上記のような積層型圧電素子においては、圧電体層の結晶粒子間の粒界12により、ドメイン壁14の移動が拘束されて応答速度が遅くなるという問題点がある。
また、圧電体層の結晶粒子間の粒界12によりドメイン壁14の移動が拘束されることに対応して、積層型圧電素子の変位量が小さくなるという問題点がある。
また、連続駆動によって拘束された部分が自己発熱して、積層型圧電素子を構成する圧電磁器である圧電体層にクラックが発生し、変位量が徐々に低下するという問題点がある。
従って、本発明は、上記の問題点を解決すべく案出されたものであり、その目的は、ドメイン壁の移動が拘束されにくく、応答速度が速くて変位量を大きくすることができ、機械的強度も十分で特性劣化を抑えることができる積層型圧電素子、これを用いた噴射装置および燃料噴射システムを提供することにある。
本発明の積層型圧電素子は、圧電体層と内部電極層とが交互に積層された積層体を含む積層型圧電体素子であって、前記圧電体層は、複数の結晶粒子に跨るドメイン壁が形成されており、前記積層体は、駆動時に前記内部電極層よりも優先的に破断されることによって応力を緩和する予定破断層を含んでおり、前記ドメイン壁は、前記予定破断層の近傍に形成されていることを特徴とするものである。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記構成において、前記ドメイン壁に囲まれた領域内における隣接する前記結晶粒子同士が接する部位に、分極軸が揃った領域が存在することを特徴とするものである。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、前記ドメイン壁は、隣接する前記結晶粒子を跨る部位が直線状に形成されていることを特徴とするものである。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、前記結晶粒子が、おもに90°ドメインで構成されていることを特徴とするものである。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、前記ドメイン壁は、隣接する前記内部電極層同士の間の前記圧電体層に形成されていることを特徴とするものである。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、前記ドメイン壁は、前記圧電体層における前記内部電極層の端部近傍に存在することを特徴とするものである。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、前記ドメイン壁は、複数の前記圧電体層に形成されていることを特徴とするものである。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、前記圧電体層は、鉛元素の酸化物成分を有しており、結晶粒子間の三重点の部位に前記鉛元素の酸化物成分が偏析していることを特徴とするものである。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、前記鉛元素の酸化物成分が非晶質相であることを特徴とするものである。
本発明の噴射装置は、噴出孔を有する容器と、上記のいずれかの本発明の積層型圧電素子とを備え、前記容器内に蓄えられた液体が前記積層型圧電素子の駆動により前記噴射孔から吐出されることを特徴とするものである。
本発明の燃料噴射システムは、高圧燃料を蓄えるコモンレールと、このコモンレールに蓄えられた燃料を噴射する上記の本発明の噴射装置と、前記コモンレールに前記高圧燃料を供給する圧力ポンプと、前記噴射装置に駆動信号を与える噴射制御ユニットとを備えたことを特徴とするものである。
本発明の積層型圧電素子によれば、圧電体層と内部電極層とが交互に積層された積層体を含む積層型圧電体素子であって、圧電体層は、複数の結晶粒子に跨るドメイン壁が形成されていることから、ドメイン壁の移動が結晶粒界で拘束されずに、隣り合った結晶粒子のドメイン壁が電界印加と同時に連動して移動する。そのため、電界によるドメイン壁の移動速度および移動量を大きくすることができる。これにより、積層型圧電素子の応答速度が速くなり、変位量を大きくすることができる。
また、変位を拘束する領域が大幅に減少することによって、駆動中の積層型圧電素子の過熱を抑え、耐久性の高い素子とすることができる。
さらに、結晶粒子径を小さく抑えてもドメイン壁の移動量を確保することができるので、圧電体層の結晶粒子を小さくすることができ、これによって機械的強度が大きく、かつ変位量の大きな積層型圧電素子とすることができる。その結果、連続駆動しても変位量の劣化が抑えられた積層型圧電素子とすることができる。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記構成において、ドメイン壁に囲まれた領域内における隣接する結晶粒子同士が接する部位に、分極軸が揃った領域が存在するときには、電界印加と同時にドメイン壁の移動が隣り合う結晶粒子において連続的に発生することとなるために、高速での分極が可能となり、変位の応答速度を速くすることができる。また、分極処理等の前処理も不要となり、分極処理に起因した残留応力も無いので、長期間の駆動を行なっても、ドメイン壁が安定して隣り合う結晶粒子間に跨って存在でき、安定した駆動が実現する。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、ドメイン壁は、隣接する結晶粒子を跨る部位が直線状に形成されているときには、電界印加によってドメイン壁が移動する際に、イオンの変位が粒界で遮られずに直線状に連鎖的に生じる。その結果、ドメイン壁の移動にひずみが無く、ストレスが発生しないので、電界印加時に規則的に一斉に分極されるので、変位の応答速度を速くすることができる。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、結晶粒子が、おもに90°ドメインで構成されているときには、ドメイン壁の移動を低電界で容易に行うことができるので、変位の応答速度を速くすることができる。また、180°ドメインのように分極反転する必要が無いために、高電圧の分極処理が不要となり、積層型圧電素子に高電圧を印加することによる損傷をまったく与えないので、耐久性の高い積層型圧電素子とすることができる。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、ドメイン壁は、隣接する内部電極層同士の間の圧電体層に形成されているときには、隣接する内部電極層同士の間の圧電体層の領域は、積層型圧電素子に電界を印加した際に変形する領域であるので、複数の結晶粒子に跨るドメイン壁が形成されていることによって、電界印加と同時にドメイン壁が一斉に移動することができ、高速駆動が可能となる。特に、内部電極層に接する圧電体の結晶粒子において複数の結晶粒子に跨るドメイン壁が形成されていると、内部電極層の端部に電界が集中することによりその端部がドメイン壁移動の起点となり、電圧印加と同時にドメイン壁の移動が開始される。従って、内部電極層同士の間の圧電体層の中央部に向けて将棋倒しのようにドメイン壁の移動が伝播するので、極めて安定した高速駆動が可能となる。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、ドメイン壁は、圧電体層における内部電極層の端部近傍に存在するときには、内部電極層を挟んで圧電体層の分極方向が反対方向になるため、積層型圧電素子を駆動させた際に内部電極層の端部に最も応力が集中するが、応力を緩和するように内部電極層の端部の結晶粒子が変形を起こす際にドメイン壁が移動することによって、結晶粒子の変形が容易となる。その結果、内部電極層の端部において、複数の結晶粒子に跨るドメイン壁が形成されていると、高速でドメイン壁が移動できるので、応力緩和効果が高まり、長時間安定して積層型圧電素子の駆動が可能になる。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、積層体は、駆動時に内部電極層よりも優先的に破断されることによって応力を緩和する予定破断層を含んでおり、ドメイン壁は、予定破断層の近傍に形成されているときには、駆動中の積層型圧電素子の予定破断層に亀裂が生じて応力緩和する際に、予定破断層で発生した亀裂が圧電体層に到達したときに亀裂が到達した部分の結晶粒子のドメイン壁が高速で移動することによって、結晶粒子の変形が可能となる。その結果、応力を緩和して圧電体層への亀裂の進展を抑制することができる。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、ドメイン壁は、複数の圧電体層に形成されているときには、積層型圧電素子を駆動させた際に生じる、積層型圧電素子に加わるあらゆる方向からの応力を分散することができるので、積層型圧電素子を耐久性の高いものとすることができる。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、圧電体層は、鉛元素の酸化物成分を有しており、結晶粒子間の三重点の部位に鉛元素の酸化物成分が偏析しているときには、積層型圧電素子の駆動中にドメイン壁が移動する際、鉛元素の酸化物成分が偏析した三重点の部位で結晶粒子の変形を伴うドメイン壁の移動ができなくなり、際限なくドメイン壁が移動しないようにストッパーとして働く。その結果、駆動電圧をオンオフした際にドメイン壁の移動が同じ領域で生じるようにすることができ、積層型圧電素子を耐久性の高いものとすることができる。
また、本発明の積層型圧電素子は、上記各構成において、鉛元素の酸化物成分が非晶質相であるときには、結晶粒子内のイオンの変位を伝播する格子振動が非晶質相で消滅するので、三重点の部位で結晶粒子の変形を伴うドメイン壁の移動ができなくなり、際限なくドメイン壁が移動しないようにストッパーとしてより有効に働く。その結果、駆動電圧をオンオフした際にドメイン壁の移動が同じ領域で生じるようにすることができ、積層型圧電素子をより耐久性の高いものとすることができる。
また、本発明の噴射装置によれば、噴出孔を有する容器と、上記のいずれかの本発明の積層型圧電素子とを備え、容器内に蓄えられた液体が積層型圧電素子の駆動により噴射孔から吐出されることから、積層型圧電素子において大きな変位量と優れた耐久性とが得られるので、液体の所望の噴射を長期にわたって安定して行なうことができる。
また、本発明の燃料噴射システムによれば、高圧燃料を蓄えるコモンレールと、このコモンレールに蓄えられた燃料を噴射する上記の本発明の噴射装置と、コモンレールに高圧燃料を供給する圧力ポンプと、噴射装置に駆動信号を与える噴射制御ユニットとを備えたことから、高圧燃料の所望の噴射を長期にわたって安定して行なうことができる。
<積層型圧電素子>
以下、本発明の積層型圧電素子の実施の形態の例について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の積層型圧電素子の実施の形態の一例を示す斜視図であり、図2(a)〜(c)は、それぞれ図1に示す積層型圧電素子を構成する圧電体層の結晶粒子と分極ドメインを模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本例の積層型圧電素子1は、圧電体層3と内部電極層5とが交互に積層された積層体7と、この積層体7の側面に接合されて内部電極層5に電気的に接続された外部電極9とを含むものである。そして、図2(a)〜(c)に示すように、圧電体層3において、複数の結晶粒子11に跨ったドメイン壁14が形成されている。
なお、図2において、(b)は(a)の圧電体層の断面図のA部を拡大した拡大断面図であり、(c)は(b)について原子の配列状態を示す断面図である。また、図2において、12は粒界、13はドメインの分極方向、15は酸素イオン、16はバリウムまたは鉛等のイオンのAサイトイオン、17はチタン,ジルコニウム等のイオンのBサイトイオンである。
上記の構成により、素子1に電界を印加した際に、図3(a)〜(c)に示すように、隣り合った結晶粒子11間を跨るドメイン壁14が連続して移動できる。このような分域構造を有する圧電体層3では、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14の粒界12での拘束力が小さくなり、圧電体層3に印加される電界に対するドメイン壁14の移動速度が速くなる。つまり、変位の応答速度を速くすることができる。
なお、図3(b),(c)において、白抜きの矢印は電界の印加方向を示す。
また、変位を拘束する領域が大幅に減少することによって、駆動中の素子1の過熱を抑え、耐久性の高い素子1とすることができる。
さらに、素子1が駆動により変形する際に、粒界12近傍が分極されて変形に寄与するので、粒界12付近が酸素空孔等の欠陥に起因したイオンの溜まり場にならない。その結果、粒界12に偏析したイオンによるドメイン壁14の拘束現象が発生せず、長期間の駆動でも変位量が変化しない耐久性の高い素子1とすることができる。
特に、図2(c)に示すように、ペロブスカイト型の圧電体においては、粒界12を介して隣り合う結晶粒子11のBサイトイオン17の配置が同じ向きになることによって、分極方向が一致するので、電界印加時にドメイン壁14の移動が粒界12を介して隣り合う結晶粒子11の間で連続的に発生する。その結果、ドメイン壁14の移動速度が速くなる。つまり、変位の応答速度を速くすることができる。
また、圧電体層3は、ドメイン壁14に囲まれた領域内における隣接する結晶粒子11同士が接する部位に、分極軸が揃った領域が存在することが好ましい。
上記の構成により、電界印加と同時にドメイン壁14の移動が隣り合う結晶粒子11において連続的に発生する。その結果、高速での分極が可能となり、変位の応答速度を速くすることができる。分極処理等の前処理も不要であり、分極処理に起因した残留応力も無いので、長期間の駆動を行なってもドメイン壁14が安定して隣り合う結晶粒子11間に跨って存在でき、安定した駆動が実現する。
また、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14は、隣接する結晶粒子11を跨る部位が直線状に形成されていることが好ましい。
上記の構成により、電界印加の際にドメイン壁14が移動するときにイオンの変位が粒界12で遮られずに直線状に連鎖的に行われる。その結果、ドメイン壁14の移動にひずみが無く、ストレスが発生しないので、電界印加時に規則的に一斉に分極され、変位の応答速度を速くすることができる。
また、結晶粒子11は、おもに90°ドメインで構成されていることが好ましい。
上記の構成により、ドメイン壁14の移動を低電界で容易に行なうことができるので、変位の応答速度を速くすることができる。また、180°ドメインのように分極反転する必要が無いため、高電圧の分極処理が不要である。そのため、素子1に高電圧による損傷をまったく与えないので、耐久性の高い積層型圧電素子1とすることができる。
この場合、90°ドメインで構成されている結晶粒子11の割合(含有量)は、80体積%以上であることが好ましく、より好ましくは全て90°ドメインで構成されていることによって、ドメイン壁14の移動を低電界でより容易に行なうことができる。
また、ドメイン壁14は、隣接する内部電極層5同士の間の圧電体層3に形成されていることが好ましい。
上記の構成により、隣接する内部電極層5同士の間の圧電体層3の領域は、積層型圧電素子1に電界を印加した際に変形する領域であるので、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14が形成されていることによって、電界印加と同時にドメイン壁14が一斉に移動することができるので、高速駆動が可能となる。特に、内部電極層5に接する結晶粒子11において、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14が形成されていると、内部電極層5の端部に電界が集中することにより、その端部がドメイン壁移動の起点となり、電圧印加と同時にドメイン壁14の移動が開始される。その結果、内部電極層5同士の間の圧電体層3の中央部に向けて将棋倒しのようにドメイン壁14の移動が伝播するので、極めて安定した高速駆動が可能となる。
また、図4のように、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14は、圧電体層3における内部電極層5の端部近傍18に存在することが好ましい。
上記の構成により、内部電極層5を挟んで圧電体層3の分極方向が反対方向になるため、素子1の駆動の際に内部電極層5の端部近傍18にはもっとも応力が集中するが、加わった応力を緩和するように内部電極層5の端部近傍18の結晶粒子11が変形を起こす際にドメイン壁14が移動することによって、結晶粒子11の変形が可能となる。従って、内部電極層5の端部近傍18に複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14が形成されていると、高速でドメイン壁14が移動できるので、応力緩和効果が高まり、長時間安定して素子1の駆動が可能になる。
この場合、内部電極層5の端部近傍18とは、内部電極層5の端部から結晶粒子11が5〜20個程度存在する大きさの領域である。
さらに、積層体7は、駆動時に内部電極層5よりも優先的に破断されることによって応力を緩和する予定破断層6を含んでおり、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14は、予定破断層6の近傍に形成されていることが好ましい。
上記の構成により、駆動中の素子1の予定破断層6に亀裂が生じて応力緩和する際に、予定破断層6で発生した亀裂が圧電体層3に到達した際に、亀裂が到達した部分の結晶粒子11のドメイン壁14が高速で移動することによって、結晶粒子11の変形が可能となる。その結果、応力を緩和して圧電体層3への亀裂進展を抑制することができる。このように、ドメイン壁14が移動することによって、結晶粒子11の変形が極めて容易に可能となる。従って、積層型圧電素子1を長期間にわたって高い負荷の加わった状態で使用した場合においても、圧電体層3に応力および応力に起因した亀裂を発生させることなく、積層体7の予定破断層6だけに亀裂を効果的に発生させて効果的な応力緩和が可能となり、積層型圧電素子1を耐久性の高いものとすることができる。
なお、積層体7における予定破断層6は、例えば、内部電極層5とは別に、あるいは内部電極層5に代えて、積層体7内に多数の独立した金属粒子を含む多孔質金属粒子層を形成することによって設けることができる。
また、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14は、複数の圧電体層3に形成されていることが好ましい。
上記の構成により、積層型圧電素子1に加わるあらゆる方向からの応力を分散することができるので、積層型圧電素子1を耐久性の高いものとすることができる。
また、圧電体層3は、鉛元素の酸化物成分を有しており、結晶粒子11間の三重点の部位に鉛元素の酸化物成分が偏析していることが好ましい。
上記の構成により、駆動中にドメイン壁14が移動する際、鉛元素の酸化物成分が偏析した三重点の部位で結晶粒子11の変形を伴うドメイン壁14の移動ができなくなり、際限なくドメイン壁14が移動しないようにストッパーとして働く。これにより、駆動電圧をオンオフした際に、ドメイン壁14の移動が同じ領域で行なわれるようになり、積層型圧電素子1を耐久性の高いものとすることができる。
また、鉛元素の酸化物成分が非晶質相であることが好ましい。
上記の構成により、結晶粒子11内のイオンの変位を伝播する格子振動が非晶質相で消滅するので、三重点の部位で結晶粒子11の変形をともなうドメイン壁14の移動ができなくなり、際限なくドメイン壁14が移動しないようにストッパーとして働く。これにより、駆動電圧をオンオフした際に、ドメイン壁14の移動が同じ領域で行なわれるものとなり、積層型圧電素子1を耐久性の高いものとすることができる。
<積層型圧電素子の製造方法>
次に、本実施の形態の積層型圧電素子1の製造方法について説明する。
まず、圧電体層3となるセラミックグリーンシートを作製する。具体的には、圧電セラミックスの仮焼粉末と、アクリル系あるいはブチラール系等の有機高分子からなるバインダーと、可塑剤とを混合してスラリーを作製する。そして、このスラリーにドクターブレード法やカレンダーロール法等のテープ成型法を用いることにより、セラミックグリーンシートが作製される。圧電セラミックスとしては圧電特性を有するものであればよく、例えば、PbZrO3−PbTiO3等からなるペロブスカイト型酸化物等を用いることができる。また、可塑剤としては、フタル酸ジブチル(DBP),フタル酸ジオクチル(DOP)等を用いることができる。
次に、内部電極層5となる導電性ペーストを作製する。具体的には、銀−パラジウム合金等から成る金属粉末にバインダーおよび可塑剤等を添加混合することで、導電性ペーストを作製する。この導電性ペーストを上記のセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷法を用いて所定のパターンに印刷する。さらに、この導電性ペーストがスクリーン印刷されたセラミックグリーンシートを複数積層する。そして、後述するように焼成することで、交互に積層された圧電体層3および内部電極層5を備えた積層体7を形成することができる。
このとき、予定破断層6として、例えば、多数の独立した金属粒子を含む多孔質金属粒子層を形成する場合、導電性ペースト中にカーボン粉末を含有させて、焼成中にそのカーボン粉末を消失させたり、導電性ペーストの印刷時にドットパターンとなるようにパターン印刷したり、導電性ペーストを印刷乾燥した後にドライアイスブラストを行なって印刷面を荒らしたりする方法がある。
また、予定破断層6として、多数の独立した金属粒子を含む多孔質金属粒子層の複数を一括的に形成する場合、予定破断層6となる多孔質金属粒子層を形成するための導電性ペーストと、その他の内部電極層5を形成するための導電性ペーストとの金属成分比率を変えて、焼成中にそれらの濃度差を利用して、予定破断層6から、圧電体層3を介して隣接している内部電極層5へ金属を拡散させることによって、多孔質金属粒子層を形成することができる。この方法は、量産性に優れている点で好ましい。特に、主に銀−パラジウムを含む導電性ペーストを用いて、予定破断層6となる導電性ペーストの層の銀濃度を、その他の内部電極層5となる導電性ペーストの層の銀濃度よりも高くすると、焼成時に銀が液相を形成するとともに圧電体層3の結晶粒子11間を容易に移動することができる。従って、極めて均一な多孔質金属粒子層からなる予定破断層6が形成できる。
その後、積層型圧電素子1の積層体7の外表面に、端部が露出している内部電極層5との導通が得られるように外部電極9を形成する。この外部電極9は、銀粉末およびガラス粉末にバインダーを加えて銀ガラス導電性ペーストを作製し、これを積層体7の側面に印刷して、乾燥接着する、あるいは焼き付けることによって得ることができる。
ここで、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14をどのようにしたら形成できるかを、順に説明する。
まず、結晶粒子11中にドメイン壁14が形成されるのは、焼成により焼結した圧電体を冷却する際に圧電体の温度がキュリー点以下になる時である。これは、キュリー点以上では結晶粒子11内のイオン配列が対称性に優れ、分極自体が発生しないのに対し、キュリー点で結晶粒子11の相変態が発生し、一軸方向に伸びる構造となり、結晶粒子11内に分極の異なる領域すなわちドメインが形成されるとともに、ドメイン壁14が形成される。そこで、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14を形成させるには、結晶粒子11間において、イオン配列が一致し、粒界12に異物や粒界層が発生するのを排除するように、圧電体を形成することが必要となる。
従来の焼結では、焼結直前の結晶粒子11の表面には酸素の吸着層があり、結晶粒子11同士が接合するのではなく、大きな結晶粒子11が小さな結晶粒子11を取り込み、最後に大きな結晶粒子11同士が接触した時に互いに取り込むことができずに癒着するために、互いの結晶粒子11のイオン配列を一致させることができない。従って、結晶格子が不整合になり、結晶粒子11表面の酸素吸着層と結晶成分とからなる酸素過剰な粒界層が形成される。このことにより、代表的な圧電体構造であるペロブスカイト構造では、酸素過剰となった粒界12との電荷の補償をとるために粒界12近傍でBサイトイオンが欠損する。分極の起因となるBサイトイオンを粒界12近傍で欠損していることによって、結晶粒子11ごとにそれに加わる応力を緩和する方向にそれぞれのドメイン壁14ができる。
そこで、となりあった結晶粒子11間でのイオン配列を一致させ、粒界12に異物や粒界層が生じるのを排除するように、以下の方法を行なう。
まず、圧電体層3となるセラミックグリーンシートを作製する際に、圧電セラミックスの仮焼粉末として、たとえばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)であれば、圧電特性を発現するペロブスカイト構造に結晶化した粉末と、圧電特性を発現しないパイロクロア構造に結晶化した粉末、および、結晶化していない非結晶の粉末と、鉛,チタン,ジルコニウムのそれぞれの酸化物の粉末を混合して原料とする。このことにより、焼成温度が上昇し、焼結が進行すると、ペロブスカイト構造に結晶化した粉末を核として、結晶粒子11が核成長して焼結する反応焼結が行なわれる。
そして、反応焼結過程で、となりあった結晶粒子11間のイオン配列を一致させるために、焼結中に結晶粒子11を回転させ、隣り合った結晶粒子11との整合を行うために、焼結過程で粒界12中を移動して粒子成長を行なわせるための液相を形成させる。液相成分としては、内部電極層5の成分中の銀が焼成中に酸化銀となり、圧電材料成分と液相成分となることを利用することが好ましい。よって、内部電極層5中の銀の比率を90質量%以上としたものが好ましい。
焼成温度は1000℃以下が好ましい。1000℃を超えると、反応焼結中の雰囲気ガスの酸素分圧を大気よりも過剰にしなければ、粒界12に酸素空孔ができやすくなるため、となりあった結晶粒子11間のイオン配列を一致させた部分においても酸素欠陥により結晶粒子11表面での酸素イオンの拡散が活発になる。その結果、粒界12部分からネックが成長して巨大粒子へ成長してしまい、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14が消滅することとなる。
ここで、内部電極層5の積層体7中における位置により銀比率の異なる導電性ペーストを用いることにより、液相中の銀成分に濃度勾配を持たせることができる。その結果、圧電体層3中を貫通して移動する液相を形成することができる。結晶粒子11が核成長して焼結する反応焼結を行ないながら、液相を移動させることにより、結晶粒子11は内部電極層5に接する部分を起点に結晶成長が広がる。このことにより、特に内部電極層5に接する結晶粒子11においては、となりあった結晶粒子11間でイオン配列を一致させることができる。
さらに、焼成の冷却段階においては、液相の銀成分は内部電極層5にとりこまれ、残った成分は結晶粒子11の成長と同時に取り込まれ、あまった成分は、結晶粒子11間の三重点に取り残される。PZTの焼結においては、酸化鉛の蒸気中で焼結させることで、液相中に過剰の鉛成分が含まれて焼結の進行が進むため、結晶粒子11間の三重点に取り残される。
このように、となりあった結晶粒子11間でイオン配列を一致させて焼結させた部分では、冷却時にキュリー点以下となると、となりあった結晶粒子11に跨るドメイン壁14が形成される。さらに、銀のように熱膨張係数の大きな金属を内部電極層5に含ませることで、内部電極層5の熱膨張係数が圧電体層3の熱膨張係数よりも大きくなる。その結果、焼成後の冷却過程において、内部電極層5が圧電体層3よりも収縮することから、内部電極層5近傍の結晶粒子11は、強制的に積層方向に垂直な方向に分極される。電界による分極ではなく、応力による分極が、となりあった結晶粒子11間でイオン配列を一致させて焼結させた部分で起きる。そのために、これらの結晶粒子11に接した他の結晶粒子11は圧電体層3全体にわたって同じ方向に分極する。一方、内部電極層5に接していない、素子1の表面の結晶粒子11は、素子1の電荷の補償を行うためにさまざまな方向に分極してしまう。
そこで、素子1の表面に、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14を形成するには、焼成後の素子1の表面を研磨して削り落とし、その後、キュリー点以上の温度に再加熱して、分極方向を再配列させる。
結晶粒子11に跨るドメイン壁14が形成される領域を素子1の全体に広げるには、外部電極9を形成する前に素子1の表面にサンドブラスト等の処理を施し、内部電極層5を素子1の表面よりも深く削った後に、銀を主成分とする外部電極9を形成するための導電性ペーストを印刷した後に焼成する。これにより、外部電極9の焼結と同時に内部電極層5中の金属成分の素子1の外部への拡散を導くことができ、内部電極層5近傍に残留した液相の残留成分も外部電極9近傍に引っ張りだされ、同時にとなりあった結晶粒子11間の接する力が強くなり、結晶粒子11に跨るドメイン壁14が形成される領域が素子1の全体に広がる。
さらに、分極処理を、キュリー点以上の温度に加熱してから電界を印加し、分極のための電圧を印加しながらキュリー点以下の温度まで冷却する。このとき、ドメイン壁14の形成が開始されるキュリー点で、電圧を印加しながら温度を10分以上保持し、100℃/時間よりもゆっくりとした温度勾配で冷却すると、結晶粒子11に急激な応力を加えることなく分極ができる。その結果、内部電極層5間の圧電体層3において、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14を形成することができる。
また、分極処理においては、焼結時の酸素分圧よりも酸素ガス濃度を高くしてから、キュリー点以上の温度に加熱し、酸素濃度を高くしたまま、キュリー点以下の温度まで冷却する。このことにより、隣り合った結晶粒子間のイオン配列を乱す酸素イオンの移動を抑制できる。その結果、内部電極層5間の結晶粒子11について、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14を形成することができる。従って、焼結時の酸素分圧よりも酸素ガス濃度を2倍以上に高めることがよく、素子1の表面および内部電極層5の近傍の圧電体層3の部位において、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14を形成することができる。
特に、予定破断層6として、多数の独立した金属粒子を含む多孔質金属粒子層を一括的に複数形成する場合、例えば、予定破断層6としての多孔質金属粒子層となる導電性ペーストと、その他の内部電極層5となる導電性ペーストとの金属成分比率を変えて、焼成中に金属成分の濃度差を利用して、予定破断層6から圧電体層3を介して隣接している内部電極層5へ金属を拡散させることによって多孔質金属粒子層を形成する。この場合、圧電体層3中を貫通して移動する液相を形成することができるため、結晶粒子11が核成長して焼結する反応焼結を行なうとともに液相を移動させることにより、結晶粒子11は多孔質金属粒子層の金属粒子と多孔質金属粒子層のとなりの内部電極層5を起点にして結晶成長が広がる。このことにより、予定破断層6の近傍の結晶粒子11において、となりあった結晶粒子11間でイオン配列を一致させることができ、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14を形成することができる。
なお、結晶粒子11に跨るドメイン壁14の形成方法は、上記の例に限定されるものではなく、例えば、反応焼結の速度や液相の移動速度を制御する目的で、焼成雰囲気中の酸素ガス濃度を焼成の温度領域ごとで変化させる方法などを採用することができ、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行なうことは何ら差し支えない。
次に、金属の線材からなるリード線、金属メッシュあるいはメッシュ状の金属板等からなる導電部材を、外部電極9の表面に半田あるいは導電性接着剤等の導電性接合材を用いて接合し接続固定する。導電部材の材質は、銀,ニッケル,銅,リン青銅,鉄,ステンレス等の金属あるいは合金が好ましい。また、導電部材の表面には、銀,ニッケル等から成るメッキ層が形成されていてもよい。
なお、導電部材は、外部電極9の積層方向の外側表面の全てにわたって接合されていてもよいし、外部電極9の外側表面の一部分に接合されていても構わない。
次に、外装樹脂となるシリコーン樹脂を含む樹脂溶液に、外部電極9を形成した積層体7を浸漬する。そして、樹脂溶液を真空脱気することにより、積層体7の外周側面の凹凸部にシリコーン樹脂を密着させ、その後、樹脂溶液から積層体7を引き上げる。これにより、外部電極9を形成した積層体7の側面にシリコーン樹脂層がコーティングされる。
その後、外部電極9に接続した導電部材を介して一対の外部電極9から内部電極層5によって圧電体層3に0.1〜3kV/mmの直流電界を印加し、積層体7の圧電体層3を分極することによって、本例の積層型圧電素子1が完成する。そして、導電部材を外部の電圧供給源に接続し、導電部材および外部電極9を介して内部電極層5によって圧電体層3に電圧を印加することにより、各圧電体層3を逆圧電効果によって大きく変位させることができる。これにより、例えばエンジンに燃料を噴射供給する自動車用の燃料噴射弁機構等として機能させることが可能となる。
次に、本発明の噴射装置としての流体の噴射装置の実施の形態の一例について説明する。図5は、本発明の噴射装置の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
図5に示すように、本例の噴射装置19は、一端に噴射孔21を有する容器23の内部に上記の実施の形態の例に代表される本発明の積層型圧電素子1が収納されている。
容器23内には、噴射孔21を開閉することができるニードルバルブ25が配設されている。噴射孔21には流体通路27がニードルバルブ25の動きに応じて連通可能になるように配設されている。この流体通路27は、外部の流体供給源に連結され、常時高圧で流体である例えば液体が供給されている。従って、積層型圧電素子1の駆動によってニードルバルブ25が噴射孔21を開放すると、流体通路27に供給されていた流体が、噴射孔21の外部または噴射孔21に隣接する容器、例えば内燃機関の燃料室(不図示)に、噴射孔21から吐出され噴射される。
また、ニードルバルブ25の上端部は内径が大きくなっており、その部分に容器23に形成されたシリンダ29と摺動可能なピストン31が配置されている。そして、容器23内には、本実施の形態の積層型圧電素子1が収納されている。
このような噴射装置19では、圧電アクチュエータとして機能する積層型圧電素子1が電圧を印加されて伸長すると、ピストン31が押圧され、ニードルバルブ25が噴射孔21を閉塞し、流体の供給が停止される。また、電圧の印加が停止されると積層型圧電素子1が収縮し、皿バネ33がピストン31を押し返すことによって流体通路27が開放され、噴射孔21が流体通路27と連通して、噴射孔21から流体の噴射が行なわれる。
なお、流体噴射の動作としては、積層型圧電素子1に電圧を印加することによって流体通路27を開放して噴射孔21から流体を吐出し、電圧の印加を停止することによって流体通路27を閉鎖して流体の吐出を停止するように構成してもよい。
また、本実施の形態の噴射装置19は、噴射孔21を有する容器23と、本実施の形態の積層型圧電素子1とを備え、容器23内に充填された流体を積層型圧電素子1の駆動により噴射孔21から吐出させるように構成されていてもよい。すなわち、積層型圧電素子1は必ずしも容器23の内部にある必要はなく、積層型圧電素子1の駆動によって容器23の内部に噴射孔21への流体の供給および停止を行なうための圧力が加わるように構成されていればよい。また、液体を始めとする流体は、流体通路27を通して噴射孔21に供給されるだけでなく、容器23内の適当な箇所に流体を一時的に溜めておく部分を設けて、容器23内に充填された流体を噴射孔21から吐出させてもよい。
なお、本実施の形態において、流体とは、燃料あるいはインク等の液体の他、種々の液状体(導電性ペースト等)および気体が含まれる。これら流体に対して本実施の形態の噴射装置19を用いることによって、流体の流量および噴射タイミングを長期にわたって安定して制御することができる。
本実施の形態の積層型圧電素子1を採用した本実施の形態の噴射装置19を内燃機関に用いれば、従来の噴射装置に比べて、エンジン等の内燃機関の燃焼室に燃料をより長期間にわたって精度よく噴射させることができる。
次に、本発明の燃料噴射システムの実施の形態の例について説明する。
図6は、本発明の燃料噴射システムの実施の形態の一例を示す概略的なブロック図である。図6に示すように、本例の燃料噴射システム35は、高圧燃料を蓄えるコモンレール37と、このコモンレール37に蓄えられた高圧燃料を噴射する複数の本実施の形態の噴射装置19と、コモンレール37に高圧燃料を供給する圧力ポンプ39と、噴射装置19に駆動信号を与える噴射制御ユニット41とを備えている。
噴射制御ユニット41は、外部からの情報または信号に基づいて高圧流体の噴射の量およびタイミングを制御する。例えば、エンジンの燃焼室内の状況をセンサ等で感知しながら燃料噴射の量およびタイミングを制御するものである。圧力ポンプ39は、燃料タンク43から燃料を約101MPa〜203MPa(1000〜2000気圧)程度、好ましくは約152MPa〜172MPa(1500〜1700気圧)程度の高圧にしてコモンレール37に供給する役割を果たす。コモンレール37では、圧力ポンプ39から送られてきた高圧燃料を蓄え、噴射装置19に適宜送り込む。噴射装置19は、前述したように噴射孔21から所定量の高圧燃料を外部または隣接する容器、例えばエンジンの燃焼室内に霧状に噴射する。
なお、本発明は、上記の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行なうことは何ら差し支えない。また、本発明は、積層型圧電素子および噴射装置ならびに燃料噴射システムに関するものであるが、上記の実施の形態の例に限定されるものでなく、例えば、インクジェットプリンタの印字装置、あるいは圧力センサ等に用いるものであっても、圧電特性を利用した積層型圧電素子であれば、同様の構成で実施可能である。
本発明の積層型圧電素子の実施例について以下に説明する。
本実施例の積層型圧電素子を以下のようにして作製した。
まず、1200℃で仮焼した後に粉砕して平均粒径0.4μmとしたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)粉末を主成分とする原料粉末にバインダーおよび可塑剤を混合したスラリーを作製した。そのスラリーを用いてドクターブレード法で厚みが150μmのセラミックグリーンシートAを作製した。
次に、1200℃で仮焼した後に粉砕して平均粒径0.4μmとしたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)粉末を主成分とする原料粉末50質量%と、700℃で仮焼した後に粉砕して平均粒径0.4μmとした他の粉末(酸化チタン,酸化ジルコニウム,酸化鉛およびパイロクロア相からなるPZT粉末とガラス相とからなるPZT組成の粉末)を主成分とする原料粉末50質量%とを、ブレンドしてバインダーおよび可塑剤を混合したスラリーを作製した。そのスラリーを用いてドクターブレード法で厚みが150μmのセラミックグリーンシートBを作製した。
次に、Ag95質量%−Pd5質量%の金属組成である銀−パラジウム合金粉末を含有する原料粉末にバインダーを加えた導電性ペーストAと、Ag96質量%−Pd4質量%の金属組成である銀−パラジウム合金粉末を含有する原料粉末にバインダーを加えた導電性ペーストBと、Ag100質量%の金属組成である銀粉末を含有する原料粉末にバインダーを加えた導電性ペーストCとを作製した。
そして、セラミックグリーンシートの片面に、導電性ペーストをスクリーン印刷法により、30μmの厚みになるように内部電極層のパターンで印刷した。そして、導電性ペーストが印刷された各セラミックグリーンシートを積層して生積層体を作製した。なお、積層数としては、内部電極層5の数が300となるように積層し、生積層体の積層方向の両端部には、導電性ペーストが印刷されていないセラミックグリーンシートのみをそれぞれ20枚積層し、5種(試料番号1〜5)の生積層体を作製した。
試料番号1は、セラミックグリーンシートAと導電性ペーストAによって作製した。
試料番号2,3は、セラミックグリーンシートBと、導電性ペーストAおよび導電性ペーストBとを用いて、導電性ペーストAの層と導電性ペーストBの層とが交互に積層されるようにして作製した。
試料番号4,5は、セラミックグリーンシートBと、導電性ペーストAおよび導電性ペーストBとを用いて、導電性ペーストAの層と導電性ペーストBの層とが交互に積層されるようにするとともに、予定破断層6としての孤立した金属粒子からなる多孔質金属粒子層を設けるために、積層方向の下から50番目、150番目および250番目の位置に導電性ペーストCの層を印刷した。
次に、それぞれの試料番号の生積層体に所定の温度で脱バインダー処理を施した後、800〜1000℃で焼成して積層体7を得た。焼成の冷却速度は、試料番号1,2,4においては100℃/時間、試料番号3,5においては200℃/時間とした。
ここで、試料番号2〜5では、導電性ペーストの層の金属成分である銀が、焼成中に隣接する銀濃度の低い導電性ペーストの層に拡散する。特に、導電性ペーストCの層は、その銀濃度が他の導電性ペーストよりも高いので拡散が顕著になり、孤立した金属粒子からなる多孔質金属粒子層から成る予定破断層6が形成された。
そして、各々の試料番号の積層体7に、所望の寸法になるよう研磨加工を施し、研磨加工後にブラスト処理して、表面に露出した内部電極層5の端部を研磨して、その端部が圧電体層3の表面よりも凹むようにした。
次に、外部電極9を形成した。まず、銀を主成分とする金属粉末にバインダー,可塑剤,ガラス粉末等を添加混合して、外部電極9を形成するための導電性ペーストを作製した。この導電性ペーストを、積層体7の互いに対向する2つの側面の外部電極9を形成する箇所に、スクリーン印刷等によってパターン印刷し、その後、600〜800℃で焼成した。焼成の冷却過程は、酸素ガス20体積%、窒素ガス体積80%の合成空気の気流中で行ない、冷却速度を200℃/時間として外部電極9を形成した。
次に、外部電極9にリード線を接続し、300℃に加熱しながら正極および負極の外部電極9からリード線を介して圧電体層3に3kV/mmの直流電界を15分間印加して分極処理を行ない、200℃/時間の速度で冷却し、積層型圧電素子1の各試料を作製した。
このようにして各試料ごとに積層型圧電素子1を2個ずつ作製し、1個については、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)によりドメイン壁14の観察を行なった。残りの1個を用いて駆動評価を行なった。
駆動評価としては、高速応答性評価と耐久性評価とを行なった。得られた積層型圧電素子1に170Vの直流電圧を印加して、圧電アクチュエータとしての初期状態の変位量を測定した。
高速応答性評価としての変位速度の乱れによるうなり音の発生の有無については、各々の積層型圧電素子1に室温で0V〜+170Vの交流電圧を150Hzから徐々に周波数を増加させて印加することにより測定した。
耐久性評価としては、各々の積層型圧電素子1に室温で0V〜+170Vの交流電圧を150Hzの周波数で印加して、1×109回まで連続駆動した試験を行なった。さらに、1×109回まで連続駆動した後に、再度、室温で0V〜+170Vの交流電圧を150Hzから徐々に周波数を増加させて印加して、高速応答性評価(うなり音の発生の有無の評価)を行なった。
これらの試験の結果をドメイン壁14の観察結果とともに表1および表2に示す。
表1および表2に示すように、試料番号1についてのみ、周波数が1kHzを超えた時にうなり音の発生が認められた。これは、試料番号1の積層型圧電素子1では、複数の結晶粒子11のそれぞれに異なる方向にドメイン壁14が形成されているので、圧電体層3の粒界12によりドメイン壁14の移動が拘束されて応答速度が遅くなり、圧電体層3ごとの変位速度に乱れが生じ、印加した交流電圧の周波数に変位が追従できなかったためにうなり音が発生したものと考えられる。
なお、駆動周波数を確認するために横河電機株式会社製オシロスコープ「DL1640L」を用いて試料番号1の駆動信号のパルス波形を確認したところ、駆動周波数の整数倍の周波数に相当する箇所に高調波成分(ノイズ)が確認された。
また、耐久性評価の結果、試料番号1では、耐久性評価試験後の変位量(1×109回後の変位量)は5μmとなり、耐久性評価試験前と比較して90%近く(((45−5)/45)×100=88.9%)低下した。また、試料番号1の圧電アクチュエータでは、連続駆動(1×109回)後に、外部電極9に剥がれが発生し、また積層体7においても積層部分の一部に剥がれが発生した。
この試料番号1について、耐久性評価として、連続駆動(1×109回)した後に、再度、室温で0V〜+170Vの交流電圧を150Hzから徐々に1kHzまで周波数を増加させて印加して、高速応答性評価を行った。その結果、周波数が100Hzを超えた時にうなり音の発生が認められた。これは、試料番号1の積層型圧電素子1では、圧電体層3と内部電極層5との間に剥がれが生じために、圧電ブザーのようなうなり音が発生したものと考えられる。
なお、駆動周波数を確認するために横河電機株式会社製オシロスコープ「DL1640L」を用いて試料番号1の駆動信号のパルス波形を確認したところ、駆動周波数の整数倍の周波数に相当する箇所に高調波成分(ノイズ)が確認された。
一方、本発明の実施例である試料番号2〜5の圧電アクチュエータでは、いずれも連続駆動(1×109回)後に、外部電極9の剥がれ、および積層体7における積層部分の剥がれは確認されなかった。
また、耐久性評価試験後の変位量の低下がいずれも3μm以下であり、耐久性評価試験前と比較して変位量の低下は6%以下(((55−52)/55)×100=5.5)に抑えられた。特に、試料番号4,5の圧電アクチュエータでは、1×109回後も変位量の低下が確認されず、非常に高い耐久性を有していることが分かった。
なお、耐久性評価試験後、試料番号4,5の積層型圧電素子1は、予定破断層6に亀裂が生じていた。予定破断層6が優先的に破断し、積層体7における応力を緩和したことを確認できた。
さらに、全ての積層型圧電素子1の中央部に熱電対を貼り付けて、駆動中の積層型圧電素子1の最高温度を計測したところ、表1に示すように、積層型圧電素子1の中央部の発熱上昇を抑止できたことが確認できた。このことにより、複数の結晶粒子11に跨るドメイン壁14が形成されていることにより、変位を拘束する領域が無くなり、駆動中の積層型圧電素子1の過熱を抑えることができたと考えられる。その結果、耐久性の高い積層型圧電素子1とすることができた。