JP2008125464A - 改変型一本鎖dna結合タンパク質、及び該タンパク質を用いた核酸の等温増幅方法 - Google Patents

改変型一本鎖dna結合タンパク質、及び該タンパク質を用いた核酸の等温増幅方法 Download PDF

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Abstract

【課題】増幅精度を向上するべく、等温増幅反応における核酸増幅において非特異的増幅を制御できる技術を確立する。
【解決手段】高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のアミノ酸配列に対して、前記高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のカルボキシル末端領域が欠失しているアミノ酸配列からなり、かつ鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現する改変型一本鎖DNA結合タンパク質、及びその利用方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、改変型一本鎖DNA結合タンパク質、及びその利用方法に関する。詳細には、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅系において鋳型核酸の増幅効率を向上できる高度好熱菌に由来する一本鎖DNA結合タンパク質に改変を施した改変型一本鎖DNA結合タンパク質、及びその利用方法に関する。
従来、種々の核酸の指数関数的増幅方法が開発されている。特に核酸を効率的に増幅する方法としては、概してポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」と略する)に代表される反応温度を変動させる熱サイクルを用いるもの、及び反応が等温であるものに分類される。
鋳型核酸の増幅反応を等温で行う方法として、鎖置換増幅(以下、「SDA」と略する)やローリングサークル増幅(以下、「RCA」と略する)等が知られている。SDA法は、鋳型核酸に制限酵素でニックを入れ、このニックをもつDNA断片を順番に置換していくDNAポリメラーゼ(鎖置換ポリメラーゼ)の作用を用いてDNAを増幅する。一方、RCA法は鋳型核酸にアニールしたプライマーを基点として合成された伸長鎖の先端で、鎖置換ポリメラーゼがその前の鎖を置換してハイブリッド形成を行う。そのため、これら方法では標的核酸の増幅は等温で連続的に行われるため熱サイクルが不要となる。
このような鎖置換により、等温条件下で連続的に鋳型核酸の直線的または指数関数的な増幅が可能となる。従って、例えばRCA法では、熱サイクルを用いる方法と比べて、鋳型核酸の増幅過程をより単純にしたため様々な利点がある。例えば、増幅産物の産生量を効率よく増加できる、有効に増幅することができる鋳型核酸の長さが制限されない、熱サイクルを行う設備が不要となる等が挙げられる。そして、一塩基変異多型やシークエンス反応用の鋳型核酸の簡便な増幅等、様々な生物学的手法に利用されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
しかしながら、鎖置換ポリメラーゼを使用した等温増幅反応系においては、鋳型核酸に特異的なDNA断片が効率よく増幅されるだけでなく、鋳型核酸に非特異的なDNA断片も増幅され易く増幅精度が低下するという問題点があった。
この理由の一つとして、等温増幅における反応温度が通常30〜60℃程度であるためプライマーダイマーが形成され易くなり、プライマーダイマー形成の結果、鋳型核酸に非特異的なDNA断片が増幅され易くなるということが考えられる。つまり、鋳型核酸の不在下であってもプライマーダイマーが形成され、非特異的な核酸が増幅される。鋳型核酸に非特異的なDNA断片は、増幅精度が低下する要因となり、後の実験に支障を来たすバックグラウンドノイズとなる。そして、増幅にランダムな配列を有するプライマーを使用することから、非特異的増幅を制御することは困難であるとされてきた。
かかる理由により、鋳型核酸の等温増幅方法はPCRのように熱サイクルを不要とする等の点から、汎用性の高い技術として期待されている。しかし、上述した鋳型核酸に非特異的な核酸の増幅による増幅精度の問題からその用途が限定されていた。
かかる不具合を解決すべく、種々の技術が報告されている。例えば、RCA法で用いるプライマーを化学修飾することでプライマーに起因する鋳型核酸に非特異的な誤増幅を抑制する技術が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。また、RCA法に適用する反応液量を低減させることにより、鋳型核酸濃度を増大させ誤増幅を抑制する技術も報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
ここで、鋳型核酸の増幅反応において、一本鎖DNA結合タンパク質(single-stranded DNA binding protein:以下、「SSBタンパク質」と略する場合がある)が鋳型核酸の増幅反応効率等に関与していると考えていた。そして、SSBタンパク質は、バクテリオファージから真核生物まで、広く様々な起源から多数のSSBタンパク質が分離されている。また、高度好熱菌からもSSBタンパク質が分離されている(例えば、非特許文献5参照)。
SSBタンパク質は、一本鎖DNA(以下、「ssDNA」と略する)に対して配列非特異的に親和性が高い。通常、DNA複製、組換え、及び生物ゲノムの修復にはSSBタンパク質が必要である。SSBタンパク質はその同族DNAポリメラーゼを特異的に刺激し、DNA合成の忠実度を高め、螺旋の不安定化によりDNAポリメラーゼの前進性を改善する。それと共に、DNAポリメラーゼへの結合を促進し、複製開始点を組織化及び安定化する。つまり、SSBタンパク質は複製補助因子として作用すると考えられている。
そして、RCA法等の鎖置換ポリメラーゼを用いる鋳型核酸の増幅方法は、鋳型核酸を変性する当該鎖置換ポリメラーゼの鎖置換能力に依存している。そして、この鎖置換は、複製補助因子や鎖置換補助因子により促進することができるため、これらの存在により鋳型核酸に特異的なDNA断片を効率よく増幅できると考えられていた。
かかる技術常識を背景として、鎖置換複製を実行できる鎖置換ポリメラーゼにより鋳型核酸の等温増幅を、鎖置換補助因子存在下で行う方法が報告されていた。例えば、鋳型核酸の増幅効率を改善するためにバクテリオファージT4由来のSSBタンパク質をSDA等の等温増幅反応系に添加することが報告されていた(例えば、特許文献1参照)。さらに、鋳型核酸の鎖置換複製に有用な鎖置換補助因子として大腸菌由来のSSBタンパク質の利用が報告されていた(例えば、特許文献2参照)。
さらに、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)由来の一本鎖DNA結合タンパク質のアミノ酸配列に対して、255番目のフェニールアラニンがプロリンに置換されたアミノ酸配列を有する改変型の一本鎖DNA結合タンパク質が本発明者らによって構築された。さらに、本発明者らは、かかる改変型の一本鎖DNA結合タンパク質が、鋳型核酸の増幅効率を改善することが見出し報告した(例えば、非特許文献6参照)。
Dean FB., Nelson JR., Giesler TL., Lasken RS.著、"Rapid amplification of plasmid and phage DNA using Phi 29 DNA polymerase and multiply-primed rolling circle amplification."、Genome Res.、第11巻、第6号、第1095〜1099頁、2001年6月 Lizardi PM., Huang X., Zhu Z., Bray-Ward P., Thomas DC., Ward DC.著、"Mutation detection and single-molecule counting using isothermal rolling-circle amplification."、Nat. Genet.、第19巻、第3号、第225頁〜第232頁、1998年7月 Brukner I., Paquin B., Belouchi M., Labuda D., Krajinovic M.著、"Self-priming arrest by modified random oligonucleotides facilitates the quality control of whole genome amplification."、Anal. Biochem.、第339巻、第2号、第345〜347頁、2005年4月 Hutchison CA., Smith HO., Pfannkoch C., Venter JC.著、"Cell-free cloning using phi29 DNA polymerase."、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、第102巻、第48号、第17332〜17336頁、2005年 Dabrowski S., Olszewski M., Piatek R., Brillowska-Dabrowska A., Konopa G., Kur J.著、"Identification and characterization of single-stranded-DNA-binding proteins from Thermus thermophilus and Thermus aquaticus - new arrangement of binding domains."Microbiology、第148号(Pt 10)、第3307〜3315頁、2002年10月 Inoue J., Shigemori Y., Mikawa T.著、"Improvements of rolling circle amplification(RCA) efficiency and accuracy using Thermus thermophilus SSB mutant protein." Nucleic Acids Research、第34号、第9号、e69、2006年5月 特開平10-234389号公報 特表2002-525078号公報
しかしながら、化学修飾プライマーを利用する非特許文献3に記載の方法は、鎖置換ポリメラーゼの強い酵素活性によりプライマーダイマーを完全には抑制することができなかった。また、反応液量を低減させる非特許文献4に記載の方法も、合成される核酸量が少なくなり実用性に乏しいという問題点があった。また、バクテリオファージや大腸菌等由来のSSBタンパク質を添加する特許文献1、2の方法も、増幅効率の点で問題があり実用化に至っていない。かかる要因として、SSBタンパク質のssDNAへの結合力が強すぎることから、増幅効率が低下し、また誤増幅を効果的に抑制することができないことが考えられる。したがって、いずれの方法においても、増幅精度及び増幅効率の観点から期待し得る効果を十分に得られなかった。
従って、本発明は、増幅精度及び増幅効率を向上するべく、等温増幅反応系において非特異的増幅を制御できる実用性の高い技術を確立することを目的とする。具体的には、本発明者らが従前に構築した改変型一本鎖DNAタンパク質に加え、誤増幅を抑制でき鋳型核酸の特異的増幅に寄与し得る新たなタンパク質の探索により更なる実用性の向上を目的とする。
本発明者が鋭意検討を行った結果、高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質が有するアミノ酸配列において、C末端領域のアミノ酸が欠失した改変型一本鎖DNA結合タンパク質を構築した。かかる改変型一本鎖DNA結合タンパク質を、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅系に添加した。してみると、鋳型核酸に特異的な増幅産物が得られ、非特異的増幅が生じない精度の高い増幅産物が得られることを見出した。これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
上記目的を達成するため、本発明は以下の[1]〜[7]に示すものである。
[1]高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のアミノ酸配列に対して、前記高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のカルボキシル末端領域が欠失しているアミノ酸配列からなり、かつ鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現する改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
[2]前記高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質が、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、又は、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の一本鎖DNA結合タンパク質である上記[1]の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
[3]以下の(A)又は(B)の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
(A)配列認識番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(B)配列認識番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現するタンパク質
[4]上記[1]〜[3]の改変型一本鎖DNA結合タンパク質をコードするDNAからなる遺伝子。
[5]以下の(a)又は(b)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列認識番号1に示される塩基配列からなるDNA
(b)配列認識番号1に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現するタンパク質をコードするDNA
上記[1]〜[5]の構成によれば、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現する改変型SSBタンパク質を提供できる。本発明の改変型SSBタンパク質を、鎖置換ポリメラーゼを用いたDNAの等温増幅系に添加することにより、特異的なDNA断片の効率的な増幅が可能となる。つまり、非特異的増幅を抑制でき、バックグラウンドノイズの影響を受けないDNA断片の増幅が可能となり、増幅効率の向上に寄与し得る。したがって、本発明によって提供される改変型SSBタンパク質は、核酸増幅を要する様々な生物学的手法に適用できる。そして、かかる効果は、改変部位を有しない高度好熱菌由来のSSBタンパク質及び他の組換え関連タンパク質では奏することができない。
また、本発明の改変型SSBタンパク質のアミノ酸配列、並びに塩基配列が明確になったことから、遺伝子工学的手法を用いて低コストかつ工業的に大量生産することが可能となった。
更には、本発明の改変型SSBタンパク質は、高度好熱菌由来のタンパク質を改変の基礎としたことから、熱安定性が高いという性質を有する。そのため、その製造においても、加熱処理により容易に夾雑タンパク質を不溶性画分として除去できるため簡便に調製が容易である。例えば、遺伝子工学的手法により製造する場合においても、宿主由来のその他のタンパク質を容易に除去することができる。したがって、精製度を向上させることができ、信頼性の高いタンパク質を製造できるという利点がある。
[6]鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅方法であって、
上記[1]〜[3]のいずれかの改変型一本鎖DNA結合タンパク質を添加して増幅反応を行う核酸の等温度増幅方法。
[7]前記鎖置換ポリメラーゼが、Phi29 DNAポリメラーゼである上記[6]の核酸の等温増幅方法。
上記[6]〜[7]の構成によれば、鋳型核酸を効率的に増幅可能な核酸増幅技術を提供できる。本発明の改変型SSBタンパク質を、鎖置換ポリメラーゼを核酸の等温増幅系に添加することにより、鋳型核酸に特異的なDNA断片の効率的な増幅が可能となる。詳細には、非特異的増幅を抑制でき、バックグラウンドノイズの影響を受けない鋳型核酸に特異的なDNA断片の増幅が可能となり、増幅効率の向上に寄与し得る。かかる効果は、改変部位を有しない高度好熱菌由来のSSBタンパク質及び他の組換え関連タンパク質を添加することによっては奏することができない。
したがって、本発明の改変型SSBタンパク質を利用した増幅方法は、一般的な生物学的手法に幅広く利用可能である。例えば、遺伝子型分析のために、環境中より採収した微量の微生物から抽出した少量の試料から大量のDNAを調製する有用な方法として、或いは、DNAシークエンシングのためのDNAの調製方法として、有用である。さらに、動物或いは植物細胞から抽出した少量の試料からDNAチップ固定用DNAを調製する等、種々の用途に適用できる汎用性の高いDNAの調製方法として利用価値が高い。特に、RCA法に好適に利用でき、RCA法を利用した応用技術を無限に広げることができる。
更に、本発明の改変型SSBタンパク質は、DNAライブラリーからの標的cDNAクローンのクローニング系に適用することができる。これにより、特異的かつ効率的な標的cDNAクローンのDNAライブラリーからの濃縮又は単離が達成される。特異的かつ効率的なcDNAクローニングは、遺伝子発現、発生、分化等の解析、並びに有用物質の産生の分野において大いに貢献し得る。
また、本発明の改変型SSBタンパク質は、RNAからDNAの逆転写反応系に適用することができる。これにより、所望の標的RNAの特異的、かつ、効率的なcDNAへの転換が達成される。RNAからcDNAへの変換は遺伝子工学上不可欠な手法であることから、遺伝子発現検出とその定量、RNAの構造解析、cDNAクローニング等、その利用価値は高い。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の改変型SSBタンパク質には、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現し、かつ野生型SSBタンパク質のカルボキシル末端(以下、「C末端」と略する場合がある)領域において改変が生じている、すべての改変型が含まれる。つまり、本発明の改変型SSBタンパク質は、野生型SSBタンパク質と比較して鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系において鋳型核酸に対する特異性が向上している。そして、本発明の改変型SSBタンパク質は、野生型SSBタンパク質のC末端領域において、特定のアミノ酸に改変が生じている改変部位を有する。
このような改変は、人為的に導入することもできるし、また、自然界において非意図的に生じることもある。本発明の改変型SSBタンパク質には、これら双方の改変型が含まれる。
改変型の基礎となるSSBタンパク質とは、自然界より分離されたSSBタンパク質のアミノ酸配列、及びSSBタンパク質をコードする塩基配列が、意図的もしくは非意図的に改変が生じている改変部位を有していないことを意味する。改変の基礎となるSSBタンパク質としては、高度好熱菌に由来するタンパク質が好適に例示される。特にはサーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)等に由来する高度好熱菌由来のSSBタンパク質が好適である。ここで、本発明の改変型の基礎として好適なSSBタンパク質の配列情報として、サーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列を配列認識番号5に、該SSBタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列認識番号4に示す(GenBank:AJ564626)。また、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列を配列認識番号7に、該SSBタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列認識番号6に示す(GenBank:AF276705)。しかしながら、これらに限定するものではなく、公知のSSBタンパク質を改変の基礎とすることができる。
なお、ここで、単に「SSBタンパク質」と称する場合、本発明の改変の基礎となり得、意図的もしくは非意図的に改変が生じている改変部位を有していないタンパク質を指す。したがって、本発明の改変型と区別するため使われる、所謂「野生型SSBタンパク質」とは同義で使用する。
また、SSBタンパク質のC末端領域とは、厳密な境界を有するものではないが、SSBタンパク質のC末側の領域を指す。例えば、サーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質を例にとると、当該SSBタンパク質の230番目のプロリン付近〜263番目のフェニルールアラニンからなる領域を指す。また、例えば、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質を例にとると、当該SSBタンパク質の231番目のプロリン付近〜264番目のフェニルールアラニンからなる領域を指す。
ここで、改変とは、改変の基礎となるタンパク質のアミノ酸配列のうち、1個以上のアミノ酸が欠失、置換、及び付加の少なくとも1つからなる改変が生じていることを意味する。そして、「1個以上のアミノ酸が欠失、置換、及び付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする遺伝子に対する公知の遺伝子組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、又は付加することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、又は付加されることを意味する。そして、これらの組み合わせをも含む。
ここで、下記の実施例で詳細に示すが、等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能と、DNAに対する結合力には相関関係を有することが認められる。従前、SSBタンパク質はDNAに強く結合することから鋳型核酸と望ましくない結合を形成し核酸の増幅効率が低下する場合があると考えられていた。これに関しては下記で説明する実施例においても確認された。しかし、今般、DNAに対する結合力が低下するように改変されたSSBタンパク質を等温増幅反応系に適用することで、誤増幅を抑制し、増幅効率を向上できるという知見を得た。即ち、SSBタンパク質が保持するDNAへの結合力を適切に制御することにより、鋳型核酸の増幅効率が向上することが判明した。したがって、本発明の改変型SSBタンパク質としては、高度好熱菌由来のSSBタンパク質が本来有しているDNA結合能が変化しているものをも好適に利用することができる。
さらに注目すべきは、高度好熱菌由来のSSBタンパク質のC末端領域には、酸性アミノ酸残基であるグルタミン酸、及びアスパラギン酸が豊富に含まれる点である。そのため、C末端領域のアミノ酸に改変が生じると、タンパク質の等電点(以下、「PI」と略する)が変動する。特には、酸性アミノ酸残基が、塩基性アミノ酸残基、若しくは中性アミノ酸残基に改変することによりPI値が高くなる。かかる等電点の変動が、SSBタンパク質の等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能に影響を与える可能性が示唆される。したがって、本発明の改変型SSBタンパク質としては、SSBタンパク質の等電点に変動が生じるように改変したものが好ましく例示される。
具体的には、本発明の改変型SSBタンパク質として、高度好熱菌由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列に対して、当該高度好熱菌由来のSSBタンパク質のC末端領域が欠失しているアミノ酸配列を有するものが例示される。
詳細には、例えばサーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質を改変の基礎とした場合には、当該SSBタンパク質の230番目のプロリン以下のアミノ酸が欠失した改変体が例示される。即ち、サーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列に対して、1〜229番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するタンパク質が、好ましく例示される。ここに、そのアミノ酸配列を配列表の配列認識番号2に示すと共に、それをコードする塩基配列を配列表の配列認識番号1に示す。また、サーモス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列とのアライメント図を図1に示す。そして、サーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質と高い配列類似性を有する他種のSSBタンパク質のアミノ酸配列を改変の基礎とした場合には、同位置での切断した切断型タンパク質が好ましく例示される。具体的には、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列に対して、231番目のプロリン以下のアミノ酸が欠失した改変体が好適に例示される。ここに、そのアミノ酸配列を配列表の配列認識番号8に示す。
更には、上記改変型SSBタンパク質の等温増幅系における鋳型核酸に対する特異性を向上させる機能を保持する限り、上記配列認識番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるものについても本発明の範囲に含まれる。なお、欠失、置換若しくは付加の概念については上記で説明した通りである。
本発明の改変型SSBタンパク質は公知の方法によって取得することができる。例えば、改変の基礎となる高度好熱菌由来のSSBタンパク質をコードする遺伝子に対して改変を施す。そして、得られた改変型遺伝子を用いて宿主細胞を形質転換し、かかる形質転換体の培養物から高度好熱菌SSBタンパク質を採取することによって取得することができる。
かかる高度好熱菌由来のSSBタンパク質の遺伝子は、公知の遺伝子クローニング技術を用いて取得することができる。また、GenBank等の公知のデータベースの検索によって取得できる遺伝子情報に基づいて、常法により合成することによっても取得することができる。例えば、ホスホルアミダイト(phosphoramidite)法等のDNA合成技術を利用することができる。このようにして得られた改変型遺伝子も本発明の一部をなす。
SSBタンパク質をコードする遺伝子に改変を施す方法としては、特に制限はなく、当業者に公知の改変タンパク質作製のための変異導入技術を利用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR法等を利用して点変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。例えば、大腸菌由来のSSBタンパク質に対する変異導入に関する公知文献(例えば、Chase JW他、The Journal Biological Chemistry、259(2)、第805頁〜第814頁、1984年1月25日)を参照することができる。また、市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標)Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製))を利用してもよい。また、一旦、目的とする改変型SSBタンパク質のアミノ酸配列が定まれば、それをコードする適当な塩基配列を決定することができる。かかる配列情報に基づいて、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して本発明の改変型SSBタンパク質をコードする遺伝子を合成することができる。
ここで、本発明の改変型SSBタンパク質をコードする遺伝子として、具体的には、配列認識番号1に示される塩基配列からなるDNAが好適に例示される。かかる遺伝子も本発明の一部をなす。また、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現するタンパク質をコードする限りは、配列認識番号1に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなる遺伝子も本発明の範囲に含まれる。
ここで、ストリンジェントな条件とは、塩基配列において、60%以上、好ましくは70%、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上の同一性を有するDNAがハイブリダイズし得る条件をいう。ストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーション反応や洗浄の際の塩濃度及び温度を適宜変化させることによって当業者は好適に調整することができる。例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第2版(Sambrook他、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)に記載のサザンハイブリダイゼーションのための条件等が挙げられる。
より具体的には、30%(v/v)のホルムアミド、0.6Mの塩化ナトリウム、0.04Mのリン酸ナトリウム(pH7.2)、2.5mMのEDTA(pH8.0)、1%SDS中の42℃にて16時間のハイブリダイゼーションが挙げられる。ホルムアミド濃度が20%(v/v)であるときには、34℃にて16時間のハイブリダイゼーションが例示される。洗浄条件としては、2×SSC、0.1%SDS中の5℃にて5分間の洗浄、及び0.1×SSC、0.1%SDS中での65℃にて30分間〜4時間の洗浄が例示される。
得られた改変型遺伝子を用いて宿主細胞を形質転換するためには、公知の大腸菌等の宿主・発現ベクターシステムを利用することができる。例えば、本発明の改変型SSBタンパク質を安定に組み込める適当なベクターに連結させ、本発明の改変SSBタンパク質を効率的に発現できる大腸菌等の宿主に導入し形質転換体を作成する。
利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、本発明の改変型SSBタンパク質をコードする遺伝子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。
そして、本発明の組換えベクターは、本発明の改変型SSBタンパク質をコードする遺伝子がその機能を発現できるように組み込まれてある。したがって、遺伝子の機能に発現に必要な他の公知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、例えば、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく公知のプロモータ配列を利用できる。更に、本発明の組換えベクターには、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性などの遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
ベクターへの本発明の改変型SSBタンパク質をコードする遺伝子等の挿入は、例えば、適当な制限酵素で本発明の遺伝子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法などを用いることができるが、これに限定されない。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、公知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(Takara-bio社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。
また、宿主細胞としては、本発明の改変型SSBタンパク質を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E.coli DH5α、E.coli BL21、E.coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、Saccharomyces cerevisiae等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS-7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等の公知の方法を利用することができる。
そして、得られた形質転換体を適当な培地に接種し、常法に準じて培養することで本発明の改変型SSBタンパク質を発現させる。形質転換体の培養は、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
本発明の改変型SSBタンパク質を発現する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
このようにして得られた形質転換体の培養物からの改変型SSBタンパク質の採取、精製は、例えば一般的な高度好熱菌由来のSSBタンパク質の精製方法に従って行なえばよい。また、本発明の改変型SSBタンパク質の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、本発明の改変型SSBタンパク質が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、本発明の改変型SSBタンパク質を単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS-PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィ等の各種クロマトグラフィ等の公知の単離精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。また、本発明の改変型SSBタンパク質が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理などの酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、上記の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。
また、例えば、本発明の改変型SSBタンパク質は、高度好熱菌由来のSSBタンパク質を改変の基礎とすることから熱安定性が高く、上記単離、精製工程において熱処理を併用することが有用である。培養物から得られた宿主細胞及び培養上清には、当該宿主細胞由来の様々なタンパク質を含有する。しかし、熱処理を行なうことにより、宿主細胞由来の夾雑タンパク質は変性し凝縮沈殿する。したがって、例えば、宿主の大腸菌を破砕して熱処理を行うことにより、当該SSBタンパク質以外の大腸菌由来タンパク質は熱凝集するため、遠心分離等により分離除去できる。これにより熱変性しない当該SSBタンパク質を可溶画分として大腸菌由来タンパク質と分離し、親和性クロマトグラフィー等を用いて精製できる。また、改変の基礎となる高度好熱菌由来のSSBタンパク質は、熱安定性を有するがため室温で構造が安定しており、さらに有機溶剤に対しても高い安定性を有している。そのため、上記精製工程は室温で行うことが可能である。
そして、精製されたタンパク質が所望の改変が生じている改変部位を有する改変型SSBタンパク質であるか否かの確認は、公知のアミノ酸分析法によって行うことができる。例えば、エドマン分解法に基づく自動アミノ酸決定法が利用できる。また、精製された改変型SSBタンパク質を、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応に供して、改変部位を有しないSSBタンパク質と比較して、鋳型核酸に対する特異性が向上しているか否かを確認することによって行うことができる。確認方法としては、例えば、本発明の実施例に示す方法によって行うことができる。
ここで、上記の「鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能」とは、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応において、鋳型核酸に関連のない非特異的増幅がほとんど認められず、かつ、鋳型核酸を高い収率で増幅できることを意味する。そして、好ましくは、鋳型核酸の増幅効率を5〜10倍向上させ得る機能を意味する。例えば、配列認識番号5若しくは7に表すアミノ酸配列を有するタンパク質が有する、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における、鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能と実質的に同等であることをいう。
本発明は更に、本発明の改変型SSBタンパク質を用いた、等温増幅可能な鎖置換ポリメラーゼを用いた鋳型核酸の等温増幅方法を提供する。本発明の増幅方法は、本発明の改変型SSBタンパク質を添加して増幅反応を行うものである。
ここで、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅方法は、高熱による熱変性を必要としない等温条件下で、鎖置換ポリメラーゼの鎖置換活性により核酸を指数対数的に増幅する方法である。このような鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅方法としては、RCA法、SDA法等が好適に例示され、特にはRCA法に好適に適用できる。RCA法の原理は以下の通りである。RCA法による鋳型核酸の等温増幅方法は、例えば、等温条件下において、鋳型核酸である環状DNAにアニールした複数のランダムプライマーを基点にして、鎖置換ポリメラーゼが環状DNAの相補鎖を伸長する。そして、合成鎖の伸長に伴い、他のランダムプライマーの複製基点に達しても、当該鎖置換ポリメラーゼの鎖置換活性により他の合成鎖を剥がしながら鎖の伸長を継続する(ブランチング)。このとき、剥がされた合成鎖にはランダムプライマーがアニールできる部位が露出する。つまり、環状DNAだけでなく、この剥がされた合成鎖をも鋳型核酸として新たなDNA合成鎖を形成できるため、指数関数的な増幅となる。
このときに用いられるランダムプライマーは、ランダムヘキサマー等が好適に利用できる。その他のプライマーの例としては、鋳型核酸の標的部位に設定温度で特異的にアニールするプライマーを適用できる。このプライマーは、当該プライマー単独、或いは、上記ランダムプライマーと混合した状態で使用することが可能である。
プライマーの設計は、標的となる核酸配列に基づいて所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等により設計されるが、ランダムプライマーの場合、ランダムな配列を有するように設計される。このように設計されたプライマーは化学的に合成することが可能である。例えば、公知のホスホルアミダイト法を用いて固相合成により化学合成することができる。また、市販されている自動核酸合成装置により所望の塩基配列からなるプライマーを自動的に合成することも可能である。合成後のプライマーは、必要に応じてHPLC等の公知の方法により精製される。
ここで、等温増幅における「等温」とは、PCR法のようにDNA変性、アニール、鎖伸長の各工程で反応温度を変化させるのに対して、例えば一定温度に制御して増幅反応を行うことを指す。増幅反応を行う温度は、好ましくは60℃未満、より好ましくは45℃未満、さらに好ましくは37℃未満である。この温度は、適用する鎖置換ポリメラーゼにより適宜決定する。例えば、後述するバクテリオファージ由来Phi29 DNAポリメラーゼを用いた場合、増幅反応を行う好適な温度範囲は25〜42℃であり、好ましくは30〜37℃、更に好ましくは30〜34℃である。当該一定温度になるように設定したインキュベーター等の恒温チャンバーにおいて、サンプルを、4〜24時間、好ましくは6〜24時間、更に好ましくは15〜24時間程度インキュベートし、鋳型核酸の増幅反応を行う。
そして、鎖置換ポリメラーゼとしては、バクテリオファージ由来Phi29 DNAポリメラーゼ(米国特許第5,198,543号及び米国特許第5,001、050号、Blanco et al.)が好適に例示される。しかしながら、これに限定されるものではない。例えば、Bst大断片のDNAポリメラーゼ(Exo(-)Bst(Aliotta等、Genet. Anal.(オランダ国)12:185-195(1996年))及びExo(-)BcaDNAポリメラーゼ(Walker及びLinn, Clinical Chemistry42: 1604-1608(1996年))、ファージM2DNAポリメラーゼ(Matsumoto et al., Gene 84:247 (1989年))、ファージφPRD1 DNAポリメラーゼ(Jung et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:8287 (1987年))、VENT(登録商標)DNAポリメラーゼ(Kong et al., J. Biol. Chem. 268:1965-1975 (1993年))、DNAポリメラーゼIのクレノー断片(Jacobsen et al., Eur. J. Biochem. 45:623-627 (1974年))、T5 DNA ポリメラーゼ(Chatterjee et al., Gene 97:13-19 (1991年))、シーケナーゼ(登録商標)(米国バイオケミカルズ社製)、PRD1 DNAポリメラーゼ(Zhu and Ito, Biochem. Biophys. Acta. 1219:267-276(1994年))及びT4 DNAポリメラーゼホロ酵素(Kaboord and Benkovic, Curr. Biol. 5:149-157 (1995年))等が挙げられる。
また、鋳型核酸としては、環状DNAが好適に例示されるがこれに限られるものではなく、直鎖状DNAを用いてもよい。RCA法の場合、増幅効率の点から環状DNAが好ましい。鋳型核酸は一本鎖及び二本鎖が適用可能である。また、天然のDNAとしてプラスミドDNA・真核及び原核生物のゲノムDNA、及び、人工的に作成したDNA分子として、細菌人工染色体(BAC)DNA・ファージミド・コスミド等の種々のDNA分子が鋳型核酸となりうる。さらに、オリゴヌクレオチド等の合成DNAも鋳型核酸とすることができる。
以上のように構成することにより、鋳型核酸に特異的なDNA断片の効率的な増幅が可能となる。つまり、鋳型核酸に関連のない非特異的増幅を抑制でき、バックグラウンドノイズの影響を受けないDNA断片の増幅が可能となる。
更に、本発明の改変型SSBタンパク質は、DNAライブラリーからの標的cDNAクローンの濃縮又は単離に適用することができる。詳細には、濃縮又は単離を所望する標的cDNAの一部の配列をプライマーとして使用し、DNAライブラリーを鋳型として増幅反応を行う際に、本発明の改変型SSBタンパク質を適用できる。ここで、増幅反応に際しては、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系の他、通常のPCR反応系等を利用することが可能である。これにより、標的cDNAと関連のない非特異的な増幅を抑制でき、標的cDNAのみを特異的に増幅可能となる。したがって、本発明の改変型SSBタンパク質の、DNAライブラリーからの標的DNAクローンのクローニング系への適用により、所望の標的cDNAクローンを特異的、かつ、効率的に濃縮、単離することが可能となる。
ここで、DNAライブラリーとしては、濃縮若しくは単離を所望する標的のDNA領域を含む、又は、含み得ることが期待されるDNAライブラリーが使用される。そして、DNAライブラリーは、遺伝子ライブラリー、cDNAライブラリーのいずれでもよいが、特にはcDNAライブラリーが好ましい。なお、本明細書において、遺伝子ライブラリーとは、特定の単一生物種の全ゲノムDNAを無作為にベクターに組み込んだクローン化されたDNAの集合体を意味する概念として使用した。一方、cDNAライブラリーとは、特定の組織、細胞、生物由来のmRNAを逆転写反応によってcDNA化し、ベクターに組み込んで作成したcDNA断片の集合体を意味する概念として使用した。
プライマーは、通常、標的核酸の特定配列に対して相補的になるように設計されるものである。特には、増幅すべき標的配列のその両端に相補的な塩基配列を有するものであることが好ましく、本発明においては濃縮又は単離を所望する標的cDNAの一部の配列が好適に利用できる。なお、プライマーの設計は公知であり、標的となるcDNAの塩基配列に基づいて設計され、例えば、プライマー設計支援ソフト等を利用することができる。このように設計されたプライマーは化学的に合成することが可能である。例えば、公知のホスホルアミダイト法を用いて固相合成により化学合成することができ、市販の自動核酸合成装置により所望の塩基配列からなるプライマーを自動的に合成することも可能である。合成後のプライマーは、必要に応じてHPLC等の公知の方法により精製される。
また、本発明の改変型SSBタンパク質は、RNAからDNAの逆転写反応に適用することができる。詳細には、逆転写酵素の存在下、ランダムへキサマープライマー、オリゴdTプライマー、標的遺伝子特異的プライマーを用いて、逆転写反応によりRNAからのcDNAの合成反応を行う際に本発明の改変型SSBタンパク質を適用することができる。更には、合成されたcDNAを鋳型として増幅反応を行う際にも適用することができる。ここで、増幅反応に際しては、置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系の他、通常のPCR反応系等を利用することが可能である。これにより、標的RNAに関連のない非特異的なcDNAの合成を抑制でき、所望の標的RNAに対するcDNAの特異的な合成が可能となる。したがって、本発明の改変型SSBタンパク質の逆転写反応系への適用により、所望の標的RNAに対するcDNAを特異的、かつ、効率的に合成することが可能となる。
ここで、RNAとしては、全RNAの他、mRNA、tRNA、rRNA等、特に制限はない。所望の遺伝子が発現若しくは発現していることが期待される細胞、組織から、公知の方法を用いて調製される。例えば、グアニジン/セシウムTFA法、塩化リチウム/尿素法、AGPC法等を利用できる。また、プライマーとして、適用される反応条件において鋳型RNAにアニールするものであれば特に制限はなく、上記したようにランダムへキサマープライマー、オリゴdTプライマー、標的遺伝子特異的プライマーを使用できる。ここで、標的遺伝子特異的プライマーとは、特定の鋳型RNAに相補的な塩基配列を有するものであり、好適には、通常のPCR反応系で使用されるプライマーの3´側が利用される。
〔実施例1〕改変型SSBタンパク質の構築
本発明の改変型SSBタンパク質の一例として、サーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列(配列認識番号5)中、230番目のプロリン以下のアミノ酸が欠失した改変型SSBタンパク質を調製した。即ち、サーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列に対して、1〜229番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有する改変型SSBタンパク質を調製した。以下、「TthSSB-229タンパク質」と称し、そのアミノ酸配列を配列表の配列認識番号2に、また、該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列表の配列認識番号1に示す。
(遺伝子クローニング)
TthSSB-229タンパク質をコードする遺伝子を、PCR法を利用してクローニングした。PCRは、サーマス・サーモフィラスのゲノムDNA(タカラバイオ:TaKaRa Code 3071)を鋳型として、Kod DNA polymerase (東洋紡績)により行った。
ここで、プライマーとしては、以下の配列を使用した。
5'-GCGGATCCAT ATGGCTCGAG GCCTGAACCG-3'(配列認識番号9)
5'-TAAGGATCCT CATCCACGGG TGGGGCGCT-3' (配列認識番号10)
なお、プライマーは、クローニングのためのNdeI及びBamHI制限配列を含み、サーマス・サーモフィラスHB8株由来のSSBタンパク質をコードする遺伝子(GenBank accession number:NC006461)の配列情報に基づいて構築した。
増幅により、予想サイズの増幅産物が確認された。得られた増幅産物を精製後、発現プラスミドの構築のため制限酵素NdeI及びBamHIによって切断し、プラスミドpET17bに連結した。次いで、大腸菌BL21(DE3)株(Novagen社)、若しくは大腸菌BL21(DE3)pLysS株(Novagen社)に形質転換してTthSSB-229タンパク質発現クローンを得た。
(タンパク質の発現及び精製)
上記で得られた発現クローンを、OD600=0.5に達するまで培養し、更に、最終濃度0.5mMのイソプロピル-b-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加して4時間培養した。培養後、細胞を収集した。このとき、大腸菌の一般的な培養方法に従って培養した。
収集した細胞1gを、50mM Tris-HCl(pH 7.5)、2mM EDTA、10mM β-メルカプトエタノール及び100mM NaClを含有する緩衝液10ml中に再懸濁した後、超音波破砕処理した。続いて、76,000×gで60分間の遠心分離により細胞組織片を除去した後、上清を70℃にて20分間の熱処理に処した。熱処理後、76,000×gで60分間の遠心分離により沈渣を除去して得られた上清をHeparin Sepharose 6 Fast Flowカラム(8ml:Amersham Biosciences社)に供した。そして、20mM Tris-HCl(pH 7.5)、2mM EDTA、10mM β-メルカプトエタノール及び100mM NaClを含有する緩衝液にて平衡化した。続いて、NaClの0.1Mから1.0Mへのリニアグラジエントにてタンパク質を溶出した。そして、SDS-PAGEによって検出された、SSBタンパク質を含有する画分を回収し、最終濃度1 Mとなるように(NH4)2SO4を添加した。次いで、BUTYLl-TOYOPEARL 650S カラム(4ml:東ソー)に供し、20mM Tris-HCl(pH 7.5)、2mM EDTA、10mM β-メルカプトエタノール及び1.0M (NH4)2SO4を含有する緩衝液で平衡化した。そして、(NH4)2SO4の1.0Mから0Mへのリニアグラジエントにて溶出し、SSBタンパク質を含有する画分を回収した。回収した画分を、20mM Tris-HCl(pH 7.5)、2mM EDTA及び10mM β-メルカプトエタノールを含有する緩衝液中で透析し、低塩濃度(0.6%以下)に調整した。調整後の溶液をRESOURCEQ(6ml:Amersham Biosciences社)に供し、20mM Tris-HCl(pH 7.5)、2mM EDTA、10mM β-メルカプトエタノール及び100mM NaClを含有する緩衝液にて平衡化した。そして、NaClの0.1Mから1.0 Mへのリニアグラジエントにて溶出し、SSBタンパク質を含有する画分を回収した。回収後、Centriprep Ym-10(Amicon、コスモバイオ)にて200μlまで濃縮した。濃縮後、等量のグリセロールを添加して、次の実験に供するまで−20℃で保存した。なお、タンパク質の濃度は、280nmで、モル吸光係数50 370 M-1 cm-1を用いて測定した。
〔実施例2〕DNA結合力の比較
本発明の改変型SSBタンパク質のDNAに対する結合力を検討した。
(方法)
実施例1にて調製したTthSSB-229タンパク質につき、DNAに対する結合力を検討した。比較として、核酸増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能が既知のTthSSBタンパク質の改変体、野生型のサーモス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質(以下、「TthSSB-wtタンパク質」と称する)、及び野生型の大腸菌由来のSSBタンパク質(以下、「EcoSSB-wtタンパク質」と称する)についてもDNAに対する結合力を検討した。
ここで、上記既知のTthSSBタンパク質の改変体としては、野生型のサーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質における255番目のフェニールアラニンがプロリンに置換されたもの(以下、「TthSSB-255タンパク質」と称する)を使用した。そのアミノ酸配列につき、配列表中の配列認識番号3に示す。
これらタンパク質は、タンパク質緩衝液(1.5M KCl、50mM Tris-HCl(pH7.5)、1.0mM EDTA、0.5mM DTT、50% glycerol)中に溶解させたもの使用した。なお、以下の実験において使用するタンパク質は特に記載がない限り、上記タンパク質緩衝液に溶解させたものを使用した。
タンパク質のDNAに対する結合力は、Mikawa.T他著、“N-terminal 33 amino acid residues of Escherichia coli RecA protein contribute to its self-assembly.”J.Mol.Biol.、第250巻、第471〜483頁の記載の方法に従って測定した。即ち、etheno-modified ssDNA(以下、「εDNA」と称する)の蛍光強度変化により測定した。具体的には、0〜6μMの所定の各濃度になるよう調製されたタンパク質の存在下で、25℃にて、50mM Tris-HCl(pH7.5)、1.0mM DTT、10mM MgCl2、100mM KCl、及び10μMのεDNAを含有する200μlの反応液の蛍光強度を測定することによって行った。蛍光測定は、温度可変キュベットを使用して分光蛍光光度計(Perkin Elmer LS 55 Luminescence Spectrometer)により行った。このとき、励起波長、発光波長を、夫々305nm、440nmに設定して測定した。
なお、TthSSB-wtタンパク質及びTthSSB-255タンパク質は実施例1に準じる方法によって取得したものとを使用した。
具体的には、TthSSB-wtタンパク質の調製に際しては、以下のプライマー対を使用してPCR増幅を行い、TthSSB-wtタンパク質をコードする遺伝子をクローニングした。
5'-GCGGATCCAT ATGGCTCGAG GCCTGAACCG-3' (配列認識番号9)
5'-TAAGGATCCT TATTAAAACG GCAACTCCTC CTCCGGCGGA AA-3'
(配列認識番号11)
また、thSSB-255タンパク質の調製に際しては、以下のプライマー対を使用してPCR増幅を行い、TthSSB-255タンパク質をコードする遺伝子をクローニングした。
5'-GCGGATCCAT ATGGCTCGAG GCCTGAACCG-3' (配列認識番号9)
5'-ACAGGATCCT TATTAAAACG GCAACTCCTC CTCCGGCGGA GGGTCTTCCA AGCCTTCGTC-3' (配列認識番号12)
(結果)
結果を図2に示す。また、測定された蛍光強度からコンピュータプログラム(IGOR:WaveMetrics社製)により各タンパク質のssDNAに対する解離定数を算出した。算出された解離定数を表1に示す。
図2及び表1で示すように、TthSSB-229タンパク質、及びTthSSB255タンパク質は、野生型のSSBタンパク質であるTthSSB-wtタンパク質、及びEcoSSB-wtタンパク質と比較して、ssDNAに対する結合力が弱いことが判明した。
〔実施例3〕
改変型SSBタンパク質の核酸増幅反応系に与える影響−1
本発明の改変型SSBタンパク質が核酸増幅反応系に与える影響について検討した。
(方法)
上記実施例1で調製されたTthSSB-229タンパク質の添加下で、核酸増幅反応を行い、TthSSB-229タンパク質の核酸増幅系に与える影響を検討した。
具体的には、以下の条件下で核酸増幅反応を行った。
1.TthSSB-229タンパク質を2μg添加
2.TthSSB-255タンパク質を2μg添加
3.タンパク質緩衝液を0.2μlのみを添加
4.何れのタンパク質、及びタンパク質緩衝液を添加せず
なお、タンパク質は、実施例2と同様、タンパク質緩衝液中に溶解させたもの使用した。なお、タンパク質緩衝液としては、実施例2と同様、1.5M KCl、50mM Tris-HCl(pH7.5)、1.0mM EDTA、0.5mM DTT、50% glycerol溶液を使用した。
核酸増幅反応は、REPLI-g DNA Amplification kit(QIAGEN社製)を用いて、製造業者のプロトコールに従い、上記1〜4の条件下で、2ngの鋳型核酸を20μlの反応液量で18時間反応させることによって行った。なお、増幅の対象となる鋳型核酸としては、ヒトゲノムDNA(Promega社:カタログ番号G3041)を使用した。増幅後、増幅反応液を2μlずつ分取して、1.2%アガロースゲル電気泳動に供した。電気泳動後のゲルをエチジウムブロミドで染色し、核酸のバンドを可視化した。
さらに、反応液中に鋳型核酸を添加しなかったことを除いては、上記1〜4の条件下で同様の増幅反応を行った。等温増幅系においては、鋳型核酸の不在下であってもプライマーダイマーが形成され、非特異的な核酸が増幅されるという問題点があった。したがって、かかる鋳型核酸不在下での増幅により、当該タンパク質の誤増幅に与える影響を検討することができる。
(結果)
結果を図3に示す。
図3中、レーン1〜4は、鋳型核酸の存在下で、核酸増幅反応を行った結果を示す。
そして、レーン1は、何れのSSBタンパク質、及びタンパク緩衝液を添加せずに核酸増幅を行った結果を示す。
レーン2は、SSBタンパク質を何ら添加せず、タンパク質緩衝液のみを添加した条件下での増幅結果を示す。
レーン3は、TthSSB-255タンパク質を添加した条件下での増幅結果を示す。
レーン4は、TthSSB-229タンパク質を添加した条件下での増幅結果を示す。
図3中、レーン5〜8は、鋳型核酸の不在下で、核酸増幅反応を行った結果を示す。
そして、レーン5は、SSBタンパク質及びタンパク緩衝液を何ら添加せずに核酸増幅を行った結果を示す。
レーン6は、SSBタンパク質を何ら添加せず、タンパク質緩衝液のみを添加した条件下での増幅結果を示す。
レーン7は、TthSSB-255タンパク質を添加した条件下での増幅結果を示す。
レーン8は、TthSSB-229タンパク質を添加した条件下での増幅結果を示す。
TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質を添加して核酸増幅を行った場合には、夫々、鋳型核酸に特異的なDNA断片の増幅が確認された(図3中、レーン3、4)。ここで使用したTthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質の精製度は一定ではなく、特にTthSSB-229タンパク質の精製度がTthSSB-255タンパク質より低いことが想定される。してみると、タンパク質の精製度の差異等を加味して比較した場合、TthSSB-229タンパク質を添加した場合には、TthSSB-255を添加した場合と同程度の増幅産物の産生が確認できた(図3中、レーン3、4の比較)。また、鋳型核酸の不在下では、TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質の何れを添加した場合にも増幅産物の産生は認められなかった(図3中、レーン7、8)。つまり、TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質の添加によって、鋳型核酸に非特異的な増幅を抑制でき、鋳型核酸に特異的な核酸増幅が達成できることが理解される。したがって、TthSSB-229タンパク質は、TthSSB-255タンパク質と同様、核酸増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率向上効果に寄与し得ることが判明した。
一方、TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質の何れをも添加せずに増幅反応を行った場合には、鋳型核酸の不在下においても増幅産物が認められた(図3中、レーン5、6)。そして、鋳型核酸の存在下で得られた増幅パターン(図3中、レーン1、2)は、鋳型核酸の不在下で得られた増幅パターン(図3中、レーン5、6)とは、類似する部分があった。そのため、図3中のレーン1、2で確認された鋳型核酸の存在下で得られた増幅産物は、鋳型核酸に関連のない非特異的な増幅産物をも多く含む蓋然性が高いことが判明した。
以上の結果より、TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質の添加下で確認されている鋳型核酸の増幅効率の向上効果は、これらのタンパク質特有の効果であることが判明した。また、実施例2での結果を併せて鑑みると、TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質が示した鋳型核酸の増幅効率の向上機能の発現は、これらのタンパク質のDNA結合力の低下に関連するものであるとの知見が導かれる。したがって、ここで得られたDNAへの結合力を人為的に低下させた改変型SSBタンパク質は、核酸増幅反応系における複製補助因子として必要とされる適度なDNA結合力を発揮する。これにより、核酸増幅反応系における反応効率を向上させ、かつ誤増幅を抑制するものと理解される。ここで得られた結果を更に確証すべく、更に実施例4〜6において検討を行った。
〔実施例4〕
改変型SSBタンパク質の核酸増幅反応系に与える影響−2
実施例3に続いて、本発明の改変型SSBタンパク質が核酸増幅反応系に与える影響について検討した。
(方法)
上記実施例3に続いて、TthSSB-229タンパク質の添加下で、核酸増幅反応を行い、TthSSB-229タンパク質の核酸増幅系に与える影響を検討した。本実施例では、特に、最適増幅時間について検討した。
具体的には、以下の条件下で核酸増幅反応を行った。
1.コントロール(何れのタンパク質、及びタンパク質緩衝液を添加せず)
2.TthSSB-wtタンパク質を2μg添加
3.TthSSB-255タンパク質を2μg添加
4.TthSSB-229タンパク質を2μg添加
核酸増幅反応は、上記1〜4の条件下で、増幅時間を0、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、及び4.0時間と変化させた以外は、実施例3と同様にして行った。増幅後、実施例3と同様にして電気泳動に供した。
さらに、反応液中に鋳型核酸を添加しなかったことを除いては、上記1〜4の条件下で上記と同時間の増幅反応を行った。
(結果)
結果を図4に示す。
図4中、パネルAは、鋳型核酸の存在下で、核酸増幅反応を行った結果を示す。
そして、パネルAのレーン1〜7は、コントロールであり、夫々0、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、及び4.0時間、核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルAのレーン8〜14は、TthSSB-wtタンパク質を添加して、夫々0、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、及び4.0時間、核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルAのレーン15〜21は、TthSSB-255タンパク質を添加して、夫々0、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、及び4.0時間、核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルAのレーン22〜28は、TthSSB-229タンパク質を添加して、夫々0、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、及び4.0時間、核酸増幅反応を行った結果を示す。
図4中、パネルBは、鋳型核酸の不在下で、核酸増幅反応を行った結果を示す。
そして、パネルBのレーン1〜7は、コントロールであり、夫々0、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、及び4.0時間、核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルBのレーン8〜14は、TthSSB-wtタンパク質を添加して、夫々0、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、及び4.0時間、核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルBのレーン15〜21は、TthSSB-255タンパク質を添加して、夫々0、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、及び4.0時間、核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルBのレーン22〜28は、TthSSB-229タンパク質を添加して、夫々0、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、及び4.0時間、核酸増幅反応を行った結果を示す。
TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質を添加して核酸増幅を行った場合には、夫々、鋳型核酸に特異的なDNA断片の増幅が確認された(図4中、パネルAのレーン20〜21、レーン23〜28)。そして、かかる増幅産物量は、増幅時間に比例して増加した。ここで、TthSSB-229タンパク質を添加した場合、2.0時間以下の増幅ではDNA断片の増幅は確認されなかったが(図4中、パネルAのレーン15〜19)、増幅時間を3.0時間以上に設定することで鋳型核酸特異的なDNA断片の増幅が確認された(図4中、パネルAのレーン20〜21)。実施例3にて説明したタンパク質の精製度の差異等を加味すると、増幅時間を最適化することで、TthSSB-229タンパク質を添加した場合には、TthSSB-255を添加した場合と同程度の増幅産物の産生が確認された。また、鋳型核酸の不在下では、TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質の何れを添加した場合にも増幅産物の産生は認められなかった(図4中、パネルBのレーン15〜21、レーン22〜28)。以上の結果は、実施例3の結果と一致した。つまり、実施例3の結果と同様、TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質の添加によって、鋳型核酸に非特異的増幅を抑制でき、鋳型核酸に特異的な核酸増幅が達成できることが理解される。したがって、TthSSB-229タンパク質は、TthSSB-255タンパク質と同様、核酸増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率向上効果に寄与し得ることが判明した。
一方、TthSSB-wtタンパク質を添加して増幅反応を行った場合には、鋳型核酸の存在下、および不在下においても増幅産物が認められなかった(図4中、パネルAのレーン8〜14、及びパネルBのレーン8〜14)。そして、増幅時間を延長しても反応産物は得られなかった。したがって、TthSSB-wtタンパク質には、TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質で確認された核酸増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率向上効果を奏し得ないことが判明した。そればかりか、鋳型核酸の増幅反応を阻害する場合もあることが判明した。
また、コントロールにおいては、鋳型核酸の不在下においても増幅産物が認められた(図4中、パネルBのレーン6〜7)。そして、鋳型核酸の存在下で得られた増幅パターン(図4中、パネルAのレーン2〜7)は、鋳型核酸の不在下で得られた増幅パターン(図4中、パネルBのレーン6〜7)とは、類似する部分があった。そのため、図4中、パネルAのレーン2〜7で確認された鋳型核酸の存在下で得られた増幅産物は、鋳型核酸に関連のない非特異的な増幅産物をも多く含む蓋然性が高いことが判明した。
以上の結果より、実施例3に続き、本実施例においてもTthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質の添加下で確認されている鋳型核酸の増幅効率の向上効果は、これらのタンパク質特有の効果であることが強く示唆された。一方、TthSSB-wtは、核酸増幅反応自体を抑制する場合があることが判明した。この結果を、実施例2での結果を併せて鑑みると、改変のないTthSSB-wtは、DNAに強力に結合するが故、鋳型核酸の増幅効率が低下していることを示唆するものである。
〔実施例5〕
改変型SSBタンパク質の核酸増幅反応系に与える影響−3
実施例3〜4に続いて、本発明の改変型SSBタンパク質が核酸増幅反応系に与える影響について検討した。
(方法)
上記実施例3〜4に続いて、実施例1で調製されたTthSSB-229タンパク質を添加して核酸増幅反応を行い、TthSSB-229タンパク質の核酸増幅系に与える影響を検討した。本実施例では、特に最適タンパク質添加量を検討した。
具体的には、以下の条件下で核酸増幅反応を行った。
1.TthSSB-wtタンパク質1.0、2.0、3.0、4.0、5.0μgを夫々添加
2.TthSSB-255タンパク質1.0、2.0、3.0、4.0、5.0μgを夫々添加
3.TthSSB-229タンパク質1.0、2.0、3.0、4.0、5.0μgを夫々添加
核酸増幅反応は、TmpliPhi DNA Amplification kit(QIAGEN社製)を用いて、製造業者のプロトコールに従い、上記1〜3の条件下で、2ngの鋳型核酸を20μlの反応液量で、0、4、8、20時間反応させることによって行った。なお、増幅の対象となる鋳型核酸としては、実施例3と同様、ヒトゲノムDNAを使用した。増幅後、増幅反応液を実施例3と同様にして電気泳動に供した。
(結果)
結果を図5に示す。
図5中、パネルAは、増幅時間0時間での核酸増幅反応を行った結果を示す。
そして、パネルAのレーン1〜5は、TthSSB-wtタンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルAのレーン6〜10は、TthSSB-255タンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルAのレーン11〜15は、TthSSB-229タンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
図5中、パネルBは、増幅時間4時間での核酸増幅反応を行った結果を示す。
そして、パネルBのレーン1〜5は、TthSSB-wtタンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルBのレーン6〜10は、TthSSB-255タンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルBのレーン11〜15は、TthSSB-229タンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
図5中、パネルCは、増幅時間8時間での核酸増幅反応を行った結果を示す。
そして、パネルCのレーン1〜5は、TthSSB-wtタンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルCのレーン6〜10は、TthSSB-255タンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルCのレーン11〜15は、TthSSB-229タンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
図5中、パネルDは、増幅時間20時間での核酸増幅反応を行った結果を示す。
そして、パネルDのレーン1〜5は、TthSSB-wtタンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルDのレーン6〜10は、TthSSB-255タンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
パネルDのレーン11〜15は、TthSSB-229タンパク質を、夫々1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0μg添加して核酸増幅反応を行った結果を示す。
TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質を添加して核酸増幅を行った場合には、夫々、鋳型核酸に特異的なDNA断片の増幅が確認された(図5中、パネルBのレーン6〜10及びレーン11〜15、パネルCのレーン6〜10及びレーン11〜15、パネルDのレーン6〜10及びレーン11〜15)。但し、TthSSB-229タンパク質量が過剰となると増幅産物の収量が低下し鋳型核酸の増幅が阻害されるものの(図5中、パネルBのレーン14〜15、パネルCのレーン14〜15、パネルDのレーン14〜15)、適量の添加によって鋳型核酸特異的な増幅が生じていることが理解できる。
一方、TthSSB-wtを添加して増幅反応を行った場合には、何れの添加量及び増幅時間においても増幅産物の産生が認められなかった(図5中、パネルBのレーン1〜5、パネルCのレーン1〜5、パネルDのレーン1〜5)。つまり、そのため、TthSSB-wtは、核酸増幅反応における増幅効率の向上効果は期待できないばかりか、核酸増幅反応自体を抑制する場合もあることが判明した。
以上の結果より、実施例3〜4の結果に続き、本実施例において、TthSSB-229タンパク質、TthSSB-255タンパク質の添加下で確認されている鋳型核酸の増幅効率の向上効果は、これらのタンパク質特有の効果であることが判明した。また、実施例2での結果を併せて鑑みると、TthSSB-229タンパク質は、TthSSB-255タンパク質に比べてDNA結合力が強いことから、添加量が過剰となると鋳型核酸に望ましくない結合を生じ、核酸の増幅効率の向上効果が消失することが考えられる。しかしながら、適当量の添加によって、TthSSB-255タンパク質と同程度の増幅効率向上効果を発揮する有用なタンパク質であることが判明した。
〔実施例6〕
本発明の改変型SSBタンパク質のアミノ酸二次構造の予測
本発明の改変型SSBタンパク質のアミノ酸の二次構造について検討した。
(方法)
実施例1で調製したTthSSB-229タンパク質のC末端領域のアミノ酸二次構造を予測した。比較として、TthSSB-255タンパク質及びTthSSB-wtタンパク質についても同様にアミノ酸二次構造を予測した。
タンパク質のアミノ酸二次構造は、コンピュータプログラム(GENETYX-Win)を使用することによって予測した。
(結果)
結果を図6に示す。
図6中、螺旋部はαへリックス構造を示し、折れ線部はβシート構造を示す。
TthSSB-255タンパク質のC末端領域は折り畳まれており、また、TthSSB-229タンパク質のC末端領域が欠失している点で、TthSSB-wtタンパク質と相違することが認められた。これらの知見から、かかるC末端領域の構造変化が、DNAへの結合力に影響を与え、引いては核酸増幅反応における増幅効率に影響を与える可能性が導かれる。したがって、C末端領域が欠失又は機能しない改変型タンパク質が核酸増幅反応における増幅効率の向上効果を奏することが判明した。
本発明の改変型SSBタンパク質とサーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質のアラインメント図 本発明の改変型SSBタンパク質のDNAに対する結合力を検討した実施例2の結果を示すグラフ 本発明の改変型SSBタンパク質の核酸増幅反応系における鋳型核酸の増幅に与える影響を検討した実施例3の結果を示す電気泳動パターン 本発明の改変型SSBタンパク質の核酸増幅反応系における鋳型核酸の増幅に与える影響を検討した実施例4の結果を示す電気泳動パターン 本発明の改変型SSBタンパク質の核酸増幅反応系における鋳型核酸の増幅に与える影響を検討した実施例5の結果を示す電気泳動パターン 本発明の改変型SSBタンパク質の推定アミノ酸二次構造を示す図

Claims (7)

  1. 高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のアミノ酸配列に対して、前記高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のカルボキシル末端領域が欠失しているアミノ酸配列からなり、かつ鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現する改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
  2. 前記高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質が、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、又は、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の一本鎖DNA結合タンパク質である請求項1に記載の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
  3. 以下の(A)又は(B)の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
    (A)配列認識番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (B)配列認識番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現するタンパク質
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の改変型一本鎖DNA結合タンパク質をコードするDNAからなる遺伝子。
  5. 以下の(a)又は(b)のDNAからなる遺伝子。
    (a)配列認識番号1に示される塩基配列からなるDNA
    (b)配列認識番号1に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現するタンパク質をコードするDNA
  6. 鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅方法であって、
    請求項1〜3のいずれか一項に記載の改変型一本鎖DNA結合タンパク質を添加して増幅反応を行う核酸の等温増幅方法。
  7. 前記鎖置換ポリメラーゼが、Phi29 DNAポリメラーゼである請求項6に記載の核酸の等温増幅方法。
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