以下、本発明における実施形態について図1〜図19に基づき説明する。まず、本発明の基本構成について説明し、その後に各種実施例について説明する。
<<基本構成>>
本発明の基本構成について、まず図1を用いて説明する。図1は、本発明におけるレーザチップの構成の一例を示す模式的な側面図であり、従来のレーザチップの構成について示した図20に相当するものである。
図1に示すように、本発明では、活性層2よりレーザ光が出射されるレーザチップ1の光出射側の端面に低反射膜3、光出射側の端面と反対側の端面に高反射膜4を形成しており、特に光出射側の端面に形成される低反射膜3の表面に光吸収膜5を形成している。従来、光出射側の端面には出射される光の量を低減しないように出射される光に対して透明な材料のみを用いて低反射膜3を形成していたが、本発明では敢えてその低反射膜3の表面に、出射される光に対して透明ではない材料から成る光吸収膜5を形成することとする。
光吸収膜5としては、例えば、金(Au)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)などを含んだ金属膜や、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、タンタル(Ta)などの窒化物を含んだ窒化物膜、さらには、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、タンタル(Ta)などの酸化物であるとともに、化学量論的組成から酸素が少なくなる方向に組成がずれている酸素欠損酸化物から成る酸素欠損膜などを用いることが可能である。なお、上記の窒化物膜を、化学量論的組成から窒素が少なくなる方向に組成がずれている窒素欠損窒化物から成る窒素欠損膜としても構わない。
次に、光吸収膜5を形成したレーザチップを備えたレーザ素子の動作の一例について、図2を用いて説明する。図2は、図1の構成のレーザチップ1を備えたレーザ素子の動作試験の結果を示すグラフであり、従来のレーザ素子の動作試験の結果について示した図21に相当するものである。また、図2は、発振波長が405nmのレーザ素子を光出力が20mW、温度が75℃でそれぞれ一定となるように駆動電流を制御するとともに、レーザチップ1の気密封止を行わず、大気雰囲気中において連続発振させた場合のグラフである。
図2に示すように、本発明における光吸収膜5を低反射膜3の表面に形成することによって、駆動時間の経過に伴う駆動電流の上昇を抑制するとともに、動作の安定化を図ることが可能となる。また、レーザ素子の長寿命化を図ることも可能となる。具体的に本例の場合では、光出力を図21の場合における15mWよりも増大させて汚染物質が反応しやすい条件としているにもかかわらず、駆動電流が発振開始後からほぼ変動せず、80〜100mA程度の一定かつ安定した値となっている。また、いくつかのレーザ素子の動作試験結果を重ねて示しているが、いずれのレーザ素子も破壊に至ることなく、1200時間を越えて動作させることができた。
これは、出射された光の一部が光吸収膜5で吸収されることで発生した熱によって、付着した汚染物質を再蒸発させられる、または、汚染物質の付着自体が防がれるために、汚染物質の付着及び堆積が抑制されているものと考えられる。そして、汚染物質の付着及び堆積を抑制することによって、長時間レーザ素子を駆動させても発光量の低下に伴う駆動電流の上昇を防ぐことが可能となり、レーザ素子の長寿命化を図ることができる。
また、本発明による光吸収膜5をレーザチップ1に形成することによって、レーザチップ1の気密封止を行うことなく種々のパッケージに実装しても、駆動時間の経過に伴う駆動電流の増加を抑制することができる。そして、短波長の光を発するレーザ素子においても気密封止を行わないパッケージを採用することが可能となり、レーザ素子の小型化を図ることができる。また、気密封止が必要なパッケージを採用することとしても、露点などの厳密な封止条件の制御を行う必要がなくなるため、容易にレーザ素子を作製することができる。
なお、これらの光吸収膜5を形成したチップの具体的な構成例や効果については後述する実施例において詳細に説明する。また、上述した光吸収膜5の材料は一例であり、これ以外の材料であっても光吸収膜5として使用することが可能である。また、光吸収膜5を多層膜としても構わない。
また、本発明は短波長の光を発する発光素子全般に適用可能であり、レーザチップ1の他に、例えば発光ダイオードやスーパールミネッセンスダイオードなどの発光素子のチップに適用することとしても構わない。さらに、レーザチップに適用する場合においても、上述したようなレーザチップの端面(基板の各層を成長させる成長面に対して垂直な面)から光を出射する端面発光型のレーザチップにのみ適用するだけではなく、チップの端面と垂直な面(基板の各層を成長させる面と平行な面)から光を出射する面発光型のレーザチップにも適用することとしても構わない。いずれのチップに適用する場合も、光が出射される端面の最表面に光吸収膜5を形成することで、最表面に汚染物質が付着及び堆積することを防ぐことが可能となる。
また、複数の素子を組み合わせて成る素子に含まれる、短波長の光を出力するチップにも適用することが可能である。例えば、ホログラム素子や受光素子などの光学素子とともにレーザチップを備えるホログラムレーザや、短波長の光を発するチップと蛍光板とから成り白色のような複数の波長が混在した光を出力する発光素子などに備えられるチップに適用することとしても構わない。
また、短波長の光を発する材料から成る発光素子であれば、窒化物系半導体に限らず適用することが可能である。例えば、ZnSe系や、ZnO系などの材料から成る発光素子に本発明を適用することとしても構わない。
また、端面に直接AlN膜などの六方晶系の半導体膜を形成することとしても構わない。このように構成することによって、保護膜を密着させ剥がれを防止する効果や、保護膜が密着することによって端面がより強固に保護されるために特に高出力としたときに動作が安定する効果、を得ることができる。
また、図1に示す高反射膜4の反射率を低下させることによってレーザチップ1の高反射膜4側からも少量の光を出力させ、その出力される少量の光に基づいた制御信号をフィードバックすることで駆動電流を制御するように発光素子を構成する場合において、光吸収膜5を高反射膜4の表面に形成することとしても構わない。
このように構成することによって、汚染物質が高反射膜4の表面に付着及び堆積することを防止することができるために、制御信号を作成するための光の出力を正確なものとすることができる。そのため、高反射膜4側から出力される光が汚染物質の付着及び堆積によって弱くなったことを発光素子からの発光が弱くなったものと誤認し、不適正に大きな電流を発光素子に供給することを防ぐことが可能となる。
また、金属膜を光吸収膜5として利用する場合において、端面に直接金属膜を形成してしまうと、金属膜を介して電流が流れるために短絡して、活性層に電流が流れなくなるおそれがある。また、金属膜に限らず、光吸収膜5から発生した熱が端面に損傷を与える可能性があるため、端面近傍に光吸収膜5を形成することは好ましくない。さらに、汚染物質が付着する場所は保護膜3、4の表面であるため、端面近傍より保護膜の表面近傍に光吸収膜5を形成した方が、より汚染物質の付着及び堆積を防ぐことができるため好ましい。
しかしながら、保護膜3、4の表面に光吸収膜5を形成した場合でも、電極や他の金属部材などに光吸収膜5が接触して短絡する問題が発生し得る。本発明では、この光吸収膜5を介した短絡の発生を抑制することも一つの目的としている。なお、この短絡を抑制する構成例の詳細については、後述する。
<<実施例>>
次に、上述した基本構成を備えた本発明の実施例について説明する。なお、以下に示す実施例はそれぞれ一例に過ぎず、上述したように光吸収膜をチップの光が出射される端面の最表面に備える構成である限り、本発明はどのような構成であっても構わない。また、第一〜第三実施例において、チップ及び素子の構成例を示す。また、第四〜第十三実施例において、保護膜及び光吸収膜の構成例を示す。さらに、第十四〜第十六実施例において、短絡を抑制するための構成例を示す。なお、以下の各実施例は、矛盾なき限り適宜組み合わせて実施することができるものとする。
[チップ及び素子の構成例]
<第一実施例>
以下の第一実施例〜第三実施例では、窒化物系半導体からなるレーザチップやこのレーザチップを備えたレーザ素子の構成例を示す。まず、第一実施例について図3を用いて説明する。図3は、第一実施例におけるレーザチップの構成の一例を示した模式的な斜視図及び側面図である。
まず、図3(a)の斜視図に示すように、本実施例におけるレーザチップ1は、n型GaN基板11上に積層される厚さ0.2μmのn型GaNから成るバッファ層12と、バッファ層12上に積層される厚さ2.3μmのn型Al0.06Ga0.94Nから成るn型クラッド層13と、n型クラッド層13上に積層される厚さ20nmのn型GaNから成るn型ガイド層14と、n型ガイド層上に積層されるとともに厚さ4nmのInGaNと厚さ8nmのGaNとがGaN/InGaN/GaN/InGaN/GaN/InGaN/GaNと積層される多重量子井戸活性層15と、多重量子井戸活性層15上に積層される厚さ70nmのGaNから成る保護層16と、保護層16上に積層される厚さ20nmのp型Al0.3Ga0.7Nから成る電流ブロック層17と、電流ブロック層17上に積層されるとともに上部が所定の方向に延びたストライプ状となるp型Al0.05Ga0.95Nから成るp型クラッド層18と、p型クラッド層18のストライプ状となった部分の上に積層される厚さ0.1μmのp型GaNから成るp型コンタクト層19と、を備える。
これらの層12〜19は、基板11上に順にエピタキシャル成長して成るものであり、p型クラッド層18の一部及びp型コンタクト層19より成るストライプ状のリッジストライプ20は、p型コンタクト層19まで順に各層12〜19をエピタキシャル成長させた後に、p型クラッド層18及びp型コンタクト層19をエッチングによって除去することで形成される。また、本例におけるレーザチップ1の発振波長は405nmであり、リッジストライプ20の幅は、1.2μm〜2.4μmの間の値、例えば、1.5μm程度の値である。なお、照明用などの用途に用いるブロードエリアレーザの場合は、リッジストライプ20の幅を3μm〜50μm程度としても構わない。また、図3(a)に示すように、メサ形のリッジストライプ20としても構わない。
また、レーザチップ1は、リッジストライプ20の両側を埋めるように形成されるSiO2/TiO2から成る絶縁膜21と、リッジストライプ20及び絶縁膜上に形成されるPd/Mo/Auから成るp電極22と、基板11のバッファ層12が積層された面と反対側の面に形成されるHf/Alから成るn電極23と、を備える。
また、後述するが、リッジストライプ20の延びる方向と略垂直の面(面A及び面B)には、保護膜と、保護膜上に形成される光吸収膜と、を備える。なお、本実施例では、面Aを光出射側の端面として図1に示したような低反射膜3及び光吸収膜5が形成されることとして、面Bには高反射膜4が形成されることとする。
このようなレーザチップ1に備えられる窒化物半導体層12〜19の積層には、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いても構わないし、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法や、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法などの方法を用いることができる。また、絶縁膜21や保護膜3、4などの形成には、マグネトロンスパッタ法やECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法などの各種スパッタ法やPECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法を用いることができる。また、電極21、22などの金属膜の形成には、EB(Electron Beam)蒸着法や、抵抗加熱蒸着法などの各種蒸着法や、上述した各種スパッタ法を用いることができる。また、光吸収膜5の形成には、光吸収膜に用いられる材料の種類に応じて適宜これらの方法から選択して使用することとしても構わない。
また、保護膜及び光吸収膜の構成について図3(b)の側面図に示す。図3(b)に示すように、低反射膜3として面Aから順に酸窒化アルミニウム(AlOxN1-x(ただし、0<x<1とする))膜3a、窒化ケイ素(SiN)膜3b、酸化アルミニウム(Al2O3)膜3cが形成されており、AlOxN1-x膜3aの厚さは20nm、SiN膜3bの厚さは200nm、Al2O3膜3cの厚さは140nmとなっている。また、光吸収膜5はパラジウム(Pd)より成り厚さは3.5nmとなっている。
一方、高反射膜は、面Bから順にAlOxN1-x膜4a、SiN膜4bを形成して、さらに酸化ケイ素(SiO2)膜4c及び酸化チタン(TiO2)膜4dを四組組み合わせた膜をSiO2膜4cから順に形成する。そして、四組目のTiO2膜4dの上にさらにSiO2膜4eを形成する。このとき、AlOxN1-x膜4aの厚さは20nm、SiN膜4bの厚さは80nm、組になっているSiO2膜4cの厚さは71nm、TiO2膜4dの厚さは46nmであり、四組目のTiO2膜4dの上に形成されるSiO2膜4eの厚さは142nmとなっている。
ここで、上述した保護膜3、4及び光吸収膜5の形成方法の一例について、保護膜3、4の形成にECRスパッタ法を用い、光吸収膜5の形成にEB蒸着法を用いた場合を例に挙げて説明する。まず、光出射側の端面において低反射膜3を形成するために、ウエハを劈開することによって得られるバーを、ECRスパッタ装置の成膜室に挿入する。ここでバーとは、図3に示したレーザチップの複数が一体となって接続されている状態を表しており、複数のレーザチップ1が面A及び面Bを揃えるようにして、リッジの延びる方向と略垂直な方向に一列に複数接続しているものを表すこととする。そして、このバーを図3に示すレーザチップ1毎に分割することで、レーザチップ1が得られる。なお、保護膜を形成する前にレーザチップ1毎に分割することとしても構わない。
ECRスパッタ装置へバーを挿入すると、次に窒素ガスを5.2ccmの流量で導入し、酸素ガスも0.1ccmの流量で導入する。そして、プラズマを発生させるためにアルゴンガスを20.0ccmの流量で導入する。また、Alターゲットに500WのRF(Radio Frequency)パワーを印加し、アルゴンプラズマの発生のためにマイクロ波パワーを500W印加して、AlOxN1-x膜3aを形成する。なお、xについては窒素ガス及び酸素ガスの流量を適宜変更することで制御することができる。
次に、ターゲットをSiに切り替えるとともに、窒素ガスを5ccm流してSiN3b膜を形成する。そして、再度ターゲットをAlに切り替えるとともに酸素ガスを5.8ccm流してAl2O3膜3cを形成する。なお、このときもアルゴンガスを20.0ccm流しており、Si、Alターゲットには500WのRFパワーを印加し、アルゴンプラズマの発生のためにマイクロ波パワーを500W印加する。
そして、低反射膜3が形成されたバーをECRスパッタ装置から取り出し、EB蒸着装置にて150℃程度の温度でPdから成る光吸収膜5を形成する。なお、EB蒸着装置を用いずに、ECRスパッタ装置を用いて低反射膜3の形成に対して連続的に光吸収膜5を形成することとしても構わない。
また、高反射膜4の形成も同様に行い、ECRスパッタ装置を用いて順に、AlOxN1-x膜4a、SiN膜4b、SiO2膜4c及びTiO2膜4dの組み合わせを4組、SiO2膜4e、を順に形成する。そして、保護膜3、4及び光吸収膜5が形成されたバーを分割することで、図3に示すようなレーザチップ1が得られる。
次に、得られたレーザチップ1を実装したレーザ素子の一例について説明する。本実施例では、気密封止を行わないフレームパッケージに実装する場合について図4を用いて説明する。図4は、第一実施例におけるレーザ素子の模式的な斜視図である。
図4に示すように、本実施例におけるレーザ素子40は、レーザチップ1と、レーザチップ1が固着されるサブマウント41と、サブマウント41が固着されるフレーム42と、フレーム42と一体となりフレーム42の両端に備えられる放熱フィン43と、レーザチップ1に電力を供給するためのリードピン44と、リードピン44a〜44cとフレーム42とを一体として保持する樹脂モールド65と、を備えている。
サブマウント41、フレーム42及び放熱フィン43は銅や鉄などの金属材料より成っており、レーザチップ1で発生した熱はサブマウント41を介してフレーム42や放熱フィンに伝達され、放熱される構成となっている。また、本実施例では三つのリードピン44a〜44cが備えられる構成となっており、中央のリードピン44bがフレーム42と接続し、両端の二つのリードピン44a、44cは樹脂モールド65で固定されることによって、フレーム42と一体になっている。
そして、このように構成されるレーザ素子40に電力を供給して連続発振させたときの駆動試験の結果が、本発明の基本構成において示した図2のグラフとなる。したがって、レーザ素子40を気密封止しない構成としても汚染物質の付着及び堆積を防止することが可能となり、駆動時間の経過に伴って駆動電流を増大させる必要が生じて素子寿命が短くなることや、動作が不安定となることを防ぐことができる。
また、本実施例では、レーザチップ1を気密封止する構成が不要であるためにレーザ素子40の小型化を図ることができる。そのため、CDやDVDの光ピックアップに代表される情報記録装置用の光源にも容易に適用することが可能となる。
<第二実施例>
次に、第二実施例について図5を用いて説明する。本実施例は、レーザチップの気密封止を要するキャンパッケージにレーザチップを実装するものであり、図5は、第二実施例におけるレーザ素子の模式的な斜視図である。なお、本実施例で使用するレーザチップ1は、ほぼ第一実施例で示した図3のレーザチップと同様の構成であるが、高反射膜4の反射率が70%〜80%程度となっており、図3に示したレーザチップ1よりも高反射膜4を形成する膜の数を減少させたり、一部の膜の厚みを変更したりするなどの設計変更がなされているものとする。
また、本実施例では、低反射膜の表面だけでなく高反射膜の表面にも光吸収膜が形成されているものとする。この膜は、第一実施形態と同様にPdより成るものとし、厚さは4nmであるものとする。
図5に示すように、本実施例におけるレーザ素子50は、レーザチップ1と、レーザチップ1が固着されるサブマウント51と、サブマウント51が固着されるブロック部52と、レーザチップ1の高反射膜側から出射される光を受けて制御信号を作成するフォトダイオード53と、ワイヤ54aによってフォトダイオード53と電気的に接続されるピン55aと、ワイヤ54bによってレーザチップ1と電気的に接続されるピン55bと、ブロック部52とフォトダイオード53とが一方の面上に配置されピン55a、55bがその一方の面と反対側の他方の面とを貫通して配置されるステム56と、ステム56の他方の面に接続してフォトダイオード53及びレーザチップ1の共通の電極となるピン55cと、ステム56の一方の面に接続して気密封止するキャップ57と、キャップ57に備えられるとともにレーザチップ1の低反射膜側から出射された光が透過するガラス窓58と、を備える。また、ブロック部52とステム56とは一体となって成型されており、銅や鉄などの金属材料から成っている。また、キャップ57やピン55a〜55cも同様であり金属材料より成っている。
また、この構成において、レーザチップ1とサブマウント51との接着は半田によって行われ、サブマウント51とブロック部52及びフォトダイオード53とステム56との接続はAgペーストが用いられており、それぞれが電気的に接続されている。Agペーストは有機物系接着剤を含んでいるため、キャップ57をステム56に接着することによって気密封止しても、封止雰囲気内に有機物が漂うこととなる。そして、従来のレーザ素子の構成であれば、この有機物が汚染物質となってレーザチップの光出射側の端面に付着及び堆積する問題を低減するために、気密封止する乾燥空気の露点を厳密に制御(例えば、−35℃以下)していた。
しかしながら、本実施例のようにレーザチップ1の保護膜の表面に光吸収膜を備える構成であれば、封止雰囲気内に有機物が漂っていても、上述したように汚染物質となって付着及び堆積することを防ぐことができる。したがって、封止雰囲気を厳密に制御し、有機物の蒸気圧を抑制することを要せずに気密封止することが可能となる。そのため、製造工程の簡略化を図ることができる。また、Agペーストだけでなく、エポキシ系やシリコーン系など他の有機物系接着剤を用いたとしても汚染物質の付着及び堆積を防ぐことができるため、パッケージ内の設計の自由度を確保することができる。
また、本実施例では、レーザチップ1の高反射膜側から出射される光をフォトダイオード53が受けて、制御信号を作成するとともにピン55aを介してレーザ素子50の駆動装置(不図示)にフィードバックする構成としている。そのため、光が出射される高反射膜側にも汚染物質が付着及び堆積するおそれがあるが、本実施例では高反射膜の表面にも光吸収膜を形成する構成としているため、汚染物質の付着及び堆積が防止される。
したがって、フォトダイオード53が受ける光が汚染物質の影響を受けないものとなり、誤った制御信号を駆動装置にフィードバックすることを防ぐことができる。特に、高反射膜側から出力される光が汚染物質の付着及び堆積によって弱くなったことをレーザ素子50の出力が低下したものと誤認し、不適正に大きな電流をレーザ素子50に供給することを防ぐことが可能となる。
なお、図5に示すレーザ素子50の構成において、レーザチップ1及びサブマウント51と、サブマウント51及びブロック部52と、がそれぞれ直接的に接続されており、電気的にもそれぞれ接続されている構成としているが、レーザチップ1とブロック部52とをワイヤを用いて電気的に接続する構成としても構わない。
また、サブマウント51及びステム56と、フォトダイオード53及びステム56と、のそれぞれの接続について、Agペーストを用いる代わりに半田を用いることとしても構わない。このように構成する場合、従来は、Agペーストに含まれる有機系の接着剤が揮発するおそれがなくなるため、封止雰囲気中の有機物系接着剤の蒸気圧を制御することが不要となり、気密封止する乾燥空気の露点の制御を若干緩く(例えば、−15℃以下)することができる効果を得ることができていた。
これに対し、本発明の構成では、根本的に露点の制御自体を不要とすることができるため、この例のようにAgペーストの代わりに半田を用いた場合と比較しても大幅な製造工程の簡略化を図ることができる。また、Agペーストを用いるか否かに限らず、キャップ57とステム56との気密封止(例えば、溶接による)が十分でなければ安定した動作をすることができないために、この例においても気密封止が十分であるか否かを厳密に確認する確認工程を要し、かつ、歩留まりが低かった。しかしながら、本発明の構成とすることによって、気密封止が不十分でも汚染物質の付着及び堆積を防止することができるため、確認工程の削減や歩留まりの向上を図ることができる。
<第三実施例>
次に、第三実施例について図6を用いて説明する。本実施例は、第一実施例におけるレーザチップ1と同様のレーザチップ1を、気密封止を要するHHL(High Heat Load)パッケージに実装したものである。また、図6は、第三実施例におけるレーザ素子の模式的な斜視図である。なお、このHHLパッケージは、照明などの用途に使用されるワットクラスの高出力を可能とするパッケージである。
図6に示すように、本実施例におけるレーザ素子60は、複数のレーザチップ1と、レーザチップ1が固着されるサブマウント61と、サブマウントが固着されるとともに放熱を行うヒートスプレッダー62と、レーザチップ1などのパッケージ内部に備えられる素子に電力を供給する配線が備えられる配線板63と、ヒートスプレッダー62や配線板63が内部に固着される本体部64と、本体部64を貫通するとともに本体部64内部に備えられた素子と電気的に接続するリードピン65と、本体部64と接続して気密封止するキャップ66と、キャップ66に備えられるとともにレーザチップ1の低反射膜側から出射された光が透過するガラス窓67と、を備える。
また、このレーザ素子60の内部には、配線や、本体部の内部の温度を監視するサーミスタ、温度を下げるペルチェ素子、発光量を監視するフォトダイオードなどが備えられることがあるが、図6では簡単のためにこれらの部材を省略して示している。なお、複数備えられているリードピン65は、それぞれの素子やレーザチップ1と対応しており、対応するリードピン65に電力を供給することでそれぞれの素子が動作する。また、内部の温度や光出力から得られる制御信号もこのリードピンを介して出力され、レーザ素子60の駆動装置(不図示)にフィードバックされる。
レーザ素子60をこのような構成とすると、複数の素子を本体に固着する必要があるために、接着する箇所が複数存在することとなり、接着剤の使用量が多くなる。また、内部の配線は有機物であるビニルによって被覆されているため、汚染物質の発生源が多数存在することとなる。
また、キャップ66や本体部64は銅や鉄などの金属から成っており、キャップ66と本体部64との接続は溶接や低温半田などによって行われる。しかし、HHLパッケージは第二実施例において示したキャンパッケージと比較して接続が難しく、封止不良となる場合が多く発生するため従来は歩留まりが悪くなっていた。また、低温半田を用いて接続する場合、低温半田に含まれて接続面の金属の酸化皮膜などを除去して清浄な面とするためのフラックスが有機物であるロジンを含むものであるため、これによっても汚染物質が発生していた。
しかしながら、本実施例のようにレーザチップ1の保護膜の表面に光吸収膜を備える構成とすれば、内部に有機物が漂ったり接続が不完全であったりしても、汚染物質がレーザチップに付着及び堆積することが防止されるため、問題なく駆動させることができる。具体的には、キャップ66と本体部64との接続が失敗することによる封止不良によって歩留まりが低下することや、レーザチップに汚染物質が付着及び堆積することによって駆動電流を増大させる必要が生じたり動作が不安定となったりすることを防ぐことができる。
なお、第二実施例と同様に、パッケージ内部にフォトダイオードを備えレーザチップの高反射膜側から光を受ける構成とする場合は、レーザチップの構成を第二実施例と同様のものとしても構わない。即ち、高反射膜の反射率を70%〜80%とするとともに、高反射膜の表面に光吸収膜を形成することとしても構わない。
また、光ピックアップなどの情報記録装置用の光源に用いられるホログラムレーザ素子も、上述したHHLパッケージと同様にレーザチップの他に複数の素子(信号検出用のフォトダイオードやホログラム素子などの光学素子)をパッケージ内に含む構成であるが、このような構成の場合にも、本実施例のように保護膜の表面に光吸収膜を形成したレーザチップを設けることができる。そして、不完全な気密封止による歩留まりの低下や、レーザチップに汚染物質が付着及び堆積することによって駆動電流を増大させる必要が生じたり動作が不安定となったりすることを防ぐ効果を得ることができる。
[保護膜及び光吸収膜の構成例]
<第四実施例>
以下の第四実施例〜第十三実施例では、窒化物系半導体からなるレーザチップの保護膜(特に、光出射側の端面に形成する低反射膜)及び光吸収膜の構成例を示す。なお、以下では低反射膜及び光吸収膜の構成例のみ示すこととするが、チップや高反射膜の構成、パッケージの構成については、どのような構成であっても構わない。また、以下に示す膜の組み合わせはそれぞれ一例に過ぎず、これ以外の組み合わせでも本発明の効果を得ることは可能である。
第四実施例では、光出射側の端面に形成される低反射膜を、光出射側の端面から窒化アルミニウム(AlN)膜/窒化ケイ素(SiN)膜/酸化アルミニウム(Al2O3)膜の順に形成したものとする。そして、低反射膜を構成する最表面の膜であるAl2O3膜上に、光吸収膜として金(Au)膜を形成している。また、それぞれの膜の厚さは、AlN膜が20nm、SiN膜が300nm、Al2O3膜が80nm、Au膜が4.5nmである。
光出射側の端面に形成するAlN膜は、チップを構成する窒化物系半導体や低反射膜を構成する他の膜と強固に密着する。そのため、このAlN膜を形成することで、端面から低反射膜が剥がれることを防止することが可能となり、歩留まりを向上させることができる。さらに、光出射側の端面とAlN膜とが密着することによって、端面に酸化などの反応が生じて変質することを抑制することができる。そして、端面の変質を防ぐことにより端面の表面における非輻射再結合の発生が抑制されるため、急激に非輻射再結合が増加することにより発生する熱によって端面が溶けて破壊されるCOD(catastrophic optical damage)の発生が防止され、安定した動作を行うことが可能となる。なお、上述したAlOxN1-xもAlNと同様の特性を有しており、この材料から成る膜を利用しても同様の効果を得ることができる。
また、SiN膜は熱膨張係数が小さいため、熱を発生する光吸収膜を備えたとしても保護膜の構成を保持することができる。また、防湿性にも優れるため、端面が水分によって変質することを防ぐことができる。そのため、安定した動作(特に、光出力を一定とした場合における駆動時間に伴う駆動電流の上昇の防止)を行うことが可能となる。なお、酸窒化ケイ素(SiOxN1-x(ただし、0<x<1とする))もSiNと同様の特性を有しており、この材料から成る膜を利用しても同様の効果を得ることができる。そして、上述した光出射側の端面にAlOxN1-xもしくはAlNを形成する構造と併用した構造、即ち、光吸収膜とAlOxN1-xもしくはAlNの間にSiOxN1-xもしくはSiNを挟んだ構造とすると、より安定した動作を行うことが可能となるため好ましい。
なお、半導体の端面に直接、SiOxN1-xもしくはSiNを形成し、その上に光吸収膜を形成する二層構造としても構わない。さらに、半導体とSiOxN1-xもしくはSiNの間に、酸化膜(例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタンなど)や窒化膜(例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタンなど)などの他の膜を形成しても構わないし、SiOxN1-xもしくはSiNと光吸収膜の間に、酸化膜や窒化膜などの他の膜を形成しても構わない。以上のように、半導体の端面と最表面の光吸収膜の間に、SiOxN1-xもしくはSiNを挟む構造であれば、非気密パッケージにおいて問題となる水分に対する防湿性や、汚染物質の一つであるSi系の物質の付着を、同時に改善することができるため、好ましい。
また、低反射膜の表面に光吸収膜であるAu膜を形成することで、汚染物質が低反射膜及び光吸収膜上に付着及び堆積することを防ぐことができる。そのため、駆動時間の経過に伴って駆動電流を増大させる必要が生じたり動作が不安定となったりすることを防ぐ効果を得ることができる。そして、以上のように保護膜及び光吸収膜を形成することによって、大気雰囲気中でレーザ素子を駆動させたとしても長寿命かつ安定した動作を行うことが可能となる。
なお、光吸収膜であるAu膜の厚さを、1nm、2nm、7nmと変化させても上述した効果と同様の効果を得ることができる。
<第五実施例>
第五実施例では、光出射側の端面に形成される低反射膜の材料を第四実施例と同様のものとしている。即ち、光出射側の端面からAlN膜/SiN膜/Al2O3膜の順に形成したものとする。そして、低反射膜を構成する最表面の膜であるAl2O3膜上に光吸収膜として白金(Pt)膜を形成している。また、それぞれの膜の厚さは、AlN膜が6nm、SiN膜が100nm、Al2O3膜が200nm、Pt膜が4nmである。
このように低反射膜及びPtから成る光吸収膜を構成しても、上述した第一〜第四実施例と同様に、低反射膜を端面に強固に密着させることによる効果や、汚染物質が低反射膜及び光吸収膜上に付着及び堆積することを防ぐことによる効果を得ることができる。また、本実施例のようにAlN膜やSiN膜を第四実施例よりも薄く構成しても、同様の効果を得ることができる。
なお、光吸収膜であるPt膜の厚さを、1nm、2nm、8nmと変化させても上述した効果と同様の効果を得ることができる。
<第六実施例>
第六実施例では、光出射側の端面に形成される低反射膜の材料を第四及び第五実施例と同様のものとしている。即ち、光出射側の端面からAlN膜/SiN膜/Al2O3膜の順に形成したものとする。そして、本実施例では低反射膜を構成する最表面の膜であるAl2O3膜上にまずチタン(Ti)膜を形成し、さらにその上に金(Au)膜を形成する構成として、光吸収膜をTi膜及びAu膜の複合膜とする。また、それぞれの膜の厚さは、AlN膜が20nm、SiN膜が300nm、Al2O3膜が80nm、Ti膜が1.5nm、Au膜が2.5nmである。
このように低反射膜及び複合膜から成る光吸収膜を構成しても、上述した第一〜第五実施例と同様に、低反射膜を端面に強固に密着させることによる効果や、汚染物質が低反射膜及び光吸収膜上に付着及び堆積することを防ぐことによる効果を得ることができる。
なお、本実施例では光吸収膜をTi膜及びAu膜の複合膜で構成したが、Au膜を、Au膜と厚さの等しいPt膜に変更しても構わなく、この場合も同様の効果を得ることができる。
<第七実施例>
第七実施例では、光出射側の端面に形成される低反射膜の材料を第四〜第六実施例と同様のものとしている。即ち、光出射側の端面からAlN膜/SiN膜/Al2O3膜の順に形成したものとする。そして、本実施例では低反射膜を構成する最表面の膜であるAl2O3膜上に光吸収膜としてモリブデン(Mo)膜を形成する。また、それぞれの膜の厚さは、AlN膜が20nm、SiN膜が300nm、Al2O3膜が80nm、Mo膜が4.0nmである。
このように低反射膜及びMo膜から成る光吸収膜を構成しても、上述した第一〜第六実施例と同様に、低反射膜を端面に強固に密着させることによる効果や、汚染物質が低反射膜及び光吸収膜上に付着及び堆積することを防ぐことによる効果を得ることができる。
なお、光吸収膜であるMo膜の厚さを、1nm、2nm、12nmと変化させても上述した効果と同様の効果を得ることができる。
<第八実施例>
第八実施例では、光出射側の端面に形成される低反射膜の材料を第四〜第七実施例と同様のものとしている。即ち、光出射側の端面からAlN膜/SiN膜/Al2O3膜の順に形成したものとする。そして、本実施例では低反射膜を構成する最表面の膜であるAl2O3上にまずモリブデン(Mo)膜を形成し、さらにその上に金(Au)膜を形成する構成として、光吸収膜をMo膜及びAu膜の複合膜とする。また、それぞれの膜の厚さは、AlN膜が20nm、SiN膜が300nm、Al2O3膜が80nm、Mo膜が1.5nm、Au膜が2.5nmである。
このように低反射膜及び複合膜から成る光吸収膜を構成しても、上述した第一〜第七実施例と同様に、低反射膜を端面に強固に密着させることによる効果や、汚染物質が低反射膜及び光吸収膜上に付着及び堆積することを防ぐことによる効果を得ることができる。
なお、本実施例では光吸収膜をMo膜及びAu膜の複合膜で構成したが、Au膜を、Au膜と厚さの等しいPt膜に変更しても構わなく、この場合も同様の効果を得ることができる。
<第九実施例>
第九実施例では、光出射側の端面に形成される低反射膜の材料を第四〜第八実施例と同様のものとしている。即ち、光出射側の端面からAlN膜/SiN膜/Al2O3膜の順に形成したものとする。そして、本実施例では低反射膜を構成する最表面の膜であるAl2O3上に光吸収膜としてアルミニウム(Al)膜を形成する。また、それぞれの膜の厚さは、AlN膜が20nm、SiN膜が300nm、Al2O3膜が80nm、Al膜が4.0nmである。
このように低反射膜及びAlから成る光吸収膜を構成しても、上述した第一〜第八実施例と同様に、低反射膜を端面に強固に密着させることによる効果や、汚染物質が低反射膜及び光吸収膜上に付着及び堆積することを防ぐことによる効果を得ることができる。
<第十実施例>
第十実施例では、光出射側の端面に形成される低反射膜の材料を第四〜第九実施例と同様のものとしている。即ち、光出射側の端面からAlN膜/SiN膜/Al2O3膜の順に形成したものとする。そして、本実施例では低反射膜を構成する最表面の膜であるAl2O3上に光吸収膜としてAlOx(0<x<1.5)で表される酸素欠損状態のアルミニウム膜、即ち、酸化アルミニウムの酸素欠損膜を用いる。ここで、AlOxは化学量論的組成であるAl:O=2:3の組成から酸素が少なくなる方向に組成がずれているものである。また、それぞれの膜の厚さは、AlN膜が20nm、SiN膜が300nm、Al2O3膜が80nm、AlOx膜が60nmである。
上述したように、Al2O3は出射されるレーザ光に対してほぼ透明であるが、AlOxのような酸素欠損膜とすることで光をよく吸収するようになるため、このような膜とすれば光吸収膜として用いることができる。
AlOx膜の作製方法としては、例えば、第一実施例において示した例のようにECRスパッタ装置を用いる場合では、Al2O3膜を形成する場合の酸素ガスの流量(例えば、5.8ccm)を低減させる(例えば、4.3ccm)ことによって容易に得ることができる。なお、アルゴンガスの流量や供給する電力などの他の条件については第一実施例で示した条件と同様のもの、即ち、アルゴンガスの流量を20ccm、Alターゲットに与えるRFパワーを500W、プラズマ発生用のマイクロ波パワーを500Wとしても構わない。
このように低反射膜及びAlOxから成る光吸収膜を構成しても、上述した第一〜第九実施例と同様に、低反射膜を端面に強固に密着させることによる効果や、汚染物質が低反射膜及び光吸収膜上に付着及び堆積することを防ぐことによる効果を得ることができる。
さらに、本実施例で光吸収膜として用いているAlOx膜は、組成のxの値と膜厚とによって光の吸収量が制御できるため、金属膜などの厚さのみで光の吸収量が制御される光吸収膜よりも厳密な調整を行うことができる。例えば、光吸収を極限まで抑えたい場合、金属膜を用いる場合ではごく薄く均一な膜を形成するために成膜方法や成膜条件を選択する必要があり困難なものとなるが、AlOx膜を用いる場合では厚い膜であってもxの値を1.5に近い値とすることで対応できるため、調整が容易なものとなる。
また、スパッタ装置を用いて作製する場合、AlとSiのターゲットをセットして、供給するアルゴン、酸素、窒素の各ガスの流量を適宜変更するだけで低反射膜及び光吸収膜を形成することができるため、連続した工程で成膜を行うことができる。
なお、光吸収膜としてAlOxを用いる代わりに、SiOx(0<x<2)で表される酸素欠損状態の酸化ケイ素膜(例えば、厚さ8nm)を用いることとしても構わない。ここで、SiOxは化学量論的組成であるSi:O=1:2の組成から酸素が少なくなる方向に組成がずれているものである。このようにSiOx膜を用いたとしても、AlOxを用いた場合と同様の効果を得ることができる。
また、酸素欠損膜の代わりに、AlNx(0<x<1)で表される窒素欠損状態のアルミニウム膜や、SiNx(0<x<1.33…)で表される窒素欠損状態の窒化ケイ素膜を用いることとしても構わない。ここで、AlNxは化学量論的組成であるAl:N=1:1の組成から窒素が少なくなる方向に組成がずれているものであり、SiNxは化学量論的組成であるSi:N=3:4の組成から窒素が少なくなる方向に組成がずれているものである。
AlNは、出射される光のごくわずかしか光を吸収しない。しかしながら、第十実施例に示した酸素欠損膜とする場合と同様に、窒素欠損膜とすることで光を吸収する量を増大させることが可能となり、光吸収膜として利用することができるようになる。スパッタ装置を用いた作製方法も酸素欠損膜と同様であり、窒素ガスの流量をAlN膜を作製する場合の流量よりも小さくすることによって容易に作製することができる。また、SiNは窒素欠損した状態であるが光の吸収量は少ないものとなっている。そのため、光吸収膜としてSiNxを利用する場合は、xの値をより小さくすることが好ましい。
また、酸素欠損膜と同様に、AlNxやSiNxの窒素欠損膜においても組成のxの値と膜厚とによって光の吸収量を制御することができるため、金属膜などの厚さのみで制御可能な光吸収膜よりも厳密な調整を行うことができる。また、どちらの光吸収膜を作製する場合においても、スパッタ装置を用いて作製する場合、AlとSiのターゲットをセットして、供給するアルゴン、酸素、窒素の各ガスの流量を適宜変更するだけで低反射膜及び光吸収膜を形成することができるため、連続した工程で成膜を行うことができる。
<第十一実施例>
第十一実施例では、光出射側の端面に形成される低反射膜の材料を第四〜第十実施例と同様のものとしている。即ち、光出射側の端面からAlN膜/SiN膜/Al2O3膜の順に形成したものとする。そして、本実施例では低反射膜を構成する最表面の膜であるAl2O3膜上に光吸収膜として窒化チタン(TiN)膜を形成する。また、それぞれの膜の厚さは、AlN膜が20nm、SiN膜が300nm、Al2O3膜が80nm、TiN膜が20nmである。
TiN膜の作製にもスパッタ法を利用することが可能であり、上述したようなECRスパッタ装置において、窒素ガスとアルゴンガスとを導入するとともにTiターゲットを用いてスパッタを行うことにより容易に作製することができる。
このように低反射膜及びTiNから成る光吸収膜を構成しても、上述した第一〜第十実施例と同様に、低反射膜を端面に強固に密着させることによる効果や、汚染物質が低反射膜及び光吸収膜上に付着及び堆積することを防ぐことによる効果を得ることができる。
なお、TiN膜や上述したAlNx膜やSiNx膜に限らず、他の金属(例えば、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W))の窒化物膜であっても出射される光を吸収することが可能であり、光吸収膜として利用することとしても構わない。また、これらの膜を窒素欠損膜として利用することとしても構わない。
<第十二実施例>
第十二実施例では、光出射側の端面に形成される低反射膜の材料を第四〜第十一実施例と同様のものとしている。即ち、光出射側の端面からAlN膜/SiN膜/Al2O3膜の順に形成したものとする。そして、本実施例では低反射膜を構成する最表面の膜であるAl2O3上に光吸収膜として酸化パラジウム膜を用いる。また、それぞれの膜の厚さは、AlN膜が20nm、SiN膜が300nm、Al2O3膜が80nm、酸化パラジウム膜が3nmである。
酸化パラジウム膜の形成方法として、例えばPd金属膜を形成後、プラズマ発生装置内で酸素プラズマにて酸化させ形成する方法を用いることができる。また、酸化パラジウムターゲットを用いるとともに、蒸着やスパッタによって形成することも可能である。また、酸素を導入しながら膜を形成したり、膜の形成後に酸素プラズマなどを用いて酸化を行ったりしても構わない。
また、酸化パラジウムの膜厚tについて、0nm<t≦100nmの範囲であれば好ましい。100nm以上では、光が吸収される割合が大きくなり、光取り出し効率が低下してしまう。なお、より好ましい条件としては0nm<t≦50nmであり、さらに好ましい条件としては0nm<t≦10nmである。また、光吸収膜は少しでも付着していれば効果を得ることができる。
また、上記の例では、光吸収膜として酸化パラジウムを用いる例を示したが、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)などの金属の酸化物を用いても構わない。また、これらの金属の酸化物を複数組み合わせたものとしても構わない。
<第十三実施例>
第十三実施例では、低反射膜を、光出射側の端面からAlOxN1-x膜/SiN膜の順に形成したものとする。そして、低反射膜を構成する最表面の膜であるSiN膜の表面に形成する光吸収膜としてパラジウム(Pd)膜を用いる。また、それぞれの膜の厚さは、AlOxN1-x膜が20nm、SiN膜が160nm、Pd膜が5nmである。このレーザチップについて図7に示す。図7は、第十三実施例におけるレーザチップの模式的な斜視図であり、光吸収膜が形成される側を拡大するとともに模式的に示したものである。
図7に示すように、本実施例におけるレーザチップ1は、低反射膜101の表面に形成される光吸収膜102の一部を凝集(粒状化、ドット化)させている。ドット化させる方法として、例えば、レーザ素子を駆動させる方法がある。レーザ素子を駆動させてレーザ発振させると、出射されるレーザ光の一部が光吸収膜102を成すパラジウムによって吸収され、光吸収膜102の一部が発熱する。このとき発生する熱によって光吸収膜102をドット化させることが可能となり、図7に示すような、光吸収膜102の一部がドット化したレーザチップ1を得ることができる。
また、ドット化が生じるのは主にレーザ光が通過する領域となる。このような領域ではレーザ光によって光吸収膜102が十分に加熱されるため、ドット化が促進されて光吸収膜102が粒状となった光吸収膜ドット102bが形成される。また、この光吸収膜ドット102bが形成される領域では、光吸収膜ドット102bの形成時に光吸収膜102を成すパラジウムが凝集するため、光吸収膜102が不連続となる(厚さが0となる部分が生じる)。このような不連続領域102a中には、低反射膜101の最表面の膜であるSiN膜が表出する部分が存在する。一方、不連続領域102a以外の連続領域102cでは、光吸収膜102が連続的な膜となり低反射膜101が表出しない。
光吸収膜102のドット化は、例えば、光出力30mW、25℃で2時間程度、連続発振させることで生じさせることができる。このようにドット化を生じさせたレーザチップ1を、20mW、25℃で1000時間程度連続駆動させて動作試験を行った結果について、図8を用いて説明する。図8は、本発明の第十三実施例におけるレーザチップの断面を示した顕微鏡写真であり、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて撮像したものである。また、図7におけるレーザチップ1のA−A断面に相当する断面を示すものである。
図8に示すように、窒化物半導体積層部103の光出射側の端面に、厚さ20nmのAlOxN1-x膜101aが備えられ、さらにその上面に厚さ160nmのSiN膜101bが備えられる。そして、SiN膜101bの上面に、厚さ5nmのパラジウムから成る光吸収膜102が備えられる。光吸収膜102は、領域内に光吸収膜ドット102bを備える不連続領域102aと、連続領域102cと、を備える。光吸収膜ドット102bの大きさは、形成する光吸収膜102の厚さに依存し、およそ0.5nm程度から50nm程度の大きさとなる。
図8に示すように、光吸収膜102の一部をドット化させたレーザチップ1を駆動させたとしても、レーザチップ1の端面に汚染物質が付着及び堆積することが防止される。即ち、光吸収膜102が連続した層状でなく、粒状で途切れ途切れの状態であったとしても、端面に汚染物質が付着及び堆積することを防止することができる。
また、本実施例の様に光吸収膜ドット102bを形成する構成とすると、光吸収膜ドット102bの周辺の光吸収膜102を成す金属(本実施例ではパラジウム)が無くなる(厚さが0となる)ため、光吸収量を減少させて効率よく光を出射することが可能となる。即ち、レーザ素子を駆動したときのスロープ効率を向上させることが可能となり、駆動電流を低減することが可能となる。
また、本例のようにレーザ光を出射してドット化を行うこととすると、光が通過する部分を確実かつ容易にドット化させることが可能となる。
なお、本実施例ではドット化の方法として、レーザ光を出射することによって凝集させる方法について説明したが、レーザチップ1全体を加熱してドット化させる方法を用いても構わない。このような場合、図7及び図8に示した構成と異なり、光吸収膜102の不連続領域102aが全体におよぶようになる。しかしながら、このように全体におよんだとしても、上述の各実施例と同様に汚染物質が付着及び堆積することを防止する効果を得ることができる。さらに、このように全体をドット化させると、光吸収膜が不連続となるため、光吸収膜を介した短絡の発生を抑制することが可能となる。なお、詳細については第十四実施例において説明する。
また、光や熱など、何らかのエネルギーを外部から光吸収膜102に与えることによってドット化を生じさせても構わない。このように構成することによって、任意の位置に不連続領域101aを形成することが可能となる。また、光吸収膜102の成膜時にドット化させても構わない。即ち、凝集させながら成膜しても構わない。また、最終的に光吸収膜102の少なくとも一部、特に出射されるレーザ光が通過する領域の少なくとも一部がドット化して不連続となる構成であれば、どのような方法を用いてドット化させても構わない。例えば、光吸収膜の材料をインクジェット方式の如く吹き付け、光が通過する領域のみ、または、全面にドット化された光吸収膜を形成することとしても構わない。
また、光吸収膜102が不連続領域102aを備えない構成としても、本例の効果を得ることができる。例えば、光吸収膜102が連続した層を備え、この層の表面に上述した光吸収膜ドット102bのような粒が形成される構成としても構わない。このような構成であったとしても、連続する層の厚さが十分薄いものとなれば光吸収は低減されるため、上述の不連続領域102aを形成する場合と同様に駆動電流を低減する効果を得ることができる。また、十分薄くしても表面には光吸収膜102の材料から成る粒が形成されるため、この粒によって汚染物質の付着及び堆積を防止することができる。
また、光吸収膜102の厚さ、使用する材料の種類、下地層の種類などを選択することにより、ドット化の大きさなどを制御することができる。また、ドット化させる金属について、本実施例ではパラジウムを用いたが、金(Au)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)などを用いても構わない。
[短絡を抑制するための構成例]
<第十四実施例>
以下の第十四実施例〜第十六実施例では、光吸収膜を介した短絡を抑制するための構成例を示す。まず第十四実施例について図面を参照して説明する。図9は、本発明の第十四実施例におけるレーザチップの模式的な斜視図であり、基本構成を示した図1の側面を正面として、奥行方向をあわせて表示したものである。なお、説明の便宜上、図9ではp電極22及びn電極23を図示している。また、本実施例では、光吸収膜の構成により短絡を抑制する場合について説明する。
図9(a)及び(b)に示すレーザチップ1は、光吸収膜5a、5bが、p電極22の表面(上面U)側からn電極23の表面(下面D)側にかけて、不連続となるように形成されている。ここで、保護膜3、4が形成される面(光出射面)と上面U及び下面Dとは連続する面となっており、略垂直となっている。また、光吸収膜5が形成される保護膜(本例では低反射膜3)の表面を、光出射表面Pとする。
図9(a)に示す光吸収膜5aは、レーザチップ1の下面Dから離間されて形成されている。なお、光吸収膜5aは、上面Uに隣接している。また、図9(b)に示す光吸収膜5bは、上面U側と下面D側とに分断されている。なお、光吸収膜5bのそれぞれは、上面U及び下面Dに隣接している。
このように構成すると、光吸収膜5a、5bが上面U及び下面Dに接触したとしても、光吸収膜5a、5bが不連続であるため、電流が流れにくいものとなる。したがって、上面U及び下面Dに供給される電流が、光吸収膜5a、5bを介して短絡することを抑制することが可能となる。
なお、図9(a)、(b)に示す光吸収膜5a、5bは一例に過ぎず、レーザチップ1の上面U及び下面Dに対して不連続な構成となる限り、他の構成であっても構わないものとする。例えば、上述の第十三実施例のように、光吸収膜をドット状にすることによって不連続とすることも可能である。また例えば、レーザチップ1の上面U及び下面Dの両方から離間して形成される構成としても構わない。
ただし、上述の実施例の効果(例えば、汚染物質の付着及び堆積を抑制し、駆動電流の上昇を抑制する効果など)を得るために、少なくとも光が出射される部分(特に、光出射表面Pにおける活性層2の近傍部分)には光吸収膜が形成されるものとする。
次に、本実施例の光吸収膜の作製方法の種々の例について図面を参照して説明する。図10〜図12のそれぞれは、本発明の第十四実施例における光吸収膜の作製方法の一例を示す模式的な側面図である。なお、図10及び図11では、低反射膜3及び高反射膜4を形成した後に光吸収膜5a、5bを形成する場合について示しているが、低反射膜3の形成後、高反射膜4の形成前に光吸収膜5a、5bを形成することとしても構わないものとする。また、チップ毎に光吸収膜5a、5bを形成することとしても構わないし、上述のようにチップが複数接続した状態となるバーに対して光吸収膜を形成することとしても構わない。
図10は、光吸収膜5aの形成時にL字型のスペーサ90を用いる場合について示している。スペーサ90は、チップまたはバーの下面Dと、光出射表面Pにおける下面Dに隣接する領域と、を覆う形状となる。このとき、光出射表面Pの光が出射される部分については、スペーサ90によって覆われないこととする。
また、スペーサ90の奥行方向(バーであればチップが接続する方向)の長さは、バーまたはチップの奥行方向の長さ以上であり、奥行方向については完全に覆うこととすると好ましい。そして、図10に示すように、あるチップまたはバーの下面D及び光出射表面Pの一部を覆うスペーサ90の下面に、他のチップまたはバーの上面Uを当接させる。
上記のようにスペーサ90を配置し、光出射表面Pに対して光吸収膜の形成を行う。これにより、スペーサ90で覆われていない光出射表面Pに、光吸収膜5aが形成される。即ち、図9(a)に示すような、下面Dから離間する光吸収膜5aが形成される。
また、光吸収膜の作製方法の別例について図11を用いて説明する。図11に示すように、本方法ではまず、あるチップまたはバーの下面Dと他のチップまたはバーの上面Uとを当接させる。そして、スリットマスク91によって光出射表面Pの一部の領域を覆った上で、光吸収膜の形成を行う。図11に示す例では、スリットマスク91が、チップまたはバーの下面Dの近傍となる一部の領域を覆うものとしている。
このとき、光出射表面Pの光が出射される部分については、スリットマスク91によって覆われないこととする。また、スリットマスク91の奥行方向の長さは、バーまたはチップの奥行方向の長さ以上であり、奥行方向について完全に覆うこととすると好ましい。
上記のようにスリットマスク91を配置し、光出射表面Pに対して光吸収膜の形成を行う。これにより、スリットマスク91で覆われていない光出射表面Pに、光吸収膜5bが形成される。即ち、図9(b)に示すような、上面U側と下面D側とに分断された光吸収膜5bが形成される。
なお、スリットマスク91の光出射表面Pを覆う上下方向の位置や大きさを変更することとしても構わない。これにより、例えば、図9(a)に示すような光吸収膜5aを形成することとしても構わないし、上面U及び下面Dの両方から離間する光吸収膜を形成することとしても構わない。
また、光吸収膜の作製方法の別例について図12を用いて説明する。図12に示すように、本方法ではまず、図1に示すものと同様に光出射表面Pの全面に光吸収膜を形成する。また、本方法では図10に示す方法と同様のL字型のスペーサ92を用いる。ただし、スペーサ92は、チップまたはバーの上面Uと、光吸収膜の上面Uに隣接する領域と、を覆う形状となる。
このとき、少なくとも光出射表面Pの光が出射される部分が、スペーサ92によって覆われることとする。また、スペーサ92の奥行方向(バーであればチップが接続する方向)の長さは、バーまたはチップの奥行方向の長さ以上であり、奥行方向については完全に覆うこととすると好ましい。そして、図12に示すように、あるチップまたはバーの上面U及び光吸収膜の一部を覆うスペーサ92の上面に、他のチップまたはバーの下面Dを当接させる。
上記のようにスペーサ92を配置して、光吸収膜の除去を行う。これにより、スペーサ92で覆われた光吸収膜以外が除去され、一部の光吸収膜が残ることとなる。即ち、図9(a)に示すような、下面Dから離間する光吸収膜5aが形成される。
なお、除去の方法としては、例えば各種エッチング(例えば、ドライエッチングでもウェットエッチングでも構わない)や逆スパッタ(例えば、ガスのイオンなどを衝突させて除去する方法)などを用いることが可能である。このとき、光吸収膜を除去可能な条件で、それぞれの方法が適宜選択されるものとする。また、スペーサ92は、これらの除去方法に耐え得るものとすると好ましい。
また、図10〜図12のそれぞれでは、二個のチップまたはバーに対して同時に光吸収膜5a、5bを形成する場合について図示したが、三個以上としても構わないし、一個としても構わない。また、低反射膜3の表面に光吸収膜を形成する場合についてのみ説明したが、高反射膜4の表面についても同様の方法を用いて、光吸収膜を形成することとしても構わない。
また、スペーサ90、92に適用する材料を、レーザチップ1を汚染しないものとすると好ましい。例えば、ステンレス鋼(SUS)やGaAs、Siなどを適用すると好ましい。
<第十五実施例>
次に、第十五実施例について図面を参照して説明する。図13〜図17は、本発明の第十五実施例におけるレーザ素子の一部を示す模式的な側面図及び上面図である。なお、図13〜図17のそれぞれの(a)側面図は、基本構成を示した図1のレーザチップの側面と同じ側面側から見た図を示すものであり、(b)上面図は、レーザチップの固定部に固定される下面とは反対側となる上面側から見た図を示すものである。また、本実施例では、レーザチップ1と固定部Sとの接続構成によって短絡を抑制する場合について説明する。
図13〜図17に示すように、レーザチップ1は、図4〜図6に示したサブマウント41、51、61などに代表される固定部Sに、その下面Dが固定されることによって実装される。固定には、ロウ材などから成る固定材Zが用いられる。なお、部材を区別して示すために、光吸収膜5及び固定材Zにそれぞれハッチングを付して表示する。また、後述する絶縁材Nについても同様にハッチングを付して表示することとする。
固定材Z及び固定部Sは導電性を有し、固定部Sが固定材Zを介してレーザチップ1の下面Dと電気的に接続されている。また、レーザチップ1の上面Uには導線(不図示)等が接続されている。そして、例えば固定部S及び導線を介してレーザチップ1の上面U及び下面Dに電流が通じられることで、レーザチップ1に電流が供給される。
図13に示す構成例では、光吸収膜5を固定材Zから突出させる構成となる。特に、固定を行う面であるレーザチップ1の下面Dに光吸収膜5が回りこんで形成される場合、この回りこんで形成される部分が固定材Zから突出する構成とすると好ましい。
このように構成すると、固定材Z及び固定部Sと光吸収膜5とが接触すること、即ち、固定材Z及び固定部Sを介してレーザチップ1の下面Dと光吸収膜5とが電気的に接続されることが抑制される。したがって、光吸収膜5を介した短絡を抑制することが可能となる。特に、固定材Zをどのようなパターンで固定部Sに形成したとしても、接触を抑制することが可能となる。
また、図14に示す構成例では、レーザチップ1の下面Dと固定部Sとの間の領域において、光吸収膜5から離間した領域(固定材領域)に、固定材Zを形成する。そして、光吸収膜5に隣接した領域(非固定材領域)には、少なくとも固定材Zを形成しないこととする。
このように構成すると、光吸収膜5の近傍には固定材Zが形成されないこととなる。そのため、固定材Zと光吸収膜5とが接触すること、即ち、固定材Z及び固定材Sを介してレーザチップ1の下面Dと光吸収膜5とが電気的に接続されることが抑制される。したがって、光吸収膜5を介した短絡を抑制することが可能となる。特に、固定部Sに形成する固定材Zのパターンを調整するだけで、容易に接触を抑制することが可能となる。
なお、図15に示すように、非接続領域に絶縁性の材料である絶縁材Nを形成することとしても構わない。絶縁材Nを形成することとすると、光吸収膜5を介した短絡をさらに効果的に抑制することが可能となる。特に、光吸収膜5と固定部Sとが接触することを抑制することも可能となる。
また、図16に示す構成例では、固定部Sの、光吸収膜5に隣接する部分を切り欠くことで、凹部Cを設ける。また、光吸収膜5から離間した部分に固定材Zを形成し、この固定材Zによってレーザチップ1を固定部Sに固定する。
このように構成すると、図13に示す場合と同様に、固定材Z及び固定部Sと光吸収膜5とが接触すること、即ち、固定材Z及び固定部Sを介してレーザチップ1の下面Dと光吸収膜5とが電気的に接続されることが抑制される。したがって、光吸収膜5を介した短絡を抑制することが可能となる。さらに、固定材Zをどのようなパターンで固定部Sに形成したとしても、接触を抑制することが可能となる。
また、図17に示す構成例では、図14〜図16に示す構成例と同様に、レーザチップ1の下面Dと固定部Sとの間における光吸収膜5から離間した領域(固定材領域)に固定材Zを形成する。ただし、本構成例では、光吸収膜5に隣接した領域を、固定材Zが粒状化(ドット化)された粒状化固定材領域とする。ドット化は、例えば、所望の大きさ及び形状の開口部を備えたマスク等を用いて固定材Zを形成することによって行っても構わないし、膜状に形成した後に熱などを与えることで凝集させることによって行っても構わない。
このように構成すると、光吸収膜5に固定材Zが接触したとしても、ドット状であるため局所的なものとなる。そのため、固定材Z及び固定部Sを介してレーザチップ1の下面Dと光吸収膜5とが電気的に接続されることが抑制される。また、光吸収膜5に流れ込む電流がごく僅かなものとなる。したがって、光吸収膜5を介した短絡を抑制することが可能となる。さらに、レーザチップ1で発生した熱を固定部Sに効率よく伝達させて放熱することが可能となる。
なお、ドットの大きさや形状については、放熱性やレーザチップの発光特性、特に短絡に対する特性など、種々の特性を鑑み、適宜選択することとしても構わない。
また、図13〜図17に示した各種構成例は、光吸収膜5を一方の面(低反射膜の表面)のみに形成するものであるが、一方の面だけでなく他方の面(高反射膜の表面)にも光吸収膜5を形成することとしても構わない。この場合、他方の面側にも、図13〜図17と同様の構成を備えることとしても構わない。
また、レーザチップ1の下面Dを固定部Sに接続する構成について説明したが、上面Uを固定部Sに接続する構成としても構わないものとする。
また、レーザチップ1と固定部Sとの接続構成によって短絡の抑制を図る本実施例と、光吸収膜の構成によって短絡の抑制を図る第十四実施例と、は適宜組み合わせて実施することが可能である。これらを組み合わせると、より効果的に光吸収膜を介した短絡を抑制することが可能となる。
<第十六実施例>
次に、第十六実施例について図面を参照して説明する。図18及び図19は、本発明の第十六実施例におけるレーザチップの模式的な斜視図であり、第十四実施例について示した図9に相当するものである。なお、図9と同様の部分については同じ符号を付し、その詳細な説明については省略する。また、本実施例では、電極の構成により短絡を抑制する場合について説明する。
図18(a)、(b)に示す構成例では、上面U(p電極22の表面)に、絶縁性の材料から成る絶縁部Rを形成する。絶縁部Rは、p電極22の表面の光吸収膜5に隣接した領域を、少なくとも覆うこととする。
例えば、図18(a)に示すように、絶縁部Rをp電極22の表面に形成することとしても構わない。なお、絶縁部Rを構成する膜として、例えば、ポリマー材料や絶縁性樹脂材料などを用いることが可能である。また、p電極22の形成後、劈開前に絶縁部Rを形成しても構わないし、低反射膜3の形成後に絶縁部Rを形成しても構わない。
また例えば、図18(b)に示すように、低反射膜3と同じ材料によって絶縁部Rを形成することとしても構わない。例えば、低反射膜3を形成する際に、p電極22の上部への回り込みを許容することで、低反射膜3と絶縁部Rとを同時に形成することとしても構わない。
このように構成すると、光吸収膜5が上面Uに回り込んだとしても、絶縁部Rによって上面Uと光吸収膜5とが接触することが抑制される。したがって、光吸収膜5を介して短絡することを抑制することが可能となる。
また、図19に本実施例の別例を示す。図19に示す構成例では、p電極22の一部に、電極材料が形成されない電流非注入領域Yを形成する。電流非注入領域Yは、上記の絶縁部Rと同様に、光吸収膜5に隣接した領域に形成される。
このように構成すると、光吸収膜5がp電極22側に回り込んだとしても、電流非注入領域Yに形成されることとなる。そのため、p電極22と光吸収膜5とが接触することが抑制される。したがって、光吸収膜5を介して短絡することを抑制することが可能となる。
なお、図18及び図19に示した構成例は、上面U側かつ低反射膜3側にのみ短絡を抑制する構成を設ける場合のものであるが、下面D側や、高反射膜4側に同様の構成を設けることとしても構わない。
また、図18や図19に示した構成を組み合わせても構わない。例えば、図19の電流非注入領域Yに、図18(a)、(b)に示すような絶縁部Rを形成しても構わない。
また、電極の構成により短絡の抑制を図る本実施例と、レーザチップ1と固定部Sとの接続構成によって短絡の抑制を図る第十五実施例と、光吸収膜の構成によって短絡の抑制を図る第十四実施例と、は適宜組み合わせて実施することが可能である。これらを組み合わせると、より効果的に光吸収膜を介した短絡を抑制することが可能となる。
<変形例>
なお、上述した各実施例において、主として低反射膜を二または三種類の膜によって構成した例について説明したが、一種類の膜から成ることとしても構わない。また、保護膜として、Al、Si、Hf、Ti、Nb、Ta、W及びYから選ばれた少なくとも一つの元素を含む酸化物や、AlやSiの窒化物、AlやSiの酸窒化物を含むものとしても構わない。
また、上述した各実施例について、低反射膜側だけでなく、高反射膜側からも一部の光を出射する構成とする場合において、それぞれの光吸収膜を高反射膜の表面に構成することとしても構わない。このように構成することによって、高反射膜側にも汚染物質が付着及び堆積することを防止することができる。また、高反射膜が形成される端面に、直接AlN膜、AlOxN1-x膜のような密着性を高める膜を高反射膜の一部として形成することとしても構わない。さらに、高反射膜に、SiNやSiOxN1-x膜を備える構成としても構わない。
また、光吸収膜を備えるとともに、保護膜をSiNやSiOxN1-xを含んだもので構成することによって、より駆動電流の上昇を低減することが可能となるため、これらの材料から成る膜を保護膜に備えることが好ましい。特に、SiOxN1-x膜を用いた場合は、20nm以上の厚さのSiOxN1-x膜を備えることで駆動電流の上昇を抑制する効果が得られる。そのため、SiOxN1-x膜を20nm以上備える構成、さらには80nm以上備える構成とすると好ましい。
また、光吸収膜の厚さtについて、0nm<t≦100nmの範囲であれば好ましい。100nm以上では、光が吸収される割合が大きくなり、光取り出し効率が低下してしまう。なお、より好ましい条件としては0nm<t≦50nmであり、さらに好ましい条件としては0nm<t≦10nmである。また、光吸収膜は少しでも付着していれば効果を得ることができる。
また、光吸収膜として用いる材料について、Au、Pt,Rh、Ir、Pd、Os、Ruなどを用いると、汚染物質の一つであるSi系の物質の付着係数が低減され、付着しにくくなるために好ましい。また、上述した第六実施例及び第八実施例のように、二種類以上の膜で光吸収膜を形成する場合は、最表面の膜にこれらの金属から成る膜を用いることにより汚染物質の付着及び堆積を抑制する効果があるため好ましい。
また、光吸収膜は二種類以上の合金から成るものとしても構わない。また、光吸収膜が、金属膜と窒化物膜、窒化物膜と酸素欠損膜、などのように、いくつかの種類の膜が組み合わさった複合膜であることとしても構わない。
また、上述の第十三実施例のように、光吸収膜を成す材料がドット状になっても、汚染物質の付着及び堆積を抑制する効果が得られる。そのため、例えば所定の材料(光を吸収する材料から成るか否かは問わない)から成る膜中に、光を吸収する材料の粒(ドット)を含ませた構成としても構わない。具体的に例えば、窒化物から成る膜中に、金属から成るドットを含ませたものを光吸収膜としても構わない。なお、所定の材料として、絶縁性であり、熱伝導性が高い物質を選択すると好適である。
または、上記ドットを保護膜に含ませることにより、保護膜の一部または全部を光吸収膜としても構わない。なお、ドットの大きさは、発光点の大きさよりも小さいものとすると好ましい。
また、上記のようなドット状に限らず、光を吸収する材料(例えば金属)を所定の材料から成る膜中に含ませるだけでも、光吸収膜として機能させることが可能である。例えば、光を吸収する材料と膜を構成する所定の材料との化合物の状態で含まれても構わないし、固溶体(原子)の状態で膜を構成する所定の材料中に含まれても構わない。また、ドット、化合物、固溶体が混在する状態としても構わない。
また、レーザチップのリッジストライプ(狭窄部)の幅について、光の出射側(主として光が出射される側、例えば図3の面A側)を狭く、光の反射側(出射側の反対側、例えば図3の面B側)を広くしても構わない。出射側のリッジストライプの幅を狭くすると、発光点の大きさが小さくなり、光吸収膜での発熱が大きくなりすぎることを抑制することができる。しかしながら、出射側の電流密度が大きくなるため、キンクやCODが発生しやすくなる。そこで、光の反射側のリッジストライプの幅を広くすることで、電流密度を低減し、これらの発生を抑制する構成とする。このように構成すると、光吸収膜の効果をより効果的に得ることが可能となる。
また、非気密パッケージを採用すると、汚染物質の付着及び堆積の問題や、水分による変質の問題が生じることは上述の通りであるが、これらの問題は保護膜が形成される端面のみで生じるとは限らない。例えば、電極(例えば図3のp電極22やn電極23)が形成される半導体積層部上においても生じる可能性がある。そのため、上述のように防湿性に優れるSiNやSiOxN1-x(ただし、0<x<1とする)を、電極と半導体積層部との間に挟むような構成として、水分の浸入を抑制する構成としても構わない。他には、電極を全体的に異方性導電ペースト(ACP)やカーボン、銀などの材料で覆ったり、耐湿性樹脂(例えば、エポキシやアクリルなど)で覆ったりしても構わない。なお、これらの構成は、光吸収膜を用いることでパッケージの非気密化が達成された場合に利用することとすると、好適である。