JP5342636B2 - 空気入りタイヤ - Google Patents

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Description

本発明はインナーライナーを備えた空気入りタイヤに関する。
近年、車の低燃費化に対する強い社会的要請から、タイヤの軽量化が図られており、タイヤ部材のなかでも、タイヤの内部に配され、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れの量(空気透過量)を低減して耐空気透過性を高めるインナーライナーにおいても、軽量化が求められている。
現在、インナーライナー用ゴム組成物は、たとえばブチルゴム70〜100質量%および天然ゴム30〜0質量%を含むブチルゴムを主体とするゴム配合を使用することで、タイヤの耐空気透過性を向上させることが行われている。また、ブチルゴムを主体とするゴム配合はブチレン以外に約1質量%のイソプレンを含み、これが硫黄・加硫促進剤・亜鉛華と相俟って、隣接ゴム層との分子間の共架橋を可能にしている。上記ブチル系ゴムは、通常の配合では乗用車用タイヤでは0.6〜1.0mm、トラック・バス用タイヤでは1.0〜2.0mm程度の厚みが必要となるが、タイヤの軽量化を図るために、ブチル系ゴムより耐空気透過性に優れ、インナーライナー層の厚みをより薄くできるポリマーが要請されている。
従来、インナーライナーの軽量化を試み、熱可塑性エラストマーを用いたインナーライナーの製造技術が挙げられている。しかしブチルゴムのインナーライナーよりも厚みを薄くすると耐空気透過性と軽量化の両立が困難である。また、薄くすることでインナーライナーの強度が低下し、加硫工程時のブラダーの熱と圧力でインナーライナーが破壊してしまうことがある。さらに、強度が低い熱可塑性エラストマーは、タイヤ走行においては、特に大きな繰り返しせん断変形をうけるバットレス部において、インナーライナーにクラックが発生しやすい問題がある。
特許文献1(特開平9−19987号公報)には、インナーライナー層とゴム層の接着性を改善するための積層体が開示されている。これはインナーライナー層の両側に接着層を設けることで、インナーライナー層の重ね合わせ部において接着層同士が接触するようになり、加熱によって強固に接着されるので、空気圧保持性を向上させている。しかし、このインナーライナー層の重ね合わせのための接着層は、加硫工程においてブラダーと加熱状態で接触することになり、ブラダーに粘着、接着するという問題がある。
特許文献2(特許第2999188号公報)は、空気透過性の良好なナイロン樹脂とブチルゴムを動的架橋により混合物を作成し、厚み100μmのインナーライナー層を作製している。しかしナイロン樹脂は室温では硬くタイヤ用インナーライナー賭しては不向きである。また、この動的架橋による混合物だけではゴム層との加硫接着はしないため、インナーライナー層とは別に加硫用接着層を必要とするため、インナーライナー部材としては構造が複雑で工程が多くなり、生産性の観点から不利である。
先行文献3(特開2008−24219号公報)は、空気遮断性の良好なエチレン−ビニルアルコール共重合体中に無水マレイン酸変性水素添加スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を分散させ、柔軟なガスバリア層を作製している。また、熱可塑性ポリウレタン層では挟み込みサンドイッチ構造、さらにタイヤゴムと接着する面にゴム糊(ブチルゴム/天然ゴムの70/30をトルエンに溶解させる)を塗布させてインナーライナー層を作製している。しかし、柔軟樹脂分散の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は接着力が低く、熱可塑性ポリウレタン層と剥離するおそれがある。また柔軟樹脂分散の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は柔軟樹脂が分散されているが、マトリックスのEVOHは屈曲疲労性に乏しく、タイヤ走行中に破壊してしまう。さらにタイヤゴムと接着する面にゴム糊を塗布しているが、通常のインナーライナー工程とは別の工程が必要となり生産性が劣ることになる。
先行文献4(特開2008−174037号公報)は、カーカス層の内側に熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂とエラストマーとを含む熱可塑性エラストマー組成物の空気透過防止層を有する空気入りタイヤにおいて、ベルト層の最大幅端部近傍からタイヤ最大幅の領域Tsにおける空気透過防止層の平均厚さGsを、タイヤ最大幅とビードトゥの領域Tfにおける空気透過防止層の平均厚さGfよりも薄くし、屈曲耐久性を改善することが提案されている。しかしかかる構成では、カーカスプライのゴム層と空気透過防止層の間の剥離が生じることがある。
先行文献5(特開2007−291256号公報)には、空気圧低下の抑制、耐久性の向上および燃費の向上を同時に実現するために、天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるゴム成分の100質量部に対して、エチレン−ビニルアルコール共重合体が15〜30質量部含有されたインナーライナー用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤが開示されている。
特開平9−19987号公報 特許第2999188号公報 特開2008−24219号公報 特開2008−174037号公報 特開2007−291256号公報
本発明はインナーライナーを備えた空気入りタイヤにおいて、インナーライナーとカーカスプライの剥離力を高め、更に耐空気透過性、屈曲疲労性および耐クラック性を改善することを目的とする。
本発明は、タイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、前記インナーライナーは、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体のスチレンブロック部分が、不飽和結合を有する酸塩化物もしくは酸無水物で変性されたSIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物からなるポリマーシートで構成され、該インナーライナーは、タイヤ最大幅位置からビードトウに亘るビード領域Rbの平均厚さGbより、タイヤ最大幅位置からベルト層端の対応位置Luに亘るバットレス領域Rsの平均厚さGsとの比(Gs/Gb)が、0.30〜0.75である空気入りタイヤに関する。
前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体はスチレン成分含有量が10〜30質量%であり、重量平均分子量が50,000〜400,000の範囲であることが望ましい。また前記SIBS変性共重合体が、エラストマー成分中に10質量%以上で100質量%以下であることが望ましい。
また本発明において前記エラストマー成分は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体とSIBS変性共重合体の混合物とすることができる。そしてエラストマー組成物には、粘着付与剤が、エラストマー成分100質量部に対し、0.1〜100質量部配合されていることが望ましい。また、本発明において前記インナーライナーのバットレス領域の平均厚さGsは、0.05〜0.40mmであることが望ましい。
本発明では、走行時のタイヤの繰り返し変形に伴う応力集中が生じやすいバットレス部において、有効にせん断応力を緩和するために、インナーライナーのビード領域Rbとバットレス領域Rsのそれぞれの平均厚さGb、Gsの比を調整するとともに、インナーライナーに変性SIBSを含むエラストマー組成物を用いることで、その厚みを薄く維持しながら、隣接ゴム層との接着性を高め、耐空気遮断性、屈曲疲労性および耐クラック性を改善した空気入りタイヤを得ることができる。
本発明の空気入りタイヤの右半分を示す概略断面図である。
本発明の空気入りタイヤの実施形態を図1に基づき説明する。図1は、乗用車用空気入りタイヤの右半分の断面図である。空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、該トレッド部両端からトロイド形状を形成するようにサイドウォール部3とビード部4とを有している。さらに、ビード部4にはビードコア5が埋設される。また、一方のビード部4から他方のビード部に亘って設けられ、両端をビードコア5のまわりに折り返して係止されるカーカスプライ6と、該カーカスプライ6のクラウン部外側には、少なくとも2枚のプライよりなるベルト層7とが配置されている。
前記ベルト層7は、通常、スチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなるプライの2枚をタイヤ周方向に対して、コードが通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。またカーカスプライはポリエステル、ナイロン、アラミド等の有機繊維コードがタイヤ周方向にほぼ90°に配列されており、カーカスプライとその折り返し部に囲まれる領域には、ビードコア5の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス8が配置される。また前記カーカスプライ6のタイヤ半径方向内側には一方のビード部4から他方のビード部4に亘るインナーライナー9が配置されている。
本発明において、タイヤ最大幅位置LeからビードトウLtに亘るビード領域Rbのインナーライナー9の平均厚さGbより、タイヤ最大幅位置Leからベルト層端の対応位置Luに亘るバットレス領域Rsのインナーライナー9の平均厚さGsが薄くなるように形成されている。
バットレス領域Rsにおけるインナーライナーの厚さを薄くすることで、タイヤ走行時における、この領域での繰り返し屈曲変形に伴うせん断変形が生じても、その応力を緩和することができ、クラックの発生を防止することができる。
屈曲変形による応力を効果的に緩和するには、前記インナーライナーのバットレス領域Rsの平均厚さGsと、ビード領域Rbの平均厚さGbの比(Gs/Gb)は、0.3〜0.75である。また空気圧保持性能を維持し、バットレス領域の応力を緩和する効果を兼備するには、前記インナーライナーのバットレス領域Rsの平均厚さGsは、0.05〜0.45mmであることが望ましい。
<ポリマーシート>
(SIBS変性共重合体)
本発明において、インナーライナーに用いられるポリマーシートは、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう。)のスチレンブロック部分が不飽和結合を有する酸塩化物もしくは酸無水物で変性されたSIBS変性共重合体を含む熱可塑性エラストマー組成物である。
前記ポリマーシートは、SIBS変性共重合体をエラストマー成分の10質量%〜100質量%含むことが好ましい。ここでSIBS変性共重合体は、そのスチレンブロック部分が不飽和結合を有する酸塩化物もしくは酸無水物で変性されたものであり、分子鎖中に次の式(1)の化学構造を含んでいる。
Figure 0005342636
式(1)において、R1は官能基を有する一価の有機基である。
本発明で変性に用いられる不飽和結合を有する酸塩化物とは、メタクリル酸クロライド、メタクリル酸ブロマイド、メタクリル酸ヨウダイド、アクリル酸クロライド、アクリル酸ブロマイド、アクリル酸ヨウダイド、クロトニル酸クロライドおよびクロトニル酸ブロマイドが例示される。特にメタクリル酸クロライド、アクリル酸クロライドが好適である。
また酸無水物とは、無水酢酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が例示されるが、特に、無水酢酸が好適である。これの化合物は、二種類以上を併用することも可能である。係る変性により不飽和基がSIBSに導入されるため、架橋剤を用いた架橋を可能とすることができる。
前述の如く、SIBS変性共重合体の配合量は、エラストマー成分の10〜100質量%、好ましくは30〜100質量%の範囲である。SIBS変性共重合体の配合量が、エラストマー成分の10質量%未満の場合は、インナーライナーとカーカスプライゴムとの加硫接着が十分でないことがある。
SIBS変性共重合体における、不飽和結合を有する酸塩化物及び酸無水物の含量は、1%重量以上、好ましくは5重量%以上であり、30重量%以下である。SIBS変性共重合体を架橋には、従来の方法を用いることができ、例えば、加熱による熱架橋、架橋剤による架橋を行うことができる。ここで架橋剤としては、有機パーオキサイド、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ‐tert‐ブチルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ‐(tert‐ブチルパーオキシ)ヘキサンなどが使用できる。有機パーオキサイドの配合量は、熱可塑性エラストマー成分100質量部に対して0.1〜3.0質量部の範囲が好ましい。
本発明においてポリマーシートのエラストマー組成物は、多官能性ビニルモノマー、例えばジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、又は多官能性メタクリレートモノマー、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレートを架橋剤として併用することができる。この場合、架橋後における組成物の屈曲亀裂特性の向上が期待できる。
SIBS変性共重合体は、イソブチレンブロック由来により、SIBS変性共重合体からなるフィルムは優れた耐空気透過性を有する。またSIBS変性共重合体は、不飽和基がISBSに導入されているため、熱架橋および架橋剤による架橋が可能となり、引張強度、破断時伸および永久歪などの基本特性とともに、屈曲亀裂特性および耐空気透過性が改善されインナーライナーとしての特性が改善される。
SIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物からなるポリマーフィルムをインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造した場合には、耐空気透過性を確保できる。したがってハロゲン化ブチルゴム等の、従来耐空気透過性を付与するために使用されてきた高比重のハロゲン化ゴムを使用する必要がなく、使用する場合にも使用量の低減が可能である。これによってタイヤの軽量化が可能であり、燃費の向上効果が得られる。
SIBS変性共重合体の分子量は特に制限はないが、流動性、成形化工程、ゴム弾性などの観点から、GPC測定による重量平均分子量が50,000〜400,000であることが好ましい。重量平均分子量が50,000未満であると引張強度、引張伸びが低下するおそれがあり、400,000を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。SIBS変性共重合体は耐空気透過性と耐久性をより良好にする観点から、SIBS中のスチレン成分の含有量は10〜30質量%、好ましくは14〜23質量%であることが好ましい。
(SIBS変性共重合体の製造)
SIBSは、一般的なビニル系化合物のリビングカチオン重合法により得ることができ。例えば、特開昭62−48704号公報および特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル化合物にイソブチレンと他の化合物を用いることでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。
SIBS変性共重合体の製造は例えば次の方法が採用できる。セパラブルフラスコにスチレン―イソブチレンースチレンブロック共重合体を入れた後、重合容器内を窒素置換する。その後モレキュラーシーブスで乾燥した、有機溶剤(例えば、n−ヘキサン及びブチルクロリド)を加え、さらにメタクリル酸クロライドを加える。最後に、溶液を攪拌しながら三塩化アルミニウムを加えて反応させる。反応開始から一定時間後に反応溶液に所定量の水を加えて攪拌して反応を終了させる。反応溶液を多量の水で数回以上水洗を行い、さらに大量のメタノールとアセトン混合溶媒にゆっくりと滴下して重合体を沈殿させ、得られた重合体を真空乾燥することにより得られる。なおSIBS変性共重合体の製法は、例えば特許第4551005号公報に開示されている。
(SIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物)
前記ポリマー組成物はSIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物である。即ち、エラストマー成分中にSIBS変性共重合体を10質量%以上、さらに35質量%以上含むことが好ましい。ここでエラストマー成分は、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマーなどが好適に使用できるが、特にSIBS、SISまたはSIBが好ましい。
本発明において、前記エラストマー組成物にはゴム成分を配合することができる。ゴム成分の配合によって、隣接するカーカスプライとの未加硫状態での粘着性を付与し、加硫によりカーカスプライやインスレーションとの加硫接着性を高めることができる。ゴム成分は天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴムおよびブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種を含みことが好ましい。ゴム成分の配合量は、エポリマー成分中、5〜75質量%の範囲が好ましい。
(粘着付与剤)
本発明においてインナーライナーのエラストマー組成物には、エラストマー成分100質量に対し、粘着付与剤を0.1〜100質量部の範囲で配合できる。ここで粘着付与剤とは、エラストマー組成物の粘着性を増進するための配合剤をいい、例えば次の粘着付与剤が例示される。
典型的には、C9石油樹脂、C5石油樹脂がある。ここでC9石油樹脂は、ナフサを熱分解して、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどの有用な化合物を得ているが、それらを取り去った残りのC5〜C9留分(主としてC9留分)を混合状態のまま重合して得られた芳香族石油樹脂である。例えば、商品名として、アルコンP70、P90、P100、P125、P140、M90、M100、M115、M135(いずれも、荒川化学工業(株)社製、軟化点70〜145℃)、またアイマーブS100、S110、P100、P125、P140(いずれも出光石油化学(株)製、芳香族共重合系水添石油樹脂、軟化点100〜140℃、重量平均分子量700〜900、臭素価2.0〜6.0g/100g)、さらに、ペトコールXL(東ソー(株)製)がある。
またC5石油樹脂とは、ナフサを熱分解して、エチレン、プロピレンやブタジエンなどの有用な化合物を得ているが、それらを取り去った残りのC4〜C5留分(主としてC5留分)を混合状態のまま重合して、得られた脂肪族石油樹脂である。商品名として、ハイレッツG100(三井石油化学(株)製、軟化点が100℃)、またマルカレッツT100AS(丸善石油(株)製、軟化点100℃)、さらにエスコレッツ1102(トーネックス(株)製、軟化点が110℃)がある。
テルペン樹脂は、例えば、商品名として、YSレジンPX800N、PX1000、PX1150、PX1250、PXN1150N、クリアロンP85、P105、P115、P125、P135、P150、M105、M115、K100(いずれもヤスハラケミカル(株)製、軟化点は75〜160℃)がある。
芳香族変性テルペン樹脂は、例えば、商品名として、YSレジンTO85、TO105、TO115、TO125(いずれもヤスハラケミカル(株)製、軟化点75〜165℃)がある。
テルペンフェノール樹脂は、例えば商品名として、タマノル803L、901(荒川化学工業(株)製、軟化点120℃〜160℃)、またYSポリスターU115、U130、T80、T100、T115、T145、T160(いずれもヤスハラケミカル(株)製、軟化点75〜165℃)がある。
クマロン樹脂は、例えば、軟化点90℃のクマロン樹脂(神戸油化学工業(株)製)がある。クマロンインデンオイルは、例えば商品名として、15E(神戸油化学工業(株)製、流動点15℃)がある。
ロジンエステルは、例えば商品名として、エステルガムAAL、A、AAV、105、AT、H、HP、HD(いずれも荒川化学工業(株)製、軟化点68℃〜110℃)、またハリエスターTF、S、C、DS70L、DS90、DS130(いずれもハリマ化成(株)製、軟化点68℃〜138℃)がある。水添ロジンエステルは、例えば商品名として、スーパーエステルA75、A100、A 115、A125(いずれも荒川化学工業(株)製、軟化点70℃〜130℃)がある。
アルキルフェノール樹脂は、例えば商品名として、タマノル510(荒川化学工業(株)製、軟化点75℃〜95℃)がある。DCPDは、商品名として、エスコレッツ5300(トーネックス(株)製、軟化点105℃)がある。
粘着付与剤は、C9石油樹脂の完全水添系石油樹脂がSIBと相溶性がよく、またガスバリア性も低下することなく、接着性を高めることができる。また粘度も下げる効果もあり、フィルム押出成形にも有利に使用できる。
前記粘着付与剤は、エラストマー成分100質量部に対して、0.1〜100質量部、好ましくは、1〜50質量部の範囲で配合される。粘着付与剤が0.1質量部未満の場合は、カーカスプライとの加硫接着力が十分でなく、一方、100質量部を超えると粘着性が高くなりすぎて、加工性、生産性を低下し、更にガスバリア性が低下することになる。
本発明においてインナーライナーに用いられるポリマーシートに、更に、第2層を積層した複合層とすることもできる。ポリマーシートは、押出成形、カレンダー成形などの熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する従来の技術が採用できる。なお、インナーライナーの厚さは、0.05mm〜0.6mmの範囲で調整されることが望ましい。
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤは、一般的な製造方法を用いることができる。前記ポリマーシートを空気入りタイヤの生タイヤのインナーライナーに適用して他の部材とともに加硫成形することによって製造することができる。ポリマーシートを生タイヤに配置する際は、ポリマーシートが、カーカスプライに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置する。このように配置すると、タイヤ加硫工程において、ポリマーシートとカーカスプライとの接着強度を高めることができる。得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライのゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。なお、SIBS変性共重合体を含むポリマーシートは、加硫工程において軟化・流動状態にあるため、加硫後に形状変化や隣接部材との粘着する問題が生じることがある。したがって、加硫後に10〜300秒間、ブラダー内を冷却し、50〜120℃で急冷することが望ましい。
なお、インナーライナーの厚さをビード領域Rbとバットレス領域Rsで調整するには、例えば、ポリマーシートの押し出し口にプロファイルをつけて、バットレス領域の厚さGsを薄くした一体物のシートを作成して、これをインナーライナーとしてタイヤ内面に配置する。
本発明の空気入りタイヤに用いられるカーカスプライのゴム層の配合は、従来、汎用されているゴム成分、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、スチレンーブタジエンゴム、ポリブタジエンゴムなどに、カーボンブラック、シリカなどの充填剤を配合したものを用いることができる。
表1および表2に示す仕様で、比較例および実施例の空気入りタイヤを製造して、性能を評価した。ポリマーシートに用いるSIBSおよび変性SIBSは以下のとおり調製した。
[SIBS]
カネカ(株)社製の「シブスターSIBSTAR 102T(ショアA硬度25、スチレン成分含有量15質量%、重量平均分子量:100,000)」を用いた。
[SIBS変性共重合体の製造]
2リットルのセパラブルフラスコにスチレン―イソブチレンブロック共重合体75g(スチレン含量30%、スチレンユニットのモル数0.216モル)を入れて、容器内を窒素で置換した。注射器を用いて、モレキュラーシーブスで乾燥したn−ヘキサン1200mL及びモレキュラーシーブスで乾燥したn−ブチルクロリド1800ミリリットルを加えた。
次に、シリンジを用いてメタクリル酸クロライド30g(0.291モル)を加えた。そして溶液を攪拌しながら三塩化アルミニウム39.4g(0.295モル)を加えて反応を開始した。30分の反応の後、反応溶液に約1000ミリリットルの水を加えて激しく攪拌し反応を終了させた。反応溶液を多量の水で数回水洗を行い、さらに大量のメタノールとアセトン混合溶媒(1:1)に徐々に滴下して反応生成物を沈殿させ、その後反応生成物を60℃で24時間真空乾燥して、SIBS変性共重合体(重量平均分子量:150,000、スチレン含量:20質量%、酸塩化物:1.0重量%)を得た。
<空気入りタイヤの製造>
上記、SIBSおよび変性SIBSを2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220℃)にてペレット化した。その後、Tダイ押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイリップ幅:500mm、シリンダ温度:220℃、フィルムゲージ:0.3mm)にてポリマーシートを作製した。
空気入りタイヤは、図1に示す基本構造を有する195/65R15サイズのものに、上記ポリマーシートをインナーライナーに用いて生タイヤを成形し、次に加硫工程において、170℃で20分間プレス成型して製造した。その後、空気入りタイヤはブラダー部内を冷却して10〜300秒間、50℃〜120℃に急冷された。冷却媒体としては水を用いた。ここでインナーライナーのビード領域Rbとバットレス領域Rsで厚さを調整するために、ポリマーシートの押し出し口にプロファイルをつけて、バットレス領域の厚さGsを薄くした一体物のシートを作成して、これをインナーライナーとしてタイヤ内面に配置した。
Figure 0005342636
Figure 0005342636
表1および表2において、インナーライナーの厚さは、Gs以外の領域の厚さを示している。比較例1を除き、いずれの実施例、比較例においても、Gbは0.6mmである。
<カーカスプライのゴムシート>
実施例において、カーカスプライのトッピングゴムの配合は、以下のとおりである。
<トッピングゴムの配合A>
天然ゴム(注1) 70質量部
合成ゴム(SBR1502) 30質量部
カーボンブラック(注2) 45質量部
酸化亜鉛 3質量部
硫黄 3質量部
加硫促進剤(注3) 1質量部
加硫助剤 1質量部
(注1)TSR20
(注2)東海カーボン(株)社製「シースト3」(N330)
(注3)大内新興化学社製「ノクセラーCZ」
<比較例1>
比較例1のインナーライナーには、次の配合成分をバンバリーミキサーで混合し、カレンダーロールにてシート化して厚さ1.0mmのポリマーフィルムを得た。Gs/Gbの値は1である。
クロロブチル(注1) 80質量部
天然ゴム(注2) 20質量部
フィラー(注3) 60質量部
(注1)エクソンモービル(株)社製の「エクソンクロロブチル 1068」
(注2)TSR20
(注3)東海カーボン(株)社製の「シーストV」(N660、窒素吸着比表面積:27m2/g)
<比較例2、7>
比較例3はSIBSをポリマーシートに用い、比較例7は変性SIBSをポリマーシートに用い、その厚さ(Gb)は、0.6mmである。Gs/Gbの値は1である。
<比較例3〜6、8>
変性SIBSとSIBSの混合物、さらに粘着付与剤の混合物のポリマーシートで厚さ(Gb)は0.60mmのものをインナーライナーに適用した。Gs/Gbの値は1である。
<比較例9〜11>
変性SIBSとSIBSの混合物、さらに粘着付与剤の混合物のポリマーシートで厚さ(Gb)は、0.60mmのものをインナーライナーに適用した。Gs/Gbの値は0.75である。
<実施例1、3、7〜9>
実施例1、3、7〜9は、ポリマーシートにSIBS、変性SIBSおよび粘着付与剤を混合した例で、実施例7〜9は、Gs/Gbの値を変更している。
<実施例2、4、5、6>
実施例2、4は、ポリマーシートにSIBSと変性SIBSを混合した例で、Gs/Gbの値は、いずれも0.75である。
実施例5、6は、ポリマーシートに変性SIBS、またはこれに粘着付与剤を混合した例で、Gs/Gbの値は、いずれも0.75である。
本発明の実施例は、ずれも比較例1に比べ、剥離力、屈曲疲労性、静的空気圧低下率および耐クラック性に優れていることが認められる。
<性能試験>
実施例、比較例の空気入りタイヤの性能試験の方法を以下に示す。
<剥離試験>
JIS−K6256「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−接着性の求め方」にしたがって剥離試験を行い、インナーライナーとカーカスの剥離力(IL/カーカス剥離力)を測定した。試験片の大きさは25mm幅で、剥離試験は23℃の室温条件下で行った。インナーライナーとカーカス剥離力は大きいほど好ましい。
<屈曲疲労性試験>
JIS−K6260「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムのデマチャ屈曲亀裂試験方法」に準じて、中央に溝のある所定の試験片を作製した。インナーライナーは、厚さ0.3mmシートをゴムに貼り付けて加硫し、所定の試験片を作製した。試験片の溝の中心にあらかじめ切り込みを入れ、繰り返し屈曲変形を与え亀裂成長を測定する試験を行った。雰囲気温度23℃、歪30%、周期5Hzで、70万回、140万回、210万回時に亀裂長さを測定し、亀裂が1mm成長するのに要した屈曲変形の繰り返し回数を算出した。比較例1の値を基準(100)として、実施例および比較例の屈曲疲労性について指数表示した。数値が大きい方が、亀裂が成長しにくく良好といえる。例えば、実施例1の指数は以下の式で求められる。
(屈曲疲労性指数)=(実施例1の屈曲変形の繰り返し回数)/(比較例1の屈曲変形の繰り返し回数)×100
<静的空気圧低下率試験>
195/65R15スチールラジアルPCタイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、初期空気圧300Kpaを封入し、90日間室温で放置し、空気圧の低下率を計算した。
<平均厚さの測定>
195/65R15スチールラジアルPCタイヤを周方向に8等分し、それぞれの箇所で、幅20mmでタイヤ径方向に沿って切断した8個のカットサンプルを作成し、この8個のカットサンプルについて、それぞれのバットレス領域Rsとビード領域Rbにおいて等間隔に5等分した5点についてインナーライナー層の厚さを測定した。それぞれ測定した合計40点の測定値の算術平均値をGs、Gbとした。
<耐クラック性>
195/65R15スチールラジアルPCタイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、正規の空気圧を充填し、JATMA YEAR BOOKで空気圧−付加能力対応表より、この空気圧に対応する最大荷重を負荷し、速度80km/hで、ドラム上で走行し、外観目視にて確認可能な損傷が発生した時点で走行を終了し走行距離を求めた。比較例1の走行距離を100とし指数で示す。指数が大きいほど耐クラック性が優れている。
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用空気入りタイヤのほか、トラック・バス用、重機用等の空気入りタイヤとして用いることができる。
1 空気入りタイヤ、2 トレッド部、3 サイドウォール部、4 ビード部、5 ビードコア、6 カーカスプライ、7 ベルト層、8 ビードエーペックス、9 インナーライナー、Rb ビード領域、Rs バットレス領域、Le タイヤ最大幅位置、Lt ビードトウ、Lu ベルト層端の対応位置。

Claims (8)

  1. タイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、
    前記インナーライナーは、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体のスチレンブロック部分が、不飽和結合を有する酸塩化物で変性されたSIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物からなるポリマーシートで構成され、
    該インナーライナーは、タイヤ最大幅位置からビードトウに亘るビード領域Rbの平均厚さGbより、タイヤ最大幅位置からベルト層端の対応位置Luに亘るバットレス領域Rsの平均厚さGsとの比(Gs/Gb)が、0.30〜0.75である空気入りタイヤ。
  2. 前記酸塩化物がメタクリル酸クロライドである、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
  3. タイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、
    前記インナーライナーは、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体のスチレンブロック部分が、酸無水物で変性されたSIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物からなるポリマーシートで構成され、
    該インナーライナーは、タイヤ最大幅位置からビードトウに亘るビード領域Rbの平均厚さGbより、タイヤ最大幅位置からベルト層端の対応位置Luに亘るバットレス領域Rsの平均厚さGsとの比(Gs/Gb)が、0.30〜0.75である空気入りタイヤ。
  4. 前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体はスチレン成分含有量が10〜30質量%であり、重量平均分子量が50,000〜400,000の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
  5. 前記SIBS変性共重合体が、エラストマー成分中に10質量%以上で100質量%以下含まれる請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
  6. 前記エラストマー組成物のエラストマー成分は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体とSIBS変性共重合体の混合物である請求項1〜のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
  7. エラストマー組成物には、粘着付与剤が、エラストマー成分100質量部に対し、0.1〜100質量部配合されている請求項1〜のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
  8. 前記インナーライナーのバットレス領域の平均厚さGsは、0.05〜0.40mmである請求項1〜のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
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