以下、具体的な本発明の実施の形態について説明するが、これはあくまでも本発明を例示するに留まり、本発明を限定するものではない。
本発明は、核酸含有試料から環状核酸のみを選択的かつ優先的に単離、精製する方法を提供する。具体的には、野生型のSSBタンパク質のアミノ酸配列中の特定のアミノ酸に改変を施した改変型SSBタンパク質の存在下で鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅反応を行うものである。増幅時において、ゲノムDNA、RNA、その他の核酸不純物等の線状DNAよりも、環状核酸の増幅が選択的かつ優先的に進行することから、核酸含有試料から環状核酸を単離、精製することができるものである。本発明の原理を、図1に模式的に示す。
なお、本明細書において、単に「SSBタンパク質」と称する場合、本発明で使用される改変型SSBタンパク質の基礎となり得、意図的若しくは非意図的な改変が生じている改変部位を有しないSSBタンパク質を指す。したがって、改変型SSBタンパク質と明確に区別するために使われる所謂「野生型SSBタンパク質」とは同義であるものとする。
本発明において、標的となる環状核酸は、ポリヌクレオチド鎖の5´末端と3´末端がリン酸ジエステル結合で結合した環状構造を有する限り、特に制限はない。したがって、核酸鎖の数に対する制限はなく、一本鎖、多重鎖の別は問わないが、好ましくは二本鎖核酸である。また、その起源、鎖長及び塩基配列に対する制限もない。具体的には、ミトコンドリアDNAや葉緑体DNA、及びプラスミドDNA或いは原核生物やウイルスのゲノムDNAのうち環状構造をとるものが例示される。しかしながら、これに限定されるものではなく、環状構造を有する核酸である限り何れも標的となる。ウイルスゲノムDNAとしては、φX174ファージ、M13ファージのゲノムDNA等の一本鎖環状核酸、SV40、ポリオーマウイルス、パピローマウイルスの二本鎖環状核酸の何れを含む。また、更に、DNA断片を、プラスミド、ファージ等に挿入したもの、当該技術分野で常用されている核酸自動合成機等を使用して合成された人工的産物等であっても、環状構造を有する限り何れも標的核酸となり得る。
ここで、核酸含有試料としては、標的環状核酸を含む、若しくは標的環状核酸を含む可能性のある試料である限り、特に制限はない。したがって、生体試料、環境試料、食品等のほか、DNA合成技術等によって構築された人工核酸産物試料をも含む。生体試料としては、動物由来の細胞培養物、組織、血液、尿、糞、唾液等、及び植物由来の根、茎、葉、花、果実等例示され、また、細菌、ウイルス等由来の試料をも核酸含有試料として本発明の対象とできる。環境試料として土壌、地下水、河川水、湖沼水、海水等が、食品として肉、卵、加工食品等が例示される。
核酸含有試料は、直接、本発明の方法に適用してもよいが、標的環状核酸を顕在化せしめることを目的として、公知の核酸抽出等の処理を行った後に適用してもよい。例えば、検体から細胞、組織、細菌、ウイルス等を分離した後、SDS等の界面活性剤処理、リゾチーム及びプロテインナーゼ等の酵素処理、熱処理、超音波処理、カオトロピック塩での処理等、或いはこれらの組み合わせにより細胞等を破壊し、核酸を分離したものが例示できる。
そして、本発明において使用される改変型SSBタンパク質としては、野生型SSBタンパク質のアミノ酸配列中の特定のアミノ酸に改変を施すことにより、鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を付与された改変型SSBタンパク質を指す。つまり、本発明の改変型SSBタンパク質は、野生型SSBタンパク質のアミノ酸配列において、特定のアミノ酸に改変が生じている改変部位を有し、かつ野生型SSBタンパク質と比較して鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅反応系において鋳型核酸に対する特異性が向上するとの性質を有する。したがって、鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現する、すべての改変型SSBタンパク質が含まれる。
「鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能」とは、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応において、鋳型核酸に関連のない非特異的増幅がほとんど認められず、かつ、鋳型核酸を高い収率で増幅できることを意味する。そして、好ましくは、鋳型核酸の増幅効率を5〜10倍向上させ得る機能を意味する。例えば、下記で詳細に説明する配列認識番号3、5、8若しくは9に表すアミノ酸配列を有するタンパク質が有する、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における、鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能と実質的に同等であることをいう。
更に、当該改変型SSBタンパク質としては、そのアミノ酸配列中に、前記野生型SSBタンパク質の鎖置換ポリメラーゼとの相互作用に変化を生じさせるような改変を有しているものであることが好ましい。ここで、「鎖置換ポリメラーゼとの相互作用」とは、SSBタンパク質−鎖置換ポリメラーゼ、高度好熱菌SSBタンパク質−DNA、若しくは高度好熱菌SSBタンパク質−鎖置換ポリメラーゼ−DNAとの相互作用を意味する。ここで、DNAとは一本鎖DNAであり、プライマー若しくは鋳型核酸の一本鎖部分の何れか一方、若しくは、その両方を意味する。ここで、大腸菌、Sulfolobus sulfataricus等由来のSSBタンパク質が、一本鎖DNAのみならず、プライマーゼ、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼII等のポリメラーゼにも結合することが報告されている(例えば、Richard DJ他著、Nucleic Acids Research、2004年2月、第32巻、第3号、第1065〜1074頁、Sun W他著、J. Bacteriol.、1996年12月、第178巻、第23号、第6701〜6705頁、Fradkin GE他著、Mol. Biol. (Mosk)、1988年1〜2月、第22巻、第1号、第111〜116頁等を参照のこと)。かかる文献より、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅系にSSBタンパク質を添加した場合、SSBタンパク質は鎖置換反応を補助する一方で、ポリメラーゼ活性の低下による増幅効率の低下という望ましくない作用を奏することが推定される。そのため、改変型SSBタンパク質としては、SSBタンパク質が元来有するポリメラーゼに対する結合能を有する領域におけるアミノ酸配列が崩壊したものが好ましく例示される。そして、上記した「SSBタンパク質の鎖置換ポリメラーゼとの相互作用に変化」には、SSBタンパク質が元来有している鎖置換ポリメラーゼに対する結合能が低下、若しくは消失するような変化が含まれ、かかる鎖置換ポリメラーゼとの相互作用に変化により鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得るものと推定される。
また、当該改変型SSBタンパク質としては、そのアミノ酸配列中に前記野生型SSBタンパク質のDNA結合能に変化を生じさせるような改変を有しているものであることが好ましい。等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能とDNAに強く結合する機能には相関関係があることが認められ、野生型SSBタンパク質はDNAに強く結合することから鋳型核酸と望ましくない結合を形成し、核酸の増幅効率が低下する場合があると推定される。そのため、改変型SSBタンパク質としては、SSBタンパク質が元来有するDNAに対する結合能を有する領域におけるアミノ酸配列が崩壊したものが好ましく例示される。そして、上記した「SSBタンパク質のDNA結合能に変化」には、野生型SSBタンパク質が元来有しているDNAに対する結合能が低下、若しくは消失するような変化が含まれ、かかるDNAに対する結合力を適切に制御することにより鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得るものと推定される。
改変型の基礎となる野生型SSBタンパク質は、自然界より分離されたSSBタンパク質のアミノ酸配列、及びSSBタンパク質をコードする塩基配列が、意図的若しくは非意図的に改変が生じている改変部位を有していないものである。高度好熱菌のSSBタンパク質であることが好ましく、サーマス(Thermus)属、サーモコッカス(Thermococcus)属、ピロコッカス(Pyrococcus)属、サーモトーガ(Thermotoga)属等由来の高度好熱菌のSSBタンパク質が例示される。特には、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)等に由来する高度好熱菌のSSBタンパク質が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく、公知のSSBタンパク質を改変のための基礎とすることができる。
なお、改変型SSBタンパク質の構築のための好適な基礎となり得るSSBタンパク質の配列情報として、サーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列を配列認識番号2に、該SSBタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列認識番号1に示す(GenBank:AJ564626)。また、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列を配列認識番号7に、該SSBタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列認識番号6に示す(GenBank:AF276705)。
「改変」とは、改変の基礎となるタンパク質のアミノ酸配列のうち、1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および付加の少なくとも一つからなる改変が生じていることを意味する。そして、「1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも一つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする遺伝子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入又は付加することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、挿入又は付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。
このような改変は、人為的に導入することもできるし、また、自然界において非意図的に生じることもある。本発明における改変型SSBタンパク質には、これら双方の改変型が含まれる。
また、改変部位は、鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を付与される限り、特に制限はない。具体的には、野生型SSBタンパク質のカルボキシル末端(以下、「C末端」と略する場合がある)領域において改変が生じていることが好ましい。ここで、C末端領域とは、厳格な境界を有するものではないが、サーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質を例にとると、当該タンパク質の230番目のプロリン付近から263番目のフェノールアラニンからなる領域を指す。また、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質を例にとると、当該タンパク質の231番目のプロリン付近から264番目のフェノールアラニンからなる領域を指す。
また、少なくとも3個以上連続するプロリンを有するように前記野生型SSBタンパク質のアミノ酸配列が改変されたものも例示される。つまり、本発明で使用される改変型SSBタンパク質は、そのアミノ酸配列中に、配列Pro−Pro−Proを有するものが好適に例示され、更に、かかる配列の前後に1若しくは数個のプロリン残基を有するものであってもよい。
特には、野生型のサーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列を表す配列番号2の255番目のフェニールアラニン、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列を表す配列番号7の256番目のフェニールアラニンが他のアミノ酸に置換されたものが本発明の使用に好ましい。そのような他のアミノ酸としては、プロリンが好適に例示される。野生型のサーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列における255番目のフェニールアラニンをプロリンに置換した改変型SSBタンパク質のアミノ酸配列を配列認識番号3に示す。また、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列における256番目のフェニールアラニンをプロリンに置換した改変型SSBタンパク質のアミノ酸配列を配列認識番号8に示す。しかしながら、これに限定するものではなく、例えば、フェニールアラニンを他の芳香族アミノ酸への置換、若しくは芳香族アミノ酸以外のアミノ酸への置換、また、他の非極性アミノ酸への置換、若しくは極性アミノ酸への置換、更にまた、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸への置換等が含まれる。
また、SSBタンパク質のアミノ酸配列に対して、当該タンパク質のC末端領域が欠失しているアミノ酸配列を有するものも好適に例示される。例えば、サーマス・サーモフィラス由来のSSBのタンパク質のアミノ酸配列を表す配列番号2の230番目のプロリン以下のアミノ酸が欠失したものが挙げられる。即ち、サーマス・サーモフィラス由来のSSBのタンパク質のアミノ酸配列を表す配列番号2の1〜229番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するタンパク質であり、そのアミノ酸配列を配列認識番号5に示すと共に、それをコードする塩基配列を配列認識番号4に示す。サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質を表す配列番号7の231番目のプロリン以下のアミノ酸が欠失したものが挙げられる。即ち、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質を表す配列番号2の1〜230番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するタンパク質であり、そのアミノ酸配列を配列認識番号9に示す。さらに、鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅反応系において鋳型核酸の増幅効率に向上し得る機能を発現する限りは、配列認識番号3、5、8及び9に示すアミノ酸配列上に1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加及び挿入の少なくとも一つからなる改変が生じている改変部位を有する改変部位を有するアミノ酸配列からなるタンパク質も含まれる。
ここでは、サーマス・サーモフィラス、及びサーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質の場合について例示した。しかしながら、これらの高い配列類似性を有する他種のSSBタンパク質を改変の基礎とした場合には、上記置換位置及び切断位置に相当する位置で改変を施したSSBタンパク質が、これらの改変体と同様の機能を有し本発明の使用に適することが容易に導かれる。
本発明に使用される改変型SSBタンパク質は公知の方法によって取得することができる。例えば、改変の基礎となるSSBタンパク質をコードする遺伝子に対して改変を施し、得られた改変遺伝子を用いて宿主細胞を形質転換し、かかる形質転換体の培養物からSSBタンパク質を採取することによって取得することができる。
かかるSSBタンパク質をコードする遺伝子は、公知の遺伝子クローニング技術を用いて取得することができる。また、GenBank等の公知のデータベースより検索することによって取得することができる遺伝子情報に基づいて、常法により合成することによっても取得することができる。例えば、ホスホルアミダイト(phosphoramidite)法等のDNA合成技術を利用することができる。
SSBタンパク質をコードする遺伝子に改変を施す方法としては、特に制限はなく、当業者に公知の改変タンパク質作製のための変異導入技術を利用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR法等を利用して点変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。例えば、大腸菌由来のSSBタンパク質に対する変異導入に関する公知文献(例えば、Chase JW他、The Journal Biological Chemistry、259(2)、第805頁〜第814頁、1984年1月25日)を参照することができる。また、市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標) Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製))を利用してもよい。また、一旦、目的とする改変型SSBタンパク質のアミノ酸配列が定まれば、それをコードする適当な塩基配列を決定することができる。かかる配列情報に基づいて、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して改変型SSBタンパク質をコードする遺伝子を合成することができる。
このような改変型SSBタンパク質をコードする遺伝子として、具体的には、配列認識番号3、5、8及び9に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAが例示される。また、鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅反応系において鋳型核酸の増幅効率に向上し得る機能を発現するタンパク質をコードする限りは、配列認識番号3、5、8及び9のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなる遺伝子も含まれる。ここで、ストリンジェントな条件とは、塩基配列において、60 %以上、好ましくは70 %、より好ましくは80 %以上、特に好ましくは90 %以上の同一性を有するDNA同士が優先的にハイブリダイズし得る条件をいう。ストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーションの反応や洗浄の際の塩濃度及び温度を適宜変化させることによって調製することができる。例えば、Sambrook他著、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor、New York等に記載のサザンハイブリダイゼーションのための条件等が挙げられる。
より具体的には、50 %(v/v) ホルムアミド、5×SSC中で、42 ℃にて16時間のハイブリダイゼーションが例示される。ここで、1×SSCは、0.15 M NaCl、0.015 M クエン酸ナトリウム、pH 7.0である。また、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.1〜1.0 %(v/v)、変性非特異的DNAを0〜200 μl含んでいてよい。そして、洗浄条件としては、2×SSC、0.1 % SDS中の5℃にて5分間の洗浄、及び0.1×SSC、0.1 % SDS中の65℃にて30分間〜4時間の洗浄が例示される。また、これらと同等の条件も当業者は容易に理解できるであろう。
得られた改変遺伝子を用いて宿主細胞を形質転換するためには、公知の大腸菌等の宿主・発現ベクターシステムを利用することができる。例えば、本発明の使用に適した改変型SSBタンパク質を安定に増幅できるDNAベクターに連結させ、当該改変型SSBタンパク質を効率的に発現できる大腸菌等の宿主に導入し、形質転換体を作製する。
利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、本発明の使用に適した改変型SSBタンパク質をコードする核酸分子を挿入できる少なくとも一つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pET系、pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。
そして、組換えベクターは、当該改変型SSBタンパク質をコードする核酸分子がその機能を発現できるように組み込まれている。したがって、核酸分子の機能発現に必要な他の既知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、例えば、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく既知のプロモータ配列を利用できる。更に、本発明の組換えベクターには、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性などの遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
ベクターへの当該SSBタンパク質をコードする核酸分子等の挿入は、例えば、適当な制限酵素で本発明の遺伝子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法などを用いることができるが、これに限定されない。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、既知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(タカラバイオ社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。
ここで、宿主細胞としては、当該改変型SSBタンパク質を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E. coli BL21(DE3)pLysS、E. coli BL21、E. coli DH5α、E. coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS-7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等を既知の方法を利用することができる。
そして、得られた形質転換体を適当な培地に接種し、常法に準じて培養することにより当該改変型SSBタンパク質を発現させる。形質転換体の培養は、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
改変型SSBタンパク質を発現する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
このようにして得られた形質転換体の培養物からの改変型SSBタンパク質の採取、精製は、改変型SSBタンパク質の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、当該SSBタンパク質が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、既知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、本発明の酵素を単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS-PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー等の既知の単離精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。特にアフィニティークロマトグラフィーを利用する場合、本発明の酵素をHis Tag等のタグペプチドとの融合タンパク質として発現させて、かかるタグペプチドに対する親和性を利用することが好ましい。また、当該SSBタンパク質が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理などの酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、前述の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。
また、本発明の使用に適したSSBタンパク質は、高度好熱菌由来のSSBタンパク質を改変の基礎とすることが好ましいことから、熱安定性が高く、前述の単離、精製工程において熱処理を併用することが有用かつ便利である。培養物から得られた宿主細胞及び培養上清には、当該宿主細胞由来の様々なタンパク質を含有する。しかし、熱処理を行なうことにより、宿主細胞由来の夾雑タンパク質は変性し凝縮沈殿する。したがって、例えば、宿主細胞を破砕して熱処理を行うことにより、当該改変型SSBタンパク質以外の宿主細胞由来のタンパク質は熱凝集するため、遠心分離により分離除去できる。これにより熱変性しない当該改変型SSBタンパク質を可溶画分として大腸菌由来タンパク質と分離し、親和性クロマトグラフィー等を用いて精製できる。更に、当該改変型SSBタンパク質は好ましくは高度好熱菌由来であるため室温で構造が安定しており、さらに有機溶剤に対しても高い安定性を有している。そのため、上記精製工程は室温で行うことが可能である。
そして、精製されたタンパク質が所望の改変が生じている改変型SSBタンパク質であるか否かの確認は、公知のアミノ酸分析法によって行うことができる。例えば、エドマン分解法に基づく自動アミノ酸決定法が利用できる。また、精製されたSSBタンパク質を、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応に供して改変部位を有しない野生型SSBタンパク質と比較して、鋳型核酸に対する特異性が向上しているか否かを確認することによって行うことができる。
「鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸等温増幅反応」とは、高熱による熱変性を必要としない等温条件下で、鎖置換ポリメラーゼの鎖置換活性により核酸を指数対数的に増幅する方法である。このような鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅方法としては、ローリングサークル増幅(以下、「RCA」と略する場合がある)法、Strand Displacement Amplification(以下、SDA」と略する場合がある)法等が好適に例示され、特にはRCA法が好適に利用できる。RCA法の原理は以下の通りである。RCA法による鋳型核酸の等温増幅方法は、例えば、等温条件下において、鋳型核酸である環状DNAにアニールした複数のランダムプライマーを基点にして、鎖置換ポリメラーゼが環状DNAの相補鎖を伸長する。そして、合成鎖の伸長に伴い、他のランダムプライマーの複製基点に達しても、当該鎖置換ポリメラーゼの鎖置換活性により他の合成鎖を剥がしながら鎖の伸長を継続する(ブランチング)。このとき、剥がされた合成鎖にはランダムプライマーがアニールできる部位が露出する。そして、この剥がされた合成鎖をも鋳型核酸として新たなDNA合成鎖を形成できるため、指数関数的な増幅となる。
上記核酸増幅は、常法に基づいて行うことができ、また、反応試薬等についても改変型SSBタンパク質を添加する以外は、常法に基づいて調製できる。なお、市販の核酸増幅用キット(例えば、TmpliPhi DNA Amplification kit:GEヘルスケア社)を利用することもできる。ここで、改変型SSBタンパク質の添加量は、反応液10 μl当たり1.0 μg以上であることが好ましい。
プライマーは、RCA法に基づいて核酸増幅を行う場合には、ランダムプライマーが好ましく、例えばランダムヘキサマーが好適に利用できる。その他のプライマーの例としては、鋳型核酸の標的部位に設定温度で特異的にアニールするプライマーを適用できる。このプライマーは、当該プライマー単独、或いは、上記ランダムプライマーと混合した状態で使用することが可能である。
ランダムプライマーは、ランダムな配列を有するように設計される。 このように設計されたプライマーは化学的に合成することが可能である。例えば、公知のホスホルアミダイト法を用いて固相合成により化学合成することができ、市販されている自動核酸合成装置により所望の塩基配列からなるプライマーを自動的に合成することも可能である。合成後のプライマーは、必要に応じてHPLC等の公知の方法により精製される。
本発明において、一般的な標的となる核酸の所望の領域と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーを使用する場合には、プライマーは、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいて設計される。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、標的となる核酸分子の塩基配列に基づき、所望の増幅領域を挟んで設計され、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
ここで、相補的とは、プライマーと標的核酸分子とが塩基対合則に従って特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プライマーと標的核酸分子が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの核酸塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。その塩基数は、標的核酸分子を特異的に認識するために十分に長くなければならないが、長すぎると逆に非特異的反応を誘発するので好ましくない。したがって、適当な長さはGC含量等の標的核酸の配列情報、並びに、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件など多くの因子に依存して決定される。
そして、鎖置換ポリメラーゼとしては、バクテリオファージ由来Phi29 DNAポリメラーゼ(米国特許第5,198,543号及び米国特許第5,001,050号、Blanco他著)が好適に例示される。しかしながら、これに限定されるものではない。例えば、Bst大断片のDNAポリメラーゼ(Exo (-) Bst(Aliotta他著、Genet. Anal.(オランダ国)、第12巻、第185〜195頁(1996年))及びExo (-) BcaDNAポリメラーゼ(Walker及びLinn著、Clinical Chemistry、第 42巻、第1604〜1608頁(1996年))、ファージM2 DNAポリメラーゼ(Matsumoto他著、Gene、第84巻、第247頁(1989年))、ファージφPRD1 DNAポリメラーゼ(Jung他著、Proc. Natl. Acad. Sci.、USA、第 84巻、第8287頁(1987年))、VENT(登録商標)DNAポリメラーゼ(Kong他著、J. Biol.Chem.、第268巻、第1965〜1975頁 (1993年))、DNAポリメラーゼIのクレノー断片(Jacobsen他著、Eur. J. Biochem.、第45巻、第623〜627頁 (1974年))、T5 DNAポリメラーゼ(Chatterjee他著、Gene、第97巻、第13〜19頁(1991年))、シーケナーゼ(登録商標)(米国バイオケミカルズ社製)、PRD1 DNAポリメラーゼ(Zhu及びIto著、Biochem. Biophys. Acta.、第1219巻、第267〜276頁 (1994年))及びT4 DNA ポリメラーゼホロ酵素(Kaboord及びBenkovic著、Curr. Biol.、第5巻、第149〜157頁(1995年))等が挙げられる。
ここで、等温増幅における「等温」とは、PCR法がDNA変性、アニール、鎖伸長の各工程で反応温度を変化させるのに対して、一定温度で制御して増幅反応を行うことを指す。増幅反応を行う一定温度は、好ましくは60℃未満、より好ましくは45℃未満、さらに好ましくは37℃未満である。この温度は、適用する鎖置換ポリメラーゼにより適宜決定する。例えば、後述するバクテリオファージ由来Phi29 DNAポリメラーゼを用いた場合、増幅反応を行う好適な温度範囲は25〜42℃であり、好ましくは30〜37℃、更に好ましくは30〜34℃である。当該一定温度になるように設定したインキュベーター等の恒温チャンバーにおいて、サンプルを、4〜24時間、好ましくは6〜24時間、更に好ましくは15〜24時間程度インキュベートし、鋳型核酸の増幅反応を行う。
また、本発明は、核酸含有試料から環状核酸を単離するためのキットを提供する。本発明の環状核酸を単離するためのキットは、上記の改変型SSBタンパク質を含んで構成される。更に、DNAポリメラーゼ、適当な緩衝液、dNTP等の核酸の増幅に必要な成分を適宜含んで構成してもよい。また、所望の核酸をもって病原体等を検出するためのキットのような場合には、所望の核酸増幅に特異的な任意のプライマー等を含ませてもよい。このように必要な成分をキットして構成することにより、更に簡便且つ迅速な環状核酸の単離が可能となる
本発明の環状核酸の単離方法、及びキットによれば、上述した改変型SSBタンパク質の存在下で、鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅反応を行うことにより、環状核酸が選択的かつ優先的に増幅できる。つまり、環状核酸以外のゲノムDNAやRNAその他の核酸断片等の線状核酸の増幅を抑えつつ、環状核酸を優先的かつ選択的に増幅できるものである。これにより、核酸含有試料から環状核酸の単離が可能となり、ミトコンドリアDNAやプラスミドDNAの分子生物学の分野で有用な環状核酸の利用価値を更に高めることが期待される。本発明の環状核酸の単離方法、及びキットは、環状核酸の優先的かつ選択的な増幅を基本原理とすることから、公知のプラスミドDNAの単離技術において必要であった清澄化細胞溶解液の形成、及び該清澄化細胞溶解液からのプラスミドDNAの精製のような、時間及びコストのかかる工程を要しない。つまり、核酸増幅という単純な工程から構成されることから、核酸の損失を最小限に抑えられることから、効率的に、また簡便かつ迅速に環状核酸を単離することができる。そして、多くの場合、生物由来の試料は、様々な形状及び種類の核酸が混在しており、また、様々な形態を有することが知られているが、何れをも核酸含有試料として本発明の方法及びキットの対象とすることができるという利点をも有する。例えば、環状核酸の混在比率の低い核酸含有試料、及び細菌細胞のような夾雑物質を多く含む未精製や粗精製の核酸含有試料からも、環状核酸のみを優先的かつ選択的に単離できる。
以上のような利点を有する本発明の環状核酸の単離方法、及びキットは、当該技術分野において多大な貢献を果たすものである。したがって、医療分野、生物化学分野、環境分野、食品分野等の多岐にわたる用途に利用可能である。特に、ミトコンドリアDNAは、法医学鑑定、進化生物学的、及び人類生物学的解析の研究材料、更には食品原産地の同定のための研究材料試料として特に重要視されているため、かかる技術において本発明の方法及びキットを利用することができる。しかしながら、これに限定されるものではなく、環状核酸の単離技術が適用可能な用途であれば、制限されることなく本発明の方法及びキットを適用できる。
また、本発明の方法及びキットの原理は、環状核酸の検出、及び定量にも利用することができ、そのような環状核酸の検出、定量方法、及びキットも本発明の一部をなす。
以下に実施例を示し、さらに本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
下記の実施例において、特に言及しない限り、核酸増幅反応は、TempliPhi DNA Amplification Kit(GE ヘルスケア社)を利用して製造業者の指示に従って実施した。工程の詳細を以下に示す。
試験管内に1 μlの鋳型核酸(1 ng以上)続いて9 μlのSample buffer(プライマーとしてのランダムプライマーを含む)を添加し混合した。得られた反応液を、95 ℃で3 分間インキュベートすることにより、熱変性させた後、氷中で0 ℃まで冷却した。冷却後、10 μlのReaction Buffer(dNTP類を含む)、1.0 μgの改変型SSBタンパク質、1 μlのPhi29 DNA polymeraseを、順次、添加し混合した。得られた反応液を、30℃にて4〜8時間インキュベートとして増幅反応を行った。増幅後、65 ℃で3 分間加熱してDNA polymeraseを不活性化することにより反応を終結させた。
た。
Sample buffer、Reaction Buffer及びPhi29 DNA polymeraseは上記キットに添付のものを使用した。なお、Sample bufferは、25 mM Tris-HCl(pH 7.5)、 50 mM KCl、10 mM MgCl2、及び100 μMエキソヌクレアーゼ耐性ヘキサマーで代用でき、また、Reaction bufferは、37 mM Tris-HCl(pH 8.0)、50 mM KCl、10 mM MgCl2、5 mM (NH4)2SO4、1.0 mM dNTP類、1 unit/ml 酵母ピロホスファターゼ、50 μM エキソヌクレアーゼ耐性ヘキサマー、更に800 unit/ml phi29 DNA polymeraseを含んだもので代用することができる。
また、改変型SSBタンパク質としては、野生型のサーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質(以下、「野生型Tth SSBタンパク質」と称する場合がある)のアミノ酸配列を表す配列認識番号2の255番目のフェニールアラニンをプロリンに置換したものを使用した。そのアミノ酸配列を、配列認識番号3に示す。以下、かかるタンパク質を、「Tth SSB-F255Pタンパク質」と称するものとする。このTth SSB-F255Pタンパク質は、米国特許出願公開第2007/092896号明細書、及びInoue J.他著、Nucleic Acids Research、2006年5月、第34巻、第9号、e69に記載の方法に準じて調製したものを用いた。
詳細には、サーマス・サーモフィラスのゲノムDNA(Thermus thermophilus genomic DNA;タカラバイオ社)を鋳型DNAとして、プライマーNde-SSB及びプライマーBam-SSBm255を使用したPCRによりTth SSB-F255Pタンパク質をコードする遺伝子をクローニングした。PCRはプライマーとして、Kod DNA polymeraseを使用した。プライマーは、NdeI及びBamHI制限部位を含んで構成されたものであり、その配列につき以下に示す。
プライマーNde-SSB
5´‐GCGGATCCAT ATGGCTCGAG GCCTGAACCG ‐3´
(配列認識番号10)
プライマーBam-SSBm255
5´‐ACAGGATCCT TATTAAAACG GCAACTCCTC CTCCGGCGGA GGGTCTTCCA AGCCTTCGTC ‐3´ (配列認識番号11)
得られた増幅産物を制限酵素NdeI及びBamHIにより切断後、予めNdeI及びBamHIで処理されたプラスミドpET14に連結した。ついでE.coli BL21(DE3)pLysS株(ノバジェン社社)に形質転換し、OD600=0.5に達するまで培養し、更に0.5 mMのIPTGを添加し4 時間培養した。培養後の細胞1gを、超音波処理により細胞を破砕後、遠心分離により細胞組織片を除去し上清を70℃で20分間熱処理をした。熱処理後、更に遠心分離を行って沈査を除去し上清を得た。続いて、上清をHeparin Sepharose 6 Fast Flowカラム(GEヘルスケア)に供し、NaClの0.1〜1.0 Mへのリニアグラジエントにてタンパク質を溶出した。SSBタンパク質を含む画分を回収し、最終濃度1 Mとなるように(NH4)2SO4を添加した後、BUTYL1-TOYOPEARL 650S カラム(東ソー)に供した。そして、 (NH4)2SO4の1 M〜0 Mへのリニアグラジエントにて溶出し、SSBタンパク質を含む画分を回収した後、得られた画分を透析した。透析後、RESOURCEQ(GEヘルスケア社)に供し、NaClの0.1〜1.0 Mへのリニアグラジエントにてタンパク質を溶出した。SSBタンパク質を含む画分を回収し、Centriprep Ym-10(Amicon;コスモバイオ社)で精製し、Tth SSB-F255Pタンパク質を得た。
(実施例1)環状核酸の単離−1
本発明の方法により、核酸含有試料から、環状核酸を単離するための検討を行った。
本発明の方法により、核酸含有試料中に0.4 %の比率で含有する環状核酸を単離するための検討を行った。核酸含有試料として、ゲノムDNA(Human genomic DNA、プロメガ社)を10 ng、標的の環状核酸としてpUC19 DNA(GEヘルスケア社製)を40 pg含んだものを調製した。これを鋳型核酸として、Tth SSB-F255P タンパク質の存在下でTmpliPhi DNA Amplification kit(GEヘルスケア社)により上述の通り核酸増幅反応を行った。なお、増幅反応は8時間行った。増幅反応後の反応液を2 μl分取し、制限酵素Hind-III で処理した後、1.2 %アガロースゲル電気泳動に供した。電気泳動後のゲルをエチジウムブロミドで染色し、DNAのバンドを可視化した(実施例1)。
さらに、比較例として、Tth SSB-F255Pタンパク質に代えて、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法による場合(比較例1)、野生型Tth SSBタンパク質を添加した場合(比較例2)、及び野生型のE. coli由来の SSBタンパク質(以下、「Eco SSBタンパク質」と称する場合がある)を添加した場合(比較例3)についても検討を行った。何れも、Tth SSB-F255P タンパク質を添加することを除いては、上記と同様の手順で核酸増幅反応を行なった。
なお、野生型Tth SSBタンパク質は、プライマーとして以下のプライマーを使用した以外はTth SSB-F255Pタンパク質の調製と同様の手順により調製した。
プライマーNde-SSB
5'-GCGGATCCAT ATGGCTCGAG GCCTGAACCG-3'(配列認識番号10)
プライマーBam-SSB
5'- TAAGGATCCT TATTAAAACG GCAACTCCTC CTCCGGCGGA AA -3' (配列認識番号12)
電気泳動結果を図2(A)に示す。
レーン1は、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法の場合の核酸増幅結果を示す(比較例1)。
レーン2は、本発明の方法のTth SSB-F255P タンパク質を添加した場合の核酸増幅結果を示す(実施例1)。
レーン3は、野生型Tth SSBタンパク質を添加した場合の核酸増幅結果を示す(比較例2)。
レーン4は、野生型のEco SSBタンパク質を添加した場合の核酸増幅結果を示す(比較例3)。
図2(A)より、Tth SSB-F255P タンパク質存在下での等温増幅によって核酸含有試料中に0.4 %の比率でしか存在していない環状核酸を、優先的かつ選択的に増幅できることが確認された(レーン2:実施例1)。一方、Tth SSB-F255P タンパク質の不在下においては、かかる現象を確認することはできなかった(レーン1、3、及び4:比較例1、2、及び3)。特に、Tth SSB-F255Pタンパク質の基礎としたTth SSBタンパク質の存在下であっても、環状核酸の優先的かつ選択的な増幅は認められなかった。
更に、詳細に、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での環状核酸の優先的かつ選択的な増幅を確認するため、環状核酸の増幅量を求めた。電気泳動後、Tth SSB-F255P タンパク質存在下での等温増幅を行ったサンプル(レーン2:実施例1)及び何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法を行ったサンプル(レーン1:比較例1)により得られた環状核酸のシグナルバンドから、蛍光イメージアナライザーと核酸濃度測定法を用いて、環状核酸の増幅産物量を定量した。核酸濃度測定法として、ピコグリーン測定法を利用し、その定法に基づいて行った。
得られた結果を、図2(B)のグラフに示す。従来のRCA法の場合(比較例1)の環状核酸の増幅量は0.2 μgであるのに対し、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での等温増幅(実施例1)によれば、5.1 μgの環状核酸の増幅が確認された。
以上の結果より、本発明の方法によれば、従来のRCA法では困難であった環状核酸の優先的かつ選択的な核酸増幅が達成できることが判明した。そして、かかる効果は、改変型SSBタンパク質に依存する特有の効果であることも判明した。
(実施例2)環状核酸の単離−2
実施例1に続き、本発明の方法により、核酸含有試料から環状核酸を単離するための検討を行った。本実施例においては、核酸含有試料中の環状核酸の比率が更に低いものについて検討を行った。
本発明の方法により、核酸含有試料中に0.02 %以下の比率で含有する環状核酸を単離するための検討を行った。核酸含有試料として、ヒトゲノムDNAを10 ng、標的の環状核酸としてpUC19 DNAを1.6 pg含んだものを、実施例1と同様に調製した。これを鋳型核酸として、Tth SSB-F255P タンパク質の存在下で上記実施例1と同様の手順で核酸増幅反応を行ない、電気泳動に供した(実施例2)。
さらに、比較例として、Tth SSB-F255Pタンパク質に代えて、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法による場合(比較例4)についても検討を行った。Tth SSB-F255Pタンパク質を添加することを除いては、上記と同様の手順で核酸増幅反応を行なった。
電気泳動結果を図3(A)に示す。
レーン1は、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法の場合の核酸増幅結果を示す(比較例4)。
レーン2は、本発明の方法のTth SSB-F255P タンパク質を添加した場合の核酸増幅結果を示す(実施例2)。
図3(A)より、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での等温増幅によって核酸含有試料中に0.02 %という極めて低い比率でしか存在していない環状核酸をも、優先的かつ選択的に増幅できることが確認された(レーン2:実施例2)。一方、Tth SSB-F255Pタンパク質の不在下での従来のRCA法では、ほとんど環状核酸由来の増幅産物を確認することができなかった(レーン1:比較例4)。
更に、詳細に、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での環状核酸の優先的かつ選択的な増幅を確認するため、環状核酸の増幅量を、上記実施例1の手順に従って求めた。
得られた結果を、図3(B)のグラフに示す。従来のRCA法の場合(比較例4)の環状核酸の増幅量は0 μgと、検出限界以下であるのに対し、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での等温増幅(実施例2)によれば、3.6 μgの環状核酸の増幅が確認された。
以上の結果より、本発明の方法によれば、従来のRCA法では増幅が困難であるような核酸含有試料中に非常に低い比率でしか存在しない環状核酸であっても、優先的かつ選択的な核酸増幅が達成できることが判明した。したがって、極めて信頼度の高い単離方法であるといえる。かかる結果は、実施例1の結果が追認するものであった。
(実施例3)核酸含有試料中に様々な比率で含まれる環状核酸の単離
本発明の方法により、様々な比率で環状核酸が混在している核酸含有試料から、環状核酸を単離するための検討を行った。
本発明の方法により、核酸含有試料中に様々な比率で含有する環状核酸を単離するための検討を行った。核酸含有試料として、ヒトゲノムDNAを10 ng、標的の環状核酸としてpUC19 DNAを200、40、8、1.6、0.32、0.06 、及び0.01pg含んだものを、実施例1と同様に調製した。環状核酸の全核酸類に対する比率は、夫々2.0、0.4、0.08、0.02、0.003、0.0006、0.0001=0 %であった。この各核酸含有試料を鋳型核酸として、上記実施例1と同様の手順で核酸増幅反応を行ない、電気泳動に供した(実施例3)。
さらに、比較例として、Tth SSB-F255Pタンパク質に代えて、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法による場合(比較例5)についても検討を行った。Tth SSB-F255Pタンパク質を添加することを除いては、上記と同様の手順で核酸増幅反応を行なった。
電気泳動結果を図4(A)及び(B)に示す。
図4(A)は、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法の場合の核酸増幅結果を示し(比較例5)、レーン1〜7は、それぞれ環状核酸の比率が、2.0、0.4、0.08、0.02、0.003、0.0006、0 %の核酸含有試料に対するものである。
図4(B)は、本発明の方法のTth SSB-F255Pタンパク質を添加した場合の核酸増幅結果を示し(実施例3)、レーン1〜7は、それぞれ環状核酸の比率が、2.0、0.4、0.08、0.02、0.003、0.0006、0 %の核酸含有試料に対するものである。
Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での等温増幅によっては、核酸含有試料中の環状核酸の比率が0.0006 %という極めて低い場合まで、環状核酸由来の増幅産物を確認することができた(図4(A):実施例3)。一方、従来のRCA法では、核酸含有試料中の環状核酸の比率が0.08 %以上でない場合には、環状核酸由来の増幅産物を確認することができなかった。(図4(B):比較例5)。
更に、詳細に、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での環状核酸の優先的かつ選択的な増幅を確認するため、環状核酸の増幅量を、上記実施例1の手順に従って求めた。
得られた結果を、図5(A)のグラフに示す。図5(A)中、白抜き棒は、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法の場合(比較例5)の核酸増幅産物量を示し、影付き棒は、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での核酸増幅(実施例3)による核酸増幅産物量を示す。
図5(A)より、何れの核酸含有試料に対しても、従来のRCA法の場合(比較例5)の環状核酸の増幅量は、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での等温増幅の場合(実施例3)に比べて低いことが認められた。また、検出限界に関しては、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での等温増幅によっては、核酸含有試料中の環状核酸の比率が0.0006 %という極めて低い場合まで、微量ではあるが、環状核酸由来の増幅産物が確認できた(実施例3)。一方、従来のRCA法では、核酸含有試料中の環状核酸の比率が0.08%以上でない場合には、環状核酸由来の増幅産物は検出限界以下となった(比較例5)。
更に、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下での環状核酸の優先的かつ選択的な増幅について検証を深めるため、全増幅核酸量を求めた。電気泳動後、Tth SSB-F255Pタンパク質存在下で等温増幅を行ったサンプル(図4(A)レーン1〜7:実施例3)により得られた核酸のシグナルバンドから、全核酸の増幅量を、上記実施例1の手順に従って求めた。このとき、鋳型核酸を添加しないで上記と同様の手順で核酸増幅を行ったサンプルをコントロールとした。
得られた結果を、図5(B)のグラフに示す。
図5(B)より、Tth SSB-F255Pタンパク質の存在下での等温増幅による全核酸増幅量は、核酸含有試料中の環状核酸比率に無関係に一定であることが確認された。
以上の結果より、本発明の方法により、環状核酸が優先的かつ選択的に増幅され得ることが判明した。かかる結果は、実施例1及び2の結果を更に論理的に追認するものである。したがって、本発明の方法により、核酸含有試料から環状核酸のみを優先的かつ選択的に単離することができることが理解される。
(実施例4)細菌細胞からの環状核酸の単離−1
本発明の方法により、直接、細菌細胞から環状核酸を単離するための検討を行った。
実施例1〜3の結果から、本発明の方法により、核酸含有試料から環状核酸のみを優先的かつ選択的に単離することができることが判明したことから、本実施例においては、本発明の方法により、細菌細胞から、直接、環状核酸を単離するための検討を行った。核酸含有試料として、ハイコピープラスミドであるpUC18 DNAを保持したE. coli DH5α(タカラバイオ社)を検討に用いた。これを鋳型核酸として、Tth SSB-F255P タンパク質の存在下で上記実施例1と同様の手順で核酸増幅反応を行ない、増幅産物を得た。続いて、増幅後の反応液の一部を分取し、制限酵素Hind-IIIで処理した。制限酵素処理前と処理後の増幅産物を、実施例1と同様の手順で電気泳動に供した(実施例4)。
さらに、比較例として、Tth SSB-F255P タンパク質に代えて、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法による場合(比較例6)についても検討を行った。Tth SSB-F255P タンパク質を添加することを除いては、上記と同様の手順で核酸増幅反応、及び制限酵素処理、並びに電気泳動を行なった。
電気泳動結果を図6(A)及び(B)に示す。
図6(A)は、制限酵素処理を行わずに核酸増幅後にすぐに電気泳動に供した場合の結果を示す。そして、レーン1〜5は、本発明の方法のTth SSB-F255P タンパク質を添加した場合の核酸増幅結果を示し(実施例4)、レーン6〜10は、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法の場合の核酸増幅結果を示す(比較例6)。
図6(B)は、増幅産物を制限酵素処理後に電気泳動に供した場合の結果を示す。そして、レーン1〜5は、本発明の方法のTth SSB-F255Pタンパク質を添加した場合の核酸増幅結果を示し(実施例4)、レーン6〜10は、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法の場合の核酸増幅結果を示す(比較例6)。
図6(B)中、矢印で示したバンドが、環状核酸由来の増幅産物のバンドであると推測された。Tth SSB-F255Pタンパク質の存在下で等温増幅反応を行った場合(図6(B)レーン1〜5:実施例4)には、環状核酸由来の増幅産物が確認されたが、従来のRCA法の場合((図6(B)レーン6〜10:比較例6)には、環状核酸由来の増幅産物が確認できなかった。なお、図6(A)は、増幅産物を制限酵素で処理せずに電気泳動を行った結果を示すものであるが、増幅産物が巨大な塊となり、高分子側に増幅産物が凝集していることが確認される。
以上の結果より、本発明の方法により、大腸菌コロニーのような非常にクルードな核酸含有試料からも、環状核酸のみを選択的かつ優先的に増幅でき、これにより環状核酸を選択的かつ優先的に単離できることが判明した。
ここで、プラスミドベクターには、ハイコピープラスミドとローコピープラスミドあり、1の細胞で増えるプラスミド量は、ベクター内の複製起点及びその周辺の塩基配列によっても異なる。ハイコピープラスミドとしては、本実施例で検討を行ったpUC系の他、pBR系等が知られており、これらは複製起点にはColE1をアレンジした配列等が含まれており、一細胞内で500程度のコピー数になる。一方、ローコピープラスミドとしては、pACYC系等が知られており、p15のように複製起点が厳密に定義されているがため、コピー数が少なく、一細胞内でのコピー数は20〜30程度となる。
以下の実施例5ではローコピープラスミドについても検討を行った。
(実施例5)細菌細胞からの環状核酸の単離−2
実施例4に続き、本発明の方法により、直接、細菌細胞から環状核酸を単離するための検討を行った。本実施例においては、ローコピープラスミドを保持する大腸菌細胞からの単離を試みた。
実施例4の結果から、ハイコピープラスミドについては、細菌コロニーのような非常にクルードな核酸含有試料から選択的かつ優先的に単離できることが確認されたので、本実施例においては、ローコピープラスミドを保持する細菌細胞から、直接、環状核酸の単離を試みた。核酸含有試料として、ローコピープラスミドであるpET22b DNAを保持したE. coli DH5α(ノバジェン社)を検討に用いた。これを鋳型核酸として、Tth SSB-F255P タンパク質の存在下で上記実施例1と同様の手順で核酸増幅反応を行ない、増幅産物を得た。続いて、増幅後の反応液の一部を分取し、制限酵素Hind-IIIで処理した。制限酵素処理前と処理後の増幅産物を、実施例1と同様の手順で電気泳動に供した(実施例5)。
さらに、比較例として、Tth SSB-F255P タンパク質に代えて、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法による場合(比較例7)についても検討を行った。Tth SSB-F255P タンパク質を添加することを除いては、上記と同様の手順で核酸増幅反応、及び制限酵素処理、並びに電気泳動を行なった。
電気泳動結果を図7(A)及び(B)に示す。
図7(A)は、制限酵素処理を行わずに核酸増幅後にすぐに電気泳動に供した場合の結果を示す。そして、レーン1〜5は、本発明の方法のTth SSB-F255P タンパク質を添加した場合の核酸増幅結果を示し(実施例5)、レーン6〜10は、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法の場合の核酸増幅結果を示す(比較例7)。
図7(B)は、増幅産物を制限酵素処理後に電気泳動に供した場合の結果を示す。そして、レーン1〜5は、本発明の方法のTth SSB-F255Pタンパク質を添加した場合の核酸増幅結果を示し(実施例5)、レーン6〜10は、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法の場合の核酸増幅結果を示す(比較例7)。
図7(B)中、矢印で示したバンドが、環状核酸由来の増幅産物のバンドであると推測された。RCA反応産物の形状が不明であるため確実ではないが、他のバンドに関しても、おそらく環状核酸由来であると予想される。Tth SSB-F255Pタンパク質の存在下で等温増幅反応を行った場合(図7(B)レーン1〜4:実施例5)には、環状核酸由来の増幅産物が確認された。ただし、図7(B)中、レーン5のサンプルに関しては、環状核酸由来の増幅産物を確認できなかったが、これは、試料として使用した大腸菌にプラスミドが保持されていなかったことに起因するものであることが、対応の図7(A)レーン5の結果からも明らかである。一方、RCA法の場合(図7(B)レーン6〜10:比較例7)には、環状核酸由来の増幅産物が確認できなかった。
以上の結果より、本発明の方法により、ハイコピープラスミドだけでなく、ローコピープラスミドであっても大腸菌コロニーのような非常にクルードな核酸含有試料からも、非常に選択的かつ優先的に増幅でき、これにより環状核酸を選択的かつ優先的に単離できることが判明した。
(実施例6)Tth SSB-F255P タンパク質の添加量の検討
核酸含有試料からの環状核酸の単離に関して、本発明の方法におけるTth SSB-F255P タンパク質の添加量の検討を行った。
本発明の方法を実施するに際してのTth SSB-F255P タンパク質の添加量についての検討を行った。10μlの反応液中に、Tth SSB-F255P タンパク質を、0.2、1.0、2.0μgを含ませた以外は実施例1と同様の手順で核酸増幅反応を行なった。鋳型核酸としては、ヒトゲノムDNAを10 ng、標的の環状核酸としてpUC19 DNAを200、40、8、1.6、0.3、0.06、及び0.003 pg含んだものを、実施例1と同様に調製した各核酸含有試料を用いた。環状核酸の全核酸類に対する比率は、夫々2.0、0.4、0.08、0.02、0.003、0.0006、及び0.00003 %であった。増幅後の反応液の一部を分取し、制限酵素Hind-IIIで処理し、実施例1と同様の手順で電気泳動に供した(実施例6)。
さらに、比較例として、Tth SSB-F255P タンパク質に代えて、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法による場合(比較例8)についても検討を行った。Tth SSB-F255P タンパク質を添加することを除いては、上記と同様の手順で核酸増幅反応、及び制限酵素処理、並びに電気泳動を行なった。
電気泳動結果を図8(A)〜(D)に示す。
図8(A)は、何れの種類のSSBタンパク質を添加しない従来のRCA法の場合の核酸増幅結果を示し(比較例8)、レーン1〜7は、それぞれ環状核酸の比率が、2.0、0.4、0.08、0.02、0.003、0.0006、及び0.00003 %の核酸含有試料に対するものである。
図8(B)は、本発明の方法のTth SSB-F255P タンパク質を0.2μg/10μl添加した場合の核酸増幅結果を示し(実施例6)、レーン1〜7は、それぞれ環状核酸の比率が、2.0、0.4、0.08、0.02、0.003、0.0006、及び0.00003 %の核酸含有試料に対するものである。
図8(C)は、本発明の方法のTth SSB-F255P タンパク質を1.0 μg / 10 μl添加した場合の核酸増幅結果を示し(実施例6)、レーン1〜7は、それぞれ環状核酸の比率が、2.0、0.4、0.08、0.02、0.003、0.0006、及び0.00003 %の核酸含有試料に対するものである。
図8(D)は、本発明の方法のTth SSB-F255P タンパク質を2.0μg/10μl添加した場合の核酸増幅結果を示し(実施例6)、レーン1〜7は、それぞれ環状核酸の比率が、2.0、0.4、0.08、0.02、0.003、0.0006、及び0.00003 %の核酸含有試料に対するものである。
図8(A)〜(D)の結果より、増幅反応に1.0 μg / 10 μl以上のTth SSB-F255P タンパク質を添加した場合に、核酸含有試料中の環状核酸の存在比率が低い場合であっても鮮明な環状核酸由来のバンドが確認された。つまり、1.0 μg / 10 μl以上のTth SSB-F255P タンパク質を添加して等温増幅反応を行った場合に良好な結果が得られることが確認された。
以上の結果より、本発明の実施に際しては、反応液中に1.0 μg / 10 μl以上のTth SSB-F255P タンパク質を含むように調製することが望ましいことが判明した。
(実施例7)環状核酸の単離−3
核酸含有試料からの環状核酸の単離について、本発明の方法を、ミトコンドリアDNAの単離に対して好適に利用可能な公知の方法と比較した。
核酸含有試料からの環状核酸の単離について、本発明の方法を、ミトコンドリアDNAの単離に対して好適に利用可能な公知の方法に基づくREPLI-g Mitochondrial DNA Kit (キアゲン社)と比較した。
核酸含有試料として、ヒトゲノムDNAを100 ng、標的の環状核酸としてpUC19 DNAを100 pg含んだものを調製した。これを鋳型核酸として、3.0 μgのTth SSB-F255Pタンパク質の存在下でTmpliPhi DNA Amplification kit(GEヘルスケア社)により実施例1と同様の手順で核酸増幅反応を行い、増幅産物を得た。なお、増幅反応は12時間行った。続いて、増幅反応後の反応液を5 μl分取し、制限酵素Hind-III で処理した。制限酵素処理前と処理後の増幅産物を、実施例1と同様の手順で電気泳動に供した(実施例7)。
比較例として、上記と同じ核酸含有試料を鋳型核酸として、1.0 μgのTth SSB- F255Pタンパク質の存在下でREPLI-g Mitochondrial DNA Kit を用いて核酸増幅を行った場合について検討を行った(比較例9)。このとき、詳細な手順は製造業者の指示に従って行い、増幅反応は、12時間行った。増幅後、上記と同様の手順で制限酵素処理、及び電気泳動を行なった。
電気泳動結果を、図9に示す。
レーン1及び2は、本発明の方法であるTth SSB-F255P タンパク質添加下での等温増幅反応を行った場合の結果を示し(実施例7)、そして、レーン1は、増幅産物を制限酵素処理後に電気泳動に供したものであり、レーン2は、制限酵素処理を行わずに核酸増幅後にすぐに電気泳動に供したものの結果である。
レーン3及び4は、公知の方法であるREPLI-g Mitochondrial DNA Kitにより等温増幅反応を行った場合の結果を示し(比較例9)、そして、レーン3は、増幅産物を制限酵素処理後に電気泳動に供したものであり、レーン4は、制限酵素処理を行わずに核酸増幅後にすぐに電気泳動に供したものの結果である。
図9より、Tth SSB-F255P タンパク質添加下での等温増幅反応を行った場合には、環状核酸由来の増幅産物が認められた(レーン1:実施例7)。一方、REPLI-g Mitochondrial DNA Kitにより等温増幅反応を行った場合には、環状核酸由来の増幅産物を認めることができなかった(レーン3:比較例9)。
以上の結果より、トータルDNAサンプル中のヒトなどのミトコンドリアからミトコンドリア全ゲノムを増幅できるキットであるとして市販されているREPLI-g Mitochondrial DNA Kitでは、ミトコンドリアDNAと同じ環状核酸であるプラスミドDNAの増幅はできないことが判明した。
(参考例1)本発明で使用される改変型SSBタンパク質の差置換ポリメラーゼによる等温増幅反応系に与える影響
本発明で使用される改変型SSBタンパク質が、差置換ポリメラーゼによる核酸増幅反応系に与える影響について検討した。
上記Tth SSB-F255Pタンパク質、及び野生型Tth SSBタンパク質のアミノ酸配列を表す配列番号 の229番目のフェニールアラニン以下のアミノ酸が欠失したタンパク質(以下、「Tth SSB-229タンパク質」と称するものとする。)の存在下で核酸増幅反応を行い、これらのタンパク質の核酸増幅系に与える影響を検討した。
ここで、Tth SSB-229タンパク質は、プライマーとして以下のプライマーを使用した以外はTth SSB-F255Pタンパク質の調製と同様の手順により調製した。
プライマーNde-SSB
5'-GCGGATCCAT ATGGCTCGAG GCCTGAACCG-3'(配列認識番号10)
プライマーBam-SSBm229
5'-TAAGGATCCT CATCCACGGG TGGGGCGCT-3' (配列認識番号13)
具体的には、以下の条件下で核酸増幅反応を行った。
1.Tth SSB-229タンパク質を2μg添加
2.Tth SSB-F255Pタンパク質を2μg添加
3.タンパク質緩衝液を0.2μlのみを添加
4.何れのタンパク質、及びタンパク質緩衝液を添加せず
なお、タンパク質は、タンパク質緩衝液中に溶解させたもの使用した。なお、タンパク質緩衝液としては、1.5M KCl、50mM Tris-HCl(pH7.5)、1.0mM EDTA、0.5mM DTT、50% glycerol溶液を使用した。
核酸増幅反応は、REPLI-g DNA Amplification kit(QIAGEN社製)を用いて、製造業者のプロトコールに従い、上記1〜4の条件下で、2ngの鋳型核酸を20μlの反応液量で18時間反応させることによって行った。なお、増幅の対象となる鋳型核酸としては、ヒトゲノムDNA(Promega社:カタログ番号G3041)を使用した。増幅後、増幅反応液を2μlずつ分取して、実施例1と同様の手順で電気泳動に供した。
さらに、反応液中に鋳型核酸を添加しなかったことを除いては、上記1〜4の条件下で同様の増幅反応を行った。等温増幅系においては、鋳型核酸の不在下であってもプライマーダイマーが形成され、非特異的な核酸が増幅されるという問題点があった。したがって、かかる鋳型核酸不在下での増幅により、当該タンパク質の誤増幅に与える影響を検討することができる。
電気泳動結果を図10に示す。
レーン1〜4は、鋳型核酸の存在下で、核酸増幅反応を行った結果を示す。そして、レーン1は、何れのSSBタンパク質、及びタンパク緩衝液を添加せずに核酸増幅を行った結果、レーン2は、SSBタンパク質を何ら添加せず、タンパク質緩衝液のみを添加した条件下での増幅結果、レーン3は、Tth SSB-F255Pタンパク質を添加した条件下での増幅結果、レーン4は、Tth SSB-229タンパク質を添加した条件下での増幅結果を示す。
レーン5〜8は、鋳型核酸の不在下で、核酸増幅反応を行った結果を示す。そして、レーン5は、SSBタンパク質及びタンパク緩衝液を何ら添加せずに核酸増幅を行った結果、レーン6は、SSBタンパク質を何ら添加せず、タンパク質緩衝液のみを添加した条件下での増幅結果、レーン7は、Tth SSB-F255Pタンパク質を添加した条件下での増幅結果、レーン8は、Tth SSB-229タンパク質を添加した条件下での増幅結果を示す。
Tth SSB-229タンパク質、Tth SSB-F255Pタンパク質を添加して核酸増幅を行った場合には、夫々、鋳型核酸に特異的なDNA断片の増幅が確認された(レーン3、4)。ここで使用したTth SSB-229タンパク質、Tth SSB-F255Pタンパク質の精製度は一定ではなく、特にTth SSB-229タンパク質の精製度がTth SSB-F255Pタンパク質より低いことが想定される。タンパク質の精製度の差異等を加味して比較した場合、Tth SSB-229タンパク質を添加した場合には、Tth SSB-F255Pを添加した場合と同程度の増幅産物の産生が確認できた(レーン3、4の比較)。
また、鋳型核酸の不在下では、Tth SSB-229タンパク質、Tth SSB-F255Pタンパク質の何れを添加した場合にも増幅産物の産生は認められなかった(レーン7、8)。つまり、Tth SSB-229タンパク質、Tth SSB-F255Pタンパク質の添加によって、鋳型核酸に非特異的な増幅を抑制でき、鋳型核酸に特異的な核酸増幅が達成できることが理解される。したがって、Tth SSB-229タンパク質は、Tth SSB-F255Pタンパク質と同様、核酸増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率向上効果に寄与し得ることが判明した。
一方、Tth SSB-229タンパク質、Tth SSB-F255Pタンパク質の何れをも添加せずに増幅反応を行った場合には、鋳型核酸の不在下においても増幅産物が認められた(レーン5、6)。そして、鋳型核酸の存在下で得られた増幅パターン(レーン1、2)は、鋳型核酸の不在下で得られた増幅パターン(レーン5、6)とは、類似する部分があった。そのため、レーン1、2で確認された鋳型核酸の存在下で得られた増幅産物は、鋳型核酸に関連のない非特異的な増幅産物をも多く含む蓋然性が高いことが判明した。
以上の結果より、Tth SSB-229タンパク質、Tth SSB-F255Pタンパク質の添加下で確認されている鋳型核酸の増幅効率の向上効果は、これらのタンパク質特有の効果であることが判明した。また、実施例2での結果を併せて鑑みると、Tth SSB-229タンパク質、Tth SSB-F255Pタンパク質が示した鋳型核酸の増幅効率の向上機能の発現は、これらのタンパク質のDNA結合力の低下に関連するものであるとの知見が導かれる。したがって、ここで得られたDNAへの結合力を人為的に低下させた改変型SSBタンパク質は、核酸増幅反応系における複製補助因子として必要とされる適度なDNA結合力を発揮する。これにより、核酸増幅反応系における反応効率を向上させ、かつ誤増幅を抑制するものと理解される。