本発明の地下構造物の第1実施形態を図面に基づき説明する。図1には、地盤12に掘削形成された縦穴14内に構築された地下構造物10が示されている。また、図2には、後述する上構造物11Aにおける地下構造物10の平断面図が示されている。
図1に示すように、地下構造物10は、地面GLを基準(0階)として地上階側をプラス、地下階側をマイナスとしたとき、0階〜−12階までの上構造物11Aと、−13階〜−19階までの下構造物11Bとで構成されている。また、地下構造物10は、0階〜−14階までの深さH1=70mの範囲が民間領域となっており、−15階〜−19階までの深さH2=30mの範囲が公共領域となっている。なお、地下構造物10は、−12階(深さ60m程度)を境として、上側が第1段階の施工で構築された第1施工領域Aであり、下側が第2段階の施工で構築された第2施工領域Bとなっている。
また、地下構造物10は、縦穴14の穴底面16に構築された下構造物11B(底部34G)の周辺から立ち上り、土圧Pを受ける側壁20を有している。側壁20は、縦穴14内面に接触し地下構造物10の最外周壁を構成する外壁22と、外壁22の内面に接触し地下構造物10の各階の周壁を構成する内壁24とで構成されている。なお、下構造物11Bに、請求項6および請求項7を適用する場合、適用階を上記「−13階〜−19階まで」に特定されることなく、例えば下構造物11Bの適用階を「−3階〜−19階まで」としてもよい。
外壁22は、H鋼を芯材として、オーガー機によってセメントミルクを注入しながら土砂を攪拌して構築したH鋼モルタル柱列、又は鉄筋籠を芯材として、バケット掘削機によって溝を掘り、生コンクリートを注入して構築したコンクリート製の連続壁であり、遮水性の山止め壁として用いられている。
一方、内壁24は、コンクリートにより形成された壁体である。なお、本実施形態では、側壁20が外壁22と内壁24で構成されているものとして説明しているが、これに限らず、側壁20が外壁22のみであってもよい。
ここで、上構造物11Aは、側壁20の内面に沿って連続形成され中央部に開口部30を構成するコンクリート造の床版26を有している。床版26は、縦長L1=横長L2=100m(図2参照)の正方形状に構築されており、0階の床を床版26Aとして、−1階の床を床版26B、−2階の床を床版26C、途中省略して−11階の床を床版26L、−12階の床を床版26Mというように、複数階層に設けられている。
図2に示すように、開口部30は、直径D=60mの円形状に形成されている。また、図1に示すように、開口部30の下端には床版18が形成されている。床版18は、コンクリート造の連続した無開口床版となっている。また、床版18は、下構造物11Bにおいて天井部を構成している。なお、開口部30は、円形だけでなく、楕円形及びそれらに準ずる多角形であってもよい。
図1及び図2に示すように、上構造物11Aの各階層の開口部30側は開放されており、床版26上で開口部30の周方向の一部には、構真柱28が立設されている。ここで、−1階に着目すると、側壁20、床版26A、床版26Bで囲まれたフロア29が形成されている。なお、フロア29は、他の階層も同様に設けられている。
図2に示すように、上構造物11Aの各階層の床版26は、構真柱28によって支持されている。
一方、図1に示すように、下構造物11Bは、−12階から−19階までの複数階層に設けられたコンクリート造の床版18及び34(底部34G含む)と、それら床版18及び34を支持する複数の構真柱36とを有している。
次に、地下構造物10の施工方法について説明する。なお、内壁24と構真柱28については、階層に関わらず同じ符号を用いて説明する。また、各床版には所定量の鉄筋が用いられるが、配筋工程の説明は省略する。
図3(a)に示すように、H鋼又は鉄筋籠(図示省略)を芯材として、H鋼ソイル柱列工法、又は連続壁工法により、所定の深さ(図1のH1+H2の深さ)まで外壁22を構築する。同時期に、場所打ち杭機によって構真柱28を立設する。続いて、地表面を鋤取り、外壁22の内側に枠体(図示省略)を配設すると共にコンクリートを打設して、外壁22に沿って水平方向に床版26Aを形成する。これにより、地下構造物10の0階の床が構築される。
続いて、図3(b)に示すように、0階の床版26Aの下側が掘削機(図示省略)により掘削された後、床版26Aと同様に床版26Bが構築される。この工法は、いわゆる逆打ち工法である。床版26Bの構築後、外壁22に接触するようにコンクリートが打設され、内壁24が構築される。また、床版26Aの円形領域の地盤12が掘削されることで、床版26A及び床版26Bの内壁24と反対側の端面が開放されると共に、開口部30が形成される。
続いて、図3(c)に示すように、−1階の床版26Bから第1施工領域A(図1参照)の下端である−12階の床版26Mまでの各階層において、逆打ち工法により各床版26、内壁24が構築され、掘削により開口部30が形成される。かくして、上構造物11Aが構築される。上構造物11Aは、開口部30によって採光された光が、各床版26間の開放端からフロア29内に導入されるため、居住空間として利用可能となる。なお、開口部30側に窓を備えた周壁を設けてもよい。
上構造物11Aの構築後、第2施工領域Bの施工が開始される。施工開始に先立ち、新たに作業床(図示省略)が設けられ、図3(c)に示すように、開口部30の下部地盤12に構築される構造物を支持するため、構真柱36が立設される。
続いて、図4(d)に示すように、−12階(床版26Mのフロア)において、開口部30の底面にコンクリート打設により床版18が形成される。なお、床版18は床版26Mに構造的に一体化され、構真柱36で支持される。
続いて、図4(e)に示すように、−12階の床版26M及び床版18の下側に、逆打ち工法により−13階の床版34A及び内壁24が構築される。
続いて、図4(f)に示すように、−13階の床版34Aの下側に逆打ち工法により床版34B〜底部34G、内壁24が構築される。このようにして、−14階から−19階までの各階層が構築され、−13階から−19階までの下構造物11Bが構築される。
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。
図5(a)、(b)に示すように、構築された地下構造物10の側壁20には、4方向から土圧Pが作用する。ここで、上構造物11Aに着目すると、土圧Pは、側壁20の内面に沿って連続して構成されたコンクリート造の床版26を通じて、開口部30の円弧(矢印R方向)に沿って反対側の側壁20へ伝達される。このため、床版26全体に均等に圧縮力を作用させることができる。
このように、土圧Pを利用して床版26に圧縮力を付与することで、引張力に弱いコンクリート造の床版26が補強されるため、床版26を無筋とし又は鉄筋量を増やさずに済む。さらに、補強された床版26が一種の切ばりとして側壁20を支えるため、大きな土圧Pが作用する大深度となる穴底面に地下構造物10を構築することができる。
床版26の中央は開口部30となっているため、地下構造物10内へ採光ができ、大深度でも床版26の階層間(フロア29)を居住空間とすることができる。また、床版26に鉛直荷重が作用した場合、床版26に圧縮力が付与されているため、床版26での引張力の発生を抑えられる。さらに、床版26は、構真柱28で支持されているので、床版26に鉛直荷重が作用しても支持することができる。これにより、床版26の構築状態が保持される。
また、下構造物11Bにおいては、床版18、34は無開口である。床版26と同様に、床版18、34に、土圧Pによる圧縮力が付与されるため、これに鉛直荷重が作用した場合、床版18、34での引張力の発生を抑えられる。さらに、床版18、34は構真柱36で支持されているので、床版18、34に鉛直荷重が作用しても支持することができる。これにより床版18、34の構築状態が保持される。
ここで、図6に示すように、地下構造物10の観測点S2、S3、S4の3箇所に加速度計を設置し、地震発生時の時間経過に対する加速度の変化を観測した。地面GLを0とし、地面GLから上方をプラス方向、下方をマイナス方向として、観測点S2は0mの位置、観測点S3は−5mの位置、観測点S4は−55mの位置となっている。なお、地下構造物10との比較例として、同じ地盤12上で地下構造物10に近い場所に構築された地上10階建ての地上構造物BLについて、10階の観測点S1における地震発生時の時間経過に対する加速度の変化についても観測した(文献「建物と地盤の動的相互作用を考慮した応答解析と耐震設計」日本建築学会、2006年版による)。
図7(a)に示すように、地上10階の観測点S1では、地上構造物BLの特性上、地下構造物10の観測点S2、S3より大きな加速度が観測された。一方、図7(b)〜(d)に示すように、地面GLに近い観測点S2、S3の方が大深度の観測点S4よりも加速度が大きいことが判った。一般に、地震による加速度は、地上構造物BLよりも地下構造物10の方が小さく、さらに大深度の方が小さい。言い換えると、地震波は大深度方向から伝播し、表層の軟弱地盤で増幅する。そして、表層の軟弱地盤で増幅した地震波が地上構造物に入力し、地上構造物ではさらに増幅されるのである。
そこで、建物が地下構造物10だけの場合、地震時の揺れは地上に構築された構造物が存在しないので、地上構造物の揺れの影響を受けず(地盤振動と地上建物振動との相互作用=0)地盤12からの揺れだけとなる。したがって、この揺れは地盤12の種類にもよるが、一般には、図7(b)、(c)に示す揺れよりも小さい。さらに、地下構造物10は、外部が土(地盤12)で囲まれているため、外側に崩壊することはない。
よって、地下構造物10は、ラーメン構造とする必要はなく、無梁版構造で設計することが可能となる。また、上記のように、地下構造物10は、地上構造物に較べて地震に強いため、大深度の適当な階(ここでは、−13階より下の階)を避難場所として利用することも可能である。
次に、本発明の地下構造物の第2実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図8には、地盤12に掘削形成された縦穴14内に構築された地下構造物40が示されている。また、図9(a)、(b)には、後述する上構造物42A及び下構造物42Bにおける地下構造物40の平断面図が示されている。
図8に示すように、地下構造物40は、地面GLを基準(0階)として、地上階側をプラス、地下階側をマイナスとしたとき、0階〜−12階までの上構造物42Aと、−13階〜−19階までの下構造物42Bとで構成されている。また、地下構造物40は、0階〜−14階までの深さH1=70mの範囲が民間領域となっており、−15階〜−19階までの深さH2=30mの範囲が公共領域となっている。
なお、地下構造物40は、−12階(深さ60m)を境として、上側が第1段階の施工で構築された第1施工領域Aであり、下側が第2段階の施工で構築された第2施工領域Bとなっている。また、地下構造物40は、外壁22と内壁24で構成される側壁20を有している。
ここで、上構造物42Aは、側壁20の内面に沿って連続形成され中央部に開口部50を構成するコンクリート造の床版44を有している。床版44は、縦長=横長=100mの正方形状に構築されており、0階の床を床版44Aとして、−1階の床を床版44B、−2階の床を床版44C、途中省略して−12階の床を床版44Mというように、複数階層に設けられている。
図9(a)に示すように、床版44は、側壁20の内面に沿って所定の幅で形成された第1床部46と、第1床部46の内側で開口部50の周方向に沿って所定の幅で形成された第2床部48とで構成されている。第1床部46と第2床部48の間には、第2床部48の外周に沿って環状の隙間部52が構真柱を避けて設けられている。
隙間部52は、床版44に圧縮力を導入する前は隙間となっており、圧縮力が導入された後にコンクリートが打設されることで、床版44を形成するように構成されている。また、側壁20の4隅から開口部50の中心方向に向けて、4つの隙間部54A、54B、54C、54Dが設けられている。隙間部54A、54B、54C、54Dは、構真柱を避けて配置されている。この4つの隙間部54A〜54D及び隙間部52によって、第1床部46は、第1床部46A、46B、46C、46Dの4つの領域に分割されている。
第1床部46A〜46Dと第2床部48は、図示しない鉄筋が所定量配筋されコンクリートが打設されることで構築されている。また、隙間部52及び隙間部54A〜54Dには、複数箇所(1m間隔毎に1個見当の割合)に加圧用のオイルジャッキ55が配設される。なお、オイルジャッキ55は数箇所のみ表示しており、他の箇所の表示は省略している。
続いて、第1床部46A〜46D及び第2床部48に対し、集中制御装置を使って、一斉に所定の圧力に達するまで加圧する。その結果、第1床部46に面内方向の圧縮力が付与され、第2床部48に円周方向の圧縮力が付与される。
4つの隙間部54A、54B、54C、54Dを設置することにより、側壁20からの土圧Pが、有効に第1床部46A〜46Dを経て第2床部48に伝達され、床版44に所定の圧縮力が導入されていることが認められるときは、隙間部52の設置は、当然、不要である。4つの隙間部54A、54B、54C、54Dの加圧作業は上述と同様に行う。
一方、開口部50は、直径60mの円形状に形成されている。また、図8に示すように、開口部50の下端には、コンクリート造の連続した床版56が形成されている。なお、床版56は、下構造物42Bでは天井部を構成している。
図8及び図9(a)に示すように、上構造物42Aの各階層の開口部50側は開放されており、床版44上で開口部50の周方向の一部には、後述する構真柱62が立設されている。ここで、−1階に着目すると、側壁20、床版44A、床版44Bで囲まれたフロア49が形成されている。なお、フロア49は、他の階層にも同様に設けられている。
図9(a)に示すように、上構造物42Aの各階層では、上階の床版44を支持する構真柱62が立設されている。
一方、図8に示すように、下構造物42Bは、−12階から−19階までの複数階層に設けられたコンクリート造の床版56及び64(底部64G含む)と、上階の床版64を支持する複数の構真柱66とを有している。
図9(b)に示すように、床版64の中央部には、正方形状の隙間部68が形成されている。また、隙間部68の4隅からそれぞれ側壁20の4隅に向けて、4つの隙間部72A、72B、72C、72Dが設けられている。隙間部72A、72B、72C、72Dは、側壁20の対角線上に構真柱を避けて配置されている。なお、隙間部68、72A〜72Dは、床版64に圧縮力を導入する前は隙間となっており、圧縮力が導入された後にコンクリートが充填されることで床版64となるように構成されている。
ここで、隙間部68と、隙間部72A〜72Dとによって、床版64は、中央に位置する床部64Aと、4つの台形状の床部64B〜64Eに分割されている。床部64Aと、4つの床部64B〜64Eは、図示しない鉄筋が所定量配筋されコンクリートが打設されることで構築されている。また、隙間部68及び隙間部72A〜72Dには、複数箇所に加圧用のオイルジャッキ73が配設され、床部64A〜64Eの5つの領域にそれぞれ面内方向の圧縮力が付与されている。なお、オイルジャッキ73は数箇所のみ表示しており、他の箇所の表示は省略している。
4つの隙間部72A、72B、72C、72Dを設置することにより、側壁20からの土圧Pが、有効に4つの台形状の床部64B〜64Eを経て、中央の床部64Aに伝達され、床版64全体に所定の圧縮力が導入されていることが認められたときは、隙間部68の設置は、当然、不要である。4つの隙間部72A、72B、72C、72Dの加圧作業は上述と同様に行う。
次に、地下構造物40の施工方法について、図8及び図9(a)、(b)を用いて説明する。なお、内壁24と構真柱62については、階層に関わらず、同じ符号を用いて説明する。また、各床版、各柱には所定量の鉄筋が用いられるが、配筋工程の説明は省略する。
まず、H鋼又は鉄筋籠(図示省略)を芯材として、H鋼ソイル柱列工法、又は連続壁工法により所定の深さ(図12のH1+H2の深さ)まで外壁22を構築する。同時期に場所打ち杭工法によって構真柱62を立設する。続いて、地表面を鋤取り、外壁22内において、枠体(図示省略)を配設し、図示しない鉄筋を配置し、隙間部52及び隙間部54A〜54Dに仕切りを入れてコンクリートを打設する。コンクリート硬化後、隙間部52及び隙間部54A〜54Dが形成される。
続いて、隙間部52及び隙間部54A〜54Dに複数個のオイルジャッキ55が均等間隔で装着される。なお、図10には、一例として、第1床部46Aと46Bの隙間部54Aにオイルジャッキ55を装着した状態を示しているが、他の箇所についても同様である。このため、他の箇所の説明は省略する。隙間部52及び隙間部54A〜54Dを押し広げることにより、第1床部46A〜46D及び第2床部48に面内方向の圧縮力が付与される。オイルジャッキ55による加圧作業は自動制御装置によるものとし、付与される圧縮応力が均等に分布することを確認する。この状態で、隙間部52及び隙間部54A〜54Dにコンクリートが充填される。第1床部46A〜46Dと第2床部48が一体化されることで、床版44Aが構築される。
4つの隙間部54A、54B、54C、54Dを設置することにより、側壁20からの土圧Pが、有効に第1床部46A〜44Dを経て第2床部48に伝達され、床版44に所定の圧縮力が導入されることが認められたときは、隙間部52の設置は、当然、不要である。4つの隙間部54A、54B、54C、54Dの加圧作業は上述と同様に行う。
続いて、0階の床版44Aの下側が掘削機(図示省略)により掘削された後、床版44Aと同様の手順で−1階の床版44Bが構築される。そして、床版44Bの構築後、外壁22に接触するようにコンクリートが打設され内壁24が構築される。また、床版44Aの円形領域の地盤12が掘削されることで、床版44A及び床版44Bの内壁24と反対側の端面が開放されると共に、開口部50が形成される。
続いて、−1階の床版44Bから第1施工領域Aの下端である−12階の床版44Mまでの各階層において、逆打ち工法により各床版44、内壁24が構築され、掘削により開口部50が形成される。かくして、上構造物42Aが構築される。上構造物42Aでは、開口部50によって採光された光が、各床版44間の開放端からフロア49内に導入されるため、居住空間として利用可能となる。なお、開口部50側に窓を備えた周壁を設けてもよい。
上構造物42Aの構築後、第2施工領域B(図1参照)の施工が開始される。開始に先立ち、新たに作業床(図示省略)が設けられ、場所打ち杭機によって構真柱66が立設される。
続いて、−12階(床版44Mのフロア)において、開口部50の底面にコンクリート打設により床版56が形成される。なお、床版56は床版44Mに構造的に一体化され、構真柱66で支持される。
続いて、−12階の床版44M及び床版56の下側に、逆打ち工法により−13階の床版64及び内壁24が構築される。この工程では、隙間部68及び隙間部72A〜72Dに複数個のオイルジャッキ73が均等間隔で装着される。そして、隙間部68及び隙間部72A〜72Dを押し広げることにより、床部64A〜64Eに面内方向の圧縮力が付与される。オイルジャッキ73による加圧作業は自動制御装置によるものとし、付与される圧縮応力が均等に分布することを確認する。この状態で、隙間部68及び隙間部72A〜72Dにコンクリートが充填される。そして、床部64A〜64Eが一体化されることで、床版64が構築される。
続いて、−13階の床版64の下側に、逆打ち工法により−14階〜−19階の床版64、内壁24が構築される。このようにして、−13階から−19階までの下構造物42Bが構築される。最後に底部64Gが構築される。
次に、本発明の第2実施形態の作用について説明する。
図9(a)に示すように、構築された地下構造物40の側壁20には、4方向から土圧Pが作用する。ここで、上構造物42Aに着目すると、土圧Pは側壁20の内面に沿って連続して構成された第1床部46A〜46Dに圧縮力を付与する。第1床部46A〜46Dに付与された圧縮力は、開口部50の周方向に沿って反対側の側壁20へ伝達される。このため、床版44全体に均等に圧縮力を作用させることができる。
このように、土圧Pを利用して床版44に圧縮力を付与することで、引張力に弱いコンクリート造の床版44が補強されるため、床版44を無筋とし又は鉄筋量を増やさずに済む。さらに、補強された床版44が一種の切ばりとして側壁20を支えるため、大きな土圧Pが作用する大深度となる穴底面に地下構造物40を構築できる。
床版44の中央は開口部50となっているため、地下構造物40内へ採光ができ、大深度でも床版44の階層間(フロア49)を居住空間とすることができる。また、床版44に鉛直荷重が作用した場合、床版44に圧縮力が付与されているため、床版44での引張力の発生を抑えられる。さらに、床版44は、構真柱62で支持されているので、床版44に鉛直荷重が作用しても支持することができる。これにより、床版44の構築状態が保持される。
なお、床版44では、開口部50側(内側)から側壁20(外側)に向けて、オイルジャッキ55により圧縮力が付与されている。このように、土圧Pを利用して床版44に圧縮力を付与するだけでなく、圧縮手段(オイルジャッキ55)を用いてさらに圧縮力を追加付与することで、仮に床版44の面積が大きくて、或いは側壁20の剛性が高くて、土圧Pによる圧縮力が不足する場合でも、引張力に弱いコンクリート造の床版44が補強される。
一方、図9(b)に示すように、下構造物42Bでは、土圧Pが側壁20の内面に沿って連続して構成された床部64B〜64Eに圧縮力を付与する。床部64B〜64Eに付与された圧縮力は、床部64Aに伝わる。これにより、床版64全体に均等に圧縮力が作用する。また、床版64は、構真柱66で支持されているので、床版64に鉛直荷重が作用しても支持することができる。これにより、床版64の構築状態が保持される。
なお、床版64では、オイルジャッキ73により面内方向に圧縮力が付与されている。このように、土圧Pを利用して床版64に圧縮力を付与するだけでなく、圧縮手段(オイルジャッキ73)を用いてさらに圧縮力を付与することで、仮に床版64の面積が大きくて、或いは側壁20の剛性が高くて、土圧Pによる圧縮力が不足する場合でも、引張力に弱いコンクリート造の床版64が補強される。
図11(a)には、オイルジャッキを用いた地下構造物の他の第1実施例として、地下構造物80の一階層の平断面図が示されている。地下構造物80は、RC造の地下外壁又は山止壁で構成され土圧Pが作用する側壁82が設けられている。側壁82の内側には、側壁82の内面に沿って形成され中央部に開口部84を構成するコンクリート造の床版86が設けられている。
床版86は、側壁82の内面に沿って所定の幅で形成された第1床部86Aと、第1床部86Aの内面に沿って所定の幅で形成され中央に開口部84が形成された第2床部86Bと、第1床部86Aと第2床部86Bの間に形成された隙間部86Cとを有している。
また、第2床部86B及び隙間部86Cには、前述のオイルジャッキ55(図10参照)と同様に、オイルジャッキ88が隙間部86C全般に亘って等間隔に設けられている。
ここで、第1床部86A及び第2床部86Bにオイルジャッキ88を用いて圧縮力を導入後、隙間部86Cにコンクリートが充填されることで、第1床部86Aから第2床部86Bまでが連続した1つの床版86となる。なお、図11(a)の実施例は、次の図11(b)の場合とは違い、第1床部86Aと第2床部86Bとを同時期に施工する場合の例であることに注意する。
図11(b)には、オイルジャッキを用いた地下構造物の他の第2実施例として、地下構造物90の一階層の平断面図が示されている。地下構造物90は、RC造の地下外壁又は山止壁で構成され土圧Pが作用する側壁92が設けられている。側壁92の内側には、側壁92の内面に沿って形成され中央部に開口部94を構成するコンクリート造の床版96が設けられている。
床版96は、側壁92の内面に沿って所定の幅で形成された第1床部96Aと、第1床部96Aの内面に沿って所定の幅(第1床部96Aよりも狭い幅)で形成され中央に開口部94が形成された第2床部96Bと、第1床部96Aと第2床部96Bの間に形成された隙間部96Cとを有している。また、第2床部96B及び隙間部96Cには、オイルジャッキ98が隙間部96C全般に亘って等間隔に設けられている。
ここで、側壁92の構築後、まず、山止周辺に位置する第1床部96Aが、コンクリート打設により構築される。この場合、第1床部96Aはコンプレッションリングの形状ゆえに、側壁92からの土圧Pに抵抗する山止支保工の役割を果たす。第2床部96Bの構築は、時期をずらし適当な時に、施工することができる。そして、第2床部96Bの構築後、前述のオイルジャッキ55(図10参照)と同様に、オイルジャッキ98を用いて圧縮力を導入後、隙間部96Cにコンクリートを充填する。これによって、第1床部96Aから第2床部96Bまでが連続した1つの床版96となる。このように、2段階に分けて床版96を構築するとき都合のよい工法である。
図11(c)には、オイルジャッキを用いた地下構造物の他の第3実施例として、地下構造物100の一階層の平断面図が示されている。地下構造物100は、土圧Pが作用する側壁102が設けられている。側壁102は、山止壁と、山止壁の内側のRC造の地下外壁とで構成されている。
側壁102の内側には、側壁102の内面に沿って形成され、中央部及び外周部に開口部104A及び開口部104B〜104Iを構成するコンクリート造の床版106A〜106Dが設けられている。中央の開口部104Aは円形状であり、開口部104B、104D、104F、104Hは半円形状、開口部104C、104E、104G、104Iは1/4円形状となっている。また、床版106A〜106Dの間には、隙間部108A〜108Dがあり、オイルジャッキ109が隙間部108A〜108D全般に亘り、均等間隔で設けられている。
このように、開口部(104A〜104I)が多数ある場合は、これらの形状・配置を考えて、床版106A〜106D内部に発生する圧縮応力が均等に分布するよう、隙間部の位置を設定する必要がある。
床版106A〜106Dの構築後、前述のオイルジャッキ55(図10参照)と同様に、オイルジャッキ109を用いて圧縮力を導入後、隙間部108A〜108Dにコンクリートを充填する。これによって、4つに分割された床版106A〜106Dは構造的に一体となり、連続した1つの床版106となる。
次に、本発明の地下構造物及び複合構造物の第3実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図12には、地盤12に構築された複合構造物120が示されている。複合構造物120は、地盤12に掘削形成された縦穴14内に構築された地下構造物130と、地下構造物130の開口部140内に立設された地上階のある建築物150とを有している。
地下構造物130は、地面GLを基準(0階)として、地上階側をプラス、地下階側をマイナスとしたとき、0階〜−12階までの上構造物132Aと、−13階〜−19階までの下構造物132Bとで構成されている。また、地下構造物130は、0階〜−14階までの深さH1=70mの範囲が民間領域となっており、−15階〜−19階までの深さH2=30mの範囲が公共領域となっている。そして、地下構造物130は、外壁22と内壁24(図1参照)で構成される側壁20を有している。
上構造物132Aは、側壁20の内面に沿って連続形成され中央部に円形の開口部140を構成するコンクリート造の床版134を有している。床版134は、縦長L1=横長L2=100m(図15参照)の正方形状に構築されており、0階の床を床版134Aとして、−1階の床を床版134B、−2階の床を床版134C、以後省略して−12階の床を床版134Mというように、複数階層に設けられている。
図13に示すように、開口部140は、直径D=70mの円形状に形成されている。また、図12に示すように、開口部140の下端には床版136が形成されている。床版136は、−12階の床版134Mと一体で、コンクリート造の連続した床版となっている。なお、床版136は床版134Mと共に、下構造物132Bでは天井部を構成している。
図12及び図13に示すように、上構造物132Aの各階層の開口部140は開放されており、床版134上には構真柱142が立設されている。ここで、−1階に着目すると、側壁20、床版134A、及び床版134Bで囲まれたフロア139が形成されている。フロア139は、他の階層にも同様に設けられている。
図13に示すように、上構造物132Aの各階層の床版134上には、上階の床版134を支持する構真柱142が立設されている。
図12に示すように、下構造物132Bは、−12階から−19階までの複数階層に設けられたコンクリート造の床版144(136、144A〜、底部144G含む)と、上階の床版144を支持する複数の構真柱146とを有している。
一方、建築物150は、地下構造物130の開口部140を構成する床版134と離間して、床版136上に立設されており、床版136は地下構造物130の床版134Mと一体化されている。建築物150の各階層は、コンクリート造又は鉄骨造の柱152、図示しない梁部材、床版154等により構成されている。また、建築物150は、−12階から0階までの地下12階に加えて、+54階の地上階が構築されている。ここで、0階(GL)から+54階までの高さH3=253mとなっている。
次に、複合構造物120の施工方法について説明する。なお、各床版には所定量の鉄筋若しくは鉄骨が用いられるが、配筋工程の説明は省略する。
図14(a)に示すように、H鋼又は鉄筋籠(図示省略)を芯材として、H鋼ソイル柱列工法又は連続壁工法により、所定の深さ(図1のH1+H2の深さ)まで側壁20を構築する。同時期に、場所打ち杭工法によって構真柱142を立設する。続いて、地表面を鋤取り、枠体(図示省略)を配設すると共にコンクリートを打設して、側壁20の内側に沿って床版134Aを形成する。床版134Aは構真柱142で支持されている。これにより、地下構造物130の0階の床が構築される。
続いて、0階の床版134Aの下側が掘削機(図示省略)により掘削された後、床版134Aと同様に床版134Bが構築される。同時期に、床版134Aの円形領域の地盤12が掘削され、開口部140が形成される。
続いて、図14(b)に示すように、−1階の床版134Bから−12階の床版134Mまでの各階層において、逆打ち工法により各床版134及び各周壁が構築され、掘削により開口部140が形成される。このようにして、上構造物132Aが構築される。上構造物132Aでは、開口部140によって採光されるため、各階層のフロア139内に光を導入することができ、居住空間として利用が可能となる。
続いて、−12階(床版134Mのフロア)において、下構造物132B構築に先立ち、床版136及びその下階の地下構造物支持のために、構真柱146が立設される。しかる後、床版134Mと構造的に一体化された床版136が構築される。
続いて、−12階の床版134M及び床版136の下側に、逆打ち工法により−13階の床版144Aが構築される。続いて、−13階の床版144Aの下側に、逆打ち工法により床版144Bが構築される。
続いて、図14(c)及び図15(d)に示すように、−14階の床版144Bの下側に、逆打ち工法により−15階から−19階までの床版144C〜底部144Gが順次構築される。このようにして、−13階から−19階までの下構造物132Bが構築され、地下構造物130が完成する。
続いて、図15(e)及び図15(f)に示すように、床版136上に柱152及び梁(図示省略)が構築され、さらにコンクリート打設により床版154が構築される。この工程を上側に向けて繰り返すことにより、−12階から+54階までの建築物150が構築される。建築物150の外壁は、地下構造物130の床版134と離間している。なお、この工事に平行して、構真柱146は建築物150を支持する本格柱となるために鉄筋コンクリートで補強される。また、必要にして十分な耐震壁工事、底部144Gを補強する基礎梁工事、浮上り防止工事等も行われる(図示省略)。
次に、本発明の第3実施形態の作用について説明する。
図13に示すように、構築された地下構造物130の側壁20には、4方向から土圧Pが作用する。ここで、上構造物132Aに着目すると、土圧Pは、側壁20の内面に沿って連続して構成されたコンクリート造の床版134を通じて、開口部140の円弧(周方向)に沿って反対側の側壁20へ伝達される。このため、床版134全体に均等に圧縮力を作用させることができる。
このように、土圧Pを利用して床版134に圧縮力を付与することで、引張力に弱いコンクリート造の床版134が補強されるため、床版134を無筋とし又は鉄筋量を増やさずに済む。さらに、補強された床版134が一種の切ばりとして側壁20を支えるため、大きな土圧Pが作用する大深度となる穴底面に、地下構造物130を構築することができる。
床版134の中央は開口部140となっているため、地下構造物130内へ採光ができ、大深度でも床版134の階層間(フロア139)を居住空間とすることができる。また、床版134に鉛直荷重が作用した場合、床版134に圧縮力が付与されているため、床版134での引張力の発生を抑えられる。さらに、床版134は、構真柱142で支持されているので、床版134に鉛直荷重が作用しても支持することができる。これにより、床版134の構築状態が保持される。
図12に示すように、複合構造物120は、基礎底盤としての底部144Gが地面GLよりも下方の大深度(地下50m〜100m)に設けられているため、地上階のある建築物150の床版136に作用する地震の揺れは小さくなる(図6及び図7の揺れの加速度測定結果参照)。さらに、建築物150の側壁は、地下構造物130の開口部140を構成する床版134と離間して設けられているため、地面GL近傍の地震の揺れが、床版134を介して建築物150に伝わることがない。これにより、床版136から上方に高層の地上階を有する建築物150を構築しても、当該建築物150に作用する地震の揺れを抑えることができる。
ここで、床版134と建築物150の側壁とが離間していることが最も好ましいが、これに限らず、例えば、図16に示すように、床版134と建築物150の間に減衰機構を有するダンパー装置158を設けて、建築物150に作用する振動を減衰させるようにしてもよい。
次に、本発明の地下構造物の第4実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1〜第3実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1〜第3実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図17には、地盤12に掘削形成された縦穴14内に構築された地下構造物160が示されている。なお、地盤12は、地下水を透過し易い透水層12Aと、透水層12Aよりも下側で地下水を透過し難い又は透過しない不(難)透水層12Bとで構成されているものとする。また、図18(a)、(b)には、後述する上構造物162A又は下構造物162Bにおける地下構造物160の平断面図が示されている。
図17に示すように、地下構造物160は、地面GLを基準(0階)として地上階側をプラス、地下階側をマイナスとしたとき、0階〜−13階までの上構造物162Aと、−14階〜−21階までの下構造物162Bとで構成されている。また、地下構造物160は、縦穴14の穴底面16で且つ不(難)透水層12Bに形成されたコンクリート製の床版である底部166Hの周辺から立ち上り、土圧P(地下水圧を含む)を受ける側壁170を有している。
側壁170は、バケット掘削機によって溝を掘り、この溝内に芯材としての鉄筋籠を設置後、生コンクリートを注入して構築したコンクリート製の連続壁である。また、側壁170は、縦穴14内面に接触し地下構造物160の最外周壁を構成すると共に、遮水性の山止め壁として用いられている。なお、側壁170は、第1実施形態の側壁20のように外壁及び内壁で構成してもよい。
上構造物162Aは、側壁170の内面に沿って連続形成され中央部に開口部168を構成するコンクリート造の床版164を有している。床版164は、0階の床を床版164Aとして−1階の床を床版164B、−2階の床を床版164C、途中省略して−13階の床を床版164Nというように複数階層に設けられている。また、上構造物162Aは、開口部168の下端に床版172が形成されている。床版172は、コンクリート造の連続した無開口床版となっており、下構造物162Bにおいて天井部を構成している。
上構造物162Aの各階層の開口部168側は開放されており、各階層の床版164上にはコンクリート製の柱174が立設されている。ここで、−1階に着目すると、側壁170、床版164A、床版164Bで囲まれたフロア163が形成されている。なお、フロア163は他の階層も同様に設けられている。
一方、下構造物162Bは、−14階から−21階までの複数階層に設けられたコンクリート造の床版172及び床版166(床版166A〜底部166H)と、それら床版172及び床版166を支持するコンクリート製の複数の柱176とを有している。
図18(a)に示すように、側壁170は、地下構造物160を上方から平面視したとき円形であり、即ち全体が円筒形となっている。ここで、上構造物162Aにおいて、側壁170の内面の直径をD1、厚さをTとしたとき、厚さTは、側壁170の半径方向に作用する土圧Pと、半径(D1)/2と、側壁170の円周方向許容圧縮応力度σとに基づいて予め設定されている。
床版164は、側壁170の内面に沿って連続形成された円板状となっており、中央部に円形の開口部168が形成されている。床版164の円の中心と開口部168の円の中心は点Oで一致しており、床版164の外周の直径がD1、開口部168の直径がD2となっている。また、床版164上では、複数の柱174が点Oを中心として放射状に間隔をあけて配置されている。
一方、図18(b)に示すように、床版166は、側壁170の内面に沿って連続形成された無開口の円形となっており、外周の直径がD1となっている。また、床版166上では、複数の柱176が点Oを中心として放射状に間隔をあけて配置されている。
次に、地下構造物160の施工方法について説明する。なお、柱174、176については、階層に関わらず同じ符号を用いて説明する。また、各床版には所定量の鉄筋が用いられるが、配筋工程の説明は省略する。
図19(a)に示すように、地盤12を透水層12Aから不(難)透水層12Bまで掘削して形成された溝内に鉄筋籠(図示省略)を建込み、トレミー管(図示省略)を配置してコンクリートを打設する。この連続壁工法を周方向に順次行うことにより、地面GLから地盤12の不(難)透水層12Bまで円筒状の側壁170を構築する。
続いて、図19(b)、(c)に示すように、側壁170の内側の地盤12全体を透水層12Aから予め設定された深さの不(難)透水層12Bまで、パワーショベル等の掘削機Sにより掘削する。そして、側壁170の内側に形成された縦穴178の穴底面16上にコンクリートを打設して、側壁170の底部166Hを構築する。なお、底部166Hは不(難)透水層12B内に位置している。
続いて、図20(a)、(b)に示すように、クレーンC(図19(c)参照)等を用いて底部166H上に複数の柱176を立設し、さらに複数の柱176上に型枠を配置すると共にコンクリートを打設して、上階の床版166Gを構築する。このように、順打ち工法により、−21階の底部166Hから−15階の床版166B、−14階の床版166A、及び−13階の床版172までの各階層が構築され、下構造物162Bが構築される。
続いて、図20(b)、(c)に示すように、コンクリートを打設して床版172と同じ階の床版164Nを構築する。そして、床版164N上に複数の柱174を立設し、さらに複数の柱174上に型枠を配置すると共にコンクリートを打設して、上階の床版164Mを構築する。
このように、順打ち工法により、−13階の床版164Nから−2階の床版164C、−1階の床版164B、及び0階の床版164Aまでの各階層が構築され、上構造物162Aが構築される。上構造物162Aは、開口部168によって採光された光が各床版164間の開放端からフロア163内に導入されるため、居住空間として利用可能となる。なお、開口部168側に窓を備えた周壁を設けてもよい。
次に、本発明の第4実施形態の作用について説明する。まず、側壁170が円形であることの作用について説明する。
図21には、地下構造物160の側壁170に均等に土圧P1(地下水圧含む)が作用している状態が模式図で示されている。ここで、側壁170の外周面の半径をRとし、円周方向の位置θにおける微小領域をRdθとすると、図21の上下方向(矢印Y方向)において、微小領域Rdθに作用する応力はR(P1)sinθdθと表せる。この応力を角度0からπまで積分することで、側壁170の円周方向に作用する力(F1とする)が得られる。
一方、側壁170の円周方向応力をσθ、厚さをT、側壁170に作用する力をF2とすると、F2=2×σθTと表せる。ここで、F1=F2のとき、(1)式が成立する。そして、(1)式の右辺を演算すると(2)式が得られる。
側壁170は、予め(2)式を用いて必要な厚さTを設定しておくことで、土圧P1に対し、側壁170自身の円周方向応力σθで抵抗することができる。この場合、側壁170は、理論的には水平方向の鉄筋が不要となる。また、側壁170は、複数の壁体を連結して構築する場合でも、例えば、複数のアーチ状の部材を連結して円筒状の壁体を形成する工法を用いることで対応することが可能となる。
ここで、図5(b)に示すように、正方形状の側壁20(図2参照)では、土圧P(P1)が作用すると、階高方向に生じる曲げモーメントとせん断力を負担しなければならないため、必要な厚さTが厚くなる。
一方、図21に示すように、円形の側壁170では、半径(法線)方向に土圧P1が作用したとき、側壁170の円周方向に生じる円周方向応力σθで抵抗することが可能なため、正方形(矩形)状の側壁20に比べて必要な厚さTを薄くすることができる。
次に、床版164が円形であることの作用について説明する。
図22(a)には、側壁170(図21参照)の内側にある床版164に均等に外圧P2が作用する状態が模式図で示されている。なお、外圧P2は、側壁170に土圧P1が作用したときに、中心Oに向けて床版164の外周に作用する外力である。
ここで、床版164を厚肉円筒とみなし、床版164内端の半径をa、外端の半径をb、床版164の内端に作用する内圧を0、床版164の外端から中心Oに向けて作用する外圧をP2とすると、半径方向r位置における床版164の半径方向応力σrと円周方向応力σθは、弾性力学の円筒の一般的な解法を用いて(3)式、(4)式で表せる。なお、床版164の半径方向r位置の微小片Qにおいて、半径方向、円周方向いずれも外側に向かう方向が正の符号となる。
また、(3)式及び(4)式からσr+σθを求めると(5)式のようになる。
一例として、開口部168が形成された床版164について、内端a=50m、外端b=70mの条件で(3)式〜(5)式を用いて計算すると、図22(b)の右上半分に示すように、床版164の外端r2=b=70mでは、半径方向応力σr=−1.0P2、円周方向応力σθ=−3.08P2となる。
また、床版164の内端r1=a=50mでは、半径方向応力σr=0、円周方向応力σθ=−4.08P2となる。そして、σr+σθ=−4.08P2となる。ここで、半径方向応力σr、円周方向応力σθはともに負であるから、床版164の内部では、半径方向、円周方向共に圧縮力が作用していることが分かる。
一方、開口部168の無い床版166について、外端b=70mの条件で(3)式〜(5)式を用いて計算すると、図22(b)の左下半分に示すように、床版166のいずれの部位においても半径方向応力σr=−1.0P2、円周方向応力σθ=−1.0P2となる。そして、σr+σθ=−2.0P2となる。
ここで、床版164と床版166について、半径方向応力σrと円周方向応力σθの和(σr+σθ)を比較すると、床版164の方が絶対値が大きくなっている。このことから、開口部168が形成された床版164の方が、外圧P2に対して効率良く圧縮力が導入されることが分かる。
このように、地下構造物160は、側壁170及び床版164を円形としたことにより、側壁170に作用する土圧P1が側壁170の円周方向応力(圧縮力)で抵抗されると共に、残りが外圧P2として床版164に作用する。そして、外圧P2によって床版164内に効率良く圧縮力(半径方向応力σr、円周方向応力σθ)が導入され、引張力に弱いコンクリート造の床版164が補強される。
これにより、鉛直荷重によって発生する床版164の引張応力が減殺されることになるので、床版164を無筋とし又は鉄筋量を増やさずに済む。さらに、床版164が一種の切ばりとして側壁170を支えるため、完成後の大きな土水圧増加や、想定外の大きな偏土水圧が作用しても、比較的薄い側壁で大深度となる穴底面に地下構造物160を構築することができる。
また、地下構造物160では、前述のように土圧P1に対して側壁170自身の円周方向応力σθ(圧縮力)で抵抗することができるため、支保工が不要となり、側壁170の内側の地盤12を100m程度の大深度まで一気に掘ることができる。これにより、地下構造物160は、大深度の底部166H(図17参照)から上方へ向けて順打ち工法によって構築することが可能となり、逆打ち工法を行う場合に比べて施工費用を低減できると共に、工期を短縮することができる。
さらに、地下構造物160は、基礎底盤としての底部166Hが、透水層12Aに比べて湧水量が少ない不(難)透水層12Bに形成されているので、底部166H及び側壁170に作用する湧水を揚水することによって浮力を低減することができる。これにより、地下構造物160の浮き上りを防止するアンカー等が不要となる。
次に、本発明の地下構造物及び複合構造物の第5実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1〜第4実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1〜第4実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図23には、地盤12に構築された複合構造物180が示されている。複合構造物180は、地盤12に掘削形成された縦穴14内に構築された地下構造物190と、地下構造物190の開口部188内に立設された地上階のある建築物200とを有している。
地下構造物190は、地面GLを基準(0階)として、地上階側をプラス、地下階側をマイナスとしたとき、0階〜−13階までの上構造物182Aと、−14階〜−21階までの下構造物182Bとで構成されている。また、地下構造物190は、0階〜−14階までが民間領域となっており、−15階〜−21階までが公共領域となっている。そして、地下構造物190は、円形で不(難)透水層12Bまで到達した側壁170を有している。
上構造物182Aは、側壁170の内面に沿って連続形成され中央部に円形の開口部188を構成するコンクリート造の床版184を有している。床版184は、円形状に構築されており、0階の床を床版184Aとして、−1階の床を床版184B、−2階の床を床版184C、以後省略して−13階の床を床版184Nというように、複数階層に設けられている。また、開口部188の下端には床版186が形成されている。床版186は、−13階の床版184Nと一体でコンクリート造の連続した床版となっている。なお、床版186は、床版184Nと共に下構造物182Bでは天井部を構成している。
上構造物182Aの各階層の開口部188は開放されており、各階層の床版184上には、プレキャストコンクリート又は現場打ちコンクリート造(RC、SRC、CFT、SC)及びS造によって複数の柱192が立設されている。柱192は、上階の床版184を支持している。ここで、−1階に着目すると、側壁170、床版184A、及び床版184Bで囲まれたフロア189が形成されている。フロア189は、他の階層にも同様に設けられている。
下構造物182Bは、−14階から−21階までの複数階層に設けられたコンクリート造の床版194(床版186、194A〜、底部194H含む)と、プレキャストコンクリート又は現場打ちコンクリートによって構築され上階の床版194を支持する複数の柱196とを有している。底部194Hは不(難)透水層12B内に位置しており、底部194Hの下側にはコンクリート製の耐圧版197が設けられている。
一方、建築物200は、地下構造物190の開口部188を構成する床版184と離間して床版186上に立設されている。建築物200の各階層は、コンクリート造(RC造、SRC造、CFT造、SC造)又は鉄骨造の柱202、図示しない梁部材、及び床版204等により構成されている。また、建築物200は、−13階から0階までの地下13階に加えて、+54階の地上階が構築されている。
ここで、図23及び図24に示すように、複合構造物180の0階における床版184Aと建築物200は、振動を粘性抵抗力で減衰させる粘性ダンパーとしてのオイルダンパー206で連結されている。オイルダンパー206は、建築物200の正方形状の床版204の四隅に直交する各2ヶ所で合計8ヶ所配置されている。なお、オイルダンパー206の配置は、四隅の他にこの中間部に複数ヶ所配置する。1ヶ所には必要減衰力に応じ1〜複数のオイルダンパー206を設置する。
次に、複合構造物180の施工方法について説明する。なお、各床版には所定量の鉄筋若しくは鉄骨が用いられるが、配筋工程の説明は省略する。
図25(a)、(b)に示すように、透水層12Aから不(難)透水層12Bまで掘削して形成された溝内に鉄筋籠(図示省略)を建込み、トレミー管(図示省略)を配置してコンクリートを打設する。この連続壁工法を周方向に順次行うことにより、地面GLから不(難)透水層12Bまで円筒状の側壁170を構築する。
続いて、図25(c)、(d)に示すように、側壁170の内側を透水層12Aから予め設定された深さの不(難)透水層12Bまでパワーショベル等の掘削機Sにより掘削する。
続いて、図25(e)、(f)に示すように、側壁170の内側に形成された縦穴178の穴底面16上にコンクリートを打設して耐圧版197を構築する。さらに、耐圧版197上にコンクリートを打設して底部194Hを構築する。なお、耐圧版197及び底部194Hは不(難)透水層12B内に位置している。
続いて、図25(g)、(h)に示すように、クレーンC等を用いて底部194H上に複数の柱196を立設し、さらに複数の柱196上に型枠を配置すると共にコンクリートを打設して、上階の床版194Gを構築する。このように順打ち工法により、−21階の底部194Hから上方へ各階層を構築する。なお、ここで構築するのは、下構造部182Bの建築物200(図23参照)の下側に位置する部分のみとしている。
続いて、図26(a)、(b)に示すように、建築物200(図23参照)の下側に位置する部位を床版194Aまで構築した後、床版194A上に複数の柱196を立設し、柱196の上端における側壁170の内周円の中心から側壁170へ向けて放射状に複数の大梁199を架設する。そして、大梁199上に型枠を配置してコンクリートを打設し、床版186(内周)及び床版184N(外周)を構築する。
続いて、図26(c)、(d)に示すように、床版186の下側では、下構造物182Bの残りの部位を上方へ向けて順次構築する。一方、床版186の上側では、複数の柱202を立設しコンクリート打設により床版204を形成することで、建築物200の地下部分を順次上方へ構築する。
続いて、図26(e)、(f)に示すように、床版186の下側では、引き続き下構造物182Bの残りの部位を上方へ向けて順次構築する。一方、床版186の上側では、引き続き建築物200の地下部分を順次上方へ構築していくと共に、床版184N上に柱192を立設して床版184を構築し、上構造物182Aを順次上方へ構築する。
建築物200の地下部分の構築が終了した後、この地下部分の天井部(0階)において、側壁170の内周円の中心から側壁170へ向けて放射状に複数の大梁203を架設する。そして、型枠を配置すると共にコンクリートを打設し、仮床版205を構築する。
続いて、図26(g)、(h)に示すように、仮床版205上に建築物200の地上部分を順次構築する。このようにして、上構造物182A、下構造物182B、及び建築物200が構築される。なお、仮床版205は複合構造物180の完成後に撤去される。これにより、上構造物182Aは、開口部188によって採光された光が各床版184間の開放端から各フロア内に導入されるため、居住空間として利用可能となる。
続いて、図23及び図24に示すように、建築物200の0階の床版204と、上構造物182Aの床版184Aとを複数(ここでは8本)のオイルダンパー206で連結する。ここで、オイルダンパー206の一端は床版204の四隅にそれぞれボルトで固定され、他端は床版184Aの内周面で柱192が設けられている部位にボルトで固定される。以上の工程により、複合構造物180が完成する。
次に、本発明の第5実施形態の作用について説明する。
図24に示すように、構築された複合構造物180の側壁170には、半径方向で中心に向けて土圧Pが作用する。ここで、側壁170が円形であるため、側壁170の内側の床版184は、半径方向、円周(接線)方向ともに圧縮状態となって釣り合うことになるが、床版184の半径方向圧縮応力と円周方向圧縮応力の合計は、床版184の如何なる点でも土圧Pの2倍より大きくなるため、床版184の圧縮効率が上がる。これにより、床版184は、鉛直方向に作用する荷重に抵抗することができるので、床版184の鉄筋量を減らすことができる。
また、図23に示すように、複合構造物180は、基礎底盤としての底部194Hが地面GLよりも下方の大深度(地下50m〜100m)に設けられているため、地上階のある建築物200の底部(床版186)に作用する地震の揺れは小さくなる。さらに、複合構造物180は、床版184と建築物200がオイルダンパー206で連結されているので、建築物200が揺れたときにオイルダンパー206の粘性抵抗力によって振動が減衰し、建築物200に作用する地震の揺れを抑えることができる。
また、複合構造物180の施工では、下構造物182Bの中央部を床版186の高さまで構築した後、上構造物182A、下構造物182B、及び建築物200をほぼ同時進行で構築するので、上構造物182A及び下構造物182Bの完成を待たずに建築物200を構築することができ、施工効率を上げることができる。
次に、本発明の地下構造物及び複合構造物の第6実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1〜第5実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1〜第5実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図27(a)には、第6実施形態としての複合構造物210が示されている。複合構造物210は、第5実施形態の複合構造物180(図23参照)において、−15階(下構造物182Bの床版194B上)に揚水手段220を設置した構成となっている。
揚水手段220は、耐圧版197の底面に露出して複数箇所(図示は1箇所のみ)に設けられた揚水部212と、耐圧版197内に埋設され複数の揚水部212と連通した連通管214と、床版194B上に設置された取水タンク216と、揚水部212と取水タンク216とを連通した取水管218とで構成されている。
図27(b)に示すように、揚水部212は、耐圧版197の底面に形成された開口部内に複数の硬質砕石213を詰めた構成となっており、不(難)透水層12Bから湧き出る地下水(湧水)が浸透可能となっており、取水タンク216に揚水するようになっている。なお、取水タンク216内に貯留された水は、図示しない取水ポンプ及び取水管により地上へ揚水されるようになっている。
次に、本発明の第6実施形態の作用について説明する。
図27(a)、(b)に示すように、複合構造物210では、不(難)透水層12Bの湧水が揚水部212に浸透して連通管214へ浸入する。ここで、連通管214が湧水で満たされたままの状態では、さらなる湧水による浮力で耐圧版197を押し上げる要因となるが、本実施形態では、揚水部212及び連通管214の湧水が揚水され、取水タンク216に貯留される。そして、取水タンク216に貯留された水は地上へ揚水される。これにより、耐圧版197に作用する浮力を抑え、複合構造物210の構築状態を保持することができる。
また、本実施形態では、耐圧版197が不(難)透水層12Bに位置しているため、透水層12Aに位置する場合に比べて湧水量が少ない。これにより、取水タンク216への揚水量及び地上への揚水量が実施可能量となり、揚水手段220として大規模な設備が不要となる。
なお、揚水を行うことにより、地下水位は当初の水位SLより低下して水位WLとなるが、水位WLが地盤沈下等の問題となる場合は、取水タンク216から地上へ揚水される水を地盤12へ注入して還流経路を構築してもよい。
次に、本発明の地下構造物及び複合構造物の第7実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1〜第6実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1〜第6実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図28(a)には、第7実施形態としての複合構造物230の平断面図が示されている。また、図28(b)には、図28における複合構造物230の領域Kの部分平断面図が示されている。
複合構造物230は、第5実施形態の複合構造物180(図23参照)における床版184に換えて、床版232、床版232を支持する床版受部234、床版232に圧縮力を導入するためのオイルジャッキ236、及び床版232の内周縁を円形に保持するコンプレッションリング238を設けた構成となっている。
床版232は、円形でコンクリート製であり、中央に第5実施形態の開口部188(図23参照)とほぼ等しい大きさの円形の開口部233が形成されている。また、床版232は、外周縁が側壁170と離間配置されており、円の中心に向けて凹状に切り欠かれた切欠部235が円周方向に間隔をあけて複数(ここでは16箇所)形成されている。さらに、床版232は、内周縁である開口部233にコンプレッションリング238が取り付けられている。なお、床版232の半径方向における切欠部235の切り欠き長さは、オイルジャッキ236の可動部のストローク長と同等の長さとしている。
一方、図28(c)に示すように、側壁170は、内部に主筋170A及びせん断補強筋170Bが設けられており、側壁170の内周面には、鉛直方向を山谷方向として波形鋼板239が取り付けられている。波形鋼板239は、鉛直方向に間隔をあけて複数の孔部が形成されており、この孔部に円筒状の機械式継手242A、242Bが溶接固定されている。なお、機械式継手242A、242Bには、予めアンカー鉄筋170Cの一端が挿通されており、アンカー鉄筋170Cの他端は側壁170に埋設されている。
床版受部234は、側壁170の内周面に沿って環状に形成されたコンクリート体であり、外周部234Aが内周部234Bよりも高く、段差が設けられている。また、床版受部234には、L字状の鉄筋244Aと直線状の鉄筋244Bが埋設されており、鉄筋244Aの一端及び鉄筋244Bの一端は、側壁170に向けて突出されている。
ここで、複合構造物230における床版232の設置手順として、まず、鉄筋244A、244B接続用の機械式継手242A、242Bを側壁170内部に構築する。続いて、機械式継手242A、242Bに床版受部234の鉄筋244A、鉄筋244Bを挿通すると共に、必要な鉄筋を配筋し、コンクリートを打って床版受部234を形成する。続いて、型枠を配置してコンクリート打設により床版232を構築する。
続いて、床版232を床版受部234の内側に配置し、床版232の切欠部235内で且つ床版受部234の内周部234Bの上面にオイルジャッキ236を載置する。続いて、オイルジャッキ236を作動させ、床版232の外周面と、外周部234Aの内周面234Dとの隙間dを拡げて床版232に圧縮力を導入し、床版232を支持する。
続いて、床版232の外周面と、外周部234Aの内周面234Dとの隙間dをモルタルで埋めると共にオイルジャッキ236を取り外し、切欠部235をモルタルで埋める。このようにして、複合構造物230に床版232が設置される。
次に、本発明の第7実施形態の作用について説明する。
まず、本実施形態の複合構造物230との比較例として、側壁170に沿って連続した床版が形成され、且つオイルジャッキ236を用いない構造物の場合は、当該床版に作用する圧縮力が予め設定された圧縮力よりも低くなる可能性があるとき、圧縮力を増加させる手段を有していないため、圧縮力の調整が難しい。
一方、図28(b)に示すように、本実施形態の複合構造物230は、円形の側壁170に均等に土圧P(地下水圧含む)が作用するとき、側壁170は、円周方向に生じる圧縮応力によって土圧Pに抵抗する。そして、側壁170と離間配置された床版232は、オイルジャッキ236によって圧縮力が付与される。
ここで、床版232は、内周側がコンプレッションリング238で円形に保持されると共に外周側から内周側へ向けて圧縮力が付与されるので、床版232全般に亘って均等に圧縮力を導入することができる。さらに、複合構造物230は、オイルジャッキ236によって圧縮力が可変となっているので、床版232に作用させる圧縮力の調整が容易となる。
なお、本実施形態では、開口部233(図28(a)参照)が形成された床版232にオイルジャッキ236により圧縮力を導入する場合について説明したが、これに限らず、開口部233が形成されていない円板状の床版にオイルジャッキ236を用いて圧縮力を導入するようにしてもよい。
ここで、本発明の地下構造物及び複合構造物の他の実施例として、図29及び図30(a)、(b)に示す複合構造物250を構築することができる。複合構造物250は、地盤12に掘削形成された縦穴251、253内に構築された地下構造物260と、地下構造物260の開口部252内で床版264上に立設された建築物200とを有している。
地下構造物260は、地面GLを基準(0階)として、地上階側をプラス、地下階側をマイナスとしたとき、0階〜−13階までの上構造物270と、−14階〜−21階までの下構造物280とで構成されている。
上構造物270は、複合構造物250を平面視したときの断面形状が矩形の側壁254と、側壁254の内面に沿って連続形成され中央部に円形の開口部252を構成するコンクリート造の床版256とを有している。なお、床版256は、下構造物280では天井部を構成しており、各階の床版256上には、プレキャストコンクリート又は現場打ちコンクリート造(RC、SRC、CFT、SC)及びS造によって複数の柱258が立設されている。
一方、下構造物280は、複合構造物250を平面視したときの断面形状が円形の側壁262と、側壁262の内面に沿って連続形成された床版194とを有している。また、各階の床版194上には複数の柱196が立設されており、下構造物280の底部194Hは不(難)透水層12B内に位置している。
複合構造物250の0階における床版256と建築物200は、オイルダンパー206で連結されている。オイルダンパー206は、建築物200の正方形状の床版204の四隅に直交する各2ヶ所で合計8ヶ所配置されている。なお、オイルダンパー206の配置は、四隅の他にこの中間部に複数ヶ所配置する。1ヶ所には必要減衰力に応じ1〜複数のオイルダンパー206を設置する。
このように、上構造物270の側壁254の形状を矩形とし、下構造物280の側壁262の形状を円形として、異なる形状の側壁を有する地下構造物260及び複合構造物250を構築してもよい。
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
側壁20は、山止めH鋼の他に、鉄骨入りコンクリート、鉄筋入りコンクリートを用いてもよい。また、側壁20の形状は、正方形だけでなく円形であってもよい。
複合構造物120の地下構造物130において、床版134に換えて床版86、96、106のいずれかを設け、さらに、圧縮手段であるオイルジャッキ55、73、88、98、109のいずれかを設けて、追加の圧縮力を床版に付与するようにしてもよい。
なお、大深度地下として地下50m〜100mを設定しているが、これに限らず、同様な効果が得られる深度であれば地下50m以浅のもの、施工上可能であり同様な効果が得られれば地下100m以深のものであってもよい。
地下構造物160における上構造物162A及び下構造物162Bの階数、複合構造物180、210、230における上構造物、下構造物、建築物の各階数は、実施形態の階数に限定されず、複数の階数から適宜設定してよい。
オイルダンパー206は0階に設置するだけでなく、上構造物182Aのいずれの階に設けてもよい。また、オイルジャッキ236の設置数は16箇所に限らず、16箇所よりも少なく、又は16箇所よりも多く設置してもよい。