即ち、このような酸素吸蔵能力Cmaxの一時的な低下は、触媒2が劣化しているために生じているのではない(触媒2が本当に劣化している場合には、酸素吸蔵能力Cmaxは一時的ではなく継続して小さな値を示す)。言い換えると、アクティブ制御の開始直後において、酸素吸蔵能力Cmaxが小さな値を示した場合には、この酸素吸蔵能力Cmaxは、触媒2の真の酸素吸蔵能力Cmaxを示すものではない可能性がある。
[触媒劣化診断処理]
次に、本実施形態に係る触媒劣化診断処理について説明する。本実施形態に係る触媒劣化診断処理は、上記した酸素吸蔵能力低下現象を考慮に入れて実行される。
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係る触媒劣化診断処理について、図4及び図5を用いて説明する。なお、第1実施形態に係る触媒劣化診断処理は、ECU3によって実行される。
第1実施形態では、アクティブ制御の開始から酸素吸蔵能力Cmaxを算出した回数が所定回数(以下、「算出回数判定値」と呼ぶ。)未満であり、且つ、現在算出された酸素吸蔵能力Cmaxが所定値(以下、「低下判定値」と呼ぶ。)未満である場合、現在算出された酸素吸蔵能力Cmaxを破棄する、即ちこの酸素吸蔵能力Cmaxを用いて劣化診断を行わない。このような破棄を行うのは、前述した酸素吸蔵能力低下現象が原因で酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値未満となった可能性があり、このような可能性を有する酸素吸蔵能力Cmaxを用いて劣化診断をすることは好ましくないからである。
なお、上記の算出回数判定値は、酸素吸蔵能力低下現象が継続する時間などを考慮に入れて、予め設定される。
図4は、第1実施形態に係る触媒劣化診断処理を具体的に説明するための図である。具体的には、図4(a)、図4(b)は、触媒2が正常である場合のグラフを示し、図4(c)、図4(d)は、触媒2が異常である場合(即ち、劣化している場合)のグラフを示している。
図4(a)はA/Fセンサ7の出力を示し、図4(b)は算出された酸素吸蔵能力Cmaxを示している。この場合、時刻t3aでアクティブ制御を開始している。時刻t3b〜t3dで得られた出力に基づいて算出された符号24aで示す酸素吸蔵能力Cmaxは、低下判定値よりも小さい。そのため、ECU3は、符号24aで示す酸素吸蔵能力Cmaxを破棄する。
一方、時刻t3c〜時刻t3eで得られた出力に基づいて算出された符号24bで示す酸素吸蔵能力Cmaxは、低下判定値以上となる。これより、符号24aで示す酸素吸蔵能力Cmaxは、酸素吸蔵能力低下現象が原因で、低下判定値未満の値を示していたと言える。この場合、ECU3は、符号24bで示す酸素吸蔵能力Cmaxを採用する。同様に、時刻t3d〜時刻t3hにおける出力に対して次々に算出された酸素吸蔵能力Cmaxは、全て低下判定値以上であるため、ECU3は、符号24c、符号24d、及び符号24eで示す酸素吸蔵能力Cmaxを全て採用する。
そして、ECU3は、採用された酸素吸蔵能力Cmaxの回数(以下、「有効Cmaxデータ計測回数」と呼ぶ。)が計測回数判定値に達した時点で、劣化診断を行う。図4(a)、図4(b)の例では、計測回数判定値は4回に設定されているため、符号24eで示す酸素吸蔵能力Cmaxを算出した時点で、有効Cmaxデータ計測回数が計測回数判定値に達する。この際に、ECU3は、採用された酸素吸蔵能力Cmaxの平均値(以下、「平均Cmax値」と呼ぶ。)と劣化判定値とを比較することによって、劣化診断を行う。この例の場合、平均Cmax値が劣化判定値以上となるため、ECU3は、触媒2が正常であると判定する。以上の処理を行うことにより、正常な触媒2に対して劣化していると判定してしまうこと、即ち誤診断してしまうことを防止することができる。
なお、低下判定値は、劣化判定値よりも若干大きな値又は同一の値に設定される。こうするのは、低下判定値を劣化判定値よりも小さく設定した場合には、低下判定値を用いた判定の後に行われる劣化判定値を用いた判定において劣化判定が下されるような酸素吸蔵能力Cmaxが、低下判定値を用いた判定の際に採用されてしまう場合があるからである。即ち、酸素吸蔵能力低下現象によって酸素吸蔵能力Cmaxがこのような値になっているのにも拘らずに採用してしまい、劣化判定値を用いた判定において、正常な触媒2が劣化していると判定されてしまう可能性があるからである。したがって、低下判定値を劣化判定値よりも若干大きな値又は同一の値に設定することにより、低下判定値を用いた判定の際に劣化判定値よりも小さい値を必ず破棄することができるので、劣化診断の精度を確保することが可能となる。
一方、図4(c)はA/Fセンサ7の出力を示し、図4(d)は算出された酸素吸蔵能力Cmaxを示している。この場合も、時刻t4aでアクティブ制御を開始している。これより、時刻t4b〜t4dで得られた出力に基づいて算出された符号25aで示す酸素吸蔵能力Cmax、及び時刻t4c〜t4eで得られた出力に基づいて算出された符号25bで示す酸素吸蔵能力Cmaxは、低下判定値よりも小さいため、ECU3は、この酸素吸蔵能力Cmaxを破棄する。一方、時刻t4d〜時刻t4fで得られた出力に基づいて算出された符号25cで示す酸素吸蔵能力Cmaxも低下判定値よりも小さいが、この酸素吸蔵能力Cmaxを算出した時点で、酸素吸蔵能力Cmaxを算出した回数(以下、「Cmax算出回数」と呼ぶ。)が算出回数判定値(図4の例では、3回に設定されている)に達する。そのため、ECU3は、符号25cで示す酸素吸蔵能力Cmaxを破棄せずに採用する。このとき、ECU3は、有効Cmaxデータ計測回数を「1回」に設定する。
そして、ECU3は、有効Cmaxデータ計測回数が計測回数判定値に達した時点で、劣化診断を行う。この例では、符号25fで示す酸素吸蔵能力Cmaxを算出した時点で、有効Cmaxデータ計測回数が計測回数判定値に達する。したがって、ECU3は、この時点で、採用した酸素吸蔵能力Cmaxの平均値と劣化判定値との比較を行う。この場合、平均Cmax値が劣化判定値未満となるため、ECU3は、触媒2が劣化していると判定する。
図5は、第1実施形態に係る触媒劣化診断処理を示すフローチャートである。この処理は、ECU3によって所定の周期で繰り返し実行される。
まず、ステップS101では、ECU3は、触媒2の劣化診断の実行条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、ECU3は、内燃機関1の運転状態、例えば回転数や燃料噴射量などを確認することにより、実行条件が成立しているか否かを判定する。実行条件が成立している場合(ステップS101;Yes)には、処理はステップS102に進み、実行条件が成立していない場合(ステップS101;No)には、処理は当該フローを抜ける。
ステップS102では、ECU3は、A/Fセンサ7などの出力に基づいて酸素吸蔵能力Cmaxを算出する。そして、処理はステップS103に進む。ステップS103では、ECU3は、Cmax算出回数が算出回数判定値未満であるか否かを判定する。
Cmax算出回数が算出回数判定値未満である場合(ステップS103;Yes)には、処理はステップS104に進む。この場合には、アクティブ制御の開始直後に相当するため、酸素吸蔵能力低下現象が発生している可能性がある。一方、Cmax算出回数が算出回数判定値以上である場合(ステップS103;No)には、処理はステップS105に進む。この場合には、アクティブ制御の開始からある程度の時間が経過しているため、酸素吸蔵能力低下現象が発生している可能性はない。
ステップS104では、ECU3は、酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値以上であるか否かを判定する。酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値未満である場合(ステップS104;No)には、処理は当該フローを抜ける。この場合には、アクティブ制御の開始直後に相当し、且つ、酸素吸蔵能力Cmaxが小さいため、酸素吸蔵能力低下現象が発生している可能性が高い。そのため、ECU3は、算出された酸素吸蔵能力Cmaxを破棄する。これにより、触媒2に対する誤診断を防止することが可能となる。
一方、酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値以上である場合(ステップS104;Yes)には、処理はステップS105に進む。この場合には、酸素吸蔵能力低下現象が発生している可能性はない。したがって、算出された酸素吸蔵能力Cmaxを用いて、ステップS105以降の処理を行う。
ステップS105では、ECU3は、有効Cmaxデータ計測回数をカウントアップすると共に、Cmaxデータ積算値を算出する。具体的には、ECU3は、ステップS102で算出された酸素吸蔵能力Cmaxを破棄せずに採用しているため、有効Cmaxデータ計測回数を示す変数nをカウントアップする。そして、ECU3は、式(1)に基づいて、Cmaxデータ積算値を算出する。
sum{Cmax(n)}=sum{Cmax(n-1)}+Cmax 式(1)
なお、式(1)中の左辺の「sum{Cmax(n)}」は、算出すべきCmaxデータ積算値を示し、式(1)中の右辺の「sum{Cmax(n-1)}」は、有効Cmaxデータ計測回数が「n−1」であるときに算出したCmaxデータ積算値を示している。以上のステップS105の処理が終了すると、処理はステップS106に進む。
ステップS106では、ECU3は、有効Cmaxデータ計測回数が計測回数判定値以上であるか否かを判定する。有効Cmaxデータ計測回数が計測回数判定値以上である場合(ステップS106;Yes)には、ステップS107に進む。この場合には、触媒2の劣化診断を実行可能な程度に酸素吸蔵能力Cmaxを採用しているため、ステップS107以降の処理で、劣化診断を行うための処理を行う。一方、有効Cmaxデータ計測回数が計測回数判定値未満である場合(ステップS106;No)には、処理は当該フローを抜ける。この場合には、触媒2の劣化診断を実行可能な程度に酸素吸蔵能力Cmaxを採用していないため、新たに酸素吸蔵能力Cmaxを採用するために当該フローを抜け、再度当該フローに係る処理を実行する。
ステップS107では、ECU3は、採用された酸素吸蔵能力Cmaxの平均値を示す平均Cmax値を算出する。具体的には、ECU3は、ステップS105で算出したCmaxデータ積算値(sum{Cmax(n)})を用いて、以下の式(2)に基づいて平均Cmax値を算出する。そして、処理はステップS108に進む。
平均Cmax値=sum{Cmax(n)}/n 式(2)
ステップS108では、ECU3は、平均Cmax値が劣化判定値以上であるか否かを判定する。平均Cmax値が劣化判定値以上である場合(ステップS108;Yes)には、処理はステップS109に進み、ECU3は、触媒2に対して正常判定を下す。一方、平均Cmax値が劣化判定値未満である場合(ステップS108;No)には、処理はステップS110に進み、ECU3は、触媒2に対して劣化判定を下す。以上のステップS109又はステップS110の処理が終了すると、処理は当該フローを抜ける。
このように、第1実施形態に係る触媒劣化診断処理によれば、酸素吸蔵能力低下現象を適切に考慮に入れて触媒2の劣化診断を行うため、最小限の酸素吸蔵能力Cmaxの破棄回数で、触媒2に対する誤診断を防止することが可能となる。
なお、酸素吸蔵能力低下現象の発生を防止するために、アクティブ制御の前に、触媒2の浄化性能の向上を図る制御(以下、この制御を「プレコンディショニング」と呼ぶ。)を行う方法があるが、実際の運転状況の中では、プレコンディショニングとアクティブ制御の両方を行う期間を確保することが困難であったり、プレコンディショニングを行うことによってアクティブ制御を行う機会を失ったりする場合がある。即ち、プレコンディショニングを行うことにより、触媒2の劣化診断の頻度が減少してしまう場合がある。以上より、上記した触媒劣化診断処理を行うことにより、触媒2の劣化診断の頻度を減少させることなく、劣化診断の精度を確保することが可能となる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る触媒劣化診断処理を図6及び図7を用いて説明する。
第2実施形態に係る触媒劣化診断処理では、アクティブ制御の開始直後において酸素吸蔵能力Cmaxが低下していても、このような低下が触媒2の劣化が原因である場合には酸素吸蔵能力Cmaxを採用する点で、前述した第1実施形態に係る触媒劣化診断処理とは異なる。即ち、第1実施形態では、アクティブ制御の開始直後において酸素吸蔵能力Cmaxが低下している場合には、酸素吸蔵能力Cmaxを全て破棄していたが、第2実施形態では、酸素吸蔵能力Cmaxの低下が酸素吸蔵能力低下現象によるものである場合のみ、酸素吸蔵能力Cmaxを破棄する。これにより、劣化している触媒2に対する劣化判定の遅延を抑制することが可能となる。
図6は、第2実施形態に係る触媒劣化診断処理を具体的に説明するための図である。具体的には、図6(a)、図6(b)は、触媒2が正常である場合のグラフを示し、図6(c)、図6(d)は、触媒2が劣化している場合のグラフを示している。なお、図6の例では、計測回数判定値は3回に設定されている。
図6(a)はA/Fセンサ7の出力を示し、図6(b)は算出された酸素吸蔵能力Cmaxを示している。この場合、時刻t5aでアクティブ制御を開始している。これより、時刻t5b〜t5dで得られた出力に基づいて算出された符号27aで示す酸素吸蔵能力Cmaxは、低下判定値よりも小さいが、ECU3は、符号27aで示す酸素吸蔵能力Cmaxを採用する。同様に、時刻t5c〜t5eで得られた出力に基づいて算出された符号27bで示す酸素吸蔵能力Cmaxも、低下判定値よりも小さいが、ECU3は、この酸素吸蔵能力Cmaxも採用する。
一方、時刻t5d〜時刻t5fで得られた出力に基づいて算出された符号27cで示す酸素吸蔵能力Cmaxは、低下判定値よりも大きい。これより、符号27aで示す酸素吸蔵能力Cmax及び符号27bで示す酸素吸蔵能力Cmaxは、酸素吸蔵能力低下現象が原因で小さな値を示していたと言える。したがって、ECU3は、符号27cで示す酸素吸蔵能力Cmaxを採用すると共に、符号27a及び符号27bで示す酸素吸蔵能力Cmaxを破棄する。以上の処理を行うことにより、正常な触媒2に対して劣化していると判定してしまうこと、即ち誤診断してしまうことを防止することができる。
図6(c)はA/Fセンサ7の出力を示し、図6(d)は算出された酸素吸蔵能力Cmaxを示している。この場合も、時刻t6aでアクティブ制御を開始している。これより、時刻t6b〜t6dで得られた出力に基づいて算出された符号28aで示す酸素吸蔵能力Cmax、及び時刻t6c〜t6eで得られた出力に基づいて算出された符号28bで示す酸素吸蔵能力Cmaxは、低下判定値よりも小さいが、ECU3は、この酸素吸蔵能力Cmaxを採用する。
そして、時刻t6d〜時刻t6fで得られた出力に基づいて酸素吸蔵能力Cmaxを算出した時点で、Cmax算出回数が算出回数判定値に達する。この際に算出された符号28cで示す酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値よりも小さいため、ECU3は、符号28a及び符号28bで示す酸素吸蔵能力Cmaxを破棄しない(採用したままにする)。そのため、符号28cで示す酸素吸蔵能力Cmaxを算出した時点で、有効Cmaxデータ計測回数が計測回数判定値に達する。そして、ECU3は、この場合に算出される平均Cmax値が劣化判定値未満となるため、触媒2が劣化していると判定する。これにより、劣化している触媒2の酸素吸蔵能力Cmaxが破棄されてしまうことを防止して、触媒2に対する劣化判定を即座に行うことが可能となる。
図7は、第2実施形態に係る触媒劣化診断処理を示すフローチャートである。この処理は、ECU3によって所定の周期で繰り返し実行される。
まず、ステップS201では、ECU3は、触媒2の劣化診断の実行条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、ECU3は、内燃機関1の運転状態、例えば回転数や燃料噴射量などを確認することにより、実行条件が成立しているか否かを判定する。実行条件が成立している場合(ステップS201;Yes)には、処理はステップS202に進み、実行条件が成立していない場合(ステップS201;No)には、処理は当該フローを抜ける。
ステップS202では、ECU3は、A/Fセンサ7などの出力に基づいて酸素吸蔵能力Cmaxを算出する。そして、処理はステップS203に進む。ステップS203では、ECU3は、Cmax算出回数が算出回数判定値未満であるか否かを判定する。
Cmax算出回数が算出回数判定値未満である場合(ステップS203;Yes)には、処理はステップS204に進む。この場合には、アクティブ制御の開始直後に相当するため、酸素吸蔵能力低下現象が発生している可能性がある。一方、Cmax算出回数が算出回数判定値以上である場合(ステップS203;No)には、処理はステップS209に進む。この場合には、アクティブ制御の開始からある程度の時間が経過しているため、酸素吸蔵能力低下現象が発生している可能性はない。
ステップS204では、ECU3は、酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値以上であるか否かを判定する。酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値未満である場合(ステップS204;No)には、処理はステップS206に進む。この場合には、アクティブ制御の開始直後に相当し、且つ、酸素吸蔵能力Cmaxが小さいため、酸素吸蔵能力低下現象が発生している可能性がある。その他にも、触媒2が劣化している可能性も考えられる。したがって、ステップS206では、ECU3は異常値履歴を「ON」にする。具体的には、ECU3は、異常値履歴を示す「xng」を「ON」に設定する。そして、処理はステップS209に進む。この場合、酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値未満であるが、酸素吸蔵能力Cmaxを破棄せずに(即ち、後述するステップS208の処理を行わずに)、ステップS209において有効Cmaxデータ計測回数をカウントアップすると共に、Cmaxデータ積算値を算出する。
なお、当該フローに係る処理を繰り返し実行した際に、酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値未満の状態が継続した場合には、異常値履歴は継続して「ON」に設定される。このような場合には、Cmax算出回数が算出回数判定値付近になっても、言い換えると、酸素吸蔵能力低下現象が概ね終了すると想定される時刻になっても、酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値未満であるため、触媒2が劣化している可能性が高い。
一方、酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値以上である場合(ステップS204;Yes)には、処理はステップS207に進む。ステップS207では、ECU3は、異常値履歴が無いか否かを判定する。異常値履歴が無い場合(ステップS207;Yes)には、即ち「xng」が「OFF」である場合には、処理はステップS209に進む。この場合には、酸素吸蔵能力低下現象は発生していない。
異常値履歴が有る場合(ステップS207;No)には、即ち「xng」が「ON」である場合には、処理はステップS208に進む。ステップS207の処理は酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値以上である場合に実行されるため、ステップS207において異常値履歴が有ると判定される場合としては、例えば、現在までに算出された酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値未満であったが、現在算出された酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値以上となった場合などが挙げられる。このように過去に算出された酸素吸蔵能力Cmaxが低下判定値未満となっていたのは、触媒2の劣化によるものではなく、酸素吸蔵能力低下現象によるものと考えることができる。
ステップS208では、ECU3は、有効Cmaxデータ計測回数及びCmaxデータ積算値をクリアすると共に、異常値履歴を「OFF」にする。具体的には、ECU3は、Cmaxデータ計測回数を示す「n」を「0」にすると共に、Cmaxデータ積算値を示す「sum{Cmax(n)}」を「0」にする。このような処理を行うのは、酸素吸蔵能力低下現象の影響を受けた酸素吸蔵能力Cmaxを用いて、触媒2の劣化診断が行われないようにするためである。以上の処理が終了すると、処理はステップS209に進む。
なお、異常値履歴が「ON」のままである場合(即ち、触媒2が劣化している可能性が高い場合)には、ステップS208の処理が実行されないため、有効Cmaxデータ計測回数やCmaxデータ積算値がクリアされない。そのため、Cmax算出回数が算出回数判定値に達するまでに算出された酸素吸蔵能力Cmaxは破棄されずに全て採用される。したがって、劣化している触媒2に対する劣化判定を即座に行うことが可能となる。
ステップS209〜ステップS214の処理は、前述したステップS105〜ステップS110の処理と同様である。即ち、触媒2の劣化診断を行うための具体的な処理が実行される。
このように、第2実施形態に係る触媒劣化診断処理によれば、触媒2に対する誤診断を防止することができると共に、劣化している触媒2に対する劣化判定を即座に行うことが可能となる。
(第3実施形態)
第3実施形態に係る触媒劣化診断処理は、前述した第1実施形態及び第2実施形態とは異なり、Cmax算出回数が算出回数判定値未満である場合には、算出された酸素吸蔵能力Cmaxを全て破棄する。
図8は、第3実施形態に係る触媒劣化診断処理を示すフローチャートである。
第3実施形態に係る触媒劣化診断処理は、ステップS301〜S303の処理は、第1実施形態に係る触媒劣化診断処理のステップS101〜S103の処理と同様であり、ステップS304〜S309の処理はステップS105〜S110の処理と同様である。即ち、第3実施形態に係る触媒劣化診断処理は、第1実施形態に係る触媒劣化診断処理におけるステップS104の処理を行わない。
具体的には、ステップS303において、Cmax算出回数が算出回数判定値以上である場合(ステップS303;No)には、処理はステップS304に進み、Cmax算出回数が算出回数判定値未満である場合(ステップS303;No)には、処理は当該フローを抜ける。即ち、Cmax算出回数が算出回数判定値以上である場合のみ、酸素吸蔵能力Cmaxを採用し、Cmax算出回数が算出回数判定値未満である場合には、算出された酸素吸蔵能力Cmaxを破棄する。
このような第3実施形態に係る触媒劣化診断処理によれば、簡便な処理によって、触媒2に対する誤診断を防止することが可能となる。
(変形例)
上記した実施形態では、酸素吸蔵能力低下現象の発生の有無を判定する際にCmax算出回数を用いる例を示したが、Cmax算出回数の代わりに、積算吸入空気量、或いはアクティブ制御の開始後からの時間(アクティブ制御継続時間)などを用いて酸素吸蔵能力低下現象の発生の有無を判定しても良い。この場合、積算吸入空気量が所定量に達したか否か、或いはアクティブ制御継続時間が所定時間に達したか否かに基づいて、酸素吸蔵能力低下現象の発生の有無を判定することができる。