以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態の構成を示す概略図である。図示されるように、内燃機関1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。内燃機関1は車両用多気筒エンジン(1気筒のみ図示)であり、火花点火式内燃機関、より具体的にはガソリンエンジンである。
内燃機関1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが気筒ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは図示しないカムシャフトによって開閉させられる。また、シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管を介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気集合通路をなす吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、吸入空気量(内燃機関に流入する空気量)を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式スロットルバルブ10とが組み込まれている。なお吸気ポート、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)12が気筒ごとに配設される。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁Viの開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストン4で圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
一方、各気筒の排気ポートは気筒毎の枝管を介して排気集合通路をなす排気管6に接続されている。これら排気ポート、枝管及び排気管6により排気通路が形成される。排気管6には、上流側から順に、酸素吸蔵能を有する三元触媒からなる触媒即ち上流触媒11と、比較的小容量の吸蔵還元型NOx触媒21と、酸素吸蔵能を有する三元触媒からなる触媒即ち下流触媒19とが、直列に設けられている。上流触媒11の上流側には、排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ即ち触媒前センサ17が設けられている。また、NOx触媒21及び下流触媒19の間には、排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ即ち触媒後センサ18と、排気ガスのNOx濃度を検出するためのNOxセンサ22とが設けられている。なおこれにより、NOx触媒21は上流触媒11と触媒後センサ18の間に配置されることとなる。触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能で、その空燃比に比例した値の信号を出力する。他方、触媒後センサ18は所謂O2センサからなり、理論空燃比を境に出力値が急変する特性(Z特性)を持つ。これら触媒前センサ17及び触媒後センサ18の出力特性を図5に示す。
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18およびNOxセンサ22のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
ECU20は、触媒前センサ17により検出された空燃比即ち触媒前空燃比A/Ffが目標空燃比A/Ftに一致するように、燃焼室3に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御する。一方、触媒11,19は、これに流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比(ストイキ、例えばA/Fs=14.6)のときにNOx ,HCおよびCOを同時に高効率で浄化する。よってECU20は、内燃機関の通常運転時、理論空燃比に等しい目標空燃比A/Ftを設定し、触媒前センサ17により検出された触媒前空燃比A/Ffが理論空燃比に一致するようにインジェクタ12から噴射される燃料噴射量をフィードバック制御する。これにより触媒11に流入する排気ガスの空燃比は理論空燃比近傍に保たれ、触媒11において最大の浄化性能が発揮されるようになる。
ここで、劣化診断の対象となる上流触媒11についてより詳細に説明する。なお下流触媒19も上流触媒11と同様に構成されている。図2に示すように、触媒11においては、図示しない担体基材の表面上にコート材31が被覆され、このコート材31に微粒子状の触媒成分32が多数分散配置された状態で保持され、触媒11内部で露出されている。触媒成分32は主にPt,Pd等の貴金属からなり、NOx ,HCおよびCOといった排ガス成分を反応させる際の活性点となる。他方、コート材31は、排気ガスと触媒成分32との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うと共に、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸収放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCeO2やジルコニアからなる。例えば、触媒成分32及びコート材31の雰囲気ガスが理論空燃比よりリッチであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分に吸蔵されていた酸素が放出され、この結果、放出された酸素によりHCおよびCOといった未燃成分が酸化され、浄化される。逆に、触媒成分32及びコート材31の雰囲気ガスが理論空燃比よりリーンであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分が雰囲気ガスから酸素を吸収し、この結果NOxが還元浄化される。
このような酸素吸放出作用により、通常の空燃比制御の際に触媒前空燃比A/Ffが理論空燃比に対し多少ばらついたとしても、NOx、HCおよびCOといった三つの排気ガス成分を同時浄化することができる。よって通常の空燃比制御において、触媒前空燃比A/Ffを敢えて理論空燃比を中心に微小振動させ、酸素の吸放出を繰り返させることにより排ガス浄化を行うことも可能である。
ところで、新品状態の触媒11では前述したように細かい粒子状の触媒成分32が多数均等に分散配置されており、排気ガスと触媒成分32との接触確率が高い状態に維持されている。しかしながら、触媒11が劣化してくると、一部の触媒成分32に消失が見られるほか、触媒成分32同士が排気熱で焼き固まって焼結状態になるものがある(図の破線参照)。こうなると排気ガスと触媒成分32との接触確率の低下を引き起こし、浄化率を落としめる原因となる。そしてこのほかに、触媒成分32の周囲に存在するコート材31の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体が低下する。
このように、触媒11の劣化度と触媒11の持つ酸素吸蔵能の低下度とは相関関係にある。そこで本実施形態では、特にエミッションへの影響が大きい上流触媒11の酸素吸蔵能を検出することにより、上流触媒11の劣化度を検出することとしている。ここで、触媒11の酸素吸蔵能は、現状の触媒11が吸蔵し得る最大酸素量である酸素吸蔵容量(OSC;O2 Storage Capacity、単位はg)の大きさによって表される。
本実施形態の触媒劣化診断は前述のCmax法によるものを基本とする。そして触媒11の劣化診断に際しては、ECU20によりアクティブ空燃比制御が実行される。アクティブ空燃比制御において、触媒11の上流側の空燃比、即ち燃焼室3内の混合気の空燃比ひいては触媒11に供給される排気ガスの空燃比は、所定の中心空燃比A/Fcを境にリッチ側及びリーン側にアクティブに(強制的に)交互に切り替えられる。なおリッチ側に切り替えられているときの空燃比をリッチ空燃比A/Fr、リーン側に切り替えられているときの空燃比をリーン空燃比A/Flと称す。このアクティブ空燃比制御によって触媒前空燃比A/Ffがリッチ及びリーンの一方に制御されている間に触媒の酸素吸蔵容量OSCが計測される。
触媒11の劣化診断は、内燃機関1の定常運転時で且つ触媒11が活性温度域にあるときに実行される。触媒11の温度(触媒床温)の計測については、温度センサを用いて直接検出してもよいが、本実施形態の場合内燃機関の運転状態から推定することとしている。例えばECU20は、エアフローメータ5によって検出される吸入空気量Gaに基づいて、予め設定されたマップを利用し、触媒11の温度Tcを推定する。なお、吸入空気量Ga以外のパラメータ、例えばエンジン回転速度Ne(rpm)などを触媒温度推定に用いるパラメータに含めてもよい。
以下、図3及び図4を用いて、上流触媒11の酸素吸蔵容量の計測方法を説明する。なおここでは上流触媒11の下流側に設けられたNOx触媒21は無いものとする。図3(A),(B)にはそれぞれ、アクティブ空燃比制御を実行したときの、触媒前センサ17及び触媒後センサ18の出力挙動を実線で示す。また、図3(A)には、ECU20内部で発生される目標空燃比A/Ftを破線で示す。図3(A)に示される触媒前センサ17の出力値は触媒前空燃比A/Ffに換算した値である。また図3(B)に示される触媒後センサ18の出力値はその出力値自体、即ち出力電圧Vrの値である。
図3(A)に示されるように、目標空燃比A/Ftは、中心空燃比としての理論空燃比A/Fsを中心として、そこからリッチ側に所定の振幅(リッチ振幅Ar、Ar>0)だけ離れた空燃比(リッチ空燃比A/Fr)と、そこからリーン側に所定の振幅(リーン振幅Al、Al>0)だけ離れた空燃比(リーン空燃比A/Fl)とに強制的に、且つ交互に切り替えられる。そしてこの目標空燃比A/Ftの切り替えに追従して、実際値としての触媒前空燃比A/Ffも、目標空燃比A/Ftに対し僅かな時間遅れを伴って切り替わる。このことから目標空燃比A/Ftと触媒前空燃比A/Ffとは時間遅れがあること以外等価であることが理解されよう。
図示例においてリッチ振幅Arとリーン振幅Alとは等しい。例えばリッチ空燃比A/Fr=14.1、リーン空燃比A/Fl=15.1、リッチ振幅Ar=リーン振幅Al=0.5とされる。通常の空燃比制御の場合に比べ、アクティブ空燃比制御の場合は空燃比の振り幅が大きく、即ちリッチ振幅Arとリーン振幅Alとの値は大きい。
目標空燃比A/Ftは、触媒後センサ18の出力が反転するのに応じて切り替えられる。即ち、目標空燃比A/Ftが切り替えられる時期ないしタイミングは、触媒後センサ18の出力がリッチからリーンに、又はリーンからリッチに切り替わるタイミングと同時である。なお実際に供給される混合気の空燃比も目標空燃比A/Ftと同時に切り替えられる。図示されるように、触媒後センサ18の出力電圧Vrは理論空燃比A/Fsを境に急変する。そして当該出力電圧Vrの反転時期、即ち当該出力電圧Vrがリッチ側に反転した時期及びリーン側に反転した時期を定めるため、当該出力電圧Vrに関する二つの反転しきい値VR,VLが予め定められている。ここでVRをリッチ判定値、VLをリーン判定値という。VR>VLであり、例えばVR=0.59(V)、VL=0.21(V)とされる。出力電圧Vrがリーン側即ち減少方向に変化してリーン判定値VLに達した時、出力電圧Vrはリーン側に反転したとみなされ、触媒後センサ18によって検出された触媒後空燃比A/Frは少なくとも理論空燃比よりリーンであると判断される。他方、出力電圧Vrがリッチ側即ち増大方向に変化してリッチ判定値VRに達した時、出力電圧Vrはリッチ側に反転したとみなされ、触媒後空燃比A/Frは少なくとも理論空燃比よりリッチであると判断される。図5に示すように、リッチ判定値VRはストイキ相当値Vstよりも大きな(リッチ側の)値であり、リーン判定値VLはストイキ相当値Vstよりも小さな(リーン側の)値である。リッチ判定値VRとリーン判定値VLとにそれぞれ対応する空燃比の間の狭い領域Y(これを遷移領域という)に理論空燃比が含まれている。基本的に、出力電圧Vrからは触媒後空燃比A/Frが理論空燃比よりもリッチかリーンかを検出できるのみで、触媒後空燃比A/Frの絶対値まで検出するのは困難である。
図3(A),(B)に示されるように、触媒後センサ18の出力電圧Vrがリッチ側の値からリーン側に変化してリーン判定値VLに等しくなった時(時刻t1)、目標空燃比A/Ftはリーン空燃比A/Flからリッチ空燃比A/Frに切り替えられる。その後、触媒後センサ18の出力電圧Vrがリーン側の値からリッチ側に変化してリッチ判定値VRに等しくなった時(時刻t2)、目標空燃比A/Ftはリッチ空燃比A/Frからリーン空燃比A/Flに切り替えられる。このように、触媒後センサ18の出力がリーン側又はリッチ側に反転する毎に空燃比がリッチ側又はリーン側にアクティブに切替制御される。
このアクティブ空燃比制御を実行しつつ、次のようにして触媒11の酸素吸蔵容量OSCが計測され、触媒11の劣化が判定される。
図3を参照して、時刻t1より前では目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flとされ、触媒11にはリーンガスが流入されている。このとき触媒11では酸素を吸収し続けているが、一杯に酸素を吸収した時点でそれ以上酸素を吸収できなくなり、リーンガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後空燃比A/Frがリーン側に変化し、触媒後センサ18の出力電圧がリーン判定値VLに達した時点(t1)で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられ、或いは反転される。
そして今度は触媒11にリッチガスが流入されることとなる。このとき触媒11では、それまで吸蔵されていた酸素が放出され続ける。よって触媒11の下流側にはほぼ理論空燃比A/Fsの排気ガスが流出し、触媒後空燃比A/Frがリッチにならないことから、触媒後センサ18の出力は反転しない。触媒11から酸素が放出され続けるとやがて触媒11からは全ての吸蔵酸素が放出され尽くし、その時点でそれ以上酸素を放出できなくなり、リッチガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後空燃比A/Frがリッチ側に変化し、触媒後センサ18の出力電圧がリッチ判定値VRに達した時点(t2)で、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられる。
酸素吸蔵容量OSCが大きいほど、酸素を吸収或いは放出し続けることのできる時間が長くなる。つまり、触媒が劣化していない場合は目標空燃比A/Ftの反転周期(例えばt1からt2までの時間)が長くなり、触媒の劣化が進むほど目標空燃比A/Ftの反転周期は短くなる。
そこで、このことを利用して酸素吸蔵容量OSCが以下のようにして計測される。図4に示すように、時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられた直後、僅かに遅れて実際値としての触媒前空燃比A/Ffがリッチ空燃比A/Frに切り替わる。そして触媒前空燃比A/Ffが理論空燃比A/Fsに達した時点t11から、次に目標空燃比A/Ftが反転する時点t2まで、次式(1)により、所定の微小時間毎の酸素吸蔵容量dOSC(酸素吸蔵容量の瞬時値)が算出され、且つこの微小時間毎の酸素吸蔵容量dOSCが時刻t11から時刻t2まで積算される。こうしてこのリッチ制御中或いは酸素放出サイクルにおいて、最終積算値としての酸素吸蔵容量OSC、即ち放出酸素量(図4のOSC1)が計測される。
ここで、Qは燃料噴射量であり、空燃比差ΔA/Fに燃料噴射量Qを乗じるとストイキに対し不足又は過剰分の空気量を算出できる。Kは空気に含まれる酸素割合(約0.23)を表す定数である。
目標空燃比A/Ftがリーン側となっているリーン制御中或いは酸素吸蔵サイクルでも同様に酸素吸蔵容量(この場合吸蔵酸素量)が計測される。そして目標空燃比A/Ftがリッチ・リーンと交互に切り替えられ、リッチ制御とリーン制御が交互に行われる度に、酸素吸蔵容量が計測される。そして得られた複数の酸素吸蔵容量計測値の平均値OSCavが算出され、当該平均値OSCavが最終的な酸素吸蔵容量計測値OSCとされる。
なお、リーン制御中或いは酸素吸蔵サイクルにおける酸素吸蔵容量(吸蔵酸素量)の計測については、図4に示すように、時刻t2で目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられた後、触媒前空燃比A/Ffが理論空燃比A/Fsに達した時点t21から、次に目標空燃比A/Ftがリッチ側に反転する時点t3まで、前式(1)により微小時間毎の酸素吸蔵容量dOSCが算出され、且つこの微小時間毎の酸素吸蔵容量dOSCが積算される。こうしてこの酸素吸蔵サイクルにおける酸素吸蔵容量(図4のOSC2)が計測される。酸素放出サイクルの酸素吸蔵容量OSC1と酸素吸蔵サイクルの酸素吸蔵容量OSC2とはほぼ等しい値となるのが理想的である。
次に、最終的な酸素吸蔵容量計測値OSCに基づき触媒の劣化判定がなされる。即ち、酸素吸蔵容量計測値OSCが所定の劣化判定値OSCsと比較され、酸素吸蔵容量計測値OSCが劣化判定値OSCsより大きければ触媒は正常、酸素吸蔵容量計測値OSCが劣化判定値OSCs以下ならば触媒は劣化と判定される。なお、触媒が劣化と判定された場合、その事実をユーザに知らせるため、チェックランプ等の警告装置を起動させるのが好ましい。
ところで、前述したように、高硫黄濃度の燃料が使用されると上流触媒11(及び下流触媒19)がS被毒し、排気浄化性能が悪化するだけでなく、劣化診断時に本来より少ない酸素吸蔵容量の値が計測されてしまって誤診断する可能性がある。そこで本実施形態ではこれを防止すべく、燃料の硫黄濃度を検出可能としている。
この硫黄濃度検出には、吸蔵還元型NOx触媒21とNOxセンサ22とが用いられる。吸蔵還元型NOx触媒(NSR: NOx Storage Reduction)21は、アルミナAl2O3等の酸化物からなる基材表面に、触媒成分としての白金Ptのような貴金属と、NOx吸収成分とが担持されて構成されている。NOx吸収成分は、例えばカリウムK、ナトリウムNa,リチウムLi、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa、イットリウムY、セリウムCeのような希土類から選ばれた少なくとも一つから成る。
吸蔵還元型NOx触媒21はNOx吸蔵能を有し、これに供給される排気ガスの空燃比が理論空燃比よりリーンのときには排気ガス中のNOxを硝酸塩の形で吸蔵し、これに供給される排気ガスの空燃比が理論空燃比又はそれよりリッチのときには吸蔵したNOxを放出する。この放出されたNOxは触媒中の貴金属を介して理論空燃比又はそれよりリッチの排気ガスと反応し、N2に還元処理される。こうして吸蔵NOxを放出させることで、NOx触媒21は本来のNOx吸蔵能を取り戻し、再生される(これをNOx再生という)。
なお、NOx触媒21のNOx吸放出作用はNOx触媒21が活性状態にあるとき、即ち所定の活性温度域(例えば280〜550℃)にあるときに限り可能である。本実施形態では、例えば上流触媒11の推定温度に基づき、NOx触媒21の温度を推定し、NOx触媒21が活性状態にあるか否かを判断するようにしている。
特に、NOx触媒21は比較的小容量のものが使用される。その理由は、詳しくは後述するが、本実施形態ではNOx触媒21のS被毒の有無を利用して燃料の硫黄濃度を検出しており、より詳しくは、NOx触媒21のS被毒によるNOx吸蔵容量の減少によりNOx触媒21から漏れ出したNOxをNOxセンサ22で検出して燃料の硫黄濃度が高いことを検出するからである。従って、NOx触媒21は、S被毒があると短時間のうちにNOxが漏れ出すような程度の容量しか有さないのが好ましい。NOx触媒21は、排気ガス中のNOxを実用上十分に吸蔵できるほどの大きな容量を有する必要はない。NOx触媒21の容量は、例えば、上流触媒11の容量の1/2よりも少なくされ、例えば上流触媒11の容量の1/3などとされる。
図6には、触媒劣化診断時および硫黄濃度検出時における各値の変化を示す。(A)は目標空燃比A/Ftを示し、(B)は触媒後センサ出力Vrを示す。(C)は、上流触媒11とNOx触媒21の間の位置における排気ガスのNOx濃度、即ち、上流触媒11から排出されNOx触媒21に供給される排気ガスのNOx濃度を示す。(D)は、低硫黄濃度の燃料(低硫黄燃料)使用時のNOxセンサ出力Iを示し、(E)は、高硫黄濃度の燃料(高硫黄燃料)使用時のNOxセンサ出力Iを示す。なおNOxセンサ出力IはNOx濃度が高いほど大きな値となる。
以下、目標空燃比A/Ftが、リッチ及びリーンの一方に切り替えられた時から再び同一方向に切り替えられる時までの期間をアクティブ空燃比制御の1周期という。また目標空燃比A/Ftが、リッチ及びリーンの一方に切り替えられた時から次に反対方向に切り替えられる時までの期間をアクティブ空燃比制御の半周期という。そして目標空燃比A/Ftがリッチに切り替えられた時から開始する半周期をリッチ半周期といい、目標空燃比A/Ftがリーンに切り替えられた時から開始する半周期をリーン半周期という。図示例では、例えばt0からt1までの期間がリーン半周期、t1からt2までの期間がリッチ半周期、t0からt2までの期間が1周期である。なおリッチ半周期及びリーン半周期をそれぞれリッチ制御時及びリーン制御時ともいい、半周期を単に「山」ともいう。
まず図示例における触媒劣化診断を概説する。時刻t0でアクティブ空燃比制御が開始され、最初の半周期(リーン半周期)が開始されるが、この半周期では酸素吸蔵容量が計測されない。その理由は、開始前の空燃比がアクティブ空燃比制御実行中と異なってストイキとなっており、前条件が相違するからである。最初の半周期は捨て山とされる。
次に、時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチに切り替えられ、1回目のリッチ半周期が開始される。このリッチ半周期では前述の方法により酸素吸蔵容量が計測(積算)される。時刻t2で触媒後センサ出力Vrがリッチに反転したのと同時に、1回目のリッチ半周期における酸素吸蔵容量計測が終了され、同時に目標空燃比A/Ftがリーンに切り替えられる。
以降同様に、時刻t2,t3,・・・で目標空燃比A/Ftがリーン、リッチ、・・・と交互に切り替えられる度に、リーン半周期、リッチ半周期、・・・での酸素吸蔵容量が順次計測される。そしてN周期分(本実施形態ではN=3)の酸素吸蔵容量が計測された時点t7で、アクティブ空燃比制御と酸素吸蔵容量計測とが終了され、計測された複数(本実施形態では六つ)の酸素吸蔵容量計測値の平均値が算出される。
かかる触媒劣化診断中、燃料硫黄濃度検出が同時に行われる。ここでNOxの挙動に着目すると次の通りである。最初のリーン半周期(t0〜t1)において、上流触媒11にはストイキよりリーンな排気ガス(リーンガス)が供給されているが、このリーンガスは、上流触媒11の酸素吸蔵量が飽和状態に近づくにつれ徐々に上流触媒11から漏れ出してくる。この漏出量の増加につれ、(C)に示すように、上流触媒11から漏れ出てくるNOx量も徐々に増加する。この傾向は全てのリーン半周期(t2〜t3、t4〜t5、t6〜t7)において見られる。なお前条件の違いに起因して、最初のリーン半周期はその後のリーン半周期よりもNOx漏出量が多い。
かかる漏出NOxは、NOx触媒21が正常な状態であれば、NOx触媒21により吸蔵されてしまい、NOx触媒21の下流側には排出されない。即ち、(D)に示すように、既定の低硫黄燃料が使用されていれば、NOx触媒21はS被毒せず、NOx触媒21は十分なNOx吸蔵能を有する。よってNOx触媒21は漏出NOxを吸蔵し、漏出NOxを排出しない。それ故、NOx触媒21の下流側におけるNOxセンサ22の出力Iは、低いNOx濃度相当の低い値に維持される。なお、最初のリーン半周期ではNOxセンサ22の出力Iが若干立ち上がっているが、これはNOx触媒21に比較的多い漏出NOxが供給されたことによるものである。
リーン半周期の間のリッチ半周期(t1〜t2、t3〜t4、t5〜t6)においても、上流触媒11からリッチガスが徐々に漏れ出すが、この漏れ出したリッチガスがNOx触媒21に供給される結果、NOx触媒21から吸蔵NOxが放出され還元処理される。よってリッチ半周期の度にNOx触媒21は再生されることとなる。
ところで、(E)に示すように、高硫黄燃料が使用されると、NOx触媒21がS被毒してしまい、その本来有するNOx吸蔵能が低下する。よってNOx触媒21が吸蔵可能なNOx量が減少し、その結果、漏出NOxが比較的早い段階からNOx触媒21から漏れ出てしまう。それ故、NOxセンサ22の出力Iが比較的早い段階から立ち上がり始め、変化するようになる。
このように低硫黄燃料使用時と高硫黄燃料使用時とでは、NOx触媒21のS被毒の有無に起因して、リーン制御中におけるNOxセンサ22の出力Iの挙動が相違する。従って本実施形態ではこの特性を利用して燃料の硫黄濃度を検出する。
硫黄濃度検出の第1の態様は、(E)に示すような、リーン制御開始時から、NOxセンサ出力Iが所定値に達するまでの時間Tを検出パラメータとして用いるものである。即ち、1回目のリーン半周期(t2〜t3)開始と同時に、時間Tの計測とNOxセンサ出力Iのモニタリングとが開始され、同時に、当該開始時のNOxセンサ出力の値(開始値)I0が記憶される。そしてその後、NOxセンサ出力Iが、開始値I0よりも所定値Aだけ大きい値に達した時、その時の時間Tが記憶される。より具体的には、リーン半周期開始時以降、実際のNOxセンサ出力Iと開始値I0との差即ちNOxセンサ出力差ΔI=I−I0がモニタリングされ、このNOxセンサ出力差ΔIが所定値A以上となった時、その時のリーン半周期開始時からの計測時間Tが記憶される。
次いで、この記憶された時間Tが所定値Ts以下であるとき、燃料の硫黄濃度が高いことが検出され、即ち燃料は高硫黄燃料であると判定される。他方、時間Tが所定値Tsより長いときには、燃料の硫黄濃度が低いことが検出され、即ち燃料は既定の低硫黄燃料であると判定される。
以上の説明で分かるように、この第1の態様は、高硫黄燃料使用時に低硫黄燃料使用時よりも早期にNOx触媒21からNOxが漏れ始め、NOxセンサ出力Iが立ち上がることを利用するものである。
以下、図7を参照しつつ、硫黄濃度検出の第1の態様を含む触媒劣化診断処理を説明する。図示するルーチンはECU20により所定のサンプリング周期τ(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
まずステップS101では、診断を開始するための前提条件が成立しているか否かが判断される。例えば、吸入空気量Ga及び機関回転速度Neの変動幅が所定範囲内にあるなどエンジンが定常運転状態にあり、且つ、上流触媒11、NOx触媒21及び各センサ17,18,22が活性状態にあれば、前提条件成立となる。なお前提条件についてはここで述べた例に限られない。前提条件が成立していない場合には今回のルーチンが終了され、他方、前提条件が成立している場合にはステップS102に進んで、アクティブ空燃比制御が実行、開始される。
次いでステップS103では、アクティブ空燃比制御の最初の半周期が終了したか否かが判断される。この最初の半周期とは図6に示したt0〜t1の期間に相当し、所謂捨て山が終了したか否かが判断されている。終了してなければ今回のルーチンが終了され、終了していればステップS104に進む。
ステップS104では、現在が1回目のリーン半周期にあるか否かが判断される。これは、本実施形態では1回目のリーン半周期においてのみ硫黄濃度検出を実施するようにしているためである。1回目のリーン半周期とは、図6に示したt2〜t3の期間に相当する。現在が1回目のリーン半周期になければ、ステップS113において前述の方法により酸素吸蔵容量OSCが計測される。他方、現在が1回目のリーン半周期にあれば、ステップS105に進んで酸素吸蔵容量OSCが計測されると共に、ステップS106以降で硫黄濃度検出のための処理が実行される。
ここで、酸素吸蔵容量OSCの計測に際しては、NOx触媒21も酸素吸蔵可能なので、上流触媒11とNOx触媒21の両方における酸素吸蔵容量の合計値が計測される。しかし、この合計値からNOx触媒21分の酸素吸蔵容量を減じることで、上流触媒11のみの酸素吸蔵容量を算出するようにしている。具体的には、合計値に、予め定められた減少係数W(但し0<W<1、例えばW=0.9)を乗じて得た値を上流触媒11の酸素吸蔵容量としている。こうすることで、上流触媒11とNOx触媒21の互いに連動する劣化度を加味して上流触媒11の酸素吸蔵容量を正確に得ることができる。
さて、ステップS106においては、1回目のリーン半周期開始時のNOxセンサ出力値即ち開始値I0と、実際のNOxセンサ出力値Inとの差、即ちNOxセンサ出力差ΔIn=In−I0がモニタリングされる。ここでnはサンプリング周期τ毎の各サンプリング時期を意味する。そして、ステップS107において、1回目のリーン半周期開始時からの時間Tが計測される。
ステップS108では、NOxセンサ出力差ΔInが所定値A以上となったか否かが判断される。ここで所定値Aとしては、高硫黄燃料使用時に一つのリーン半周期内においてNOxセンサ出力差ΔInが到達し得るような値が設定されている。NOxセンサ出力差ΔInが所定値A以上となっていなければ、今回のルーチンが終了される。
他方、NOxセンサ出力差ΔInが所定値A以上となっていれば、ステップS109に進み、その時点での時間Tが記憶されると共に、当該時間Tが所定値Tsと比較される。T>Tsのときには、NOx触媒21からのNOx漏出が遅くNOx触媒21はS被毒してないとして、ステップS110において使用燃料を低硫黄燃料と判定する。他方、T≦Tsのときには、NOx触媒21からのNOx漏出が早くNOx触媒21はS被毒しているとして、ステップS111において使用燃料を高硫黄燃料と判定する。
高硫黄燃料と判定した場合、次のステップS112で、酸素吸蔵容量計測値を補正するための補正係数αが算出される。即ち、高硫黄燃料の場合だと上流触媒11がS被毒し、計測された酸素吸蔵容量の値が真の値より小さくなって誤診断を起こす可能性がある。よって、酸素吸蔵容量計測値をS被毒減少分だけ増加補正するための補正係数αが算出される。補正係数αの算出は予めECU20に記憶されたマップ又は関数を用いて行われる。本実施形態では図8に示すようなマップが用いられ、T≦Tsのときには1より大きい補正係数αが算出される。なおマップの特性は図示例に限られない。
ステップS110,S112又はS113に続いて、ステップS114では、アクティブ空燃比制御のN周期(本実施形態ではN=3)が終了したか否かが判断される。終了していなければ今回のルーチンが終了される。終了していればステップS115に進んで、アクティブ空燃比制御と酸素吸蔵容量計測とが終了され、また合計2N(本実施形態では6)サンプルの酸素吸蔵容量OSCの計測値からこれらの平均値OSCavが算出される。
ステップS116では、酸素吸蔵容量計測値の平均値OSCavに補正係数αが乗じられて最終的な酸素吸蔵容量計測値OSCが算出される。これによりステップS111で高硫黄燃料と判断された場合、ステップS112で算出された1より大きい補正係数αが乗じられ、上流触媒11のS被毒分が補償される。なお、ステップS112で補正係数αが算出されないままステップS116に至った場合、補正係数αとしては基準値の1が使用され、酸素吸蔵容量計測値の平均値OSCavがそのまま最終的な酸素吸蔵容量計測値OSCとされる。
次いで、ステップS117において最終的な酸素吸蔵容量計測値OSCが所定の劣化判定値OSCsと比較される。OSC>OSCsならばステップS118で上流触媒11は正常と判定され、OSC≦OSCsならばステップS119で上流触媒11は劣化と判定される。以上でルーチンが終了する。
なお、この例では1回目のリーン半周期にのみ硫黄濃度検出を行ったが、これに限定されず、任意のリーン半周期に硫黄濃度検出を行ってよい。例えば、他回目(例えば2回目又は3回目)のリーン半周期にのみ硫黄濃度検出を行ってもよいし、複数のリーン半周期で硫黄濃度検出を行ってもよい。後者の場合、複数の検出結果が同じである場合に限ってその検出結果を最終的な検出結果としてもよく、或いは、1回でも高硫黄燃料使用と判定すれば最終的な検出結果を高硫黄燃料使用としてもよい。
また、実際のNOxセンサ出力値Iの開始値I0との差ΔIの代わりに、実際のNOxセンサ出力値I自体を用いてもよい。
酸素吸蔵容量計測値OSCを補正する代わりに、劣化判定値OSCsを補正しても良い。この場合、ステップS111において高硫黄燃料使用と判定されたときには、ステップS112において、例えば図9に示すようなマップから、1より小さい補正係数βを算出する。そしてステップS116で平均値OSCavを補正する代わりに、ステップS117でOSCsをβ・OSCsに置き換える。これにより劣化判定値OSCsは、上流触媒11のS被毒分を補償するよう、より小さい値に補正され、上流触媒11を劣化とする誤診断を防止できる。
或いは、誤診断を防止すべく、高硫黄燃料が検出されたときには直ちに診断を中止しても良い。
次に、硫黄濃度検出の第2の態様を説明する。この態様は、リーン制御中におけるNOxセンサ出力Iに基づく面積を検出パラメータとして用いる。即ち、図10に示すように、1回目のリーン半周期(t2〜t3)の開始時からサンプリング周期τ毎に、NOxセンサ出力差ΔIn=In−I0が積算される。この積算値ΣΔInは、図中ハッチングで示すような面積に相当するので、当該積算値ΣΔInを面積とも称する。次いで、積算値ないし面積ΣΔInが所定値B以上であるときには高硫黄燃料と判定され、積算値ないし面積ΣΔInが所定値B未満であるときには低硫黄燃料と判定される。この第2の態様は、高硫黄燃料使用時に低硫黄燃料使用時よりもNOxセンサ出力Iが大きく変化することを利用するものである。
図11に、硫黄濃度検出の第2の態様を含む触媒劣化診断処理のルーチンを示す。このルーチンにおいて、図7に示した第1の態様に係るルーチンと異なるのは、ステップS106〜109に代わってステップS206,S207が実行される点だけであり、その余は同様であるのでステップ番号を200番台に置き換えて詳細な説明を省略する。
ステップS206ではNOxセンサ出力差ΔIn=In−I0が積算され、ステップS207では今回の積算値ないし面積ΣΔInが所定値B未満であるか否かが判断される。積算値ΣΔInが所定値B未満であるときには、ステップS210で低硫黄燃料と判定される。他方、積算値ΣΔInが所定値B以上であるときには、ステップS211で高硫黄燃料と判定される。この場合、次のステップS212で、酸素吸蔵容量計測値を補正するための補正係数αがマップ又は関数を用いて算出される。本実施形態では図12に示すようなマップが用いられ、ΣΔIn≧Bのときには1より大きい補正係数αが算出される。但しこのマップの特性も図示例に限られない。
この例では時々刻々と変化する積算値ΣΔInが所定値B以上に達した時点で高硫黄燃料と判定したが、リーン半周期の全期間に亘る積算値ΣΔInを一旦求め、この積算値ΣΔInが所定値B以上に達していれば高硫黄燃料と判定してもよい。NOxセンサ出力値Inの開始値I0との差ΔInの代わりにNOxセンサ出力値In自身を用いてもよい。また、任意のリーン半周期に硫黄濃度を検出できる点、酸素吸蔵容量計測値を補正する代わりに劣化判定値OSCsを補正しても良い点、および高硫黄燃料判定時に直ちに診断を中止しても良い点は、前記同様である。
次に硫黄濃度検出の第3の態様を説明する。この態様は、リーン制御中におけるNOxセンサ出力Iに基づく軌跡長を検出パラメータとして用いる。即ち、図13に示すように、1回目のリーン半周期(t2〜t3)の開始時からサンプリング周期τ毎に、今回のNOxセンサ出力Inと前回のNOxセンサ出力In−1との差ΔIn’=In−In−1が積算される。この積算値ΣΔIn’は、図示するようなNOxセンサ出力Iの軌跡長ないし変化量に相当するので、当該積算値ΣΔIn’を軌跡長とも称する。次いで、積算値ないし軌跡長ΣΔIn’が所定値C以上であるときには高硫黄燃料と判定され、積算値ないし軌跡長ΣΔIn’が所定値C未満であるときには低硫黄燃料と判定される。この第3の態様も、高硫黄燃料使用時に低硫黄燃料使用時よりもNOxセンサ出力Iが大きく変化することを利用するものである。
図14に、硫黄濃度検出の第3の態様を含む触媒劣化診断処理のルーチンを示す。このルーチンにおいて、図7に示した第1の態様に係るルーチンと異なるのは、第2の態様に係るルーチンと同様、ステップS106〜109に代わってステップS306,307が実行される点だけであり、その余は同様であるのでステップ番号を300番台に置き換えて詳細な説明を省略する。
ステップS306では前回と今回のNOxセンサ出力の差ΔIn’=In−In−1が積算され、ステップS307では今回の積算値ないし軌跡長ΣΔIn’が所定値C未満であるか否かが判断される。積算値ΣΔIn’が所定値C未満であるときには、ステップS310で低硫黄燃料と判定される。他方、積算値ΣΔIn’が所定値C以上であるときには、ステップS311で高硫黄燃料と判定される。この場合、次のステップS312で、酸素吸蔵容量計測値を補正するための補正係数αがマップ又は関数を用いて算出される。本実施形態では図15に示すようなマップが用いられ、ΣΔIn’≧Cのときには1より大きい補正係数αが算出される。なおこのマップの特性も図示例に限られない。
第2の態様のときと同様、この例では時々刻々と変化する積算値ΣΔIn’が所定値C以上に達した時点で高硫黄燃料と判定したが、リーン半周期の全期間に亘る積算値ΣΔIn’を一旦求め、この積算値ΣΔIn’が所定値C以上に達していれば高硫黄燃料と判定してもよい。また、任意のリーン半周期に硫黄濃度を検出できる点、酸素吸蔵容量計測値を補正する代わりに劣化判定値OSCsを補正しても良い点、および高硫黄燃料判定時に直ちに診断を中止しても良い点は、前記同様である。
ところで、上流触媒11が劣化するにつれ、空燃比の切替周期及び触媒後センサ出力Vrの反転周期が短くなり、NOxセンサ出力Iの立ち上がり開始タイミングが早まると共に、リーン半周期全体でのNOxセンサ出力Iに基づく面積及び軌跡長が減少する可能性がある。よってこの場合でも硫黄濃度検出を的確に行えるようにするため、上流触媒11の劣化度に応じて検出パラメータ(T,ΣΔIn,ΣΔIn’)の所定値Ts,B,Cを変化させるのが好ましい。上流触媒11の劣化度を表すパラメータとしては、酸素吸蔵容量OSCの実際の計測値を用いることができる。時間Tについては、酸素吸蔵容量OSCの計測値が小さいほど(つまり触媒劣化度が大ほど)、所定値Tsを小さくするのが好ましい。また面積ΣΔIn及び軌跡長ΣΔIn’についても、酸素吸蔵容量OSCの計測値が小さいほど、所定値B及びCを小さくするのが好ましい。これにより触媒劣化度をも考慮した適切な硫黄濃度検出を実行することが可能となる。
以上、本発明の実施形態について詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば、内燃機関の用途や形式は任意であり、例えば車両用以外であってもよいし、直噴式等であってもよい。また、前記実施形態では上流触媒11とNOx触媒21をそれぞれ別体として所定間隔を空けて配置したが、図16に示すようにこれらを一体とし、互いに隣接して配置してもよい。この場合、担体基材の少なくとも前半部を含む前側部分に三元触媒11を形成し、残りの後側部分にNOx触媒21を形成することができる。
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。