JP5376449B2 - ホローカソード - Google Patents

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Description

本発明は、人工衛星等の宇宙機に搭載されるホローカソード、特に放電の開始(点火)を容易にする宇宙機用ホローカソードに関する。
人工衛星や宇宙ステーション等の宇宙構造物に搭載される長寿命電子源としてホローカソードがあり、宇宙用の用途として、人工衛星等の軌道制御や南北位置保持に用いられるイオンエンジンやホールスラスタ等の電気推進機の電子源、宇宙ステーション等の帯電防止に用いられるプラズマコンタクタ等がある。
このようなホローカソードの主要部は、通常、図9に示すように構成されている。図9は、この発明の基盤(従来技術)となる特許文献1および特許文献2に開示されているホローカソードについて一部を切り欠いた部分断面を示す図であって、図中の符号1で示す部材は電子の最初の放出源となるカソードインサートであり、カソードインサート1にはその中心部に円柱状の空洞部2が形成されている。カソードインサート1は酸化バリウムが含浸された多孔質タングステン製であり、活性化を行った後の空洞部2に面する表面の仕事関数は2eV程度まで低下している。カソードインサート1は円筒状のカソードチューブ3の中に挿入され、カソードインサート支持部5によってカソードチューブ3の先端に位置するオリフィス板4に押しつけられている。オリフィス板4の前面には円盤状に成形されたキーパ電極板6が配置されている。オリフィス板4の例えば中心部には直径0.3〜1.5mm程度の孔状のオリフィス7が開いており、キーパ電極板6にはオリフィス7に対面して直径2〜8mm程度のキーパ孔8が開いている。
カソードチューブ3の外側にはセラミック溶射層中に埋め込まれたヒータ9が配され、その外側を熱シールド10が取り囲んでいる。キーパ電極板6はキーパ電極支持部絶縁円筒11によって固定され、キーパ電極支持部絶縁円筒11の周りはスパッタ・シールド12が覆っている。カソードチューブ3とキーパ電極支持部絶縁円筒11はベース板13に固定されている。ベース板13にはそれら以外に、べ一ス板13とヒータ9およびキーパ電極板6に電流を流すための3つの電流導入端子14,15,16と、ガス導入系17も固定されている。ヒータ9は電流導入端子15とカソードチューブ3につながり、キーパ電極板6は電流導入端子16に、ベース板13は電流導入端子14につながっている。ベース板13は通常、放電容器18の天蓋中心に固定され、放電電源の陰極電位に保たれている。また、放電容器18が、放電電源の陽極の役割をする。
従来、このようなホローカソードを動作させるためには一例として以下のような点火手順が必要であった。まずヒータ9の加熱によりカソードインサート1を1000℃程度まで温度上昇させる。次にキーパ電極板6に+100V以上の電圧を印加状態で推進剤(例えばキセノン)ガスをガス導入系17からカソードインサート1の空洞部2に導入すると、カソードインサート1とキーパ電極板6との間に絶縁破壊が生じ、カソードインサート1から放出された1次電子が加速される。この1次電子が空洞部2内のキセノンガスに衝突して、図10に示す電離プラズマ(内部プラズマ20)がオリフィス板4側の空洞部2に生成される。ここで、電圧表記について補足する。本明細書では、カソードインサート1およびカソードチューブ3およびオリフィス板4およびカソードインサート支持部5およびベース板13の電位である陰極電位を基準電位とし、特に表記無き場合の電圧は、この陰極電位に対する電位差を表すものとする。
上記の状態で放電容器18の放電電源陽極部分に放電電圧+20〜+60Vを印加すると、内部プラズマ20から新たに2次電子が引き出されて、1次電子と共に放電容器18内のキセノンガスに衝突し、別の2つの電離プラズマ(キーパプラズマ21、外部プラズマ22)が生成される。キーパプラズマ21は内部プラズマ20と外部プラズマ22をつなぐ役目をしており、オリフィス板4のオリフィス7からキーパ電極板6のキーパ孔8を経て放電容器18内に形成される。このように、内部プラズマ20とキーパプラズマ21および外部プラズマ22が形成された状態がホローカソードの定常動作状態である。この定常動作に移行した後は、通常、ヒータ加熱は停止され、キーパ電源は定電圧制御から定電流制御(0.5〜2A程度)に変更されると共に、キーパ電極板6に印加される電圧は+8〜+25V程度に低下する。
このようなホローカソードでは点火手順において、キーパ電極板6に+100V以上の電圧を印加する必要があるという問題がある。即ち、ホローカソードの定常動作状態ではキーパ電極板6の電圧は高々+25V程度で十分であるのに対し、定常動作に至る前の点火の段階では、カソードインサート1とキーパ電極板6との間に絶縁破壊を起こすために、定常動作時と比較して大幅に高い電圧をキーパ電極板6に印加しなければならない。
点火手順においてキーパ電極板6に定常動作時と比較して大幅に高い電圧を印加しなければならないことによる問題のひとつは、キーパ電極用電源の重量および体積が増加することである。即ち、キーパ電極用電源が+100V以上の電圧を出力するためには、高電圧印加用の付加的な回路が必要であり、そのためにキーパ電極用電源の重量および体積が増加する。宇宙利用においては使用できる重量および体積が厳しく制限されるため、電源の大型化は望ましくない。さらに、キーパ電極板6の高電圧化により、キーパ電極用電源内部の構造が複雑化するとともに、キーパ電極用電源からキーパ電極板6を接続する配線に沿った各部にも+100V以上の電圧が印加されるため、異常絶縁破壊等の問題発生の原因となり得る。
点火手順においてキーパ電極板6に定常動作時と比較して大幅に高い電圧を印加しなければならないことによるもうひとつの問題は、+100V以上の高電圧によってカソードインサート1とキーパ電極板6との間で絶縁破壊が生じることによって、カソードインサート1またはオリフィス板4またはキーパ電極板6に損傷が生じる場合があることである。例えば、非特許文献1の第5頁には、点火手順においてキーパ電極板6に+100V以上の高電圧が印加された際の絶縁破壊発生時に、オリフィス7の付近から微小な固形物が放出される様子が報告されており、カソードインサート1またはオリフィス板4またはキーパ電極板6に損傷が生じた可能性がある。このような損傷は、ホローカソードの寿命を短くし、その動作性能を劣化させる可能性がある。さらに、点火手順においてキーパ電極板6に+100V以上の高電圧印加を継続した場合には、特にオリフィス板4がカーボン系の材料で構成されている場合において、点火に要する時間およびヒータ9への負荷が増大する傾向も確認されている。
なお、ホローカソードについての公知文献としては、本発明の基盤となる特許文献1および2に加えて、低電圧化に関しては、特許文献3にカソードインサートの形状を改良して大電流動作においても動作電圧を下げることが可能なホローカソードが示されており、異常放電発生抑制に関しては、特許文献4にカソードインサートの表面の被覆により放電状態を安定させることが可能なホローカソードが示されるなど、幾つかある。しかし、これらの文献においては、ホローカソードの定常動作時の低電圧化または異常放電発生抑制が示されており、点火時の問題を扱う本発明とは、課題、手段、および具体的な構造において異なるものである。
特開2000−161201号公報(第7頁、図7) 特開2004−169606号公報(第10頁、図7) 特開2000−130316号公報 特開2004−115887号公報 Hayakawa,Y.et al,"Graphite Orificed Hollow Cathodes for Xenon Ion Thrusters,"43rd AIAA Joint Propulsion Conference,AIAA paper 2007-5173,July 2007.(第5頁)
従来のホローカソードには、定常動作に移行する前の点火手順において、キーパ電極板に+100V以上の高電圧を印加する必要がある点で解決すべき課題がある。
従って、この発明の目的は、点火手順においてキーパ電極板に印加する電圧を低減することにより、キーパ電極用電源の重量および体積を軽減するとともに、電源構造の複雑化を防ぎ、電源内部および配線部での異常絶縁破壊を防止し、さらに、点火時のカソードインサートまたはオリフィス板またはキーパ電極板の損傷を防ぐことにより寿命低下や放電性能劣化を回避する等の、点火時の高電圧印加に起因する諸問題を解消することができるホローカソードを提供することである。
上記目的を達成するため、この発明によるホローカソードは、ヒータを有する中空状のカソードチューブと、前記カソードチューブの先端に取り付けられたオリフィスを有するオリフィス板と、前記オリフィス板に対面するキーパ孔を有するキーパ電極板と、前記カソードチューブに挿入され空洞部を持つカソードインサートと、前記カソードチューブの内部に作動ガスを導入するガス導入系とを有するホローカソードにおいて、前記オリフィス板の下流側に放電の開始(点火)を容易にする放電開始促進板が設けられていることを特徴としている。
このホローカソードによれば、オリフィス板の下流側に放電の開始(点火)を容易にする前記放電開始促進板が設けられているため、ホローカソードの点火手順において、キーパ電極板に印加する電圧を、ホローカソードの定常動作時と同等の+30V以下に低減することが可能となる。即ち、従来のホローカソードの点火手順において必要とされる+100V以上のキーパ電極板電圧を大幅に低減することができる。
このホローカソードにおいて、前記オリフィス板の下流側に取り付けられる前記放電開始促進板としては、カーボンナノチューブ等のナノカーボンを含有するカーボン構造材がある。ナノカーボンは、ナノメートル級の微細突起を有するため、ヒータからの熱の伝播によりカーボン構造材が1000℃程度の高温に達して熱電子を放出するのに加え、微細突起の先端での電界集中効果および熱集中効果により電子放出が促進され、キーパ電極板に印加する電圧が+30V以下程度と低い値であっても、放電を開始することが可能となる。従来のホローカソードにおいては、ヒータからの熱の伝播によりオリフィス板が高温となり熱電子を放出する機構のみが利用されていたが、本発明においてはそれに加え電界集中効果および熱集中効果を誘発する機構が利用されている点が従来のホローカソードとの相違点である。
このホローカソードにおいて、前記オリフィス板の下流側に取り付けられる前記放電開始促進板としては、微細加工技術によるナノメートル級の微小突起を1つ又は複数有する構造材もある。このナノメートル級の微小突起により、上記と同様の効果により、キーパ電極板に印加する電圧が+30V以下程度と低い値であっても、放電を開始することが可能となる。
このホローカソードにおいて、前記オリフィス板の下流側に取り付けられる前記放電開始促進板としては、電気伝導体と電気絶縁体とが隣接した構造を有する構造材もある。電子の二次電子放出やその他の理由により電気絶縁体がチャージアップすることで、電気伝導体と電気絶縁体の境界部分で電界集中が生じて強電界が形成され、この境界部分から電界放出電子が放出される。ヒータからの熱の伝播により同構造材が高温に達することによる熱電子放出に加え、この電界放出電子により、キーパ電極板に印加する電圧が+30V以下程度と低い値であっても、放電を開始することが可能となる。
このホローカソードにおいて、前記オリフィス板の下流側に取り付けられる前記放電開始促進板としては、カーボン系の材料からなる構造材を使用することもできる。ホローカソード動作時の放電等の持続作用により、カーボン系の材料からなる放電開始促進板の上には、カーボンナノチューブ等のナノカーボン構造が自発的に生成・維持されるため、ヒータからの熱の伝播により前記放電開始促進板が1000℃程度の高温に達して熱電子を放出するのに加え、ナノカーボン構造の先端での電界集中効果および熱集中効果により電子放出が促進され、キーパ電極板に印加する電圧が+30V以下程度と低い値であっても、放電を開始することが可能となる。
このホローカソードにおいて、前記オリフィス板の下流側に取り付けられる前記放電開始促進板としては、熱電子放出特性の優れた材料からなる構造材を適用することもできる。一例として、このホローカソードにおいて、高密度カーボンからなる放電開始促進板を適用した場合には、キーパ電極板に印加する電圧が+30V以下の場合でも、オリフィス板からの電子放出により放電が開始され、ホローカソードが定常動作に移行することが実験により確認されている。図8は、この高密度カーボンからなる放電開始促進板の電子放出特性を測定した実験結果の一例であり、放電開始促進板がある場合には、放電開始促進板が無い場合(金属製オリフィス板のみ)に比較して、低い温度領域においても高い電子放出性能が得られることが分かる。
このホローカソードにおいては、前記オリフィス板の下流側に取り付けられる前記放電開始促進板の形状は板状でなくても良い。即ち、メッシュ状または格子状の形態であっても良い。さらに、オリフィス板に放電開始促進物質を含浸させても良く、オリフィス板の表面に放電開始促進物質をコーティングしても良く、オリフィス板の表面に一つ又は複数の突起状物質を形成しても良い。
このホローカソードにおいては、前記オリフィス板の下流側に取り付けられる前記放電開始促進板の構成として、上記に示した各機能が重複して働いても良い。即ち、前記放電開始促進板がナノカーボン構造を有するか、微細加工技術による微小突起を有するか、電気伝導体と電気絶縁体とが隣接した構造を有するか、カーボン系材料で構成されるかの各機能のうち複数が重複しても良い。
このホローカソードにおいては、前記オリフィス板の下流側に敗り付けられる前記放電開始促進板の大きさに制限は特に無い。即ち、前記放電開始促進板の大きさは、前記オリフィス板と同等でも良く、前記オリフィス板より大きくても良く、前記オリフィス板より小さくても良い。また、前記オリフィスに対応して前記放電促進板に空けられる放電開始促進開口部の大きさは前記オリフィスと同等でも良く、前記オリフィスより大きくても良く、前記オリフィスより小さくても良い。
このホローカソードにおいては、オリフィス板そのものが前記放電開始促進板の役割を果たすように、オリフィス板に適当な材料を選んでも良い。即ち、オリフィス板そのものが、ナノカーボン構造を有するか、微細加工技術による微小突起(群)構造を有するか、電気伝導体と電気絶縁体とが隣接した構造を有するか、カーボン系材料で構成されるか、いずれか又は複数の構造を有しても良い。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を行って実施可能である。
この発明によるホローカソードによれば、ヒータを有する中空状のカソードチューブと、前記カソードチューブの先端に取り付けられたオリフィスを有するオリフィス板と、前記オリフィス板に対面するキーパ孔を有するキーパ電極板と、前記カソードチューブに挿入され空洞部を持つカソードインサートと、前記カソードチューブの内部に作動ガスを導入するガス導入系とを有するホロカソードにおいて、前記オリフィス板の下流側に放電の開始(点火)を容易にする放電開始促進板が設けられていることにより、キーパ電極板に印加する電圧が+30V以下程度と低い値であっても、放電を開始することが可能となる。従って、このホローカソードによれば、点火時にキーパ電極板に印加する電圧を下げることにより、キーパ電極用電源の重量および体積を軽減するとともに、電源構造を簡素化し、電源内部および配線部での異常絶縁破壊を防止することができ、さらに、放電開始時のカソードインサートまたはオリフィス板またはキーパ電極板の損傷を防ぐことにより寿命低下や放電性能劣化を回避する等の、放電開始時の高電圧印加に起因する諸問題を解消することができる。これらの効果により、機器の小型化、軽量化、簡素化、高信頼性化、長寿命化、高性能化が求められる宇宙利用に適したホローカソードの設計・製作が可能となる。
この発明の第1実施例に関わるホローカソードを示す説明図である。 この発明の第2実施例に関わるホローカソードを示す説明図である。 この発明の第3実施例に関わるホローカソードを示す説明図である。 この発明の第4実施例に関わるホローカソードを示す要部断面説明図である。 図4の第4実施例におけるナノカーボンの成長作用を示す説明図である。 この発明の第5実施例に関わるホローカソードを示す要部断面説明図である。 この発明の第6実施例に関わるホローカソードを示す要部断面説明図である。 放電開始促進板からの熱電子放出特性を測定した実験結果を示す図である。 従来のホローカソードを一部切欠して示す断面図である。 ホローカソードの近傍に形成される電離プラズマの概要図である。 従来のホローカソードを示す要部断面説明図である。
この発明は、従来のホローカソードのオリフィス板の下流側取り付けられる放電開始促進板の構造、形状、材料等を適切に選択することで実施することができる。以下、図面を参照してこの発明によるホローカソードの実施例を説明する。
図1は、この発明の第1実施例に関わるホローカソード100を示す説明図である。なお、図1(a)は要部断面図であり、同(b)はA部拡大図である。また、本発明の特徴を明確にするために、図9に示した従来型ホローカソードの一部分を示した要部断面説明図を参考として図11に示す。図1および図11においては、図9に示した従来型ホローカソードと同一部分については同一符号を用いているため、重複する説明を省略する。
図1に示す第1実施例に関わるホローカソードは、図11に示す従来型ホローカソードと比較して、プラズマの流れ方向に見て、オリフィス板4の下流側に放電開始促進板A31が取り付けられている点で異なっている。放電開始促進板A31は、カーボンナノチューブ等のナノカーボンを含有する微小突起群構造体であり、直径がナノメートル級の微細突起を有するため、ヒータ9から放電開始促進板A31に熱が伝播して高温となり微細突起の先端等から電子が放出されるのに加え、微細突起の先端で電界集中および熱集中が生じ、電子の放出量が増幅される。これによりキーパ電極板6に印加する電圧が低い場合にもホローカソードの点火が可能となる。図1では、放電開始促進板A31のナノカーボン構造は模式的に櫛状の直立形態としたが、ナノカーボン構造は無秩序にカーボンナノチューブが絡み合った形態でも良い。また図1では、放電開始促進板開口部41の大きさは、オリフィス7よりも大きいが、本実施例および後述の各実施例において、放電開始促進板開口部41とオリフィス7との大小関係に制限は特に無い。また、図1に示した放電開始促進板A31の大きさは、オリフィス板4と同等としたが、本実施例および後述の各実施例において、放電開始促進板とオリフィス板4との大小関係にも制限は特に無い。
また、図1(b)に示すように、カーボンナノチューブ31aのオリフィス板4への固定方法としては、例えば接着剤が塗布されたサポート板31bにカーボンナノチューブ31aを櫛状の直立形態、或いはカーボンナノチューブ31aを無秩序に絡ませた形態で取り付けることが考えられる。またカーボンナノチューブ31aは、化学気相成長法等の方法によりオリフィス板4上に成長させても良い。
図2は、この発明の第2実施例に関わるホローカソードを示す説明図である。なお、図2(a)はその要部断面図であり、同(b)はそのB部拡大図である。図2に示すホローカソードでは、図1に示す第1実施例と同一部分には同一符号を用いているため、重複する説明を省略する。
図2に示す第2実施例では、図11に示す従来型ホローカソードと比較して、オリフィス板4の下流側に放電開始促進板B32が取り付けられている点で異なっている。放電開始促進板B32は、微細加工技術により成形された微小突起(群)構造を有しており、第1実施例と同様に、放電開始促進板B32からの電子放出量が増幅される。図2には、放電開始促進板B32として、ピラミッド状の微小突起が同心円状に配列されたものを示したが、これらの微小突起の形状に制限は特に無い。
図3は、この発明の第3実施例に関わるホローカソードを示す説明図である。なお、図3(a)はその要部断面図であり、同(b)はそのC部拡大図である。図3に示すホローカソードでは、図1に示す第1実施例と同一部分には同一符号を用いているため、重複する説明を省略する。
図3に示す第3実施例では、図11に示す従来型ホローカソードと比較して、オリフィス板4の下流側に放電開始促進板C33が取り付けられている点で異なっている。放電開始促進板C33は、電気伝導体部位33a(例えば、タングステンやタンタルのような高融点金属やカーボン系材料)と電気絶縁体部位33b(例えば、アルミナやジルコニアのようなセラミック系材料)とが隣接する構造を有しており、この両者の境界での電界集中により、放電開始促進板C33からの電子放出量が増幅される。図3には、放電開始促進板C33の一例を示したが、電気伝導体部位33aと電気絶縁体部位33bとの配置関係および形状に制限は特に無い。
図4は、この発明の第4実施例に関わるホローカソードを示す要部断面説明図である。図4に示すホローカソードでは、図1に示す第1実施例と同一部分には同一符号を用いているため、重複する説明を省略する。
図4に示す第4実施例では、図11に示す従来型ホローカソードと比較して、オリフィス板4の下流側に放電開始促進板D34が取り付けられている点で異なっている。放電開始促進板D34は、カーボン系の材料、例えば黒鉛やカーボンカーボン複合材で構成されており、ホローカソードの放電等の作用により、放電開始促進板D34上に自発的にナノカーボン構造が形成されることで、第1実施例と同様に、放電開始促進板D34からの電子放出量が増幅される。
図5は、この自発的なナノカーボン構造の形成を示す図であり、ある一定の時間ホローカソード放電等が持続することで、アーク放電法によるナノカーボン生成と類似の作用により、放電開始促進板D34上に自発的にナノカーボン構造が形成・維持される様子を表している。
図6は、この発明の第5実施例に関わるホローカソードを示す要部断面説明図である。図6に示すホローカソードでは、図1に示す第1実施例と同一部分には同一符号を用いているため、重複する説明を省略する。
図6に示す第5実施例では、図11に示す従来型ホローカソードと比較して、オリフィス板4の下流側に放電開始促進板E35が取り付けられている点で異なっている。放電開始促進板E35は、熱電子放出特性に優れたカーボン系の材料、例えば黒鉛やカーボンカーボン複合材で構成されており、材料の有する高い電子放出特性により、放電開始促進板E35からの電子放出量が増幅される。
図7は、この発明の第6実施例に関わるホローカソードを示す要部断面説明図である。図7に示すホローカソードでは、図1に示す第1実施例と同一部分には同一符号を用いているため、重複する説明を省略する。
図7に示す第6実施例では、実施例1から5に関わるホローカソードと比較して、改良型オリフィス板42が、放電開始促進機能を有する点で異なっている。即ち、改良型オリフィス板42は、その下流側表面(キーパ電極板6に対向する面)にナノカーボンの微小突起群構造を有するか、微細加工技術による微小突起(群)構造を有するか、電気伝導体と電気絶縁体とが隣接した複合構造を有するか、ナノカーボン構造が自発的に生成・維持されるカーボン系材料、あるいは熱電子放出特性に優れたカーボン系材料で構成されるか、のいずれか又はこれらが複数組み合わされた構造を有しており、改良型オリフィス板42自体が放電開始促進機能を持つ。
この発明によるホローカソードは、ホローカソード動作に必要な電源の構造を簡略化・軽量化・小型化し、異常絶縁破壊の発生を防止し、長寿命化を可能とする特徴を有するため、搭載機器の小型化・軽量化・簡素化が求められ、かつ高い信頼性が求められる宇宙産業分野への適用が期待される。宇宙産業分野での利用内容としては、イオンエンジン用のプラズマ生成装置およびイオンビーム中和装置、ホールスラスタ用の電子放出装置、ホローカソードスラスタ、導電性テザーシステムの電子放出装置、人工衛星や宇宙ステーション等の帯電制御器等が考えられる。
また、地上産業用のプラズマ発生源としても利用可能であり、スパッタリング用イオシ源のプラズマ生成装置およびイオンビーム中和装置、イオンエッチング機器用のプラズマ生成装置、ホローカソードランプ等、多くの適用先が考えられる。
1 カソードインサート
2 空洞部
3 カソードチューブ
4 オリフィス板
5 カソードインサート支持部
6 キーパ電極板
7 オリフィス
8 キーパ孔
9 ヒータ
10 熱シールド
11 キーパ電極支持部絶縁円筒
12 スパッタ・シールド
13 ベース板
14,15,16 電流導入端子
17 ガス導入系
18 放電容器
20 内部プラズマ
21 キーパ・プラズマ
22 外部プラズマ
31 放電開始促進板A
32 放電開始促進板B
33 放電開始促進板C
33a 放電開始促進板Cの電気伝導体部位
33b 放電開始促進板Cの電気絶縁体部位
34 放電開始促進板D
35 放電開始促進板E
41 放電開始促進板A〜Dの開口部
42 改良型オリフィス板

Claims (9)

  1. ヒータを有する中空状のカソードチューブと、前記カソードチューブの先端に取り付けられたオリフィスを有するオリフィス板と、前記オリフィス板に対面するキーパ孔を有するキーパ電極板と、前記カソードチューブに挿入され空洞部を持つカソードインサートと、前記カソードチューブの内部に作動ガスを導入するガス導入系とを有するホローカソードにおいて、
    前記オリフィス板の下流側部位に放電の開始(点火)を容易にする放電開始促進板が設けられていることを特徴とするホローカソード。
  2. 前記放電開始促進板が、カーボンナノチューブ等のナノカーボンにより構成される微小突起群構造から成ることを特徴とする請求項1に記載のホローカソード。
  3. 前記放電開始促進板が、微細加工技術による複数の微小突起群構造から成ることを特徴とする請求項1に記載のホローカソード。
  4. 前記放電開始促進板が、複数の電気伝導体と複数の電気絶縁体とが隣接した構造から成る複合板であることを特徴とする請求項1に記載のホローカソード。
  5. 前記放電開始促進板が、ナノカーボン構造が自発的に生成・維持されるカーボン系の材料から成る板であることを特徴とする請求項1に記載のホローカソード。
  6. 前記放電開始促進板が、熱電子放出特性に優れたカーボン系材料で形成された板であることを特徴とする請求項1に記載のホローカソード。
  7. 前記放電開始促進板が、メッシュ状の構造または格子状の構造を有する板であることを特徴とする請求項1に記載のホローカソード。
  8. ヒータを有する中空状のカソードチューブと、前記カソードチューブの先端に取り付けられたオリフィスを有するオリフィス板と、前記オリフィス板に対面するキーパ孔を有するキーパ電極板と、前記カソードチューブに挿入され空洞部を持つカソードインサートと、前記カソードチューブの内部に作動ガスを導入するガス導入系とを有するホローカソードおいて、
    前記オリフィス板自体が、請求項2から7に記載された前記放電開始促進板の機能のうち1又は複数を有することを特徴とするホローカソード。
  9. 点火の際に+100V以上の高電圧を前記キーパ電極板に印加する必要がないことを特徴とする請求項1から8の何れかに記載のホローカソード。
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