以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明にかかる自動変速機の制御装置を適用した自動変速機の一実施例を示す概略図である。図1に示すように、動力駆動源であるエンジン2に接続される自動変速機1は、大別すると油圧制御回路4、自動変速機構(AT)5、ロックアップクラッチ(LC)7を備えたトルクコンバータ(TC)6から構成されてなり、前記エンジン2のメインシャフトMSと前記自動変速機構5の入力軸(図示せず)との間に前記トルクコンバータ6を介在させた構成となっている。エンジン2によって発生された駆動力は、メインシャフトMS、ロックアップクラッチ7を備えたトルクコンバータ6、自動変速機構5及び出力軸OS等を介して車両の駆動輪Wへと伝達される。
前記トルクコンバータ6は、ロックアップクラッチ7を解放した状態(ロックアップオフ)において、エンジン2のメインシャフトMSと自動変速機構5の入力軸との間のトルク伝達を流体を介して行うものであり、他方ロックアップクラッチ7を滑りなく完全に係合させた状態(ロックアップオン)において、エンジン2のメインシャフトMSと自動変速機構5の入力軸とを実質的に直結して前記流体によらずに前記メインシャフトMSと前記入力軸との間で直接的にトルク伝達を行うものである。こうしたロックアップクラッチ7の係合状態/解放状態を切り換える切換制御や、複数のギヤ段(例えば前進5段の変速段)を有する自動変速機構5におけるダウンシフトやアップシフトなどの変速制御は、それぞれに対応して設けられる油圧制御回路4による油圧制御によって行われるようになっている。
ロックアップクラッチ7を係合/解放するための前記油圧制御回路4のハード構成としては、周知の構成をそのまま採用してよい。一例として、ロックアップシフトバルブ、ロックアップコントロールバルブ、リニヤソレノイドバルブ等によってロックアップクラッチ7を係合/解放する従来知られた油圧制御回路4について簡単に説明する。ロックアップシフトバルブはロックアップクラッチ7の係合/解放を切り換えるためのバルブであり、リニヤソレノイドバルブによって発生される制御油圧が所定のロックアップコントロールバルブを作動させてその圧が閾値を超えるか否かによって前記切換は行われる。前記切換え時の制御油圧をリニヤソレノイドバルブによって徐々に増減させることにより、ロックアップコントロールバルブと相俟ってロックアップクラッチ7を滑らかに(ロックアップオフからオンへの移行時にスリップさせながら)係合させたり解放させたりすることができるようになっている。
一方、ロックアップコントロールバルブは、ロックアップクラッチ7が係合されているとき(あるいは解放されているとき)の締結圧をそのスリップ量が所定の目標値となるように制御するためのバルブであり、前記締結圧の制御はリニヤソレノイドバルブによって発生される制御油圧を制御用パイロット圧として利用することによって行われる。したがって、リニヤソレノイドバルブの制御油圧を制御することによって、エンジンの出力トルクに応じた必要且つ十分な油圧でロックアップクラッチ7を(滑り)係合させることができる。このように、前記油圧制御回路4は、ロックアップクラッチ7を単に係合/解放する切換制御を行うことができるだけでなく、ロックアップクラッチ7をスリップ状態に維持するスリップ制御を行うこともできるようになっている。こうした前記油圧制御回路4による前記ロックアップクラッチ7の切換制御やスリップ制御などは、ECU8からの指示によって行われる。
ECU8は、CPU,ROM,RAM及び入出力インタフェース等を含んで構成されてなり、RAMの一時記憶機能を用いながらROMに格納されている各種制御プログラムに従って所定の機能を実現するマイクロコンピュータである。この実施例において、前記ECU8は本発明に係る自動変速機の制御装置として機能するものであり、後述するロックアップクラッチの切換制御ハンチング防止処理(図5及び図6参照)などのコンピュータプログラムを実行することによって、例えば予め複数の変速段毎に設定されているLC制御特性を複数有するLCマップ(後述する図3参照)に基づいて前記ロックアップクラッチ7の切換制御を行うよう、前記油圧制御回路4に対して指示することのできるようになっている。こうした処理の詳細については後述する。また、従来知られているように、前記ECU8は変速マップ(図3又は図7参照)に基づいて自動変速機構5の変速制御を行うよう、前記油圧制御回路4に対して指示することのできるようにもなっている。
前記ECU8には、車両の走行状態を反映させて自動変速機構5の変速制御やロックアップクラッチ7の切換制御を実行するために、例えば車速検知用として図示を省略したカウンターシャフトの回転速度を検出する回転速度センサ3からの車速に関連した信号(車速信号と呼ぶ)や、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ9からのアクセルペダル開度信号などの各種信号が入力されるようになっている。勿論、ここに記載した以外の信号が入力されていてもよい。
なお、本発明に係る自動変速機の制御装置は、上記したECU8のようなコンピュータプログラムを実行するものに限らず、専用のハードウェアで構成されたものであってもよいことは勿論である。
次に、上述したECU8の詳細について図2を用いて説明する。図2は、自動変速機の制御装置(ECU8)のブロック図である。図2に示すように、この実施例において前記ECU8は、変速制御手段A、LCオン切換線変更手段B、ロックアップクラッチ切換判定手段Cを有する。
変速制御手段Aは、例えば図3(又は図7)に示すような予め設定されている変速マップから、実際の車両の走行状態に従う車速とエンジン負荷(詳しくはエンジン負荷を反映しうるアクセルペダル開度)とに基づいて自動変速機構5の変速すべき変速段を判断し、該判断した変速段にダウンシフト又はアップシフトする変速制御を自動変速機構5で実行するよう、前記自動変速機構5を油圧制御する油圧制御回路4に対して変速制御信号を出力する。また、変速制御手段Aは前記変速制御信号の出力に伴い、少なくとも変速後の変速段をシフト段信号としてLCオン切換線変更手段Bに対して出力する。
LCオン切換線変更手段Bは、LCマップ記憶手段Dに予め記憶されているLCマップ(図3参照)を読み出し、該読み出したLCマップに規定されている複数のLC制御特性の中から前記変速制御手段Aから出力されるシフト段信号に対応する変速段のLC制御特性を特定し、該特定したLC制御特性のうちロックアップオン判断を行うためのLCオン切換線をエンジン負荷(詳しくはエンジン負荷を反映しうるアクセルペダル開度)に応じて一部変更するものである。このLCオン切換線の一部変更は、車両を停止状態から発進させて前記LCマップに規定されたLCオン切換線(変更前)及びLCオフ切換線に従って、設定通りの車速にて最初のロックアップオン及びロックアップオフが行われた後に実行される。LCオン切換線変更手段Bは前記特定したLC制御特性(変更後を含む)をロックアップクラッチ切換判定手段Cに対して出力し、ロックアップクラッチ切換判定手段Cでは該LC制御特性に従ってロックアップクラッチの切換制御を実行する。前記LCオン切換線変更手段Bは、第1変更手段B1と第2変更手段B2とを含む。
ここで、上記LCマップ記憶手段Dに記憶されてなり、本実施例においてロックアップクラッチ7の切換制御のために用いられるLCマップ(変更前の元のLCマップ)について、図3を用いて説明する。図3は、本発明にかかる自動変速機の制御装置で用いるLCマップの一実施例を示す図である。ただし、ここでは図示の都合上、第1変速段〜第3変速段毎に設定される1組のLCオン切換線とLCオフ切換線とからなる複数のLC制御特性を同時に示している。また、この図3に示すLCマップにおいても自動変速機の変速制御で用いられる予め設定された変速マップを同図に示している。この変速マップについては既に説明済みの従来のLCマップ(図7参照)と同様であることから、ここでの説明を省略する。
図3に示したLCマップにおいては、LCオフ切換線1とLCオン切換線1とを1組とする第1のLC制御特性、LCオフ切換線2とLCオン切換線2とを1組とする第2のLC制御特性、LCオフ切換線3とLCオン切換線3とを1組とする第3のLC制御特性の合計3つを示している。例えば前記第1のLC制御特性は第1変速段時におけるロックアップクラッチ切換制御のために、前記第2のL制御特性は第2変速段時におけるロックアップクラッチ切換制御のために、前記第3のLC制御特性は第3変速段時におけるロックアップクラッチ切換制御のために用いられる。なお、第4変速段用のLC制御特性は図7に示した従来どおりであり、また第5変速段用のLC制御特性は特に記載をしていないがこれも従来どおりであることからここでは図示を省略している。
図7に示した従来のLCマップと比較すると、図3に示したLCマップは従来に比べて低車速側にLC制御特性を設定したものとなっており、またそれらのLC制御特性を形成するLCオン切換線とLCオフ切換線とは従来よりもかなり狭いヒステリシス(例えば、車速で数KM程度あるいはアクセルペダルを僅かに操作した程度)を持たせるように互いが設定されている。これは、低車速時(低変速段時)においても積極的にロックアップクラッチ7をオンして燃費をよくしようとするならば、図示のような狭いヒステリシスの制御特性を必要とすることによる。なお、この図3に示したLCマップによれば、上記した車両を停止状態から発進させることに応じて最初のロックアップオン及びロックアップオフが行われるのは、LCオフ切換線1とLCオン切換線1とを1組とする第1のLC制御特性ということになる。
次に、前記LCオン切換線変更手段BによるLCオン切換線の一部変更について具体例を用いて説明する。図4は、LCマップにおけるLCオン切換線の一部変更について説明するためのLCマップの一部を拡大して示す一部拡大図である。
第1変更手段B1は例えば図4(a)に示すように、エンジン負荷が所定値以下である場合(具体的には、予め所定のクルーズ線に基づき決められる低車速側における変移の小さいほぼ一定のアクセルペダルクルーズ開度(基準値X)よりもアクセルペダル開度が小さい場合)に、LCオフ切換線1を跨いだ時点での車速Vmに対応して予め設定されている車速分(速度方向ヒスdv分)だけ、元のLCオン切換線1から高車速側に離れた位置(Vm+dv)に、元のLCオン切換線1の一部を変更する(変更後のLCオン切換線1´参照)。こうすることで、ここに示す例では、変更前のLCオン切換線1に従ってはLCオン領域であった図中において斜線で示すLCオフ切換線1と変更後のLCオン切換線1´とで囲まれる一部範囲が、変更後のLCオン切換線1´に従ってはLCオン禁止領域に再設定されることとなる。そして、この場合には現在の車速が前記設定されたLCオン禁止領域内にあるか否かによって、LCオンの許可又は禁止が判断される(後述の図5及び図6参照)。
他方、第2変更手段B2は例えば図4(b)に示すように、エンジン負荷が所定値以上である場合(具体的には、上記基準値Xよりもアクセルペダル開度が大きい場合)に、LCオフ切換線1を跨いだ時点での車速Vmに基づき算出される車速分(速度方向ヒスdv分)だけ元のLCオン切換線1から高車速側に離れた第1ポイント(Vm+dv,APm)と、LCオフ切換線1を跨いだ時点でのアクセルペダル開度APmに基づき算出されるアクセルペダル開度分(アクセル開度方向ヒスdAP分)だけ元のLCオン切換線1から低アクセルペダル開度側に離れた第2ポイント(Vm,APm−dAP)とを通るように、元のLCオン切換線1の一部を変更する(変更後のLCオン切換線1´参照)。ここで、前記第1ポイントと第2ポイントとを通る一部変更後のLCオン切換線1´は、次に示す数1により表すことができる。
(数1)
APAT=(VLVH−Vm)*(dAP/dV)+(APm−dAP)
ここで、APATはアクセルペダル開度であり、VLVHは車速である。
こうすることで、変更前のLCオン切換線1に従ってはLCオン領域であった図中において斜線で示す変更前のLCオン切換線1と変更後のLCオン切換線1´とで囲まれる一部範囲が、変更後のLCオン切換線1´に従ってはLCオン禁止領域に再設定されることとなる。そして、この場合には上記数1に基づく現在のアクセルペダル開度に対する車速が前記設定されたLCオン禁止領域内にあるか否かによって、LCオンの許可又は禁止が判断される(後述の図5及び図6参照)。
なお、前記アクセルペダルクルーズ開度(基準値X)によって分けられる2つの領域(図3における領域A及び領域B)は、LC制御特性がアクセルペダル開度方向に変化しない領域Aと、LC制御特性がアクセルペダル開度方向に変化する領域Bとに分けられればよい。そのような基準値Xであれば前記アクセルペダルクルーズ開度に限らない。
図2の説明に戻って、ロックアップクラッチ切換判定手段Cは、前記LCオン切換線変更手段Bから出力されるLC制御特性に基づきロックアップクラッチの切換制御を実行する。ロックアップクラッチ切換判定手段Cは、第1判定手段C1と第2判定手段C2を含む。第1判定手段C1は、前記LC制御特性のうちのLCオフ切換線に基づいて係合状態にあるロックアップクラッチを解放状態へと切り換える判定を行い、該判定に基づきロックアップクラッチを解放する制御を行うよう、油圧制御回路4に対してロックアップクラッチ制御信号を出力する。
他方、第2判定手段C2は、前記LC制御特性のうちのLCオン切換線に基づいて解放状態にあるロックアップクラッチを係合状態へと切り換える判定を行い、該判定に基づきロックアップクラッチを係号する制御を行うよう、油圧制御回路4に対してロックアップクラッチ制御信号を出力する。ただし、第2判定手段C2は解放状態から係合状態へとロックアップクラッチを切り換える判定を行うためのLCオン切換線が、前記第1変更手段B1又は第2変更手段B2により変更されている場合には、変更後のLCオン切換線に基づき前記判定を行う。すなわち、上記したLCオン禁止領域の再設定に伴うLCオンの許可又は禁止を判断する。
次に、ロックアップクラッチの切換制御ハンチングの発生を防止する処理について、図5及び図6を用いて具体的に説明する。ここでは図示の都合上、一連の処理であるロックアップクラッチの切換制御ハンチング防止処理を前半処理と後半処理とに分けて図示する。図5は、ロックアップクラッチの切換制御ハンチング防止処理の前半処理の一実施例を示すフローチャートである。図6は、上記前半処理に後続するロックアップクラッチの切換制御ハンチング防止処理の後半処理の一実施例を示すフローチャートである。
図5に示すように、ステップS1は、停止状態から発進後の最初のLCオンか否かを判定する。停止状態から発進後の最初のLCオンであると判定した場合には(ステップS1のYES)、LCオン許可を指示して当該処理を終了する(ステップS2)。これにより、車両の停車状態からの発進後における最初のロックアップオンは、図3に示した元のLCマップにおけるLCオン切換線1に従って設定どおりの車速により行われる。また、図3に示すようにLCオン切換線1と第1変速段から第2変速段へのシフトアップ線とは同じ制御特性を持つことから、最初のロックアップオンは第1変速段から第2変速段へのアップシフトと共に行われる。
停止状態から発進後の最初のLCオンでないと判定した場合には(ステップS1のNO)、車両の走行状態が変速段によって特定される図3に示したLCオフ切換線のいずれかを図中右から左側へと跨いだことにより実行されるロックアップクラッチの切換制御によって、ロックアップクラッチ7がロックアップオンからロックアップオフへと切り換えられたか否かを判定する(ステップS3)。すなわち、オンされたロックアップクラッチが一旦はオフされたか否かを判定する。ロックアップオンからロックアップオフへと切り換えられたと判定した場合には(ステップS3のYES)、タイマのセットつまり計時の開始と各種フラグ及び変数の初期化を行う(ステップS4)。各種フラグ及び変数の初期化としては、LCマップにおける該当のLCオン切換線を車速方向及びアクセルペダル開度方向に所定分ラッチするか否か(つまりは一部変更するか否か)を決定する「車速/開度ラッチフラグ」に「0(ラッチしない)」を、少なくとも車両の走行状態がLCオフ切換線を跨いだ時点における車速を保持する「車速跨いだ変数」に「0」を、少なくとも車両の走行状態がLCオフ切換線を跨いだ時点のアクセルペダル開度を保持する「開度跨いだ変数」に「0」を、ロックアップクラッチ7がロックアップオフへと切り換えられたことを報知する「LCオフしたフラグ」に「1(ロックアップオフした)」をセットする。
ステップS5は、「LCオフ直後にダウンフラグ」が「1」であるか否かを判定する。この「LCオフ直後にダウンフラグ」は後述するように(ステップS9参照)、変速前の変速段に対応するLCマップに従ってロックアップオンの状態でダウンシフトされたか、あるいはロックアップオフへの切り換え直後にダウンシフトされたかを報知する(ロックアップオンの状態のままあるいはロックアップオフへの切り換え直後にダウンシフトされた場合に「1」がセットされる)ためのフラグである。当該フラグは、ダウンシフト開始時においてロックアップオン状態であった場合と直前にロックアップオフ状態になった場合とで同じ制御を行いたいがためにセットされる。
「LCオフ直後にダウンフラグ」が「1」であると判定した場合には(ステップS5のYES)、ダウンシフト終了か否かを判定する(ステップS14)。ダウンシフトが終了していないと判定した場合には(ステップS14のNO)、図6に示すステップS27の処理へジャンプする。ダウンシフトが終了したと判定した場合には(ステップS14のYES)、後述するステップS15〜ステップS18さらには図6に示すステップS19の処理を順次に実行する。
「LCオフ直後にダウンフラグ」が「1」でないと判定した場合には(ステップS5のNO)、ダウンシフト制御であるか否かを判定する(ステップS6)。ダウンシフト制御でないと判定した場合には(ステップS6のNO)、ステップS10の処理へジャンプする。他方、ダウンシフト制御であると判定した場合には(ステップS6のYES)、変速前の変速段に対応するLCマップにおいて車両の走行状態がLCオン領域にあるか否かを判定する(ステップS7)。LCオン領域にあると判定した場合には(ステップS7のYES)、ステップS9の処理を実行する。LCオン領域にないと判定した場合には(ステップS7のNO)、タイマが予め設定しておいた所定時間経過したか否かを判定する。
タイマが予め設定しておいた所定時間経過していないと判定した場合には(ステップS8のNO)、ステップS9の処理を実行する。ステップS9は、「LCオフ直後にダウンフラグ」に「1」をセットする。一方、タイマが予め設定しておいた所定時間経過したと判定した場合には(ステップS8のYES)、ステップS10の処理を実行する。
ステップS10は、「LCオフしたフラグ」が「1」であるか否かを判定する。「LCオフしたフラグ」が「1」でない場合には(ステップS10のNO)、図6に示すステップS24の処理へジャンプする。「LCオフしたフラグ」が「1」である場合には(ステップS10のYES)、車両の走行状態が変速段に対応するLCマップにおけるLCオフ切換線を図中左から右へと跨いだか否かを判定する(ステップS11)。すなわち、ここでは通常のロックアップオフ判断を行う向きとは反対側に、車両の走行状態がLCオフ切換線を跨いだか否かを判定する。
LCオフ切換線を跨いでいないと判定された場合には(ステップS11のNO)、「速度/開度ラッチフラグ」に「0」をセットした上で(ステップS13)、図6に示すステップS24の処理へジャンプする。LCオフ切換線を跨いだと判定された場合には(ステップS11のYES)、「速度/開度ラッチフラグ」が「1」であるか否かを判定する(ステップS12)。「速度/開度ラッチフラグ」が「1」であると判定された場合には(ステップS12のYES)、図6に示すステップS19の処理を実行する。「速度/開度ラッチフラグ」が「1」でないと判定された場合には(ステップS12のNO)、ステップS15〜ステップS18の処理を実行してからステップS19の処理を実行する。
ステップS15は、「速度/開度ラッチフラグ」に「1」をセットする。ステップS16は、「速度跨いだ変数」に車両の走行状態がLCオフ切換線を跨いだ時点での車速(又はダウンシフト終了時の車速)を、「開度跨いだ変数」に車両の走行状態がLCオフ切換線を跨いだ時点でのアクセルペダル開度(又はダウンシフト終了時のアクセルペダル開度)をそれぞれセットする。これら「速度跨いだ変数」及び「開度跨いだ変数」は、一部変更後のLCオン切換線を規定するために参照される。ステップS17は、前記「速度跨いだ変数」にセットした車速に基づき、速度方向ヒスと開度方向ヒスとをそれぞれ予め用意されたデータマップを検索して決定する。ステップS18は、「LCオフ直後にダウンフラグ」に「0」をセットする。
図6に示すように、ステップS19はアップシフト制御されたか否かを判定する。アップシフト制御されたと判定された場合には(ステップS19のYES)、ステップS24の処理へジャンプする。アップシフト制御されていないと判定された場合には(ステップS19のNO)、現在のアクセルペダル開度(APAT)が予め決められたアクセルペダルクルーズ開度(基準値X)以上であるか否かを判定する(ステップS20)。
現在のアクセルペダル開度(APAT)がアクセルペダルクルーズ開度(基準値X)以上であると判定した場合には(ステップS20のYES)、LCオンの開度方向ヒスと速度方向ヒスとをそれぞれ算出してセットする(ステップS21)。この場合、車両の走行状態が図3に示される領域B内にあることから、図4(b)に示すようにしてLC切換線の一部が変更される。一方、現在のアクセルペダル開度(APAT)がアクセルペダルクルーズ開度(基準値X)以上でないと判定した場合には(ステップS20のNO)、速度方向ヒスのみにデータをセットする(ステップS22)。前記セットするデータは、上記ステップS17によって決定された速度方向ヒスである。この場合、車両の走行状態は図3に示される領域A内にあることから、図4(a)に示すようにしてLC切換線の一部が変更される。
ステップS23は、車両の走行状態が図4に示されるようなLCオン禁止領域にあるか否かを判定する。LCオン禁止領域にあると判定した場合には(ステップS23のYES)、LCオン禁止を指示して(ステップS28)当該処理を終了する。LCオン禁止領域にないと判定した場合には(ステップS23のNO)、LCオン領域にあるか否かを判定する(ステップS24)。LCオン領域にないと判定した場合には(ステップS24のNO)、当該処理を終了する。LCオン領域にあると判定した場合には(ステップS24のYES)、LCオン許可を指示する(ステップS25)と共に、タイマのセットと各種フラグ及び変数のクリアを実行する(ステップS26)。ここでは、「車速/開度ラッチフラグ」、「車速跨いだ変数」、「アクセルペダル開度跨いだ変数」、「LCオフしたフラグ」、「LCオフした直後にダウンフラグ」それぞれに対して「0」をセットする。
ステップS27は、「LCオフしたフラグ」が「1」であるか否かを判定する。「LCオフしたフラグ」が「1」でないと判定した場合には(ステップS27のNO)、当該処理を終了する。「LCオフしたフラグ」が「1」であると判定した場合には(ステップS27のYES)、上記したステップS28の処理を実行してLCオン禁止を指示する。
上記処理によれば、車両の停車状態からの発進後に、最初のロックアップオンは図3に示した元のLCマップにおけるLCオン切換線1に従って設定どおりの車速により行われる。そして、オンされたロックアップクラッチが一旦オフされた後の所定の短い時間内での再度のロックアップオンは、エンジン負荷に応じて前記LCマップ記憶手段Dに記憶したLCマップにおけるLCオン切換線の一部を変更した変更後のLCオン切換線によって判断されるようになっている。このLCオン切換線の一部変更は、本来ならば(元のLC制御特性では)LCオン領域であった一部領域をLCオン禁止領域に再設定することにより(図4参照)、元のLC制御特性におけるロックアップクラッチオフ切換線とロックアップクラッチオン切換線との間隔を拡げる(つまりはヒステリシスを拡大する)ものである。
すなわち、図3に示したLCマップを所定のアクセルペダルクルーズ開度(基準値X)によって2つの領域(図3における領域A及び領域B)に分け、各領域毎に異なる態様でLCオン切換線の一部変更を行い、これに基づきロックアップオン制御を行う。基準値Xより小さいアクセルペダル開度の領域Aでは、図4(a)に示したように、車速方向のみにヒステリシスを付与するように元のLC切換線1を変更し、変更後のLC切換線1´に基づきロックアップオン制御を行うか否かを判断する。他方、基準値Xより大きいアクセルペダル開度の領域Bでは、図4(b)に示したように、車速方向及びアクセルペダル開度方向の両方にヒステリシスを付与するように元のLC切換線1を変更し、変更後のLC切換線1´に基づきロックアップオン制御を行うか否かを判断する。こうすることで、低変速段時においてロックアップクラッチ切換制御を行う場合にも、ロックアップクラッチの切換制御ハンチングが発生することのないようにできる。
以上説明したように、本発明にかかる自動変速機の制御装置(ECU8)では、エンジン負荷と車速とに基づくロックアップクラッチ制御特性を複数の変速段全てにそれぞれ対応させて記憶する。これにより、変速段が低変速段にある時においてもロックアップクラッチ7を係合状態へと制御することができ、低車速時における燃費の向上を実現することができる。
また、ロックアップクラッチ7が係合状態から解放状態とされた後のロックアップクラッチオフ切換線を跨いだ時点のエンジン負荷に従って、前記ロックアップクラッチオン切換線を異なる2通りの態様で変更し、該変更後のロックアップクラッチオン切換線に基づき解放状態にあるロックアップクラッチ7の係合状態への切り換えを判定する。これによれば、低車速時における燃費の向上を目的として記憶されるロックアップクラッチ制御特性においてロックアップクラッチオフ切換線とロックアップクラッチオン切換線との間隔を狭く設定せざるを得ない(つまりはヒステリシスが少ない)場合であっても、ロックアップクラッチオン切換線の位置を変更することでロックアップクラッチオフ切換線とロックアップクラッチオン切換線との間隔を拡げられる(つまりはヒステリシスを大きくできる)ことから、ロックアップクラッチの切換制御時における頻繁なハンチングの発生を防止することができ乗り心地の良さを実現することができるようになる。
以上、図面に基づいて実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な実施形態が可能であることは言うまでもない。例えば、上述した実施例においては、エンジン負荷を反映するパラメータとしてアクセルぺダル開度を採用したがこれに限らず、例えばスロットル開度とエンジン回転速度とによってエンジン負荷を推定するなど他の方法を採用してもよい。