JP5353244B2 - 分画大豆蛋白素材の製造法 - Google Patents
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Description
例えば7Sグロブリンは血中の中性脂肪を低下させることが報告され(非特許文献1)ている。また、11Sグロブリンは、ゲル化力が高く、豆腐ゲルの硬さ・食感を支配していると言われている。
しかしながら、実際に豆乳をpH6に調整し、不溶性画分と水溶性画分とに分けてSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるパターンを見ると、どちらの画分にも7Sグロブリンと11Sグロブリンが相当量混入してしまう。
そのため、単純にpHに対する両グロブリンの溶解挙動のみでは高純度に分画することが出来ない問題があった。
かかる報告を受け、本発明者による研究の結果、低変性の脱脂豆乳に対し1M濃度になるように硫酸ナトリウムを添加し、pHを塩酸で4.5に調製すると、酸可溶性画分に7S及び11Sグロブリンが移行すること、そして一方で酸沈殿性画分には、他の雑多な蛋白質が移行することがわかった(非特許文献4)。
そしてこの酸沈殿性画分の窒素量は脱脂豆乳中の全窒素量のうち約30%も占め、意外にも多量であることが判明した。
さらにこれらは工業的に生産される分離大豆蛋白の約35%をも占めていることを報告しており、この一群の蛋白質が従来の豆乳や分離大豆蛋白などの大豆蛋白素材の風味に影響を与えていることがわかってきた(非特許文献5)。
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先の発明は、上記の変性処理によって11Sグロブリンと脂質親和性蛋白質との分離が特に改善される効果を奏する。そして本発明はこの知見をさらに発展させ、仮に11Sグロブリンの含量がもともと低い大豆を使用した場合、上記の変性処理を行うことなく、簡単な操作で効率良く、高純度に7Sグロブリンと脂質親和性蛋白質とを分画することができるとの知見に到り、着想されたものである。
1.1)総蛋白質あたりの7Sグロブリン含量が20重量%以上かつ11Sグロブリン含量が10重量%以下である大豆から蛋白質を抽出し、大豆蛋白溶液を得る工程、
2)上記大豆蛋白溶液をpH4〜5.5に調整し、40〜65℃で加温する工程、
3)上記加温した大豆蛋白溶液をpH5.3〜5.7であって前記加温時のpHよりも高いpH領域に調整し、水溶性画分と不溶性画分とに分画する工程、を含むことを特徴とする分画大豆蛋白素材の製造法、
2.前記1.記載の水溶性画分をpH4〜5に調整し、不溶性画分を回収することを特徴とする、大豆7Sグロブリン蛋白素材の製造法、
3.前記1.記載の不溶性画分を回収することを特徴とする、非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白素材の製造法、である。
本分画法は、従来法である塩の添加などによる分画方法とは異なり、塩類を加えずにpH調整を主体として行う方法であるため、蛋白質を沈澱物として回収するのに必要な低イオン濃度環境にするための希釈や脱塩の操作が不溶であり、操作の簡便化が図れる優れた方法である。
なお、ここにいう「酸沈殿性大豆蛋白質」は、大豆の蛋白質の内、脱脂豆乳などの溶液のpHを酸性側(pH4〜6)に調整することにより沈澱する性質を有する蛋白質である。したがって、例えば分離大豆蛋白に含まれる蛋白質がこれに相当し、分離大豆蛋白製造時に酸沈殿しないホエー中の蛋白質はこれに含まれない。
7Sと11Sは、品種によっても異なると考えられるが、SDS電気泳動においてクマシーブリリアントブルー(CBB)染色後、デンシトメトリーによってピーク面積を測定した場合、従来の分離大豆蛋白(SPI)などでは大豆蛋白質全体の約70%を占める蛋白質である。以下、7Sと11Sを併せて「MSP」と略記することがある。
このLP中にはSDS-ポリアクリルアミド電気泳動による推定分子量において主に34kDa、24kDa、18kDaを示す蛋白質、リポキシゲナーゼ、γ−コングリシニンや、その他多くの雑多な蛋白質が含まれる(図2、レーン3参照)。
図2の通り、LPはSDS電気泳動法では7Sや11Sに比べて染色されにくい性質を有しており、そのため従来その実態が明確に認識されていなかったものである。そのため、従来の文献に7Sや11Sの単一のバンドとして掲載されているSDS電気泳動のバンドには、実際にはLPがかなりの量混在していることが多い。
「非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白」はLPの純度を高めた大豆蛋白素材をいう。以下、単に「LP−SPI」と略することがある。
またLPは雑多な蛋白質が混在したものであるが故、各々の蛋白質を全て特定することは困難であるが、下記(方法1)と(方法2)に示す溶解挙動により分画することができる。
試料加工大豆(全脂大豆の場合は予めヘキサンにより油分1.5%未満となるまで脱脂しておく)を粉砕し、60メッシュパスの粒度にする。その大豆1重量部に水7重量部を加え、可性ソーダでpHを7.5に調整し、室温で30分攪拌する。これを1000G、10分の遠心分離により、水溶性画分Aと不溶性画分Aに分離する。さらに不溶性画分Aに水5重量部を加え、室温で30分攪拌する。これを1000G、10分の遠心分離により、水溶性画分Bと不溶性画分Bに分離する。水溶性画分AとBを混合し、水溶性画分とする。また不溶性画分AとBを混合し、不溶性画分とする。加水から分離までの操作温度は、10℃〜25℃で行なう。また撹拌はプロペラ(350rpm)で行う。
方法1で得られた水溶性画分に塩酸を加えてpH4.5に調整する。これを1000G、10分の遠心分離により、不溶性画分Cを回収する。さらにこの不溶性画分Cに対し、1M Na2SO4(20mMメルカプトエタノール含有)溶液を方法1の試料加工大豆の5重量倍を添加してよく攪拌し、10000G、20分の遠心分離により、水溶性画分Dと不溶性画分Dに分離する。この不溶性画分Dに再度同じ操作を繰り返し、水溶性画分Eと不溶性画分Eに分離する。この不溶性画分DとEを合わせたものをLP画分とし、水溶性画分DとEを合わせたものを7S及び11S画分(MSP画分)とする。操作温度は、10℃〜25℃で行なう。以上により得られたLP画分とMSP画分の窒素量をそれぞれケルダール法で測定し、両者の比率を測定する。
大豆蛋白素材は最終の製品化工程において一般的に加熱殺菌されるため、7S、11S及びLPはいずれも加熱変性が起こっている。そのため、製品化された大豆蛋白素材から上記方法1、2の方法によってLPを7S,11Sと分画し、LP含量を測定することが困難である。
また、一般的な蛋白質組成の測定方法であるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)ではLPがCBB染色されにくいという性質を有するため、これも正確な測定が困難である。
したがって簡易的に、7S,11S,LPの各蛋白質中の主要な蛋白質を選択し、それらの染色比率を求め、これらの比率からLP含量を推定する以下の方法を採用することができる。
(a) 各蛋白質中の主要な蛋白質として、7Sはαサブユニット及びα'サブユニット(α+α')、11Sは酸性サブユニット(AS)、LPは34kDa蛋白質及びリポキシゲナーゼ(P34+Lx)を選択し、SDS−PAGEにより選択された各蛋白質の染色比率を求める。電気泳動は表1の条件で行うことが出来る。
(b) X(%)=(P34+Lx)/{(P34+Lx)+(α+α’)+AS}×100(%)を求める。
(c) 低変性脱脂大豆から調製された分離大豆蛋白のLP含量を加熱殺菌前に上記方法1,2の分画法により測定すると凡そ38%となることから、X=38(%)となるよう(P34+Lx)に補正係数k*=6を掛ける。
(d) すなわち、以下の式によりLP推定含量(Lipophilic Proteins Content Index、以下「LCI」と略する。)を算出する。
本発明の大豆蛋白質の分画方法は、1)総蛋白質あたりの7Sグロブリン含量が20重量%以上かつ11Sグロブリン含量が10重量%以下である大豆から蛋白質を抽出し、大豆蛋白溶液を得る工程、2)上記大豆蛋白溶液をpH4〜5.5に調整し、40〜65℃で加温する工程、3)上記加温した大豆蛋白溶液をpH5.3〜5.7であって加温時のpHよりも高いpH領域に調整し、水溶性画分と不溶性画分とに分画する工程を含むことを特徴とする。
本発明の分画方法に使用する原料大豆は、総蛋白質あたりの7Sグロブリン含量が20重量%以上、好ましくは30重量%以上であって、かつ11Sグロブリン含量が10重量%以下、好ましくは5重量%以下である大豆を用いる。かかる大豆は特に育種あるいは遺伝子組換え技術により11Sグロブリンを欠失させた大豆、すなわち11Sグロブリン含量が0重量%である大豆を用いることができる。例えばUS2004/0037905 A1などに記載されるような大豆を使用することができる。
抽出時の温度は、4〜50℃程度が好ましく、10〜30℃程度がより好ましい。温度が高すぎるとたん白質が変性を受けて分画しにくい状態となり、逆に温度が低すぎると抽出効率が悪くなってしまう。
得られた抽出液から中性付近pH6〜9において不溶物であるオカラを遠心分離等により除去する。得られたオカラに対しさらに水を4〜6重量倍加え、さらに抽出し豆乳の回収量を上げる操作を繰り返しても良い。
かかる工程を経ることにより、7Sは可溶な状態を保持しつつ、LPを選択的に不溶化することができる。そして、7S主体の水溶性画分と不溶化したLPが主体の不溶性画分とを固液分離により分画することができる。
該素材の7Sの純度は少なくとも80%以上の高純度となるため、7S特有の特性を活かした利用が可能である。例えば血中中性脂肪低減剤や体脂肪低減剤などの栄養機能剤や高粘性素材などに利用できる。また該素材のLCI値は30%以下であり、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下であり、LP含量が極めて少なく、風味に優れるものである。
LPは従来の大豆蛋白素材の風味劣化の一因となる成分と考えられていたものであるが、これを高純度に分画し、LP−SPIとすることにより、LP固有の特性を活かした用途への使用が可能となる。
ちなみに分画されていない従来の分離大豆蛋白のクロメタ油分は4〜5重量%程度で、高純度の大豆7S蛋白や大豆11S蛋白も3%以下に過ぎない。
血中コレステロール低下用組成物中に添加するLP−SPIの含有量は、組成物の形態・量によっても異なり、適宜設定することができる。通常は1日あたりの有効成分の摂取量を摂取できるように、1日あたりの組成物の摂取量を考慮し、組成物中の含有量を当業者が設定すればよい。例えば、1日あたりのLP−SPIの摂取量を4.5gと設定した場合、1日あたりの組成物の摂取量が10gである場合は、組成物中の有効成分の含有量を45重量%とすれば良い。本発明のLP−SPI1日あたりの摂取量は特に限定されないが、4〜10gとすることができる。
血中コレステロールを低下用食品として提供する場合は、一般的な食品の形態である清涼飲料、乳製品、豆乳、発酵豆乳、大豆蛋白飲料、豆腐、納豆、油揚げ、厚揚げ、がんもどき、ハンバーグ、ミートボール、唐揚げ、ナゲット、各種総菜、焼き菓子、栄養バー、シリアル、飴、ガム、ゼリー等の菓子類、タブレット、パン類、米飯類など、様々な食品に配合することができる。さらに、食品の場合には食品の包装やパンフレット等の宣伝媒体等にLP−SPIが有効成分として含まれる旨、そしてこれにより食品が血中コレステロールの低下作用を有する旨を直接的又は間接的に記載した、日本の特定保健用食品などの健康食品にもすることができる。
総蛋白質あたりの7Sグロブリン含量が20重量%以上であり、かつ11Sグロブリン含量が10重量%以下である大豆を使用し、これから上述の(方法1)に従って蛋白質を抽出し、オカラを分離して大豆蛋白溶液を得る。
次に、該大豆蛋白溶液を塩酸にてpHを5.0に調整し、60℃で15分間加熱後、苛性ソーダでpHを5.5にして30分間プロペラ攪拌(300〜350rpm)後、不溶性画分Aを1000G、10分の遠心分離にて分離し、水溶性画分を回収する。これを塩酸にてpHを4.5に調整し、生じた不溶性画分Bを1000G、10分の遠心分離にて回収し、噴霧乾燥して大豆7Sグロブリン蛋白素材を得る。
この蛋白素材の純度検定は3.7μgを試料としてSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、SDS-PAGEにより展開し、クマシーブリリアントブルーで染色後、デンシトメーターに供し、全蛋白質のバンドの濃さに対する7Sと11Sに相当するバンドの濃さが占める割合を算出する方法により行う。また、これらのサンプルのLCI値も求める。上記検定法によれば本法に従って調製される7Sの純度は80%以上の高純度となり、また、このときのLCI値は、30%以下となってLPが非常に低減化されたものとなる。
調製例1と同様にして得られる不溶性画分Aを回収し、噴霧乾燥することによって、LP−SPIを得る。この蛋白の固形分中に含まれる油分は、エーテルで抽出される油分は2%未満であり、クロロホルム:メタノールの比が2:1の混合溶媒で抽出される油分が7%以上であり、極性脂質に親和性を示すLPが多く含まれる。このときのLCI値は少なくとも60%以上の高純度となる。
市販のIOM大豆(アメリカ産)(総蛋白質中、7Sグロブリン含量18%、11Sグロブリン含量36%)を使用し、(方法1)に従って蛋白質を抽出し、オカラを分離して大豆蛋白溶液を得る。
次に、実施例1と同様の方法で水溶性画分と不溶性画分Aに分画する。水溶性画分を塩酸にてpH4.5に調整し、生じた不溶性画分Bを遠心分離にて回収し、噴霧乾燥して蛋白素材を得る。得られた蛋白素材の7S純度は75%以下となる。
調製例1と同様にして得る大豆蛋白溶液をpH3.5(比較例2)およびpH6(比較例3)に調整して60℃で加熱する以外はそれぞれ同様にして分画を行った場合、得られる水溶性画分はいずれも純度が高いものが得られず、80%に満たない。不溶性画分Aの回収量が低下し、LPとして回収されるべき画分が可溶化する量が多くなると考えられる。
実施例1と同様にして得る大豆蛋白溶液をpH5.0に調整し、35℃(比較例4)および70℃(比較例5)で加熱する以外はそれぞれ同様にして分画を行った場合、得られる水溶性画分は35℃では7Sの純度は上がらない。一方、70℃では7Sの純度は上がるが、極端に収量が低くなる。不溶性画分Aは70℃では7Sのコンタミが多くなり、比較例4,5のいずれも高純度に分画することができない。
実施例1と同様にして得る大豆蛋白溶液をpH5.0に調整して60℃で15分間加熱後、苛性ソーダでpH5.2(比較例6)およびpH6.0に調整する以外は、それぞれ同様にして分画を行う。得られる水溶性画分はpH5.2では極端に収量が少なくなる。またpH6.0では7Sの純度が上がらない。したがって比較例2,3のいずれも高純度に分画することができない。
Claims (2)
- 1)総蛋白質あたりの7Sグロブリン含量が20重量%以上かつ11Sグロブリン含量が10重量%以下である大豆から蛋白質を抽出し、大豆蛋白溶液を得る工程、
2)上記大豆蛋白溶液をpH4〜5.5に調整し、40〜65℃で加温する工程、
3)上記加温した大豆蛋白溶液をpH5.3〜5.7であって前記加温時のpHよりも高いpH領域に調整し、水溶性画分と不溶性画分とに分画する工程を含み、該不溶性画分を回収して得られる非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白素材を食品に配合することを特徴とする、非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白素材を含む食品の製造法。 - 1)総蛋白質あたりの7Sグロブリン含量が20重量%以上かつ11Sグロブリン含量が10重量%以下である大豆から蛋白質を抽出し、大豆蛋白溶液を得る工程、
2)上記大豆蛋白溶液をpH4〜5.5に調整し、40〜65℃で加温する工程、
3)上記加温した大豆蛋白溶液をpH5.3〜5.7であって前記加温時のpHよりも高いpH領域に調整し、水溶性画分と不溶性画分とに分画する工程を含み、該不溶性画分を回収し、中和、殺菌加熱、乾燥から選択される1以上の工程を行い、製品化することを特徴とする、LCI値が60重量%以上の非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白素材の製造法。
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