[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図面を適宜参照して詳細に説明する。
まず、本発明に係る液冷ジャケットの製造方法によって形成される液冷ジャケットについて説明する。液冷ジャケットは、例えば、パーソナルコンピュータ等の電子機器に搭載される冷却システムの構成部品であって、CPU(熱発生体)等を冷却する部品である。液冷システムは、CPUが所定位置に取り付けられる液冷ジャケットと、冷却水(熱輸送流体)が輸送する熱を外部に放出するラジエータ(放熱手段)と、冷却水を循環させるマイクロポンプ(熱輸送流体供給手段)と、温度変化による冷却水の膨張/収縮を吸収するリザーブタンクと、これらを接続するフレキシブルチューブと、熱を輸送する冷却水とを主に備えている。冷却水は、熱発生体であるCPU(図示せず)が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体である。冷却水としては、例えば、エチレングリコール系の不凍液が使用される。そして、マイクロポンプが作動すると、冷却水がこれら機器を循環するようになっている。
図1に示すように、液冷ジャケット1は、冷却水(図示せず)が流れるとともに一部が開口した凹部11を有するジャケット本体10に、凹部11の開口部12を封止する封止体30を摩擦攪拌接合(図6乃至図8参照)によって固定して構成されている。
液冷ジャケット1は、図1における上方側の面(封止体30の蓋板部31の表面)でフィン32が配置された部分(冷却水が流れる部分)に相当する位置に、熱拡散シート(図示せず)を介してCPU(図示せず)が取り付けられるようになっており、CPUが発生する熱を受熱すると共に、内部を流通する冷却水と熱交換する。これによって、液冷ジャケット1は、CPUから受け入れた熱を冷却水に伝達し、その結果として、CPUを効率的に冷却する。なお、熱拡散シートは、CPUの熱を、ジャケット本体10に効率的に伝達させるためのシートであり、例えば、銅などの高熱伝導性を有する金属から形成されている。
ジャケット本体10は、一方側(本実施形態では図1中、上側)が開口した浅底の箱体であって、本実施形態では平面視長方形を呈している。ジャケット本体10は、その内側に上部が開口した凹部11が形成されており、凹部11の底壁13と、周壁14とを有している。このようなジャケット本体10は、例えば、ダイキャスト、鋳造、鍛造などによって作製される。ジャケット本体10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、液冷ジャケット1は軽量化が達成されており、取り扱い容易となっている。
ジャケット本体10の凹部11の開口部12は、四隅が円弧状に面取りされた略長方形を呈している。ジャケット本体10の凹部11の開口周縁部12aには、凹部11の底面側に一段下がった段差底面からなる支持面15aが形成されている。なお、本実施形態では、凹部11内に畝部17が形成されるが、畝部17も凹部11の一部であるとして、凹部11の開口部12が略長方形を呈すると説明している。また、凹部11の開口周縁部12aは、畝部17も含んだ凹部11の周縁部とする。
図3の(a)に示すように、ジャケット本体10の上面と支持面15aとの高低差寸法H1は、封止体30の厚さ寸法T1と同じ長さとなっている。支持面15aは、封止体30を支持する面であって、支持面15a上には、封止体30の周縁部30aが載置される。また、支持面15aの幅(封止体30の周縁部30aが載置される部分の幅)寸法W1は、摩擦攪拌接合に用いられる回転ツール50のショルダー部51の半径寸法R2よりも大きく設定されている。
図1に示すように、凹部11の周囲の周壁14は、ジャケット本体10の長手方向(図1中、X軸方向)の両端に位置する一対の壁部14a,14bと、短手方向(図1中、Y軸方向)の両端に位置する一対の壁部14c,14dとで構成されている。一対の壁部14a,14bは、ともにY軸方向に延在して、X軸方向に所定の距離を隔てて互いに平行に形成されている。一対の壁部14c,14dは、ともにX軸方向に延在して、Y軸方向に所定の距離を隔てて互いに平行に形成されている。
凹部11の内部には、畝部17が形成されている。畝部17は、凹部11の底壁13から立ち上げられた壁体にて構成されている。畝部17の底壁13からの高さは、支持面15aの底壁13からの高さと同じ寸法となっている。すなわち、畝部17の上端面(畝部17の表面)17aは、凹部11の開口周縁部12aに形成された支持面15aと面一となっている。畝部17は、一対の壁部14a,14bのうち、一方の壁部14aの内壁面(凹部11側の内周側面)のY軸方向長さの中央部から、他方の壁部14bに向かってX軸方向に延出している。畝部17の延出方向(X軸方向)先端は、壁部14bの内壁面(凹部11側の内周側面)と所定の距離を隔てており、畝部17の先端と壁部14bの内壁面との間に、冷却液が流れる空間が形成されるようになっている。すなわち、凹部11の内部に畝部17を形成することによって、平面視U字状の溝(実質的に凹む部分)が形成されて、このU字に沿って冷却液が流れる。平面視U字状の流路の両端に位置する壁部14aには、凹部11に冷却水を流通させるための貫通孔16,16がそれぞれ形成されている。貫通孔16,16は、本実施形態では、X軸方向に延在しており、円形断面を有し、凹部11の深さ方向中間部に形成されている。なお、貫通孔16の形状、数および形成位置は、これに限られるものではなく、冷却水の種類や流量に応じて適宜変更可能である。
図1および図2に示すように、封止体30は、ジャケット本体10の段差側面15b(図1参照)と同じ形状(本実施形態では四隅が円弧状に面取りされた略長方形)の外周形状を有する板状の蓋板部31と、蓋板部31の下面に設けられた複数のフィン32,32…とを備えて構成されている。
フィン32は、封止体30の表面積を大きくするために設けられている。複数のフィン32,32…は、互いに平行で且つ蓋板部31に対して直交して配置されており、蓋板部31と一体に構成されている。これにより、蓋板部31とフィン32,32…との間において、熱が良好に伝達するようになっている。図1に示すように、フィン32,32…は、貫通孔16,16が形成された周壁14の壁部14aと直交する方向(図1中、X軸方向)に延在するように配置されている。蓋板部31のY軸方向中央部には、ジャケット本体10への装着時に畝部17が位置するため、フィンは設けられていない。フィン32は、凹部11の深さ寸法と同等の高さ(深さ)寸法(図1中、Z軸方向長さ)、または凹部11の深さ寸法より若干短い高さ(深さ)寸法を有しており、その先端部が凹部11の底面(底壁13の表面)に当接するか、或いはフィン32の先端部と凹部11の底面の間に微小な隙間が生じるようになっている。これによって、封止体30がジャケット本体10に取り付けられた状態で、封止体30の蓋板部31と、隣り合うフィン32,32と、凹部11の底面とで筒状の空間が区画され、その空間が、冷却水が流れる流路33(図5の(a)参照)として機能することとなる。
また、フィン32,32…は、畝部17の延出長さ寸法よりも短い長さ寸法(図1中、X軸方向長さ)を有しており、その一端(壁部14a側)は、壁部14aの内壁面とそれぞれ所定の間隔を隔てるように構成されている。このフィン32,32…の一端部と、壁部14aとの間の空間は、フィン32,32によって区画形成される流路33と、貫通孔16とを繋ぐ流路ヘッダ部34(図6の(a)参照)を構成する。また、フィン32,32…の他端(壁部14b側)は、畝部17の先端に相当する部分に位置しており、フィン32,32…の他端部および畝部17の先端部と、壁部14bとの間の空間は、畝部17の両側に位置する流路33,33同士を繋ぐ連通流路35(図6の(a)参照)を構成する。
封止体30もジャケット本体10と同様に、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、液冷ジャケット1は軽量化が達成されており、取り扱い容易となっている。封止体30は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されたブロックを切削加工することで蓋板部31とフィン32を形成して作製されている。なお、作製方法はこれに限定されるものではなく、例えば、ダイキャスト、鋳造、鍛造などによって作製してもよいし、蓋板部31と複数のフィン32,32…からなる断面形状を有する部材を、押出成形または溝加工によって形成し、そのフィン32の両端部を取り除くことによって作製してもよい。
次に、ジャケット本体10に、封止体30を摩擦攪拌接合によって固定する方法について、図3乃至図8を参照して説明する。
(設置工程)
まず、図6の(a)に示すように、封止体30を、フィン32が下側になるようにして、ジャケット本体10の凹部11に挿入して、封止体30の周縁部30aを、支持面15a上に載置する。すると、ジャケット本体10の段差側面15bと、封止体30の外周面30bとが突き合わされ、突合部40が構成される。
(摩擦攪拌接合工程)
ところで、本実施形態では、図3乃至図5に示した回転ツール50で本接合を行う(塑性化領域41を形成する)工程に先立って、ジャケット本体10と封止体30との突合部40の一部を回転ツール50よりも小型の仮接合用回転ツール60(図6の(a)で平面形状のみ図示)を用いて仮接合する。
仮接合用回転ツール60は、回転ツール50よりも小径のショルダー部と攪拌ピン(図示せず)を備えており、仮接合用回転ツール60にて形成される塑性化領域45は、後の工程で回転ツール50によって形成される塑性化領域41(図6の(b)参照)の幅よりも小さい幅を有することとなる。そして、塑性化領域45は、後の工程で塑性化領域41が形成される位置からはみ出さない位置(本実施形態では、塑性化領域45の幅方向中心が突合部40となる位置)に形成される。これによって、仮接合における塑性化領域45は、塑性化領域41で完全に覆われることとなるので、塑性化領域45に残った仮接合用回転ツール60の引抜跡および塑性化領域45の跡が残らない。
本実施形態では、突合部40が、四隅が円弧状に面取りされた略長方形(矩形枠状)を呈している。仮接合用回転ツール60で突合部40を仮接合する工程においては、突合部40の一方の面取りされた対角44a,44b同士を先に仮接合した後に、他方の面取りされた対角44c,44d同士を仮接合するようになっている。このような順序で仮接合することで、封止体30をバランスよくジャケット本体10に仮接合することができ、封止体30のジャケット本体10に対する位置決め精度が向上するとともに、封止体30の変形を防止できる。なお、各対角44a,44b,44c,44dで仮接合した後、仮接合用回転ツール60を引き抜くと、引抜跡61(図6の(b)参照)が残るが、本実施形態では残置しておく。
なお、封止体30を仮接合する工程は、前記のような手順に限定されるものではなく、他の手順で行ってもよい。つまり、前記の手順では、長方形の突合部40の角部を摩擦攪拌接合しているのに対して、各辺の中間部を摩擦攪拌接合することによって直線状に行うようにしている。具体的には、図9の(a)に示すように、突合部40が略長方形(矩形枠状)を呈しており、仮接合用回転ツール60で突合部40を仮接合する工程において、突合部40の一方の対辺46,46の中間部46a,46b同士を先に仮接合した後に、他方の対辺47,47の中間部47a,47b同士を仮接合するようになっている。このとき仮接合用回転ツール60で形成される塑性化領域48は、それぞれ同じ長さの直線状になるようになっている。また、塑性化領域48は、図9の(b)に示すように、後の工程で塑性化領域41が形成される位置からはみ出さない位置に形成される。このように仮接合の摩擦攪拌接合を直線状とすれば、仮接合用回転ツール60を直線的に移動させるだけで済むので、加工が容易である。
次に、回転ツール50による本接合を行う。本工程では、まず、図6の(b)に示すように、摩擦攪拌接合用の回転ツール50を挿入位置53に回転させながら挿入した後、突合部40上に移動させて、この突合部40に沿って移動させる。このとき、ジャケット本体10の周壁14の外周面に、ジャケット本体10を四方向から囲む治具(図示せず)を予め当てておくのが好ましい。これによれば、周壁14の厚さが薄く、回転ツール50のショルダー部51(図3の(a)参照)の外周面と、周壁14の外周面との距離(隙間)が、例えば、2.0mm以下であっても、回転ツール50の押込み力によって周壁14が外側に変形しにくくなる。なお、周壁14の厚さが厚い場合は、前記の治具は設置しなくてもよい。
回転ツール50は、ジャケット本体10や封止体30よりも硬質の金属材料からなり、図3の(a)に示すように、円柱状を呈するショルダー部51と、このショルダー部51の下端面に突設された攪拌ピン(プローブ)52とを備えて構成されている。回転ツール50の寸法・形状は、ジャケット本体10および封止体30の材質や厚さ等に応じて設定されるものである。本実施形態では、攪拌ピン52は、下部が縮径した円錐台状を呈しており、その突出長さ寸法L1は、封止体30の蓋板部31の厚さ寸法T1以上となっている。そして、摩擦攪拌接合時には、回転ツール50のショルダー部51の先端が、ジャケット本体10および封止体30の表面から所定深さ押し込まれ、攪拌ピン52の先端が支持面15aを突き抜ける。また、ショルダー部51の半径寸法R2は、支持面15aの幅寸法H1より小さくなっている。回転ツール50の回転速度は500〜15000(rpm)、送り速度は0.05〜2(m/分)で、突合部40を押さえる押込み力は1〜20(kN)程度で、ジャケット本体10および封止体30の材質や板厚および形状に応じて適宜選択される。
図5の(a)に示すように、回転ツール50の攪拌ピン52の周面には、攪拌効果を高めるために螺旋状に刻設された攪拌翼58が形成されている。ショルダー部51の底面には、渦巻状凸条部59aが形成されている。渦巻状凸条部59aは、攪拌ピン52の根元の周囲を囲んで渦巻状に広がっており、隣り合う渦巻状凸条部59a間に渦巻状のメタル溜まり部59bが形成されている。なお、攪拌翼58、渦巻状凸条部59aおよびメタル溜まり部59bは、図5のみで図示しており、図3および図4においては、図の煩雑化を防ぐために図示を省略している。渦巻状凸条部59aは、回転ツール50の回転方向に応じて巻き方向が決められており、塑性流動化された金属が攪拌ピン52側に流動する巻き方向となっている。このように塑性流動化された金属を攪拌ピン52側に流動させるため、摩擦攪拌の効率を高めることができる。なお、渦巻状凸条部59aの長さや巻回数等は適宜設定すればよい。
以下に、回転ツール50の動きを具体的に説明する。まず、回転ツール50を回転させながら挿入位置53に挿入する。回転ツール50の挿入位置53は、図6の(b)に示すように、突合部40から外側に外れた周壁14の上面となっている。なお、回転ツール50の挿入位置53に、予め下穴(図示せず)を形成していてもよい。このようにすれば、回転ツール50の挿入時間(押込み時間)を短縮できる。
その後、回転ツール50を、挿入位置53から突合部40の真上位置(回転ツール50の軸芯が突合部40上になる位置)へ回転させながら移動させる。回転ツール50が突合部40の真上位置まで移動したならば、回転ツール50の中心(軸芯)が突合部40に沿って移動するように移動方向を変えて、回転ツール50を移動させる。このとき、回転ツール50の移動方向(図6および図7中、矢印Y1参照)の反対方向に回転ツール50が回動するフロー側50aに、封止体30が位置するように、回転ツール50を回転、移動させる。具体的には、突合部40における回転ツール50の回転方向(自転方向)が、移動方向(公転方向)と同じ方向となるようにする。すなわち、本実施形態では、図6の(b)に示すように、回転ツール50を凹部11の開口部12(図6の(a)参照)に対して右回りに移動させているので、回転ツール50を右回転(図6および図7中、矢印Y2参照)させる。なお、回転ツール50を凹部11の開口部12に対して左回りに移動させるときは、回転ツール50を左回転させることとなる。
このようにすることによって、封止体30に対する回転ツール50の外周の相対速さは、回転ツール50の外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる(封止体30がフロー側50aとなる)ので、回転ツール50の移動方向と同じ方向に回転ツール50が回動するシアー側50bと比較して低速となる。これによって、封止体30側には、空洞欠陥が発生し難い。また、シアー側50bは、突合部40の外側寄りのジャケット本体10の厚肉部に位置するので、メタル不足に陥ることはない。さらに、回転ツール50に渦巻状凸条部59aを形成したことによって、塑性流動化された金属が攪拌ピン52側に流動するため、メタル不足に陥ることはなく、摩擦攪拌の効率を高めることができる。
また、このとき、図3の(a)に示すように、回転ツール50の攪拌ピン52は、その長さ寸法L1が、封止体30の厚さ寸法T1よりも長いため、攪拌ピン52の先端部が支持面15aを突き抜けて、ジャケット本体10の内部の奥側に入り込む。これによって、回転ツール50によって形成される塑性化領域41の先端部(下端部)が、ジャケット本体10の内部の奥側に深く入り込んで形成されることとなる。ここで、「塑性化領域」とは、回転ツール50の摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、回転ツール50が通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。
そして、引き続き、回転ツール50の回転および移動を継続し、図7の(a)に示すように、回転ツール50を開口部12の周りを突合部40に沿って一周させて塑性化領域41を形成する。回転ツール50を一周させたら、一周目の始端54aを含む始端部(始端54aから回転ツール50の移動方向に所定長さ進んだ位置(終端54bと同じ位置)までの部分)に沿って回転ツール50を所定長さ移動させる。これによって、回転ツール50の周方向移動における始端54aと終端54bとが互いにオーバーラップしており、塑性化領域41の一部が重複するように構成されている。
そして、図7の(b)に示すように、回転ツール50の一周目の移動が終わった後に、引き続き回転ツール50をさらに一周させて塑性化領域(以下「第二塑性化領域」と言う場合がある)43を形成する。二周目においては、回転ツール50を、一周目の終端54bから一周目における移動で形成された塑性化領域41の外周側に偏移させる。
このとき、回転ツール50の偏移は、移動方向に向かうに連れて外側へ移動するように斜めに移動して、回転ツール50の二周目の移動軌跡(塑性化領域43)の内側端が、一周目の移動軌跡(塑性化領域41)の中心線(突合部40)上か、あるいは中心線よりも僅かに外側に位置するようになっている。その後、回転ツール50は、図7の(b)に示すように、一周目の移動軌跡(塑性化領域41)と一定の位置関係を保ちながら平行に移動する。したがって、一周目の移動軌跡の外周側部分が、回転ツール50の二周目の移動によって再攪拌されることとなる(図7および図8参照)。これによって、万一、回転ツール50のシアー側50bとなる塑性化領域41の外周側部分に空洞欠陥が発生していたとしても、再攪拌されるので空洞欠陥が解消される。
また、二周目の移動における回転ツール50のシアー側50bは、突合部40の外側寄りのジャケット本体10の厚肉部に位置するので、メタル不足に陥ることはない。さらに、万一、空洞欠陥が発生したとしても突合部40から離れた位置となるので問題はない。ここで、回転ツール50の二周目の移動は、一周目の回転方向、回転速度、移動方向、移動速度および押込み量と同様にしている(図7および図8中、矢印Y3,Y4参照)。なお、二周目の回転ツール50の回転速度や移動速度や押込み量等は、ジャケット本体10と封止体30の形状や材質に応じて適宜変更してもよい。
さらに、このとき、図3の(b)に示すように、回転ツール50の攪拌ピン52は、その長さ寸法L1(図3の(a)参照)が、封止体30の厚さ寸法T1(図3の(a)参照)よりも長いため、攪拌ピン52の先端部がジャケット本体10の内部の奥側に入り込む。これによって、回転ツール50の二周目の移動によって形成される第二塑性化領域43の先端部(下端部)が、ジャケット本体10の内部の奥側に深く入り込んで形成されることとなる。
そして、図8の(a)に示すように、回転ツール50の周方向移動が終了したならば、回転ツール50を塑性化領域43から外側に外れた周壁14の上面へと移動させ、その位置(引抜位置55)で、回転ツール50を引き抜く。このように、回転ツール50の引抜位置55が、突合部40から外側に外れた位置となっているので、攪拌ピン52(図4の(a)参照)の引抜跡(図示せず)が突合部40に形成されることはない。これにより、ジャケット本体10と封止体30との接合性をさらに高めることができる。なお、周壁14の上面の引抜跡は、溶接金属を埋める等の加工を行って補修するようにしてもよい。
その後、同じ回転ツール50を用いて、畝部17と封止体30を摩擦攪拌接合する。この工程では、図8の(b)に示すように、畝部17の先端部の挿入位置56に、回転ツール50を回転させながら挿入する。なお、回転ツール50の挿入位置56に、予め下穴(図示せず)を形成していてもよい。このようにすれば、回転ツール50の挿入時間(押込み時間)を短縮できる。
そして、回転ツール50を、挿入位置56から突合部40の外側へ向かいつつ、畝部17に沿って、回転させながら移動させて塑性化領域49を形成する。回転ツール50の移動が進み、塑性化領域41の内周側端まで摩擦攪拌を行ったら、そのまま、回転ツール50を塑性化領域41へ突入させ、引き続き塑性化領域41から第二塑性化領域43へと移動させる。その後、回転ツール50を、第二塑性化領域43の外周側端から、外側に外れた周壁14の上面へと移動させ、その位置(引抜位置57)で、回転ツール50を引き抜く。このように、回転ツール50の引抜位置57が、突合部40から外側に外れた位置となっているので、攪拌ピン52(図4の(a)参照)の引抜跡(図示せず)が突合部40に形成されることはない。これにより、ジャケット本体10と封止体30との接合性を高めることができる。なお、周壁14の上面の引抜跡は、溶接金属を埋める等の加工を行って補修するようにしてもよい。
以上のように、回転ツール50は、挿入位置56から畝部17に沿って引抜位置57まで直線状(図8の(b)中、矢印Y5参照)に移動する。このとき、回転方向(自転方向)、回転速度、移動方向(公転方向)、移動方向および押込み量は一定である。なお、回転方向は、左回転であっても右回転であってもどちらでもよい。
このとき、図4に示すように、回転ツール50の攪拌ピン52は、その長さ寸法L1が、封止体30の厚さ寸法T1よりも長いため、攪拌ピン52の先端部が畝部17の表面17aを突き抜けて、ジャケット本体10の内部(畝部17の内部)の奥側に入り込む。これによって、回転ツール50によって形成される塑性化領域49の先端部(下端部)が、ジャケット本体10の内部の奥側に入り込んで形成されることとなる。
以上説明したように、回転ツール50を凹部11の開口部12の周囲で、突合部40に沿って二周させて摩擦攪拌接合を行って塑性化領域41および第二塑性化領域43を形成し、さらに、回転ツール50を畝部17に沿って移動させて摩擦攪拌接合を行って塑性化領域49を形成して、ジャケット本体10に封止体30が固定されてなる接合体1’(図8および図10参照)が形成される。
(バリ切除工程)
その後、摩擦攪拌で発生したバリを切除して、表面を研磨する。
(矯正工程)
以上のように接合されたジャケット本体10および封止体30からなる接合体1’は、片面から摩擦攪拌を行っているため、中央部20が一方に突出するように反って撓んでいる(図10参照)。よって、次の矯正工程において、接合体1’をプレス矯正して平坦に戻す。
図10および図11に示すように、プレス矯正は、接合体1’を支持台70上に設置し、その中央部20を上方から下方に押圧することで行われる。支持台70は、液冷ジャケット1を量産する場合に型として製作される。支持台70は、接合体1’を収容可能な大きさで、上側が開口した浅底の箱体である。支持台70は、本実施形態では平面視長方形を呈している。支持台70は、上部が開口した凹部71(接合体用凹部)を有している。凹部71の開口部72は、接合体1’の外周面よりひと回り大きい長方形を呈しており、凹部71に接合体1’が収容可能となっている。凹部71の内部には、底面側に一段下がった段差底面からなる支持面73(接合体用支持面)が形成されている。支持面73は、凹部71の内周面から内側に広がって形成されている。支持面73は、接合体1’の周縁部を支持可能な幅となっている。
接合体1’は、封止体30が下方を向く状態(中央部が上側に反った状態)で、支持台70に載置される。接合体1’は、その周縁部が支持面73によって下側から支持される。なお、接合体1’は中央部20が上側に反って変形しているので、接合体1’を設置した時点では、その変形状態によって、接合体1’の四隅の四点、または四隅のうち三点で支持面73上に支持される。
接合体1’を支持台70に設置したならば、ジャケット本体10の対角線が交差する中央部20(図11参照)を、下方に押圧する。図12に示すように、ジャケット本体10の中央部20を押圧体75によって押圧すると、接合体1’が変形して、中央部20が下方に降下する。このとき、押圧を開始すると、接合体1’全体が下方に押されて変形するので、押圧前に三点支持の状態であっても、四点支持へと移行して、途中から、接合体1’の外周面の全周に渡って支持面73に支持されるようになる。接合体1’を断面方向に見ると、両端の下面が外側支点で支持され、中央部の上面の内側支点が下方に押圧され、原理的には三点曲げと同様の状態となる。このとき、接合体1’は、スプリングバックで元の形状(上側に反った形状)に戻ろうとするので、平坦な状態よりも中央部20が下方に反る位置まで押圧する(図中、二点鎖線にて示す)。
ここで、実際に封止体30が接合された接合体1’を作成して、押圧荷重、押圧変形量とスプリングバックによる戻り量を測定した試験結果を、図13のグラフを参照しながら説明する。本実施形態の工程に沿って形成された接合体1’10は、中央部20が上方に略0.9mm沿った状態となっていた。図13のグラフは、縦軸が押圧荷重、横軸が接合体1’の下方への変位を示している。なお、変位量の数値は、接合体1’が平坦な状態を0mmとし、周縁部と比較して中央部20が上方に反っているときは、マイナス値となり、中央部20が下方に反っているときは、プラス値となる。図示するように、接合体1’の中央部20にかける押圧荷重を徐々に増加させていくと、下方への変位量が増加していく。そして、押圧荷重が略32.5kNになったところで、接合体1’に亀裂が入ることが分かった。接合体1’に亀裂が入るまでの荷重範囲では、押圧荷重を解除すると、変位量が一定割合で戻る(スプリングバック)ことが分かっている。このグラフより、押圧荷重を25kNとして、変位量が2.65mmとなったところで、押圧をやめると、スプリングバックによって、接合体1’が平坦な状態(変位0mm)に戻ることが分かった。
以上のことより、前記構成の接合体1’では、下向きに25kNの押圧荷重をかけて、中央部20が下方に2.65mm変形したところで押圧を止めればよい。なお、接合体1’が平坦に戻る押圧荷重と変位量は、接合体1’の形状に応じて変化するものであるので、適宜試験を行って決定される。
矯正工程が完了すると、液冷ジャケット1の製造が完了する。本実施形態の液冷ジャケットの製造方法によれば、摩擦攪拌接合工程の後に、接合体1’をプレス矯正するので、摩擦攪拌接合時の変形を許容できる。したがって、摩擦攪拌接合時にジャケット本体10を冷却する必要がない。つまり、本実施形態の液冷ジャケットの製造方法によれば、摩擦攪拌接合作業の煩雑化を防止でき、作業の容易化を図ることができる。
また、本実施形態の矯正工程では、封止体30が下方を向くように接合体1’を配置して、支持台70で下側から接合体1’の周縁部を支持し、ジャケット本体10の対角線が交差する中央部20を下方に押圧するようにしたことで、断面方向に見てジャケット本体10は、両端部で下側から支持され中央部20が下方に押圧される状態となる。そして、中央部20を押圧することで、中央の押圧点から両端の支持点まで距離が左右均等になる。これによって、押圧荷重がバランスよくジャケット本体10および封止体30に伝達されることとなって、左右均等に変形する。したがって、接合体1’は、局所的に変形することがなく、その全体を平坦に矯正することができる。また、中央部20を押圧すると畝部17を押圧することになるので、封止体30にも押圧荷重を伝達しやすくなる。なお、畝部が複数列形成されて、中央部に畝部が位置しない場合であっても、接合体1’の変形のバランスを考慮して中央部を押圧するのが好ましい。
さらに、接合体1’の中央部20が周縁部よりも下方になるまで押圧することで、押圧終了後に接合体1’を平坦にすることができる。また、本実施形態では、接合体1’の中央部20を集中的に押圧するので、プレス荷重が小さくて済む。
一方、本実施形態に係る液冷ジャケット1の製造方法における摩擦攪拌接合によれば、封止体30の厚さ寸法T1よりも大きい長さ寸法L1の攪拌ピン52を備えた回転ツール50を用いて、摩擦攪拌接合を行っているので、塑性化領域41,43,46の先端部が、ジャケット本体10の内部の奥側の深い部分まで入り込んで形成される。これによって、ジャケット本体10と封止体30との突合部40を確実に摩擦攪拌接合することができ、水密性に優れた液冷ジャケットを製造することができる。
また、支持面15aの幅寸法W1が、回転ツール50のショルダー部51の半径寸法R2よりも大きいので、回転ツール50の一周目の移動で、突合部40の真上で移動させたときに、塑性化領域41を支持面15a内に形成することができる。これによって、塑性化領域41が凹部11の内側面に露出しないので、支持面15aが凹部11の底壁13側に下がることがなく、回転ツール50の押込み力を支持面15aで確実に支持することができる。よって、封止体30は、支持面15aで支持されるので、封止体30には、下方に回転ツール50の押込み力がかからず、変形することはない。
また、凹部11の内部には、支持面15aと面一の表面17aを有する畝部17が形成されており、畝部17に沿って塑性化領域49を形成して、封止体30を畝部17に接合したことによって、凹部11が大面積の場合でも、封止体30は、支持面15aと畝部17の表面17a上で平面状に支持される。これによって、封止体30の平面性が保持され、封止体30の変形を抑制できる。さらに、万一、ジャケット本体10の開口部12周りの摩擦攪拌接合で、封止体30に変形が発生していたとしても、後の工程で、封止体30と畝部17とを接合することで、封止体30の変形を解消することができる。
このとき、畝部17の幅寸法W2が、回転ツール50のショルダー部51の直径寸法R1よりも大きいので、回転ツール50を畝部17の真上で移動させたときに、塑性化領域49を畝部15の表面17a内に形成することができる。これによって、塑性化領域49が畝部17の側面に露出しないので、畝部17の表面17aが凹部11の底壁13側に下がることがなく、回転ツール50の押込み力を畝部17で確実に支持することができる。よって、封止体30は、畝部17の表面17aで支持されるので、封止体30には、下方に回転ツール50の押込み力がかからず、変形することはない。
また、本実施形態では、回転ツール50を開口部12に対して右回りに移動させて、右回転させているので、薄肉である封止体30がフロー側50aとなり、封止体30側には、空洞欠陥が発生し難い。ジャケット本体10がシアー側50bとなるが、ジャケット本体10は厚肉であるので、ジャケット本体10に対する回転ツール50の外周の相対速度が速くても、メタル不足に陥ることはない。したがって、突合部におけるメタル不足による空洞欠陥の発生を防止でき、突合部40の接合強度の低下を防止できる。そして、万一、空洞欠陥が発生したとしても、突合部40よりも外側位置に離反した部分であって、熱輸送流体の流路から離れた位置に発生することとなるので、熱輸送流体が流路から外部に漏れ難く、接合部の密閉性能に影響を及ぼすことはない。
さらに、本実施形態では、回転ツール50の一周目の移動で空洞欠陥が発生したとしても、一周目でシアー側50bであった部分を回転ツール50の二周目の移動で再攪拌することによって、空洞欠陥を解消することができる。
また、本実施形態では、回転ツール50で塑性化領域41を形成する工程に先立って、突合部40の一部を、仮接合用回転ツール60を用いて仮接合しているので、回転ツール50による摩擦攪拌接合の際に、封止体30が移動することがなく、接合しやすくなるとともに、封止体30のジャケット本体10に対する位置決め精度が向上する。また、仮接合用回転ツール60が本接合用の回転ツール50よりも小さいので、本接合用の回転ツール50を、仮接合で形成される塑性化領域45の上で移動させて摩擦攪拌するだけで、塑性化領域45および回転ツール60の引抜跡が覆われて、本接合が仕上げられる。
さらに、突合部40が矩形枠状を呈しており、仮接合用回転ツール60で突合部40を仮接合する工程において、突合部40の一方の対角44a,44b同士を先に仮接合した後に、他方の対角44c,44d同士を仮接合するので、封止体30をバランスよく仮接合することができ、封止体30のジャケット本体10に対する位置決め精度がより一層向上する。
また、本実施形態では、回転ツール50の周方向移動における始端54aと終端54bとで、塑性化領域41の一部が重複していることにより、凹部11の開口周縁部12aにおいて、塑性化領域41が途切れる部分がない。したがって、ジャケット本体10の周壁14と、封止体30とを良好に接合することができ、熱輸送流体が外部に漏れないので、接合部の密閉性能を向上させることができる。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について、図14および図15を参照して説明する。第2実施形態の液冷ジャケットの製造方法は、第1実施形態と矯正工程で用いるプレス装置の形状が異なる。第1実施形態では、接合体1’の周縁部を下方から支持して中央部を下方に押圧する構成であったが、第2実施形態では、ジャケット本体10の全体を上下両面側から覆ってプレス矯正するようになっている。具体的には、図14に示すように、プレス装置80は、封止体30が接合されたジャケット本体10を支持する下型81と、ジャケット本体10を押圧する上型86とを備えている。下型81は、ジャケット本体10の投影面積より大きい面積を有する押圧面82を備え、上型86は、ジャケット本体10の投影面積より大きい面積を有する押圧面87を備えている。
図14に示したプレス装置80では、下型81の押圧面82が、中央部が下方に窪んだ凹面形状に形成されており、上型86の押圧面87が、中央部が下方に突出した凸面形状に形成されている。この場合、接合体1’は、中央部が上側に反った状態(封止体30が下方の凹面に対向する状態)で、押圧面82に載置される。押圧面82の凹面と押圧面87の凸面とは、同等の曲率半径を有しており、互いに噛み合うような曲率となっている。接合体1’を押圧したときに、接合体1’の中央部20が下方に反ることとなるが、下方への変位量は、押圧荷重を解除後に接合体1’がスプリングバックして平坦になるような数値(例えば第1実施形態における接合体1’の例では2.65mm)となるように、凸面と凹面の曲率半径が設定されている。
一方、図15に示したようなプレス装置80’であってもよい。プレス装置80’は、下型81’の押圧面82’が、中央部が上方に突出した凸面形状に形成されており、上型86’の押圧面87’が、中央部が上方に窪んだ凹面形状に形成されている。この場合、接合体1’は、中央部が下側に反った状態(封止体30が上方の凹面に対向する状態)で、押圧面82’に載置される。押圧面82’の凸面と押圧面87’の凹面とは、同等の曲率半径を有しており、互いに噛み合うような曲率となっている。接合体1’を押圧したときに、接合体1’の中央部20が上方に反ることとなるが、上方への変位量は、押圧荷重を解除後に接合体1’がスプリングバックして平坦になるような数値となるように、凸面と凹面の曲率半径が設定されている。
このような構成のプレス装置80,80’によっても、封止体30が接合されたジャケット本体10を平坦にすることができる。さらに、プレス装置80,80’によれば、ジャケット本体10および封止体30を安定した状態で支持でき、その全面を押圧することができる。したがって、ジャケット本体10の凹部や畝部の位置に関わらず、凹部や畝部が中央部から偏った位置に配置されていた場合でも、プレス矯正を精度高く行うことができ、接合体1’を平坦に矯正することができる。また、接合体1’の形状が、矩形とは異なる場合であっても、プレス矯正を行うことができ、汎用性が高くなる。
また、矯正工程の前にバリを切除することで、プレス時にバリがジャケット本体10と押圧面87,87’または押圧面82,82’との間に挟まることがなく、局所的に変形したり、バリが表面に食い込んで傷が発生したりするのを防止することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であり、例えば、前記実施形態では、接合体1’が平面視略長方形であるが、これに限定されるものではなく、正方形、多角形、円形等の他の形状であってもよい。この場合、接合体1’を支持する支持台は、適宜形状が変更される。さらに、封止体30に設けられているフィン32は、蓋板部と別体であってもよく、例えば、凹部11内に別体で収容して設けたり、ジャケット本体と一体に形成したりしもよい。
また、前記の各実施形態では、畝部17は、一方の壁部14aから他方の壁部14bに延出して一箇所だけ形成されているが、これに限定されるものではなく、複数形成するようにしてもよい。この場合、一方の壁部から他方の壁部に延出する複数の畝部を形成するようにしてもよいし、互いに対向する一対の壁部に少なくとも一つずつ畝部を形成して、冷却水が流れる流路が蛇行するように構成してもよい。