JP5363481B2 - 早産の危険性を評価するためのバイオマーカーの同定および定量化 - Google Patents

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Description

関連出願の相互参照
本出願は、2007年7月20日出願の米国仮特許出願第60/961,466号ならびに、2008年5月1日出願の米国仮特許出願第61/049,676号の優先権の利益を主張するものである。これらの出願に記載の教示内容全体について、その全文を本明細書に援用する。
謝辞
本発明につながった研究では、一部にNational Institutes of Health,Grant Nos.R21HD047319およびU01HD050080による資金援助を受けた。本発明は米国政府が一定の権利を有し得るものである。
全体の10%を超える妊婦に、早期分娩が影響をおよぼしている。また、早期分娩は新生児関連の疾患や死亡の主な原因のひとつでもある。満期産の赤ん坊と比べると、未熟児で生まれた乳児では新生児死亡率が40倍高く、脳性麻痺、慢性呼吸器疾患、盲目、難聴などの主要な医学的合併症の危険性が大幅に増すこともある。さらに、出生児体重が1.5ポンド(約680グラム)未満の場合は70%もの子どもに、長期にわたる神経障害や発達障害が確認されている。これらの合併症は、米国内だけでも年間数十億ドルの直接経費ならびに、いまだ実現されていない潜在性に関連していると推定されている。
問題が深刻であるにもかかわらず、早期陣痛や分娩を生じる体内で何が起こっているのかについては、いまだはっきりしない要素がある。早産(PTB)の原因に関する不確定要素があるがゆえに、こうした問題の効果的な治療のためにできることも限られているが、事前に適切な危険信号が得られれば、医療の専門家らが医療処置をほどこせることもある。どの妊婦が早産になりそうかを予測可能であれば、未熟分娩を遅らせる、あるいは防止できる薬剤を投与すればよいことがある。さらに、早産の危険性が早い段階で検出された場合に、母親を経由して胎児に投与すると、胎児肺成熟度を高めて早産に関連した主な合併症のひとつを減らせるホルモン誘導体が知られている。しかしながら、現時点では、どの妊婦にこうした妊娠合併症の発症の危険性があるかを知る方法はないように見受けられる。したがって、いまだ満たされていない重要な需要のひとつに、早産の危険性がある母親を早期に検出するための試験手順を策定することがある。
本明細書にて説明するのは、懐妊被験者において早産の危険性を評価するための方法である。この方法は、被験者から得た生物学的試料で早産関連の1種類以上のバイオマーカーを検出および定量化することを含む。早産を予測するのに有用なバイオマーカーについても詳細に説明する。本発明の利点の一部を以下の文中にて説明し、一部は文中から自明であろうし、あるいは後述する態様を実施することで習得できるものもある。後述する利点は、特に添付の特許請求の範囲に記載の要素と組み合わせによって実現および到達される。上記の概要および下記の詳細な説明はいずれも例示や説明目的のものにすぎず、限定的なものではない旨を理解されたい。
本化合物、組成物および/または方法について開示と説明をする前に、後述の態様は特定の化合物に限定されるものではなく、もちろん合成方法や使用法そのものも変わることがある旨を理解されたい。また、本明細書で用いる専門用語は特定の態様のみを説明する目的のものであり、限定を意図したものではない旨も理解されたい。
本明細書と、これに続く特許請求の範囲では、以下の意味を持つものとして定義するものとする多数の用語に言及する。
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」「an」および「the」は、その指示対象の複数形を含む(文脈から、そうでないことが明白な場合を除く)ことに注意されたい。よって、たとえば、「バイオマーカー」といえば、2種類以上のこのようなバイオマーカーの混合物を含むといった具合である。
「任意」または「任意に」とは、それに続けて説明する事象または状況が起こり得るまたは起こり得ないことを意味し、なおかつ、該当する事象または状況が発生する場合と、それが発生しない場合とを説明に含むことを意味する。
本明細書で使用する場合、「被験者」とは、早産の危険性があり、本明細書に記載の方法から恩恵を受ける妊婦を示す。
本明細書で使用する場合、「早産」とは、妊娠期間満期前に赤ん坊を分娩することを含む。たとえば、妊娠期間37週未満での赤ん坊の分娩は、早産であるとみなされる。早産という用語は、早期分娩および未熟分娩と同義語である。
本明細書で使用する場合、「バイオマーカー」という用語は、早産の危険性を予測する際に有用なさまざまな濃度で妊婦に存在する、天然に生じる生体分子を示すのに使用されることがある。たとえば、バイオマーカーは、早産の危険性のある被験者に、早産ではなかった被験者の同じバイオマーカーの量よりも多いまたは少ない量で存在するペプチドであってもよい。バイオマーカーは、生物学的アミンおよびステロイドなどであるがこれに限定されるものではない、小分子をはじめとするペプチド以外の他の分子を含み得る。
本明細書で使用する場合、「ペプチド」という用語は、あるアミノ酸のカルボキシル基と別のアミノ酸のαアミノ基とが結合された状態で2つ以上のアミノ酸を含む天然分子または合成分子を示すのに使用されることがある。このペプチドは長さで限定されるものではないため、「ペプチド」にはポリペプチドおよびタンパク質を含み得る。
本明細書で使用する場合、ペプチドに関しての「単離された」という表現は、ある物質が天然に生じるものである場合に、それを本来の環境から取り出したものを示す。たとえば、生きた動物での天然に生じるペプチドは単離されていないが、同じペプチドであっても、自然な系で共存するいくつかの物質またはすべての物質から分離した場合は、単離されたものである。このような単離されたペプチドは、組成物の一部であってもよく、その組成物が当該ペプチドの天然環境の一部ではないという意味で、依然として単離された状態にある。また、「単離された」ペプチドは、組換えDNA技術によって合成または作製された物質も含む。
本明細書で使用する場合(As used herein)、「特異的免疫反応性」という用語は、生物学的試料またはペプチドと他の生物製剤の異種起源の個体群におけるペプチドの存在を決定するような、ペプチドと抗体との結合などの測定可能および再現可能な特異的免疫反応を示す。「特異的免疫反応性」という用語は、構造的な形態や表面の特徴の特異的認識を含むこともある。よって、表記の条件下において、特定のペプチドに対して特異的免疫反応性の抗体は、試料中に存在する他のペプチドとは有意な量では結合しない。多岐にわたるイムノアッセイフォーマットを使用して、特定のペプチドに対して特異的免疫反応性の抗体を判断することが可能である。たとえば、ペプチドとの間で特異的免疫反応性のモノクローナル抗体の選択に、固相ELISAイムノアッセイが日常的に用いられている。特異的免疫反応性を判断するのに使用可能なイムノアッセイフォーマットおよび条件の説明については、たとえば、本明細書に援用するHarlow and Lane(1988)Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,New Yorkを参照のこと。
本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、特定の抗原に対して特異的免疫反応性の免疫グロブリンを示す。「抗体」という用語は、あらゆるアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgEなど)の全抗体ならびにそのフラグメントを含むことを意図したものである。本明細書で使用する(sued)場合、「抗体」には抗体調製物も含む。従来技術において周知の多岐にわたる技法を用いて、検出可能な標識で抗体を標識してもよい。標識には、ラジオアイソトープ、蛍光化合物、化学発光化合物、酵素または酵素補因子あるいは従来技術において周知の他の標識が可能である。いくつかの態様では、目的のペプチドと結合する抗体を標識しなくてもよく、その代わり、一次抗体と特異的に結合する標識された二次抗体の結合によって検出してもよい。
本明細書で使用する場合、「検出する」という表現は、1種類以上のバイオマーカー(たとえば、ペプチドおよび他の生体分子など)の検出不能な血清濃度、低血清濃度、正常な血清濃度または高血清濃度の定量的測定値を示す。
本明細書で使用する場合、「定量化する」および「定量化」という表現は、同義に使用されることがあり、試料(バイオマーカーなど)中における物質の相対的または絶対的な量または存在量を判断するプロセスを示す。
本明細書で使用する場合、「約」という表現は、所望の結果に影響することなく、特定の値が数値範囲の端点よりも「若干大きい」または「若干小さい」旨を示すことで端点に柔軟性を持たせるのに用いられる。
本明細書で使用する場合、複数の項目、構造的要素、構成要素および/または物質を便宜上共通の一覧で示すことがある。しかしながら、これらの一覧は、その一覧の各成員を別個かつ独特の成員として個々に特定したかのごとく解釈されるべきものである。よって、このような一覧の個々の成員はいずれも、単に共通の群に含まれているからというだけの理由で、同じ一覧の他の成員に対する事実上の等価物として解釈されることがない(逆のことが明記されている場合を除く)。
濃度、量および他の数値データは、本明細書では範囲形式で表現または提示されることがある。このような範囲形式は、単に便宜上かつ簡略化目的で用いられるものにすぎず、よって、範囲の上下限として明示された数値を含むだけでなく、その範囲内に包含される個々のすべての数値または部分範囲も、これらの数値および部分範囲を各々明示したのと同じように含むものと柔軟に解釈される点を理解されたい。実例として、「約1から約5」という数値の範囲は、明示された値である約1から約5を含むだけでなく、表記の範囲内の個々の値および部分範囲も含むものと解釈されるべきものである。よって、この数値の範囲に含まれるのは、2、3および4などの個々の値と、1〜3、2〜4、3〜5などの部分範囲ならびに、1、2、3、4、5各々である。これと同じ原理が、最小値または最大値として1つの数値だけを示している範囲にも適用される。さらに、このような解釈は、範囲の幅または説明されている特徴とは関係なく適用されるものとする。
本明細書で説明するのは、早産の危険性のある懐妊被験者を識別するための方法である。早産の危険性があり得る妊娠初期から中期の懐妊被験者を識別するのに利用できる特定のバイオマーカーが同定されている。このようなマーカーを用いると、早産と類似の症候を呈する他の症状とを診断で区別できることがある。早産の危険性の高い被験者を早期に識別できれば、このような被験者を一層詳しく観察できるため、そうすることにはかなりの価値があろう。
本明細書に記載の方法を用いての懐妊被験者の検査は、早産を示すバイオマーカーを被験者で定量可能であれば、妊娠中のどの時点でも起こり得る。たとえば、一態様において、妊娠期間の約20週目から約34週目にバイオマーカーを検査してもよい。もうひとつの態様では、妊娠期間の約24週目から約32週目にバイオマーカーを試験してもよい。ただし、このような検査は妊娠中のどの時点でも実施できるため、上記の範囲が限定的なものとみなされるべきではない点に注意されたい。むしろ、これらの範囲は、大半の被験者でこのような検査がなされる可能性の最も高い妊娠周期の期間を示すためのものである。
早産の危険性のある被験者を識別する上で有用なバイオマーカーとして、さまざまなペプチドおよび他の生体分子がある。本明細書に記載の技法および方法を用いて、早産の出現率と相関する特定のペプチドおよび他の生体分子が同定されている。これらのペプチドおよび他の生体分子のうちの1種類以上を定量化することで、被験者にとっての早産の危険性を示す指標になるため、予防治療の機会を与えることができる。早産合併症を予測可能なバイオマーカーであれば、どのようなものであっても本発明の特許請求の範囲の範囲に包含されるものとみなされる点に注意されたい。しかしながら、一態様において、早産合併症に関連するバイオマーカーの非限定的な例としては、対照被験者(すなわち、早産合併症を経験しなかった妊婦)と比較して、p(確率)値<0.02をカットオフとした場合に統計的に異なる(p≦0.01)ことが分かっている生体分子およびペプチドがあげられる。しかしながら、もうひとつの態様では、早産関連のペプチドの非限定的な例として、アミノ酸配列QLGLPGPPDVPDHAAYHPF(配列番号1)、NVHSAGAAGSRMNFRPGVLSSRQLGLPGPPDVPDHAAYHPF(配列番号2)、NVHSAGAAGSRM(O)NFRPGVLSSRQLGLPGPPDVPDHAAYHPF(配列番号3)(M(O)は酸化メチオニンを示す)、NVHSGSTFFKYYLQGAKIPKPEASFSPR(配列番号4)を有するペプチドがあげられる。
国際公開第2008/079407号パンフレット(本出願内にて、あらゆる目的でその内容全体を本明細書に援用する)に開示されているような、バイオマーカーを同定するのに用いられるプロテオミクス技術を使用して、懐妊被験者における早産の危険性を評価するためのバイオマーカーを同定および定量化することが可能である。一態様では、潜在的な早産について懐妊被験者を検査するための方法が、対照(すなわち、早産を経験しない妊婦におけるバイオマーカーの相対濃度または量)と比較して、生物学的試料中に存在する、早産関連の1種類以上のバイオマーカーの濃度または量の差を検出することを含むものであってもよい。一態様では、プロテオミクスシステムおよび方法を使用して、バイオマーカーを同定および定量化することが可能である。たとえば、異なる生物学的試料由来の複数の質量スペクトルを比較し、非生物学的変動を補償するためのアプローチを使用した後に定量的に異なる質量イオンの位置を特定し、目的のバイオマーカーを単離し、キャラクタライズすることを、本明細書では使用できる。このような方法は、複数の生物学的試料を各々分画して複数の溶出画分を生成し、複数の溶出時間に複数の溶出画分各々から複数の質量スペクトルを取得し、生物学的試料間で定量的に異なるように見える目的の分子イオンピークを見つけることを含むものであってもよい。この方法はさらに、生物学的試料間で実質的に一貫している内因性参照分子であって、溶出時間と質量対電荷比が目的のピークと実質的に類似する内因性参照分子に対応する質量スペクトルの参照ピークを同定し、目的のピークを内因性参照分子の質量スペクトルピークに正規化することで複数の溶出画分での各生物学的試料の非生物学的変化を補償することを含むものであってもよい。この方法はさらに、複数の衝突エネルギの各々を一度に一回ずつ使用する衝突誘起フラグメンテーション研究を実施し、得られた複数のフラグメントイオン質量スペクトルを平均せずに合計し、単一の娘フラグメント累積質量スペクトルを形成するとともに、娘フラグメントの質量スペクトルを用いてアミノ酸配列データを構築し、その後これをアライメントされた単一の質量スペクトルにおける目的のピークに対応するペプチドの同定に使用することを含むものであってもよい。
もうひとつの態様では、複数の溶出時間に複数の溶出画分各々から複数の質量スペクトルを取得し、複数の溶出画分各々で溶出される内因性アライメント分子に対応する質量スペクトルのアライメントピークを同定しつつ、目的のバイオマーカーを含有する生物学的試料を分画して、複数の溶出画分を生成することが可能である。この方法はさらに、複数の溶出画分各々からの質量スペクトルのアライメントピークをアライメントすることで、各溶出画分からの複数の質量スペクトルをアライメントし、アライメントされた複数の質量スペクトルを合計してアライメントされた単一の質量スペクトルを生成し、アライメントされた単一の質量スペクトルにおける目的のピークに対応するペプチドを同定することを含むものであってもよい。さまざまな技法が企図されるが、一態様では、複数の質量スペクトルをアライメントすることが、複数の質量スペクトルを可視的にアライメントすることをさらに含むものであってもよい。また、複数の生物学的試料に存在する複数の生体分子各々を分画することは、たとえば、キャピラリー液体クロマトグラフィ(cLC)などの多数の方法で実現できるものである。具体的な方法と、本明細書に記載するバイオマーカーを検出および定量化するためのパラメータについては、実施例にあげておく。
バイオマーカーを検出および定量化するのに用いられるプロテオミクス技術では、標本のローディング、イオン化効率および質量分析計の感度の差を補正するのに使用可能な内部対照として機能する、あらゆる血清に含まれる分子を利用する。上述の説明に加えて、あるピークが比較群間で定量的に同様である旨を示すことができ、候補バイオマーカーと同じ溶出ウィンドウのカラムから溶出し、その質量対電荷比が候補バイオマーカーのものと同様であり、すべての標本がノイズレベルの3倍を超える量になるほど十分に豊富である場合は、そのピークが参照として選択される。本明細書に記載の参照ピークは、標本の処理、クロマトグラフィでのローディング、イオン化効率または機器の感度の変動に関連しているが、ピーク量の生物学的な差によるものではない、ピークの高さまたは面積の定量補正用である。この参照を内部定量対照と呼ぶ。他の態様では、外部対照を用いてバイオマーカーの定量化を容易にすることが可能である。この態様では、バイオマーカーと対照との比を計算できるように、周知の量の化合物を生物学的試料に加えることが可能である。この比を求めたら、早産の危険性を評価するために対照試料での比と比較すればよい。
上述したように、早産の予測因子として4つのバイオマーカー(配列番号1〜4)が同定されている。内部定量対照については、バイオマーカーの定量化に使用したバイオマーカー配列番号1(m/z677)に使用した。参照(すなわち内部対照)は、モノアイソトピックピークの+3荷電状態でのm/zが673.36であった。中性の親質量は2017.07質量単位であり、クロマトグラフィの溶出時間は15.5分であった。しかしながら、日によって、あるいは置換カラムごとに溶出時間が若干変化することを考えれば、溶出時間は、その内部時間対照に対する溶出時間の割合(0.9968、すなわち内部時間対照よりも保持時間の0.0032倍早く溶出する)ならびに、実際のバイオマーカー配列番号1(m/z677)と比較した溶出時間の割合(1.0558、すなわちバイオマーカーよりも自らの溶出時間の0.05286早く溶出する)として得られる。
第2の内部定量対照は、2つのバイオマーカーすなわち配列番号2(m/z857)と配列番号3(m/z860)の参照として機能した。参照分子のm/zは、+5荷電状態で842.39であり、中性の親質量は4206.07質量単位であった。クロマトグラフィの溶出時間は15.8分前後であった。しかしながら、溶出時間のばらつきを考えれば、その溶出時間は内部時間対照およびバイオマーカー配列番号2(m/z857)の溶出時間との関連で一層適切に説明される。内部時間対照との関連で、内部定量対照は、内部時間対照の溶出画分の後で自らの溶出時間の0.0159倍の溶出時間(または時間対照マーカーの比1.0161)で溶出された。配列番号2(m/z857)のバイオマーカーとの関連で、内部定量マーカーは、バイオマーカー後に自らの溶出時間の0.0539倍(またはバイオマーカーの溶出時間の1.0700)となった。
バイオマーカー配列番号4(m/z795)に用いられる参照は、モノアイソトピックピークの+1荷電状態でのm/zが595.3であった。中性の親質量は594.32質量単位であり、クロマトグラフィの溶出時間は18.8分であった。しかしながら、日によって、あるいは置換カラムごとに溶出時間が若干変化することを考えれば、溶出時間は、先行(1435.2)および後続(2009.95)する2つの内部時間対照に対する溶出時間の割合として得られる。すなわち、2つの境界にある時間アライメントマーカーによって指定される期間中ずっと0.607で溶出する。
個々の質量は溶出時間(保持時間)で定義できるものであるが、この溶出時間(保持時間)を内部時間対照の関数として表すことも可能である。これは、バイオマーカーに先行するタイムメーカー(time maker)と目的のピークに続く時間マーカーとの間の目的のピークの相対位置によって求められる。こうして求めたものをRf値と見なす。Rf値は、以下のようにして算出される。
f=(バイオマーカーの溶出時間−先行する時間マーカーの溶出時間)/(後続の時間マーカーの溶出時間−先行する時間マーカーの溶出時間)。
上述した技法を使用して、早産のインジケーターとして4つのバイオマーカーを同定している。バイオマーカーの同定と定量化に関する具体的な詳細については、実施例にあげておく。各バイオマーカーの別の構造特性を以下に示す。第1のバイオマーカー(「配列番号1」)は、ペプチドであり、質量イオンピーク(m/z)が677、平均質量2026.98ダルトン、平均溶出時間14.30±0.47分、Rf値0.535±0.052である。配列番号1を本明細書では「バイオマーカー1」とも呼ぶ。
第2のバイオマーカー(配列番号2)は、ペプチドであり、質量イオンピーク(m/z)857、平均質量4279.25ダルトン、平均溶出時間17.20±2.04分、Rf値0.781±0.086である。配列番号2を本明細書では「バイオマーカー2」とも呼ぶ。
第3のバイオマーカー(配列番号3)は、ペプチドであり、質量イオンピーク(m/z)860、平均質量4295.25ダルトン、平均溶出時間16.13±1.97分、Rf値0.695±0.134である。配列番号3を本明細書では「バイオマーカー3」とも呼ぶ。
第4のバイオマーカー(配列番号4)は、ペプチドであり、質量イオンピーク(m/z)795、平均質量3968.96ダルトン、平均溶出時間15.52±0.15分、Rf値0.0252±0.021である。配列番号4を本明細書では「バイオマーカー4」と呼ぶ。
したがって、潜在的な早産について懐妊被験者を評価するための方法が得られる。一態様では、この方法は、被験者由来の生物学的試料における早産関連の本明細書に記載の少なくとも1つのバイオマーカーであって、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4で表される配列と同一または相同的なアミノ酸配列を有する少なくとも1つのバイオマーカーを検出し、生物学的試料における少なくとも1つのバイオマーカーの存在量を定量化することを含む。バイオマーカーの存在量は、内部対照として機能する、同じく生物学的試料に存在する参照分子の関数として、処理および分離後に測定される。「存在量」という用語は、本明細書で使用する場合、特定の質量スペクトルで質量分析計にて測定した特定の質量のイオン数あるいは、全溶出間隔を表している複数の質量スペクトルで観察される特定の質量のイオン数の合計を表す。この内部対照に対してバイオマーカー存在量を正規化することで、非生物学的なばらつきが減り、危険性予測においてバイオマーカーを利用する機能が改善される。言い方を変えれば、ある被験者から別の被験者に比較的一定の存在量で生物学的試料に存在する参照に対して分子を選択することで、長期間のうちには広がる場合もある異なる日に実施した結果を比較する場合は特に、生物学的試料のプロセシングの変動性を補正できる。それ自体、バイオマーカーの相対存在量は、関与する特定のバイオマーカーに応じて変わることがある。したがって、バイオマーカーのピーク存在量と特定の値分だけ大きいまたは小さい参照ピーク存在量との比で実質的に早産の危険性が高いことを予測できるように、バイオマーカー/参照比ごとに特定のカットオフ値を確立してもよい。
被験者由来の生物学的試料における1種類以上のバイオマーカーの存在量と、正常分娩を示すこれらの同じバイオマーカーの既知の存在量とを比較することで、潜在的な早産の検査を実現してもよい。一態様では、被験者で配列番号1の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約50%未満であると、早産が起こり得る。もうひとつの態様では、被験者で配列番号1の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約30%未満であると、早産が起こり得る。さらに別の態様では、被験者で配列番号1の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約10%未満であると、早産が起こり得る。
もうひとつの態様では、被験者で配列番号2の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約50%未満であると、早産が起こり得る。もうひとつの態様では、被験者で配列番号2の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約30%未満であると、早産が起こり得る。さらに別の態様では、被験者で配列番号2の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約10%未満であると、早産が起こり得る。
別の態様では、被験者で配列番号3の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約55%未満であると、早産が起こり得る。もうひとつの態様では、被験者で配列番号3の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約35%未満であると、早産が示唆され得る。さらに別の態様では、被験者で配列番号3の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約15%未満であると、早産が起こり得る。
さらに別の態様では、被験者で配列番号4の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約50%未満であると、早産が起こり得る。もうひとつの態様では、被験者で配列番号4の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約30%未満であると、早産が示唆され得る。さらに別の態様では、被験者で配列番号4の実測存在量が、妊娠期間の少なくとも22週目で対照存在量の約10%未満であると、早産が起こり得る。
目的のバイオマーカーを含み得るものであれば、どのようなタイプの生物学的試料をスクリーニングしてもよく、非限定的な例として、血清、血漿、血液、尿、脳脊髄液、羊水、滑液、頸膣液、洗浄液、組織、これらの組み合わせがあげられる。
バイオマーカー1〜4は大半の妊婦に存在するが、早産に至る妊婦の多くは、正常分娩の女性と比較して妊娠中に上記の生体分子のうちの1種類以上の血中血清濃度が低い。たとえば、PTBの症例では、バイオマーカー1〜4単独または全体が対照より少なかった。よって、早産を経験しなかった被験者から得た既知の対照濃度あるいは、検査対象被験者から得た既知のバイオマーカー濃度に対して、被験者由来の生物学的試料におけるこれらのバイオマーカーのうちの1種類以上の存在量を比較することで、早産を予測できることがある。これらのバイオマーカーのうちの1種類以上の存在量が高めまたは低めの被験者のほうが、早産の危険性が高いことがあり、よって、適切な処置ができるだけの十分に早い段階で識別可能である。早産の予測にあたっての特定のバイオマーカーの存在量については、下記にて詳細に説明する。
一態様では、早産被験者と対照被験者のバイオマーカーの存在量を算出するために、log比を取った。たとえば、log比log676.7/673.36(バイオマーカー1/参照ピーク)では、対照平均0.579±0.101、PTB平均−0.015±0.090となった。log比log856.8/842.8(バイオマーカー2/参照ピーク)では、対照平均(早産を経験しなかった被験者)0.231±0.102、PTB平均(早産の危険性のある被験者)−0.149±0.095(実施例の表4)となった。実施例の表4を参照して、他のバイオマーカーのlog比を算出した。log比log860.0/842.8(バイオマーカー3/参照ピーク)では、対照平均0.201±0.096、PTB平均−0.204±0.088となった。log比log794.8/595.3(バイオマーカー4/参照ピーク)では、対照平均0.582±0.637、PTB平均0.274±0.656となった。言い方を変えれば、早産の危険性のある被験者では、バイオマーカー1の減少、バイオマーカー2の減少、バイオマーカー3の減少、バイオマーカー4の減少が、個々にまたは全体で認められる可能性が最も高い。
この説明を念頭において、一態様では、配列番号1(m/z677)の存在量と参照分子のm/z673での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約1.0未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。もうひとつの態様では、配列番号1(m/z677)の存在量と参照分子のm/z673での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.8未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。さらに別の態様では、配列番号1(m/z677)の存在量と参照分子のm/z673での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.6未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。
さらに、一態様では、配列番号2(m/z857)の存在量と参照分子のm/z843での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.6未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。もうひとつの態様では、配列番号2(m/z857)の存在量と参照分子のm/z843での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.5未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。さらに別の態様では、配列番号2(m/z857)の存在量と参照分子のm/z843での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.44未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。
また、一態様では、配列番号3(m/z860)の存在量と参照分子のm/z843での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.6未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。もうひとつの態様では、配列番号3(m/z860)の存在量と参照分子のm/z843での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.4未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。さらに別の態様では、配列番号3(m/z860)の存在量と参照分子のm/z843での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.2未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。
別の態様では、配列番号4(m/z795)のと参照分子のm/z595での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.6未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。もうひとつの態様では、配列番号4(m/z795)の存在量と参照分子のm/z595での存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.4未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。さらに別の態様では、配列番号4(m/z795)の存在量とm/z595での参照分子の存在量との比が、妊娠期間の少なくとも22週目に実測で約0.2未満である場合に、早産の危険性の実質的な増大を予測できることがある。
特定の態様では、上記にて算出したlog比を使用して、早産する危険性のある妊婦における危険性を統計的に予測するようにしてもよい。バイオマーカーの予測力についての一般的な尺度の一つが、その敏感度と特異度である。「敏感度」とは、本明細書で使用する場合、真陽性率(たとえば、バイオマーカーで正しく識別された、後に早産した妊婦の比率)として定義される統計用語である。「特異度」という用語は、本明細書で使用する場合、真陰性率(たとえば、正しく識別された、妊娠に合併症を併発しない妊婦の比率)として定義される。本明細書に記載したようにして早産の予測にバイオマーカーを使用するには、数字での閾値を設定する。数字での閾値を設定するには、特定のバイオマーカーに対する値の範囲を、最小から最大まで考慮し、それぞれの点で正しく陽性と識別された被験者の割合と、その同じ点で誤って陽性と識別された対照の割合を考慮する。特定のバイオマーカーの値の範囲については、具体的なデータセットに対する最小から最大までの実際の定量値を取ることで算出すればよい。これを受診者動作特性曲線(ROC)と呼ぶ。一態様では、偽陽性率を、一般に臨床試験で許容できる最大値とされる20%までに制限することが可能である。真陰性率を100%から差し引けば、偽陽性率(すなわち、バイオマーカーでは早産の危険性があると識別されたが、妊娠に合併症を併発しない女性の比率)が算出される。偽陽性率20%以下での閾値(特異度80%以上と等価である)によって、ある人に危険性があるか危険性がないかを判断するのに用いられる閾値が決まることになる。
実施例の表5を参照すると、早産の危険性のある被験者を識別するために、4つのlog比それぞれの閾値を求めた。それぞれの閾値については、特異度(真陰性率)が80%以上(偽陽性率20%以下と同じことである)になるようにして算出した。数学的に求めた閾値を使用して、4つの比で独立して敏感度(真陽性)と特異度(真陰性)の率(表5)を得た。表5を参照すると、早産の予測に関してはバイオマーカー1/参照ピークの比で敏感度(65%)と特異度(85%)が最大であった。よって、この態様では、妊婦に存在するバイオマーカー1の同定および定量化が、早産に至る尤度を示す正確な予測因子のひとつである。バイオマーカー1/参照ピークの比は有用であるが、log比の組み合わせを使用して早産の危険性を予測することも可能である旨が企図される。よって、本明細書にて同定するバイオマーカーは、早産の危険性を予測する際の強力な道具である。
本明細書に記載のバイオマーカーは、早産を予測できるものである。しかしながら、場合によっては、複数のバイオマーカーに対するスクリーニングと定量化で、早産検査の予測値を改善できることがある。一態様では、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4で表される配列と同一または相同のアミノ酸配列を有する少なくとも2つのバイオマーカーについて、被験者由来の生物学的試料をスクリーニングしてもよい。もうひとつの態様では、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4で表される配列と同一または相同のアミノ酸配列を有する少なくとも3つのバイオマーカーについて、被験者由来の生物学的試料をスクリーニングしてもよい。検査のタイプまたは利用するアッセイによって予測値が変わることもあり、このうちのいくつかをさらに詳細に後述する。評価することで、複数(すなわち2つ以上)のバイオマーカーの存在と量を評価することで、早産を予測するにあたって有用な明確な特徴を生成することが可能である。たとえば、少なくとも2つのバイオマーカーを判断して定量化することで、本明細書に記載の方法の予測値を高めることが可能である。PTBを発症する女性がわずかしか含まれないこともあるが、これは早産に至る危険性を一層よく示している。目的のペプチドを含み得るものであれば、どのようなタイプの生物学的試料をスクリーニングしてもよく、非限定的な例として、血清、血漿、血液、尿、脳脊髄液、羊水、滑液、頸膣液、洗浄液、組織、これらの組み合わせがあげられる。しかしながら、一態様では、被験者から得た血清試料中のペプチドをスクリーニングすると都合がよいことがある。もうひとつの態様では、被験者から得た血液試料中のペプチドをスクリーニングすると都合がよいことがある。
また、本明細書には、懐妊被験者が早産に至る確率を予測するのに利用できる、単離されたペプチド(すなわちバイオマーカー)ならびに、単離されたペプチドの混合物も記載されている。このようなペプチドは、多くの検査アッセイでの陽性対照として有用なことがあり、抗体の生成に有用なこともある。一態様では、たとえば、単離されたペプチドが、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4で表される配列と同一または相同なアミノ酸配列を有するものであればよい。ペプチド合成は従来技術において周知であり、当業者であれば、ペプチド配列が分かれば本明細書に開示のペプチドを合成するための多岐にわたる技術を利用できるであろうことを理解されたい。このような技術として数例をあげると、液相合成法および固相合成法ならびに、前チオール捕捉(prior thiol capture、ネイティブ化学ライゲーション、発現タンパク質ライゲーション、アシル開始捕捉(acyl initiated capture)、Staudingerライゲーションなどのさまざまな化学ライゲーション法などのさまざまな方法があるが、これに限定されるものではない。また、組換えDNA技術を用いてペプチドを合成してもよい。
特定の態様では、上述したプロテオミクス技術を使用して、バイオマーカーを同定および定量化することが可能である。しかしながら、本明細書では、生物学的試料のバイオマーカーを検出および/または定量化できる他の方法を用いることが可能である。潜在性のある一タイプのペプチドアッセイとして、イムノアッセイがある。同種および非同種ならびに、競合および非競合的な方法をはじめとして、特定のペプチドに対する生物学的試料のスクリーニングに抗体を用いる多数のイムノアッセイプロトコールが周知である。たとえば、このような技術は、固相支持体、免疫沈降などの使用を含むことがある。しかしながら、通常、ペプチド検出用のイムノアッセイでは標識抗体の使用が必要になることが多い。このような標識は、周知のどのようなタイプの物質を含むものであってもよく、一例として、蛍光標識、化学発光標識、放射性標識、酵素標識などがあげられる。このようなイムノアッセイ検査自体は従来技術において周知であり、生物学的試料におけるペプチドの検出に利用する特定の方法は、本発明の特許請求の範囲に記載の範囲を限定するものとはみなされないものとする旨を理解されたい。イムノアッセイについては、下記にてさらに説明する。
他の態様では、本明細書に記載のバイオマーカーに対して特異的免疫反応性の抗体を利用できる。一態様では、たとえば、配列番号1からなるアミノ酸配列を有するペプチドに対して免疫学的に特異な抗体が得られる。もうひとつの態様では、配列番号2からなるアミノ酸配列を有するペプチドに対して免疫学的に特異な抗体が得られる。さらに別の態様では、配列番号3からなるアミノ酸配列を有するペプチドに対して免疫学的に特異な抗体が得られる。さらに別の態様では、配列番号4からなるアミノ酸配列を有するペプチドに対して免疫学的に特異な抗体が得られる。
抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体であってもよく、従来技術において周知のどのような方法で作製してもよいものである。抗体フラグメントも本発明の範囲に包含されるものとする。本発明の態様による抗体は、鳥類および哺乳動物を含むどのような動物起源のものであっても構わない。一態様では、たとえば抗体が、ヒト、ネズミ科動物(マウスおよびラットなど)、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、ニワトリなどに由来するものであってもよい。
一態様では、ポリクローナル抗体を利用して、生物学的試料における本明細書に記載の1種類以上のバイオマーカーを検出および定量化し、早産の危険性を評価してもよい。ポリクローナル抗体は、当業者間で周知のさまざまな手法で作製可能なものである。たとえば、ウサギ、ラット、マウス、ヒツジ、ヤギなどのin vivo宿主動物でポリクローナル抗体を作製してもよい。宿主動物については、遊離ペプチドまたはキャリア結合ペプチドを用いて、たとえば腹腔内注射および/または皮内注射によって免疫化する。注射物質は一般に、約100μgのペプチドまたはキャリアタンパク質を含有するエマルジョンである。宿主の種に応じて、さまざまなアジュバントを使用して免疫学的応答を増すことができる。アジュバントの例としては、フロイントアジュバント(完全および不完全)、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、スカシ貝ヘモシアニン、ジニトロフェノール、ウシ型弱毒結核菌ワクチン(BCG)およびコリネバクテリウム・パルバム(corynebacterium parvum)などの潜在的に有用なヒトアジュバントがあげられるが、これに限定されるものではない。これらのアジュバントおよび他のアジュバントは、従来技術において周知である。場合によっては、検出可能な抗体の有用な力価を得るために、約2週間の間隔でいくつかの追加注射が必要な場合もある。従来技術において周知の方法での選択した抗体の溶出や固相支持体へのペプチドの吸着などによって、抗体の選択で免疫化された動物由来の血清中の抗体力価を高めることが可能である。
もうひとつの態様では、モノクローナル抗体を利用して、生物学的試料における1種類以上のバイオマーカーを検出および定量化し、早産の危険性を評価してもよい。モノクローナル抗体とは、1つの種の抗原しか認識しない抗体を示す。これらの抗体は、単一の抗体産生ハイブリドーマの娘細胞によって生成される。モノクローナル抗体は一般に、自己が免疫反応するどのエピトープに対しても単一の結合親和性を示す。モノクローナル抗体は、二特異性モノクローナル抗体など、各々が異なるエピトープに対して免疫特異的である複数の抗体結合部位を有する抗体分子を含有するものであってもよい。モノクローナル抗体は、当業者間で周知のさまざまな方法で得られる。たとえば、Kohler and Milstein,Nature 256:495 497(1975);米国特許第4,376,110号明細書;Ausubel et al.,eds.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Assoc.and Wiley Interscience,N.Y.,(1987,1992);Harlow and Lane ANTIBODIES:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory(1988);Colligan et al.,eds.,Current Protocols in Immunology,Greene Publishing Assoc.and Wiley Interscience,N.Y.,(1992,1993)、(各々を本明細書に援用する)を参照のこと。
また、本明細書で有用な抗体は、単一特異性または多特異性(二特異性、三特異性またはそれより上の多特異性など)でもよい点にも注意されたい。多特異性抗体は、ペプチドの異なるエピトープに特異的なものであってもよいし、目的のペプチドと、異種ペプチドまたは固相支持体物質などの異種エピトープの両方に特異的なものであってもよい。さらに、抗体は、本明細書に記載のバイオマーカーのどの領域から調製したものであってもよい。
一例として、モノクローナル抗体を十分に確立された方法で調製することが可能である。一態様では、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術を用いて調製される。このような方法では、マウス、ハムスターまたは他の適当な宿主動物を免疫剤(本発明の態様によるペプチドなど)で免疫化し、免疫剤と特異的に結合する抗体を産生するか、産生できるリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球をin vitroにて免疫化してもよい。その後、ポリエチレングリコールなどの好適な融合剤を用いてリンパ球を不死化細胞系と融合し、ハイブリドーマ細胞を形成する。不死化細胞系は、哺乳類細胞、特に、齧歯類、ウサギ、ウシおよびヒト起源の骨髄腫細胞に形質転換されることが多い。多くは、ラットまたはマウスの骨髄腫細胞系が用いられる。ハイブリドーマ細胞は、未融合の不死化細胞の成長または生存を阻害する1種類以上の物質を含み得る好適な培養液中で培養できるものである。たとえば、親細胞に酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)が欠けている場合、ハイブリドーマ用の培養液は一般に、HGPRT−欠損細胞の成長を阻害するためのヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン(「HAT培地」)を含むことになる。
ハイブリドーマ細胞を培養する培養液を、モノクローナル抗体の有無についてアッセイすることが可能である。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降によって、あるいはラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素免疫吸着測定法(ELISA)などのin vitro結合アッセイによって判断する。このような技術およびアッセイは、従来技術において周知である。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後、この細胞を限界希釈法によってサブクローニングし、周知の方法で成長させる。モノクローナル抗体については、たとえば、タンパク質A−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィ、ゲル電気泳動、透析、親和性クロマトグラフィなどの従来の免疫グロブリン精製法によって、培養液から単離または精製してもよい。また、モノクローナル抗体は、本明細書に援用する米国特許第4,816,567号明細書に記載されているものなどの組換えDNA法によっても作製可能である。当業者間で周知の抗体を生成するための他の方法も、本発明の範囲内に包含されるものとする。
したがって、一態様では、懐妊被験者の潜在的な早産を検査するための方法が得られる。このような方法は、被験者から生物学的試料を取得し、抗体抗原複合体の形成を可能にする条件下で、本明細書に記載のバイオマーカーのうちの1つと同一または相同なアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドに対して免疫学的に特異な少なくとも1つの抗体に生物学的試料を接触させ、抗体抗原複合体の形成をアッセイして、生物学的試料における少なくとも1つのバイオマーカーを検出および定量化することを含むものであってもよい。生物学的試料における目的のバイオマーカーの存在と量が、早産の危険性を示す指標となる。
以上説明したように、生物学的試料におけるペプチドを検出および/または定量化できるさまざまなイムノアッセイが周知である。一態様では、イムノアッセイが競合アッセイであってもよい。たとえば、検査対象ペプチドの配列を有する標識ペプチドを、ペプチド配列の少なくとも一部に特異な抗体と接触させ、抗体抗原(またはペプチド)複合体の形成を可能にする。このペプチド/抗体混合物に生物学的試料を加えて、生物学的試料に含まれる目的のペプチドが標識ペプチドと競合して、標識の強度を低下させられるようにする。競合アッセイは、従来技術において周知の一段階または二段階のプロトコールを含むものであってもよい。
もうひとつの態様では、イムノアッセイが非競合アッセイであってもよいし、サンドイッチアッセイであってもよい。このようなアッセイでは通常、アッセイの敏感度と特異度のレベルが高い。この非競合アッセイフォーマットでも、一段階または二段階のプロトコールを利用できる。通常、このようなアッセイは、物理的な支持体に固定化された抗体を含み、そこで固定化された抗体が目的のペプチド(すなわちバイオマーカー)に対して免疫学的に特異である。同じく目的のペプチドに対して免疫学的に特異な標識抗体と一緒に、支持体に生物学的試料を加える。生物学的試料に存在するペプチドは、支持体に沿って固定化された抗体と結合する。標識抗体はまた、目的のペプチドにも結合するため、ペプチドおよび固定化抗体によって物理的な基質にも固定化される。標識抗体の標識を検出し、生物学的試料におけるバイオマーカーの量を定量化するとともに、対照(すなわち、早産に至らない懐妊被験者)と比較することが可能である。プロトコールによっては、標識の検出前に非固定化標識抗体を洗い流すことが可能である。この場合、標識の強度が、生物学的試料に存在するバイオマーカーの量に対する量に比例する。
従来技術において周知の固相支持体基質の多数の構成が企図される。このような基質は、抗体または抗体アンカーなどの検出物質の固定化に好適な基質を含むものであってもよい。たとえば、好適な基質は、抗体の機能性に大きく影響することなく検出物質との間で結合を形成できる、固体有機物、バイオポリマーまたは無機支持体物質などの固相支持体を含むものであってもよい。有機固体支持体物質の例としては、ポリスチレン、ナイロン、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂などのポリマー、ポリアクリルアミドなどのアクリルコポリマーといったものがあげられるが、これに限定されるものではない。バイオポリマー支持体物質としては、セルロース、ポリデキストラン、アガロース、コラーゲン、キチンなどがあげられるが、これに限定されるものではない。無機支持体物質の例としては、ガラスビーズ(多項性および非多孔性)、ステンレス鋼、ZrO2、TiO2、Al23およびNiOなどの多孔性セラミックを含む金属酸化物、砂などがあげられるが、これに限定されるものではない。
従来技術において周知の多数の特異的アッセイ方法を、本明細書で使用する(sued)ことが可能である。このような特異的アッセイ方法としては、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素イムノアッセイ(EIA)、酵素免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、免疫比濁阻害法(NIA)、微粒子酵素イムノアッセイ(MEIA)、化学発光磁気イムノアッセイ(CMIA)などのプロトコールがあげられる。
検出可能なさまざまな標識を、本発明の態様に従って抗体に結合させることができる。適切な標識としては、放射性核種(125I、131I、35S、3H、32Pなど)、酵素(アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ(glactosidase)など)、蛍光部分またはタンパク質(フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、GFP、BFPなど)または発光部分(QUANTUM DOT CORP.、Palo Alto、Calif.から提供されるQdot(登録商標)ナノ粒子など)があげられるが、これに限定されるものではない。上述のさまざまなイムノアッセイを実施するにあたって用いられる一般的な方法は、当業者間で周知である。
イムノアッセイに加えて、生物学的試料におけるペプチドを検出するための別の方法も企図され、いずれも本発明の範囲内に包含されるものとする。一態様では、たとえば質量分析(MS)技術を利用できる。ひとつの具体例として、マトリックス支援レーザー脱離イオン化などの高スループットMS分析技術があげられる。このような技術では、1時間あたり数百の生物学的試料を迅速に処理できる特別な施設に試料を送ってもよい。
また、本明細書で説明するのは、懐妊被験者由来の生物学的試料を検査して、早産の危険性を評価するためのキットである。このようなキットを、病院、クリニック、参照試験所、診察所などで採用して、医療上の判断をくだす、あるいは必要があれば、利用可能な治療法または介入を提供する助けとすることができる。また、このようなキットは、早産に関連する他の医学的症状の診断、予後または危険性の評価を可能にするものでもある。
したがって、一態様では、懐妊被験者の潜在的な早産を検査するためのキットが得られる。このようなキットは、アミノ酸配列の配列番号1、配列番号2、配列番号3および配列番号4を有する少なくとも1つのバイオマーカーと選択的に結合できる少なくとも1つのモノクローナル抗体と、少なくとも1つのバイオマーカーの濃度を定量化するのに使用可能な、少なくとも1つのバイオマーカーと少なくとも1つのモノクローナル抗体との間の抗体抗原複合体の形成をアッセイするために抗体と機能的に関連したインジケーターと、を含むものであってもよい。このキットは、使用される特定の検査アッセイに必要または有益な試薬をさらに含むものであってもよい。
このキットは、生物学的試料におけるバイオマーカーを検出および定量化する手段を含むものであってもよく、キットの内容物は、使用する検出アッセイのタイプに応じて必然的に変化するものであってもよい。必要な試薬に加えて、キットは、目的の結合ペプチドのための抗体またはそのフラグメント、固体基質、抗体抗原複合体を検出するための別の抗体などを含み得る。上記にて提案したとおり、抗体または抗体フラグメントは、遊離形態で存在するものであってもよいし、プラスチック皿、試験管、試験棒、ビーズなどの基質に固定化されていてもよい。キットはまた、陽性対照または陰性対照、洗浄液、希釈緩衝液などの検出および/または標識用の好適な試薬ならびに、指示書を含むものであってもよい。
以下の実施例は、本明細書に記載して権利請求している化合物、組成物および方法を、どのようにして作製および評価するのかについての完全な開示および説明を当業者に与えるために出すものであり、純粋に例示としてのものを意図しており、本発明者らが自らの発明であるとみなしている範囲を限定することを意図したものではない。数量(たとえば、量、温度など)に関しては正確さを期するために努力をしているが、若干の誤差や偏差も考慮に入れなければならない。特に明記しないかぎり、部は重量部、温度は℃または周囲温度、圧力は大気圧またはその前後である。ここに記載のプロセスで得られる生成物の純度と収率を最適化するのに使用可能な成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧力および他の反応範囲および条件などの反応条件には、多数のバリエーションまたは組み合わせがある。このようなプロセス条件の最適化には、合理的かつ常法による実験だけが必要であろう。
血清採取
妊娠24週目または28週目に採血した160名の妊婦で研究を実施し、妊娠が終わるまで追跡した。これらの女性のうち80名が合併症のない妊娠で、早産(PTB)の兆候は何ら認められなかった。この女性たちで対照群を構成した。残りの80名の女性にはPTB(妊娠期間37週未満)があった。この女性たちをPTBの症例とした。本明細書に記載のプロテオミクス技術を用いて、これら160名の女性の血清を研究した。
アセトニトリル沈殿
2容量のHPLCグレードのアセトニトリル(400μL)を血清200μLに加え、5秒間強くボルテックスして室温にて30分間放置した。次に、(血清採取)由来の試料を、IEC Micromax RF遠心機(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)にて室温で10分間12,000rpmで遠心処理した。続いて、上清のアリコートを300μLのHPLCグレードの水が入った微小遠心管に移した。試料を軽くボルテックスして溶液を混合し、これをLabconco CentriVap Concentrator(Labconco Corporation,Kansas City,MO)にて約200μLまで凍結乾燥させた。凍結乾燥前に加える水の容量によって、溶液からアセトニトリルを完全に除去しやすくなる。これが必要なのは、アセトニトリルはタンパク質濃度を判断するのに用いるアッセイと不適合であることが理由である。製造業者の指示に従って実施するBio−Radマイクロタイタープレートタンパク質アッセイを用いて、上清タンパク質濃度を求めた。タンパク質4μgを含有するアリコートを新しい微小遠心管に移し、ほぼ乾固するまで凍結乾燥させた。HPLC水を用いて試料を最大20μLまでにした後、20μLの88%ギ酸を用いて酸性化した。
アセトニトリル処理(後沈殿)した血清試料(40μL)を250μL容のポリプロピレン製コニカルバイアルにロードし、隔壁を有するポリプロピレン製のスナップキャップ(Dionex Corporation,Sunnyvale,CA)で蓋を閉じ、4℃に保ったFAMOS(登録商標)オートサンプラーの48ウェルのプレートに入れた。0.1%ギ酸で酸性化したHPLC水を用いて、FAMOS(登録商標)オートサンプラーによって40μL/分の流量で各血清試料を5μLずつ液体クロマトグラフィガードカラムに注入した。酸性水を用いて、塩や他の不純物をガードカラムから洗い流した。FAMOS(登録商標)オートサンプラーでは、カラムにロードした容量の3倍が引き出されるため、試料の容量が限られる場合は試料を手で注射する必要があった。これについては、ガードカラムの上流のブランクループに10μL容量の試料を注入し、試料の代わりにHPLC水の10μL試料を注入するようFAMOS(登録商標)オートサンプラーをプログラムすることで実現した。血清試料をガードカラムにロードし、コニカルバイアルからロードしたかのように脱塩した。
質量スペクトル分析用の液体クロマトグラフィ分離
キャピラリー液体クロマトグラフィ(cCL)を実施して、試料を分画した。キャピラリーLCでは、1mm(16.2μL)のマイクロボアガードカラム(Upchurch Scientific,Oak Harbor,WA)と、インハウスで組み立てた内径15cm×250μmのキャピラリーカラムとを用いる。POROS R1逆相培地(Applied Biosystems,Framingham,MA)を用いて、ガードカラムには乾燥充填、キャピラリーカラムにはスラリー充填した。水性相(98%HPLCグレードのH2O、2%アセトニトリル、01.%ギ酸)と有機相(2%HPLC H2O、98%アセトニトリル、0.1%ギ酸)を用いて、カラム平衡およびクロマトグラフ分離を実施した。分離については、95%水溶液でカラム平衡3分、続いて60%有機相まで2.75%/分勾配増、これを7%/分で増加して95%有機相の濃度にすることで達成した。勾配を95%有機相で7分間保持し、試料の一層疎水性の成分を溶出させた後、5分かけて勾配を95%水性相に戻してこの濃度で2分間保持して、カラムを再平衡させた。分離はいずれも、流量5μL/分で実施した。クロマトグラフィでは、LC Packings Ultimate CapillaryHPLCポンプシステムを、FAMOS(登録商標)オートサンプラー(Dionex Corporation,Sunnyvale,CA)と一緒に、Analyst QS(登録商標)(Applied Biosystems,Foster City,CA)の制御下で用いた。
MS解析
試料を流す前に毎日、外部対照を用いてMS較正を実施した。必要があれば、設定を調節して信号対雑音比を最適化するとともに、敏感度を最大限にした。
このcLCシステムを質量分析計に直接接続した。キャピラリーカラムからの排水をIonSprayソース(Applied Biosystems)によってQSTAR Pulsar I四重極直交飛行時間型質量分析計に送った。5分から開始して55分まで、m/z500から2500のデータを回収した。流量が5μL/分の場合、試料をガードカラムから質量分析計に得るのに5分より長くかかり、5分より前には有用なデータが得られないため、開始時間の遅延をプログラムした。データ収集、処理、予備フォーマットは、Analyst QS(登録商標)ソフトウェアパッケージにBioAnalystのアドオンを加えた(Applied Biosystems)ものを用いて実現された。
各標本について5分から55分のcLC溶出時間全体にわたって1秒ごとに質量スペクトルを得た。各被験者のcLC分画タンパク質枯渇血清の溶出特性を、全イオンクロマトグラムとして報告し、点検して前に流したヒト血清と一貫することを確認した。全存在量が通常の50%未満または通常の200%超え、あるいは不適切な標本がある場合は特徴的な一連の3つの広イオン強度領域を欠いている標本を再度流すか省いて、解析をやり直した。
ピークアライメント
異なる日とカラムでの試料の流が溶出時間を変える可能性があるため、有用なクロマトグラム(有用なクロマトグラム15分から35分前後)で2分前後の間隔で溶出される平均存在量の10の内因性分子種を求めた。また、目的の溶出領域に対して2分のウィンドウを確立し、ファイルサイズを取り扱い可能なままにしておけるようにする。MSコンピュータの抽出イオンクロマトグラム(XIC)機能を利用して、各溶出時間マーカーについて所望のm/z範囲の溶出画分を可視化する。それぞれの標本についてアライメントピークそれぞれの溶出時間を求め、これをSet Selection機能の平均によって2分のウィンドウの中心として使用する。これによって、すべての実施がそのウィンドウの同じ中点に対して整列される。次に、Show Spectra機能を使って、全質量スペクトルから単一の平均質量スペクトルを作製する。
データ解析
Q−Star(q−TOF)質量分析計をサポートしているAnalyst(登録商標)ソフトウェアプログラムによって、16の個々の液体クロマトグラフの実施をまとめ、その中での同様の溶出時間での質量スペクトルを比較することができる。上述したようにして有用な溶出の2分のウィンドウ10個を20分間かけて確立し、データファイルの大きさを取り扱いできる程度に維持した。同じく上述したようにして2分のウィンドウを整列させた。2分の溶出間隔10のうち、第1に分析するのは、一般にペプチド種の存在量が多いことから選択した第2の2分のウィンドウであった。ペプチドの多荷電状態の特徴的な見た目によってペプチドを同定したが、これは十分に画定されたピークのクラスターのように見える(単一のピークまたは複数のピークが1質量/電荷単位で分離されるのではなく、個々のピークのガウス形状が1質量/電荷単位未満で分割される。PTBに至っている8名の被験者からなる群と対照(PTBなし)の8名の被験者からなる群とを色で区別し、重ねた。次に、データを目視検査し、ひとつの色で優勢に見える分子種を記録した。使用したソフトウェアは、16の試料しか可視化できない状態に限られていた。16を超えるサンプリングサイズの場合、複数のデータセット比較を実施する。さらに考慮される化合物では、データセットの少なくとも三分の二において2つの群間で同じ明確な差が観察される必要があった。
次に、2つの研究群間で異なるように見える分子を個々に調べた。これらの候補種はいずれも、ペプチドであった。定量的データを抽出する前に、質量スペクトルを検討してペプチドピークが同じm/zを有し、なおかつ同じ荷電状態を表すことを保証し、さらに同じペプチドが検討対象となっていることを保証する。また、第2の付近のピークは、2つの群間で存在量に差は認められなかったが、これを参照として選択した。このピークを使用して、目的の候補ピークを正規化し、標本プロセシング、標本ローディング、イオン化効率の変動性を補正した。
次に、Analyst(登録商標)ソフトウェアで分子種を「抽出」し、毎回実行するごとに個々の分子種の最大ピークを求める。この特徴は、特定のm/zの調査を2分の溶出画分ウィンドウに制限しなかったため、結果としてcLC溶出時間をアライメントするのに用いられるピークをさらに利用して、溶出画分特性における場所が同じことを保証し、毎回同じ分子種が選択されたことを保証する。
それぞれの分子種のピーク高さを、その存在量を示す合理的な推定因子とみなした。各候補化合物の存在量を表にまとめ、それぞれの候補種の算出値を近くの参照種と比較した。単一の種を考慮しているため、2つの群間で、このペプチドの存在量で考えられる差の評価には一変量統計解析を利用した。
内因性時間アライメント分子
時間アライメントに用いた参照ピークの質量および代表的な溶出時間を表1にまとめておく。
Figure 0005363481
妊婦のあらゆる血清に存在するこれらの内因性分子種の場所に関する知識も、これをキャピラリー液体クロマトグラフィ溶出画分特性内のPTBバイオマーカーのアライメントおよび局在化用の時間マーカーに使用するのを可能にする。
バイオマーカーの特徴
時間アライメント後に、各々色を付けたPTB症例と対照で複数の質量スペクトルが重なった初期プロセスでバイオマーカー候補を可視的に同定した。優位に一方の色に見えるピークをさらに研究した。個々のスペクトルについて、QqTOF質量分析計(Applied Biosystems)用のオペレーティングシステムであるAnalyst(登録商標)ソフトウェア(Applied Biosystems)を備えたコンピュータでピーク高を求めた。次に、バイオマーカーの量を表にした。また、同じ時間ウィンドウで発生した第2のピークは、症例と対照とで定量的に異なるものではなく、同じく選択した。これは、非生物学的な変動性を減らすための内因性対照を表していた。これについては、候補ピークの量を内因性対照の量で割って達成した。それぞれの標本での比の大きさを記録し、PTB症例と対照とを比較するスチューデント検定を用いて統計的な差を求めた。
4つの種は十分に異なっていた(p<0.0001)ことから、2つの群の優れた分離を可能にできるのではないかと思われる。4つのPTBバイオマーカーの個々の質量および溶出時間を表2にまとめておく。
Figure 0005363481
溶出時間(保持時間)を内部時間対照の関数として表した。これは、バイオマーカーに先行する時間マーカーと目的のピークに続く時間マーカーとの間の目的のピークの相対位置によって求めた。これは以下の式によって算出した。
f=(バイオマーカーの溶出時間−先行する時間マーカーの溶出時間)/(後続の時間マーカーの溶出時間−先行する時間マーカーの溶出時間)
f値のほうが実際の溶出時間よりも信頼性が高かった。溶出時間は新たなカラムまたは付着物のある既存のカラムの性能の変化に応じて変化することがあるが、Rfはこれらの変化によって変わることがなかった。5つのバイオマーカーのRf値を表3にあげておく。
Figure 0005363481
内因性同時溶出対照に対する参照による変動性の減少
現段階の血清プロテオミクス手法の特徴のひとつに、あらゆる種で見いだされ、症例と対照とで違わなかった内因性分子を使用することがある。バイオマーカー存在量を、この内部対照に対して正規化すると、非生物学的な変化が減り、危険性の予測にバイオマーカーを利用する機能が改善される。正規化には、目的のピークの存在量を参照ピークで数学的に割ることを含む。存在量は、機械で導き出した値であった。特定の分子の存在量は、特定の質量スペクトルで質量分析計によって測定される特定質量のイオン数あるいは、全溶出期間を表すいくつかの質量スペクトルで観察される特定質量の合計を示す。分子は一般に、クロマトグラフィのカラムを移動して外に出るのに1.0〜1.5分間必要とするのに対し、質量スペクトルはその溶出期間で1秒ごとに得られる。
現時点の4つのピークには、内部参照を用いた。バイオマーカーピークm/z676.7には、m/z673.3での同時溶出参照ピークを用いた。バイオマーカーm/z856.8および860.0には、m/z843.8での同時溶出参照ピークを選択した。バイオマーカーm/z794.8では、m/z595.3での同時溶出参照を選択した。これらの比を使用して、log比の平均値を求めた(表4)。
Figure 0005363481
早産に至る危険性のある女性の予測にバイオマーカーを使用
上述したように、バイオマーカーの予測力についての一般的な尺度の一つが、その敏感度と特異度である。PTBを発症する危険性のある被験者を識別するために、表4に示す4つのlog比それぞれの閾値を求めた。それぞれの閾値については、特異度(真陰性率)が80%以上になるようにして算出した。上述のように、これは偽陽性率が20%以下であるのと同じである。これらの数学的に求めた閾値を使用して、4つの比で独立して、表5に示すような以下の敏感度(真陽性)と特異度(真陰性)の比を得た。
Figure 0005363481
敏感度は、真陽性率として定義される統計用語であり、この場合は具体的に、バイオマーカーで正しく識別された、後にPTBを発症した妊婦の比率である。特異度は真陰性率として定義され、この場合は、正しく識別された、妊娠に合併症を併発しない妊婦の比率である。このようにして予測にバイオマーカーを使用するには、数字での閾値を設定しなければならない。その数字での値を設定するには、一般に、バイオマーカーに対する値の範囲を、最小から最大まで考慮し、それぞれの点で正しく陽性と識別された被験者の割合と、その同じ点で誤って陽性と識別された対照の割合を考慮する。これを受診者動作特性曲線(ROC)と呼ぶ。偽陽性率は20%に限定する。これは、一般に臨床試験で許容できる最大値とされる。真陰性率を100%から差し引いて、偽陽性率(バイオマーカーでは後にPTBの危険性があると識別されたが、妊娠に合併症を併発しない女性すなわち対照群の比率)を算出する。閾値が偽陽性率20%以下(特異度80%以上と等価)であれば何でも、ある人に危険性があるか危険性がないかを判断するのに用いられる閾値が決まることになる。後のPTBの危険性のある被験者を識別できるようにする4つの比それぞれの閾値を求めた。それぞれの閾値については、特異度(真陰性率)が80%以上になるようにして算出した。上述のように、これは偽陽性率が20%以下であるのと同じである。これらの数学的に求めた閾値を使用して、4つの比で独立して表5に示すような敏感度(真陽性)と特異度(真陰性)の率を得た。ピークの組み合わせは、677でのピークが後のPTBを予測する機能を有意には改善しなかった。
現段階のPTBバイオマーカーの同一性
親ペプチドのフラグメンテーションを引き起こす2つの質量分析計の間に衝突セルを挟んだタンデムMSを用いて、検索可能なデータベース(MASCOT)と比較して第2のMSステップで観察されたフラグメンテーションパターンからアミノ配列を求めた。このペプチドのうちの3つは、同じ親タンパク質すなわちインターαトリプシン阻害剤重鎖4(ITIH4)由来であったのに対し、最終ペプチドは第2のタンパク質すなわちインターαトリプシン阻害剤重鎖関連タンパク質(IHRP)から得られた。表6にバイオマーカー(配列番号1〜4)をあげておく。
Figure 0005363481
これらのペプチドは、インターαトリプシン阻害剤と呼ばれるタンパク質スーパーファミリから生じるように見える。具体的には、このペプチドは、インターαトリプシン阻害剤重鎖4のアイソフォーム1(ITIH4−1)およびアイソフォーム2(ITIH4−2)のアイソフォームであると現時点でみなされている異なるタンパク質に由来しているように見える。2つのアイソフォームは若干の配列相同性を有するが、他方には見られないアミノ酸の部分も有する。2つのアイソフォームは、単に他方から切断したものを表すものではない。
ELISAアッセイI
以下のELISAアッセイを利用して、生物学的試料における目的のバイオマーカーを検出および定量化することが可能である。目的のペプチド(抗原)に対して免疫学的に特異な第1の抗体を、96ウェルのマイクロタイタープレートの表面に吸着させる。25マイクロリットルの血清または目的のペプチドの周知のグレード濃度の標準を個々のウェルに加える。血清を第1の抗体と一緒に30分間インキュベートする。ウェル表面にコーティングされた第1の抗体が抗原を結合し、これを固定化する。抗原に対して免疫学的に特異な第2の抗体を含有する第2の溶液200マイクロリットルを、それぞれのウェルに加える。第2の抗体については、西洋ワサビペルオキシダーゼなどのマーカーまたは化学発光前駆体で標識しておく。ウェルを30分間インキュベートし、第2の抗体が抗原−第1の抗体複合体と結合して、それ自体がウェルの表面に結合した抗体−抗原−抗体「サンドイッチ」を形成できるようにする。次にウェルを慎重かつ十分に洗浄し、未結合の第2の抗体を除去する。さらに、第2の抗体標識に対する特異的基質を含有する溶液を加える。西洋ワサビペルオキシダーゼの場合、結合した第2の抗体の量に対応する色の変化がウェルに起こる。化学発光マーカーの場合、基質は非化学発光分子種から、化学発光製品に変換される。製品によって放出される光は、ウェルに存在する抗原の量に比例し、「プレートリーダー」で測定される。このプレートリーダーは、特定の波長で放出された光を測定し、その強度を記録する特別なスペクトロメータである。
ELISAアッセイII
以下のELISAアッセイを利用して、目的のバイオマーカーを生物学的試料で検出および定量化することが可能である。このアッセイは、第2の抗体をビオチン分子で標識すること以外はELISAアッセイIと同様である。抗体−抗原−抗体形成後のウェルの洗浄に続いて、西洋ワサビペルオキシダーゼに結合したストレプトアビジンを含む溶液をウェルに加え、ビオチン分子と反応させる。この特定のアッセイでは、未着色の基質が着色製品に変換される。特定波長の光の吸光度として測定した色の強度は、ウェルに存在する抗原の量に比例する。その吸光度と、既知でグレード濃度の抗原の一連の較正標準の吸光度vs.濃度のプロットとを比較をすれば、未知の濃度を推測することが可能である。
上述した組成物および応用モードは、本発明の好ましい実施形態を示す例示的なものにすぎない旨を理解されたい。当業者であれば、本発明および添付の特許請求の範囲の主旨および範囲から逸脱することなく、多数の改変例および別の配置を考案でき、このような改変例やアレンジメントも包含することを意図している。よって、本発明については、現時点で本発明の最も実用的かつ好ましい実施形態であると思われるものに関連して詳細かつ入念に説明したが、本明細書に記載の原理および概念を逸脱することなく、大きさ、物質、形状、形態、機能および動作方式、組立および用途の違いを含むが、これに限定されるものではない多数の改変をほどこし得ることは、当業者には自明であろう。

Claims (20)

  1. (a)被験者由来の生物学的試料中に存在する、アミノ酸配列の配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4またはそれらの組み合わせを含む少なくとも1つのバイオマーカーを検出し、
    (b)前記生物学的試料における少なくとも1つのバイオマーカーの量を定量化することを含む、懐妊被験者における早産の危険性を評価するための方法であって、
    上記生物学的試料が、血清、血漿、又は血液である、方法
  2. ステップ(b)が、少なくとも1つのバイオマーカーの存在量を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記生物学的試料における少なくとも1つのバイオマーカーの存在量と、早産に至らなかった被験体に由来する対照生物学的試料における少なくとも1つのバイオマーカーの対照濃度とを比較して、早産の危険性が高いことを識別することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
  4. 早産の危険性が高いことを識別することが、前記生物学的試料における少なくとも1つのペプチドの存在量が、前記対照生物学的試料における少なくとも1つのペプチドの対照濃度よりも有意に低いと判断することを含む、請求項3に記載の方法。
  5. 前記生物学的試料における少なくとも1つのバイオマーカーの存在量と、前記被験者から得た前記生物学的試料における参照分子の対照濃度とを比較し、早産の危険性が高いことを識別することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
  6. 前記少なくとも1つのバイオマーカーが、アミノ酸配列の配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4を有する少なくとも2つのペプチドである、請求項1に記載の方法。
  7. 前記少なくとも1つのバイオマーカーが、アミノ酸配列の配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4を有する少なくとも3つのペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
  8. 検出ステップ(a)がプロテオミクス技術を含む、請求項1に記載の方法。
  9. 検出ステップ(a)が、(1)抗体抗原複合体の形成を可能にする条件下で、少なくとも1つのバイオマーカーに対して免疫学的に特異な抗体に前記生物学的試料を接触させ、(2)抗体抗原複合体の形成をアッセイして、前記生物学的試料における少なくとも1つのバイオマーカーを検出することを含む、請求項1に記載の方法。
  10. 前記抗体がモノクローナル抗体を含む、請求項9に記載の方法。
  11. 前記抗体が、キャリア分子に結合またはコンジュゲートされている、請求項9に記載の方法。
  12. 前記抗体が、固相支持体に結合またはコンジュゲートされている、請求項9に記載の方法。
  13. 前記抗体抗原複合体の形成後、前記固相支持体上の抗体に結合しない前記生物学的試料の成分を除去する、請求項12に記載の方法。
  14. 前記生物学的試料が血清である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 前記生物学的試料が血液である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
  16. (a)被験者から生物学的試料を取得し、
    (b)抗体抗原複合体の形成を可能にする条件下で、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4を含むアミノ酸またはそれらの組み合わせを有する少なくとも1つのバイオマーカーに対して免疫学的に特異な少なくとも1つの抗体に前記生物学的試料を接触させ、
    (c)抗体抗原複合体の形成をアッセイして、前記生物学的試料における少なくとも1つのバイオマーカーを定量化し、
    (d)前記生物学的試料におけるバイオマーカーの量を、早産に至らなかった被験者における同じバイオマーカーの量と比較して、早産の危険性を評価することを含む、懐妊被験者における早産の危険性を評価するための方法であって、
    上記生物学的試料が、血清、血漿、又は血液である、方法
  17. 前記少なくとも1つの抗体が少なくとも1つのモノクローナル抗体を含む、請求項16に記載の方法。
  18. (a)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4を含むアミノ酸配列を有する少なくとも1つのバイオマーカーに選択的に結合可能な少なくとも1つの抗体と、
    (b)少なくとも1つのモノクローナル抗体と少なくとも1つのバイオマーカーとの間の抗体抗原複合体の形成をアッセイするために前記抗体と機能的に関連するインジケーターと、を含む、懐妊被験者における早産の危険性を評価するためのキット。
  19. 前記生物学的試料における少なくとも1つのバイオマーカーの量を定量化するよう構成されたインジケーターをさらに含む、請求項18に記載のキット。
  20. 前記抗体がモノクローナル抗体を含む、請求項18に記載のキット。
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