ここで、保持器の製造方法の一例について簡単に説明する。まず、円筒形状の保持器部材を準備する。次に、準備した保持器部材の一部をポケット形状に打ち抜く。具体的には、保持器部材を所定の角度ずつ回転させながら、周方向に順次1つずつ打ち抜く。これにより、保持器部材は、複数のポケットを形成され、一対の環状部と、隣り合うそれぞれのポケット間に位置して、一対の環状部を連結する複数の柱部とを有する構成となる。そして、ポケットの周方向壁面の一部をポケット側に向かって突出させる。このようにして形成された爪部によって、ポケットに収容されたころの径方向の脱落を防止する。
ここで、保持器は、複数のポケットを形成される際に、保持器部材を所定の角度ずつ回転させるピッチがそれぞれ微小に異なる場合がある。そうすると、ポケット間に位置する柱部の周方向長さがそれぞれ微小に異なってしまう。この場合、ピッチの誤差は、順次蓄積されることから、最初に形成したポケットの隣に位置する柱部と、最後に形成したポケットの隣に位置する柱部とでは、周方向長さが異なることとなってしまう。そのため、保持器部材を所定の角度ずつ回転させるピッチを厳しく管理する必要がある。
特許文献1および特許文献2に開示の技術では、柱部の外径側面に対して加工を施すことにより爪部を形成することとしている。図20は、従来において、爪部を形成する場合を示す図であって、柱部101を回転軸線に垂直な方向に切断した場合の断面図である。図20を参照して、爪部を形成する際には、冶具103を柱部101の周方向両側に配置する。そして、柱部101の外径側に配置された冶具102により、柱部101の外径側面101aを内径側に向かう方向、すなわち、図20中の矢印Bで示す方向に押し進める。そして、柱部101の周方向壁面101b,101cの一部をポケット側に突出させる。ここで、冶具102は、複数の柱部101に対して、同じ力で押し進められる。そうすると、複数の柱部101の周方向長さがそれぞれ異なる場合には、爪部を形成する体積が柱部毎に異なるため、形成される爪部の突出量が異なることになってしまう。
この発明の目的は、柱部の周方向長さがそれぞれ異なる場合であっても、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部を容易に形成することができる保持器の製造方法を提供することである。
この発明の他の目的は、柱部の周方向長さがそれぞれ異なる場合であっても、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部を容易に形成することができる保持器を提供することである。
この発明のさらに他の目的は、柱部の周方向長さがそれぞれ異なる場合であっても、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部を容易に形成することができる保持器製造装置を提供することである。
この発明にかかる保持器の製造方法は、ころを収容するポケットを形成するように、周方向に間隔を空けて軸方向に延びる複数の柱部が設けられており、ポケットの周方向壁面には、ポケット側に突出し、ポケットに収容されたころの脱落を防止する爪部が設けられている保持器の製造方法である。保持器の製造方法は、円筒形状の保持器部材の所定の箇所を開口するようにして、複数のポケットを形成するポケット形成工程と、爪部を形成するポケットの周方向壁面を構成する柱部の周方向の動きを規制する柱部移動規制工程と、棒状であって、その先端に設けられ、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部と、ポケット壁面ガイド部から後退した位置に設けられ、ポケットの周方向幅より大きい大幅部とを備える爪部形成冶具を用いて、ポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させる配置工程と、爪部形成冶具を径方向に押し進めて、大幅部によりポケットの周方向壁面の一部を塑性変形させて爪部を形成する爪部形成工程とを備える。
このような保持器の製造方法は、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させ、爪部形成冶具を径方向に押し進めて、ポケット壁面ガイド部から後退した位置に設けられる大幅部により爪部を形成する。したがって、爪部を形成する際には、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部により、爪部形成冶具の周方向の位置決めを行うことができる。そうすると、位置決めが行われた爪部形成冶具を径方向に押し進めて、爪部を形成する際に、形成される爪部の突出量を等しくさせることができる。すなわち、周方向長さが等しいポケットを基準にするため、爪部を形成する体積が等しくなる。その結果、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部を容易に形成することができる。
好ましくは、柱部移動規制工程は、爪部を形成するポケットの周方向両側の壁面を構成する2つの柱部の周方向の動きを規制し、配置工程は、周方向の中心から周方向一方端までの長さと、周方向の中心から周方向他方端までの長さとが等しい大幅部を備える爪部形成冶具を用いて、ポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させる工程を含む。こうすることにより、工数を増やすことなく、周方向両側に位置する爪部をまとめて形成することができる。このとき、大幅部は、周方向の中心から周方向一方端までの長さと、周方向の中心から周方向他方端までの長さとが等しく構成されるため、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部を形成することができる。
さらに好ましくは、爪部は、外径側へのころの脱落を防止する第一の爪部と、内径側へのころの脱落を防止する第二の爪部とを含み、爪部形成工程は、爪部形成冶具の一度の径方向の押し進めにより、ポケットの周方向壁面の内径側および外径側の領域を塑性変形させて、第一および第二の爪部を形成する工程を含む。こうすることにより、工数を増やすことなく、第一および第二の爪部をまとめて形成することができる。
さらに好ましくは、柱部移動規制工程は、ブロック状のベース部と、ベース部から径方向に突出し、爪部を形成するポケットの両隣のポケット内に配置可能な第一および第二の突出部を備え、ベース部を突出方向に貫通する貫通孔が設けられている柱部移動規制冶具を用いることにより、第一および第二の突出部を、爪部を形成するポケットの両隣のポケット内に配置して、爪部を形成するポケットの周方向両側の壁面を構成する2つの柱部の周方向の動きを規制し、爪部形成工程は、貫通孔の周方向壁面に沿って案内される貫通孔壁面ガイド部を備える爪部形成冶具を用いて、爪部を形成する工程を含む。こうすることにより、柱部移動規制冶具により柱部の周方向の動きを規制すると共に、爪部形成冶具の周方向の位置決めを容易に行うことができる。
さらに好ましくは、柱部移動規制工程は、軸方向から見た場合に、突出部が、先端に向かって幅が細くなる形状の柱部移動規制冶具を用いて、柱部の周方向の動きを規制する工程を含む。こうすることにより、突出部を容易にポケット内に配置することができる。
さらに好ましくは、配置工程は、大幅部のうち、ポケット壁面ガイド部側に位置する角部が、軸方向から見た場合に面取りされている爪部形成冶具を用いて、ポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させる工程を含む。こうすることにより、ポケット内にポケット壁面ガイド部を配置した際に、例えば、周方向一方側に偏って配置された場合であっても、爪部形成冶具を径方向に押し進める際に、ポケット壁面ガイド部の周方向の中心がポケットの周方向の中心に位置するよう、軌道修正させることができる。
この発明の他の局面においては、ころを収容するポケットを形成するように、周方向に間隔を空けて軸方向に延びる複数の柱部が設けられており、ポケットの周方向壁面には、ポケット側に突出し、ポケットに収容されたころの脱落を防止する爪部が設けられている保持器に関する。保持器は、円筒形状の保持器部材の所定の箇所を開口するようにして、複数のポケットを形成し、爪部を形成するポケットの周方向壁面を構成する柱部の周方向の動きを規制し、棒状であって、その先端に設けられ、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部と、ポケット壁面ガイド部から後退した位置に設けられ、ポケットの周方向幅より大きい大幅部とを備える爪部形成冶具を用いて、ポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させ、爪部形成冶具を径方向に押し進めて、大幅部によりポケットの周方向壁面の一部を塑性変形させて爪部を形成したことを特徴とする。
このような保持器は、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させ、爪部形成冶具を径方向に押し進めて、ポケット壁面ガイド部から後退した位置に設けられる大幅部により爪部を形成する。したがって、爪部を形成する際には、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部により、爪部形成冶具の周方向の位置決めを行うことができる。そうすると、位置決めが行われた爪部形成冶具を径方向に押し進めて、爪部を形成する際に、形成される爪部の突出量を等しくさせることができる。すなわち、周方向長さが等しいポケットを基準にするため、爪部を形成する体積が等しくなる。その結果、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部を容易に形成することができる。
この発明のさらに他の局面においては、ころを収容するポケットを形成するように、周方向に間隔を空けて軸方向に延びる複数の柱部が設けられており、ポケットの周方向壁面には、ポケット側に突出し、ポケットに収容されたころの脱落を防止する爪部が設けられている保持器を製造する際に用いられる保持器製造装置に関する。保持器製造装置は、爪部を形成するポケットの周方向壁面を構成する柱部の周方向の動きを規制する柱部移動規制手段と、棒状であって、その先端に設けられ、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部と、ポケット壁面ガイド部から後退した位置に設けられ、ポケットの周方向幅より大きい大幅部とを備える爪部形成冶具と、ポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させる配置手段と、爪部形成冶具を径方向に押し進めて、大幅部によりポケットの周方向壁面の一部を塑性変形させて爪部を形成する爪部形成手段とを備える。
このような保持器製造装置は、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させ、爪部形成冶具を径方向に押し進めて、ポケット壁面ガイド部から後退した位置に設けられる大幅部により爪部を形成する。したがって、爪部を形成する際には、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部により、爪部形成冶具の周方向の位置決めを行うことができる。そうすると、位置決めが行われた爪部形成冶具を径方向に押し進めて、爪部を形成する際に、形成される爪部の突出量を等しくさせることができる。すなわち、周方向長さが等しいポケットを基準にするため、爪部を形成する体積が等しくなる。その結果、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部を容易に形成することができる。
この発明に係る保持器の製造方法は、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させ、爪部形成冶具を径方向に押し進めて、ポケット壁面ガイド部から後退した位置に設けられる大幅部により爪部を形成する。したがって、爪部を形成する際には、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部により、爪部形成冶具の周方向の位置決めを行うことができる。そうすると、位置決めが行われた爪部形成冶具を径方向に押し進めて、爪部を形成する際に、形成される爪部の突出量を等しくさせることができる。すなわち、周方向長さが等しいポケットを基準にするため、爪部を形成する体積が等しくなる。その結果、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部を容易に形成することができる。
また、この発明に係る保持器は、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させ、爪部形成冶具を径方向に押し進めて、ポケット壁面ガイド部から後退した位置に設けられる大幅部により爪部を形成する。したがって、爪部を形成する際には、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部により、爪部形成冶具の周方向の位置決めを行うことができる。そうすると、位置決めが行われた爪部形成冶具を径方向に押し進めて、爪部を形成する際に、形成される爪部の突出量を等しくさせることができる。すなわち、周方向長さが等しいポケットを基準にするため、爪部を形成する体積が等しくなる。その結果、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部を容易に形成することができる。
また、この発明に係る保持器製造装置は、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部をポケット内に配置させ、爪部形成冶具を径方向に押し進めて、ポケット壁面ガイド部から後退した位置に設けられる大幅部により爪部を形成する。したがって、爪部を形成する際には、ポケットの周方向両側の壁面に沿って案内されるポケット壁面ガイド部により、爪部形成冶具の周方向の位置決めを行うことができる。そうすると、位置決めが行われた爪部形成冶具を径方向に押し進めて、爪部を形成する際に、形成される爪部の突出量を等しくさせることができる。すなわち、周方向長さが等しいポケットを基準にするため、爪部を形成する体積が等しくなる。その結果、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部を容易に形成することができる。
以下、図面を参照して、この発明の一実施形態に係る保持器について説明する。図1は、この発明の一実施形態に係る保持器11を回転軸線に沿って切断した場合の回転軸線を含む断面の一部を内径側から見た図である。図2は、図1中のIIで囲んだ領域を拡大した図である。図3は、図1中のIII−IIIで切断した場合の断面の一部を軸方向に見た図である。図4は、図1中のIV−IVで切断した場合の断面の一部を軸方向に見た図である。
図1〜図4を参照して、保持器11は、軸方向両端部に位置する一対の環状部12a,12bと、一対の環状部12a,12bを連結し、軸方向に延びる複数の柱部13とを備える。
柱部13は、軸方向に延びる形状である。そして、長手方向一方側端部で一方側の環状部12aと連結し、長手方向他方側端部で他方側の環状部12bと連結する。すなわち、環状部12a,12bは、柱部13を周方向に連結する。柱部13は、相対的に内径側に位置し、軸方向中央部に位置する柱中央部18、柱中央部18の軸方向両端部から傾斜して延びる一対の柱傾斜部17a,17b、および相対的に外径側に位置し、一対の柱傾斜部17a,17bの軸方向端部から軸方向に延びる一対の延出部16a,16bを備える。すなわち、保持器11は、回転軸線に沿った断面が略V字状のいわゆるV型保持器である。また、隣接する柱部13の間には、ころ15を収容するポケット14が設けられている。
ポケット14は、周方向に間隔を空けて複数設けられている。ポケット14は、柱部13の周方向壁面14aと一対の環状部12a,12bの軸方向壁面14b,14cとから構成される。すなわち、柱部13の周方向壁面14aは、ポケット14の周方向壁面14aとなる。そして、柱部13は、複数のポケット14を形成するように、周方向に間隔を空けて複数設けられている。ポケット14の周方向壁面14aには、ころ15の径方向の脱落を防止する第一の爪部19a,19bと第二の爪部20a,20bとが設けられている。
第一の爪部19a,19bは、ポケット14の周方向壁面14aからポケット14側に突出した形状である。第一の爪部19a,19bは、一対の延出部16a,16bにそれぞれ設けられており、外径側に位置する。これにより、ころ15の外径側への脱落を防止する。
第二の爪部20a,20bは、ポケット14の周方向壁面14aから周方向に突出した形状である。第二の爪部20a,20bは、柱中央部18の軸方向両端にそれぞれ設けられており、内径側に位置する。これにより、ころ15の内径側への脱落を防止する。
第一および第二の爪部19a,19b,20a,20bは、ころ15の転動を阻害することなく、ころ15が抜け出ようとしても、引っ掛かることが可能な程度に突出した形状である。
ここで、上記した保持器11の製造方法について説明する。図5は、保持器11の主な製造工程を示すフローチャートである。
まず、部材準備工程として、回転軸線を含む断面が略V字状となる円筒形状の保持器部材を準備する(S11)。図6は、保持器部材23を示す図であって、回転軸線に沿って切断した場合の回転軸線を含む断面の一部を内径側から見た図である。
次に、ポケット形成工程として、保持器部材23に対して、例えば打ち抜き加工を施すことにより、保持器部材23の所定の箇所を開口するようにして、複数のポケットを形成する(S12)。図7は、図6に示す保持器部材23にポケット52を形成した場合の保持器部材24を示す図である。これにより、保持器部材24には、一対の環状部50a,50bと一対の環状部50a,50bを連結する複数の柱部51とが形成される。ポケット52は、周方向に間隔を空けて複数形成される。ポケット52は、柱部51の周方向壁面52aと一対の環状部50a,50bの軸方向壁面52b,52cとから構成される。すなわち、柱部51の周方向壁面52aは、ポケット52の周方向壁面52aとなる。そして、柱部51は、複数のポケット52を形成するように、周方向に間隔を空けて複数設けられている。柱部51は、相対的に内径側に位置し、軸方向中央部に位置する柱中央部54、柱中央部54の軸方向両端部から傾斜して延びる一対の柱傾斜部55a,55b、および相対的に外径側に位置し、一対の柱傾斜部55a,55bの軸方向端部から軸方向に真っ直ぐに延びる一対の延出部53a,53bを備える。
次に、冶具準備工程として、爪部を形成するための冶具を準備する(S13)。具体的には、冶具として、保持器製造装置75を準備する。
ここで、保持器製造装置75について説明する。図8は、保持器製造装置75を径方向に見た図である。図9は、図8中の矢印IXの方向、すなわち、保持器製造装置75を軸方向に見た図である。なお、図9中の保持器部材24においては、図8中の矢印A−Aで切断した場合の断面を示しており、ポケットおよび柱部においては、一部のみを示している。図8および図9を参照して、保持器製造装置75は、保持器製造装置75を構成する各冶具の動きを制御する制御部(図示せず)と、一対の固定金型25a,25bと、柱部移動規制冶具30と、爪部形成冶具45とを備える。
一対の固定金型25a,25bは、保持器部材24を挟んで、軸方向一方側および軸方向他方側に配置される。そして、保持器部材24に近づく方向および離れる方向に移動可能である。一対の固定金型25a,25bは、環状であって、外周面56の一部において径方向に凹む凹部60a,60bが設けられている。凹部60a,60bは、軸方向端部で互いに対向するように設けられている。一対の固定金型25a,25bは、保持器部材24の延出部53a,53bに沿う形状の大径側固定端部26a,27aと、柱傾斜部55a,55bに沿う形状の傾斜固定部26b,27bと、柱中央部54に沿う形状の小径側固定端部26c,27cとを備える。一対の固定金型25a,25bは、保持器部材24に近づく方向に移動すると、保持器部材24の内周面24aと一対の固定金型25a,25bの外周面56とが当接する。これにより、一対の固定金型25a,25bは、保持器部材24を固定する。
柱部移動規制冶具30は、保持器部材24の外径側に配置される。そして、保持器部材24に近づく方向および離れる方向に移動可能である。柱部移動規制冶具30は、ベース部22と、第一および第二の突出部28a,28bとを備える。
第一および第二の突出部28a,28bは、周方向に所定の間隔L5を空けてそれぞれ配置される。所定の間隔L5は、ポケット52の周方向両側の壁面を構成する2つの柱部51a,51bを含む長さL6である。突出部28a,28bは、ベース部22から保持器部材24に向かって径方向に突出している。突出部28a,28bは、柱中央部54に対向するように配置される。突出部28a,28bの先端29a,29bは、内方側に位置する内方側面32a,32bと外方側に位置する外方側面33a,33bによって構成される。突出部28a,28bは、先端29a,29bに向かって幅が細くなる形状である。すなわち、内方側面32a,32bと外方側面33a,33bとで成す角が、鋭角になるような形状である。突出部28a,28bは、保持器部材24に近づく方向に移動すると、先端29a,29bが、爪部を形成するポケット52の周方向両隣に位置するポケット61a,61b内に配置される。
ベース部22は、ブロック状であって、第一および第二の突出部28a,28bの間に、突出方向に貫通する貫通孔31が設けられている。この貫通孔31には、爪部形成冶具45を収容可能である。
爪部形成冶具45は、内径側爪部形成冶具35と、外径側爪部形成冶具40とを含む。内径側爪部形成冶具35は、保持器部材24の外径側に配置される。そして、保持器部材24に近づく方向および離れる方向に移動可能である。内径側爪部形成冶具35の軸方向長さは、柱中央部54と同じである。内径側爪部形成冶具35は、柱中央部54に対向するように配置される。内径側爪部形成冶具35は、棒状であって、その先端に設けられるポケット壁面ガイド部58と、ポケット壁面ガイド部58から後退した位置に設けられる大幅部59とを備える。ポケット壁面ガイド部58および大幅部59は、内径側爪部形成冶具35の軸方向両端部に設けられている。
ポケット壁面ガイド部58は、周方向幅L2が、ポケット52の周方向幅L1に沿う大きさである。ポケット壁面ガイド部58がポケット52内に配置されると、微小なすき間ができることとなる。大幅部59は、ポケット壁面ガイド部58側に位置する角部57において、軸方向から見た場合、面取りされている。また、大幅部59は、周方向幅L3が、ポケット52の周方向幅L1より大きく構成される。すなわち、大幅部59は、ポケット壁面ガイド部58の周方向幅L2より大きく構成される。具体的には、大幅部59の周方向の中心l1は、ポケット壁面ガイド部58の周方向の中心と一致し、大幅部59において、周方向の中心から周方向一方端までの長さL7と、周方向の中心から周方向他方端までの長さL8とが等しくなるように構成される。すなわち、内径側爪部形成冶具35は、軸方向から見た場合、周方向の中心l1を中心として図9に示すように左右対称となる。また、周方向一方側において、ポケット壁面ガイド部58と大幅部59との長さの差は、柱部の周方向長さより小さい。
内径側爪部形成冶具35は、保持器部材24に近づく方向に移動すると、ポケット壁面ガイド部58がポケット52の周方向両側の壁面63a,63bに沿って案内される。そして、ポケット壁面ガイド部58がポケット52内に配置される。さらに保持器部材24に近づく方向に移動すると、大幅部59がポケット52の周方向両側の壁面63a,63bの一部を塑性変形する。
外径側爪部形成冶具40は、保持器部材24の外径側に配置される。そして、保持器部材24に近づく方向および離れる方向に移動可能である。外径側爪部形成冶具40の軸方向幅は、保持器部材24と同じである。外径側爪部形成冶具40の軸方向中央部には、径方向に貫通する貫通孔42が設けられている。この貫通孔42には、内径側爪部形成冶具35の大幅部59を収容可能である。外径側爪部形成冶具40は、保持器部材24に対向する面40aにおいて、面40aから保持器部材24に向かって突出する一対の加締め部41a,41bと、一対の加締め部41a,41bから後退した位置に設けられる貫通孔壁面ガイド部43とを備える。
一対の加締め部41a,41bは、ポケット52の周方向幅L1より大きい間隔L4をあけて設けられている。また、一対の加締め部41a,41bは、周方向の中心l2を中心として、左右対称となるように設けられている。
外径側爪部形成冶具40は、保持器部材24に近づく方向に移動すると、貫通孔壁面ガイド部43が柱部移動規制冶具30の貫通孔31の周方向壁面に沿って案内される。さらに保持器部材24に近づく方向に移動すると、一対の加締め部41a,41bがポケット52の周方向両側の壁面63a,63bの一部を塑性変形する。
次に、柱部移動規制工程として、爪部を形成するポケット52の周方向両側の壁面63a,63bを構成する2つの柱部51a,51bの周方向の動きを規制する(S14)。
具体的には、まず、一対の固定金型25a,25bを保持器部材24に近づく方向に移動させることにより、保持器部材24を固定する。図10は、一対の固定金型25a,25bにより、保持器部材24を固定させた状態を示す断面図である。図10を参照して、保持器部材24の内周面24aと一対の固定金型25a,25bの外周面56とが当接した状態となっている。
次に、柱部移動規制冶具30を用いることにより、ポケット52の周方向両側の壁面63a,63bを構成する2つの柱部51a,51bの周方向の動きを規制する。図11は、柱部移動規制冶具30を用いて、ポケット52の周方向両側の壁面63a,63bを構成する2つの柱部51a,51bの周方向の動きを規制する場合の詳細について示す図である。図11中の保持器部材24は、図10中のXI−XIで切断した場合の断面の一部を示している。図11を参照して、柱部移動規制冶具30は、保持器部材24に近づく方向に移動する。そうすると、図12に示すように、第一および第二の突出部28a,28bが、爪部を形成するポケット52の両隣のポケット61a,61b内に配置される。具体的には、ポケット52の周方向一方側の隣りに位置するポケット61aに第一の突出部28aの先端29aが挿入され、ポケット52の周方向他方側の隣りに位置するポケット61bに第二の突出部28bの先端29bが挿入される。これにより、柱部移動規制冶具30は、突出部28aの内方側面32aが、柱部51aのポケット52側と異なる周方向壁面62aと当接して、柱部51aの柱中央部54を固定する。また、突出部28bの内方側面32bが、柱部51bのポケット52側と異なる周方向壁面62bと当接して、柱部51bの柱中央部54を固定する。これにより、柱部移動規制冶具30は、柱部51a,51bの周方向の動きを規制する。なお、図12は、第一および第二の突出部28a,28bが、ポケット61a,61b内に配置された場合を拡大した図である。
次に、配置工程として、ポケット52に内径側爪部形成冶具35のポケット壁面ガイド部58を配置する(S15)。図13は、ポケット52に内径側爪部形成冶具35のポケット壁面ガイド部58を配置する場合の詳細について示す図である。図13を参照して、内径側爪部形成冶具35は、柱部移動規制冶具30の貫通孔31を通って、保持器部材24に近づく方向に押し進められる。そうすると、図14に示すように、ポケット壁面ガイド部58はポケット52内に配置される。なお、図14は、ポケット壁面ガイド部58がポケット52に配置された場合を拡大した図である。
さらに、内径側爪部形成冶具35が、保持器部材24に近づく方向に押し進められると、図15に示すように、面取り形状の角部57が、ポケット52の周方向壁面63a,63bと当接する。なお、図15は、角部57が、ポケット52の周方向壁面63a,63bと当接した場合を示す図である。
そして、爪部形成工程として、内径側爪部形成冶具35を径方向に押し進めて、ポケット52の周方向壁面63a,63bの一部を塑性変形させ、爪部を形成する(S16)。図16は、ポケット52の周方向壁面63a,63bの一部を塑性変形させる場合の詳細を示す図である。図16を参照して、ポケット壁面ガイド部58がポケット52内に配置された状態から、内径側爪部形成冶具35をさらに径方向に押し進める。そうすると、大幅部59は、ポケット壁面ガイド部58とポケット52との微小なすき間を埋めるようにして、ポケット52の周方向壁面63a,63bの外径側の部分を内径側に押し出し、ポケット52の周方向壁面63a,63bのうちの内径側において、ポケット52の周方向壁面63a,63bからポケット52側に突出させる。これにより、内径側に位置する第二の爪部20a,20bが形成される。
このようにして、保持器11を製造する。すなわち、保持器11の製造方法は、ポケット62の周方向両側の壁面63a,63bに沿って案内されるポケット壁面ガイド部58をポケット52内に配置させ、爪部形成冶具45を径方向に押し進めて、ポケット壁面ガイド部58から後退した位置に設けられる大幅部59により爪部20a,20bを形成する。したがって、爪部20a,20bを形成する際には、ポケット52の周方向両側の壁面63a,63bに沿って案内されるポケット壁面ガイド部58により、爪部形成冶具45の周方向の位置決めを行うことができる。そうすると、位置決めが行われた爪部形成冶具45を径方向に押し進めて、爪部20a,20bを形成する際に、形成される爪部20a,20bの突出量を等しくさせることができる。すなわち、周方向長さが等しいポケット52を基準として、爪部20a,20bを形成することができる。その結果、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部20a,20bを形成することができる。
また、このような保持器11は、ポケット62の周方向両側の壁面63a,63bに沿って案内されるポケット壁面ガイド部58をポケット52内に配置させ、爪部形成冶具45を径方向に押し進めて、ポケット壁面ガイド部58から後退した位置に設けられる大幅部59により爪部20a,20bを形成する。したがって、爪部20a,20bを形成する際には、ポケット52の周方向両側の壁面63a,63bに沿って案内されるポケット壁面ガイド部58により、爪部形成冶具45の周方向の位置決めを行うことができる。そうすると、位置決めが行われた爪部形成冶具45を径方向に押し進めて、爪部20a,20bを形成する際に、形成される爪部20a,20bの突出量を等しくさせることができる。すなわち、周方向長さが等しいポケット52を基準として、爪部20a,20bを形成することができる。その結果、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部20a,20bを形成することができる。
また、このような保持器製造装置75は、ポケット62の周方向両側の壁面63a,63bに沿って案内されるポケット壁面ガイド部58をポケット52内に配置させ、爪部形成冶具45を径方向に押し進めて、ポケット壁面ガイド部58から後退した位置に設けられる大幅部59により爪部20a,20bを形成する。したがって、爪部20a,20bを形成する際には、ポケット52の周方向両側の壁面63a,63bに沿って案内されるポケット壁面ガイド部58により、爪部形成冶具45の周方向の位置決めを行うことができる。そうすると、位置決めが行われた爪部形成冶具45を径方向に押し進めて、爪部20a,20bを形成する際に、形成される爪部20a,20bの突出量を等しくさせることができる。すなわち、周方向長さが等しいポケット52を基準として、爪部20a,20bを形成することができる。その結果、周方向の突出量がそれぞれ等しい爪部20a,20bを形成することができる。
また、この場合、柱部移動規制冶具30により柱部51a,51bの周方向の動きを規制すると共に、貫通孔31によって、爪部形成冶具45の周方向の位置決めを容易に行うことができる。
また、この場合、突出部28a,28bが、先端に向かって幅が細くなる形状であるため、突出部28a,28bを容易にポケット61a,61b内に配置することができる。
また、この場合、大幅部59の角部57が、面取りされているため、ポケット52内にポケット壁面ガイド部58を配置した際に、例えば、周方向一方側に偏って配置された場合であっても、爪部形成冶具45を径方向に押し進める際に、ポケット壁面ガイド部58の周方向の中心がポケット52の周方向の中心に位置するよう、軌道修正させることができる。
また、外径側に位置する第一の爪部19a,19bを形成する際には、外径側爪部形成冶具40を用いる。図17は、第一の爪部19a,19bを形成する場合において、ポケット52の周方向壁面63a,63bの一部を塑性変形させる場合の詳細を示す図である。図17中の保持器部材24は、図10中のXVII−XVIIで切断した場合の断面の一部を示している。図17を参照して、外径側爪部形成冶具40は、保持器部材24に近づく方向に押し進められる。このとき、柱部移動規制冶具30は、貫通孔31の周方向壁面に沿って、外径側爪部形成冶具40の貫通孔壁面ガイド部43を案内させる。また、内径側爪部形成冶具35のポケット壁面ガイド部58は、図14〜図16に示すようにポケット52内に配置された状態である。したがって、内径側爪部形成冶具35は、大幅部59に沿って、外径側爪部形成冶具40の貫通孔42の周方向壁面を案内させる。このようにして、外径側爪部形成冶具40は、保持器部材24に近づく方向に押し進められる。そうすると、図18に示すように、一対の加締め部41a、41bが、ポケット52の周方向壁面63a,63bの外径側の部分を加締めて、ポケット52の周方向壁面63a,63bのうちの外径側において、ポケット52の周方向壁面63a,63bからポケット側に突出させる。これにより、外径側に位置する第一の爪部19a,19bが形成される。なお、図18は、一対の加締め部41a、41bが、柱部51a,51bの外径側の部分を加締めた場合を拡大した図である。
なお、上記の実施の形態においては、爪部形成冶具45は、内径側爪部形成冶具35および外径側爪部形成冶具40を含み、第二の爪部20a,20bを内径側爪部形成冶具35を用いて形成し、第一の爪部19a,19bを外径側爪部形成冶具40を用いて形成する例について説明したが、これに限ることなく、例えば爪部形成冶具を、内径側爪部形成冶具35および外径側爪部形成冶具40を組み合わせたような冶具とし、第一および第二の爪部19a,19b,20a,20bを一度の径方向の押し進めにより、一工程で形成してもよい。こうすることにより、工数を増やすことなく、第一および第二の爪部19a,19b,20a,20bをまとめて形成することができる。内径側爪部形成冶具35および外径側爪部形成冶具40を組み合わせたような冶具とは、外径側爪部形成冶具40の貫通孔42に、内径側爪部形成冶具35が配置されたような冶具である。
また、第二の爪部20a,20bのみが必要となる保持器には、内径側爪部形成冶具35のみを用いてもよい。また、第一の爪部19a,19bのみが必要となる保持器には、外径側爪部形成冶具40のみを用いてもよい。この場合、例えば、内径側爪部形成冶具35を内径側から押し進める等によって、外径側に位置する第一の爪部19a,19bを形成することにより、爪部形成冶具45は、外径側爪部形成冶具40を含まない構成としてもよい。
また、上記の実施の形態においては、一対の突出部28a,28bは、柱中央部54に対向して配置される例について説明したが、これに限ることなく、延出部53a,53bに対向して配置されることにより、延出部53a,53bを固定してもよい。
また、上記の実施の形態においては、保持器製造装置75は、一対の固定金型25a,25bを含む例について説明したが、これに限ることなく、保持器部材24を固定できるような状態であれば、特に含まなくてもよい。
また、上記の実施の形態においては、柱部移動規制冶具30は、ベース部22を含む例について説明したが、これに限ることなく、ベース部22を含まない構成とし、第一および第二の突出部28a,28bのみであってもよい。
また、上記の実施の形態においては、大幅部59において、ポケット壁面ガイド部58側に位置する角部57は、面取りされている例について説明したが、これに限ることなく、例えば円弧状に面取りされていてもよいし、面取りされていなくてもよい。
また、上記の実施の形態においては、柱部移動規制冶具30は、ポケット52の周方向両側の壁面63a,63bを構成する2つの柱部51a,51bの周方向の動きを規制し、大幅部59は、周方向の中心l1を中心として左右対称となる例について説明したが、これに限ることなく、例えば周方向一方側のみ爪部を形成する場合には、柱部移動規制冶具は、1つの柱部の周方向の動きを規定し、大幅部は、周方向一方側において、ポケットの周方向幅より大きく構成されてもよい。
また、上記の実施の形態においては、柱部移動規制工程の後に、配置工程を行う例について説明したが、これに限ることなく、先に配置工程を行い、その後柱部移動規制工程を行ってもよい。
また、上記の実施の形態においては、S11において、円筒形状の保持器部材を準備する工程を別途含む例について説明したが、これに限ることなく、S12のポケット形成工程に含めてもよい。また、S13においても同様に、保持器製造装置75を準備する工程を別途含む例について説明したが、これに限ることなく、既に準備できている場合には、省略してもよい。
また、上記の実施の形態においては、V型保持器を製造する際の例について説明したが、これに限ることなく、柱部が軸方向に真っ直ぐに延びる形状の保持器に適用することもでき、また、いわゆるM型保持器に適用することもできる。図19は、この発明の他の実施形態に係る保持器70の一例を示す図である。図19を参照して、保持器70は、いわゆるM型保持器であって、一対の環状部から内径側に延びる鍔部71が設けられている。なお、他の構成要素については、上記した保持器11と同じである。
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。