日本の下水道普及率は平均約70%であり、都市部では、ほぼ100%に近い普及率である。したがって、下水管渠(かんきょ)の新設事業は一部地方を除いて殆ど無くなり、老朽管渠の維持管理が重要なものとなっている。下水管渠の総延長は約40万kmであり、そのうち耐用年数50年を越えた管渠は7000km以上となっている。また、今後年間数千kmずつ増加する見込みである。
一般に下水管渠などの地中に埋設される管については、設置からの年数の経過による様々な変形例えば、ズレによる段差の発生や径の変化などが生じることは不可避である。また、特に変形が生じなくても老朽化に伴って交換が必要になり、更には、管路を大型化するために径の大きな管への移行が必要となる。この様な種々の事情から、既設管は所定の時期に何らかの補修が必要となるのが現状である。
この既設管の補修技術として、地面を非開削のままで、既設管を更生させる方法が知られている。具体的には、まず、未硬化状態の光硬化性の管状ライニング材を圧縮空気によって反転させながら、或いは引き込みによって既設管内に導入する。この管状ライニング材は、ガラス繊維などの補強芯材に所定の樹脂を含浸させ、光硬化反応を促進させる光重合開始剤を含有させて成形する。そして、管状ライニング材の内側に圧縮空気を吹き込み、管状ライニング材外壁面を管路内壁面に密着させる。その後、例えば、360nm周辺の波長を有する短波長光、420nm周辺の波長を有する長波長光等の複数種の波長の光を含む、水銀ランプやメタルハライドランプ等の複合光源を用いて、この管状ライニング材の内壁から光照射装置によって光を照射して管状ライニング材を硬化させ、ライニング管を形成して既設管を更生する。また、近年では、LEDのような単色光を発する光源を用いて照射を行なうこともある。なお、この光の照射は、例えば、特許文献1に記載されているように、光源を備えた移動式の光照射手段であるランプトレインを、ライニング管内で移動させることにより行なわれている。
一般的に、長波長の光は透過力が高く、管状ライニング材の内壁に照射されると、管状ライニング材内を進行し内側部分を透過して外側部分まで到達し易いことが知られている。従って、管状ライニング材の全体に亘って光が照射されることとなり、硬化反応を一様に進行させることができる。しかし、その一方で、波長の長い光は、エネルギーが小さく、管状ライニング材が硬化する速度が遅くなるという欠点がある。
また、短波長の光を管状ライニング材に照射する場合、波長の短い光はエネルギーが高いことから、管状ライニング材が硬化する速度は速くなる。しかし、その一方で、波長の短い光は、管状ライニング材の内部を進行する際におけるエネルギーの減衰が大きく透過力が低いので、管状ライニング材の内壁に照射された場合、その外側部分まで到達し難くなるという欠点がある。
一方、上述の管状ライニング材に含有させる光重合開始剤として、例えば、360nm周辺以下の波長を有する短波長の光に反応するベンジルジメチルケタール(BDK)系の光重合開始剤、420nm周辺以下の長波長の光に反応するアシルフォスフィンオキシド(APO)系の光重合開始剤がある。また、一定の波長の光に対して選択的に反応する光重合開始剤もある。例えば、360nmの波長や420nmの波長に強い吸光性のある光重合開始剤等である。現在では、上記選択性のある光重合開始剤を単種又は複数種含有させた管状ライニング材、又は上述の360nm周辺以下や420nm周辺以下のような広い波長範囲の光に対して反応する光重合開始剤を含有させた管状ライニング材が用いられている。これにより、複数種の波長の光を含む複合光を管状ライニング材に照射することによって、この管状ライニング材を硬化させることができる。
上述のように、管状ライニング材の硬化速度は、エネルギーの低い長波長の光を照射する場合よりもエネルギーの高い短波長の光を照射する場合の方が早くなる。しかし、短波長の光は、透過力が小さく、ほぼ、管状ライニング材の内壁近傍の内側部分にしか到達しないので、管状ライニング材の内壁に、上述の水銀ランプやメタルハライドランプ等の複合光を照射すると、その複合光の短波長成分が管状ライニング材の内側部分を急速に硬化させてしまう。そして、この硬化した内側部分においては、光の透過率が激減するため、管状ライニング材の中間部分、及び外側部分、特に外側部分に光がほとんど到達しなくなり、硬化が不十分となり管状ライニング材の強度が低くなってしまうという状況が生じていた。そして、外側部分を十分な強度で硬化させるためには、光源の出力を上昇させる、すなわち、光の強度を強めることが一般的である。具体的には、例えば、400wのランプで十分な管状ライニング材の強度が得られなければ、600w、さらには1000w等の出力の高いランプを用いる。このような方法では、エネルギー消費が多量となるばかりでなく、過度の光照射による管状ライニング材の劣化を引き起こす原因となるという問題があった。
これに対して、短波長成分を含まない光、すなわち、長波長の光のみを使用して、管状ライニング材の外側部分まで光を到達させるようにするという手法も考えられるが、上述のように長波長の光は、エネルギーが小さいため、硬化速度が遅く、硬化に著しく時間がかかってしまい施工時間が長くなりすぎてしまうという恐れがあった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、長い施工時間及び大出力の光照射を必要とすることなく、管状ライニング材を全体的にバランス良く硬化することのできる既設管補修方法及びシステムを提供することにある。
上記課題を解決するために請求項1に記載の既設管補修方法は、異なる波長の光に反応する光重合開始剤を含有し光硬化性樹脂で形成された管状ライニング材を、補修対象の既設管内に導入し、該導入した管状ライニング材の内側から光照射を行い該管状ライング材を硬化させて既設管の補修を行なう既設管補修方法において、前記光照射を、管路内を移動する移動体を備え、該移動体の前方領域の表面部分に相対的に長い波長の光を発する長波長光源が設けられ、該移動体の後方領域の表面部分に前記長波長光源が発する光よりも波長の短い光を発する短波長光源が設けられた光照射装置を、前記管状ライニング材内で移動駆動装置により移動させることで行うことを特徴とする。
本発明によれば、複数種の波長の光に反応する複数種の光重合開始剤を含有する管状ライニング材の内壁から、光照射を段階的に波長を短くして行なうことで、初めに波長の長い光が管状ライニング材の内側部分を効率良く透過し、外側部分に到達するので、従来、高いエネルギーの短波長の光が管状ライニング材の内側部分を早く硬化させてしまうことによって光を到達させることが難しかった管状ライニング材の外側部分にも、十分に光を到達させ外側部分を硬化させることができる。そして、その後、徐々に照射する光の波長を短くしていくことで、管状ライニング材の中間部分及び内側部分を硬化することで、管状ライニング材を全体的に素早く硬化することができる。従って、長い施工時間及び大出力の光照射を必要とすることなく管状ライニング材の外側部分から内側部分までを順にバランス良くに硬化させることができる。また、光照射装置の移動体の前方領域に設けられた長波長光源により、管状ライニング材に長波長光が照射された後に、上記移動体の後方領域に設けられた短波長光源により、管状ライニング材に波長のより短い光が照射される。すなわち、この移動体を移動させるだけで、管状ライニング材に波長の長い順に光が照射されるので、上述の段階的に波長を短くする光照射を容易に行うことができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の既設管補修方法において、前記光照射装置には、前記長波長光源が発する光よりも波長が短く前記短波長光源が発する光よりも波長が長い中波長光源が、前記移動体における前記長波長光源と前記短波長光源の表面部分の間に設けられ、前記複数段階の光照射を、前記長波長光源による光照射を行なう第1光照射工程と、前記中波長光源による光照射を行う第2光照射工程と、前記短波長光源による光照射を行う第3光照射工程と、の三段階の工程で行なうことを特徴とする。
これによれば、この管状ライニング材には、波長の長い順に、第1照射工程における光、第2照射工程における光、及び第3照射工程における光を照射することとなる。従って、第1照射工程における光で、管状ライニング材の外側部分を硬化させ、その後、第1照射工程における光より波長の短い第2照射工程における光で管状ライニング材の中間部分を硬化させ、さらに、第2照射工程における光より波長の短い第3照射工程における光で管状ライニング材の内側部分を順に硬化させることができる。これにより、管状ライニング材の硬化を少ない工程で効率的に行うことができる。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の何れか1項に記載の光照射装置と、該光照射装置を前記管状ライニング材内で移動させる移動駆動装置と、を備えたことを特徴とする。
これによれば、光照射装置の移動体の前方領域に設けられた長波長光源により、管状ライニング材に長波長光が照射された後に、上記移動体の後方領域に設けられた短波長光源により、管状ライニング材に波長のより短い光が照射される。すなわち、この移動体を移動させるだけで、管状ライニング材に波長の長い順に光が照射されるので、上述の段階的に波長を短くする光照射を容易に行うことができる。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の既設管補修システムにであって、前記移動体は、それぞれ波長の異なる光を発する光源を備えた各連結体が複数連結されることにより構成されたことを特徴とする。
これによれば、長波長光源が設けられた移動体の後に、短波長光源が設けられた移動体が管状ライニング材内部を移動する。すなわち、この移動体を移動させるだけで、管状ライニング材に波長の長い順に光が照射されるので、上述の段階的に波長を短くする光照射を容易に行うことができる。
すなわち、本発明によれば、各層は、特定の種類の波長の光にのみ反応し、しかも、管状ライニング材10がその外側層から順に硬化されるように、波長が長い順に光が照射されるので、内側層が硬化することによって、ライニング材の外側に光が到達しづらくなることによる外側部分の硬化の阻害を確実に防止することができる。
本発明にかかる既設管補修方法及びシステムによれば、複数種の波長の光に反応する複数種の光重合開始剤を含有する管状ライニング材の内壁から、光照射を段階的に波長を短くして行なうことで、初めに波長の長い光が管状ライニング材の内側部分を効率良く透過し、外側部分に到達するので、従来、高いエネルギーの短波長の光が管状ライニング材の内側部分を早く硬化させてしまうことによって光を到達させることが難しかった管状ライニング材の外側部分にも、十分に光を到達させ外側部分を硬化させることができる。そして、その後、徐々に照射する光の波長を短くしていくことで、管状ライニング材の中間部分及び内側部分を硬化することで、管状ライニング材を全体的に素早く硬化することができる。従って、長い施工時間及び大出力の光照射を必要とすることなく管状ライニング材の外側部分から内側部分までを順にバランス良くに硬化させることができる。
(第1の実施の形態)
以下、図面に基づいて第1の実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態では、マンホールの間の下水本管の補修を管状ライニング材を用いて行なう場合を例として説明する。
図2は、上述の下水本管の補修工事の態様を示す図である。図示ように、本実施の形態の既設管の補修は、上述の反転や引き込みにより下水本管100内に未硬化の管状ライニング材10を導入し、その管状ライニング材10内に加圧空気を送り込み拡径した状態で行なわれる。
この管状ライニング材10は、例えば、ガラス繊維やフェルト(不織布)、もしくはその両方を組み合わせたものに樹脂を含浸させることで形成される。この含浸樹脂は、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の樹脂に420nm周辺以下の比較的長波長の光に反応する光重合開始剤であるAPOと、370nm周辺以下の比較的短波長の光までしか反応しない光重合開始剤であるBDKを含有させることにより形成されている。従って、この管状ライニング材10は、420nm周辺以下の波長の光に全般的に反応して硬化する。
そして、本実施の形態では、LED28、30、32が設けられた光照射装置20が、拡径された未硬化状態の管状ライニング材10内に引き込まれている。この光照射装置20は、略八角形柱状に形成されており、管状ライニング材10内走行用の車輪38を備えている。そして、この光照射装置20は、その先頭部分に取り付けられた牽引用ワイヤ800を介して図示しない移動駆動装置により牽引されることで、車輪38を介して管状ライニング材10内を図中矢印A方向に向かって走行する。なお、本実施の形態では、この牽引速度は、1〜5m/min程度とすることが好適である。
この光照射装置20の進行方向(図中矢印A方向)の先頭部分に位置する先頭領域20aの外表面には、例えば、20〜60個の複数のLED28が設けられている。同様に、先頭領域20aの直ぐ後方部分に位置する中央領域20bの外表面には、複数個のLED30が設けられており、更に、その中央領域20bの後方部分に位置する最後方領域20cの外表面には、複数個のLED32が設けられている。
このLED28、30、32としては、例えば、定格電力5〜20W程度のものが用いられる。そして、先頭領域20aに設けられたLED28には、420nm周辺の比較的長波長の単一光を発するLEDが用いられ、中央領域20bに設けられたLED30には、390nm周辺の中間波長の単一光を発するLEDが用いられ、最後方領域20cに設けられたLED32には、360nm周辺の比較的短波長の単一光を発するLEDが用いられる。
上記構成により、上述の光照射装置20が管状ライニング材10内を走行すると、管状ライニング材10の内壁には、光照射装置20の先頭領域20aに設けられたLED28から発せられる長波長光、中央領域20bに設けられたLED30から発せられる中波長光、最後方領域20cに設けられたLED32から発せられる短波長光がこの順に段階的に照射される。
図1は、管状ライニング材10の内壁への光照射の態様を説明する図である。なお、当図においては、管状ライニング材10を外側部分10a、中間部分10b、内側部分10cの3つの部分に分けて示しており、その境界を破線で示している。そして、管状ライニング材10の内壁への光照射、及び硬化の態様を、管状ライニング材10の一部である領域P1、P2、P3に着目して説明する。
図示のように、管状ライニング材10の領域P1の内壁には、先頭領域20aに設けられたLED28から発せられる長波長光Lが照射される。(第1光照射工程)。領域P1の内壁に照射された長波長光Lは、透過力が高いので、領域P1の内側部分10c及び、中間部分10bを透過して外側部分10aにまで到達する。従って、長波長光Lは、外側部分10a、中間部分10b、及び内側部分10cに全体的に照射され、外側部分10a、中間部分10b、及び内側部分10cを全体的に硬化させることができる。
そして、領域P2の内壁では、既に長波長光Lが照射された後で、先頭領域20aの後方の中央領域20bに設けられているLED30から発せられる中波長光Mが照射されている(第2光照射工程)。この中波長光Mは、長波長光Lと比較して波長が短く透過力が弱いので、領域P2の外側部分10aまではほとんど到達しないものの、中間部分10bまでは到達する。従って、中波長光Mは、中間部分10b、及び内側部分10cに照射されて、中間部分10b、及び内側部分10cが均一に硬化される。なお、中波長光Mは、長波長光Lよりも高いエネルギーを有するので、硬化反応の速度が速く、長波長光Lで既に照射されている中間部分10b、及び内側部分10cをより強固に硬化することができる。
次に、領域P3の内壁では、既に長波長光L及び中波長光Mが照射された後で、中央領域20bの後方の最後方領域20cに設けられているLED32から発せられる短波長光Sが照射されている(第3光照射工程)。
この短波長光Sは、中波長光Mと比較して波長が短く透過力が極めて小さいので、領域P3の中間部分10bまではほとんど到達せず、内側部分10cのみが照射され、内側部分10cが硬化される。なお、短波長光Sは、長波長光L及び中波長光Mと比較して、高いエネルギーを有するので、硬化反応の速度が速く、長波長光L、及び中波長光Mで既に照射されている内側部分10cをより強固に硬化させることができる。特に、下水管100内を流れる水により最も負荷を受けやすい内側部分10cを、この短波長光Sの照射によって他の部分と比較して最も強固に硬化させることができる。
このように、本実施の形態においては、420nm周辺の長波長光L、390nm周辺の中波長光M、及び360nm周辺の短波長光S等の複数種の波長の光を、これら複数の光に反応するように光重合開始剤が含有された管状ライニング材10の内側から段階的に波長の長い順に照射することによって、従来、高いエネルギーの短波長の光が管状ライニング材10の内側部分10cや中間部分10bを先に硬化させてしまうことによって光を到達させることが難しかった管状ライニング材10の外側部分10aにも、十分に光を到達させ硬化させることができる。その後、中波長光M及び短波長光Sを照射して、内側部分10c及び中間部分10bを硬化することで、管状ライニング材10を全体的に素早く硬化することができる。従って、長い施工時間及び大出力の光照射を必要とすることなく管状ライニング材10の全体をバランス良く硬化させることができる。
更に、本実施の形態では、光照射装置20の先頭部分である先頭領域20aに長波長光を発するLED28を設け、先頭領域20aの後方の中央領域20bにLED30を設け、中央領域20bの後方の最後方領域20cにLED32を設けて、この光照射装置20を牽引して管状ライニング材10内部を走行させるという容易な手法で、上述の波長の長い順の光の照射を効率的に行なうことができる。
なお、本実施の形態では、光照射装置20を先頭領域20a、中央領域20b、最後方領域20cに、三種類のLED28、30、32をそれぞれ設けて、この光照射装置20を管状ライニング材10内で走行させることで、波長の長い順の光の照射を行なっているが、これに限られるものではなく、例えば、光照射装置20を、それぞれ先頭から順にLED28、30、32を備えた3体の独立したトレインで構成し、これをライニング材10内で走行させることで、上述の波長の長い順の光照射を行なっても良い。
また、管状ライニング材10に対する波長の長い順の光照射は、本実施の形態のようにそれぞれ異なる波長の光を発するLED28、30、32を用いた3段階の照射に限られるものではなく、例えば、それぞれ異なる波長の光を発する2種のLEDを用いて、2段階に分けて照射を行なうようにしても良いし、4種以上のLEDを用いて4段階以上に分けて照射を行なうようにしても良い。また、光照射装置として、管状ライニング材10に波長の長い順に光を照射できるような構成であれば、他の種々の装置を用いても良い。
また、上述の実施の形態においては、管状ライニング材10に、420nm周辺以下の光に反応する光重合開始剤BDKと370nm周辺以下の光にしか反応しない光重合開始剤APOを含有させているが、例えば、420nm周辺(およそ418nm〜422nm),390nm周辺(およそ388nm〜392nm)、及び360nm周辺(およそ358nm〜362nm)の非常に狭い波長範囲の光にしか反応しない光重合開始剤を管状ライニング材10に含有させて、長波長光L、中波長光M、短波長光Sの段階的な光の照射により管状ライニング材10が硬化可能となるようにしても良い。
更に、広い波長範囲の光に反応する光重合開始剤、例えば、340nm〜460nmの範囲の光に反応する光重合開始剤1種類のみを管状ライニング材10に含有させて、上述の段階的な光照射を行なっても良い。
すなわち、光照射装置20により管状ライニング材10に照射される光の波長を全てカバーできるのであれば、管状ライニング材10に含有させる光重合開始剤の種類は、何種類であっても良い。特に、上述のように、反応する光の波長範囲が広い1種類の光重合開始剤のみを管状ライニング材10に含有させることで、管状ライニング材10の製造自体が容易となるので、好適である。
(第2の実施の形態)
以下、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図3は、本実施の形態において、管状ライニング材に対する光照射の態様を説明する図である。図示のように、本実施の形態の光照射装置20は、複数個のランプ40を連結した連結体として構成されており、牽引ロープ800により牽引されて矢印A方向に進行している。そして、このランプ40としては、上述の長波長光L、中波長光M、及び短波長光Sの波長成分が含まれる複合光Cを発する、例えば、水銀ランプ、ガリウムランプ、ハライドランプ、及びメタルハライドランプ等の複合光光源が設けられている。なお、本実施の形態では、光照射装置20を複数個の連結体として構成しているが、第1の実施の形態と同様に、複合光の光源を搭載した単数の移動体として構成しても良い。
また、本実施の形態では、管状ライニング材10が複数層の構造とされている点である。特に、本実施の形態の管状ライニング材10は、外側層10aと、中間層10bと、内側層10cの三層で形成されており、外側層10aには、420nm周辺の長波長光Lにのみ反応する光重合開始剤が含まれ、中間層10bには、390nm周辺の中波長光Mにのみ反応する光重合開始剤が含まれ、内側層10cには、360nm周辺の短波長光Sにのみ反応する光重合開始剤が含まれる。
そして、この光照射装置20を管状ライニング材10内で走行させると、図の領域Pの部分に示されているように、ランプ40により管状ライニング材10の内壁に複合光Cが照射され、複合光Cに含まれる長波長成分である長波長光Lが、この長波長光Lと反応する光重合開始剤が含まれていない管状ライニング材の内側層10c、及び中間層10bを全く硬化させることなく透過して、外側層10cに到達する。従って、この長波長光Lによって管状ライニング材10の外側層10cのみが硬化される。また、この長波長光Lによる外側層10cの硬化と同時に、複合光Cに含まれる中波長光Mにより中間層10bが硬化され、短波長光Sにより内側層10cが硬化される。
すなわち、上述のように管状ライニング材10を複数の層構造とし、その外側に位置する層につれて波長の長い光に反応する光重合開始剤を含有させることによって、内側層10が先に早く硬化してしまうことによって光が到達しづらく硬化が不十分となりがちである外側層10cも、中間層10b及び内側層10cと同時に硬化させることができるので、結果として、長い施工時間及び大出力の光照射を必要とすることなく、管状ライニング材10の全体的なバランスの良い硬化を達成することができる。
他の実施の形態として、第1の実施の形態における光照射装置20を用いて、上記複数層構造の管状ライニング材10の光照射を行なうこともできる。具体的には、例えば、上述のような3層構造の管状ライニング材10に、LED28、30、32を有した光照射装置20(図1参照)を管状ライニング材10内で走行させることで、段階的に波長を短くする光照射を行なう。
これにより、最初の光照射段階、すなわち、LED28の光が管状ライニング材10に照射されると、このLED28が発する長波長光Lは、内側層10c及び中間層10bに含まれる光重合開始剤とは全く反応しないので、この内側層10c及び中間層10bを透過して、外側層10cに到達し、この外側層10cのみを硬化させることができる。その後、光照射装置20を移動させることでLED30が発する中波長光Mが、管状ライニング材10に照射される。この中波長光Mは、内側層10cに含まれる光重合開始剤とは全く反応しないので、この内側層10cを透過して、中間層10bに到達し、この中間層10bのみを硬化させることができる。さらに、光照射装置20を移動させることで、LED32が発する短波長光Sが、管状ライニング材10に照射される。この短波長光Sは、内側層10cを硬化させる。
上述のように、その外側に位置する層につれて波長の長い光に反応する光重合開始剤を含む3層構造の管状ライニング材10に、段階的に波長の長い順に光を照射することによって、管状ライニング材10を外側層10aから内側層10cの順に確実に硬化させることができる。更に、例えば、長波長光Lを照射して管状ライニング材10の外側層10aを硬化させている際に、その長波長光Lは、管状ライニング材10aの外側層10aよりも内側の層(中間層10b及び内側層10c)を硬化させることがないので、内側の層が硬化することによって、管状ライニング材10cの外側に光が到達しづらくなることによるその外側層10aの硬化の阻害を確実に防止することができる。
なお、本実施の形態においては、管状ライニング材10は、3層構造で構成されているが、外側に位置する層につれて含まれる光重合開始剤の反応する光の波長が長くなるという条件を満たすのであれば、管状ライニング材10は2種、或いは、4種以上の層で形成しても良い。
なお、本発明は、上記第1及び第2の実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。