JP5346102B1 - 2電極式ホットワイヤmag溶接方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】融点の高い炭素鋼を対象とする場合であっても、溶融不良を生じさせることなく、フィラーワイヤを高速で送給することができ、大きな溶着速度を得ることができるMAG溶接方法を提供する。
【解決手段】溶接電源5から電流を出力して先行溶接ワイヤ4に通電を行い、母材2と先行溶接ワイヤ4との間でアークAを発生させ、フィラーワイヤ用電源8から通電を行って加熱したフィラーワイヤ7(直径1.2mm)を、アークAの後方側に形成される溶融池Pに供給しながら溶接を進行させ、先行溶接ワイヤ4に供給する電流の極性をプラスに設定し、溶融池に挿入するフィラーワイヤ7に供給する電流の極性についてもプラスに設定し、極間を8〜13mm(ソリッドワイヤ使用時)又は5〜8mm(フラックス入りワイヤを使用時)に設定して溶接を行うことを特徴とする。
【選択図】図2
【解決手段】溶接電源5から電流を出力して先行溶接ワイヤ4に通電を行い、母材2と先行溶接ワイヤ4との間でアークAを発生させ、フィラーワイヤ用電源8から通電を行って加熱したフィラーワイヤ7(直径1.2mm)を、アークAの後方側に形成される溶融池Pに供給しながら溶接を進行させ、先行溶接ワイヤ4に供給する電流の極性をプラスに設定し、溶融池に挿入するフィラーワイヤ7に供給する電流の極性についてもプラスに設定し、極間を8〜13mm(ソリッドワイヤ使用時)又は5〜8mm(フラックス入りワイヤを使用時)に設定して溶接を行うことを特徴とする。
【選択図】図2
Description
本発明は、炭酸ガス等のシールドガスを供給して溶接を行うMAG溶接法(Metal Active Gas welding)に関し、特に、先行する溶接ワイヤのアークによって形成した溶融池に、通電して加熱したフィラーワイヤ(ホットワイヤ)を供給してMAG溶接を行う方法に関する。
ガスシールドアーク溶接の技術分野においては、溶接時間の短縮、溶接効率の向上を図ること等を目的として、先行する溶接ワイヤのアークによって形成される溶融池にフィラーワイヤ(後行溶接ワイヤ)を供給して溶接を行う、という方法(2電極式ガスシールドアーク溶接方法)が知られている。
従来の2電極式ガスシールドアーク溶接方法には、様々な種類のものがあり、例えば、フィラーワイヤを、通電加熱を行わずに溶融池へ供給することにより、溶融池の冷却を促進して、ビードの欠陥(アンダーカットやアンダーフィル等)を抑制しようとするもの(特開2008−55506号公報)や、一つのトーチ(ノズル)から、先行溶接ワイヤとフィラーワイヤが繰り出されるように構成し、先行溶接ワイヤに溶接電流を出力してアークを発生させ、この先行溶接ワイヤから母材に流れる溶接電流の一部を分流して、溶融池に供給されるフィラーワイヤに導き、溶接電源のアースと接続して合流させるという方式のもの(特開平03−275280号公報)などが存在する。また、フィラーワイヤに専用電源を用い、先行溶接ワイヤ、フィラーワイヤともに、パルス化及び同期制御により、溶接ワイヤ同士の磁界干渉(磁気吹き)を防止しようとするもの(特開昭59−16680号公報)もある。
2電極式ガスシールドアーク溶接方法においては、溶接時間の更なる短縮、溶接効率のより一層の向上を図ることが求められており、これを実現するためには、より大きな溶着速度を得ることが必要となる。そして、フィラーワイヤの送給をより高速で行うことができれば、それだけ溶着速度を向上させることができることになる。しかしながら、従来の2電極式ガスシールドアーク溶接方法においては、「アークの不安定化に起因する溶融不良」という問題が足かせとなって、特に融点の高い炭素鋼を対象とする場合には、フィラーワイヤの送給速度を大きくすることは実質的に困難であった。
この点について詳細に説明すると、2電極式ガスシールドアーク溶接方法を実施する際に、フィラーワイヤの送給速度を大きくするためには、フィラーワイヤが溶けやすい条件を整えて、フィラーワイヤの溶融速度を大きくする(溶融量を稼ぐ)ことが必要である。特に融点の高い炭素鋼を対象とする場合には、より高い温度条件が求められることになり、溶融池の中でもより高温の領域にフィラーワイヤを供給することが望ましく、また、フィラーワイヤに対してできるだけ高い電流を出力し、十分な抵抗発熱をフィラーワイヤに与えることが重要である。
溶融池は、先行溶接ワイヤ(先行アーク)に近い領域ほど高温となるため、フィラーワイヤの溶融速度の向上という観点からは、先行溶接ワイヤになるべく近い位置にフィラーワイヤを供給する(極間を小さく設定する)ことが望ましいと考えられる。また、フィラーワイヤに出力する電流値は、アークを生じさせない範囲の上限値とすることが望ましいと考えられる。
一方、フィラーワイヤを先行溶接ワイヤに近づけ過ぎると、磁界干渉(アーク干渉)によりアークが不安定となり、スパッターの発生が顕著になるという問題がある。従って、この問題を回避すべくアークを安定させるためには、フィラーワイヤを、先行溶接ワイヤからある程度離れた位置に供給する(極間を大きく設定する)必要がある。
このように、「フィラーワイヤの溶融速度を向上させること」と「アークを安定させること」とは、極間を定める上で相反する関係にあり、溶融速度を向上させるべく極間を小さくするとアークが不安定になり、アークの安定化を優先して極間を大きくすると、溶融速度を向上させることができない。
尚、磁界干渉の大きさは、フィラーワイヤに出力する電流値に比例するため、電流値を低く抑えれば、フィラーワイヤを先行溶接ワイヤに近づけた場合でも磁界干渉を小さくすることができることになるが、この場合、十分な抵抗発熱をフィラーワイヤに与えることができず、溶け残りが生じる可能性がある。
本発明は、上記のような従来技術の問題を解決しようとするものであって、融点の高い炭素鋼を対象とする場合であっても、溶融不良を生じさせることなく、フィラーワイヤを高速で送給することができ、大きな溶着速度を得ることができるMAG溶接方法を提供することを目的とする。
本発明に係る2電極式ホットワイヤMAG溶接方法は、溶接電源から電流を出力して先行溶接ワイヤに通電を行い、母材と先行溶接ワイヤとの間でアークを発生させ、フィラーワイヤ用電源(溶接電源とは別個の独立した電源装置)から通電を行って加熱したフィラーワイヤを、アークの後方側に形成される溶融池に供給しながら溶接を進行させ、先行溶接ワイヤに供給する電流の極性をプラスにするとともに、溶融池に挿入するフィラーワイヤに供給する電流の極性をプラスとし、フィラーワイヤとして、直径1.2mmのものを使用し、フィラーワイヤとしてソリッドワイヤを使用する場合には、極間(溶接開始前における先行溶接ワイヤの先端とフィラーワイヤの先端の間隔)を8〜13mmに設定し、フィラーワイヤとしてフラックス入りワイヤを使用する場合には、極間を5〜8mmに設定して溶接を行うことを特徴としている。
また、フィラーワイヤの送給速度は10〜14m/minとし、後行トーチにおけるフィラーワイヤの突き出し長さ(溶接開始前における後行トーチの先端からフィラーワイヤの先端までの突出量)は、35〜45mmに設定されることが好ましく、フィラーワイヤの送給速度、及び、突き出し長さとの関係でアークを生じさせない範囲の上限値(フィラーワイヤとしてソリッドワイヤを使用する場合であって、フィラーワイヤの突き出し長さを35mmに設定した場合には230〜280A、40mmに設定した場合には200〜270A、45mmに設定した場合には180〜260A、フィラーワイヤとしてフラックス入りワイヤを使用する場合であって、フィラーワイヤの突き出し長さを35mmに設定した場合には210〜270A、40mmに設定した場合には180〜260A、45mmに設定した場合には160〜250A、)の電流をフィラーワイヤ用電源装置からフィラーワイヤに出力することが好ましい。
更に、トーチ間角度(先行トーチ及び先行溶接ワイヤに対する後行トーチ及びフィラーワイヤの傾斜角度)を17〜40°の範囲内のいずれかの角度に設定することが好ましい。
本発明に係る2電極式ホットワイヤMAG溶接方法は、フィラーワイヤの送給を、従来方法と比べて高速で行うことができ(つまり、フィラーワイヤを高速で送給した場合でも、安定的に溶融させることができ)、その結果、溶着速度を単電極式のMAG溶接法に対し50〜80%向上させることができる。しかも、単電極式のMAG溶接法と比べて、入熱量の増加を10〜15%程度に抑えることができる。
以下、添付図面に沿って本発明「2電極式ホットワイヤMAG溶接方法」(以下、単に「MAG溶接方法」と表記する。)の実施形態について説明する。本発明に係るMAG溶接方法は、入熱量の増加を小さく抑えつつ、大きな溶着速度を得るために、専用電源により通電加熱したフィラーワイヤ(ホットワイヤ)を、先行する溶接ワイヤの溶融池へ後方より挿入するものである。
そして、本発明に係るMAG溶接方法は、先行溶接ワイヤに供給する電流の極性をプラスにするとともに、溶融池に挿入するフィラーワイヤに供給する電流の極性についてもプラスとすることを特徴とする。尚、挿入するフィラーワイヤの種類は、ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤのいずれでもよいが、ワイヤの種類により最適な施工条件が異なる。具体的には、下記に示すような条件で施工する。
まず、先行トーチ3と後行トーチ6とを、図1に示すような相対位置関係をもって保持する。具体的には、トーチ間角度R(先行トーチ3及び先行溶接ワイヤ4に対する後行トーチ6及びフィラーワイヤ7の傾斜角度)を17〜40°の範囲内のいずれかの角度に設定する。また、フィラーワイヤ7としてソリッドワイヤを使用する場合には、極間D(溶接開始前における先行溶接ワイヤ4の先端4aとフィラーワイヤ7の先端7aの間隔)を8〜13mmに設定し、フィラーワイヤ7としてフラックス入りワイヤを使用する場合には、極間Dを5〜8mmに設定する。尚、フィラーワイヤ7については、直径1.2mmのものを使用する。
また、後行トーチ6におけるフィラーワイヤ7の突き出し長さ(溶接開始前における後行トーチ6の先端6aからフィラーワイヤ7の先端7aまでの突出量)(図1参照)は、35〜45mmに設定されている。
この状態で、図2に示すように、溶接電源5から電流(430〜460A、39〜42V)を出力して先行溶接ワイヤ4に通電を行い、母材2と先行溶接ワイヤ4との間でアークAを発生させる。尚、溶接電源5から先行溶接ワイヤ4への通電は、先行溶接ワイヤ4にプラス極を接続し、母材2(炭素鋼)にマイナス極を接続して行う。また、先行トーチ3から、シールドガスとして炭酸ガスを下方へ向けて供給する。そして、先行トーチ3及び後行トーチ6を、進行方向(図2において矢印で示す方向)へ所定の速度で移動させる。そうすると、アークAの後方側に溶融池Pが形成される。
一方、後行トーチ6においては、フィラーワイヤ用電源8からフィラーワイヤ7への通電を行い、加熱して、フィラーワイヤ送給装置(図示せず)から後行トーチ6へフィラーワイヤ7を所定の速度(10〜14m/min(直径1.2mm))で送給し、フィラーワイヤ7をアークAの後方側に形成される溶融池Pに供給しながら溶接を進行させる。
尚、フィラーワイヤ用電源8からフィラーワイヤ7への通電は、フィラーワイヤ7にプラス極を接続し、母材2にマイナス極を接続して行う。また、フィラーワイヤ用電源8として、フィラーワイヤ専用の電源装置(溶接電源5とは別個の独立した電源装置)を使用し、フィラーワイヤ7の送給速度、及び、突き出し長さとの関係でアークを生じさせない範囲の上限値の電流を出力する。
尚、フィラーワイヤ7の送給速度(10〜14m/min(直径1.2mm))と、フィラーワイヤ7の突き出し長さとの関係でアークを生じさせない範囲の上限値は、具体的には、次の通りである。
・フィラーワイヤ7としてソリッドワイヤを使用する場合
突き出し長さ=35mm: 230〜280A
突き出し長さ=40mm: 200〜270A
突き出し長さ=45mm: 180〜260A
・フィラーワイヤ7としてフラックス入りワイヤを使用する場合
突き出し長さ=35mm: 210〜270A
突き出し長さ=40mm: 180〜260A
突き出し長さ=45mm: 160〜250A
・フィラーワイヤ7としてソリッドワイヤを使用する場合
突き出し長さ=35mm: 230〜280A
突き出し長さ=40mm: 200〜270A
突き出し長さ=45mm: 180〜260A
・フィラーワイヤ7としてフラックス入りワイヤを使用する場合
突き出し長さ=35mm: 210〜270A
突き出し長さ=40mm: 180〜260A
突き出し長さ=45mm: 160〜250A
このような条件で、フィラーワイヤ7を溶融池Pに供給しながらMAG溶接を行うと、フィラーワイヤ7の送給を高速で行った場合(送給速度を10〜14m/minとした場合)でも、アークを安定させた状態で、溶融不良等の問題を生じさせることなく、フィラーワイヤ7を安定的に溶融させることができ、その結果、溶着速度を単電極式のMAG溶接法に対し50〜80%向上させることができる。しかも、単電極式のMAG溶接法と比べて、入熱量の増加を10〜15%程度に抑えることができる。
この点について詳細に説明すると、2電極式のガスシールドアーク溶接において、溶接時間の更なる短縮、溶接効率のより一層の向上を図るためには、より大きな溶着速度を得ることが必要であり、そのためには、フィラーワイヤを効率よく溶融させて(溶融速度を向上させて)、フィラーワイヤをより高速で送給できるようにすることが必要となるところ、「フィラーワイヤの溶融速度を向上させること」と「アークを安定させること」とが相反する関係にあるため、従来方法においては、溶融速度を向上させようとすると、アークが不安定になってスパッターの発生が顕著になる問題が生じ、アークを安定化させようとすると、溶融速度を向上させることができないという問題があった。
本発明においては、先行溶接ワイヤ4にプラス極を接続するとともに、フィラーワイヤ7にプラス極を接続してそれぞれ通電を行うことにより、アークを安定させた状態で、フィラーワイヤ7を従来よりも先行溶接ワイヤ4に近づけること(極間Dを小さく設定すること)が可能となった。このため、溶融池Pの中でもより高温の領域にフィラーワイヤ7を供給することができ、フィラーワイヤ7の溶融速度の向上、フィラーワイヤ7の高速送給が可能となった。
より具体的には、本発明の発明者が行った実験の結果、先行溶接ワイヤ4及びフィラーワイヤ7のいずれにもプラス極を接続して所定の条件にて(直径1.2mmのフィラーワイヤ7を14m/minという速度で送給し、アークを生じさせない範囲の上限値〔ソリッドワイヤ使用時:280A、フラックス入りワイヤ使用時:270A〕の電流を出力して)MAG溶接を実施した場合、ソリッドワイヤ使用時においては極間Dを8mmまで、また、フラックス入りワイヤ使用時においては極間Dを5mmまで近づけた場合でも、アークを安定した状態に維持できるということが確認された。
尚、ソリッドワイヤ使用時と、フラックス入りワイヤ使用時とで、極間Dの最小値(アークを不安定化させない範囲で限界まで近づけた場合のフィラーワイヤ7と先行溶接ワイヤ4の先端同士の間隔の値)が異なるのは、両者の構造上の特性の相違によるものと考えられる。つまり、ソリッドワイヤが、外側も中心もすべて鋼材で構成されているのに対し、フラックス入りワイヤは、断面の中心部がフラックス(金属粉)、外周部が鋼材で構成されており、通電時の電流は、主として断面積が小さい外周部の鋼材において流れることになるため、ソリッドワイヤと比べて電流値が低くなり、先行溶接ワイヤ4との磁界干渉(電流値に比例する)も弱くなる。このため、フラックス入りワイヤ使用時の方が、ソリッドワイヤ使用時よりも極間Dを小さくすることができると考えられる。
また、本発明においては極間Dを、ソリッドワイヤ使用時には8〜13mm、フラックス入りワイヤ使用時には5〜8mmに設定しているが、これは、先行溶接ワイヤ4及びフィラーワイヤ7のいずれにもプラス極を接続することによって初めて採用し得る数値であり、従来のホットワイヤ溶接法(特開平03−275280号公報、特開昭59−16680号公報等)においてこの数値を適用することは困難である。その理由は次の通りである。
従来のホットワイヤ溶接法においては、先行溶接ワイヤとフィラーワイヤとに接続する極性が逆になっており(先行溶接ワイヤにはプラス極が接続され、フィラーワイヤにはマイナス極が接続されている)、フィラーワイヤには、加熱のために通電される電流に加えて、先行溶接ワイヤに出力された電流の一部が流れ込むことになる。その結果、フィラーワイヤの電流値が上がり、磁界が強くなり、極間を小さく(例えば13mm以下に)すると、磁界干渉によりアークが不安定化してしまい、スパッターの発生が顕著になる問題が生じてしまうからである。
また、本発明においては、フィラーワイヤ7として直径1.2mmのものを使用しているが、このように細径のものを採用した理由は、電流値を小さくすることによって磁界干渉を小さく抑え、高い電流密度を得るためである(細径のワイヤと大径のワイヤとを比較した場合、同じ電流密度を得るためには、大径のワイヤの方が高い電流値を必要とし、その結果、磁界干渉が大きくなる)。
更に、本発明においては、フィラーワイヤ7に出力する電流値を、送給速度(10〜14m/min(直径1.2mm))、及び、突き出し長さとの関係でアークを生じさせない範囲の上限値に設定しているが、これは、アークを生じさせないようにコントロールすることによって、入熱量の増加を小さく抑えることができるからである。また、フィラーワイヤ7における抵抗発熱を最大とし、溶融池に挿入される前の時点でフィラーワイヤ7の温度を融点近くまで高めることができ、その結果、フィラーワイヤ7を安定的に溶融させることができるからである。
また、本発明においては、トーチ間角度Rを17〜40°の範囲内のいずれかの角度に設定することとしているが、これは、17°よりも小さくすると、挿入されたフィラーワイヤ7が溶融しないまま溶融池底に達し、底を突いてしまう「スティッキング」という現象(ソリッドワイヤ使用時)や、溶融池に挿入されたフィラーワイヤ7の先端が、アークとの間から飛び出してしまうという現象(フラックス入りワイヤ使用時)が生じやすくなるという問題があり、これらを回避するためである。また、40°よりも大きくすると、挿入位置での極間Dが過大となり、上述した極間Dの設定が無意味になってしまうからである。
更に、本発明においては、フィラーワイヤ7の送給速度を10〜14m/min(直径1.2mm)に設定しているが、10m/minを下回ると、従来よりも大きな溶着速度を得ようとする上で十分な効果が期待できず、また、14m/minを上回ると、フィラーワイヤが安定的に溶融せず、溶接金属中に溶け残りが生じる可能性があるからである。
また、本発明においては、後行トーチ6におけるフィラーワイヤ7の突き出し長さが35〜45mmに設定されているが、これは次のような理由による。
フィラーワイヤを安定的に溶融させるためには、フィラーワイヤの先端温度を、フィラーワイヤの融点近くまで(具体的には1600K程度まで)上昇させることが重要である。そして、フィラーワイヤの突き出し部分(図1に示す後行トーチ6の先端6aからフィラーワイヤ7の先端7aまでの部分)の温度は、突き出し長さ、及び、抵抗発熱量と相関がある。そこで、突き出し長さについていくつかのバリエーション(20mm、25mm、30mm、35mm、及び、40mm)を想定し、それぞれについて、次の式を用いてフィラーワイヤの突き出し部分の温度分布(アーク発生時)について確認してみた。
上式において、「x」は、フィラーワイヤの突き出し部分の位置(後行トーチ6の先端6aからの距離)(m)、「T(x)」は、位置xにおける温度(K)、「Tm」は、フィラーワイヤ材の融点(K)、「T0」は、給電チップ(x=0)の温度(K)、「Ex」は、フィラーワイヤの突き出し長さ(m)、「J」は、フィラーワイヤの突き出し部分の電流密度(A/m2)、「R0」は、温度273Kにおける抵抗率(Ωm)、「vw」は、フィラーワイヤの送給速度(m/s)、「c」は、比熱(J/kgK)、「ρ」は、密度(kg/m3)、「k」は、フィラーワイヤ材の熱拡散率(m2/s)〔k=K/cρ(「K」は、熱伝導率(W/mK))〕である。
尚、ここでは、抵抗率R0を6.0×10−7(Ωm)、熱伝導率Kを50(W/mK)、密度ρを7500(kg/m3)、比熱cを590(J/kgK)、フィラーワイヤ材の融点Tmを1773(K)、給電チップの温度T0を273(K)、フィラーワイヤの送給速度vwを12(m/s)とした。
上式を用いた計算結果を図3に示す。図3のグラフにおいては、各線が高温部で屈曲している。これらの屈曲点を境とする温度の急上昇は、アーク熱の影響によるものである。つまり、屈曲点は、フィラーワイヤの突き出し部分のうち、アーク熱の影響を受けていない部分の先端の位置(アーク熱の影響を受けている部分と影響を受けていない部分との境界)を示している。
これらの結果に基づいて、突き出し長さの最適値を検討してみると、屈曲点の温度が最も高くなる「EXT=30mm」が最適なように見えるが、挿入位置における実際の突き出し長さは、「のど厚」(フィラーワイヤが挿入されている部分における溶融金属の高さ)分だけ短くなり、この「のど厚」を5mm前後と考えると、溶接前に設定する突き出し長さは、35mmが最適値であると考えられる。
また、フィラーワイヤを安定的に溶融させるためには、フィラーワイヤの先端温度を、フィラーワイヤの融点近くまで(具体的には1600K程度まで)上昇させることが有効であると考えられるところ、図3のグラフからは、フィラーワイヤの突き出し長さ(EXT)が30mm、35mm、及び、40mmの場合において、屈曲点が概ね1600K以上となることがわかる。従って、溶接前に設定する突き出し長さの最適範囲は、「のど厚」5mmを考慮すると35〜45mmということになる。尚、これらの傾向は、フィラーワイヤ送給速度が8〜16m/minにおいて変わらないことが確認されている。
1:溶接装置、
2:母材、
3:先行トーチ、
3a:先端、
4:先行溶接ワイヤ、
4a:先端、
5:溶接電源、
6:後行トーチ、
6a:先端、
7:フィラーワイヤ、
7a:先端、
8:フィラーワイヤ用電源、
A:アーク、
D:極間、
P:溶融池、
R:トーチ間角度
2:母材、
3:先行トーチ、
3a:先端、
4:先行溶接ワイヤ、
4a:先端、
5:溶接電源、
6:後行トーチ、
6a:先端、
7:フィラーワイヤ、
7a:先端、
8:フィラーワイヤ用電源、
A:アーク、
D:極間、
P:溶融池、
R:トーチ間角度
Claims (1)
- 溶接電源から電流を出力して先行溶接ワイヤに通電を行い、母材と先行溶接ワイヤとの間でアークを発生させ、フィラーワイヤ用電源から通電を行って加熱したフィラーワイヤを、アークの後方側に形成される溶融池に供給しながら溶接を進行させる2電極式ホットワイヤMAG溶接方法において、
先行溶接ワイヤに供給する電流の極性をプラスにするとともに、溶融池に挿入するフィラーワイヤに供給する電流の極性をプラスとし、
フィラーワイヤとして、直径1.2mmのものを使用し、
フィラーワイヤとしてソリッドワイヤを使用する場合には、極間を8〜13mmに設定し、フィラーワイヤとしてフラックス入りワイヤを使用する場合には、極間を5〜8mmに設定し、
フィラーワイヤの送給速度を10〜14m/minとし、
フィラーワイヤとしてソリッドワイヤを使用する場合であって、フィラーワイヤの突き出し長さを35mmに設定した場合には230〜280A、40mmに設定した場合には200〜270A、45mmに設定した場合には180〜260Aの電流をフィラーワイヤに出力し、
フィラーワイヤとしてフラックス入りワイヤを使用する場合であって、フィラーワイヤの突き出し長さを35mmに設定した場合には210〜270A、40mmに設定した場合には180〜260A、45mmに設定した場合には160〜250Aの電流をフィラーワイヤに出力して溶接を行うことを特徴とする2電極式ホットワイヤMAG溶接方法。
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