JP5364262B2 - センチネルリンパ節生検用開創器具 - Google Patents
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そこで、現在では、転移の可能性が低いと予想される症例については、転移診断に必要な最小限(数個)のリンパ節のみを採取(生検)し、詳細に診断することにより転移陰性を確定させ、結果としてリンパ節郭清を省略し、患者の負担を減らそうとする考えが広がっている。
そして、この見極めのための手段がセンチネルリンパ節生検で、前記の通り、最小限(数個)のリンパ節を確実に見極めて採取(生検)し、これを詳細に診断することでリンパ節への転移の有無を確認し、リンパ節郭清を省略するか否かを判断する手法である。
センチネルリンパ節生検とは、乳癌手術のさいに、腋窩のリンパ節の中で最初に癌が転移するであろうリンパ節(センチネルリンパ節)を検出し、これを生検、診断することで、ここに転移がなければ、残りの腋窩リンパ節や鎖骨下リンパ節にも転移がないと判断する手法で、腋窩リンパ節への正確な転移判定と、リンパ節郭清の省略を判断する見極めの手技となっている。
そして、このセンチネルリンパ節を見つけ出す検出方法として、現在、色素法、RI(ラジオアイソトープ)法、及び、色素法とRI法を併用する併用法の3つの手法が主に用いられている。以下、それぞれを簡単に説明する。
色素法は、手術直前に腫瘍周辺に色素(インドシアニングリーン、インジゴカルミン、パテントブルー、リンファズリンなど)を注入し、該色素で緑染、青染されたリンパ管を追跡し、リンパ節を探索する方法で、色素が運ばれていく染まったリンパ管を、組織を剥離しながら辿っていくことにより、色素が最初に流入するセンチネルリンパ節を目視により見つけ出す方法である。
RI法は、手術前にラジオアイソトープ(放射性同位元素)を含む細かな粒子を腫瘍周辺に注入し、放射線のエネルギー集積を、放射線の強さを画像に表すシンチグラフィーや、放射線の強さを音と数値で表すガンマープローブといった検知機器を使用して調べ、該エネルギーが集積するセンチネルリンパ節を見つけ出していくという方法であり、色素法に比較してより安定、確実な検索手法とされている。
併用法は、前記色素とRIを併用したもので、RI検知機器によるナビゲーションと、目視による色素の確認により、一層確実なセンチネルリンパ節探索手法となっており、最近の検出率の報告は98%以上となっている。
特に、皮下脂肪が厚い症例などセンチネルリンパ節が組織の深部に位置する場合では、探索が一層困難となっている。
そして、従来このような場合には、助手が一般的に使用されている筋鈎等により、切開創を広げたり、深部組織を引っ張り上げたりして、深部組織が観察可能な位置に表れるように展開するのであるが、現状としては前記筋鈎等で直感的に組織を動かすのみで、特に、この目的のための器具は開示、または、報告されておらず、手技の精度は、術者の努力と技量と経験に依存している状況にある。
また、器具を使用しても患者への負担を大きくしない、侵襲性の小さい安全な器具の提供を課題とした。
1.透明あるいは半透明であること。
2.厚さが、0.1mm以上、0.6mm以下であること。
前記構成の器具を、上リングを体表に接触させ、下リングをセンチネルリンパ節生検のために皮切された切開創に挿着すると、弾性を有する下リングにより、切開創の閉じようとする力に抗して切開部の組織が均等に拡開され、良好な術野を得ることができると共に、該挿着された下リングに接触する切開部の浅部組織が外方に押し開かれ、同時に、柔軟な弾性シートが、該シートに接触する切開部の閉じようとする力により押し縮められることにより、上リングと下リングとの間隔が縮まり、切開部の深部組織が体表側に牽引、挙上され、かつ均等に広く展開された緊張状態となり、更に、該深部組織の挙上により、センチネルリンパ節を含む更に深部の周辺組織も体表側に挙上され、緊張状態となる。(図3参照)
また、この作用は、前記下リングを切開創に挿着するさい、弾性シートの大きな引張り伸び率を利用して、該下リングを切開創の極力深い位置に押込んで設置すると、上リングと下リングとの間の弾性シートが伸長した状態となり、該弾性シートの弾性反発力(伸長した状態から元に戻ろうとする力)により、前記深部組織が一層強く体表側に牽引、挙上されることで、より高い前記作用が発揮される。
尚、本明細書等で用いる切開部の浅部組織とは、切開した創部の体表側に近い浅い部位の組織を示し、切開部の深部組織とは、切開創部の体表側から遠い深い部位の組織のことを相対的に表現したもので、絶対的な深部、浅部を示すものではない。
また、下リングが弾性及び可撓性を備えていることで、切開創に押しつぶしての挿入が可能であり、また、挿着後は元の形状に復元され拡開することにより、挿着する下リングの大きさに比較して切開創(皮切)を小さく抑えることができる。
更に、該弾性シートの引張り伸び率が600%以上と極めて大きいことで、下リングを切開創に挿着するさい、切開創の極力深部に弾性シートを伸長した状態で押込むと、該弾性シートの大きな弾性反発力により、下リングが体表側に牽引、挙上されることにより、切開創直下に位置するセンチネルリンパ節を含む周辺組織も牽引、挙上され、一層、上記効果を向上させることができる。また、端部を大きく拡張させての製造が可能で、伸ばされることにより一層シートの透明性を高めることができる。
加えて、該弾性シートの厚さを0.1mm以上、0.6mm以下と薄く形成し、柔軟なものとすると、人体接触部に負担がかからないため、当接部の皮膚の壊死などの合併症を防止することができる。
また、切開創深部組織の更に下部に位置するリンパ管やセンチネルリンパ節を含む周辺組織も該切開創深部組織と共に牽引、挙上され、かつ、緊張状態となることで、センチネルリンパ節などの解剖的位置関係が把握しやすくなり、また、筋層を透しての視認が容易となるため、リンパ管の流れの追跡や、センチネルリンパ節の探索、更には、組織採取(生検)など一連の手技を容易とすることができる。
また、前述の器具の安全性に関する効果に加え、従来の筋鈎を使用して切開創を開創したり、組織を引っ張り上げたりすることで生じる、組織への悪影響も排除できることにより、器具の使用による侵襲性の増加や安全性の低下のない、患者にとって低侵襲で安全な器具を提供することができる。
更に、本器具の使用することで小さな切開創でも、大きく拡開することができる作用により、約20mm〜25mm程度の皮膚切開創で目的のセンチネルリンパ節生検が達成でき、一層低侵襲な手術を可能としている。
・手術が観察し易い状態で施行されるため、センチネルリンパ節生検の手技への教育的価値が高い。
・センチネルリンパ節転移陽性のさい、本器具をそのまま使用しての腋窩リンパ節郭清が可能となる。
・筋鈎などの使用と比較して、均一な拡開、展開状態を維持することができる。
尚、本発明の作用、効果は、前述した色素法、RI法、併用法のいずれにも有効となるが、本器具は、小切開創への挿着が望ましいことから、予め、センチネルリンパ節の2次元的な位置が特定できるRI法、及び併用法への適用が好ましい使用となる。
図1は、本発明の実施の形態を示すセンチネルリンパ節生検用切開創装着器具の全体構成図で、図2は、上リング部を中心とする一部断面図を示している。
本実施の形態の器具は、例えば腋窩に施した切開創に挿着したさいに、切開創周囲の表皮を覆う上リング1と、該上リング1と対向配置され、皮切5より挿入され表皮下の切開創浅部組織を外方に押し開いて装着される下リング2と、両端部を前記上リング1と下リング2に取り付け、切開創に装着したさい、表皮側から組織内に位置する弾性シート3により構成される。
そして、その外径は特定するものではないが、体表への確実な装着のため弾性シート3よりも大きく形成され、更に、腋窩へ装着した場合に乳頭、皮弁を広範囲に保護できるように、手術に邪魔にならない範囲でなるべく大きく(本例においては、100mm)形成することが望ましい。
尚、上リングは、器具を体表に確実に保持できるものであれば、本例に限らず、形状、構造はどのようなものであっても良い。
また、外層を柔軟な樹脂で覆っているため、切開創との接触をソフトなものにすることができる。
そして、その外径は、皮切の大きさにより選択されるものであるが、切開創に確実に保持され、十分な作業腔の確保ができる接触組織に無理のない大きさとされる。(実施例においては、皮切25mmの場合で、40mmとした)
尚、弾性シート3を形成する円筒状のシートは、拡張することにより薄くなり透明性が高まることから、拡張したさいに透明性が確保可能であれば、自然状態(拡張前の状態)では、透明、あるいは半透明である必要はない。
図Aに示すように、表皮4に皮切5を施した状態では、センチネルリンパ節7は表皮4から遠い深部に位置している。(L1は、この時の表皮と、センチネルリンパ節の距離を示す)
この状態から、本器具を皮切5より切開創6内部に挿入、装着すると、図Bに示すように、下リング2の弾性により該下リング2に当接する切開部6の組織が外方(矢印a)に均等に押し広げられ、一方弾性シート3は、伸長されたさいの弾性反発力と、接触する皮下直下の組織に押し縮められることにより縮小し、上リング1と下リング2の間隔が縮まり、切開創が拡開保持されるのと同時に、該拡開に伴って切開創6深部組織が体表側に牽引、挙上され、かつ水平方向に広く展開された緊張状態となる。また同時に、切開創下部のリンパ管やセンチネルリンパ節7を含む周辺組織も引っ張れて牽引、挙上(矢印b)され、下リング2により外方向に均等に引っ張られるため、センチネルリンパ節7やリンパ管を含めた切開創下部の組織も、緊張が加えられた状態となる。(L2は、この時の表皮とセンチネルリンパ節の距離を示す)
このように、切開創6深部組織が表皮から比較的浅い位置に展開され、かつ、緊張した状態に保持されることにより、前記したように術野が明瞭となり、剥離による皮弁の作製などの手術が容易となり、また、切開創下部の組織も同様に挙上、緊張状態となることでリンパ管やセンチネルリンパ節の探索、組織採取を安全で、容易なものとすることができる。
1.手術前に、腫瘍周囲の皮内にラジオアイソトープを注入し、リンパ節シンチグラフィー(体内に投与した放射性同位体から放出される放射線を検出し、その分布を画像化するもの。)を行い、センチネルリンパ節が描出された位置にマーキングを施す。
2.手術室入室後、色素法によるセンチネルリンパ節生検のため、乳輪下に色素を注入し、色素がセンチネルリンパ節に到達するのを待つ。
3.次に、ガンマープローブでRIを指標として皮膚の上からセンチネルリンパ節を検索し、最高値を示した皮膚の直上をセンチネルリンパ節生検のための皮膚切開線とし、25mmの皮切を加え、センチネルリンパ節近傍までRI及び色素を指標として剥離によりアプローチする。
4.ここで、本発明のセンチネルリンパ節生検用開創器具を、皮切から下リングを指で押込むことにより、切開創の極力深い位置まで挿入すると、前術の作用、効果により、視野が皮下直下に展開される。(通常、この時点でセンチネルリンパ節が筋層を透かして確認可能となる)
5.ここで、センチネルリンパ節を含む深部組織を体表側に更に挙上させたいときは、上リング1を上方に引っ張ることにより、下リング2が追従し、更に組織が挙上される。
6.更に必要があれば、色素及びRIを指標としてリンパ管及びセンチネルリンパ節を、組織を剥離しながら検索、位置を把握する。
7.青染されたセンチネルリンパ節が見つかったら、鉗子でセンチネルリンパ節を把持、周囲組織とともに体外に誘導し、目視(青染)とガンマープローブで確認してセンチネルリンパ節群を摘出する。
8.更に、ガンマープローブにより高ラジオアイソトープ遺残の有無を確認する。
9.採取したセンチネルリンパ節を術中迅速病理診断にて診断し、癌の転移の有無を判断する。
11. 超弾性合金
12. 保護チューブ
2. 下リング
3. 弾性シート
31. シート端部
4. 表皮
5. 皮切
6. 切開創(内部)
7. センチネルリンパ節
Claims (3)
- 体表に接して位置する上リングと、該上リングと対向配置され、切開創に挿着される弾性及び可撓性を有する下リングと、前記上リング及び下リングに両端部を接続した引張り伸び率600%以上の柔軟な円筒状薄膜の弾性シートにより構成し、前記上リングは、外径を前記弾性シートの外径より大きく形成し、該弾性シートの一方端部を拡張して接続し、前記下リングは、外径を上リングより小さく、弾性シートの外径とほぼ同等に形成し、該弾性シートの他端部に接続して、前記下リングを切開創に挿着したさい、該下リングにより切開創が拡開され、かつ、切開創部の深部組織が体表側に牽引、挙上された状態に保持されることを特徴とするセンチネルリンパ節生検用開創器具。
- 前記弾性シートは、透明あるいは半透明である請求項1のセンチネルリンパ節生検用切開創器具。
- 前記弾性シートの厚さは、0.1mm以上、0.6mm以下である請求項1乃至2のいずれかのセンチネルリンパ節生検用開創器具。
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