以下、本発明の実施形態について、図面を適宜参照して詳細に説明する。
(第1実施形態)
まず、本発明に係る液冷ジャケットの製造方法によって形成された液冷ジャケットについて説明する。液冷ジャケットは、例えば、パーソナルコンピュータ等の電子機器に搭載される冷却システムの構成部品であって、CPU(熱発生体)等を冷却する部品である。液冷システムは、CPUが所定位置に取り付けられる液冷ジャケットと、熱輸送流体(冷却水)が輸送する熱を外部に放出するラジエータ(放熱手段)と、熱輸送流体を循環させるマイクロポンプ(熱輸送流体供給手段)と、温度変化による熱輸送流体の膨張/収縮を吸収するリザーブタンクと、これらを接続するフレキシブルチューブと、熱を輸送する熱輸送流体とを主に備えている。熱輸送流体は、熱発生体であるCPU(図示せず)が発生する熱を外部に輸送する。熱輸送流体としては、例えば、エチレングリコール系の不凍液が使用される。そして、マイクロポンプが作動すると、熱輸送流体がこれら機器を循環するようになっている。
液冷ジャケットは、その下方側の中央に、熱拡散シート(図示せず)を介してCPU(図示せず)が取り付けられるようになっており、CPUが発生する熱を受熱すると共に、内部を流通する熱輸送流体と熱交換する。これによって、液冷ジャケットは、CPUから受け入れた熱を熱輸送流体に伝達し、その結果として、CPUを効率的に冷却する。なお、熱拡散シートは、CPUの熱を、液冷ジャケットに効率的に伝達させるためのシートであり、例えば、銅などの高熱伝導性を有する金属から形成されている。
図1に示すように、液冷ジャケット1は、ジャケット本体10と、ジャケット本体10の表裏両面に固定される封止体30とを備えており、その内部に熱輸送流体が流れるように構成されている。
図2に示すように、ジャケット本体10は、金属製の枠構造体から構成されており、その内側に内空部11を有している。内空部11は、ジャケット本体10の厚さ方向に貫通して延在している。ジャケット本体10は、その両面に内空部11の開口部12,12をそれぞれ備えている。開口部12は、ジャケット本体10の内空部11の厚さ方向両側端部分で構成されている。
図2および図4に示すように、ジャケット本体(枠構造体)10は、平面視長方形の矩形枠状を呈しており、四つの直線状の金属部材20を組み合わせて形成されている。金属部材20は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、ジャケット本体10は軽量化が達成されており、取り扱い容易となっている。複数の金属部材20は、長辺を構成する長尺直方体状の金属部材20(以下、「20a」と表示する場合がある)と、短辺を構成する長尺直方体状の金属部材20(以下、「20b」と表示する場合がある)とから構成されている。そして、長辺を構成する長尺直方体状の金属部材20aの長手方向の端面を、これに隣接して短辺を構成する長尺直方体状の金属部材20bの側面に突き合わせた後に、その突合部21に沿って回転ツール(図示せず)を移動させて塑性化領域43を形成することで、金属部材20a,20b同士が接合されている。なお、金属部材20,20同士の接合位置関係は前記の関係に限定されるものではなく、短辺を構成する長尺直方体状の金属部材20bの長手方向の端面を、長辺を構成する長尺直方体状の金属部材20aの側面に突き合わせて接合するようにしてもよい。
図2に示すように、金属部材20,20同士を接合する摩擦攪拌接合は、ジャケット本体10の表裏両面から施されている。表面側から形成された塑性化領域43の先端部(深さ方向最深部)と、裏面側から形成された塑性化領域43の先端部とは、互いに重合している。これによって、金属部材20,20同士の突合部21の厚さ全体に亘って摩擦攪拌が行われて塑性化領域43が形成されていることとなる。なお、本明細書中における「塑性化領域」とは、回転ツールの摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、回転ツールが通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。
ジャケット本体10の周壁を構成する金属部材20のうち、互いに対向する一対の金属部材20b,20bには、内空部11に熱輸送流体を流通させるための貫通孔16,16がそれぞれ形成されている。貫通孔16,16は、本実施形態では、金属部材20b,20bの対向方向(図2中、X軸方向)に延在しており、円形断面を有するとともに、ジャケット本体10の厚さ方向中間部に形成されている。なお、貫通孔16の形状、数および形成位置は、これに限られるものではなく、熱輸送流体の種類や流量に応じて適宜変更可能である。
ジャケット本体10の開口部12の周縁部(以下、「開口周縁部」という)12aには、ジャケット本体10の表面から厚さ方向に一段下がった段差底面からなる支持面15aが形成されている。ジャケット本体10の表面と支持面15aとの高低差は、封止体30の厚さ寸法T1(図6参照)と同じ寸法H1(図6参照)に設定されている。支持面15aは、封止体30を支持する面であって、封止体30の周縁部30aが支持面15aに当接するように、封止体30がジャケット本体10に設置されている。
支持面15aは、ジャケット本体10の表裏両面の開口周縁部12aに形成されており、ジャケット本体10の表裏両面において、封止体30の周縁部30aが支持面15aに当接するように、封止体30が設置されている。
封止体30は、ジャケット本体10の段差側面15bと同じ外周形状(本実施形態では長方形)を有する板状の蓋板部31と、蓋板部31の片面に設けられた複数のフィン32,32…とを備えて構成されている。フィン32は、封止体30の表面積を大きくするために設けられている。
複数のフィン32,32…は、互いに平行で且つ蓋板部31に対して直交して配置されており、蓋板部31と一体に構成されている。これにより、蓋板部31とフィン32,32…との間において、熱が良好に伝達するようになっている。図2および図3に示すように、フィン32,32…は、貫通孔16,16が形成された金属部材20b,20bの長手方向と直交する方向(図2中、X軸方向)に延在するように配置されている。フィン32は、支持面15aからジャケット本体10の厚さ方向中間部までの距離と略同等の突出寸法(図2中、Z軸方向長さ)を有しており、その先端部が対向する封止体30の先端面と当接あるいは近接するようになっている(図3参照)。これによって、一対の封止体30がジャケット本体10に取り付けられた状態で、封止体30の蓋板部31と、隣り合うフィン32,32とでX軸方向に延びる空間が区画され、その空間が、熱輸送流体が流れる流路33(図3および図5の(a)参照)として機能することとなる。また、フィン32,32…は、金属部材20aの長さ寸法よりも短い長さ寸法(図2中、X軸方向長さ)を有しており、その長手方向両端は、金属部材20b,20bの内側面とそれぞれ所定の間隔を隔てるように構成されている。フィン32,32…の端部と、金属部材20bとの間の空間は、流路33と貫通孔16とを繋ぐ流路ヘッダ部34(図3および図5の(a)参照)を構成する。
封止体30もジャケット本体10と同様に、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、液冷ジャケット1は軽量化が達成されており、取り扱い容易となっている。封止体30は、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成された金属製ブロックを切削加工することで蓋板部31とフィン32を形成して作製されている。フィン32は、互いに平行配置された複数枚のカッタにて切削加工することで形成されている。これにより、複数のフィン32を一度の加工でまとめて形成できるので、加工の時間と手間を短縮できる。なお、封止体30の作製方法はこれに限定されるものではなく、例えば、蓋板部31と複数のフィン32,32…からなる断面形状を有する部材を、押出成形または溝加工によって形成し、そのフィン32の両端部を取り除くことによって作製してもよい。
図1および図3に示すように、封止体30は、ジャケット本体10の両面の開口部12,12(図1では片面のみ図示)にそれぞれ設置され、開口部12と封止体30との突合部40(図1参照)に沿って回転ツール50(図6参照)を一周させて塑性化領域41を形成することで、封止体30がジャケット本体10に固定されている。
次に、以上のような構成の液冷ジャケット1の製造方法を説明する。まず、図4を参照して、ジャケット本体10の形成方法を説明する。
図4の(a)に示すように、金属部材20a,20b同士を摩擦攪拌によって接合するには、直方体形状を呈するブロック状の金属部材接合用第一タブ部材61(以下、単に「第一タブ部材」という)および金属部材接合用第二タブ部材62(以下、単に「第二タブ部材」という)が用いられる。第一タブ部材61および第二タブ部材62は、金属部材20a,20b同士の突合部21を、ジャケット本体10の内周側と外周側から挟むように配置されるものである。
なお、第一タブ部材61および第二タブ部材62の材質に特に制限はないが、本実施形態では、金属部材20と同一組成の金属材料で形成している。また、第一タブ部材61および第二タブ部材62の形状・寸法にも特に制限はないが、本実施形態では、その厚さ寸法を突合部21における金属部材20の厚さ寸法と同一としている。
ジャケット本体10を製造するに際しては、まず、接合すべき四つの金属部材20,20・・を平面視長方形枠状に配置し、短辺を構成する金属部材20bの端部の側面に、長辺を構成する金属部材20aの端面を密着させて突き合せる。なお、金属部材20,20同士を突き合わせる前に、突合面を、面削加工して平坦にした後、脱脂して表面の油脂を除去しておくのが好ましい。このようにしておけば、金属部材20,20同士が隙間なく密着し、さらに突合面から油等の有機物や水分を取り除くことができるので、塑性化領域に有機物の残渣や分解ガスが混入するのを防止することができ、摩擦攪拌接合の接合性が向上する。
その後、金属部材20bの端部側面と、金属部材20aの端面とで構成される各突合部21,21・・の両側に第一タブ部材61と第二タブ部材62をそれぞれ配置する。また、第一タブ部材61および第二タブ部材62を、溶接により金属部材20a,20bに仮固定する。
そして、金属部材20,20・・、第一タブ部材61および第二タブ部材62を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。そして、小型の仮接合用回転ツール(図示せず)を、第一タブ部材61と金属部材20の外周面との突合部63、金属部材20,20同士の突合部21、第二タブ部材62と金属部材20の内周面との突合部64の順に一筆書きの移動軌跡(図示せず)を形成するように適宜移動させて、突合部63,16,64に対して連続して摩擦攪拌を行って仮接合する。
その後、第一タブ部材61の適所に開始位置65を設定し、この開始位置65に図示しない本接合用回転ツール(図示せず)の攪拌ピンが挿入される下穴(図示せず)を形成する。開始位置65は、第一タブ部材61の表面で、突合部21の延長線上に設定されている。下穴は、本接合用回転ツールの攪拌ピンの挿入抵抗(圧入抵抗)を低減する目的で設けられるものである。下穴の形成方法に制限はなく、例えば、図示せぬ公知のドリルを回転挿入することで形成することができる。
下穴の形成が終了したら、突合部21を本格的に接合する本接合を実行する。本接合は、仮接合用回転ツールよりも大径の本接合用回転ツールを使用し、まず、仮接合された状態の突合部21に対してジャケット本体10の表面側から摩擦攪拌を行う。第一タブ部材61上の開始位置65に形成した下穴に本接合用回転ツールの攪拌ピンを回転させながら挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンを突合部21側に向かって移動させる。突合部21の一端(外周側)まで摩擦攪拌を行ったら、そのまま本接合用回転ツールを突合部21に突入させ、突合部21に沿って摩擦攪拌を行う。そして突合部21の他端(内周側)まで本接合用回転ツールを移動させたら、摩擦攪拌を継続しながら、第二タブ部材62上を金属部材20bから離反する方向に本接合用回転ツールを斜めに移動させ、そのまま第二タブ部材62上の適所に設定された終了位置66に向けて移動させる。
本接合用回転ツールが終了位置66に達したら、本接合用回転ツールを回転させつつ上昇させて攪拌ピンを終了位置66から離脱させる。このとき終了位置66において攪拌ピンを上方に離脱させると、攪拌ピンと略同形の引抜穴67が不可避的に形成されることになるが、本実施形態では、そのまま残置する。
以上の工程を、四箇所の各突合部21,21・・でそれぞれ行い、金属部材20,20・・を枠状に接合する。
その後、各摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、金属部材20,20・・を裏返し、裏面(図示せず)を上にする。そして、前記と同様の工程で下穴形成および本接合を実行する。裏面の本接合における摩擦攪拌は、このとき、表面側からの摩擦攪拌にて形成された表側の塑性化領域43に、本接合用回転ツールの攪拌ピンを入り込ませるようにして行う。これによって、突合部21には、表面側から形成された塑性化領域43と、裏面側から形成された塑性化領域43(図3参照)の底部同士が互いに重合するように形成される。
以上のように、表面側および裏面側からの本接合が終了したら、第一タブ部材61および第二タブ部材62を切除する。これによって、四つの金属部材20が、矩形枠状に組み付けられて、内周側に内空部11が形成される。そして、その表裏両面に内空部11の開口部12(図2参照)が形成されることとなる。
なお、本実施形態では、開始位置65を第一タブ部材61上に設定し、終了位置66を第二タブ部材62上に設定しているが、これに限定されるものではなく、開始位置と終了位置とを反対に設定してもよい。
その後、図4の(b)に示すように、開口周縁部12aを、所定深さ切削して、支持面15aを形成する。支持面15aの形成方法に制限はなく、例えば、公知のフライス加工等によって切削して形成することができる。また、支持面15aの形成と前後して、互いに対向する一対の金属部材20b,20bに、貫通孔16,16(図2参照)を形成する。貫通孔16の形成方法に制限はなく、例えば、公知のドリルによって切削して形成することができる。以上の工程によって、ジャケット本体10が形成される。
次に、ジャケット本体10に、封止体30を摩擦攪拌接合によって固定する方法について、図5および図6を参照して説明する。
まず、ジャケット本体10と封止体30とが互いに接触する接触面(ジャケット本体10の支持面15aおよび段差側面15bや、封止体30の周縁部30aおよび外周面30b等)を、面削加工して平坦にした後、脱脂して表面の油脂を除去する。このようにしておけば、ジャケット本体10と封止体30とが隙間なく密着し、さらに接合面から油等の有機物や水分を取り除くことができるので、塑性化領域に有機物の残渣や分解ガスが混入するのを防止することができ、摩擦攪拌接合の接合性が向上する。
その後、図5の(a)に示すように、封止体30を、フィン32が下側になるようにして、ジャケット本体10の内空部11に挿入して、封止体30の周縁部30aを、支持面15a上に載置する。すると、ジャケット本体10の段差側面15bと、封止体30の外周面30bとが突き合わされ、突合部40が構成される。
続いて、ジャケット本体10と封止体30とを接合するための回転ツール50(図6参照)の挿入位置53に下穴54(図4の(b)参照)を形成する。この下穴54は、後の工程における接合用回転ツール50の攪拌ピン52(図6参照)の挿入抵抗(圧入抵抗)を低減する目的で設けられるものである。下穴54の形成方法に制限はなく、例えば、図示せぬ公知のドリルを回転挿入することで形成することができる。また、下穴54の形成のタイミングもこれに限定されるものではなく、支持面15aを形成する前に形成してもよいし、支持面15aの形成後で封止体30を支持面15a上に設置する前に形成してもよい。
次に、摩擦攪拌接合用の回転ツール50を挿入位置53に挿入した後、突合部40に移動させ、その後引き続き、この突合部40に沿って移動させる。このとき、ジャケット本体10の外周面に、ジャケット本体10を四方向から囲む治具(図示せず)を予め当てておくのが好ましい。これによれば、金属部材20の厚さが薄く、回転ツール50のショルダー部51(図6参照)の外周面と、ジャケット本体10の外周面との距離(隙間)が、例えば、2.0mm以下であっても、回転ツール50の押圧力によってジャケット本体10が外側に変形しにくくなる。なお、金属部材20の厚さが厚い場合は、前記の治具は設置しなくてもよい。
回転ツール50は、ジャケット本体10や封止体30よりも硬質の金属材料からなり、図6に示すように、円柱状を呈するショルダー部51と、このショルダー部51の下端面に突設された攪拌ピン(プローブ)52とを備えて構成されている。回転ツール50の寸法・形状は、ジャケット本体10および封止体30の材質や厚さ等に応じて設定すればよい。本実施形態では、攪拌ピン52は、下部が縮径した円錐台形状を呈しており、その突出長さ寸法L1は、封止体30の蓋板部31の厚さ寸法T1以上となっている。そして、摩擦攪拌接合時には、攪拌ピン52の先端が支持面15aを突き抜けるように、回転ツール50を押し込む。回転ツール50の回転速度は、例えば、500〜15000(rpm)、送り速度は、例えば、0.05〜2(m/分)で、突合部40を押さえる押込み力は、例えば、1〜20(kN)程度で、ジャケット本体10および封止体30の材質や板厚および形状に応じて適宜選択される。
以下に、回転ツール50の動きを具体的に説明する。まず、回転ツール50を回転させながら挿入位置53に挿入する。回転ツール50の挿入位置53は、図5の(a)に示すように、突合部40から外側に外れた金属部材20の上面となっている。このとき、回転ツール50の挿入位置53には、予め下穴54(図4の(b)参照)が形成されているので、回転ツール50を押し込む際の負荷を低減することができ、また、回転ツール50の挿入時間(押込み時間)を短縮できる。
その後、回転ツール50を、挿入位置53から突合部40へ向けて移動させる。そして、その軸芯が突合部40の突合面上に位置したならば、回転ツール50が突合部40に沿って移動するように移動方向を変更する。このとき、回転ツール50の回転方向(自転方向)は、移動方向(公転方向)と同じ方向となるようにする。すなわち、本実施形態では、回転ツール50をジャケット本体10の開口部12に対して右回りに移動させている(図5の(a)中、矢印Y1参照)ので、回転ツール50を右回転させる(図5の(a)中、矢印Y2参照)。なお、回転ツール50を開口部12に対して左回りに移動させるときは、回転ツール50を左回転させることとなる。
このようにすることによって、突合部40の内側の封止体30側が回転ツール50のフロー側50a(被接合部に対する回転ツール50の外周の相対速さが、回転ツール50の外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる側)となり、外側のジャケット本体10が回転ツール50のシアー側50b(被接合部に対する回転ツール50の外周の相対速さが、回転ツール50の外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側)となる。すなわち、被接合部に対する回転ツール50の相対速さは、ジャケット本体10側が大きく、封止体30側が小さくなる。
その後、回転ツール50の回転および移動を継続し、図5の(b)に示すように、回転ツール50を封止体30の周りを一周させて塑性化領域41を形成する。このとき、回転ツール50は、突合部40に沿って一周させた後、一周目の始端54aから一定距離進んだ部分(終端54b)を含む始端部に沿ってさらに移動させる。これによって、回転ツール50の一周目における始端54aと終端54bとがオーバーラップして、塑性化領域41の一部が重複するようになっている。ここで、「塑性化領域」とは、回転ツール50の摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、回転ツール50が通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。
そして、回転ツール50の周回移動が終了したならば、回転ツール50を塑性化領域41(突合部40)から外側に外れたジャケット本体10の金属部材20の上面へと移動させ、その位置で、回転ツール50を引き抜く。このように、回転ツール50の引抜位置55が、突合部40から外側に外れた位置となっているので、攪拌ピン52の引抜穴56が突合部40に形成されることはない。これにより、ジャケット本体10と封止体30との接合性をさらに高めることができる。なお、金属部材20の上面の引抜穴56は、溶接金属を埋める等の加工を行って補修してもよい。
その後、摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、ジャケット本体10を裏返し、裏面(図示せず)を上にする。そして、前記と同様の工程で下穴形成および本接合を実行する。
以上のように、ジャケット本体10の表面側および裏面側で、回転ツール50をジャケット本体10の開口部12の周囲で、突合部40に沿って移動させて摩擦攪拌接合を行い、ジャケット本体10に封止体30を固定することで、内部に熱輸送流体が流れる液冷ジャケット1が形成される。
本実施形態に係る液冷ジャケット1の製造方法によれば、ジャケット本体10を枠構造体にて構成しているので、従来のように金属製のブロックを切削加工してフィン収容室(凹部)を形成しなくても済む。このように多くの手間を要する凹部の切削加工がないので、加工の簡略化と時間短縮を図れるとともに、材料ロスを低減することができる。
また、ジャケット本体10(枠構造体)の両面の開口部12に封止体30を固定することで、内部に流路33となる空間を容易に形成することができ、貫通孔16を介して熱輸送流体を流すことができる。
回転ツール50を移動させながら回転するに際して、回転ツール50を開口部12に対して右回りに移動させるときは右回転させ、回転ツール50を開口部12に対して左回りに移動させるときは左回転させることによって、回転ツール50の被接合部に対する相対速さが大きくなるシアー側50bが厚肉のジャケット本体10側に位置する。シアー側50bでは、回転ツール50の被接合部に対する相対速さが大きいので、メタル流動量が多くなり、フロー側50aよりも高温になり易く、空洞欠陥が発生する場合がある。しかし、空洞欠陥が発生したとしても、ジャケット本体10側であって、突合部40よりも外側位置(シアー側50b)の熱輸送流体の流路33から離反した部分に発生することとなり、熱輸送流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
また、回転ツール50の周回移動における始端54aと終端54bとがオーバーラップして、塑性化領域41の一部が重複しているので、開口周縁部12aにおいて、塑性化領域41が途切れる部分がない。したがって、ジャケット本体10と封止体30とを良好に接合することができるので、接合部の密閉性能を向上させることができ、熱輸送流体が外部に漏れにくくなる。
さらに、封止体30の内表面に、フィン32が立設されているので、熱輸送流体が流れるジャケット本体10の内空部11において、封止体30と熱輸送流体との接触面積が増えて、効率的な熱伝達を行うことができる。これとともに、ジャケット本体10の内空部11でフィン32が壁の役目を果たして流路33を区画形成できるので、熱輸送流体の流れ方向が統一され、効率的な熱輸送流体の流れを形成することができる。
また、本実施形態では、ジャケット本体10を構成する枠構造体が、矩形枠状を呈しており、直線状の金属部材20aの端面を、隣接する直線状の他の金属部材20bの側面に突き合わせて、金属部材20a,20b同士の突合部21に沿って回転ツールを移動させ塑性化領域43を形成して接合することで形成されているので、各辺の長さや厚さを自由に設定することができる。これによって、大型のジャケット本体10を容易に形成できる。また、摩擦攪拌によって金属部材20a,20b同士を接合しているので、接合部の気密性および水密性の高い枠構造体を形成することができる。特に、ジャケット本体10の表裏両面から形成された塑性化領域43,43の底部が互いに重合しているので、気密性および水密性がさらに向上している。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について、図7を参照して説明する。
かかる実施形態は、図7の(a)に示すように、第1実施形態の回転ツール50で塑性化領域41(図7の(b)参照)を形成する工程に先立って、ジャケット本体10の開口部12の開口周縁部12aと封止体30の周縁部30aとの突合部40の一部を回転ツール50よりも小型の仮接合用回転ツール60を用いて仮接合することを特徴とする。仮接合を行った後に、回転ツール50を用いて第1実施形態と同様の本接合を行う(図7の(b)参照)。なお、第1実施形態と同様の構成は、同じ符号を付してその説明を省略する。
仮接合用回転ツール60は、回転ツール50の攪拌ピン52よりも小径の攪拌ピン(図示せず)を備えており、形成される塑性化領域45は、後の工程で回転ツール50によって形成される塑性化領域41(図7の(b)参照)の幅よりも小さい幅を有することとなる。これによって、仮接合における塑性化領域45は、塑性化領域41で完全に覆われることとなるので、塑性化領域45に残った仮接合用回転ツール60の引抜穴および塑性化領域45の跡が残らない。
本実施形態では、第1実施形態と同様に、突合部40が正方形(矩形環状)を呈しており、仮接合用回転ツール60で突合部40を仮接合する工程において、突合部40の一方の対角44a,44b同士を先に仮接合した後に、他方の対角44c,44d同士を仮接合するようになっている。このような順序で仮接合することで、封止体30をバランスよくジャケット本体10に仮接合することができ、封止体30のジャケット本体10に対する位置決め精度が向上するとともに、封止体30の変形を防止できる。また、封止体30の仮接合を行ったことによって、回転ツール50による本接合時の封止体30のズレを防止でき、接合部の密閉性能をより一層向上させることができる。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について、図8を参照して説明する。
かかる実施形態は、図8の(a)に示すように、第1実施形態の回転ツール50で塑性化領域41(図8の(b)参照)を形成する工程に先立って、ジャケット本体10の開口部12の開口周縁部12aと封止体30の周縁部30aとの突合部40の一部を回転ツール50よりも小型の仮接合用回転ツール60を用いて仮接合することを特徴とする。ここでの仮接合は、第2実施形態が、正方形の突合部40の角部を摩擦攪拌接合しているのに対して、各辺の中間部を摩擦攪拌接合することによって直線状に行われている。具体的には、突合部40が正方形(矩形環状)を呈しており、仮接合用回転ツール60で突合部40を仮接合する工程において、突合部40の一方の対辺46,46の中間部46a,46b同士を先に仮接合した後に、他方の対辺47,47の中間部47a,47b同士を仮接合するようになっている。このとき仮接合用回転ツール60で形成される塑性化領域48は、それぞれ同じ長さの直線状になるようになっている。
本実施形態では、前記のような順序で仮接合することで、封止体30をバランスよくジャケット本体10に仮接合することができ、封止体30のジャケット本体10に対する位置決め精度が向上するとともに、封止体30の変形を防止できる。また、封止体30の仮接合を行ったことによって、回転ツール50による本接合時の封止体30のズレを防止できる。さらに、本実施形態によれば、仮接合の摩擦攪拌接合が直線状であるので、仮接合用回転ツール60を直線的に移動させるだけでよく、加工が容易である。
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について、図9乃至図11を参照して説明する。
かかる実施形態は、図9に示すように、ジャケット本体110(図10参照)を構成する枠構造体110aが、矩形枠状の断面形状を有する押出形材120を切断して形成されていることを特徴とする。押出形材120は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、ジャケット本体110は軽量化が達成され、取り扱い容易となる。押出形材120は、内部に中空部を有する長尺筒状を呈しており、その断面形状がジャケット本体110の平面形状と同じ形状となっている。そして、押出形材120を、その長手方向(押出方向)にジャケット本体110の厚さ寸法の間隔をあけて、切断することで、ジャケット本体10を構成する枠構造体110aが形成される。そして、押出形材120の中空部が、ジャケット本体110の内空部11を構成する。
枠構造体110aを形成した後、図10に示すように、枠構造体110aの内空部11の開口部12の開口周縁部12aを、所定深さ切削して、支持面15aを形成する。この支持面15aは、第1実施形態と同様に、枠構造体110aの両面に形成する。支持面15aは、本実施形態ではリーマー(図示せず)を用いて形成されている。これによって、表面が平滑な支持面15aおよび段差側面15bが形成される。リーマーを用いて支持面15aを形成しているので、その外周コーナー部は円弧状に形成されている。これに伴って封止体130の外周コーナー部も円弧状に形成されている。また、本実施形態では、押出形材120から枠構造体110a(図9参照)を形成しているので、ジャケット本体110は、第1実施形態と比較して小さいものとなり、その厚さ寸法も小さい。したがって、封止体130は、平板状に形成されている。なお、本実施形態では、封止体130にフィンは設けられていないが、フィンを設けた封止体を排除する趣旨ではない。
支持面15aの形成と前後して、枠構造体110aの互いに対向する一対の周壁14,14に、貫通孔16,16を形成する。以上の工程によって、ジャケット本体110が形成される。
ジャケット本体110が形成されたなら、ジャケット本体110と封止体130とが互いに接触する接触面(ジャケット本体110の支持面15aおよび段差側面15bや、封止体130の周縁部30aおよび外周面30b等)を、面削加工して平坦にした後、脱脂して表面の油脂を除去する。
その後、図11の(a)に示すように、封止体130の周縁部30aを、支持面15a上に載置する。すると、ジャケット本体110の段差側面15bと、封止体130の外周面30bとが突き合わされ、突合部40が構成される。
そして、突合部40から外側に外れたジャケット本体110の上面に設定された挿入位置53に下穴(図示せず)を形成し、回転ツール50を回転させながら挿入位置53に挿入する。
その後、回転ツール50を、挿入位置53から突合部40へ向けて移動させる。そして、その軸芯が突合部40の突合面上に位置したならば、回転ツール50が突合部40に沿って移動するように移動方向を変更する。このとき、回転ツール50の回転方向(自転方向)は、第1実施形態と同様に移動方向(公転方向)と同じ方向となるようにする。具体的には、本実施形態では、回転方向(図11中、矢印Y2参照)、移動方向(図11中、矢印Y1参照)はともに右回りである。
その後、回転ツール50の回転および移動を継続し、図11の(b)に示すように、回転ツール50を開口部12の周りを一周させて塑性化領域41を形成する。このとき、回転ツール50は、突合部40に沿って一周させた後、一周目の始端54aから一定距離進んだ部分(終端54b)を含む始端部に沿って移動させる。これによって、回転ツール50の一周目における始端54aと終端54bとがオーバーラップして、塑性化領域41の一部が重複するようになっている。
そして、回転ツール50の周回移動が終了したならば、回転ツール50を塑性化領域41(突合部40)から外側に外れたジャケット本体110の上面へと移動させ、その位置(引抜位置55)で、回転ツール50を引き抜く。
その後、摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、ジャケット本体10を裏返し、裏面(図示せず)を上にする。そして、前記と同様の工程で下穴形成および本接合を実行する。以上の工程によって、液冷ジャケット1が形成される。
本実施形態に係る液冷ジャケット1の製造方法によれば、第1実施形態で得られる作用効果の他に、押出形材120を切断することで枠構造体110aを形成しているので、寸法および形状精度の高いジャケット本体110を容易に形成することができるといった作用効果を得ることができる。また、押出形材120は塑性加工によって形成されているので、強度が大きくなるとともに、内部に空洞欠陥が発生するのを防止できる。
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について、図12乃至図14を参照して説明する。
かかる実施形態は、図12に示すように、ジャケット本体210(図10参照)を構成する枠構造体210aが、矩形枠状の断面形状を有する押出形材220を切断して形成されている。枠構造体210aが押出形材220を切断して形成されている構成は第4実施形態と同様であるが、中空部の形状が、第4実施形態と異なる。
押出形材220は、内部に断面円形の中空部が二列設けられている。そして、図13に示すように、枠構造体210aは、円形の内空部211が所定の間隔を隔てて二つ形成されている。これに伴って、開口部212の開口周縁部212aでは、支持面215aが円環状に形成されている。また、封止体230は円盤状に形成されている。
その後、図14の(a)に示すように、封止体230の周縁部230aを、支持面215a上に載置する。すると、ジャケット本体210の段差側面215bと、封止体230の外周面230bとが突き合わされ、円形の突合部240が構成される。
そして、突合部240から外側に外れたジャケット本体210の上面に設定された挿入位置253に下穴(図示せず)を形成し、回転ツール50を回転させながら挿入位置253に挿入する。
その後、回転ツール50を、挿入位置253から突合部240へ向けて移動させる。そして、その軸芯が突合部240の突合面上に位置したならば、回転ツール50が突合部240に沿って移動するように移動方向を変更する。このとき、回転ツール50の回転方向(自転方向)は、第1実施形態と同様に移動方向(公転方向)と同じ方向となるようにしている。具体的には、本実施形態では、回転方向(図14中、矢印Y2参照)、移動方向(図14中、矢印Y1参照)が、ともに左回りである。
その後、回転ツール50の回転および移動を継続し、図11の(b)に示すように、回転ツール50を封止体230の周りを一周させて塑性化領域41を形成する。本実施形態では、回転ツール50は、突合部240に沿って一周させた後、一周目の始端254から外側に外れたジャケット本体210の上面へと移動させ、その位置(引抜位置255)で、回転ツール50を引き抜く。隣り合う内空部211についても、同様の摩擦攪拌を施して、封止体230を固定する。
その後、摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、ジャケット本体210を裏返し、裏面(図示せず)を上にする。そして、前記と同様の工程で下穴形成および本接合を実行する。以上の工程によって、液冷ジャケット1が形成される。
本実施形態に係る液冷ジャケット1の製造方法によれば、第1実施形態で得られる作用効果の他に、押出形材220を切断することで枠構造体210aを形成しているので、寸法および形状精度の高いジャケット本体210を容易に形成することができるとともに、二つの内空部211を少ない手間で一度の加工で同時に形成することができるといった作用効果を得ることができる。内空部211が二つ形成されているので、流れる熱輸送流体量が多く、効率的な冷却を行うことができる。
(第6実施形態)
次に、第6実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について、図15乃至図17を参照して説明する。
かかる実施形態は、ジャケット本体310を構成する枠構造体が押出形材(図示せず)を切断して形成されている構成は第4実施形態および第5実施形態と同様であるが、内空部の個数や配置等、ジャケット本体310の形状が異なる。
ジャケット本体310は、平面視長方形を呈しており、断面略正方形の内空部311を三つ備えている。内空部311は、ジャケット本体310の長手方向に沿って直線状に並んで配置されており、隣り合う内空部311間には、区画壁317が位置している。本実施形態では、内空部311が三つ形成されているので、真中に位置する内空部311の両側には、互いに対向する区画壁(以下、それぞれを「第一区画壁317a、第二区画壁317b)と称する場合がある)がそれぞれ位置している。内空部311の開口部312の開口周縁部312aには、ジャケット本体310の表面より一段下がった支持面315aが形成されている。支持面315aは、長手方向一端の内空部311の開口周縁部312aから他端の内空部311の開口周縁部312aにかけて連続して、同一平面上に一体的に形成されており、第一区画壁317aおよび第二区画壁317bの部分にも形成されている。支持面315aは、本実施形態ではリーマー(図示せず)を用いて形成されている。これによって、支持面315aの外周コーナー部は円弧状に形成されている。
ジャケット本体310の長手方向両端に位置する周壁314には、熱輸送流体を流すための貫通孔16,16がそれぞれ形成されている。また、隣り合う内空部311間の第一区画壁317a、第二区画壁317bにも、貫通孔316,316がそれぞれ形成されている。これら貫通孔16,316,316,16は、ジャケット本体310の長手方向に沿って延在するように形成されており、三つの内空部311,311,311を一つの流路として連通させるように構成されている。貫通孔16,316,316,16は、ジャケット本体310の長手方向から見たときに、左右交互に千鳥状に位置するように形成されており、熱輸送流体が左右交互に蛇行して流れるように構成されている。貫通孔16,316は、ジャケット本体310の厚さ方向中間部に形成されている。
前記のような支持面315aの形状に対応して、封止体330は、三つの内空部311を覆うように、一枚の板材で形成されている。そして、封止体130の外周コーナー部も円弧状に形成されている。
かかる封止体330は、図16の(c)に示すように、封止体330の外周面330bと、ジャケット本体310の段差側面315bとの突合部340と、第一区画壁317aおよび第二区画壁317bに沿って、回転ツール50を移動させて塑性化領域41を形成することで、ジャケット本体310に固定されている。
以下に、封止体330とジャケット本体310に固定する摩擦攪拌接合の工程を説明する。
まず、ジャケット本体310と封止体330とが互いに接触する接触面(ジャケット本体310の支持面315aおよび段差側面315bや、封止体330の周縁部330aおよび外周面330b等)を、面削加工して平坦にした後、脱脂して表面の油脂を除去する。
その後、図16の(a)に示すように、封止体330の周縁部330aを、支持面315a上に載置する。すると、ジャケット本体310の段差側面315bと、封止体330の外周面330bとが突き合わされ、突合部340が構成される。
そして、突合部340から外側に外れたジャケット本体310の上面に設定された挿入位置53に下穴(図示せず)を形成し、回転ツール50を回転させながら挿入位置53に挿入する。
その後、回転ツール50を、挿入位置53から突合部340へ向けて移動させる。そして、その軸芯が突合部340の突合面上に位置したならば、回転ツール50が突合部340に沿って移動するように移動方向を変更する。このとき、回転ツール50の回転方向(自転方向)は、第1実施形態と同様に移動方向(公転方向)と同じ方向となるようにしており、本実施形態では、回転方向(図16中、矢印Y2参照)、移動方向(図16中、矢印Y1参照)はともに右回りである。
その後、回転ツール50の回転および移動を継続し、突合部340の短辺340a(図16中、下辺)から長辺340b(図16中、左辺)へと移動し、長辺340bの第一区画壁317aとの交点341b、第二区画壁317bとの交点341cを越えて、短辺340c(図16中、上辺)へと移動する。さらに、長辺340d(図16中、右辺)へと移り、長辺340dの第二区画壁317bとの交点341dを越えて、第一区画壁317aとの交点341aまで移動する。ここで、回転ツール50は、移動方向を右側へ屈曲して変えて、第一区画壁317aの上を移動する。
そして、図16の(b)に示すように、回転ツール50は、長辺340bと第一区画壁317aとの交点341bに到達したところで、移動方向を右側へ屈曲して変えて、長辺340bに沿って移動する。そして、回転ツール50は、長辺340bと第二区画壁317bとの交点341cまで移動したところで、移動方向を右側へ屈曲して変えて、第二区画壁317bの上を移動する。そして、回転ツール50は、長辺340dと第二区画壁317bとの交点341dに到達したところで、さらに移動方向を右側へ屈曲して変えて、長辺340dに沿って移動する。
その後、図16の(c)に示すように、回転ツール50は、長辺340dの第一区画壁317aとの交点341aを超えて、短辺340aへと戻り、突合部340を一周する。これによって、回転ツール50は一筆書きの移動軌跡で、突合部340、第一区画壁317aおよび第二区画壁317b上を移動し、塑性化領域41を形成することとなる。そして、回転ツール50は、突合部340に対して常に右回りで回転することとなる。
そして、回転ツール50は、突合部340に沿って一周した後、一周目の始端54aから一定距離の部分を含む始端部に沿って移動する。これによって、回転ツール50の一周目における始端54aと終端54bとがオーバーラップして、塑性化領域41の一部が重複するようになる。
そして、回転ツール50の周回移動が終了したならば、回転ツール50を塑性化領域41(突合部340)から外側に外れたジャケット本体310の上面へと移動させ、その引抜位置55で、回転ツール50を引き抜く。
その後、摩擦攪拌で発生したバリを除去し、さらに、ジャケット本体310を裏返し、裏面(図示せず)を上にする。そして、前記と同様の工程で下穴形成および本接合を実行する。以上の工程によって、液冷ジャケット1が形成される。
本実施形態に係る液冷ジャケット1の製造方法によれば、第1実施形態で得られる作用効果の他に、押出形材を切断することで枠構造体を形成しているので、寸法および形状精度の高いジャケット本体310を容易に形成することができるとともに、三つの内空部311を少ない手間で形成することができるといった作用効果を得ることができる。
また、各内空部311を連通させる貫通孔16,316が千鳥状に配置されているので、内空部311全体に熱輸送流体が攪拌されて均一に流れることになり、効率的な冷却を行うことができる。
さらに、前記のような移動軌跡で回転ツール50を移動させると、回転ツール50は、突合部340に対して常に右回りで回転することとなる。ここで、回転ツール50は右回転しているので、回転ツール50の被接合部に対する相対速さが大きくなるシアー側50bが厚肉のジャケット本体310側に位置する。シアー側50bでは、回転ツール50の被接合部に対する相対速さが大きいので、メタル流動量が多くなり、フロー側50aよりも高温になり易く、空洞欠陥が発生する場合がある。しかし、空洞欠陥が発生したとしても、ジャケット本体310側であって、突合部340よりも外側位置(シアー側50b)の熱輸送流体の流路(内空部311)から離反した部分に発生することとなり、熱輸送流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
なお、回転ツール50の移動軌跡は、前記の軌跡に限定されるものではなく、回転ツール50が、突合部340に対して常に同一方向回りに移動すればよい。また、回転ツール50の移動は、一筆書きの移動軌跡に限定されるものでもない。
例えば、図17の(a)に示すように、回転ツール50を突合部340に対して一周させて引き抜いた後に、図17の(b)に示すように、回転ツール50を第一区画壁317a上、および第二区画壁317b上をそれぞれ別途に移動させるようにしてもよい。第一区画壁317a上、および第二区画壁317b上を移動する場合、回転ツール50は、突合部340から外側に外れたジャケット本体310の上面に設定された挿入位置356に挿入され、その位置から突合部340(長辺340b)を横断して、第一区画壁317a上(または第二区画壁317b上)を移動する。そして、回転ツール50は、さらに反対側の突合部340(長辺340d)を横断して、挿入位置356とは反対側で突合部340から外側に外れたジャケット本体310の上面に設定された引抜位置357まで移動し、その位置で引き抜かれる。
このようにしても、回転ツール50は、封止体330の周りを右回りに移動しながら、常に右回りで回転することとなるので、シアー側50bは、厚肉でメタル量が多いジャケット本体310側に位置することとなり、前記したような作用効果を得ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であり、例えば、前記実施形態では、封止体30が平面視略長方形または円形であるが、これに限定されるものではなく、多角形等の他の形状であってもよい。さらに、内空部の形状、数や配列形状も前記実施形態に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
さらに、前記の実施形態では、攪拌ピン付きの回転ツール50を利用して摩擦攪拌接合を実施しているが、封止体が薄い場合には、ピンなしの回転ツール50を利用するようにしてもよい。